(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】多重特異性抗体構造体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240819BHJP
C07K 16/32 20060101ALI20240819BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240819BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240819BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240819BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240819BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240819BHJP
A61K 39/44 20060101ALI20240819BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240819BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/32 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P37/04
A61P43/00
A61K39/395 Y
A61K39/44
C12N15/13
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2020569789
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 US2019036503
(87)【国際公開番号】W WO2019241216
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-26
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520478172
【氏名又は名称】バイオアトラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショート ジェイ エム
(72)【発明者】
【氏名】フレイ ガーハード
(72)【発明者】
【氏名】チャング フウェイ ウェン
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-523783(JP,A)
【文献】特表2017-504578(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180842(WO,A1)
【文献】特表2018-500049(JP,A)
【文献】特表2016-525551(JP,A)
【文献】特表2014-517844(JP,A)
【文献】特表2015-517309(JP,A)
【文献】国際公開第2017/167350(WO,A1)
【文献】特表2009-511521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/13-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3抗原に対する少なくとも一の結合部位を有する抗CD3一本鎖抗体であって、配列番号1~10から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11~15から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗CD3一本鎖抗体、並びに
癌細胞抗原に結合するIgG抗体又はその断片
を含む条件的活性型
四価多重特異性
抗体であって、
前記抗CD3一本鎖抗体及び前記IgG抗体又はその断片
の少なくとも一方が、
pH7.4での結合親和性と比べて、それぞれの抗原に対して、
pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1であ
り、それぞれの抗原は、抗CD3一本鎖抗体ではCD3抗原であり、IgG抗体又はその断片では癌細胞抗原である、条件的活性型
四価多重特異性
抗体。
【請求項2】
前記癌細胞抗原が腫瘍細胞表面に存在する腫瘍細胞抗原である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項3】
前記癌細胞抗原が、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、B7-H3、Axl、Ror2、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgGl、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-Ra、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2及びビメンチンから選択される、請求項1又は2に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項4】
前記癌細胞抗原が、Axl、EpCAM、Ror2、Her2、B7-H3
及びネオアンチゲンから選択される、請求項
1又は2に記載
の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項5】
前記癌細胞抗原が、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択される、請求項
4に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項6】
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号16~17から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号18~19から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片、又は
配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号21のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むHer2抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Her2 IgG抗体又はその断片、又は
配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号23~25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片、又は
配列番号88~95から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号80~87から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むEpCAM抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗EpCAM IgG抗体又はその断片
から選択される、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項7】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号2~10から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12~15から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含み、並びに
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片、又は
配列番号24~25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片
から選択され、
前記抗CD3一本鎖抗体と前記IgG抗体又はその断片の両方が、pH7.4での結合親和性と比べて、それぞれの抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項8】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号2~10から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12~15から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含み、
前記抗CD3一本鎖抗体が、pH7.4での結合親和性と比べて、CD3抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項9】
前記抗CD3一本鎖抗体が
配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片、又は
配列番号24~25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片
から選択され、
前記IgG抗体又はその断片が、pH7.4での結合親和性と比べて、その抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項10】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12及び14から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項11】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項12】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12及び14から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項13】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項14】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項15】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12及び14から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号21のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むHer2抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Her2 IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項16】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号21のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むHer2抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Her2 IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項17】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号24~25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片である、請求項1に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項18】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12及び14から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記IgG抗体又はその断片が、
配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号23のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片である、請求項3に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項19】
CD3抗原に対する少なくとも一の結合部位を有し、配列番号26~71から選択されるアミノ酸配列を有する抗CD3一本鎖抗体、並びに
前記IgG抗体又はその断片であって、
配列番号16~17から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号18~19から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むAxl抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Axl IgG抗体又はその断片、又は
配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号21のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むHer2抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗Her2 IgG抗体又はその断片、又は
配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号23~25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むB7-H3抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗B7-H3 IgG抗体又はその断片、又は
配列番号88~95から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号80~87から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むEpCAM抗原に対する少なくとも一の抗原結合部位を有する抗EpCAM IgG抗体又はその断片
から選択されるIgG抗体又はその断片を含む、条件的活性型四価多重特異性抗体であって、
前記抗CD3一本鎖抗体及び前記IgG抗体又はその断片の少なくとも一方が、pH7.4での結合親和性と比べて、それぞれの抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1であり、それぞれの抗原は、抗CD3一本鎖抗体ではCD3抗原であり、抗Her2抗体又はその断片ではHer2抗原であり、抗B7-H3抗体又はその断片ではB7-H3抗原であり、抗EpCAM抗体又はその断片ではEpCAM抗原である、条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項20】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号27~71から選択されるアミノ酸配列を有し、及び
前記抗Axl IgG抗体又はその断片が、配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むか、又は
前記抗B7-H3抗体又はその断片が、配列番号24及び25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記抗CD3一本鎖抗体とIgG抗体又はその断片の両方が、pH7.4での結合親和性と比べて、それぞれの抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項19に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項21】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号27~71から選択されるアミノ酸配列を有し、及び
前記抗Axl IgG抗体又はその断片が、配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むか、又は
前記抗B7-H3抗体又はその断片が、配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号23のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記抗CD3一本鎖抗体が、pH7.4での結合親和性と比べて、CD3抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項19に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項22】
前記抗CD3一本鎖抗体が配列番号26から選択されるアミノ酸配列を有し、及び
前記抗Axl IgG抗体又はその断片が、配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むか、又は
前記抗B7-H3抗体又はその断片が、配列番号24及び25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含み、
前記抗Axl IgG抗体又はその断片あるいは抗B7-H3抗体又はその断片が、pH7.4での結合親和性と比べて、その抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1である、請求項19に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項23】
前記
抗CD3一本鎖抗体が配列番号28、30、36、61、62、63、64、65及び66
から選択されるアミノ酸配列を有
し、及び
抗EpCAM IgG抗体又はその断片が配列番号93のアミノの軽鎖可変領域及び配列番号85のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む、請求項19に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項24】
前記一本鎖抗体がscFvである、
請求項1~23の何れか一項に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項25】
前記抗CD3一本鎖抗体が、前記IgG抗体又はその断片の少なくとも1つの軽鎖又は重鎖のC末端にリンカーを介して結合
される、請求項
1~24の何れか一項に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項26】
前記CD3抗原がT細胞、Jurkat細胞、NK細胞、及びリンホカイン活性化キラー細胞から選択されるリンパ球上にある、請求項1~
25のいずれか一項に記載の
条件的活性型四価多重特異性抗体。
【請求項27】
タンパク質、脂肪酸、ポリマー、アルブミン及びポリエチレングリコールの少なくとも1つから選択される高分子にコンジュゲートされた請求項1~
26のいずれか一項に記載の
条件的活性型四価多重特異性抗体を含むコンジュゲート型多重特異性抗体。
【請求項28】
腫瘍を治療するための医薬であって、請求項1~
26のいずれか一項に記載の
条件的活性型四価多重特異性抗体又は請求項
27に記載のコンジュゲート型多重特異性抗体を含む、医薬。
【請求項29】
条件的活性型
四価多重特異性抗体を
製造する方法であって、
a)癌細胞抗原に結合するIgG抗体又はその断片を得る工程;
b)pH7.4での結合親和性と比べて、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示す、CD3抗原に結合する一本鎖抗体を得る工程
c)
前記一本鎖抗体を前記IgG抗体又はその断片の少なくとも一の軽鎖のC末端に連結して、
四価多重特異性抗体を製造する工程
;
d)工程
c)の
四価多重特異性抗体を、pH6.0において及びpH7.4において、癌細胞抗原及びCD3抗原への結合についてスクリーニングする工程;及び
e)
i)
pH7.4での結合親和性と比べて、CD3抗原に対して、
pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における結合親和性とpH7.4における結合親和性の比が少なくとも1.3:1であり;及び
ii)癌細胞抗原への結合を示す
条件的活性型四価多重特異性抗体を選択する工程
を含む方法。
【請求項30】
前記癌細胞抗原が腫瘍細胞表面に存在する腫瘍細胞抗原である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記癌細胞抗原が、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、B7-H3、Axl、Ror2、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgGl、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-Ra、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2及びビメンチンから選択される、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記癌細胞抗原が、Axl、EpCAM、Ror2、Her2、B7-H3
及びネオアンチゲンから選択される、請求項
29又は30に記載の方法。
【請求項33】
前記癌細胞抗原が、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択される、請求項
32に記載の方法。
【請求項34】
工程a)が、Axl及びB7-H3から選択される抗原に結合するIgG抗体又はその断片を得ることを含み、及び
工程e)が、pH7.4での結合親和性と比べて、Axl及びB7-H3から選択される前記抗原に対して、pH6.0においてより大きな結合親和性で可逆的結合を示し、pH6.0における親和性とpH7.4における親和性の比が少なくとも1.3:1である条件的活性型多重特異性抗体を選択することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記一本鎖抗体がscFvである、請求項29~34の何れか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記一本鎖抗体が配列番号2~10から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号12~15から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む、請求項29~35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記一本鎖抗体が配列番号27~71から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項29~35の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記
一本鎖抗体が配列番号28、30、36、61、62、63、64、65及び66から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項
37に記載の方法。
【請求項39】
工程a)が、
Axlに結合し、配列番号17のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の少なくとも一を含むか、又は
B7-H3に結合し、配列番号24及び25から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む
IgG抗体又はその断片を得ることを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
コンジュゲート型多重特異性抗体を製造する方法であって、請求項29~39の何れか一項に記載の条件的活性型四価多重特異性抗体を製造する方法、及び
f) 工程e)で選択された条件的活性型四価多重特異性抗体を、タンパク質、脂肪酸、ポリマー、アルブミン及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1つの高分子と結合させる工程をさらに含む方法。
【請求項41】
前記CD3抗原がT細胞、マクロファージ、Jurkat細胞、単球、NK細胞、好中球、好酸球、好塩基球及びリンホカイン活性化キラー細胞から選択されるリンパ球上にある、請求項
29から40の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多重特異性抗体の分野に関する。特に、本開示は、少なくとも1つの条件的活性を有する多重特異性抗体及びそれを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、異なる条件で機能するために、高い活性又は向上した安定性を有するなどの種々の特性を備えるように改変することができる。例えば、酵素は、様々な活性レベルながら高い温度で安定させるための進化が行われてきた。高い温度で活性の向上がある状況において、その向上のかなりの部分は、一般にQ10法則(酵素の場合、摂氏10度上昇する毎に代謝回転速度が2倍になると推定される)によって記述される高い動態学的活性によるものであり得る。向上したタンパク質に導入されている突然変異により、典型的には、正常な機能条件でのタンパク質の活性は、低下する。高い温度で機能するように設計された突然変異体酵素は、正常な機能温度で活性であるものの、典型的には野生型酵素と比較して低下したレベルの活性であり得る。
【0003】
抗体は、治療用タンパク質の主要なクラスとなっている。従来の抗体は、通常、抗原上の単一のエピトープに結合する。2つ以上の抗原又は同じ抗原上の2つ以上のエピトープに結合させるため、多重特異性抗体と称される新規抗体構造体が開発されている。多重特異性抗体は、例えば、二重特異性、三重特異性又は四重特異性抗体であり得る。多重特異性抗体は、幅広い臨床及び診断適用において可能性を示している。欧州連合及び米国において腫瘍学的疾患の治療に承認されている二重特異性抗体薬物は2つある(Catumaxomab(商標)及びBlinatumab(商標))。その独自の特徴により、多重特異性抗体は、次世代抗体治療薬に魅力的なものとなっている。
【0004】
米国特許出願公開第2013/0017200号明細書は、多重特異性抗体を合成する方法を開示している。第1の単一特異性を有する第1の親抗体から第1の抗体断片が得られ、これは、遊離スルフヒドリル基を有するため、チオ反応性架橋剤と反応すると抗体断片-架橋剤部分を生じ得る。この抗体断片-架橋剤部分が、第1の抗体断片と異なる単一特異性を有する他の親抗体から得られる、それぞれ遊離スルフヒドリル基を有する2つ以上の更なる抗体断片の各々と対で反応すると、多重特異性抗体が生じる。この多重特異性抗体は、新規治療用及び診断用薬剤として好適であり得る。
【0005】
Brinkmann and Kontermann(“The making of bispecific antibodies,”MABS,2017,vol.9,pp.182-212,2017)は、2つの抗体の抗原結合部位のみで構成される小分子、IgG構造を有する分子及び二量化モジュールと組み合わされることの多い異なる抗原結合部分で構成される大型複合分子を含め、二重特異性抗体のフォーマットを調査している。適用の違いに応じて、二重特異性抗体は、その結合モジュールのサイズ、配置、価数、可動性及び幾何学並びにその分布及び薬物動態特性が変わり得る。二重特異性フォーマットは、全体として、様々な適応症に対する治療薬の開発に適用することのできる抗体の多様性を高める。
【0006】
また、条件的活性のある有用な抗体を生成することも望ましい。例えば、正常生理条件で事実上不活性であり、正常生理条件以外(例えば、異常条件)で活性が大幅に高い抗体、ある種の微小環境で活性化若しくは不活性化される(例えば、腫瘍微小環境で活性化される)抗体又は時間の経過に伴って活性化若しくは不活性化される抗体である。温度に加えて、抗体を進化させ得るか又は最適化し得る他の誘発条件としては、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、酸素濃度及び電解質濃度が挙げられる。活性に加えて、進化させる間に最適化され得る抗体の他の望ましい特性としては、安定性、半減期、化学的耐性及びタンパク質分解耐性が挙げられる。
【0007】
親抗体を、所望の特性を備える突然変異体抗体に進化させるか又は改変するための多くの戦略が多く発表されている。しかしながら、正常生理条件で不活性又は事実上不活性(10%未満の活性及び特に5%未満の活性)でありながら、異常条件において、正常生理条件での親抗体の元の活性と同等であるか又はそれより良好な活性を有するように親抗体を改変するか又は進化させるには、1つ又は複数の不安定化させる突然変異が、その不安定効果を打ち消すことのない、活性を増加させる突然変異と共存する必要がある。不安定化させる突然変異により、Q10法則などの標準的な法則による予測を上回る大きさの抗体の活性低下があるものと予想される。従って、正常生理条件にあるか又は正常生理条件で実質的に不活性でさえある進化したタンパク質と比べて、特定の異常条件、例えば低い温度又はpHで効率的に機能する(活性がより高い)タンパク質を進化させることができると、条件的活性型タンパク質と称される驚くべき新規抗体クラスが作り出される。例えば、条件的活性型タンパク質は、異常条件における活性と正常生理条件における活性との比が親タンパク質についての同じ比より高いことができる。ある場合には、条件的活性型タンパク質についてこの比は、少なくとも約2:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約50:1、又は少なくとも約80:1、又は少なくとも約100:1であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも1つのエピトープ又は抗原に対して条件的活性型である新規多重特異性抗体クラスを提供する。この新規多重特異性抗体クラスは、従来の多重特異性抗体の融通性及び多用性を生かす一方、同時に、活性が所望される対象の部位、組織又は器官に多重特異性抗体の活性、親和性及び/又はアビディティを向けることができる。
【0009】
一態様において、本開示は、細胞抗原のための少なくとも1つの結合部位;及び腫瘍反応性リンパ球抗原のための少なくとも1つの結合部位を含む多重特異性抗体を提供する。この多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きい活性、親和性及び/又はアビディティで細胞抗原及び腫瘍反応性リンパ球抗原の少なくとも一方に結合する。
【0010】
前出の実施形態において、細胞抗原は、癌細胞関連抗原であり得るか、又は癌細胞関連抗原は、ネオアンチゲンであり得る。
【0011】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、細胞抗原は、老化細胞関連抗原であり得る。
【0012】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、第1の生理条件は、異常条件であり得、及び第2の生理条件は、正常生理条件であり得る。
【0013】
前出の実施形態において、異常条件は、腫瘍微小環境における条件又は老化細胞微小環境における条件であり得る。
【0014】
前出の実施形態のいずれかにおいて、細胞抗原及び腫瘍反応性リンパ球抗原の少なくとも一方への多重特異性抗体の結合は、可逆的であり得る。
【0015】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、(1)二重特異性抗体コンジュゲート;(2)ハイブリッド二重特異性IgG2;(3)可変ドメインのみの二重特異性抗体分子;(4)CH1/CL融合タンパク質;(5)Fab融合タンパク質;(6)非免疫グロブリン融合タンパク質;(7)Fc修飾IgG;(8)付加及びFc修飾IgG;(9)修飾Fc及びCH3融合タンパク質;(10)付加IgG-HC融合体;(11)付加IgG-LC融合体;(12)付加IgG-HC及びLC融合体;(13)Fc融合体;(14)CH3融合体;(15)IgE/IgM CH2融合体;(16)F(ab’)2融合体;(17)CH1/CL融合タンパク質;(18)修飾IgG;並びに(19)非免疫グロブリン融合体から選択されるフォーマットで構成され得る。
【0016】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、高分子にコンジュゲートされ得る。高分子は、タンパク質、脂肪酸及びポリマーの少なくとも1つから選択され得るか、又は高分子は、アルブミン若しくはポリエチレングリコールであり得る。
【0017】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、細胞抗原のための少なくとも1つの結合部位は、IgG抗体又はその断片であり得、且つ細胞抗原は、腫瘍細胞抗原であり得る。
【0018】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、腫瘍反応性リンパ球抗原のための少なくとも1つの結合部位は、一本鎖抗体であり得る。一本鎖抗体は、scFv抗体であり得る。scFv抗体は、前記IgG抗体又はその断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端にリンカーを介して結び付けられ得る。抗体がscFv抗体である前出の実施形態のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域と、配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域とを含み得る。前出の実施形態のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0019】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、IgG抗体は、Axl、Her2、B7-H3及びEpCAMから選択される抗原に結合する、配列番号16~17、20、22及び88~95のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域;及び同じ抗原に結合する、配列番号18~19、21、23~25及び80~87のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域を含み得る。
【0020】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、腫瘍反応性リンパ球抗原は、CD3抗原であり得る。
【0021】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、腫瘍反応性リンパ球抗原は、T細胞、マクロファージ、ジャーカット細胞、単球、NK細胞、好中球、好酸球、好塩基球及びリンホカイン活性化キラー細胞から選択されるリンパ球上にあり得る。
【0022】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、細胞抗原は、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択され得る。
【0023】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きい親和性で細胞抗原に結合し得る。
【0024】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きい親和性で腫瘍反応性リンパ球抗原に結合し得る。
【0025】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きい親和性で細胞抗原及び腫瘍反応性リンパ球抗原の両方に結合し得る。
【0026】
前出の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きいアビディティで細胞抗原及び腫瘍反応性リンパ球抗原の組み合わせに結合し得る。
【0027】
別の態様において、本開示は、第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片;及び第1の抗原と異なる第2の抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体であって、前記IgG抗体又は断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結される少なくとも1つのscFv抗体を含む多重特異性抗体の第2の実施形態を提供し、前記多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性及び/又はアビディティで第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方に可逆的に結合する。
【0028】
第2の実施形態において、第2の抗原は、CD3抗原であり得る。
【0029】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域と、配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域とを含み得る。前出の実施形態のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0030】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、IgG抗体又は断片は、Axl、Her2、B7-H3及びEpCAMから選択される抗原に結合する、配列番号16~17、20、22及び88~95のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域;及び同じ抗原に結合する、配列番号18~19、21、23~25及び80~87のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域を含み得る。
【0031】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原に結合し得る。
【0032】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第2の抗原に結合し得る。
【0033】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の両方に結合し得る。
【0034】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きいアビディティで第1及び第2の抗原の組み合わせに結合し得る。
【0035】
前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、第1の抗原は、細胞表面抗原であり得、かかる細胞表面抗原は、癌細胞表面抗原であり得る。前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、第1の抗原は、ネオアンチゲンであり得る。前出の第2の実施形態のいずれか1つにおいて、第1の抗原は、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択され得る。
【0036】
更に別の態様において、本開示は、多重特異性抗体を作成する方法であって、a)第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片を得ること;b)第2の抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体を前記IgG抗体又は断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結して、1つ以上の構造体を製造すること;c)b)の1つ以上の構造体を、異常条件及び正常生理条件下において、第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方への結合についてスクリーニングすること;及びd)1つ以上の構造体から、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方に可逆的に結合する多重特異性抗体を選択することを含む方法を提供する。
【0037】
前出の方法において、第1の抗原は、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択され得る腫瘍細胞抗原又はネオアンチゲンであり得る。
【0038】
前出の方法のいずれか1つにおいて、第2の抗原は、CD3などの腫瘍反応性リンパ球抗原であり得る。腫瘍反応性リンパ球抗原は、T細胞、マクロファージ、Jurkat細胞、単球、NK細胞、好中球、好酸球、好塩基球及びリンホカイン活性化キラー細胞から選択されるリンパ球上にあり得る。
【0039】
前出の方法のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域と、配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域とを含み得る。前出の実施形態のいずれか1つにおいて、scFv抗体は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0040】
前出の方法のいずれか1つにおいて、IgG抗体は、Axl、Her2、B7-H3及びEpCAMから選択される抗原に結合する、配列番号16~17、20、22及び88~95のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域;及び同じ抗原に結合する、配列番号18~19、21、23~25及び80~87のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される重鎖可変領域を含み得る。
【0041】
前出の方法のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原に結合し得る。
【0042】
前出の方法のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第2の抗原に結合し得る。
【0043】
前出の方法のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の両方に結合し得る。
【0044】
前出の方法のいずれか1つにおいて、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きいアビディティで第1の抗原及び第2の抗原の両方の組み合わせに結合し得る。
【0045】
更に別の態様において、本開示は、対象の腫瘍を治療する方法であって、前出の実施形態のいずれか1つの多重特異性抗体を投与することを含む方法を提供する。
【0046】
この治療方法において、多重特異性抗体は、癌ネオアンチゲンワクチンと併用投与され得るか、又は多重特異性抗体は、癌ネオアンチゲンワクチンの投与後に投与され得る。
【0047】
更に別の態様において、本開示は、多重特異性抗体を作成する方法であって、a)第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片を得る工程;b)第2の抗原に結合するscFv抗体を得る工程;c)a)及びb)の抗体の一方又は両方を進化させて、1つ以上の進化された抗体を製造する工程;d)c)の1つ以上の進化された抗体をスクリーニングして、抗体であって、異常条件下において、正常生理条件下よりも大きい親和性でそのそれぞれの抗原に結合する抗体を選択する工程;e)第2の抗原に結合するscFv抗体を、第1の抗原に結合するIgG抗体又は断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結して、1つ以上の構造体を製造する工程であって、scFv抗体及びIgG抗体の少なくとも一方は、d)において選択され、且つ存在する場合、d)で選択されないscFv抗体又はIgG抗体は、工程a)又はb)からのものである、工程;f)工程e)の1つ以上の構造体を、異常条件及び正常生理条件下において、第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方への結合についてスクリーニングする工程;及びg)1つ以上の構造体から、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方に結合する多重特異性抗体を選択する工程を含む方法を提供する。
【0048】
更に別の態様において、本開示は、多重特異性抗体を作成する方法であって、a)第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片を得る工程;b)第2の抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体を前記IgG又はその断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結して、1つ以上の構造体を製造する工程であって、前記少なくとも1つのscFv抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で前記第2の抗原に結合する、工程;c)1つ以上の構造体を、正常生理条件及び異常条件下において、前記第1の抗原及び前記第2の抗原への結合についてスクリーニングする工程;及びd)前記第1の抗原に結合し、且つ前記異常条件において、前記正常生理条件におけるよりも大きい親和性で前記第2の抗原に可逆的に結合する多重特異性抗体を選択する工程を含む方法を提供する。
【0049】
更に別の態様において、本開示は、細胞特異的抗原に結合するIgG抗体又はその断片及び前記IgG抗体又はその断片の少なくとも1つの軽鎖又は少なくとも1つの重鎖のC末端に連結されている、Tリンパ球抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体を含む多重特異性抗体であって、前記少なくとも1つのscFv抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で前記Tリンパ球抗原に結合する、多重特異性抗体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】一方のアームが抗原(Ag)に結合し、他方のアームがCD3に結合するヘテロ二量体である二価多重特異性抗体の概略的構造である。
【0051】
【
図2】各アームが抗原(Ag)への結合部位と、CD3への結合部位とを有するホモ二量体である四価多重特異性抗体の概略的構造である。
【0052】
【
図3A】
図2の四価多重特異性抗体の、抗原及びCD3への同時の結合を測定するために用いられる一般的方法を図式化したものを示す。
【0053】
【
図3B】6.0及び7.4のpHにおける、CD3/Axlに対する多重特異性抗体による、CD3に対する非条件的結合活性を示す。CD3コートELISAプレートに抗体を加え、HRP標識抗IgG抗体(
図3Aの二次抗体1)を用いて結合を検出した。
【0054】
【
図3C】6.0及び7.4のpHにおける多重特異性抗体によるAxlに対する条件的結合活性を示す。CD3コートELISAプレートに抗体を加え、AXLタンパク質(
図3Aにおける抗原)及びHRP標識抗AXL抗体(
図3Aにおける二次抗体2)を用いて結合を検出した。
【0055】
【
図4A】6.0及び7.4のpHにおける、CD3/Axlに対する多重特異性抗体による、固相化したCD3に対する条件的及び非条件的結合活性を示す。
【0056】
【
図4B】Axlを固相化したときの、6.0及び7.4のpHにおける
図4Aの多重特異性抗体の一部によるCD3に対する条件的及び非条件的結合活性を示す。
【0057】
【
図5A】6.0及び7.4のpHにおける、CD3/Her2に対する多重特異性抗体による、固相化したCD3に対する条件的及び非条件的結合活性を示す。
【0058】
【
図5B】Her2を固相化したときの、6.0及び7.4のpHにおける
図5Aの多重特異性抗体によるCD3に対する条件的及び非条件的結合活性を示す。
【0059】
【
図6】6.0及び7.4のpHにおける、CD3/B7-H3に対する多重特異性抗体による、固相化したCD3に対する条件的結合活性を示す。
【0060】
【
図7】改変されたJurkatエフェクター細胞上のCD3及び腫瘍標的細胞上の抗原の両方に結合するための本発明の多重特異性抗体のワーキングモデルの概略図を示す。
【0061】
【
図8A】CD3及びAxlの両方に対して非条件的結合活性を有する二重特異性抗体によるエフェクター細胞の刺激活性を示す。
【0062】
【
図8B】Axlに対して非条件的結合活性を有し、且つCD3に対して条件的結合活性を有する二重特異性抗体によるJurkatエフェクター細胞の刺激活性を示す。
【0063】
【
図9】ELISAにより測定したときの、6.0~7.4のpH値における本発明の多重特異性抗体のCD3に対する条件的結合活性を示す。これらの多重特異性抗体は、CD3及びEpCAMの両方に結合する。
【
図10】腫瘍異種移植マウスを本発明の二重特異性抗体(EpCAM×CAB-CD3)で治療した結果としての平均腫瘍容積を示す。
【0064】
【
図11】ビヒクル、アイソタイプ対照及び非条件的活性型ベンチマーク抗体と比較したときの、本発明の二重特異性抗体(EpCAM×CAB-CD3)による末梢循環系におけるT細胞活性化の低下を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
定義
本明細書に提供される例の理解を促進するために、特定の頻出する方法及び/又は用語を本明細書に定義するものとする。
【0066】
用語「約」、「活性」、「薬剤」、「曖昧な塩基要件」、「アミノ酸」、「増幅」、「キメラ特性」、「コグネイト」、「比較ウィンドウ」、「保存的アミノ酸置換」、「~に対応する」、「分解有効性の」、「定義された配列フレームワーク」、「消化」、「方向性ライゲーション」、「DNAシャフリング」、「薬物」又は「薬物分子」、「有効量」、「電解質」、「エピトープ」、「酵素」、「進化」又は「進化している」、「断片」、「誘導体」、「類似体」、「全単一アミノ酸置換範囲」、「遺伝子」、「遺伝的不安定性」、「異種」、「同種」又は「同種」、「工業的応用」、「同一の」又は「同一性」、「同一性範囲」、「単離された」、「単離核酸」、「リガンド」、「ライゲーション」、「リンカー」又は「スペーサー」、「微小環境」、「進化させる分子特性」、「突然変異」、「天然に存在する」、「正常生理条件」又は「野生型機能条件」、「核酸分子」、「核酸分子」、「~をコードする核酸配列」、又は「~のDNAコード配列」、又は「~をコードするヌクレオチド配列」、「プロモーター配列」、「酵素(タンパク質)をコードする核酸」、又は「酵素(タンパク質)をコードするDNA」、又は「酵素(タンパク質)をコードするポリヌクレオチド」、「特異的核酸分子種」、「ワーキング核酸試料を核酸ライブラリにアセンブルする」、「核酸ライブラリ」、「核酸コンストラクト」又は「ヌクレオチドコンストラクト」又は「DNAコンストラクト」、「コンストラクト」、「オリゴヌクレオチド」又は「オリゴ」、「同種」、「作動可能に連結された」、「~に作動可能に連結された」、「親ポリヌクレオチドセット」、「患者」又は「対象」、「生理条件」、「集団」、「プロ型」、「プレプロ型」、「擬似ランダム」、「準反復単位」、「ランダムペプチドライブラリ」、「ランダムペプチド配列」、「受容体」、「組換え」、「合成」、「関連ポリヌクレオチド」、「減少的再集合」、「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性パーセンテージ」、「実質的同一性」、「参照配列」、「反復インデックス(RI)」、「制限部位」、「選択可能なポリヌクレオチド」、「配列同一性」、「類似性」、「特異的に結合する」、「特異的ハイブリダイゼーション」、「特異的ポリヌクレオチド」、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」、「実質的に同一の」、「実質的に純粋な酵素」、「実質的に純粋な」、「治療すること」、「可変セグメント」、「変異体」、「ワーキング」、「条件的活性型抗体」、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」、「癌」及び「癌性」、「多重特異性抗体」、「完全長抗体」、「ライブラリ」、「組換え抗体」及び「個体」又は「対象」の定義は、国際公開第2016/138071号パンフレットにあるものと同じであり、従って全体として参照により本明細書に援用される。
【0067】
用語「異常条件」は、本明細書で使用されるとき、対象におけるその条件についての正常な許容範囲から逸脱する条件を指す。用語「正常生理条件」は、本明細書で使用されるとき、投与部位などの対象におけるある位置又は作用部位にある組織若しくは器官で対象において正常範囲内にあると見なされる条件を指す。この定義に関連して、老化細胞及び腫瘍細胞は、正常細胞と見なされず、従って老化細胞及び腫瘍細胞によって生じた、その範囲内で生じた又はその近くで生じた条件は、異常条件と見なされる。
【0068】
用語「抗体」は、本明細書で使用されるとき、インタクトな免疫グロブリン分子並びにFab、Fab’、(Fab’)2、Fv及び一本鎖抗体(SCA)断片など、抗原のエピトープへの結合能を有する免疫グロブリン分子の断片を指す。これらの抗体断片は、それが由来する元の抗体の抗原(例えば、ポリペプチド抗原)に選択的に結合する何らかの能力を保持しているものであり、当技術分野において周知の方法を用いて作成することができ(例えば、Harlow and Lane、前掲を参照されたい)、更に以下のとおり記載される。特許請求される本発明の実施において有用な抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、sIgA、IgD又はIgEであり得る。抗体は、イムノアフィニティークロマトグラフィーによる調製用分量の抗原の単離に使用することができる。かかる抗体の様々な他の使用は、疾患(例えば、新形成)を診断及び/又は病期分類すること並びに例えば新形成、自己免疫疾患、AIDS、心血管疾患、感染症などの疾患を治療する治療適用のためである。キメラ、ヒト様、ヒト化又は完全ヒト抗体がヒト患者への投与に特に有用である。
【0069】
Fab断片は、抗体分子の一価抗原結合断片からなり、全抗体分子を酵素パパインで消化すると、インタクトな軽鎖及び重鎖の一部からなる断片が生じることにより製造され得る。
【0070】
抗体分子のFab’断片は、全抗体分子をペプシンで処理し、続いて還元すると、インタクトな軽鎖及び重鎖の一部からなる分子が生じることにより入手され得る。このように処理した各抗体分子につき2つのFab’断片が入手される。
【0071】
抗体の(Fab’)2断片は、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、続く還元を行わないことにより入手され得る。(Fab’)2断片は、2つのジスルフィド結合によって一体に保持された2つのFab’断片の二量体である。
【0072】
Fv断片は、2本の鎖として発現する軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域を含む遺伝子改変された断片として定義される。
【0073】
一本鎖抗体(「SCA」)は、好適な可動性ポリペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された一本鎖分子であり、これは、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端に追加的なアミノ酸配列を含み得る。例として、scFv抗体は、一本鎖抗体である。例えば、一本鎖抗体は、コードポリヌクレオチドに連結するためのテザーセグメントを含み得る。機能性一本鎖抗体は、概して、完全長抗体の特異的標的分子又はエピトープへの結合特性を保持するために十分な軽鎖の可変領域の一部分及び十分な重鎖の可変領域の一領域を含む。一本鎖抗体は、概して、免疫グロブリンスーパーファミリーの遺伝子によって実質的にコードされる(例えば、The Immunoglobulin Gene Superfamily,A.F.Williams and A.N.Barclay,in Immunoglobulin Genes,T.Honjo,F.W.Alt,and THE.Rabbits,eds.,(1989)Academic press:San Diego,Calif.,pp.361-368を参照されたい)、最も高頻度にはげっ歯類、非ヒト霊長類、鳥類、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ又はヒト重鎖又は軽鎖遺伝子配列によってコードされる少なくとも10連続アミノの1つ以上のポリペプチドセグメントからなるタンパク質である。機能性一本鎖抗体は、概して、特異的標的分子、典型的には受容体又は抗原(エピトープ)への結合特性を保持するために十分な免疫グロブリンスーパーファミリー遺伝子産物の一部分を含む。
【0074】
用語「抗原」又は「Ag」は、本明細書で使用されるとき、免疫応答を誘発する分子として定義される。この免疫応答は、抗体産生又は特異的免疫適格細胞の活性化又は両方を伴うものであり得る。当業者は、事実上全てのタンパク質又はペプチド及び多糖類、核酸又は脂質を含めた任意の高分子が抗原としての役割を果たし得ることを理解するであろう。更に、抗原は、組換えDNA又はゲノムDNAに由来することができる。従って、当業者は、免疫応答を引き出すタンパク質をコードするヌクレオチド配列又は部分的ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、本明細書においてその用語が使用されるとおりの「抗原」をコードすることを理解するであろう。更に、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列によってのみコードされるものでなくてもよいことを理解するであろう。本発明には、限定はされないが、2つ以上の遺伝子の部分的ヌクレオチド配列の使用が含まれること及びそれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を引き出すために様々な組み合わせで配置されることが容易に明らかである。更に、当業者は、抗原が全く「遺伝子」によってコードされないものであり得ることを理解するであろう。抗原を生成し、合成し得ること又は抗原が生体試料に由来し得ることは、容易に明らかである。かかる生体試料としては、限定はされないが、組織試料、腫瘍試料、細胞又は生体液を挙げることができる。
【0075】
用語「アビディティ」は、本明細書で使用されるとき、2つの標的と同時に相互作用する多重特異性抗体の複数の抗原結合部位間など、2つの分子間における複数の結合部位の合成強度を指す。2つ以上の結合相互作用が存在するとき、それらの2つの分子は、全ての結合部位が解離したときのみ解離することになり、従って、その解離速度は、個別の結合部位よりも遅く、従って個別の結合部位の結合強度(親和性)と比較してより高い有効性の合計結合強度(アビディティ)が得られることになる。従って、アビディティは、個別の結合部位の親和性及び特異的エピトープの両方、また多重特異性抗体及び抗原の価数にも関係する。例えば、二重特異性抗体と、ポリマーなど、反復的エピトープ構造を有する抗原との間の相互作用は、結合が抗原上の複数のエピトープに対するものであり得るため、高いアビディティの1つといえる。
【0076】
用語「癌」及び「癌性」は、本明細書で使用されるとき、無秩序な細胞成長によって典型的に特徴付けられる哺乳類における生理条件を指す。癌の例としては、限定はされないが、B細胞リンパ腫(ホジキンリンパ腫及び/又は非ホジキンリンパ腫)、脳腫瘍、乳癌、結腸癌、肺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、尿路癌、甲状腺癌、腎癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌、脳癌並びに限定はされないが、アンドロゲン依存性前立腺癌及びアンドロゲン非依存性前立腺癌を含めた前立腺癌が挙げられる。
【0077】
用語「細胞抗原」又は「細胞関連抗原」は、本明細書で使用されるとき、免疫応答を引き出す能力を有する細胞に由来するか又はそれが発現する任意のタンパク質、炭水化物又は他の成分を指す。例えば、細胞は、対象の任意の細胞、特に癌細胞及び老化細胞であり得る。細胞抗原は、細胞の表面上又は細胞の内部にある抗原であり得る。この定義は、限定はされないが、細胞表面又は細胞の膜から精製されたタンパク質又は細胞の細胞表面に会合した独自の炭水化物部分を含むことが意図される。この定義は、細胞の表面からの抗原も含み、これは、本発明の抗体が到達するために細胞を特別に処理する必要があるものである。
【0078】
用語「条件的活性」又は「条件的活性型の」は、正常生理条件と比較したとき、1つ以上の異常条件でより高い多重特異性抗体の親和性又はアビディティを指す。この条件的活性型多重特異性抗体は、生体の選択された領域で活性を呈することができ、且つ/又は異常な若しくは許容的な生理条件下で活性の増加若しくは低下を呈する。一態様において、条件的活性型多重特異性抗体は、正常生理条件で事実上不活性であるが、異常条件で活性である。例えば、一態様において、条件的活性型多重特異性抗体は、正常な生理的pHで事実上不活性であるが、認知症脳又は腫瘍微小環境におけるそれより低いpHで活性である。別の態様において、条件的活性型多重特異性抗体は、正常な生理的pHで可逆的又は不可逆的に不活性化され得る。更なる態様において、条件的活性型多重特異性抗体は、治療用タンパク質に由来する。別の態様において、条件的活性型多重特異性抗体は、薬物又は治療用薬剤として使用される。
【0079】
用語「エピトープ」又は「抗原決定基」は、本明細書で使用されるとき、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続アミノ酸(線状エピトープ)又はタンパク質の三次折り畳みによって並んで位置する非連続アミノ酸(立体エピトープ)のいずれでも形成され得る。連続アミノ酸で形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒への曝露時にも保持されている一方、三次折り畳みによって形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒による処理時に失われる。エピトープは、3アミノ酸以上を含むことができる。通常、エピトープは、少なくとも5~7アミノ酸(エピトープ中に5、6又は7アミノ酸など)、又は少なくとも8~11アミノ酸(エピトープ中に8、9、10又は11アミノ酸など)、又は11アミノ酸超(エピトープ中に12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸など)、又は20アミノ酸超(エピトープ中に21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30アミノ酸など)、頻度は少ないが更に31~40アミノ酸からなる。エピトープの空間的コンホメーションを決定する方法としては、例えば、X線結晶学及び二次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,Glenn E.Morris,Ed(1996)を参照されたい。抗原上のエピトープマッピングに好ましい方法は、表面プラズモン共鳴である。
【0080】
用語「完全長抗体」は、抗原結合可変領域(VH又はVL)並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む抗体を指す。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。完全長抗体は、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なる「クラス」に割り当てることができる。完全長抗体には、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、その幾つかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に細分され得る。異なる抗体クラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。
【0081】
「個体」、「患者」又は「対象」は、ヒト又は動物である。例えば、対象は、家畜化された動物(例えば、雌ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)から選択される哺乳類であり得る。
【0082】
用語「ライブラリ」は、本明細書で使用されるとき、単一のプール内にある核酸又はタンパク質のコレクションを指す。ライブラリは、DNA組換え技術を用いて作成され得る。例えば、cDNA又は任意の他のタンパク質コードDNAのコレクションを発現ベクターに挿入してタンパク質ライブラリを作成し得る。cDNA又はタンパク質コードDNAのコレクションは、ファージゲノムに挿入されて、野生型タンパク質のバクテリオファージディスプレイライブラリも作成し得る。cDNAのコレクションは、Sambrook et al.(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)によって開示される方法によるなど、選択された細胞集団又は組織試料から製造され得る。選択された細胞型からのcDNAコレクションは、Stratagene(登録商標)などの供給業者からも市販されている。本明細書で使用されるとおりの野生型タンパク質のライブラリは、生体試料のコレクションではない。
【0083】
用語「多重特異性抗体」は、本明細書で使用されるとき、それぞれ同じ又は異なる抗原上のエピトープへの結合能を有する少なくとも2つの異なる結合部位を有する完全長抗体、抗体断片又は1つ以上の完全長抗体及び抗体断片を含む構造体である。構造体は、2、3個又はそれを超える(例えば、4、5、6又は7個の)機能性抗原結合部位を有する改変された抗体であり得、これも多重特異性抗体の範囲内に包含される(例えば、米国特許出願公開第2002/0004587 A1号明細書及びBrinkman and Kontermann,MAbs,vol.9,pp.182-212,2017を参照されたい)。
【0084】
用語「薬学的に許容可能な塩」は、本明細書で使用されるとき、本発明の条件的活性型多重特異性抗体の塩形態を指す。塩形態は、酸付加塩(例えば、遊離アミノ基と形成される)及び塩酸若しくはリン酸などの無機酸又は酢酸、シュウ酸、酒石酸及びマレイン酸などのかかる有機酸と形成されるものであり得る。遊離カルボキシル基と形成される塩は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄などの無機塩基並びにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン及びプロカインなどの有機塩基からも誘導され得る。
【0085】
用語「予防有効量」は、本明細書で使用されるとき、かかる量を受けなかった対応する対象と比較したとき、限定はされないが、疾患、障害若しくは副作用の予防若しくは改善又は疾患若しくは障害の進行速度の低下をもたらす任意の量を意味する。この用語は、その範囲内において、正常な生理機能を亢進させるのに有効な量並びに第2の医薬品の治療的又は予防的効果を亢進させるか又はそれに役立つ生理機能を患者に生じさせるのに有効な量も含む。
【0086】
用語「予防すること」は、本明細書で使用されるとき、ある病態が起こることを防ぐか又は避けることを指す。一部の実施形態において、予防することは、本発明の多重特異性抗体を使用する、腫瘍又は老化関連病態などの病態に関連する損傷の改善に関する。
【0087】
用語「小分子」は、本明細書で使用されるとき、900Da未満、又は500Da未満、又は200Da未満、又は100Da未満の分子量の分子又はイオンを指す。本発明のアッセイ及び環境では、多くの場合、小分子は、主としてアッセイ又は環境のpHに依存して分子と分子の脱プロトン化イオンとの混合物として存在し得る。
【0088】
用語「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、かかる量を受けなかった対応する対象と比較したとき、限定はされないが、疾患、障害若しくは副作用の治癒、予防若しくは改善又は疾患若しくは障害の進行速度の低下をもたらす本発明の多重特異性抗体の任意の量を意味する。この用語は、その範囲内において、正常な生理機能を亢進させるのに有効な量並びに第2の医薬品の治療効果を亢進させるか又はそれに役立つ生理機能を患者に生じさせるのに有効な量も含む。
【0089】
用語「治療すること」又は「治療」は、対象における疾患又は障害(例えば、癌)の症状の数を減少させること又は1つ以上の症状の重症度、期間若しくは頻度を減少させることを含む。治療するという用語は、対象の障害又は障害の症状の発生若しくは進行、又はその症状の重症度の進行を遅延させること、又は障害若しくは障害を有する対象の寿命を延ばすことも意味し得る。
【0090】
用語「腫瘍」は、本明細書で使用されるとき、悪性であれ良性であれ、あらゆる新生物細胞成長及び増殖並びにあらゆる前癌性及び癌性細胞及び組織を指す。用語「腫瘍微小環境」は、悪性過程が生存し、且つ/又は拡大し、且つ/又は広がるための構造的及び/又は機能的環境を作り出す要素を含め、腫瘍環境のあらゆる要素を指す。
【0091】
用語「単位投薬形態」は、本明細書で使用されるとき、対象に対する単位毎の投薬量として好適な物理的に個別の単位を指し、各単位は、薬学的に許容可能な希釈剤、担体又はビヒクルとの関連で所望の治療効果を生み出すために十分な本発明の多重特異性抗体の量で計算された本発明の条件的活性型多重特異性抗体の所定の分量を含有する。
【0092】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈上特に明確に指示されない限り、複数形への言及を含むことに留意しなければならない。更に、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」は、本明細書では同義的に使用することができる。用語「含む」、「包含する」、「有する」及び「構成される」も同義的に使用することができる。
【0093】
特に指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の分量、分子量、パーセント、比、反応条件などの特性を表す全ての数値は、いずれの場合にも、用語「約」が存在するか否かに関わらず、用語「約」によって修飾されると理解されるものとする。従って、反する旨が示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に示される数値パラメータは、本開示によって達成することが求められる所望の特性に応じて変わり得る近似である。最低限でも且つ特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようと試みるものではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告される有効数字の桁数に鑑みて且つ通常の丸め技法を適用することにより解釈されなければならない。本開示の広い範囲を示す数値の範囲及びパラメータが近似であるにも関わらず、具体的な例に示される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、本質的には、そのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差によって必然的に生じるある種の誤差を含んでいる。
【0094】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータは、単独での使用又は本明細書に開示される全ての他の成分、化合物、置換基若しくはパラメータの1つ以上と組み合わせた使用が開示されているものと解釈されるべきであることが理解されるべきである。
【0095】
また、本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータについての各量/値又は量/値の範囲は、本明細書に開示される任意の他の1つ若しくは複数の成分、1つ若しくは複数の化合物、1つ若しくは複数の置換基又は1つ若しくは複数のパラメータについて開示されている各量/値又は量/値の範囲との組み合わせでも開示されているものと解釈されるべきであること、従って、本明細書に開示される2つ以上の成分、化合物、置換基又はパラメータについての量/値又は量/値の範囲の任意の組み合わせは、本説明の目的上、互いに組み合わせて開示されることも理解されるべきである。
【0096】
更に、本明細書に開示される各範囲は、開示される範囲内にある同じ有効数字桁数を有する各具体的な値の開示であると解釈されるべきであることが理解される。従って、1~4の範囲は、値1、2、3及び4の明示的開示であると解釈されるべきである。更に、本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内にある各具体的な値との組み合わせで開示されると解釈されるべきであることが理解される。従って、この開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限又は各範囲内にある各具体的な値と組み合わせることによるか、又は各範囲の各上限を各範囲内にある各具体的な値と組み合わせることによって導き出される全ての範囲の開示と解釈されるべきである。
【0097】
更に、本記載又は例に開示される成分、化合物、置換基又はパラメータの具体的な量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示と解釈されるべきであり、従って本願の他の部分に開示される同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについての範囲の任意の他の下限若しくは上限又は具体的な量/値と組み合わせて、その成分、化合物、置換基又はパラメータについての範囲を形成することができる。
【0098】
一態様において、本発明は、細胞抗原のための少なくとも1つの結合部位及び腫瘍反応性リンパ球抗原のための少なくとも1つの結合部位を含む多重特異性抗体を提供する。この多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるよりも大きい親和性で少なくとも1つの細胞抗原及び腫瘍反応性リンパ球抗原に結合する。一部の実施形態において、第1の生理条件は、異常条件であり、及び第2の生理条件は、正常生理条件である。例えば、異常条件は、腫瘍微小環境における条件であり得る。本発明の多重特異性抗体は、条件的活性型多重特異性抗体と称され得る。別の例として、異常条件は、老化細胞微小環境における条件であり得る。これに関連して、老化細胞は、老化が起こる前に同じ位置に以前存在した正常細胞と同じでないため、異常であると特徴付けられる。老化細胞微小環境における異常条件は、酸性pH、より低い酸素濃度及び/又は老化関連分泌表現型(SASP)であり得る。
【0099】
一部の実施形態において、条件的活性型多重特異性抗体は、正常生理条件で事実上不活性であるが、異常条件で活性であり、任意選択で、正常生理条件における条件的活性型多重特異性抗体の活性又はそれが由来する元の親抗体の正常生理条件における活性と比べて高い活性レベルを有する。別の実施形態において、条件的活性型多重特異性抗体は、7.2~7.4のpHで事実上不活性であるが、6.0~6.8のより低いpHで活性である。ある場合には、条件的活性型多重特異性抗体は、正常生理条件で可逆的又は不可逆的に不活性化される。別の例において、条件的活性型多重特異性抗体は、例えば、肺を通過した後など、高酸素の血中で又は腫瘍微小環境に見られる低いpH環境において活性がより高いか又はより低いことができる。条件的活性型多重特異性抗体は、薬物、治療用薬剤又は診断用薬剤として使用され得る。
【0100】
一部の実施形態において、多重特異性抗体による細胞抗原及び/又は腫瘍反応性リンパ球抗原への結合は、可逆的である。即ち、多重特異性抗体は、細胞抗原及び/又は腫瘍反応性リンパ球抗原に結合し、続いて、これらの2つは、分離し得ることを意味する。分離した多重特異性抗体は、再び細胞抗原及び/又は腫瘍反応性リンパ球抗原に結合する能力を有する。
【0101】
一部の実施形態において、細胞抗原は、細胞表面抗原又は細胞の内部抗原であり得る。細胞は、腫瘍反応性リンパ球による阻害、損傷、破壊又は殺傷の標的となり得る。細胞は、標的細胞と称され得る。従って、細胞は、本発明の多重特異性抗体による治療における標的となり得る。具体的には、一部の疾患又は病態の治療について、細胞は、除去の標的となり得る。例えば、癌細胞及び老化細胞が除去の標的となり得る。こうした場合、細胞抗原は、癌細胞抗原又は老化細胞抗原であり得る。
【0102】
一部の実施形態において、細胞抗原は、標的細胞と優先的に関連しているが、他の細胞型ではあまり見られない抗原である。このようにして、本発明の多重特異性抗体は、標的細胞と優先的に相互作用することができる。標的細胞は、癌細胞であり得る。癌細胞特異的抗原の例としては、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、B7-H3、Axl、Ror2、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgGl、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-Ra、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2及びビメンチンが挙げられる。
【0103】
一実施形態において、癌細胞特異的抗原は、CD3、Axl、EpCAM、Her2、Ror2及びB7-H3から選択される。
【0104】
一実施形態において、標的化される癌細胞は、乳癌細胞であり、その場合、乳癌細胞特異的抗原は、EpCAM(上皮細胞接着分子)、Her2/neu(ヒト上皮成長因子受容体2)、MUC-1、EGFR(上皮成長因子受容体)、TAG-12(腫瘍関連糖タンパク質12)、IGFlR(インスリン様成長因子1受容体)、TACSTD2(腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2)、CD318、CD340、CD104及びN-カドヘリンの1つであり得る。
【0105】
別の実施形態において、癌細胞は、前立腺癌細胞であり、その場合、前立腺癌細胞特異的抗原は、EpCAM、MUC-1、EGFR、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSA(前立腺特異抗原)、TACSTD2、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、PCSA(前立腺細胞表面抗原)、CD318、CD104及びN-カドヘリンの1つであり得る。
【0106】
更に別の実施形態において、癌細胞は、結腸直腸癌細胞であり、その場合、結腸直腸癌細胞特異的抗原は、EpCAM、CD66c、CD66e、CEA(癌胎児性抗原)、TACSTD2、CK20(サイトケラチン20)、CD104、MUC-1、CD318及びN-カドヘリンの1つであり得る。
【0107】
更に別の実施形態において、癌細胞は、肺癌細胞であり、その場合、肺癌細胞特異的抗原は、CK18、CK19、CEA、EGFR、TACSTD2、CD318、CD104及びEpCAMの1つであり得る。
【0108】
別の実施形態において、癌細胞は、膵癌細胞であり、その場合、膵癌細胞特異的抗原は、HSP70、mHSP70、MUC-1、TACSTD2、CEA、CD104、CD318、N-カドヘリン及びEpCAMの1つであり得る。
【0109】
更なる実施形態において、癌細胞は、卵巣癌細胞であり、その場合、卵巣癌細胞特異的抗原は、MUC-1、TACSTD2、CD318、CD104、N-カドヘリン及びEpCAMの1つであり得る。
【0110】
更に別の実施形態において、癌細胞は、膀胱癌細胞であり、その場合、膀胱癌細胞特異的抗原は、CD34、CD146、CD62、CD105、CD106、VEGF受容体(血管内皮成長因子受容体)、MUC-1、TACSTD2、EpCAM、CD318、EGFR、6B5及び葉酸塩結合受容体の1つであり得る。
【0111】
ある場合には、癌細胞は、癌幹細胞であり、その場合、癌幹細胞特異的抗原は、CD133、CD135、CD117及びCD34の1つであり得る。
【0112】
別の場合、癌細胞は、黒色腫癌細胞であり、その場合、黒色腫癌細胞特異的抗原は、メラニン細胞分化抗原、癌胎児性抗原、SEREX抗原の1つであり得る。メラニン細胞分化抗原の例としては、限定はされないが、チロシナーゼ、gp75、gplOO、MART1又はTRP-2が挙げられる。癌胎児性抗原の例としては、MAGEファミリー(MAGE-Al、MAGE-A4)、BAGEファミリー、GAGEファミリーの抗原及びNY-ESOlが挙げられる。SEREX抗原の例としては、D-l及びSSX-2が挙げられる。腫瘍特異抗原の更なる例としては、CDK4及び13-カテニンが挙げられる。
【0113】
一部の実施形態において、癌細胞抗原は、ネオアンチゲンである。表1に例を挙げる。
【表1】
【0114】
一部の実施形態において、細胞特異的抗原は、APC、ARHGAP1、ARMCX-3、AXL、B2MG、BCL2L1、CAPNS2、CD261、CD39、CD54、CD73、CD95、CDC42、CDKN2C、CLYBL、COPG1、CRKL、DCR1、DCR2、DCR3、DEP1、DGKA、EBP、EBP50、FASL、FGF1、GBA3、GIT2、ICAM1、ICAM3、IGF1、ISG20、ITGAV、KITLG、ラミンB1、LANCL1、LCMT2、LPHN1、MADCAM1、MAG、MAP3K14、MAPK、MEF2C、miR22、MMP3、MTHFD2、NAIP、NAPG、NCKAP1、ネクチン4、NNMT、NOTCH3、NTAL、OPG、OSBPL3、p16、p16INK4a、p19、p21、p53、PAI1、PARK2、PFN1、PGM、PLD3、PMS2、POU5F1、PPP1A、PPP1CB、PRKRA、PRPF19、PRTG、RAC1、RAPGEF1、RET、Smurf2、STX4、VAMP3、VIT、VPS26A、WEE1、YAP1、YH2AX及びYWHAEが含まれ得る老化細胞特異的抗原から選択される。
【0115】
本発明の多重特異性抗体が結合する他の抗原は、腫瘍細胞を標的とするリンパ球の抗原である腫瘍反応性リンパ球抗原であり得る。特に、リンパ球は、そのリンパ球が腫瘍細胞を攻撃、阻害又は破壊するときに腫瘍反応性である。腫瘍反応性リンパ球は、T細胞、マクロファージ、Jurkat細胞、単球、NK細胞、活性化NK細胞、好中球、好酸球、好塩基球、B細胞及びリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択され得る。T細胞は、ナイーブT細胞、ヘルパーT細胞、エフェクターT細胞、記憶T細胞、細胞傷害性T細胞、抗原特異的T細胞及びCD28-CD27-CD4陽性T細胞であり得る。
【0116】
腫瘍反応性リンパ球の抗原としては、典型的には、CD2、CD3、CD4、CD8 CD25、CD28、CD27、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD95、CD127、CD137、α/βTCR、γ/δTCR、CCR7、PD-1及びLag3など、T細胞上のマーカーが挙げられる。マクロファージ上の抗原の一部の例としては、CCR2、CD14、CD68、CD163、CSFIR及びMSRlが挙げられる。
【0117】
理論によって制限されることを望むものではないが、本発明の多重特異性抗体は、標的細胞及び腫瘍反応性リンパ球の両方に結合し、それによって標的細胞を腫瘍反応性リンパ球にごく近接した状態に至らせる。これは、腫瘍反応性リンパ球による標的細胞への攻撃を促進し、それによって標的細胞が阻害、損傷又は破壊されると考えられる。腫瘍細胞及び/又は老化細胞を阻害又は除去する治療効果は、対象からの腫瘍細胞及び/又は老化細胞の阻害、破壊及び除去のため、本発明の多重特異性抗体を使用して反応性リンパ球を腫瘍細胞及び/又は老化細胞に運ぶことにより実現され得る。
【0118】
第1及び第2の生理条件は、温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化的ストレス、酸素濃度及び電解質濃度から選択され得る同じ条件の異なる数値である。例えば、第1の生理条件は、5.2~7.0、又は5.8~7.0、又は6.0~6.8の範囲の、腫瘍微小環境における酸性pHであり得る。第2の生理条件は、7.0~7.8又は7.2~7.6の範囲の、対象の血中における正常な生理的pHであり得る。
【0119】
一部の実施形態において、第1の生理条件は、腫瘍微小環境における低酸素濃度であり、第2の生理条件は、対象の血中における正常な生理的酸素濃度である。一部の他の実施形態において、第1の生理条件は、酸性pH及び/又は低酸素濃度など、老化細胞を取り囲む環境(老化細胞微小環境)における異常条件である。加えて、老化細胞微小環境における異常条件には、老化関連分泌表現型(SASP)も含まれる。老化細胞微小環境における老化細胞は、代謝的に活性であり、老化関連分泌表現型を作り出す老化細胞微小環境のシグネチャを形成するタンパク質を分泌することになる(Coppe et al.,Annu Rev Pathol.,vol.5,pp.99-118,2010)。
【0120】
SASP、別名、老化伝令セクレトームは、以下の生物学的に活性な因子の発現/分泌を含み得る(Pawlikowski et al.,J Cell Sci,vol.126,pp.4061-4067,2013):
i.インターロイキン、例えばIL-1α、IL-1β、IL-6、IL-7、IL-13、IL-15;
ii.ケモカイン、例えばIL-8、MCP2、MCP4、GROα、GROβ、GROγ;
iii.成長因子、例えばEGF、HGF、VEGF;
iv.受容体及びリガンド、例えばICAM1、ICAM3、TRAIL-R3、Fas、uPAR、sTNFRI、sTNFRIII;
v.プロテアーゼ及び調節因子、例えばMMP1、MMP3、MMP10、MMP12、TIMP1、TIMP2、PAI1、PAI2;及び
vi.細胞外不溶性分子、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン。これらの因子のいずれか1つ以上は、本発明の条件的活性を生じさせるための条件として使用され得る。
【0121】
加えて、SASPは、以下の特質によって更に特徴付けられ得る(Pawlikowski et al.,J Cell Sci,vol.126,pp.4061-4067,2013):
a.肥大した扁平な形態、
b.p16INK4a発現、
c.リソソーム活性(老化関連b-ガラクトシダーゼ;SA b-gal)の上昇、
d.DNA損傷応答、
e.クロマチンリモデリング、及び
f.オートファジー。
【0122】
一部の実施形態において、SASPは、以下の因子:IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-13、IL-15、IL-18、MCP1、MCP2、MCP4、MIF、MIP-1a、MIP-3a、HCC-4、エオタキシン-3、TECK、ENA-78、I-309、I-TAC、GROα、GROβ、GROγ、VEGF、EGF、HGF、FGF、bFGF、KGF、アンフィレギュリン、エピレギュリン、ヘレギュリン、SCF、SDF-1α、PIGF、IGFBP-2、-3、-4、-6、-7、GM-CSF、PDGF-BB、TGF-α、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、ICAM1、ICAM3、TRAIL-R3、Fas、OPG、SGP130、EGF-R uPAR、sTNFRI、sTNFRIII、MMP1、MMP3、MMP7、MMP9、MMP10、MMP12、MMP13、MMP14、TIMP1、TIMP2、PAI1、PAI2、SLPI、エンドセリン、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンの1つ以上を含む。一部の実施形態において、SASPは、IL-8、GROα、VEGF、エンドセリン、MMP7、MMP9、MMP10、MMP12、MMP13、TIMP1、TIMP2、TGF-β1の1つ以上を含む。一部の他の実施形態において、SASPは、少なくともIL-8、GROα、VEGF、エンドセリン、MMP7、MMP9、MMP10、MMP12、MMP13、TIMP1、TIMP2及びTGF-β1を含む。これらの因子のいずれか1つ以上は、本発明の条件的活性を生じさせるための条件として使用され得る。
【0123】
一部の他の実施形態において、第1の生理条件は、疾患部位、組織又は器官における異常条件である。第2の生理条件は、典型的には、正常な生理的pHなど、対象の血中における正常生理条件である。
【0124】
多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件における親和性と比較して増加した親和性で少なくとも1つの細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原に結合する。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件における親和性と比較して増加した親和性で細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の少なくとも一方に結合する。例えば、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件における結合親和性と比較して増加した結合親和性で細胞特異的抗原に結合し得る一方、反応性リンパ球抗原になおも非条件的活性で結合する。別の例において、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件における結合親和性と比較して増加した結合親和性で反応性リンパ球抗原に結合する一方、細胞特異的抗原になおも非条件的活性で結合する。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、第1の生理条件において、第2の生理条件におけるアビディティと比較してより高いアビディティで細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の両方に結合する。
【0125】
多重特異性抗体の構造/フォーマットは、Brinkmann and Kontermann,“The making of bispecific antibodies,”MABs,vol.9,pp.182-212,2017に記載される構造/フォーマットのいずれか1つであり得る。具体的には、Brinkmann and Kontermannの
図2において、二重特異性抗体の19個の異なる構造/フォーマットが記載されている。これらの構造/フォーマットには、(1)二重特異性抗体コンジュゲート;(2)ハイブリッド二重特異性IgG2;(3)「可変ドメインのみ」の二重特異性抗体分子;(4)CH1/CL融合タンパク質;(5)Fab融合タンパク質;(6)非免疫グロブリン融合タンパク質;(7)Fc修飾IgG;(8)付加及びFc修飾IgG;(9)修飾Fc及びCH3融合タンパク質;(10)付加IgG-HC融合体;(11)付加IgG-LC融合体;(12)付加IgG-HC及びLC融合体;(13)Fc融合体;(14)CH3融合体;(15)IgE/IgM CH2融合体;(16)F(ab’)
2融合体;(17)CH1/CL融合タンパク質;(18)修飾IgG;及び(19)非免疫グロブリン融合体が含まれる。
【0126】
詳細な実施形態において、多重特異性抗体は、
図1に示されるとおりの二価scFv-Fcヘテロ二量体又は
図2に示されるとおりの四価ホモ二量体「バタフライ」であり得る。これらの2つの構造において、反応性リンパ球抗原は、CD3に限られず、これは、腫瘍反応性リンパ球抗原の代表例として描かれているに過ぎない。
図1の多重特異性抗体は、第1の重鎖定常領域(例えば、IgG)に連結した、細胞抗原(Ag)に対する第1の結合部位と、第2の重鎖定常領域(例えば、IgG)に連結した、反応性リンパ球抗原(例えば、CD3)に対する第2の結合部位とを有する。2つの重鎖は、ヘテロ二量体のみを形成できるように例えばノブインホール技法を用いて改変される。第1及び第2の結合部位は、それぞれ細胞抗原及び反応性リンパ球抗原に結合するscFv抗体である。第1及び第2の結合部位のいずれか一方又は両方は、それぞれの抗原に対して条件的活性型結合活性を有する。
【0127】
図2の多重特異性抗体は、細胞特異的抗原(Ag)に結合する完全長IgG抗体と、反応性リンパ球抗原(例えば、CD3)に結合するscFv抗体とを有し得る。scFv抗体は、IgG抗体の軽鎖のC末端にリンカーを介して連結される。リンカーは、ショートアラニンリンカー(Ala)
n、セリンリンカー(Ser)
n、親水性リンカー又はグリシン-セリンリッチリンカーであり得る。IgG抗体の重鎖は、scFv抗体に連結されているIgG抗体の軽鎖と組み合わさり、従ってホモ二量体の半分を形成する。この多重特異性抗体は、「バタフライ」配置を有する。
【0128】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、腫瘍反応性リンパ球抗原に結合するIgG抗体又はその断片と、腫瘍細胞抗原に結合する一本鎖抗体とを含み、同様に
図2に示されるとおりの「バタフライ」配置を形成する。一本鎖抗体は、scFv抗体であり得る。scFv抗体は、IgG抗体のC末端において、本明細書に記載されるとおりのリンカーを介して結び付けられ得る。
【0129】
本発明の多重特異性抗体の結合部位は、それぞれ軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む。軽鎖可変領域及び重鎖可変領域は、一本鎖抗体フォーマットであり得るか、又は軽鎖と重鎖とが組み合わさることによって形成されるとおりの2本鎖フォーマットであり得る(
図1~
図2)。条件的活性を有する結合部位では、軽鎖及び重鎖可変領域の一方が条件的活性型であるか又は両方とも条件的活性型であり得る。CD3に結合する例示的軽鎖可変領域には、配列番号1のアミノ酸配列の非条件的活性型軽鎖可変領域及び配列番号2~10から選択されるアミノ酸配列の条件的活性型軽鎖可変領域が含まれる。CD3に結合する例示的重鎖可変領域には、配列番号11のアミノ酸配列の非条件的活性型重鎖可変領域及び配列番号12~15から選択されるアミノ酸配列の条件的活性型重鎖可変領域が含まれる。
【0130】
Axlに結合する例示的軽鎖可変領域には、配列番号16のアミノ酸配列の非条件的活性型軽鎖可変領域及び配列番号17のアミノ酸配列の条件的活性型軽鎖可変領域が含まれる。Axlに結合する例示的重鎖可変領域には、配列番号18のアミノ酸配列の非条件的活性型重鎖可変領域及び配列番号19のアミノ酸配列の条件的活性型重鎖可変領域が含まれる。
【0131】
Her2に結合する例示的軽鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸配列の非条件的活性型軽鎖可変領域である。Her2に結合する例示的重鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸配列の非条件的活性型重鎖可変領域である。
【0132】
B7-H3に結合する例示的軽鎖可変領域は、配列番号22のアミノ酸配列の非条件的活性型軽鎖可変領域である。B7-H3に結合する例示的重鎖可変領域には、配列番号23のアミノ酸配列の非条件的活性型重鎖可変領域及び配列番号24~25から選択されるアミノ酸配列の条件的活性型重鎖可変領域が含まれる。
【0133】
EpCAMに結合する例示的軽鎖可変領域は、配列番号88~95のアミノ酸配列の非条件的活性型軽鎖可変領域である。EpCAMに結合する例示的重鎖可変領域には、配列番号80~87のアミノ酸配列の非条件的活性型重鎖可変領域が含まれる。軽鎖可変領域の1つが重鎖可変領域の1つと組み合わせになって、EpCAMに対する結合部位を形成する。このEpCAMに対する結合部位は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する一本鎖抗CD3抗体と連結されて、EpCAM及びCD3の両方に結合する多重特異性抗体を形成する。
【0134】
EpCAM及びCD3に結合する多重特異性抗体の一部の例を以下の表2に示す。
【表2】
【0135】
一部の他の実施形態において、
図1に示されるとおりの、細胞特異的抗原に対する結合部位を形成する2つの可変領域と、反応性リンパ球抗原に対する結合部位を形成する他の2つの可変領域とを有する多重特異性抗体が構築され得る。これらの可変領域は、配列番号1~25及び80~95のアミノ酸配列を有する軽鎖及び重鎖可変領域から選択され得る。結合部位の一方又は両方は、そのそれぞれの抗原に対して条件的活性を有しなければならない。条件的活性を有する各結合部位において、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の少なくとも一方は、第1の生理条件(例えば、異常条件)におけるその抗原に対する親和性が、第2の生理条件(例えば、正常生理条件)における親和性と比較して増加している。このように、当業者は、配列番号1~25及び80~95のアミノ酸配列を有するものから適切な軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を選択して、
図1に示されるとおりの多重特異性抗体を構築し得る。
図1の重鎖断片は、IgGの任意のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4を含めたIgG抗体の定常領域から選択される。
【0136】
一部の他の実施形態において、多重特異性抗体は、
図2に示されるとおり構築され得る。同様に、scFv抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域並びに完全長IgG抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域も、配列番号1~25及び80~95のアミノ酸配列を有する軽鎖及び重鎖可変領域から選択され得る。条件的活性を有する各結合部位において、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の少なくとも一方は、第1の生理条件(例えば、異常条件)におけるその抗原に対する親和性が、第2の生理条件(例えば、正常生理条件)における親和性と比較して増加している。このように、当業者は、配列番号1~25及び80~95のアミノ酸配列を有するものから適切な軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を選択して、
図2に示される多重特異性抗体を構築し得る。
図2の定常領域は、IgGの任意のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4を含めたIgG抗体の定常領域から選択される。
【0137】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、腫瘍反応性リンパ球抗原としてのCD3と、細胞特異的抗原としての別の腫瘍関連抗原(TAA)とに結合する。多重特異性抗体は、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含むCD3に対する結合部位を有する。代わりに、CD3に対する結合部位は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する抗CD3一本鎖抗体を含む。多重特異性抗体は、Axl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号16~17、20及び22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域並びにAxl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号18~19、21及び23~25のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む、TAAに対する結合部位を有する。EpCAMに対する結合部位は、配列番号88~95から選択されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域と、配列番号80~87から選択されるアミノ酸配列の重鎖可変領域とを含む。CD3に対する結合部位及びAxl、EpCAM、Her2又はB7-H3に対する結合部位の少なくとも一方は、条件的活性型である。
【0138】
多重特異性抗体の一部の例を表3に示す。これらの例は、それぞれTAA及びCD3に対する結合部位を有する。「WT」は、結合部位の親和性が非条件的である、即ち多重特異性抗体が、第1の条件(例えば、異常条件)と第2の条件(例えば、正常生理条件)との間で抗原に対する親和性に有意な差を有しないことを示す。CABは、結合部位の親和性が条件的である、即ち多重特異性抗体が、抗原に対する親和性が第1の条件(例えば、異常条件)において第2の条件(例えば、正常生理条件)におけるよりも大きいことを示す。
【表3】
【0139】
一部の実施形態において、IgG抗体及び一本鎖抗体の一方又は両方は、疾患若しくは病態を治療若しくは予防するか、又は対象の健康を改善するために対象に投与される治療的又は予防的抗体である。治療的又は予防的抗体は、米国食品医薬品局及び欧州医薬品庁などの国又は地域の規制機関によってヒト又は動物への治療的又は予防的使用が承認され得る。
【0140】
一部の他の実施形態において、IgG抗体及び一本鎖抗体の一方又は両方は、バイオシミラーであり、これは、品質、安全性及び有効性の点において、先発製薬会社によって上市されている参照バイオ製剤と同等と見なされるバイオ医薬品(公衆衛生法(Public Health Service Act)第351条(i)(米国における合衆国法典第42編第262章(i)に定義されるとおり)である。バイオシミラーと参照バイオ製剤との間には、臨床的に不活性な成分に僅かな違いがあり得る。
【0141】
一実施形態において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で癌細胞特異的抗原に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、異常生理条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で反応性リンパ球抗原に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で癌細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の両方に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きいアビディティで癌細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の組み合わせに結合する。異常条件及び正常生理条件は、pH、酸素濃度又は腫瘍微小環境を対象の血液と区別する任意の他の条件から選択され得る。
【0142】
一実施形態において、多重特異性抗体は、老化細胞微小環境の異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で老化細胞特異的抗原に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、老化細胞微小環境の異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で反応性リンパ球抗原に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、老化細胞微小環境の異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で癌細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の両方に結合する。別の実施形態において、多重特異性抗体は、老化細胞微小環境の異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きいアビディティで癌細胞特異的抗原及び反応性リンパ球抗原の組み合わせに結合する。異常条件及び正常生理条件は、pH、酸素濃度又は老化細胞微小環境を対象の血液若しくは正常組織と区別する任意の他の条件から選択され得る。
【0143】
別の態様において、本発明は、第1の抗原(例えば、細胞特異的抗原)に結合するIgG抗体と、第1の抗原と異なる第2の抗原(例えば、反応性リンパ球抗原)に結合する少なくとも1つのscFv抗体とを含む多重特異性抗体を提供する。scFv抗体は、IgG抗体のC末端において、本明細書に記載されるとおりのリンカーを介して連結され得る。多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1及び第2の抗原の少なくとも一方に可逆的に結合する。
【0144】
第1及び第2の抗原は、特定の抗原に限定されず、むしろ所望の結果の実現を促進する何らかの関係を有する任意の抗原対であり得る。一実施形態において、第1の抗原は、細胞表面抗原である。第1の抗原は、Axl、Ror2、Her2、EpCAM又はB7-H3などの癌細胞特異的抗原であり得る。別の実施形態において、第2の抗原は、CD3など、腫瘍反応性リンパ球の抗原である。好適な癌細胞抗原及び反応性リンパ球の抗原の更なる例は、本願の他の部分に記載される。
【0145】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、
図2に示されるとおりのフォーマットであり、ここで、scFv抗体は、CD3に結合し、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む。代わりに、CD3に対する結合部位は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する抗CD3一本鎖抗体を含む。IgG抗体は、TAAに結合し、Axl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号16~17、20及び22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域並びにAxl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号18~19、21及び23~25のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む。EpCAMに対する結合部位は、配列番号88~95から選択されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域と、配列番号80~87から選択されるアミノ酸配列の重鎖可変領域とを含む。IgG抗体の軽鎖及び重鎖の定常領域は、IgGの任意のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4を含めたIgG抗体の定常領域から選択され得る。これらの多重特異性抗体の中で、CD3に対する結合部位及びAxl、EpCAM、Her2又はB7-H3に対する結合部位の少なくとも一方が条件的活性型である限り、多重特異性抗体は、条件的活性型であり、本発明の範囲内にあると見なされる。
【0146】
本発明は、多重特異性抗体を製造するためのプラットフォームを提供し、これは、開発時間を大幅に削減することができる。このプラットフォームは「プラグアンドプレイ」と呼ばれ得、ここで、単一の条件的活性型抗腫瘍反応性リンパ球抗原抗体又は抗体断片(例えば、抗CD3抗体)を、別の抗原(例えば、癌細胞表面抗原)に対する別の抗体又は抗体断片に共有結合的に結び付けて、条件的活性型多重特異性抗体を生成し得る。他の抗原に対する抗体又は抗体断片は、条件的活性型であっても又はなくてもよい。
【0147】
この「プラグアンドプレイ」プラットフォームの利点は、例えば、条件的活性型抗腫瘍反応性リンパ球抗原抗体又は抗体断片(例えば、抗CD3抗体)が利用可能になれば、それを別の抗体又は抗体断片に連結することにより条件的活性型多重特異性抗体を製造し得ることである。条件的活性型抗腫瘍反応性リンパ球抗体又は抗体断片は、完全長抗体、VH及びVL領域を含む抗体断片又は一本鎖抗体であり得る。製造される条件的活性型多重特異性抗体の2つの成分は、それぞれ条件的結合活性及びそのそれぞれの抗原に対する結合性を有することが分かっているため、最小限の開発時間で条件的活性型多重特異性抗体又は抗体断片の製造に成功することが合理的に予想される。本発明により実証されるとおり、このプラットフォームは、CD3と、抗原AXL、EpCAM、HER2及びB7-H3の各々との両方に結合する多重特異性抗体の生成への適用において成功を収めている。
【0148】
一部の実施形態において、異常条件は、約5.0~約7.0、又は約5.2~約6.8、又は約5.4~約6.8、又は約5.6~約6.8、又は約5.8~約6.8、又は約6.0~約6.8、又は約6.2~約6.8、又は約6.4~約6.8、又は約6.6~約6.8の範囲の酸性pHである。一部の実施形態において、酸性pHは、約6.4~約7.0、又は約6.6~約7.0、又は約6.8~約7.0の範囲であり得る。正常生理条件は、血中の正常な生理的pHであり得、これは、当技術分野で十分に確立されている。一部の実施形態において、血中の正常な生理的pHは、約7.0~約7.8、又は約7.1~約7.7、又は約7.2~約7.6、又は約7.2~約7.5、又は約7.2~約7.4の範囲であり得る。
【0149】
特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗体は、異常条件における細胞抗原及び/又は腫瘍反応性リンパ球抗原に対する親和性又はアビディティと正常生理条件における同じ親和性又はアビディティとの比が少なくとも約1.3:1、又は少なくとも約2:1、又は少なくとも約3:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約30:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約50:1、又は少なくとも約60:1、又は少なくとも約70:1、又は少なくとも約80:1、又は少なくとも約90:1、又は少なくとも約100:1である。
【0150】
一実施形態において、多重特異性抗体は、天然に存在するアミノ酸のみからなる。天然に存在するアミノ酸は、20種あり、それらは、アラニン(ala又はA)、アルギニン(arg又はR)、アスパラギン(asn又はN)、アスパラギン酸(asp又はD)、システイン(cys又はC)、グルタミン酸(glu又はE)、グルタミン(gin又はQ)、グリシン(gly又はG)、ヒスチジン(his又はH)、イソロイシン(ile又はI)、ロイシン(leu又はL)、リジン(lys又はK)、メチオニン(met又はM)、フェニルアラニン(phe又はF)、プロリン(pro又はP)、セリン(ser又はS)、スレオニン(thr又はT)、トリプトファン(tip又はW)、チロシン(tyr又はY)及びバリン(val又はV)と参照される。
【0151】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、1つ以上の天然に存在しないアミノ酸を含む。例えば、天然に存在しないアミノ酸は、カルボニル基、アセチル基、アミノオキシ基、ヒドラジン基、ヒドラジド基、セミカルバジド基、アジド基又はアルキン基を含む。例えば、好適な天然に存在しないアミノ酸については、米国特許第7,632,924号明細書を参照されたい。用語「天然に存在しないアミノ酸」には、天然に存在するアミノ酸の修飾(例えば、翻訳後修飾)によって作り出されるが、しかし、それ自体、成長するポリペプチド鎖中に生体の翻訳複合体によって天然に取り込まれることのないアミノ酸も含まれる。かかる天然に存在しないアミノ酸の例としては、限定はされないが、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-スレオニン及びO-ホスホチロシンが挙げられる。
【0152】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、「模倣体」又は「ペプチド模倣体」形態であり、これは、全体がアミノ酸の合成の非天然類似体で構成されたものを含むか、又は一部が天然に存在するアミノ酸であり、且つ一部がアミノ酸の非天然類似体であるキメラ分子であるかのいずれかである。模倣体は、かかる置換が抗体の構造及び/又は活性も実質的に変化させない限り、任意の量の天然に存在するアミノ酸保存的置換も取り入れることができる。
【0153】
模倣体型は、非天然構造成分の任意の組み合わせを含むことができる。一態様において、本開示の模倣体は、以下の3つの構造基:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結基;b)天然に存在するアミノ酸残基の代わりの非天然残基;又はc)二次構造模倣を誘導する残基、即ち二次構造、例えばβターン、γターン、βシート、αヘリックスコンホメーションなどを誘導するか又は安定化させるための残基の1つ又は全てを含む。例えば、多重特異性抗体は、その残基の全て又は一部が天然ペプチド結合以外の化学的手段によってつなぎ合わされているとき、模倣体として特徴付けることができる。個々のペプチド模倣体残基は、ペプチド結合、他の化学結合又はカップリング手段、例えばグルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル類、二官能性マレイミド類、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などによってつなぎ合わせることができる。従来のアミド結合(「ペプチド結合」)連結に代わるものであり得る連結基としては、例えば、ケトメチレン(例えば、-C(=O)~NH-について~C(=O)~CH2~)、アミノメチレン(CH2-NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2~O)、チオエーテル(CH2~S)、テトラゾール、チアゾール、レトロアミド、チオアミド又はエステルが挙げられる(例えば、Spatola(1983)in Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,vol.7,pp 267-357,“Peptide Backbone Modifications,”in Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides,and Proteins,vol.7,B.Weistein,ed.,New York:Marcell Dekker,pp.257-267を参照されたい)。
【0154】
天然に存在しないアミノ酸残基の更なる例としては、D-又はL-ナフチルアラニン;D-又はL-フェニルグリシン;D-又はL-2チエニルアラニン;D-又はL-1、-2、3-又は4-ピレニルアラニン;D-又はL-3チエニルアラニン;D-又はL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-又はL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン;D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-又はL-p-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-p-メトキシ-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-2-インドール(アルキル)アラニン類;及びD-又はL-アルキルアミン類(ここで、アルキルは、置換又は非置換メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-イソブチル、イソペンチル又は非酸性アミノ酸であり得る)が挙げられる。非天然アミノ酸の芳香環としては、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル及びピリジル芳香環が挙げられる。
【0155】
酸性非天然アミノ酸は、負電荷を維持しつつ、例えば非カルボン酸アミノ酸;(ホスホノ)アラニン;硫酸化スレオニンなどによって置換することにより生成され得る。カルボキシル側基(例えば、アスパルチル又はグルタミル)もカルボジイミド類(R’~N-C--N--R’)、例えば1-シクロヘキシル-3(2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミド又はl-エチル-3(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドなどとの反応により選択的に修飾され得る。アスパルチル又はグルタミルは、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル及びグルタミニル残基に変換することもできる。
【0156】
塩基性非天然アミノ酸は、例えば、(リジン及びアルギニンに加えて)オルニチン、シトルリン又は(グアニジノ)-酢酸若しくは(グアニジノ)アルキル-酢酸(ここで、アルキルは、上記に定義される)で置換することにより生成され得る。ニトリル誘導体(例えば、COOHの代わりにCN-部分を含む)をアスパラギン又はグルタミンに代えて置換することができる。アスパラギニル及びグルタミニル残基を対応するアスパルチル又はグルタミル残基に脱アミノ化することができる。アルギニルを例えば1つ以上の従来の試薬、例えばフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロ-ヘキサンジオン又はニンヒドリンを含めたものと反応させる(アルカリ性条件下であり得る)ことにより、アルギニン残基模倣体が生成され得る。チロシルを例えば芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンと反応させることにより、チロシン残基模倣体が生成され得る。N-アセチルイミダゾール及びテトラニトロメタンを使用すると、それぞれO-アセチルチロシル種及び3-ニトロ誘導体を形成することができる。システイニル残基を例えば2-クロロ酢酸又はクロロアセトアミドなどのα-ハロ酢酸塩及び対応するアミン類と反応させて、カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を生じさせることにより、システイン残基模倣体が生成され得る。システイン残基模倣体は、システイニル残基を例えばブロモ-トリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミダゾイル)プロピオン酸;クロロアセチルリン酸、N-アルキルマレイミド類、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド;メチル2-ピリジルジスルフィド;p-クロロメルクリ安息香酸塩;2-クロロメルクリ-4ニトロフェノール;又はクロロ-7-ニトロベンゾ-オキサ-l,3-ジアゾールと反応させることによっても生成され得る。リシニルを例えばコハク酸又は他のカルボン酸無水物と反応させることにより、リジン模倣体が生成され得る(及びアミノ末端残基を変化させることができる)。リジン及び他のα-アミノ含有残基模倣体は、ピコリンイミド酸メチルなどのイミドエステル類、ピリドキサールリン酸、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O-メチルイソウレア、2,4,ペンタンジオンとの反応及びグリオキシル酸とのトランスアミダーゼ触媒反応によっても生成され得る。例えば、メチオニンスルホキシドとの反応により、メチオニンの模倣体が生成され得る。プロリンの模倣体としては、例えば、ピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、3-又は4-ヒドロキシプロリン、デヒドロプロリン、3-又は4-メチルプロリン又は3,3-ジメチルプロリンが挙げられる。ヒスチジルを例えばジエチルピロカルボネート又はp-臭化ブロモフェナシルと反応させることにより、ヒスチジン残基模倣体が生成され得る。他の模倣体としては、例えば、プロリン及びリジンのヒドロキシル化;セリル又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化;リジン、アルギニン及びヒスチジンのα-アミノ基のメチル化;N末端アミンのアセチル化;主鎖アミド残基のメチル化又はN-メチルアミノ酸による置換;又はC末端カルボキシル基のアミド化によって生成されるものが挙げられる。
【0157】
模倣体型の多重特異性抗体は、逆のキラリティーの1つ以上のアミノ酸も含み得る。従って、L配置(これは、化学的実体の構造に応じてR又はSと称されることもある)で天然に存在する任意のアミノ酸は、同じ化学構造タイプ又はペプチド模倣体であるが、逆のキラリティーの、D-アミノ酸と称される(但し、R型又はS型と称されることもある)アミノ酸によって置き換えられ得る。
【0158】
模倣体型の多重特異性抗体は、任意のタンパク質化学合成技法を用いて合成され得る。典型的なインビトロタンパク質合成過程では、ペプチドとアミノ酸との間のペプチド結合の形成を通してペプチドの長さが1アミノ酸ずつ伸長される。ペプチド結合の形成は、天然アミノ酸又は非天然アミノ酸を使用し得るライゲーション反応を用いて行われる。従って、このようにして本発明の多重特異性抗体に非天然アミノ酸を導入して模倣体を作成することができる。
【0159】
一部の実施形態において、多重特異性抗体中の天然に存在しないアミノ酸は、ポリマー、タンパク質又は脂肪酸等の高分子との連結を提供することができる。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、ポリマー(例えば、ポリペプチド以外のポリマー)に連結される(例えば、共有結合的に連結される)。好適なポリマーとしては、例えば、生体適合性ポリマー及び水溶性生体適合性ポリマーが挙げられる。好適なポリマーとしては、合成ポリマー及び天然に存在するポリマーが挙げられる。ポリマーの例としては、置換又は非置換直鎖又は分枝鎖ポリアルキレン、ポリアルケニレン又はポリオキシアルキレンポリマー又は分岐又は非分岐状多糖類、例えばホモ又はヘテロ多糖が挙げられる。ポリマーの更なる例としては、エチレンビニルアルコールコポリマー(一般名EVOH又は商標名EVALの通称で知られる);ポリメタクリル酸ブチル;ポリ(ヒドロキシ吉草酸塩);ポリ(L-乳酸);ポリカプロラクトン;ポリ(ラクチド-co-グリコリド);ポリ(ヒドロキシ酪酸塩);ポリ(ヒドロキシ酪酸塩-co-吉草酸塩);ポリジオキサノン;ポリオルトエステル;ポリ無水物;ポリ(グリコール酸);ポリ(D,L-乳酸);ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート);ポリホスホエステル;ポリホスホエステルウレタン;ポリ(アミノ酸);シアノアクリレート類;ポリ(トリメチレンカーボネート);ポリ(イミノカーボネート);コポリ(エーテル-エステル)(例えば、ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(乳酸)(PEO/PLA)コポリマー);ポリシュウ酸アルキレン類;ポリホスファゼン類;生体分子、例えばフィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸;ポリウレタン類;シリコーン類;ポリエステル類;ポリオレフィン類;ポリイソブチレン及びエチレン-αオレフィンコポリマー;アクリル系ポリマー及びコポリマー;ポリ塩化ビニルなど、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー;ポリビニルメチルエーテルなど、ポリビニルエーテル類;ポリフッ化ビニリデン及びポリ塩化ビニリデンなど、ハロゲン化ポリビニリデン類;ポリアクリロニトリル;ポリビニルケトン類;ポリスチレンなど、ポリビニル芳香族;ポリ酢酸ビニルなど、ポリビニルエステル類;ビニル単量体の互いとの及びオレフィン類とのコポリマー、例えばエチレン-メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS樹脂及びエチレン-酢酸ビニルコポリマー;ポリアミド類、例えばナイロン66及びポリカプロラクタム;アルキド樹脂;ポリカーボネート類;ポリオキシメチレン類;ポリイミド類;ポリエーテル類;エポキシ樹脂;ポリウレタン類;レーヨン;三酢酸レーヨン;セルロース;酢酸セルロース;酪酸セルロース;酢酸酪酸セルロース;セロファン;硝酸セルロース;プロピオン酸セルロース;セルロースエーテル類;アモルファステフロン;ポリ(エチレングリコール);及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0160】
合成ポリマーの例としては、非置換及び置換直鎖又は分枝鎖ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)及びこれらの誘導体、例えばメトキシポリ(エチレングリコール)などの置換ポリ(エチレングリコール)及びこれらの誘導体が挙げられる。好適な天然に存在するポリマーとしては、例えば、アルブミン、アミロース、デキストラン、グリコーゲン及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0161】
連結されるポリマーは、平均分子量が500Da~50000Da、例えば5000Da~40000Da又は25000~40000Daの範囲であり得る。例えば、一部の実施形態において、多重特異性抗体がポリ(エチレングリコール)(PEG)又はメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーを含む場合、PEG又はメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーは、分子量が約0.5キロダルトン(kDa)~1kDa、約1kDa~5kDa、5kDa~10kDa、10kDa~25kDa、25kDa~40kDa又は40kDa~60kDaの範囲であり得る。
【0162】
例えば、カルボニル基を含む水溶性ポリマーを、アミノオキシ、ヒドラジン、ヒドラジド又はセミカルバジド基を含む天然に存在しないアミノ酸を有する多重特異性抗体と反応させることにより、多重特異性抗体に水溶性ポリマー(例えば、PEG)を連結することができる。別の例として、アルキン含有アミノ酸を含む多重特異性抗体を、アジド部分を含む水溶性ポリマーと反応させることにより、多重特異性抗体を水溶性ポリマーに連結することができる。ある場合には、アジド又はアルキン基は、アミド結合でPEG分子に連結される。
【0163】
一部の実施形態において、多重特異性抗体に連結される高分子は、アルブミンである。アルブミンは、例えば、多重特異性抗体の投与を受ける対象のアルブミンであり得る。例えば、多重特異性抗体がヒトにおける使用を意図したものである場合、多重特異性抗体にヒトアルブミンが連結される。多重特異性抗体がイヌにおける使用を意図したものである場合、多重特異性抗体にイヌアルブミンが連結される。一般的に言って、ある種における使用を意図した多重特異性抗体の場合、その種からのアルブミンが多重特異性抗体に連結される。
【0164】
高分子を多重特異性抗体にコンジュゲートするためのリンカーの例としては、グルタルアルデヒド、ホモ二官能性架橋剤又はヘテロ二官能性架橋剤が挙げられる。グルタルアルデヒドは、ポリペプチドをそのアミノ部分を介して架橋する。ホモ二官能性架橋剤(例えば、ホモ二官能性イミドエステル、ホモ二官能性N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル又はホモ二官能性スルフヒドリル反応性架橋剤)は、2つ以上の同一の反応性部分を含有し、連結しようとする高分子と多重特異性抗体との混合物を含有する溶液に架橋剤を加えるワンステップ反応手順で使用することができる。弱アルカリ性pHでは、イミドエステル類は、第一級アミン類とのみ反応してイミドアミド類を形成し、架橋された高分子及び多重特異性抗体の全体的な電荷は、影響を受けない。ホモ二官能性スルフヒドリル反応性架橋剤としては、ビスマレイミドヘキサン(BMH)、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DFDNB)及び1,4-ジ-(3’,2’-ピリジルジチオ)プロピオンアミドブタン(DPDPB)が挙げられる。
【0165】
ヘテロ二官能性架橋剤は、2つ以上の異なる反応性部分(例えば、アミン反応性部分及びスルフヒドリル反応性部分)を有し、そのアミン又はスルフヒドリル反応性部分を介して高分子及び多重特異性抗体の一方と架橋し、次に反応しなかった方の部分を介して高分子及び多重特異性抗体の他方と反応する。ピリジルジスルフィド架橋剤と同じく、複数のヘテロ二官能性ハロアセチル架橋剤が利用可能である。カルボジイミド類は、カルボキシル基をアミン類にカップリングしてアミド結合を生じさせるためのヘテロ二官能性架橋試薬の古典的な例である。
【0166】
多重特異性抗体は、グリコシル化され得、例えば炭水化物部分又は多糖部分に共有結合的に連結され得る。多重特異性抗体のグリコシル化は、典型的にはN結合型又はO結合型によるものである。N結合型グリコシル化とは、炭水化物部分が多重特異性抗体のアスパラギン残基の側鎖に結び付くものを指す。トリペプチド配列「アスパラギン-X-セリン」又は「アスパラギン-X-スレオニン」(式中、Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、炭水化物部分がアスパラギン側鎖に酵素的に結び付く際の認識配列である。従って、多重特異性抗体にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作り出される。O結合型グリコシル化とは、糖類N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース又はキシロースの1つがヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニン(しかし、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンも用いられ得る)に結び付くものを指す。
【0167】
多重特異性抗体へのグリコシル化部位の付加は、上述のトリペプチド配列の1つ以上を含有するようにそのアミノ酸配列を変化させることにより達成され得る(N結合型グリコシル化部位について)。この変化は、元の抗体の配列への1つ以上のセリン又はスレオニン残基の付加又はそれによる置換によっても行われ得る(O結合型グリコシル化部位について)。逆に、多重特異性抗体の天然グリコシル化部位の範囲内でのアミノ酸変化により、グリコシル化部位の除去が達成され得る。
【0168】
多重特異性抗体は、グルタルアルデヒド、ホモ二官能性架橋剤又はヘテロ二官能性架橋剤から選択されるリンカーを使用して、別の高分子(例えば、脂質、ポリペプチド、合成ポリマー、炭水化物など)に共有結合的に連結することができる。グルタルアルデヒドは、多重特異性抗体を、それらのアミノ部分を介して架橋する。本願には、ホモ二官能性架橋剤及びヘテロ二官能性架橋剤が記載される。
【0169】
多重特異性抗体の構築では、国際公開第2017/078839号パンフレットに記載される条件的活性型抗体又はその断片を使用し得る。これらの条件的活性型抗体(完全長抗体、断片又は一本鎖抗体)は、正常生理条件と比べて異常条件でその抗原に対する親和性が増加する。多重特異性抗体は、条件的活性型抗体(完全長抗体、断片又は一本鎖抗体)と、条件的活性を有しても又は有しなくてもよい1つ以上の抗体(完全長抗体、断片又は一本鎖抗体)とを連結することにより構築され得る。
【0170】
多重特異性抗体の構築に使用されるリンカーは、多重特異性抗体の適切な折り畳みを確実にする可動性ペプチドであり得る。例示的リンカーとしては、(Ser)n、(Ser-Ala)n及び(Ala)nが挙げられる。
【0171】
一部の実施形態において、反応性リンパ球上の抗原に結合し、且つ異なる標的細胞(例えば、異なる腫瘍)の抗原に様々な抗体で連結される多目的条件的活性型抗体(完全長抗体、断片又は一本鎖抗体)を作成することができる。こうした多重特異性抗体は、それらの異なる標的細胞(例えば、異なる種類の腫瘍)の各々に同じ反応性リンパ球を運ぶことができる。従って、かかる多重特異性抗体は、例えば、対象が複数の異なる腫瘍を有するか、又は単一であっても同定されていない腫瘍を有するとき、複数の異なる種類の腫瘍細胞の標的化に使用される能力を有する。これは、生検を困難にするような位置に腫瘍が存在する場合に特に有用であり得る。
【0172】
一部の実施形態において、癌細胞(例えば、乳癌細胞)上の抗原に結合する多目的条件的活性型抗体(完全長又は一本鎖抗体)は、異なる反応性リンパ球の抗原に結合する様々な抗体で連結され得、それにより異なる反応性リンパ球を同じ標的癌細胞に運ぶ多重特異性抗体を生成することができる。これらの多目的多重特異性抗体は、癌細胞抗原に対して、腫瘍微小環境の条件で親和性がより高い条件的親和性を有する。従って、かかる多重特異性抗体は、治療の有効性が増加するように、同じ腫瘍(乳房腫瘍)に異なる反応性リンパ球(例えば、T細胞、マクロファージ、NK細胞)を運ぶ能力を有する。
【0173】
抗原(第1又は第2の抗原)に対する親和性が異常条件において正常生理条件におけるよりも大きい、第1の抗原(例えば、細胞抗原)又は第2の抗原(例えば、腫瘍反応性リンパ球抗原)に対する条件的活性型抗体を生成するため、第1及び第2の抗原のいずれか一方又は両方に結合する親抗体から出発して、国際公開第2016/138071号パンフレットに記載されるとおりの方法が用いられ得る。この条件的活性型抗体は、本発明の多重特異性抗体の構築に使用され得る。
【0174】
親抗体は、動物を抗原で免疫することにより生成されたモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり得る。免疫化、抗体(ポリクローナル及びモノクローナル)の製造及び単離方法は、当業者に公知であり、科学文献及び特許文献に記載されており、例えばColigan,Current Protocols In Immunology,Wiley/Greene,NY(1991);Stites(eds.)Basic And Clinical Immunology(7th ed.)Lange Medical Publications,Los Altos,Calif.(「Stites」);Goding,Monoclonal Antibodies:Principles And Practice(2d ed.)Academic Press,New York,N.Y.(1986);Kohler(1975)“Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity”,Nature 256:495;Harlow(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New Yorkを参照されたい。抗体は、従来の動物を使用したインビボ方法に加えて、例えばファージディスプレイライブラリを発現する組換え抗体結合部位を使用してインビトロでも生成され得る。例えば、Hoogenboom(1997)“Designing and optimizing library selection strategies for generating high-affinity antibodies”,Trends Biotechnol.15:62-70;及びKatz(1997)“Structural and mechanistic determinants of affinity and specificity of ligands discovered or engineered by phage display”,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.26:27-45を参照されたい。
【0175】
第1及び第2のアッセイのアッセイ溶液としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩緩衝液、リン酸緩衝液、クレブス緩衝液などの重炭酸塩緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液等から選択される緩衝液を挙げることができる。アッセイに好適であることが当業者に公知である他の緩衝液も使用し得る。
【0176】
第1及び第2のアッセイのアッセイ溶液は、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの分子又はヒトなどの哺乳類又は動物の体液に一般に見出されるものを含有し得る。それらの無機化合物、イオン及び有機分子については、国際公開第2016/138071号パンフレットに詳細に記載されている。
【0177】
条件的活性型抗体は、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される分子又はイオンと相互作用し得る。条件的活性型抗体と分子又はイオンとの間の相互作用には、水素結合、疎水性相互作用及びファンデルワールス相互作用が含まれ得る。
【0178】
例えば、重炭酸塩などの分子又はイオンは、条件的活性型抗体において塩橋を形成することにより、条件的活性型抗体のその抗原に対する結合活性を低下させ得る。例えば、その6.4のpKaよりも低いpHでは、重炭酸塩は、プロトン化されるため、従って荷電されない。非荷電重炭酸塩は、塩橋を形成する能力を有しないため、従って条件的活性型抗体のその抗原との結合にほとんど影響を及ぼさない。従って、この条件的活性型抗体は、低pHでその抗原との結合活性が高い。他方で、重炭酸塩のpKaを上回る高いpHでは、重炭酸塩は、プロトンを失うことによりイオン化され、従って負電荷になる。負電荷重炭酸塩は、条件的活性型抗体上の正電荷部分又は分極部分間に塩橋を形成して、条件的活性型抗体の構造を安定化させることになる。これは、条件的活性型抗体のその抗原との結合を遮断するか又は低下させることになる。従って、この条件的活性型抗体は、高いpHで活性が低い。このように条件的活性型抗体は、重炭酸塩の存在下でpH依存的活性を有し、高いpHと比べて低いpHで結合活性がより高い。
【0179】
アッセイ溶液に重炭酸塩などの分子又はイオンが存在しないとき、条件的活性型抗体は、その条件的活性を失い得る。これは、条件的活性型抗体がタンパク質の構造を安定化させる(固定する)ための塩橋を欠いていることに起因するものと思われる。従って、パートナーは、条件的活性型抗体上の結合部位にいかなるpHでも同じように到達し、第1のpHと第2のpHとで同様の活性を生じることになる。
【0180】
塩橋(イオン結合)は、分子又はイオンが条件的活性型抗体の活性に影響を及ぼす最も強力で最も一般的な方法であるが、かかる分子又はイオンと条件的活性型抗体との間の上述の他の相互作用も、条件的活性型抗体の構造を安定化させる(固定する)ことに寄与し得ることが理解されるべきである。
【0181】
例示的分子及びイオンは、二硫化物、硫化水素、ヒスチジン、ヒスタミン、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩及び乳酸塩から選択される。これらの小分子の各々は、pKaが6.2~7.0である。他の好適な小分子については、CRC Handbook of Chemistry and Physics,96th Edition,by CRC press,2015;Chemical Properties Handbook,McGraw-Hill Education,1998など、本願の原理を用いるテキストブックを参照することができる。
【0182】
分子又はイオンは、立体障害を最小限に抑えることによって条件的活性型タンパク質上の小さいポケットへの到達を最大限確保するため、分子量が低く、且つ/又はコンホメーションが比較的小型である。この理由から、典型的には分子量が900Da未満、又は500Da未満、又は200Da未満、又は100Da未満である小分子又はイオンが利用されることが多い。例えば、硫化水素、二硫化物及び重炭酸塩は、全て分子量が低く、且つ構造が小さいため、条件的活性型タンパク質上のポケットへの到達が得られる。
【0183】
一実施形態において、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液にヒト血清が実質的に同じ濃度で加えられ得る。ヒト血清は、多数の無機化合物、イオン、有機分子(タンパク質を含む)を有するため、アッセイ溶液は、2つのアッセイ溶液間で実質的に同じ濃度で提供される、無機化合物、イオン、有機分子から選択される複数種の多数の成分を有することになる。
【0184】
一部の実施形態では、ある種の血清成分をアッセイ溶液から意図的に最小限にするか又は省くことができる。例えば、抗体のスクリーニング時、タンパク質と結合するか又はそれを吸着する血清成分をアッセイ溶液中で最小限にするか又はそれから省くことができる。かかるタンパク質の結合は、偽陽性を与え得るため、従って条件的活性型でなく、むしろ種々の異なる条件下で単に血清中に存在する成分に結合するに過ぎない突然変異体タンパク質の結合が含まれ得る。従って、アッセイ成分を慎重に選択して、アッセイ中の突然変異体タンパク質と潜在的に結合し得るかかる分子を最小限にするか又は省くことにより、所望の結合パートナー以外のアッセイ中の分子に結合することに起因して条件的活性に関して陽性と間違って同定され得る偽陽性突然変異体タンパク質の数が減少し得る。例えば、ヒト血清中の成分と結合する傾向のある突然変異体タンパク質がスクリーニングされる一部の実施形態では、ヒト血清成分に結合する突然変異体タンパク質によって引き起こされる偽陽性の可能性を減らすか又はなくすため、アッセイ溶液中にウシ血清アルブミンが使用され得る。また、具体的な例では、当業者によって十分に理解される同じ目標を実現するため、他の類似の置き換えがなされ得る。
【0185】
別の態様において、本発明は、多重特異性抗体を作成する方法を提供する。この方法は、
a)第1の抗原に結合するIgG抗体を得る工程;及び
b)第2の抗原に結合する少なくとも1つの一本鎖抗体を、IgG抗体の少なくとも1つの軽鎖のC末端にリンカーを介して結び付けて、1つ以上の構造体を形成する工程;
c)b)の1つ以上の構造体を、異常条件及び正常生理条件下において、第1又は第2の抗原の少なくとも一方への結合についてスクリーニングする工程;及び
d)それらの構造体から、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1又は第2の抗原の少なくとも一方に可逆的に結合する多重特異性抗体を選択する工程
を含む。
【0186】
一部の実施形態において、第1の抗原は、細胞特異的抗原、特に本明細書に記載されるとおりの癌細胞特異的抗原又は老化細胞特異的抗原であり得る。一実施形態において、第1の抗原は、Axl、EpCAM、Ror2、Her2及びB7-H3から選択される。第2の抗原は、CD3など、腫瘍反応性リンパ球抗原であり得る。好適な反応性リンパ球抗原の更なる例も本明細書に記載される。
【0187】
一部の他の実施形態において、第2の抗原は、本明細書に記載されるとおりのネオアンチゲンである。
【0188】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、腫瘍反応性リンパ球抗原としてのCD3と、細胞特異的抗原としての別の腫瘍関連抗原(TAA)とに結合する。多重特異性抗体は、配列番号1~10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号11~15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含むCD3に対する結合部位を有する。代わりに、CD3に対する結合部位は、配列番号26~71のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する抗CD3一本鎖抗体を含む。多重特異性抗体は、Axl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号16~17、20及び22のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域並びにAxl、Her2及びB7-H3の1つに結合する、配列番号18~19、21及び23~25のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域から選択される軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む、TAAに対する結合部位を有する。EpCAMに対する結合部位は、配列番号88~95から選択されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域と、配列番号80~87から選択されるアミノ酸配列の重鎖可変領域とを含む。これらの多重特異性抗体の中で、CD3に対する結合部位及びAxl、EpCAM、Her2又はB7-H3に対する結合部位の少なくとも一方が条件的活性型である限り、多重特異性抗体は、条件的活性型であり、本発明の範囲内にあると見なされる。
【0189】
一例において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原に結合する。別の例において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第2の抗原に結合する。更に別の例において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の両方に結合する。更に別の例において、多重特異性抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きいアビディティで第1の抗原及び第2の抗原の組み合わせに結合する。
【0190】
一部の実施形態において、異常条件は、約5.0~約7.0、又は約5.2~約6.8、又は約5.4~約6.8、又は約5.6~約6.8、又は約5.8~約6.8、又は約6.0~約6.8、又は約6.2~約6.8、又は約6.4~約6.8、又は約6.6~約6.8の範囲の酸性pHである。一部の実施形態において、酸性pHは、約6.4~約7.0、又は約6.6~約7.0、又は約6.8~約7.0の範囲であり得る。正常生理条件は、血中の正常な生理的pHであり得、これは、当技術分野で十分に確立されている。一部の実施形態において、血中の正常な生理的pHは、約7.0~約7.8、又は約7.1~約7.7、又は約7.2~約7.6、又は約7.2~約7.5、又は約7.2~約7.4の範囲であり得る。
【0191】
多重特異性抗体の生成
別の態様において、多重特異性抗体を生成する方法が提供される。この方法は、2つの出発材料:第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片及び第2の抗原に結合するscFv抗体から多重特異性抗体を生成する。これらの2つの抗体の一方又は両方を進化させることにより、進化された抗体が製造され、それは、異常条件下において、正常生理条件下よりも大きい親和性でそのそれぞれの第1の抗原又は第2の抗原に結合するIgG抗体及び/又はscFv抗体に関してスクリーニングされる。第2の抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体をIgG抗体又は断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結して、1つ以上の構造体が製造される。scFv抗体及びIgG抗体の少なくとも一方は、出発IgG及びscFv抗体の一方又は両方から進化させた抗体からスクリーニングされた抗体である。出発抗体を進化させる場合、その出発抗体は、「親抗体」と称することができ、それから進化させた1つ以上の抗体は、「突然変異体抗体」又は「進化された抗体」と称することができる。
【0192】
構造体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方に結合する多重特異性抗体を選択するため、異常条件及び正常生理条件下において、第1の抗原及び第2の抗原の少なくとも一方への結合について更にスクリーニングされる。第1の抗原又は第2の抗原への多重特異性抗体の結合は、可逆的であり得る。
【0193】
出発材料IgG抗体及びscFv抗体を進化させる好適な方法については、例えば、国際公開第2012/009026号パンフレットに記載されている。進化させた抗体又は構造体をスクリーニングする好適な方法については、例えば、国際公開第2017/078839号パンフレットに記載されている。
【0194】
別の態様において、多重特異性抗体を生成する方法が提供される。この方法は、第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片及び異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第2の抗原に結合するscFv抗体から出発する。この方法は、第2の抗原に結合するscFv抗体をIgG抗体又はその断片の少なくとも1つの軽鎖のC末端に連結して、1つ以上の構造体を製造する工程と、1つ以上の構造体を、正常生理条件及び異常条件において、第1の抗原及び第2の抗原への結合活性についてスクリーニングする工程と、第1の抗原に結合し、且つ前記異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性で第2のものに可逆的に結合する多重特異性抗体を選択する工程とを含む。
【0195】
上述の方法によって生成される多重特異性抗体も提供される。かかる多重特異性抗体は、細胞特異的抗原に結合するIgG抗体又はその断片及びIgG抗体又はその断片の少なくとも1つの軽鎖又は少なくとも1つの重鎖のC末端に連結されている、Tリンパ球抗原に結合する少なくとも1つのscFv抗体を含む。少なくとも1つのscFv抗体は、異常条件において、正常生理条件におけるよりも大きい親和性でt-リンパ球抗原に可逆的に結合する。
【0196】
多重特異性抗体を作成するための出発材料は、本明細書に記載される第1の抗原に結合するIgG抗体又はその断片と、第2の抗原に結合するscFv抗体とを含む。これらの多重特異性抗体の他の特徴は、本明細書の他の部分にも記載される。
【0197】
薬剤とのコンジュゲーション
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、薬剤にコンジュゲートされ得、薬剤は、治療用薬剤、予防用薬剤、診断用薬剤、検出可能標識、キレーター又は造影剤であり得る。一部の実施形態において、多重特異性抗体上のコンジュゲートされた薬剤は、任意選択で、多重特異性抗体が作用部位(例えば、腫瘍)に達した後に多重特異性抗体から放出され得る。これらの実施形態において、多重特異性抗体は、コンジュゲートされた薬剤(治療用薬剤、予防用薬剤又は診断用薬剤など)を対象の作用部位に輸送するための送達ビヒクルとしての役割を果たし得る。
【0198】
多重特異性抗体は、共有結合性のコンジュゲーション又は非共有結合性のコンジュゲーションによって薬剤にコンジュゲートされ得る。共有結合性のコンジュゲーションは、直接又はリンカーを介するかのいずれかであり得る。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、薬剤と多重特異性抗体との融合タンパク質の構築による(即ち多重特異性抗体及び薬剤をコードする2つの遺伝子の遺伝子融合並びに単一のタンパク質としての発現による)。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、多重特異性抗体上の反応基と薬剤上の対応する基との間での共有結合の形成による。特定の実施形態において、直接のコンジュゲーションは、適切な条件下で薬剤と共有結合を形成する反応基(非限定的な例として、スルフヒドリル基又はカルボキシル基)を含めるための多重特異性抗体の修飾(即ち遺伝子修飾)又はその逆による。例えば、所望の反応基(即ちシステイン残基)を有するアミノ酸を多重特異性抗体に導入することにより、薬剤と形成されるジスルフィド結合が形成され得る。薬剤を多重特異性抗体に共有結合的にコンジュゲートする方法も当技術分野において公知である(即ち光架橋、例えばZatsepin et al.Russ.Chem.Rev.,74:77-95(2005)を参照されたい)。
【0199】
非共有結合性のコンジュゲーションは、当業者が容易に理解するであろうとおり、疎水結合、イオン結合、静電相互作用などを含めた任意の非共有結合的に結び付ける手段によることができる。
【0200】
コンジュゲーションは、種々のリンカーを使用しても実施され得る。例えば、多重特異性抗体と薬剤とは、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸塩(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル類(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビスジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート類(トルエン2,6-ジイソシアネートなど)及びビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)など、種々の二官能性タンパク質カップリング剤を使用してコンジュゲートされ得る。ペプチド結合によってつなぎ合わされた1~20アミノ酸で構成されるペプチドリンカーも使用し得る。特定のかかる実施形態において、アミノ酸は、20個の天然に存在するアミノ酸から選択される。特定の他のかかる実施形態において、アミノ酸の1つ以上は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン及びリジンから選択される。
【0201】
リンカーは、作用部位への送達時に薬剤の放出を促進する「切断可能リンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al.,Cancer Res.,52:127-131(1992);米国特許第5,208,020号明細書)が使用され得る。
【0202】
コンジュゲートされる治療用薬剤又は予防用薬剤は、放射性粒子、化学療法薬又は細胞毒素(即ちサイトトキシン)など、体にとって有毒であり得る。コンジュゲートされた治療用薬剤を、本発明の多重特異性抗体を使用して作用部位に送達すると、体内でその活性が望ましくない範囲におけるそうした治療用薬剤の毒性作用が大幅に減少することになる。放射性粒子を抗体にコンジュゲートする技術は、当技術分野において公知である。イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(登録商標))及びトシツモマブ(Bexxar(登録商標))は、放射性粒子がコンジュゲートされたモノクローナル抗体の例である。両方とも、異なる放射性粒子とコンジュゲートしたCD20抗原に対する抗体である。同様に、化学療法薬を抗体にコンジュゲートする技術も当技術分野において公知である。化学療法薬とコンジュゲートされている市販の抗体は、少なくとも2つある:ブレンツキシマブベドチン(Adcetris(登録商標))及びado-トラスツズマブエムタンシン(Kadcyla(商標))。細胞毒素を抗体にコンジュゲートする技術も当技術分野において公知である。例えば、デニロイキンジフチトクス(Ontak(商標)、抗癌薬)は、ジフテリアを引き起こす病原菌由来の毒素に結び付いたインターロイキン-2(IL-2)として知られる免疫系タンパク質からなる。
【0203】
本発明の多重特異性抗体には、薬剤を作用部位又は疾患部位に送達する間の薬剤の副作用を低減するため、あらゆる種類の放射性粒子、化学療法薬及び細胞毒素をコンジュゲートし得ることが企図される。
【0204】
一部の実施形態において、多重特異性抗体にコンジュゲートされる放射性粒子は、1つ以上の放射性同位体を含浸した粒子を含み、細胞の局所領域でのアブレーションに十分な放射能を有する。粒子は、ガラス、金属、樹脂、アルブミン又は1つ若しくは複数のポリマーを含み得る。放射性粒子における金属は、鉄、ガドリニウム及びカルシウムから選択され得る。放射性粒子における1つ以上の放射性同位体の例は、ガリウム-67(67Ga)、イットリウム-90(90Y)、ガリウム-68(68Ga)、タリウム-201(201T1)、ストロンチウム-89(89Sr)、インジウム-III(111In)、ヨウ素-131(131I)、サマリウム-153(153Sm)、テクネチウム-99m(99mTc)、レニウム-186(186Re)、レニウム-188(188Re)、銅-62(62Cu)及び銅-64(64Cu)から選択される。組成物中の1つ又は複数の放射性同位体は、ベータ線、ガンマ線及び/又は陽電子を発し得る。
【0205】
一部の実施形態において、多重特異性抗体にコンジュゲートされる化学療法薬は、アントラサイクリン類、トポイソメラーゼI及び/又はII阻害薬、紡錘体毒植物性アルカロイド、アルキル化剤、代謝拮抗薬、エリプチシン及びハルミンから選択される。
【0206】
アントラサイクリン類(又はアントラサイクリン系抗生物質)は、ストレプトミセス属(Streptomyces)細菌に由来する。この化合物は、例えば、肝細胞癌、白血病、リンパ腫並びに乳癌、子宮癌、卵巣癌及び肺癌を含めた広範囲にわたる癌の治療に使用される。アントラサイクリン類としては、限定はされないが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン、アクラルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、メトキシモルホリニルドキソルビシン及びこれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0207】
トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する必須酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼの阻害は、適切なDNAスーパーコイル形成を狂わせることにより、DNAの転写及び複製の両方に干渉する。一部のI型トポイソメラーゼ阻害薬には、カンプトテシン誘導体が含まれる。カンプトテシン誘導体とは、イリノテカン、トポテカン、ヘキサテカン、シラテカン、ルトルテカン、カレニテシン(BNP1350)、ギマテカン(ST1481)、ベロテカン(CKD602)又はこれらの薬学的に許容可能な塩などのカンプトテシン類似体を指す。II型トポイソメラーゼ阻害薬の例としては、限定はされないが、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド及びテニポシドが挙げられる。これらは、アメリカミヤオソウ(ポドフィルム・ペルタツム(Podophyllum peltatum))の根に天然に存在するアルカロイド、エピポドフィロトキシンの半合成誘導体である。
【0208】
紡錘体毒植物性アルカロイドは、植物に由来し、細胞分裂に必須の微小管機能を妨げることによって細胞分裂を阻止する。こうしたアルカロイド類としては、限定はされないが、ビンカアルカロイド類(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン及びビンポセチンなど)及びタキサン類が挙げられる。タキサン類としては、限定はされないが、パクリタキセル、ドセタキセル、ラロタキセル、カバジタキセル、オルタタキセル、テセタキセル及びこれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0209】
アルキル化剤としては、限定はされないが、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミド及び白金化合物、例えばオキサリプラチン、シスプラチン又はカルボプラチンが挙げられる。
【0210】
代謝拮抗薬は、正常な代謝の一部である代謝産物の使用を阻害する化学物質である。代謝拮抗薬の存在により、細胞成長及び細胞分裂が変化する。プリン又はピリミジン類似体はDNAへのヌクレオチドの取り込みを妨げ、DNA合成、従って細胞分裂を停止させる。これらは、RNA合成にも影響を及ぼす。プリン類似体の例としては、アザチオプリン、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン及びクラドリビンが挙げられる。ピリミジン類似体の例としては、チミジル酸シンターゼを阻害する5-フルオロウラシル(5FU)、フロクスウリジン(FUDR)及びシトシンアラビノシド(シタラビン)が挙げられる。
【0211】
抗葉酸剤は、葉酸の機能を損なう化学療法薬である。周知の例は、メトトレキサートであり、これは、酵素ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を阻害し、従ってテトラヒドロ葉酸塩の形成を妨げる葉酸類似体である。これは、DNA、RNA及びタンパク質の産生の阻害につながる(テトラヒドロ葉酸塩は、アミノ酸セリン及びメチオニンの合成にも関与するため)。他の抗葉酸剤としては、限定はされないが、トリメトプリム、ラルチトレキセド、ピリメタミン及びペメトレキセドが挙げられる。
【0212】
また、多重特異性抗体には、エリプチシン及びハルミンなどの他の化学療法薬がコンジュゲートされ得る。エリプチシン及びその誘導体、例えば9-ヒドロキシエリプチシニウム、N2-メチル-9-ヒドロキシエリプチシニウム、2-(ジエチルアミノ-2-エチル)9-ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2-(ジイソプロピルアミノ-エチル)9-ヒドロキシ-エリプチシニウムアセテート及び2-(βピペリジノ-2-エチル)9-ヒドロキシエリプチシニウムは、全て有効な化学療法薬である。
【0213】
ハルミンは、ペガヌム・ハルマラ(Peganum harmala)の種子から単離された天然の植物性アルカロイド産物である。ハルミン系化学療法薬としては、ハルミン、ハルマリン、ハルモール、ハルマロール及びハルマン及びキナゾリン誘導体:バシシン及びバシシノンが挙げられる。
【0214】
一部の実施形態において、多重特異性抗体にコンジュゲートされる細胞毒素としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラセンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド類、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール及びピューロマイシン並びにこれらの類似体又は相同体が挙げられる。他の毒素としては、例えば、リシン、CC-1065及び類似体、デュオカルマイシンが挙げられる。なおも他の毒素としては、ジフテリア毒素及びヘビ毒(例えば、コブラ毒)が挙げられる。
【0215】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、診断用薬剤にコンジュゲートされ得る。本発明において使用される診断用薬剤には、例えば、以下の参考文献:Armstrong et al,Diagnostic Imaging,5th Ed.,Blackwell Publishing(2004);Torchilin,V.P.,Ed.,Targeted Delivery of Imaging Agents,CRC Press(1995);Vallabhajosula,S.,Molecular Imaging:Radiopharmaceuticals for PET and SPECT,Springer(2009)に提供されるとおりの、当技術分野において公知の任意の診断用薬剤が含まれ得る。診断用薬剤は、限定はされないが、γ線放出シグナル、放射性シグナル、エコー源性シグナル、光学シグナル、蛍光シグナル、吸収シグナル、磁気シグナル又は断層撮影シグナルが挙げられる検出可能シグナルを提供及び/又は増強する薬剤を使用することを含め、種々の方法によって検出することができる。診断用薬剤のイメージング技法としては、限定はされないが、単一光子放出型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴画像法(MRI)、光学イメージング、蛍光イメージング、陽電子放出型断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、X線イメージング、ガンマ線イメージングなどを挙げることができる。
【0216】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、例えば、種々の画像診断技法に用いられる金属イオンに結合するキレーターにコンジュゲートされ得る。例示的キレーターとしては、限定はされないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[4-(l,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカ-l-イル)メチル安息香酸(CPTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-l,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン酸)(DOTP)、1,4,8,1l-テトラアザシクロドデカン-l,4,8,ll-四酢酸(TETA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-l,4,7,10-四酢酸(DOTA)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0217】
多重特異性抗体は、検出可能標識にコンジュゲートされ得る。好適な検出可能標識としては、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的手段によって検出可能な任意の組成物が挙げられる。好適な検出可能標識としては、限定はされないが、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(商標))、蛍光色素(例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン、TEXAS RED(登録商標)、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質など)、放射標識(例えば、3H、125I、35S、14C又は32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ及びその他の、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)において一般的に用いられるもの)及びコロイド金又は色ガラスなどの比色標識又はプラスチックビーズ(例えば、ルチスチレン、マルチプロピレン、ラテックス等)が挙げられる。
【0218】
他の実施形態において、検出可能標識は、蛍光剤、リン光剤、化学発光剤などの光学的薬剤から選択される。多数の薬剤(例えば、色素、プローブ、標識又は指示薬)が当技術分野において公知であり、本発明に用いることができる(例えば、Invitrogen,The Handbook:A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,Tenth Edition(2005)を参照されたい)。蛍光剤には、種々の有機及び/又は無機小分子又は種々の蛍光タンパク質及びその誘導体が含まれ得る。例えば、蛍光剤としては、限定はされないが、シアニン類、フタロシアニン類、ポルフィリン類、インドシアニン類、ローダミン類、フェノキサジン類、フェニルキサンテン類、フェノチアジン類、フェノセレナジン類、フルオレセイン類、ベンゾポルフィリン類、スクアライン類、ジピロロピリミドン類、テトラセン類、キノリン類、ピラジン類、コリン類、クロコニウム類、アクリドン類、フェナントリジン類、ローダミン類、アクリジン類、アントラキノン類、カルコゲノピリリウム類似体、クロリン類、ナフタロシアニン類、メチン色素、インドレニウム色素、アゾ化合物、アズレン類、アザアズレン類、トリフェニルメタン色素、インドール類、ベンゾインドール類、インドカルボシアニン類、ベンゾインドカルボシアニン類及び4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンの一般構造を有するBODIPY(商標)誘導体及び/又はこれらのいずれかのコンジュゲート及び/又は誘導体を挙げることができる。
【0219】
他の検出可能な薬剤としては、フルオレセイン、フルオレセイン-ポリアスパラギン酸コンジュゲート、フルオレセイン-ポリグルタミン酸コンジュゲート、フルオレセイン-ポリアルギニンコンジュゲート、インドシアニングリーン、インドシアニン-ドデカアスパラギン酸コンジュゲート、インドシアニン(NIRD)-ポリアスパラギン酸コンジュゲート、イソスルファンブルー、インドールジスルホン酸塩、ベンゾインドールジスルホン酸塩、ビス(エチルカルボキシメチル)インドシアニン、ビス(ペンチルカルボキシメチル)インドシアニン、ポリヒドロキシインドールスルホン酸塩、ポリヒドロキシベンゾインドールスルホン酸塩、剛直性ヘテロ原子インドールスルホン酸塩、インドシアニンビスプロパン酸、インドシアニンビスヘキサン酸、3,6-ジシアノ-2,5-[(N,N,N’,N’-テトラキス(カルボキシメチル)アミノ]ピラジン、3,6-[(N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-アザテジノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-モルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-ピペラジノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸S-オキシド、2,5-ジシアノ-3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジンS,S-ジオキシド、インドカルボシアニンテトラスルホン酸塩、クロロインドカルボシアニン及び3,6-ジアミノピラジン-2,5-ジカルボン酸が挙げられる。
【0220】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、造影剤にコンジュゲートされ得、ここで、造影剤は、イメージング、例えばヒトに対して行われるイメージング手順での使用に好適なものである。造影剤の非限定的な例としては、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム及び鉄が挙げられる。多重特異性抗体は、標準的な技法を用いて造影剤にコンジュゲートすることができる。例えば、多重特異性抗体は、クロラミンT又は1,3,4,6-テトラクロロ-3α,6α-ジフェニルグリコールウリルを用いてヨウ素化することができる。フッ素化では、フッ化物イオン置換反応による合成中に多重特異性抗体にフッ素がコンジュゲートされる。かかる放射性同位体とのタンパク質の合成のレビューについては、Muller-Gartner,H.,TIB Tech.,16:122-130(1998)及びSaji,H.,Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Syst.,16(2):209-244(1999)を参照されたい。例えば、多重特異性抗体は、抗体にGdジエチレントリアミン五酢酸(GdDTPA)又はGdテトラアザシクロドデカン四酢酸(GdDOTA)などの低分子GdキレートをコンジュゲートすることによりGdにコンジュゲートされ得る。Caravan et al.,Chem.Rev.99:2293-2352(1999)及びLauffer et al.,J.Magn.Reson.Imaging,3:11-16(1985)を参照されたい。多重特異性抗体は、例えば、抗体にポリリジン-GdキレートをコンジュゲートすることによってもGdにコンジュゲートされ得る。例えば、Curtet et al.,Invest.Radiol.,33(10):752-761(1998)を参照されたい。代わりに、多重特異性抗体は、Gdキレーター脂質を含む常磁性重合化リポソームをアビジン及びビオチン化抗体とインキュベートすることによりGdにコンジュゲートされ得る。例えば、Sipkins et al.,Nature Med.,4:623-626(1998)を参照されたい。
【0221】
更に他の実施形態において、造影剤は、以下の参考文献に記載されるとおりのX線造影剤であり得る:H.S Thomsen,R.N.Muller and R.F.Mattrey,Eds.,Trends in Contrast Media,(Berlin:Springer-Verlag,1999);P.Dawson,D.Cosgrove and R.Grainger,Eds.,Textbook of Contrast Media(ISIS Medical Media 1999);Torchilin,V.P.,Curr.Pharm.Biotech.,vol.1,pages 183-215(2000);Bogdanov,A.A.et al,Adv.Drug Del.Rev.,Vol.37,pages 279-293(1999);Sachse,A.et ah,Investigative Radiology,vol.32,pages 44-50(1997)。X線造影剤の例としては、限定なしに、イオパミドール、イオメプロール、イオヘキソール、イオペントール、イオプロミド、イオシミド、イオベルソール、イオトロラン、イオタスル、イオジキサノール、イオデシモール、イオグルカミド、イオグルニド、ヨーグラミド、イオサルコール、イオキシラン、イオパミロン、メトリザミド、イオビトリドール及びイオシメノールが挙げられる。特定の実施形態において、X線造影剤としては、イオパミドール、イオメプロール、イオプロミド、イオヘキソール、イオペントール、イオベルソール、イオビトリドール、イオジキサノール、イオトロラン及びイオシメノールを挙げることができる。
【0222】
多重特異性抗体は、一部の実施形態において、例えば「放射線不透過性」標識、例えばX線を用いて容易に可視化し得る標識とコンジュゲートされ得る。放射線不透過性物質は、当業者に周知である。最も一般的な放射線不透過性物質としては、ヨウ化物、臭化物又はバリウム塩が挙げられる。他の放射線不透過性物質も公知であり、限定はされないが、有機ビスマス誘導体(例えば、米国特許第5,939,045号明細書を参照されたい)、放射線不透過性マルチウレタン類(米国特許第5,346,981号明細書を参照されたい)、有機ビスマス錯体(例えば、米国特許第5,256,334号明細書を参照されたい)、放射線不透過性バリウム多量体錯体(例えば、米国特許第4,866,132号明細書を参照されたい)などが挙げられる。
【0223】
多重特異性抗体にコンジュゲートすることのできる好適な蛍光タンパク質としては、限定はされないが、例えば米国特許第6,066,476号明細書;同第6,020,192号明細書;同第5,985,577号明細書;同第5,976,796号明細書;同第5,968,750号明細書;同第5,968,738号明細書;同第5,958,713号明細書;同第5,919,445号明細書;同第5,874,304号明細書に記載されるとおり、オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその突然変異体若しくは誘導体が挙げられる。GFPの例は、例えば、Clontech,Inc.から市販されており;赤色蛍光タンパク質;黄色蛍光タンパク質;例えば、Matz et al.(1999)Nature Biotechnol.17:969-973に記載されるとおりの、花虫類種由来の種々の蛍光及び有色タンパク質のいずれかなどである。
【0224】
一部の実施形態において、コンジュゲーションは、多重特異性抗体のFc領域上である。上記に記載されるコンジュゲート分子、化合物又は薬物は、米国特許第8,362,210号明細書に記載されるとおり、Fc領域にコンジュゲートされ得る。例えば、Fc領域は、多重特異性抗体が優先的に活性を呈する異常条件のある部位に送達しようとする治療用、予防用薬剤又は診断用薬剤にコンジュゲートされ得る。抗体のFc領域にコンジュゲートする更なる方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第5,336,603号明細書、同第5,622,929号明細書、同第5,359,046号明細書、同第5,349,053号明細書、同第5,447,851号明細書、同第5,723,125号明細書、同第5,783,181号明細書、同第5,908,626号明細書、同第5,844,095号明細書及び同第5,112,946号明細書;欧州特許第307,434号明細書;欧州特許第367,166号明細書;欧州特許第394,827号明細書;国際公開第91/06570号パンフレット、同第96/04388号パンフレット、同第96/22024号パンフレット、同第97/34631号パンフレット及び同第99/04813号パンフレット;Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.88,pages 10535-10539,1991;Traunecker et al.,Nature,vol.331,pages 84-86,1988;Zheng et al.,J.Immunol.,vol.154,pages 5590-5600,1995;及びVie et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.89,pages 11337-11341,1992を参照されたい。
【0225】
組成物、製剤、キット
本発明の多重特異性抗体は、治療、予防又は診断用途のための医薬組成物、医療機器、キット又は製品に含まれ得る。好適な医薬組成物、医療機器、キット又は製品は、国際公開第2016/138071号パンフレットに詳細に記載されている。
【0226】
一部の実施形態において、医薬組成物は、液体形態、凍結乾燥形態又は凍結乾燥形態から再構成された液体形態であり得る。凍結乾燥調製物は、典型的には、投与前に滅菌溶液で再構成される。凍結乾燥組成物の標準的な再構成手順は、ある容積の純水(典型的には凍結乾燥中に除去された容積とほぼ均等である)を加えることである。非経口投与のための医薬組成物の製造には、抗細菌剤を含む溶液も使用され得る。Chen,Drug Dev Ind Pharm,vol.18,pp.1311-54,1994も参照されたい。
【0227】
組成物には、製剤の張性を調節するため、薬学的に許容可能な等張化剤が含まれ得る。例示的等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン及びアミノ酸、糖類の群からの任意の成分並びにこれらの組み合わせが挙げられる。一部の実施形態において、水性製剤は、等張性であるが、高張液又は低張液も好適であり得る。用語「等張性」は、生理的食塩水又は血清など、それが比較される他の何らかの溶液と同じ張性を有する溶液を意味する。等張化剤は、約5mM~約350mMの量、例えば100mM~350nMの量で使用され得る。
【0228】
組成物には、製剤化された多重特異性抗体の凝集を低減し、且つ/又は製剤中における粒子状物質の形成を最小限に抑え、且つ/又は吸着を低減するため、薬学的に許容可能な界面活性剤が加えられ得る。例示的界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル類(Triton-X(商標))、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer、Pluronic(商標))及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。好適なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類の例は、ポリソルベート20(商標Tween 20(商標)で販売されている)及びポリソルベート80(商標Tween 80(商標)で販売されている)である。好適なポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーの例は、商品名Pluronic(登録商標)F68又はPoloxamer 188(商標)で販売されているものである。好適なポリオキシエチレンアルキルエーテル類の例は、商標Brij(商標)で販売されているものである。組成物中の界面活性剤の例示的濃度は、約0.001%~約1%w/vの範囲であり得る。
【0229】
組成物には、凍結乾燥過程において不安定化条件から不安定な活性成分(例えば、タンパク質)を保護するため、凍結乾燥保護剤が加えられ得る。例えば、公知の凍結乾燥保護剤としては、糖類(グルコース及びスクロースを含む)、ポリオール類(マンニトール、ソルビトール及びグリセロールを含む)及びアミノ酸(アラニン、グリシン及びグルタミン酸を含む)が挙げられる。凍結乾燥保護剤は、約10nM~500nMの量で含めることができる。
【0230】
一部の実施形態において、界面活性剤、緩衝剤、安定剤及び等張化剤の1つ以上を含有する組成物は、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチル又はプロピルパラベン類、塩化ベンザルコニウム及びこれらの組み合わせなど、1つ以上の保存剤を本質的に含まない。他の実施形態において、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチル又はプロピルパラベン類、塩化ベンザルコニウム及びこれらの組み合わせから選択される保存剤は、製剤中に例えば約0.001~約2%(w/v)の範囲の濃度で含まれ得る。
【0231】
シロップ剤、エリキシル剤及び懸濁液など、経口投与のための単位投薬形態が提供され得、ここで、各投薬量単位、例えば茶さじ量、食さじ量、錠剤又はバイアルは、所定量の組成物を含む。同様に、注射又は静脈内投与のための単位投薬形態は、滅菌水、標準生理食塩水又は別の薬学的に許容可能な担体中の溶液としての組成物中に多重特異性抗体を含み得る。
【0232】
多重特異性抗体は、注射用製剤として製剤化され得る。典型的には、注射用組成物は、液体の溶液又は懸濁液として調製され、注射前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に好適な固体形態も調製され得る。調製物はまた、乳化され得、多重特異性抗体は、リポソームビヒクルに封入され得る。
【0233】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、エアロゾル及び鼻腔内組成物として製剤化され得る。坐薬について、組成物は、ポリアルキレングリコール類又はトリグリセリド類など、従来の結合剤及び担体を含むことになる。かかる組成物は、多重特異性抗体を約0.5%~約10%(w/w)、例えば約1%~約2%の範囲で含有する混合物から形成され得る。
【0234】
多重特異性抗体は、鼻粘膜に刺激作用を引き起こすことがないか又は線毛機能を著しく妨げることがないビヒクルを含む鼻腔内製剤として製剤化され得る。本発明では、水、生理食塩水溶液又は他の公知の物質などの希釈剤を利用することができる。経鼻製剤は、限定はされないが、クロロブタノール及び塩化ベンザルコニウムなどの保存剤も含有し得る。鼻粘膜による多重特異性抗体の吸収を亢進させるため、界面活性剤が存在し得る。
【0235】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、制御放出製剤に製剤化される。本発明の範囲内において制御放出とは、幾つもの徐放投薬形態の1つを意味する。本発明の目的上、以下のタイプの制御放出:連続放出、遅延放出、段階的放出、長期放出、計画的放出、長期間にわたる放出、比例放出、遷延放出、緩徐な放出、間隔をおいた放出、持続放出、時限放出、遅延作用、長時間作用、重層的時間作用、長時間作用型、長期間にわたる作用、反復作用、持続作用及び徐放を用いることができる。これらの用語及びその作成方法の更なる考察については、Lesczek Krowczynski,Extended-Release Dosage Forms,1987(CRC Press,Inc.)を参照することができる。
【0236】
制御放出組成物は、当技術分野において公知の方法を用いて調製され得る。制御放出調製物の例としては、多重特異性抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、ここで、マトリックスは、付形された物品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル類、L-グルタミン酸とL-グルタミン酸エチルとのコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、ヒドロゲル類、ポリラクチド類、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。持続放出製剤中に含まれる多重特異性抗体の可能性のある生物学的活性の損失及び可能性のある免疫原性の変化は、適切な添加剤を使用することにより、含水量を制御し、且つ特別なポリマーマトリックス組成物を開発することにより低減又は防止され得る。
【0237】
制御放出技術には、物理的システム及び化学的システムの両方が含まれる。物理的システムとしては、マイクロカプセル化、マクロカプセル化及び膜システムなど、律速膜を備えるリザーバシステム;中空糸、超微孔性三酢酸セルロース並びに多孔質ポリマー基質及びフォームなど、律速膜のないリザーバシステム;非多孔質、ポリマー又はエラストマーマトリックス(例えば、浸食不可能、浸食可能、環境的薬剤侵入及び分解性)に物理的に溶解したシステム及び非多孔質、ポリマー又はエラストマーマトリックス(例えば、浸食不可能、浸食可能、環境的薬剤侵入及び分解性)に物理的に分散した物質を含めた、モノリシックシステム;外側制御層と化学的に同様の又は異なるリザーバ層を含むラミネート構造;及び浸透圧ポンプ又はイオン交換樹脂への吸着など、他の物理的方法が挙げられる。
【0238】
化学的システムとしては、ポリマーマトリックスの化学的浸食(例えば、異質的又は同質的浸食)又はポリマーマトリックスの生物学的浸食(例えば、異質的又は同質的)が挙げられる。制御放出システムの種類についての更なる考察は、Agis F.Kydonieus,Controlled Release Technologies:Methods,Theory and Applications,1980(CRC Press,Inc.)を参照することができる。
【0239】
経口投与のための制御放出薬物製剤は、幾つもあり、多重特異性抗体の製剤化に用いることができる。これらの制御放出製剤には、浸透圧制御胃腸送達システム;流体力学的圧力制御胃腸送達システム;微多孔膜透過制御胃腸送達装置を含めた、膜透過制御胃腸送達システム;耐胃液性腸標的化制御放出胃腸送達装置;ゲル拡散制御胃腸送達システム;及びカチオン性及びアニオン性薬物を含めたイオン交換制御胃腸送達システムが含まれる。制御放出薬物送達システムに関する更なる情報については、Yie W.Chien,Novel Drug Delivery Systems,1992(Marcel Dekker,Inc.)を参照することができる。
【0240】
多重特異性抗体は、インビボ及びエキソビボ方法並びに全身及び局所投与経路を含め、薬物送達に好適な任意の利用可能な方法及び経路を用いて患者/対象に投与され得る。従来の薬学的に許容可能な投与経路としては、鼻腔内、筋肉内、気管内、皮下、皮内、局所適用、静脈内、動脈内、直腸、鼻腔、経口並びに他の経腸及び非経口投与経路が挙げられる。投与経路は、必要に応じて組み合わされ得るか、又は多重特異性抗体及び/若しくは所望の効果に依存して調整され得る。多重特異性抗体は、単回用量又は複数回用量で投与することができる。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、経口投与される。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、吸入経路によって投与される。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、鼻腔内投与される。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、局所投与される。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、頭蓋内投与される。一部の実施形態において、多重特異性抗体は、静脈内投与される。
【0241】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載される多重特異性抗体を使用して癌(腫瘍)を治療する方法を提供する。この方法は、癌又は腫瘍を有する対象に多重特異性抗体を投与することを含む。
【0242】
一部の実施形態において、多重特異性抗体は、癌ネオアンチゲンワクチンと併用投与されるか、又は癌ネオアンチゲンワクチンの投与後に投与される。ネオアンチゲンワクチン及びその生成については、米国特許出願公開第2017/0202939号明細書に記載されている。
以下の例は、本開示の方法の限定ではなく、例示である。本分野で通常直面し、且つ当業者に明らかな様々な条件及びパラメータの他の好適な変形形態及び適合形態は、本開示の範囲内にある。
【実施例】
【0243】
条件的活性型抗体の作成についての実施例1~15は、国際公開第2017/078839号パンフレットに記載されている。
【0244】
実施例16:CD3及びAxlに結合する多重特異性抗体
【0245】
2つの多重特異性抗体を構築した。1つの多重特異性抗体は、Axl(WT-Axl)に対する非条件的活性型結合部位(IgG抗体)と組み合わせて、CD3(WT-CD3)に対する非条件的活性型結合部位(scFv抗体)を使用してバタフライ型構成WT-CD3-WT-Axlを提供した(
図2及び
図3A~
図3C)。同様に、第2の多重特異性抗体も、Axl(CAB-Axl)に対する条件的活性型結合部位(IgG抗体)と組み合わせて、CD3(WT-CD3)に対する非条件的活性型結合部位(scFv抗体)を使用してバタフライ型構成WT-CD3-CAB-Axlを形成した(
図2及び
図3A~
図3C)。
【0246】
これらの2つの多重特異性抗体を、pH6.0及びpH7.4におけるそれぞれCD3及びAxlに対するその親和性について、ELISAアッセイを用いてアッセイした(
図3B~
図3C)。本願のELISAアッセイは、以下のプロトコルを用いた:
1.ELISAの前日、96ウェルプレートを4℃のELISAコート緩衝液中100μlの0.5μg/ml組換えCD3又はAxlで一晩コートした。
2.試料をELISAアッセイ緩衝液で希釈する。
3.抗原でコートしたプレートから緩衝液を振り落とし、ペーパータオルで拭いて乾かす。
4.プレートを200μl ELISAアッセイ緩衝液によって室温で1時間ブロックする。
5.各ウェルに100μlの希釈試料を加える。
6.プレートを室温で1時間インキュベートする。
7.プレートのレイアウトのとおりスクリーニング緩衝液中に二次抗体を調製する。
8.プレートから緩衝液を振り落とし、ペーパータオルで拭いて乾かす。
9.プレートをELISA洗浄緩衝液で合計3回洗浄する。
10.ELISAアッセイ緩衝液中100μlの希釈した対応する二次抗体をウェルに加える。
- 組換えCD3でコートしたウェルについては、抗ヒトHRP二次抗体を加える。
- Axlでコートしたウェルについては、組換えCD3を加え、次に抗His抗体及び抗マウスHRP二次抗体で検出する。
12.プレートを室温で1時間インキュベートする。
13.プレートから緩衝液を振り落とし、ペーパータオルで拭いて乾かした。
14.プレートをELISA洗浄緩衝液で合計3回洗浄する。
15.プレートから緩衝液を振り落とし、ペーパータオルで拭いて乾かす。
16.プレートレイアウトのとおりに50μlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を加える。
17.50μl 1N HClで発色を停止させる。
18.プレートリーダーを使用してOD450nmで読み取る
【0247】
陰性対照(CD3の野生型IgG抗体、Axlの野生型IgG抗体及びアイソタイプで対照を取った陰性対照)は、CD3に対するその親和性に関して6.0及び7.4の2つの異なるpHで有意差を示さなかった(
図3B)。同様に、陰性対照は、Axlに対するその親和性に関して6.0及び7.4の2つの異なるpHで有意差を示さなかった(
図3C)。
【0248】
これらの2つの多重特異性抗体について、WT-CD3-WT-Axlも、WT-CD3-CAB-Axlも、そのCD3結合部位が条件的活性型でないため、CD3に対するその親和性に関して6.0及び7.4の2つの異なるpHで有意差を示さなかった(
図3B)。更に、WT-CD3-WT-Axlは、そのAxl結合部位が条件的活性型でないため、Axlに対するその親和性に関して6.0及び7.4の2つの異なるpHで有意差を示さなかった(
図3C)。しかしながら、WT-CD3-CAB-Axlについて、この多重特異性抗体には、Axlに対する条件的活性型結合部位が含まれるため、pH7.4におけるAxlに対する親和性と比較したとき、pH6.0でAxlに対する親和性の有意な増加を示した(
図3C)。
【0249】
実施例17:CD3及びAxlに結合する多重特異性抗体
【0250】
この実施例では、CD3及びAxlに結合する更なる多重特異性抗体を構築した。実施例16に記載されるとおり多重特異性抗体を作成し、実施例16の場合と同じように命名した:
Axl-WT×CD3-CAB1:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位;
Axl-WT×CD3-CAB3:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位;
Axl-WT×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位;
Axl-WT×CD3-WT:CD3に対する非条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位;
Axl-CAB×CD3-CAB1:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する条件的活性型結合部位;
Axl-CAB×CD3-CAB3:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位;及び
Axl-CAB×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたAxlに対する非条件的活性型結合部位。
【0251】
前述の多重特異性抗体について、CD3に対するその親和性を、pH6.0及び7.4でELISAアッセイにおいてCD3を固相化してアッセイした(
図4A)。CD3への結合部位を有する条件的活性型可変領域が多重特異性抗体に含まれたとき、それらの多重特異性抗体は、pH7.4におけるCD3に対する親和性と比較したとき、pH6.0でCD3に対する親和性の増加を示したことが観察された。2つの陰性対照は、CD3に結合しないアイソタイプ対照抗体及び抗体を加えなかった緩衝液であった。
【0252】
多重特異性抗体の一部について、CD3に対するその結合に関して、Axlを固相化してアッセイした。CD3抗体の条件的活性型可変領域が含まれる多重特異性抗体では、pH7.4におけるCD3に対するその親和性と比較したとき、pH6.0でCD3に対する親和性が増加した(
図4B)。
【0253】
実施例18:CD3及びHer2に結合する多重特異性抗体
【0254】
この例では、CD3及びHer2に結合する多重特異性抗体を構築した。実施例16に記載されるとおり多重特異性抗体を作成し、実施例16の場合と同じように命名した:
Her2-WT×CD3-CAB1:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたHer2に対する非条件的活性型結合部位;
Her2-WT×CD3-CAB3:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたHer2に対する非条件的活性型結合部位;及び
Her2-WT×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたHer2に対する非条件的活性型結合部位;
Her2-WT×CD3-WT:CD3に対する非条件的活性型結合部位と組み合わせたHer2に対する非条件的活性型結合部位。
【0255】
上記の多重特異性抗体について、CD3に対するその親和性を、6.0及び7.4のpHでELISAアッセイにおいてCD3を固相化してアッセイした。2つの陰性対照は、CD3に結合しない抗体(B12及びNC)であった。多重特異性抗体がCD3抗体の条件的活性型可変領域を含む場合、抗体は、pH7.4におけるCD3に対するその親和性と比較したとき、pH6.0でCD3に対する親和性の増加を示したことが観察された(
図5A)。
【0256】
加えて、多重特異性抗体について、CD3に対するその結合を、アッセイにおいてHer2を固相化してアッセイした。CD3抗体の条件的活性型可変領域を含む多重特異性抗体は、pH7.4におけるCD3に対するその親和性と比較したとき、pH6.0でCD3に対する親和性の増加を示した(
図5B)。
【0257】
実施例19:多重特異性抗体は、CD3及びB7-H3に結合する
【0258】
この例では、CD3及びB7-H3に結合する多重特異性抗体を構築した。実施例16に記載されるとおり多重特異性抗体を作成し、実施例16の場合と同じように命名した:
B7-H3-WT×CD3-WT:CD3に対する非条件的活性型結合部位と組み合わせたB7-H3に対する非条件的活性型結合部位;
B7-H3-WT×CD3-CAB3:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたB7-H3に対する非条件的活性型結合部位;及び
B7-H3-WT×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたB7-H3に対する非条件的活性型結合部位;
B7-H3-CAB1×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたB7-H3に対する条件的活性型結合部位;及び
B7-H3-CAB2×CD3-CAB4:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたB7-H3に対する条件的活性型結合部位。
【0259】
上記の多重特異性抗体について、CD3に対するその親和性を、pH6.0及び7.4でELISAアッセイにおいてCD3を固相化してアッセイした。2つの陰性対照は、CD3に結合しないアイソタイプ対照抗体及び抗体を加えなかった緩衝液であった。CD3抗体の条件的活性型可変領域が多重特異性抗体に含まれた場合、それらの多重特異性抗体は、pH7.4におけるCD3に対するその親和性と比較したとき、pH6.0でCD3に対する親和性の増加を示したことが観察された(
図6)。
【0260】
実施例20:CD3及びAxlに結合する多重特異性抗体の機能アッセイ
【0261】
この例では、2つの多重特異性抗体について、腫瘍反応性リンパ球であるJurkat細胞を刺激するその機能に関してアッセイした(
図7)。このアッセイでは、IL-2プロモーター又はNFAT調節エレメント(RE)によって駆動されるルシフェラーゼを発現するコンストラクトを有する改変されたJurkat細胞を使用した。多重特異性抗体が腫瘍細胞上のAxl及びJurkat細胞上のCD3に結合すると、Jurkat細胞のルシフェラーゼコンストラクトが活性化され、ルシフェラーゼが発現した。次に、ルシフェラーゼの量を測定した。この例では、腫瘍細胞は、Axlを発現するように改変された標的CHO細胞によって代表された。測定されたルシフェラーゼ量が、改変された標的CHO細胞への結合後の多重特異性抗体によるJurkat細胞の刺激レベルを指し示すものであった。
【0262】
機能アッセイ(Promega CD3-アッセイ)では、以下のプロトコルを使用した:
1.ウェルに標的細胞を加え(5000細胞/100μL培地、Costar #3917 96ウェル白色プレート)、37℃で一晩インキュベートする。
2.ウェルから培地を除去する。
3.pH 10%RPMI培地に25μL/ウェルの2XAb希釈液を加える(最終濃度は、プレートレイアウトに従う)。
4.25μL/ウェル NFAT-Luc2PJurkat細胞を加える(1.2mL凍結細胞=>6mL pH 10%RPMI)。
5.37℃で5時間インキュベートする。
6.50μL/ウェル Bio-Gloを室温で5分間加える。
7.Promega Bio-Gloプログラムにより発光を測定する。
【0263】
図8Aにおいて、アッセイした多重特異性抗体は、実施例17のAxl-WT×CD3-WTであった。標的細胞の量の増加(CHO-Axl細胞の濃度は、X軸上に示される)に伴う測定されたルシフェラーゼ量(相対ルシフェラーゼ単位、RLU)は、両方のpHで同様であったため、多重特異性抗体は、pH6.0及びpH7.4の両方で同程度のJurkat細胞の刺激をもたらすことが示された。従って、この多重特異性抗体は、6.0及び7.4のpHについて条件的活性型ではなかった。
【0264】
図8Bにおいて、多重特異性抗体Axl-WT×CD3-CAB1は、pH7.4における刺激の量と比べてpH6.0でJurkat細胞の刺激の有意な増加をもたらすことが示される。従って、この多重特異性抗体は、pH7.4において刺激されたJurkat細胞が産生したルシフェラーゼの量と比べて、pH6.0において刺激されたJurkat細胞が産生したルシフェラーゼの量が有意に増加したことにより示されるとおり、Jurkat細胞の刺激の点で条件的活性型であった。
【0265】
種々の濃度のCHO-Axl細胞について、pH6.0及び7.4で測定されたルシフェラーゼ量を表4に示す。
【表4】
【0266】
この例では、陰性対照は、Axlを発現しないCHO細胞(即ち非標的細胞)であった。非標的細胞が存在するとき、多重特異性抗体は、Jurkat細胞を活性化せず(
図8A~
図8B)、Jurkat細胞の活性化が標的細胞の存在に依存したことが示された。
【0267】
実施例21:CD3及びEpCAMに結合する多重特異性抗体
【0268】
この例では、CD3及びEpCAMに結合する多重特異性抗体を構築した。実施例16に記載されるとおり多重特異性抗体を作成し、実施例16の場合と同じように命名した:
EpCAM-WT×CD3-BF1:CD3に対する非条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF1);
EpCAM-WT×CD3-BF3:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF3);
EpCAM-WT×CD3-BF5:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF5);
EpCAM-WT×CD3-BF11:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF11);
EpCAM-WT×CD3-BF36:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF36);
EpCAM-WT×CD3-BF37:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF37);
EpCAM-WT×CD3-BF38:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF38);
EpCAM-WT×CD3-BF39:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF39);
EpCAM-WT×CD3-BF40:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF40);及び
EpCAM-WT×CD3-BF41:CD3に対する条件的活性型結合部位と組み合わせたEpCAMに対する非条件的活性型結合部位(BAP150-07-BF41)。
【0269】
各多重特異性抗体のEpCAM-WT部分は、同一であり、抗EpCAM重鎖可変領域(配列番号85)と、抗EpCAM軽鎖可変領域(配列番号93)を含む完全軽鎖とを有する。完全長軽鎖のC末端は、CD3に対する結合部位に連結される。CD3に対する結合部位の中でも、CD3-BF1(配列番号26)は、非条件的活性型一本鎖抗CD3抗体である一方、CD3-BF3(配列番号28)、CD3-BF5(配列番号30)、CD3-BF11(配列番号36)、CD3-BF36(配列番号61)、CD3-BF37(配列番号62)、CD3-BF38(配列番号63)、CD3-BF39(配列番号64)、CD3-BF40(配列番号65)及びCD3-BF41(配列番号66)は、条件的活性型一本鎖抗CD3抗体である。
【0270】
前述の多重特異性抗体について、CD3に対するその親和性を、6.0~7.4のpH値でELISAアッセイにおいてCD3を固相化してアッセイした(
図9)。条件的活性型抗CD3一本鎖抗体が多重特異性抗体に含まれたとき、それらの多重特異性抗体は、pH7.4におけるCD3に対する親和性と比較して、pH6.0でCD3に対する親和性の増加を示したことが観察された。CD3に対する結合部位が条件的活性型でない陰性対照(BAP150-07-BF1)では、6.0~7.4のpH範囲において、CD3に対する結合親和性は、pH依存的でない。
【0271】
実施例22:腫瘍治療のためのCD3及びEpCAMに対する多重特異性抗体
【0272】
EpCAMに対する非条件的活性型結合部位と、CD3に対する条件的活性型結合部位とを含む多重特異性抗体(EpCAM×CAB-CD3)を使用して、Crown Bioscience(San Diego,CA)によって製造されたMiXenoマウスモデルの腫瘍異種移植マウスモデルを治療した。詳細には、ヒト末梢血単核細胞を生着させた三重免疫不全マウスに結腸癌細胞株HCT116細胞(EpCAM陽性)を移植し、マウスモデルにおいて腫瘍を誘導した。腫瘍容積が約150mm3に達したところで、腫瘍担持動物を4治療群に無作為化した。これらの4治療群を、陰性対照としてのビヒクル(群1)、陽性対照としての非CAB-CD3ベンチマーク抗体(群2)、多重特異性抗体EpCAM×CAB-CD3(群3)又は陰性対照としてのアイソタイプ対応抗体(群4)で治療した。抗体は、2.5mg/kgの用量で4週間にわたって隔週投与した。非CAB-CD3ベンチマーク抗体は、EpCAMに対する非条件的活性型結合部位と、CD3に対する非条件的活性型結合部位とを含んだ。
【0273】
多重特異性抗体EpCAM×CAB-CD3は、異種移植マウスモデルに完全な腫瘍退縮を生じさせるのに陽性対照非CAB-CD3ベンチマーク抗体と同程度に有効であったが、2つの陰性対照は、これらの陰性対照群のマウスで腫瘍のサイズが増加し続けたため、腫瘍退縮を生じさせることができなかった。
図10を参照されたい。
【0274】
抗CD3抗体には、末梢循環系にT細胞活性化を引き起こすという副作用があり、これは、Meso Scale Discovery(MSD)アッセイを用いて血清INF-γレベルにより測定され得る。多重特異性抗体EpCAM×CAB-CD3は、陽性対照非CAB-CD3ベンチマーク抗体と比較してT細胞活性化の有意な低下を生じさせた。
図11を参照されたい。このように、多重特異性抗体EpCAM×CAB-CD3は、条件的活性型抗CD3抗体成分を有するため、陽性対照非CAB-CD3ベンチマーク抗体との比較において副作用の有意な減少を生じさせたが、しかし、治療効果は、同等であった。
【0275】
本明細書で言及される文献の全ては、全体として且つ少なくともそれらの文献が参照に伴って具体的に依拠又は引用された開示を提供するため、参照により本明細書に援用される。本出願人らは、開示されるいかなる実施形態も公衆に提供することを意図せず、任意の開示される変形形態又は変更形態が文字通りに特許請求の範囲内に含まれない可能性がある限り、それらは、均等論下でその一部と見なされる。
【0276】
しかしながら、本発明の多くの特徴及び利点が本発明の構造及び機能の詳細と併せて前述の説明に示されているとしても、本開示は、例示に過ぎず、詳細に、特に部分の形状、サイズ及び配置の点において、添付の特許請求の範囲が表現される用語の広義の一般的な意味によって指示される完全な範囲に至るまでの本発明の原理の範囲内で変更形態がなされ得ることが理解されるべきである。
【配列表】