(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】畜肉様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20240819BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240819BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240819BHJP
A23J 3/26 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
A23J3/00 503
A23J3/16 501
A23L13/00 Z
A23J3/26 501
(21)【出願番号】P 2019211674
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲柳▼ 智博
(72)【発明者】
【氏名】井川 菜央
【審査官】水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029565(JP,A)
【文献】特開2013-034417(JP,A)
【文献】特開平05-328908(JP,A)
【文献】特開2010-200627(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127694(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/043384(WO,A1)
【文献】特開2008-161105(JP,A)
【文献】特開2012-075358(JP,A)
【文献】特開昭52-154551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉様食品の製造方法であって、
組織状大豆蛋白素材、結着原料および水を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物に、粉末状大豆蛋白素材を添加して、さらに混合および混練し混練物を得る粉末状大豆蛋白素材の添加工程と、
前記混練物を成型する成型工程とを含
み、
前記結着原料は、水、結着剤用粉末状大豆蛋白素材および油脂を攪拌混合することで得られる大豆蛋白カードであることを特徴とする畜肉様食品の製造方法。
【請求項2】
前記組織状大豆蛋白素材が偏平形状の組織状大豆蛋白素材および/または棒状の組織状大豆蛋白素材である請求項1に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項3】
前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均長さが5mm以上、15mm以下であり、
前記棒状の組織状大豆蛋白素材の平均長さが、10mm以上、20mm以下である請求項2に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項4】
前記棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅は、3~10mmである請求項2または3に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項5】
前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均厚さは、1~5mmである請求項2~4のいずれか1項に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項6】
前記組織状大豆蛋白素材の吸水率が200~500%である請求項1~5のいずれか1項に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項7】
前記粉末状大豆蛋白素材の添加工程では、前記混合物に、前記粉末状大豆蛋白素材を前記組織状大豆蛋白素材の重量の0.05倍から0.5倍添加する請求項1~6のいずれか1項に記載の畜肉様食品の製造方法。
【請求項8】
前記結着原料は、結着原料用粉末状大豆蛋白素材を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の畜肉様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、畜肉原料を取り巻く社会情勢は厳しくなる現状があり、畜肉の代替原料あるいは増量剤として大豆蛋白質等の植物性蛋白質が使用される傾向が強まっている。
植物性蛋白は、加工食品の分野で広く利用されており、日本農林水産省において、「植物性たん白の日本農林規格」によって定義付けされている。この規格において、植物性蛋白の原材料は、大豆粉、脱脂大豆粉、小麦粉、小麦グルテン等から選ばれるものとされている。そして、植物性蛋白の種類は、粉末状植物性蛋白、ペースト状植物性蛋白、粒状植物性蛋白および繊維状植物性蛋白と区分されている(非特許文献1)。
【0003】
植物性蛋白の中でも、脱脂大豆や粉末状大豆蛋白素材を原料として組織化した組織状大豆蛋白素材は多様な用途に用いられており、ハンバーグやミートボール等の畜肉加工食品には挽肉の増量剤として組織状大豆蛋白が用いられている。
一方、組織状大豆蛋白素材の食感の特徴として、咀嚼時のほぐれや消失感が挽肉に比べて劣るという点が挙げられる。このような組織状大豆蛋白素材の食感改良について様々な研究がなされてきた。例えば、特許文献1のように組織状大豆蛋白素材が、所定長さの偏平形状の組織状大豆蛋白素材と、粒形状の組織状大豆蛋白素材を組合せたものであって、組織状大豆蛋白素材が還元糖を含むものが開示されているが、畜肉組織のほぐれ感が改善されているものの、咀嚼時の畜肉様組織の崩れ感が強すぎ、べたつき感があり、天然の上質の畜肉に比べてなお食感は劣ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「植物性たん白の日本農林規格」;ウェブサイト(URL:http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0001024.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、このような畜肉様食品について食感が天然の上質の畜肉に劣る理由として、組織状植物蛋白質を用いて製造した畜肉様食品は、組織状大豆蛋白素材と結着原料との密着性が低く、咀嚼時に組織状大豆蛋白質素材と結着原料が離間してしまい、畜肉様組織に崩れ、べたつき感を生じ、これが食感に違和感を与えている原因であることを突き止めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、咀嚼時に組織状大豆蛋白質素材と結着原料が離間することを防止することで、咀嚼時の畜肉様組織の崩れ、べたつき感を無くし、上質の畜肉の食感を忠実に再現できる畜肉様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、畜肉様食品の製造方法であって、組織状大豆蛋白素材、結着原料および水を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物に、粉末状大豆蛋白素材を添加して、さらに混合および混練し混練物を得る粉末状大豆蛋白素材の添加工程と、前記混練物を成型する成型工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本明細書において、「組織状大豆蛋白素材」とは、大豆由来の植物性蛋白であり、「植物性たん白の日本農林規格」に規定された粒状植物性蛋白および/または繊維状植物性蛋白からなる肉様の組織を有するもののことを意味する。
また、「粉末状大豆蛋白素材」とは、大豆由来の植物性蛋白であり、「植物性たん白の日本農林規格」に規定された「粉末状植物性たん白」のことを意味する。
【0010】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記組織状大豆蛋白素材は偏平形状の組織状大豆蛋白素材および/または棒状の組織状大豆蛋白素材であることが望ましい。
【0011】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均長さは5mm以上、15mm以下であり、前記棒状の組織状大豆蛋白素材の平均長さは、10mm以上、20mm以下であることが望ましい。
【0012】
本明細書において、「平均長さ」とは、乾燥状態における偏平形状または棒状の組織状大豆蛋白素材の平面視で最も長い部分を偏平形状または棒状の組織状大豆蛋白素材の長さと定義して、任意の300個の偏平形状または棒状の組織状大豆蛋白素材の長さを測定して、その平均値を平均長さとする。
【0013】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅は、3~10mmであることが望ましい。
なお、本明細書において、「棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅」とは、乾燥状態における棒状の組織状大豆蛋白素材の任意の300個について、棒状の組織状大豆蛋白素材の平面視で最も短い部分を計測して得られた値の平均値と定義する。
【0014】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均厚さは、1~5mmであることが望ましい。
なお、本明細書において、「偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均厚さ」とは、乾燥状態における偏平形状の組織状大豆蛋白素材の任意の300個について、偏平形状の組織状大豆蛋白素材の最も厚い部分を計測して得られた値の平均値と定義する。
【0015】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記組織状大豆蛋白素材の吸水率は200~500%であることが望ましい。
【0016】
本発明の畜肉様食品の製造方法に係る前記粉末状大豆蛋白素材の添加工程では、前記混合物に、前記粉末状大豆蛋白素材を前記組織状大豆蛋白素材の重量の0.05倍から0.5倍添加すること(すわなち、組織状大豆蛋白素材100重量部に対して、粉末状大豆蛋白素材が5~50重量部添加する)が望ましい。
【0017】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、前記結着原料は、結着原料用粉末状大豆蛋白素材 を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の畜肉様食品の製造方法により製造された畜肉様食品では、従来の組織状大豆蛋白素材を使用した畜肉様食品に比べ、咀嚼時の畜肉様組織の崩れ、べたつき感を無くすことができ、天然の上質な畜肉の食感を忠実に再現し、食感を天然の上質な畜肉と遜色のないものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の畜肉様食品の製造方法は、組織状大豆蛋白素材、結着原料および水を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物に、粉末状大豆蛋白素材を添加して、さらに混合および混練し混練物を得る粉末状大豆蛋白素材の添加工程と、前記混練物を成型する成型工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
組織状大豆蛋白素材、結着原料および水を混合してから、この混合物に粉末状大豆蛋白素材を後添加することで、組織状大豆蛋白素材と結着原料との混合時の大豆蛋白の総量を減らすことができる。このため、組織状大豆蛋白素材と結着原料との混合時に結着原料が凝集して、いわゆる“だま状態”になることを防止することができる。特に結着原料として大豆蛋白を使用する場合には、結着原料中の大豆蛋白量を減らすことができるので、組織状大豆蛋白素材と結着原料との混合時に結着原料が凝集して、いわゆる“だま状態”になることを確実に防止できる。それ故、畜肉様組織中の構成成分同士の結合力を高めることができ、咀嚼時における畜肉様組織の崩れ、べたつき感を無くし、天然の上質な畜肉の食感を忠実に再現でき、食感を天然の上質な畜肉と遜色のないものとすることができる。
以下、各工程について説明する。
【0021】
(混合工程)
本工程では、組織状大豆蛋白素材、結着原料および水を混合して混合物を得る。
【0022】
結着原料としては、油脂、ペースト状植物性蛋白、大豆蛋白カードおよび粉末状大豆蛋白素材が挙げられる。
結着原料として使用する粉末状大豆蛋白素材と、粉末状大豆蛋白素材の添加工程で使用する粉末状大豆蛋白素材とは同じであってもよい。
【0023】
なお、本明細書において、特に記載しない限り、便宜状、粉末状大豆蛋白素材の添加工程で使用する粉末状大豆蛋白素材を単に「粉末状大豆蛋白素材」と記載し、結着原料として使用する粉末状大豆蛋白素材を「結着剤用粉末状大豆蛋白素材」と記載する。
【0024】
また、「大豆蛋白カード」とは、水と粉末状大豆蛋白素材をミキサー等で攪拌混合し、さらにこれに必要に応じて油脂を添加してミキサー等で攪拌混合することで得られるエマルジョンである。大豆蛋白カード中、粉末状大豆蛋白素材は5~30重量%、必要であれば、油脂は5~20重量%の濃度で含まれていることが望ましい。油脂としてはキャノーラ油などの植物性油脂を使用できる。
混合物中の組織状大豆蛋白素材の重量割合は、1~20重量%であることが望ましい。
また、混合物中の結着原料の重量割合は、2~20重量%であることが望ましい。
【0025】
結着原料として結着剤用粉末状大豆蛋白素材を用いる場合、粉末状の大豆蛋白を2回に分けて混合することになる。
この場合、混合工程で使用する大豆蛋白の総量を減らすことができるので、組織状大豆蛋白素材と結着原料用粉末状大豆蛋白素材の混合時に結着原料用粉末状大豆蛋白素材が凝集して、いわゆる“だま状態”になることを防止することができる。
【0026】
また、本工程では、さらに副材料を加えてもよい。
副材料としては、油脂類糖類、調味料、色素等の生地の骨格を構成する材料のほか、人参、ごぼう、ごま、タマネギ等の野菜類、ワカメ、ひじき等の海藻類、挽肉等の肉類等の固形具材が挙げられる。
【0027】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、組織状大豆蛋白素材が偏平形状の組織状大豆蛋白素材および/または棒状の組織状大豆蛋白素材であることが望ましい。
偏平形状の組織状大豆蛋白素材は、畜肉様組織のマトリクスを、棒状組織は畜肉様組織の繊維構造をそれぞれ再現できるからである。
【0028】
本発明においては、偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均長さは、5mm以上、15mm以下であることが望ましい。
前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均長さが15mmを超える場合は、加熱調理後に畜肉様食品の硬さが高くなりすぎ、その一方、凝集性が低くなりすぎてしまい、食感が硬くなってしまう。
逆に前記偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均長さが5mm未満の場合は、加熱調理後に、畜肉様食品の硬さと凝集性が低くなってしまい、柔らかすぎる食感となる。
【0029】
また、棒状の組織状大豆蛋白素材の平均長さは、10mm以上、20mm以下であることが望ましい。
この範囲より長い場合は、加熱調理後に畜肉様食品の硬さが高くなりすぎ、その一方、凝集性が低くなりすぎてしまい、食感が硬くなってしまう。
逆にこの範囲より短い場合は、畜肉様食品の硬さと凝集性が低くなり、柔らかすぎる食感となってしまう。
【0030】
なお、凝集性とは、加重を掛けた場合における畜肉様組織の変形しやすさの指標であり、凝集性が高い場合は、加重が掛かった際に変形しやすく、破壊が起きにくいと言える。
凝集性も硬さもレオメーターを用いた粘弾性測定で計測することができる。
【0031】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、組織状大豆蛋白素材の吸水率は、200~500%であることが望ましい。
組織状大豆蛋白素材の吸水率が低すぎると、加熱調理時に水分や油分を吸収せず、硬さが高くなりすぎ、その一方、凝集性は低くなりすぎ、食感が硬くなる。
逆に前記組織状大豆蛋白素材の吸水率が高すぎると、加熱調理時に水分や油分を吸収して膨潤し、畜肉様食品の硬さが低下し、その一方、凝集性が高くなりすぎてしまうため、
食感が柔らかくなりすぎる。
【0032】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、偏平形状の組織状大豆蛋白素材の吸水率は、350~500%であることが望ましい。
偏平形状の組織状大豆蛋白素材の吸水率が低すぎると、加熱調理時に畜肉様食品が油や水分を含んだ場合でも、偏平形状の組織状大豆蛋白素材が膨張せず、畜肉様食品の硬さが高くなりすぎ、その一方、凝集性は低くなりすぎる。
逆に吸水率が高すぎると、加熱調理時に水や油により偏平形状の組織状大豆蛋白素材が膨張しすぎて、畜肉様食品の硬さが低下し、一方、凝集性が高くなりすぎてしまう。
【0033】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、棒状の組織状大豆蛋白素材の吸水率が200%以上、350%未満であることが望ましい。
棒状の組織状大豆蛋白素材の吸水率が低すぎると加熱調理時に畜肉様食品が水や油を含んだ場合でも、前記棒状の組織状大豆蛋白素材が膨張せず畜肉様食品の硬さが高くなりすぎ、その一方、凝集性は低くなりすぎる。
逆に吸水率が高すぎると加熱調理時に水や油により棒状の組織状大豆蛋白素材が膨張しすぎて、棒状の組織状大豆蛋白素材の補強効果が低下して畜肉様食品の硬さが低下し、一方、凝集性が高くなりすぎてしまう。
【0034】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、偏平形状の組織状大豆蛋白素材と棒状の組織状大豆蛋白素材とを重量比で2:8~8:2の割合で混合することが望ましい。
【0035】
本発明の畜肉様食品の製造方法では、棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅は、3~10mmであることが望ましい。
棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅が大きすぎると棒状の組織状大豆蛋白素材同士の絡み合いが少なくなり、畜肉様食品に対する補強効果が低下する。
逆に前記棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅が小さすぎると棒状の組織状大豆蛋白素材自体の強度が低くなり、畜肉様食品に対する補強効果がやはり低下してしまう。
なお、本明細書において、「棒状の組織状大豆蛋白素材の平均幅」とは、乾燥状態における棒状の組織状大豆蛋白素材の任意の300個について、棒状の組織状大豆蛋白素材の平面視で最も短い部分を計測して、その平均値と定義する
【0036】
また、本発明の畜肉様食品の製造方法では、偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均厚さは、1~5mmであることが望ましい。
厚すぎると加熱調理後の畜肉様食品の硬さと凝集性が高くなりすぎる。
逆に薄すぎても加熱調理後の畜肉様食品の硬さと凝集性が低下してしまう。
このような理由により、自然な畜肉の持つ硬さと凝集性から逸脱してしまう。
なお、本明細書において、「偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均厚さ」とは、乾燥状態における偏平形状の組織状大豆蛋白素材の任意の300個について、偏平形状の組織状大豆蛋白素材の最も厚い部分を計測して、その平均値と定義する。
【0037】
組織状大豆蛋白素材は、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白や脱脂大豆等の大豆蛋白原料に加水し、さらに必要に応じてシリカ等の食感改善のための無機粒子を加え、エクストルーダー(押出成型機)を用いて加圧加熱処理し、熱可塑性となった原料をスクリューの先端部に設けたダイ(口金)より押し出し、組織を所望な程度に膨化させ、次いで細断もしくは破砕、乾燥・冷却、整粒工程を経ることにより作製することができる。
この際、ダイの形状、細断もしくは破砕方法、整粒条件を調整することにより、組織状大豆蛋白素材の平均長さや厚さ等の形状を調整することができる。
これにより偏平形状や棒状の組織状大豆蛋白素材を作製することができる。
【0038】
加圧加熱処理は、公知のエクストルーダーを用い、公知の方法に従って行なうことができる。混練が強く安定的に組織化しやすい二軸以上の軸を有するエクストルーダーを用いることが好ましい。
【0039】
エクストルーダーの加熱条件は、80~150℃が望ましい。組織状大豆蛋白の偏平形状、棒状等の形状は、ダイの形状、細断もしくは破砕方法によって調整する。また、整粒方法としてはふるいや風力分級などの方法を採用することができる。さらに、パワーミルのように破砕とふるいによる整粒を同時に行う方法でもよい。これにより、組織状大豆蛋白素材を偏平形状や棒状にすることができる。
吸水率は、原料組成、エクストルーダーの加熱温度により調整することができる。
【0040】
(粉末状大豆蛋白素材の添加工程)
本工程では、混合工程で作製した混合物に、粉末状大豆蛋白素材を添加して、さらに混合および混練し混練物を得る。
本工程では、組織状大豆蛋白素材および結着原料の混合後に粉末状大豆蛋白素材を添加するため、混合時に粉末状大豆蛋白素材が凝集することを防止でき、畜肉様食品中の構成成分同士の結合力を改善できる。このため、咀嚼時における畜肉様組織の崩れ、べたつき感を無くし、しっかりした天然の上質な畜肉の食感を再現できる。
【0041】
粉末状大豆蛋白素材の添加工程において添加する粉末状大豆蛋白素材の量は、組織状大豆蛋白素材100重量部に対して、粉末状大豆蛋白素材が5~50重量部であることが望ましい(すなわち、粉末状大豆蛋白素材を組織状大豆蛋白素材の重量の0.05倍から0.5倍添加することが望ましい)。
粉末状大豆蛋白素材の添加量が少なすぎると畜肉様組織中の各構成成分同士の結合力が低下してしまう。
粉末状大豆蛋白素材の添加量が多すぎると粉末状大豆蛋白素材が凝集してしまい、やはり畜肉様組織中の各構成成分同士の結合力が低下してしまう。
そのため、添加する粉末状大豆蛋白素材の量が上記範囲から外れると、咀嚼時における畜肉様組織の崩れ、べたつき感が生じてしまい、天然の上質な畜肉の食感を再現しにくくなる。
【0042】
本工程では、サイレントカッター等の混練機で均一に混合および混練することが望ましい。
【0043】
(成型工程)
本工程では、上記混練物を成型する。
このような成型体は、焼成加熱、蒸し加熱、ボイル加熱、フライ加熱、電磁波加熱等を適宜組み合わせて用いることで加熱処理してもよい。加熱処理によって、成型された混練物が加熱凝固し、形状が安定化される。
【0044】
以上により得られた成型体は、ハンバーグ,ミートボール等の畜肉食品の形態として提供することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
(偏平形状の組織状大豆蛋白素材の作製)
脱脂大豆90重量部、粉末状大豆蛋白10重量部からなる主原料粉の重量に対して、シリカ0.7重量部を混合し、二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し21重量部の水を供給しながら出口温度100℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、厚み1mm幅15mmのスリットダイから押出して偏平なシート状の組織状大豆蛋白素材を作製した。
この偏平なシート状組織状大豆蛋白素材をパワーミルにて粉砕し、Φ12mmスクリーン通過品を回収して、偏平形状の組織状大豆蛋白素材とした。
【0046】
偏平形状の組織状大豆蛋白素材の吸水率を測定したところ410%であった。
吸水率は、以下のように測定した。以下、実施例、比較例中では、吸水率はこの方法で測定する。
まず、試料10gを200mLビーカーに入れ、そこに98℃の水を200g加え、5分間静置する。その後、篩を用いて5分間水切りを行った後、湯戻し後の試料の重量を測定する。吸水率を下記数式により算出する。
吸水率(%)=(湯戻し後の原料の固形分重量/原料10g中の固形分重量)×100
【0047】
また、乾燥状態における偏平形状の組織状大豆蛋白素材の平均値長さは12.3mmであり、平均厚みは3mmであった。偏平形状の組織状大豆蛋白素材の長さの分布を表1に示す。
この偏平形状の組織状大豆蛋白素材は、左右および上下方向に引っ張った場合でも、繊維状に裂けることはなかった。
【0048】
【0049】
(棒状の組織状大豆蛋白素材の作製)
脱脂大豆80重量部、粉末状大豆たん白20重量部からなる主原料粉の重量に対して、シリカ0.7重量部を混合し、二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し25重量部の水を供給しながら出口温度120℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、厚み1mm幅15mmのスリットダイから押出して偏平なシート状の組織状蛋白素材を作製した。シート状組織は出口にて押出方向に対し垂直方向にカットし、平均幅3.2mmの棒状の組織状大豆蛋白素材を作製した。棒状の組織状大豆蛋白素材の吸水率を測定したところ300%であった。
また、乾燥状態における棒状の組織状大豆蛋白素材の平均長さは12.8mmであり、平均厚みは3mmであり、平均幅は3.2mmであった。棒状の組織状大豆蛋白素材の長さの分布を表1に示す。
この棒状の組織状大豆蛋白素材は、長手方向に垂直に引っ張った場合でも、繊維状に裂けることはなかった。
【0050】
偏平形状の組織状大豆蛋白素材50重量部と棒状の組織状大豆蛋白素材を1:1の重量比で混合した素材を25℃、60分の条件で水に浸漬した後、原料中の固形分に対して重量比が330%となるように脱水することで水分を調整し、組織状大豆蛋白素材とした。
【0051】
(混合工程)
最初に、大豆蛋白カードを調製する。水12.8重量部に、粉末状大豆蛋白素材3.2重量部を加えてミキサーで攪拌する。ついでこれにキャノーラ油を1.6重量部加えて、ミキサーで攪拌してエマルジョン状態とし、大豆蛋白カードとした。
上記組織状大豆蛋白素材14.3重量部、水38重量部、上記大豆蛋白カード17.6重量部(キャノーラ油1.6重量部、粉末状大豆蛋白素材3.2重量部、水12.8重量部)、玉ねぎ20.8重量部、パン粉4.8重量部、塩0.5重量部、植物性野菜ブイヨン0.2重量部、ブラックペッパー0.05重量部、ココアパウダー0.1重量部を混合して混合物を作製した。
【0052】
(粉末状大豆蛋白素材の添加工程)
さらに、この混合物に4.3重量部の粉末状大豆蛋白素材を添加した後、混合および混練して混練物とした。
【0053】
(成型工程)
次に、混練物をハンバーグ形状に成型し、実施例1に係るハンバーグ様食品を製造した。
【0054】
(参考例1)
粉末状大豆蛋白素材の添加工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、参考例1に係るハンバーグ様食品を製造した。
【0055】
(参考例2)
混合工程において、組織状大豆蛋白素材18.6重量部、水38重量部、大豆蛋白カード17.6重量部、玉ねぎ20.8重量部、パン粉4.8重量部、塩0.5重量部、植物性野菜ブイヨン0.2重量部、ブラックペッパー0.05重量部、ココアパウダー0.1重量部を混合して混合物を作製し、粉末状大豆蛋白素材の添加工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、参考例2に係るハンバーグ様食品を製造した。
【0056】
(レオメーターによる評価)
実施例1、参考例1および参考例2に係るハンバーグ様食品を160~180℃で焼成して実施例1、参考例1および参考例2に係る焼成サンプルとした。このサンプルについてレオメーターによる粘弾性測定を実施する。
具体的には、レオメーターを用いた粘弾性測定によるテクスチャー解析により硬さ、凝集性を測定する。硬さはプランジャー押し込み時の最大荷重を面積で割った値であり、最初噛んだ時の食感の指標となる。
測定条件としては、直径Φ20mmのプランジャーを備えるレオメーター(SUN RHEO METER CR-100)により、テクスチャー解析モード、歪率50%、反復回数2回の条件で測定し、硬さを評価する。結果を表2に示す。
(食感評価)
実施例1、参考例1および参考例2に係る焼成サンプルを食し、食感を官能評価した。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
一般に、焼成した畜肉をレオメーターで計測すると、硬さは、0.5×107~1.5×107N/m2であり、実施例1、参考例1および参考例2ともこの数値範囲を満たしている。しかし、参考例1および参考例2では、咀嚼時に畜肉組織がぼろぼろ崩れてしまい、べたつき感があり、上質な畜肉を再現できているとは言い難い。
一方、本発明の畜肉様食品原料を用いて製造した畜肉様食品は、咀嚼時においても畜肉組織が崩れることがなく、べたつき感もないため、しっかりとした上質な天然畜肉の食感が維持されており、畜肉様食品として優れていることが分かる。