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特許7539769ダイボンドシート、及び、ダイシングダイボンドフィルム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ダイボンドシート、及び、ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20240819BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L21/52 C
H01L21/78 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019228146
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021097156
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】中浦 宏
(72)【発明者】
【氏名】杉村 敏正
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-147116(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076236(WO,A1)
【文献】特開2019-204886(JP,A)
【文献】特開2019-204862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0241436(US,A1)
【文献】特開2007-251138(JP,A)
【文献】特開2013-123003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂面に対する剥離力が0.1N/50mm以上であり、
分子中にアルキル(メタ)アクリレートの構成単位とカルボキシ基含有モノマーの構成単位とを有するアクリル樹脂と、トリスフェノールメタン型又はクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂と、シリカフィラーとを含
表面自由エネルギーが35mJ/m 以下であり、且つ、前記表面自由エネルギーのうちの分散成分の占める割合が95%以上である、ダイボンドシート。
【請求項2】
水との接触角が90°以上となり、且つ、ヨウ化メチレンとの接触角が50°以上となる、請求項1に記載のダイボンドシート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイボンドシートと、該ダイボンドシートに貼り合わされたダイシングテープとを備える、ダイシングダイボンドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路を製造するときに使用される、ダイボンドシートと、該ダイボンドシートを備えたダイシングダイボンドフィルムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の製造において使用されるダイシングダイボンドフィルムが知られている。この種のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、ダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つウエハに接着されるダイボンドシートと、を備える。ダイシングテープは、基材層と、ダイボンドシートに接している粘着層とを有する。この種のダイシングダイボンドフィルムは、半導体集積回路の製造において、例えば下記のように使用される。
【0003】
半導体集積回路を製造する方法は、一般的に、高集積の電子回路によってウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成されたウエハからチップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
【0004】
後工程は、例えば、ウエハを小さいチップ(ダイ)へ割断すべくウエハに溝を形成するダイシング工程と、ウエハの回路面とは反対側の面をダイボンドシートに貼り付けてダイシングテープにウエハを固定するマウント工程と、溝が形成されたウエハをダイボンドシートと共に割断してチップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンドシートと粘着剤層との間で剥離してダイボンドシートが貼り付いた状態のチップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、ダイボンドシートが貼り付いた状態のチップ(ダイ)を被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。半導体集積回路は、これらの工程を経て製造される。
【0005】
上記のような半導体集積回路の製造方法において、ピックアップ工程及びダイボンド工程における性能を良好にすべく、熱可塑性樹脂成分と熱硬化性樹脂成分とを特定の含有率で含み且つ表面自由エネルギーが特定範囲内にあるダイボンドシートが知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
詳しくは、特許文献1に記載のダイボンドシートでは、含有される有機樹脂成分のうち熱可塑性樹脂成分が15~30質量%を占め、熱硬化性樹脂成分が60~70重量%を占める。また、表面自由エネルギーが37mJ/m以上40mJ/m未満である。
特許文献1に記載のダイボンドシートは、ピックアップ工程において、粘着剤層との間で良好な剥離性を発揮できる。また、ダイボンド工程において、被着体と良好な接着性を発揮できる。
【0007】
ところで、近年における集積化技術のさらなる進展に伴って、例えば上記のダイボンド工程において、ダイボンドシートが貼り付いた状態の比較的薄いチップ(ダイ)を、複数回にわたって積み重ねることがある。
ところが、特許文献1に記載のごときダイボンドシートが貼り付いた状態のチップ(ダイ)を積み重ねると、ダイボンドシートとチップ(ダイ)との貼り付き不良によって、いわゆる浮きが生じてしまう場合がある。
このような問題を防ぐべく、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できるダイボンドシートが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-244463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できるダイボンドシート及び該ダイボンドシートを備えたダイシングダイボンドフィルムについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0010】
そこで、本発明は、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できるダイボンドシート、及び、ダイシングダイボンドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に係るダイボンドシートは、ポリイミド樹脂面に対する剥離力が0.1N/50mm以上であることを特徴とする。
上記構成のダイボンドシートによれば、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できる。
【0012】
上記のダイボンドシートでは、表面自由エネルギーが35mJ/m以下であり、且つ、前記表面自由エネルギーのうちの分散成分の占める割合が95%以上であることが好ましい。これにより、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できる。
【0013】
上記のダイボンドシートでは、水との接触角が90°以上となり、且つ、ヨウ化メチレンとの接触角が50°以上となることが好ましい。これにより、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できる。
【0014】
本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、上記のダイボンドシートと、該ダイボンドシートに貼り合わされたダイシングテープとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るダイボンドシート及びダイシングダイボンドフィルムは、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した断面図。
図2A】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2B】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2C】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2D】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図3A】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図3B】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図4A】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図4B】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図4C】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5A】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5B】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図6】半導体集積回路の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に表す断面図。
図7】チップ(ダイ)を積み重ねたときの様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るダイボンドシート、及び、該ダイボンドシートを備えたダイシングダイボンドフィルムの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、図1に示すように、ダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20の粘着剤層22に積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンドシート10とを備える。ダイボンドシート10は、半導体集積回路の製造において、回路基板又は半導体チップなどの被着体に接着されることとなる。
【0019】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドシート>
ダイボンドシート10は、ポリイミド樹脂面に対する剥離力が0.1N/50mm以上である。斯かる剥離力が0.1N/50mm未満であると、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できないおそれがある。なお、斯かる剥離力は、ダイボンドシート10が加熱等によって硬化処理されるものである場合、硬化処理される前の値である。また、斯かる剥離力は、ダイボンドシート10における、粘着剤層22(後に詳述)と貼り合わされた面(被着体と接着される面)の剥離力である。
上記の剥離力は、実施例に記載された方法によって測定される。
上記のダイボンドシート10の剥離力を測定するために使用するポリイミド樹脂面は、特定のポリイミド樹脂フィルムの表面である。
なお、測定用のポリイミド樹脂フィルムの物性については、下記の通りである。下記の物性を有するポリイミド樹脂フィルムを、剥離力の測定で使用する。
静摩擦係数:0.48(JISK 7125)
動摩擦係数:0.42(JISK 7125)
表面粗さ[Ra]:0.03~0.07μm(JISB 0601)
密度[g・cm-3]:1.42(アルキメデス法)
原則として、本願出願時に市販されている東レデュポン社製の製品名「カプトン100H」を測定用のポリイミド樹脂フィルムとして使用する。
【0020】
上記の剥離力の測定において使用するポリイミド樹脂面の表面自由エネルギーは、通常、25mJ/m以上35mJ/m以下であり、且つ、該表面自由エネルギーのうちの分散成分が占める割合は、85%以上95%以下である。
【0021】
上記の剥離力は、0.2N/50mm以上であってもよい。上記の剥離力が0.2N/50mm以上であることによって、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できる。
また、上記の剥離力は、0.5N/50mm以下であってもよい。
【0022】
例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の含有割合を増やし、無機フィラーの含有割合を減らすことによって、上記の剥離力を大きくすることができる。一方、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の含有割合を減らし、無機フィラーの含有割合を増やすことによって、上記の剥離力を小さくすることができる。
【0023】
ダイボンドシート10において、表面自由エネルギーが35mJ/m以下であり、且つ、表面自由エネルギーのうちの分散成分の占める割合が95%以上であることが好ましい。
上記の表面自由エネルギーが35mJ/m以下であり且つ分散成分の占める上記の割合が95%以上であることによって、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できるという利点がある。
上記の表面自由エネルギーは、25mJ/m以上であってもよく、30mJ/m以上であってもよい。
【0024】
上記の表面自由エネルギーの測定方法の詳細について説明する。
上記の表面自由エネルギーは、下記のごとく実施した接触角測定の結果から算出される。詳しくは、20℃および相対湿度65%の条件下において、ダイボンドシート10の表面に接触する水(HO)およびヨウ化メチレン(CH)の各液滴の接触角を、接触角計を使用して測定する。
次に、測定された水の接触角θwおよびヨウ化メチレンの接触角θiの値から、以下のようにして表面自由エネルギーを算出する。詳しくは、Journal of Applied Polymer Science, vol.13, p1741-1747(1969)に記載のOwensらの方法に従って、γs(表面自由エネルギーの分散成分)およびγs(表面自由エネルギーの極性成分)を求める。
そして、γsとγsとを足し合わせて得られる値γs(=γs+γs)をダイボンドシート10の表面自由エネルギーとする。
γs(分散成分)およびγs(極性成分)それぞれの値は、下記の式(1)および式(2)の2元連立方程式の解として得られる。式(1)および(2)において、γwは水の表面自由エネルギー、γwは水の表面自由エネルギーの分散成分、γwは水の表面自由エネルギーの極性成分、γiはヨウ化メチルの表面自由エネルギー、γiはヨウ化メチルの表面自由エネルギーの分散成分、γiはヨウ化メチルの表面自由エネルギーの極性成分であり、下記の通り既知の値である。
γw=72.8 [mJ/m
γw=21.8 [mJ/m
γw=51.0 [mJ/m
γi=50.8 [mJ/m
γi=48.5 [mJ/m
γi=2.3 [mJ/m
【数1】
【0025】
ダイボンドシート10の表面では、水との接触角が90°以上となり、且つ、ヨウ化メチレンとの接触角が50°以上となることが好ましい。
これにより、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できるという利点がある。
【0026】
ダイボンドシート10の表面では、好ましくは、水との接触角が95°以上となる。これにより、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できるという利点がある。
ダイボンドシート10の表面では、水との接触角が110°以下であってもよい。
【0027】
ダイボンドシート10の表面では、好ましくは、ヨウ化メチレンとの接触角が52°以上となる。これにより、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きをより十分に抑制できるという利点がある。
ダイボンドシート10の表面では、ヨウ化メチレンとの接触角が60°以下であってもよい。
【0028】
本明細書においては、表面自由エネルギーを上記のごとく分散成分と極性成分とに分ける。一般的に、表面自由エネルギーの分散成分は、物質の密度、分子量、硬さなどを反映した物理量である。例えば酸化物又は金属の表面自由エネルギーにおいて、分散成分は低い一方、有機材料の場合の分散成分は高い。これに対して、極性成分は、表面の極性基密度又は活性度を反映した物理量である。固体表面における分散成分は「ゼロ」にならないが、極性成分は「ゼロ」になりうる。各成分を表面同士の分子間相互作用で考えると、分散成分は2個の無極性分子(双極子)間のクーロン引力として表され、London分散エネルギーと称される。一方、極性成分は、永久双極子間(Keesom)及び、永久双極子-無極性双極子間(Debye)エネルギーと称される。
【0029】
ダイボンドシート10の表面自由エネルギーのうち、分散成分の占める割合は、97%以上であることがより好ましい。分散成分の占める割合がより高くなることによって、一般的な被着体に対するダイボンドシート10の濡れ広がり性がより高まるという利点がある。なお、分散成分の占める割合は、100%以下であってもよい。
なお、上記の分散成分は、25mJ/m以上35mJ/m以下であってもよい。
【0030】
上記の表面自由エネルギーを小さくするため、また、水やヨウ化メチレンとの接触角を大きくするためには、例えばダイボンドシート10に配合する原料(樹脂など)として、極性がより低い原料を選択するか、又は、より極性の低い原料の配合比率を高める。一方、上記の表面自由エネルギーを大きくするため、また、水やヨウ化メチレンとの接触角を小さくするためには、例えばダイボンドシート10に配合する原料(樹脂など)として、極性がより高い原料を選択するか、又は、より極性の高い原料の配合比率を高める。
【0031】
ダイボンドシート10は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方を含み得る。ダイボンドシート10は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0032】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。ダイボンディング対象である半導体チップの腐食原因となり得るイオン性不純物等をより少なく含有するという点で、上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。
【0033】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、又は、グリシジルアミン型の各エポキシ樹脂が挙げられる。
【0034】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得る。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0035】
ダイボンドシート10において、フェノール樹脂の水酸基は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量当たり、好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、より好ましくは0.7当量以上1.5当量以下である。これにより、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させることができる。
【0036】
ダイボンドシート10が熱硬化性樹脂を含む場合、ダイボンドシート10における斯かる熱硬化性樹脂の含有割合は、ダイボンドシート10の総質量に対して、5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。これにより、ダイボンドシート10において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させることができる。
【0037】
ダイボンドシート10に含まれ得る熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ポリアミド樹脂や6,6-ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いためにダイボンドシート10の接着性をより確保できるという点で、アクリル樹脂が好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0038】
上記アクリル樹脂は、分子中の構成単位のうち、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位が質量割合で最も多いポリマーであることが好ましい。当該アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、C2~C4アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。
上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基(水酸基)含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマー、又は、その他各種の多官能性モノマー等が挙げられる。
上記アクリル樹脂は、ダイボンドシート10においてより高い凝集力を発揮できるという点で、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート(特に、アルキル部分の炭素数が4以下のアルキル(メタ)アクリレート)と、カルボキシ基含有モノマーと、窒素原子含有モノマーと、多官能性モノマー(特にポリグリシジル系多官能モノマー)との共重合体であり、より好ましくは、アクリル酸エチルと、アクリル酸ブチルと、アクリル酸と、アクリロニトリルと、ポリグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体である。
上記アクリル樹脂は、アクリロニトリルの含有量が10質量%以下のアクリル樹脂であることが好ましい。これにより、ダイボンドシート10の表面自由エネルギーのうちの極性成分の割合をより下げられるという利点がある。
【0039】
上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ダイボンドシート10の弾性や粘性を所望の範囲内に設定しやすいという点で、-50℃以上50℃以下であることが好ましく、10℃以上30℃以下であることがより好ましい。
【0040】
ダイボンドシート10が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む場合、ダイボンドシート10における上記熱可塑性樹脂の含有割合は、フィラーを除く有機成分(例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化触媒等、シランカップリング剤、染料)の総質量に対して、好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。なお、熱硬化性樹脂の含有割合を変化させることによって、ダイボンドシート10の弾性や粘性を調整することができる。
【0041】
ダイボンドシート10の熱可塑性樹脂が熱硬化性官能基を有する場合、当該熱可塑性樹脂として、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を採用できる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂は、好ましくは、分子中に、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を最も多い質量割合で含む。当該アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、上記例示の(メタ)アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基(水酸基)、イソシアネート基等が挙げられる。
ダイボンドシート10は、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂と硬化剤とを含むことが好ましい。硬化剤としては、粘着剤層22に含まれ得る硬化剤として例示されたものが挙げられる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、複数のフェノール構造を有する化合物を硬化剤として用いることが好ましい。例えば、上述の各種フェノール樹脂を硬化剤として用いることができる。
【0042】
ダイボンドシート10は、好ましくはフィラーを含有する。ダイボンドシート10におけるフィラーの量を変えることにより、ダイボンドシート10の弾性及び粘性をより容易に調整することができる。さらに、ダイボンドシート10の導電性、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられる。フィラーとしては、無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカや非晶質シリカといったシリカなどを含むフィラーが挙げられる。また、無機フィラーの材質としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金などが挙げられる。ホウ酸アルミニウムウィスカ、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等のフィラーであってもよい。フィラーの形状は、球状、針状、フレーク状等の各種形状であってもよい。フィラーとしては、上記の1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0043】
上記フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.005μm以上1μm以下である。上記平均粒径が0.005μm以上であることによって、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。上記平均粒径が10μm以下であることによって、加えたフィラーによる特性をより十分に発揮させることができ、また、ダイボンドシート10の耐熱性をより発揮させることができる。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(例えば、製品名「LA-910」、堀場製作所社製)を用いて求めることができる。
【0044】
ダイボンドシート10がフィラーを含む場合、上記フィラーの含有割合は、ダイボンドシート10の総質量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは42質量%以上55質量%以下である。
【0045】
ダイボンドシート10は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
上記他の添加剤としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0046】
ダイボンドシート10は、弾性及び粘性を調整しやすいという点で、好ましくは、熱可塑性樹脂(特に、アクリル樹脂)、熱硬化性樹脂、及びフィラーを含む。
ダイボンドシート10において、フィラーを除く有機成分の総質量に対する、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂の含有割合は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。
ダイボンドシート10の総質量に対して、フィラーの含有割合は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、42質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
ダイボンドシート10の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上200μm以下である。斯かる厚さは、3μm以上150μm以下であってもよく、5μm以上100μm以下であってもよい。なお、ダイボンドシート10が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0048】
ダイボンドシート10は、例えば図1に示すように、単層構造を有してもよい。本明細書において、単層とは、同じ組成物で形成された層のみを有することである。同じ組成物で形成された層が複数積層された形態も単層である。
一方、ダイボンドシート10は、例えば、2種以上の異なる組成物でそれぞれ形成された層が積層された多層構造を有してもよい。
【0049】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1では、使用されるときに、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤層22が硬化される。詳しくは、一方の面に半導体ウエハが接着されたダイボンドシート10と、該ダイボンドシート10の他方の面に貼り合わされた粘着剤層22とが積層した状態で、紫外線等が少なくとも粘着剤層22に照射される。例えば、基材層21が配置されている方から紫外線等を照射して、基材層21を経た紫外線等が粘着剤層22に届く。紫外線等の照射によって、粘着剤層22が硬化する。
照射後に粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤層22からダイボンドシート10(半導体ウエハが接着した状態)を比較的容易に剥離させることができる。
【0050】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、使用される前の状態において、ダイボンドシート10の一方の面(ダイボンドシート10が粘着剤層22と重なっていない面)を覆う剥離シートを備えてもよい。剥離シートは、ダイボンドシート10を保護するために用いられ、ダイボンドシート10に被着体(例えば半導体ウエハ)を貼り付ける直前に剥離される。
この剥離シートとしては、上述した剥離シートと同様のものを採用できる。この剥離シートは、ダイボンドシート10を支持するための支持材として利用できる。剥離シートは、粘着剤層22のうえにダイボンドシート10を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、剥離シートとダイボンドシート10とが積層された状態でダイボンドシート10を粘着剤層22に重ね、重ねた後に剥離シートを剥がす(転写する)ことによって、粘着剤層22のうえにダイボンドシート10を重ねることができる。
【0051】
本実施形態のダイボンドシート10は、上記のように構成されていることから、チップ(ダイ)を積み重ねたときの浮きを抑制できる。
【0052】
次に、本発明に係るダイシングダイボンドフィルムの実施形態について説明する。
【0053】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、上記のダイボンドシート10と、該ダイボンドシート10に貼り合わされたダイシングテープとを備える。
【0054】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープ>
上記のダイシングテープ20は、通常、長尺シートであり、使用されるまで巻回された状態で保管される。本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、割断処理されるシリコンウエハよりも、ひと回り大きい内径を有する円環状の枠に張られ、カットされて使用される。
【0055】
上記のダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なった粘着剤層22とを備える。
【0056】
基材層21は、単層構造であってもよく、積層構造を有してもよい。
基材層21の各層は、例えば、金属箔、紙や布などの繊維シート、ゴムシート、樹脂フィルムなどである。
基材層21を構成する繊維シートとしては、紙、織布、不織布などが挙げられる。
樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体等のエチレンの共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアクリレート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);脂肪族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース又はセルロース誘導体;含シリコーン高分子;含フッ素高分子などが挙げられる。これらは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて使用され得る。
【0057】
基材層21は、樹脂フィルムなどの高分子材料で構成されていることが好ましい。
基材層21が樹脂フィルムを有する場合、樹脂フィルムが延伸処理等を施され、伸び率などの変形性が制御されていてもよい。
基材層21の表面には、粘着剤層22との密着性を高めるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的方法又は物理的方法による酸化処理等が採用され得る。また、アンカーコーティング剤、プライマー、接着剤等のコーティング剤によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0058】
基材層21は、複数の層で構成されていることが好ましく、少なくとも3層で構成されていることがより好ましく、3層で構成されていることがさらに好ましい。
【0059】
3層構造の基材層21は、非エラストマーで形成された2つの非エラストマー層(X,X)と、2つの非エラストマー層の間に配置され且つエラストマーで形成されたエラストマー層(Y)とを有する(X層/Y層/X層)ことが好ましい。
エラストマー層は、室温における弾性率が200MPa以下の層である。エラストマー層は、通常、室温(23℃)においてゴム弾性を示す高分子材料で形成されている。一方、非エラストマー層は、室温における弾性率が200MPaよりも大きい層である。
このような3層の積層構造を有するエラストマーの各層は、通常、樹脂で形成されている。3層の積層構造を有するエラストマーは、例えば、共押出成形によって作製され、3つの層が一体化されている。
【0060】
3層構造の基材層21において、外層1層分の厚さに対する内層の厚さの比(Y厚さ/X厚さ)は、5以上15以下であることが好ましい。
【0061】
外側に配置された非エラストマー層は、構成する樹脂をGPC測定したときに、3以下の分子量分布分散度(質量平均分子量/数平均分子量)を有することが好ましい。
【0062】
非エラストマー層(X)は、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレンなどを含んでもよい。ポリプロピレンとしては、ホモポリマー(ホモポリプロピレン)、又は、ランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレンなどのコポリマー等が挙げられる。ポリプロピレンは、メタロセン触媒によって合成されたメタロセンポリプロピレンであってもよい。非エラストマー層(X)は、メタロセンポリプロピレンを含むことが好ましい。
【0063】
一方、エラストマー層(Y)は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、又は、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を含むことがより好ましい。α-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、α-オレフィンのホモポリマー、2種類以上のα-オレフィンのコポリマーなどが挙げられる。
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)は、酢酸ビニルの構成単位を5質量%以上35質量%以下含んでもよい。
【0064】
基材層21の厚さ(総厚さ)は、80μm以上150μm以下であってもよい。
【0065】
基材層21の背面側(粘着剤層22が重なっていない側)には、剥離性を付与するために、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の離型剤(剥離剤)などによって離型処理が施されていてもよい。
基材層21は、背面側から紫外線等の活性エネルギー線を粘着剤層22へ与えることが可能となる点で、光透過性(紫外線透過性)の樹脂フィルム等であることが好ましい。
【0066】
上記のダイシングテープ20は、使用される前の状態において、粘着剤層22の一方の面(粘着剤層22が基材層21と重なっていない面)を覆う剥離シートを備えてもよい。粘着剤層22よりも小さい面積のダイボンドシート10が、粘着剤層22に収まるように配置されている場合、剥離シートは、粘着剤層22及びダイボンドシート10の両方を覆うように配置される。剥離シートは、粘着剤層22を保護するために用いられ、粘着剤層22にダイボンドシート10を貼り付ける前に剥がされる。
【0067】
剥離シートとしては、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等を用いることができる。
また、剥離シートとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系ポリマー製のフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製のフィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル製のフィルムなどを用いることができる。
また、剥離シートとしては、例えば、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤によって表面コートされた、プラスチックフィルム又は紙類などを用いることができる。
なお、剥離シートは、粘着剤層22を支持するための支持材として利用できる。特に、剥離シートは、基材層21のうえに粘着剤層22を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、剥離シートと粘着剤層22とが積層された状態で粘着剤層22を基材層21に重ね、重ねた後に剥離シートを剥がす(転写する)ことによって、基材層21のうえに粘着剤層22を重ねることができる。
【0068】
本実施形態において、粘着剤層22は、例えば、アクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含む。
粘着剤層22は、5μm以上40μm以下の厚さを有してもとい。粘着剤層22の形状および大きさは、通常、基材層21の形状および大きさと同じである。
【0069】
上記のアクリルポリマーは、分子中に、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、を少なくとも有する。構成単位は、アクリルポリマーの主鎖を構成する単位である。上記のアクリルポリマーにおける各側鎖は、主鎖を構成する各構成単位に含まれる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)のうちの少なくとも一方を表す。同様に、「(メタ)アクリル酸」との表記は、メタクリル酸及びアクリル酸のうちの少なくとも一方を表す。
【0070】
粘着剤層22に含まれるアクリルポリマーにおいて、上記の構成単位は、H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリルポリマーにおける上記の構成単位のモル割合は、通常、アクリルポリマーを重合するときの配合量(仕込量)から算出される。
【0071】
上記のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位におけるアルキル部分の炭化水素部分は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。
なお、アルキル部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。これにより、アルキルポリマーの極性が極端に高まることを抑制できる。従って、粘着剤層22が、ダイボンドシート10に対して過度の親和性を有することが抑えられる。よって、ダイボンドシート10からダイシングテープ20を、より良好に剥離することができる。アルキル部分の炭素数は、6以上10以下であってもよい。
【0072】
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-またはiso-ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなどの各構成単位が挙げられる。
【0073】
アクリルポリマーは、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有し、斯かる構成単位の水酸基が、イソシアネート基と容易に反応する。
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマーと、イソシアネート化合物とを粘着剤層22に共存させておくことによって、粘着剤層22を適度に硬化させることができる。そのため、アクリルポリマーが十分にゲル化できる。よって、粘着剤層22は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0074】
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2~4のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0075】
水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各構成単位が挙げられる。なお、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの構成単位において、水酸基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0076】
上記のアクリルポリマーは、側鎖に重合性不飽和二重結合を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含む。
上記のアクリルポリマーが、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含むことによって、ピックアップ工程の前に、粘着剤層22を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。詳しくは、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリルポリマー同士を架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着剤層22の粘着力を、照射によって低下させることができる。そして、ダイボンドシート10を粘着剤層22から良好に剥離させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0077】
重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、具体的には、上述した水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位における水酸基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有してもよい。
【0078】
重合性基を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、アクリルポリマーの重合後に、調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーとの共重合の後に、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部における水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、上記の重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を得ることができる。
【0079】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0080】
本実施形態におけるダイシングテープ20の粘着剤層22は、さらにイソシアネート化合物を含む。イソシアネート化合物の一部は、ウレタン化反応などによって反応した後の状態であってもよい。
イソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着剤層22におけるアクリルポリマー間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基をアクリルポリマーの水酸基と反応させ、他方のイソシアネート基を別のアクリルポリマーの水酸基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
【0081】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0082】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0083】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
上記のイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートと活性水素含有低分子量化合物との反応物が好ましい。芳香族ジイソシアネートの反応物は、イソシアネート基の反応速度が比較的遅いため、斯かる反応物を含む粘着剤層22は、過度に硬化してしまうことが抑制される。上記のイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を3つ以上有するものが好ましい。
【0085】
粘着剤層22に含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着剤層22が重合開始剤を含むことによって、粘着剤層22に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリルポリマー間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマー間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着剤層22を硬化させることができる。これにより、粘着剤層22の粘着力を低下させ、ピックアップ工程において、硬化した粘着剤層22からダイボンドシート10を容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0086】
粘着剤層22は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0087】
続いて、本実施形態のダイボンドシート10、及び、ダイシングダイボンドフィルム1の製造方法について説明する。
【0088】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造方法>
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1の製造方法は、
ダイボンドシート10を作製する工程と、
ダイシングテープ20を作製する工程と、
製造されたダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程とを備える。
【0089】
<ダイボンドシートを作製する工程>
ダイボンドシート10を作製する工程は、
ダイボンドシート10を形成するための樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、
樹脂組成物からダイボンドシート10を形成するダイボンドシート形成工程と、を有する。
【0090】
樹脂組成物調製工程では、例えば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化触媒、アクリル樹脂、フェノール樹脂、溶媒などを混合して、各樹脂を溶媒に溶解させることによって、樹脂組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。なお、これらの樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。
【0091】
ダイボンドシート形成工程では、例えば、上記のごとく調製した樹脂組成物を、剥離シートに塗布する。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。次に、必要に応じて、脱溶媒処理や硬化処理等によって、塗布した組成物を固化させて、ダイボンドシート10を形成する。
【0092】
<ダイシングテープを作製する工程>
ダイシングテープを作製する工程は、
アクリルポリマーを合成する合成工程と、
上述したアクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤と、溶媒と、目的に応じて適宜追加するその他の成分と、を含む粘着剤組成物から溶媒を揮発させて粘着剤層22を作製する粘着剤層作製工程と、
基材層21を作製する基材層作製工程と、
粘着剤層22と基材層21とを貼り合わせることによって、基材層21と粘着剤層22とを積層させる積層工程と、を備える。
【0093】
合成工程では、例えば、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーと、をラジカル重合させることによって、アクリルポリマー中間体を合成する。
ラジカル重合は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、上記の各モノマーを溶媒に溶解させて加熱しながら撹拌し、重合開始剤を添加することによって、アクリルポリマー中間体を合成できる。アクリルポリマーの分子量を調整するために、連鎖移動剤の存在下において重合を行ってもよい。
次に、アクリルポリマー中間体に含まれる、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部の水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応によって結合させる。これにより、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部が、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位となる。
ウレタン化反応は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、溶媒及びウレタン化触媒の存在下において、加熱しながらアクリルポリマー中間体とイソシアネート基含有重合性モノマーとを撹拌する。これにより、アクリルポリマー中間体の水酸基の一部に、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基をウレタン結合させることができる。
【0094】
粘着剤層作製工程では、例えば、アクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを溶媒に溶解させて、粘着剤組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。次に、粘着剤組成物を剥離シートに塗布する。塗布方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。塗布した組成物に、脱溶媒処理や固化処理等を施すことによって、塗布した粘着剤組成物を固化させて、粘着剤層22を作製する。
【0095】
基材層作製工程では、一般的な方法によって製膜して基材層を作製できる。製膜する方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、ドライラミネート法等が挙げられる。共押出し成形法を採用してもよい。なお、基材層21として、市販されているフィルム等を用いてもよい。
【0096】
積層工程では、剥離シートに重なった状態の粘着剤層22と基材層21とを重ねて積層させる。なお、剥離シートは、使用前まで粘着剤層22に重なった状態であってもよい。
なお、架橋剤とアクリルポリマーとの反応を促進するため、また、架橋剤と基材層21の表面部分との反応を促進するために、積層工程の後に、50℃環境下で、48時間のエージング処理工程を実施してもよい。
【0097】
これら工程によって、ダイシングテープ20を製造することができる。
【0098】
<ダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程>
ダイボンドシート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程では、上記のごとく製造したダイシングテープ20の粘着剤層22にダイボンドシート10を貼り付ける。
【0099】
斯かる貼付では、ダイシングテープ20の粘着剤層22、及び、ダイボンドシート10からそれぞれ剥離シートを剥離し、ダイボンドシート10と粘着剤層22とが直接接触するように、両者を貼り合わせる。例えば、圧着することによって貼り合わせることができる。貼り合わせるときの温度は、特に限定されず、例えば、30℃以上50℃以下であり、好ましくは35℃以上45℃以下である。貼り合わせるときの線圧は、特に限定されないが、好ましくは0.1kgf/cm以上20kgf/cm以下であり、より好ましくは1kgf/cm以上10kgf/cm以下である。
【0100】
上述した工程を経て、上記のごとく製造されたダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、半導体集積回路を製造するための補助用具として使用される。以下、使用における具体例について説明する。
【0101】
<半導体集積回路を製造するときのダイシングダイボンドフィルムの使用方法>
半導体集積回路を製造する方法は、一般的に、回路面が形成された半導体ウエハからチップを切り出して組立てを行う工程を備える。
この工程は、例えば、半導体ウエハを割断処理によってチップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウエハに溝を形成し、さらに半導体ウエハを研削して厚さを薄くするハーフカット工程と、ハーフカット加工された半導体ウエハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンドシート10に貼り付けて、ダイシングテープ20に半導体ウエハを固定するマウント工程と、ハーフカット加工された半導体チップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンドシート10と粘着剤層22との間を剥離してダイボンドシート10が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップ(ダイ)を被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。これらの工程を実施するときに、本実施形態のダイシングテープ(ダイシングダイボンドフィルム)が製造補助用具として使用される。
【0102】
ハーフカット工程では、図2A図2Dに示すように、半導体集積回路を小片(ダイ)に割断するためのハーフカット加工を施す。詳しくは、半導体ウエハの回路面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープTを貼り付ける。また、ウエハ加工用テープTにダイシングリングRを取り付ける。ウエハ加工用テープTを貼り付けた状態で、分割用の溝を形成する。溝を形成した面にバックグラインドテープGを貼り付ける一方で、始めに貼り付けたウエハ加工用テープTを剥離する。バックグラインドテープGを貼り付けた状態で、半導体ウエハが所定の厚さになるまで研削加工を施す。
【0103】
マウント工程では、図3A図3Bに示すように、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けつつ、露出したダイボンドシート10の面に、ハーフカット加工された半導体ウエハを貼り付ける。その後、半導体ウエハからバックグラインドテープGを剥離する。
【0104】
エキスパンド工程では、図4A図4Cに示すように、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具Hに固定する。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム1の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム1を面方向に広げるように引き延ばす。これにより、特定の温度条件において、ハーフカット加工された半導体ウエハを割断する。上記温度条件は、例えば-20~0℃であり、好ましくは-15~0℃、より好ましくは-10~-5℃である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(ここまで低温エキスパンド工程)。さらに、エキスパンド工程では、図5A図5Bに示すように、より高い温度条件下(例えば10℃~25℃)において、面積を広げるようにダイシングテープ20を引き延ばす。これにより、割断された隣り合う半導体チップをフィルム面の面方向に引き離して、さらにカーフ(間隔)を広げる(常温エキスパンド工程)。
【0105】
ピックアップ工程では、図6に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップをダイシングテープ20の粘着剤層22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップを吸着治具Jによって保持する。
【0106】
ダイボンド工程では、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップを被着体に接着させる。
ダイボンド工程では、図7に示すように、ダイボンドシート10が貼り付いた状態の半導体チップを複数回積み重ねていくことがある。
1回目の接着では、基板Zにダイボンドシート10が接着されるが、2回目以上の接着では、半導体チップの表面(回路面)にダイボンドシート10が接着される。半導体チップの表面には、特定の樹脂(例えばポリイミド樹脂)などによってコーティング処理が施されている。そのため、半導体チップの表面へのダイボンドシート10の接着性能は、上記のコーティング処理に影響を受け得る。
本実施形態においては、この接着性能と、ポリイミド樹脂面に対するダイボンドシート10の剥離力とが関連することを見出した。さらに、この接着性能と、ダイボンドシート10の表面自由エネルギーとの間にも、関連があることを見出した。
【0107】
なお、近年の半導体産業においては、集積化技術のさらなる進展に伴って、より薄い半導体チップ(例えば20μm以上50μm以下の厚さ)が要望されている。このような薄い半導体チップの一方の表面には、電子回路が形成されている。薄い半導体チップの一方の面に電子回路が形成されていると、半導体チップが内部応力に耐え切れず、わずかに変形(反りなど)してしまう場合がある。このような半導体チップにダイボンドシート10が貼り付いた状態で、上記のごとく複数回にわたって積み重ねを行うと、例えば図7に示すように、ダイボンドシートとチップ(ダイ)との貼り付き不良によって、いわゆる浮きが生じてしまう場合がある。本実施形態においては、ダイボンドシート10が特定の物性を有するため、このような浮きを抑制できる。
【0108】
本実施形態のダイボンドシート、ダイシングダイボンドフィルムは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示のダイボンドシート、ダイシングダイボンドフィルムに限定されるものではない。
即ち、一般的なダイボンドシート、ダイシングダイボンドフィルムにおいて用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【実施例
【0109】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
以下のようにして、ダイボンドシートを製造した。また、このダイボンドシートをダイシングテープと貼り合わせて、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0111】
<ダイボンドシートの作製>
表1に示す配合組成の原料をメチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度40質量%のダイボンドシート用組成物を得た。各原料の詳細を下記に示す。
・シリカフィラー:アドマテックス社製 原料名「SO-E2」
・アクリル樹脂:ナガセケムテックス社製
原料名「テイサンレジン SG-280 EK23」(-COOH基含有)
原料名「テイサンレジン SG-708-6」(-COOH基および-OH基含有)
原料名「テイサンレジン SG-P3」(グリシジル基含有)
・エポキシ樹脂:日本化薬社製 原料名「EPPN-501HY」(トリスフェノールメタン型)
DIC社製 原料名「HP-7200L」(ジシクロペンタジエン型)
DIC社製 原料名「N-665-EXP-S」(クレゾールノボラック型)
・フェノール樹脂:明和化成社製 原料名「H-4」(ノボラック型)
・硬化触媒:北興化学社製 原料名「TPP-K」
次に、剥離シートの一方の面(厚さ50μmのPET系シートにおけるシリコーン処理を施した面)に、アプリケータを用いてダイボンドシート用組成物を塗布した。塗布は、乾燥後の厚さが40μmとなるように行い、その後、130℃で2分間乾燥処理することで、ダイボンドシート用組成物から溶媒を揮発させた。このようにして、剥離シート上に重なったダイボンドシートを得た。
【0112】
<ダイシングテープの基材層>
以下に示す製品を原料として用いて、3層が積層した基材層を作製した。
・内層を構成(又は単層の基材層を構成)する樹脂
原料名:ウルトラセン751
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA 酢酸ビニル28質量%含有)
東ソー社製
・外層を構成する樹脂
原料名:ウィンテック(WINTEC)WFX4M
メタロセンポリプロピレン
日本ポリプロ社製
【0113】
(基材層の成形)
押し出しTダイ成形機を用いて基材層を成形した。押出温度は、190℃であった。3層積層タイプの基材層については、Tダイから共押出成形して一体化させた。一体化した基材層(積層体)が十分に固化した後、基材層をロール状に巻き取って保管した。
なお、基材層を構成する各層の厚さの比、基材層の総厚さは、表1に示す通りである。
【0114】
<ダイシングテープの粘着剤層>
(粘着剤層(粘着剤組成物)の調製)
下記の原料を混合して第1樹脂組成物を調製した。
・INA(イソノニルアクリレート)173質量部
・HEA(ヒドロキシエチルアクリレート)54.5質量部
・AIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.46質量部
・酢酸エチル372質量部
次に、丸底セパラブルフラスコ(容量1L)、温度計、窒素導入管、及び、撹拌翼が装備された重合用実験装置の丸底セパラブルフラスコ内に第1樹脂組成物を入れた。第1樹脂組成物を撹拌しながら、第1樹脂組成物の液温を常温(23℃)に調節しつつ、丸底セパラブルフラスコ内を6時間窒素ガスで置換する処理を行った。
続いて、丸底セパラブルフラスコ内に窒素ガスを流入させつつ、第1樹脂組成物を撹拌しながら、第1樹脂組成物の液温を62℃で3時間保持した。その後、さらに75℃で2時間保持することで、上記のINA、HEA、及び、AIBNの重合反応を実施し、第2樹脂組成物を調製した。その後、丸底セパラブルフラスコ内への窒素ガスの流入を停止した。
常温となるまで第2樹脂組成物を冷却した後、第2樹脂組成物に下記の原料を加え第3樹脂組成物を調製した。
・2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物
原料名「カレンズMOI」、昭和電工社製)52.5質量部
・ジラウリン酸ジブチルスズIV(和光純薬工業社製)0.26質量部
得られた第3樹脂組成物を、大気雰囲気下において50℃で24時間撹拌した。
最後に、第3樹脂組成物のポリマー固形分100質量部に対して下記の原料を加えた。
イソシアネート化合物(原料名「コロネートL」、東ソー社製)0.75質量部
光重合開始剤(原料名「Omnirad127」、IGM Resins社製)2質量部
そして、固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルによって第3樹脂組成物を希釈して、粘着剤組成物を調製した。
【0115】
<ダイシングテープの作製>
基材層の一方の表面に、アプリケータを用いて厚さ10μmとなるように粘着剤組成物を塗布した。粘着剤組成物塗布後の基材層を110℃で3分加熱乾燥し、粘着剤層を形成することにより、ダイシングテープを製造した。
【0116】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造>
(ダイボンドシートとダイシングテープとの貼り合わせ)
ダイシングテープの粘着剤層と、ダイボンドシートにおけるダイボンドシート(剥離シートが積層されていない側)とを貼り合せた。その後、剥離シートをダイボンドシートから剥離して、ダイボンドシートを備えるダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0117】
以上のようにして、上記の方法に従って、実施例及び比較例のダイボンドシート及びダイシングダイボンドフィルムをそれぞれ製造した。各ダイボンドシートの詳細について表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
(ポリイミド樹脂面に対するダイボンドシートの剥離力)
実施例及び比較例の各ダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイボンドシートの一方の面(剥離シートが貼り付けられた側の面)の剥離力を測定した。
詳しくは、まず、ダイボンドシートに貼り付けられた剥離シートを取り除き、新たに現れたダイボンドシートの面(後に半導体チップと接着する面)と、ポリイミド樹脂フィルム(カプトン100H:東レデュポン社製)の一方の面とを、貼り合わせた。貼り合わせは、60℃、10mm/秒の条件で実施した。その後、ハンドローラーを用いて、23℃において、ポリイミド樹脂フィルムの他方の面(DAFを貼り合わせた面の反対面)に裏打ちテープ(商品名:BT-315(日東電工社製))を貼り合わせた。続いて、50mm幅にカットして測定用サンプルを作製し、23℃の雰囲気下において、180°の剥離角度で、剥離速度300mm/minで剥離力を測定した。なお、測定装置として、オートグラフ(SHIMADZU社製)を用いた。
【0120】
(ダイボンドシートの表面自由エネルギー測定方法)
実施例及び比較例の各ダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイボンドシートの一方の面(剥離シートが貼り付けられた側の面)の表面自由エネルギーを測定した。
水及びヨウ化メチレンの接触角をそれぞれ測定し、5回の測定値の平均値を採用した。なお、測定装置としてFAMAS(KYOWA社製)を使用し、1mLの液を面上に垂らして5秒以内の接触角を測定した。
接触角の各測定値から分散成分と極性成分とを算出し、その和によって表面自由エネルギーを求めた。表面自由エネルギーの算出方法については、上述した通りである。
【0121】
(性能評価のための反りウエハの作製)
後述する「チップからの浮き評価」において、浮きが生じやすいウエハを用いて評価するために、以下のようにして「反りウエハ」を作製した。
まず、下記(a)~(f)をメチルエチルケトンに溶解させ、固形分濃度20質量%の反り調整用組成物を得た。
(a)アクリル樹脂(ナガセケムテックス社製、原料名「SG-70L」):5質量部
(b)エポキシ樹脂(三菱化学社製、原料名「JER828」):5質量部
(c)フェノール樹脂(明和化成社製、原料名「LDR8210」):14質量部
(d)エポキシ樹脂(三菱化学社製、原料名「MEH-8005」):2質量部
(e)球状シリカ(アドマテックス社製、原料名「SO-25R」):53質量部
(f)リン系触媒(TPP-K):1質量部
次に、アプリケータを用いて反り調整用組成物を、剥離シートの一方の面(厚さ50μmのPET系シートのシリコーン処理面)に、厚さ25μmとなるように塗布した。130℃で2分間乾燥処理を実施し、反り調整用組成物から溶媒を揮発させた。これにより、剥離シート上に反り調整層が重なった反り調整シートを作製した。
続いて、反り調整シートの反り調整層に(剥離シートとは反対側に)、ベアウエハを貼り付けた。貼り付けは、ラミネータ(MCK社製、型式MRK-600)を用いて、60℃、0.1MPa、10mm/sの条件で行った。貼り付け後にオーブンに入れて、175℃で1時間加熱処理することで、反り調整層を硬化させた。これにより、反り調整層が収縮するため、反ったベアウエハを得た。
上記のごとく反り調整層を収縮させた後、反ったベアウエハが露出している側(反り調整層が貼り付けされていない側)に、ウエハ加工用テープ(日東電工社製、商品名「V-12SR2」)を貼付した。その後、ウエハ加工用テープを介して、反ったベアウエハにダイシングリングを固定した。そして、反ったベアウエハから反り調整層を取り除いた。
反ったベアウエハの一方の面(反り調整層を取り除いた面)の全体に、ダイシング装置(DISCO社製、型番6361)を用いて、100μmの深さの溝を格子状(巾20μm)に形成した。
反ったベアウエハの上記一方の面に、バックグラインドテープを貼り付ける一方で、反ったベアウエハの他方の面からウエハ加工用テープを取り除いた。
反ったベアウエハの厚みが55μm(0.055mm)となるように、バックグラインダー(DISCO社製、型式DGP8760)を用いて、反ったベアウエハを上記の他方の面から研削することによって、「反りウエハ」を得た。
【0122】
(ダイボンドシートの半導体チップからの浮きについての性能評価)
エキスパンド工程を経て「反りウエハ」から、ダイボンドシート付き半導体チップを得た。ダイボンドシートが付いた状態でこの半導体チップを、ダイシングテープからピックアップした後、リードフレームに対して、ダイボンドシートを介してダイボンディングした。
次に、上述のエキスパンド工程を経て得られた別のダイボンドシート付き半導体チップを、ダイシングテープからピックアップした後、リードフレーム上の半導体チップに対して、そのダイボンドシートを介してダイボンディングした。換言すると、ダイボンドシート付き半導体チップを積み重ねた。
ダイボンドシート付き半導体チップ(平面視正方形)を積み重ねるときは、上側の半導体チップの位置をずらし、上方から見て完全には重なり合わないように配置してダイボンディングを実施した。位置ずれ方向は、半導体チップにおけるいずれか一辺の延在方向であり、位置ずれ長さを200μmとした。その後、同様の積み重ねダイボンディングをさらに5回繰り返した。なお、各ダイボンディングにおいて、上述の位置ずれ(位置ずれ長さ200μm)の方向を、同一方向とした。また、各ダイボンディングは、100℃、加圧力0.2MPa、加圧時間2秒間の条件で行った。
ダイボンド工程において、半導体チップが7段積み重なったとき(7回目のダイボンディングの時点)の全半導体チップを観察し、半導体チップからダイボンドシートが1つも浮き上がっていない場合を、浮き抑制の性能が良好である(〇である)と評価した。一方、半導体チップからダイボンドシートが1つでも浮き上がっている場合を、浮き抑制の性能が不良(×である)と評価した。
【0123】
各実施例及び各比較例のダイボンドシートについて、接触角の測定を行った結果、算出された表面自由エネルギーの値、及び、性能評価(浮きの抑制性能)の結果をそれぞれ表1に示す。
【0124】
上記の評価結果から把握されるように、実施例のダイボンドシートを備えたダイシングダイボンドフィルムは、比較例のダイシングダイボンドフィルムに比べて、半導体チップを複数回積み重ねたときの半導体チップの浮きを抑制できた。
【0125】
実施例のダイボンドシートでは、被着体に接着される面の剥離力(対ポリイミド樹脂面)が0.1N/50mm以上であり、表面自由エネルギーが35mJ/m以下である。
このような物性を有する実施例のダイボンドシート(ダイシングダイボンドフィルム)を、半導体集積回路の製造において使用することによって、いわゆるNAND型フラッシュメモリなどを効率良く製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のダイボンドシート及びダイシングダイボンドフィルムは、例えば、半導体集積回路を製造するときの補助用具として、好適に使用される。
【符号の説明】
【0127】
1:ダイシングダイボンドフィルム、
10:ダイボンドシート、
20:ダイシングテープ、
21:基材層、 22:粘着剤層。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7