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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】中空シリカ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020102506
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021195275
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 洋平
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びアルコールを含む溶媒中で第4級アンモニウム化合物の存在下アルコキシシランを加水分解及び縮合してシリカ粒子の分散液を得る第1ステップと、
前記シリカ粒子を水熱処理して中空シリカ粒子を得る第2ステップとを有し、
前記アルコールの平均炭素数は1.0以上2.5以下であり、
前記アルコールの平均炭素数が1.0以上1.5以下である場合は、前記水及びアルコールの合計100質量%に対する前記アルコールの量が50質量%以上95質量%以下であり、
前記アルコールの平均炭素数が1.5超2.5以下である場合は、前記水及びアルコールの合計100質量%に対する前記アルコールの量が50質量%以上90質量%以下であり、
前記第4級アンモニウム化合物が、前記アルコキシシラン100mol%に対して7mol%以上である中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
第1ステップで得られる分散液を固液分離し、得られたシリカ粒子に水を加えて前記第2ステップの水熱処理を行う請求項1に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム化合物が、テトラC1-6アルキルアンモニウムとアニオンとか
らなる化合物である請求項1または2に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は、樹脂や樹脂原料等と混合することで、樹脂の成形性や透明性等を損なうことなく強度や硬度、耐熱性、絶縁性等の特性を向上できるため、接着材料、歯科用材料、光学部材、コーティング材料、ナノコンポジット材料等の用途に有用である。中でも、中空シリカ粒子は、低屈折率材や断熱材、低比重顔料、薬剤封入カプセルなどをはじめとして種々の分野への応用が期待されている。
【0003】
中空シリカ粒子の製造方法として、例えば特許文献1には、ポリマー粒子又は疎水性有機化合物とシリカ源から、シリカで構成される外殻を有し、かつ核にポリマー粒子又は疎水性有機化合物を有するプロトコアシェル型シリカ粒子を製造した後に、高温で焼成することで核を消失させて中空シリカ粒子を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、核粒子分散液にシリカ源を添加して、核粒子にシリカ被覆層を形成した後、分散液に酸を加えることで核粒子を構成する元素の一部又は全部を除去することで中空球状のシリカ系微粒子を製造する方法が開示されている。これらの中空シリカ粒子の製造方法では、2層構造のシリカ粒子を製造した後に高温で焼成したり酸を添加したりする工程が必要であり、製造に要する電力量が大きく環境に与える負荷も大きい等の課題があった。
【0004】
非特許文献1には、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の加水分解において、所定量の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を定期的に添加することによって、径方向に縮合度の異なるシリカ粒子を形成し、これを沸騰水中でエッチングすることにより低縮合度を有する部分を除去して複層殻を有するシリカ粒子を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-233611号公報
【文献】特開2007-153732号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yandong Han,et al.,Chem.Mater.2019,31,7470-7477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載されている方法では、高温での焼成や酸を要することなく沸騰水を用いることで中空粒子を製造することができるが、非特許文献1にはTMAHの量で殻厚みや複層殻の間隔を調整できることが記載されているものの、原料であるTEOSの加水分解及び縮合反応における反応率や、原料TEOSに対して得られるシリカ粒子の収率は考慮されておらず、工業的な生産にあたっては生産性の向上が課題となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アルコキシシラン原料の反応率を向上し、アルコキシシラン原料に対して中空シリカ粒子を高収率で得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルコキシシランを加水分解及び縮合するゾルゲル法によってシリカ粒子を製造するときに、所定量以上の第4級アンモニウム化合物の存在下で加水分解及び縮合することにより、得られる中空シリカ粒子の収率が向上して前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]水及びアルコールを含む溶媒中で第4級アンモニウム化合物の存在下アルコキシシランを加水分解及び縮合してシリカ粒子の分散液を得る第1ステップと、
前記シリカ粒子を水熱処理して中空シリカ粒子を得る第2ステップとを有し、
前記第4級アンモニウム化合物が、前記アルコキシシラン100mol%に対して7mol%以上である中空シリカ粒子の製造方法。
[2]前記アルコールの平均炭素数が1.0以上3.0以下であり、アルコールの量が、アルコールと水の合計100質量%に対して50質量%以上95質量%以下である[1]に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
[3]第1ステップで得られる分散液を固液分離し、得られたシリカ粒子に水を加えて前記第2ステップの水熱処理を行う[1]又は[2]に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
[4]前記第4級アンモニウム化合物が、テトラC1-6アルキルアンモニウムとアニオンとからなる化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定量以上の第4級アンモニウム化合物の存在下でアルコキシシランを加水分解及び縮合することにより、原料アルコキシシランの反応率を向上し、中空シリカ粒子を高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施例1に係る中空シリカ粒子の透過型電子顕微鏡画像である。
図2図2は、本発明の実施例2に係る中空シリカ粒子の透過型電子顕微鏡画像である。
図3図3は、本発明の実施例5に係る中空シリカ粒子の透過型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は中空シリカ粒子、好ましくは単殻の中空シリカ粒子の製造方法に関する。本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、水及びアルコールを含む溶媒中で第4級アンモニウム化合物の存在下アルコキシシランを加水分解及び縮合(以下、「加水分解縮合」と称することがある。)してシリカ粒子の分散液を得る第1ステップと、前記シリカ粒子を水熱処理して中空シリカ粒子にする第2ステップとから構成される。
【0014】
前記第1ステップのアルコキシシランの加水分解縮合を第4級アンモニウム化合物の存在下で行うと、該第4級アンモニウム化合物の塩基性が高いために、加水分解縮合反応初期の核形成段階でのpHが高くなって縮合度が低くなる一方、加水分解反応終期の殻形成段階ではpHが低くなって縮合度が高くなる。そして得られたシリカ粒子を第2ステップで水熱処理すると、縮合度が低い核を除去でき、縮合度の高い殻部分のみが残存する中空シリカ粒子が製造できる。
【0015】
前記第1ステップで使用する前記第4級アンモニウム化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウムなどのテトラC1-6アルキルアンモニウムとアニオンとからなる化合物が挙げられる。前記アニオンとしては、水酸化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオンなどが挙げられ、水酸化物イオンが好ましい。第4級アンモニウム化合物としては、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどが好ましく、加水分解縮合反応の初期に高いpHとする観点から、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)が好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)がより好ましい。
【0016】
前記第4級アンモニウム化合物の量は、前記アルコキシシラン100mol%に対して7mol%以上である。所定量以上の第4級アンモニウム化合物を使用することで、仕込んだアルコキシシランの反応率が向上し、仕込んだアルコキシシランに対して得られる中空シリカ粒子の収率を向上することができる。第4級アンモニウム化合物の含有量は、アルコキシシラン100mol%に対して7mol%以上である。第4級アンモニウム化合物の含有量は、アルコキシシラン100mol%に対して10mol%以上がより好ましく、13mol%以上がさらに好ましく、15mol%以上が特に好ましい。第4級アンモニウム化合物の含有量の上限は溶媒に溶解する限り特に限定されないが、25mol%以下が好ましく、20mol%以下がより好ましく、18mol%以下がさらに好ましい。第4級アンモニウム化合物の含有量が上記範囲であれば、生成するシリカ粒子が凝集するなどの不具合を防止することができる。
【0017】
なお第1ステップでは必要に応じて、アンモニアを第4級アンモニウム化合物と併用してもよい。アンモニアと第4級アンモニウム化合物を併用することで塩基性を調整でき、反応速度や殻厚みなどを制御できる。アンモニアは、第4級アンモニウム化合物100質量部に対して、例えば、0質量部以上であり、50質量部以上でもよく、例えば、1000質量部以下であり、300質量部以下であってもよい。
【0018】
第1ステップで使用する前記アルコキシシランは、ケイ素原子の置換基としてアルコキシ基を有する化合物であり、ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基の他に、炭素数2~6のアルキル基、又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を有していてもよい。また、上記アルキル基の水素原子は、ハロゲン原子、ビニル基、グリシジル基、メルカプト基、アミノ基等で置換されていてもよい。
【0019】
上記ケイ素原子の置換基としてアルコキシ基のみを有する4官能性アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等の炭素数が1~4程度のアルコキシ基を4つ有するシランが挙げられる。また、ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基と無置換のアルキル基を有するアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の3官能性アルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等の2官能性アルコキシシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等の1官能性アルコキシシラン;等が挙げられる。さらに、ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基と置換アルキル基を有するアルコキシシランとしては、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロアルキル基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の芳香族基含有アルコキシシラン;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基含有アルコキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;等が挙げられる。
【0020】
中でも、1~4官能性アルコキシシランが好ましく、より好ましくは3~4官能性アルコキシシランであり、さらに好ましくは4官能性アルコキシシランである。アルコキシシランの官能数(アルコキシ基の数)が多いほど、得られる中空シリカ粒子中に不純物が混入しにくくなる。第1ステップで用いられるアルコキシシランのうち、4官能性アルコキシシラン(好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン)が90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上であり、上限は100質量%である。また、反応性の観点から、アルコキシ基の炭素数は1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1~2であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の中空シリカ粒子の製造に特に好ましく用いられるアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の炭素数が1~4程度のアルコキシ基を4つ有するシランである。工業的には、加水分解縮合した後に副生成物として生成されるアルコールのアルコキシシラン1モル当たりの重量が小さいテトラメトキシシランが好ましい。
【0021】
第1ステップでアルコキシシランを加水分解縮合する反応液中、アルコキシシランの濃度は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mmol/g以上であり、上限は特に限定されないが、例えば3mmol/g以下であることが好ましい。反応液中、アルコキシシランの濃度がこの範囲にあると、反応速度の制御が容易となり、粒子径を均一にすることができる。
【0022】
第1ステップのアルコキシシランの加水分解縮合反応は、上述したように、水及びアルコールを含む溶媒中で行われる。アルコールを用いることによって、疎水性のアルコキシシランと水とが混合しやすくなり、反応液中でアルコキシシランの加水分解縮合の進行度合いを均一にできるとともに、得られるシリカ粒子の分散性を向上できる。なお、水及びアルコールは、アルコキシシランや第4級アンモニウム化合物などの試薬とは別に添加されるものであってもよく、前記試薬を予め水及び/又はアルコールを含む溶媒に溶解又は分散したときの該溶媒に由来するものであってもよい。
【0023】
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ペンチルアルコール等のモノオール類(好ましくは炭素数1~10程度のアルカンモノオール類);エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類(好ましくは炭素数1~10程度のアルカンジオール類);等が挙げられ、モノオール類が好ましい。上記アルコールは、1種でもよいし、任意に選ばれる2種以上を用いてもよい。例えば、メタノールやイソプロピルアルコールを含むエタノール(変性エタノールと称することがある)を2種以上のアルコールの混合物として使用してもよい。
【0024】
また上記アルコールは、平均炭素数が1.0以上3.0以下となる様に、1種を使用するかまたは2種以上を組み合わせることが好ましい。アルコールの平均炭素数を所定の範囲にすることで、中空シリカ粒子の収率をさらに高めることができる。アルコールの平均炭素数とは、溶媒として用いられるアルコールの存在比を炭素数に応じて質量基準での百分率で整理し、炭素数と百分率の積を全ての炭素数で加算した値を意味し、いわゆる加重平均値を意味する。例えば合計100質量%のアルコールが、炭素数1のメタノール20質量%、炭素数2のエタノール30質量%、及び炭素数3のプロパノール50質量%から構成される場合の平均炭素数は、1×20%+2×30%+3×50%=2.3となる。
【0025】
平均炭素数を上記範囲となるようにアルコールを組み合わせるときのアルコールの種類は、1~3種類であることが好ましく、1~2種類であることがさらに好ましい。また、組み合わせる各アルコールは、炭素数1~6のアルコールであることが好ましく、1~3のアルコールであることがさらに好ましいい。組み合わせるアルコールの種類、及び各アルコールの炭素数が上記範囲であれば、得られるシリカ粒子の安定性を確保することができる。
【0026】
アルコールと水の合計100質量%に対するアルコールの量(以下、「アルコール比」と称する場合がある)は、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、例えば95質量%以下、好ましくは93質量%以下である。ここで、アルコールの量とは、アルコキシシランの加水分解縮合によりアルコールの量は変化するため、仕込み時(加水分解縮合の開始前)のアルコールの量とする。
【0027】
アルコール比の下限が上記範囲であれば、反応液中でアルコキシシランの加水分解縮合の進行度合いを均一にできるとともに、得られるシリカ粒子の分散性を向上することができる。また、アルコール比の上限が上記範囲であれば、加水分解の反応速度を高めることができ、7mol%以上の第4級アンモニウム化合物の溶解が容易となりシリカ粒子をさらに高収率で得ることができる。
【0028】
第1ステップでは、使用するアルコールの平均炭素数に応じて、アルコール比を制御してもよい。例えば、以下の組み合わせとなる様に平均炭素数とアルコール比とを組み合わせることで、シリカ粒子を高収率で得ることができるだけでなく、シリカ粒子の凝集を防止することもできる。
1)アルコールの平均炭素数を1.0以上1.5以下とし、アルコール比を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上とし、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下とする。
2)アルコールの平均炭素数を1.5超2.5以下とし、アルコール比を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上とし、また好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下とする。
【0029】
また以下の組み合わせとなる様に平均炭素数とアルコール比とを組み合わせることで、シリカ粒子を高収率で得ることができ、シリカ粒子の凝集を防止することができ、さらには得られるシリカ粒子が粒径50nm未満の超微粒子となることを防止できる。
3)アルコールの平均炭素数を1.2以上1.5以下とし、アルコール比を、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上とし、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下とする。
4)アルコールの平均炭素数を1.5超1.9以下とし、アルコール比を、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは78質量%以上とし、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下とする。
【0030】
5)アルコールの平均炭素数を1.9超2.5以下とし、アルコール比を、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上とし、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下とする。
【0031】
溶媒として使用される前記アルコールと水の合計量は、アルコキシシラン100質量部に対して、例えば、300質量部以上、好ましくは500質量部以上、より好ましくは1000質量部以上であり、例えば、7000質量部以下、好ましくは6000質量部以下、より好ましくは5500質量部以下である。
【0032】
第1ステップで仕込む全原料に対するアルコキシシランの仕込み量の割合は、全原料100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、例えば、20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。全原料に対するアルコキシシランの仕込み量の割合が1質量部以上であれば、シリカ粒子の生産性を高めることができ、全原料に対するアルコキシシランの仕込み量の割合が20質量部以下であれば、得られるシリカ粒子の安定性を確保することができる。
【0033】
4級アンモニウム化合物などの塩基、アルコキシシラン、及び溶媒としての水及びアルコールなどの上記各成分は、適当な順で混合してもよいが、例えば、水及びアルコールを予め混合した予備混合液を調整した後、アルコキシシランと混合してもよいし、アルコキシシランを予めアルコールと混合した後、残りの成分である4級アンモニウム化合物及び水と混合してもよい。
【0034】
アルコキシシランの加水分解縮合は、水、アルコール、第4級アンモニウム化合物、及びアルコキシシランを含む液を所定の温度、例えば、0~100℃、好ましくは20~70℃、より好ましくは20~55℃で攪拌することで行うことができる。反応温度は例えば室温であってよい。また、加水分解縮合反応の継続時間は、30分~100時間であることが好ましく、1~20時間がより好ましく、2~10時間がさらに好ましい。
【0035】
第1ステップによってシリカ粒子の分散液を得ることができる。このシリカ粒子は、上述した様に核の縮合度が低く、殻の縮合度が高い疎密構造を有している。そのため第2ステップで熱処理することで核部分を中空化することができ、中空粒子にすることができる。
【0036】
本発明の製造方法によれば、第1ステップにおいて、仕込んだアルコキシシランの反応率は70%以上とすることができ、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であり、反応率の上限は好ましくは100%である。反応率の決定方法の詳細については後述する。
【0037】
また本発明の製造方法によれば、加水分解縮合反応で得られたシリカ粒子の収率を、仕込んだアルコキシシランに対して70%以上とすることができ、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、特に好ましくは100%以上であり、例えば、130%以下である。ここで、シリカ粒子の収率とは、得られたシリカの乾燥重量を仕込んだアルコキシシランの重量と加水分解縮合による重量減少率の積で除することで算出したものであり、全てのアルコキシシランが加水分解縮合したと仮定した場合の値である。収率が100%を超えるのは、得られたシリカ粒子に加水分解縮合することなく残ったアルコキシ基又はシラノール基が残存していること、或いは第4級アンモニウム化合物などが取り込まれていることなどを理由とするが、十分に洗浄した後での中空シリカ粒子の乾燥重量を基準にしている限り、数値が大きいほど、真の収率が高いことを意味する。
【0038】
第1ステップで得られた前記疎密構造のシリカ粒子は、分散液から固液分離した後、水を加えて第2ステップの水熱処理をすることが好ましい。固液分離をすることで、分散液(反応液)中に含まれる触媒や不純物、特に第4級アンモニウム化合物を除去でき、第2ステップでの中空化の効率が向上する。
【0039】
固液分離は、例えば濾過(限外濾過など)、遠心分離、溶媒留去など、必要に応じて任意の方法で行うことができる。
【0040】
第1ステップで得られた前記疎密構造のシリカ粒子は、必要に応じて前記した固液分離をした後、水熱処理する。水熱処理することによって疎密構造のシリカ粒子の疎部が空洞化して中空シリカ粒子を製造できる。水熱処理は、シリカ粒子と水との共存下で行う熱処理であり、疎密構造のシリカ粒子1質量部に対する水の量は、例えば、1質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。水量の上限は特に限定されないが、生産効率の観点から、疎密構造のシリカ粒子1質量部に対して、例えば、1000質量部以下、好ましくは500質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。
【0041】
水熱処理の温度は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましい。温度が高いほど、水熱処理によるシリカ粒子の中空化が容易になる。水熱処理の温度の上限は特に限定されず、例えば180℃であってもよく、160℃であってもよい。水熱処理の時間は30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。水熱処理の時間の上限は特に限定されないが、生産効率の観点から、例えば10時間であってもよく、8時間であってもよく、6時間であってもよい。水熱処理は、例えば0.1MPaG(ゲージ圧)~2MPaGで行うことが好ましい。
【0042】
得られた中空シリカ粒子は、表面処理剤で表面処理されていることも好ましく、その場合、アルコキシシランの加水分解縮合後の反応混合物を得た後、表面処理することができる。
【0043】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ジシラザン化合物などの有機ケイ素化合物;有機酸;及びチタンカップリング剤などが含まれ、これらは単独でも、2種以上組み合わせてもよい。前記シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記ジシラザン化合物は、分子中に、Si-N-Si結合を有する化合物を意味し、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン等が挙げられる。前記有機酸としては、(メタ)アクリル酸類(例えば、アクリル酸、メタクリル酸)、(メタ)アクリロキシC1-6アルキルカルボン酸等(例えば、3-アクリロキシプロピオン酸等);酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。前記チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられる。
【0044】
表面処理剤の量は、中空シリカ粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0045】
得られた中空シリカ粒子を乾燥したり、また必要に応じて焼成したりすることも好ましい。乾燥は、例えば中空シリカ粒子を含む液を100~200℃程度で4~10時間程度加熱することで行うことができる。また、真空乾燥機を用いてもよく、空気中で行ってもよいし、窒素等の不活化ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0046】
未焼成の中空シリカ粒子を焼成すると、中空シリカ粒子の表面に存在するシラノール基を低減できるため、吸湿性を低くできる。焼成の温度は、例えば800~1200℃が好ましい。焼成温度が800℃以上であれば、シラノール基を低減して中空シリカ粒子の吸湿性を低くすることができる。上記焼成温度は、900℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。焼成温度が1200℃以下であれば、シリカ粒子同士の融着が起こりにくいため凝集して粗大化することを防止できる。上記焼成温度は、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下がさらに好ましい。焼成時間は、焼成温度や未焼成の中空シリカ粒子の粒子径等に応じて設定すればよいが、例えば30分以上10時間以下が好ましい。上記焼成は、例えば空気中で行うことができる。
【0047】
本発明の製造方法により得られる中空シリカ粒子は、第1ステップにより得られた疎密構造のシリカ粒子を、第2ステップにおいて水熱処理することで疎な核部を除去して中空とし、殻部分のみを残留させた中空シリカ粒子である。中空シリカ粒子の外径、すなわち殻部分の外径は、透過型電子顕微鏡画像に基づいて求まる算術平均粒子径(以下、「外径OD」と称する)で例えば1000nm以下とすることができ、好ましくは600nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下であってもよく、例えば20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上であってもよい。
【0048】
外径ODの変動係数(以下、「CV値」と称する)は、例えば15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下であり、例えば2%以上、さらには4%以上であることも許容される。
【0049】
殻部分の厚さは、上記外径ODと、透過型電子顕微鏡画像に基づいて求まる中空部分の算術平均粒子径(以下、「内径ID」と称する)との差を2で除して求めることができる。殻部分の厚さは、例えば70nm以下が好ましく、より好ましくは65nm以下、さらに好ましくは60nm以下、また例えば20nm以上が好ましく、より好ましくは25nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。
【0050】
中空シリカ粒子の中空率は、例えば50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下であり、例えば15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であってもよい。
【0051】
本発明の製造方法によれば、大きな電力や環境への負荷を要さずにシリカ粒子を中空化して中空シリカ粒子を得ることができ、所望の粒径、殻厚み、中空率を有する中空シリカ粒子を、凝集を防止しつつ高い収率で得ることが可能である。本発明で得られた中空シリカ粒子は、低屈折率材や断熱材、低比重顔料、薬剤封入カプセルなどの材料として利用することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記及び後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
各実施例における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0054】
<外径OD、内径ID、及び外殻の厚さの測定>
外径ODは、水又は溶剤に分散させたシリカ粒子分散液を採取し、1視野に含まれる粒子の数が100~300個となる測定倍率で透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM-2100F)を用いて観察し、得られた5視野の透過型電子顕微鏡画像において、含まれる任意の100個の粒子径(一次粒子径)の粒子について、各粒子の長径(長軸方向の長さ)を測定し、個数基準の算術平均値として求めた。中空部分の径を内径IDとし、外径ODと同様の方法で算術平均値を求めた。外殻については、下記式に基づいて厚さを算出した。

外殻の厚さ(nm)=(外径OD(nm)-内径ID(nm))/2
【0055】
<外径ODの変動係数(CV値)の測定>
外径ODの変動係数(CV値)は、上記で求めた外径ODとその標準偏差を用いて、下記式に基づいて算出した。

外径ODのCV値(%)=(外径ODの標準偏差/外径OD)×100
【0056】
<中空率の測定>
中空率は、外径ODと内径IDを用いて、下記式に基づいて算出した。

中空率(%)=(内径ID)3/(外径OD)3×100
【0057】
<収率の測定>
加水分解縮合反応後、得られたシリカ粒子を真空乾燥機にて窒素雰囲気下100℃で1時間処理することで乾燥粉体とし、その重量を測定し、下記式に基づいて収率を算出した。

収率(%)=[粒子重量(g)/(仕込みアルコキシシラン重量(g)×α)]×100
α=SiO2分子量(60.084)/仕込みアルコキシシラン分子量

αは、原料として仕込んだアルコキシシランの全てが加水分解縮合したと仮定したときの重量減少率である。上記収率を算出する式において分母を仕込みアルコキシシラン重量とαの積とすることで、全てのアルコキシシランが加水分解縮合したと仮定したときに仕込みアルコキシシランの重量に対して得られた中空粒子の重量の割合を求めることができる。従って、シリカ粒子に加水分解縮合することなく残ったアルコキシ基又はシラノール基が残存していたり、或いは第4級アンモニウム化合物などが取り込まれていたりするなどの場合は算出した収率が100%を超えることがある。
【0058】
<反応率の測定>
加水分解縮合反応後の反応液に残存しているアルコキシシランの量を測定することで、原料として仕込んだアルコキシシランの何%が反応してシリカ粒子を生成したかの反応率を決定した。具体的には、加水分解縮合反応後の反応液約0.1gと内部標準物質としてビス(2-エトキシエチル)エーテル0.018gをアセトン5gと混合した。混合液をフィルターで濾過し、濾液中のテトラメトキシシラン(TMOS)又はテトラエトキシシラン(TEOS)の量を、ガスクロマトグラフィーを用いて検量線法(内部標準)によって決定した。ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りとした。
装置:株式会社島津製作所製「GC-2014」
カラム:DB-WAX(アジレント・テクノロジー製) 長さ30m、カラム径0.25mm、液相の膜厚0.25μm
気化室温度:280℃
検出器温度:320℃
注入量:1.0μL
キャリアガス(ヘリウム):全流量67mL/min、パージ流量3.0mL/min
カラム温度プログラム:50℃保持(開始から5分間)
10℃/minで昇温(240℃まで)
240℃保持(6分間)
TMOS保持時間:約5.8分
TEOS保持時間:約8.1分
【0059】
<安定性評価>
シリカ粒子の作製において、以下の基準で安定性を評価した。
○:加水分解縮合反応後に得られた分散液中でシリカ粒子が凝集していなかった。
×:加水分解縮合反応後に得られた分散液中でシリカ粒子が凝集していた。
【0060】
<総合評価>
得られた中空シリカ粒子を以下の基準で評価し、総合評価とした。
○:得られたシリカ粒子の、外径ODのCV値が15%以下、反応率が70%以上、及び収率が70%以上であった。
×:得られたシリカ粒子が、上記○の基準を満たしていなかった。
【0061】
<中空シリカ粒子の作製>
(比較例1)
室温下、反応容器に、エタノール20.63質量部と、イオン交換水0.50質量部、1%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液1.00質量部を仕込み攪拌した。その混合液にテトラエトキシシラン(TEOS)0.59質量部を添加し、3時間保持することでTEOSの加水分解縮合反応を行い、シリカ粒子を得た。得られたシリカ粒子を遠心分離(トミー精工社製、高速冷却遠心機 GRX-220、4000rpm、10分間)にて固液分離し、イオン交換水22.70部に再分散させ、耐圧容器(耐圧硝子工業社製TAF-SR型密閉容器)中において140℃で1時間水熱処理することで、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。凝集は起こらず安定性は○であったものの、反応性が低く総合評価は×であった。
【0062】
(実施例1)
仕込み原料の種類と量を表1に示す通りに変更した以外は、比較例1と同様にして中空シリカ粒子を製造した。得られたシリカ粒子の物性を表1に、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を図1に示す。TEM画像より、得られたシリカ粒子は単殻の中空シリカ粒子であり、安定性及び総合評価ともに○であった。
【0063】
(実施例2~11)
仕込み原料の種類と量を表1に示す通りに変更したこと以外は、比較例1と同様にして中空シリカ粒子を製造した。実施例2~11で得られた中空シリカ粒子の物性を表1に、実施例2及び5で得られた中空シリカ粒子のTEM画像を図2及び図3に示す。実施例2~11で得られた中空シリカ粒子は、安定性及び総合評価ともに○の中空シリカ粒子であった。
【0064】
(比較例2~6)
仕込み原料の種類と量を表1に示す通りに変更したこと以外は、比較例1と同様にして中空シリカ粒子を製造したが、表1に示すように、安定性及び/又は総合評価が×の中空シリカ粒子しか得ることができなかった。
【0065】
【表1】
図1
図2
図3