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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240819BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240819BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240819BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240819BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240819BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240819BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240819BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20240819BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20240819BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20240819BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 E
H01M50/531
H01M50/586
H01M50/591 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019159833
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021039876
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】面田 亮
(72)【発明者】
【氏名】白土 友透
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-195573(JP,A)
【文献】特開2020-004697(JP,A)
【文献】特開2015-125872(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152565(WO,A1)
【文献】特開2010-062081(JP,A)
【文献】特開2017-142889(JP,A)
【文献】特開2015-056344(JP,A)
【文献】特開2019-061938(JP,A)
【文献】特開2012-238491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/13- 4/62
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の集電体と、前記第1の集電体の両面にそれぞれ積層された第1の活物質層と、前記第1の活物質層の側周面を覆う絶縁層とを備える正極層と、
前記第1の活物質層の前記第1の集電体とは反対側の面にそれぞれ積層された第1の固体電解質層と、
これら第1の固体電解質層の前記第1の活物質層とは反対側の面にそれぞれ積層された第2の固体電解質層と、
これら第2の固体電解質層の前記第1の固体電解質層とは反対側の面にそれぞれ積層された第2の活物質層と、これら第2の活物質層の前記第2の固体電解質層とは反対側の面にそれぞれ積層された第2の集電体とを備える負極層と、
前記正極層と、前記第1の固体電解質層と前記第2の固体電解質層と、前記負極層とを収容するラミネートパックとを備え、
充電時に前記負極層に金属リチウムが析出する全固体電池であり、
前記絶縁層が樹脂フィルムであり、
第1の固体電解質の外縁が負極層及び第2の固体電解質の外縁よりも外側に配置されていることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
矩形板状に成形された前記第1の集電体の一端から外側に向かって延出するように設けられて、前記第1の集電体を外部の配線に接続する集電部をさらに備え、
少なくとも前記集電部が配置されている側の前記第1の固体電解質層の外縁の一部又は全部が、前記第2の集電体の外縁よりも外側に位置することを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項3】
前記第2の活物質層の側周面を覆う絶縁層を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の全固体電池。
【請求項4】
前記絶縁層が、さらに絶縁性フィラーを含有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記絶縁性フィラーが、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンからなる群より選ばれる1種以上の物質からなるものであることを特徴とする請求項4記載の全固体電池。
【請求項6】
少なくとも前記集電部が配置されている側の前記第2の集電体の外縁の一部又は全部が、前記絶縁層上に位置するように積層されていることを特徴とする請求項2、及び請求項2を引用する請求項3乃至5のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記第1の固体電解質層又は前記第2の固体電解質層が、リチウム、リン及び硫黄を少なくとも含む硫化物系固体電解質を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記負極層は、リチウムと合金を形成する負極活物質とリチウムと化合物を形成する負極活物質とのうちの少なくとも一方を含み、充電時に前記負極層の内部に金属リチウムが析出可能であり、電池容量の80%以上が金属リチウムにより発揮されるものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記負極層は、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛からなる群から選択される何れか1種以上を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているような全固体リチウムイオン二次電池などの全固体電池のエネルギー密度を向上させる方法の一つとして、正極層の厚みを厚くし、固体電解質層の厚みを薄くすることが考えられる。
【0003】
しかしながら、特に負極容量の大部分を金属リチウムが担う種類の全固体電池の場合、正極層の厚みを厚くしてエネルギー密度を向上させると、負極におけるリチウム金属の析出量が増える。その上、固体電解質層の厚みを従来よりも薄くするので、短絡が起こりやすくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-206469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、従来よりも短絡が起こりにくい全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る全固体電池は、第1の集電体と、前記第1の集電体の両面に積層された第1の活物質層と、これら第1の活物質層の前記第1の集電体とは反対側の表面にそれぞれ積層された第1の固体電解質層と、これら第1の固体電解質層の前記第1の活物質層とは反対側の表面にそれぞれ積層された第2の固体電解質層と、これら第2の固体電解質層の前記第1の固体電解質層とは反対側の表面にそれぞれ積層された第2の活物質層と、これら第2の活物質層の前記第2の固体電解質層とは反対側の表面にそれぞれ積層された第2の集電体とを備えたものである。
【0007】
このように構成した全固体電池によれば、正極層と負極層との間に固体電解質層が少なくとも2層積層されている。そのため、もし固体電解質層に、短絡の原因となる傷やピンホールがあったとしても、傷やピンホールが固体電解質層を貫通して形成されることがない。その結果、負極層にリチウムなどの金属が析出した場合であっても短絡する可能性を低く抑えることができる。
さらに、電池を構成する各層が、第1の集電体を中心として、その両側に均等に積層されているので、全固体電池を加圧成形する際に、第1の集電体の不要な湾曲を抑えることができ、容易にセルの作製ができる。一方、第1の集電体の片側にのみ電極がある場合は、第1の集電体の湾曲が大きくなってしまいセルの作製が困難となる。
【0008】
前記第1の集電体を外部の配線に接続する集電部をさらに備え、少なくとも前記集電部が配置されている側の前記第1の固体電解質層の外縁の一部又は全部が、前記第2の集電体の外縁よりも外側に位置することを特徴とする全固体電池とすれば、全固体電池を加圧成形する際に、前記第2の集電体とが湾曲したとしても、正極層と負極層とが物理的に短絡してしまうことを抑えることができる。この効果について以下に説明する。
前記第2の集電体が加圧成形によって前記第1の集電体の方に向けて湾曲したとしても、前記第2の固体電解質層の外縁が前記第1の集電体の外縁よりも外側にあるので、前記第1の集電体が前記第2の集電体や、前記集電部に直接触れることを抑えることができる。その結果、正極集電部111と負極集電体21の外縁2Eとが接触することによる正極層10と負極層20との間の短絡を防止することができる。
【0009】
さらに、前記第1の活物質層又は前記第2の活物質層の側周面を覆う絶縁層を備えるものとすれば、前記第1の集電体の外縁と前記第2の集電体の外縁とが物理的に短絡することをより確実に防止することができるので、より確実に正極層と負極層との間の短絡を防止することができる。
【0010】
前記絶縁層が樹脂を含有する全固体電池を挙げることができる。
【0011】
前記絶縁層が、さらに絶縁性フィラーを含有するものであれば、絶縁性フィラーによって前記絶縁層材料同士の密着性を向上させ、前記絶縁層を加圧形成する際や使用時における前記絶縁層の強度を向上させることができる。また、前記絶縁層の表面に細かな凹凸が形成されるので、第1の固体電解質層を積層する際に固体電解質層が絶縁層からより剥がれ落ちにくくすることもできる。
【0012】
前記絶縁性フィラーが、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンからなる群より選ばれる1種以上の物質からなるものであるものであれば、コストの上昇を小さく抑えることができる。
【0013】
正極層が、前記第1の集電体と、前記第1の活物質層と、前記絶縁層とを備え、負極層が前記第2の集電体と、前記第2の活物質層とを備え、少なくとも前記集電部が配置されている側の前記第2の集電体の外縁の一部又は全部が、前記絶縁層上に位置するように積層されているものであれば、前記絶縁層が前記第2の集電体の外縁よりも外側にあるので、正極層と負極層との間の短絡をより確実に防止することができる。
【0014】
前記固体電解質層が、リチウム、リン及び硫黄を少なくとも含む硫化物系固体電解質を含有する全固体電池とすれば、より電池性能を向上させることができる。
【0015】
前記負極層は、リチウムと合金を形成する負極活物質及び/又はリチウムと化合物を形成する負極活物質を含み、充電時に前記負極層の内部に金属リチウムが析出可能であり、前記全固体電池の容量の80%以上が金属リチウムにより発揮されるものである全固体電池であれば、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる。
【0016】
本発明の具体的な実施態様としては、前記負極層は、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫及び亜鉛からなる群より選択されるいずれか一種以上を含むものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記固体電解質層が少なくとも2層積層されているので、短絡を従来よりも効果的に抑えることができる。
そのため、前記正極層の厚みを大きくし、かつ前記固体電解質層の厚みを小さくして、エネルギー密度を従来よりも向上させた場合であっても、短絡が起こりにくい全固体電池を提供することができる。
さらに、電池を構成する各層が、第1の集電体を中心として、その両側に均等に積層されているので、全固体電池を加圧成形する際に、第1の集電体の不要な湾曲を抑えることができる。その結果、正極層と負極層とが接触することによって引き起こされる短絡をも防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図6】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図7】本実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す拡大平面図である。
図8】本発明の実施例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図9】本発明の実施例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図10】本発明の比較例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図11】本発明の比較例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図12】本発明の比較例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図13】本発明の比較例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
図14】本発明の比較例に係る全固体二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素は、説明の容易化のために適宜拡大または縮小されており、図中の各構成要素の大きさ、比率は、実際のものとは異なる場合がある。
【0020】
<1.本発明の実施形態>
<1-1.全固体二次電池の構成>
まず、図1に基づいて、本発明の実施形態に係る全固体二次電池1の構成について説明する。全固体二次電池1は、図1に示すように、正極層10、負極層20及び固体電解質層30を備えるものである。
本実施形態に係る全固体二次電池1は、例えば、正極層10を外側から挟むように正極層10の両面に固体電解質層30が形成されており、この固体電解質層30をさらに外側から挟むように正極層10と対をなす負極層20がそれぞれ一層ずつ配置されている。
【0021】
(1-1-1.正極層)
正極層10は、第1の集電体である正極集電体11及び第1の活物質層である正極活物質層12とを含む。
正極集電体11としては、例えば、ステンレス鋼、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)又はこれらの合金からなる板状体または箔状体等を挙げることができる。
なお、正極集電体11は、全固体二次電池1の使用時において、前記正極種電体の端部に取り付けられた正極集電部111および図示しない端子(集電タブ)を介して配線に接続される。
正極活物質層12は、正極集電体11の両面に配置されている。正極活物質層12は、正極活物質及び固体電解質を含有する。
正極活物質層12に含有される固体電解質は、固体電解質層30に含有される固体電解質と同種のものであっても、同種でなくてもよい。固体電解質の詳細は、後述する固体電解質層30の項にて説明する。
【0022】
前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質であればよい。
【0023】
例えば、前記正極活物質は、例えば、粉末状又は粒状のものであり、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、又は酸化バナジウム等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
また、前記正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで「層状」とは、薄いシート状の形状を表す。また、「岩塩構造」とは、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0025】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を挙げることができる。
【0026】
前記正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0027】
前記正極活物質は、被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体二次電池1の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO-ZrO等を挙げることができる。
【0028】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0029】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極層10における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極層10に適用可能な範囲であれば良い。
【0030】
また、正極活物質層12には、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン伝導助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0031】
正極活物質層12に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極活物質層12に配合可能なバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極活物質層12に配合可能なフィラー、分散剤、イオン伝導助剤等としては、一般に全固体二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0032】
本実施形態では、前記正極層10が該記正極層10の積層方向とは異なる面である側周面を覆う絶縁層をさらに具備している。
前記絶縁層は、電気を通さない素材であれば良いが、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン、またはこれらのコポリマーなどの樹脂などを含有する樹脂フィルムを挙げることができる。このような樹脂フィルムであれば、加圧成形によって、前記正極層に密着させて剥がれ落ちにくくすることができる。また、前記絶縁層が、これらの樹脂に絶縁性のフィラーなどを混ぜ込んだものであればなお良い。前記絶縁層が絶縁性フィラーを含有することによって、前記絶縁層を形成している絶縁層材料同士の密着性が良くなり、前記絶縁層を加圧形成する際や使用時における、前記絶縁層の強度を向上させることができる。また、前記絶縁層が、樹脂とともに絶縁性のフィラーを含有することによって、前記絶縁層の表面に絶縁性フィラーを混ぜ込むことによる微細な凹凸を形成することができる。この絶縁層表面の凹凸形状によって、第1の固体電解質層を積層する際に固体電解質層が絶縁層からより剥がれ落ちにくくすることもできる。前記絶縁性フィラーは、粒子状、繊維状、針状又は板状のものなど様々な形状のものを使用することができる。これらの中でも、前記効果を特に顕著に奏するものとして繊維状の絶縁性フィラーを使用することが好ましい。
前記絶縁性フィラーとしては、コスト上昇を抑える観点から、例えば、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンからなる群より選ばれる1種以上の物質からなるものを使用することが好ましい。
【0033】
(1-1-2.負極層)
負極層20は、第2の集電体である、例えば、板状または箔状の負極集電体21と、該負極集電体21上に形成された第2の活物質層である負極活物質層22とを含む。
負極集電体21は、本実施形態では、全固体二次電池1の積層体の最外層を形成するものである。
この負極集電体21は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。
負極集電体21を構成する材料としては、ステンレスのほかに、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)などを挙げることができる。
負極集電体21は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金またはクラッド材で構成されていても良い。
【0034】
負極活物質層22は、例えば、リチウムと合金を形成する負極活物質とリチウムと化合物を形成する負極活物質とのうちの少なくとも一方を含む。そして、負極活物質層22は、このような負極活物質を含有することにより、以下に説明するように、負極活物質層22の一方又は両方の表面上に金属リチウムを析出させることができるように構成されていても良い。
【0035】
前記負極活物質は、例えば、無定形炭素、金、白金、パラジウム(Pd)、ケイ素(Si)銀、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫、アンチモン、および亜鉛等を挙げることができる。
ここで、前記無定形炭素としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやグラフェン等を挙げることができる。
【0036】
負極活物質の形状は、特に限定されず、粒状であっても良いし、例えば、めっき層のような均一な層状のものであってもよい。
前者の場合、リチウムイオンは、粒状の負極活物質同士の隙間を通過して、負極活物質層22と負極集電体21との間に主にリチウムからなる金属層が形成され、一部のリチウムは負極活物質内の金属元素と合金を形成するなどして負極活物質層内に存在する。
一方で、後者の場合、負極活物質層22と固体電解質層30との間に前記金属層が析出する。
【0037】
上述した中でも、負極活物質層22は、無定形炭素として、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が100m/g以下である低比表面積無定形炭素と、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が300m/g以上である高比表面積無定形炭素との混合物を含むことが好ましい。
【0038】
負極活物質層22は、これらの負極活物質のいずれか一種だけを含有していても良いし、2種以上の負極活物質を含有していても良い。例えば、負極活物質層22は、負極活物質として無定形炭素のみを含有していても良いし、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を含有していてもよい。また、負極活物質層22は、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上と無定形炭素との混合物を含有していても良い。
【0039】
無定形炭素と前述した金などの金属との混合物の混合比(質量比)は、1:1~1:3程度であることが好ましい、負極活物質をこれらの物質で構成することで、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0040】
前記負極活物質として、無定形炭素とともに金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を使用する場合、これら負極活物質の粒径は4μm以下であることが好ましい。この場合、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0041】
また、負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な物質、例えば、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を使用する場合、負極活物質層22は、これら金属からなる層であってもよい。例えば、この金属の層は、めっき層であってもよい。
【0042】
負極活物質層22は、必要に応じて、さらにバインダを含んでも良い。このバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PET)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。バインダは、これらの1種で構成されていても、2種以上で構成されていてもよい。このようにバインダを負極活物質層22に含めることにより、特に負極活物質が粒状の場合に、負極活物質の離脱を抑えることができる。負極活物質層22に含有されるバインダの含有率は、負極活物質層22の総質量に対して、例えば、0.3質量%以上20.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0043】
また、負極活物質層22には、従来の全固体二次電池で使用される添加剤、例えばフィラー、分散材、イオン伝導材などが適宜配合されていても良い。
【0044】
負極活物質層22の厚みは、負極活物質が粒状の場合には、特に制限されないが、例えば、1.0μm以上20.0μm以下、好ましくは1.0μm以上10μm以下である。このような厚みにすることにより、負極活物質層22の上述した効果を十分に得つつ負極活物質層22の抵抗値を十分に低減でき、全固体二次電池1の特性を十分に改善できる。
一方で、負極活物質層22の厚みは、負極活物質が均一な層を形成する場合には、例えば、1.0nm以上100.0nm以下である。この場合の負極活物質層22の厚みの上限値は、好ましくは95nm、より好ましくは90nm、さらに好ましくは50nmである。
【0045】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、負極活物質層22は、全固体二次電池1の負極活物質層22として、利用可能な任意の構成を採用することが可能である。
例えば、負極活物質層22は、負極活物質と、固体電解質と、負極層導電助剤とを含む層であっても良い。
【0046】
この場合、例えば、負極活物質として金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を用いることができる。金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、及びケイ素(Si)等の金属、ならびにこれらの合金等を用いることができる。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alchol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、及び難黒鉛化性炭素等を用いることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられても良く、また2種以上を組み合わせて用いられても良い。
【0047】
負極層導電助剤および固体電解質は、正極活物質層12に含まれる導電剤及び固体電解質と同様の化合物を用いることができる。そのため、これらの構成についてのここでの説明は省略する。
【0048】
(1-1-3.集電部)
前記正極集電体11及び前記負極集電体21は、集電部を介して外部の配線に接続されている。前記集電部は、正極集電体11を外部の配線に接続する正極集電部111と、負極集電体21を外部の配線に接続する負極集電部211とを備えている。
前記正極集電部111は、例えば、前記正極集電体11と同じ素材で形成されたものである。該正極集電部111は、前記正極集電体11から延出するように一体に形成されていても良いし、別途形成した後に前記正極集電体11に取り付けるようにしても良い。この場合、別途形成した正極集電部111は正極集電体11と異なる素材であってもよい。
前記負極集電部211は、例えば、前記負極集電体21と同じ素材で形成されたものである。該負極集電部211は、前記負極集電体21から延出するように一体に形成されていても良いし、別途形成した後に前記負極集電体21に取り付けるようにしても良い。この場合も別途形成した負極集電部211は負極集電体21と異なる素材であってもよい。
より具体的に説明すると、前記正極集電体11は、全固体二次電池1の使用時において、該正極集電体11の一端部に取り付けられた正極集電部111および図示しない端子(集電タブ)を介して配線に接続される。
同様にして、前記負極集電体21は、全固体二次電池1の使用時において、該負極集電体21の一端部に取り付けられた負極集電部211および図示しない端子(集電タブ)を介して配線に接続される。
【0049】
(1-1-4.固体電解質層)
前記固体電解質層30は、正極層10と負極層20との間に形成される層であり、固体電解質を含むものである。
本実施形態では、固体電解質層30は、一対の正極層10と負極層20との間に2層積層されている。本実施形態では、説明の都合上、これら固体電解質層30をそれぞれ正極層10に近い側から第1固体電解質層30a及び第2固体電解質層30bと呼ぶこととする。これら第1第2の順序は、特に限定されるものではなく、あくまで説明上のものである。
これら第1固体電解質層30aと第2固体電解質層30bとは、同じ組成のものであっても良いし、異なる組成のものとしても良い。またその厚みについても同じであっても良いし、異なっていても良い。
これら第1固体電解質層30a又は第2固体電解質層30bの厚みは、電池として完成した状態での1層の厚みが5μm以上100μm以下であればよい。この厚みは8μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0050】
前記固体電解質は例えば、粉末状のものであり、例えば硫化物系固体電解質材料で構成される。
該硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Br、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、前記硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0051】
また、固体電解質として、上記の硫化物系固体電解質材料のうち、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する材料を用いることが好ましい。これにより、固体電解質層30のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池1の電池特性が向上する。特に、固体電解質として少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものを使用するのが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0052】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。また、固体電解質層30には、バインダを更に含んでいても良い。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリアクリル酸(poly acrylic acid)等を挙げることができる。固体電解質層30内のバインダは、正極活物質層12および負極活物質層22内のバインダと同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0053】
<1-2.全固体二次電池の製造>
続いて、本実施形態に係る全固体電池の製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。
【0054】
本実施形態に係る全固体二次電池1の製造方法は、以下の通りである。
(1-2-1.正極層の作製)
正極活物質層12を構成する材料(正極活物質、バインダ等)を非極性溶媒に添加することで、スラリー(slurry)(スラリーはペースト(paste)であってもよい。他のスラリーも同様である。)を作製する。ついで、図3(a)に示すように、得られたスラリーを矩形板状の正極集電体11の両表面に塗布し、乾燥する。このようにして得られた積層体をアルミ板上に置き、この積層体の周囲に絶縁層を形成する絶縁層材料を配置して、全体をラミネートパックして加圧(例えば、静水圧を用いた加圧)し、図3(b)にしめす正極層10を作製する。
【0055】
(1-2-2.負極層の作製)
負極活物質層22を構成する材料(負極活物質、バインダ等)を極性溶媒または非極性溶媒に添加することで、スラリーを作製する。ついで、図4(a)に示すように、得られたスラリーを矩形板状の負極集電体21上に塗布し、乾燥することにより負極層20を作製する。
【0056】
(1-2-3.固体電解質層の作製)
固体電解質層30は、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質により作製することができる。
本実施形態では、固体電解質層30を2層形成するので、そのうちの一層を独立した固体電解質シートとして作製し、残りの一層を前記負極層20の表面に積層させた電解質負極構造体20Bとして作製する。
【0057】
(1-2-4.電解質負極構造体の作製)
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0058】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0059】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0060】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質と、他の添加剤、例えば、バインダ等と分散媒とを含むスラリーまたはペースト状の液体状組成物を作製する。分散媒としては、キシレン、ジエチルベンゼンなどの汎用の非極性溶媒を用いることができる。固体電解質及び他の添加物の濃度は、形成する固体電解質層30の組成及び液状組成物の粘度などに応じて、適宜調節することができる。
【0061】
次いで、固体電解質を含む液状組成物を用いて、スクリーン印刷により負極活物質層22上の全面に組成物を塗布し、乾燥させることにより、図4(b)に示すような、固体電解質層(第2固体電解質層30b)を形成することができる。この積層体を電解質負極構造体20Bと呼ぶ。スクリーン印刷において、スクリーンのメッシュ数は、60以上300以下とすることができる。使用する固体電解質の粒径や液状組成物の粘度にもよるが、メッシュが粗い場合には、粗大な粒子を除去できず、一方メッシュが細かすぎる場合には、固体電解質層30の良好な塗布ができない。
【0062】
(1-2-5.固体電解質シートの作製)
前述した固体電解質の液状組成物を表面が離型処理されたPETフィルム上にブレードで塗工し、乾燥させた後、PETフィルム上に第1固体電解質層30aが形成された固体電解質シートを作製する。
【0063】
(1-2-6.積層工程)
前述したようにして作製した正極層10の両面に、図5(a)にしめすように、正極層10と同じ形状またはより大きな形状になるように打ち抜いた固体電解質シートを積層し、これらをプレスすることによって、図5(b)に示すように、正極層10と固体電解質層30(第1固体電解質層30a)とを密着させ一体化する。固体電解質層が正極層10より大きな形状の場合、正極層10に収まらない余分な固体電解質層は除去することもできる。この積層体を、電解質正極構造体10Aと呼ぶことにする。
次に、図6(a)に示すように、この電解質正極構造体10Aの両面に、前述した電解質負極構造体20Bを、前記電解質正極構造体10Aの第1固体電解質層30aと前記電解質負極構造体20Bの第2固体電解質層30bとが互いに接するように積層し、プレスすることにより図6(b)に示す全固体二次電池1が完成する。
【0064】
本実施形態では積層工程において、正極層10及び第1固体電解質層30aの外縁1Eが負極層20及び第2固体電解質層30bの外縁2Eよりも外側になるようにしてある。
第1固体電解質層30aの外縁1Eは、負極層20及び第2固体電解質層30bの外縁2Eよりも、例えば、1μm以上2mm以下の範囲で外側にずれて配置されていればよい。このずれ幅の範囲は、0.05mm以上1mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.5mm以下の範囲であればより好ましい。
より具体的には、図7に示すように、本実施形態では、前記負極層20の前記負極集電体21の外縁2Eが前記正極層10に設けられた前記絶縁層の外縁1Eよりは内側であり、前記絶縁層上に位置するように積層してある。
このように構成すれば、外部からの圧力によって負極層20が正極層10側に押し付けられて変形してしまった場合であっても、正極層10と負極層20の外縁2Eとの間での物理的な短絡を抑制することができる。
特に、負極層20の外縁2Eと、正極層10とが正極集電部111を介して物理的な短絡を起こしやすいので、図7に示すように、正極層10の外縁1Eの一部が、少なくとも正極集電部111が配置されている端側において、負極層20の外縁2Eよりも外側にあれば良い。このようにしておけば、正極集電部111と負極集電体21の外縁2Eとが接触することによる正極層10と負極層20との間の短絡を防止することができる。正極層10の外縁1Eの一辺又は全周が負極層20の外縁2Eよりも外側にあるようにしても良い。
【0065】
正極層10の外縁1Eとは、正極層10から外部に電流を取り出すための正極集電部111を除いた正極層10の積層方向ではない周囲の縁(外縁)を指し、本実施形態においては、例えば、絶縁層の外縁である。また、負極層20の外縁2Eとは、負極層20から外部に電流を取り出すための負極集電部211を除いた負極層20の積層方向ではない周囲の縁(外縁)を指し、本実施形態においては、例えば、負極活物質層22の外縁である。
【0066】
<1-3.本実施形態に係る全固体二次電池の充放電>
本実施形態に係る全固体二次電池1の充放電について以下に説明する。
本実施形態に係る全固体二次電池1は、その充電時の初期においては、負極活物質層22内のリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質がリチウムイオンと合金又は化合物を形成することにより、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。その後、負極活物質層22の容量を超えた後は、負極活物質層22の一方又は両方の表面上に金属リチウムが析出し、金属リチウム層が形成される。金属リチウムは、合金又は化合物を形成可能な負極活物質を介して拡散しつつ形成されたものであるため、樹枝状(デンドライト状)ではなく、負極活物質層22の表面に沿って均一に形成されたものとなる。放電時には、負極活物質層22及び前記金属リチウム層中から金属リチウムがイオン化し、正極活物質層12側に移動する。したがって、結果的に金属リチウム自体を負極活物質として使用することができるので、エネルギー密度が向上する。
【0067】
さらに、前記金属リチウム層が、負極活物質層22と負極集電体21との間、すなわち負極層20の内部、に形成する場合、負極活物質層22は、前記金属リチウム層を被覆する。これにより、負極活物質層22は金属層の保護層として機能する。これにより、全固体二次電池1の短絡及び容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0068】
負極活物質層22において、金属リチウムの析出を可能とする方法としては、例えば、正極活物質層12の充電容量を負極活物質層22の充電容量より大きくする方法を挙げることができる。具体的には、正極活物質層12の充電容量と負極活物質層22の充電容量との比(容量比)は、以下の数式(1)の要件を満たす。
0.002<b/a<0.5 (1)
a:正極活物質層12の充電容量(mAh)
b:負極活物質層22の充電容量(mAh)
【0069】
前記数式(1)で表される容量比が0.002以下の場合、負極活物質層22の構成によっては、負極活物質層22がリチウムイオンからの金属リチウムの析出を十分に媒介できず、金属リチウム層の形成が適切に行われなくなる場合がある。また、前記金属リチウム層が負極活物質層22と負極集電体21との間に生じる場合、負極活物質層22が保護層として十分機能しなくなる場合がある。上記容量比は、好ましくは、0.01以上、より好ましくは0.03以上である。
【0070】
また、上記容量比が0.5以上であると、充電時において負極活物質層22がリチウムの大部分を貯蔵していまい、負極活物質層22の構成によっては金属リチウム層が均一には形成されない場合がある。上記容量比は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。
【0071】
容量比は0.01より大きいことがより好ましい。容量比が0.01以下となる場合、全固体二次電池1の特性が低下する。この理由としては、負極活物質層22が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。例えば、負極活物質層22の厚さが非常に薄い場合、容量比が0.01以下となりうる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層22が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下する。また、前記容量比は、0.5よりも小さいことが好ましい。前記容量比が0.5以上になると、負極におけるリチウムの析出量が減って、電池容量が減ってしまうことが考えられるからである。同様の理由から、前記容量比が0.25未満であることがより好ましいと考えられる。また、前記容量比が0.25未満であることによって電池の出力特性も、より向上させることができる。
【0072】
ここで、正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に正極活物質層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極活物質層12の充電容量とすれば良い。負極活物質層22の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に負極活物質層22中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極活物質層22の容量とすれば良い。ここで、正極および負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極活物質層12および負極活物質層22の充電容量が直接測定される。
【0073】
充電容量を直接測定する具体的な方法としては、以下の様な方法を挙げることができる。まず正極活物質層12の充電容量は、正極活物質層12を作用極、Liを対極として使用した全固体ハーフセルを作製し、OCV(開放電圧)から上限充電電圧までCC-CV充電を行うことで測定する。該上限充電電圧とは、JIS C 8712:2015の規格で定められたものであり、リチウムコバルト酸系の正極に対しては4.25V、それ以外の正極についてはJIS C 8712:2015のA.3.2.3(異なる上限充電電圧を適用する場合の安全要求事項)の規定を適用して求められる電圧を指す。負極活物質層22の充電容量については、負極活物質層22を作用極、Liを対極として使用した全固体ハーフセルを作製し、OCV(開放電圧)から0.01VまでCC-CV充電を行うことで測定する。
【0074】
このようにして測定された充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電容量密度が算出される。正極活物質層12の充電容量は、1サイクル目の充電時に測定される初期充電容量であってもよい。
【0075】
本発明の実施形態では、負極活物質層22の充電容量に対して正極活物質層12の充電容量が過大になるようにしてある。後述するように、本実施形態では、全固体二次電池1を、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。すなわち、負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金または化合物を形成する。負極活物質層22の容量を超えて充電が行われると、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって金属リチウム層が形成される。
【0076】
このような現象は、負極活物質を特定の物質、すなわちリチウムと合金又は化合物を形成する物質で構成することで生じる。放電時には、負極活物質層22および金属リチウム層中のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、全固体二次電池1では、金属リチウムを負極活物質として使用することができる。より具体的には、負極層20の充電容量の80%以上を金属リチウムにより発揮されるようにすることが好ましい。
【0077】
さらに、負極活物質層22は、金属層を前記固体電解質層30側から被覆するので、金属リチウム層の保護層として機能するとともに、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池1の短絡および容量低下がより効率よく抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0078】
本発明に係る全固体二次電池1は、前述したものに限られない。
例えば、第1の集電体が負極集電体であり、第1の活物質層が負極活物質層であり、第2の集電体が正極集電体であり、第2の活物質層が正極活物質層であるものとしても良い。すなわち、負極層20を挟むように、この負極層20と対をなす正極層10を2層設けても良い。この場合には、負極層20の外縁が正極層10の外縁よりも外側にあるようにしても良い。
【0079】
前記実施形態では、正極層10が絶縁層を備えるものを説明したが、負極層20が絶縁層を備えるようにしても良いし、正極層10と負極層20との両方に絶縁層が設けられていても良い。
正極層10と負極層20との間に設けられている固体電解質層30は、少なくとも2層積層されていればよく、3層や4層又はそれ以上積層されていても良い。
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に限らず、固体電解質層30を備える全固体電池に広く応用できるものである。
【実施例
【0080】
(実施例1)
次に、上述した実施形態の実施例を説明する。実施例1では、以下の工程により全固体二次電池を作製し、作製した二次電池について評価を行った。
[正極層の作製]
正極活物質としてのLiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA)三元系粉末と、硫化物系固体電解質としてのLi2S-P2S5(80:20モル%)非晶質粉末と、正極層導電性物質(導電助剤)としての気相成長炭素繊維粉末とを60:35:5の質量%比で秤量し、自転公転ミキサを用いて混合した。
次いで、この混合粉に、結着剤としてのSBRが溶解した脱水キシレン溶液をSBRが混合粉の総質量に対して5.0質量%となるように添加して1次混合液を作製した。
この1次混合液に、粘度調整のための脱水キシレンを適量添加することで、2次混合液を作製した。
さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように2次混合液に投入した。
これにより生成された3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、正極活物質層塗工液を作製した。
次いで、正極集電体11として厚さ20μmのアルミ箔集電体を用意し、卓上スクリーン印刷機に正極集電体11を載置し、厚みが150μmのメタルマスクを用いて前記正極活物質層塗工液をシート上に塗工した。その後、正極活物質層塗工液が塗工されたシートを60℃のホットプレートで30分乾燥させた後、裏面側にも塗工し、さらに60℃のホットプレートで30分乾燥させた後、80℃で12時間真空乾燥させた。これにより、正極集電体11上の両面に正極活物質層12を形成した。乾燥後の正極集電体11及び正極活物質層12の総厚さは330μm前後であった。
絶縁性の樹脂フィルムをトムソン刃で打ち抜いて正極活物質層12をその周囲から丁度囲める大きさのリング状にしたものを用意した。正極集電体11及び正極活物質層12を厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、前述した樹脂フィルムのリングを正極活物質層12の周囲に配置した後、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、490MPaにて静水圧処理(圧密化工程)を行うことで、樹脂フィルムは正極集電体11及び正極活物質層12と一体化した。
この正極集電体11の両面に正極活物質層12が積層され、これら正極活物質層12の積層方向とは異なる側周面を覆う絶縁層を備えたものを正極層10と呼ぶこととする。
【0081】
[負極層の作製]
負極集電体21として厚さ10μmのニッケル箔集電体を用意した。また、負極活物質として、旭カーボン社製CB1(窒素吸着比表面積は約339m/g、DBP給油量は約193ml/100g)、旭カーボン社製CB2(窒素吸着比表面積は約52m/g、DBP給油量は約193ml/100g)、および粒径3μm(粒径は上述した方法で測定した)の銀粒子を準備した。
ついで、1.5gのCB1、1.5gのCB2、1gの銀粒子を容器に入れ、そこへバインダ(クレハ社製#9300)5質量%を含むN-メチルピロリドン(NMP)溶液を4g加えた。ついで、この混合溶液に総量30gのNMPを少しずつ加えながら混合溶液を撹拌することで、スラリーを作製した。このスラリーをNi箔上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で80℃で約20分間乾燥させ負極活物質層22を形成した。これにより得られた積層体を100℃で約12時間真空乾燥した。以上の工程により、負極層20を作製した。
【0082】
[電解質スラリーの作製]
硫化物系固体電解質としてのLi2S-P2S5(80:20モル%)非晶質粉末に、固体電解質に対して1質量%となるように、脱水キシレンに溶解したSBRバインダを添加して1次混合スラリーを生成した。さらに、この1次混合スラリーに、粘度調整のための脱水キシレンおよび脱水ジエチルベンゼンを適量添加することで、2次混合スラリーを生成した。さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように3次混合スラリーに投入した。これにより作製した3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、電解質層塗工スラリーを作製した。
【0083】
[固体電解質シートの作製]
作製した電解質層塗工スラリーを、表面が離型処理されたPETフィルム上にブレードで塗工し、40℃のホットプレートで10分乾燥させた後、40℃で12時間真空乾燥させ固体電解質シートを得た。乾燥後の電解質層の厚みは15μm前後であった。乾燥した固体電解質シートはトムソン刃で打ち抜き、所定の大きさに加工した。
【0084】
[電解質正極構造体の作製]
第1固体電解質層30aと正極活物質層12が接触するように正極層10を、両側から固体電解質シート挟むように電解質シートを配置し、これらを厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、100MPaにて静水圧処理(圧密化工程)を行うことで、電解質シート上の電解質層は正極層10と一体化した。これを電解質正極構造体10Aと呼ぶこととする。
【0085】
[電解質負極構造体の作製]
卓上スクリーン印刷機に負極層20を載置し、メタルスクリーンマスク(ES-100/78 P-500)を用い固体電解質スラリーを負極層20の負極活物質層22上に塗工した。その後、40℃のホットプレートで10分乾燥させた後、40℃で12時間真空乾燥させ、固体電解質層30を形成した。乾燥後の電解質層の厚みは35μm前後であった。固体電解質層30が塗工された負極を所定の大きさにトムソン刃で打ち抜いた後、厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、10MPaにて静水圧処理(圧密化工程)を行ったものを電解質負極構造体20Bと呼ぶこととする。
【0086】
[固体電池の作製]
作製した1つの電解質正極構造体10Aを2つの電解質負極構造体20Bで、固体電解質層同士が接触する形に挟むように配置した。この際、電解質負極構造体20Bの端部が電解質正極構造体10Aの端部より、集電タブ側からみて反対方向へ若干ずらして配置した。
この構造で真空ラミネートパックを行った後、厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、490MPaにて静水圧処理(圧密化工程)を行った。これにより、固体電池1の単セル(単電池)を作製した。
【0087】
[固体電池の評価]
上記の手順で作製した全固体電池の単セルを上下2枚の金属板で挟み、あらかじめ金属板に開けた穴に皿バネを入れたネジを通し、電池への印加圧力が3.0MPaとなるようネジを締め付けた。電池の特性評価は、60℃で、0.5Cの定電流で、上限電圧4.2Vまで充電した後、0.1Cの電流になるまで定電圧で充電し、放電は終止電圧2.5Vまで0.5C放電する充放電サイクルで充放電評価装置 TOSCAT-3100により評価した。この評価結果を図8に示す。
【0088】
(実施例2)
電解質シートを正極層10と一体化させる静水圧処理(転写法)の条件を20MPaで処理した以外は実施例1と同じ手順で固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図9に示す。
【0089】
(比較例1)
電解質負極構造体20Bの電解質層厚みを50μm前後とし、電解質正極構造体10Aの代わりに電解質シートと一体化させていない正極層10を使用した。その他は実施例1と同じ手順で固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図10に示す。
【0090】
(比較例2)
電解質正極構造体10Aの電解質層厚みを50μm前後とし(転写条件は50MPa)、電解質負極構造体20Bの代わりに第2固体電解質層30bを塗布していない負極層20を使用した。その他は実施例と同じ手順で固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図11に示す。
【0091】
(比較例3)
実施例1の電解質負極構造体20Bおよび電解質正極構造体10Aの代わりに、負極層20および正極層10を使用した。さらに電解質層として、不織布に固体電解質スラリーを塗工し、乾燥させた後、トムソン刃で打抜いた厚みが80μm前後の自立固体電解質シートを使った。負極層20及び正極層10の間に固体電解質自立シートを一層挟み込んで490MPaにて静水圧処理(圧密化工程)を行った。このようにして固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図12に示す。
【0092】
(比較例4)
比較例2の電解質正極構造体10Aの作製において、電解質シートを正極層10と一体化させる静水圧処理(転写法)の条件を20MPaで処理して作製した固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図13に示す。
【0093】
(比較例5)
正極層10及び電解質正極構造体10Aの作製において、正極活物質層及び第1固体電解質層を正極集電体の片面のみに積層し、この電解質正極構造体に1つの電解質負極構造体を積層して固体電池を作製した以外は実施例1と同様にして作製した固体電池の単セルを作製し、実施例1と同一の充放電条件で評価した。この評価結果を図14に示す。
【0094】
図8図14において、黒丸で示したクーロン効率が初回のサイクル以外で100%からずれると電池に短絡が生じていることになる。そこで、実施例及び比較例で作製した各単セルについて、クーロン効率が99%未満となった時点で短絡が発生したと判断した。
その結果、正極層10と負極層20との間に固体電解質層30を2層積層した実施例1及び実施例2では、60サイクルを過ぎても短絡は起こらなかった。
一方、正極層10と負極層20との間に固体電解質層30を1層のみ設けた比較例1~4では、いずれも60サイクル未満で短絡が生じた。具体的には、比較例1は23サイクル目で短絡が生じた。比較例2は32サイクル目で短絡が生じた。比較例3は7サイクル目で短絡が生じた。比較例4は7サイクル目で短絡が生じた。
この結果から、正極層10と負極層20との間に固体電解質層30を2層以上積層すれば、固体電解質が1層のみの場合よりも短絡が生じにくくなることがわかった。
さらに、比較例3では、固体電解質層30の膜厚が80μmと厚いにもかかわらず、固体電解質層30の厚みが合計で50μmの実施例1及び実施例2よりも、早く短絡が生じている。この結果から、短絡抑制には固体電解質の厚みではなく、2層以上積層していることが重要であることが分かる。
【0095】
また、図14に示すように、第1の集電体の片面側のみに第1の活物質層、第1の固体電解質層及び電解質負極構造体を積層させた場合には、すぐに短絡が起こってしまった。このような結果になった理由としては、第1の集電体である正極集電体の片面のみに正極活物質層、固体電解質層及び電解質負極構造体を形成して静水圧で加圧形成すると、正極集電体の片面のみから圧力がかかるので、ラミネートパックを開封した時に、第1の集電体又は第2の集電体が湾曲してしまう。その結果、第1の集電体と第2の集電体との間で短絡が生じやすくなってしまうことが原因の一つであると考えられる。
一方、実施例1、実施例2では、第1の活物質層、第1の固体電解質層及び電解質負極構造体が第1の集電体を中心として、第1の集電体の両面側に均等に積層されているので、前述したような正極集電体及び第2の集電体の湾曲を防ぐことができる。その結果、第1の集電体と第2の集電体との間の短絡を抑制することができる。
【0096】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0097】
1 全固体二次電池
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 絶縁層
20 負極層
21 負極集電体
22 負極活物質層
30 固体電解質層
30a 第1固体電解質層
30b 第2固体電解質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14