(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】磁化制御デバイス、磁化制御デバイスの製造方法、及び磁気メモリ装置
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20240819BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240819BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20240819BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20240819BHJP
H01F 10/12 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H01L29/82 Z
H10B61/00
H10N50/01
H01F10/12
(21)【出願番号】P 2020217944
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本多 周太
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088507(JP,A)
【文献】特開2019-057597(JP,A)
【文献】特開2020-194927(JP,A)
【文献】特開2018-195730(JP,A)
【文献】国際公開第2021/149242(WO,A1)
【文献】特開2020-150142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H01L 29/82
H10B 61/00
H10N 50/01
H01F 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属と、
前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、
前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成され
、非磁性の金属材料からなるスピン拡散領域と、
を備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されており、
前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、
前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、
前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、
前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする磁化制御デバイス。
【請求項2】
前記スピン拡散領域は、前記非磁性金属の前記第2面から突出している請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項3】
非磁性金属と、
前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、
前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成されたスピン拡散領域と、
を備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されており、
前記スピン拡散領域が、複数の領域に分割されており、
前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、
前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、
前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、
前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする磁化制御デバイス。
【請求項4】
前記第1の強磁性体から前記非磁性金属を見た上面視において、前記スピン拡散領域が、前記第1の強磁性体を包含する位置に形成されている請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項5】
非磁性金属と、
前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、
前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成されたスピン拡散領域と、
を備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されており、
前記スピン拡散領域の厚さが、前記スピン拡散領域のスピン拡散長の1倍以上3倍以下であり、
前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、
前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、
前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、
前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする磁化制御デバイス。
【請求項6】
前記スピン拡散領域が、前記電流が流れる方向に交差する方向に沿って延伸する複数の領域に分割されている請求項3に記載の磁化制御デバイス。
【請求項7】
非磁性金属と、
前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、
前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成されたスピン拡散領域と、
を備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されており、
前記スピン拡散領域が基板上に形成され、
前記非磁性金属が、前記スピン拡散領域を覆うように前記基板上に形成され、
前記スピン拡散領域の側壁と前記非磁性金属とを絶縁する絶縁体をさらに備え、
前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、
前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、
前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、
前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする磁化制御デバイス。
【請求項8】
前記非磁性金属が、第1方向に沿って延伸する第1配線と、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延伸する第2配線とを含む請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項9】
前記非磁性金属の前記第1面又は第2面に設けられ、前記電流を流すための電極を有する補助強磁性体をさらに備える請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項10】
非磁性金属と、
前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、
前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成され、非磁性の金属材料からなるスピン拡散領域と、
前記第1の強磁性体の、前記非磁性金属と接する面の反対側の面に形成された絶縁体と、
前記絶縁体の、前記第1の強磁性体と接する面の反対側の面に形成された第2の強磁性体と、
を備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されており、
前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、
前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、
前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、
前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン軌道トルク(Spin Orbit Torque:SOT)磁化反転に基づく磁化制
御デバイス、磁化制御デバイスの製造方法、及び磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン軌道トルクにより磁化の向きを制御させる方法に基づく磁化制御デバイスが知られている(特許文献1)。この特許文献1に記載の磁化制御デバイスは、強磁性体と、強磁性体の積層方向に対して交差する第1の方向に延在し、強磁性体の一面に形成された非磁性金属と、非磁性金属のいずれかの面の、積層方向からの平面視において強磁性体の外側に形成された強磁性電極と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなスピン軌道トルク磁化反転に基づく磁化制御デバイスは、より少ない電流でより多量のスピンを強磁性体に注入して強磁性体の磁化の反転や制御を高速化、省エネルギー化するために、非磁性金属と強磁性体との界面に多量のスピンを溜めてスピンの偏り(スピン蓄積)を増大させることが求められる。
上記特許文献1は、スピン軌道トルクに加えて、強磁性電極から流れるスピン偏極電流により拡散する偏極スピンを利用することで、強磁性体の磁化の向きを容易に変えることができる構成を開示しているが、非磁性金属と強磁性体との界面に多量のスピンを溜めてスピンの偏りを増大させるスピン軌道トルクの構成についての知見は示されていない。
【0005】
本発明の一態様は、非磁性金属と強磁性体との界面のスピンの偏りを増大させて強磁性体の磁化反転および磁化の向きの制御を高速化、省エネルギー化することができる磁化制御デバイス、磁化制御デバイスの製造方法、及び磁気メモリ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、非磁性金属と、前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成されたスピン拡散領域と、を備え、前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする。
【0007】
この特徴によれば、非磁性金属を流れる電流の伝導電子に作用するスピン軌道相互作用により第1方向スピンが非磁性金属の第1面の側に蓄積される(スピンホール効果)。第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために第1の強磁性体に注入される。すると、第1の強磁性体から第1方向スピンと逆向きの第2方向スピンが非磁性金属へ戻ってくる。第1の強磁性体から戻ってくるスピンや、第1の強磁性体から戻ってくるスピンと同じ向きを向いたスピンを逆流スピンと呼ぶことに
する。
【0008】
一方、第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンがスピン軌道相互作用により非磁性金属の第2面の側に蓄積され、第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、第2面からスピン拡散領域に移動する。これに伴い、逆流スピンが非磁性金属の第1面から第2面に移動するので、非磁性金属の第1面の第1方向スピンの割合を増加させることができる。この結果、第1の強磁性体へ注入されるスピンの偏りや第1方向スピンの量を増大させて、第1の強磁性体の磁化の反転や磁化の向きの制御を高速化、省エネルギー化することができる磁化制御デバイスを実現することができる。ここで、「磁化の向きの制御」とは、磁化の向きを一定方向に変更することも含まれる。
【0009】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と対応する位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
上記構成により、第2方向スピンがスピン拡散領域に移動する第2面の位置が第1の強磁性体と対応するので、第1の強磁性体から戻ってきた逆流スピンが非磁性金属の第1面から第2面側に移動しやすくなる。
【0011】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域は、前記非磁性金属の前記第2面から突出していることが好ましい。
【0012】
上記構成により、第2方向スピンがスピン拡散領域に移動しやすくなる。
【0013】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域が、複数の領域に分割されていることが好ましい。
【0014】
上記構成により、スピン拡散領域を流れる電流が減少するので、非磁性金属を流れる電流が増大し、第1の強磁性体へのスピン注入量が増大する。
【0015】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の強磁性体から前記非磁性金属を見た上面視において、前記スピン拡散領域が、前記第1の強磁性体を包含する位置に形成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成により、非磁性金属の第2面からスピン拡散領域に移動する第2方向スピンがより多くなるので、逆流スピンが非磁性金属の第1面から第2面側により移動しやすくなる。
【0017】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域が、前記非磁性金属と同じ材料により構成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成により、スピン拡散領域が非磁性金属と同じ材料により構成されるので、第2方向スピンが非磁性金属の第2面からスピン拡散領域に移動しやすくなる。
【0019】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域が、重金属、強磁性金属、ハーフメタル、及び、強磁性絶縁体のうちの少なくとも一つにより構成されていることが好ましい。
【0020】
スピン拡散領域が、重金属、強磁性金属、ハーフメタル、及び、強磁性絶縁体のうちの少なくとも一つにより構成されていると、第2方向スピンが非磁性金属の第2面からスピン拡散領域に移動した後、スピンが拡散されやすくなる。もしくは、スピン拡散領域と非
磁性金属との界面でスピンが拡散される。
【0021】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域の厚さが、前記スピン拡散領域のスピン拡散長の1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0022】
スピン拡散領域の厚さがスピン拡散領域のスピン拡散長の1倍以上3倍以下であると、第2方向スピンが非磁性金属の第2面からスピン拡散領域に移動した後、十分に拡散される。
【0023】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域が、前記電流が流れる方向に交差する方向に沿って延伸する複数の領域に分割されていることが好ましい。
【0024】
上記構成により、スピン拡散領域の分割された複数の領域を流れる電流が減少するので、非磁性金属を流れる電流が増大し、第1の強磁性体へのスピン注入量が増大する。
【0025】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記スピン拡散領域が基板上に形成され、前記非磁性金属が、前記スピン拡散領域を覆うように前記基板上に形成され、前記スピン拡散領域の側壁と前記非磁性金属とを絶縁する絶縁体をさらに備えることが好ましい。
【0026】
上記構成により、スピン拡散領域を基板の中に形成する必要が無く、磁化制御デバイスを容易に作成することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記非磁性金属が、第1方向に沿って延伸する第1配線と、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延伸する第2配線とを含むことが好ましい。
【0028】
上記構成により、第1の強磁性体に注入されるスピンの偏極方向(第1方向スピンのスピンの向き)を磁化の反転・制御に適した向きに最適化することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記非磁性金属の前記第1面又は第2面に設けられ、前記電流を流すための電極を有する補助強磁性体をさらに備えることが好ましい。
【0030】
上記構成により、大きくスピン偏極した電流を第1の強磁性体の下側に効率良く生成することができる。
【0031】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスの製造方法は、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスの製造方法であって、絶縁層にイオン化不純物又は強磁性金属をドーピングして前記スピン拡散領域を形成する工程と、前記絶縁層及び前記スピン拡散領域の上に前記非磁性金属及び前記第1の強磁性体をこの順番にエッチングにより積層する工程と、を包含することを特徴とする。
【0032】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスの製造方法は、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスの製造方法であって、基板に絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層に前記スピン拡散領域のための溝をエッチングにより形成する工程と、前記スピン拡散領域を前記溝に形成する工程と、前記絶縁層及び前記スピン拡散領域の上に前記非磁性金属及び前記第1の強磁性体をこの順番にエッチングにより積層する工程と、を包含することを特徴とする。
【0033】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁気メモリ装置は、非磁性金属と
、前記非磁性金属の第1面の一部に形成された第1の強磁性体と、前記非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部に形成されたスピン拡散領域と、前記第1の強磁性体の、前記非磁性金属と接する面の反対側の面に形成された絶縁体と、前記絶縁体の、前記第1の強磁性体と接する面の反対側の面に形成された第2の強磁性体と、を備え、前記非磁性金属に電流を流すことにより、第1方向スピンが前記第1面の側に蓄積され、前記第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンが前記第2面の側に蓄積され、前記第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、前記第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために前記第1の強磁性体に注入され、前記第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、前記第2面から前記スピン拡散領域に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、第1の強磁性体へ注入されるスピンの偏りや量を増大させて、第1の強磁性体の磁化の反転や制御を高速化、省エネルギー化することができる磁化制御デバイス、磁化制御デバイスの製造方法、及び磁気メモリ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施形態1に係る磁化制御デバイスの斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る磁化制御デバイスのスピンの動作を説明するための図である。
【
図3】スピン拡散領域がない場合の磁気メモリ装置の斜視図である。
【
図4】磁化制御デバイスの磁化反転動作を説明するための図である。
【
図5】磁気メモリ装置のスピンの動作を説明するための図である。
【
図6】実施形態1に係る磁化制御デバイスに設けられたスピン拡散領域を説明するための断面図である。
【
図8】実施形態1に係る磁化制御デバイスに設けられた他のスピン拡散領域を説明するための断面図である。
【
図9】実施形態1に係る磁化制御デバイスに設けられたさらに他のスピン拡散領域を説明するための断面図である。
【
図10】実施形態1に係る磁化制御デバイスに設けられたさらに他のスピン拡散領域を説明するための断面図である。
【
図11】実施形態1に係る磁化制御デバイスに設けられたスピン拡散領域の長さとスピン注入効率との間の関係を示すグラフである。
【
図12】実施形態1に係る磁化制御デバイスのスピン拡散領域が複数の領域に分割された例を示す断面図である。
【
図14】実施形態1に係る磁化制御デバイスのスピン拡散領域が複数の領域に分割された他の例を示す断面図である。
【
図16】実施形態1に係る磁化制御デバイスのスピン拡散領域が複数の領域に分割されたさらに他の例を示す断面図である。
【
図18】実施形態1の変形例に係る磁化制御デバイスの断面図である。
【
図19】実施形態1に係る磁化制御デバイスの電流密度を示す断面図である。
【
図20】実施形態1に係る磁化制御デバイスのスピン拡散領域が複数の領域に分割された他の例の電流密度を示す断面図である。
【
図21】実施形態2に係る磁化制御デバイスの断面図である。
【
図23】実施形態3に係る磁化制御デバイスの断面図である。
【
図25】実施形態4に係る磁化制御デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図26】実施形態4に係る磁化制御デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図27】実施形態4に係る磁化制御デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図28】実施形態4に係る磁化制御デバイスの他の製造方法を示す断面図である。
【
図29】実施形態4に係る磁化制御デバイスの他の製造方法を示す断面図である。
【
図30】実施形態4に係る磁化制御デバイスの他の製造方法を示す断面図である。
【
図31】実施形態4に係る磁化制御デバイスの他の製造方法を示す断面図である。
【
図32】実施形態5に係る磁気メモリ装置の模式図である。
【
図33】実施形態5に係る磁気メモリの回路模式図である。
【
図34】実施形態5に係るさらに他の磁気メモリの回路図である。
【
図35】上記磁気メモリ装置のトンネル磁気抵抗素子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0037】
(磁化制御デバイス1の構成)
図1は実施形態1に係る磁化制御デバイス1の斜視図である。
図2は磁化制御デバイス1のスピンの動作を説明するための図である。
図3はスピン拡散領域がない場合の磁気メモリ装置の斜視図である。
図4は上記磁化制御デバイスの磁化反転動作を説明するための図である。
図5は上記磁化制御デバイスのスピンの動作を説明するための図である。
【0038】
磁化制御デバイス1は、第1の強磁性体2と、X方向に沿って延伸して形成され、第1の強磁性体2側に形成された第1面4と第1面4の反対側に形成された第2面5とを有する非磁性金属3と、第2面5の一部に形成されたスピン拡散領域6とを備える。
【0039】
X方向に非磁性金属3を流れる電流の伝導電子に作用するスピン軌道相互作用により、第1方向スピン7が第1面4の側に
図5に示すように蓄積される。同時に、第1方向スピン7と逆方向を向いた第2方向スピン8がスピン軌道相互作用により第2面5に蓄積される(スピンホール効果)。
【0040】
そして、第1面4に蓄積された第1方向スピン7が、
図2及び
図5に示すように、第1の強磁性体2の磁化を反転(制御)させるために第1の強磁性体2に注入される。また、第2面5に蓄積された第2方向スピン8が、
図2に示すように、第2面5からスピン拡散領域6に移動する。
【0041】
スピン拡散領域6の少なくとも一部は、第1の強磁性体2と対応する位置に配置されていることが好ましい。
図1及び
図2に示す例では、スピン拡散領域6は、第1の強磁性体2に垂直なZ方向から見て、X方向に沿って第1の強磁性体2と重畳し、Y方向に沿って第1の強磁性体2を包含する位置に配置されている。
【0042】
スピン拡散領域6は、非磁性金属3の第2面5から突出していてもよい。
【0043】
スピン拡散領域6は、第1の強磁性体2と同じ材料により構成されていることが好ましい。また、スピン拡散領域6は、重金属、強磁性金属、ハーフメタル、及び、強磁性絶縁体のうちの少なくとも一つにより構成されていてもよい。
【0044】
スピン拡散領域6の厚さは、スピン拡散領域6のスピン拡散長の1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0045】
磁化制御デバイス1は、スピン軌道トルク磁化反転(磁化制御)を用いた磁気メモリ構造を有する。非磁性金属3の上に、スピン注入によって磁化の向きが制御させられる磁気フリーの第1の強磁性体2が積層されている。非磁性金属3としては、例えば重金属(heavy metal:HM)リードが用いられる。さらに、第1の強磁性体2の上に絶縁体14、
第2の強磁性体15がこの順で積層されていてもよい。なお、
図1及び
図2では、説明の容易化のため、絶縁体14及び第2の強磁性体15は省略して示している。非磁性金属3と、第1の強磁性体2と、スピン拡散領域6と、絶縁体14と、第2の強磁性体15と、で本願の磁気メモリ装置が構成される(
図32参照)。
【0046】
これらの第1の強磁性体2と絶縁体14と第2の強磁性体15とでトンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto Resistance:TMR)素子16を形成している。絶縁体14は非磁性金
属でもよく、この場合は、上記第1の強磁性体2と、非磁性金属と、第2の強磁性体15との3層で巨大磁気抵抗(Giant Magnetic Resistance:GMR)素子となる。
【0047】
図4に示すように、第1の強磁性体2の磁化の向きをY軸方向でプラス側かマイナス側へ変化させることで情報がトンネル磁気抵抗素子16に記憶される。情報を読み出すときは、第1の強磁性体2と絶縁体14と第2の強磁性体15とに電流を流すことで情報がトンネル磁気抵抗素子16から読み出される。一般的には第1の強磁性体2の磁化の向きと第2の強磁性体15の磁化の向きとが同じ場合には、第1の強磁性体2と絶縁体14と第2の強磁性体15との電気抵抗が小さく、逆に、第1の強磁性体2の磁化の向きと第2の強磁性体15の磁化の向きとが逆の場合には当該電気抵抗が大きくなる。第1の強磁性体2と第2の強磁性体15との磁化の方向は平行もしくは反平行(互いに真逆の向き)であることが好ましい。なお、第1の強磁性体2と第2の強磁性体15との磁化の方向は必ずしもY軸方向である必要はない。当該磁化の方向は、X軸やZ軸の方向であってもよいし、Y軸からX軸側へ45度以内で傾いた方向でもよい。
【0048】
本実施形態に係る磁化制御デバイス1の重要な動作は情報の書き込みである。スピン軌道トルク磁化反転(磁化制御)による情報の書き込みにおいては、重金属リードの非磁性金属3を流れる電流を利用する。重金属リードの非磁性金属3に電流が流れると、
図5に示すように、スピンホール効果によって、伝導電子がスピンの向きに依存して力Fを受ける。
図5の例では、電子がX軸正の向きに流れている場合、+Y向きの第1方向スピン7(+Yスピン)が非磁性金属3の+Z方向の第1面4に向かうようにカーブし、-Y向きの第2方向スピン8(-Yスピン)が-Z方向の第2面5に向かうようにカーブする。電子がカーブする向きは、非磁性金属3のスピン軌道相互作用の符号、スピンホール角の符号、及び、電子の流れる向きに応じて変化する。
【0049】
図5の例では、結果として非磁性金属3の第1面4に第1方向スピン7が溜まり、第2面5に第2方向スピン8が溜まる(スピン蓄積)。そして、第1の強磁性体2が存在するX軸方向に沿った位置では、非磁性金属3の第1面4に溜まった第1方向スピン7が第1の強磁性体2に注入される。次に、第1の強磁性体2に注入された第1方向スピン7がトルクとなり第1の強磁性体2の磁化の向きを変化させる。これがスピン軌道トルク磁化反転(磁化制御)である。
【0050】
第1の強磁性体2の直下にある電子において第1方向スピン7が占める割合が第2方向スピン8よりも多くなるほど、第1の強磁性体2に注入される第1方向スピン7の量も多くなり、第1の強磁性体2の磁化を効率良く反転(制御)させることができる。
【0051】
第1の強磁性体2の磁化を効率良く反転(制御)させるために、同一電力あたりで非磁性金属3から第1の強磁性体2へのスピン注入効率を上げることが好ましい。言い換える
と、非磁性金属3の第1面4におけるスピン蓄積量を増やすことが好ましい。スピン蓄積量は、非磁性金属3を流れる電流量と、スピンホール効果の大きさ(スピンホール角)とに強く依存するため、スピンホール効果の効率を上げるために、スピンホール角が大きな材料を非磁性金属3に使用することや、電流量を増やすために非磁性金属3の厚さを薄くすることや、電気抵抗率が小さな非磁性金属3を利用することが挙げられる。スピンホール角が大きな材料とは、一般的にはスピン軌道相互作用が大きな材料であり、それは原子番号が大きな材料である。
【0052】
非磁性金属3から第1の強磁性体2に第1方向スピン7が注入されると同時に、第1の強磁性体2から第1方向スピン7と逆向きの第2方向スピン8が非磁性金属3へ戻ってくる。以下、この第2方向スピン8を「逆流スピン」と呼ぶことにする)。この結果、第1
の強磁性体2の直下の非磁性金属3の第1面4では、第1方向スピン7の割合が減少する。この逆流スピンによって非磁性金属3のスピン注入効率が減少することが、本発明者が新たに着目する問題点である。
【0053】
逆流スピンを非磁性金属3の第2面5側へ素早く移動させることができれば、非磁性金属3の第1面4での第1方向スピン7の割合の減少を抑えることができ、第1の強磁性体2へのスピンの注入効率が増加する。また、磁化制御デバイス1の駆動の省電力化のためには非磁性金属3を流れる電流値を下げるため、非磁性金属3を数ナノメートル程度に薄くする必要がある。しかしながら、非磁性金属3の第2面5側には第2方向スピン8が存在しているため、非磁性金属3の厚さ(Z軸方向の長さ)が非磁性金属3内のスピン拡散長と同程度以下の場合、逆流スピンが第2面5側に移動しづらい。
【0054】
ここで,蓄積したスピンのz方向の流れは、
【数1】
であらわすことができる。
【数2】
は位置Zでの第1方向スピン7、第2方向スピン8の密度を表す。Dは物質に依存する拡散定数である。つまり、各スピンの量の空間変化が大きければ、スピンが流れる量も大きいことになる。
【0055】
図1及び
図2に示すように、非磁性金属3の、第1の強磁性体2が設置された位置の逆側の第2面5にスピンが拡散されるスピン拡散領域6を確保することで、逆流スピン(第2方向スピン8)を-Z向きへ移動させ、非磁性金属3の第1面4における第1方向スピン7の割合を増加させることが本発明者が提案する構造である。
図1及び
図2では絶縁体14と第2の強磁性体15の図示を省略している。スピン拡散領域6が存在する領域では非磁性金属3の第2面5に溜まっていた第2方向スピン8が-Z向きに移動してスピン拡散領域6に拡散する。つまり、非磁性金属3の第1面4の逆流スピンが-Z向きへ動く。また、Z方向の電流はほとんど保存されるため、第1方向スピン7が+Z方向へ動く。この+Z方向に動く第1方向スピン7は、非磁性金属3やスピン拡散領域6、非磁性金属3とスピン拡散領域6との界面で第2方向スピン8が第1方向スピン7へとスピン散乱されたスピンも含んでいる。結果として、第1の強磁性体2の下側においても非磁性金属3の第1面4に溜まっている第1方向スピン7の割合が増加し、第1の強磁性体2へのスピン
注入効率が増加する。スピンはスピン拡散領域6と非磁性金属3との界面で拡散されてもよい。
【0056】
スピン拡散領域6の素材は,スピン拡散長が短い材料が理想的である。重金属のPt、Ru、Rhなどや強磁性金属のFe、CoFeB合金、CoFe合金、FeNi合金、Fe系ホイスラー合金、Co系ホイスラー合金、ハーフメタル材料のマグネタイトなどは、スピン拡散長が数ナノメートルであるため適している。酸化鉄のマグヘマイトなどの強磁性絶縁体材料でもよい。非磁性金属3と同じ材料でも良い。
【0057】
(スピン拡散領域6の形状)
図6は実施形態1に係る磁化制御デバイス1に設けられたスピン拡散領域6を説明するための断面図である。
図7はスピン拡散領域6を説明するための下面図である。
図8は他のスピン拡散領域6を説明するための断面図である。
図9及び
図10はさらに他のスピン拡散領域6を説明するための断面図である。ただし、
図7では絶縁体基板10を省略している。
【0058】
スピン拡散領域6は様々な形状を有し得る。基本となる構造を
図6~
図10に示す。
図6~
図10では第1の強磁性体2の上に積層される絶縁体14と第2の強磁性体15とは図示が省略されている。
図6及び
図7は最も基本となる構造を横から見た図(
図6)と下から見た図(
図7)である。電流は非磁性金属3をX軸方向に流れ、非磁性金属3から第1の強磁性体2へ第1方向スピン7(
図2)が注入される。
図6及び
図7のこの基本構造では、非磁性金属3を挟んで、第1の強磁性体2の真下にスピン拡散領域6が絶縁体基板10に埋め込まれるように設置されている。ただし、絶縁体基板10は必須ではない。Z軸方向から見ると、第1の強磁性体2とスピン拡散領域6は重なっている。スピン拡散領域6の厚さ(Z軸方向の長さ)は、スピン拡散領域6のスピン拡散長の3倍程度の長さが望ましい。スピン拡散領域6の厚さがスピン拡散長程度であっても効果はある。
【0059】
図8と
図9とはスピン拡散領域6が非磁性金属3に接する面が、第1の強磁性体2が非磁性金属3に接する面よりも小さい場合と大きい場合とを示している。
図8に示すように、スピン拡散領域6が非磁性金属3に接する面が、第1の強磁性体2が非磁性金属3に接する面よりも小さくてもよい。ただし、
図9に示すように、スピン拡散領域6が非磁性金属3に接する面が、第1の強磁性体2が非磁性金属3に接する面よりも大きい場合は、スピン拡散領域6が第1の強磁性体2と重ならない長さがスピン拡散領域6のスピン拡散長以下であることが望ましい。
図10に示すように、スピン拡散領域6と絶縁体基板10との界面は凸凹状であってもよい。ここで、絶縁体基板10は必須ではない。
【0060】
スピン拡散領域6が非磁性金属3に接する面と第1の強磁性体2が非磁性金属3に接する面との重なり具合と、本実施形態の注入効率との間の関係は、第1の強磁性体2のX軸方向の長さ、非磁性金属3のZ軸方向の長さ、及び、スピン拡散領域6のZ軸方向の長さに依存する。
【0061】
(スピン拡散領域6の寸法と注入効率との間の関係)
図11はスピン拡散領域6の長さとスピン注入効率との間の関係を示すグラフである。
図6、
図8、及び
図9に示されるスピン拡散領域6の構造における第1の強磁性体2へのスピン注入効率の変化を近似計算した結果を
図11に示す。第1の強磁性体2のX軸方向の長さを5nmとし、非磁性金属3の厚さとスピン拡散領域6の厚さとを1nmとした。非磁性金属3と非磁性金属3中の伝導電子のスピン拡散長とを1nmとした。スピン依存したドリフト拡散方程式とキルヒホッフの定理とによりスピン注入効率を算出した。スピン注入効率の増加比が1.0のときは,スピン拡散領域6の有無で第1の強磁性体2へのスピン注入量に変化がなく、1.0よりも大きいときはスピン拡散領域6によって第1の
強磁性体2へのスピン注入量が増加したことを示す。
図11に示すように、スピン拡散領域6のX軸方向の長さXが0nmから第1の強磁性体2の長さ5nmと同じになるまでは注入量増加比が増加した。長さXが第1の強磁性体2の長さと等しいとき注入量増加比が最大になり、長さXが第1の強磁性体2の長さよりも長くなると注入量増加比は減少した。
【0062】
(複数の領域に分割されたスピン拡散領域)
図12はスピン拡散領域6Aが複数の領域に分割された例を示す断面図であり、
図13はその下面図である。
図14はスピン拡散領域6Bが複数の領域に分割された他の例を示す断面図であり、
図15はその下面図である。
図16はスピン拡散領域6Cが複数の領域に分割されたさらに他の例を示す断面図であり、
図17はその下面図である。ただし、
図13、
図15、
図17では絶縁体基板10を省略している。
【0063】
スピン拡散領域6A・6B・6Cは
図12~
図17で示すように複数の領域で構成されている。特に、第1の強磁性体2のX軸方向の長さが非磁性金属3のスピン拡散長よりも3倍以上長い場合は、スピン拡散領域6A・6B・6Cが複数領域から構成されていることが望ましい。ここで、絶縁体基板10は必須ではない。
【0064】
図12及び
図13は、スピン拡散領域6Aが2つの領域17A・17Aに分割されている場合を示しており、
図14及び
図15は、スピン拡散領域6Bが10個の領域17Bで構成されている場合を示している。非磁性金属3に接しているスピン拡散領域6Aの面積、スピン拡散領域6Bの面積は大きい程望ましい。スピン拡散領域6A・6Bの面積が大きい程スピンが拡散される領域が増えるので望ましいが、面積が増えすぎると非磁性金属3を流れる電流が減少するため、スピン拡散領域6A・6Bには材料によって最適な長さや厚さが存在する。スピン拡散領域6A・6BをX軸方向に流れる電流が増加すると、非磁性金属3をX軸方向に流れる電流が減少し、第1の強磁性体2へのスピン注入量が減少するので好ましくない。
【0065】
図16及び
図17に示すように、スピン拡散領域6Cが円柱状の複数の領域17Cに分割されていてもよい。このように、スピン拡散領域は円柱形状などストライプ形状や直方体形状以外の形状でもよい。
【0066】
(実施形態1の変形例に係る磁化制御デバイス1A)
図18は実施形態1の変形例に係る磁化制御デバイス1Aの断面図である。磁化制御デバイス1Aは、スピン拡散領域6が絶縁体基板10の表面上に形成される。そして、非磁性金属3が、スピン拡散領域6を覆うように絶縁体基板10上に形成される。磁化制御デバイス1Aは、スピン拡散領域6の側壁と非磁性金属3とを絶縁する絶縁体17をさらに備える。
【0067】
このように、絶縁体基板10の表面上にスピン拡散領域6が設置されてもよい。スピン拡散領域6のY軸方向(電流が流れる方向に対して垂直な方向)の長さは、非磁性金属3と同じ長さであることが好ましい。この場合、非磁性金属3に沿って電流を流すためにスピン拡散領域6の左右(±X軸側)に絶縁体17を設置する必要がある。
【0068】
(磁化制御デバイス1の電流密度)
図19は実施形態1に係る磁化制御デバイス1の電流密度を示す断面図である。非磁性金属3とスピン拡散領域6とが同じ抵抗率を有しており、非磁性金属3の厚さとスピン拡散領域6の厚さを2nmとし、スピン拡散領域6の長さを4nmとして電流密度を計算した結果を
図19に示す。スピン拡散領域6からX方向に沿って離れた部分を流れる電流密度を1として電流密度比の空間分布をプロットした。灰色が濃いほど電流密度比が大きく
、灰色が薄いほど電流密度比が小さい。スピン拡散領域6が非磁性金属3と接触している部分では、非磁性金属3を流れる電流がスピン拡散領域6に回り込むため、非磁性金属3内での電流密度が減少している。非磁性金属3の第1面4における電流密度比をプロットした。この電流密度比は、
図19の曲線C1に示すように、最大で73%まで減少した。しかしながら、非磁性金属3の第2面5に溜まった第2方向スピン8はスピン拡散領域6内へ移動するため、非磁性金属3の第1面4においてもスピン蓄積が増加する。スピン拡散領域6の抵抗値が大きく、その厚さや長さが小さいほど、この電流密度比の減少値は小さくなる。
【0069】
(スピン拡散領域が複数の領域に分割された磁化制御デバイスの電流密度)
図20は磁化制御デバイスのスピン拡散領域が複数の領域に分割された他の例の電流密度を示す断面図である。X軸方向の長さが短い領域17Bを複数設置したスピン拡散領域6Bを設けることで本実施形態の注入効率を保ちつつ、非磁性金属3の全体での電流密度の減少を抑えることができる。スピン拡散領域6Bの領域17Bを10個ストライプ状に設置した場合の電流密度値の計算結果が
図20に示されている。スピン拡散領域6B上の非磁性金属3においても、電流密度比は、
図20の曲線C2に示すように、2%程度しか減少していない。
【0070】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0071】
図21は実施形態2に係る磁化制御デバイス1Bの断面図であり、
図22はその下面図である。
【0072】
磁化制御デバイス1Bは、非磁性金属3の第1面4に設けられ、非磁性金属3に電流を流すための電極を有する補助強磁性体13をさらに備える。スピン拡散領域6は、絶縁体基板10に埋め込まれるように設置されている。ただし、絶縁体基板10は必須ではない。
【0073】
スピン拡散領域6の設置は、すでに提案されているスピン軌道トルク磁化反転法(磁化制御方法)の拡張構造においても適用できる。
図21に示すように、第1の強磁性体2のそばに電極付きの補助強磁性体13が設置されてもよい。補助強磁性体13を介して非磁性金属3に電流を流すことで、大きくスピン偏極した電流を第1の強磁性体2の下側に効率良く生成することができる。
【0074】
この方法によっても、第1の強磁性体2の下側にスピン拡散領域6を設置することで、第1の強磁性体2へのスピン注入効率を向上させることができる。
【0075】
〔実施形態3〕
図23は実施形態3に係る磁化制御デバイス1Cの断面図であり、
図24はその下面図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0076】
磁化制御デバイス1Cは、第1の強磁性体2と、非磁性金属31(第1配線)と、非磁性金属32(第2配線)と、スピン拡散領域6とを備える。非磁性金属31(第1配線)は、X方向に沿って延伸している。非磁性金属32(第2配線)は、Y方向に沿って延伸している。
【0077】
このように、非磁性金属(配線)を設置し、第1の強磁性体2に注入されるスピンの偏極方向を最適化することができる。この方法によっても、非磁性金属の下側にスピン拡散領域6を設置することで、第1の強磁性体2へのスピン注入効率を向上させることができる。
【0078】
〔実施形態4〕
図25~
図27は実施形態4に係る磁化制御デバイス1の製造方法を示す断面図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0079】
まず、
図25に示すように、絶縁体基板10にイオン化不純物又は強磁性金属をドーピングする。そして、
図26に示すように、スピン拡散領域6を絶縁体基板10に形成する。次に、
図27に示すように、絶縁体基板10及びスピン拡散領域6の上に非磁性金属3及び第1の強磁性体2をこの順番に
積層して磁化制御デバイス1を完成させる。
【0080】
このように、絶縁体基板10(SiO
2などの絶縁体、半導体Siなどの真性半導体を含む)へ半導体ドーピング技術によりAsやGa、Pなどのイオン化不純物、もしくは、Mn、Fe、Crなどの磁性元素を
図25に示すようにドープする。そして、該当箇所に伝導性を持たせることで
図26に示すようにスピン拡散領域6を形成する。スピン拡散領域6を作成した後は、
非磁性金属3、第1の強磁性体2、絶縁体14(
図3)、第2の強磁性体15(
図3)の順番に積層する。
【0081】
図28~
図31は実施形態4に係る磁化制御デバイス1の他の製造方法を示す断面図である。
【0082】
まず、
図28に示すように、基板に絶縁層を形成する。そして、
図29に示すように、絶縁層にスピン拡散領域6のための溝19をエッチングにより形成する。次に、
図30に示すように、スピン拡散領域6を溝19に形成する。その後、
図31に示すように、絶縁層及びスピン拡散領域6の上に非磁性金属3及び第1の強磁性体2をこの順番に
積層する。
【0083】
このように、Siなどの基板上にSiO
2などの絶縁層を
図28に示すように積層する。そして、該当箇所をエッチングしスピン拡散領域6が入る溝19を
図29に示すように作成する。次に、溝19の部分にスピン拡散領域6をメッキ法、スパッタ法、MBE法などで
図30に示すように積層する。その後、
図31に示すように、非磁性金属3、第1の強磁性体2、絶縁体14(
図3)、第2の強磁性体15(
図3)の順番に積層する。
【0084】
〔実施形態5〕
図32は実施形態5に係る磁気メモリ装置20の回路図である。磁気メモリ装置20は、非磁性金属3と、非磁性金属3の第1面4の一部に形成された第1の強磁性体2と、非磁性金属3の第1面4の反対側の第2面5の一部に形成されたスピン拡散領域6と、第1の強磁性体2の、非磁性金属3と接する面の反対側の面に形成された絶縁体14と、絶縁体14の、第1の強磁性体2と接する面の反対側の面に形成された第2の強磁性体15と、を備える。制御回路21が、非磁性金属3と第2の強磁性体15とに接続されている。
【0085】
第1の強磁性体2、非磁性金属3、及びスピン拡散領域6は、磁化制御デバイス1を構成する。そして、磁化制御デバイス1、絶縁体14、及び第2の強磁性体15は、トンネル磁気抵抗素子16を構成する。
【0086】
制御回路21が非磁性金属3に電流を流すことにより、第1方向スピン7(
図2)が第1面4の側に蓄積される。そして、第1方向スピン7と逆方向を向いた第2方向スピン8が第2面5の側に蓄積される。次に、第1面4の側に蓄積された第1方向スピン7が、第1の強磁性体2の磁化を反転(制御)させるために第1の強磁性体2に注入される。そして、第2面5の側に蓄積された第2方向スピン8が、第2面5からスピン拡散領域6に移動する。
【0087】
本実施形態に係るトンネル磁気抵抗素子16の書き込み動作は、制御回路21が非磁性金属3に電流を流すことにより行われる。トンネル磁気抵抗素子16の読出し動作は、制御回路21がトンネル磁気抵抗素子16の非磁性金属3、第1の強磁性体2、絶縁体14、及び第2の強磁性体15の磁気抵抗を測定することにより行われる。第1の強磁性体2の磁化の向きが第2の強磁性体15の磁化の向きと逆であると、トンネル磁気抵抗素子16の磁気抵抗が高く、第1の強磁性体2と第2の強磁性体15との間に流れる電流は小さい。これに対して、第1の強磁性体2の磁化の向きが第2の強磁性体15の磁化の向きと平行であると、トンネル磁気抵抗素子16の磁気抵抗が低く、第1の強磁性体2と第2の強磁性体15との間に流れる電流が大きくなる。
図33は実施形態5に係る磁気メモリ20Aの模式図である。説明を簡素にするために、磁気メモリ20Aが2行2列の4個の磁気メモリ装置20を備える場合を例に挙げて説明する。
【0088】
磁気メモリ20Aは、水平方向に互いに平行に配列された複数のゲート線G1・G2・G3と、垂直方向に互いに平行に配列された複数のソース線D1・D2・D3と、複数のゲート線G1・G2・G3と複数のソース線D1・D2・D3とのそれぞれの交点に相当する位置に配置された複数の磁気メモリ装置20と、各磁気メモリ装置20に対応する位置に配置され、ソース線D1・D2・D3のいずれかと、ゲート線G1・G2・G3のいずれかと、対応する磁気メモリ装置20とに接続されたトランジスタTとを備える。磁気メモリ装置20のトンネル磁気抵抗素子16は、スピン拡散領域6を含む。
【0089】
このように構成された磁気メモリ20Aにおいては、ゲート線G1・G2・G3に流れる信号によりトランジスタTがオンされると、ソース線D1・D2・D3からトランジスタTを通ってトンネル磁気抵抗素子16の非磁性金属3に電流が流れる。これにより、第1方向スピン7(
図2)が第1面4の側に蓄積される。そして、第1方向スピン7と逆方向を向いた第2方向スピン8が第2面5の側に蓄積される。次に、第1面4の側に蓄積された第1方向スピン7が、第1の強磁性体2の磁化を反転(制御)させるために第1の強磁性体2に注入される。そして、第2面5の側に蓄積された第2方向スピン8が、第2面5からスピン拡散領域6に移動する。
図34は実施形態5に係る磁気メモリ装置20Bの回路図である。
図35は磁気メモリ装置20Bのトンネル磁気抵抗素子16を示す斜視図である。
【0090】
磁気メモリ装置20Bは、拡張型スピン軌道トルク磁気抵抗メモリ(Spin Orbit Torque-Magnetic Random Access Memory:SOT-MRAM)の回路を含み、本実施形態に係るスピン拡散領域6を設置することができる。
【0091】
説明を簡素にするために、磁気メモリ装置20Bが2行2列の4個の第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2(自由層)を備える場合を例に挙げて説明する。この第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2は、
図1及び
図3に示す第1の強磁性体2に相当する。
【0092】
第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2は、磁化容易軸に対応するY方向に磁化されている。磁気メモリ装置20Bには、第1の強磁性体m1-1・m1-2
・m2-1・m2-2の磁化方向を反転(制御)させるために、-Y方向に磁化された第1方向スピン7を第1の強磁性体m1-1・m1-2に注入するための反転リード線3aと、-Y方向に磁化された反転スピン流を第1の強磁性体m2-1・m2-2に注入するための反転リード線3bと、第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の磁化方向の反転(制御)を補助するために、X方向に磁化された補助スピン流を第1の強磁性体m2-1・m2-1に注入するための補助リード線3cと、X方向に磁化された補助スピン流を第1の強磁性体m1-2・m2-2に注入するための補助リード線3dとが設けられる。
【0093】
反転リード線3a・3bは、
図24に示される非磁性金属31に相当する。補助リード線3c・3dは、
図24に示される非磁性金属32に相当する。
【0094】
そして、第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2のそれぞれの下側に本実施形態に係るスピン拡散領域6が設けられる。
【0095】
磁気メモリ装置20Bは、反転リード線3a・3bに反転電流(制御電流)を供給するための主線24・25と、補助リード線3c・3dに補助電流を供給するための補助線26・27とをさらに備える。
【0096】
反転リード線3aと主線24との間にトランジスタa1が配置され、反転リード線3aと主線25との間にトランジスタa2が配置される。そして、反転リード線3bと主線24との間にトランジスタb1が配置され、反転リード線3bと主線25との間にトランジスタb2が配置される。
【0097】
補助リード線4cの一部と補助リード線4cの他の一部との間にトランジスタc2が配置される。補助リード線4dの一部と補助リード線4dの他の一部との間にトランジスタd2が配置される。
【0098】
補助リード線4cの一部と補助線26との間にトランジスタc1が配置され、補助リード線4cの他の一部と補助線27との間にトランジスタc3が配置される。そして、補助リード線4dの一部と補助線26との間にトランジスタd1が配置され、補助リード線4dの他の一部と補助線27との間にトランジスタd3が配置される。
【0099】
トランジスタa1のゲートとトランジスタa2のゲートとに端子aが接続される。トランジスタb1のゲートとトランジスタb2のゲートとに端子bが接続される。そして、トランジスタc1のゲートとトランジスタc2のゲートとトランジスタc3のゲートとに端子cが接続される。トランジスタd1のゲートとトランジスタd2のゲートとトランジスタd3のゲートとに端子dが接続される。
【0100】
第1の強磁性体m1-1の上に絶縁体14が積層され、絶縁体14の上に第2の強磁性体15(固定層)が積層される。第1の強磁性体m1-1、絶縁体14、及び第2の強磁性体15は、トンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto Resistance :TMR)素子16を構成する。同様に、第1の強磁性体m1-2・2-1・2-2の上に絶縁体14が積層され、各絶縁体14の上に第2の強磁性体15が積層される。第1の強磁性体m1-2・m2-1・m2-2、絶縁体14、及び第2の強磁性体15は、それぞれトンネル磁気抵抗素子16を構成する。
【0101】
第1の強磁性体m1-1・m2-1の磁化方向を読み出すためにY方向に延伸して対応する第2の強磁性体15に接合された読出しリード線7aと、第1の強磁性体m1-2・m2-2の磁化方向を読み出すためにY方向に延伸して対応する第2の強磁性体15に接
合された読出しリード線7bとが設けられる。そして、第1の強磁性体m1-1・m2-1・m1-2・m2-2の磁化方向を読み出すためにX方向に延伸する読線28が設けられる。読出しリード線7aと読線28との間にトランジスタe1が配置され、読出しリード線7bと読線28との間にトランジスタf1が配置される。トランジスタe1のゲートに端子eが接続され、トランジスタf1のゲートに端子fが接続される。
【0102】
磁気メモリ装置20Bは、反転リード線3a・3bへの反転電流(制御電流)の供給と、補助リード線4c・4dへの補助電流の供給と、読出しリード線7a・7bからの第1の強磁性体m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の磁化方向の読出しとを制御する制御回路29を備える。
【0103】
主線25は、読出し線としても兼用される。
【0104】
図34に示す例では、第1の強磁性体m1-1の磁化の向きは、対応する第2の強磁性体15の磁化の向きと逆であるので、トンネル磁気抵抗素子16の磁気抵抗が高く、第1の強磁性体m1-1と第2の強磁性体15との間に流れる電流は小さい。これに対して、他の三つの第1の強磁性体m1-2・m2-1・m2-2の磁化の向きは、第2の強磁性体15の磁化の向きと平行であるので、トンネル磁気抵抗素子16の磁気抵抗が低く、第2の強磁性体15との間に電流が流れる。
【0105】
このように、本実施形態に係るスピン拡散領域6は、磁気メモリ装置20Bに適用することができる。
【0106】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1 磁化制御デバイス
2 第1の強磁性体
3 非磁性金属
4 第1面
5 第2面
6 スピン拡散領域
7 第1方向スピン
8 第2方向スピン
10 絶縁体基板
13 補助強磁性体
14 絶縁体
15 第2の強磁性体
16 トンネル磁気抵抗素子
31 非磁性金属(第1配線)
32 非磁性金属(第2配線)
m1-1・m1-2・m2-1・m2-2 第1の強磁性体