(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】多孔質焼結成形体及びその製造方法、イムノクロマト展開膜、並びに迅速検査キット
(51)【国際特許分類】
C08J 9/24 20060101AFI20240819BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240819BHJP
B01D 15/08 20060101ALI20240819BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240819BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240819BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08J9/24 CES
G01N33/543 521
B01D15/08
B01J20/26 L
B01J20/28 Z
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020115731
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】村上 桂介
(72)【発明者】
【氏名】笹島 義志
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏和
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-137432(JP,A)
【文献】特開2019-038931(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207772(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179650(WO,A1)
【文献】特開2022-013250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/24
G01N 33/543
G01N 33/545
B01D 15/08
B01J 20/281
B01J 20/28
B01J 20/30
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーを含み、厚さが50μm以上500μm以下であり、平均細孔径が3μm以上15μm以下であり、かつ、体積あたりの比表面積が0.20[1/μm]以上0.80[1/μm]以下である、多孔質焼結成形体。
【請求項2】
全細孔容積が0.5mL/g以上1.5mL/g以下である、請求項1に記載の多孔質焼結成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーがポリオレフィンである、請求項1又は2に記載の多孔質焼結成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーの粘度平均分子量が30万~1000万である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質焼結成形体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質焼結体を含むイムノクロマト展開膜。
【請求項6】
請求項5に記載のイムノクロマト展開膜を含むイムノクロマト法による迅速検査キット。
【請求項7】
熱可塑性ポリマー粒子を平均粒子径5μm以上25μm以下に粉砕する工程、粉砕した熱可塑性ポリマー粒子を焼結する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質焼成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質焼結成形体及びその製造方法、イムノクロマト展開膜、並びに迅速検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウィルスや細菌などの病原体感染の有無、妊娠の有無、バイオマーカーの有無、食品中の特定原材料や残留農薬などの有害物質の有無など、様々な検査を短時間でおこなう迅速診断の重要性が増している。これらはそれぞれの検査対象物質と、検査対象物質に特異的に相互作用する物質による特異的反応が利用される。特に、抗原とこれに対する抗体による特異的反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法として、標識物質により標識化した抗体又は抗原を免疫反応により試料中の被検出物質に結合させ、この結合状態にある標識物質等を測定する方法が知られており、標識物質として放射性同位元素を用いる放射免疫測定法、酵素を用いる酵素免疫測定法、蛍光物質を用いる蛍光免疫測定法なども採用されている。これらの免疫測定法では、被検出物質と標識物質により標識化した抗体等との反応工程、被検出物質と結合状態にある標識物質と結合状態にない標識物質との分離工程が必要となるが、これらの工程を、クロマトグラフィーの原理を応用して、固定相とそれに接して連続的に流れる移動相からなる系で行う方法として、イムノクロマト法が知られている。このようなイムノクロマト法は操作が簡便であり、短時間で測定可能であることから、臨床検査や研究室における測定試験等で広く利用されている。
【0003】
イムノクロマト法の測定原理としては、サンドイッチ法と呼ばれる方法や競合法と呼ばれる方法がある。また、測定形式としては、フロースルー型やラテラルフロー型と呼ばれる方法がある。検体中の検査対象物質としては様々な物質を検出することができるが、典型的な例としてはサンドイッチ法により抗原を検出する測定があり、以下のような操作が順次実行される。
(1)被検出物質である抗原に特異的に結合する抗体を固定化試薬とし、この固定化試薬をクロマトグラフ媒体(以下、イムノクロマト展開膜、又は単に展開膜という。)の所定の部位に所定の形で塗布すること等により、イムノクロマト展開膜の任意の位置に反応部位を形成する。
(2)他方、被検出物質と特異的に結合する抗体を検出試薬とし、この検出試薬を酵素等の標識物質により標識する、又は、検出試薬を不溶性担体等の標識物質に感作することにより、標識化した検出試薬を調製する。
(3)移動相を構成する展開液を、被検出物質を含む試料及び標識化した検出試薬と共に、固定相であるイムノクロマト展開膜に展開させる。
【0004】
以上の操作により、イムノクロマト展開膜に形成された反応部位において、被検出物質である抗原が、反応部位に固定した固定化試薬である抗体と結合することにより捕捉されると共に、この抗原と、標識化した検出試薬である抗体とによって抗原-抗体反応が生ずる結果、当該反応部位においては固定化試薬(固定化した抗体)-被検出物質(抗原)-検出試薬(標識化した抗体)の三者のサンドイッチ型結合体が生成し、試料中に被検出物質が存在するときに反応部位に間接的に標識物質が結合することによって所定のシグナルが現れ、これによって被検出物質の検出を行うことができる。すなわち、被検出物質の検出は、このサンドイッチをイムノクロマト展開膜上で、如何に適切に形成させることが出来るかが重要となり、検出試薬(標識化した抗体)と固定化試薬(固定化した抗体)が極めて重要なことは言うまでもなく、それら抗体が担持されている標識物質と展開膜も同様である。
【0005】
イムノクロマト法の標識物質には、一般に酵素や不溶性担体(以下、担体という。)が用いられているが、特別な操作を必要とせず、視覚的に検出することができる担体が、簡便性の点から多く使用されている。担体としては、一般的に金コロイド粒子又は着色ラテックス微粒子が用いられているが、最近では発色方法として蛍光色素を利用したものや、新しい素材として着色セルロースナノ微粒子やシリカ粒子も報告されており、抗体の種類や必要な感度に応じ様々な担体を自由に選ぶことができる。
【0006】
他方、イムノクロマト法に使用される展開膜としては、膜上に被検出物質となる抗原等と反応する抗体を担持することが可能で、標識物質である抗体固定化発色粒子と被検出物質の複合体を毛細管現象により展開可能な微多孔性物質からなる不活性の膜が好ましく、ほぼ独占的にニトロセルロース製の膜が利用されている。すなわち、イムノクロマト展開膜はイムノクロマト法の性能を決定付ける重要な因子である固定化試薬(抗原を捕捉する抗体、以下塗布抗体という。)を保持させる部材にもかかわらず、ニトロセルロース膜以外に選択肢が無いのが現状である。
【0007】
イムノクロマト展開膜は充分な量の塗布抗体をその表面に十分保持し、かつ、展開液を毛細管現象によりスムーズに展開させることが求められる。殆ど全てのイムノクロマト診断キットでは、塗布抗体の吸着性と展開液の展開性から、前述の通り、イムノクロマト展開膜として独占的にニトロセルロース膜が用いられている。しかし、ニトロセルロース膜はその素材であるニトロセルロースの化学的特性から分解しやすく、分解に伴う物性の変化からロット間のバラつきが大きく、イムノクロマト診断キットの性能を一定に保つのが難しいという問題もある。さらに、ニトロセルロース単体では診断キットに用いるのに十分な強度が足りないため、ポリエステルなどのバッキングシートを裏打ちすることで強度を補っている。しかし、バッキングシートを用いると製膜工程において、ニトロセルロース膜の構造や孔径が不均一になるため、塗布抗体量やサンプル溶液の展開速度の不均一性を生み、最終的な診断結果のばらつきに繋がる問題がある。そこで、以下の特許文献1、2には、ポリオレフィンから成る多孔質焼結体をイムノクロマト展開膜として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-137432号公報
【文献】特開2018-2985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2では、イムノクロマトキットとしての性能について十分に検討されていない。ポリオレフィンは、抗体と特異的には結合しないと一般的に言われており、イムノクロマト展開膜として使用される場合、発色ラインの発現に必要な塗布抗体を十分量担持できないため、さらなる抗体吸収量の改良が求められている。また、明瞭に発色ラインが目視できるためには、直線状に塗布された抗体塗布液が好適な幅を保持することが重要であるが、その実現のための焼結体膜の構造の特徴についての検討はされていない。つまり、イムノクロマト展開膜として、多孔質焼結成形体が着目されているものの、十分な抗体吸着量と、発色ラインの適切な「幅保持性」を両立し、イムノクロマト展開膜の診断結果を明瞭に発現できる多孔質焼結成形体はこれまでに報告されていない。
【0010】
以上の従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、抗体吸着量と発色ラインの幅保持性を両立した多孔質焼結成形体、及び、多孔質焼結成形体を展開膜として用いたイムノクロマト診断キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、熱可塑性ポリマーを含む多孔質焼結成形体において、厚さ、平均細孔径、比表面、及び細孔容積を特定範囲とすることにより、前記課題を解決できることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]熱可塑性ポリマーを含み、厚さが50μm以上500μm以下であり、平均細孔径が3μm以上15μm以下であり、かつ、体積あたりの比表面積が0.20[1/μm]以上0.80[1/μm]以下である、多孔質焼結成形体。
[2]全細孔容積が0.5mL/g以上1.5mL/g以下である、前記[1]に記載の多孔質焼結成形体。
[3]前記熱可塑性ポリマーがポリオレフィンである、前記[1]又は[2]に記載の多孔質焼結成形体。
[4]前記熱可塑性ポリマーの粘度平均分子量(Mv)が30万~1000万である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質焼結成形体。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質焼結体を含むイムノクロマト展開膜。
[6]前記[5]に記載のイムノクロマト展開膜を含む、イムノクロマト法による迅速検査キット。
[7]熱可塑性ポリマー粒子を平均粒子径5μm以上25μm以下に粉砕する工程、及び粉砕した熱可塑性ポリマー粒子を焼結する工程を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質焼成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る多孔質焼結成形体は、抗体吸着量と発色ライン幅保持性に優れるため、イムノクロマト法による迅速検査キットの展開膜として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】イムノクロマト診断キットの一例の断面図である。(a)サンプルパッド、(b)コンジュゲートパッド(検出試薬を含む)、(e)イムノクロマト展開膜、(f)吸収パッド、(g)台紙、(c)イムノクロマト展開膜に塗布されたテストライン(TL)、(d)イムノクロマト展開膜に塗布されたコントロールライン(CL)。
【
図2】15分経過後のテストライン(TL)の発色強度を目視で評価するための0-10の11段階のグレード評価基準である。
【
図3】テストラインとコントロールラインの抗体塗布位置を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定するものではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
本発明の1の実施形態は、熱可塑性ポリマーを含み、厚さが50μm以上500μm以下であり、平均細孔径が3μm以上15μm以下であり、かつ、体積あたりの比表面積が0.20[1/μm]以上0.80[1/μm]以下である、多孔質焼結成形体である。
【0017】
一般に、「多孔質焼結成形体」は、金属、セラミック、プラスチックなどの原料粒子を加圧又は無加圧下で加熱をおこない、内部に連続した気孔を残した状態で原料粒子の表層付近を融着して得られる多孔質焼結成形体を含む。
【0018】
本実施形態の多孔質焼結成形体は、連続空孔を有するものとすることができる。本実施形態において、連続空孔とは、焼結体のある面からその他の面へ連続している空孔を意味する。この空孔は、直線的であっても曲線的であってもよい。また、全体が均一な寸法であってもよいし、例えば、表層と内部、あるいは一方の表層と他方の表層とで空孔の寸法を変えたものであってもよい。本実施形態の多孔質焼結成形体が上記連続空孔を有していることは、例えば、断面を走査型電子顕微鏡などで観察することなどにより確認することができる。
【0019】
本実施形態の多孔質焼結成形体の厚さは、50μm以上500μm以下である。前記厚さは、好ましくは70μm以上400μm以下であり、厚さが50μm以上あることにより、機械的強度が向上し、使用時に破れにくくなる。他方、厚さが500μm以下であることにより、イムノクロマト展開膜として使用する際に、厚みの薄いキットを作製することができ、かつ膜内部の抗原濃度が増大するため、高い検出感度が実現できる。
【0020】
本実施形態の多孔質焼結成形体の平均細孔径は、3μm以上15μm以下である。前記平均細孔径は、好ましくは5μm以上10μm以下である。平均細孔径が3μm以上であることにより、イムノクロマト評価の際、発色粒子が詰まることなく流れることができる。他方、平均細孔径が15μm以下であることにより、抗体が十分量結合可能な表面積となり、イムノクロマト診断において診断結果を示す発色ラインの十分な発色強度を実現することができる。
【0021】
本実施形態の多孔質焼結成形体の体積あたりの比表面積は、0.20[1/μm]以上0.80[1/μm]以下である。前記体積あたりの比表面積は、好ましくは0.40[1/μm]以上0.70[1/μm]以下である。体積あたりの比表面積が0.20[1/μm]以上であることにより、イムノクロマト評価の際、発色粒子を補足するのに十分な抗体の結合量が実現できる。他方、体積あたりの比表面積が0.80[1/μm]以下であれば、発色粒子が膜内を流れる際に膜内部の壁面と接触する確率が上がり、診断結果を示すライン以外の領域であるバックグラウンドが汚くなり、視認性の低下につながる。多孔質焼結成形体の体積あたりの比表面積を上述の範囲に制御するためには、粒径5μm以上25μm以下の熱可塑性ポリマー粒子を原料として用いることが肝要である。
【0022】
本実施形態の多孔質焼結成形体の全細孔容積は、0.5mL/g以上1.5mL/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.7mL/g以上1.0mL/g以下である。細孔容積が0.5mL/g以上であれば、抗体溶液を塗布する際に、速やかに浸透することができる。他方、細孔容積が1.5mL/g以下であることは、多孔質焼結成形体の強度が高くなる点、さらに発色ライン幅保持性が向上し抗体塗布液のライン幅が、後述する適切な太さになる点から好ましい。また、全細孔容積が上記範囲内であることで、発色強度にも優れるものとなる。多孔質焼結成形体の細全孔容積を上述の範囲に制御するために、成形体製造時の焼成温度/時間や、圧縮温度/圧力/時間を調整することが挙げられるが、平均粒子径5μm以上25μm以下の熱可塑性ポリマー粒子を原料として用いることが肝要である。尚、全細孔容積は、例えば、後述する実施例に記載の水銀ポロシ法によって測定することができる。
【0023】
本実施形態の多孔質焼結成形体に用いられる熱可塑性ポリマー粒子としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、及びナイロンからなる群から選ばれる粒子、並びにこれらの混合物を用いることができる。ポリオレフィンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-ペンテン-1などの単独重合体、エチレンやプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステルとの共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィンの中でも、焼結成形に好適な粉末を容易に得ることができる、焼結成形を容易に行うことができる、耐薬品性に優れる、比較的柔らかく適度な剛性があるなどの理由から、エチレンの単独重合体、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体であるプロピレン重合体が好適に適用でき、エチレンの単独重合体(ポリエチレン)が特に好ましい。他のα-オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセンなどが挙げられる。
【0024】
本実施形態の多孔質焼結成形体に用いる熱可塑性ポリマーは、粘度平均分子量(Mv)が、30万以上1000万以下であることが好ましく、より好ましくは35万以上900万以下であり、さらに好ましくは50万以上800万以下である。熱可塑性ポリマーの粘度平均分子量(Mv)が30万以上であることにより、熱可塑性ポリマー中に含まれる低分子量成分が少なくなる傾向にあり、また、焼結成形時に空孔の形成を阻害する要因となる樹脂の流動がより少なくなり、空孔率や空孔径等の制御がより容易になる。他方、ポリオレフィンの粘度平均分子量(Mv)が1000万以下であれば、隣り合う粒子同士の融着性に優れ、多孔質焼結成形体の強度が向上し、加工性も向上する傾向にある。本実施形態の熱可塑性ポリマーの粘度平均分子量(Mv)は、デカリン中に熱可塑性ポリマーを異なる濃度で溶解した溶液を用意し、該溶液の135℃ における溶液粘度を測定する。このようにして測定された溶液粘度から計算される還元粘度を濃度0に外挿し、極限粘度を求め、求めた極限粘度[η](dL/g)から、以下の数式(A):
Mv=(5.34×104)×[η]1.49 ・・・(A)
により算出することができる。より具体的には、Mvは、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
本実施形態の多孔質焼結成形体の製造に用いる原料熱可塑性ポリマーは粒子状の形態を呈し、その平均粒子径(粒径)は、5μm以上25μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上20μm以下である。平均粒子径が5μm以上25μm以下の熱可塑性ポリマーを原料として用いることで、多孔質焼結成形体の比表面積と全細孔容積を前記した所定の範囲内にすることができる。粒径5μm以上25μm以下の粒子を作製する方法としては、特に限定されず、重合で直接得てもよいし、重合で得られた粉末を分級によって上記の範囲にしてもよい。より好ましくは、一度粉末以外の形状に賦形した物を常温又は低温下で凍結した状態で機械粉砕を施して、上記の範囲の物を得る。さらに機械粉砕した物を分級して得てもよい。実施形態の多孔質焼結成形体に用いられる原料粒子を粉砕する方法としては、ボールミルなどの媒体式粉砕機による方法、ジェットミルなどの気流体式粉砕機による方法、ハンマーミル、などが知られているが特に限定はされない。更には、溶媒で溶解した後、貧溶媒を加えて析出させ、粉末化した物でもよい。平均粒子径が25μm以下であることにより、展開膜として使用する際、抗体が十分量結合可能な表面積が実現できる。尚、熱可塑性ポリマー粒子の平均粒子径は、株式会社Marvern製マスターサイザー3000Sを用いて、分散溶媒として水を用いて測定することができる。
【0026】
本発明の他の実施形態は、熱可塑性ポリマー粒子を平均粒子径5μm以上25μm以下に粉砕する工程、及び粉砕した熱可塑性ポリマー粒子を焼結する工程を含む、前記多孔質焼成形体の製造方法である。
【0027】
本実施形態の多孔質焼結成形体を得るためには、焼結成形の手法が好適に用いられる。焼結成形は、例えば、熱可塑性ポリマー粒子を金属等の材料の平板上に均一に分散して、加熱・冷却することでも得られるし、あるいは熱可塑性ポリマー粒子を金属等の材料の平板上に均一に分散して加熱し、加熱中又は加熱後に更にその上に金属等の材料の平板を重ねて冷却し、金属等の材料の平板の面を転写する方法もある。あるいは、例えば、金属等の材料の連続したベルトの上に熱可塑性ポリマー粒子を均一に散布して加熱中又は加熱後に金属等の材料でできたロールやベルトで挟んで冷却する方法もある。さらには、熱可塑性ポリマー粒子を所望の空間をもった金型に充填して金型ごと加熱してもよいし、熱可塑性ポリマー粒子を入れた所望の空間を持った金型の中に熱風や、熱可塑性ポリマー粒子の融着を阻害しない熱媒を通すことで加熱してもよい。さらには、上記成形法を用いて成形した熱可塑性ポリマー粒子から形成される多孔質焼結成形体をスライス加工、スカイブ加工する方法等が好適に用いられる。
【0028】
上記の通り、本実施形態にかかる多孔質焼結成形体の製造方法において熱可塑性ポリマー粒子を焼結する工程としては、熱可塑性ポリマー粒子を金型内に充填することによって焼結成形を行う工程(金型法)又は原料粒子を堆積させることによって焼結成形を行う工程(堆積法)のいずれでもよい。
【0029】
金型を使用して焼結成形をする場合には、成形後の後処理等を勘案すると、金型ごと加熱する方法が好適に用いられる。金型ごと加熱する方法としては、熱風炉やヒーターを備えた炉の中に投入してもよいし、金型中に流路を設けて、熱媒を通すことでもよい。
【0030】
連続焼結法は、例えば、回転式のスチールベルト、低速回転ローラー付パウダー供給ホッパー、摺り切り部、加熱部、圧延ローラーからなる装置を使用して実施することができる。すなわち、熱可塑性ポリマー粒子をホッパーから連続的に移動式のスチールベルト上に堆積させ、ベルト(堆積部はスチールベルト上)からクリアランスを設けた擦切り部を通過させることで、任意の厚さで均一に堆積させることができる。次に、加熱炉に連続的に投入し、ベルト上から任意の厚さのクリアランスを設けた100℃以上に加熱した圧延ローラーを通した後、室温で冷却することで任意の厚みで、細孔容積、メジアン細孔直径、細孔分布を制御した、熱可塑性ポリマー粒子から形成される多孔質焼結成形体を得ることができる。
【0031】
いずれの場合も、金型やベルトなどの加熱する材料の表面温度は、(使用する熱可塑性ポリマー粒子の融点+20℃)~(使用する熱可塑性ポリマー粒子の融点+100℃)の範囲に保持することが好ましい。金型やベルトなどの材料の表面温度を(使用する熱可塑性ポリマー粒子の融点+20℃)以上とすることで、強固に融着し、強度が向上すると共に多孔質焼結成形体の表面粗度が低くなる傾向にある。他方、金型やベルトなどの材料の表面温度を(使用する熱可塑性ポリマー粒子の融点+100℃)以下とすることで、加熱による熱可塑性ポリマー粒子の劣化を防止できると共に、激しい流動を抑制し、その結果、適正な細孔容積、メジアン細孔直径、細孔分布を確保できる傾向にある。
【0032】
焼結成形に用いる金型やベルトなどの材料の材質は、加熱時の温度に耐え、かつ、及び加熱時に発生する熱可塑性ポリマー粒子の熱膨張に耐え得る物であれば特に限定されない。通常は金属製の金型が好適に使用される。金属の中でも、アルミニウムや真鍮などが比較的軽量で熱伝導率がよいことから好適に使用される。これら金属は、そのまま用いてもよいし、表面にクロムやニッケルなどで鍍金を施すことも可能である。このとき、用いる金型或いはベルトなどの材料の熱可塑性ポリマー粒子が接する面の少なくとも片面は、表面粗さが、最大高さ(Ry)で、10μm以下に仕上げられていることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。金型或いはベルトなどの材料の熱可塑性ポリマー粒子が接する面の表面粗さが、最大高さ(Ry)で10μm以下とすることで、その面が焼結成形時に熱可塑性ポリマー粒子に転写されることを防止でき、多孔質焼結成形体の表面粗度を所望の範囲に制御できる傾向にある。ここでいう、表面粗さの最大高さ(Ry)は、先端が0.1mmRの測定子を用い、接触法によってJIS B0601-1994に従って測定した値である。
【0033】
本実施形態のイムノクロマト診断キットとは、様々な検体中の検査対象物質の有無を簡便に検出するものである。当該診断キットの種類としては、ラテラルフロー式やフロースルー式が挙げられる。本実施形態のイムノクロマト診断キットとしては、標識物質やサンプルパッドを用いるものであれば特に限定されないが、好ましくはラテラルフロー式である。また、ラテラルフロー式の中でも、ディップスティックタイプとカセットタイプがあるが、それらのタイプは特に限定されない。イムノクロマト診断キットの構成としては、特に限定されるものではなく、当該分野で一般的に用いられる構成であればいずれでも構わない。また、イムノクロマト展開膜以外の部材の種類は、当該分野で用いられるものであれば特に限定されない。例えば、
図1に示すような(a)サンプルパッド、(b)コンジュゲートパッド(検出試薬を含む)、(e)イムノクロマト展開膜、(f)吸収パッド、及び(g)台紙が挙げられる。また、必要に応じそれら部材を一部省いていても構わない。尚、
図1中、(c)と(d)は、それぞれ、イムノクロマト展開膜に塗布されたテストラインとコントロールラインを示す。
【0034】
図1中(f)で示す「吸収パッド」とは、イムノクロマトにおいて測定対象である検体を最後に吸収する部分である。一般的な吸収パッドとしては、セルロース濾紙、紙、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、ナイロン繊維、各種織物、などが挙げられる。
【0035】
図1中(b)で示す「コンジュゲートパッド」とは、検出試薬(抗体感作標識試薬等の標識物質)を乾燥固定化しておく部分である。一般的なコンジュゲートパッドとしては、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、PET繊維単体又は複合した不織布、織布などが挙げられる。また、必要に応じて前処理を行っても構わない。
【0036】
図1中(a)で示す「サンプルパッド」とは、イムノクロマトにおいて測定対象である検体を最初に受け取る部分である。一般的なサンプルパッドとしては、セルロース濾紙、紙、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、ナイロン繊維、各種織物などが挙げられる。また、必要に応じて前処理を行っても構わない。例えば、緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを予め含ませるなどの処理を行っても構わない。
【0037】
本実施形態のイムノクロマト診断キットを用いて実施することができる「診断方法」とは、特に制限はなく、イムノクロマト診断キットを用いて行われる様々な診断を包含する。診断対象は特に限定されるものではなく、人用、動物用、食品用、植物用、その他環境検査など様々な診断対象を包含する。一般的な診断の手順では、検査対象から検体試料を採取し、必要であればそれを抽出やろ過などの前処理を行い、サンプルパッドに滴下し、検査開始から所定時間待ち、検査対象物質の有無によって異なる発色より診断結果を判断する。もちろんこの手順に限定されず、同じような手順、原理の診断にも本実施形態のイムノクロマト診断キットを用いることができる。余分な異物や夾雑物を除去でき、それによりより一層の診断の迅速化や、診断精度の向上が期待できるため、検体試料を予めろ過しておく手順が好ましい。
【0038】
本実施形態のイムノクロマト診断キットを用いて診断することができる対象は特に限定されるものではないが、具体例として、以下のものを挙げることができる:癌マーカー、ホルモン、感染症、自己免疫、血漿蛋白、TDM、凝固・線溶、アミノ酸、ペプチド、蛋白、遺伝子、細胞、などが挙げられる。より具体的には、CEA、AFP、フェリチリン、β2マイクロ、PSA、CA19-9、CA125、BFP、エラスターゼ1、ペプシノーゲン1・2、便潜血、尿中β2マイクロ、PIVKA-2、尿中BTA、インスリン、E3、HCG、HPL、LH、HCV抗原、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HBe抗原、HBe抗体、HTLV-1抗体、HIV抗体、トキソプラズマ抗体、梅毒、ASO、A型インフルエンザ抗原、A型インフルエンザ抗体、B型インフルエンザ抗原、B型インフルエンザ抗体、ロタ抗原、アデノウィルス抗原、ロタ・アデノウィルス抗原、A群レンサ球菌、B群レンサ球菌、カンジダ抗原、CD菌、クリプトロッカス抗原、コレラ菌、髄膜炎菌抗原、顆粒菌エラスターゼ、ヘリコバクターピロリ抗体、O157抗体、O157抗原、レプトスピラ抗体、アスペルギルス抗原、MRSA、RF、総IgE、LEテスト、CRP、IgG,A,M、IgD、トランスフェリン、尿中アルブミン、尿中トランスフェリン、ミオグロビン、C3・C4、SAA、LP(a)、α1-AC、α1-M、ハプトグロビン、マイクロトランスフェリン、APRスコア、FDP、Dダイマー、プラスミノーゲン、AT3、α2PI、PIC、PAI-1、プロテインC、凝固第X3因子、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、GHbA1c、その他の各種抗原、各種抗体、各種ウィルス、各種菌、各種アミノ酸、各種ペプチド、各種蛋白質、各種DNA、各種細胞、各種アレルゲン、各種残留農薬、各種有害物。
【0039】
本実施形態におけるイムノクロマト診断キットの作製方法の一例を以下に説明する。
まず、イムノクロマト展開膜の作製方法について述べる。所定の濃度に調製した界面活性剤分散液を準備し、本焼結体膜を一度エタノールに浸漬した後に、界面活性剤分散液に浸漬して30分間静置する。その後、50℃に設定した乾燥機内で1時間乾燥を行う。本実施形態の多孔質焼結成形体をクロマトグラフ媒体として用いる場合、該クロマトグラフ媒体上には、被検出物質と特異的に結合する物質、例えば、抗体が固定化試薬として任意の位置に固定化された反応部位が形成される。固定化試薬をクロマトグラフ媒体に固定化する方法としては、固定化試薬をクロマトグラフ媒体に物理的又は化学的手段により直接固定化する方法がある。直接的に固定化する方法として、物理吸着を利用してもよいし、共有結合によってもよい。前記クロマトグラフ媒体における前記抗体固定化部(判定部)の形状としては局所的に捕捉用抗体が固定化されている限り特に制限はなく、ライン状、円状、帯状等が挙げられるが、ライン状であることが好ましく、幅0.5~1.5mmのライン状であることがより好ましい。固定化試薬を固定化した後、非特異的な吸着により分析の精度が低下することを防止するため、必要に応じて、クロマトグラフ媒体に、公知の方法でブロッキング処理を行うことができる。一般にブロッキング処理は、BSA、スキムミルク、カゼイン、ゼラチン等の蛋白質が好適に用いられる。かかるブロッキング処理後に、必要に応じて、Tween-20(登録商標)、TritonX-100(登録商標)、SDS等の界面活性剤を1つ又は2つ以上組み合わせて洗浄してもよく、また何も処理しなくてもよい。
【0040】
次に、コンジュゲートパッドの作製方法について述べる。コンジュゲートパッド内には抗体を結合した標識物質を乾燥固定化することで作製する。本実施形態のイムノクロマト診断キットに用いられる標識物質は金コロイド粒子、着色ラテックス微粒子、着色セルロースナノ微粒子やシリカ粒子であってもよい。まず、所定の濃度に調製した標識物質の分散液を準備し、緩衝液、抗体を加え、温度調整を行いながら一定時間撹拌し、標識物質に抗体を吸着させる。一定時間撹拌後、更にブロッキング剤を加え温度調整を行いながら一定時間撹拌することで、標識物質のブロッキングを行う。ブロッキング剤としては、検査対象物質や検体又はそれを希釈する溶液の組成などに応じ様々なブロッキング剤を用いることができる。抗体吸着&ブロッキング後の標識物質を洗浄するため、遠心分離を行い、余剰な抗体とブロッキング剤が含まれた上澄み液と沈降した粒子を分離し、上澄み液をデカンテーションにて除去する。沈降した粒子に緩衝液などの液体を加え、必要に応じ超音波などで分散処理を行う。この遠心分離による沈降、上澄みの除去、液体の添加という一連の操作による洗浄を必要回数行い、抗体吸着&ブロッキングを行った粒子を所定の濃度含有した分散液を調製する。この分散液に必要に応じタンパク質、界面活性剤、スクロースやトレハロースなどの糖を加え、得られた溶液を、前記コンジュゲートパッドを構成する熱可塑性長繊維不織布に一定量塗布し、乾燥させ、検出試薬含有部を調製する。
【0041】
最後に、サンプルパッドの作製方法について述べる。再生セルロース連続長繊維不織布に必要に応じ緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを塗布し、乾燥させ、サンプルパッドを調製する。
さらに検体を吸収するためのセルロース濾紙製の吸収パッドを調製する。
【0042】
上記のようにして得られた各部材を、バッキングシートと呼ばれる接着部位を有するシートに固定化し、所定のサイズに裁断することでイムノクロマト診断キットを作製する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。まず、用いた各種物性等の測定方法について説明する。
(1)平均粒子径(μm)
ポリオレフィン粒子の平均粒径は、株式会社Marvern製マスターサイザー3000Sを用いた。分散溶媒として水を用いて、設定攪拌速度1750rpm、設定超音波出力を10%で測定し、累積重量が50%となる粒子径を平均粒子径(粒径)とした。
【0044】
(2)厚さ
ポリオレフィン多孔質焼結成形体の厚さは、ポリオレフィン多孔質焼結成形体を厚さ方向に沿って切断し、その切断面を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製「マイクロスコープVHX-5000)を用いて5カ所を観察し、得られた値の平均値を厚さとした。
【0045】
(3)平均細孔径(μm)、(全)細孔容積(mL/g)
ポリオレフィン多孔質焼結成形体の平均細孔径と(全)細孔容積は、株式会社島津製作所製自動ポロシメータオートポア9500を用いて求めた。自動ポロシメーターの測定条件は、低圧部測定範囲0.0~30psia、高圧部測定範囲30~33000psiaとした。測定サンプル量は0.2~0.7gの範囲で測定した。低圧部測定範囲、高圧部測定範囲では、Evacuation Pressureを50μmHg、Evacuation Timeを5分、Equilibration Timeを10秒とした。
【0046】
(4)体積あたりの比表面積[1/μm]
ポリオレフィン多孔質焼結成形体の体積あたりの比表面積[1/μm]は、膜の体積当たりの膜内部の表面積のことを指し、BET法によって求めた重量当たりの表面積[m2/g]と、膜の密度から算出した。まず、重量当たりの表面積[m2/g]は、Micro Meritics社製3-Flexを用いてクリプトンガスの吸着をBET法で測定することで求めた。サンプル量は12mmセルに1gを採取することで測定を行った。前処理として室温、0.001mmHg以下の条件下で18hr程度、真空脱気することで行った。測定は液体窒素により-195℃で行った。膜の密度は、測定したサンプルの重量と厚さ、及び面積から算出した。つまり、以下の式:
体積当たりの比表面積[1/μm]=重量当たりの比表面積[m2/g]×密度[g/m3]÷106
で求められる。
【0047】
(5)粘度平均分子量(Mv)
20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)中に熱可塑性ポリマー粒子20mgを加え、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、熱可塑性ポリマー粒子の重量を変えて3点の溶液を作製し、落下時間を測定した。ブランクとして熱可塑性ポリマー粒子を入れていない、デカリンのみの落下時間(tb)を測定した。以下の式:
ηsp/C=(ts/tb-1)/C(単位:dL/g)
に従って求めたポリマーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリマーの還元粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
次に下記式(A):
Mv=(5.34×104)×[η]1.49 ・・・(A)
を用いて、上記極限粘度([η])の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
【0048】
(6)抗体吸着量(μg/cm2)
後述する方法で作製した抗体を塗布したイムノクロマト展開膜の抗体が塗布されている部分である2mm×5mmを切り出し、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液を1mL加え、3時間撹拌した。その後、上清をサンプルとして、抗体吸着量をMicro BCA Protein Assay Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)にて膜の面積当たりの抗体吸着量
[μg/cm2]
を測定した。
【0049】
(7)塗布ラインの評価(発色ライン幅保持性)
後述する方法で作製した、界面活性剤処理を行った多孔質焼結成形体を幅25mm、長さ100mmの形状にカットした。ラインの太さが0.8mmとなることを想定した下記条件で、ラインの塗布を行った。
液体塗布装置(非接触ジェットディスペンサCYBERJET2 MJET-C-2(武蔵エンジニアリング社製)、ノズルとして穴径が0.05mmであるCYBERJET用ノズルSHN[36G]SNJC-36G-SHN(穴径が0.05mm)を用い、テストライン(TL)に0.1wt%抗hCG-βマウス抗体(MedixBiochemica社製、6601)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μL/mmの割合で、
図3に示すように、左端から9mmの位置に塗布した。コントロールライン(CL)に0.1wt%のウサギ由来の抗マウス抗体(Daco社製Z0259)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を、0.1μL/mmとなるよう噴霧、右端から9mmの位置に塗布した。このようにして抗体溶液塗布した直後の展開膜上の濡れたラインについて、以下の評価基準で評価した:
◎:塗布液が全て染み込み、かつ、そのテストラインの太さが0.5mm以上1.0mm未満である
〇:塗布液が染み込んだがテストラインの太さが1.0mm以上1.5mm未満である
×:塗布液が染み込んだがテストラインの太さが1.5mm以上である
-:塗布液が染み込まない。
【0050】
(8)陽性の発色強度の評価(目視グレード)
後述する方法で作製したイムノクロマト診断キットで抗原を検出することで評価を行った。検査対象物質にはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を用い、hCGを、1重量%の牛血清アルブミン(BSA)を含む66mM、pH7.4のリン酸緩衝液(PBS)で希釈し、hCG濃度が10mIU/mLの陽性検体を調製した。この陽性検体120μLを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のテストライン(TL)の発色強度を0-10の11段階のグレード評価を目視で行った。
図2に示すように、目視グレードは値が大きいほどTLの線の色が濃いことを示し、0は線が見えないことを示す。この測定を5回行い、得られた値の平均値を発色強度とした。
【0051】
(9)バックグラウンド強度
後述する方法で作製したイムノクロマト診断キットで抗原を検出することで評価を行った。検査対象物質にはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を用い、hCGを、1重量%の牛血清アルブミン(BSA)を含む66mM、pH7.4のリン酸緩衝液(PBS)で希釈し、hCG濃度が10mIU/mLの陽性検体を調製した。この陽性検体120μLを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のTLの2mm上流側の発色強度と2mm下流側の発色強度をイムノクロマトリーダーC10066(商品名、浜松フォトニクス社製)で測定した。その平均値をバックグラウンド強度とし、数値が低いほどバックグラウンドが明瞭であり、診断結果を示す発色ラインの視認性が向上すると判断した
【0052】
[実施例1]
[原料ポリマーの調製]
原料ポリマーは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であるCelanese社により販売されているGUR(登録商標)2126をジェットミルで粉砕することで平均粒子径(粒径)19μmに調製した。
【0053】
[連続焼結法]
多孔質焼結成形体の製造方法としては、回転式のスチールベルト、低速回転ローラー付パウダー供給ホッパー、摺り切り部、加熱部、圧延ローラーからなる連続焼結装置を使用した。得られたポリエチレン粒子をホッパーから連続的に移動式のスチールベルト上に厚さ0.3mm以上堆積させ、ベルト(堆積部は平板状)上から0.30mmのクリアランスを設けた擦切り部を通過させることで、0.30mmの厚さで均一に堆積させた。次に、210℃にセットされた加熱炉に連続的に投入し、10分間加熱し、ベルト上から0.30mmのクリアランスを設けた温度150℃の圧延ローラーを通し、室温で冷却することで厚み0.30mmのポリエチレン多孔質焼結成形体を得た。
【0054】
[界面活性剤処理]
多孔質焼結成形体の親水性を高めるために界面活性剤で膜表面を処理した。0.05wt%の濃度に調製したSDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)溶液を100ml用意し、多孔質焼結成形体を一度エタノールに浸漬した後に、SDBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)溶液に浸漬して30分間静置した。その後、50℃に設定した乾燥機内で1時間乾燥を行った。
【0055】
[抗体の塗布]
多孔質焼結成形体を幅25mm、長さ100mmの形状にカットした。液体塗布装置(非接触ジェットディスペンサCYBERJET2 MJET-C-2(武蔵エンジニアリング社製)、ノズルとしてCYBERJET用ノズルSHN[36G]SNJC-36G-SHN(穴径が0.05mm)を用い、圧力計で約0.145Mpaで、0.1wt%抗hCG-βマウス抗体(MedixBiochemica社製、6601)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μL/mmの割合で、
図3に示すように、左端から9mmの位置に塗布した。次いで、37℃で30分間乾燥させた。また、コントロールライン(CL)に0.1wt%のウサギ由来の抗マウス抗体(Daco社製Z0259)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を、0.1μL/mmとなるよう噴霧、右端から9mmの位置に塗布した。
【0056】
[抗体感作金コロイド粒子の調製]
標識物質として発色粒子である金コロイド( 平均粒子径63nm)120μLを15mLの遠心管に入れ、更にトリス緩衝液(50mM、pH7.0)を240μL、0.1%の抗hCG-αマウス抗体(Fitzgerald社製、10-C25C)を120μL加え、ボルテックスで10秒撹拌した。続いて37℃に調整した乾燥機内に入れ120分間静置した。続いて1.0重量%のカゼイン(和光純薬工業社製、030-01505)を含有するブロッキング液(100mMホウ酸、pH8.5)を14.4mL加え、更に37℃の乾燥機内で60分間静置した。続いて遠心分離機(クボタ商事社製、6200)と遠心分離ローター(クボタ商事社製、AF-5008C)を用い、10,000gの遠心を15分間行い、感作粒子を沈降させた後に上澄みを除去した。次いで、ホウ酸緩衝液(50mMホウ酸、pH10.0)を14.4mL加え、超音波分散機(エスエムテー社製、UH-50)で10秒間処理した。続いて10,000gの遠心を15分間行い、感作粒子を沈降させた後に上澄みを除去した。続いてスクロース(和光純薬工業社製、196-00015)を0.6g、1.0重量%のカゼインブロッキング液を0.8g加え、ホウ酸緩衝液(50mMホウ酸、pH10.0)を用い重量を4.0gに調整し、0.03重量%の抗体感作金コロイド粒子分散液を調製し、超音波分散機で10秒間処理した。
【0057】
[コンジュゲートパッドへの標識物質の含浸、乾燥]
ポリエチレン製コンジュゲートパッド(Pall社製、6613)を大過剰の0.10重量%のTween-20(登録商標、シグマアルドリッチ社製、T2700)に浸漬し、余分な液を取り除いた後に50℃で60分乾燥させた。続いて高さ10mm、長さ300mmの形状にカットした。続いてマイクロピペットを用い0.03重量%の抗体感作金コロイド粒子分散液を1020μL均等に塗布し、50℃で60分乾燥させた
【0058】
[サンプルパッドの前処理]
サンプルパッド((Millipore社製、C048)を、大過剰の2.0重量%のBSA(シグマアルドリッチ社製、A7906)と2.0重量%のTween-20(登録商標)を含有するPBS緩衝液(66mM、pH7.4)に含浸し、余分な液を取り除いた後に50℃で60分乾燥させた。続いて高さ18mm、長さ300mmの形状にカットした。
【0059】
[イムノクロマト診断キットの作製]
バッキングカード(Adhesives Reserch社製、AR9020)に、
図1に示す寸法となるように、まず、前記のように調製した捕捉抗体塗布済みの多孔質焼結成形体(e)をバッキングカード中央に張り付けた。次に、上から吸収パッド(Millipore社製、C083)(f)、標識物質を含有したコンジュゲートパッド(b)、サンプルパッド(a)の順に重ねて張り合わせた。続いて裁断機にて5mmの幅にカットし、幅5mm、高さ60mmのイムノクロマト診断キットを得た。
このようにして調製した多孔質焼結成形体の物性、また、多孔質焼結成形体を使用して作製したイムノクロマト診断キットの性能の結果を以下の表1に示す。表面積が0.20[1/μm]以上となることで抗体吸着量が増大し、かつ塗布液のラインの太さが適切になったことで発色強度が増大し、かつ、バックグラウンドを低減できた。
【0060】
[実施例2~5、比較例1、2]
ジェットミルの粉砕により原料の熱可塑性ポリマーの平均粒子径を以下の表1に示す値に調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で多孔質焼結成形体を作製した。この多孔質焼結成形体の物性、展開膜として用いた時のイムノクロマト性能を以下の表1に示す。
【0061】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の多孔質焼結成形体は、これを、イムノクロマト診断キットのイムノクロマト展開膜として用いるとき、抗体吸着量と発光ライン幅保持性に優れ、明瞭な診断結果を発現可能にするため、イムノクロマト法による迅速検査キットの展開膜として好適に利用可能である。