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  • 特許-ポリエステルを含む物質の再資源化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ポリエステルを含む物質の再資源化方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/24 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
C08J11/24 ZAB
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023108237
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2023-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391056066
【氏名又は名称】ロックペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】江田 靖
(72)【発明者】
【氏名】中村 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】向井 智哉
(72)【発明者】
【氏名】白井 佑
(72)【発明者】
【氏名】光安 勇人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚記
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】恒川 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】高野橋 義則
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-533395(JP,A)
【文献】特表2023-506948(JP,A)
【文献】Kurokawa et al.,Methanolysis of polyethylene terephthalate in the presence of aluminium triisopropoxide catalyst to,Polymer Degradation and Stability,2003年,79,529-533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-28
C07C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含む物質(a)を触媒(b)とアルコール(c)存在下、溶媒(d)中でアルコリシスさせる工程(A)と、
前記工程(A)で得られたアルコリシス生成物を分離する工程(B)と、
前記アルコリシス生成物以外の物質を分離する工程(C)とを備えた、
ポリエステルを含む物質(a)の再資源化方法において、
触媒(b)は、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムtert-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピラゾール、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、N-メチルベンゾイミダゾール、トリアゾール類、ベンゾトリアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、トリアジン類、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、1,8 -アザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)及び1,3-ジメシチルイミダゾル-2-イリデンからなる群から選択された少なくとも1種であり、
溶媒(d)がトルエンを含むものであり、
アルコール(c)/溶媒(d)=1/12.9~1/45.9の重量比であり、
該アルコリシスが20℃以上100℃未満で進行することを特徴とするポリエステルを含む物質(a)の再資源化方法。
【請求項2】
アルコール(c)が炭素数1~8の一価のアルコールであり、
ポリエステルを含む物質(a)中のポリエステル成分100重量部に対して、アルコール(c)の添加量が10~112.5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の再資源化方法。
【請求項3】
アルコール(c)がメタノールであることを特徴とする請求項に記載の再資源化方法。
【請求項4】
溶媒(d)が前記アルコリシスの反応系中で前記アルコリシス生成物と反応しないものであることを特徴とする請求項1に記載の再資源化方法。
【請求項5】
ポリエステルを含む物質(a)は、複数のフィルムが接着剤によって積層されたラミネートフィルムであり、
前記複数のフィルムの少なくとも1種は、PETフィルム又はナイロンフィルムであり、
前記接着剤は、ポリエステル系接着剤とポリエーテル系接着剤との少なくとも1種であり、
触媒(b)は、ナトリウムメトキシドであり、
溶媒(d)は、トルエンであることを特徴とする請求項1記載の再資源化方法。
【請求項6】
ポリエステルを含む物質(a)を格納する槽(X)とポリエステルの前記アルコリシス生成物を分離する槽及び/又は経路(Y)とを有する装置を利用することを特徴とする請求項1~の何れかに記載の再資源化方法。
【請求項7】
ポリエステルを含む物質(a)がポリエチレンテレフタレートを含み、
アルコール(c)がメタノールであり、
溶媒(d)がトルエンであることを特徴とする請求項1に記載の再資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルを含む物質の再資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは安価で耐久性に優れた材料である。特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、その利便性により繊維、フィルム、ボトルなど幅広い分野に応用され、過去数十年で急激に生産・消費されてきた。一方、耐久性に優れる反面、容易に分解されにくいことから、世界中の埋め立て地を埋め尽くし、マイクロプラスチックによる海洋汚染問題などの地球環境破壊という社会課題が露見している。
このような背景から、PETをはじめとするプラスチックごみのリサイクル技術の開発が望まれている。日本では欧米と比較して、焼却処理した際に発生する熱エネルギーを活用するサーマルリサイクルの割合が高いが、二酸化炭素の排出による地球温暖化への懸念がある。そこで、ポリエステル廃棄物のケミカルリサイクル、すなわち、ポリエステル廃棄物を化学的にモノマーに変換・回収し、このモノマーを再利用する方法について多くの研究がなされている。
【0003】
特許文献1には、超臨界アルコールを用いて、PET等の芳香族ポリエステルからそのモノマー成分である芳香族二価カルボン酸ジメチルと二価アルコールを連続処理で製造する方法が示されている。しかし、300℃以上の高温を必要とする。
特許文献2には、ポリエステルをアルキレングリコールによって解重合反応を行い、次いでメタノールとのエステル交換をおこなうことでテレフタル酸ジメチルを製造する方法が示されている。しかし、アルキレングリコールを150℃以上で留去する必要がある。
特許文献3には、ポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)を主成分とするプラスチック層とアルミニウム層を含む多層フィルムの再生方法が開示されている。この発明では、多層フィルム廃棄物のアルミニウムを選択的に溶解させて層分離を誘導し、比重差を用いてPPとPEとの混合物層とPET層に分離する。また、比重差により分離されたPETの純度を高めるために、有機溶媒を用いて、PET層に含まれたPPとPEを抽出することにより、多層フィルムの主構成成分をPET、PPとPEとの混合物、およびアルミニウム成分にそれぞれ分離する。しかし、アルミニウムを溶解させるので、再資源化するためにエネルギーを要する。
特許文献4には、塩基触媒と1価アルコールとグリコール捕捉剤としての炭酸ジエステルまたはテトラアルコキシシランと含むポリエステル解重合用の触媒組成物および当該触媒組成物を用いたポリエステル解重合方法が示されている。しかし、PETの構成成分であるエチレングリコールが安定的に捕捉されることにより、再びPET原料として使用するには、生成される炭酸エチレンをエチレングリコールに分解させる必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-039908号公報
【文献】特開2012-131729号公報
【文献】特開2006-205160号公報
【文献】特開2022-126617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を克服するためになされたもので、ポリエステルを含む物質を新たな手段によって再資源化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリエステルを含む物質を触媒とアルコール存在下、溶媒中でアルコリシスさせる工程と、前記工程で得られたアルコリシス生成物を分離する工程を含む、ポリエステルを含む物質の再資源化方法を見いだした。より具体的には、ポリエステルを含む物質を格納する槽とポリエステルのアルコリシス生成物を分離する槽及び/又は経路とを有する装置を用いることを特徴とする、前記ポリエステルを含む物質の再資源化方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
ポリエステルを含む物質(a)としては、後述するようにポリエステル樹脂製品であっても構わないし、ポリエステル成分が含まれているものであっても構わないし、さらに複数のフィルムが積層された積層体の形態をとるものであっても構わない。
本発明は、後述するように様々なポリエステルに適用することができるものであり特に制限されないが、一例だけを示せば、ポリエチレンテレフタレートを示すことができる。
触媒(b)としては、後述するように様々な金属塩や含窒素有機塩基化合物を用いることができるもので特に制限されないが、例えばアルカリ金属アルコキシド及び含窒素有機塩基化合物からなる群から選択された少なくとも1種を選択して実施することができる。より具体的には、ナトリウムメトキシド及び/又は1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンを一例として示すことができる。
アルコール(c)についても後述するように様々なものを少なくとも1種を選択することができ、特に制限はないが、炭素数1~8の一価のアルコールであることが好ましく、単なる一具体例としてメタノールを示すことができる。
溶媒(d)についても後述するように特に制限されるものではないが、再資源化の観点から反応系中でアルコリシス生成物と反応するものを除外する。
例えば前記アルコリシスの反応系中でアルコリシス生成物と反応しないものの群から少なくとも何れか1種を選択することができるが、一具体例としてトルエンを示すことができる。
【0008】
また本発明は、ポリエステルを含む物質(a)を触媒(b)とアルコール(c)存在下、溶媒(d)中でアルコリシスさせる工程(A)を行い、工程(A)で得られたアルコリシス生成物を分離する工程(B)に加えて、工程(A)で得られた前記アルコリシス生成物以外の物質を分離する工程(C)を付加した再資源化方法として実施することもできる。
【0009】
本発明は、ポリエステルを含む物質の再資源化について、新たな手段を提供することができたものである。
また、本発明を実施することによって、ポリエステルを含む物質を焼却処分等することなく、再資源化を図ることができるものであり、二酸化炭素の排出量削減にも貢献することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を実施するための装置の構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるポリエステルを含む物質(a)をアルコリシスによって再資源化する方法は、触媒(b)とアルコール(c)とを含み、溶媒(d)中でおこなわれる。これらの成分の配合比率は、アルコリシスが良好に進行する範囲で適宜変更して実施することができる。
以下、本発明に用いられる各成分について詳細に説明する。なお、以下の説明において例示する原料は本発明の構成を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更を加えてもよい。
【0012】
ポリエステルを含む物質(a)
本発明のポリエステルを含む物質(a)には、1つの態様として、ポリエステル樹脂製品を包含する。代表的なポリエステル樹脂製品としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(A-PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(G-PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアリレート(PAR)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンアジペート(PEA)などが挙げられる。これらのポリエステル樹脂製品は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明のポリエステルを含む物質(a)には、別の態様として、ポリエステル成分が含まれているものであってもよく、食品用トレー、繊維、接着剤、粘着剤、インキ、塗膜などを包含する。例えば、混紡繊維のように、物理的にポリエステル成分と綿、アクリル、レーヨンなどのその他の成分が混合されたものでもよく、染料や顔料等が混合されたものでもよい。また、成分の一部が化学的に変性されたものであってもよい。ラミネート用ポリエステル系接着剤について例示すると、ポリエステルポリウレタン、ポリエステルポリエーテル、ポリエステルポリエーテルポリウレタンなどを用いることができる。
【0014】
本発明のポリエステルを含む物質(a)には、さらに別の態様として、複数のフィルムが積層された積層体も包含する。使用できるフィルムに特に制限はないが、PETなどのポリエステルフィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)などのオレフィンフィルム;アルミ箔等の金属フィルム;ナイロンフィルム;ポリビニルアルコール(PVA)フィルム;セルロースフィルム;アクリルフィルム;ポリフェニルサルフィド(PPS)フィルム;ポリイミド(PI)フィルム;塩ビ系フィルム;PTFEなどのフッ素樹脂系フィルム;紙製フィルムなどを用いることができる。これらは蒸着層が形成されたフィルムでもよい。また、着色されたフィルムでもよい。
本発明のポリエステルを含む物質(a)がポリエステルフィルムを含む積層体の場合、ポリエステルフィルムがアルコリシスされることで他の積層フィルムと分離されるため、再資源化を図ることができる。また、ポリエステルフィルムを含まない積層体であっても、ポリエステル系接着剤によって貼り合わせられている積層体であれば、接着剤成分がアルコリシスされることで接着剤によって貼り合わせられていたフィルムが分離されるため、再資源化を図ることができる。
【0015】
ポリエステルを含む物質(a)は、前記態様に応じて、様々な形態をとることができる。例えば、塊、繊維、フィルム、ペレットなどの固体状態で用いることができる。また、液体状態で用いることもできる。
【0016】
触媒(b)
本発明の触媒(b)としては、金属塩や含窒素有機塩基化合物を用いることができる。
【0017】
金属塩としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、脂肪酸塩、アルコキシド;アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、脂肪酸塩、アルコキシド、酸化物;遷移金属の水酸化物、炭酸塩、脂肪酸塩、アルコキシドを用いることができる。特に、アルカリ金属アルコキシドを用いることが望ましい。これらの触媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
アルカリ金属アルコキシドとしては、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムtert-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシドが例示される。これらの中では特に、ナトリウムメトキシドを用いることが好ましい。
【0019】
含窒素有機塩基化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピラゾール、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、N-メチルベンゾイミダゾール、トリアゾール類、ベンゾトリアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、トリアジン類、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、1,8 -アザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,3-ジメシチルイミダゾル-2-イリデン。これらの中では特に、TBDを用いることが好ましい。
【0020】
ポリエステルを含む物質(a)中のポリエステル成分100重量部に対して、触媒(b)の添加量は0.1重量部以上200重量部以下であることが好ましい。より好ましくは1重量部以上100重量部以下である。さらに好ましくは3重量部以上80重量部以下である。
触媒(b)の添加量はアルコリシスが進行する範囲で調整するとよい。多い場合には、コストが増加するだけでなく、アルコリシス生成物の精製に手間がかかりやすくなる。また、少ない場合には、触媒の失活によりアルコリシスが十分に進まないおそれがある。
【0021】
アルコール(c)
本発明のアルコール(c)としては、特に制限はないが、炭素数1~8の一価のアルコールであることが好ましい。
【0022】
一価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、2-エチルヘキサノール、ベンジルアルコールが例示される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、1級アルコールであることが好ましく、特にメタノールであることが好ましい。
【0023】
ポリエステルを含む物質(a)中のポリエステル成分100重量部に対して、アルコール(c)の添加量は10重量部以上1000重量部以下であることが好ましい。より好ましくは20重量部以上800重量部以下である。さらに好ましくは30重量部以上600重量部以下である。
アルコール(c)の添加量はアルコリシスが進行する範囲で調整するとよい。多い場合には、コストが増加する。また、少ない場合には、アルコリシスが十分に進行しない。なお、少ない場合は、さらにアルコール(c)を追加することでアルコリシスは再び進行する。
【0024】
溶媒(d)
本発明の溶媒(d)は、アルコリシスの反応系中でアルコリシス生成物と反応するものを除外する。
例えば、ポリエチレンテレフタレートのアルコリシスにおいて、炭酸ジメチルを溶媒として選択すると、ポリエチレンテレフタレートのアルコリシスによって生成するエチレングリコールと炭酸ジメチルが反応し、炭酸エチレンへと変化するため、再資源化の観点で溶媒として好適ではない。また、溶媒の再利用を考えた場合に、沸点が高すぎると蒸留操作で熱エネルギーを多く必要とするため、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
このような溶媒としては、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、n-ヘキサン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチルを用いることができる。これらはアルコリシスを阻害しなければ適宜選択することができ、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明に含まれる溶媒(d)の比率は、ポリエステルを含む物質(a)の重量や形状に応じて適宜調整することができる。多い場合には、反応装置が大型化となり、結果としてポリエステルを含む物質(a)の処理能力が下がることとなる。また、少ない場合には、触媒(b)、アルコール(c)とポリエステルを含む物質(a)との接触が悪くなり、アルコリシスが進行しにくくなる。
【0026】
その他の成分(e)
上記(a)~(d)に加え、その他の成分として、乾燥剤やアルコリシスに関与しない物質が含まれていてもよい。これらは本発明の構成を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜加えてもよい。
【0027】
乾燥剤
乾燥剤には、物理的乾燥剤と化学的乾燥剤がある。これらの乾燥剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
物理的乾燥剤には、乾燥剤内部のマトリックス構造によって水分及び/又は湿気の移動経路が増大することを利用したものや、乾燥剤との水分及び/又は湿気の吸着等の物理的相互作用を利用したものがある。具体的には、シリカゲル、モレキュラーシーブ、ゼオライト、活性炭等が挙げられる。
【0029】
化学的乾燥剤には、化学的に反応することで水分及び/又は湿気を吸着することを利用したものがある。具体的には、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物;硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の金属塩;五酸化二燐;ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物;オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルトエステル化合物等が挙げられる。ただし、アルコリシス生成物と反応するものは、再資源化の観点から除外する。
【0030】
アルコリシスに関与しない物質
本発明において、アルコリシスに関与しない物質が含まれていてもよい。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)などのオレフィンフィルム;アルミ箔等の金属フィルム;ナイロンフィルム;PTFEなどのフッ素樹脂系フィルムなどが挙げられる。これらのフィルムは、蒸着層が形成されたフィルムでもよい。また、着色されたフィルムでもよい。
さらに、紙、ポリスチレン(PS)シート、食塩等も挙げられる。
【0031】
本発明中のアルコリシスは、20℃以上100℃未満、好ましくは30以上90℃未満、さらに好ましくは40以上80℃未満で進行することが好ましい。20℃未満であると触媒活性が十分ではない。また、100℃以上でもアルコリシスは進行するが、エネルギーコストの観点から好ましくない。
【0032】
本発明のアルコリシスは、常圧又は減圧下で行うことができるが、加圧下で行ってもよい。
反応時間は、ポリエステルを含む物質(a)がアルコリシスするまでの時間とすればよく、例えば0.5~24時間とすることができる。アルコリシスを完全に進行させずに、途中段階で生成物の分離工程に移行してもよい。
【0033】
工程(A)
本発明におけるポリエステルを含む物質(a)を触媒(b)とアルコール(c)存在下、溶媒(d)中でアルコリシスさせる工程(A)について、以下、PETフィルムを含む複数の異種フィルムの積層体を例にとって詳細に説明する。
ポリエステルを含む積層体(a)、触媒(b)、アルコール(c)、溶媒(d)を反応容器に入れ、撹拌しながら加熱する。このとき、アルコリシスによって、テレフタル酸誘導体、エチレングリコール(以下、これらを「アルコリシス生成物」と定義する)が得られる。一方、反応容器中にはアルコリシスせずに残ったPET残渣、触媒残渣、PET以外のフィルム(以下、これらを「アルコリシス生成物以外の物質」と定義する)も存在する。
【0034】
工程(B)
前記工程(A)で得られたアルコリシス生成物を分離する工程(B)について、説明する。
前記工程(A)で得られたアルコリシス生成物が固体状態の場合は、通常のろ過又は熱時ろ過によって分離することができる。ろ過操作に用いられるフィルターは特に限定されず、対象に応じてサイズや素材を適宜選択することができる。
前記工程(A)で得られたアルコリシス生成物が液体状態の場合は、ろ過操作によって分離することができない。よって、例えば、濃縮して再結晶する方法や、抽出する方法によって分離することができるが、これらの方法に限定するものではない。
【0035】
工程(C)
前記工程(B)に加えて、アルコリシス生成物以外の物質を分離する工程を含めても良い。
既知の技術を用いて、前記工程(B)同様に、分離操作をおこなうことができる。
【0036】
装置の実施の形態
次に図1を参照して、槽1(X)と槽2及び/又は経路10(Y)とを有する装置の一実施の形態について説明するが、装置については様々な形態のものを採用して実施することができる。
【0037】
任意の固体を通過させないフィルター等で囲まれた槽1(X)にポリエステルを含む物質(a)、槽2及び/又は経路10(Y)に触媒(b)とアルコール(c)、溶媒(d)を入れ、(a)~(d)が接触するように混合する。ここで、槽1中のポリエステルを含む物質(a)は槽1の周囲にあるフィルターを通過できないが、アルコリシスが進行すると、反応溶液に溶解したアルコリシス生成物のみが槽1を通過できるような構造となる。槽2には必要に応じてヒーター4を配置して反応温度の調整を行うようにしても構わない。
【0038】
混合方法としては、磁器回転子による撹拌、撹拌翼による機械撹拌、循環による混合などを挙げることができる。図1の例では、モーター3に接続された回転軸先端の撹拌翼5による撹拌の例を示した。槽2中の液及び槽2に接続された経路10中の液は、経路途中に配置されたポンプ9によって循環するもので、この例では経路10中に、流量調整用のバルブ6と、圧力計7及びろ過装置8が並列に配置されている。
槽1(X)、槽2及び/又は経路10(Y)等の再資源化に用いる装置の素材は、再資源化を阻害しなければ、適宜選択可能である。
【0039】
アルコリシスの進行は、アルコリシス率Aを下記式(1)に基づいて評価することができる。
アルコリシス率A[%]=(1-アルコリシス後の(a)の重量/アルコリシス前の(a)の重量)×100・・・(式1)
【0040】
次に示す実施例では、下記の基準によってその評価結果を示した。
アルコリシス率Aが90%以上:◎
アルコリシス率Aが60%以上90%未満:〇
アルコリシス率Aが30%以上60%未満:△
アルコリシス率Aが30%未満:×
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0042】
以下に示す実施例では、特に説明がない限り以下の試薬を用いた。
ポリエステルを含む物質(a)
・PETペレット(市販品)
・ポリエステルポリウレタンラミネート接着剤(ロックペイント(株)製、アドロックRU-77/H-7)、以下「ポリエステル系接着剤」と略記
・ポリエーテルポリウレタンラミネート接着剤(ロックペイント(株)製、アドロックRN-230/HN-230)、以下「ポリエーテル系接着剤」と略記
触媒(b)
・ナトリウムメトキシド(富士フィルム和光純薬(株)製、和光一級グレード)
・1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(東京化成工業(株)製)
アルコール(c)
・メタノール(富士フィルム和光純薬(株)製、超脱水グレード)
溶媒(d)
・トルエン(関東化学(株)製、特級グレード)
フィルム
・PETフィルム(東洋紡(株)製、東洋紡エステルフィルムE5102)
・OPPフィルム(東洋紡(株)製、パイレンフィルム-OT P2241)
・CPPフィルム(東洋紡(株)製、パイレンフィルム-CT P1146)
・ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製、エンブレムONBC-RT)
・アルミ箔(東洋アルミニウム(株)製)
フィルター
・目開き 0.5mm ステンレス製
【0043】
[実施例1]
PETペレット(6重量部)を入れた反応容器に、ナトリウムメトキシド(1重量部)、メタノール(2重量部)を加えた。合計が100重量部になるようにトルエンを加えて、65℃条件で2時間撹拌した。
反応終了後、反応溶液をフィルターでろ過し、ろ過残渣を水で洗浄した。ろ過残渣として未反応のPETペレットは得られなかった。アルコリシス率は100%であった。
【0044】
[実施例2]
実施例1の条件において、ナトリウムメトキシドを0.3重量部に減量して、同様に実施した。アルコリシス率は100%であった。
【0045】
[実施例3]
実施例1の条件において、ナトリウムメトキシドを4重量部に増量して、同様に実施した。アルコリシス率は100%であった。
【0046】
[実施例4]
実施例1の条件において、メタノールを40重量部に増量して、同様に実施した。アルコリシス率は84.1%であった。
【0047】
[実施例5]
実施例1の条件において、PETペレットを白PETフィルム(東洋紡(株)製、東洋紡エステルフィルムE-5102に白インキが印刷されたもの)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は95.9%であった。
【0048】
[実施例6]
実施例1の条件において、PETペレットをアルミナ透明蒸着PETフィルム(東レフィルム加工(株)製、バリアロックス1011SBR2)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は100%であった。
【0049】
[実施例7]
実施例1の条件において、PETペレットをポリエステル繊維((株)フジックス製、キング ハイ・スパン ボタンつけ糸)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は90.0%であった。
【0050】
[実施例8]
実施例1の条件において、PETペレットを脂肪族系ポリエステル樹脂(ロックペイント(株)製、アドロックRU-10)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は100%であった。
なお、ここで用いたポリエステル樹脂は反応溶液に溶解し、ろ過による単離ができないので、反応終了後、反応溶液をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により単離・定性し、アルコリシスされていないポリエステル樹脂が認められないことを確認した。
【0051】
[実施例9]
実施例1の条件において、PETペレットをエポキシ樹脂(三菱ケミカルグループ(株)製、jER1055K、35重量部)とポリエステル樹脂(ダイセル-オルネクス(株)製、CRYLCOAT1713、65重量部)を粉砕混合し、160℃で20分間熱架橋させた樹脂に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は45.8%であった。
【0052】
[実施例10]
実施例1の条件において、PETペレットをエコA-PETフィルム(市販品)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は100%であった。
【0053】
[実施例11]
実施例1の条件において、PETペレットをG-PETフレーク(市販品)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は83.2%であった。
【0054】
[実施例12]
実施例1の条件において、ナトリウムメトキシドを1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(1重量部)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は93.3%であった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
[実施例13]
実施例1の条件において、メタノールをベンジルアルコール(東京化成工業(株)製、6.75重量部)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は93.0%であった。
【0058】
[実施例14]
実施例1の条件において、メタノールをエタノール(富士フィルム和光純薬(株)製、超脱水グレード、3重量部)に、トルエンを酢酸エチル(関東化学(株)製、特級グレード)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は98.5%であった。
【0059】
[実施例15]
実施例1の条件において、トルエンをアセトニトリル(富士フィルム和光純薬(株)製、特級グレード)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は99.7%であった。
【0060】
[実施例16]
実施例1の条件において、トルエンをテトラヒドロフラン(富士フィルム和光純薬(株)製、超脱水グレード(安定剤含有))に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は94.0%であった。
【0061】
[実施例17]
実施例1の条件において、OPPフィルム(6重量部)を加え、同様に実施した。反応溶液をフィルターでろ過し、得られたろ過残渣のうち、未反応のPETペレットとOPPフィルムを分離し、未反応のPETペレットを回収した。アルコリシス率は99.7%であった。
【0062】
[実施例18]
実施例1の条件において、ナイロンフィルム(6重量部)を加え、同様に実施した。反応溶液をフィルターでろ過し、得られたろ過残渣のうち、未反応のPETペレットとナイロンフィルムを分離し、未反応のPETペレットを回収した。アルコリシス率は97.9%であった。
【0063】
[実施例19]
実施例1の条件において、アルミ箔(6重量部)を加え、同様に実施した。反応溶液をフィルターでろ過し、得られたろ過残渣はアルミ箔であり、未反応のPETペレットは得られなかった。アルコリシス率は100%であった。
【0064】
[比較例1]
実施例1の条件において、ナトリウムメトキシドを水酸化ナトリウム (関東化学(株)製、鹿1級、1重量部)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は16.2%であった。
【0065】
[比較例2]
実施例1の条件において、メタノールをエチレングリコール (富士フィルム和光純薬(株)製、脱水グレード、4重量部)に変更して、同様に実施した。アルコリシス率は0%であった。
【0066】
[比較例3]
実施例1の条件において、メタノールを加えずに、同様に実施した。アルコリシス率は0%であった。
【0067】
次に、ポリエステルを含む物質(a)として、表3記載の構成のラミネートフィルムを用いた場合のアルコリシスについて、検討した。
ここで、分離率Bは下記式2に基づいて評価した。
分離率B[%]=(1-アルコリシス後の未分離のラミネートフィルムの重量/アルコリシス前のラミネートフィルムの重量)×100 ・・・(式2)
分離率Bが90%以上:◎
分離率Bが60%以上90%未満:〇
分離率Bが30%以上60%未満:△
分離率Bが30%未満:×
【0068】
[実施例20]
PETフィルム/ポリエステル系接着剤/OPPフィルムの構成のラミネートフィルム(6重量部)を反応容器に入れ、ナトリウムメトキシド(1重量部)、メタノール(2重量部)を加えた。合計が100重量部になるようにトルエンを加えて、25℃条件でペイントシェイカー(浅田鉄工製)を用いて4時間振とうさせた。
反応終了後、反応溶液をフィルターでろ過し、ろ過残渣を水で洗浄したが、未分離のラミネートフィルムは回収されなかった。分離率は100%であった。
【0069】
[実施例21]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をPETフィルム/ポリエステル系接着剤/CPPフィルムに変更して、同様に実施した。分離率は100%であった。
【0070】
[実施例22]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をPETフィルム/ポリエステル系接着剤/ナイロンフィルムに変更して、同様に実施した。分離率は100%であった。
【0071】
[実施例23]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をPETフィルム/ポリエステル系接着剤/アルミ箔に変更して、同様に実施した。分離率は100%であった。反応終了時、アルミ箔は溶解せずに、フィルムの形状を維持していた。
【0072】
[実施例24]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をナイロンフィルム/ポリエステル系接着剤/アルミ箔に変更して、同様に実施した。分離率は100%であった。
反応終了時、アルミ箔は溶解せずに、フィルムの形状を維持していた。
【0073】
[実施例25]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をPETフィルム/ポリエステル系接着剤/ナイロンフィルム/ポリエステル系接着剤/アルミ箔に変更して、同様に実施した。分離率は100%であった。
反応終了時、アルミ箔は溶解せずに、フィルムの形状を維持していた。
【0074】
[実施例26]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をPETフィルム/ポリエーテル系接着剤/ナイロンフィルムに変更して、同様に実施した。分離率94.0%であった。
【0075】
[実施例27]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムに代えて紙ラベル付きPET製卵パックを用いて、同様に実施した。分離率は100%であった。
【0076】
[実施例28]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムに代えて、ポリエステル65%綿35%の混紡繊維を用いて、同様に実施した。分離率は34.5%であった。
【0077】
[比較例4]
実施例20の条件において、ラミネートフィルムの構成をOPPフィルム/ポリエーテル系接着剤/CPPフィルムに変更して、同様に実施した。分離率は0%であった。
【0078】
【表3】
【符号の説明】
【0079】
1 槽
2 槽
3 モーター
4 ヒーター
5 撹拌翼
6 バルブ
7 圧力計
8 ろ過装置
9 ポンプ
【要約】
【課題】ポリエステルを含む物質を新たな手段によって再資源化する方法の提供を図る。
【解決手段】ポリエステルを含む物質を触媒とアルコール存在下、溶媒中でアルコリシスさせる工程と、前記工程で得られたアルコリシス生成物を分離する工程を含む、ポリエステルを含む物質の再資源化方法。具体的には、ポリエステルを含む物質を格納する槽とポリエステルのアルコリシス生成物を分離する槽及び/又は経路とを有する装置を用いて実施する。
【選択図】 図1
図1