(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】シールドされた薄型フラットケーブルとその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/08 20060101AFI20240819BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20240819BHJP
H01B 7/282 20060101ALI20240819BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240819BHJP
H01B 13/32 20060101ALI20240819BHJP
H01B 11/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B3/44
H01B7/282
H01B13/00 525H
H01B13/32
H01B11/00 G
(21)【出願番号】P 2021508983
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010258
(87)【国際公開番号】W WO2020195784
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019074427
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518297514
【氏名又は名称】KMT技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】小松 信夫
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-259359(JP,A)
【文献】特開2008-123755(JP,A)
【文献】特開2006-296678(JP,A)
【文献】特開2012-089315(JP,A)
【文献】特開2005-183294(JP,A)
【文献】特開2008-198592(JP,A)
【文献】特開2012-084434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
H01B 3/44
H01B 7/282
H01B 13/00
H01B 13/32
H01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドされた薄型フラットケーブルであって、
金属からなる導体、
当該導体の端子部以外の周囲に密着する絶縁体及び
当該絶縁体の外表面の
短手方向の端面を含め全体に連続して金属膜を有することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記絶縁体が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルの1種以上の樹脂を含み、前記樹脂100重量部に対し、前記絶縁体に含まれる充填剤として石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカの1種以上を10重量部から900重量部含むことを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記絶縁体が、感光性物質を硬化させたものであることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記絶縁体の誘電率が3.5以下、誘電正接が0.003以下および吸水率が0.05%以上であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記導体が多層であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項6】
請求項5に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記シールドされた薄型フラットケーブルの厚さが、多層である前記導体一層当たり10μm~500μmであることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記金属膜が、金、銀、銅、アルミニウムのいずれか1種以上からなる膜であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記絶縁体の前記外表面の前記金属膜を有している部分の面積が前記絶縁体の前記外表面の面積の95%以上であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記金属膜が、前記導体の端子部周辺以外の前記絶縁体の外表面の全面を連続して被覆していることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記導体の端子部の周辺の前記絶縁体の前記外表面に前記金属膜を有することなく、防湿膜を有することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記絶縁体と前記金属膜の間に防湿膜層を設けることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項12】
請求項10に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記防湿膜が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンの少なくとも1種以上からなることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、
前記金属膜が、前記絶縁体表面に設けられた溝の壁面に形成されていることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル。
【請求項14】
シールドされた薄型フラットケーブルの製造方法であって、
金属からなる導体の端子部以外の周囲に密着して絶縁体を設け、
当該絶縁体の外表面の
短手方向の端面を含め全体に連続して金属膜を設けることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記絶縁体が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルの一つ以上の樹脂を含み、前記樹脂100重量部に対し、前記絶縁体に含まれる充填剤として石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカの一つ以上を10重量部から900重量部含ませることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記絶縁体が、感光性物質であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項17】
請求項14乃至請求項16のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記絶縁体の吸水率を0.05%以上又は前記絶縁体の
熱変形温度を60℃から250℃の間とすることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル製造方法。
【請求項18】
請求項14乃至請求項17のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記導体を多層とすることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記シールドされた薄型フラットケーブルの厚さを、多層である前記導体一層当たり10μmから500μmとすることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項20】
請求項14乃至請求項19に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記金属膜が、金、銀、銅、アルミニウムのいずれか1つ以上の膜であることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項21】
請求項14乃至請求項20に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記絶縁体の前記外表面の面積の95%以上に前記金属膜を形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項22】
請求項14乃至請求項21のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記金属膜が前記導体の端子部周辺以外の外周面を連続して被覆していることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項23】
請求項14乃至請求項22に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記導体の端子部の周辺の前記絶縁体の前記外表面に前記金属膜を形成せず、防湿膜を形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項24】
請求項14乃至請求項23に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記絶縁体と前記金属膜の間に防湿膜層を形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項25】
請求項23に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記防湿膜を、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンの少なくとも1つにより形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項26】
請求項14乃至請求項25のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記金属膜を、前記絶縁体表面に設けた溝の壁面に形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項27】
請求項26に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記溝をレーザー光により形成し、形成された前記溝の前記壁面にめっきにより前記金属膜を形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項28】
請求項26に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記溝を露光、樹脂エッチングにより形成することを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【請求項29】
請求項14乃至請求項28のいずれか1項に記載のシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、
前記導体の複数本の端子部以外の周囲に密着して設ける前記絶縁体の外表面に前記金属膜を前記導体と平行に複数列形成したのち、前記導体と平行に前記絶縁体を個片に切り離すことを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールドされた薄型フラットケーブルであって、高密度実装の必要な機器の通信、配線に使用するシールドされた薄型フラットケーブルとその製造方法関する。シールドされた薄型フラットケーブルの用途としては、高密度実装が必要な通信機器、高周波、高速信号を使用する機器等、具体的には、スマートフォン、IoT機器、ADAS関連機器等への利用が想定される。
【背景技術】
【0002】
主にテレビ受像機や無線機とアンテナを繋ぐ給電線、計測機器の接続用、音声信号や映像信号の伝送用、電子機器内部のRF回路及びその周辺に代表される高周波部分や高速伝送線路部分の配線には、芯材がシールド層で覆われた同軸ケーブルが多用されている。
【0003】
一般的に同軸ケーブルの構造は、銅等でできた芯線をポリエチレン等の絶縁体で包み、さらに細い導線を編んだ網状の編組線と呼ばれるシールド層で包み、最後に外側を塩化ビニール等の保護被覆材で覆っているものが多い。編組線が外からの電磁波を遮断するため、ノイズや減衰を抑えることができ、また、内部からの電磁波の漏れも少なくする。伝送周波数範囲は幅広く、直流からミリ波までの伝送ができる(非特許文献1参照)。
【0004】
他方、モバイル機器等では、電子機器等で部品を高密度実装するフレキシブル基板や、機器内部で狭隘な隙間などを通して配線を行うフラットケーブルなどの熱可塑性樹脂からなる樹脂多層基板において、高周波信号を伝送する信号伝送線路として
図9に示すようなトリプレート線路が設けられることがある。トリプレート線路は、樹脂多層基板にライン導体とグランド導体とを設け、ライン導体よりも幅広なグランド導体を、ライン導体の両面に対向させた信号伝送線路である(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。トリプレート線路は、両側にグランド導体が設けられているため、外部からのノイズを抑え、不要放射(不要輻射)が生じにくいといった特徴がある。
【0005】
また、トリプレート線路が設けられていても折り曲げが容易であり、また、折り曲げても伝送特性の劣化が生じ難い樹脂多層基板、および電子機器を提供することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
他方、シールド効果を向上させるため、フラットケーブルに金属箔テープを貼り付けて、フラットケーブルを包み込む方法も行われている(例えば、特許文献4参照)。しかし、このようなフラットケーブルの短手方向は、絶縁体が外気に露出しており、その露出した絶縁体が水蒸気に曝露され、絶縁体の内部まで水蒸気が浸透し、絶縁体は吸湿する。吸湿された水が伝送特性に影響を及ぼす。吸湿率の高い絶縁体は水蒸気の影響を受けやすく、特に、高周波領域でその影響は顕著となり、伝送特性の変化をもたらす。
【0007】
また、長手方向のシールドの強化として、遮蔽テープを巻く方法(例えば、特許文献5および6参照)があるが、シールド層としてシールドフィルムを巻くものであり、シールドフィルムの重なりもしくは接触の部分で、隙間や接触抵抗が発生し、完全なシールドにはならない、また、シールドフィルムの重なり、もしくは接触する部分は粘着層や接着層といった有機物が外気に露出するため、絶縁体は吸湿する。
【0008】
上記のように吸湿により絶縁体は、電気特性が変化し、それによりケーブルの伝送特性が変化する。特に高周波や高速信号を扱う場合は、吸湿による伝送特性への影響が顕著である。
【0009】
長手方向を継ぎ目のないシールド膜を銅めっきで形成するフラットケーブルも提案されている(例えば、特許文献7)。しかし、短手方向は、切断して個片化するため、その断面はめっき処理がなく導体と絶縁体が露出する。すなわち短手方向の端面は湿度の影響を受けるため、そこから水蒸気が侵入する。そのため、この場合、伝送特性の安定が必要なフラットケーブルでは、絶縁体として吸湿性の高い樹脂を使用するには制限が必要となる。また、他の部品と接続するためには、改めて端子の形成が必要となる。
【0010】
また、最近の5G通信に代表される通信の高周波化や半導体の伝送速度の高速化により、伝送線路の低損失化が求められている。そして伝送損失の小さい絶縁体が求められる。例えば、ポリエチレン、ポリスチレンやポリプロピレンといった炭化水素系の汎用樹脂は伝送損失が小さく、加工性もよく、さらに安価であるため、上記の高周波化や伝送速度の高速化には適した材料である。しかし、耐熱性と難燃性が要求される携帯機器や車載機器では、これらの材料は耐熱性や難燃性に欠けるために使用しにくい。このため、現状では、高周波、高速伝送用途では、耐熱性の高いフッ素樹脂、液晶ポリマー等の耐熱性の高い絶縁体が使用されている。
【0011】
さらに、導体に銅線を用いるフラットケーブルでは、長手方向に同じ形状しか形成できず、複数導体を持つフラットケーブルの場合、平面性を保持したまま折れ曲がった形状を形成することが困難である。昨今の、スマートフォンに代表されるモバイル機器は、フラットのまま曲線を形成できるフラットケーブルが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2011-71403号公報
【文献】特開2017-188307号公報
【文献】国際公開WO2014/156422号
【文献】特開2010-182576号公報
【文献】特開平5-242736号公報
【文献】国際公開WO2016/104066号公報
【文献】特開昭61-131306号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】ダイヤトレンド株式会社、用語集、同軸ケーブル
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年のスマートフォンに代表されるモバイル機器では、ディスプレイ、カメラ等の高機能化やアプリケーションの進化に伴うアプリケーションプロセッサーの回路規模の増大化や伝送速度の高速化に伴うバッテリーの大型化が進み、限られた筐体の内部にこれらの機能、部品を納めることが難しくなってきている。他方、スマートフォンで扱う無線の種類も増加しており、アンテナと機器をつなぐ配線や部品とメイン基板をつなぐ配線は、増加している。
【0015】
現在、スマートフォンを含むモバイル機器内部のカメラ及びディスプレイ等の部品とメイン基板との配線は、フレキシブル配線板が多用されている。他方、RF部分は同軸ケーブルを使用するのが一般的である。スマートフォンに代表されるディスプレイを搭載する機器では、ディスプレイは大型化の傾向があるため、スマートフォンを小型化、軽量化するためには、厚み方向の薄型化が重要になる。しかし、同軸ケーブルは薄型化が難しく、最近では、同軸ケーブルの太さが、機器の実装設計の障害になることが発生している。すなわち、厚みに制限のある機器に実装するためには、ケーブルの薄型化が必要である。
【0016】
この対応のため、液晶ポリマーに代表される低伝送損失の樹脂を使用したトリプレート線路やマイクロストリップ線路を持つ薄型の配線板も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この配線板はフレキシブル配線板と同様の回路形成ができるため、複数の信号線を一つの配線板で処理できるため、今後のモバイル機器への貢献が期待されている。
【0017】
一方、液晶ポリマーのような低伝送損失の樹脂を使用したトリプレート線路やマイクロストリップ線路を持つ薄型の配線板は、同軸ケーブルと比較すると、シールドが完全でなく、ビアで上下のグランドを接続するためグランド安定にも限界があり、更なる高周波化、高速化に向けては、低伝送損失やEMIシールド性に懸念がある。
【0018】
また、低伝送損失材の樹脂も外気からの影響があるため、例えば、低誘電ポリイミド樹脂は優れた伝送特性を持っているが、吸湿率が高く、伝送特性が湿度に影響されるため、現状のRF部分での使用には向かない。つまり、上記トリプレート線路やマイクロストリップ線路を持つ薄型の配線板では、湿度の影響が少ない樹脂の選択が必要で、使用できる樹脂に大きな制限がある。また、今後高周波領域の使用が進む場合、更なる伝送特性の安定化が求められるため、外気からの水蒸気の影響を極小化する必要がある。
【0019】
特に、低誘電ポリイミド樹脂や空気を含むような樹脂は、空気中の水蒸気の浸透より吸湿するため、電気特性が大きく変化する。そのため、現状のFFC(Flat Flexible Cable)では使用が難しく、もっぱらPTFEもしくはLCPが使用されている。しかし、これらの樹脂は高価であり、高温での加工が必要で接着性にも乏しいため生産性が悪く使用範囲が限られる。
【0020】
他方、ポリエチレンとその共重合体、ポリプロピレンとその共重合体、ポリスチレンとその共重合体は、誘電損失の小さい樹脂であり、熱可塑性で加工性も優れているが、耐熱性が低いため従来のフラットケーブルには樹脂単体として絶縁体に使用することができない。
【0021】
高周波ケーブルの絶縁体としてポリエチレンとその共重合体、ポリプロピレンとその共重合体、ポリスチレンとその共重合のような誘電損失の小さい樹脂に、誘電損失の小さい充填剤を配合分散して、耐熱性を向上させ低伝送損失材を得ることも可能であるが、その場合、上記樹脂と上記粉末に水蒸気が浸入し、電気特性に影響を及ぼす。すなわち、誘電損失の小さい樹脂に誘電損失の小さい充填剤を配合分散して、高周波ケーブルの絶縁体として使用する場合は、外気から水蒸気による吸湿の影響を受けないフラットケーブルの構造と製法が必要である。
【0022】
フラットケーブルの短手方向は、絶縁体が外気に露出しており、その露出した絶縁体から水蒸気が浸入するため、絶縁体の内部まで水蒸気による吸湿が発生し、伝送特性に影響を及ぼす。吸湿率の高い絶縁体は水蒸気の影響を受けやすく、特に、高周波領域でその影響は顕著となり、伝送特性の変化をもたらす。
【0023】
また、長手方向のシールドの強化として、遮蔽テープを巻く方法(例えば、特許文献5および6参照)があるが、シールド層としてシールドフィルムを巻くものであり、シールドフィルムの重なりもしくは接触する部分で、隙間や接触抵抗が発生し、完全なシールドにはならない。また、シールドフィルムの重なりもしくは接触の部分は粘着層や接着層といった有機物が外気に露出するため、絶縁体は水蒸気の浸透による吸湿が発生する。
【0024】
上記のように、外気の水蒸気の浸透により発生する吸湿のため、絶縁体は電気特性が変化する。このことによりケーブルの伝送特性が変化するため、特に高速伝送や高周波伝送用途にはフラットケーブルの絶縁体として吸湿する絶縁体は好ましくない。導体を被覆する絶縁体は水蒸気の影響をなくす必要がある。特に高周波や高速信号を扱う場合は、吸湿による伝送特性への影響が顕著である。
【0025】
長手方向を継ぎ目のないシールド膜を銅めっきで形成するフラットケーブルも提案されている(例えば、特許文献7)。しかし、短手方向は、切断して個片化するため、その断面はめっき処理がなく導体と絶縁体が露出する。すなわち短手方向の端面から水蒸気が浸透するため、吸湿性の高い樹脂を使用することはできない。また、他の部品と接続するためには、改めて端子の形成が必要となる。
【0026】
銅線を導体として用いるフラットケーブルでは、長手方向に同じ形状しか形成できず、複数導体を持つフラットケーブルの場合、平面性を保持したまま折れ曲がった形状を形成することが困難である。昨今の、スマートフォンに代表されるモバイル機器は、フラットのまま曲線を形成できるフラットケーブルが望まれている。
【0027】
フラットケーブルは製品の実装時に、はんだ付け等による熱の影響をうける。通常は250℃程度の熱がフラットケーブルにもかかるため、フラットケーブルの絶縁体は、耐熱性が必要である。しかし、絶縁体が溶融しにくい構造もしくは、軟化しても変形しない構造であれば、耐熱性の低い絶縁体を使用することができ、これもまた、絶縁体の材料選択肢を広げることになる。
【0028】
また、さらにフラットケーブルは一般に難燃性が要求される。誘電損失の小さいポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンといった汎用樹脂は、難燃性が劣るため、そのままでは、難燃性が必要な用途には使用できない。このため、現状では、高周波、高速伝送用途では、難燃性の高いフッ素樹脂や液晶ポリマー等の耐熱性の高い絶縁体が使用されているが、加工性が悪く高価である。このため、安価で、加工性の良い樹脂の使用が求められている。
【0029】
フラットケーブルに金属箔テープのようなシールドテープを貼り付けて、シールド性を向上させる方法も行われているが、この方法では、フラットケーブルを完全に被覆することは難しく、嵌合部やシールドテープの接着剤端面が露出するため、外気の影響を受けやすい。また、厚み方向や壁面での寸法が安定しないため、伝送特性への影響がある。さらに、モバイル機器では、二股に分かれたような複雑形状のフラットケーブルも必要な場合があるが、金属箔テープを貼り付ける方法では、例えば
図8のような複雑な形状のフラットケーブルの製造は困難である。
【0030】
以上のことより、厚さ方向の実装スペースが限られた機器の実装に対応し、高周波通信、高速通信が可能なケーブルが求められている。本発明は、以上の課題を解決すべく、安定した伝送線路で、実装性の良い薄型で、かつシールド性の優れたフラットケーブルとその製造方法を提供するものである。さらに、絶縁体の選択範囲を広げることも求められている。本発明では、外部環境に左右されにくい構造を持つフラットケーブルを提供することで、絶縁体の選択範囲を大幅に広げるものである。
【0031】
また、金属テープを貼り合わせる方法よりも、複雑な形状への対応が可能で、伝送特性が安定し、シールド性の優れた、薄型化が可能なフラットケーブルとその製造方法が必要とされている。
【0032】
また、近年フラットケーブルの製造において、層間の接続に導電ペーストを用いる方法が提唱されている。一括で複数の層の積層が可能であるが、高速伝送の場合、導体からなる信号線と金属からなるシールド層の間に適正な距離が必要で、導体からなる信号線と金属からなるシールド層の間に絶縁体としての複数枚又は単体で厚みのあるフィルムが必要である。導電ペーストでのフラットケーブルの製造は、金属からなるシールド層と一体化する導電ペーストにより絶縁体と金属からなるシールド層の接続を一度に行うため、導通信頼性の確保が難しく、高度な技術が必要である。この層間の接続に導電ペーストを用いる方法も、トリプレート構造のため、前述と同じ課題がある。
【0033】
すなわち、高速伝送や高周波伝送用のフラットケーブルでは、薄型可撓性といったフラットケーブル本来の特性以外に、以下の内容が要求されている。外気からの吸湿の影響を受けず、安定した伝送特性を有する伝送線路であること。電磁波シールド効果が高いこと。はんだ付け等に耐える耐熱性を有すること。難燃性を有すること。生産性が良く、安価な材料が使用できること。
【0034】
本発明は、外気からの吸湿の影響を受けず安定した伝送特性を有し、電磁波シールド効果が高く、はんだ付け等に耐える耐熱性を有し、難燃性を有し、生産性が良く安価な材料が使用でき、複雑な形状にも対応が可能なシールドされた薄型フラットケーブルとその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルは、金属からなる導体、当該導体の端子部以外の周囲に密着する絶縁体及び当該絶縁体の外表面の短手方向の端面を含め全体に連続して金属膜を有することを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記絶縁体が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルの一種以上の樹脂を含み、前記樹脂100重量部に対し、前記絶縁体に含まれる充填剤として石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカの1種以上を10重量部から900重量部含むと好適である。
【0037】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記絶縁体が、感光性物質を硬化させたものであると好適である。
【0038】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記絶縁体の誘電率が3.5以下、誘電正接が0.003以下および吸水率が0.05%以上であると好適である。
【0039】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記導体が多層であると好適である。
【0040】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記シールドされた薄型フラットケーブルの厚さが、多層である前記導体一層当たり10μm~500μmであると好適である。
【0041】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記金属膜が、金、銀、銅、アルミニウムのいずれか1種以上からなる膜であると好適である。
【0042】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記絶縁体の前記外表面の前記金属膜を有している部分の面積が前記絶縁体の前記外表面の面積の95%以上であると好適である。
【0043】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記金属膜が、前記導体の端子周辺以外の前記絶縁体の外表面の全面を連続して被覆していると好適である。
【0044】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記導体の端子部の周辺の前記絶縁体の前記外表面に前記金属膜を有することなく、防湿膜を有すると好適である。
【0045】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記絶縁体と前記金属膜の間に防湿膜層を設けると好適である。
【0046】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記防湿膜が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンの1種以上からなると好適である。
【0047】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルにおいて、前記金属膜が、前記絶縁体表面に設けられた溝の壁面に形成されていると好適である。
【0048】
本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法は、金属からなる導体の端子部以外の周囲に密着して絶縁体を設け、当該絶縁体の外表面の短手方向の端面を含め全体に連続して少なくとも一部に金属膜を設けることを特徴とする。
【0049】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記絶縁体が、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルの1種以上の樹脂を含み、前記樹脂100重量部に対し、前記絶縁体に含まれる充填剤として石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカの1種以上を10重量部から900重量部含ませると好適である。
【0050】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記絶縁体が、感光性物質であると好適である。
【0051】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記絶縁体の吸水率を0.05%以上又は前記絶縁体の熱変変形温度を60℃から250℃の間とすると好適である。
【0052】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記導体を多層とすると好適である。
【0053】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記シールドされた薄型フラットケーブルの厚さを、多層である前記導体一層当たり10μmから500μmとすると好適である。
【0054】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記金属膜が、金、銀、銅、アルミニウムのいずれか1種以上の膜であると好適である。
【0055】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記絶縁体の前記外表面の面積の95%以上に前記金属膜を形成すると好適である。
【0056】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記金属膜が前記導体の端子部周辺以外の外周面を連続して被覆していると好適である。
【0057】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記導体の端子部の周辺の前記絶縁体の前記外表面に前記金属膜を形成せず、防湿膜を形成すると好適である。
【0058】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記絶縁体と前記金属膜の間に防湿膜層を形成すると好適である。
【0059】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記防湿膜を、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンの少なくとも1つにより形成すると好適である。
【0060】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記金属膜を、前記絶縁体表面に設けた溝の壁面に形成すると好適である。
【0061】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記溝をレーザー光により形成し、形成された前記溝の前記壁面にめっきにより前記金属膜を形成すると好適である。
【0062】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記溝を露光、樹脂エッチングにより形成すると好適である。
【0063】
また、本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法において、前記導体の複数本の端子部以外の周囲に密着して設ける前記絶縁体の外表面に前記金属膜を前記導体と平行に複数列形成したのち、前記導体と平行に前記絶縁体を個片に切り離すと好適である。
【発明の効果】
【0064】
本発明のシールドされた薄型のフラットケーブルは、高周波伝送及び高速伝送が必要な伝送線路において、低伝送損失を可能とする。また、本発明のシールドされた薄型のフラットケーブルは、絶縁体の外表面が金属で覆われている構造を持つため、金属のバリア性により絶縁体への外気からの水蒸気の浸透が低減される。また、絶縁体に充填剤を配合することにより、はんだ耐熱性等の耐熱性及び難燃性が向上する。したがって、本発明のシールドされた薄型のフラットケーブルは、外部環境の影響を受けにくく、伝送性能を高め、使用する樹脂の選択肢が広がることにより、低価格化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型のフラットケーブルを示し、(A)は斜視図を、(B)はシールドされた薄型のフラットケーブルの導体が存在する部分の斜視断面図を、(C),(D),(E)は導体の端子部を、(AW)はシールドされた薄型のフラットケーブルの端部の拡大斜視図を示す。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの製造工程を示す。
【
図3】本発明の実施の形態2に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの製造工程を示す。
【
図4】本発明の実施の形態3に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【
図5】本発明の実施の形態に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【
図6】本発明の実施の形態4に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【
図7】本発明の実施の形態に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの積層体の構造を示す。
【
図8】本発明の実施の形態に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【
図9】比較例の形態に係るトリプレート構造のシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【
図12】本発明の実施例4に係るシールドされた薄型のフラットケーブルの構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本願発明に係るシールドされた薄型のフラットケーブルは、金属からなる導体、導体の端子部以外の周囲に密着する絶縁体及び絶縁体の外表面の少なくとも一部に金属膜を有する。絶縁体は導体を保護し、金属層は導体をシールドする。
【0067】
また、本願発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造方法は、金属からなる導体の端子部以外の周囲に密着して絶縁体を設け、絶縁体の外表面の少なくとも一部に金属膜を設ける。
【0068】
高周波伝送用及び高速伝送用のフラットケーブルでは、薄く可撓性を有するというフラットケーブル本来の特性以外に、以下の内容が要求されている。吸湿等の外気の影響をなくし、物理的および電気的特性が安定した伝送線路であること。電磁波シールド効果が高いこと。はんだ付け等に耐える耐熱性を有すること。難燃性があること。生産性が良く、安価な材料が使用できること。
【0069】
図9は現在の代表的なフラットケーブルの構造であり、本発明の比較例である。絶縁体106が外気に露出しているため、樹脂そのものが、防湿、耐熱、難燃性を兼ね備える必要がある。
【0070】
本発明は、従来のフラットケーブルの上記の要求性能を大幅に改善するものである。すなわち、本発明に係るシールドされた薄型のフラットケーブルは、導体の端子部周辺を除き金属膜からなるシールド膜を連続して絶縁体の外表面全体に形成するため、絶縁体の吸湿等による外気の影響がなく、安定した電気的特性を有する伝送線路であり、電磁波シールド効果も高い。
【0071】
また、絶縁体の外表面に形成される金属膜のバリア性能により、絶縁体への水蒸気の浸透が少なく、吸湿率の高い樹脂も絶縁体への使用が可能となる。また、同時に、はんだ耐熱性等の耐熱性及び難燃性も向上する。すなわち、絶縁体として使用する樹脂の選択の幅が広くなる。
【0072】
低伝送損失が要求される伝送線路では、誘電率および誘電正接が低く、ドリフトを引き起こす吸水率も低いことが要求さるが、本発明は絶縁体の吸水率が高くても吸湿が少ない構造のため、低損失を要求する用途にも使用ができる。
【0073】
低伝送損失用途では、絶縁体は、誘電率が3.5以下、誘電正接は0.003以下が好ましい。吸水率は0.05%以上であっても構わない。前述の従来のフラットケーブルでは、吸水率は0.05%より小さいことが求められるが、本発明は0.05%以上でも良好に使用できる。
【0074】
本発明は、絶縁体として耐熱性の低い樹脂に分散助剤なしに充填剤を配合し、絶縁体の耐熱性を向上させ、耐熱性の低い樹脂のはんだ耐熱性を向上させる。樹脂に充填剤を分散させる場合、通常、分散のため金属石鹸等の分散助剤を配合することが行われるが、分散助剤により伝送特性が低下してしまう問題がある。また、分散助剤を使用しない場合は、樹脂と充填剤の間に微小な隙間が発生し、フラットケーブルの絶縁体が外気に露出している場合、露出部を通って、水蒸気が樹脂と充填剤の隙間に浸入することで、経時的に伝送特性が変化する。
【0075】
本発明では、比較的耐熱性の低い樹脂に分散助剤なしに充填剤を配合しても、外気からの水蒸気の浸透が少ないため、耐熱性向上の目的で分散助剤なしで充填剤を配合し、耐熱性を向上させた樹脂配合物を絶縁体として使用することができる。すなわち、絶縁体として使用する樹脂および充填剤の選択範囲が広がるため、安価で生産性の良い樹脂および充填剤を選択することができる。
【0076】
また、導体の端子部の金属膜を有していない部分に防湿膜を形成することにより、さらに水蒸気の影響をほとんど受けなくなるため、吸湿性の高い絶縁体や空気を含む絶縁体の使用も可能となる。本発明により外気の影響を受けず高周波領域でも安定した伝送特性を得ることができ、高いシールド効果があり、実用に耐える耐熱性と難燃性を有するシールドされた薄型のフラットケーブルを得ることができる。
【0077】
特に、低誘電率ポリイミドや空気を含むような樹脂は、水蒸気による吸湿により電気特性が大きく変化するため、現状のFFC(Flat Flexible Cable)では使用が難しく、もっぱらPTFEもしくはLCPが使用されているが、それらの樹脂は材料費が高く、高温での加工が必要で、接着性にも乏しいため、生産性が悪く、用途が限られる。
【0078】
他方、例えば、低誘電損失材料の一種である高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルは、熱可塑性で加工性もすぐれているが、耐熱性が低いため、はんだ付け等の耐熱性を必要とする用途では、従来のフラットケーブルには、樹脂単体として絶縁体に使用することができない。
【0079】
高周波ケーブルの絶縁体として誘電損失の小さい樹脂に、誘電損失の小さい充填剤を配合して、耐熱性を向上させ、低伝送損失の絶縁体を得ることも可能であるが、その場合、樹脂と充填剤に水蒸気が浸透し、電気特性に影響を及ぼす。
【0080】
すなわち、伝送損失に影響する分散助剤を使用せずに、誘電損失の小さい樹脂に低伝送損失である充填剤を配合して、高周波ケーブルの絶縁体として使用する場合、外気からの吸湿による影響を受けないフラットケーブルの構造と製造方法が必要である。本発明は、上述の通り、絶縁体の外表面に形成する金属膜のバリア性により外気からの吸湿による影響をほとんど受けないため、吸湿を懸念することなく、樹脂と充填剤の組み合わせを選ぶことができる。誘電損失の小さい樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルが好適であり、これらの1種以上を含むことが好ましい。また、誘電損失の小さい充填剤としては、石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカが好適であり、これらの1種以上を含むことが好ましい。
【0081】
本発明の絶縁体に含まれる樹脂100重量部に対し、絶縁体に含まれる充填剤が10重量部から900重量部であると好適である。充填剤が900重量部を超える場合は、樹脂と充填剤の分散が悪く保形性も悪いため絶縁体の加工が困難となる。充填剤の合計が10重量部未満の場合は、充填剤による耐熱性向上が不十分である。
【0082】
また、樹脂と充填剤は各々複数の種類から選択して配合することが可能である。また、樹脂と充填剤以外に、粘度調整剤、滑剤、難燃剤といった添加剤を誘電特性が低下しない範囲で適宜配合できる。
(実施の形態1)
【0083】
本発明に係るシールドされた薄型フラットケーブルの実施の形態1の構成を説明する。
図1は本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型のフラットケーブル101を示し、(A)は斜視図を、(B)はシールドされた薄型のフラットケーブル101の導体が存在する部分の斜視断面図を、(C),(D),(E)は導体204の端子部を、(AW)はシールドされた薄型のフラットケーブル101の端部の拡大斜視図を示す。
図1(A)に示すようにシールドされた薄型のフラットケーブル101は導体204の端子部が露出する端子露出部103及び導体204が存在する導体部102から構成される。
図1(B)に示すように、金属からなる導体204の端子部以外の周囲は絶縁体106が導体204に密着している。シールドされた薄型のフラットケーブル101は導体204の端子部以外を金属膜202により被覆されている。
図1(AW)に示すように、シールドされた薄型のフラットケーブル101の短手方向の端面も金属膜202を有する。導体204は、端子露出部103以外、絶縁体106に包まれ、絶縁体106も導体204の端子露出部103以外は、シールド層である金属膜202により連続して被覆されている。
【0084】
シールドされた薄型フラットケーブル101厚さは、10μm~500μmであることが好適である。10μm未満では伝送損失が大きくなり、500μmを超えると薄型フラットケーブルとしての薄さの優位性がなくなり、実装性も悪くなる。
【0085】
図1(C),(D),(E)に端子露出部103の端子部を示す。端子部では、導体204はビアホールを介して導体電極105に接続されている。導体電極105は、外部素子等との接続のためのもので、コネクター接続端子、コネクター固定用のはんだ付け端子やACF接続のための端子として使用する。上記の目的を果たすため、導体電極105の表面には、はんだ、金めっきやOSP等の表面処理を必要に応じて行ってもよい。導体電極105の周辺は、金属膜202が形成されていない絶縁体106により、導体電極105から導電しないような構造としている。端子となる導体電極105の形状は円形、方形等どのような形状でも構わない。また、導体電極105の数は複数であっても構わない。
【0086】
本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型フラットケーブルの製造工程を
図2により説明する。
図2(F)は絶縁体106の両面に金属膜202A及び202Bを形成した積層体を示す。金属膜202を形成する金属は、電気伝導度の良好なものを使用し、特に、金、銀、銅、アルミニウムが好ましいが、銅が好適である。屈曲性と導電性を考慮すると、圧延銅が最も好適である。金属膜202の電気抵抗率は1μΩ・m以下が好ましい。金属膜202の厚さは、3μm~75μmが好ましい。3μm未満ではピンホールやキズが発生し、絶縁体106のバリア性を保てない。また、75μmを超えると溝開け、穴あけが困難となり、フラットケーブル製造工程上で問題が発生する。
【0087】
また、絶縁体106は熱硬化性や熱可塑性の樹脂といった市販の樹脂を使用できるが、特に高周波用線路用途の場合、フッ素系樹脂、液晶ポリマー、ポリイミド、PET、PEEK、COC,COB、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルが例示できる。高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテルが好適である。
【0088】
絶縁体106の厚さは、20μm~480μmが好適である。20μm未満では伝送線路の伝送損失が大きくなり、480μmを超えると、フラットケーブルとしての薄さの優位性がなくなり、実装性も悪くなる。
【0089】
さらに、絶縁体106は味の素株式会社製ABFシリーズ、日立化成株式会社ASシリーズ、積水化学工業株式会社製絶縁フィルム等も使用できる。
【0090】
また、絶縁体106は、電気特性や物理特性の調整のため、前記の熱硬化性及び熱可塑性樹脂に無機充填剤や有機充填剤等を含んだ配合物でも構わない。無機充填剤としては、硫酸バリウム、石英ガラス、シリカ、タルク、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、シリカバルーン、中空ガラスバルーン、窒化アルミニウムが好適である。有機充填剤としては、PPパウダー、PEパウダー、PPEパウダー、エポキシパウダー、アクリルパウダーが例示できる。低伝送損失充填剤としては、前述のように石英ガラス、酸化アルミニウム、中空ガラスバルーン、酸化マグネシウム、シリカが好適である。
【0091】
図2(F)に示す積層体として、例えば、市販のFCCL(Flexible Cupper Clad Laminate)及びCCL(Cupper Clad Laminate)の使用も可能である。例えば、新日鉄住金化学株式会社製エスパネックスやパナソニック株式会社製フェリオス等が使用できる。
【0092】
積層体は絶縁体106Aに絶縁ペーストを塗布し、又は絶縁フィルムを貼り付け、さらにペースト面又は絶縁フィルム面に金属膜202としての例えば銅箔を張り合わせることにより得られる。また、絶縁体106Aの両面に銅箔を熱圧着する方法で得ることができる。絶縁フィルムとして、日立化成株式会社製ASシリーズや味の素株式会社製ABFシリーズ、積水化学工業株式会社製絶縁フィルム等も使用できる。伝送特性をさらに良くするため、後に導体204となる金属膜202Bの表面粗度は小さいほうが好ましい。表面粗度Rzは 3.0μ以下が、伝送特性上好ましい。
【0093】
図2(G)は導体204を形成する工程を示す。プリント配線板常用の工法が使用できる。レジスト層形成、エッチングマスク形成、露光、現像、エッチング、エッチングマスク剥離といった手順で、金属膜202Bの導体204となる部分以外を除去し、導体204を形成することができる。導体204の幅は伝送特性に大きな影響を与えるため、幅の管理は精密に行う必要がある。また、導体204の線幅精度を向上させるため、MSAP工法(Modified Semi Additive Process)を用いることも可能である。さらに伝送特性をよくするため、導体204に金めっきや銀めっきを施しても構わない。
【0094】
本発明に係る伝送線路はストリップ線路の構造であるため、導体204の特性インピーダンスは、導体幅、導体厚さ、絶縁体厚さ、絶縁体の誘電率等で決まる。すなわち、所望のインピーダンスを得るため、通常は導体幅を調整する。本発明の導体204の幅は0.01mm~10mmが好ましく、さらに0.2mm~5mmが好適である。導体幅が0.01mm未満では、導体幅の仕上がり寸法精度の管理が難しい。そのため、インピーダンスの整合が難しく導体として好ましくない。また、導体幅が0.01mm未満では導体損失が大きくなり、これも伝送線路として好ましくない。逆に、導体幅が、10mmを超える場合、所望の特性インピーダンスを得るための絶縁体106の厚さが厚くなり、薄さを追求するフラットケーブルには適さない。
【0095】
導体204の厚さは、1μm~75μmが好ましい。導体損失と表皮効果により、1μm未満では電気信号が効率よく伝わらない。また、1μm未満では折り曲げ時に導体の破断が発生する可能性が大きい。逆に75μmを超えると導体製造上、導体幅の精度を出しにくく、さらに導体を包むための絶縁体106が厚くなり、薄さを追求するフラットケーブルには適さない。
【0096】
図2(H)は、絶縁体106Aおよび導体204の上に、絶縁体106Bと金属膜202Cを順に形成した図である。絶縁体106Bの材料は絶縁体106Aと同一でも構わない。また、異なる材料の絶縁体を使用しても構わない。絶縁体106Bの形成は、熱可塑性樹脂フィルム又はBステージ樹脂を熱圧着する方法、又は熱硬化樹脂を塗布し、熱硬化する方法を用いることができる。
【0097】
金属膜202Cは金属膜202Aと同様の金属を使用することが好ましい。金属膜202Cを形成する方法は、絶縁体106Bを形成した後、金属膜202Cを順次形成しても、絶縁体106Bと金属膜202Cを同時に形成しても構わない。
【0098】
図2(I)は、導体204の両側面側に沿って、導体204と平行に線状の溝206を形成する工程を示す図である。
【0099】
線状の溝206の形成は、絶縁体106の下面の金属膜202Aを貫通することなく金属膜202Cと絶縁体106を線状に切断できる装置により行う。例えば、切断は金属膜202及び絶縁体106にレーザーの照射、プラズマの照射、サンドブラスト等により行う、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等のレーザー加工機、プラズマ加工機、サンドブラスト等を備える装置が使用できる。加工速度が速いことからレーザー加工機が好ましい。また、あらかじめ、エッチングにより金属膜202Cを除去した後、上記レーザー加工機等を使用して溝206を形成しても構わない。
【0100】
図2(J)に示すように、溝206を形成すると同時に、導体204を金属膜202Cの外部と導通するためのビアホールとしての孔207を形成することができる。
図2(J)は端子部の断面図で、溝206形成と同時に、レーザー加工等溝206の形成と同様な方法で、電極引き出しのための孔207を形成することができる。
図7は、
図2(J)の上面図で、溝206と孔207を形成するときの概略の位置関係を示す。溝206の形成は、シールドされた薄型フラットケーブル101の外周形状を決定し、長手短手を含むすべての端面を形成するため、本発明において重要な工程である。
【0101】
図2(K)は、
図2(I)の状態の溝206に金属膜202Dを形成する工程を示す。
図2(L)は、同時に
図2(J)の孔207に金属体を形成し、導体204から導通を引き出すためのビアホール208を設ける工程を示す。
【0102】
金属膜202Dおよびビアホール208の金属体の形成は、金属めっき法が適しており、通常、金属膜202の清浄化、絶縁体106以外の表面の導電化、金属めっきの順で行われる。本発明の金属膜202Dを形成する金属めっきにより、本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101の外周面の全体を連続被覆する金属膜202が形成される。
【0103】
金属めっきはデスミア処理、触媒形成、無電解めっき、電解めっき等の方法により行われる。デスミア処理は、金属膜面にスミアとの異物が残った場合に必要で、金属膜面が清浄の場合は不要である。デスミア処理は、プラズマによる乾式方法と過マンガン酸等の酸化剤による湿式方法があるが、本発明では、吸水を防ぐ観点から乾式法のほうが優れている。
【0104】
触媒形成、無電解めっき、電解めっきの方法は、例えば、ATOTECH社、株式会社JCU、DOW CHEMICAL社、上村工業株式会社、奥野製薬工業株式会社、マクダーミッド・エンソン社等の薬液システムで行うことができる。また、吸湿を最小にするため、湿式の触媒形成の代わりに、スパッタ等の乾式で絶縁体表面に金属膜202を設けても構わない。
【0105】
図2(M)及び
図2(N)は、
図2(K)及び
図2(L)に示す積層体の金属膜202の一部を除去する工程を示す。金属膜202の除去は、導体電極105の形成および不要な絶縁体106を切断するために行う。金属膜202の除去は、
図2(G)の導体204の形成と同様の方法で行うことができる。すなわち、エッチングマスク形成、レジスト層形成、露光、現像、エッチング、エッチングマスク剥離といった手順で金属膜202の不要な部分を除去し、所望の形状を形成することができる。
【0106】
金属膜202は、金、銀、銅、アルミニウムであることが好ましいが、銅がさらに好適である。めっきで設けられる金属膜202の厚みは、3μm~100μmが好ましい。3μm未満ではピンホールやキズが発生し、内部のバリア性を保てない。また、100μmを超えるとメッキ時間が長くなり作業板の反りといった製造工程上で問題が発生する。
【0107】
導体電極105の周辺は、絶縁体106が外気に露出する部分となる。本発明では、絶縁体106の導体電極105の周辺の露出部分の面積を最小化することが重要である。露出部分の面積が多い場合は、外気の水蒸気により絶縁体が吸湿し、伝送特性が吸湿の影響を受けやすくなる。金属膜202が形成されない絶縁体106の露出部分は、絶縁体106の全体の表面積の5%以下にする必要がある。すなわち、絶縁体106の全表面積の95%以上は金属膜202を有している。95%未満の場合は、伝送特性が外気の水蒸気による吸湿の影響を受け易くなる。
【0108】
図2(O)及び
図2(P)は、
図2(M)及び
図2(N)に示す積層体の金属膜202表面に、絶縁層となるソルダーマスク211を形成する工程を示す。ソルダーマスク211には、導体電極105およびグランド電極107等を露出させるために、必要に応じ開口を設けることができる。ソルダーマスクの形成方法は、プリント配線板製造で常用される方法が使用できる。具体的には、ソルダーマスクインクを写真法やシルクスクリーン印刷により形成する方法、フィルム状ソルダーマスクをラミネート法で形成する方法等を用いることができる。ソルダーマスクインクの例としては、太陽インキ製造株式会社製PSRシリーズ、株式会社タムラ製作所製PAFシリーズ及びDSRシリーズ、サンワ化学工業株式会社製SPSRシリーズ等及びフィルム状ソルダーマスクとしては、日立化成株式会社製レイテック、太陽インキ製造株式会社製PSRシリーズ等が使用できる。
【0109】
図2(Q)および
図2(R)は、
図2(O)及び
図2(P)を切断し、個片化する工程を示す。
図2(O)及び
図2(P)を切断し、個片化することにより本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101を得ることができる。個片への切断は、フレキシブル配線板の裁断方法が使用でき、金型による裁断、ルーターによる裁断及びレーザー加工機による裁断が一般的である。本発明は集合体でシールドされた薄型フラットケーブルを製造し、最後に個片にするため、作業効率が良い。
【0110】
すなわち、導体204の複数本の端子部以外の周囲に密着して設ける絶縁体106の外表面に金属膜202を導体204と平行に複数列形成したのち、導体204と平行に絶縁体106を個片に切り離すことにより生産効率を上げることができる。
【0111】
本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101は、導体204の端子部以外の周囲に密着する絶縁体106の上下、長手方向の端面だけでなく、幅方向である短手方向の端面も連続して被覆する金属膜202が絶縁体106の外表面に形成されるため、高いシールド効果とバリア性を保つことができる。
【0112】
また、導電電極105はビアホール208を介してシールドされた薄型フラットケーブル101の表層に形成できるため、新たに電極を形成することなく、直接、他の電子部品とはんだ付けやACF接続が可能である。さらに、FPC/FFCコネクターに対応する端子としても使用できる。導電電極105は、OSP、ENIG、はんだといったプリント配線板製造工程で常用される表面処理を行うこともできる。
【0113】
溝206を形成し、溝206の内面を金属めっきすることにより、シールドされた薄型フラットケーブル101の短手方向の端面を含むシールドされた薄型フラットケーブル101の全外表面に連続してシールド機能を有する金属膜202を形成できる。本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101は、複数の配線において、薄く平坦を保ったまま折り曲がった形状や複雑な形状も形成可能になる。
【0114】
また、本発明の製造方法は、フレキシブルプリント配線板の装置、工法を多く使用できるため、大判化、ロールツーロールが可能で、生産性もよい。実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
(実施の形態2)
【0115】
実施の形態2に係る製造方法を
図3により説明する。実施の形態2は、製造方法に係る部分で実施の形態1と相違するが、その他の形状、構造、追加加工等は実施の形態1と同様である。実施の形態1の製造方法と相違するのは、絶縁体106に感光性樹脂を用いたことである。絶縁体106に感光性樹脂を使用することにより、溝206及び端子部のビアホールのための穴207をレーザー穴あけ機を使用せずに形成することができる。
【0116】
溝206及び導体電極105への導通のためのビアホール208のめっきには、プリント基板で使用されているスルーホールめっき法が使用できる。
【0117】
図3(S)に示す積層体は金属膜202A上に感光性樹脂の絶縁体106Aが形成された図である。感光性樹脂とは、いわゆる液状フォトレジストや感光性ビルドアップフィルムが使用できる。液状フォトレジストとしては、太陽インキ製造株式会社製PSRシリーズ、株式会社タムラ製作所製PAFシリーズ及びDSRシリーズ、サンワ化学工業株式会社製SPSRシリーズ、日立化成株式会社製SRシリーズ等であり、感光性ビルドアップフィルムとしては、日立化成株式会社製レイテックシリーズ、PV-Fシリーズ、PXシリーズ、太陽インキ製造株式会社製PSRシリーズ等である。
【0118】
図3(T)は、写真法により、シールド面となる部分の短手方向の端に沿って長手方向に溝206を形成する工程を示す。金属膜202A上に感光性樹脂層を形成し、溝206となる部分が現像されるように露光機で露光照射し、現像液で現像した後、現像されない部分を熱やUV光にて硬化し金属層202上に絶縁体106が形成される積層体を得る。
【0119】
金属膜202A上に感光性樹脂の絶縁体106Aを形成する方法は、感光性樹脂が液状フォトレジストの場合は、金属膜202A上に液状フォトレジストを塗布し、乾燥し、露光機により露光し、現像し、硬化して形成する方法である。感光性ビルドアップフィルムの場合は、貼り合わせし、露光機により露光し、現像し、硬化して形成する方法である。
【0120】
図3(U)は、
図3(T)に示す積層体の全面を覆うように、次工程のエッチングで導体となる金属膜202B及び溝206内の金属膜202Eを形成する工程を示す。金属膜202Bと溝206内の金属膜202Eを形成する方法は、金属めっき法が適しており、本発明の実施の形態1の
図2(K)の工程と同様の方法を用いることができる。
【0121】
図3(V)は
図3(T)に示す積層体に導体204を形成する工程を示す。この工程には、プリント配線板常用の工法が使用でき、本発明の実施の形態1に係る
図2(G)において導体204を形成する工程と同様の方法を用いることができる。絶縁体106に感光性樹脂を用いた本発明の実施の形態2に係る製造方法では、導体204の形成において、SAP工法(Semi Additive Process)を用いることができる。
【0122】
図3(U)の202Bの導体204となる部分及び溝206内に形成された金属膜202Eの上部を残し、202Bをエッチングにより除去する。
【0123】
図3(W)は、絶縁体106Aと導体204上に、感光性樹脂による絶縁体106B形成する工程を示す。感光性樹脂による絶縁体106Bの形成は、
図3(A)の積層体106Aの感光性樹脂による絶縁体106Aの形成と同様な材料、同様な方法で行うことができる。
【0124】
図3(X)は、写真法により、シールド面となる部分の短手方向の端に沿って長手方向に溝206Bを形成する工程を示す。同時に、
図3(Y)に、導体204をシールド層の外部に引き出すためのビアホールのための孔207を形成する工程を示す。
図3(X)の溝206Bの形成と同時に、電極引き出しのための孔207を形成することができる。溝206Bと孔207を形成する方法は、
図3(T)において溝206を形成する方法と同様な方法で形成することができる。
【0125】
図3(Z)及び
図3(AA)は、
図3(X)及び
図3(Y)に示す積層体の、全面を覆うように金属膜202C、溝206Bの内部に金属膜202F及びビアホール208を形成する。金属膜202C、金属膜202F及びビアホール208の形成方法は、
図2(L)に示す工程と同様のめっき法が使用できる。
【0126】
図3(Z)及び
図3(AA)は、それぞれ本発明の実施の形態1に係る
図2(K)及び
図2(L)と同様の構造であるため、これ以降は、本発明の実施の形態1に係る製造工程を示す
図2の工程と同様の工程でシールドされた薄型フラットケーブル101を製造することができる。すなわち、
図2(M)及び
図2(N)と同様の方法で、導体電極105の形成及び切断のための金属膜202の除去を行う。さらに、
図2(O)及び
図2(P)と同様の方法で積層体の表面に絶縁膜としてソルダーマスク211を形成する。
【0127】
その後、
図2(Q)および
図2(R)と同様に積層体を切断し個片を形成する。以上の工程により、本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101を本発明の実施の形態2に係る製造方法で得ることができる。
(実施の形態3)
【0128】
図4は、本発明の実施の形態3に係るシールドされた薄型フラットケーブルを示す。実施の形態3の特徴は、導体電極105の周辺の金属膜202を有していない絶縁体106の露出する部分に防湿膜203を有していることである。
図4(AB)に示すように、シールドされた薄型フラットケーブル101内部の絶縁体106の吸湿による影響を極小化するため、絶縁体106が外部に露出している部分に、防湿膜203を形成する。特に、吸湿性の高い樹脂を絶縁体106として使う場合は、防湿膜203を形成することが望ましい。防湿膜203としては、水蒸気透過度が15g/m
22/24h以下の膜が好ましく、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂を膜として形成することが好ましい。防湿膜203の厚さは5μm~500μmが好適である。5μm未満では十分な防湿効果が得られない。500μmを超えるとはんだ付け等実装時に、凸面が障害となる。
【0129】
図4(AB)は、防湿膜203を絶縁体106の面に直接形成しているが、
図4(AC)は、ソルダーマスク211の面に形成している。防湿性を確実とするためには金属層202と接している図(AB)が好ましい。
(実施の形態4)
【0130】
本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101では、内蔵される導体204の本数は任意に選ぶことができ、
図5(AD)に示すように、導体204と導体204の間は絶縁体106だけでもよく、導体204と導体204の間に金属膜202を形成しても構わない。
図5(AE)は導体電極105の周辺にソルダーマスク211を形成していないが、導体電極105の周辺にソルダーマスク211を形成しなくても構わない。
図5に示すシールドされた薄型フラットケーブル101は導体204をシールドされた薄型フラットケーブル101の水平方向に複数有する。
【0131】
図6は、本発明の実施の形態4に係るシールドされた薄型フラットケーブル101の導体部102の断面を示す。
図6(AF)、(AG)及び(AH)に示すように、シールドされた薄型フラットケーブル101は導体204をシールドされた薄型フラットケーブル101の垂直方向に複数有しても構わない。
図6(AF)は垂直方向に導体204を2本有する。
図6(AG)は、水平方向に導体204を4本有する
図5(AD)を垂直方向に2段有するシールドされた薄型フラットケーブル101を示す。
図6(AH)は、水平方向に導体204を4本有する
図5(AE)を垂直方向に2段有するシールドされた薄型フラットケーブル101を示す。本願発明のシールドされた薄型フラットケーブル101は導体204の水平方向又は垂直方向、水平方向及び垂直方向に多層としても構わない。
【0132】
図6(AF)に示す垂直方向に2層の導体204を有する場合、シールドされた薄型フラットケーブル101厚さは、導体204の1層当たり10μm~500μmであることが好適である。導体204の1層当たりのシールドされた薄型フラットケーブル101の厚さとは、シールドされた薄型フラットケーブル101の厚さを導体204の層数で除した数値である。薄すぎると伝送損失が大きくなり、厚すぎるとフラットケーブルとしての薄さの優位性がなくなり、実装性が悪くなる。導体204が単層であってもシールドされた薄型フラットケーブル101厚さは、10μm~500μmであることが好適である。
【0133】
以下に本願発明に係る実施の形態において最適な形態を実施例として示す。
【実施例1】
【0134】
本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型フラットケーブル101を構成する場合の具体的な例を示す。導体204及び金属膜202が銅で、絶縁体106はLCP樹脂フィルムからなり、厚さが140μmの本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101を例示する。
【0135】
図2(F)はFCCLの断面図である。FCCLとして、パナソニック株式会社製のFELIOS LCP R-F705T(銅箔12μm、樹脂膜厚25μm、寸法250mm×250mm)を使用した。
【0136】
図2(G)の工程は、銅箔表面処理、DFR貼り合わせ、露光、現像、エッチング、DFR剥離を順次行い導体204を形成した。表面が清浄な金属膜202A及び202Bに、日立化成株式会社製ドライフィルム(DFRともいう)フォテックを貼り合わせ、所望の露光ツールを用いて高圧水銀ランプ使用のORC社製手動露光機により露光し、DFRの保護フィルムをはがし、弱アルカリ性である炭酸ナトリウム溶液の入ったスプレイ式現像機で現像し、塩化第二鉄溶液を用いたエッチング装置でエッチングを行い、強アルカリ液である水酸化ナトリウム溶液の入った槽でDFRを剥離して、所望の導体204を形成することができた。
【0137】
図2(H)の工程は、絶縁体106Bと金属膜202Cとしての銅箔を熱圧着した。絶縁体106Bとして、ナミックス社製絶縁接着フィルムアドフレマNC207(膜厚25μm)、銅箔として、古河電工株式会社製銅箔GTS-MP(膜厚12μm)を使用し、北川精機株式会社製プレス機KVHCにより200℃で60分間圧着した。
【0138】
図2(J)の工程は、溝206と孔207を形成する。溝206と孔207となる部分の銅箔をエッチング法により除去する。導体204と同様な方法で、銅箔に開口を設けた。次に、炭酸ガスレーザー加工機を用いて、溝206と孔207を形成した。デスミア処理後、銅めっきを行い
図2(L)に示す積層体を得た。
【0139】
次に、導体204を形成した方法と同様な方法で、導体電極105を形成し、さらに、ソルダーマスク211を形成し、個片に切断し所望の本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101を得た。上記の、導体204等の回路形成、積層方法、孔あけ方法、銅めっき、ソルダーマスク形成方法、切断方法は、当業者に公知である。
【実施例2】
【0140】
本発明の実施の形態1に係るシールドされた薄型フラットケーブル101を製造する場合の具体的な例を実施例2として
図10に示す。本実施例2では、導体204及び金属膜202が銅で、絶縁体106がポリイミド樹脂フィルムからなり、厚さが140μmの本発明のシールドされた薄型フラットケーブル101を例示する。
【0141】
図10(AL)はFCCLの断面図である。FCCLとして、パナソニック株式会社製のR-F775(銅箔12μm、樹脂膜厚25μm、寸法250mm×250mm)を使用した。
【0142】
図10(AN)はレイアップの状態を示す図で、ポリポロピレン(住友化学株式会社製の-ブレン)100重量部に、酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製スターマグ)平均粒径3.5μm100重量部を溶融混錬したのち、押し出し成型で作成した絶縁体106Bを用いた。
【0143】
図10(AO)は、
図2(H)示す積層体に相当する積層体を形成した図である。
【0144】
本実施例の以降の工程は、実施例1と同様の工程による製造方法により製造した。
【実施例3】
【0145】
本発明の実施の形態5として、絶縁体106と金属層202の間に防湿膜層210を設けることを特徴とするシールドされた薄型フラットケーブル101を製造する工程を
図12に示す。防湿膜層210として防湿フィルムを使用した具体的例を実施例3として
図11及び
図12に示す。本実施例3では、銅箔からなる金属膜202Cと絶縁体106Bの間に防湿膜層210としての防湿フィルムを挿入しシールドされた薄型フラットケーブルを形成した。防湿膜フィルムとして、ポリ塩化ビニリデン(旭化成工業サラン)を使用した。本発明の防湿膜層210としては、水蒸気透過度が15g/m
22/24h以下の膜が良く、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンが好適である。水蒸気透過度が15g/m
22/24h以上の膜であると、防湿効果が小さく、高温高湿下では絶縁体が吸湿し、誘電損失が大きくなるため、使用が難しい。防湿膜層210の厚さは3μm~100μmが好適である。3μm未満では十分な防湿効果が得られない。100μmを超えるとフラットケーブの厚さが厚くなり、本発明のフラットケーブルとしての薄さの優位性がなくなる。
【0146】
絶縁体106Bと防湿膜層210をあらかじめ一体で形成することも可能である。
【0147】
図12は実施例3のシールドされた薄型フラットケーブの断面構造図である。
【0148】
図8は複雑な形状をした本発明の形態に係るシールドされた薄型フラットケーブルの例で、導体電極105周辺の絶縁体106以外に絶縁体106は露出しておらず、その他の部分は金属膜202により被覆されている。長手方向のシールドの強化として、遮蔽テープを巻く方法(例えば、特許文献5および6参照)があるが、その方法であると
図8の様な分岐のある構造では、シールドすることができないため、絶縁体106は水蒸気の浸透による吸湿が発生する。
【符号の説明】
【0149】
101・・フラットケーブル
102・・導体部
103・・端子露出部
105・・導体電極
106・・絶縁体
202・・金属膜
203・・防湿膜
204・・導体
206・・溝
207・・孔
208・・ビアホール
210・・防湿膜層
211・・ソルダーマスク