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特許7539804ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びそれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びそれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/16 20060101AFI20240819BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240819BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240819BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240819BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09K3/16 112
C09K3/16 107E
C09K3/16 103A
C09K3/16 103C
C08L23/00
C08K5/521
C08K5/17
C08K5/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020151671
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045842
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119837(JP,A)
【文献】特開2001-011261(JP,A)
【文献】特開2015-025081(JP,A)
【文献】特開2016-196628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/16
C07B31/00-63/04
C07C1/00-409/44
C07F9/00-19/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数である1~10の数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
で表されるリン酸エステル化合物
(B)下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基、Rは炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示し、p、qはエチレンオキサイドの平均付加モル数であって、p+q=1~10となる数を示す。)
で表されるポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸モノエステル(b1)、
下記一般式(3)
【化3】
(式中、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸ジエタノールアミド(b2)、及び
下記一般式(4)
【化4】
(式中、R、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸ジエタノールアミドの脂肪酸モノエステル(b3)
からなる群より選ばれる1種又は2種以上
からなる、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂に請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を前記(A)成分と(B)成分が1/99~99/1の割合(質量比)で配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を0.01~3.0質量部配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びそれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、成形時において帯電防止剤及びその分解物による発煙が少なく、成形品中の添加剤及び樹脂由来の異物の分散性が良好であり、帯電防止性と防曇性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を得るのに好適な帯電防止剤、及び該帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、透明性や防湿性、機械的強度等に優れ、また安価であることから、様々な用途で使用されるが、電気の不導体であるが故に静電気がなかなか逃げず帯電しやすい。その為、樹脂成形品表面に塵や埃が付着による成形品の汚れなどの帯電による障害は数多い。また、例えばポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムを水分含有食品(果物、野菜、食肉など)の包装に使用した場合、フィルムの内面に凝結した水が付着し、包装した食品が見えにくくなるという問題もある。
【0003】
上記の問題を解決するための方法の一つとして、例えば二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム用の帯電防止剤としては、従来グリセリン脂肪酸エステルと脂肪族ジエタノールアミン脂肪酸エステルが併用されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭60-57461号公報
【文献】特開2000-7854号公報
【文献】特開2003-268166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、グリセリン脂肪酸エステルと脂肪族ジエタノールアミン脂肪酸エステルは配合の加熱溶融時、或いはマスターバッチやフィルム等の成形加工時の熱により容易にエステル交換反応が進行し、グリセリン脂肪酸エステルからグリセリンが遊離する。遊離物は成形加工時の熱により発煙し、更に押出機のダイスやロール、或いはテンター内等に堆積してフィルムに付着し、品質不良の原因となる。また、グリセリンなどの多価アルコールは分子内に比較的活性な水酸基を有するため、押出成形機内部で酸化劣化を生じ、押出成形機内部に長時間滞留することで焼けと呼ばれる黒色異物となり金型汚染を引き起こし、成形品に練り込まれることで成形品の外観を劣化させることがある。さらに、これらの異物が成形品の表面に存在する場合、成形品の品質を低下させるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術における問題を解決することを目的とするものであって、帯電防止性を損なうことなく、成形品中の添加剤や樹脂由来の異物の分散性が良好であり、成形加工時において発煙がほとんど生じないポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を開発し、その帯電防止剤を用いて、帯電防止性、防曇性に優れ、且つ該帯電防止剤が添加されたポリオレフィン系樹脂組成物中の目視で確認される異物が少ないポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]次の成分(A)及び(B):
(A)下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数である1~10の数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
で表されるリン酸エステル化合物
(B)下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基、Rは炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示し、p、qはエチレンオキサイドの平均付加モル数であって、p+q=1~10となる数を示す。)
で表されるポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸モノエステル(b1)、
下記一般式(3)
【化3】
(式中、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸ジエタノールアミド(b2)、及び
下記一般式(4)
【化4】
(式中、R、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸ジエタノールアミドの脂肪酸モノエステル(b3)
からなる群より選ばれる1種又は2種以上
とを含有してなる、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
[2]ポリオレフィン系樹脂に[1]に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を前記(A)成分と(B)成分が1/99~99/1の割合(質量比)で配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
[3]ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、[1]に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を0.01~3.0質量部配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
[4][2]又は[3]に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
[5][2]~[4]のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、成形時において帯電防止剤及びその分解物による発煙が少なく、揮発物の堆積によるロール汚れを防止し、成形品中の添加剤や樹脂由来の異物の分散性が良好であるポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤と、その帯電防止剤を用いて、帯電防止性、防曇性に優れ、且つ該帯電防止剤が添加されたポリオレフィン系樹脂組成物中のフィッシュアイなどの目視で確認される異物が少ないポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤の成分(A)を構成するリン酸エステル化合物は、下記の一般式(1)で表わされる化合物である。
【化5】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であって1~10の数でありであり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
【0011】
炭素数1~24のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、1-アダマンチル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミルスチル基)、ヘキサデシル基(パルミチル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基等が挙げられる。炭素数2~24のアルケニル基としては、具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられ、これらは分岐構造、環状構造を有していてもよい。置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基等の無置換のアリール基、炭素数1~24の炭化水素基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルコキシ基等の置換基を有する前記アリール基が挙げられる。
これらの中でも、適度なブリード性を付与する観点から、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、特にドデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。
【0012】
前記一般式(1)中、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、1,2-または1,3-オキシプロピレン基、1,2-、1,3-または1,4-オキシブチレン基が挙げられる。これらの中でも、好ましいのはオキシエチレン基と1,2-オキシプロピレン基であり、特に好ましいのはオキシエチレン基である。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であり、1~10の数であるが、帯電防止効果の観点から好ましくは1~6の数である。nが2以上の場合、n個のAOは同一でも異なっていてもよく、異なる場合は-(AO)-はランダム付加、ブロック付加または交互付加のいずれの付加形式でもよい。mは1~3の整数であり、好ましくは1または2である。
【0013】
前記一般式(1)中、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。アルカリ金属としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられ、第2族金属としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。有機アンモニウム基とは、有機アミン由来のアンモニウム基であり、前記有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。これらのMの中でも、水素原子が好ましい。
【0014】
成分(A)をポリオレフィン樹脂に添加することにより、他の添加剤や樹脂由来の異物に吸着し、その分散性を高める効果が得られる。本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤において、リン酸エステル化合物(A)の含有量は、帯電防止性や分散性の観点で好ましくは1~80質量%、より好ましくは5~70質量%、さらに好ましくは8~60質量%、特に好ましくは10~40質量%の割合で配合される。
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤の(B)成分を構成するポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸モノエステル(b1)(以下、「アミンエステル化合物(b1)」ともいう。)は、下記の一般式(2)
【化6】
(式中、Rは炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基、Rは炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示し、p、qはエチレンオキサイドの平均付加モル数であって、p+q=1~10となる数を示す。)
で表わされる化合物である。
【0016】
アミンエステル化合物(b1)は、炭素数が8~22のアルキルアミン又はアルケニルアミン1モルに対し、エチレンオキサイドを1~10モル付加させることにより得ることができるポリオキシエチレンアルキルアミン又はポリオキシエチレンアルケニルアミンと、炭素数が8~22の飽和又は不飽和脂肪酸を反応させることにより得ることができる。
ポリオキシエチレンアルキルアミンまたはポリオキシエチレンアルケニルアミンとしては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンミリスチルアミン、ポリオキシエチレンパルミチルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミンが挙げられる。中でも、良好な帯電防止効果を得る観点から、一般式(2)中のp、qが、p+q=2~3のアミン化合物が好ましく、p+q=2のアミン化合物、具体的にはラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミンがより好ましく、特にステアリルジエタノールアミンが好ましい。
炭素数8~22の飽和又は不飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸が挙げられる。
【0017】
アミンエステル化合物(b1)として具体的には、ラウリルジエタノールアミンモノステアレート、ミリスチルジエタノールアミンモノオレエート、パルミチルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミンモノラウレート、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミンモノオレート、ステアリルジエタノールアミンモノベヘネート、オレイルジエタノールアミンモノステアレート等を例示する事が出来るがこれに限定されるものではない。また、一般式(2)で表される化合物の混合物は2種以上を混ぜ合わせて使用しても何ら支障はない。
【0018】
アミンエステル化合物(b1)の製造方法は特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンアルキルアミンまたはポリオキシエチレンアルケニルアミン1モルに対し通常0.5モル~2.0モルにて仕込んだ脂肪酸とを、190~230℃の温度で脱水反応することによりエステル化する方法、又は、脂肪酸メチルエステルとエステル交換反応による方法などで製造することができる。なお、これらの反応物は未反応のポリオキシエチレンアルキルアミン又はポリオキシエチレンアルケニルアミンを含んでいてもよい。
【0019】
本発明で用いられる脂肪酸ジエタノールアミド(b2)は、下記の一般式(3)で表わされる化合物である。
【0020】
【化7】
(式中、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0021】
脂肪酸ジエタノールアミド(b2)としては、具体的には、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、トリデシル酸ジエタノールアミド、ペンタデシル酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ヘプタデシル酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ノナデカン酸ジエタノールアミド、アラキン酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。中でも、帯電防止性や防曇性の観点からステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドが好ましい。脂肪酸ジエタノールアミド(b2)は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記のような脂肪酸ジエタノールアミド(b2)は、従来公知の方法により調製することができるが、例えば脂肪酸もしくは脂肪酸低級アルキルアルコールエステルとジエタノールアミンを反応することにより製造される。そのため一般式(3)で表される化合物以外に、脂肪酸ジエタノールアミドと脂肪酸のモノエステル、脂肪酸ジエタノールアミドと脂肪酸のジエステル、ジエタノールアミンと脂肪酸のモノエステル、ジエタノールアミンと脂肪酸のジエステル、未反応のジエタノールアミン、未反応の脂肪酸、未反応の脂肪酸低級アルキルアルコールエステルが存在する場合があるが、未反応の脂肪酸が残存すると臭気や着色の原因となるため、脂肪酸低級アルキルアルコールエステル、特に脂肪酸メチルエステルを用いることが好ましい。脂肪酸もしくは脂肪酸低級アルキルアルコールエステルとジエタノールアミンの反応比は0.9~1.1モルがよいが、この限りではない。
また、反応を促進する観点から、一般に知られている縮合反応触媒を用いることができる。縮合触媒としては、チタン系触媒、金属アルコラート触媒、スズ系触媒、ブレンステッド酸系触媒等が挙げられる。
【0023】
本発明で用いられる脂肪酸ジエタノールアミドの脂肪酸モノエステル(b3)(以下、「アミドエステル化合物(b3)」ともいう。)は、下記の一般式(4)で表わされる化合物である。
【化8】
(式中、R、Rは、炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0024】
アミドエステル化合物(b3)は、脂肪酸ジエタノールアミド(b2)1モルに対し、通常0.5モル~2.0モルにて仕込んだ脂肪酸とを、190~230℃の温度で脱水反応することによりエステル化する方法、又は、脂肪酸メチルエステルとエステル交換反応による方法などで製造することができる。
【0025】
成分(B)であるアミンエステル化合物(b1)、脂肪酸ジエタノールアミド(b2)及びアミドエステル化合物(b3)から選ばれる1種又は2種以上をポリオレフィン樹脂に添加することにより、帯電防止性や防曇性を高める効果が得られる。本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤において、成分(B)の含有量は、帯電防止性や防曇性の観点で好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~90質量%、さらに好ましくは20~85質量%、特に好ましくは30~80質量%の割合で配合される。
【0026】
本発明の帯電防止剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物(A)及び本発明に係わるアミンエステル系反応物(B)以外の成分を含有していてもよい。例えば、リン酸エステル化合物(A)の未反応原料として残存する非イオン成分やリン酸、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、その他公知の帯電防止剤が挙げられる。具体的な化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルまたはアルケニルアミン、脂肪酸とジエタノールアミンによる縮合物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物に使用するポリオレフィン系樹脂は、特に限定されず、公知のものが用いられる。例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンの単独重合体、前記α-オレフィン同士の共重合体、前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体とα-オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物等である。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン-1、ブテン・エチレン共重合体が挙げられる。これら単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を挙げることが出来る。
【0029】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂とポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を含む。本発明のポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる帯電防止剤の含有量については、特に限定はないが、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましくは0.05~2質量部、特に好ましくは0.10~1.5質量部である。この範囲内とすると、特に優れた帯電防止性能、防曇性に優れ、且つ該帯電防止剤が添加されたポリオレフィン系樹脂組成物中のフィッシュアイなどの目視で確認される異物が少ないポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができる。ここで、フィッシュアイとは、成形品を製造する際の材料中の異物、未溶融物、酸化劣化物等が、成形品中に取り込まれたもののことである。成形品の外観不良および性能低下の原因となる異物であるため、できるだけ低減することが求められる。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂組成物は、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、一軸押出機及び多軸押出機などの公知の混合機又は押出機を用いてポリオレフィン系樹脂と本発明の帯電防止剤とを加熱混練する等により得ることができる。本発明の帯電防止剤を構成する(A)乃至(B)成分は、それぞれ別々にポリオレフィン系樹脂に添加してもよいが、予め混合してからポリオレフィン系樹脂に添加することもできる。ポリオレフィン樹脂の量に対し添加する帯電防止剤の量が少ないと、これらが樹脂中で均一に分散され難くなる。このため、予め高濃度の帯電防止剤を含むマスターバッチを作製し、これを帯電防止剤を含まないポリオレフィン樹脂と混練して所定含有量とするマスターバッチ法を採用することが好ましい。
【0031】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で通常ポリオレフィン系樹脂組成物に用いられる各種添加剤を添加することができる。各種添加剤としては、例えば、防曇剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、安定剤、スリップ剤、粘着性付与剤、アンチブロッキング剤などが挙げられる。
【0032】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムも本発明の形態の一つである。ポリオレフィン系フィルムの製造方法としては、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が例示できるが、中でも、Tダイを用いて溶融混練して押し出すTダイ法が好ましい。Tダイ法の製法例としては、上記ポリオレフィン系樹脂組成物を押出機ホッパーに供給し、押出機を例えばシリンダー温度180~240℃、Tダイ温度200~230℃に加熱し、溶融混練して押し出し、20~40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚さ100~500μmの未延伸シートを得る。フィルムに強度やその他の機能を付与する目的に共押出し法や、他のフィルムなどのラミネーションによる多層化もできる。
【0033】
未延伸シートの二軸延伸方法としては、テンター方式による同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。同時二軸延伸の代表例としては、上述の如く得られた未延伸シートを予熱・延伸温度70~90℃、熱固定温度100~150℃のテンターにて面倍率9~16倍に延伸しフィルムを得る。また、逐次二軸延伸の代表例としては、未延伸シートを駆動ロールの回転速度比によって縦方向にロール表面温度50~80℃、延伸倍率1.5~5倍で延伸し、引き続き連続して横方向に延伸温度50~90℃、延伸倍率1.5~8倍、熱固定温度100~150℃の条件下で延伸しフィルムを得る。
【0034】
本発明に係るポリオレフィン系フィルムの厚みは特に制限なく、用途、要求性能、価格等によって適宜設定すればよい。一般的には、10~100μm程度の厚さを例示できる。さらに、フィルムの印刷性、ラミネート性、コーティング適性等を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸処理等が挙げられ、いずれの方法も用いることができる。これらの中では、簡便さの点からコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【0035】
また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、シート、ボトル、フィラメント、射出成形品など、あらゆる成形体に成形することもできる。
【実施例
【0036】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、配合量は質量部で示す。
【0037】
各評価項目の測定及び評価は、下記の方法により行った。
【0038】
(1)帯電防止性
製膜後45℃で24時間エージングしたフィルムを25℃、50%RH雰囲気下にて、高抵抗絶縁試験機(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製、ハイレスタUPMCP-HT450)を用い、フィルムを主電極と対向電極との間に挟み、JIS-K-6911に従って印加電圧500Vにて表面固有抵抗値を測定した。
【0039】
(2)防曇性
200mlビーカーに水を100ml入れ、前記(1)においてエージングした後のフィルムをビーカーの上において輪ゴムで固定し、恒温機(5℃)にて30分保管する。その後、ビーカーの下に文字を書いた紙を置き、フィルム表面と下に置いた文字がどの程度見えるかを観察した。
〇・・・フィルム表面は均一に濡れており、下の文字が明確に見える。
△・・・フィルム表面は不均一に濡れており、下の文字が滲んで見える。
×・・・フィルム表面は全体的に細かい水滴がついており、文字が見えない。
【0040】
(3)フィルム成形時の発煙
フィルム成形時のTダイからの発煙状態を目視により観察した。
〇・・・発煙をほぼ確認できない
×・・・発煙を確認
【0041】
(4)分散性(フィッシュアイ)
得られたフィルム20cm(幅)×25cm(長)に存在するフィッシュアイ(個数/300cm)を、目視でカウントした。
カウントされたフィッシュアイの個数に応じて、その分散性を以下の基準により、評価した。
◎:20個未満。
○:20個以上50個未満。
△:50個以上100個未満。
×:100個以上又は個数が多すぎて測定不可。
【0042】
実施例1
ポリオレフィン樹脂として、メルトフローレートが3.0g/10分のホモポリプロピレン樹脂100部、帯電防止剤として、ポリオキシエチレン(6)イソトリデシルエーテルリン酸0.60部およびステアリルジエタノールアミンモノステアレート0.40部をヘンシェルミキサーにて混合した後、ペレタイザーを備えた二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0043】
得られたポリプロピレン樹脂組成物からT-ダイ成形し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、帯電防止性、防曇性、および発煙性、フィルム中の異物個数を上記方法に従って評価した。これらの結果を表1に示す。
【0044】
実施例2~17
上記実施例1において、押出機に供給する帯電防止剤の種類および配合量を、それぞれ表1、表2に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にしてフィルム製造し、それぞれ評価した。評価結果を表1、表2に示す。
【0045】
比較例1~6
得られたポリプロピレン樹脂組成物からT-ダイ成形し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、帯電防止性、防曇性、および発煙性、分散性を上記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例の結果より、本発明の帯電防止剤を配合した実施例1~17のポリプロピレン樹脂組成物は、いずれも帯電防止性、防曇性、発煙性、分散性に優れるものであった。
これに対し、比較例1~4ではグリセリン脂肪酸エステルが配合されていることで発煙性に劣るものであった。比較例3~5ではリン酸エステル化合物が配合されておらず、分散性に劣るものであった。比較例6では、アミンエステル系化合物が配合されておらず、帯電防止性に劣るものであった。