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特許7539718可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法
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  • 特許-可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法 図1
  • 特許-可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法 図2a
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  • 特許-可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/02 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
G02B1/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022139961
(22)【出願日】2022-09-02
(65)【公開番号】P2023055198
(43)【公開日】2023-04-17
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0131819
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522350645
【氏名又は名称】ワイケイエムシー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(74)【代理人】
【識別番号】100207022
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 弘之
(72)【発明者】
【氏名】リ ヘニョン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ゾ ソンヨル
(72)【発明者】
【氏名】ザン キボム
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-531325(JP,A)
【文献】特開2002-162653(JP,A)
【文献】特開2010-079174(JP,A)
【文献】特開2005-031172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属酸化物層が形成された金属を含み、
前記金属酸化物層は多数個の気孔を含む多孔性の層であり
前記金属酸化物層は、前記気孔内に、外部刺激によって膨潤及び収縮する可変素材を含み、
前記金属は、チタニウム及びこの合金の中から選択された1種以上を含み、
前記外部刺激は、電気、磁気、温度、及び湿度の中から選択された1種以上の外部刺激を含み、
前記可変素材は、
MMA(Methaacrylic acid)、ビスアクリルアミド(Bis-acrylamide)、及び光開始剤を含む前駆体を重合させたハイドロゲル、
PS-b-P2VP(Polysryrene-b-poly(2-vinyl pyridine) deblock copolymer)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(propyleneglycolmonomethyletheracetate)を含む溶液を熱処理して形成した物質、又は
NaAMPS(2-acrylamido-2-methyl-propane sulfonic acid sodium salt)単量体、MBAA(N,N'-Methylenebisacrylamide)架橋剤、及びα-オキソグルタル酸(oxoglutaric acid)を含む溶液を紫外線重合させた重合体
を含むことを特徴とする可変構造色フォトニック結晶複合素材。
【請求項2】
前記金属酸化層は、厚さ0.01~300μmで形成されており、
前記気孔は、平均深さ0.1~100μmであり、気孔の入口は、平均直径が0.01~3μmであることを特徴とする請求項1に記載の可変構造色フォトニック結晶複合素材。
【請求項3】
金属の表面を表面処理して多数個の気孔を有する多孔性の層である金属酸化物層を形成する第1段階;及び
前記気孔内に、外部刺激によって膨潤及び収縮する可変素材を形成させる第2段階;
を含む工程を遂行し、
前記金属は、チタニウム及この合金の中から選択された1種以上を含み、
前記外部刺激は、電気、磁気、温度、及び湿度の中から選択された1種以上の外部刺激を含み、
前記可変素材は、
MMA(Methaacrylic acid)、ビスアクリルアミド(Bis-acrylamide)、及び光開始剤を含む前駆体を重合させたハイドロゲル、
PS-b-P2VP(Polysryrene-b-poly(2-vinyl pyridine) deblock copolymer)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(propyleneglycolmonomethyletheracetate)を含む溶液を熱処理して形成した物質、又は
NaAMPS(2-acrylamido-2-methyl-propane sulfonic acid sodium salt)単量体、MBAA(N,N'-Methylenebisacrylamide)架橋剤、及びα-オキソグルタル酸(oxoglutaric acid)を含む溶液を紫外線重合させた重合体
を含むことを特徴とする可変構造色フォトニック結晶複合素材の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理は、陽極酸化法、プラズマ電解酸化法、及びエッチング(etching)法の中から選択された1種以上の表面処理法で遂行することを特徴とする請求項に記載の可変構造色フォトニック結晶複合素材の製造方法。
【請求項5】
前記2段階は,
含浸法、in-situ重合法、及び溶解鋳造(melting casting)法の中から選択された1種以上の方法で遂行することを特徴とする請求項に記載の可変構造色フォトニック結晶複合素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的に色の変化を調節することができる可変構造色フォトニック結晶複合素材及びその製造方法{Photonic crystal composites with variable structural color and Manufacturing method thereof}に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、互いに異なる誘電率(または屈折率)を有する複数の物質が周期的に配列して形成されたナノ構造体であって、周期的な構造によって光は特定の波長を選択的に反射する特徴がある。自然での大部分の色は物質固有の色によって決まるが、時には光の回折や干渉のような物理的な原理によって現れる場合があり、フォトニック結晶構造によって反射される波長が400~700nmの可視光線の領域であれば色を帯びるが、それを構造色(Structural Color、schemochromes)といい、自然でも観察することができる(例:モルフォ蝶の翼、オパールなど)。
【0003】
このような構造色に関する研究の進展によって、周期性を有するマイクロ構造に起因することが知られ、これを具現するための多様な研究が行われた。
【0004】
例えば、複数層の薄膜フィルムを利用して、薄膜フィルムの厚さを調整することによって、光の干渉の程度を調節して希望する構造色を帯びるようにする技術があった。しかし、このような技術を使用する場合には、多様な色を具現するためには、希望する色ごとにそれぞれ違う厚さを有するように薄膜フィルムの厚さを調節しなければならない難しさがあった。
【0005】
また、図1に示したような方法で陽極酸化処理を通じて表面を形成させ、陽極酸化の条件によって色相を調節する技術があるが、陽極酸化処理の完了後には構造色の色相の変更ができない限界がある。
【0006】
また、陽極酸化(anodizing)表面処理して構造色を具現する方法があるが、単色を出すためのこのような陽極酸化表面処理はとても非効率的な方法であるので、商業性に欠ける問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国登録特許第10-1832059号公報(公告日2018.02.23) 韓国登録特許第
【文献】韓国公開特許第10-2013-0110992号公報(公開日2013.10.10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の構造色素材の問題点を解決するために、固定された構造色ではなく、外部刺激によって可逆的に色の変化ができ、色の変化を調節することができるフォトニック結晶複合素材及びこれを製造する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材は、表面に金属酸化物層が形成された金属を含み、前記金属酸化物層は多数個の気孔を含み、前記気孔内の外部刺激によって膨潤及び収縮する可変素材を含むことができる。
【0010】
本発明の他の目的は、可変構造色フォトニック結晶複合素材を製造する方法に関し、金属の表面を表面処理して金属酸化層及び気孔を形成する第1段階;及び前記気孔内の可変素材を形成させる第2段階;を含む工程を遂行することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材は、従来の構造色素材と異なり、構造色が固定されるのではなく、外部刺激によって色相が多様に変化することができ、外部刺激調節を通じて発現される構造色の色相調節もできる。このような、本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材は、表面処理の後、色が決定されるのではなく、外部刺激によって可逆的に色相変更が可能であるので、多様な分野で使用されることができるという利点があり、金属を基盤としているので高い強度を有し、建築、車、及び家電機器などの多様な部品素材も応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の電極調節を通じる陽極酸化処理法で構造色具現素材を製造した例である。
図2a】本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材の構造色変更メカニズムの理解を助けるための概略図である。
図2b】本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材の構造色変更メカニズムの理解を助けるための概略図である。
【0013】
図3】本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材の構造色変更メカニズムの理解を助けるための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材に関してもっと具体的に説明する。
【0015】
可変構造色フォトニック結晶複合素材(101、102、103)は、図2aに概略図で示したように、金属(10)の表面に金属酸化物層(20)が形成されており、金属酸化物層(20)は、多数個の気孔(30)を含む多孔性の層であり、気孔(30)の内部に外部刺激によって収縮及び/または膨潤などの機械的な変形を有する可変素材(1、2、3)を含む。図2a、2b及び図3に概略図で示すように、外部刺激によって気孔内の前記可変素材の機械的な変形による構造色の変化によって多様な色を発現することができる。
【0016】
この時、前記外部刺激は、電気、磁気、温度、及び湿度の中から選択された1種または2種以上の外部刺激を意味する。
【0017】
本発明の構造色可変フォトニック結晶複合素材において、前記金属は、アルミニウム、チタニウム、マグネシウム、及びこれらの合金の中から選択された1種以上を含み、望ましくはチタニウム系合金であって、ASTM B348 Ti grade 1、ASTM B348 Ti grade 2、ASTM B348 Ti grade 3、ASTM B348 Ti grade 4、Ti-6Al-4V(UNS designation R56400)、Ti-13Nb-13Zr(UNS designation R58130)、Ti-15Mo(UNS designation R58150)、Ti-35.3Nb-5.1Ta-7.1Zr、及びTi-29Nb-13Ta-4.6Zrの中から選択された1種以上を含むことができ、アルミニウム合金であって、Al1050、Al5052、Al5083、Al6041、及びAl7075の中から選択された1種以上を含むことができ、これに限定されない。
【0018】
そして、前記金属酸化物層は、前記金属の表面処理の時に酸化されて形成されるところ、前記金属の酸化物で形成される。前記金属酸化物層は表面処理方法及び/または表面処理条件の調節を通じて厚さを調節することができ、望ましくは、前記金属酸化物層は、厚さ0.01~300μmで、望ましくは厚さ0.02~100μmで形成されていることが良い。この時、金属酸化物層の厚さが0.01μmの未満であれば、厚さが薄すぎて、気孔内に十分な可変素材を含まなくて発現色の変化及び調節が難しいかもしれないし、金属酸化物層の厚さが300μmを超過すると、機械的な強度が低くなる問題があるかもしれないので、前記の厚さで金属酸化物層が形成されていることが良い。
【0019】
また、前記金属酸化物層は多数個の気孔を有し、前記気孔は、平均深さ0.01~100μm、望ましくは平均深さ0.1~10μm程度に形成されていることが適量の可変素材を含有する点で有利である。
【0020】
そして、前記気孔の入口は、平均直径が0.01~3μm程度の大きさで、望ましくは平均直径が0.05~1.4μm程度の大きさを有することが良い。この時、気孔の入口の平均直径が0.01μm未満であれば、気孔内に可変素材を形成させることが難しいという問題があるかもしれなく、気孔の入口の平均直径が3μmを超過すると、構造色の具現がされない問題があるかもしれない。
【0021】
本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材の気孔に形成される前記可変素材は、PMMA(Polymethyl methacrylate)、PS(Polystyrene)、PAA(Poly acrylic acid)、PAM(Poly acrylic amide)、PDMS(Poly dimethylsiloxane)、PHEMA(Poly(2-hydroxyethyl methacrylate))、及びAPBA(aminophenylboronic acid)の中から選択された1種以上の重合体を含むことができる。
【0022】
また、前記重合体には、TiO、SiO、ZnO、ZnS、Fe、Fe、SnO、CuO、WO、CoFe、及びMnFeの中から選択された1種以上の金属酸化物が含浸されていてもよい。
【0023】
このような本発明の可変構造色フォトニック結晶複合素材は、金属の表面を表面処理して金属酸化層及び気孔を形成する第1段階;及び前記気孔内の可変素材を形成させる第2段階;を含む工程を遂行して製造することができる。
【0024】
前記金属及び可変素材は、先に説明した通りである。
【0025】
前記第1段階の表面処理は、陽極酸化法、プラズマ電解酸化法、及びエッチング(etching)法の中から選択された1種以上の表面処理法で遂行することができる。
【0026】
前記第2段階は、含浸法、in-situ重合法及び溶解鋳造(melting casting)法の中から選択された1種以上の方法で遂行して、気孔内の可変素材を形成させることができる。
【0027】
以下、実施例を通じて本発明をもっと具体的に説明するが、下記実施例が本発明の範囲を制限することではなく、これは本発明の理解を助けるためのものとして解釈されなければならない。
【実施例
【0028】
実施例1:ハイドロゲルを含む可変フォトニック結晶複合素材の製造
(1)表面に多孔性金属酸化物層が形成された金属の製造
多孔性金属酸化物層の形成のためにASTM B348 Ti grade 1(100mm×100mm×5mm)試験片(Specimen)を準備した。
【0029】
試験片の前処理のためにアルカリ水溶液を基盤とする7重量%濃度の脱脂液で7分間脱脂させて表面内の不純物を除去した後、水洗した。
【0030】
次に、水洗した試験片を硝酸20重量%、ふっ酸3重量%を含む酸水溶液で1分間~1分30秒間浸漬させて自然酸化皮膜及びデスマットを完全に除去した後に水洗した。
【0031】
次に、水洗工程が完了された試験片を15重量%濃度の硫酸水溶液が入った電解槽に投入した後、70Vで電圧を5分間加えて陽極酸化方法で試験片表面に多孔性金属酸化物層を形成した。
【0032】
(2)可変フォトニック結晶複合素材の製造
0.15MのMMA(Methaacrylic acid)、7.5重量%のビスアクリルアミド(Bis-acrylamide)、及び光開始剤1重量%を含む2Mの前駆体を製造した。
【0033】
前記前駆体を多孔性金属酸化物層が形成された前記試験片に含浸させた後、試験片の多孔性金属酸化物層に形成された気孔内にハイドロゲルが重合されて形成されるようにするために、紫外線を照射して多孔性金属酸化物層の気孔内のハイドロゲルを含む可変構造色フォトニック結晶複合素材を製造した。
【0034】
実施例2:PS-b-P2VP共重合体を含む可変フォトニック結晶複合素材の製造
(1)表面に多孔性金属酸化物層が形成された金属の製造
前記実施例1と同一な試験片を使用して同一な方法、工程を遂行して表面に多孔性金属酸化物層が形成された金属試験片を製造した。
【0035】
(2)可変フォトニック結晶複合素材の製造
5重量%のPS-b-P2VP(Polysryrene-v-poly(2-vinyl pyridine) diblock copolymer)及び残量の溶媒プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(propylene glycol monomethyl ether acetate)を含む溶液を、表面に多孔性金属酸化物層が形成された前記試験片に含浸させた後、58℃で24時間の間に熱処理して可変構造色フォトニック結晶複合素材を製造した。
【0036】
実施例3:ナノ粒子が含浸された重合体を含む可変構造色フォトニック結晶複合素材の製造
(1)表面に多孔性金属酸化物層が形成された金属の製造
前記実施例1と同一な試験片を使用して同一な方法、工程を遂行して表面に多孔性金属酸化物層が形成された金属試験片を製造した。
【0037】
(2)可変フォトニック結晶複合素材の製造
1MのNaAMPS(2-acrylamido-2-methyl-propane sulfonic acid sodium salt)単量体、15モル%のMBAA(N,N'-Methylenebisacrylamide)架橋剤、0.1モル%のα-オキソグルタル酸(oxoglutaric acid)、100nm大きさのFeナノ粒子を含む溶液を、表面に多孔性金属酸化物層が形成された前記試験片に含浸させた後、365nmの紫外線で12時間重合させて可変構造色フォトニック結晶複合素材を製造した。
【0038】
実験例1:温度変化による可変フォトニック結晶複合素材の構造色変化
前記実施例1の可変構造色フォトニック結晶複合素材は、外部温度が増加すると、気孔内部のハイドロゲルが収縮して構造色が変わる。温度変化による構造色の変化を測定し、その結果を下記の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実験例2:電圧による可変フォトニック結晶複合素材の構造色変化
前記実施例2の複合素材の両端に電極を接続して電圧を印加すると、PS-b-P2VP共重合体からなるP2VP層が膨脹して構造色が変わる。電圧変化による構造色の変化は下の通りである。
【0041】
【表2】
【0042】
実験例3:磁性による可変フォトニック結晶複合素材の構造色変化
前記実施例3の複合素材にネオジム磁石を近づけると、磁性によって重合体内にあるFeナノ粒子間の距離が異なるようになって構造色が変わる。磁石と複合素材の距離による構造色の変化は下の通りである。
【0043】
【表3】
【0044】
以上で本発明の一実施例に関して説明したが、本発明の思想は本明細書に提示される実施例に制限されなく、本発明の思想を理解する当業者は同一な思想の範囲内で、構成要素の付加、変更、削除、追加などによって他の実施例を容易に提案することができるが、これもまた本発明の思想範囲内に収まることである。
図1
図2a
図2b
図3