(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ヒトノロウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20240819BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240819BHJP
D06M 11/50 20060101ALI20240819BHJP
D06M 11/76 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A01N59/00 C
A01P1/00
D06M11/50
D06M11/76
(21)【出願番号】P 2020020788
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八城 勢造
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078479(JP,A)
【文献】特許第6165953(JP,B1)
【文献】Journal of Oleo Science,2012年,61,211-216
【文献】医学と薬学,2007年,57(3),311-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物
(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く)を有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤であって、過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される、ヒトノロウイルス不活化剤。
【化1】
[式中、R
10
及びR
20
は、それぞれ独立して炭素数7~13のアルキル基又はアルケニル基である。M
1
及びM
2
は、それぞれ独立して水素原子又は塩形成カチオンである。]
【請求項2】
水の温度が20~50℃である、請求項1記載のヒトノロウイルス不活化剤。
【請求項3】
過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物
(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く)及び水を含有する処理液に、ヒトノロウイルスで汚染された対象物
(但し、ヒトを除く)を浸漬又は接触する工程を含む、ヒトノロウイルスの不活化方法であって、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下である、方法。
【化2】
[式中、R
10
及びR
20
は、それぞれ独立して炭素数7~13のアルキル基又はアルケニル基である。M
1
及びM
2
は、それぞれ独立して水素原子又は塩形成カチオンである。]
【請求項4】
20~50℃の処理液で5~120分浸漬する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
対象物が繊維製品である請求項3又は4記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトノロウイルス(HNV)の不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されているエンベロープ(膜状構造)を持たないRNAウイルスであり、酸性(胃酸)に対して強い抵抗力を有し、少量(10~100個程度)で感染することが知られている。
現状では、ノロウイルスに対するワクチンや治療薬は存在しないことから、ウイルスが付着し得る調理器具、衣服、手指等を洗浄・消毒することによる除ウイルスやウイルス不活性化により感染を予防することが重要である。
【0003】
ノロウイルスは、物理化学的抵抗性が強いため、多くの細菌類に対して有効であるエタノールやカチオン界面活性剤を含む消毒剤等もノロウイルスに対しては一般的な使用法において十分な効果を得られない場合がある。そのため、ノロウイルスの不活化には、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム等)やヨード剤(ポビドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)、過酢酸製剤等が使用されている。しかし、塩素系消毒剤等では繊維の色柄等を漂白する作用があり、繊維製品や衣類への使用においては制限が生じるという問題がある。
【0004】
過炭酸ナトリウムは水溶液中で炭酸ナトリウムと過酸化水素に解離し漂白力を発揮することから、酸素系漂白剤として用いられている。過炭酸ナトリウムの漂白力は穏やかで扱いやすく、塩素系漂白剤とは異なり色柄衣類にも使えるという利点がある。
【0005】
ところで、従来、ヒトに感染するノロウイルスは、実験室における培養系が確立されていなかったため、ノロウイルスの不活化効果を評価するために、その代替ウイルスとして、同じカリシウイルス科のネコカリシウイルス(FCV)や、マウスノロウイルス(MNV)が用いられていた。しかしながら、FCVは下痢症感染症でなく呼吸器感染症を引き起こすウイルスであり酸やアルカリに弱く、HNVとの違いも多数報告されている。また、MNVはHNVを初めとする他のエンベロープウイルスと比較してアルコールに著しく弱いことが報告されている(非特許文献1)。実際に、非特許文献2では昨今確立されたHNVの培養系において、一部の代替ウイルスにおいて効果があるように思われてきたアルコールはHNVの不活化には不十分であることが報告された。
【0006】
従来、過炭酸ナトリウムを含有する組成物の水溶液にFCVに対して不活化作用があるという報告が存在するが(特許文献1、非特許文献3,4)、上記の事情を考慮すると、特許文献1と非特許文献3、4でFCVへの効果が報告された過炭酸ナトリウムを含有する組成物の水溶液が、実際にHNVに対してその効果を十分に発揮し得るのかは確かではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Cromeans Theresa et al., Appl. Environ. Microbiol. 80.18 (2014): 5743-5751.
【文献】Costantini, Veronica, et al. "Human norovirus replication in human intestinal enteroids as model to evaluate virus inactivation." Emerging infectious diseases 24.8 (2018): 1453.
【文献】Seiichi Tobe et al., J. Oleo Sci. 61, (4) 211-216 (2012)
【文献】高木弘隆,杉山知良・医学と薬学・第57巻第3号311-312・2007年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、HNVの不活化に有効なHNV不活化剤、及びその使用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
2016年に、腸管上皮と似た三次元構造体であるヒト小腸オルガノイドhSIO:human Small Intestine Organoidを用いてHNVの培養に成功したこと(Science,353(6306),1387-1393,2016 Sep23)を受け、本発明者らは、hSIOを立体培養し3Dオルガノイドを得た後に、3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調整し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養・分化誘導して得られる腸管オルガノイドにHNVを感染させた評価系を構築し、これを用いて酸素系漂白剤を評価したところ、過炭酸ナトリウムが一定濃度以上となるように酸素系漂白剤を使用した場合に、HNVに対する不活化効果が発揮されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)過炭酸ナトリウムを含有する組成物を有効成分とするHNV不活化剤であって、過炭酸ナトリウム濃度が0.02質量%以上となるように水に溶解して使用される、HNV不活化剤。
2)過炭酸ナトリウムを含有する組成物及び水を含有する処理液に、HNVで汚染された対象物を浸漬する工程を含む、HNVの不活化方法であって、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.02質量%以上である、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衣類、繊維品、調理器具等に付着したHNVを確実に不活化でき、HNV感染の拡大を防止又は低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<組成物>
本発明の組成物は、過炭酸ナトリウムを含有する。
本発明のHNV不活化剤は、過炭酸ナトリウムによりHNV不活化効果を発揮し得る。斯かる観点から、過炭酸ナトリウムとしては、有効酸素濃度が9~13質量%の過炭酸ナトリウムを用いるのが好ましい。尚、有効濃度は、過マンガンカリウム標準水溶液を用いて20℃で測定できる。または、JIS L0889付属書Aに記載の方法でも有効酸素濃度は測定できる。
【0014】
本発明の組成物中における過炭酸ナトリウムの含有量は、HNV不活化効果の点から、好ましくは20質量%以上であって、より好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下であって、より好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。また、好ましくは20~90質量%、より好ましくは25~80質量%、より好ましくは35~70質量である。なお、組成物中の過炭酸ナトリウムの濃度は、組成物の調製時の質量比率から求めることができる。
【0015】
本発明の組成物は、ウイルス不活性化効果を向上させる点から、アルカリ剤を含むことが好ましい。
アルカリ剤としては、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩、及びリン酸三塩から選択される少なくとも1種であることが望ましく、また、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩から選択される少なくとも1種の塩であることが望ましい。
斯かるアルカリ剤のうち、好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸三カリウムが挙げられ、より好ましくは、炭酸ナトリウムである。
尚、炭酸ナトリウムとしては、ライト灰、デンス灰等を用いることができる。このうち、平均粒径300±200μm、更に300±100μmのデンス灰が好ましい。
【0016】
組成物中のアルカリ剤の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。また、好ましくは1~60質量%、より好ましくは2~55質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0017】
本発明の組成物は、漂白活性化剤を含有することができる。
ここで、漂白活性化剤とは、無機過酸化物と反応することで有機過酸を生成する化合物を意味する。漂白活性化剤としては、疎水性漂白活性化剤が好ましい。具体的には、下記一般式(1)で表されるエステル結合を有する化合物が挙げられる。
R1-C(=O)-LG (1)
〔式中、R1は、炭素数8~14の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、アリール基、又はアルキル基置換アリール基であり、好ましくは炭素数10~14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。LGは脱離基である。〕
【0018】
脱離基LGとしては、例えば、
【0019】
【0020】
〔式中、R2は2価の飽和炭化水素基を示し、pは0又は1を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属を示す。〕
が挙げられる。なお、R3の炭素数は1~5が好ましい。
【0021】
漂白活性化剤は、一般式(1)で表される化合物に限定されず、従来一般に用いられてきた漂白活性化剤を用いることができる。
漂白活性化剤としては、テトラアセチルエチレンジアミン、グルコースペンタアセテート、テトラアセチルグリコールウリル、アルカノイル若しくはアルケノイル(これらの基の炭素数は8~14)オキシベンゼンカルボン酸又はその塩、アルカノイル又はアルケノイル(これらの基の炭素数は8~14)オキシベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、アルカノイル若しくはアルケノイル(これらの基の炭素数は8~14、漂白効果の点から好ましくは10~14)オキシベンゼンカルボン酸又はその塩、アルカノイル又はアルケノイル(これらの基の炭素数は8~14、HNV不活化効果の点から好ましくは10~14)オキシベンゼンスルホン酸塩が好ましく、中でもデカノイルオキシベンゼンカルボン酸又はそのナトリウム塩、ドデカノイルオキシベンゼンスルホン酸又はそのナトリウム塩が好ましい。これら漂白活性化剤は、任意の1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0022】
本発明の組成物中における漂白活性化剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であって、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下であって、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは0.5~15質量%である。
【0023】
本発明の組成物は、界面活性剤を含有することができる。
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれをも使用することができる。
【0024】
ここで、非イオン界面活性剤としては、脂肪族アルコールにアルキレンオキサイドを付加してなる化合物が挙げられ、中でも下記一般式(2)で表される非イオン界面活性剤が好ましい。
R3-O-[(EO)a/(PO)b]-H (2)
〔式中、R3は炭素数が8以上、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、そして、22以下、好ましくは18以下、より好ましくは14以下のアルキル基、好ましくは直鎖のアルキル基を示す。EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基を示す。a及びbは平均付加モル数であって、aは0以上20以下の数を示し、bは0以上20以下の数を示し、両者が同時に0となることはない。〕
また、一般式(2)において、EO基及びPO基が、ランダム及びブロックのいずれの態様で結合していてもよい。
【0025】
カチオン界面活性剤としては、下記一般式(3)で表される第4級アンモニウム塩が好ましく用いられる。
【0026】
【0027】
〔式中、R4、R5、R6、R7は、少なくとも1つが直鎖又は分岐鎖の炭素数6以上、20以下、好ましくは8以上、18以下のアルキル基又はアルケニル基を示し、残りが炭素数1以上、3以下アルキル基又はヒドロキシアルキル基を示す。また、L-は有機又は無機の陰イオン基を示す。〕
【0028】
これら第4級アンモニウム塩の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
〔式中、hは6以上、20以下、好ましくは8以上、18以下の数、g及びdは同一又は異なって、それぞれ独立に、6以上、20以下、好ましくは8以上、18以下の数を示し、R8は炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、Q-は、有機又は無機の陰イオン基、好ましくは、Cl-、Br-等のハロゲンイオン、CH3SO4
-、CH3CH2SO4
-等のアルキルサルフェートイオン、又はC11H23COO-、CH3COO-等の脂肪酸イオンを示す。〕
【0031】
これらの中でも、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、テトラデシルトリメチルアンモニウム塩、テトラデシルジメチルエチルアンモニウム塩、及びヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩からなる群から選択されるカチオン界面活性剤が好ましい。
【0032】
両性界面活性剤としては、カルボベタイン、スルホベタイン、ヒドロキシスルホベタインなどが挙げられる。
【0033】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルカンスルホン酸又はその塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの中でもアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩が好ましい。
【0034】
本発明の組成物中における界面活性剤の含有量は、ウイルス除去性を確保する観点から、好ましくは0.5質量%以上であって、より好ましくは0.75質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下であって、より好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。また、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは0.75~10質量%、より好ましくは1~6質量%、更に好ましくは1~3質量%である。
【0035】
本発明の組成物は、更にポリマーとしてアクリル酸系重合体を含有することができる。
アクリル酸系重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩から選ばれる一種以上の単量体〔以下、アクリル酸系単量体という〕に由来する単量体構成単位を有する重合体が挙げられ、前記アクリル酸系単量体の単独重合体又は前記アクリル酸系単量体を単量体構成単位として含む共重合体を挙げることができる。
前記アクリル酸系単量体の単独重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸及びその塩から選ばれる単量体の単独重合体を挙げることができる。前記アクリル酸系単量体の共重合体としてはアクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種と、これら化合物と共重合可能な不飽和結合を有する化合物、より好ましくはビニル系単量体又はアリル系単量体との共重合体を挙げることができる。共重合体はアクリル酸もしくはメタクリル酸に由来する単量体構成単位が共重合体を形成している全単量体構成単位中、30モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上を占めるものが挙げられる。
これら単独重合体及び共重合体において、塩はアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアミンから選ばれる陽イオンとの塩が好ましい。すなわち、塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩が挙げられ、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。なお塩構造の単量体構成単位の割合は一部であっても全部であってもよく、当該重合体の中和度によって変更することができる。
【0036】
アクリル酸系単量体と共重合可能な単量体としては、ビニル系単量体が挙げられる。ビニル系単量体としては、アルキル基の炭素数が8以上、好ましくは10以上、そして、40以下、好ましくは36以下のアクリル酸アルキルエステル、アルキル基の炭素数が8以上、好ましくは10以上、そして、40以下、好ましくは36以下のメタクリル酸アルキルエステル、マレイン酸、無水マレイン酸、ヒドロキシエチルアクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリル酸、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ペンテン、イソプレン、2-メチル-1-ブテン、n-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ブテン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、インデン、ブタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンが挙げられる。これらの中でもマレイン酸、無水マレイン酸、ヒドロキシエチルアクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリル酸等の水溶性単量体及びこれらの単量体の塩が好ましい。
これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸及びその塩から選ばれる単量体からなる単独重合体が好ましい。該単独重合体の塩はカリウム塩又はナトリウム塩が好ましい。
【0037】
ハンドリング性と分散性の観点から、アクリル酸ポリマーの重量平均分子量は3000~70000が好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、アセトニトリルと水の混合溶液(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ポリアクリル酸を標準物質として測定することができる。
【0038】
本発明の組成物には、上記成分以外に通常粉末状の漂白剤組成物に添加される公知の成分を添加することもできる。例えば水;芒硝等のその他の無機塩;蛍光増白剤;金属イオン封鎖剤;染料や顔料のような着色剤;その他香料、シリコーン類、殺菌剤、紫外線吸収剤等の種々の微量添加物を必要に応じて配合することができる。
【0039】
本発明の組成物は、粉末である。ここで粉末は、粒状、顆粒状を含む。
粉末の組成物は、粉末成分のみを混合して得ることもできるし、粉末成分と液状成分とを混合して得ることもできる。
例えば、過炭酸ナトリウムや漂白活性化剤は予め粒子として配合してもよい。過炭酸ナトリウム粒子は、過炭酸ナトリウムの粉末を水や過酸化水素等で造粒したもの、非イオン界面活性剤、アクリル酸系重合体等を用いて被覆したものが挙げられる。
組成物の平均粒子径は、好ましくは250μm以上、より好ましくは300μm以上であり、また、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下である。ここで、平均粒子径は、日本工業規格JIS K0069(1992)記載の乾式篩分け法による粒度分布を基に、50%粒径の値を用いた。
また、嵩密度は、好ましくは600g/cm3以上、より好ましくは700g/cm3以上であり、また、好ましくは1100g/cm3以下、より好ましくは1000g/cm3以下である。
更に、溶解時の水溶液のpHは、好ましくは9.0以上、より好ましくは9.5以上、また、好ましくは11.5以下、より好ましくは11.0以下である。pHはJIS K 3362;2008の項目8.3に従って20℃において測定する。
【0040】
<HNVの不活化>
本発明の組成物は、水で希釈して使用され、HNVで汚染された対象物の当該ウイルスの不活化に用いられる。水は水道水や風呂の残り湯を使用することができる。
すなわち、本発明の組成物を用いたHNVの不活化方法は、本発明の組成物及び水を含有する処理液(酸素系漂白剤組成物を水で希釈した溶液)に、HNVで汚染された対象物(処理対象物)を浸漬又は接触させる工程を含むものである。
【0041】
なお、ノロウイルスは、ゲノム塩基配列の相同性に基づき7つの遺伝子群(genogroup、GI~GVII)に分けられ、中でもヒトに感染するHNVはGI9種(GI.1、GI.2、GI.3、GI.4、GI.5、GI.6、GI.7、GI.8、GI.9)、GII19種(GII.1、GII.2、GII.3、GII.4、GII.5、GII.6、GII.7、GII.8、GII.9、GII.10、GII.12、GII.13、GII.14、GII.15、GII.16、GII.17、GII.20、GII.21、GII.22)、GIV1種(GIV.1)であるが、本発明におけるHNVは、これらのいずれの遺伝子型のものであっても良い。
【0042】
HNVで汚染された対象物としては、衣料、寝具、カーペット、カーテン、鞄、靴のような繊維製品、調理器具、洗濯槽、浴槽、トイレ等が挙げられる。処理対象物は、組成物を前記のように水で希釈した溶液(処理液)に浸漬又は接触するのが好ましい。
処理液中の組成物の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0043】
そして、処理液中の過炭酸ナトリウムの濃度は、HNVの不活化の点から、0.02質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。また、溶解性の点から、好ましくは14質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また、好ましくは0.02~14質量%、より好ましくは0.1~1質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。この濃度となるように、本発明の組成物と水とを混合することが好ましい。
【0044】
処理液中のアルカリ剤の濃度は、好ましくは0.02質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上である。また、溶解性の点から、好ましくは22質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また、好ましくは0.02~22質量%、より好ましくは0.1~22質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。この濃度となるように、本発明の組成物と水とを混合することが好ましい。
【0045】
また、処理液と処理対象物との浴比(処理液/処理対象物の質量比)は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上であり、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下である。浸漬が困難な処理対象物には、処理液を塗布することができ、さらには処理効果高めるために、処理液を浸漬した紙、ラップ、布等で処理対象を覆うことができる。
【0046】
処理液の温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。浸漬は、通常、組成物を、水(20~25℃)又はぬるま湯(30~40℃)に溶解させた処理液中で行うのが好ましい。
処理時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上であり、また、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。また、好ましくは5~120分、より好ましくは5~60分、より好ましくは10~60分である。
特に、ぬるま湯(30~40℃)を用いる場合は5~30分、水(20~25℃)を用いる場合は30~60分浸漬処理するのが好ましい。
【0047】
処理は、適当な容器中で実施できる。処理対象物が衣類等の繊維製品の場合、洗濯機の洗濯槽中で行うこともでき、浸漬中、任意に撹拌してもよい。
処理対象物が繊維製品の場合、浸漬後は、衣類を取出し、余分な処理液を絞る等して除去して、洗濯に供することができる。また、処理液中に放出された汚染の程度又は衛生上の観点から、必要に応じて、浸漬後の対象物を水で濯ぐことができる。
【実施例】
【0048】
実施例1~10、比較例1
常法に従い、過炭酸ナトリウムを含有する粉末状の組成物A~Kを表1に記載の溶解濃度となるように水(オートクレーブした水道水)に懸濁させて調製した処理液(表1に主要成分の処理液中の組成を示す)について、以下に示す方法により、HNV(HuNoV)不活化効果を評価した。結果を表1に併せて示す。
その結果、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.02%以下の比較例ではHNVの増殖を抑制できなかった。その一方、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.02%以上の実施例においてはHNVの増殖を抑制することが分かった。特に、ぬるま湯での処理によって、HNVの増殖を遺伝子数(50copies/μL)の定量下限未満にまで抑制し、完全に不活化できた。
【0049】
【0050】
<評価法>
(1)human Small Intestine Organoid(hSIO)の培養
hSIOは48ウェルプレート上でマトリゲル(Corning,356231)に包埋し三次元培養した。培地はIntestiCult Organoid Growth Medium(Human)(STEMCELL Technologies,ST-06010)を用いた。培地交換・継代・96ウェルプレートを用いた単層化の手技はユーザーマニュアルに従った。トリプシン処理後2日間はアノイキスを阻害するために培地に終濃度10μMとなるようにROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤であるCultureSure Y-27632(富士フィルム和光純薬,036-24023)を添加した。500mLのAdvanced DMEM/F12(Gibco,12634010)に5mLのGlutaMAX I(100×)(Gibco,35050-061)、5mLの1M HEPES(Gibco,15630080)、5mLのPenicillin-Streptomycin(Gibco,15140122)を添加することで基本培地を作成した。基本培地とIntestiCult Organoid Growth MediumのコンポーネントAとを等量混合することで分化培地を作成した。96ウェルプレートで単層化させた細胞に分化培地を1wellあたり200μLずつ2日間隔で交換しながら計6日間分化を誘導した。
【0051】
(2)HNV(HuNoV)含有糞便の10%乳剤の作成
糞便の10%乳剤はGII.4型のHNV罹患者糞便から作成した。プロテアーゼ阻害剤であるcOmplete protease inhibitor cocktail tablets(Sigma-Aldrich,11697498001)1錠を50mLのD-PBS(-)に懸濁した。糞便1gに対して10mLのcOmplete含有D-PBS(-)で懸濁し、試験管ミキサーでよく混合した。4℃で20分間静置した後に、2,000×g 4℃で10分間遠心した。上清を新たなチューブに回収し、感染実験に供するまで-80℃に保存した。
【0052】
(3)HNVの不活化処理と分化hSIOへの感染
HNV含有10%糞便乳剤を分化培地で10倍に希釈し、1mLのシリンジとMillex HV Filter unit (Millipore,SLHVR04NL)を用いて濾過した。PA微量遠心チューブ(Beckman coulter,357448)中で濾過した糞便溶液5μL(2.8×106 HNV genome copy相当)と表1に示す所定濃度の過炭酸ナトリウムを含有する組成物の懸濁液(処理液)45μLとを混合し、表1に示す所定の温度と時間で反応させた。次いでこの薬剤処理された糞便溶液に、1mg/mLのbovine serum albumin(Sigma-Aldrich,A9647)を含む基本培地 1.45mLを添加した。遠心チューブを固定角ロータTLA-55(Beckman coulter)にセットしOptima MAX-TL(Beckman coulter)を用いてRmaxにおいて186047×gの遠心力(55,000rpm相当)で1.5時間超遠心した後に上清を除去した。ペレットを100μLの分化培地で懸濁し、hSIOへの感染溶液とした。ウェル中の既存の培地を除去した6~7日間分化誘導後のhSIOに上述の方法で調製した感染溶液をアプライした。インキュベートは37℃で3時間実施した。300μLの基本培地で3回洗浄した後に、終濃度が125ppmとなるようにブタ胆汁抽出物(Sigma-Aldrich,B8631-100G)を加えた分化培地を250μL添加し37℃ 5%CO2の条件下でサンプリングのタイミングまで培養した。培養開始直後(day 0)と培養3日後(day 3)に10μLの上清を回収した。回収した上清はRT-qPCRに供するまで-80℃で保存した。尚、薬剤溶液に代わり基本培地を用いて同様の操作を行い調製したhSIOへの感染溶液を薬剤非処理のコントロールとした。
【0053】
(4)RT-qPCR
回収した上清中のHNV genome copy数の定量にはノロウイルス検出キット G1/G2(東洋紡,FIK-273)を用いた。操作はプロトコールに従った。PCR増幅とデータ測定はLightCycler480II(Roche)を用いた。
測定されたウイルス量に基づき、A:HNVが検出下限にまで不活化されている、B:HNVを検出するがコントロール(薬剤処理無し)よりも減少、C:コントロール(薬剤処理無し)と同等にHNVが増殖している、の3段階で評価した。