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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】打上花火発射用火薬収容部材
(51)【国際特許分類】
   F42B 4/00 20060101AFI20240819BHJP
   F42B 4/30 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
F42B4/00
F42B4/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021150831
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043303
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2024-06-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 有限会社太田紙工が有限会社安藤煙火店(山形県酒田氏栄町3-25)の担当者に太田武明が発明した打上花火発射用火薬収容部材を公開し、販売した(販売日:令和3年8月5日)。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 有限会社太田紙工が株式会社紅屋青木煙火店(長野県長野市大字安茂里差出1075)の担当者に太田武明が発明した打上花火発射用火薬収容部材を公開し、販売した(販売日:令和3年8月20日)。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314008851
【氏名又は名称】有限会社太田紙工
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 武明
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3163405(JP,U)
【文献】特開2014-185845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 4/00
F42B 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射用火薬を収容するための剪頭逆円錐形状の厚紙容器であって、
下方に向かって縮径される側面部と、
該側面部と接続する底面部と、を備え、
前記側面部は、上部帯領域に上端から所定の深さで縦方向の複数の切込みが周設されることにより、打上飛翔体の下面に接着される複数の切込片を備えることを特徴とする打上花火発射用火薬収容部材。
【請求項2】
前記側面部の下端から内側に向かって延び出す延出部を備え、
該延出部の内側には底穴が画定され、
前記底面部は、前記延出部と、該延出部に固定される底板とによって構成される、請求項1の打上花火発射用火薬収容部材。
【請求項3】
前記切込片の1つと、対応する飛翔体の表面の間に点火導線が接着される請求項1又は2の打上花火発射用火薬収容部材。
【請求項4】
前記切込片が特定切込片を有し、当該特定切込片が他の切込片よりも長く設定されている請求項1~3いずれかの打上花火発射用火薬収容部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打上花火の発射用火薬を収容する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の発明は、作業性、安全性を高めるとともに、コストも低減した打上花火発射用火薬収容部材を提供することを目的とし、打上花火発射用火薬収容部材1は、発射用火薬を収容するための無天井、無底の略円筒形状の厚紙容器である。打上花火発射用火薬収容部材1は、この厚紙容器が下方に向かって縮径されたテーパ面3aと、底面から内側に向かって延び出す環状支持部3bと、点火導線を導くための切欠5とを有し、厚紙容器の上面3cに打上飛翔体を載置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3163405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、接着面が無く、現状では花火師が技術力を持って糊がしみ込んだクラフト紙にて打上飛翔体との接着を行うか、もしくは粘着テープで十字に貼り付けるだけとなっており、確実な接着とその安定性は、技術者の腕次第となっており、打上花火発射用火薬収容部材と打上飛翔体の接着力が安定していない状況になることがある。例えば、上記の接着の状態によっては、打上花火発射用火薬収容部材に対して打上飛翔体が正しい位置からズレてしまい、打上飛翔体の打上時の不着火や、発射された打上飛翔体が上空で爆発する高度(以下、開発高度という。)の安定性に影響するおそれがある。
【0005】
図8に示す通り、発射装置200から発射された打上飛翔体の適切な開発高度はBであり、設計通りの花火が得られるが、開発高度よりも早く開花するA、開発高度よりも遅く開花するCの場合、設計通りの花火から変形した不良な開花となるおそれがある。特に、多数の花火を同時に打ち上げる場合、設計した開発高度のバラつきが生じるおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、作業員の技術力を問わず、誰が使用しても、打上花火発射用火薬収容部材と打上飛翔体の接着の作業効率と安全性が高く、安定した開発高度を得られる打上飛翔体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、請求項1の発明は、発射用火薬を収容するための剪頭逆円錐形状の厚紙容器であって、下方に向かって縮径される側面部と、該側面部と接続する底面部と、を備え、前記側面部は、上部帯領域に上端から所定の深さで縦方向の複数の切込みが周設されることにより、打上飛翔体の下面に接着される複数の切込片を備えることを特徴とする打上花火発射用火薬収容部材である。前記側面部と底面部が発射用火薬を支持することにより、収容するものである。複数の切り込みは、上部帯領域の全周にわたって設けられることが好ましい。
【0008】
切込片の面に接着剤を塗り、打上花火発射用火薬収容部材の上に打上飛翔体を置き、その位置を調整することにより、確実に接着でき、尚且つ作業効率の向上が可能な構造となっている。貼り付け工程が単純かつ簡易になったことにより確実に接着でき、技術力の低い職人でも安定して仕上げることが可能になり、作業効率と安全性が高くなる。
【0009】
本発明では打上飛翔体と打上花火発射用火薬収容部材が直接的に接する接着面が広くなるので、開発高度が安定するメリットがある。すなわち、打上飛翔体と打上花火発射用火薬収容部材を強固に接着できるので、火薬の点火から打上飛翔体と打上花火発射用火薬収容部材の分離までの時間を長くして、打上火薬のエネルギーを効率的に打上飛翔体に伝えることにより、開発高度が安定し、打上げられた花火のクオリティが上がる。打上花火構築資材(発射用火薬や導火線)は元々安定性の低いものが多いが、本発明の打上花火発射用火薬収容部材を使うことにより、開発高度の安定といった強みが生まれ、日本の花火技術の向上に繋がる。
【0010】
前記切込みの深さの前記側面部の高さに対する比率が7~36%が好ましい。
【0011】
前記切込みの間隔の周長に対する比率が1.7~6%が好ましい。
【0012】
請求項2の発明は、前記側面部の下端から内側に向かって延び出す延出部を備え、該延出部の内側には底穴が画定され、前記底面部は、前記延出部と、該延出部に固定される底板とによって構成される、請求項1の打上花火発射用火薬収容部材である。延出部が十分に大きい場合には、底板を省略し、延出部だけで底面部を構成してもよい。
【0013】
請求項3の発明は、前記切込片の1つと、対応する飛翔体の表面の間に点火導線が接着される請求項1又は2の打上花火発射用火薬収容部材である。
【0014】
請求項4の発明は、前記切込片が特定切込片を有し、当該特定切込片が他の切込片よりも長く設定されている請求項1~3いずれかの打上花火発射用火薬収容部材である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1~4の発明により、作業員の技術力を問わず、誰が使用しても、打上花火発射用火薬収容部材と打上飛翔体の接着の作業効率と安全性が高く、安定した開発高度を得られる打上飛翔体を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明により、打上火薬を収容している袋が破れることを防止し、安全性を高め、不良な打ち上げを防止できる。
【0017】
請求項3の発明により、切込片と、対応する飛翔体の表面の間に点火導線が接着されるので、点火導線の位置が安定し、開発高度が安定となり、不良玉を防止できる。
【0018】
請求項4の発明により、前記切込片が特定切込片を有し、当該特定切込片が他の切込片よりも長く設定されているので、点火導線の接着が確実である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の打上花火発射用火薬収容部材の斜視図である。
図2】(a)(b)は同じく打上花火発射用火薬収容部材の原材料品の平面図である。
図3】(a)(b)(c)は、同じく製造工程を示す説明図である。
図4】同じく打上花火発射用火薬収容部材が打上飛翔体に接着した状態を示す裏面図である。
図5】(a)(b)は、同じく打上花火発射用火薬収容部材、発射資材及び発射装置の使用方法を示す一部縦断面図である。
図6】同じく図5(a)の拡大図である。
図7】同じく点火から、打上花火発射用火薬収容部材と打上飛翔体の分離までの時間を示すタイムチャートである。
図8】打上飛翔体が爆発する高度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好適な一実施形態である打上花火発射用火薬収容部材1(以下、火薬収容部材1という。)について図1図7を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、火薬収容部材1は、発射用火薬2を収容するための無天井、有底の剪頭逆円錐形状の厚紙容器である。火薬収容部材1は、下方に向かって直径が縮径される、横断面が円形の側面部3と、側面部3と接続する底面部4と、を有し、側面部3の上部帯領域5に上端から所定の深さSで縦方向の複数の切込み6が周設されることにより、複数の切込片7が設けられ、切込片7が打上飛翔体8(以下、飛翔体8という。)の下面8aに接着される(図4参照)ことを特徴とする。以下、各要素を説明する。
【0022】
側面部3のテーパ面3aの下端からは、内側に向かって延出部3bが延び出し、延出部3bの内側には底穴3cが画定され、延出部3bに底板106を接着して底穴3cを被覆することで、底面部4が形成されている(図3参照)。側面部3の高さHは25mm~150mmが好ましい。
【0023】
切込片7の内面に飛翔体8が載置され、接着剤で固定される。飛翔体8の直径Dは75mm~295mm(例えば、花火玉2.5号から10号)が好ましい。大きな直径から小さな直径の打上飛翔体8に対応することができる。
【0024】
切込み6のうち、点火導線10を導入する切込み6aの深さSが、他の切込み6bよりも深くされており、点火導線10用の切込片7aが他の切込片7bよりも長くなっている。点火導線10の接着が確実になる。切込み6aの深さSは10~40mm、切込み6bの深さSは5~20mmが好ましい。切込み6aの深さSは切込み6bの深さSに対し、10~20%、増加させた値であることが望ましい。切込み6aの深さSの側面部3の高さHに対する比率が10~40%、特に25~40%であり、切込み6bの深さSの側面部3の高さHに対する比率が7~36%、特に7~15%であることが好ましい。切込み6aの深さSが12mm、切込み6bの深さSが38mm、高さHが118mm、上記比率がそれぞれ、10%、32%が例示される。
【0025】
切込み6の間隔Cが側面部3の上縁の周長Lの1.7~6%、特に2~5%が好ましい。切込み6の拡開が適度となり、より接着力が高くなる。切込み6の間隔Cは5mm~30mmが好ましい。周長Lは150~800mmが好ましい。
【0026】
図5図6に示すように、発射用火薬2は、火薬2aを袋2bで被覆したものであり、発射用火薬2に点火導線10が導入され、発射用火薬2の上に飛翔体8の導火管8bが載置される。
【0027】
火薬収容部材1の製造方法について、図2図3を参照して説明する。
【0028】
(工程1)厚紙をプレスして、打ち抜き、扇形状の厚紙からなる扇帯板100と、円形の厚紙からなる底板106に型取りする。扇帯板100は上部帯領域5に複数の切込み6が形成され、右端部101から所定距離、離れて差込口102が設けられ、左端部103から差込部104が突出する。扇帯板100の下端部に延出部105が設けられている。円錐角αは150~170°が好ましい
【0029】
(工程2)扇帯板100を丸めて、差込部104を差込口102に差し込むため糊代に糊を塗り、差込部104を差込口102に差し込むことにより、テーパ面3aと底穴3cが形成される(図3(a)参照)。
【0030】
(工程3)火薬収容部材1を上型と下型等を有するプレス型(図示略)に入れ、1回目のプレスにより、延出部105から延出部3bを形成する(図3(b)参照)。
【0031】
(工程4)延出部3bに糊を塗り、プレスされた扇帯板100と、底板106とをプレス型にセットし、2度目のプレスで延出部3bと底板106をプレスして接着することで、底面部4を形成する(図3(c)参照)。底板106を使用せずに、延出部105から形成される延出部3bによって、底面部4を形成してもよい。この場合、工程4は省略できる。
【0032】
火薬収容部材1の使用方法について、図4図6等を参照して説明する。
【0033】
(手順1)点火導線10が差し込まれた発射用火薬2を火薬収容部材1に収容する。
【0034】
(手順2)切込片7の内側面に接着剤を塗布する。
【0035】
(手順3)点火導線10を切込片7aの上に置く。
【0036】
(手順4)飛翔体8を火薬収容部材1と発射用火薬2の上に置く。飛翔体8の導火管8bを発射用火薬2の上に置くと、発射用火薬2が重みで凹む。飛翔体8の自重により、上から切込片7を下方に押しつけることで、切込み6が拡開し、切込片7の弾性復元力が働くので、接着力が高くなる。点火導線10も切込片7aと飛翔体8の間で接着されるので、その位置を安定させることができる。
【0037】
(手順5)火薬収容部材1、発射用火薬2、飛翔体8及び点火導線10を打上筒12に入れて、セットしておく。
【0038】
(手順6)上記(手順5)で打上筒12と、打上筒12にセットされたものを、打ち上げ現場まで輸送する。
【0039】
(手順7)打ち上げ現場で、点火導線10に着火する。
【0040】
このように火薬収容部材1、発射用火薬2、飛翔体8及び点火導線10を打上筒12に入れて、セットしておくので、打ち上げ現場での作業が大幅に省略でき、省力化に多大な貢献ができる。さらにコンピュータ制御により着火制御がされることが多いが、このような打上方式に対して迅速な対応ができる。
【0041】
本実施形態の火薬収容部材1によれば、切込片7の内面に糊を塗り、飛翔体8を置いて、位置を調整し、飛翔体8の自重で、切込み6が拡開し、切込片7と飛翔体8とを確実に接着でき、作業効率の向上が可能な構造となっている。上記糊による貼り付け工程が単純かつ簡易になったことにより、確実に、飛翔体8と火薬収容部材1を接着でき、技術力が低い職人でも安定して仕上げることが可能になり、作業効率と安全性が高くなる。
【0042】
飛翔体8と火薬収容部材1が直接的に接する接着面が広くなるので、飛翔体8の開発高度が安定するメリットがある。すなわち、飛翔体8と火薬収容部材1を強固に接着できるので、図7に示す通り、発射用火薬2の点火から飛翔体8と火薬収容部材1の分離までの時間Tを長くして、火薬2aのエネルギーを効率的に飛翔体8に伝えることにより、開発高度が安定し、打上げられた花火のクオリティが上がる。発射用火薬や点火導線は元々安定性の低いものが多いが、本発明の火薬収容部材1を使うことにより、開発高度の安定といった強みが生まれ、日本の花火技術の向上に繋がる。
【0043】
切込み6の深さSの側面部3の高さHに対する比率が7~36%であり、切込み6の間隔Cの周長Lに対する比率が1.7~6%であるので、切込み6の拡開が適度となり、より接着力が高くなる。
【0044】
底面部4が底穴3cを被覆するので、袋2bが破れることを防止し、安全性を高め、不良玉を防止することができる。
【0045】
切込片7aと、対応する飛翔体8の表面の間に点火導線10が接着されるので、点火導線10の位置が安定し、開発高度が安定となり、不良玉を防止できる。
【0046】
特定の切込片7aが他の切込片7bよりも長く設定されているので、点火導線10の接着作業が容易である。
【0047】
なお、本発明の実施形態は、上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、改変等を加えることができるものであり、それらの改変、均等物等も本発明の技術的範囲に含まれ、該技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることは無論である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・火薬収容部材
2・・・発射用火薬
2a・・・火薬
2b・・・袋
3・・・側面部
3a・・・テーパ面
3b・・・延出部
3c・・・底穴
4・・・底面部
5・・・上部帯領域
6、6a、6b・・・切込み
7、7a、7b・・・切込片
8・・・飛翔体
8a・・・下面
8b・・・導火管
10・・・点火導線
12・・・打上筒
100・・・扇帯板
101・・・右端部
102・・・差込口
103・・・左端部
104・・・差込部
105・・・延出部
106・・・底板
200・・・発射装置
H・・・高さ
L・・・周長
S・・・深さ
D・・・直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8