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特許7539723コード化リボ核酸の器官保護発現及び調節のための組成物並びに方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】コード化リボ核酸の器官保護発現及び調節のための組成物並びに方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240819BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20240819BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240819BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20240819BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240819BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C07K14/165
C07K19/00
C12N15/50
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/00 H
A61K39/39
A61K9/14
A61K9/127
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022549303
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 US2021019028
(87)【国際公開番号】W WO2021168405
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】62/979,619
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/059,458
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520079913
【氏名又は名称】コンバインド セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Combined Therapeutics, Inc.
【住所又は居所原語表記】251 Little Falls Drive, Wilmington, Delaware 19808, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミコル,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】デュバル,ヴァレリー
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532657(JP,A)
【文献】国際公開第2019/158955(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/051100(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0075258(US,A1)
【文献】Carcinogenesis,2009年,Vol.30, No.12,pp.2064-2069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも第1のmRNA構築物と、インビボ送達組成物と、を含む組成物であって、
前記第1のORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、前記UTRが、少なくとも第1、第2及び第3のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、並びに、前記少なくとも第1、第2及び第3のmiRNA標的配列の各々が、異なる対応するmiRNA配列と各々ハイブリダイズするように最適化され;
更に、少なくとも第2のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも第2のmRNA構築物を含み、前記第2のORFが、IL-1;IL-2;IL-3;IL-4;IL-5;IL-6;IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;IL-11;IL-12;IL-15;IL-17;IL-21;TGFβ;IFNγ;IFNα;ΙFΝβ;TNFα;M-CSF;G-CSF;及びGM-CSFからなる群から選択される炎症誘発性サイトカインをコードし、
前記第1のORFが、細菌タンパク質及び/又はウイルスタンパク質から選択される抗原をコードし;
前記第1及び第2のmRNA構築物が、前記送達組成物内に含まれるか、又は前記送達組成物に吸着される、組成物。
【請求項2】
コロナウイルスタンパク質の全て又は一部を含む抗原をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コロナウイルスタンパク質が、コロナウイルススパイク、エンベロープ、膜、又はヌクレオカプシドタンパク質から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記コロナウイルスタンパク質が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ORFが、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインをコードする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記送達組成物が、粒子、ポリマー粒子、リポソーム、リピドイド粒子、及びウイルスベクターからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記送達組成物が、脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記第2のORFが、IL-7;IL-15;IL-17;又はIL-21からなる群から選択されるサイトカインをコードする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列が、miRNA-122;miRNA-125;miRNA-199;miRNA-124a;miRNA-126;Let7 miRNAファミリー;miRNA-375;miRNA-141;miRNA-142;miRNA-148a/b;miRNA-143;miRNA-145;miRNA-194;miRNA-200c;miRNA-203a;miRNA-205;miRNA-1;miRNA-133a;miRNA-206;miRNA-34a;miRNA-192;miRNA-194;miRNA-204;miRNA-215;miRNA-30a、b、c;miRNA-877;miRNA-4300;miRNA-4720;及びmiRNA-6761からなる群から選択されるmiRNAと結合する1つ以上の配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列が、配列番号44~57の配列のうちの1つ以上から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第2のORFが、IL-12タンパク質コードする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1のmRNAが、少なくとも第2のオープンリーディングフレーム(ORF)を更に含み、
前記第2のORFが、IL-1;IL-2;IL-3;IL-4;IL-5;IL-6;IL-7;IL-8;IL-9;IL-10;IL-11;IL-12;IL-15;IL-17;IL-21;TGFβ;IFNγ;IFNα;ΙFΝβ;TNFα;M-CSF;G-CSF;及びGM-CSFからなる群から選択される炎症誘発性サイトカインをコードする、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記第2のORFが、IL-7;IL-15;IL-17;又はIL-21からなる群から選択されるサイトカインをコードする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記第2のORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、前記UTRが、少なくとも第4、第5及び第6のmiRNA標的配列を含み、前記少なくとも第4、第5及び第6のmiRNA標的配列の各々が、異なる対応するmiRNA配列と各々ハイブリダイズするように最適化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記少なくとも第4、第5及び第6のmiRNA標的配列が、miRNA-122;miRNA-125;miRNA-199;miRNA-124a;miRNA-126;Let7 miRNAファミリー;miRNA-375;miRNA-141;miRNA-142;miRNA-148a/b;miRNA-143;miRNA-145;miRNA-194;miRNA-200c;miRNA-203a;miRNA-205;miRNA-1;miRNA-133a;miRNA-206;miRNA-34a;miRNA-192;miRNA-194;miRNA-204;miRNA-215;miRNA-30a、b、c;miRNA-877;miRNA-4300;miRNA-4720;及びmiRNA-6761からなる群から選択されるmiRNAと結合する1つ以上の配列を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも第4、第5及び第6のmiRNA標的配列が、配列番号44~57の配列のうちの1つ以上から選択される、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年2月21日に出願された米国仮特許出願第62/979,619号、及び2020年7月31日に出願された米国仮特許出願第63/059,458号に対する優先権の利益を主張する。その各々の内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)送達技術、並びにこれらのmRNA送達技術を様々な治療的、診断的、及び予防的適応において使用する方法に関する。そのような送達系は、独立した介入として、又は他の治療成分と組み合わせて使用されてもよい。
【背景技術】
【0003】
特定の標的組織又は器官において、ポリペプチド等の特定の遺伝子産物の発現を誘導する能力がしばしば所望される。多くの場合、標的組織又は器官は、1つより多くの細胞型を含み、そのような場合、異なる細胞型において異なる程度に遺伝子産物を発現すること、すなわち、標的組織中の異なる細胞型の間で遺伝子産物の差次的発現を提供することもしばしば所望される。例えば、遺伝子療法において、変異した及び/又は機能のない遺伝子は、標的細胞において無傷なコピーと置き換えることができるが、隣接する細胞、組織及び器官におけるオフターゲットタンパク質産生を最小限に抑えることも有用である。同様に、COVID-19用のスパイクタンパク質等のワクチン抗原のための遺伝子産物は、最大の応答を確保するために、免疫系の樹状細胞内又はその周囲で発現することが好ましい。
【0004】
遺伝子療法は、コード化ポリヌクレオチドを標的細胞に導入するためにウイルスベクターに依存することが多いが、ウイルスを使用せずにポリヌクレオチドを細胞に送達する他の技術が存在する。ウイルスの利点として、可能なトランスフェクション率が比較的高いこと、及びウイルスを標的細胞に侵入させる結合タンパク質を制御することにより、ウイルスを特定の細胞型に標的化する能力が挙げられる。対照的に、コード化ポリヌクレオチドを細胞に導入する非ウイルス法は、トランスフェクション率が低いという問題がある場合があり、また、特定の器官及び細胞型に発現を標的化するための選択肢が限られている。しかしながら、ウイルス介入の性質は、毒性及び炎症のリスクを伴うが、導入された因子の発現の期間及び程度の制御も限定される。
【0005】
生物学的アプローチに基づく腫瘍療法は、多くの多様な機構を用いて、例えば、とりわけ、直接的な細胞溶解、細胞傷害性の免疫エフェクター機構、及び血管虚脱によって、がんをより正確に標的化及び破壊することができるため、従来の化学療法薬に優る利点を有する。結果として、そのようなアプローチの可能性に関する臨床研究の数が大幅に増加している。しかしながら、広範囲にわたる治療活性に起因して、複数のパラメータが療法可能性に影響を及ぼす場合があるため、前臨床及び臨床研究は複雑であり、したがって治療の失敗の理由又は治療活性を増強する可能性のある方法論を定義することは困難である。オンターゲット活性、腫瘍特異性を維持し、副作用を減少することも、そのような実験的かつ強力な療法の大きい課題である。
【0006】
ウイルスベースの療法は、疾患治療の多くの態様に対処するための有望なアプローチとして出現してきた。不活化ウイルス又は弱毒化ウイルスに基づく腫瘍溶解性ウイルス及びがんワクチンは、治療困難ながんに対するかなりの可能性を与える。しかしながら、治療用ウイルスの有効性は、多くの場合、身体自体の免疫応答によって妨げられ、それによって、全身投与を回避するための用途を制限してしまう。したがって、現在利用可能な治療用ウイルスアプローチの範囲を改善及び増強することができる新規の組成物及び方法を提供することが有利であろう。
【0007】
WO-2017/132552-A1は、マイクロRNA結合部位を含む操作されたゲノムを持つ組換え腫瘍溶解性ウイルスについて記述している。
【0008】
US-2013/156849-A1は、哺乳動物の細胞又は組織で対象となるポリペプチドを発現させるための方法に関し、この方法は、当該哺乳動物の細胞又は組織を、対象となるポリペプチドをコードする修飾mRNAを含む製剤と接触させることを含む。WO-2016/011306-A2は、マイクロRNA結合部位を含み得る少なくとも1つの末端修飾を含む核酸の設計、調製、製造、及び/又は製剤化を記述している。前述の先行技術は、同時投与される治療薬又は因子で治療される対象の身体における単一又は複数の種類の器官の効果的な保護を確実にするという問題に対処していない。
【0009】
WO2019/051100A1及びWO2019/158955A1は、1つ以上の標的器官内の少なくとも第1及び第2の細胞型におけるコード配列の差次的発現を可能にするmiRNA結合部位配列を含む、1つ以上の標的器官内の1つ以上のポリペプチドの発現のためのmRNA配列の送達のための組成物及び方法を記載する。
【0010】
特定の器官及び/又は組織においてmRNA等のポリヌクレオチド配列の発現を調節するための、更に改善及び最適化された方法及び組成物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、少なくとも第1、第2及び第3のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1、第2及び第3のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、mRNA構築物を提供する。
【0012】
本発明の第2の態様は、医薬組成物であって、
i.少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、少なくとも第1、第2及び第3のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1、第2及び第3のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、mRNA構築物と、
ii.インビボ送達組成物と、を含み、
mRNA構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明の第3の態様は、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、複数の器官を保護し、OPSが、少なくとも第1及び少なくとも第2のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、mRNA構築物を提供する。
【0014】
本発明の第4の態様は、医薬組成物であって、
a.少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも1つのmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、複数の器官を保護し、OPS配列が、少なくとも第1及び第2のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、少なくとも1つのmRNA構築物と、
b.インビボ送達組成物と、を含み、
mRNA構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明の第5の態様は、医薬組成物であって、
a.少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも1つのmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、複数の器官を保護し、OPS配列が、少なくとも第1及び第2のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、少なくとも1つのmRNA構築物と、
b.インビボ送達組成物と、を含み、
mRNA構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、医薬組成物を提供する。
【0016】
第6の態様は、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNAであって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護(OPS)配列を含み、OPS配列が、
a.少なくとも第1のOPSであって、第1のOPSが、第1のmiRNAのための標的である配列を含み、第1のOPSが、第1の器官の細胞内で実質的に完全に一致して、第1のmiRNAにハイブリダイズするように最適化される、少なくとも第1のOPSと、
b.少なくとも第2のOPSであって、第2のOPSが、第2のmiRNAのための標的である配列を含み、第2のOPSが、第2の器官の細胞内で実質的に完全に一致して、第2のmiRNAにハイブリダイズするように最適化される、少なくとも第2のOPSと、
c.少なくとも第3のOPSであって、第3のOPSが、第3のmiRNAのための標的である配列を含み、第3のOPSが、第3の器官の細胞内で実質的に完全に一致して、第3のmiRNAにハイブリダイズするように最適化される、少なくとも第3のOPSと、を含み、
第1、第2、及び第3の器官保護配列が、OPS内に連続して整列され、第1、第2、及び第3の器官の細胞が、非罹患細胞である、mRNAを提供する。
【0017】
本発明の第7の態様は、医薬組成物であって、
i.本明細書に記載の少なくとも1つのmRNAと、
ii.インビボ送達組成物と、を含み、
mRNA構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明の第8の態様は、ワクチン組成物であって、
少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも第1のmRNA構築物であって、ORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、複数の器官を保護し、OPS配列が、少なくとも第1及び第2のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、少なくとも第1のmRNA構築物と、
インビボ送達組成物と、を含み、
mRNA構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、ワクチン組成物を提供する。
【0019】
本発明の第9の態様は、ワクチン組成物であって、
少なくとも第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を有する少なくとも第1のmRNAを含むワクチン構築物であって、第1のORFが、細菌タンパク質、及び/又はウイルスタンパク質から選択される抗原をコードし、第1のORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を含み、OPS配列が、複数の器官を保護し、OPS配列が、少なくとも第1及び第2のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含み、少なくとも第1及び第2のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、ワクチン構築物と、
少なくとも第2のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む少なくとも第2のmRNAを含むアジュバント構築物であって、第2のORFが、IFNγ、IFNα、ΙFΝβ、TNFα、IL-12、IL-2、IL-6、IL-8、及びGM-CSFから選択される炎症誘発性サイトカインをコードし、第2のORFが、少なくとも1つの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結され、UTRが、複数の器官を保護する少なくとも1つのOPS配列を含み、OPS配列が、少なくとも第3及び第4のmiRNA標的配列を含み、少なくとも第3及び第4のmiRNA標的配列の各々が、対応するmiRNA配列とハイブリダイズするように最適化される、アジュバント構築物と、
インビボ送達組成物と、を含み、
ワクチン及びアジュバント構築物が、送達組成物内に含まれるか、又は送達組成物に吸着される、ワクチン組成物を提供する。代替的に、ワクチン及びアジュバント構築物は、同時投与されるか、又は順次投与される異なる送達組成物内に含まれてもよく、又は異なる送達組成物に吸着されてもよい。
【0020】
本発明は、本明細書に記載される様々な実施形態及び実施例において更に例示され、その特徴は、当業者によって理解されるように、追加の実施形態を形成するために更に組み合わされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態によるOPSを組み込んだmRNA構築物の概略図(すなわち、正確な縮尺ではない)を示す。
図2】本明細書に記載の組成物を様々な細胞型に投与した後のレポーター遺伝子mCherryの発現を決定するために行われるプロトコルの概略図を示し、mCherryシグナル分析は、Hoechst 33342で染色された細胞核を用いて、蛍光顕微鏡法(Texas Red and DAPIフィルター)によって行われる。
図3】上記プロトコルに従う、3つの肝臓細胞型におけるmCherryシグナルを示し、対照mCherry mRNAによるトランスフェクション後のヒト肝臓がん細胞(Hep3B)又は正常マウス肝細胞(AML12)細胞において見出されるシグナルと比較して、mCherry-3MOP又はmCherry-5MOP mRNAによりトランスフェクトされた場合の正常マウス及びヒト肝細胞の両方における細胞シグナルの有意な減少を示す。画像は、Texas Red and DAPIフィルターによって取得された画像の重ね合わせであり、mCherry蛍光シグナル及び細胞核染色を示している。
図4】Cytation機器(Biotek)を使用して、トランスフェクトされた細胞におけるmCherry蛍光の定量化を示す。
図5A】本明細書に記載の組成物によりトランスフェクトされた正常ヒト腎臓細胞におけるmCherryシグナルを示し、mCherry-3MOP治療された細胞におけるシグナルの減少を示し、mCherry翻訳の減少を示している。画像は、Texas Red and DAPIフィルターキューブによって取得された画像の重ね合わせであり、mCherry蛍光シグナル及び細胞核染色を示している。
図5B】Cytation機器(Biotek)を使用して、トランスフェクトされた正常ヒト腎臓細胞におけるmCherry蛍光の定量化を示す。
図6a-f】miRNA-122、miRNA-192、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた肝臓細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が、AML12マウス肝細胞において発現を抑制するが、肝臓がん細胞(Hep3B)において抑制しないことを示す。写真の各セットについて、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照Hep3B細胞(肝臓がん)を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたHep3B細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたHep3B細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAでトランスフェクトされていない対照AML12細胞(正常肝臓)における細胞核染色を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナルを示す。
図7a-f】Let7b、miRNA-126、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた肝臓細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が、AML12マウス肝細胞において発現を抑制するが、肝臓がん細胞(Hep3B)において抑制しないことを示す。写真の各セットについて、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照Hep3B細胞(肝臓がん)を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたHep3B細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたHep3B細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAでトランスフェクトされていない対照AML12細胞(正常肝臓)における細胞核染色を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナルを示す。
図8a-b】1回(1*)、2回(2*)又は4回(4*)複製されたmiRNA-122に結合する完全に一致し多重化MOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた肝臓細胞におけるmCherryシグナルの比較、並びにAML12正常肝細胞におけるmCherry発現の抑制において、ある程度の用量依存性が存在する(a)が、Hep3Bがん細胞においては、はるかに低いことを示す(b)。(a)及び(b)の各々について、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。mRNAが注射されていない対照、並びにmCherryについてのmRNAを含むが、MOP配列を含まないものが含まれる。
図9a-d】miRNA122に結合する、完全に一致していない二重(2*)MOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされたAML12マウス肝臓肝細胞におけるmCherryシグナルの比較を示す。(a)、(b)、(c)及び(d)の各々について、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照AML12細胞(正常肝臓)における細胞核染色を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)2*の不完全に一致したmiRNA122 MOP配列(最適化されていない)を有するmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、下パネルは、AML12細胞においてmCherryの検出可能な発現が存在することを示し、(d)2*の完全に一致したmiRNA122 MOP結合配列(最適化されている)を有するmRNAでトランスフェクトされたAML12細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、下パネルは、AML12細胞においてmCherryの検出可能な発現がほとんど存在しないことを示す。
図10a-f】Let7b、miRNA-126、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた腎臓細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が、ヒト腎臓細胞(hREC)においてmCherry発現を抑制するが、がん細胞(786-0)において抑制しないことを示す。(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)の各々について、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照786-0ヒト腎臓細胞腎腺がん細胞における細胞核染色を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされた786-0細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)発現の証拠を示す、MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされた786-0細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAによってトランスフェクトされていない対照hREC細胞(正常な混合腎臓上皮細胞)における細胞核染色、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたhREC細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたhREC細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、mCherryシグナル単独は、実質的に発現を示さない。
図11a-f】miRNA-122、miRNA-192、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた腎臓細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が、ヒト腎臓細胞(hREC)においてmCherry発現を抑制するが、がん細胞(786-0)において抑制しないことを示す。(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)の各々について、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照786-0ヒト腎臓細胞腎腺がん細胞における細胞核染色を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされた786-0細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)発現の証拠を示す、MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされた786-0細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAによってトランスフェクトされていない対照hREC細胞(正常な混合腎臓上皮細胞)における細胞核染色、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたhREC細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたhREC細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、mCherryシグナル単独は、実質的に発現を示さない。
図12a-b】ヒトPBMC細胞が、(a)3つの投薬量レベルでヒトIL-12を発現するmRNAを含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされている一実施形態による実験の結果を示し、以下のmRNAによるトランスフェクションから6時間後にIL-12の発現を記録する。NC(一本鎖からの非コードヒト組換えIL-12-ATGコドンなし)、hdcIL-12(別個のIL12A及びIL12B mRNAの1:1混合物からのヒト組換えIL-12)、hscIL-12(一本鎖からのヒト組換えIL-12)、及びmiRNA-122-miRNA-203a-miRNA-1-miRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含むmRNAを発現する一本鎖組換えIL-12であるhscIL-12-MOP(一本鎖からのヒト組換えIL-12)、(b)3つの投薬量レベルでヒトGM-CSFを発現するmRNAを含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた一実施形態による実験の結果を示し、以下のmRNAによるトランスフェクションから6時間後にGM-CSFの発現を記録する。NC(非コードGM-CSF mRNA-ATGコドンなし)、hGM-CSF、及びmiRNA-122-miRNA-203a-miRNA-1-miRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含むmRNAを発現するhGM-CSFであるhGM-CSF-MOP。
図13a-f】miRNA-122、miRNA-192、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた結腸上皮細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が結腸上皮細胞において発現を抑制するが、結腸がん細胞(HCT-116)において抑制しないことを示す。写真の各セットについて、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照結腸上皮細胞を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされた結腸細胞細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされた結腸細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAでトランスフェクトされていない対照HCT-116細胞(結腸がん)における細胞核染色、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたHCT-116細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたHCT-116細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル。
図14a-f】miRNA-Let7b、miRNA-126、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた結腸上皮細胞におけるmCherryシグナルの比較を示し、MOP配列が、miRNA-Let7b結合部位の存在に起因する、正常結腸細胞及び結腸がん細胞において発現を抑制することによって器官保護を提供することを示す。写真の各セットについて、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照結腸上皮細胞を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされた結腸細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされた結腸細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(d)mRNAでトランスフェクトされていない対照HCT-116細胞(結腸がん)における細胞核染色、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(e)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされたHCT-116細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(f)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされたHCT-116細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル。
図15a-c】miRNA-Let7b、miRNA-126、及びmiRNA-30aに結合する完全に一致したMOP配列を含む本明細書に記載の組成物でトランスフェクトされた正常な健康な肺細胞(BEAS-2B)におけるmCherryシグナルを示し、MOP配列が、miRNA-Let7b結合部位の存在に起因する、健康な肺細胞において発現を抑制することによって、肺について器官保護を提供することを示す。写真の各セットについて、上パネルは、Texas Red and DAPIフィルターキューブを用いて取得された画像の重ね合わせであり、細胞核染色及びmCherry蛍光を示している。下パネルは、Texas Redフィルターキューブを用いて取得された画像を表し、mCherry蛍光のみを示している。(a)上パネルは、mRNAでトランスフェクトされていない対照細胞を示し、下パネルは、mCherryシグナルを示さず、(b)MOP配列を含まないmRNAでトランスフェクトされた細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル、(c)MOP配列を含むmRNAでトランスフェクトされた肺細胞における細胞核染色及びmCherryシグナル。
図16a-b】マウスにおけるインビボでの生体内分布実験の結果を示し、(a)本発明の組成物でトランスフェクションしてから3.5時間後(T3.5h)に、MOP含有構築物(第2群及び第3群)、並びにMOP構築物を含まない対照群(第1群)を含む、全身撮像によって全ての群において高レベルのルシフェラーゼ発現を見ることができるが、24時間後(T24h)に、MOP含有組成物において、ルシフェラーゼ発現の有意な下方調節が見られる。(b)において、24時間後の器官のエクスビボ撮像は、第1群(MOPなし対照)と比較して、第2群及び第3群(MOP含有構築物)におけるマウスについて、肝臓、肺、脾臓、及び腎臓においてルシフェラーゼ発現の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
別段の指示のない限り、本発明の実施は、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、及び化学的方法の従来技術を使用するものであり、これらは当業者の能力の範囲内である。このような技術はまた、文献、例えば、M.R.Green,J.Sambrook,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Books 1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、Ausubel,F.M.et al.(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Online ISSN:1934-3647)、B.Roe,J.Crabtree,and A.Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley & Sons、J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ Hybridisation:Principles and Practice,Oxford University Press、M.J.Gait(編集者),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press、及びD.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Press、Synthetic Biology,Part A,Methods in Enzymology,Edited by Chris Voigt,Volume 497,Pages 2-662(2011)、Synthetic Biology,Part B,Computer Aided Design and DNA Assembly,Methods in Enzymology,Edited by Christopher Voigt,Volume 498,Pages 2-500(2011)、RNA Interference,Methods in Enzymology,David R.Engelke,and John J.Rossi,Volume 392,Pages 1-454(2005)にも説明されている。これらの一般的な教科書の各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明を説明する前に、本発明の理解を助ける多くの定義が提供される。本明細書で引用される全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「~を含む」という用語は、引用される要素のいずれかが必ず含まれ、他の要素も同様に任意選択的に含まれ得ることを意味する。「~から本質的になる」は、引用されるいずれかの要素が必ず含まれ、列挙される要素の基本的かつ新規の特性に実質的に影響を及ぼす要素が除外され、他の要素が任意選択的に含まれ得ることを意味する。「~からなる」は、列挙されるもの以外の全ての要素が除外されることを意味する。これらの用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0025】
「単離された」という用語は、ポリヌクレオチド配列に適用される場合、その配列が、その起源である天然生物から除去され、したがって、外来の又は望ましくないコード配列又は調節配列を含まないことを示す。単離された配列は、組換えDNAプロセスにおける使用及び遺伝子操作されたタンパク質合成システム内の使用に好適である。そのような単離された配列は、cDNA、mRNA、及びゲノムクローンを含む。単離された配列は、タンパク質をコードする配列のみに限定され得るか、又はプロモーター及び転写ターミネーター等の5’及び3’調節配列、又は非翻訳配列(UTR)も含んでもよい。本発明を更に説明する前に、本発明の理解を助ける多くの定義が提供される。
【0026】
「ポリヌクレオチド」は、各ヌクレオチドの3’及び5’末端がホスホジエステル結合によって接続された、ヌクレオチドの一本鎖又は二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基で構成されてもよい。ポリヌクレオチドは、DNA及びRNAを含み、インビトロで合成的に製造されてもよいか、又は天然源から単離されてもよい。ポリヌクレオチドのサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの場合は塩基対(bp)の数として、又は一本鎖ポリヌクレオチドの場合はヌクレオチド(nt)の数として表される。1000bp又はntは、1キロベース(kb)に等しい。約40ヌクレオチド長未満のポリヌクレオチドは、典型的には「オリゴヌクレオチド」と称される。本明細書で使用される「核酸配列」という用語は、各ヌクレオチドの3’及び5’末端がホスホジエステル結合によって接続された、ヌクレオチドの一本鎖又は二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基で構成されてもよい。核酸配列は、DNA及びRNAを含んでもよく、インビトロで合成的に製造されてもよいか、又は天然源から単離されてもよい。本発明の特定の実施形態において、核酸配列は、メッセンジャーRNA(mRNA)を含む。
【0027】
核酸は、修飾されたDNA若しくはRNA、例えばメチル化されているDNA若しくはRNA、又は翻訳後修飾、例えば7-メチルグアノシンによる5’キャッピング、切断及びポリアデニル化等の3’プロセシング、並びにスプライシングを受けているRNAを更に含み得る。核酸はまた、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トレオース核酸(TNA)、グリセロール核酸(GNA)、ロックド核酸(LNA)及びペプチド核酸(PNA)等の合成核酸(XNA)も含み得る。
【0028】
本発明によれば、本明細書に記載の核酸配列に対する相同性は、単に100%の配列同一性に限定されない。これに関して、2つの配列に関する「実質的に類似」という用語は、配列が少なくとも70%、80%、90%、95%、又は100%の類似性を有することを意味する。同様に、2つの配列に関して「実質的に相補的」という用語は、配列が完全に相補的であること、又は塩基の少なくとも70%、80%、90%、95%、若しくは99%が相補的であることを意味する。すなわち、ハイブリダイズすることを目的とする配列の塩基間で不一致が発生する可能性があり、これは、塩基の少なくとも1%、5%、10%、20%、又は最大30%で発生する可能性がある。しかしながら、場合によっては、互いにハイブリダイズすることができるが、いくつかの不一致(「不正確な一致」、「不完全な一致」、又は「不正確な相補性」)を含有する2つの配列と、不一致なしに互いにハイブリダイズすることができる2つの配列(「正確な一致」、「完全一致」、又は「正確な相補性」)とを区別することが望ましい場合がある。更に、不一致の可能な程度が考慮される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「器官保護配列」(「OPS」)という用語は、天然起源又は合成起源の複数のマイクロRNA(miRNA)標的配列、及び任意選択的に1つ以上の補助配列で構成される配列を指す。OPSが複数の器官に保護を与える場合、多器官保護(MOP)配列と称され得る。「標的配列」という用語は、特定のmiRNAによる結合を標的とする、mRNA配列内、例えば非翻訳領域(UTR)内に含まれる配列を指す。結合は、miRNA内に含まれる相補的塩基対と対応する標的配列との間の核酸ハイブリダイゼーションによって生じる。結合相互作用は、特定のmiRNAと標的配列との間の不一致が生じないように、又は不一致が標的配列の長さにわたって単一の塩基対不一致以下に限定されるように最適化され得る。本発明の一実施形態において、単一塩基の不一致は、標的配列の5’又は3’末端に限定される。最適化された配列は、標的miRNAと完全に一致していると説明することもでき、2つ以上の塩基対によって野生型結合配列と異なっていてもよい。2つより多い天然に存在する不一致を含む野生型配列は、対応するmiRNA配列と不完全に(un-perfectly)又は不完全に(im-perfectly)一致するとみなされる。
【0030】
例えば、発現構築物において核酸配列に適用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、意図する目的を達成するために協働して機能するように配列が整列することを示す。例として、DNAベクターにおいて、プロモーター配列が転写の開始を可能にし、これは連結されたコード配列を介して終止配列まで進行する。RNA配列の場合、1つ以上の非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレーム(ORF)と称される連結されたポリペプチドコード配列に対して整列され得る。本明細書に開示される所与のmRNAは、1つより多くのORFを含んでいてもよい(いわゆる多シストロン性RNA)。UTRは、作動可能に連結されたコード配列ORFに対して5’又は3’に位置し得る。UTRは、天然に見られるmRNA配列において典型的に見られる配列、例えば、コザックコンセンサス配列、開始コドン、シス作用調節エレメント、ポリAテール、配列内リボソーム進入部位(IRES)、mRNA寿命を調節する構造、mRNAの局在化を指示する配列等のうちの任意の1つ以上を含んでいてもよい。mRNAは、同じ又は異なる複数のUTRを含み得る。1つ以上のUTRは、OPSを含み得るか、又はOPSに近接して、又は隣接して位置し得る。
【0031】
本発明の文脈における「ポリペプチドを発現する」という用語は、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列がコードするポリペプチドの産生を指す。典型的には、これは、配列が送達される細胞のリボソーム機構による供給されたmRNA配列(すなわちORF)の翻訳を伴う。
【0032】
本明細書で使用される「罹患」という用語は、「罹患細胞」及び/又は「罹患組織」のように、異常、不健康又は疾患の病態を示す組織及び器官(又はその一部)及び細胞を示す。例えば、罹患細胞は、ウイルス、細菌、プリオン、又は真核生物の寄生虫に感染している場合があり、有害な変異を含む場合があり、かつ/又はがん性、前がん性、腫瘍性若しくは新生物性であり得る。罹患細胞は、それ以外の点では正常であるか又はいわゆる健康な細胞と比較した場合に、変化した細胞内miRNA環境を含み得る。特定の場合において、罹患細胞は病理学的に正常であり得るが、疾患の前駆状態を表す変化した細胞内miRNA環境を含む。罹患組織は、別の器官又は器官系からの罹患細胞によって浸潤されている健康な組織を含む場合がある。例として、多くの炎症性疾患は、それ以外の点では健康な器官がT細胞及び好中球等の免疫細胞による浸潤に供される病態を含む。更なる例として、狭窄性又は硬化性の病変に供される器官及び組織は、近接した健康な細胞及び罹患細胞の両方を含み得る。
【0033】
本明細書で使用される「がん」という用語は、特定の組織において始まる原発性がん、又は他の場所からの転移によって広がった続発性がんであり得る悪性腫瘍を含む組織の新生物を指す。がん、新生物、及び悪性腫瘍という用語は、本明細書において互換的に使用される。がんは、新生物内に位置するか、又は新生物と関連する特性を有する、組織又は細胞を指し得る。新生物は、典型的には、正常組織及び正常細胞とそれらを区別する特徴を有する。そのような特徴には、限定されないが、ある程度の退形成、形態の変化、形状の不規則性、細胞接着性の減少、転移する能力、及び細胞増殖の増加が含まれる。「がん」に関連し、またしばしば「がん」と同義である用語は、肉腫、がん腫、悪性腫瘍、上皮腫、白血病、リンパ腫、形質転換、新生物等を含む。本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、前悪性腫瘍、及び/又は前がん性腫瘍、並びに悪性がんを含む。
【0034】
本明細書で使用される「健康な」という用語は、「健康な細胞」及び/又は「健康な組織」のように、それ自体は罹患しておらず、及び/又は典型的な正常に機能する表現型に近似する組織及び器官(又はその一部)並びに細胞を示す。本発明の文脈において、「健康な」という用語は相対的であり、例えば、腫瘍に冒された組織中の非新生物細胞は、絶対的な意味で完全に健康ではない可能性があることを理解することができる。したがって、「不健康な細胞」は、それ自体は新生物性、がん性又は前がん性ではないが、例えば、硬化性、炎症性、感染性であり得るか、又は別様に罹患している可能性のある細胞を意味する。同様に、「健康又は不健康な組織」は、全体的な健康状態に関係なく、腫瘍、新生物細胞、がん性細胞若しくは前がん性細胞のない、又は上述の他の疾患がない組織又はその一部を意味する。例えば、がん性及び線維性組織を含む器官の文脈において、線維性組織内に含まれる細胞は、がん性組織と比較して比較的「健康」であると考えられ得る。「健康な」細胞の正常に機能する表現型の近似に使用されるモデルは、細胞機能及び遺伝子発現の点で、それ以外は起始細胞に近い不死化細胞株を含み得る。
【0035】
代替の実施形態において、細胞、細胞型、組織及び/又は器官の健康状態は、miRNA発現の定量化によって決定される。がん等の特定の種類の疾患において、特定のmiRNA種の発現が影響を受け、影響を受けていない細胞と比較して上方調節され得るか又は下方調節され得る。miRNAトランスクリプトームにおけるこの違いは、相対的な健康状態を特定するため、並びに/又は健康な細胞、細胞型、組織、及び/若しくは器官の疾患状態への進行を追跡するために使用することができる。疾患状態は、新生物細胞への様々な形質転換段階を含み得る。本発明の実施形態において、異なる細胞型におけるタンパク質発現を制御するために、所与の器官又は器官系内に含まれる細胞型のmiRNAトランスクリプトームの差次的変動が利用される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「器官」という用語は、「器官系」と同義語であり、生理学的機能、解剖学的機能、恒常性維持機能、又は内分泌機能等の生物学的機能を提供するために、対象の体内で区画化され得る組織及び/又は細胞型の組み合わせを指す。好適には、器官又は器官系は、肝臓又は膵臓等の血管が発達した内臓を意味し得る。典型的には、器官は、少なくとも2つの組織型、及び/又はその器官に特徴的な表現型を示す複数の細胞型を含む。組織又は組織系は協働することができるが、正式には器官とはみなされない。例えば、血液は、一般に組織、又は液体組織とみなされるが、使用される定義によっては厳密な意味での器官とはみなされない場合がある。それにもかかわらず、特定の実施形態における本発明の組成物及び方法は、血液、造血組織及びリンパ組織を含む器官、組織及び組織系に関して保護効果を示すように機能し得る。
【0037】
本明細書で使用される「治療用ウイルス」という用語は、時には直接的なウイルス溶解(腫瘍溶解)によって、がん細胞に感染して死滅させることができ、及び/又は宿主の抗腫瘍応答の刺激による間接的な死滅も含むウイルスを指す。腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞と比較して、がん細胞を含む罹患細胞における活性が高いことを特徴とすることが多い。治療用ウイルスはまた、ワクチン製剤に有用な弱毒化ウイルス又は改変ウイルスを含んでもよい。
【表1】

【0038】
本発明の実施形態において、ウイルスは、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択することができる(Baltimore D(1971)。“Expression of animal virus genomes”.Bacteriol Rev.35(3):235-41)。本発明の特定の実施形態において、好適なウイルスは、二本鎖DNAウイルスゲノムを有することを特徴とするボルティモア第I群、プラスの一本鎖DNAゲノムを有することを特徴とする第II群、二本鎖RNAウイルスゲノムを有することを特徴とする第III群、一本鎖のプラス鎖RNAゲノムを有する第IV群、及び一本鎖のマイナス鎖RNAゲノムを有する第V群から選択され得る。
【0039】
本明細書で使用される「病原性遺伝子」又は「病原性因子」という用語は、それが感染する細胞内での腫瘍溶解性ウイルス又は細胞溶解等の治療用ウイルスの複製を助ける遺伝子又は遺伝子産物を指す。「複製因子」という用語は、本明細書において同義語として使用される。病原性因子は、典型的には、ウイルスゲノムによってコードされるウイルス遺伝子であり得る。病原性因子は、細胞内免疫系の抑制及び回避、ウイルスゲノム複製、ビリオンの拡散又は伝播、構造コートタンパク質の産生又はアセンブリ、潜伏状態のウイルスの活性化、ウイルス潜伏の防止、及び宿主細胞プロセスの引継ぎ等の機能に関与している可能性がある。いくつかの病原性因子は、ウイルスゲノムを欠く場合、これらの遺伝子の機能を補うことができる細胞又は他の等価物を有する。いくつかのウイルスは、複製、細胞の溶解、及び拡散の能力を高める外因性の病原性遺伝子で修飾することができる。
【0040】
「ウイルス侵入受容体」又は「ウイルス融合受容体」という用語は、ウイルスの生活環の「侵入」段階の一部として、ウイルスが細胞への侵入前に結合し得る、標的細胞の表面上に存在する細胞表面タンパク質又は他のマーカー、又は抗原を指す。十分に理解されるように、ウイルスゲノムは、感染及び複製を行うために標的細胞に侵入しなければならない。ウイルスと標的細胞との結合は、ウイルス侵入受容体と、ウイルスカプシド又はウイルスエンベロープ(ウイルス型に依存する)上に存在するウイルスタンパク質との間の相互作用に起因すると考えられている。その後の侵入は、膜融合によって(ウイルスエンベロープを有するウイルスにおいて)、エンドサイトーシスによって、及び/又はウイルスゲノムのみの注射によって、媒介され得る。ウイルス侵入受容体は、天然であってもよく(既存の生物中に見出される)、又はウイルスタンパク質のための結合標的として作用するように修飾され、合成され、及び/若しくは操作されてもよい。ウイルス侵入受容体に結合するウイルスタンパク質はまた、天然であってもよく(既存のウイルス中に見出される)、又は天然若しくは修飾/合成若しくは操作されたウイルス侵入受容体に結合するように修飾され、合成され、及び/若しくは操作されてもよい。
【0041】
本発明の特定の実施形態において、mRNA配列は、腫瘍におけるウイルス病原性を優先的に増強する1つ以上のタンパク質又はポリペプチドの差示的発現により、器官内に位置する腫瘍における同時投与されたウイルスの腫瘍溶解能を増強又は維持する。このようにして、mRNAは、複製の増加及び/又はウイルス腫瘍溶解活性の増加及び/又はウイルス子孫の増加及び/又は適応抗腫瘍免疫応答の増加により、腫瘍溶解性ウイルスの生物学的効力を増強する1つ以上の因子をコードし得る。本発明の更なる実施形態において、組成物は、腫瘍内の宿主免疫細胞と腫瘍溶解性ウイルスとの間の相互作用を制御するタンパク質又はポリペプチドをコードし得る。なお更なる実施形態において、本発明の組成物を使用して、腫瘍溶解性ウイルス活性又は他の治療用ウイルス活性の差次的パターン、並びにビリオンを介して、外因的に、又は本発明の送達粒子を介して投与される免疫共刺激分子の発現を調節する、タンパク質又はポリペプチドを産生することができる。
【0042】
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、天然で、又は合成手段によってインビトロで生成されるかどうかにかかわらず、ペプチド結合によって接続されたアミノ酸残基のポリマーである。約12アミノ酸残基長未満のポリペプチドは、典型的には「ペプチド」と称され、約12~約30アミノ酸残基長のポリペプチドは「オリゴペプチド」と称され得る。本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、天然に存在するポリペプチド、前駆体形態、又はプロタンパク質の産物を意味する。また、ポリペプチドは、グリコシル化、タンパク質分解切断、脂質化、シグナルペプチド切断、プロペプチド切断、リン酸化等を含み得るが、これらに限定されない成熟又は翻訳後修飾プロセスを受けることもできる。「タンパク質」という用語は、1つ以上のポリペプチド鎖を含む高分子を指すために本明細書において使用される。
【0043】
本明細書で使用される「遺伝子産物」という用語は、本明細書に記載の本発明のmRNA構築物内に含まれる少なくとも1つのコード配列又はオープンリーディングフレーム(ORF)によってコードされるペプチド又はポリペプチドを指す。同じポリ核酸鎖上に位置する複数のORFによってコードされる複数の遺伝子産物の産生をもたらす多シストロン性mRNA構築物が使用され得る。複数のORFが、機能的に協働し得るか、又は多様な生物学的効果及び潜在的な治療効果を有する複合体及び/又は多量体タンパク質を形成し得る様々な産物(例えば、タンパク質、ペプチド又はポリペプチド)の系中での産生をもたらし得ることが理解されるであろう。
【0044】
mRNAによってコードされる遺伝子産物は、典型的にはペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質である。特定のタンパク質が、1つより多くのサブユニットからなる場合、mRNAは、1つ以上のORF内の1つ又は1つより多くのサブユニットをコードし得る。代替の実施形態において、第1のmRNAは、第1のサブユニットをコードしてもよく、一方で、第2の同時投与mRNAは、系中で翻訳されるとマルチサブユニットタンパク質遺伝子産物の集合をもたらす第2のサブユニットをコードしてもよい。
【0045】
mRNAを細胞に直接送達すると、細胞内のポリペプチド及び/又はタンパク質等の所望の遺伝子産物の直接的かつ制御可能な翻訳が可能になる。mRNAの提供は、miRNA媒介性の制御(以下の特定の実施形態に詳述される)等の細胞発現調節機構の使用を具体的に可能にするだけでなく、エピソーム又はゲノムに挿入されたDNAベクターが提供する可能性のある標的細胞のトランスクリプトームの潜在的な恒久的変化ではなく、産物の有限かつ消耗可能な供給も説明する。
【0046】
本発明の実施形態において、全体として核酸配列に組織特異性及び安定性を付与し得る1つ以上の非翻訳領域(UTR)と作動可能に組み合わせて、少なくとも1つのポリペプチドをコードする配列を含むmRNA配列が提供される。「組織特異性」は、mRNAによってコードされるタンパク質産物の翻訳がUTRの存在に従って調節されることを意味する。調節は、mRNAのタンパク質への検出可能な翻訳を許可し、減少し、又はブロックすることさえも含み得る。UTRは、mRNAに対して直接シスに、すなわち、同じポリヌクレオチド鎖上に連結され得る。代替の実施形態において、遺伝子産物をコードする第1の配列が提供され、全体として核酸配列に組織特異性を付与する1つ以上のUTRを含む、第1の配列の一部分にハイブリダイズする更なる第2の配列が提供される。この後者の実施形態において、UTRは、遺伝子産物をトランスにコードする配列に作動可能に連結される。
【0047】
本発明の特定の実施形態によれば、非罹患肝臓組織、例えば、健康な肝細胞において、遺伝子産物の発現を防止するか、又は減少させるのに必要であるように、作動可能に連結されたそのような関連する核酸配列を含むmRNAが提供される。以下、mRNAを「コードmRNA」と称する。そのため、リボソーム動員並びに組織及び/又は器官特異的発現に必要な5’キャップ及びUTR(典型的にはそうであるが、ORFの3’に限定的に位置付けられるものではない)、並びにそれぞれ、1つ以上のORFを定義する開始コドン及び終止コドンを含む、このコードmRNA構築物又は転写物が提供される。構築物が、非罹患肝臓、肺、膵臓、乳房、脳/CNS、腎臓、脾臓、筋肉、皮膚、及び/又は結腸GI管に導入されると、遺伝子産物の発現が妨げられるか、又は減少する。対照的に、前述の器官内に含まれる新生物性細胞又はその他の罹患細胞は、典型的には、正常な非罹患細胞の発現パターンに適合せず、全く異なるmiRNAトランスクリプトームを有する。mRNAによってコードされるポリペプチドは、これらの異常な細胞において特異的に翻訳されるが、又は隣接する健康な細胞又は非罹患細胞においては、これより程度は低いが、特異的に翻訳される。上記の器官へのmRNA構築物の送達は、本明細書に記載の粒子送達プラットフォームを介して、又は当該技術分野で既知の任意の好適な方式で達成され得る。細胞型特異的発現は、下でより詳細に説明するようなマイクロRNA調節機構を介して媒介され得る。
【0048】
本明細書で定義される「治療成分」又は「治療薬」は、治療的介入の一部として個々のヒト又は他の動物に投与されたときに、その個々のヒト又は他の動物に対する治療効果に寄与する分子、物質、細胞、又は生物を指す。治療効果は、治療成分自体によって、又は治療的介入の別の成分によってもたらされ得る。治療成分は、コード核酸成分、特にmRNAであり得る。コード核酸成分は、以下に定義されるように、治療増強因子をコードし得る。治療成分はまた、薬物、任意選択的に小分子又はモノクローナル抗体(若しくはその断片)等の化学療法薬を含んでもよい。いくつかの実施形態において、治療成分は、組換えによって修飾された免疫エフェクター細胞等の細胞、例えば、CAR-T細胞を含んでもよい。本発明の他の実施形態において、治療薬は、腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクター等の治療用ウイルスを含む。
【0049】
「治療効果」という用語は、対象に投与されている物質、分子、組成物、細胞又は生物を含む薬理学的又は治療的に活性な薬剤によって引き起こされる、動物対象、典型的にはヒトにおける局所的効果又は全身的効果を指し、「治療的介入」という用語は、そのような物質、分子、組成物、細胞又は生物の投与を指す。したがって、この用語は、疾患の診断、治癒、緩和、治療若しくは予防における使用、又は動物若しくはヒト対象の望ましい身体的若しくは精神的発達及び状態の増強における使用を意図した任意の薬剤を意味する。「治療有効量」という句は、任意の治療に適用可能である妥当な利益/リスク比で所望の局所的効果又は全身的効果をもたらすそのような薬剤の量を意味する。ある特定の実施形態において、薬剤の治療有効量は、その治療指数、溶解度等に依存するであろう。例えば、本発明の特定の治療薬は、そのような治療に適用可能である妥当な利益/リスク比を生じるのに十分な量で投与され得る。がんの治療の特定の文脈において、「治療効果」は、固形腫瘍量の低下、がん細胞の数の低下、観察される転移の数の低下、平均余命の増加、がん細胞増殖の低下、がん細胞生存率の低下、腫瘍細胞マーカーの発現の低下、及び/又はがん性状態と関連する様々な生理学的症状の改善を含むが、これらに限定されない、様々な手段によって顕在化し得る。ワクチン接種による予防等のウイルス感染症、細菌感染症又は寄生虫感染症の治療の特定の文脈において、「治療効果」は、病原体チャレンジに対する完全若しくは部分的な耐性、ヒト若しくは動物対象における病原体に対する循環抗体の存在、又はワクチン有効性の他の既知の尺度によって示され得る。
【0050】
一実施形態において、療法が施される対象は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、霊長類、非ヒト哺乳動物、飼育動物又は家畜、例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等)であり、好適にはヒトである。更なる実施形態において、対象は、がんの動物モデルである。例えば、動物モデルは、ヒト由来のがん、好適には肝臓、肺、膵臓、乳房、脳、腎臓、筋肉、皮膚、及び/又は結腸-GI管がんの同所性異種移植動物モデルであり得る。
【0051】
本発明の方法の特定の実施形態において、対象は、治療的ウイルス療法、化学療法、放射線療法、標的療法、ワクチン接種、及び/又は抗免疫チェックポイント療法等の療法的治療をまだ受けていない。更に別の実施形態において、対象は、前述の療法等の療法的治療を受けている。
【0052】
更なる実施形態において、対象は、がん性組織又は前がん性組織を除去するための手術を受けている。他の実施形態において、がん性組織は除去されておらず、例えば、がん性組織は、外科的介入を受けた場合に対象の生命を損なう可能性がある場合に、組織若しくは器官等の身体の手術不可能な領域に、又は外科的手技が、恒久的な危害のかなりのリスク、又は致死を引き起こすであろう領域に、位置し得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、提供されるコードmRNA構築物は、「治療増強因子」をコードし得る。本発明によれば、治療増強因子は、所与の細胞、好適には標的細胞に対して治療効果を発揮する別の同時投与される治療薬の能力を増強又は促進し得る遺伝子産物又はポリペプチドである。標的細胞又はその近傍に導入されると、治療増強因子の発現は、同時投与される治療薬と協働し、それによって治療薬の治療活性を可能にするか、又は増強し得る。いくつかの実施形態において、治療増強因子は、同時投与された腫瘍溶解性ウイルスが、がん細胞を溶解する能力を増強し得る。本発明の他の実施形態において、治療増強因子は、対象自身の免疫応答を支援又は補充するために、腫瘍微小環境の変化をもたらし得る。この後者の実施形態において、腫瘍微小環境の変化は、腫瘍溶解性ウイルス又はCAR-T又は他の養子細胞ベースの治療薬、又はモノクローナル抗体又はPD-1/PD-L1に等価な免疫チェックポイント阻害剤の同時投与を支援し得る。いくつかの実施形態において、治療増強因子は、プロドラッグの活性形態への変換を可能にし得る。他の実施形態において、治療増強因子は、同時投与又は順次投与されるワクチンのためのアジュバントとして機能し得る。代替的に、治療増強因子は、ワクチン製剤において利用される改変アデノウイルス等の同時投与又は順次投与される弱毒化ウイルス又は改変ウイルスのアジュバントとして作用し得る。
【0054】
本発明の特定の実施形態による組成物中に複数の治療増強因子を組み合わせることができる。そのような実施形態において、各治療増強因子のコード配列は、別個のmRNA分子に存在してもよい。いくつかの実施形態において、1つより多くの治療増強因子の配列が、同じmRNA分子上に存在し得る。そのような場合、多シストロン性mRNA分子は、配列内リボソーム進入部位(IRES)等の全てのコード配列の発現に必要な配列を更に含む。
【0055】
複数の異なるmRNA分子が1つ以上の送達系に含まれる実施形態において、各送達系(例えば、粒子、リポソーム、ウイルスベクター系)は、「ペイロード」として1つ又は1つより多くの種類のmRNA分子を含み得ることが企図される。すなわち、特定の実施形態における全ての送達ペイロードが、必ずしも上述の実施形態で提供されるmRNA分子の全てを含むとは限らない。このようにして、本明細書に記載の標的化剤を用いて、異なる送達系及びそれらに関連する配列を異なる標的細胞に向かわせることも可能であると考えられる。
【0056】
本発明の特定の実施形態のmRNA構築物は、例えばDNAプラスミドであり得るポリヌクレオチド発現構築物から合成され得る。この発現構築物は、mRNA構築物の転写が起こり得るように、転写の開始に必要な任意のプロモーター配列及び対応する終止配列を含んでもよい。そのようなポリヌクレオチド発現構築物は、それ自体で本発明の実施形態を含むことが企図される。
【0057】
mRNAによってコードされる遺伝子産物は、治療効果をもたらすのに好適な任意の種類のものであり得る。がんの治療に関連して、mRNAによってコードされる遺伝子産物は、がん細胞によって発現されたときにがん細胞の破壊を引き起こすか、又は助ける遺伝子を好適に含み得る。
【0058】
p53等の腫瘍抑制遺伝子が、本発明の構築物によって提供され得る。p53は、アポトーシス及びゲノム安定性を含む細胞プロセスにおいて役割を果たす。それは、ゲノム損傷に応答してDNA修復プロセスの活性化に関与し、細胞の増殖及び繁殖を阻止することができる。
【0059】
細胞死は、いくつかの機構によって起こり得るものであり、細胞ストレスを示すものとして検出される内因性因子によって媒介される制御された細胞死のプロセスを説明する、プログラム細胞死又はアポトーシスを含む。これらの用語には、免疫系の細胞、例えば、細胞傷害性T細胞又はナチュラルキラー細胞によって受容されるもの等の外因性シグナルによって媒介される細胞死も包含される。アポトーシスに至る経路は、細胞死を逃れるためにがん細胞によって阻害されることが多いので、そのような経路は、がん治療の有望な標的である。
【0060】
細胞死(例えば、アポトーシスによるもの)を促進する遺伝子、いわゆる自殺遺伝子は、発現すると、細胞にアポトーシスのプロセスを活性化させるが、本発明の組成物及び構築物によって提供されてもよい。がん細胞は、しばしばこれらのアポトーシス関連遺伝子の変異した形態及び/又は機能のない形態を保有しているため、外部シグナルに応答してアポトーシスを起こすことはできない。自殺遺伝子療法は、非毒性化合物又はプロドラッグの致死薬への変換を可能にする遺伝子の導入を指す場合もある(Duarte et al.Cancer Letters,2012;324(2):160-170)。本発明の実施形態によれば、そのような遺伝子産物は、新生物細胞等の罹患細胞に選択的に導入することができ、誘導されるアポトーシス又は他の非毒性化合物若しくはプロドラッグの送達による破壊についてそれらをマーキングすることができる。
【0061】
本発明の特定の実施形態において、mRNAは、PD-1受容体(CD279)又はそのリガンドPD-L1(B7-H1、CD274)及びPD-L2(B7-DC、CD273)の阻害剤等のチェックポイント阻害剤をコードし得る。一部のがん細胞は、大量のPD-L1を有しており、このことは、T細胞媒介性免疫攻撃を回避するのに役立つ。したがって、mRNAは、標的器官内の罹患細胞又は新生物細胞内のPD-1/PD-L1又はPD-1/PD-L2軸に結合するか、又は別様にその機能に干渉するタンパク質又はポリペプチドをコードしてもよい。好適なタンパク質又はポリペプチドは、PD-1受容体、PD-L1、PD-L2、又はリガンドと受容体の複合体に結合するモノクローナル若しくはポリクローナル、又はその抗原結合断片、又は他の抗原結合マイクロタンパク質であり得る抗体を含んでいてもよい。この効果は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)経路のタンパク質又はポリペプチド阻害剤、別のいわゆる免疫チェックポイントの使用によっても観察され得る。いずれか又は両方の経路の阻害は、患者の健康にプラスの利益をもたらし得る腫瘍微小環境内の免疫応答の変化をもたらすことが知られている。これに加えて、対象の免疫応答を調節することにより、本発明の組成物は、放射線療法又は化学療法等の他の抗がん治療アプローチとの併用療法において特定の有用性を示し得る。FDAが承認した抗PD-1経路阻害剤は、ペンブロリズマブ及びニボルマブを含む。既知の抗PD-L1阻害剤は、MPDL-3280A、BMS-936559、及びアテゾリズマブを含む。抗CTLA-4治療阻害剤は、イピリムマブ及びトレメリムマブを含む。本発明の組成物を使用して、そのようなプログラム細胞死経路の阻害剤、又はその機能的模倣物を、対象の標的器官内の罹患細胞に、これらの細胞における差次的なmiRNA環境を利用することによって選択的に送達してもよい。代替的に、本発明の組成物を、IL-12等の免疫細胞を活性化するタンパク質を送達するために、チェックポイント阻害剤又は他の関連する抗がん療法と組み合わせて使用してもよい。
【0062】
インターロイキン12(IL-12)は、T細胞及びNK細胞を含む免疫細胞のための免疫刺激サイトカインである。IL-12は、食細胞並びに抗原提示細胞によって特異的に産生され、抗腫瘍免疫応答を増強するヘテロ二量体サイトカインである。IL12の強力な免疫刺激特性の結果は、全身投与が、患者においてその臨床応用を制限する深刻な副作用を引き起こすことである。腫瘍部位における操作されたNK92によるIL-12の発現は、キメラ抗原受容体(CAR)媒介性T細胞の抗腫瘍活性を増加させることが示されている(Luo et al.Front Oncol.(2019)Dec 19;9:1448)。腫瘍におけるIL-12誘発性IFNγ蓄積は、CAR-T又は他の宿主免疫細胞(例えばNK細胞)の腫瘍への浸透も促進し、それによって治療効果を増強すると考えられている(Chinnasamy D.et al.Clin Cancer Res 2012:18/Chmielewski M.et al.Cancer Res 2011;71/Kerkar SP.Et al.J Clin Invest 2011;121/Jackson HJ.Et al.Nat Rev Clin Oncol 2016;13)。本発明の実施形態において、本発明の組成物は、機能的IL-12又はその類似体若しくは誘導体をコードする少なくとも1つのORFを含むmRNAを含む。野生型IL-12は、35kDaのIL-12Aサブユニット及び40kDaのIL-12Bサブユニットのヘテロ二量体で構成されるため、ORFは、これらのサブユニットのうちの1つを含み、他のサブユニットをコードする別のmRNAと組み合わせて投与され、それによって、細胞内の機能的IL-12のアセンブリを可能にし得る。代替的に、機能的IL-12は、単一のORF内の両方のサブユニットを含むIL-12の修飾された一本鎖態様の形態であり得る(例えば、配列番号63を参照されたい)。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、コードmRNAは、コードmRNAの一過性の発現を提供するために、CAR-T又は他の養子細胞療法と併せて送達される。
【0064】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、免疫細胞、典型的にはTリンパ球であり、がん細胞を含む特定の細胞型を標的とする受容体を発現するように修飾されている。この養子免疫療法は、エクスビボで生成された自己抗原特異的T細胞を患者に移植することを伴う。「自己」は、T細胞が患者のT細胞であることを意味する。養子免疫療法に使用されるT細胞は、抗原特異的T細胞の増殖又は遺伝子工学によるT細胞のリダイレクションによって生成され得る(Park et al.Trends Biotechnol.2011;29(11):550-7)。新たな特異性又は改善された特異性を有する修飾T細胞は、操作されたキメラ抗原受容体(CAR)の挿入によって首尾良く生成されている。
【0065】
FDAが承認したCAR-T細胞療法の一例は、チサゲンレクルユーセル(ブランド名Kymriah)であり、CD19糖タンパク質の高レベルのキメラ受容体を発現するように遺伝子操作された患者のT細胞の使用を伴う自己免疫細胞療法である。CD19は、ほとんどのリンパ腫、白血病、及び健康なB細胞を含む、B細胞の表面上で、特異的かつ一貫して発現される(Vairy et al.Drug Des Devel Ther.2018;12:3885-98)。
【0066】
いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、特定のクラスのT細胞、例えば、健康な細胞に影響を及ぼすことなく腫瘍細胞を選択的に標的とするT細胞のサブタイプである、γδT細胞を含む。CARにより、リンパ腫及び固形腫瘍を含む様々な悪性腫瘍に由来する腫瘍細胞の表面に発現された抗原に対してT細胞をリダイレクトすることを成功裏に可能にしている(Jena,Dottiら、上記参照)。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、CAR依存性のエフェクター機能を損なうことなく、内因性αβT細胞受容体(TCR)の発現を排除して移植片対宿主応答を防止するようにCAR-T細胞が操作されている自己T細胞集団を少なくとも含む。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、少なくとも同種異系T細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、少なくとも自己T細胞集団及び同種異系T細胞集団を含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、T細胞活性化は、免疫細胞活性化を引き起こし、炎症及び/又は免疫応答を促進するようにT細胞によって炎症性サイトカインが放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は、細胞傷害活性を引き起こし、がん細胞死を促進するようにT細胞によって細胞毒が放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は、増殖を引き起こし、細胞の発達及び分裂を促進するようにT細胞によってインターロイキンが放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は、免疫細胞活性化、細胞傷害活性、及び/又は増殖のうちの少なくとも2つの組み合わせを引き起こす。
【0068】
本明細書のいくつかの実施形態において提供されるmRNA組成物は、CAR-T細胞の安全性及び有効性を改善するのに有用である。例えば、本明細書に記載のmRNAによってコードされるポリペプチドは、特定の免疫細胞、又はCAR-T細胞等の免疫細胞の修飾されたサブセットを腫瘍微小環境に動員するために使用され得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、コードmRNAを使用して、それに結合するCAR-T細胞によって発現される受容体の標的である「CAR-T標的」を提供する。CAR-T細胞は、特定の受容体を特定の標的に向けて発現するように操作することができるため、本発明による組成物も、標的細胞型におけるそれらの標的の発現を誘導するために使用することができる。本発明の実施形態によって可能になる差次的発現に起因して、このアプローチは、CAR-T細胞が、提供されたmRNAの発現が生じる細胞のみを選択的に標的化することを可能にし、したがって、オフターゲット効果を減少させることができる。
【0070】
この方法によって、CAR-T細胞が、本発明のmRNAによってコードされるポリペプチドを首尾良く発現する細胞のみを標的とすることを可能にするために、通常はその細胞型によって発現されないCAR-T受容体標的の標的細胞において発現を誘導することが可能である。対象内に天然に存在する細胞内で希少であるか又は存在しないCAR-T標的を選択することができる。例えば、ヒト対象が治療される場合、CAR-T細胞が、供給されるmRNAを発現しない対象細胞を標的とすることを完全に防ぐために、ヒト細胞上に決して天然に見出されないCAR-T標的。
【0071】
いくつかのこのような実施形態において、CAR-T標的は、提供されるCAR-Tによって効果的に標的化されるように修飾され、合成され、及び/又は操作され得る。同様に、CAR-T細胞自体はまた、又は代替的に、それを発現するように操作される受容体が、本発明の実施形態のmRNAによってコードされるもの以外の細胞標的に結合するのを防ぐように、修飾され、合成され、及び/又は操作されるように設計され得る。このようにして、CAR-T細胞が前述の本発明のmRNAを発現する細胞以外の任意の細胞に影響を及ぼすのを防ぐために、天然に存在しないCAR-T受容体及びCAR-T標的の独自の対を設計し、修飾し、又は合成することも可能である。
【0072】
いくつかの実施形態において、コードmRNAは、CAR-T細胞を対象の特定の部位に誘引するために使用される。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、免疫細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用される。特定のケモカインに応答して、異なる免疫細胞サブセットが腫瘍微小環境に移動し、時空間的に腫瘍免疫応答を調節する。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、CAR-T細胞活性化を増強するために使用される。これに加えて、ケモカインは、腫瘍微小環境内の腫瘍細胞及び血管内皮細胞を含む非免疫細胞を直接標的とすることができ、腫瘍細胞の増殖、がん幹細胞様の細胞特性、がんの浸潤性及び転移を調節することが示されている。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、マクロファージ若しくは樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0073】
いくつかの実施形態において、コードmRNAは、CAR-T細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服し、オフターゲットCAR-T活性を防止するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAは、腫瘍微小環境に送達され、コードmRNAは、CAR-T細胞を腫瘍微小環境に誘引するか、さもなければ動員する遺伝子産物をコードする。いくつかの態様において、コードmRNAは、ケモカインを発現する。非限定的な例として、1つ以上のコードmRNAは、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL20、CCL22、CCL28、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、XCL1、及びそれらの任意の組み合わせ等のT細胞を誘引する1つ以上のケモカインをコードし得る。自己免疫疾患において等の逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、及び/又は阻害剤を発現することができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、コードmRNAは、腫瘍微小環境において一過性に発現される。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、例えば、活性化T細胞及びNK細胞等の腫瘍応答における免疫細胞の生存、増殖、及び/又は分化の調節に関与するサイトカイン又は他の遺伝子産物をコードする。非限定的な例として、コードmRNAは、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-17、IL-33、IL-35、TGF-ベータ、TNFα、TNFβ、IFNα、IFNβ、IFNガンマ、及びそれらの任意の組み合わせ等のサイトカインをコードし得る。この場合も同様に、自己免疫疾患において等の逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは、上記因子の遮断薬、拮抗薬、及び/又は阻害剤を発現することができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のmRNA送達系は、遺伝子編集剤をコードするmRNAを標的細胞集団に送達する。いくつかの実施形態において、mRNAは、遺伝子座を標的とし、標的細胞集団において産生される1つ以上の内因性遺伝子の発現を妨害する配列特異的ヌクレアーゼをコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、T細胞受容体(TCR)関連遺伝子座を標的とする配列特異的ヌクレアーゼをコードし、それによってTCR内の1つ以上のドメインの発現を妨害する。
【0076】
いくつかの実施形態において、記載のmRNA送達系は、操作されたT細胞を所望の表現型に向けてプログラムする1つ以上の薬剤をコードするmRNAを送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAは、所望のT細胞表現型に特徴的なマーカー及び転写パターンを誘導するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAは、CAR-T治療を改善することが示されている、CD26L+中央記憶T細胞(Tcm)の発生を促進するために使用され得る。(Moffett et al.Nature Commun.2017;8(1):389)。
【0077】
いくつかの実施形態において、記載されるmRNA送達系は、血管内皮増殖因子(VEGF)のメンバーをコードするmRNAを送達するために使用され得る。このシグナルタンパク質のファミリーは、血管の形成を刺激する血管新生因子であり、梗塞後に損傷した心筋細胞を修復するために使用されてきた。
【0078】
マイクロRNA(miRNA)は、各々が約20~25個のヌクレオチドを含有する非コードRNAの一種であり、そのうちのいくつかは、標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)の相補的標的配列に結合し、それらのサイレンシングを引き起こすことによって遺伝子発現の転写後調節に関与していると考えられる。これらのmiRNA相補的標的配列は、本明細書において、miRNA結合部位、又はmiRNA結合部位配列とも称される。特定のmiRNAは、その発現において高度に組織特異的である。例えば、miR-122及びそのバリアントは、肝臓に豊富に存在し、他の組織ではまれにしか発現されない(Lagos-Quintana et al.Current Biology.2002;12:735-739)。
【0079】
したがって、miRNA系は、細胞に導入された核酸を標的組織の選択された細胞型において発現抑制し、他の細胞で発現させることができる堅牢なプラットフォームを提供する。標的細胞に導入されるmRNA構築物内、特にUTR内に、特定の所与のmiRNAのための標的配列を含むことによって、特定の導入遺伝子の発現を一部の細胞型において減少させるか、又は実質的に排除することができる一方で、他の細胞型ではそのまま残ることができる(Brown and Naldini,Nat Rev Genet.2009;10(8):578-585)。
【0080】
本発明の特定の実施形態によれば、複数のそのようなmiRNA標的配列を、器官保護配列内に含むことができ、次いで、これがmRNA構築物中に含まれることが企図される。複数のmiRNA標的配列が存在する場合、この複数は、例えば、2つより多い、3つより多い、典型的には4つより多いmiRNA標的配列を含み得る。これらのmiRNA標的配列は、mRNA構築物内の指定されたUTR内に連続して、タンデムに、又は所定の位置に配置され得る。複数のmiRNA標的配列は、全体として器官保護配列の機能を補助又は促進するように機能する補助配列で分離されてもよい。例として、好適な補助配列は、リンカー又はスペーサー配列からなっていてもよく、リンカー又はスペーサー配列は、ランダム化されてもよく、又は特定の配列、例えば「uuuaaa」を含んでもよいが、他のスペーサー配列も使用され得る。スペーサーの長さは様々であってもよく、スペーサー配列の繰り返しを含んでもよく、例えば、スペーサー「uuuaaa」は、各々と、連結される任意の標的配列との間に、1回(すなわち、「uuuaaa」)、2回(すなわち、「uuuaaauuuaaa」-配列番号1)、3回、4回、5回、又は6回含まれてもよい。いくつかの実施形態において、結合部位配列間にスペーサー配列は存在しなくてもよい。
【0081】
miRNA-122は、健康な非罹患肝組織に豊富に存在するにもかかわらず、大部分の肝臓がん及び罹患細胞では減少している(Braconi et al.Semin Oncol.2011;38(6):752-763,Brown and Naldini,Nat Rev Genet.2009;10(8):578-585)。上述の方法により、標的組織が肝臓である場合、それらの3’UTR内にmiRNA-122結合部位(例えば、配列番号1)を含めることにより、導入されたmRNA配列の翻訳が、がん性肝臓細胞では促進することができ、トランスフェクトされた健康な細胞では減少させることができるか、又は実質的に排除することができることが見出されている。
【0082】
同様に、他のmiRNA標的配列を使用することによって、他の器官のがん細胞と健康な細胞との間でそのようなmRNAの異なる翻訳も可能である。好適な候補としては、(限定されないが)miRNA-1、miRNA-125、miRNA-199、miRNA-124a、miRNA-126、miRNA-Let7、miRNA-375、miRNA-141、miRNA-142、miRNA-143、miRNA-145、miRNA-148、miRNA-194、miRNA-200c、miRNA-34a、miRNA-192、miRNA-194、miRNA-204、miRNA-215、及びmiRNA-30a、b、cのための標的部位が挙げられる。表2は、差次的発現が示されているmiRNA配列の更なる(非限定的な)例を示す。
【0083】
miRNA-1、miR-133a及びmiR-206は、筋肉及び/又は心筋特異的miRNAの例として記載されている(Sempere et al.Genome Biology.2004;5:R13、Ludwig et al.Nucleic Acids Research.2016;44(8):3865-3877)。miRNA-1は、疾患においても調節不全であることが示されており、例えば、miRNA-1の下方調節は、梗塞性心臓組織において検出されており(Bostjancic E,et al.Cardiology.2010;115(3):163-169)、一方、横紋筋肉腫細胞株においても、miRNA-1の激減が検出されている(Rao,Prakash K et al.FASEB J.2010;24(9):3427-3437)。miRNA-1、miR-133a及びmiR-206の使用は、必要に応じて、局所的な正常筋細胞における発現を減少させるように、本発明による組成物が筋肉内に投与される場合に特に考慮され得る。
【0084】
miRNA-125は、例えば、肝細胞がん腫(Coppola et al.Oncotarget 2017;8)、乳がん(Mattie et al.Mol Cancer 2006;5)、肺がん(Wang et al.FEBS J 2009)、卵巣がん(Lee et al.Oncotarget 2016;7)、胃がん(Xu et al.Mol Med Rep 2014;10)、結腸がん(Tong et al.Biomed Pharmacother 2015;75)、及び子宮頸がん(Fan et al Oncotarget 2015;6)、神経芽細胞腫、髄芽腫(Ferretti et al.Int J Cancer 2009;124)、膠芽腫(Cortez et al.Genes Chromosomes Cancer 2010;49)、及び網膜芽細胞腫(Zhang et al;Cell signal 2016;28)等のいくつかの固形腫瘍で下方調節されている。
【0085】
いくつかのmiRNA種は、非罹患脳細胞(例えばニューロン)と比較して多形性膠芽腫細胞でも差次的に発現され(Zhangh et al.J Miol Med 2009;87/Shi et al.Brain Res 2008;1236)、miRNA-124aは、最も調節不全なもののうちの1つである(Karsy et al.Gene Cancer 2012;3、Riddick et al.Nat Rev Neurol 2011;7、Gaur et al.Cancer Res 2007;67/Silber et al.BMC Med 2008;6)。
【0086】
肺がんでは、最近のメタ分析により、非小細胞肺がんにおけるLet-7(並びにmiRNA-148a及びmiRNA-148b)の下方調節が確認された(Lamichhane et al.Disease Markers 2018)。
【0087】
同様に、miRNA-375の発現は、健康な膵臓細胞と比較して、膵臓がん細胞で下方調節されていることが見出されている(Shiduo et al.Biomedical Reports 2013;1)。膵臓では、miRNA-375の発現は、正常な膵臓細胞において高いが、罹患組織及び/又はがん性組織では著しく低いことが示されている(Song,Zhou et al.2013)。この発現は、がんの病期に関連することが示されており、より進行したがんでは発現が更に減少する。miRNA-375は、3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ-1(PDK1)mRNAを標的とし、PI 3-キナーゼ/PKBカスケードに影響を与えることにより、膵臓β細胞のグルコース誘導性の生物学的応答の調節に関与していると考えられる(El Ouaamari et al.Diabetes 57:2708-2717,2008)。miRNA-375の抗増殖効果は、この推定上の作用様式に関与しており、がん細胞における下方調節を説明し得る。
【0088】
導入されたポリヌクレオチドの疾患特異的発現に関連して、特定の疾患において破壊される、すなわち、非罹患細胞と比較して罹患細胞(腫瘍細胞等)で上方調節又は下方調節される、任意のmiRNA配列の標的配列は、本発明での使用に好適であると考えられる。表2は、本発明の実施形態において使用され得る、腫瘍と、対応する健康組織とにおいて差異的に調節される腫瘍miRNAの更なる非限定的な例について考察する。しかしながら、本発明は、所定のmiRNA又はmiRNAのクラスが、所定の器官又は器官系内の第2の細胞型に対して第1の細胞型において下方調節される場合のみに限定されないことを理解されたい。対照的に、例えば、器官又は器官系内に含まれる第1の細胞型と第2の細胞型との間に、調節性miRNAの差次的発現パターンが存在することが必要であるにすぎない。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、miRNAの差次的発現を利用することができ、それらの細胞におけるタンパク質産物の対応する差次的翻訳を可能にすることができる。
【0089】
健康な細胞とがん細胞との間で同様の差次的なmiRNA発現の証拠が見出されているがんの例としては、乳がん(Nygaard et al,BMC Med Genomics,2009 Jun 9;2:35)、卵巣がん(Wyman et al,PloS One,2009;4(4):e5311)、前立腺がん(Watahiki et al,PloS One,2011;6(9):e24950)、及び子宮頸がん(Lui et al.Cancer Research,2007 Jul 1;67(13):6031-43)が挙げられる。WO2017/132552A1は、様々ながん細胞において発現レベルが異なる広範囲のmiRNAを記載している。皮膚において、健康な組織と隣接する黒色腫細胞との間のmiRNA発現の差次的発現も観察される。
【表2】

【0090】
腫瘍溶解性ウイルス又はCAR-T療法等の免疫療法で患者を治療すると、オフターゲット効果の可能性があるため、安全上の問題が生じ得る。コードmRNA配列の提供による特定のポリペプチドの発現でさえ、特定の器官に悪影響を及ぼし得る。したがって、例えば、肝臓、脳、乳房、肺、膵臓、結腸/GI管、皮膚、筋肉、及び腎臓等の健康な組織を保護することは、臨床応用を成功させるために最も重要である。例えば、特定の組織において高度に発現する特定のmiRNAのための標的配列を使用して、健康な細胞、例えば、miR-1、miR-133a及び/又はmiR-206を保護し、健康な筋肉及び/又は心筋組織を保護することができる。その結果、罹患細胞及び健康な細胞における差次的発現と必ずしも関連しないmiRNA標的配列を使用することが望ましい場合がある。例えば、miRNA-142及びmiRNA 145は、膵臓組織において発現するが、一方で、miR-9は、脳及び肺組織における高い発現のため、脳及び肺の保護のために使用することができる。
【0091】
1つより多くの組織が保護される場合、複数のmiRNA標的配列の組み合わせが使用される。例えば、miR-122、miR-203a、miR-1及びmiR-30aのための標的配列は、肝臓、皮膚、筋肉及び腎臓組織の細胞を保護するために一緒に使用される。
【0092】
したがって、本発明の組成物は、これまでの「実験的」な細胞又はウイルス療法の成功した採用を増強及び促進するための可能にする技術プラットフォームを表すことができる。
【0093】
本開示から明らかなように、本発明は、療法、送達プラットフォーム(異なるナノ粒子組成物等)、治療薬(薬物、CAR-T細胞又はウイルス等)、コードされたポリペプチド、及び標的細胞、組織、又は器官のいくつかの可能な組み合わせに関することが想定されている。これらの可能性の各々及び全ては、mRNA配列によって供給されるコードされたポリペプチドの最適発現に影響を有する。
【0094】
miRNA標的配列の1つ以上の特徴の最適化が、差次的発現を促進し、それによって健康な器官の保護における特定の有効性につながり得ることが見出されている。同様な理由で、そのような特徴は、特定の文脈に従って、特定の器官、組織、又は細胞型における結果としての差次的発現を増加又は低下させるように制御することができる。様々な異なる細胞型において様々な発現レベルが所望される状況があり得、本明細書に記載される1つ以上の特徴を変化させることによって、そのような結果を可能にするように標的配列を修飾することができることが意図されている。また、miRNA標的部位配列は、同じ組織内又は異なる組織内のいずれかで1つより多くのmiRNAによって調節されるように修飾することができる。
【0095】
配列マッチング:標的配列が相補的miRNA配列と正確に一致する程度(すなわち、miRNA配列と結合部位配列との間の不一致の数)は、結果として得られる発現サイレンシングの有効性に影響を及ぼすことが示されている。例えば、正確又は完全な一致は、miRNA結合部位配列を有する配列のより迅速な分解を引き起こすことが示されている(Brown and Naldini,Nat Rev Genet.2009;10(8):578-585。したがって、特定のポリペプチド産物の完全な、又は完全に近いサイレンシングが特定の細胞型で必要とされる場合、その細胞型と関連するmiRNA配列と正確に一致するか、又は最大で1つの塩基対不一致を有するmiRNA標的配列を選択することが所望され得る。同様に、特定の細胞型において、減少したが、存在しないわけではない発現が所望される場合、これを可能にするために、不一致の数が増加したmiRNA結合部位配列を選択することができる。最終的に処理された成熟5P又は3P miRNAを有するステムループのプレmiRNAの配列、プレmiRNA中の成熟miRNAに下線が引かれた、二本鎖を形成する配列、並びに成熟miRNA配列及び二本鎖形成配列自体を含め、本明細書で言及されるいくつかのmiRNA配列の例を以下の表3に示す。細胞において有意なレベルで発現された成熟miRNA(5P鎖及び3P鎖のいずれか又は両方であり得る)は、(*)の印が付けられる。表4は、プレmiRNAにおける二本鎖を形成する元の不完全に一致する標的配列、続いて成熟miRNA配列、及び過剰発現された成熟miRNA配列との完全一致となるように設計された修飾相補的標的配列の発生を示す。従来の5’から3’方向に修飾された標的配列を、太字で示す。
【表3】


【表4】

【0096】
miRNA配列のバリアント及び多型を見出すことができること、並びに同様の特性を有するmiRNAファミリーが存在することが知られている。本発明において、特定のmiRNA配列及び関連する結合部位の全ての好適なバリアント及びファミリーメンバーを、適切な場合に使用することができることが想定されている。一方で、明らかに密接に関連しているmiRNA配列は、異なる発現プロファイルを有し得(Sun et al,World J Gastroenterol.2017 Nov 28)、状況によっては、参考文献を参照して、特定の置換が適切かどうかを判断する必要がある。例えば、Let-7は、Let-7aからLet-7kのように表すことができる、関連する多数のバリアントを有する幅広いファミリーの一部である。上で考察されるように、そのようなバリアント及び多型は、miRNA媒介性サイレンシングを可能にする際のそれらの有効性が変化してもよく、したがって、特定の細胞型における所望のレベルのサイレンシングを可能にするために特定の選択が行われ得ることが意図される。
【0097】
mRNA構築物における複数のmiRNA標的配列の存在は、供給された1つ以上のポリペプチドの差次的発現の改善された有効性を可能にする。理論によって拘束されないが、標的部位の数が増えると、miRNAによる翻訳阻害の可能性が高くなると考えられている。複数のmiRNA標的部位は、実質的に同じ標的配列の複数のコピーを含むことができ、それによって冗長性が導入される。代替的に、又は加えて、複数の標的配列は、実質的に異なる配列を含むことができ、それによって、mRNA構築物が1つより多くの種のmiRNAによって標的化されることを可能にする。このようにして、上記の器官及びその関連する特異的miRNA発現の考察から明らかなように、供給されたmRNA構築物の差次的発現は、1つより多くの細胞型及び/又は1つより多くの器官で達成することができる。どちらのアプローチも、同じ配列又は複数の配列内で可能であるとみなされる。同じmiRNA配列の標的となることを目的とするが、同じファミリーの異なるmiRNAバリアント(例えば、Let7)に結合するために差を有する標的部位が含まれる、中間的なアプローチも想定されている。
【0098】
複数の標的部位の使用と関連するいくつかの利点には、単一の器官内での、本発明のmRNA配列によって供給されるポリペプチドの差次的発現の効率の増加が含まれる。異なる結合部位配列、又は1つより多くの組織若しくは器官型に適用可能な配列を使用すると、1つより多くの器官若しくは組織の異なる細胞型で差次的発現を達成することができる。これは、本発明による組成物の全身投与が使用される場合に望ましい可能性があり、1つより多くの器官におけるオフターゲット効果を回避する必要がある。
【0099】
局所的又は標的化された投与でさえ、供給されたmRNA構築物が、それらが意図されていなかった器官、組織、及び/又は細胞に遭遇するか、又は蓄積し得る。特に、肝臓及び脾臓組織は、これらの器官の生理学的機能に起因して、投与された組成物を蓄積し得る。これらの場合では、オフターゲット効果を回避するために、供給された構築物が、これらの組織における発現の低下を可能にし得るmiRNA標的配列を含むことが有利であり得る。逆に、いくつかの器官、組織、及び/又は細胞型では発現が促進されるが、その他では促進されないことが望ましい場合があり、miRNA標的配列をこれに従って選択することによって達成され得る。
【0100】
miRNA標的部位の特定の組み合わせは、異なる文脈において特に効果的であり得る、標的器官の特定の組み合わせに関連し得る。例えば、投与される組成物は、肝臓及び脾臓に蓄積され得、したがって、これらの器官と関連するmiRNA標的配列の使用は、組成物と接触し得る健康な細胞に対する指向性の保護を与えることができる。例えば、結合部位配列は、miRNA-122及びmiRNA-142の各々、又は肝臓及び脾臓に関連するmiRNA配列の任意の他の組み合わせ、例えば、表2においてこれらの器官について列挙されるものの任意の組み合わせのための1つ以上の標的を提供することができる。そのような組み合わせには、例えば、miRNA-122、miRNA-125、及びmiRNA-199から選択される少なくとも1つの標的部位の少なくとも1つのコピー(肝臓)、miRNA-192、miRNA-194、miRNA-204、miRNA-215、及びmiRNA-30a、b、cから選択される少なくとも1つの結合部位配列の少なくとも1つのコピー(腎臓)、並びにmiRNA-142のための結合部位の少なくとも1つのコピー(脾臓)が含まれ得る。
【0101】
このようなアプローチは、特定の種類の送達ナノ粒子にとって特に有利であり得る。例えば、リポソームベースのナノ粒子は、肝臓、腎臓及び脾臓に蓄積されやすい場合がある。他のナノ粒子型又は代替の投与アプローチは、異なる器官又は組織に蓄積する場合があり、あるいは本組成物の標的化は、発現の調節を特に必要とする特定の器官又は組織で起こる場合がある。例えば、筋肉内投与は、筋肉組織での蓄積を引き起こす場合があり、皮下投与は、皮膚組織での蓄積を引き起こす場合があり、保護から恩恵を受ける細胞型に対する効果を伴う。したがって、多器官における不必要な発現からの広範囲にわたる保護を与えるmiRNA結合部位配列を含む、一般的な(より長い可能性が高い)配列を選択するか、又は特定の状況で必要とされる1つ以上の器官における特異的保護を可能にする特定のmiRNA結合部位配列(より短い配列が可能であり、及び/又は繰り返される結合部位配列を含む)を選択することが可能である(以下を参照されたい)。そのような方式では、送達されたmRNA配列は、送達の様式に関して最適化され得る(又はその逆も成り立つ)。
【0102】
場合によっては、器官保護配列で使用されるmiRNA標的配列は、治療される組織又は器官と関連付けられなくてもよく、上述の組織及び器官内の健康な細胞と罹患細胞との間の差次的発現をもたらすように設計されなくてもよい。miRNA結合配列は、むしろ、治療されることが意図されていない器官におけるオフターゲット効果を防止するように選択されてもよい。例えば、本発明による組成物及び方法は、皮膚の治療、例えば、黒色腫の治療のために設計され得る。組成物の皮膚への適用は、局所的又は腫瘍内(IT)であってもよく、例えば、腫瘍内へ直接的に、又は腫瘍内へ直接導く血液供給への注射によるものであってもよい。しかしながら、そのような場合、組成物は、血流、リンパ系によって、又はこれらの手段によって取り込まれ得るか、又はそうでなければ、肝臓、腎臓及び/若しくは脾臓等の皮膚以外の器官に接触及び/又は蓄積され得る。そのような場合、miRNA標的配列は、望ましくない生体内分布に適応するように、及びそのようなオフターゲット器官内でコードされるmRNAの発現を防止するように選択され得る。例えば、肝臓、腎臓及び脾臓と関連付けられたmiRNA標的配列の使用が選択されてもよく、それにより、これらの器官内に含まれる健康な細胞内での発現を防止する。これを可能にし得るmiRNA標的配列の潜在的な組み合わせの例を上に記載する。
【0103】
また、miRNA媒介性サイレンシングが生じるために、結合部位配列とmiRNA配列との間の完全な一致が必要とされないこと、及びいくつかのmiRNA配列(特に、類似の細胞型内に存在する配列)がかなりの類似性を有することから、1つより多くのmiRNA配列の標的を提供し得る配列が考案され得ることが想定される。例えば、miR-122及びmiR-199は、同様の結合部位配列を有し、例えば、miR-122結合部位配列をわずかに修飾することによって、両方のmiRNAに実質的に相補的な配列を設計し、miRNA標的配列として含めることができる。このようにして、miR-122及びmiR-199の両方がこのような配列に結合し、mRNAの分解を増加させることができる。同様に、Let-7 miRNAの標的配列は、Let-7ファミリーの他のメンバーのための標的配列として機能し得る。異なるmiRNAの結合部位配列は、任意の好適なアラインメント技術でアラインメントし、共有ヌクレオチドについて比較することができ、それにより、それらの共有ヌクレオチドを含む結合部位配列を設計することができる。
【0104】
本発明の特定の実施形態において、特定の標的部位配列がmRNA内で繰り返される回数は、結合部位配列によって媒介されるサイレンシングの有効性に影響を及ぼし得る。例えば、1つのmiRNA標的部位の繰り返しの数が増加すると、関連するmiRNAがそれに結合する可能性を高くすることができ、したがって、翻訳が起こる前の翻訳阻害又は分解の可能性を高くすることができる。その結果、特定の細胞型においてより完全なmiRNA媒介性サイレンシングが必要とされる場合、それらの細胞において発現されるmiRNAに好適な標的配列のより多くの繰り返しが使用され得る。同様に、本明細書で考察される他のアプローチのいずれかを伴って、又は伴わずに、より少ない結合部位配列を含むことによって、減少しているが、存在しないわけではない発現を達成することができる。したがって、同じ結合部位配列が、mRNA中に1回、2回、3回、4回、5回、又はそれより多く提供されてもよく、単独で、又は他のmiRNAの標的部位配列と組み合わせて提供されてもよい。
【0105】
ある特定の実施形態によれば、mRNA配列内に含まれるmiRNA標的部位の順序は、得られる器官保護の有効性に影響を及ぼし得る。例えば、miRNA-122、let 7b、miRNA-375、miRNA-192、miRNA-142の標的配列(肝臓、肺、乳房、膵臓、腎臓、及び脾臓細胞中に存在する)は、この順序で、又はいくつかの他の並べ替えで、例えば、
miRNA-122-miRNA-375-Let 7-miRNA-192-miRNA-142、
miRNA-122-miRNA-375-Let 7-miRNA-142-miRNA-192、又は
miRNA-122-Let 7-miRNA-375-miRNA-142-miRNA-192で存在してもよい。
【0106】
別の例として、miRNA-122、Let 7a、miRNA-142、miRNA-30a、miRNA-143の標的配列(肝臓、肺/結腸、脾臓/造血幹細胞、腎臓、及び結腸細胞中に存在する)は、この順序で、又はいくつかの他の並べ替えで、例えば、
miRNA-122-Let7a-miRNA-142-miRNA-30a-miRNA-143、
miRNA-122-miRNA-142-Let7a-miRNA-143-miRNA-30a、又は
miRNA-122-miRNA-30a-Let7a-miRNA-143-miRNA-142で存在してもよい。
【0107】
以下により詳細に記載される本発明の特定の実施形態において、miRNA-122、miRNA-192及びmiRNA-30aの標的配列(肝臓、結腸、及び腎臓中に存在する)は、以下のような様々な組み合わせで存在してもよい。
miRNA-122-miRNA-192-miRNA-30a、
miRNA-122-miRNA-30a-miRNA-192、又は
miRNA-192-miRNA-122-miRNA-30a。
【0108】
以下により詳細に記載される本発明の更なる実施形態において、Let7b、miRNA-126、及びmiRNA-30aの標的配列(肝臓、結腸、脾臓、肺及び腎臓中に存在する)は、以下のような様々な組み合わせで存在してもよい。
Let7b-miRNA-126-miRNA-30a、
Let7b-miRNA-30a-miRNA-126、又は
miRNA-126-Let7b-miRNA-30a。
【0109】
そのような組み合わせは、本明細書で考察されるように、特定のがんの治療に使用されるように設計された組成物の投与によって影響を受ける可能性が高い組織を保護する際に有用であり得る。
【0110】
更なる例として、miRNA-122、miRNA-203a、miRNA-1、miRNA-30aの標的配列(肝臓、皮膚、筋肉/心筋、及び腎臓中に存在する)は、この順序で、又はいくつかの他の並べ替えで、例えば、
miRNA-122-miRNA-203a-miRNA-1-miRNA-30a、
miRNA-122-miRNA-1-miRNA-203a-miRNA-30a、又は
miRNA-122-miRNA-30a-miRNA-1-miRNA-203aで存在してもよい。
【0111】
そのような組み合わせは、ワクチン及び同様のアプローチに関連して以下に考察されるように、免疫応答を誘導するように設計された組成物の投与によって影響を受ける可能性が高い組織を保護する際に有用であり得る。
【0112】
したがって、本発明は、細胞型において、mRNAによって送達されるコード配列に対して調節可能である異なるアプローチを選択することを可能にする。言い換えれば、本発明によって許容される差次的発現は、発現のレベル又は発現の減少が必要とされることを可能にするために、「構成可能」である。
【0113】
例えば、標的がん細胞に病原性因子を導入するために、本発明の組成物を、腫瘍溶解性ウイルスと組み合わせて使用して、それらの細胞内のウイルス活性及び溶解を増加させつつ、本発明によって可能になる差次的発現を使用して、健康な細胞におけるこれらの因子の発現を防止してもよい。そのような場合、本発明の組成物及び腫瘍溶解性ウイルスは、特定の細胞、器官及び組織に接触してもよく、これらは、例えば、組成物及びウイルスのそれぞれの性質、投与様式、並びに使用される任意の標的化機構に応じて同じであってもよく、又は異なっていてもよい。組成物及びウイルスが出会うと予想される健康な細胞のみで、病原性因子の発現を減少させることが必要であることが理解することができる。本発明のmRNAが到達し、かつその中で発現しているが、腫瘍溶解性ウイルスは到達しない細胞、器官、又は組織は、発現の減少を必要とする可能性が低い。したがって、miRNA標的配列は、標的がん細胞におけるmRNA産物の完全な発現を可能にし、組成物及びウイルスの両方によって接触される健康な細胞における本発明のmRNAの発現を可能な限り最大限に減少させ、優先順位の低い他の器官のためのmiRNA配列を含むようにするために、上で考察されたアプローチのうちの1つ以上を用いて選択し、調整することができる。
【0114】
例えば、膠芽腫を治療するためのoHSVは、病原性因子をコードし、miR-124aのための標的配列を保有するmRNAと同時投与されてもよく、その結果、病原性因子は、健康な脳では発現せず、ウイルスは、病原性因子が発現する場合、すなわち、脳腫瘍においてのみ、複製することができる。oVV及び肝臓が関与する別の例において、mRNA構築物は、病原性因子の発現を引き起こすが、この構築物は、このタンパク質が健康な組織では発現しないようにmiR-122又はmiR-199を保有し、腫瘍細胞に対するmRNAの効果のみを制限する。
【0115】
別の実施形態において、送達されたmRNAは、免疫刺激タンパク質若しくは抗免疫抑制タンパク質をコードしてもよく、又は別の方式で、免疫応答を誘導するように作用してもよい。そのような場合、標的罹患細胞においてコードされた産物の最大発現を有するが、標的器官の周囲の健康な組織において減少したが依然として存在する発現を有することが所望され得る。一方で、特定の組織(例えば、脳又は他の神経組織)におけるそのような免疫刺激産物の発現が完全に回避されること、及び/又は組成物が蓄積する可能性が高い細胞、組織、及び器官における発現を減少させることが、オフターゲット免疫応答及び考えられる全身反応を防止するために望ましい場合がある。したがって、一例において、miRNA標的配列は、標的罹患細胞における完全発現を可能にし、標的器官中の健康な細胞における発現を部分的に減少させ、一方で、神経組織及び蓄積部位における発現をより完全に減少させるために、上で考察されたアプローチのうちの1つ以上によって決定することができる。
【0116】
いくつかの実施形態において、1つより多くの異なるmRNA配列が、単一の組成物中に提供され得る。これらの異なる配列は、異なるポリペプチド、及び/又は異なるmiRNA結合配列をコードし得る。このようにして、単一の組成物は、複数の異なるポリペプチドが発現されることを可能にすることができる。別々のmRNA配列でmiRNA結合配列の異なる組み合わせを使用することにより、異なる細胞型又は標的器官は、所望の目的に従って、特定のポリペプチドを発現するか、又は特定のポリペプチドの発現から保護することができる。例えば、肝臓及び脳の健康な細胞をポリペプチド「A」の発現から保護しなければならないが、肝臓ではなく健康な脳でポリペプチド「B」を発現させることが望ましい場合、第1のmRNA配列は、miRNA-122、miRNA-125a、及びmiRNA-124aのための標的配列を有する「A」の配列を含み、一方、第2のmRNA配列は、miRNA-122及びmiRNA-125aのための結合部位を有する「B」の配列を含む。
【0117】
当業者は、所与の一連の器官及び細胞型における発現の任意の組み合わせを達成するために、miRNA標的部位、ポリペプチド配列、及び複数のmRNA配列の組み合わせを考案することができるであろうことが理解され得る。これらの配列に関連する関連器官及び組織型は、上記及び表2で考察される。図1は、本発明のいくつかの実施形態によるmRNA構築物の概略図を示す。ORFの前には開始コドンがあり、終止コドンで終わり、その後に、一連の最大5個、又はそれより多い結合部位配列が、3’UTR中に存在する。図1に示すように、OPSを規定するmiRNA標的部位(BS1~BS5)は、好ましくは、スペーサーによって分離されていてもよく、又は全てスペーサーが存在しなくてもよい。ORFは、例えば本明細書に記載されるポリペプチドをコードし得る。終止コドンの変動性は、任意の実施形態で想定されており、全ての実施形態において、ORFと結合部位配列との間に終止コドンがなくてもよい。
【0118】
本発明によって供給されるmRNA配列のUTRは、標的器官内の細胞型の1つにおいて発現されるUTR配列の一部又は全てに対して類似性、例えば90%を超える類似性を有するように選択することができる。特定の細胞型は、発現が上方調節又は下方調節される遺伝子を有することができ、UTR配列は、例えば、関連するmRNA配列の安定性又は分解を促進することにより、この調節を媒介することができる。
【0119】
一例として、がん細胞において上方調節されることが分かっている遺伝子と関連するUTRは、これらのがん細胞における安定性及び翻訳を促進する、miRNA結合部位配列等の1つ以上の特徴を有し得る。供給されるmRNA配列に同様の配列を組み込むことにより、がん性細胞における安定性及び翻訳を改善することができるが、非がん性細胞及び健康な細胞では改善することができない。
【0120】
また、本発明によって治療されるがんは、標的組織における続発性がん、すなわち、標的組織以外の場所のがんからの転移であり得ることも考えられる。例えば、肝臓転移は、食道、胃、結腸、直腸、乳房、腎臓、皮膚、膵臓又は肺のがんから発生する可能性があり、腺がん又は別の種類のがんであり得る。これらの場合、健康な細胞、非がん性細胞及び/又はがん性細胞において差次的発現を提供するために、代替のmiRNA配列を選択する必要がある場合がある。実際、このような場合、転移細胞の組織起源が異なるため、候補miRNA配列の選択肢が増える可能性がある。
【0121】
特定の状況において、標的組織中の異なる細胞型において差次的発現を示す1つより多くのmiRNA配列の候補が存在し得ることが可能である。そのような場合、複数のmiRNA標的配列がmRNA構築物に含まれること、及びこれらの配列が実質的に異なる配列であり得ることが有利である場合がある。しかしながら、複数のmiRNA標的配列の各々が実質的に同じ配列であり得ることも想定される。
【0122】
併用療法
治療用ウイルス:腫瘍溶解性ウイルス
上記のように、腫瘍溶解性ウイルス療法は、時には直接的なウイルス溶解によるだけではなく、宿主抗腫瘍応答の刺激による間接的な死滅を含め、がん細胞に感染し、死滅させるために治療用ウイルスを使用するプロセスである。腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞と比較して、がん細胞における活性が増加することを特徴とすることが多いが、健康な細胞に対する損傷によって引き起こされるオフターゲット効果が示されている(Russell et al.Nat.Biotechnol.2012;30(7):658-670)。
【0123】
安全性を高め、オフターゲット効果を低下させるために、例えば、細胞内免疫系の抑制及び回避、ウイルスゲノム複製又は転写、及び宿主細胞プロセスの引継ぎ等の機能に関与する病原性因子又は遺伝子の欠失により、腫瘍溶解性ウイルスを、それらの病原性を減少させるように修飾し、又は選択してもよい。ワクチン接種に使用するために過去の産生した安全な形態の生ウイルスは、弱毒化ウイルスの別の源である。他の場合には、特定の変異又は更に追加の遺伝子が、特定の腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍溶解活性を増強することが分かっている。腫瘍溶解性ウイルスにおいて一般的に付加、変異、又は欠失される病原性遺伝子の非網羅的な例は、表5に見出され得る。
【表5-1】

【0124】
この方式での腫瘍溶解性ウイルスの弱毒化又は修飾は、がん細胞に対する腫瘍溶解性ウイルスの選択性において役割を果たし得る。発がんのプロセスは、がん及びウイルス感染の両方に対して保護的役割を果たす遺伝子の不活性化(細胞分割又はアポトーシスの調製による等)を伴うため、記載されるように弱毒化された腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に通常の抗ウイルス遺伝子が存在しないことに起因して、これらの細胞において病原性を保持することができる。したがって、健康な細胞では、弱毒化ウイルスは通常の抗ウイルス応答を防御することができずに排除されるが、がん細胞ではこの反応はなく、ウイルスは細胞を溶解することができる。しかしながら、このアプローチが完全に効果的であることはめったにない。第1に、がん細胞における抗ウイルス応答の部分的な不活性化は、抗ウイルス活性の完全な欠如よりも一般的であるためであり(Haralambieva et al,Mol.Ther.,2007;15(3):588-597を参照されたい)、このことは、これらの細胞において病原性を依然として減少させることができること、及び第2に、健康な細胞の感染が依然として発生することができることを意味する。
【0125】
同様に、ウイルスは、典型的にはそれらのゲノムを複製するために宿主細胞の細胞機構を利用するが、この機構は、典型的には、自身のゲノムを複製しない、健康で静止状態にある非複製細胞において下方調節され、多くのウイルスは、宿主の機構を補う遺伝子を保有する。例えば、リボヌクレオチドからデオキシリボヌクレオチドを生成するには、リボヌクレオチドレダクターゼが必要である。これらの酵素は、典型的には、静止状態にある宿主細胞において下方調節され、いくつかのウイルスは、デオキシリボヌクレオチドの供給源を得るために、この種類の独自の酵素の遺伝子を保有する。複製性のがん細胞は、これらの酵素の発現が上方調節されている場合があるため、自身のリボヌクレオチドレダクターゼ酵素遺伝子を欠失した弱毒化した腫瘍溶解性ウイルスは、依然としてがん細胞内で複製することができる。しかしながら、上記と同様の理由から、このアプローチは、健康な細胞を感染から保護する又はがん細胞の病原性を回復させる際に完全に効果的ではない場合がある。例えば、腫瘍内の全ての細胞が所与の時間に複製性であるわけではなく、そのため、大部分のがん細胞においてウイルス複製のために十分なデオキシリボヌクレオチドを利用できない可能性がある。
【0126】
上記に続いで、本発明による組成物又は方法が腫瘍溶解性ウイルス療法と併せて使用される場合、本発明の構築物によって提供される治療増強因子は、がん細胞における腫瘍溶解性ウイルスの有効性を高める因子であり得、例えば、ウイルスの複製、又はウイルスが存在する細胞を溶解するウイルスの能力を増強する。特に、例えば、病原性因子の1つ以上の遺伝子の欠失により、腫瘍溶解性ウイルスがその機能を減衰させるように修飾されている場合、治療因子は、欠失した遺伝子を、ウイルス遺伝子産物のコピーである遺伝子産物、又は欠失した遺伝子と実質的な相同性を有する遺伝子産物、又は別様に遺伝子の欠失を償う遺伝子産物のmRNAで置き換えることができる。そのような実施形態において、本発明によって可能となる健康な細胞及びがん性細胞における差次的発現によって、置き換え遺伝子産物をがん細胞においてのみ発現させることができ、提供されたmiRNAの発現がmiRNA標的部位の存在によって阻害され、健康な細胞ではなく、これらの細胞においてウイルス活性及び溶解を増強させる。
【0127】
同様の手段により、腫瘍溶解性ウイルスに対する細胞の耐性を高める因子をコードするmRNAを健康な細胞において優先的に発現させることができ、この場合も同様に、健康な細胞と比較してがん性細胞におけるウイルス活性を促進する。
【0128】
このアプローチの利点は、腫瘍溶解性ウイルスを使用した以前の治療法とは異なり、どの細胞の抗ウイルス遺伝子及びプロセスが発がんに起因して不活性化され得るかに依存せず、一部のがん細胞において活性化され得るが他の細胞では活性化され得ない細胞複製プロセスにも依存しないことである。その結果、腫瘍溶解性ウイルスからどの病原性遺伝子を欠失させることができるかの範囲がより大きくなる。したがって、腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞において複製能力を完全に欠くように修飾することができ、欠失させた病原性遺伝子の機能が本発明によって置き換えられたがん細胞において、ウイルスを完全な効力まで回復させることができる。その結果、副作用を軽減し、有効性を高めることができる。同様に、提供されたmRNAの差次的発現は、がん細胞と健康な細胞との間のmiRNA発現の違いに依存するため、例えば、投与時に複製を経験している細胞だけでなく、全てのトランスフェクトされたがん細胞において病原性を回復させることができる。
【0129】
特定の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルスファミリーの一部であるHSV-1である。HSVの弱毒化形態は、ウイルスリボヌクレオチドレダクターゼをコードするICP6(Aghi et al,Oncogene.2008;27(30):4249-4254)及び/又はセリン/スレオニンプロテインキナーゼをコードし、宿主細胞のアポトーシスをブロックすることを含むウイルスの生活環におけるいくつかの役割を果たすUS3を欠損するように操作又は選択してもよい(Kasuya et al,Cancer Gene Therapy,2007;14(6):533-542)。
【0130】
別の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ポックスウイルスファミリーの一部であり、特に、ワクシニアウイルスであり得る。ワクシニアの弱毒化形態は、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR1及びRR2)のうちの1つ以上のサブユニット及び/又はチミジンキナーゼ(TK)を欠損するように操作また又は選択してもよい(Buller et al.Nature(London)1985;(317):813-815、Puhlmann M et al.Cancer Gene Ther 2000;7(1):66-73、Slabaugh MB et al.J Virol 1984;52(2):507-514)。
【0131】
腫瘍溶解性ウイルスで使用することができる代替的又は追加的アプローチは、ウイルス侵入受容体の提供を伴う。ウイルスがその生活環を完了するためには、それら、又は少なくともそれらのゲノムが宿主細胞に侵入しなければならない。この侵入は、存在する場合、標的宿主細胞の表面上の1つ以上のウイルス侵入受容体に対する、ウイルスカプシド又はウイルスエンベロープ上に存在する1つ以上のウイルスタンパク質の結合を必要とすると考えられる。その後、例えば、膜融合、エンドサイトーシス、又は遺伝子注射によって、ウイルスが細胞に侵入する。ウイルスタンパク質とウイルス侵入受容体との間の結合は、ウイルスを細胞と近接させるためにのみ作用する場合があり、及び/又はウイルスの侵入をより直接的に媒介する場合がある。ウイルス侵入受容体は、一般に、それらを発現する細胞の目的を果たし、頻繁に細胞接着に関連する。ウイルス上に存在するウイルスタンパク質及びそれらが結合するウイルス侵入受容体は、それが感染する能力を有する細胞をしばしば指示する。
【0132】
本文脈において、本発明による組成物を使用して、細胞が特定のウイルス侵入受容体を産生するように、mRNAを標的細胞に提供することができる。次いで、細胞は、これらのウイルス侵入受容体を細胞表面上に提示し得る。これにより、ウイルスがこれらの受容体に結合し、細胞侵入を受け、細胞内で複製及び/又は溶解することを可能にする。本発明によって可能になる差次的発現によって、これらのウイルス侵入受容体の発現は、特定の細胞、組織及び/又は器官型(特定の組織内の罹患細胞等)に限定することができる一方で、他の細胞、組織及び/又は器官型(健康な細胞又はオフターゲット器官等)は、それらがウイルス侵入受容体を発現することを防止することによって保護することができる。
【0133】
例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、そのウイルスエンベロープ糖タンパク質である糖タンパクC(gC)及び糖タンパク質B(gB)とヘパラン硫酸含有プロテオグリカン(HSPG)との初期相互作用によって標的細胞に侵入すると考えられる。(Agelidis and Shukla,Future Virol.2015 October 1;10(10):1145-1154.doi:10.2217/fvl.15.85)その後、糖タンパク質D(gD)は、3つの既知の主要なウイルス侵入受容体、すなわち、ヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM)、3-O-硫酸化ヘパラン硫酸(3-OS HS)、又はネクチン-1(HSV-2もまたネクチン-2に結合することができる)のうちの1つ以上に結合する。この結合は、他の糖タンパク質gB、gH及びgLを含む融合複合体の動員を促進し、最終的にはウイルスエンベロープと形質膜との融合を促進する。その結果、いくつかの実施形態において、本発明のmRNAは、HVEM又はネクチン-1若しくはネクチン-2等のネクチンからなる群のうちの1つ以上等のgDのウイルス侵入受容体をコードし得る。ヘパラン硫酸含有タンパク質を介して、それ以外のgBに結合する受容体、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞上に見られる阻害受容体である対形成免疫グロブリン様受容体(PILRα)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、並びに非筋肉ミオシン重鎖(NMHC)-IIA(Agelidis及びShukla)等も発見されている。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のmRNAは、PILRα、NMHC-IIA、及びMAGからなる群のうちの1つ以上等のgBに対するウイルス侵入受容体をコードし得る。
【0134】
ポックスウイルスの原型であるワクシニアウイルスの場合、ウイルスには、単一の膜を有する成熟ビリオン(MV)と、融合前に破壊される追加の外膜を有する細胞外エンベロープビリオン(EV)の2つの主要な感染形態が存在する。ワクシニアMVは、形質膜において中性pHで、又は低pHでエンドサイトーシス経路を通して細胞内に侵入することができる。EVは細胞表面で外膜を剥離し、マクロピノサイトーシス後にMV様粒子が形質又はエンドソーム膜と融合することを可能にする。次いで、ウイルスタンパク質D8、A27、及びH3の4つのウイルスタンパク質の相互作用を介して宿主細胞に付着したワクシニアMVは、ヘパラン硫酸及びコンドロイチン等の細胞グリコアミノグリカンに結合し、ウイルスタンパク質A26は、細胞表面の細胞外マトリックスタンパク質ラミニンに結合する(Moss,Viruses.2012;4(5):688-707、Chiu et al.J Virol.2007;81(5):2149-2157)。いくつかの実施形態において、本発明のmRNAは、ウイルス付着を促進する細胞外ラミニンをコードし得る。
【0135】
この方法によって、本発明のmRNAによってコードされるポリペプチドを首尾良く発現する細胞のみの感染を可能にするために、通常は発現されない、又は通常はその細胞型によって過剰発現されないウイルス侵入受容体の標的細胞における発現を誘導することが可能である。これにより、ウイルスが非標的細胞に感染するリスクを軽減することができる。したがって、ウイルスは、細胞に感染するために、対象内に天然に存在する健康な細胞において比較的稀であるか、又は存在しないウイルス侵入受容体を必要とするものを選択し得る。例えば、ヒトが治療される場合、ウイルスは、供給されるmRNAを発現しない細胞へのウイルス侵入を完全に防止するために、ヒト細胞上では決して天然に見出されないウイルス侵入受容体を必要とし得る。
【0136】
これに加えて、コードされるウイルス侵入受容体は、それが提供されるウイルスによって効果的に結合されるように修飾され、合成され、及び/又は操作され得る。同様に、本発明のmRNAによってコードされるもの以外のウイルス侵入受容体に結合するのを防ぐために、ウイルス自体はまた、又は代替的に、ウイルス侵入受容体に結合するウイルスタンパク質が修飾されるように設計され、合成され、及び/又は操作され得る。このようにして、ウイルスが、本発明のmRNAを発現する細胞以外の任意の細胞に感染するのを防ぐために、天然に存在しないウイルスタンパク質及びウイルス侵入受容体の固有の対を設計し、修飾し、又は合成することも可能である。
【0137】
本発明の更なる態様において、本明細書に定義される核酸構築物内のORFは、宿主抗ウイルス応答を低下させるタンパク質をコードし得る。このことは、治療用がんウイルスが宿主免疫応答によって抑制又は排除される場合に有益であり得る。一実施形態において、ORFは、B18Rタンパク質を発現する(受託番号YP_233081)。B18R遺伝子は、インターフェロンアルファ膜貫通シグナル伝達をブロックするI型インターフェロン結合タンパク質をコードするワクシニアウイルス遺伝子である。したがって、罹患細胞又はがん細胞ではあるが、健康な初代細胞ではないB18Rの発現は、同時投与された腫瘍溶解性ウイルスの持続性及び複製を支援し得る。
【0138】
サイトカイン
本明細書に記載の組成物及び方法は、病原性生物からの疾患又は炎症に対する免疫応答を誘導するように作用し得ることが企図される。特に、がん細胞に対して免疫応答が誘導され得る。発がんのプロセスは、多くの場合、がん細胞が免疫系を回避しようとする方式を伴い、これらの細胞によって産生及び提示された抗原に対する変化を伴う。
【0139】
いくつかの実施形態において、本発明によって提供されるmRNAは、二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE)であるタンパク質、抗免疫抑制タンパク質、又は免疫原性抗原をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。本明細書で使用される「抗免疫抑制タンパク質」という用語は、免疫抑制経路を阻害するタンパク質である。
【0140】
本発明は、抗調節性T細胞(Treg)タンパク質又は抗骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)タンパク質である抗免疫抑制タンパク質をコードするmRNAを供給する組成物を包含する。いくつかの実施形態において、抗免疫抑制タンパク質は、VHH由来の遮断薬又はVHH由来のBiTEである。
【0141】
本明細書で使用される「免疫原性抗原」という用語は、炎症性又は免疫原性の免疫応答を増加させるタンパク質を指す。特定の実施形態において、抗免疫抑制抗原及び免疫原性抗原は、抗腫瘍免疫応答を誘導する。そのようなタンパク質の例として、免疫チェックポイント受容体(例えば、CTLA4、LAG3、PD1、PDL1等)に結合し、これを阻害する抗体又はその抗原結合断片、炎症誘発性サイトカイン(例えば、IFNγ、IFNα、IFNβ、TNFα、IL-12、IL-2、IL-6、IL-8、GM-CSF等)、又は活性化受容体に結合して活性化するタンパク質(例えば、FcγRI、FcγIIa、FcγIIIa、共刺激受容体等)が挙げられる。特定の実施形態において、タンパク質は、EpCAM、ΙFΝβ、抗CTLA-4、抗PD1、抗PDL1、A2A、抗FGF2、抗FGFR/FGFR2b、抗SEMA4D、CCL5、CD137、CD200、CD38、CD44、CSF-1R、CXCL10、CXCL13、エンドセリンB受容体、IL-12、IL-15、IL-2、IL-21、IL-35、ISRE7、LFA-1、NG2(SPEG4として知られる)、SMAD、STING、ΤGFβ、VEGF、及びVCAM1から選択される。
【0142】
本発明は、細胞ベースの治療に使用される標的細胞集団に、機能性高分子をコードするmRNAを供給する組成物を包含する。いくつかの実施形態において、標的細胞集団は、遺伝子操作されたT細胞集団である。いくつかの実施形態において、標的細胞集団は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の集団である。
【0143】
コードmRNAは、免疫細胞の集団又は免疫細胞集団の組み合わせを対象の特定の部位に誘引するために使用され得る。いくつかの実施形態において、コードmRNA及び送達粒子は、免疫細胞を腫瘍微小環境に誘引するために使用される。いくつかの実施形態において、コードmRNA及び送達粒子は、免疫細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用される。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、マクロファージ若しくは樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)、又はそれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態において、コードmRNA及び送達粒子は、CAR-T細胞を腫瘍微小環境に誘引するために使用される。
【0144】
コードmRNAは、CAR T細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用され得る。いくつかの実施形態において、送達粒子は腫瘍微小環境を特異的に標的とし、コードmRNAはCAR-T細胞を腫瘍微小環境に誘引するか、さもなければ動員する遺伝子産物をコードする。いくつかの態様において、コードmRNAは、ケモカインを発現する。非限定的な例として、コードmRNAは、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL20、CCL22、CCL28、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、XCL1、及びそれらの任意の組み合わせ等のT細胞を誘引するケモカインをコードすることができる。自己免疫疾患において等の逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、及び/又は阻害剤を発現することができる。
【0145】
コードmRNAは、腫瘍の微小環境に送達され、一過性に発現し得る。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、例えば、活性化T細胞及びNK細胞等の腫瘍応答における免疫細胞の生存、増殖、及び/又は分化の調節に関与するサイトカイン又は他の遺伝子産物をコードする。非限定的な例として、コードmRNAは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-17、IL-33、IL-35、TGF-ベータ、及びそれらの任意の組み合わせ等のサイトカインをコードし得る。この場合も同様に、自己免疫疾患において等の逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは、上記因子の遮断薬、拮抗薬、及び/又は阻害剤(例えば、TGF-ベータの阻害剤)を発現することができる。
【0146】
mRNAを供給する組成物は、特定の細胞サブタイプを標的とし、それらに結合すると、受容体媒介性エンドサイトーシスを刺激し、それによって、合成mRNAを発現することができるようになった細胞に、組成物が保持する合成mRNAを導入するように設計することができる。導入遺伝子の核輸送及び転写が必要ないため、このプロセスは迅速かつ効率的である。
【0147】
いくつかの実施形態において、コードmRNAは、免疫細胞(例えば、共刺激因子)又は免疫経路と関連する受容体若しくは他の細胞表面タンパク質、又はそのような受容体を標的とする分子をコードし得る。例えば、コードmRNAは、以下のうちの1つ以上から選択される以下の細胞受容体及びそのリガンドを標的とする分子をコードし得る。CD40、CD40L、CD160、2B4、Tim-3、GP-2、B7H3、及びB7H4。同様に、コードmRNAは、GM-CSF、TLR7、及びTLR9のうちの1つ以上から選択される樹状細胞活性化因子をコードし得る。一実施形態において、コードmRNAは、1つ以上のT細胞膜タンパク質3阻害剤をコードする。一実施形態において、コードmRNAは、NF-κBのうちの1つ以上の阻害剤をコードする。
【0148】
Toll様受容体(TLR)ファミリーは、病原体認識及び先天性免疫の活性化に関与する。特に、TLR8は、一本鎖RNAを認識することができ、したがって、転写因子NF-κB及び抗ウイルス応答の活性化によるssRNAウイルスの認識において役割を果たす。したがって、コードmRNAがTLRファミリーのメンバー、例えばTLR8をコードする実施形態は、抗ウイルス応答が所望される場合と考えられる。
【0149】
いくつかの実施形態において、mRNA送達系は、遺伝子編集剤をコードするmRNAを標的細胞集団に送達する。いくつかの実施形態において、mRNAは、遺伝子座を標的とし、標的細胞集団において産生される1つ以上の内因性遺伝子の発現を妨害する配列特異的ヌクレアーゼをコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、T細胞受容体(TCR)関連遺伝子座を標的とする配列特異的ヌクレアーゼをコードし、それによってTCR内の1つ以上のドメインの発現を妨害する。好適には、T細胞受容体型タンパク質は、以下の実施例に更に記載されるように、MHCクラスI関連タンパク質(MR1)を含む。
【0150】
いくつかの実施形態において、mRNA送達系は、操作されたT細胞を所望の表現型に向けてプログラムする1つ以上の薬剤をコードするmRNAを送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、所望のT細胞表現型に特徴的なマーカー及び転写パターンを誘導するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、CAR-T治療を改善することが示されているCD26L+中央記憶T細胞(Tcm)の発達を促進するために使用され得る。(例えば、上記のMoffett,Coonを参照)。いくつかの実施形態において、組成物は、標的細胞集団における細胞分化を制御するために1つ以上の転写因子をコードするmRNAを供給する。いくつかの態様において、転写因子はFoxo1であり、CD8T細胞がエフェクターからメモリーへと移行する発達を制御する。
【0151】
いくつかの実施形態において、mRNA送達組成物は、例えば、T細胞上に見出される表面抗原等のT細胞マーカーに特異的である表面アンカー型標的ドメインを含む。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、ナノ粒子をT細胞に選択的に結合し、受容体誘導性エンドサイトーシスを開始してmRNAナノ粒子送達組成物を内在化する抗原に特異的である。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、又はそれらの組み合わせに選択的に結合する。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、又はそれらの組み合わせに選択的に結合する抗体であるか、又はそれに由来する。
【0152】
本発明によって、異なる細胞型、例えば、健康な細胞、非罹患細胞、罹患したがん細胞において、上述の遺伝子産物の差次的発現を達成することができる。この方法により、非罹患細胞又は健康な細胞を温存しながら、罹患細胞を標的とした免疫応答を引き起こすことができる。
【0153】
標的細胞へのコードヌクレオチド配列の導入は、多くの場合、細胞外空間から細胞内環境に所望の物質を移動するための送達剤又は「インビボ送達組成物」の使用を必要とする。しばしば、そのような送達剤/組成物は、送達粒子を含み得る。送達粒子は、食作用を受け、及び/又は標的細胞と融合する場合がある。送達粒子は、カプセル化により、又はマトリックス若しくは構造内に物質を含むことにより、所望の物質を含有し得る。
【0154】
本明細書で使用される「送達粒子」という用語は、カプセル化、マトリックス内での保持、複合体の形成又は他の手段によって治療成分を含むことができ、コード核酸配列等の治療成分を標的細胞に送達することができる粒子を指す。送達粒子はマイクロスケールであり得るが、特定の実施形態において、典型的にはナノスケール、すなわちナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、典型的には少なくとも50nm(ナノメートル)、好適には少なくとも約100nmであり、典型的には最大でも150nm、200nmであるが、任意選択的に最大300nmの直径である。本発明の一実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも約60nmの平均直径を有する。これらのサイズの利点は、粒子が細網内皮系(単核食細胞系)クリアランスの閾値を下回ること、すなわち、粒子が身体の防御機構の一部として食細胞によって破壊されないほど小さいことを意味することである。これにより、本発明の組成物の静脈内送達経路の使用が容易になる。
【0155】
ナノ粒子の組成物の代替的な可能性として、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、リポソーム若しくはエキソソーム等の脂質又はリン脂質に基づく粒子;タンパク質及び/又は糖タンパク質に基づく粒子、例えば、コラーゲン、アルブミン、ゼラチン、エラスチン、グリアジン、ケラチン、レグミン、ゼイン、大豆タンパク質、カゼイン等の乳タンパク質等(Lohcharoenkal et al.BioMed Research International; Volume 2014(2014));コロイド状ナノ粒子;並びに金、銀、アルミニウム、酸化銅、金属有機サイクル及びケージ(MOC)等の金属又は金属化合物に基づく粒子が挙げられる。
【0156】
特に、ポリエチレンイミン(PEI)を含むポリマーは、核酸の送達のために調査されてきた。ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)で構成されるナノ粒子ベクターも、特にポリエチレングリコール(PEG)との共製剤において、核酸送達に好適であることが示されている(Kaczmarek JC et al Angew Chem Int Ed Engl.2016;55(44):13808-13812)。デンドリマーも使用することが企図される。そのような共製剤の粒子は、mRNAを肺に送達するために使用されてきた。
【0157】
セルロース、キチン、シクロデキストリン、及びキトサン等の多糖類及びそれらの誘導体に基づく粒子も検討されている。キトサンは、キチンの部分脱アセチル化によって得られるカチオン性の直鎖状多糖類であり、この物質を含むナノ粒子は、生体適合性、低毒性及び小さいサイズ等の薬物送達に有望な特性を備えている(Felt et al.,Drug Development and Industrial Pharmacy,Volume 24,1998-Issue 11)。上記の構成要素間の組み合わせが使用され得ることが想定されている。
【0158】
送達粒子は、アミノアルコールリピドイドを含んでもよい。これらの化合物は、ナノ粒子、リポソーム及びミセルを含む粒子の形成に使用することができ、特に核酸の送達に好適である。本発明のいくつかの実施形態による粒子を含むナノ製剤の製造の例示的な例は、実施例に見出すことができる。
【0159】
送達粒子は、標的組織の細胞を標的とすることができる。この標的化は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖タンパク質、脂質、小分子、核酸等であり得る、送達粒子の表面上の標的化剤によって媒介され得る。標的化剤は、特定の細胞若しくは組織を標的とするために使用され得るか、又は粒子のエンドサイトーシス若しくは食作用を促進するために使用され得る。標的化剤の例としては、限定されないが、抗体、抗体の断片、低密度リポタンパク質(LDL)、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質(asialycoproteins)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のgp120エンベロープタンパク質、炭水化物、受容体リガンド、シアル酸、アプタマー等が挙げられる。
【0160】
対象に投与される場合、治療成分は、インビボ送達組成物の一部として好適に投与され、医薬組成物を作製するために、薬学的に許容されるビヒクルを更に含み得る。許容される薬学的ビヒクルは、水及び油等の液体であってもよく、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物又は合成起源のものを含む。薬学的ビヒクルは、生理食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素等であり得る。更に、補助剤、安定剤、増粘剤、潤滑剤及び着色剤が使用されてもよい。対象に投与される場合、薬学的に許容されるビヒクルは、好ましくは滅菌である。本発明の化合物が静脈内投与される場合、水が好適なビヒクルである。生理食塩水及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液も、特に注射液用の液体ビヒクルとして用いることができる。好適な薬学的ビヒクルは、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等の賦形剤も含む。医薬組成物は、所望な場合、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又は緩衝剤も含有し得る。
【0161】
本発明の医薬品及び医薬組成物は、液体、溶液、懸濁液、ゲル、放出調節製剤(徐放又は持続放出等)、エマルジョン、カプセル(例えば、液体又はゲルを含有するカプセル)、リポソーム、微粒子、ナノ粒子、又は当該技術分野で既知の任意の他の好適な製剤の形態をとることができる。好適な薬学的ビヒクルの他の例はRemington’s Pharmaceutical Sciences,Alfonso R.Gennaro ed.,Mack Publishing Co.Easton,Pa.,19th ed.,1995に記載される(例えば、1447~1676ページを参照されたい)。
【0162】
本明細書に記載される任意の化合物又は組成物について、治療的有効量は、インビトロ細胞培養アッセイから最初に決定され得る。標的濃度は、本明細書に記載の又は当該技術分野で既知の方法を使用して測定される、本明細書に記載の方法を達成することができる活性成分の濃度である。
【0163】
当該技術分野で周知のように、ヒト対象に使用するための治療有効量も動物モデルから決定することができる。例えば、ヒト用の用量は、動物において有効であることが見出されている濃度を達成するように製剤化することができる。上記のように、ヒトの投与量は、化合物の有効性をモニタリングし、投与量を上方調節及び下方調節することによって調節することができる。上記の方法及び他の方法に基づいて、ヒトにおける最大有効性を達成するために用量を調節することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0164】
本発明の実施形態は、医薬で使用するために製剤化された組成物を含み得ることが企図される。したがって、本発明の組成物を生体適合性溶液に懸濁させて、患者又は動物の細胞上、組織内、又は体内の位置を標的とすることができる組成物を形成することができる(すなわち、組成物はインビトロ、エクスビボ、又はインビボで使用することができる)。好適には、生体適合性溶液は、リン酸緩衝生理食塩水又は任意の他の薬学的に許容される担体溶液であり得る。1つ以上の追加の薬学的に許容される担体(希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクル等)は、医薬組成物において本発明の組成物と組み合わされてもよい。好適な薬学的担体は、E.W.Martinによる‘Remington’s Pharmaceutical Sciences’に記載されている。本発明の医薬製剤及び組成物は、規制基準に適合するように製剤化され、経口的に、静脈内に、局所的に、腫瘍内に、若しくは皮下に、又は他の標準的な経路を介して投与することができる。投与は、全身又は局所又は鼻腔内又はくも膜下腔内であり得る。特に、本発明による組成物は、静脈内、病巣内、腫瘍内、皮下、筋肉内、鼻腔内、髄腔内、動脈内、及び/又は吸入を通じて投与することができる。
【0165】
本発明のいくつかの実施形態の組成物が、代替の抗腫瘍性又はさもなければ抗がん性の治療成分と別々に、又は組み合わせて投与される実施形態が更に意図される。これらの成分は、腫瘍溶解性ウイルス、小分子薬、化学療法薬、放射線療法薬、又は生物製剤を含み得る。成分は、本発明組成物と同時に投与されてもよく、また送達粒子内に含まれてもよいか、又は好適な任意の手段によって、本発明の組成物の投与の前又は後に別々に投与されてもよい。
【0166】
本発明のいくつかの実施形態の組成物は、インビトロ及び/又はエクスビボ法で、例えば、実験室設定において、使用され得ることも企図される。インビトロ法の一例は、本明細書に記載のmRNA配列を含む送達系を含む組成物が標的インビトロ細胞に投与され、mRNA配列に含まれるmiRNA結合部位配列によって、標的インビトロ細胞内の異なる細胞型におけるmRNAのコード配列の差次的発現が可能になる場合である。同様に、本明細書に記載の送達系及びmRNA配列を含む組成物が動物から採取された標的エクスビボ試料に投与され、mRNA配列に含まれるmiRNA結合部位配列により、標的サンプル内の異なる細胞型におけるmRNAのコード配列の差次的発現が可能になる方法も企図される。
【0167】
ワクチン
本明細書に記載されるmRNA構築物及び組成物は、従来のワクチンの有効性の増強、及び/又はウイルス、細菌、真菌、原虫、及び蠕虫(虫)等の感染性病原体に対する使用のための、又はがん等の疾患の治療における使用のための新規のワクチン形態として、ワクチン療法に使用することができる。
【0168】
いくつかの実施形態において、コードmRNAは、それに対して免疫応答が望まれる抗原をコードすることができる。そのような抗原の送達を使用して、上で考察されたような局所免疫応答を誘導するために、又は抗原自体に対する適応免疫応答を誘発するために、すなわち、ワクチンと同様にその抗原に対する免疫を誘導するために使用することができる。そのような場合、本発明による組成物は、免疫応答の生成を促進するためにアジュバントと組み合わせることができる。好適には、1つ以上の炎症促進性サイトカインが、アジュバントとして利用されてもよく、例えば、以下:IFNγ、IFNα、ΙFΝβ、TNFα、IL-12、IL-2、IL-6、IL-8、及びGM-CSFから選択されてもよい。
【0169】
感染症を予防するか、又は病原体感染を予防するための予防ワクチン
例えば、コードmRNAは、免疫反応が所望される細菌、ウイルス、又はそれ以外の微生物タンパク質を、全体的又は部分的にコードし得る。場合によっては、免疫は、細菌タンパク質、ウイルスタンパク質、又はその他の微生物タンパク質の一部に対してのみ生成され得るので、それらの部分のみのコードも想定される。特に、外部に提示される微生物タンパク質の一部は、免疫認識のための標的である可能性が高いものとして選択することができる。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2ウイルス(SARS-CoV-2)の1つ以上のウイルスタンパク質、すなわち、Covid-19パンデミックの原因となるウイルスをコードすることができる。このウイルスは、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(膜)、及びN(ヌクレオカプシド)タンパク質の4つの構造タンパク質を有する。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の全て又は一部をコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、Sタンパク質エクトドメイン(残基986及び987にプロリン置換を有するアミノ酸1~1208;GenBank MN908947)の前融合形態をコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、Spikeタンパク質の受容体結合ドメイン、すなわちRBD(残基319~591;GenBank MN908947)をコードする。このタンパク質の外側部分として、これは免疫系によって認識され得るエピトープの可能性が高い位置である。特定の実施形態において、コードmRNAは、少なくとも1つの器官保護配列(OPS)を追加で含み、OPS配列は、少なくとも第1、第2及び第3のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含む。標的配列のうちの1つは、miRNA-1と結合することができる配列であり得る。標的配列は、miRNA-1、miR-133a、miR-206、miRNA-122、miR-203a、miR-205、miR-200c、miR-30a、及び/又はlet7a/bのうちの1つ以上と、好適にはこれらの全てと結合することができる配列を含み得る。
【0170】
上述のアプローチは、免疫応答が細菌又は他の生物によって産生される不活性化された毒素に対して誘導される典型的な「トキソイド」ワクチン、又は標的微生物の断片に対して免疫応答が誘導される「サブユニット」ワクチンと同様のワクチン治療組成物の調製に特に好適であることを理解することができる。
【0171】
本明細書に記載の本発明の任意の実施形態は、提案される標的組織として、血液又はその下位分類(造血細胞、リンパ球等)を有する場合があるが、特に、血液及びその下位分類は、免疫応答を誘導することを目的とする実施形態において、免疫応答がコードmRNAによってコードされる産物に対して誘導される場合、及び/又は任意選択的に、ワクチン療法を提供することを目的とする実施形態において、特に適切であり得ると考えられる。末梢血単核細胞(PBMC)は、そのようなアプローチの標的として特に企図され、好適には、抗原提示細胞(APC)である。
【0172】
従来のワクチンは、少なくとも部分的には、病原体特異的抗原を免疫系(外因性抗原)に提示することによって機能し、その結果、それに対して免疫反応を誘導することができ、そのため、この外因性抗原は、次に遭遇するときに認識され、迅速に対抗することができる。いわゆる抗原提示細胞(APC)は、このプロセスの鍵である。全ての有核細胞は、細胞傷害性T細胞(CD8+)に対して内因性抗原を提示することができるが、特定の細胞は、樹状細胞、マクロファージ及びB細胞を含む、外因性抗原を検出し、提示する能力を有する「プロフェッショナル」APCである。これらの細胞は、外因性抗原を内在化し、処理し、それら又はそれらの断片(免疫優性エピトープ)を、主要な組織適合性複合体II型(MHC-II)、及びしばしば共刺激分子と会合して、B細胞によって引き起こされる抗体産生(適応免疫)の開始に重要な役割を果たすCD4+ヘルパーT細胞等の増強されたT細胞応答を形成するために、表面上に提示する。
【0173】
以前の取り組みは、インフルエンザタンパク質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子に投与することができ、免疫細胞の動員、並びに単球及び樹状細胞によるmRNAの翻訳をもたらすことを示している(Liang et al Efficient Targeting and Activation of Antigen-Presenting Cells In Vivo after Modified mRNA Vaccine Administration in Rhesus Macaques.Mol Ther.2017)。したがって、外因性抗原又はそのエピトープをコードする本明細書に記載のmRNA構築物又は組成物によるプロフェッショナルAPC(単球及び樹状細胞等)のトランスフェクションは、抗原提示、及びその抗原に対する長期間持続する適応免疫の誘導を可能にするように企図される。しかしながら、プロフェッショナルAPC内での抗原の発現は必要ではなく、産生された抗原は、産生後にプロフェッショナルAPCによって通常の方式で取り込まれ、処理することができるため、他の組織による抗原の発現は、所望の免疫応答を誘導するのに有効であり得る。
【0174】
これに加えて、又はその代わりに、本明細書に記載のmRNA構築又は組成物を使用して、サイトカイン、ケモカイン、共刺激分子、又は主要な組織適合性複合体等のワクチン誘導性免疫のプロセスと関連する産物を送達及び発現することができる。抗原及び更なる成分の両方をコードするmRNAが投与される場合、これらは、上記のように、別個のmRNA構築物として、又は同じ多シストロン性mRNA上で一緒に製剤化され得る。ワクチン誘発性免疫のプロセスと関連するそのような生成物をコードするmRNAを、任意の種類のワクチンと組み合わせて、すなわち、タンパク質ベースのワクチン(トキソイド、組換え、コンジュゲート化ワクチン)、mRNA及びDNAベースのワクチン、生体弱毒化ワクチン、不活性化ワクチン、又は組換えベクターベースのワクチン(例えば、MVA又はアデノウイルスプラットフォーム)と組み合わせて使用することができることを理解することができる。
【0175】
例えば、マクロファージは、MHC-IIを発現するために、インターフェロンガンマ(IFN-γ)のT細胞分泌による活性化を必要とする。したがって、記載されるmRNA構築物及び組成物によるトランスフェクションによるIFN-γ発現の誘導は、従来のワクチンアプローチから、又は抗原発現を誘導するために本明細書に記載されるmRNA構築物及び組成物を使用するアプローチから得られるかどうかにかかわらず、ワクチン誘導性免疫応答の誘導を増強することができる。同様に、TLR(好適には、上で考察されたTLR8)等の免疫原性プロセスに関与する細胞受容体の誘導もまた、本明細書に記載のmRNA構築物及び組成物を使用して実行され得る。
【0176】
IL-12は、抗原刺激に応答して、樹状細胞、マクロファージ、好中球、及びヒトBリンパ芽球様細胞によって産生され、T細胞の刺激及び成長に関与する。IL-12は、ヘルパーT細胞のTh1サブセットの発達において重要な役割を有する刺激誘発性及び炎症誘発性のサイトカインである。IL-12は、元々は、ナチュラルキラー細胞及びT細胞によって媒介されるインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)産生、細胞増殖、及び細胞傷害性を誘導する能力のために開発された。ここで、IL-12が、IFN-γ及びIL-2産生を引き起こすTh1応答の発生においても重要な役割を果たすことが確立される。これらのサイトカインは、ひいては、細胞傷害性T細胞応答及びマクロファージ活性化を促進することができる。したがって、別の実施形態において、従来のワクチンアプローチ、又は本明細書に記載のmRNA構築物及び組成物を使用して外因性抗原発現を誘導するアプローチに起因するかどうかにかかわらず、ワクチン効力を増強するために、又はワクチン誘導性免疫応答を増強するために、IL-12発現につながるmRNA構築物及び/又は組成物を投与することが所望され得る。
【0177】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF又はCSF2;GenBank AAA52578)は、T細胞、B細胞、マクロファージ、肥満細胞、内皮細胞、線維芽細胞、及び脂肪細胞を含む様々な細胞型によって産生される免疫調節因子である。GM-CSFはまた、抗原提示細胞の機能を調節し、樹状細胞の活性化の増強、及び単核食細胞の成熟の増強に関与する。GM-CSFは、応答を刺激するために、ワクチンにおいて以前に使用されている(Yu et al.Novel GM-CSF-based vaccines:One small step in GM-CSF gene optimization,one giant leap for human vaccines.Hum Vaccin Immunother.2016)。特に、GM-CSFは、ジフテリア予防(Grasse M et al.GM-CSF improves the immune response to the diphtheria-component in a multivalent vaccine.Vaccine.2018)、結核予防(Wang et al,Enhanced immunogenicity of BCG vaccine by using a viral-based GM-CSF transgene adjuvant formulation.Vaccine.2002)を含むが、これらに限定されない細菌疾患又は感染に対するワクチン応答を改善することが示されている。コロナウイルス、インフルエンザウイルス(Liu et al Influenza virus-like particles composed of conserved influenza proteins and GPI-anchored CCL28/GM-CSF fusion proteins enhance protective immunity against homologous and heterologous viruses.Int Immunopharmacol.2018)、及びブタ繁殖呼吸障害症候群ウイルス(Yu et al Construction and in vitro evaluation of a recombinant live attenuated PRRSV expressing GM-CSF.Virol J.2014)に限定されないが、これらを含むウイルス疾患又はウイルス感染のためのワクチンアプローチにおいて、GM-CSFを使用して、同様の改善が見出され、又は理論形成されてきた。
【0178】
したがって、本明細書に記載されるmRNA構築物又は組成物を使用したGM-CSFに対するコードmRNAの導入を使用して、抗体及び細胞免疫応答の両方を介して、ワクチン免疫原性を増強することができる。したがって、そのようなアプローチは、ヒト及び他のレシピエントにおいて、並びに予防用ワクチン型及び治療用ワクチン型の両方において、ワクチンアジュバント、エンハンサー、又は免疫学的ブースターとして使用され得る。同様の効果は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF又はCSF1;GenBank BC021117)及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF又はCSF3;GenBank BC033245)等の他のCSF型のタンパク質に対しても見られ得る。
【0179】
本明細書に記載されるmRNA構築物又は組成物を使用して誘導され得る、ワクチン誘導性免疫のプロセスと関連する産物の他の例には、結核(BCG)ワクチンに対するワクチン応答の開発に関与してきた、核因子NF-κB経路の調節因子が挙げられる(Shey et al.Maturation of innate responses to mycobacteria over the first nine months of life.J Immunol.2014)。
【0180】
上記の考察によるmRNA構築物及び組成物は、本明細書に記載の任意の器官保護配列を含むことができる。しかしながら、特定の実施形態において、器官保護配列は、筋肉、肝臓、腎臓、及び皮膚のうちの1つ以上を保護するように選択される(例えば、miRNA-1、miRNA-122、miR-30a、及び/又はmiR-203aのための標的配列を使用する)。いくつかの実施形態において、miRNA-1、miRNA-122、miR-30a及びmiR-203aの4つ全ての標的配列が、器官保護配列中に含まれる。このような組み合わせは、筋肉組織(組成物は、筋肉内に投与され得る)、並びに肝臓及び膵臓組織を保護するのに有効であると考えられている。皮下又は皮内投与も一般的であり、皮膚と関連するmiRNA標的配列(表2を参照)のうちの1つ以上を使用して皮膚の細胞を保護することもできる。
【0181】
また、このmiRNAは、造血起源の細胞及び免疫細胞に豊富に存在し、したがって、ワクチン媒介性応答を媒介することが予想される細胞における発現の減少を引き起こす可能性があるため、そのような構築物及び組成物におけるmiRNA-142標的配列の使用を回避することも有利であると考えられる。
【0182】
治療用ワクチン(又は能動免疫療法)
従来の予防用(preventive)又は予防用(prophylactic)ワクチンに加えて、より新しい分野は、例えば、持続性感染又はがんに対する、体内に既に存在する標的に対する免疫応答を誘発することを目的とする治療用ワクチンの分野である。このことは、そのような場合において、免疫応答が、正常な免疫応答から疾患を保護するように作用する忍容メカニズムによってしばしば下方調節されるか、又はそれ以外の方法で拘束されるため、より困難であることが証明されている(Melief et al Therapeutic cancer vaccines JCI 2015)。
【0183】
したがって、一実施形態において、腫瘍抗原をコードする本明細書に記載のmRNA構築物が、腫瘍細胞における翻訳のために提供される。このことは、前に考察されたように、がん細胞に対する免疫応答を誘導することを目的とする。ここで明らかになるように、本発明による器官保護配列を選択的に使用することによって、同一又は異なる組織型の腫瘍の周囲の組織中の健全な細胞であるか、又は投与使用若しくは全身分散によって影響を受ける可能性がある他の器官であるかを問わず、標的腫瘍組織以外の細胞型、組織、及び/又は器官における発現を減少させることができる。
【0184】
そのような投与は、生成された免疫応答を改善するために、治療用ワクチンと組み合わせて行われてもよく、又は免疫系が腫瘍に対する応答を開始するために導入されたエンハンサーに反応するために、それ自体が治療用ワクチンであってもよい。
【0185】
がんを治療するためのワクチンとしての治療用ウイルスとの組み合わせ(ウイルスベースの免疫療法としての治療用がんワクチン)
がん治療ワクチンは、治療用ワクチンとも呼ばれ、健康な細胞には見られない、がん特異的抗原(ネオ抗原)を保有する細胞を認識し、破壊するために免疫系をブーストする免疫療法の一種である。例えば、結腸直腸ネオ抗原は、結腸直腸腫瘍細胞に一般的に見られるMUC1を含む。他のネオ抗原は、患者の腫瘍に特異的であり得る。後者の場合、がん治療ワクチンは、特定の個人向けのネオ抗原ワクチンである。がん治療ワクチンは、既にがんと診断されている患者に使用される。この療法は、がん細胞を破壊し、腫瘍の成長と拡散を停止させるか、又は他の治療が終了した後にがんが戻ってくるのを防止することができる。がんワクチンは、免疫応答が望ましい抗原と、免疫応答を強化するアジュバントと、を含有し得る。
【0186】
典型的ながんワクチン接種戦略は、腫瘍関連ネオ抗原を免疫系の主要な抗原提示細胞、例えば、樹状細胞に送達するために、長期持続する抗腫瘍免疫応答を生成することができる好適なベクターを選択することを含み得る。ある特定の実施形態において、アデノウイルス(Ad)ベクターは、その高い効率及び挿入変異誘発のリスクが低いことに起因して、ネオ抗原遺伝子の送達のためのビヒクルとして使用され得る。ChAdOx1又はChAdOx2ベクター等のアデノウイルスベクターは、導入遺伝子産物及びAdカプシドタンパク質に対する強力な体液性及び細胞性免疫応答を迅速に誘発するため、有望な遺伝子ワクチンプラットフォームである。このことは、腫瘍ネオ抗原をコードするAdベクターによって感染された樹状細胞を介して、インビトロ及びインビボの両方での抗腫瘍T細胞応答の生成によって示されている。したがって、一実施形態において、1つ以上の免疫調節因子をコードする本明細書に記載のmRNA構築物を使用して、治療用がんワクチンによって生成された細胞応答を誘引し、活性化することができる。本明細書に記載の好適な免疫調節因子は、IL-12、並びにその誘導体(例えば、一本鎖形態)及び相同体を含んでいてもよい。
【0187】
前に考察された予防(preventive/prophylactic)ワクチンにおけるその潜在的な役割と同様に、GM-CSFもまた、治療用ワクチンの潜在的なアジュバントとして特定されている(Yan et al Recent progress in GM-CSF-based cancer immunotherapy.Immunotherapy.2017、Zhao et al Revisiting GM-CSF as an adjuvant for therapeutic vaccines.Cell Mol Immunol.2018)。同様に、がんに対する抗原特異的免疫を増強するためにウイルスベースのワクチンの一部として送達されるCD40リガンド(CD40L)は、免疫応答及びナチュラルキラー(NK)細胞活性化及び増殖の誘導を改善することが示されている(Medina-Echeverz et al Synergistic cancer immunotherapy combines MVA-CD40L induced innate and adaptive immunity with tumor targeting antibodies.Nat Commun.2019)。したがって、本明細書に記載されるmRNA構築物及び組成物を使用して、GM-CSF又はCD40Lの発現を誘導し、がん治療ワクチンの前、その最中、又はその後に抗腫瘍免疫応答を増強することができる。
【0188】
また、変異の結果としてがん細胞によって産生される新規な抗原である「ネオ抗原」を含む患者特異的抗原に対する免疫応答を誘導することが所望され得る(Lichty et al Going viral with cancer immunotherapy.Nat Rev Cancer.2014)。したがって、別の実施形態において、本明細書に記載のmRNA構築物及び/又は組成物は、患者のネオ抗原をコードするmRNAを含むように設計され得る。これらは、同じ又は異なるmRNA構築物のいずれかにおいて、上で考察されたように、免疫調節因子、免疫エンハンサー、及び他のエフェクター化合物をコードする任意の他のmRNAと組み合わせてもよい。このようなアプローチは、腫瘍細胞が、増強された効果の抗原性タンパク質を産生することを誘導し、免疫系がそれらの腫瘍細胞をより良く認識することを可能にすることを目的としている。腫瘍細胞に対するこの細胞応答はまた、がん細胞による免疫調節因子の発現を更に誘導することによって増強することができる。
【0189】
したがって、本発明の特定の実施形態によれば、がんワクチン等のがん免疫療法剤と組み合わせて使用するための、免疫刺激性又は免疫調節性タンパク質又はポリペプチド等の治療増強因子をコードする、本明細書に記載のmRNAが提供される。がんワクチンは、修飾されたヒト又は霊長類のアデノウイルス等の治療用ウイルス(例えば、表5を参照されたい)を含んでいてもよく、免疫刺激性又は免疫調節性タンパク質又はポリペプチドは、生物学的に活性なIL-12及び/又はGM-CSFを含んでいてもよい。
【0190】
別の実施形態において、全体を通して考察されるように、腫瘍細胞における発現のため、又は腫瘍細胞による発現のための、NF-kB経路の調節因子及び/又は阻害剤をコードする本明細書に記載のmRNA構築物及び/又は組成物が提供される。
【0191】
本発明の組成物及び方法は、以下の実施例によって例示されるが、決してこれらに限定されない。
【実施例
【0192】
mRNA構築物
全てのmRNA構築物を、生成されたDNA配列から、Trilink Biotechnologies(San Diego,CA)によって合成する。これらのmRNAは、完全に処理され、キャップされ、ポリアデニル化されたmRNAと似ており、リボソームによる翻訳の準備ができている。
【0193】
製剤
全てのmRNA構築物を、イオン化可能な脂質様物質C12-200、リン脂質DOPE、コレステロール、及び脂質固定ポリエチレングリコールC14-PEG2000-DSPE混合物の多成分ナノ粒子へと製剤化する。この特定の組成、C12-200:mRNAの特定の重量比(10:1)、並びに脂質様物質、リン脂質、コレステロール、及びPEGのモル[%]組成を、インビボでの高トランスフェクション効率のために最適化し(Kauffman K.J.,Nano Letter.2015,15,7300-7306)、DMPCTx-mRNAと称される。製剤を作製するために、脂質成分をエタノールに溶解し、T字接合混合装置を使用して、10mMクエン酸緩衝液(pH3)に希釈したmRNAと1:3の比で混合した。製剤を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)に対して20kDaの膜透析カセット中、室温で4時間透析した。次いで、必要に応じて、製剤を、Amicon Ultra遠心分離濾過ユニット(100kDaカットオフ)を使用して濃縮した。その後、製剤を、特性決定の準備ができた新しいチューブに移した。mRNAカプセル化及び濃縮の有効性を、製造業者のプロトコルに従って、Ribogreen RNAアッセイ(Invitrogen)を使用して測定する。脂質ナノ粒子の多分散性指数(PDI)及びサイズ(Zave)を、動的光散乱(Zetasizer Nano-ZS、Malvern)を使用して測定する。
【0194】
製剤を使用して、図2に示されるように、マルチウェルプレートアッセイにおいて細胞をトランスフェクトする。製剤を、約1.5pmol/ウェルのDMPCTx-mRNAに好適に希釈する。アッセイの読み出しは、Hoechst 33342染色(NucBlue Liver ReadyProbes Reagent、Life Technologies)を用いるmCherry蛍光に対するmRNAの発現を検出し、細胞核を染色し、細胞密度を決定するためのものである。mCherry蛍光を、蛍光顕微鏡法(BIOTEK製のCytation Systems、又はThermofisher Scientific製のEVOS FL Auto)を使用して、トランスフェクションから24時間後に定量化した。
【0195】
これらの製剤は、インビボ動物研究において細胞をトランスフェクトするためにも使用される。
【0196】
細胞培養及びトランスフェクション
全ての細胞を、5%CO存在下、37℃で成長させた。培養した細胞(Hep3B、AML12、786-0、hREC、HCT-116)のインビトロでの単一トランスフェクションを、以下のように行った:トランスフェクションの1日前に、表5に列挙される推奨完全培地及び細胞密度で、96ウェルの組織培養処理されたマイクロウェルプレートに細胞を播種した。翌日、必要に応じて培養した細胞を穏やかに混合しつつ、ウェル中の培地にmRNA-DMPCTxを直接添加することにより、200uLの血清減少培地(Opti-MEM medium、Gibco)中の1.5pmolのDMPCTx-mRNAで細胞をトランスフェクトした。インキュベーションから4時間後、Opti-MEM培地を除去し、完全培地によって置き換えた。
【表5-2】

【0197】
ヒト正常肝細胞(Sigma Product参照番号MTOXH1000)のトランスフェクションのために、Sigmaが推奨する解凍を使用して、完全に補充された播種及び培養培地(参考MED-HHTM、MED-HHPM、MED-HHPMSP、MED-HHCM、MED-HHCMSP)1mL当たり250,000個の細胞の細胞密度で、細胞を24ウェルコラーゲンコーティングされたプレートに播種した。mRNA-DMPCTxのトランスフェクションは、5%FBSを含有する培養培地中で行った。4時間のインキュベーションの後、mRNA混合物を除去し、完全に補充された培地をウェルに戻した。
【0198】
正常上皮成人結腸細胞(Cell Applications,Inc.、参照732Cn-05a)のトランスフェクションのために、GI Epithelial Cell Thawing Solution及びGI Epithelial Cell Defined Culture Medium(Cell Applications Inc.、参照716DC-50及び716T-20)を使用して、細胞を解凍し、播種し、培養した。96ウェルマイクロプレートウェルを、GI Epithelial Cell Coating Solution(Cell Applications,Inc.、参照025-05)で前処理し、ウェル当たり60,000個の細胞を播種した。翌日、必要に応じて培養した細胞を穏やかに混合しつつ、ウェル中の培地にmRNA-DMPCTxを直接添加することにより、200uLの血清減少培地(Opti-MEM medium、Gibco)中の1.5pmolのDMPCTx-mRNAで細胞をトランスフェクトした。インキュベーションから4時間後、Opti-MEM培地を除去し、培養培地によって置き換えた。
【0199】
正常ヒト肺/気管支細胞(BAES-2B細胞、ATCC CRL-9609)のトランスフェクションのために、細胞を、BEGM Bronchial Epithelial SingleQuotsキット(Lonza)を補充したBEGM培地(Lonza)中で成長させた。細胞を、1mL当たり75,000個の細胞密度で、コラーゲンIコーティングされたマイクロウェルプレートに播種した。翌日、必要に応じて培養した細胞を穏やかに混合しつつ、ウェル中の培地にDMPCTx-mRNAを直接添加することにより、200uLの血清減少培地(Opti-MEM medium、Gibco)中の1.5pmolのDMPCTx-mRNAで細胞をトランスフェクトした。インキュベーションから4時間後、Opti-MEM培地を除去し、培養培地によって置き換えた。
【0200】
蛍光顕微鏡法
トランスフェクションから24時間後、Hoechst 33342染料(Invitrogen製のNucBlue(商標)Live ReadyProbesTM Reagent)を使用して、細胞核を染色した。蛍光顕微鏡(Biotek製のCytation機器、又はThermofisher Scientific製のEVOS(登録商標)FL Imaging Systems)を使用して、生細胞において、核染色及びmCherry蛍光を検出した。画像を、フィルターキューブTexas Red and DAPIと、20倍の対物レンズとを用いて取得した。
【0201】
実施例1:最適化されていないmiRNA標的配列と、最適化されたmiRNA標的配列(一致していないものと、一致したもの)
標的細胞に構築物mRNAを首尾良くトランスフェクトし、その後、修飾されていないmiRNA標的配列よりも良好なタンパク質の差次的発現を引き起こすための本発明の可能性を調査するために、まず、miRNA結合部位で修飾されたDMPCTxmRNAプラットフォームを、各器官についてのヒトがん細胞株及び正常初代細胞を使用してインビトロで評価する。精製されたmCherry mRNAを、培養細胞におけるトランスフェクション及び翻訳効率を追跡するために使用する。
【0202】
例えば、miRNA-122は、豊富な肝臓特異的miRNAであり、その発現は、ヒト原発性肝細胞がん(HCC)、及びHep3B等のHCC由来細胞株では著しく低下する。この実施例の試験の目的は、最適化されたmiRNA-122標的配列(例えば、バリアント2)の挿入によるmRNA配列の3’非翻訳領域(UTR)の修飾が、正常な肝細胞において外因性mRNAのより高い翻訳抑制をもたらし得るが、試験したHCC細胞株ではもたらされないことを実証することであった。その目的のために、mCherry mRNA構築物を、3’-UTRに少なくとも1つの最適化されていないmiRNA-122標的配列(バリアント1)、又は少なくとも1つの最適化された完全に一致する標的配列(バリアント2)を含むように修飾した。mRNA構築物を、高レベルのmiRNA-122を発現することが知られているマウスAML12正常肝細胞にトランスフェクトする。miRNA標的配列を含まないmCherry mRNA構築物を陽性対照として使用した。mCherry mRNA構築物の単一トランフェクションから24時間後に、蛍光顕微鏡法(Thermofisher Scientific製のEVOS FL Auto)を使用してmCherry蛍光を検出した。ウェスタンブロット又は質量分析法等のプロテオーム分析技法を含む代替的な定量化方法論を使用して、送達された構築物の発現を検証することができる。
バリアント1[配列番号4]:5’-AACGCCAUUAUCACACUAAAUA-3’(一致していないmiR-122標的配列)
バリアント2[配列番号44]:5’-CAAACACCAUUGUCACACUCCA-3’(完全に一致したmiR-122標的配列)
【0203】
結果
図9(b)に示すように、AML12細胞において、MOPを含まないmCherry mRNAの発現は、強力である。単一の不完全に一致したmiR-122標的配列(バリアント1)が3’UTRに含まれる場合、mCherryの発現は、明らかなままである(図9(c)を参照されたい)。バリアント2を使用して完全に一致する効果は、図9(d)の右側パネルにおける明らかなmCherry発現の大幅な減少により明らかである。
【0204】
実施例2:miRNA標的配列の繰り返し数の効果を比較する
mRNA構築物において標的配列の数を増加させることによって、より良好な差次的発現を引き起こすための本発明の可能性を調査するために、mCherry mRNAを、3’-UTR中に1個、2個又は4個の最適化されたmiRNA-122 miRNA標的配列を含むように修飾し、翻訳効率を評価し、ヒトHep3Bがん細胞株及び対応する正常AML12初代細胞においてインビトロで比較した。miRNA標的配列を含まないmCherry mRNA構築物を陽性対照として使用した。miR-122標的配列を、図1に示されるように、特定のヌクレオチド(uuuaaa等)を使用して連結する。mCherry mRNA構築物の単一トランフェクションから24時間後に、蛍光顕微鏡法(Thermofisher Scientific製のEVOS FL Auto)を使用してmCherry蛍光を検出した。ウェスタンブロット又は質量分析法等のプロテオーム分析技法を含む代替的な定量化方法論を使用して、送達された構築物の発現を検証することもできる。
【0205】
結果
結合部位配列を多重化した結果を図8に示す。AML12正常肝細胞におけるmCherry発現の抑制には、ある程度の用量依存性があり(a)、結合部位配列の2回及び4回の繰り返しがあると、mCherryの高レベルの抑制を示す。しかしながら、その効果は、Hep3Bがん細胞ではそれほど明らかではなく(b)、mCherry発現のレベルは、miRNA結合部位の1回又は2回の繰り返しでは、ほぼ一致した状態を維持しており、4倍の多重化配列についてのみ、発現がわずかに減少する。
【0206】
実施例3:mCherry発現に対する多器官保護(MOP)配列の効果を、MOPを用いないmCherryと比較して評価する
肝臓;膵臓;脳及びCNS;腎臓;脾臓;食道、胃、腸、結腸、及び直腸を含む消化管;肺;皮膚並びに乳房からなる群から選択される1つ以上の器官内に含まれる非罹患細胞におけるORFの翻訳を減少させるか、又は排除するMOP配列の可能性を調査するために、mCherry mRNAを、3’-UTR中に少なくとも3つの最適化されていないmiRNA標的配列を含むように修飾し、第1、第2、及び第3のmiRNA標的配列は、互いに全て異なっている。この実施例において、肝臓、肺/乳房及び腎臓それぞれにおいて非罹患細胞の多器官保護を可能にする、miR-122、Let7b、及びmiR-192に結合するように最適化された標的配列が提供される。翻訳効率を評価し、各保護される器官について、ヒトがん細胞株及び対応する正常初代細胞においてインビトロで比較する。miRNA標的配列を含まないmCherry mRNA構築物を陽性対照として使用する。mCherry mRNA構築物の単一トランフェクションから24時間後に、蛍光撮像システム(BIOTEK製のCytation機器)を使用してmCherry蛍光を定量化する。標的配列を、特定のヌクレオチド(uuuaaa等)を使用して連結する。
【0207】
実施例4:インビトロでの多器官保護方法の概念の証明
複数の異なるレシピエント細胞型における特定のORFの差次的発現を示す本発明の可能性を調査するために、mCherry mRNAを、3’-UTR中に3個又は5個のmiRNA標的配列を含むように、実施例3と同様に修飾した。第1のmRNA配列において、miR-122、Let7b、及びmiR-192のための標的配列が提供され(mCherry-3MOP)、第2のmRNA配列において、miR-122、miR-124a、Let7b、miR-375、及びmiR-192のための標的配列が提供される(mCherry-5MOP)。miRNA標的配列を含まない対照mCherry mRNA配列も使用した。
【0208】
調製したmRNA配列を、上述のようにナノ製剤化した。調製したナノ粒子を、ヒト正常肝細胞(Sigma Product参照番号MTOXH1000)、マウス正常肝細胞(ATCCからのAML12)、及びヒト肝細胞がん細胞(ATCCからのHep3B)に対応する細胞株にトランスフェクトした(図2)。これに加えて、正常ヒト腎臓細胞(ATCCからのhREC)に対する細胞株を、mCherry-3MOP mRNA、及び対照mCherry RNAでトランスフェクトした。細胞を24ウェルプレートに播種した。1ウェル当たり0.5ugのmRNAをトランスフェクトし、トランスフェクションから24時間後に、Cytation 5機器(Biotek)を用いて撮像を行った。
【0209】
図3は、3つの肝臓細胞型におけるmCherryシグナルを示し、対照mCherry mRNAによるトランスフェクション後のヒト肝臓がん細胞(Hep3B)又は正常細胞において見出されるシグナルと比較して、mCherry-3MOP又はmCherry-5MOP mRNAによりトランスフェクトされた場合の正常マウス及びヒト肝細胞の両方における細胞シグナルの有意な減少を示す。このことは、miRNA標的配列を含むことの結果としての正常細胞におけるmCherryの翻訳の減少を示す。図4は、Biotek製のGen5 Imaging Softwareを使用してトランスフェクトされた細胞におけるmCherry蛍光の定量化を示す。バックグラウンドシグナルを減算した。値は、細胞当たりの蛍光シグナルの平均値及び標準偏差を表す。対照と比較して評価されたmRNAの統計的有意差を、*P<0.05、**P<0.005として示す。その結果は、3MOP又は5MOP miRNA標的配列が使用される場合、正常肝臓細胞(ヒト及びマウス)におけるタンパク質発現のおよそ80%減少を示すが、一方で、腫瘍細胞では、それより少ない減少が見られる。
【0210】
図5Aは、トランスフェクトされた正常ヒト腎臓細胞(hREC ATCC-PCS-400-012)におけるmCherryシグナルを示す。mCherry-3MOPで治療された細胞において、シグナルの減少が見られ、これはmCherry翻訳の減少を示している。Biotek製のGen5 Imaging Softwareを使用して、これを図5Bで定量化し、同様に、mCherry-3MOPによるトランスフェクション後の正常腎臓細胞において、mCherryシグナルのほぼ60%の減少を示す。図5Bにおいて、バックグラウンドシグナルを減算し、値は、細胞当たりの蛍光シグナルの平均値及び標準偏差を表す。対照と比較して評価されたmRNAの統計的有意差を、*P<0.05として示す。
【0211】
図6において、3MOP配列の代替的な構成を使用した、肝臓細胞における実験の結果を示す。この場合に、3MOP配列は、miRNA122、miRNA192、及びmiRNA30aに完全に一致したmiRNA結合部位を含む。Hep3Bがん細胞における発現は、識別可能な発現が見られない図6(f)におけるマウスAML12肝細胞と比較した場合に、図6(c)で明らかに見られる。
【0212】
図7は、3MOP配列の別の代替的な構成の結果を示す。この場合に、3MOP配列は、Let7b、miRNA126、及びmiRNA30aに完全に一致しているmiRNA結合部位を含む。ここでも、Hep3Bがん細胞における発現は、識別可能な発現が見られない図7(f)におけるマウスAML12肝細胞と比較した場合に、図7(c)で明らかに見られる。
【0213】
図10は、図7の実験で使用したのと同じ3MOP配列(miRNAlet7b-miRNA126-miRNA30a)についての腎臓における組織及び器官特異的保護の結果を示す。mCherryの発現は、hRECヒト腎臓細胞においてほぼ完全に抑制される(図10(f))が、786-0腎腺がん細胞においては抑制されない(図10(c))。図11において、代替的な3MOP配列が試験される(miRNA122-miRNA192-miRNA30a)。図10及び11に関して試験されたMOPは両方とも、腎臓を保護するmiRNA30aについての完全一致結合配列を含むが、後者の3MOPは、腎臓保護の推定二重層を提供する完全一致miRNA-192結合部位を更に含む(上の表2を参照されたい)。図11において、mCherryの発現は、hRECヒト腎臓細胞では見られない(図11(f))が、786-0腎腺がん細胞においては明確に明らかである(図11(c))。
【0214】
図13は、図11の実験で使用したのと同じ3MOP配列(miRNA122-miRNA192-miRNA30a)についての結腸における組織及び器官特異的保護の結果を示す。mCherryの発現は、ヒト結腸上皮細胞において、ほぼ完全に抑制される(図13(c))が、HCT-116細胞においては抑制されない(図13(f))。図14において、代替的な3MOP配列が試験される(miRNAlet7b-miRNA126-miRNA30a)。図14に関して試験されたMOPは、結腸組織を広範囲に保護するLet7bについての完全一致結合配列を含む。図14において、mCherryの発現は、結腸上皮細胞において高度に減少し(図14(c))、HCT-116細胞においても高度に減少する(図14(f))。
【0215】
図15は、miRNAlet7b、miRNA126、及びmiRNA30aについての結合部位を含むMOP配列を使用した、肺における組織及び器官特異的保護の効果を示す。上述の他のアッセイと同様に、健康な非がん性ヒト肺疾患に最も近い近似を表す気管支上皮細胞株(BEAS-2B細胞株)を選択した。BEAS-2B細胞は、複製欠損SV40/アデノウイルス12ハイブリッドによる感染を介して不死化されるが、これは改善された取扱い及びクローニングを可能にするためである。この細胞をアッセイに使用して、正常に機能する肺上皮のモデルとして、扁平上皮細胞の分化を研究する。図15(c)において、MOP配列の存在によって、MOPが存在しない場合と比較して、mCherry発現の非常に高レベルな抑制が起こる。
【0216】
図7(f)、10(f)、14(c)及び15(c)に示される結果は、miRNAlet7b-miRNA126-miRNA30a MOP配列を含むことで、健康な肝臓、腎臓、結腸、及び肺において関連するORF発現からの効果的な保護を提供することを示す。図6(f)、11(f)、及び13(c)についての結果は、miRNA122-miRNA192-miRNA30a結合配列を含む代替的なMOPが、健康な肝臓、腎臓、及び結腸組織の効果的な保護を提供することを示す。
【0217】
この実施例は、複数の異なるmiRNA標的配列を含む器官保護配列が、複数の異なる器官に由来する細胞における差次的発現を引き起こすように作用することもでき、複数の組織において、正常細胞と腫瘍細胞との間で差別化することができることを示す。
【0218】
実施例5:OPS保護と共に、ウイルス侵入受容体ネクチンのORF選択
本発明は、腫瘍溶解性ウイルス、例えば、腫瘍溶解性HSV(oHSV)によって、がん細胞の感染性を改善するために、がん細胞の表面におけるウイルス侵入受容体の発現を増加させることを目的とする。例えば、HSVウイルス侵入受容体ネクチン-1をコードするmRNAを、異なる濃度でヒト又はマウスがん細胞株にトランスフェクトする。ネクチン-1発現を、細胞溶解物におけるウェスタンブロット分析によって測定する。次いで、ネクチン-1をコードするmRNAを、少なくとも3個の同様又は異なるmiRNA標的配列(例えば実施例4に開示されるもの)を含むように修飾し、肝臓;膵臓;脳及びCNS;腎臓;脾臓;食道、胃、腸、結腸、及び直腸を含む消化管;肺;皮膚並びに乳房からなる群から含まれる少なくとも1つの器官についてのがん細胞株及び対応する正常初代細胞において、差次的mRNA発現を評価する。がん細胞と比較して、非罹患細胞の表面でのネクチン-1タンパク質の発現の減少を、ウェスタンブロット分析によって評価する。代替的な定量化方法論を使用して、送達された構築物の発現を検証することができる。
【0219】
ネクチン1mRNA構築物
以下の実施形態について、ネクチン1タンパク質コード配列のアイソタイプ1を使用する。このmRNAの後に、それぞれ、肝臓、結腸、及び腎臓の保護を可能にする、完全一致MOP配列miR122-miR192-miR30a(122-192-30a)を含む3’UTRが続く。miRLet7b-miR126-miR30a(let-7b-126-30a)等の代替的なMOP配列、又はこれら若しくは他のmiRNA結合配列から含まれる異なる組み合わせも利用可能である。生成されたDNA配列から、Trilink Biotechnologies(San Diego,CA)によって構築物を合成する。これらのmRNAは、完全に処理され、キャップされ、ポリアデニル化されたmRNAと似ており、リボソームによる翻訳の準備ができている。対照として、同じ構築物を、MOP配列を用いずに合成する(例えば、任意のMOPのみを含まず、ネクチン1を発現するmRNA)。
【0220】
インビトロネクチン1トランスフェクション
ネクチン1が、腫瘍溶解性HSV(oHSV)の感染性を増加させるかどうかを研究するために、既知の低レベルのネクチン1発現のため、肝細胞を使用する。ネクチン1構築物のインビトロトランスフェクションのために、ヒト肝臓肝細胞がんHep3B細胞及び正常初代ヒト肝細胞を、3’UTR中に以下のMOP配列:miRNA-122、miRNA-192、及びmiRNA-30a結合配列を含むDMPCTx-mRNAネクチン1(ネクチン-MOP)でトランスフェクトした。ネクチン-MOP構築物のトランスフェクションによって、Hep3Bがん細胞において高い発現レベルのネクチンタンパク質をもたらす一方で、miRNA122結合配列保護に起因して、健康な肝細胞のレベルを低く維持している。
【0221】
mRNAのトランスフェクションは、以下のようにDMPCTx技術を使用することによって行われる:トランスフェクションの1日前に、細胞を、マイクロウェルプレートに60,000個の細胞/mLの密度で別個に播種する。翌日に、細胞を、PBS単独のビヒクル対照で、ネクチン1-122-192-30a(ネクチン-MOP)で、又はMOP配列を含まないネクチン1(ネクチン)のいずれかで、トランスフェクトする。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行う。
【0222】
免疫ブロット及び免疫蛍光によるネクチン1検出
ネクチン1翻訳を制御するために、免疫ブロットを以下のように行う。培養培地を除去し、細胞を冷PBSで洗浄し、細胞ペレットをプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含むRIPA(放射免疫沈降アッセイ)緩衝液(Boston Bioproducts)に溶解する。細胞画分を、細胞質可溶性タンパク質から単離された膜タンパク質に分離する。次いで、タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、エレクトロブロッティングによってPVDF(ポリ二フッ化ビニリデン)膜上に転写する。TBS-Tween 20(Boston Bioproducts)中の5%無脂肪乾燥乳でブロックした後、膜を一次抗ネクチン1又はb-アクチン(対照)抗体と共にインキュベートし、その後、二次抗体(例えば、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)コンジュゲート化抗体)と共にインキュベートする。次いで、それぞれ、Clarity(商標)Western ECL Substrate(Bio Rad)及びLI-COR(登録商標)システム(LI-COR)を使用して、タンパク質検出を行う。
【0223】
ネクチン1が細胞表面に十分に配置されることを制御するために、免疫蛍光を以下のように行う。トランスフェクトされた細胞を、カバースリップ(0.2%のゼラチンと共に30分間プレインキュベートしたもの)上で成長させ、PBS中ですすぎ、10mMのリボヌクレオシドバナジル複合体(VRC)(New England Biolabs)を補充した0.5%のCSK-Triton中、氷上で2分間プレ抽出した。次いで、細胞を、10mMのVRCを補充したCSK中で1回洗浄し、氷上で2分間インキュベートし、その後、PBS中の4%パラホルムアルデヒドによって、室温で10分間固定する。次いで、細胞をPBSで2回洗浄し、RNase阻害剤(Roche)を含有するPBS中の1%ウシ血清アルブミン中、室温で20分間ブロックする。1%ウシ血清アルブミン及びRNase阻害剤(Roche)を含有するPBS中、1/500でネクチン1に対して上昇した一次抗体(ab229464)と共に室温で1時間、インキュベーションを行う。細胞を、0.02%のTween-20を含有するPBS(PBS-T)中で3回洗浄する。蛍光コンジュゲート化ヤギ抗ウサギ二次抗体と共に室温で30分間インキュベートした後、細胞をPBS-T中で3回洗浄する。次いで、スライドを、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含むVectashieldの液滴で取り付ける。蛍光顕微鏡(Thermofisher製のEVOS FL Auto、又はBiotek製のCytation機器)を用い、撮像を行う。
【0224】
結果
DMPCTx-mRNAネクチン-MOP構築物トランスフェクションのトランスフェクションによって、Hep3Bがん細胞において発現を引き起こすが、一方、健康な肝細胞は、MOP配列に起因して、mRNA翻訳から保護される。MOP配列を含まないmRNA構築物のトランスフェクションは、配列保護が存在しないことに起因して、がん細胞及び正常肝臓細胞の両方において、ネクチン1タンパク質の高い発現を示す。免疫ブロットの結果は、両構築物によってトランスフェクトされたHep3B細胞からのタンパク質溶解物において、ネクチン1タンパク質に対応する、約57kDAのバンドを示す。一方で、このバンドは、MOP配列を含まないmRNAによってトランスフェクトされる健康な肝細胞にのみ存在する。免疫蛍光実験は、免疫ブロットで陽性であった細胞のみが、膜に適切に配置されたネクチン1を提示することを示す。
【0225】
タンパク質試料を、mRNAトランスフェクション後の時間間隔で調製し、細胞膜において、いつ高レベルのネクチン1が発現されるかを決定する。この情報は、oHSVによる感染の参照点として機能する。
【0226】
実施例6:ネクチン1が感染性を増加させるかどうかの評価(HSVによる共感染、インビトロ)
本発明は、がん細胞の腫瘍溶解性ウイルス感染性を増加させることを目的とする。ウイルス侵入受容体をコードするmRNAを、腫瘍溶解性ウイルスと組み合わせて、がん細胞にトランスフェクトする。細胞病原性効果の増加、ウイルス負荷の増加、がん細胞死の増加を評価する。例えば、HSVウイルス侵入受容体ネクチン-1をコードするmRNAを、少なくとも3個の同様又は異なるmiRNA標的配列を含むように修飾し、肝臓;膵臓;脳及びCNS;腎臓;脾臓;食道、胃、腸、結腸、及び直腸を含む消化管;肺;皮膚並びに乳房からなる群から含まれる少なくとも1つの器官についてのがん細胞株及び対応する正常細胞において、差次的mRNA発現を評価する。がん細胞及び対応する正常細胞を、修飾されたネクチン-1 mRNA構築物と共にトランスフェクトする。その後、腫瘍溶解性HSV(oHSV)を使用して細胞を感染させ、がん細胞及び正常細胞の両方について、細胞死の増加を評価する。
【0227】
oHSV感染の効率
oHSV(Us3Δ、UL39(ICP6)、LacZ)の腫瘍溶解性MG18L株をこれらの実験に使用して、健康な肝細胞及びHep3B細胞を感染させる。ウイルス感染の前に、細胞を、DMPCTxネクチン-MOP、又はMOP配列を含まないネクチン1でトランスフェクトするか、又はトランスフェクトしない。次いで、細胞を、oHSVの連続希釈液で感染させる。実施例5に述べられているように、miRLet7b-miR126-miR30a(let-7b-126-30a)等の代替的なMOP配列、又はこれら若しくは他のmiRNA結合配列から含まれる異なる組み合わせも利用可能である。
【0228】
ネクチン1は、上皮細胞内の接着接合部に限定されており、ウイルスに完全にアクセス可能ではない場合がある(Yoon and Spear,2002)。カルシウム枯渇は、細胞接合部を破壊し、細胞表面全体にわたるネクチン1の再分布を誘導し、HSVによって感染され得る細胞の画分を増強する(Yoon and Spear,2002)。この実施形態において、カルシウム枯渇は、限定されないが、カルシウムキレート化剤であるBAPTA-Na4分子による治療を含むことによって行われ得る。oHSVに感染したHep3B細胞に対するBAPTA-Na4治療及びネクチン-MOPの組み合わせ効果を行い、カルシウムキレート化時に感染性が増加するかどうかを評価する。oHSV感染の前に、BAPTA-Na4を細胞培地に添加する。
【0229】
感染後の異なる時点で、トランスフェクトされた細胞株の生存率を、供給業者(Cell Proliferation kit I,Sigma)の指示に従ってMTTアッセイによって測定する。96ウェルプレートを用い、550~600nmで吸光度を測定し、用量応答曲線及び50%有効用量値(ED50)を決定する。
【0230】
並行して、感染後の様々な時間間隔で、oHSVの複製も、限定されないが、糖タンパク質D(順方向プライマー:CCCCGCTGGAACTACTATGA[配列番号58]、及び逆方向プライマー:TCGGTGCTCCAGGATAAACT[配列番号59])をコードするUS6遺伝子を含む、oHSV遺伝子に対して相補的なプライマーを用いたリアルタイムPCRアッセイを使用することによっても評価する。ゲノムDNA及びウイルスDNAを、製造業者のプロトコルに従って、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen)を使用することによって、細胞から単離する。リアルタイムPCRを、QuantStudio 6 Flex Rel-Time PCR機器(Applied Biosystems)でのiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を使用して行う。相対的oHSV検出レベルを、ΔΔCt法に基づいて計算する。ヒトGapdh遺伝子(順方向プライマー:CCCACACACATGCACTTACC[配列番号60]、逆方向プライマー:CCCACCCCTTCTCTAAGTCC[配列番号61])等の内部対照を、シグナル正規化に使用する。
【0231】
MG18L株は、b-ガラクトシダーゼをコードするEscherichia coli LacZ遺伝子を含有するため、lacZアッセイは、感染のマーカーとして機能することができ、ウイルス粒子力価は、Vero細胞の単層を使用して終点希釈アッセイによって決定される。Hep3B細胞感染実験の後、ウイルス粒子は、上清中で回収される。10uLの連続希釈液を、Vero細胞と共に37℃で1~2時間インキュベートする。次いで、細胞を洗浄してウイルス接種物を除去し、プラークが発生するまで37℃で2~3日間インキュベートする。次いで、細胞を、2%パラホルムアルデヒド及び0.2%グルタルアルデヒドの溶液で固定する。プラークを、X-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)の0.1%溶液を使用して染色し、倒立顕微鏡を使用して計測する。
【0232】
結果
MOP配列を含まないDMPCTXネクチンでトランスフェクトされたHep3Bがん細胞及び正常肝細胞は、両方とも、細胞膜において高レベルのネクチン1を発現するはずであり、両方とも、細胞死を引き起こすoHSV MG18Lに対して非常に感受性であることが予想される。リアルタイムPCR及びウイルス終点希釈アッセイは、感染後のウイルス力価の増加を示し、このことは、両方の細胞型についてウイルス複製の増加を示している。ウイルス感染前にネクチン1 mRNAによってトランスフェクトされていない場合、両方の細胞型は、oHSV MG18L二対する相対的に弱い感受性を示すであろう。DMPCTXネクチン-MOPでトランスフェクトされた健康な肝細胞は、ネクチン1タンパク質が、MOP配列に結合することによってmRNAの翻訳を最終的に阻害する高レベルのmiRNA-122に起因して、これらの細胞において発現されないため、同様の結果を与えるであろう。ネクチン-MOPでトランスフェクトされたHep3Bがん細胞は、肝細胞がん腫におけるmiRNA-122のより低い発現から生じるネクチン1の高い発現に起因して、MG18L感染に対する高い感受性を示すであろう。
【0233】
実施例7:ネクチン1がインビボでHSVとの共感染の感染性を増加させるかどうかの評価
この実験は、健康な肝臓組織を温存しつつ、腫瘍においてネクチン-1を発現することによって、oHSV感染に対する感受性を、ヒト肝細胞がんにおいて増加させることができるかどうかを決定するための哺乳動物モデルを記載する。
【0234】
SCIDマウスにおけるHep3b細胞の皮下異種移植
雌CB17/Icr-Prkdcscid/IcrIcoCrl Fox Chase SCIDマウスを皮下異種移植に使用する。Hep3B細胞を、1:1のPBS:Matrigel(商標)に再懸濁させ、次いで、各マウスの右脇腹に注射する。観察及び触診により、腫瘍成長を週に2回モニタリングする。群間の十分かつ均質な腫瘍サイズは、治療臨床試験を行うための出発点として定義される。
【0235】
ネクチン1の腫瘍内注射及び翻訳されたネクチン1タンパク質の検出
DMPCTxネクチン-MOP、ネクチン、又は生理食塩水を、治療期間中に、BATPA-Na4と組み合わせて、又は組み合わせずに、マウスに複数回腫瘍内(IT)注射する。前の実施例5及び6に述べられているように、代替的なMOPを使用してもよい。異なる時点で、マウスを安楽死させ、腫瘍を集め、更なる分析のためにFFPEブロックに調製する。mRNA製剤の生体内分布を調査するために、脾臓、肺、及び腎臓等の肝臓及び他の非罹患器官も集め、FFPEブロックに調製する。次いで、免疫組織化学を実施し、組織におけるネクチン-1の発現を評価する。
【0236】
結果
DMPCTxネクチン-MOPのIT注射によって、Hep3B腫瘍において高レベルのネクチン1が発現し、その発現は、健康な肝臓において減少し、一方、非罹患器官におけるその発現は、減少する(例えば、肝臓、腎臓、肺、脾臓)。ネクチン1のそのような差次的発現は、mRNA構築物の3’UTR中のmiRNA結合部位の存在に起因して、腫瘍細胞及び非罹患組織において達成されるはずである。しかしながら、MOPを含まないDMPCTxネクチン中にこれらのmiRNA結合部位が存在しないことで、肝臓、肺、脾臓、及び腎臓等のネクチン1非罹患器官の発現を引き起こす。
【0237】
oHSV感染の効率
DMPCTxネクチン-MOP、ネクチン、又は生理食塩水治療の前、治療と同時、又は治療の後に、無作為に群分けされたマウスを、MG18L又はウイルス緩衝液の静脈内(IV)注射によって治療する。BAPTA-Na4又は生理食塩水緩衝液を、oHSV感染の前、同時、又は後に腫瘍内注射し、ウイルスの感染性に対するネクチン1及びBAPTA-Na4の組み合わせ効果を観察してもよい。腫瘍成長に対する組み合わせた治療効果を観察するために、腫瘍のサイズを、3日又は4日ごとにキャリパーによって測定する。感染後の異なる時点で、マウスの部分群を安楽死させる。腫瘍及び非罹患組織(例えば、肝臓、腎臓、肺、脾臓)を集め、免疫組織化学による分析のためにFFPEブロックに調製する。ウイルス局在化を、HSV糖タンパク質Dに対する抗体を使用し、その後、検出のために適切な蛍光コンジュゲート化二次抗体と共にインキュベートすることによって検出する。
【0238】
結果
DMPCTxネクチン-MOP又はネクチンでプレ治療されたHep3B腫瘍は、oHSV感染に対して、より感受性が高いと予想され、oHSV単独で治療された腫瘍と比較して、サイズが有意に小さく、より多い量の糖タンパク質Dを示すはずである。組み合わせたBAPTA-4Na-ネクチン1治療は、oHSVに対する腫瘍の感度を増強するはずである。oHSVの静脈内注射に起因して、健康な肝臓、腎臓、肺、及び脾臓等の非罹患組織は、DMPCTxネクチン-MOPで治療されたマウスにおいて、oHSV感染から保護される。異なるスケジュールのDMPCTx及びoHSV投与は、腫瘍細胞のoHSV感染を増加させるための最良の条件を決定することを可能にする(例えば、oHSV感染前のDMPCTxによる腫瘍の前治療、DMPCTx及びoHSVの同時投与、又はoHSV注射後のDMPCTxによる治療)。
【0239】
実施例8:MR1制限Tリンパ球細胞からのがん細胞溶解の増加を決定するために、がん細胞に送達される単形MHCクラスI関連タンパク質(MR1)発現をコードするmRNA
本発明は、がん細胞の表面でMR1を認識するMR1制限Tリンパ球細胞に連結した抗腫瘍効果の増加を目的とする。
【0240】
例えば、ORFとしてMR1をコードするmRNAを、少なくとも3個の同様又は異なるmiRNA標的配列を有するMOPを含むように、以前の実施例で記載したように修飾し、肝臓;膵臓;脳及びCNS;腎臓;脾臓;食道、胃、腸、結腸、及び直腸を含む消化管;肺;皮膚並びに乳房からなる群から含まれる少なくとも1つの器官についてのがん細胞株及び対応する正常初代細胞において、差次的mRNA発現を評価する。がん細胞及び対応する正常細胞を、修飾されたMR1 mRNA構築物と共にトランスフェクトする。その後、PBMC又はTリンパ球を使用して、MR1を優先的に発現するがん細胞を溶解する(例えば、Crowther et al Nature Immunology,volume 21,pages 178-185(2020)に記載されるように)。
【0241】
MR1 mRNA構築物
以下の実験では、ヒトMR1 mRNAのアイソタイプ1を使用する。このmRNAの後に、それぞれ肝臓、膵臓、及び腎臓の保護を可能にする、完全一致(MR1-MOP):miR122-miR375-miR30a(122-375-30a)を含む3’UTRが続く。代替的なMOP配列、又はこれら若しくは他のmiRNA結合配列から含まれる異なる組み合わせも利用され得る。生成されたDNA配列から、Trilink Biotechnologies(San Diego,CA)によって構築物を合成する。これらのmRNAは、完全に処理され、キャップされ、ポリアデニル化されたmRNAと似ており、リボソームによる翻訳の準備ができている。肝臓、脾臓及び腎臓の非保護のための陰性対照として、MOP配列を含まない同じ構築物を合成する(MR1)。
【0242】
インビトロMR1トランスフェクション
MR1が、肝臓及び膵臓といった器官で高度に発現されないようであるため、MR1が、がん細胞の表面でMR1を認識するMR1制限Tリンパ球細胞に関連した抗腫瘍効果を増加させるかどうかを研究するために、肝臓及び膵臓のがん細胞株を使用する(The Human Protein Atlas)。MR1構築物のインビトロトランスフェクションの場合、ヒト肝臓肝細胞がんHep3B(ATCC(登録商標)HB-8064(商標))、及びヒト膵臓腺がんBxPC-3細胞を、例えば、ATCC(CRL-1687(商標))から得る。
【0243】
正常ヒト肝細胞、及び正常ヒト膵臓管上皮H6c7細胞(Kerafast ECA001-FP)を陰性対照として使用し、MR1-MOP構築物の肝臓及び膵臓の保護を観察する。外因性MR1は、それぞれmRNA構築物の3’UTR中のmiR122及びmiR375結合配列の存在に起因して、健康な肝細胞及び膵臓細胞において翻訳されないであろう。
【0244】
mRNAのトランスフェクションは、以下のようにDMPCTx技術を使用することによって行われる。トランスフェクションの1日前に、細胞を、マイクロウェルプレートに別個に播種し、完全培地(EMEM/10%FBS)に成長させる。翌日に、細胞を、PBS(陰性対照)、DMPCTxMR1-MOP又はMR1のいずれかでトランスフェクトする。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行う。
【0245】
免疫ブロット及び免疫蛍光によるMR1検出
免疫ブロット及び免疫蛍光の両方の実験を、動態トランスフェクションの際に行う。
【0246】
MR1翻訳を制御するために、免疫ブロットを以下のように行う。培養培地を除去し、細胞を冷PBSで洗浄し、細胞ペレットをプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含むRIPA(放射免疫沈降アッセイ)緩衝液(Boston Bioproducts)に溶解する。細胞画分を、細胞質可溶性タンパク質から単離された膜タンパク質に分離する。次いで、タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、エレクトロブロッティングによってPVDF(ポリ二フッ化ビニリデン)膜上に転写する。TBS-Tween 20(Boston Bioproducts)中の5%無脂肪乾燥乳でブロックした後、膜を一次抗MR1又はb-アクチン(対照)抗体と共にインキュベートし、その後、二次抗体(例えば、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)コンジュゲート化抗体)と共にインキュベートする。次いで、それぞれClarity(商標)Western ECL Substrate(Bio Rad)及びLI-COR(登録商標)システム(LI-COR)を使用して、タンパク質検出を行う。
【0247】
MR1が細胞表面に十分に配置されることを制御するために、免疫蛍光を以下のように行う。細胞を、カバースリップ(0.2%のゼラチンと共に30分間プレインキュベートしたもの)上で成長させ、PBS中ですすぎ、10mMのリボヌクレオシドバナジル複合体(VRC)(New England Biolabs)を補充した0.5%のCSK-Triton中、氷上で2分間プレ抽出した。次いで、細胞を、10mMのVRCを補充したCSK中で1回洗浄し、氷上で2分間インキュベートし、その後、PBS中の4%パラホルムアルデヒドによって、室温で10分間固定する。次いで、細胞をPBSで2回洗浄し、RNase阻害剤(Roche)を含有するPBS中の1%ウシ血清アルブミン中、室温で20分間ブロックする。1%ウシ血清アルブミン及びRNase阻害剤(Roche)を含有するPBS中、1/100でMR1に対して上昇した一次抗体(ab229987)と共に室温で1時間、インキュベーションを行う。細胞を、0.02%のTween-20を含有するPBS(PBS-T)中で3回洗浄する。蛍光コンジュゲート化ヤギ抗ウサギ二次抗体と共に室温で30分間インキュベートした後、細胞をPBS-T中で3回洗浄する。次いで、スライドを、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含むVectashieldの液滴で取り付ける。蛍光顕微鏡(Thermofisher製のEVOS FL Auto、又はBiotek製のCytation機器)を用い、撮像を行う。
【0248】
結果
トランスフェクション後、MR1-MOP構築物は、がん細胞株でのみ翻訳されるはずであり、一方で、正常細胞は、MOP配列中のmiR122及びmiR375結合配列の存在に起因して、保護されるであろう。免疫ブロットの結果は、両方の構築物によってトランスフェクトされたがん細胞から、また、MR1によってトランスフェクトされる健康な細胞から、タンパク質溶解物においてMR1タンパク質に対応する約39kDAのより高いバンドを観察することを可能にする。MR1-MOP構築物によってトランスフェクトされた健康な細胞からのタンパク質溶解物、及びPBS単独のビヒクル対照でトランスフェクトされた全ての細胞株からのタンパク質溶解物は、MR1発現の減少を示すはずである。免疫蛍光実験は、翻訳されたMR1タンパク質が、膜に適切に配置されることを示す。この観察は、MR1が、MR1制限Tリンパ球細胞にアクセス可能であることを意味するであろう。その動態によって、トランスフェクション後に、T細胞によって誘導される細胞溶解の参照点として機能する、どの時間に表面においてMR1が最も高い存在量及び/又は位置を有するかを決定することを可能にする。
【0249】
MR1制限Tリンパ球細胞による細胞溶解の効率
MR1翻訳が、MR1制限Tリンパ球細胞によって細胞溶解を増加させるかどうかを研究するために、Sewell labからのMC.7.G5細胞を使用することによって、細胞傷害性アッセイを行う。MC.7.G5は、MR1を認識し、表面にMR1を提示するがん細胞を死滅させるT細胞クローンである(Crowther et al.,2020)。異なるMR1構築物(標的細胞)でトランスフェクトされたか、又はトランスフェクトされていないHep3B、BxPC-3、正常肝細胞、及びH6c7細胞を、mCiクロム(PerkinElmer、Waltham,MA)で標識し、FBSで洗浄し、FBS中に浸出させて、細胞から過剰なクロムを除去する。クロム標識の後、標的細胞を洗浄し、播種する。MC.7.G5細胞を、所望のMC.7.G5細胞対標的細胞比で、標的細胞に添加する。細胞を、IL-2及びIL-15を補充した標的細胞培地中で共培養した。標的細胞も、単独で、又は1%のTriton X-100洗剤と共にインキュベートし、それぞれ標的細胞から放出される自発的及び総クロムを得る。インキュベーション後、37℃及び5%CO2で、上清を採取し(全体積の10%)、96ウェルポリエチレンテレフタレートプレート(PerkinElmer)中、Optiphaseスーパーミックスシンチレーション混合物(PerkinElmer)と混合し、密封し、放出されたクロムの量を、1450 Microbetaカウンター(PerkinElmer)で間接的に測定する。MC.7.G5細胞による特異的標的細胞溶解の割合は、以下の式に従って計算する:(実験的放出[MC.7.G5細胞及び標的細胞を用いる]-標的細胞からの自発的放出)/(標的細胞からの全放出-標的細胞からの自発的放出)×100。
【0250】
結果
MC.7.G5細胞によって誘導される細胞溶解は、PBSで形質転換されたがん細胞(陰性対照)と比較して、MR1-MOP及びMR1 mRNA構築物で形質転換されたがん細胞株において増強される。MC.7.G5は、(i)健康な肝細胞及び膵臓細胞が、存在するmiRNA結合配列に起因して、MR1を翻訳しないという事実、及び(ii)MC.7.G5細胞が、健康な細胞を死滅させないという事実に起因して、健康な細胞に対して不活性なままである。
【0251】
実施例9:MR-1がインビボでHSVとの共感染の感染性を増加させるかどうかの評価
PBMCヒト化マウスにおけるHep3B及びBxPC-3細胞の皮下異種移植
腫瘍部位へのTリンパ球の動員を研究するために、ヒトTリンパ球による試験を可能にする、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)ヒト化マウスでインビボ実験を行う。PBMCを、免疫不全マウス、例えば、NSG(商標)/NOG(登録商標)及びBRGマウスに注射することによって、ヒト化マウスを開発する。
【0252】
Hep3B及びBxPC-3細胞を、1:1のPBS:Matrigel(商標)に再懸濁させ、次いで、各マウスの右脇腹に注射する。観察及び触診により、腫瘍成長を週に2回モニタリングする。群間の十分かつ均質な腫瘍サイズは、治療臨床試験を行うための出発点として定義される。
【0253】
MR1の腫瘍内注射及び翻訳されたMR1タンパク質の検出
製剤化されたDMPCTxMR1-MOP、MR1、又は生理食塩水を、治療期間中、マウスに複数回腫瘍内(IT)注射する。異なる動態点で、マウスを安楽死させ、腫瘍を集め、免疫組織化学分析のためにFFPEブロックに調製する。製剤の生体内分布及び器官保護を調査するために、非罹患肝臓、膵臓、及び腎臓も集め、FFPEブロックに調製する。免疫組織化学を、抗MR!一次抗体及びHRPコンジュゲート化二次抗体を使用して行う。
【0254】
結果
製剤化されたDMPCTxMR1-MOP又はMR1のIT注射は、両方とも、腫瘍細胞の表面でMR1の発現を引き起こすはずである。MOP配列中のmiRNA結合部位の存在に起因して、MR1-MOPがインビボで投与される場合、腫瘍細胞、並びに非罹患肝臓、膵臓、及び腎臓細胞において、MR1の差次的発現が達成される。しかしながら、MR1構築物中にMOP配列が存在しないことで、非罹患肝臓、膵臓、及び腎臓においてMR1検出の有意な増加を誘導する。
【0255】
腫瘍部位での腫瘍成長及びTリンパ球の動員
DMPCTxMR1-MOP、MR1、又は生理食塩水のIT注射の後、腫瘍成長に対する治療の効果を観察するために、腫瘍のサイズを、3日又は4日ごとにキャリパーによって測定する。
【0256】
注射後の異なる時点で、マウスを安楽死させ、腫瘍、肝臓、結腸、及び腎臓の半分を、単一の細胞内で解離させる。器官を小片に粉砕し、細胞を、Collagenase A(Sigma)及びDNAse(StemCell)と共に37℃でインキュベーションすることによって解離させる。単一の細胞を、Fixable Live/Dead Violet Dye VIVID、及び表面蛍光コンジュゲート化抗体である抗CD3(PerCP)クローンUCHT1(BioLegend)、抗CD8(FITC)クローンBW135/80(Miltenyi Biotec)で染色する。次いで、単一の染色した細胞を、サイトメトリーによって観察し、腫瘍部位でのT細胞の動員速度を決定する。
【0257】
並行して、腫瘍、肝臓、結腸、及び腎臓のもう一方の半分を集め、上述のプロトコルを使用して免疫組織化学分析のために、FFPEブロックに調製する。切断されたカスパーゼ-3(Cell Signaling Technology)、Ki67(Pierce)、並びにCD3(BioLegend)及びCD8(Miltenyi Biotec)に対する抗体を使用して、アポトーシスを観察し、それぞれ、増殖細胞の速度、及び限定されないが腫瘍部位にある非伝統的なMAIT細胞を含むT細胞の動員を決定する。
【0258】
結果
MR1-MOP又はMR1で治療された腫瘍の成長は、低下するはずであり、腫瘍のサイズは、MR1制限Tリンパ球細胞の動員によって誘導される細胞溶解に起因して、生理食塩水で治療される腫瘍よりも小さいことが予想される。更に、MR1-MOP又はMR1で治療された腫瘍は、生理食塩水で治療された腫瘍と比較して、より高いアポトーシスを示し(カスパーゼ-3染色)、より低い増殖速度の細胞を含み(Ki67染色)、腫瘍部位でのT細胞の動員は、増加するであろう。このことは、MR1制限Tリンパ球細胞の抗腫瘍効果を増加させるMR1の発現に起因する。肝臓、膵臓、及び腎臓は、MR1-MOPによって治療されたマウスにおいて保護され、一方で、これらの器官は、MOP配列を含まないMR1で治療されたマウスにおいて、より高いアポトーシスを示し(カスパーゼ-3染色)、より低い増殖速度の細胞を含み(Ki67染色)、より多いT細胞の動員を含む。
【0259】
実施例10:腫瘍溶解性ウイルス活性の増強のためのOPS保護と共に、I型インターフェロン受容体B18RのORF選択
本発明は、腫瘍細胞で使用される場合、ワクシニアウイルスを含むポックスウイルス等の腫瘍溶解性ウイルス療法の有効性を減少させることができるインターフェロン媒介性応答に関連する抗ウイルス効果を減少させることを目的とする。B18Rは、TLR活性化後に産生されるIFNアルファの有効性を制限し(Waibler,Z.Journal of Virology;February 2009,1563-1571)、適応T細胞応答を制限する(Gomez,C.E.et al.Journal of Virology;March 2012,5026-5038)。
【0260】
例えば、ORFとしてB18RをコードするmRNAを、少なくとも3個の同様又は異なるmiRNA標的配列を有するMOPを含むように、以前の実施例で記載したように修飾し、肝臓;膵臓;脳及びCNS;腎臓;脾臓;食道、胃、腸、結腸、及び直腸を含む消化管;肺;皮膚並びに乳房からなる群から含まれる少なくとも1つの器官についてのがん細胞株及び対応する正常初代細胞において、差次的mRNA発現を評価する。がん細胞及び対応する正常細胞を、修飾されたB18R mRNA構築物と共にトランスフェクトする。
【0261】
B18R mRNA構築物
以下の実施形態について、ワクシニアウイルス(Western Reserve株)B18R mRNAを使用する(GenBank Acc:YP233081)。このmRNAの後に、完全一致MOP配列miR122-miR192-miR30a(122-192-30a)を含む3’UTRが続く。生成されたDNA配列から、Trilink Biotechnologies(San Diego,CA)によって構築物を合成する。これらのmRNAは、完全に処理され、キャップされ、ポリアデニル化されたmRNAと似ており、リボソームによる翻訳の準備ができている。陰性対照として、同じ構築物を、MOP配列を含まずに合成する(B18R-w/o_MOP)。
【0262】
インビトロB18Rトランスフェクション
ヒト肝細胞が、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(oVV)感染に対して感受性であるため、B18Rが、同時投与された腫瘍溶解性ウイルスの持続性及び複製を補助し得るかどうかを研究するために、ヒト肝細胞を使用する。B18R構築物のインビトロトランスフェクションについて、ヒト肝臓肝細胞がんHep3Bを、ATCC(ATCC(商標登録)HB-8064(商標))から購入する。外因性B18Rが、miR-122結合配列保護に起因して、健康な肝細胞において翻訳されないため、正常ヒト肝細胞を使用して、肝臓保護を観察する。
【0263】
mRNAのトランスフェクションは、以下のようにDMPCTx技術を使用することによって行われる。トランスフェクションの1日前に、細胞を、マイクロウェルプレートに別個に播種する。翌日に、細胞を、PBS単独(陰性対照)、DMPCTxB18R-MOP又はB18Rのいずれかでトランスフェクトする。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行う。
【0264】
免疫ブロットによるB18R検出
トランスフェクション時の様々な時点で、以下のようにB18R翻訳を制御するために、免疫ブロットを実施する。培養培地を除去し、細胞を冷PBSで洗浄し、細胞ペレットをプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含むRIPA(放射免疫沈降アッセイ)緩衝液(Boston Bioproducts)に溶解する。細胞画分を、細胞質可溶性タンパク質から単離された膜タンパク質に分離する。次いで、タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、エレクトロブロッティングによってPVDF(ポリ二フッ化ビニリデン)膜上に転写する。TBS-Tween 20(Boston Bioproducts)中の5%無脂肪乾燥乳でブロックした後、膜を一次抗B18R又はb-アクチン(対照)抗体と共にインキュベートし、その後、二次抗体(例えば、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)コンジュゲート化抗体)と共にインキュベートする。次いで、それぞれClarity(商標)Western ECL Substrate(Bio Rad)及びLI-COR(登録商標)システム(LI-COR)を使用して、タンパク質検出を行う。
【0265】
結果
トランスフェクション後、B18R-MOP構築物は、Hep3Bがん細胞でのみ翻訳され、一方で、健康な肝細胞は、非罹患肝臓における高レベルのmiR-122に起因して、回避される。DMPCTxB18R構築物は、MOP配列が存在しないことに起因して、健康な細胞株及びがん細胞株の両方で高いタンパク質発現を引き起こす。免疫ブロットの結果は、両方の構築物によってトランスフェクトされたHep3B細胞から、タンパク質溶解物においてB18Rタンパク質に対応する約80kDAのバンドを観察することを可能にし、一方で、このバンドは、MOP配列を含まないDMPCTxB18Rによってトランスフェクトされる健康な肝細胞でのみ存在する。B18R-MOP構築物によってトランスフェクトされた健康な肝細胞からのタンパク質溶解物、及びPBS単独のビヒクル対照でトランスフェクトされた両細胞型からのタンパク質溶解物は、バンドを示さない。トランスフェクション後の異なる時点で試料を調製し、いつ最高量のB18Rタンパク質が発現されるかを決定する。
【0266】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルス感染の有効性
既に述べたように、B18Rは、インターフェロン抗ウイルス防御機構をブロックすることによって、腫瘍溶解性ウイルス(例えば、oVV)の抗腫瘍活性を改善する(Fu et al.,2012、Mol.Ther.Vol.20,Issue 10:1871-1881)。インビトロで、B18Rが、腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍細胞において外部から添加されたIFNの阻害効果に抵抗することを可能にすることが観察されている。Hep3B細胞において翻訳されたB18Rが、B18Rを欠くoVVの持続性及び複製を可能にするかどうかを決定するために、以下のようにインビトロでの感染を行う。Hep3B及び正常肝細胞を、DMPCTxB18R-MOP又はB18R mRNAでトランスフェクトするか、又はトランスフェクトしない。トランスフェクションの前に、同時に、又は後に、培地中のIFNが存在するか、又は存在しない状態で、Western株DJ2R、eGFP、DI4Lを使用することによって、B18Rを欠失したoVV(oVV_DB18R)又は欠失していないoVV(oVV_WT)のいずれかの連続希釈液で細胞を感染させる。
【0267】
感染後の異なる時点で、トランスフェクトされた細胞株の生存率を、供給業者(Cell Proliferation kit I,Sigma)の指示に従ってMTTアッセイによって測定する。96ウェルプレートを用い、550~600nmで吸光度を測定し、用量応答曲線及び50%有効用量値(ED50)を決定する。
【0268】
使用されるoVV Western株が、eGFP陽性であるため、ウイルスの複製に続いて、プレートリーダーで蛍光シグナルの定量化を行うことができる。
【0269】
結果
B18R-MOP又はB18R mRNA構築物でトランスフェクトされたHep3Bがん細胞は、両方とも高レベルのB18Rタンパク質を発現し、外部から添加されたIFNに対する耐性を誘導するはずである。したがって、トランスフェクトされた細胞は、oVV_DB18Rによって感染し、死滅する。IFN存在下でB18R mRNA構築物でトランスフェクトされた健康な肝細胞は、同様の結果を与える。しかしながら、B18R-MOP mRNA構築物によってトランスフェクトされた健康な肝細胞は、非罹患肝臓における多量のmiRNA-122の阻害及びmRNA構築物におけるMOP配列の存在に起因して、IFNの存在下でoVV_DB18Rに対する有意に低い感受性を示すであろう。
【0270】
全てのトランスフェクトされた細胞株は、IFN存在下及び不在下で、oVV_WTによる感染に対して感受性である。実際に、B18Rタンパク質は、ウイルス自体によって翻訳される。最後に、全てのトランスフェクトされた細胞株は、培地中のIFNの不在下で、oVV_DB18R又はoVV_WTのいずれかに対して感受性である。まとめると、これらの結果は、外因性のトランスフェクトされたB18Rが、治療増強因子として作用し、本製剤を用い、IFN存在下で腫瘍溶解性ウイルスの複製及び持続性を改善することを示す。
【0271】
実施例11:B18Rインビボ実験
PBMCヒト化マウスにおけるHep3B及びBxPC-3細胞の皮下異種移植
外因性B18Rが、oVVの持続性及び翻訳を誘導するインターフェロンアルファ膜貫通シグナル伝達をブロックするかどうかを決定するために、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)ヒト化マウスでインビボ実験を行う。PBMCを、免疫不全マウス、例えば、NSG(商標)/NOG(登録商標)及びBRGマウスに注射することによって、ヒト化マウスを開発する。
【0272】
Hep3B細胞を、1:1のPBS:Matrigel(商標)に再懸濁させ、次いで、各マウスの右脇腹に注射する。観察及び触診により、腫瘍成長を週に2回モニタリングする。群間の十分かつ均質な腫瘍サイズは、治療臨床試験を行うための出発点として定義される。
【0273】
B18Rの腫瘍内注射及び翻訳されたB18Rタンパク質の検出
製剤化されたDMPCTxB18R-MOP、B18R、又は生理食塩水を、治療期間中、マウスに腫瘍内(IT)注射する。様々な時点で、マウスを安楽死させ、腫瘍、並びに肝臓及び腎臓等の非罹患器官を集め、液体N中で急速凍結させる。各組織を、N中で粉砕し、濾過し、上述の免疫ブロットアッセイのために粉末をRIPA緩衝液に再懸濁させる。
【0274】
結果
DMPCTxB18R-MOP又はB18RのIT注射は、両方とも、腫瘍細胞においてB18Rの翻訳を誘導する。B18Rの差次的発現は、B18R-MOPを用いた腫瘍細胞と非罹患肝臓との間で達成される。しかしながら、B18R mRNA中にMOPが存在しないことで、健康な肝臓及び腎臓細胞において、高レベルのB18Rをもたらす。
【0275】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルス感染(oVV)の有効性
製剤化されたDMPCTxB18R-MOP、B18R、又は生理食塩水治療が腫瘍に行われる前に、同時に、又は後に、無作為に群分けされたマウスを、腫瘍溶解性ウイルス(Western株DJ2R、eGFP、DI4L)、又はウイルス緩衝液の静脈内注射によって治療する。腫瘍成長に対する組み合わせた治療効果を観察するために、腫瘍のサイズを、3日又は4日ごとにキャリパーによって測定する。治療後の様々な時点で、マウスを安楽死させる。次いで、腫瘍及び肝臓を集め、更なる免疫組織化学分析のためにFFPEブロックに調製する。IHCを、切断カスパーゼ-3(Cell Signaling Technology)に対する抗体を用いて行い、アポトーシス、Ki67(Pierce)を観察し、増殖性細胞の速度を決定し、その後、適切なHRPコンジュゲート化二次抗体と共にインキュベーションする。この実験で使用されるoVV株が、eGFP遺伝子座を保有するため、腫瘍部位内でのoVVの複製及び持続性は、抗GFP抗体によるIHCアッセイによって追跡することができる。
【0276】
結果
B18R-MOP又はB18Rでプレ治療された腫瘍は、oVV単独又はウイルス緩衝液で治療された腫瘍と比較して、oVV感染に対してより感受性であり、サイズが有意に小さく、より高いGFPシグナル(感染マーカー)及びアポトーシスを(カスパーゼ-3染色)を示し、より低い増殖速度の細胞を有する(Ki67染色)。肝臓は、MOP配列を含まないB18Rで治療されたマウスと比較して、B18R-MOPで治療されたマウスにおいて、oVV感染から保護され、その器官は、oVV感染に対して有意により感受性である。腫瘍が、oVV感染の前にB18Rでプレ治療される場合、B18R及びoVVが同時に同時投与される場合、又はB18RがoHSV注射の後に注射される場合よりも、腫瘍退縮に対するより良い効果を達成することが可能であろう。腫瘍内B18R注射が、腫瘍内の免疫系応答を低下させることによって、腫瘍をoVV感染にプライミングするため、B18Rでプレ治療されていない腫瘍と比較して、腫瘍においてより高いoVV複製速度及びoVVの持続性を観察する。
【0277】
実施例12:IL-12及びGM-CSF mRNAによるヒトPBMCのトランスフェクション
IL-12及び/又はGM-CSFは、治療用ウイルスとの組み合わせ等の抗腫瘍療法との組み合わせで、又はワクチン組成物と同時投与されるアジュバントとして利用され得る免疫調節性サイトカインである。この実験において、MOP配列を含むか、又は含まない、DMPCTxhGM-CSF(ヒトGM-CSF)及びhdcIL-12(二本鎖ヒトIL-12 p70)又はhscIL-12(一本鎖ヒトIL-12 p70)を、ある範囲の投薬量で、ヒトPBMCにインビトロで投与した。hscIL-12 p70及びhGMCSFのための非コードmRNAも、陰性対照(NC)として使用した。細胞内のタンパク質の発現は、投与されるmRNAの容量に関連することが示された。
【0278】
LNP免疫調節因子IL-12及びGM-CSFのインビトロでのトランスフェクション効率及び毒性
5名の異なるドナー(18~55歳)からのPBMC細胞を、AllCellsから入手し、5%のCO2雰囲気中、37℃で、AIM V培地(Gibco)中懸濁状態で培養した。丸底96ウェルプレート中、ウェル当たり300,000個のPBMC細胞を播種し、MOP配列を含むか、又は含まない、IL-12一本鎖若しくは二本鎖バリアント、又はGM-CSFのいずれかをコードするDMPCTx製剤化mRNAでトランスフェクトした(以下の表6を参照されたい)。PBMCが正常に機能していることを検証するための陽性対照を、100ng/mLの最終濃度で培地に添加されたLPS(ThermoFisher、00-4976)と共に300,000個のPBMC細胞を含有するウェルを用いて行った。PBMC細胞を含まず、LNPトランスフェクションも行わないウェル(BG-C)、150,000個のトランスフェクトされていないPBMC細胞のみを含むウェル(LC)、及び300,000個のトランスフェクトされていないPBMC細胞を含むウェル(HC)を用い、陰性対照を、並行して実施した。
【0279】
トランスフェクションから4時間後、ヒトAB熱不活性化血清(Sigma)を、最終濃度1%まで添加した。トランスフェクションから6時間後、各ウェルの上清60μLを、新しい96ウェルプレートに移し、遠心分離によって細胞を除去し、上清をMSDアッセイのために-80℃で凍結させた。トランスフェクションから21時間後、Tween-20を最終濃度1.1%でHCウェルに添加した。トランスフェクションから24時間後、各ウェルからの全ての上清を遠心分離によって集めた。MSDアッセイのために60μLの上清を-80℃で凍結させ、残りの130μLをLDHアッセイのために-80℃で凍結させた。
【0280】
ヒトサイトカインIL-12p70及びGM-CSF分析のMSDアッセイを、U-PLEXアッセイ(Meso Scale Discovery)を使用して、製造業者の指示に従って行った。データを、Graph Pad Prismを使用して棒グラフにプロットした。
【0281】
Roche製のCytotoxicity Detection KitPLUS(LDH)(4744926001)を使用して、製造業者の指示に従って、LDHアッセイを行った。
【0282】
結果
図12は、トランスフェクションから6時間後のMOP含有構築物からのヒトIL-12 p70及びGM-CSFの両方の検出可能なレベルを示す。mRNAにおけるMOPの存在は、肝臓、皮膚、筋肉及び腎臓組織におけるオフターゲット発現を最小限に抑える。LDHアッセイは、IL-12一本鎖若しくは二本鎖バリアント、又はGM-CSFのいずれかをコードするDMPCTxmRNAが、PBMCにおいて、陰性対照を超える有意な細胞傷害性を誘導しなかったことを示した。
【表6】

【0283】
実施例13:MOP配列を含むmRNAを発現するルシフェラーゼのDMPCTxのインビボ生体内分布
インビボでの特定のORFの差次的発現を示す本発明の可能性を調査するために、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)mRNAを、mRNA構築物の3’UTR中に3つのmiRNA標的配列の2つの異なる組み合わせを含むように、実施例4と同様に修飾した。第1のmRNA MOP配列は、Let7b、miRNA-126及びmiRNA-30aのための標的配列を含有する(第2群)。第2のmRNA MOP配列は、miRNA-122、miRNA-192、miRNA-30aのための標的配列を含有する(第3群)。全てのMOP構築物は、対応するmiRNAに対する完全一致標的配列を含有していた。構築物中にMOP配列を含まない対照FLuc mRNAも使用した(第1群)。
【0284】
製剤を上記のように作製し、以下の特徴を有していた。
【表7】

【0285】
動物。全ての実験を、全ての現地の規則及び規制に従って、Crown Biosciences,Nottingham UKで実施した。全てのマウスを、Charles Riverから入手した。
【0286】
非腫瘍生体内分布研究。7~9週齢の健康な雌balb/cマウスに、MOP配列を含むか、又は含まない、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)をコードする1mg/kgの製剤(DMPCTx-mRNA)を、ボーラス尾静脈注射によって注射した。投与前(0時間)、投与から3.5時間後及び24時間後に、全身画像を採取し、ルシフェラーゼシグナルの量を、Living Image Software(Caliper LS、US)を使用して定量化した。撮像の15分前に、マウスに150mg/kgのd-ルシフェリンを(皮下)注射し、次いで、10分後に麻酔し、発光検出のために撮像チャンバーに配置した(腹側及び背側の図)。24時間の時点で、肝臓、腎臓、脾臓、及び肺を除去し、エクスビボで撮像した。
【0287】
腫瘍生体内分布研究。8~10週齢のFox Chase SCIDマウスの左脇腹に、ヒト肝臓がん細胞(Hep3B細胞)(2×10個の細胞)を皮下移植した。マウスを、およそ約100mmの腫瘍サイズを選択して、腫瘍負荷のキャリパー測定値に基づいて、試験群に分類した。次いで、MOP配列を含むか、又は含まないかのいずれかのホタルルシフェラーゼ(FLuc)をコードする製剤(DMPCTx-mRNA)を、1mg/kgの用量で腫瘍内に注射した。投与前(0時間)、投与から3.5時間後及び24時間後に、全身画像を採取し、ルシフェラーゼシグナルの量を、Living Image Software(Caliper LS、US)を使用して定量化した。撮像の15分前に、マウスに150mg/kgのd-ルシフェリンを(皮下)注射し、次いで、10分後に麻酔し、発光検出のために撮像チャンバーに配置した(腹側及び背側の図)。24時間の時点で、腫瘍、肝臓、腎臓、脾臓、及び肺を除去し、エクスビボで撮像した。
【0288】
結果
図16(a)は、トランスフェクションから3.5時間後に、MOP含有構築物(第2群及び第3群)、並びにMOP構築物を含まない対照群(第1群)を含む、全身撮像によって全ての群において高レベルのルシフェラーゼ発現を見ることができることを示す。しかしながら、2つのMOP含有構築物では、タンパク質発現が1~2桁少ない。この傾向は、24時間後にも残っており、全ての群において、全体的なタンパク質発現がわずかに少ない。
【0289】
MOPの存在は、肝臓、肺、脾臓、及び腎臓の組織におけるオフターゲット発現をインビボで最小限に抑えるのに驚くほど有効である。図16(b)において、器官のエクスビボ撮像は、第1群(MOPなし対照)と比較して、第2群及び第3群(MOP含有構築物)におけるマウスの肝臓(miR-122)、肺(let7b、miR-126、miR30a)、脾臓(Let7b、miR-126)、及び腎臓(miR-192、miR-30a)におけるルシフェラーゼ発現の低下を示し、両方のMOP構築物が、ORFの発現からの価値のある多器官保護を提供することを確認する。
【0290】
健康な組織におけるオフターゲット効果を最小限に抑えることが重要であるが、タンパク質発現が依然として腫瘍等の標的組織で生じることを確実にすることもまた重要である。表8は、Hep3B肝臓腫瘍が存在したとき、3つ全ての群についてタンパク質発現が同じ大きさの桁数で維持されたことを示す。加えて、健常な肝臓におけるルシフェラーゼの発現は、腫瘍を保有しないインビボ研究で見られたように、いずれかのMOPが存在するとき、大きさが2~3桁低下する。
【表8】

【0291】
本発明の特定の実施形態を本明細書において詳細に開示してきたが、これは例として、かつ例示のみ目的のために行われたものである。前述の実施形態は、以下に続く添付の特許請求の範囲の範疇を制限することを意図するものではない。本発明者らは、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な置換、変更、及び修正が行われてもよいことが企図される。本発明の実施形態による構築物及びベクターに含まれている任意の非ヒト核酸及び/又はポリペプチド配列は、英国、米国、及び欧州連合内の供給源から入手されている。本発明者の知る限りでは、アクセス及び利益共有契約の対象となり得る遺伝資源、又は関連する伝統的な知識は、本発明の作成に利用されていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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