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  • 特許-セルロースの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20240819BHJP
   D21C 5/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08B15/08
D21C5/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024031306
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-03-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513065789
【氏名又は名称】株式会社ブルー・スターR&D
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】柴野 佳英
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119934(JP,A)
【文献】特開2021-066973(JP,A)
【文献】特開2000-325702(JP,A)
【文献】特開2021-003014(JP,A)
【文献】特開2012-086154(JP,A)
【文献】特開2009-263844(JP,A)
【文献】特公平07-018109(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0230624(US,A1)
【文献】国際公開第2006/085598(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/012632(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/08
D21C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを原料とする、セルロースの製造方法において、
リグノセルロース系バイオマスが添加された水に対して、前記水を脱気しながら超音波を照射する工程と、前記水に印加される圧力が大気圧よりも高い条件下にて、超音波を照射する工程と、を含む
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記工程において、前記水の液密状態にて、前記水に前記圧力を印加する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
リグノセルロース系バイオマスを原料とする、セルロースの製造装置であって、
リグノセルロース系バイオマスが添加された水に対して、前記水を脱気しながら超音波を照射する脱気槽と、前記水に印加される圧力が大気圧よりも高い条件下にて、超音波を照射する貯留槽と、を備える
ことを特徴とする製造装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
バイオエタノールは、木材やサトウキビやトウモロコシ等のバイオマスを発酵させて製造する、バイオマスから生成される燃料であるバイオ燃料の一種である。化石燃料の消費により大気中の二酸化炭素(CO)濃度が上昇し、それによる地球温暖化が大きな問題になっている。この点、バイオエタノールは、化石燃料に比べてライフサイクルにおけるCO排出量が少ないことから、輸送用のエコ燃料として期待されている。
【0002】
ここで、バイオマス、特に、リグノセルロース系バイオマスからバイオエタノールの製造工程は、主として、リグノセルロース系バイオマスからセルロースを抽出するステップ(セルロースを取り囲み強固な壁を築いているリグニンとセミセルロースを分離するステップ)、セルロースをセルラーゼ等の酵素に付してグルコースを生成するステップと、グルコースをエタノール発酵酵母に付する工程と、からなる。これらの内、リグノセルロース系バイオマスからセルロースを抽出するステップとしては、硫酸や酵素を使用する手法が提案されている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-529091号公報
【文献】特許第6026026号公報
【文献】再表2015/033948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを原料とした、安全でコストの低いセルロースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを原料とする、セルロースの製造方法において、バイオマスが添加された水に対して、前記水に印加される圧力が大気圧よりも高い条件下にて、超音波を照射する工程を含むことを特徴とする製造方法である。ここで、前記工程において、前記水の液密状態にて、前記水に前記圧力を印加してもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リグノセルロース系バイオマスを原料とした、安全でコストの低いセルロースの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る超音波照射装置のブロック図である。
図2図2は、実施例1に係る生成物のSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。
図3図3は、実施例2に係る生成物のSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。
図4図4は、実施例3に係る生成物のSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。
図5図5は、市販されているセルロースのSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の具体的形態を説明する。但し、本発明は以下の具体的形態に限定されるものではない。また、以下において「A~B」は、A以上B以下を意味する。
【0009】
本形態は、リグノセルロース系バイオマスを原料とする、セルロースの製造方法において、バイオマスが添加された水に対して、前記水に印加される圧力が大気圧よりも高い条件下にて、超音波を照射する工程を含むことを特徴とする製造方法である。以下、原料、プロセス、最終産物の順で説明する。
【0010】
≪原料≫
(リグノセルロース系バイオマス)
リグノセルロース系バイオマスは、所謂リグノセルロース(主に、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンの3種類の成分からなる)を含有する、生物資源に由来する糖質材料をいう。リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、針葉樹(例えば、杉)、広葉樹、建築廃材、林地残材、剪定廃材、稲藁、籾殻、麦藁、木材チップ、木材繊維、化学パルプ、古紙、合板等の農林産物資源、サトウキビバガス、サトウキビ茎葉、コーンストーバー等の農林産物廃棄物、農林産物加工品及び大型藻類、微細藻類等の植物組織を挙げることができる。
【0011】
(水)
リグノセルロース系バイオマスが添加される水は、水を主成分とする液体媒体である限り特に限定されない。ここで、「主成分」とは、液体媒体の全質量を基準として、水を50質量%以上(例えば、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、92.5質量%以上、95質量%以上、97.5質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上)であることを意味する。
【0012】
(他の成分)
リグノセルロース系バイオマスが添加された水(以下、「バイオマス水」という。)は、他の成分を含有していてもよい。但し、安全性及び低コストを担保する観点から、従来技術のような、硫酸及び/又は酵素を実質的に含まないことが好適である。尚、本明細書において「実質的に含まない」とは、意図的に添加しないことを意味し、例えば、バイオマス水の全質量に対する含有量が、0.1質量%以下(例えば、0.05質量%以下、典型的には0.01質量%以下)である。
【0013】
≪プロセス≫
本形態に係る製造方法は、超音波照射装置にて、バイオマス水に対して超音波を照射する工程を含む。尚、以下、該工程について詳述する。
【0014】
(装置)
図1に示すように、超音波照射装置10は、バイオマス水に超音波を照射するための容器である貯留槽1を含み、貯留槽1に脱気して圧力を付与したバイオマス水を循環させることができる。詳細には、超音波照射装置10は、更に、バイオマス水の脱気を行う脱気槽31と、バイオマス水を循環させる循環ポンプ34と、バイオマス水を所定の温度に制御するための熱交換部である冷却器35と、バイオマス水を加圧する加圧装置36、バイオマス水を保持するためのタンク37と、を含む。
【0015】
脱気槽31は、バイオマス水の脱気を行うことができれば、特に形式を問われるものではなく、例えば中空糸を用いた一般的なものでもよいが、高い脱気能力を有することが好ましい。例えば、脱気槽31は、真空引きと超音波照射を行う形式のものとすることができる。この場合、略円筒形の筒状容器を備え、内部の閉空間に液状媒体による液相及び真空引きのための気相を形成させる。筒状容器の上側には気相に通じるよう真空ポンプ33が取り付けられるとともに、側面の下方には液相に超音波を照射できるよう超音波振動器32を備える。これにより、脱気槽31では真空引きしながらバイオマス水に超音波を照射できる。そして、バイオマス水にキャビテーションを生じさせることで、バイオマス水に溶存していた気体の気相への排出を促進させることができる。このような構成で、脱気槽31は、高い脱気能力を有する。尚、脱気槽31からバイオマス水を排出する管路に、超音波照射装置10の外部へバイオマス水を排出する排出口39が設けられている。
【0016】
循環ポンプ34は、脱気槽31で脱気されたバイオマス水を冷却器35へ送出させることで超音波照射装置10内を循環させる。尚、後述するように、循環ポンプ34は貯留槽1から排出されたバイオマス水を冷却器35へ送出させるような循環をさせる場合もある。
【0017】
冷却器35は、貯留槽1へ供給するバイオマス水を所定の温度に制御することができる。バイオマス水の温度を低く安定させることで、貯留槽1内で超音波によって生成されるキャビティのエネルギーを高く安定させ得る。尚、冷却器35へのバイオマス水の導入路と排出路との間で熱交換を行うようにして熱交換の速度を向上させるようにすることも好ましい。
【0018】
加圧装置36は、冷却器35と貯留槽1の間の管路に接続され、液密状態で循環するバイオマス水に所定の圧力を付与することができる。加圧装置36としては、例えば、気相及び液相を有する空水圧変換シリンダを備えて空気圧を水圧に変換する気圧水圧変換器を用いることができる。空水圧変換シリンダはφ50~100mm、長さ200~300mm程度の縦置きの円筒であり、工場等で比較的容易に入手できる圧縮空気を用いることができ、圧力調整も容易である。この場合、加圧装置36から管路までの接続路を細く且つ長くすることが好ましく、これによって空水圧変換シリンダ内で空気を溶存させたバイオマス水を貯留槽1に流入させないようにする。尚、加圧装置としてポンプを使用することも可能であるが、減圧弁等の圧量調整器を必要とする。
【0019】
タンク37は、超音波照射装置10内に循環させるバイオマス水を大気圧下で貯留する。タンク37は、貯留槽1又は冷却器35からバイオマス水を受けて脱気槽31にバイオマス水を供給できるように配管されるとともに、超音波照射装置10の外部からのバイオマス水の供給を受ける給液口38に接続される。
【0020】
(超音波)
本工程で印加する超音波の周波数は、特に限定されず、例えば、19.0KHz以上、40KHz以下、25KHz以下である。また、本工程で印加する超音波の超音波出力密度は、特に限定されず、例えば 100W/L以上である。また、超音波の印加時間は、特に限定されず、例えば、1~10時間である。
【0021】
(圧力)
バイオマス水に印加する圧力は、大気圧(例えば、標準大気圧=101325パスカル)よりも高ければ特に限定されず、下限値に関しては、例えば、0.01MPa以上、0.05MPa以上、0.075MPa以上、0.1MPa以上、0.125MPa以上、0.15MPa以上、上限値に関しては、例えば、10MPa以下、5MPa以下、1MPa以下、0.75MPa以下、0.5MPa以下、大気圧よりも高いことが好適である。大気圧よりも高い圧力下で超音波を印加すると、リグノセルロース系バイオマスからセルロースが高収率で抽出できる程度の、強力な衝撃波を引き起こすことが可能となる。
【0022】
(溶存酸素量)
バイオマス水の溶存酸素量は、1.5mg/L以下であることが好適である。溶存酸素量が好適範囲内であると、超音波振動に起因して発生するキャビテーション現象において、負圧により発生した空洞の形状が球形により近くなる。そのため、該空洞が圧縮消滅する際により高い衝撃波を発生させることができる。その結果、効率的にセルロースを抽出できる。
【0023】
(温度)
バイオマス水の温度(水温)は、4℃~15℃が好適である。該範囲内であると、キャビテーション現象にて発生する空洞が圧縮消滅する際、より高い衝撃波を発生させることができる。その結果、効率的にセルロースを抽出できる。
【0024】
≪最終産物≫
本形態に係る製造方法により得られる最終産物(生成物)は、易分解性セルロースを含有するものである。好適には、本形態に係る製造方法により得られる生成物は、該生成物の乾燥質量を基準として、好適には、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上の易分解性セルロースを含有する。ここで、易分解性セルロースの含有量は、生成物を所定条件下にてセルラーゼ(Cellulase 9012-54-8 東京化成工業株式会社製;温度35℃;pH処理無し;発酵期間12時間)に付した際の、該生成物の乾燥質量に対する、グルコース生成量から逆算で求められた易分解性セルロース量で規定される。また、該易分解性セルロースには、一般的なセルロースの他、ナノセルロースやナノセルロースファイバーを含む。
【実施例
【0025】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
≪実施例1≫
図1に示した装置を使用し、リグノセルロース系バイオマスとして杉材を水中に投入し、下記条件にて超音波処理を実施した。
超音波の周波数:20KHz
超音波槽の直径:100φ
超音波の出力:160W
超音波出力密度:128W/L
温度:6℃
溶存酸素量:0.8mg/L
超音波照射時間:6時間
加圧:大気圧+0.2MPa
≪実施例2≫
リグノセルロース系バイオマスがとうもろこしである点、加圧が大気圧+0.15MPaである点以外、実施例1と同一条件にて超音波処理を実施した。
≪実施例3≫
リグノセルロース系バイオマスがバガスである点、加圧が大気圧+0.15MPaである点以外、実施例1と同一条件にて超音波処理を実施した。
【0027】
図2図4は、生成物のSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。また、図5は、市販されているセルロースのSEM(走査型電子顕微鏡)による撮像画像である。このように、外観上も、本実施例に係る方法にて得られた生成物は、リグニンやセミセルロースが除去された、剥き出しのセルロース繊維であることが分かる。また、実施例1~3に係る生成物を所定条件下にてセルラーゼ(Cellulase 9012-54-8 東京化成工業株式会社製;温度35℃;pH処理無し;発酵期間12時間)に付した際の、該生成物の乾燥質量に対する、グルコース生成量から逆算で求めた易分解性セルロース量を、下記表に示す。このように、いずれの実施例に係る生成物も、2質量%以上の易分解性セルロースを含有していることが分かる。
【0028】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、セルロース又はセルロースを原料として得られる素材(例えば、バイオエタノール)を利用した、例えば、化粧品、医薬部外品、医薬品、サプリメント、食品等の分野にて有用である。
【要約】
【課題】 リグノセルロース系バイオマスを原料とした、安全でコストの低いセルロースの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 リグノセルロース系バイオマスを原料とするセルロースの製造方法において、バイオマスが添加された水に対して、前記水に印加される圧力が大気圧よりも高い条件下にて、超音波を照射する工程を含む。
【選択図】 なし
図1
図2
図3
図4
図5