(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及びそれを用いた光触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240819BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240819BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240819BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240819BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J35/61
B01J37/04 102
B01J37/10
B01J37/34
(21)【出願番号】P 2020058561
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171319(JP,A)
【文献】特開2013-236997(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141992(WO,A1)
【文献】特表2004-507421(JP,A)
【文献】特開2008-104996(JP,A)
【文献】特開2016-168777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01G 23/00 - 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニアナノ粒子の表面に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子がアナターゼ型であり、
前記チタニアナノ粒子の比表面積が250~500m
2
/gであり、
前記金属ナノ粒子を構成する金属が、白金、銀及び銅よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、
前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、
チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下の担持量で金属ナノ粒子が表面に担持されている、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【請求項2】
前記アシルオキシ基が、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している、請求項1に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【請求項3】
前記アシルオキシ基が、炭素数1~4のモノカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基である、請求項1に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【請求項4】
前記有機酸が酢酸である、請求項3に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【請求項5】
前記チタニアナノ粒子がアナターゼ型100%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を含有する、光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及びそれを用いた光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光応答型のチタニア(酸化チタン)は光触媒材料として利用されている。一般的にはチタニアの粉体を溶媒に分散して使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336-14341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可視光応答型光触媒に関しては、主として酸化タングステン系光触媒とチタニア系光触媒があるが、どちらも結晶性が高いものが多く、結晶性が高いほど酸化物の屈折率が高いがゆえに、白色度が非常に強く透明性に劣るものが多かった。近年、可視光応答型光触媒を用いた製品については、光触媒性を利用した抗菌・抗ウイルス効果を利用した塗料等があるが、意匠性の観点から透明性が課題となっている。
【0005】
また、表面修飾がなされていないため、水やアルコール中での分散が難しく均一に塗布しにくく透明性が出ないうえに、仮に塗布できたとしても、乾燥による収縮が大きいためクラックや剥がれが起こりやすい。また、仮に有機系の分散剤を用いたとしても、チタニアや酸化タングステンの表面活性が損なわれるという問題点がある。
【0006】
従来開発されてきた可視光応答型光触媒の合成法は、チタニアや酸化タングステン等の結晶構造中に窒素等の元素を導入する方法と、酸化物に金属化合物を担持させる方法があるが、励起波長が紫外光のエネルギーの小さい可視光であるだけでなく、酸化物中の励起電子が再結合により失活しやすい等、紫外光応答型光触媒に比べ光触媒活性が非常に低いという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、既存の可視光応答型光触媒では達成できなかった塗布性、可視光触媒活性及び透明性を備えた可視光応答型チタニア微粒子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合し、且つ示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であるチタニアナノ粒子に、200℃で加熱したときのチタニアゾル固形分残量に対して金属元素を90質量%以下の担持量で担持させた、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子が上記課題を全て解決できることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.チタニアナノ粒子の表面に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、
チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下の担持量で金属ナノ粒子が表面に担持されている、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項2.前記アシルオキシ基が、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している、項1に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項3.前記アシルオキシ基が、炭素数1~4のモノカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基である、項1に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項4.前記有機酸が酢酸である、項3に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項5.前記チタニアナノ粒子の比表面積が150~500m2/gである、項1~4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項6.前記チタニアナノ粒子がアナターゼ型以外の結晶形を含まない、項1~5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項7.前記金属ナノ粒子を構成する金属が、白金族元素、鉄族元素及び周期表第11族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である、項1~6のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
項8.項1~7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を含有する、光触媒。
項9.項1~7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子又は請求項8に記載の光触媒の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程、並びに
(C)前記工程(B)で得られた分散液と金属化合物とを混合して得られた分散液に対して紫外光を照射する工程、若しくは
(C’)前記工程(B)で得られた分散液と金属ナノ粒子とを混合する工程
を備える、製造方法。
項10.前記工程(C)において、10μW/m2以上の紫外光を5分以上照射する、項9に記載の製造方法。
項11.前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記有機酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記有機酸中のアシルオキシ基が1.5モル以上である、項9又は10に記載の製造方法。
項12.前記工程(C)において、前記金属化合物の使用量は、前記金属化合物中の金属元素の質量に換算して、前記工程(B)で得られた分散液を200℃で加熱した際の固形分量に対して90質量%以下である、項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
項13.前期工程(C)における紫外光照射が、室温(20℃)以上で行われる、項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
項14.50質量%以上の水と、項1~7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子又は項8に記載の光触媒とを含有する、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液。
項15.前記有機酸とは別途有機分散剤を含有しない、項14に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既存の可視光応答型の酸化タングステン光触媒及びチタニア光触媒では達成できなかった塗布性、光触媒活性及び透明性を備えた可視光応答型の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0012】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3);一酸化チタン(TiO);Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。さらに、末端OH基に有機酸等が結合したものも含まれる。
【0013】
1.金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及び光触媒
本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子は、チタニアナノ粒子の表面に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子であって、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下の担持量で金属ナノ粒子が表面に担持されており、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上である。
【0014】
このような構成を採用することにより、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子は、チタニアナノ粒子及び金属ナノ粒子のいずれも、平均粒子径及び比表面積を調整することが可能であり、チタニアナノ粒子及び金属ナノ粒子が強固に密着しており、また、分散性に優れ凝集しにくいため、別途分散剤等の添加剤を使用せずとも、塗布性及び透明性に優れる。また、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及び光触媒は、このように、別途分散剤を使用せずとも十分な塗布性及び透明性を有していることから、分散剤等の添加剤により可視光触媒活性を損なうことがなく、優れた可視光触媒活性を有することができる。このため、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子は、光触媒(特に可視光応答型光触媒)として有用である。
【0015】
(1-1)チタニアナノ粒子
通常、水、無機酸、遊離した有機酸等は200℃以下でほとんど揮発する。一方、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、200~600℃の範囲で徐々に脱離する。例えばアセトキシ基の場合は、約260℃をピークとして200~600℃の範囲で徐々に脱離する。このように、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制できるためクラック、剥がれ等が起こりにくく塗布性及び透明性に特に優れるとともに、クラック、剥がれ等を抑制することができ、さらには後述の金属ナノ粒子を強固に担持させやすい結果可視光触媒活性にも優れる。なお、通常は、表面にアシルオキシ基を有していると可視光触媒活性は低下するのが技術常識であるが、本発明では上記のとおり乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制できるためクラック、剥がれ等の抑制効果が特に優れているとともに、後述の金属ナノ粒子を強固に担持させやすいためアシルオキシ基を有しているにもかかわらず可視光触媒活性も向上させることができる。
【0016】
また、上記チタニアナノ粒子は、表面に存在するチタン原子にアシルオキシ基が大量に結合していることが好ましい。表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が存在している場合は、上記のとおり200~600℃の範囲で徐々に離脱することから、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少が大きい。つまり、本発明において、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少は、表面に存在するチタン原子にアセトキシ基が結合している数の指標を意味している。このため、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上、好ましくは7~20質量%である。この際、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0017】
上記チタニアナノ粒子は、上記のとおり表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しているものであるが、このアシルオキシ基は、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合していることが好ましい。言い換えれば、このアシルオキシ基は、炭素数1~4のモノカルボン酸、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等の有機酸由来のアシルオキシ基であることが好ましい。
【0018】
上記Rにおいてアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が挙げられる。つまり、モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0019】
なお、揮発性、有害性及び分解性の観点から、Rとしては水素原子又はメチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が好ましく、水溶性及び臭気の観点からメチル基が好ましい。つまり、揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはギ酸、酢酸等が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましい。また、水溶性及び臭気の観点から酢酸が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0020】
上記チタニアナノ粒子の平均粒子径は、1~5nmが好ましく、2~4nmがより好ましい。チタニアナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、金属ナノ粒子を適度且つより強固に担持させることができ、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜が形成できる。また、通常平均粒子径が小さい場合、加熱時の収縮が大きいため、クラックや基板からの剥離が起こりやすいが、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子は平均粒子径が小さいチタニアナノ粒子を使用しているにも関わらず塗布性に優れる材料である。本発明において、チタニアナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0021】
上記チタニアナノ粒子の比表面積は、150~500m2/gが好ましく、200~400m2/gがより好ましい。チタニアナノ粒子の比表面積をこの範囲とすることにより、金属ナノ粒子を適度且つより強固に担持させることができ、可視光触媒活性を高くしやすい。上記チタニアナノ粒子の比表面積はBET法により測定する。
【0022】
また、上記チタニアナノ粒子は、N、Cl及びS元素の濃度をいずれも0~5000ppm、特に0~1000ppmとすることができる。チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度をこの範囲とすることにより、基材の腐食等を抑えやすい。なお、この条件は、TiCl4、TiOSO4等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量であることを意味している。上記チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度はWDX(蛍光X線)により測定する。
【0023】
さらに、上記チタニアナノ粒子の結晶形は、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型を採用することにより、可視光触媒活性を特に向上させることができる。また、同様の理由から、アナターゼ型以外の結晶形は存在せず、アナターゼ型100%であることが好ましい。
【0024】
(1-2)金属ナノ粒子
金属ナノ粒子を構成する金属としては、特に制限はなく、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の白金族元素の他、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族元素や、金、銀、銅等の周期表第11族元素等も採用することができる。なかでも、チタニアナノ粒子表面に担持させやすく可視光触媒活性を向上させやすい観点から、白金族元素が好ましく、白金がより好ましい。
【0025】
上記金属ナノ粒子の平均粒子径は100nm以下が好ましく、1~10nmがより好ましい。担持される金属ナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、可視光触媒活性をより向上させ、透明性をより向上させた膜を形成しやすい。金属ナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡観察により測定する。
【0026】
本発明において、チタニアナノ粒子の表面に対する金属ナノ粒子の担持量は、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~2質量%である。この範囲とすることにより、塗布性及び透明性は維持しつつ、可視光触媒活性を特に向上させることができる。なお、金属ナノ粒子の担持量が90質量%をこえると、金属錯体のナノ粒子化ができなくなる。
【0027】
2.金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及び光触媒の製造方法
上記した金属ナノ粒子をチタニアナノ粒子に担持させる方法としては、金属化合物とチタニアナノ粒子とを混合後光照射により担持する光析出法と、任意の方法で合成された金属ナノ粒子をチタニアナノ粒子と混合して担持する方法があるが、本発明においては、可視光触媒活性の観点から光析出合成法が好ましい。
【0028】
具体的には、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子及び光触媒は、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液と金属化合物とを混合して得られた分散液に対して紫外光を照射する工程
を備える方法により製造することができる。
【0029】
なお、可視光触媒活性の観点から光析出合成法が好ましいが、混合担持法を採用し、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程、及び
(C’)前記工程(B)で得られた分散液と金属ナノ粒子とを混合する工程
を備える方法により製造することもできる。
【0030】
(2-1)工程(A)
工程(A)では、チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る。
【0031】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。つまり、チタンを含む物質としては、酸化チタン及び/又は酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。これらのチタンを含む物質は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これらのなかでも、得られるチタニアの分散性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの)が好ましく、特に純度、分散性、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0032】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト、副生成物の水溶性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0033】
なお、チタンアルコキシドと有機酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶けにくいエステル化合物が遊離することがあるが、チタニア自身には問題はない(例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する)が、均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0034】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、結晶性制御、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いることが好ましい。その場合、得られるチタニアの分散性の観点から、乾燥を行わずに用いることが好ましい。
【0035】
なお、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。なお、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いることもできる。酸化チタン、金属チタン等の固体の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0036】
工程(A)で生成する分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lがより好ましい。
【0037】
反応に使用する酸は、有機酸であり、揮発性のある酸が好ましいことから化学式CnH2n+1COOH(n=0~3)で示されるモノカルボン酸(炭素数1~4のモノカルボン酸)、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0038】
揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはn=0のギ酸及びn=1の酢酸が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましく、水溶性及び臭気の観点から酢酸が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0039】
有機酸の使用量は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、アシルオキシ基のモル数が1.5モル以上、特に2モル以上となるように調整することが好ましい。有機酸を多く用いるほど経時安定性、塗布性、透明性等を向上させやすい。なお、上限値は特に制限されないが、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、アシルオキシ基のモル数が通常10モル以下となるように調整することが好ましい。
【0040】
工程(A)で得られる分散液中の有機酸の濃度は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、0.02~10mol/Lが好ましく、0.1~7mol/Lがより好ましい。
【0041】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50質量%以上)として用いることが好ましいが、反応時にアルコール又はエステルを含んでいてもよい。
【0042】
例えばチタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応によりイソプロピルアルコールが生じる。また、加熱により有機酸のイソプロピルエステルが生じることもある。つまり、工程(A)により得られる分散液中には、アルコール又はエステルを投入してもよいし、系中で発生していてもよい。このアルコール又はエステルについては、100℃以下の開放系における加熱により除去してもよいし、減圧により除去してもよいし、反応液中に残留していてもよい。
【0043】
なお、分散液中にアルコールが含まれる場合には、得られるチタニアナノ粒子及び本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の平均粒子径が小さくなる傾向にあり、平均粒子径を制御するために、意図的にアルコールを添加してもよい。
【0044】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いることが多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の結晶形がアナターゼ型の他にブルッカイト型も混在するだけでなく、得られる分散液の貯蔵安定性、装置の腐食、不純物、排水等の観点からも原則用いないことが好ましい。ただし、原料の分散性、透明性、均一性等を高め取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用することもできる。この場合、工程(A)で得られる分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下となる。
【0045】
このような工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0046】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限はなく、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。特に、量産スケールにおいては、凝集して大きな塊を形成しにくく攪拌を継続しやすい観点から、有機酸及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入することが好ましい。一方、ラボスケールにおいては、チタンを含む物質及び有機酸を混合した後に、攪拌しながら水を投入することが好ましい。
【0047】
(2-2)工程(B)
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する。
【0048】
工程(B)は、常圧下に行ってもよいし、密閉容器内で加圧下に行ってもよい。チタニアナノ粒子及び本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の平均粒子径を小さくする観点から、常圧下に行うことが好ましく、具体的には0.09~0.11MPaが好ましい。なお、加圧下に行う場合は、可視光触媒活性が高く、且つ透明性の高い膜が形成しやすお観点からは、0.2MPa以下(0.11~0.2MPa)において短時間(例えば5~30分程度)の反応を行うことが好ましい。
【0049】
加熱の際には、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましい。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間である。
【0050】
加熱温度は、80℃より高い温度、好ましくは82℃以上である。加熱温度が80℃以下では、クラックが発生しやすく、塗布性に劣りすぐに脱落することから塗膜を形成することが困難となる。なお、加熱温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常120℃である。
【0051】
このような工程(B)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0052】
(2-3)工程(C)
工程(C)においては、工程(B)で得られた分散液と金属化合物とを混合して得た分散液に対して紫外光を照射する。
【0053】
使用する金属化合物としては、還元により金属ナノ粒子となる物質であれば特に制限はない。つまり、金属化合物としては、金属ナノ粒子前駆体が好ましく、負電荷を有する金属の陰イオン錯体を有する金属化合物がより好ましい。具体的には、塩化金属イオン(ヘキサクロロ白金(IV)酸イオン、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸イオン、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸イオン、テトラクロロ白金(II)酸イオン、テトラクロロパラジウム(II)酸イオン、テトラクロロ金(III)酸イオン、テトラクロロ鉄(III)イオン、テトラクロロ銅(II)イオン、ジクロロ銅(I)イオン等)、チオ硫酸金属イオン(ビス(チオスルファト)鉄(III)イオン等)、アンミン金属イオン(ジクロロジアンミン白金(II)等)等が挙げられる。これらの金属化合物は、水和物であってもよい。これらの金属化合物は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0054】
工程(C)において、金属化合物の使用量は、分散性、透明性、可視光触媒活性及びコストの観点から、金属化合物中の金属元素の質量に換算して、工程(B)で得られた分散液を200℃で加熱した際の固形分量に対して90質量%以下であることが好ましく、0.001~20質量%であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
工程(C)において、紫外光の照射強度は、金属ナノ粒子のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、10μW/cm2以上が好ましく、100μW/cm2以上がより好ましく、1mW/cm2以上がさらに好ましい。なお、紫外光の照射強度の上限値は、特に制限はないが、通常2W/cm2である。
【0056】
工程(C)において、紫外光の照射時間は、5分以上照射することでチタニアナノ粒子表面に金属ナノ粒子が生成しやすいが、可視光触媒活性等の観点から10分以上照射することが好ましく、20分以上照射することがより好ましい。なお、紫外光の照射時間の上限値は、特に制限はないが、通常5時間である。
【0057】
工程(C)においては、紫外光をパルス状にして所定時間間隔で繰り返し照射するパルス照射であっても、途切れなく継続して照射する連続照射であってもよく、要求特性に応じて適宜設定することができる。
【0058】
工程(C)において、紫外光照射は、金属ナノ粒子のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、室温(20℃)以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。なお、温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常100℃である。
【0059】
工程(C)において、紫外光照射の際には、工程(B)で得られた分散液と金属化合物とを十分に反応させる観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。
【0060】
工程(C)は、空気雰囲気下に行ってもよいし、嫌気下で行ってもよいが、嫌気下としては、具体的には、窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等が挙げられる。
【0061】
この後、常法により、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を回収することができる。つまり、大量のアシルオキシ基が表面に存在するチタン原子に結合し、金属ナノ粒子が表面に担持されたチタニアナノ粒子を得ることができる。
【0062】
工程(B)で得られる分散液中に存在するチタニアナノ粒子は、正に帯電している。工程(C)で使用する金属化合物は、通常、負に帯電していることから、チタニアナノ粒子に引きつけることができ、結果的に得られる金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子においては、チタニアナノ粒子表面に金属ナノ粒子を強固に密着させることが可能である。
【0063】
(2-4)工程(C’)
本発明では、上記した工程(C)の代わりに、工程(C’)として、工程(B)で得られた分散液と金属ナノ粒子とを混合する工程を採用することもできる。
【0064】
使用する金属ナノ粒子としては、特に制限はなく、上記した金属ナノ粒子を使用することができる。この金属ナノ粒子は、公知の方法で製造された金属ナノ粒子や市販の金属ナノ粒子を使用することができる。
【0065】
工程(C’)において、金属ナノ粒子の使用量は、分散性、透明性、可視光触媒活性及びコストの観点から、工程(B)で得られた分散液を200℃で加熱した際の固形分量に対して90質量%以下であることが好ましく、0.001~20質量%であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
工程(C’)において、工程(B)で得られた分散液と金属ナノ粒子とを混合する方法は特に制限はなく、常法にしたがうことができる。例えば、工程(B)で得られた分散液に金属ナノ粒子を添加し、攪拌することができる。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。
【0067】
工程(C’)において、工程(B)で得られた分散液と金属ナノ粒子との混合は、金属ナノ粒子のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、室温(20℃)以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。なお、温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常100℃である。
【0068】
工程(C’)は、空気雰囲気下に行ってもよいし、嫌気下で行ってもよい。嫌気下としては、具体的には、窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等が挙げられる。
【0069】
この後、常法により、金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を回収することができる。つまり、大量のアシルオキシ基が表面に存在するチタン原子結合し、金属ナノ粒子が表面に担持され、強固に密着したチタニアナノ粒子を得ることができる。
【0070】
3.金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液
本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液(特に光触媒分散液、さらには可視光応答型光触媒分散液)は、上記工程(A)~(C)を経た反応液を用い、必要に応じて超音波分散等の分散工程を加えることにより、さらに均一な分散液を作製できる。この時、従来の可視光応答型光触媒の分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得ることができなかったことから、本発明においても、分散剤を加えてもよいが、分散剤を加えなくても通常の可視光応答型光触媒より遥かに分散性のよい分散液が得られる。分散性がよい結果、コーティングの耐クラック性にも優れる。また、分散剤を加えなくてもよい結果、緻密なチタニアのコーティングも可能になり、塗布性及び透明性にも優れるうえに、可視光触媒活性にも優れる。
【0071】
この際、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液においては、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液の総量を100質量%として、主要な溶媒である水の含有量をコーティングの容易さ、及びコーティングの膜性の観点から、50質量%以上、特に60質量%以上とすることが好ましい。
【0072】
また、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を反応液から取り出し、溶媒を変更することも可能である。反応液から遠心分離やろ過膜等により水分を除去し、有機溶媒に置換してもよい。その際は本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子を乾燥させないことが、分散性、透明性等の観点から好ましい。
【0073】
分散液に使用する有機溶媒としては、アルコール等が挙げられる。このアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコールの他、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール等が挙げられる。
【0074】
また、OH基を有さなくても、チタニア及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性があればよく、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。なかでも、沸点等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。
【0075】
本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液は、用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整し、スクリーン印刷に用いる場合は、さらに粘度を高く調製し、流動性を抑制することが好ましい。このようにして得られる本発明の塗膜は、上記のとおり緻密なコーティングである。
【実施例】
【0076】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は2.5mol/L、pHは2.2であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ70℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0078】
その後、常圧(0.10MPa)で、85℃で3時間撹拌したところ、有機分散剤を使うことなく半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液に超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。この分散液は水の含有量が67質量%でありpHは2.3であった。
【0079】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ250m2/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ型100%であった(他の結晶形は存在しなかった)。
【0080】
この分散液を、水分計を用いて200℃で保持し質量減少がなくなるまで乾燥したチタニアナノ粒子のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/分の昇温条件で600℃まで昇温させて測定したところ、200℃以上での質量減少は10質量%であった。この200℃以上での質量減少は、有機酸である酢酸が脱離することによる質量減少に相当する。遊離した酢酸は200℃以下でほとんど揮発することから、200℃以上における質量減少が10質量%であることが、チタニアナノ粒子表面にアシルオキシ基である大量のアセチル基が-OCOCH3の形でチタン原子と結合していることを示唆している。
【0081】
空気雰囲気下において、この分散液30g(5.2質量%)に8.3mgのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を加え、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される白金分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0082】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は94.8%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は6.6以上と非常に高い値が得られた。また、暗闇下の活性値は0であったことから、この抗菌性が光触媒効果によるものであることが分かる。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.2質量%)に代表的な白金ナノ粒子合成方法であるポリオール還元により合成した白金ナノ粒子を、白金分が酸化チタン重量に対して2質量%となるように添加し、1時間攪拌混合することで分散液を得た。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0084】
次に、白金を2wt%担持させた分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は94.8%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、実施例2はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。更に、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は6.6以上だった。実施例1の10倍量白金を担持させたサンプルは実施例1と同等の活性値を示したことから、同じ量を担持させた場合の抗菌性は実施例1のほうが優れていることが分かる。また、暗闇下の活性値は0であったことから、この抗菌性が光触媒効果によるものであることが分かる。
【0085】
[実施例3]
水の量を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.9質量%)に6.3mgのビス(アセチルアセトナト)白金(II)を加え、空気雰囲気下、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で2時間30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される白金分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。また、照射時間が実施例1に比べおよそ5倍かかったことから、ヘキサクロロ白金(IV)のように、負電荷の錯体の方が酸化チタン表面との相互作用が大きくなったことが示唆される。
【0086】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は6.5であった。
【0087】
[実施例4]
水の量を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.9質量%)に11.1mgの酢酸銅(II)一水和物を加え、空気雰囲気下、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で2時間30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される銅分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0088】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は5.3であった。
【0089】
[実施例5]
水の量を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.9質量%)に0.47mgのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を加え、空気雰囲気下、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される白金分が酸化チタン重量に対して0.01質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0090】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は4.6であった。
【0091】
[実施例6]
水の量を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.9質量%)に5.5mgの酢酸銀(I)を加え、空気雰囲気下、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される銀分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0092】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は6.6以上であった。
【0093】
[実施例7]
水の量を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液30g(5.9質量%)に8.0mgの塩化鉄(II)四水和物を加え、空気雰囲気下、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で2時間30分攪拌混合を行うことで、分散液を得た。つまり、担持される鉄分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。この分散液は水の含有量が約95質量%でありpHは2.3であった。
【0094】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は6.6以上であった。
【0095】
[比較例1]
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製、比表面積300m2/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm、表面にアシル基は存在しない)10gに酢酸30gと水160gを加え、53.1mgのヘキサクロロ白金酸六水和物を添加し、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で30分攪拌混合を行った後に超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。つまり、担持される白金分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。
【0096】
また、この懸濁液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。このことから、比較例1の分散性は実施例1の分散性に劣ることが理解できる。また、チタニアナノ粒子ST-01とガラス表面の密着度が低く、指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。
【0097】
次に、この懸濁液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は65.7%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。このことから、比較例1は実施例1に比べチタニアナノ粒子ST-01とガラス表面の密着度が低いことが理解できる。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は2.5であった。実施例1及び比較例1から、比較例1の可視光触媒活性は実施例1に劣ることが理解できる。
【0098】
[比較例2]
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製、比表面積300m2/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm、表面にアシル基は存在しない)10gに水190gを加え、53.1mgのヘキサクロロ白金酸六水和物を添加し、照射強度1.5mW/cm2の紫外線を途切れなく継続して照射(連続照射)しながら、室温(20℃)で30分攪拌混合を行った後に超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。つまり、担持される白金分が酸化チタン重量に対して0.2質量%となるように添加した。
【0099】
また、この懸濁液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。このことから、比較例2の分散性は実施例1の分散性に劣ることが理解できる。また、チタニアナノ粒子ST-01とガラス表面の密着度が低く、指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。
【0100】
次に、この懸濁液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は87.2%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。このことから、比較例2は実施例1に比べチタニアナノ粒子ST-01とガラス表面の密着度が低いことが理解できる。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は1.7であった。実施例1及び比較例2から、比較例2の可視光触媒活性は実施例1に劣ることが理解できる。比較例1及び2から、系中に遊離酢酸が存在したとしても可視光触媒活性に影響はなく、表面に修飾した酢酸が可視光触媒活性に影響を与えていることが理解できる。
【0101】
[比較例3]
ルミレッシュCT-2(酸化チタン系可視光応答型触媒の市販品、表面にアシル基は存在しない)10gに水190gを加え、超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。
【0102】
また、この懸濁液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。このことから、比較例3の分散性は実施例1の分散性に劣ることが理解できる。また、チタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が低く、指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。
【0103】
次に、この懸濁液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は59.8%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。このことから、比較例3は実施例1に比べチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が低いことが理解できる。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は2.0であった。実施例1及び比較例3から、比較例3の可視光触媒活性は実施例1に劣ることが理解できる。
【0104】
[比較例4]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は2.5mol/L、pHは2.2であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ70℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0105】
その後、常圧(0.10MPa)で、85℃で3時間撹拌したところ、有機分散剤を使うことなく半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液に超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。この分散液は水の含有量が67質量%でありpHは2.3であった。
【0106】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、その平均値は95.0%であった。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lx、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は1.6であった。実施例1及び比較例4から、比較例4の可視光触媒活性は実施例1に劣ることが理解できる。また、実施例1の高い可視光触媒活性は、表面に強く密着した金属ナノ粒子である白金ナノ粒子によることが理解できる。