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特許7539740高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金及びその製造方法
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  • 特許-高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240819BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240819BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240819BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240819BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240819BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240819BHJP
   H01F 3/04 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C22C38/00 303V
C22C45/02 A
C21D6/00 C
C21D9/00 S
H01F1/153 133
H01F1/147 166
H01F3/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023504528
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 CN2022103259
(87)【国際公開番号】W WO2023130689
(87)【国際公開日】2023-07-13
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】202210020959.6
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517014527
【氏名又は名称】中国科学院寧波材料技術与工程研究所
【氏名又は名称原語表記】Ningbo Institute of Materials Technology & Engineering, Chinese Academy of Sciences
【住所又は居所原語表記】1219 Zhongguan West Road, Zhenhai District, Ningbo, Zhejiang 315201, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黎 嘉威
(72)【発明者】
【氏名】孫 宇
(72)【発明者】
【氏名】賀 愛娜
(72)【発明者】
【氏名】董 亜強
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122186(JP,A)
【文献】特開2005-194565(JP,A)
【文献】特開2001-001113(JP,A)
【文献】特開平04-048053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 45/02
C21D 6/00
C21D 9/00
H01F 1/153
H01F 1/147
H01F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子式がFeSiCu(ここで、MはNb、Mo、V、Mn、Crのうちの1種又は複数種であり、元素のモル含有量(%)が6≦b≦15、5≦c≦12、0.5≦d≦3、0.5≦e≦1.5、0.5≦f≦3であり、残量がFe及び不純物である。)であり、誘導異方性値と平均結晶磁気異方性値との差が0.1~1J/mであることを特徴とする高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金。
【請求項2】
前記誘導異方性値と平均結晶磁気異方性値はいずれも5J/mよりも大きく、20J/mよりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金。
【請求項3】
飽和磁気誘導強度Bsが1.45Tよりも大きく、保磁力が2A/mよりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金。
【請求項4】
周波数100kHz以下での透磁率が20000以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金。
【請求項5】
周波数100kHz以下、横磁場0.2T以下での損失が250kW/mよりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金。
【請求項6】
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の分子式に従って材料を配合して母合金を得て、前記母合金を溶融した後、回転している銅製冷却ロールに噴射し、冷却して凝固し、長距離無秩序構造のアモルファス合金、即ち焼入れ合金帯材を得て、積層切断、コイリング方法によって前記焼入れ合金帯材を磁芯にするステップ(1)と、
前記磁芯を480~640℃の熱場に入れて、0.5~1.5h保温した後、380~420℃の0~1T横磁場に入れて0.5~1.5h保温し、冷却後放入液体窒素環境で0.5~1h放置し、その後、液体窒素環境から取り出して200~300℃環境に入れて0.5~1h保温するステップ(2)と、
ステップ(2)を1~5回繰り返して高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金を得るステップ(3)と、
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法。
【請求項7】
前記磁芯は円筒状であることを特徴とする、請求項6に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法。
【請求項8】
前記磁芯は外径21~23mm、内径18~20mmの円筒状であることを特徴とする、請求項6に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法。
【請求項9】
前記銅製冷却ロールの回転数が25m/s~40m/sであることを特徴とする、請求項6に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法。
【請求項10】
横磁場に入れる前の前記磁芯の結晶粒サイズが10~20nmであることを特徴とする、請求項6に記載の高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の技術分野に属し、具体的には、高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5G通信やワイヤレス充電などの技術の急速な発展に伴い、電磁波放射による電磁干渉や健康被害などの問題が日増しに深刻化している。軟磁性材料は磁場干渉を抑制するための一般的な材料である。低周波電磁波(周波数は300kHz以下)は表皮効果が小さく、電波インピーダンスが低いため、材料は低周波磁場放射の吸収と反射損失が非常に小さくなり、このため、低周波磁気シールドの問題は研究の難点である。高透磁率材料は、磁気抵抗が非常に低いチャネル内に磁力線を拘束し、保護されたデバイスを磁場の干渉から保護することができるので、高透磁率軟磁性材料は低周波電磁放射を低減するのに最も効果的な材料である。従来の低周波磁気シールド材料(低炭素鋼、電磁鋼板、パーマロイなど)と比べ、FeSiBMCuシリーズナノ結晶合金は高い飽和磁気誘導強度と高い透磁率を兼ね備えており、電磁交換性、パワーエレクトロニクスなどの分野で広く応用されている。
【0003】
パワーエレクトロニクス機器の小型化、高周波化への発展に伴い、磁気シールド材料に対して新たな課題が提起され、従来のナノ結晶軟磁性材料は市場の需要を完全に満たすことができなくなっている。優れた高周波特性を持っており、すなわち、高い飽和磁気誘導強度、高周波透磁率及び低損失を維持すると同時に、高い遮断周波数を持っている鉄系ナノ結晶軟磁性合金の開発は将来の発展の傾向である。現在、中国国内外の研究開発者は古典的なFeSiBMCuシリーズナノ結晶合金に基づいて大量の研究開発と産業化作業を展開し、一連の進展を得た。結晶粒サイズが10~12nm程度の微細で均一なナノ結晶粒がアモルファス基体上に嵌め込まれた構造により、結晶磁気異方性が平均化され、低平均結晶磁気異方性とほぼゼロの磁気弾性異方性が相まって、低保磁力、高飽和磁気誘導強度、高透磁率の鉄系ナノ結晶合金が得られる。
【0004】
しかし、高周波では透磁率の減衰が速く、カットオフ使用周波数が数十kHzにとどまることが多く、高周波での損失が大きく、パワーエレクトロニクス機器の小型化、省エ化、高周波化には不利である。そのため、高飽和磁気誘導強度を有するナノ結晶合金の高周波特性の向上が急務となっている。磁気異方性はこの一連の問題において重要な役割を果たしている。また、磁気異方性は軟磁気特性及び磁化の結果として現れる磁区に密に影響する。そのため、如何に磁気異方性を制御して鉄系アモルファスナノ結晶の高周波軟磁気特性を改善するかは関連分野の重要な課題である。
【0005】
開示番号CN101796207Aである中国特許文献には、FeSiBMCuナノ結晶合金系が開示されており、MはTi、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWのうちの少なくとも1種の元素である。このナノ結晶合金は磁気異方性が低く、高い透磁率と低い保磁力を有しているが、標準組成の飽和磁気誘導強度は1.24Tに過ぎず、さらに向上させる必要がある。
【0006】
開示番号CN112877615Aである中国特許文献には、FeSiBCuPCナノ結晶合金系が開示されており、高Fe含有量を採用してから高い飽和磁気誘導強度が得られ、Si、B、Cu、P、C元素の添加及び含有量の最適化により、高Fe含有量合金系のアモルファス形成能力が低く、帯材の厚さ及び幅が制限されるという問題が解決されている。しかし、磁気異方性が高いという問題は解決されておらず、高周波での軟磁気特性が悪く、応用範囲が制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第101796207号明細書
【文献】中国特許出願公開第112877615号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は高周波では透磁率が高く、磁気損失が低い高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金であって、分子式がFeSiCu(ここで、MはNb、Mo、V、Mn、Crのうちの1種又は複数種であり、元素のモル含有量が6≦b≦15、5≦c≦12、0.5≦d≦3、0.5≦e≦1.5、0.5≦f≦3であり、残量がFe及び不純物である。)であり、誘導異方性値(K)と平均結晶磁気異方性値(<K>)との差が0.1~1J/mである。
【0010】
本発明はまた、
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の分子式に従って材料を配合して母合金を得て、前記母合金を溶融した後、回転している銅製冷却ロールに噴射し、冷却して凝固し、長距離無秩序構造のアモルファス合金、即ち焼入れ合金帯材を得て、積層切断、コイリング方法によって前記焼入れ合金帯材を磁芯にするステップ(1)と、
前記磁芯を480~640℃の熱場に入れて、0.5~1.5h保温した後、380~420℃の0~1T横磁場に入れて0.5~1.5h保温し、冷却後液体窒素環境で0.5~1h放置し、その後、液体窒素環境から取り出して200~300℃環境に入れて0.5~1h保温するステップ(2)と、
ステップ(2)を1~5回繰り返して高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金を得るステップ(3)と、を含む前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1、2、実施例2及び比較例3、4で製造されたFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6の平均結晶磁気異方性及び誘導磁気異方性の比較図である。
図2】比較例1、2、実施例2及び比較例3、4で製造されたFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6の透磁率μ、保磁力H及び損失P軟磁気特性の比較図である。
図3】実施例1、実施例2、比較例1及び比較例5で製造されたサンプルの透過型電子顕微鏡像、制限視野電子回折図及び結晶粒サイズ(D)の統計分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金であって、分子式がFeSiCu(ここで、MはNb、Mo、V、Mn、Crのうちの1種又は複数種であり、元素のモル含有量が6≦b≦15、5≦c≦12、0.5≦d≦3、0.5≦e≦1.5、0.5≦f≦3であり、残量がFe及び不純物である。)であり、誘導異方性値(K)と平均結晶磁気異方性値(<K>)との差が0.1~1J/mである。
【0013】
前記誘導異方性値と平均結晶磁気異方性値はいずれも5J/mよりも大きく、20J/mよりも小さい。
【0014】
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金では、飽和磁気誘導強度Bが1.45Tよりも大きく、保磁力が2A/mよりも小さい。
【0015】
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金では、周波数100kHz以下での透磁率が20000以上である。
【0016】
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金では、周波数100kHz以下、横磁場0.2T以下での損失が250kW/mよりも小さい。
【0017】
本発明では、成分としてFeSiBMCu合金に微量のP元素をドープすることによって、飽和磁気誘導強度を確保しつつ、結晶粒の核形成速度を向上し、結晶粒の成長速度を抑え、結晶粒サイズ及びその分布を長時間の高温でもほぼ一定に維持し、これによって、合金の熱安定性及び軟磁気特性を向上させ、適切な<K>を有するナノ結晶合金を得て、また、Ku値を横方向に磁気的に調整することで、Ku値を<K>値に近くすることで、高い高周波軟磁気特性を得る。
【0018】
本発明はまた、
前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の分子式に従って材料を配合して母合金を得て、前記母合金を溶融した後、回転している銅製冷却ロールに噴射し、冷却して凝固し、長距離無秩序構造のアモルファス合金、即ち焼入れ合金帯材を得て、積層切断、コイリング方法によって前記焼入れ合金帯材を磁芯にするステップ(1)と、
前記磁芯を480~640℃の熱場に入れて、0.5~1.5h保温した後、380~420℃の0~1T横磁場に入れて0.5~1.5h保温し、冷却後液体窒素環境で0.5~1h放置し、その後、液体窒素環境から取り出して200~300℃環境に入れて0.5~1h保温するステップ(2)と、
ステップ(2)を1~5回繰り返して高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金を得るステップ(3)と、
を含む前記高磁気誘導高周波ナノ結晶軟磁性合金の製造方法を提供する。
【0019】
前記磁芯を熱場に入れて、480~640℃で0.5~1.5h保温することによって、焼入れ合金帯材の応力及び準転位双極子の密度を低下させ、結晶磁気異方性を低下させ、ピンニング点を減らして均一な長尺状の磁区を形成する。次に、結晶粒サイズが約10~20nmの鉄芯を0~1T横磁場に入れて、380~420℃で0.5~1.5h保温し、磁場と磁芯内の原子との相互作用によって、軟磁性合金に特定の誘導磁気異方性を持たせる。冷却する際には、液体窒素環境で0.5h放置した後、取り出して200~300℃環境で0.5~1h保温する。冷熱サイクルを1~5回繰り返すことで、単軸Kが<K>に対応するように誘導し、共同作用によって高周波透磁率を向上させ、高周波損失を低下させる。
【0020】
前記鉄系ナノ結晶鉄芯を横磁場で熱処理すると、温度の上昇に伴いより高値のKが誘導され、磁気ヒステリシス曲線の傾きが増大し、誘導異方性の作用により、磁区の移動や分裂に加えて、Kが<K>と競争し、磁区回転が支配的になって高周波磁化に影響を与え、<K>/Kが約1である場合、高周波では磁区の動きが抑制され、磁区の動きによる渦電流損失の低下に有利であり、このように、透磁率を向上させて損失を低下させる。
【0021】
前記鉄系ナノ結晶鉄芯を横磁場で熱処理すると、高温では原子の拡散速度が速くなり、結晶粒に<100>テクスチャが発生し、また、テクスチャによって結晶磁気異方性の平均化が弱まり、その結果として、より長距離及びより高値の結晶磁気異方性が発生し、擾乱により磁化容易方向及びマクロ磁気異方性が変わり、これによって、高周波磁気特性が大幅に劣化し、一方、本発明では、横磁場で処理した後、液体窒素で冷却し、200~300℃環境で0.5~1h保温することによって、上記のようなことが回避され、結晶磁気異方性が誘導異方性と近くなり、最終的に高周波では優れた軟磁気特性が得られる。
【0022】
前記磁芯は円筒状である。
【0023】
前記磁芯は外径21~23mm、内径18~20mmの円筒状である。
【0024】
前記銅製冷却ロールの回転数が25m/s~40m/sである。
【0025】
横磁場に入れる前の前記磁芯の結晶粒サイズが10~20nmである。
【0026】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
(1)本発明は磁気異方性を調整することで、Kが<K>の値に近く且つ5J/mよりも大きく、20J/mよりも小さいようにし、高飽和磁気誘導強度、高周波での高透磁率及び低損失を有する鉄系ナノ結晶磁芯を得ることを図る。
(2)本発明では、熱場と磁場の共同作用により熱処理することで、飽和磁気誘導強度Bsが1.45Tよりも大きく、100kHzでの透磁率が20000以上で、100kHz及び0.2Tでは損失が250kW/mよりも小さく、保磁力が2A/mよりも小さいようにする。
(3)本発明では、熱場、磁場及び低温場を利用して結晶粒の微細構造及び磁気異方性をリアルタイムで調整することにより、Kが<K>に適合し、ドメイン壁の移動と回転を組み合わせることによって高周波での渦電流損失を抑制し、高周波特性を最適化する。
(4)本発明で製造されたナノ結晶合金磁芯は高周波特性に優れ、5G+コモンモードチョーク、無線充電などの機器に適用される場合、小型化、高効率化、低能耗化、環境保全や省エネ化の効果が得られ、パワーエレクトロニクスの製品への市場を広げ、適用範囲が期待できる。
【実施例
【0027】
以下、実施例及び図面を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、以下の前記実施例は本発明を理解しやくすることを意図しており、限定するものではない。
【0028】
<実施例1>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe76Si11NbCuMoである。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu、FeMo及びFeNbを原料としてFe76Si11NbCuMoの化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe76Si11NbCuMo合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で400℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、250℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを3回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定:初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は12.8J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は13J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.5T、保磁力Hが1.5A/m、100kHzでの透磁率μが21600、100kHz及び0.2Tでの損失Pが180kW/mである。
【0029】
<実施例2>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6である。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下の通りである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu及びFeNbを原料としてFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6の化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で400℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は15.8J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は16.1J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.5T、保磁力Hが1.6A/m、100kHzでの透磁率μが20000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが205kW/mである。
【0030】
<実施例3>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe77Si12NbCuである。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu及びFeNbを原料としてFe77Si12NbCuの化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe77Si12NbCu合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で380℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、220℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを4回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は8.6J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は8.3J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.46T,保磁力Hが2A/m、100kHzでの透磁率μが25000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが220kW/mである。
【0031】
<実施例4>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe73.7Si1110Nb2.5CuMn0.8である。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu、Mn及びFeNbを原料としてFe73.7Si1110Nb2.5CuMn0.8の化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe73.7Si1110Nb2.5CuMn0.8合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で380℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、260℃の環境で1h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は12.2J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は11.7J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.45T,保磁力Hが1.8A/m、100kHzでの透磁率μが23400、100kHz及び0.2Tでの損失Pが250kW/mである。
【0032】
<実施例5>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe77.5Si12NbCu1.5Mo0.50.5である。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu、V、FeMo及びFeNbを原料としてFe77.5Si12NbCu1.5Mo0.50.5の化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe77.5Si12NbCu1.5Mo0.50.5合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で380℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、260℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は19J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は18.9J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.52T,保磁力Hが1.5A/m、100kHzでの透磁率μが20300、100kHz及び0.2Tでの損失Pが190kW/mである。
【0033】
<実施例6>
本実施例では、鉄系ナノ結晶軟磁性合金材料の分子がFe76.5Si10NbCu1.5Crである。
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu、V、Cr及びFeNbを原料としてFe76.5Si10NbCu1.5Crの化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe76.5Si10NbCu1.5Cr合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で380℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより、誘導異方性値を算出した。(2)、(3)を熱処理した後に計算したところ、ナノ結晶鉄芯のK値は9J/mであった。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/L(Kはα-Fe(Si)相の結晶磁気異方性であり、その値が8.2kJ/mであり、Vcrが結晶化体積分率であり、Lは強磁性交換長さであり、その値が約35nmである)より計算した結果、<K>値は8.3J/mであった。Kと<K>は近い。
(5)(2)~(4)の条件で得られたナノ結晶は、高周波軟磁気特性に優れ、飽和磁気誘導強度Bが1.45T,保磁力H~2A/m、100kHzでの透磁率μが22000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが230kW/mである。
【0034】
<比較例1>
(1)比較例1の成分の化学式がFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6に対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、320℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを3回繰り返した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は14.6J/m、誘導異方性K値は8.9J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.49T、保磁力Hが10A/m、100kHzでの透磁率μが7000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが640kW/mである。
【0035】
<比較例2>
(1)比較として、比較例2の成分の化学式がFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6に対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、360℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを3回繰り返した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は15.1J/m、誘導異方性K値は10.9J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.49T、保磁力Hが3.6A/m、100kHzでの透磁率μが10000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが380kW/mである。
【0036】
<比較例3>
(1)比較例3の成分の化学式がFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6に対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、440℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを3回繰り返した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は16.7J/m、誘導異方性K値は22.8J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.49T、保磁力Hが5A/m、100kHzでの透磁率μが15000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが540kW/mである。
【0037】
<比較例4>
(1)比較例4の成分の化学式がFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6に対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、500℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、280℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを3回繰り返した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は20.1J/m、誘導異方性K値は25.1J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.49T、保磁力Hが11A/m、100kHzでの透磁率μが8000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが600kW/mである。
【0038】
<比較例1~4>
比較例1~4は、実施例2の合金の成分Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6であり、その製造方法及び軟磁気特性のテスト方法は比較例2とほぼ同じであるが、比較例1~4において合金の熱処理プロセスの温度が320℃、360℃、440℃及び480℃である点は実施例2と相違し、具体的な結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
<比較例5>
比較例5の成分の化学式Fe77Si12NbCuAl
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、Al、Cu及びNbを原料としてFe77Si12NbCuAlの化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe77Si12NbCu合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で560℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で、420℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、200℃の環境に入れて0.5h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)(2)及び(3)の磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は36.6J/m、誘導異方性K値は42.9J/mであり、<K>とK値の差は大きく、しかもその値は大きかった。
(5)(1)~(4)の条件下で、飽和磁気誘導強度Bが1.4T、保磁力Hが26A/m、100kHzでの透磁率μが8000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが750kW/mである。
【0041】
<比較例6>
比較例6の成分の化学式Fe74Si13Cu
該鉄系ナノ結晶合金の製造方法は具体的には以下のとおりである。
(1)工業純度のFe、Si、FeB、FeP、Cu及びFeCを原料としてFe74Si13Cuの化学式に従って材料を配合し、母合金を溶解し、単ロール急冷技術によって幅が約60mm、厚さが約18μmの焼入れアモルファス帯材を得て、銅ロールの回転数を30m/sとした。帯材を切断して、幅10mm、内径19.7mm、外径22.6mmの鉄芯として巻いた。
(2)Fe74Si13Cu合金に対してナノ結晶化熱処理を行った。合金帯材を5℃/minの昇温速度で540℃に昇温して0.5h保温した後、室温まで炉冷した。
(3)熱処理後の合金鉄芯を8つに等分し、10℃/minの昇温速度で200℃に昇温すると、0.08T横磁場を印加し、10℃/minの昇温速度で、400℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、240℃の環境で1h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(4)(2)及び(3)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は4.6J/m、誘導異方性K値は6.9J/mであり、<K>とK値の差は大きく、しかも、その値は小さかった。
(5)(1)~(4)の条件下で、飽和磁気誘導強度Bが1.42T、保磁力Hが34A/m、100kHzでの透磁率μが7000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが630kW/mである。
【0042】
<比較例5、6及び実施例1~6>
比較例5、6の製造方法及び軟磁気特性のテスト方法は実施例1~6とほぼ同じであるが、合金成分が異なり、異なる熱処理温度の条件下で最適な異方性値及び軟磁気特性が異なり、具体的な結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
<比較例7>
(1)比較として、比較例7の成分の化学式がFe77Si12NbCuに対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77Si12NbCu合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、380℃に昇温して1h保温し、保温終了後、室温に炉冷した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は10.6J/m、誘導異方性K値は8.1J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.42T、保磁力Hが5A/m、100kHzでの透磁率μが11000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが440kW/mである。
【0045】
<比較例8>
(1)比較として、比較例7の成分の化学式がFe77Si12NbCuに対して上記実施例1のステップ(1)を行って、鉄芯を得て、ステップ(2)の一般的なナノ結晶化熱処理を行い、すなわち、Fe77Si12NbCu合金帯材サンプルを5℃/minの昇温速度で580℃に昇温して、0.5h保温し、室温に炉冷した。鉄芯について実施例のステップ(3)のように0.08T横磁場を印加し、380℃に昇温して1h保温し、その後、液体窒素環境に入れて0.5h冷却し、次に取り出し、150℃の環境で1h保温した。冷熱サイクルを2回繰り返した。
(2)磁場熱処理の結果、平均磁気異方性<K>値は11.5J/m、誘導異方性K値は9.2J/mであり、<K>とK値の差は大きかった。
(3)(1)及び(2)の条件で、飽和磁気誘導強度Bが1.41T、保磁力Hが3A/m、100kHzでの透磁率μが15000、100kHz及び0.2Tでの損失Pが420kW/mである。
【0046】
<比較例7、8と実施例3>
比較例7、8は、その成分、熱場及び磁場熱処理が実施例3とほぼ同じであるが、冷温場のプロセス処理の点は相違し、比較例7では冷温場処理が行わず、比較例8では冷温場処理が限定された条件で行わず、異なる処理温度の条件で異方性値及び軟磁気特性が得られ、具体的な結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
<実施例1~6及び比較例1~8の特性のテスト結果分析>
1.合金の磁気異方性
磁気リングの初磁化曲線の測定;初磁化曲線段階について接線を作成して飽和磁化まで延長し、対応する横座標値を異方性場(H)として、式K=1/2Hにより計算し、誘導異方性K値を得た。XRD及びTEM結果を分析し、結晶化体積分率Vcr及び結晶粒サイズDを得て、式<K>=Kcr(D/Lにより<K>値を算出した。実施例1~6及び比較例1~6の各温度及び時間の熱処理後の磁気異方性結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
ここで、比較例5では、比較例1~6の合金成分、実施例1~6と比較して、P元素がドープされているので、<K>は効果的に低下し、その値が20J/mよりも小さくなり、比較例5では、結晶粒サイズが大きく、図3に示すように、計算された<K>は大きく、その値が20J/mよりも大きく、比較例6では、その値が小さすぎ、そして、Kと<K>の値は近くなかった。P元素のドープは飽和磁気誘導強度を確保しつつ、結晶粒の核形成速度を速め、結晶粒の成長速度を抑え、微細で均一なナノ結晶構造を得て、低<K>のナノ結晶合金を得るのに有利であり、また、Kと<K>の比を調整し、合金の高周波軟磁気特性を改善するのに有利である。Pドープ後、実施例1~6では、低<K>のナノ結晶合金について磁場でアニールした結果、Kと<K>の値は近い。
【0051】
比較例1、2、実施例2及び比較例3、4では、合金成分はいずれもFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6であり、磁場熱処理プロセスの温度は320℃、360℃、400℃、440℃及び480℃であり、その異方性値は図1に示される。アニール温度の上昇に伴い、K及び<K>値は増大したが、Kの増大の程度は<K>よりも大きい。アニール温度が400℃である場合(実施例2)、Kと<K>は略小さくなることが明らかになった。
【0052】
比較例7、8は、実施例3と比較して、合金成分が全てFe77Si12NbCuであり、熱場及び磁場熱が同じであるが、冷温場プロセス処理が異なり、比較例7では冷温場処理が行わず、比較例8では冷温場処理が限定された条件で行わず、Kと<K>の値は近くなかった。
【0053】
2.合金の軟磁気特性
振動試料型磁力計(Lakeshore7410)、直流B~H装置(EXPH~100)及びインピーダンスアナライザ(Agilent4294A)を用いて実施例1~6及び比較例1~8の各温度及び時間の熱処理後のナノ結晶軟磁性合金の飽和磁気誘導強度B、保磁力P及び透磁率μをテストし、結果を図2、表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
比較例1、2、実施例2及び比較例3、4では、合金成分は全てFe77.8Si10Nb2.6Cu0.6であり、磁場熱処理プロセスの温度は320℃、360℃、400℃、440℃及び480℃であり、その軟磁気特性は図2に示される。アニール温度が400℃である場合(実施例2)、軟磁気特性は最も良好である。
【0056】
3.合金の微細構造
本発明のナノ結晶軟磁性合金が高周波軟磁気特性に優れる原因をさらに説明するために、Talos型透射電子顕微鏡を用いて実施例1(Fe76Si11NbCuMo)、実施例2(Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6-400℃)及び比較例1(Fe77.8Si10Nb2.6Cu0.6-320℃)、比較例5(Fe77Si12NbCuAl)のサンプルの微細構造を分析した。
【0057】
図3に示す結果から、晶相は全てアモルファス相とナノα-Fe結晶粒からなる。実施例1、2では、微量のP元素の添加は結晶磁気異方性を低下させ、結晶粒の成長を抑え、形態図及び制限視野電子回折図から明らかに、最適なアニール温度では、微細で均一な結晶粒が析出されてアモルファス基体に嵌め込まれ、結晶粒はα-Fe結晶粒であり、結晶粒サイズ(D)はそれぞれ11.7nm及び12.1nmである。比較例1と実施例2の比較から、両方は同一成分合金から異なる磁場のアニール温度で得たナノ結晶であり、実施例2ではDは12.6nmであり、このことから、磁場アニールによる結晶粒サイズには変わりがないことが分かった。比較例5ではDは15.5nmであり、結晶粒サイズはわずかに大きくなり、結晶磁気異方性は大きく、軟磁気特性は劣る。
図1
図2
図3