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  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図1
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図2
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図3
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図4
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240819BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/00 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020170842
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062738
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢司
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-221685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出射されるレーザパルスの発振周期を制御するレーザ発振制御部と、を有し、
被加工物に前記レーザパルスを照射するレーザ加工装置において、
前記レーザパルスの加工地点におけるレーザパワーを測定するための光学センサと、
前記光学センサにより測定されたレーザパワーが予め定めた値未満の場合に、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を決定するタイミング制御部と、を備え、
前記レーザ発振制御部は、
前記光学センサにより測定されたレーザパワーが予め定めた値未満の場合に、前記タイミング制御部により決定された予め定められた時間を前記レーザパルスの発振周期に付加して当該レーザパルスの発振周期を長くし、
且つ前記レーザパルスのパワーが低いほど前記レーザパルスの発振周期が長くなるように、前記レーザパルスのパワーの低下の程度に応じて、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を段階的に変更する、ことを特徴とする、
レーザ加工装置。
【請求項2】
請求項に記載のレーザ加工装置において、
前記レーザパルスの発振周期を長くする時間として、前記レーザパルスのパワーの低下の程度に応じた複数のインターバル時間が予め設定され、
前記タイミング制御部は、
前記レーザパルスのパワーの低下の程度に応じて、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を、前記複数のインターバル時間から決定する、ことを特徴とする、
レーザ加工装置。
【請求項3】
レーザ発振器から出射されたレーザパルスを被加工物に照射して前記被加工物を加工するレーザ加工方法であって、
前記レーザパルスの加工地点におけるレーザパワーを測定し、測定したレーザパワーが予め定めた値未満の場合には、予め定めた時間をレーザパルスの発振周期に付加して当該レーザパルスの発振周期を長くし、
且つ前記レーザパルスのパワーが低いほど前記レーザパルスの発振周期が長くなるように、前記レーザパルスのパワーの低下の程度に応じて、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を段階的に変更する、ことを特徴とする、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント基板にレーザで穴あけを行うレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来のプリント基板レーザ加工装置の構成図であり、基本的な光学系を示したものである。
【0003】
図5に示されるように、従来のレーザ加工装置は、レーザビームを出射するレーザ発振器101と、前記レーザビームを平行ビームにするコリメータ102と、前記レーザビームを偏向してON-OFF制御するための音響光学素子(例えばAOM)105と、前記AOM105により分岐された、加工に使用しないレーザを吸収するダンパ106と、前記AOM105により分岐され、反射ミラー110により反射された加工に使用するレーザのビーム径を調節するためのビーム径調整光学系103、104と、前記ビーム径調整光学系103、104によってビーム径を調節された前記レーザビームを2次元方向に偏向してスキャンするためのガルバノスキャナ111と、前記ガルバノスキャナ111で偏向された前記レーザビームをワーク上に集光して加工するための図示を省略するfθレンズと、前記ワークを載置するためのステージ108とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-100842
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、レーザ加工装置の光学系は、エアフィルタで清浄されたエアを満たして密閉されているが、継続使用しているうちに光学系を構成するレンズにわずかな汚れが付着することがある。レンズが汚れると発散角がずれて、光学系から出射されるレーザの平行度が低下するため、光学特性に変化が生じ、ワークの加工点におけるレーザパワーが低下する。また、経時変化によっても光学特性に変化が生じることがあり、その場合も同様にレーザパワーが低下する。
【0006】
従来、レンズが汚れるなどしてレーザパワーが低下した場合には、コリメータを調整して平行度を上げることにより、加工に必要なパワーを回復させていた。しかし、汚れなどによりパワーが損失することは避けられないため、平行度を上げても必要なパワーまで回復できなくなる。
【0007】
本発明は、上記のような課題にかんがみてなされたものである。すなわち、加工地点においてレーザパワーが低下した場合に、光学系の調整以外の方法で、パワーを回復することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本願発明は、レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射されるレーザパルスの発振周期を制御するレーザ発振制御部と、を有し、被加工物に前記レーザパルスを照射するレーザ加工装置において、前記レーザパルスの加工地点におけるレーザパワーを測定するための光学センサと、前記光学センサにより測定されたレーザパワーが予め定めた値未満の場合に、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を決定するタイミング制御部と、を備え、前記レーザ発振制御部は、前記光学センサにより測定されたレーザパワーが予め定めた値未満の場合に、前記タイミング制御部により決定された予め定められた時間を前記レーザパルスの発振周期に付加して当該レーザパルスの発振周期を長くし、且つ前記レーザパルスのパワーが低いほど前記レーザパルスの発振周期が長くなるように、前記レーザパルスのパワーの低下の程度に応じて、前記レーザパルスの発振周期を長くする時間を段階的に変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汚れなどによって加工地点において低下したパワーを自動で回復させて加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を適用したレーザ加工装置の一例を示す、レーザ加工装置のブロック図である。
図2】本発明を適用したレーザ加工装置のサイクル加工の場合のタイミングチャートの一例である。
図3】本発明を適用したレーザ加工装置のサイクル加工の場合のパワー低下時のタイミングチャートの一例である。
図4】本発明を適用したレーザ加工装置のバースト加工の場合のパワー低下時のタイミングチャートの一例である。
図5】従来のレーザ加工装置の光学系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0011】
以下、本発明の一実施例を、図1~4を参照しながら説明する。なお、各図において、各構成要素や接続線は、主に本実施例を説明するために必要と考えられるものを示してあり、レーザ加工装置として必要な全てを示しているわけではない。
【0012】
図1は、本願発明の一実施例を示す、レーザ加工装置のブロック図である。図1において、1はテーブル、2は該テーブル上に載置された被加工物であるプリント基板、3はレーザパルスL1を発振するレーザ発振器、4はレーザ発振器3から出力されたレーザパルスL1を加工方向と非加工方向の二通りに分岐させるAOMなどの音響光学変調器(以下、AOMという)、5は前記AOM4により分岐されたレーザパルスL2を2次元方向に偏向させ、プログラムデータに従ってプリント基板2の穴あけ位置に照射されるように回転駆動されるガルバノスキャナである。6はAOM4において非加工方向へ分岐されたレーザパルスL3を吸収するダンパであり、7はテーブル上に載置され、加工地点におけるレーザパルスL2のパワーを測定するための光学センサである。
【0013】
8は装置全体の動作を制御するための全体制御部であり、例えばプログラム制御の処理装置によって実現されるものである。全体制御部8は、その内部に、レーザ発振器3でのレーザパルスL1の発振と減衰を指令するためのレーザ発振信号Sを出力するレーザ発振制御部9、AOM4の動作を制御するためのAOM動作信号Dを出力するAOM制御部10、ガルバノスキャナ5の駆動動作を制御するためのガルバノ駆動信号Gを出力するガルバノ制御部11、光学センサ7で測定したパワー値と事前に設定した閾値とを比較し、事前に設定した閾値未満の場合に、レーザ発振信号Sの発信タイミング、AOM動作信号Dの発信タイミング、ガルバノ駆動信号Gの発信タイミングを所定の時間遅延させるための遅延時間を決定するタイミング制御部12と、を有する。全体制御部8はここで説明するもの以外にも制御機能を有し、図示されていないブロックにも接続されている。また各構成要素の一部は全体制御部8と別個に設けられていてもよい。
【0014】
本実施例におけるレーザ加工装置は、全体制御部8の制御により以下のように動作する。
【0015】
被加工物であるプリント基板2への実加工を行う前や、実加工を行った後の任意のタイミングで、テーブル1に載置された光学センサ7がレーザL2を受光できるように、テーブル1が移動し、該光学センサ7によりレーザL2のパワーを測定する。タイミング制御部12は、測定したパワー値が、予め設定されたパワー閾値以上か否か判断する。ここで、パワー閾値は、加工対象の材質や加工内容に応じて、加工に必要な最低限のパワーの値を設定しておく。測定した値がパワー閾値以上の場合、以下のように動作する。
【0016】
図2は、本発明の一実施例となるレーザ加工装置のタイミングチャートであり、各穴位置毎にレーザパルスを1個ずつ照射しながら穴位置を移動させるサイクル加工の場合を示すものである。
【0017】
ガルバノ駆動信号Gは、オフの時間帯でガルバノスキャナ5を静止させ、オンの時間帯でガルバノスキャナ5を回転させる。ガルバノスキャナ5が静止した状態で一つの穴が明けられ、ガルバノスキャナ5が回転することによってレーザパルスL2を次の穴位置に照射させるようになる。レーザ発振信号Sは、オンになることによりレーザ発振器3に発振を起こさせ、オフになることによりその発振を停止させる。レーザ発振信号Sはガルバノ駆動信号Gのオフに同期してオンとなる。また、ガルバノ駆動信号Gはレーザ発振信号Sのオンとは一定の遅れをもってオンとなり、次の穴位置までガルバノスキャナを回転させる。本実施例では、レーザ発振信号Sは周期fで発振される。
【0018】
AOM動作信号Dは、それがオンの時間帯でのみAOM4に入力されたレーザパルスL1を加工方向に分岐させてレーザパルスL2とし、それ以外のオフの時間帯では非加工方向のレーザパルスL3としてダンパ6の方向に分岐させる。AOM動作信号Dは、レーザ発振信号Sのオンに対し一定の遅れをもってオンとなり、加工に必要なパルス幅を切り出すために必要な時間の経過とともにオフとなる。
【0019】
図2において、レーザパルスL2の縦方向は加工地点におけるパワーを示す。レーザパルスL2において、実線は光学系に汚れ等が付着しておらず、光学系でのパワーの低下がない状態のパワー推移を示し、破線は汚れ等が付着してパワーが低下した状態のパワー推移を示し、一点鎖線はパワー閾値を示す。
【0020】
レーザ加工装置は、通常は実線で示されるように所定の閾値以上のパワーで加工することができるが、経年変化や、レンズへの汚れの付着により、破線で示されるようにパワーが低下する。
【0021】
パワーの測定結果がパワー閾値未満の場合には以下のように動作する。図3は、本発明の一実施例となるレーザ加工装置のサイクル加工の場合のパワー低下時のタイミングチャートである。
【0022】
パワーの測定結果があらかじめ設定されたパワー閾値未満の場合、タイミング制御部12は、測定した結果に応じて予め設定されたインターバル時間αを決定する。レーザ発振制御部9は、通常のレーザ発振周期fに、図3に破線で示された前記インターバル時間αを付加した発振周期fαでレーザ発振信号Sを発信する。AOM制御部10、ガルバノ制御部11は、予めプログラムで設定された全てのAOM動作信号D、ガルバノ駆動信号Gの発振タイミングに、前記インターバル時間αを付加したタイミングでそれぞれの信号を発信する。
【0023】
レーザパルスは、その発振周期が長いと、つまり繰り返し周波数が低いと、各パルスあたりのパワーが高くなり、その発振周期が短いと、つまり繰り返し周波数が高いと、各パルスあたりのパワーが低くなる。したがって、加工地点のレーザパワーが低下した場合、レーザパルスの発振タイミングを遅らせて、発振周期を長くすることにより、各パルスのパワーを回復することができる。
【0024】
インターバル時間αは、パワーの低下の程度に応じて数種類用意しておき、低下の程度に応じて段階的に変更する。例えば、閾値、つまり加工に必要な最低限のパワーを80%とすると、パワー80%未満で75%以上のときのインターバル時間はα1、75%未満で70%以上のときはα2、70%未満で65%以上のときはα3のように事前に設定しておく。発振周期の遅延とパワーの増加量は、発振するレーザの特性により異なるので、インターバル時間は、実験等により予め求めておく。
【0025】
以上ではサイクル加工の場合を説明したが、本発明は各穴位置毎に連続して複数のレーザパルスを照射した後で隣の穴位置に移動するバースト加工においても適用できる。バースト加工の場合の動作は、ガルバノ駆動信号Gの発振タイミングに付加される時間が異なる点を除き、サイクル加工の場合と同一である。サイクル加工と同一の動作は説明を省略する。
【0026】
バースト加工の場合、各穴位置毎に複数のパルスを照射して、隣の穴位置に移動して加工する。そのため、サイクル加工のように、レーザ発振信号Sごとにガルバノ駆動信号Gが発信されるのではなく、レーザ発振信号Sが複数回発信された後で、ガルバノ駆動信号Gが発信される。そこで、測定されたレーザパワーが閾値以下の場合、ガルバノ駆動信号Gの発振タイミングは、各穴に照射されるパルス数をnとすると、予め設定されたインターバル時間αにnを乗じて得られる時間分遅延させるように制御される。
【0027】
本実施例において、パワーが閾値以上の場合、レーザ発振信号Sは周期fで発振され、各穴位置毎にパルスを2回ずつ照射して加工しているものとする。図4は、本発明の一実施例となるレーザ加工装置のバースト加工の場合のパワー低下時のタイミングチャートである。パワーが閾値未満の場合、レーザ発振信号Sの発信周期fにインターバル時間αが付加され、発振周期fαでパルスレーザが発振される。そして、ガルバノ駆動信号Gの発信周期は、インターバル時間αに、一穴に照射するパルスの回数である2を乗じた2αが付加される。なお、AOM動作信号Dについては、サイクル加工の場合と同様に、インターバル時間αが付加されたタイミングで動作する。
【0028】
以上のように、本発明によれば、レーザ加工装置の光学系の光学特性の変化等によりレーザパワーが低下しても、自動的にパワーを回復させることができる。また、光学系の調整と合わせることでパワーの回復幅が全体として拡大する。
【0029】
なお、本実施例では、レーザパワーの測定は、実加工前か後に行うものとしたが、これに限らず、例えば一定の時間間隔をあけて定期的に行うようにしてもよいし、被加工物への加工精度が悪くなった場合に行ってもよい。また、実加工の途中の任意のタイミングで行ってもよい。
【0030】
レーザパワーが閾値未満の場合には、光学系の汚れの清掃等が必要となるので、加工装置のディスプレイへ清掃が必要である旨を表示するなどしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:テーブル
2:プリント基板
3:レーザ発振器
4:AOM
5:ガルバノスキャナ
6:ダンパ
7:光学センサ
8:全体制御部
9:レーザ発振制御部
10:AOM制御部
11:ガルバノ制御部
12:タイミング制御部
図1
図2
図3
図4
図5