(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】強化された時計構成部品
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20240819BHJP
G04B 11/00 20060101ALI20240819BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240819BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G04B15/14 B
G04B15/14 Z
G04B11/00
B81B1/00
B81C1/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019227842
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-22
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファヴェズ, デニス
(72)【発明者】
【氏名】エニン, ステファノ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/113973(WO,A1)
【文献】特表2008-544290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
B81B 1/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未完成の時計構成部品を形成する部品が、微細加工可能な材料から作り出される、時計構成部品を製造する方法であって、少なくとも前記部品の表面の少なくとも一部を水素により平滑化することを含む平滑化工程を含み、前記時計構成部品を機械的に強化するために、前記部品の表面の少なくとも一部に、1ミクロンより大きい厚さを有する酸化膜を形成する工程を含む、時計構成部品
を製造する方法。
【請求項2】
前記未完成の時計構成部品を形成する部品を作り出す前記工程が、前記部品を微細加工することを含む、請求項1に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項3】
前記部品の表面の少なくとも一部を平滑化する前記工程は、水素による平滑化の工程の前に、酸化-還元による追加の平滑化の工程を含む、請求項1または2に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項4】
等方性エッチング液を使って前記部品を機械的に強化するための処理工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項5】
前記酸化膜は2ミクロン以上の厚みを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項6】
前記微細加工可能な材料はシリコンであり、前記酸化膜はシリコン酸化物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項7】
前記時計構成部品は、脱進装置のシリコンからなる時計構成部品である、請求項1から6のいずれか一項に記載の時計構成部品を
製造する方法。
【請求項8】
前記時計構成部品は、弾性によってエネルギーを放出しない、剛性を有する時計構成部品である、およびまたは爪車、がんぎ車、針、振り石およびつめを含む要素のグループのうちの一つである、請求項1から
7のいずれか一項に記載の時計構成部品
を製造する方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の時計構成部品を製造する方法で製造された時計構成部品であって、
微細加工可能な材料からなる時計構成部品であって、平滑化された少なくとも一つの微細加工可能な材料表面部分を含み、その機械的強度を増加させるために1ミクロンより大きい厚みを有する酸化膜を含む、時計構成部
品。
【請求項10】
前記時計構成部品は4000MPa以上の平均強度を有する、およびまたは前記時計構成部品は3000MPa以上の最低強度を有する、請求項9に記載の時計構成部
品。
【請求項11】
請求項9または10に記載の時計構成部品を
含む、時計ムーブメント。
【請求項12】
請求項9または10に記載の時計構成部品
か請求項11に記載の時計ムーブメントを含む、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工可能な材料、例えばシリコン、から時計構成部品を製造する方法に関する。また本発明は、時計構成部品、および時計ムーブメントと当該時計構成部品を含む時計に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンは、時計構成部品の製造に関して複数の利点を有する材料である。シリコンは一方でマイクロメートルレベルの精度を有する多数の小型部品を同時に製造することを可能とする。他方で、低密度であり反磁性の性質を示す。しかしながらこの材料は、以下の欠点を有する。塑性変形の性質を全く、もしくはほとんど、有しないため、この材料は脆い挙動を示す。機械的応力や衝撃により、まず変形することなく部品が破損する可能性がある。シリコンからなる時計構成部品の取り扱い、特にその製造および組立の際には、特に手際を要する。
【0003】
シリコンからなる時計構成部品の脆弱性は、一般的にディープエッチング技術、例えばディープ反応性イオンエッチング(DRIE)を使った、当該部品をシリコン基板から切り出す方法によって際立つ。このタイプのエッチング方法の特殊性は、わずかにしわになった側壁の表面に小さな波形または小さな咬痕のように見える(スカラップと呼ばれる)欠陥を有する開口を形成する点である。その結果、エッチングされた側壁は一定の粗さを有し、それにより部品の機械的強度が低下する。さらに、側壁の表面に存在するこれらの欠陥により、特に機械的応力の場合、クラック発生個所が生じ、材料の通常強度より低い応力を受けるだけで部品が破損する可能性がある。
【0004】
シリコンから作られる時計構成部品の機械的特性を向上させるため、複数の手法が従来から提案されてきた。
【0005】
特許文献1に記載された第一の手法は、900度から1200度の間の温度でシリコンを熱酸化させることにより、シリコン酸化膜を作成することからなる。作成された酸化膜は、部品の表面にあるシリコンがシリコン酸化物に変換された結果として得られる。この特許文献では、この層は少なくとも5nmの厚さであると記載され、実際には厳密に1ミクロン以下の厚さしかない。
【0006】
特許文献2には、上述した第一の手法の変形例が記載され、ここでは形成された酸化膜がその後溶解される。シリコン酸化膜を形成した後溶解することにより、前記欠陥およびまたはクラック発生個所を含むシリコンの表面の層を取り除き、粗さを和らげることができる。この解決策により、いわゆる酸化-還元法を使ってシリコンの表面を結果的に平らにすることからなる。
【0007】
酸化を得るために第一の手法を採用するこれら二つの解決策は、シリコンを消費して、未完成のシリコン時計構成部品の当初の寸法を変化させてしまうという欠点を有する。
【0008】
非特許文献1に記載の第二の手法は、水素焼鈍により、小型時計や時計の製造にほとんど無関係な分野における、シリコン部品の側壁を平らにすることを伴う解決法に基づく。シリコンの移動は水素と温度によって促進され、シリコンを消費することなく、つまり部品の当初の寸法に影響を与えることなく、側壁表面における欠陥を平らにすることを可能とする。しかしながら、このような手法の有効性は議論の余地があり、その上、この手法はシリコンに丸いまたは球状の三次元構造を形成する目的で開発されたものである。
【0009】
この解決策は、特許文献3に記載の通り、様々な材料から切り出された部品の鋭い角を丸める目的で、小型時計や時計製造の分野に適用された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許出願公開第1904901号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2277822号明細書
【文献】スイス国特許出願公開第702431号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1904101号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2456714号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2937311号明細書
【文献】国際公開WO2011/116486号
【文献】国際公開WO2013/045706号
【非特許文献】
【0011】
【文献】「水素焼鈍を使用したシリコン形状変換および側面粗さの減少」Lee et al.(IEEE、2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、微細加工可能な材料、例えばシリコン、から作られる時計構成部品を強化するための改良された解決策を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
具体的には、本発明の一つの主題は、時計構成部品を製造する方法であって、未完成の時計構成部品を形成する部品が、微細加工可能な材料から作り出され、当該方法は、少なくとも一回前記部品の表面の少なくとも一部を水素により平滑化することを含む平滑化工程を含み、前記時計構成部品を強化するために、前記部品の表面の少なくとも一部に、1ミクロンより大きい、または2ミクロン以上の、または2.5ミクロン以上の、または3ミクロン以上の、厚さを有する酸化膜を形成する工程を含む。
【0014】
本発明はまた、このような方法を使って得られた時計構成部品に係る。
【0015】
本発明は、請求項により詳細に定義される。
【0016】
本発明は、添付の図面に関して非限定的に示される、時計構成部品を製造する方法の具体的な一実施形態についての以下の説明に基づいてより理解される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、酸化膜によって複数の厚さにコーティングされた時計構成部品の様々なバッチによって得られた強度を示す。
【
図2】
図2は、時計構成部品の様々なバッチによって得られた強度を示し、本発明の一実施形態を実施することにより得られた良好な結果を表す。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る時計構成部品を含む、時計ムーブメントを調整する装置を上から見た図。
【
図4】
図4は、時計ムーブメントを調整する装置を示す断面図。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係る調整装置のブレーキレバーの可動部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の概念は、構成部品の平滑化と組み合わせて、厚みのある、例えば従来の解決法によって選択された厚みより明らかに大きい厚みを有する酸化膜を使って、微細加工可能な材料から作られた時計構成部品を強化することからなる。酸化膜を使ってシリコンからなる構成部品を強化する既存の解決法は、実際には1μmより厳密に小さい厚みを有する酸化物を適用する。そのような厚みを有する酸化物を得るのは時間がかかり、典型的には一晩の加工を要し、部品の寸法の変更につながる。
【0019】
三点曲げサンプルに対して、酸化膜の厚みを、特に1μmの限度以上になるよう、変更することによる比較試験を行った。材料が脆弱性を有することから、同じ強化加工方法を行っても、一つの時計構成部品と他の時計構成部品とでは、これらの構成部品が原則として同等であり同じ応力に曝されても、異なる結果が生じたことを指摘しておく。このことから、効果の観察のためには、同等の部品の複数のバッチに対して試験を行い、その後統計分析を実施することが必要である。
図1は、それぞれ酸化膜層が0.3μm、1μm、2.6μmおよび3μmである4つのバッチに関して得られた結果を示す。各バッチにおける各構成部品の破断強度が測定された。2.6μmまでの厚みの増加につれて、非常に僅かに平均破断強度が増加し、その後約2000MPaで安定し、それ以上の厚みである3μmにおいては向上がなかったことがわかる。酸化膜の厚みを増加させるのに要する加工時間の大きな増加によっても、破断強度はわずかにしか向上しないことから、結果としてこの手法はほとんど利益がないことを意味する。言い換えれば、厚みを増やす効果は、これらの大きな厚みを作成するのに要する時間および影響を受ける大きな厚みの材料を考慮すると、非常に効率が悪い。
【0020】
このような理由から、1μmよりも厚い酸化膜層を採用することは今まで考えられなかった。この第一の先入観は本発明によって克服され、本発明の選択によると、以下に詳細に説明されるように、著しく増加された厚みを従来の平滑化工程と組み合わせることにより、時計構成部品の予期せぬ強化を達成することが可能となった。構成部品を機械的に強化する状況で酸化膜を形成することに対して、今まで平滑化が組み合わされたことはなく、これら二つの解決法は、二者択一の選択肢であると考えられてきた。この第二の先入観もまた、本発明によって克服され、本発明により、平滑化と酸化膜を組み合わせることにより顕著な向上が得られることが示された。
【0021】
本発明に係る、時計構成部品を製造する方法は、未完成の時計構成部品を既知の方法により製造する第一段階を含む。例えば、この段階は微細加工可能な材料から作られる基板を提供することからなる最初の工程を含んでもよい。この基板は、例えばシリコンウェハである。次工程において、ウェハ、そして特にその二つの面のうちの一面(つまり、前面と裏面のうちの少なくとも一面)は、保護コーティング、例えばフォトレジスト、で覆われる。この方法によると、保護コーティング内にパターンを形成する工程が続く。パターンは、フォトレジストの層に複数の開口を形成することにより作成される。複数の開口を有する保護コーティングは、保護マスクを形成する。保護マスクを通してシリコンウェハを、特にディープ反応性イオンエッチング(DRIE)によりエッチングする工程は、マスクの一つまたはそれ以上の開口に対して垂直に、シリコンに開口をエッチングすることにより、未完成のシリコン時計構成部品を得ることを可能とする。
【0022】
本発明は、上述したような第一段階で形成された未完成の時計構成部品を強化するための第二段階に関し、さらに前述したものと異なるあらゆる方法、たとえばレーザ切断技術、を使って変形を形成する。
【0023】
第一の実験は、未完成の時計構成部品を平滑化する工程を実行した後、厚みのある酸化膜を形成することからなる。このような厚みのある酸化膜が未完成の時計構成部品の表面全部または一部に形成され、好ましくは表面全部に形成され、もしくは表面の少なくとも50%または75%に形成される。この厚い酸化膜は特許文献4に記載されるような方法で作られてもよいし、または他の同等の方法を使ってもよい。この実験における平滑化工程は、例えば特許文献5に記載される酸化および還元工程を含む。酸化-還元段階は例えば、特許文献4に記載された方法により、1100℃で2時間40熱酸化を行い、次に、そのように形成された酸化物をフッ化水素酸内で溶解することを含む。
【0024】
この実験に基づいて、本発明の一つの有利な実施形態は、上述したような前工程である酸化-還元による平滑化工程に水素による平滑化のサブステップを加え、その後、上述した第一実験において説明したような方法で厚みのある酸化膜を形成する。水素による平滑化工程は、特許文献3に記載されたような水素焼鈍に相当する。これは、還元雰囲気内で鋭い角からシリコン原子を移動させて角を丸めるために選択された温度と圧力条件下で、未完成の時計構成部品、または少なくともその加工された表面を焼鈍することを含む。一実施例において、この水素による平滑化工程は、600℃から1300℃の間の温度でかつ100トルより厳密に高い圧力で実施される。水素による平滑化により、シリコン原子は上記のように移動される。角部を観察すると、水素による平滑化により、角部がある意味膨張し、そのことにより間接的に角部が丸められる効果を有する。
【0025】
最後に、厚みのある酸化膜が形成される前に、少なくとも一つの水素による平滑化工程を含む、あらゆる中間の表面平滑化工程を含む、他の実施形態を採用することが可能であることは明らかである。
【0026】
これらすべての実施例において、厚みのある酸化膜は、好ましくは1μmより大きく、または1.5μmまたは2μmまたは2.5μmまたは3μmまたは3.2μm以上である。酸化膜の厚みは有利には5μm以下である。この酸化膜は有利には一定の厚みを有する。変形例として、可変厚みを有してもよい。この例において、上述の値が平均厚さまたは中央値厚さに適応される。加えて、上述の実施形態において、厚みのある酸化膜は特許文献4に記載された方法を利用して得られるが、変形例として、他の方法によって得られてもよい。
【0027】
以下に記載される本発明の実施形態に係る強化された時計構成部品を製造する方法の利点を示すため、三点曲げサンプルに対して比較試験を行った。材料が脆弱性を有することから、同じ強化加工方法を行っても、一つの時計構成部品と他の時計構成部品とでは、これらの部品が原則として同等であり同じ応力に曝されても、異なる結果が生じたことを指摘しておく。このことから、効果を観察するためには、同等の部品の複数のバッチに対して試験を行い、その後統計分析を実施することが必要である。
【0028】
図2は、各バッチの各部分における破断強度を表すことにより、各バッチでの結果に見られる幅を示す。複数ある各バッチについて、最低破断強度と平均破断強度を観察することが特に有利である。
【0029】
部品の第一バッチ(バッチ1)は基準バッチであり、本発明は適用されていない。このバッチは第一器具によるDRIE方法を使って作られたシリコンからなる部品を含み、後処理は行われていない。平均破断強度は低く、測定された最小破断応力は500MPa以下であることから、構成部品の早期破損のリスクは高かった。
【0030】
第二バッチ(バッチ2)は、バッチ1と同様なシリコン部品を含み、第二器具によるDRIE方法を使ってエッチングにより製造されたが、3ミクロン厚さを有する酸化膜を平滑化することなく成長するという強化方法が実施された。この第二バッチは本発明に至る足掛かりとなる中間実験であり、厚みのある酸化膜という利点があった。この第二バッチの平均破断強度はより高く、2000MPa程度であり、最小破断応力が1500MPa以上であったことがわかる。
【0031】
第三バッチ(バッチ3)はバッチ1と同様なシリコン部品を含み、第一器具によるDRIE方法を使ってエッチングにより製造されたが、酸化-還元(1ミクロンの酸化膜の成長-HF溶解)による平滑化の中間工程を実施した後、2.87ミクロン厚さの酸化膜を成長させる強化処理を施した。この第三バッチは上述した第一の実験に対応したものであり、結局、本発明に至る足掛かりとなる別の中間実験となった。ここで、平均破断強度はバッチ2に比べてさらに向上した(4000MPa)。
【0032】
第四バッチ(バッチ4)はバッチ1と同様なシリコン部品を含み、第一器具によるDRIE方法を使ってエッチングにより製造されたが、酸化-還元(1ミクロンの酸化膜の成長-HF溶解)による平滑化の中間工程を実施した後、水素による平滑化工程を実施し、その後2.87ミクロン厚さの酸化膜を成長させる強化処理を施した。この第四バッチは、上述した本発明の有利な実施形態を採用した。性能は他のバッチに比較して、平均破断応力(ほぼ5000MPaであった)およびバッチの最小破断応力(3000MPaより高かった)の両方に関して、明らかに向上した。様々なタイプの欠陥が様々な平滑化処理の組み合わせにより消し去られ、最終の、大きな厚みを有する酸化膜が、残った欠陥をふさいで平滑化するのに貢献した。
【0033】
そのため
図2は、本発明に係る方法を実施することにより得られた、驚くほど有利な効果をはっきりと示している。
【0034】
(図示しない)変形例として、水素による平滑化工程を単独で実施し、その後、厚みのある酸化膜を成長させることによっても、満足のいく結果を得ることができる。
【0035】
さらに、本発明を他の既知の方法と組み合わせることができ、それにより同じく時計構成部品の性能を向上させることに貢献できる。したがって、例えば特許文献6に記載される方法のような、等方性エッチング液を使って部品を機械的に強化する方法を採用することができる。
【0036】
さらに、本発明に係る酸化膜は、さらに強度を向上するため、または時計構成部品に別の特性、例えば別のトライボロジー特性を持たせるため、小さな厚みを有する別のコーティングにより任意に覆われてもよい。つまり、本発明による厚みのある酸化膜は、部品の表面近くに位置するという点で表層であるが、構成部品の最も外側の層である必要はない。
【0037】
そのため上述の各例において、時計構成部品は、二酸化ケイ素からなる厚みのある酸化膜に覆われたシリコンからなる基部を含む。変形例として、ここに記載されたシリコン酸化膜以外でありうる酸化膜を付着させる別の方法を利用することができる。変形例として、炭化ケイ素または窒化ケイ素の層を付着させることができる。さらに別の変形例として、窒化チタンまたは炭化チタンの層を付着させることができる。最後に、部品に残る表面欠陥をふさぐことを可能とするのであれば、どのような厚い層も使用することができる。別の変形例によると、上述した各層の中から選ばれた(異なる材料から任意に作られた)複数の積層を使用することができる。
【0038】
つまり、本発明の方法は、微細加工可能な材料から作られ、強化された機械的特性を有する時計構成部品を製造することを可能とする。上述の各例によると、微細加工可能な材料はシリコンである。変形例として、石英、ダイアモンドまたはその他の、時計構成部品の製造に適した微細加工可能な材料からなる基板を使用することができる。その場合、平滑化および強化する方法は、それらの各材料に適合されなければならない。
【0039】
さらに、本発明の方法はどの時計構成部品を製造するのにも適しており、特に、組立を可能とするために弾性を有する部分を含む時計構成部品に適している。非制限的な実例として、時計構成部品は、爪車、がんぎ車、さまざまな脱進部品、針、振り石、つめおよびレバーまたはぜんまいや振動子ひげぜんまい等の他の時計用ばねであってよい。
【0040】
例えば、この方法は調整装置の構成部品の製造に適用可能である。このような調整装置が
図3から5に示される。特にこの構成部品は、軸A3を中心に旋回するがんぎ車3と、第三軸A2aを中心に旋回する第一ブレーキレバー可動部分2aと第四軸A2bを中心に旋回する第二ブレーキレバー可動部分2bとを含むブレーキレバー2を含み、これら3つはすべて同じ平面Pに位置しシリコンからなる。
【0041】
このような構成部品は、特に小さな寸法を有し、使用される材料が本質的に脆弱な特性を有することから、組立に手際を要するものである。これらの部品をそれぞれの軸に組み付ける際に破損するリスクは高い。そのため、好ましくは、部品2a、2bおよび3はそれぞれ弾性アームによって画成される中央開口部を含み、該弾性アームの端部は各軸と相互に作用するよう意図される。それぞれの弾性アームの寸法は、各部品2a、2b、3をそれぞれの軸A2a、A2b、A3上の位置に保持する十分なトルクを保証するように定められる。好ましくは、特許文献7または特許文献8に記載されるような弾性コレットの開口部と同じく、中央開口部の輪郭は丸ではない。
【0042】
アームの寸法が小さいため、材料の機械的強度を最大化する必要があり、本発明の方法により、バッチの最小破断応力に関する破損のリスクを低減することができる。
【0043】
本発明はまた、上述の製造方法を使って製造された時計構成部品、およびこの時計構成部品を採用した時計に関する。
【0044】
そのため、微細加工可能な材料に基づく時計構成部品は、その表面の少なくとも一部に水素による平滑化を実施され、機械的強度を増加させるために、1ミクロン、2ミクロンまたは3ミクロン以上の、または上記に列挙された以外の、厚みを有する酸化膜を含むことを特徴とする。
【0045】
有利には、この時計構成部品は4000MPa以上の平均破断強度を有し、およびまたは3000MPa以上の最低破断強度を有することを特徴とする。
【0046】
有利には、本発明は、例えばばね(特にぜんまいおよびひげぜんまいを除く)とは対照的に、特に剛性を有すると言われる、つまりその作動に弾性の特性を全く必要としないかほとんど必要としない、時計構成部品に適用可能である。これらのような硬い構成部品は、上述したように、その組立に便利な弾性部分を有してもよいが、その部分はその後の計時機能に使用されない。言い換えるなら、これらの時計構成部品はその作動の際に、エネルギーを保持し放出するために弾性的に変形することを意図されない。そのような構成部品において、弾性を利用するようには設計されておらず、それらの構成部品が曝される応力を例えば弾性的に和らげることができないため、破断強度は特に重要であり、必要とされる。
【符号の説明】
【0047】
2 ブレーキレバー
2a 第一ブレーキレバー可動部分
2b 第二ブレーキレバー可動部分
3 がんぎ車
A2a 第三軸
A2b 第四軸
A3 軸