IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

特許7539822気体圧アクチュエータの制御方法および制御演算装置
<>
  • 特許-気体圧アクチュエータの制御方法および制御演算装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】気体圧アクチュエータの制御方法および制御演算装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/06 20060101AFI20240819BHJP
   F15B 9/09 20060101ALI20240819BHJP
   G05D 3/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
F15B11/06 H
F15B9/09 F
G05D3/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020202876
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090459
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】濱田 慎哉
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-140253(JP,A)
【文献】特開2019-060391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/06
F15B 9/09
G05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド部と前記ガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、前記ガイド部と前記スライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、前記シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板を前記ガイド部および前記スライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで前記2つの圧力室の差圧で前記スライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、前記スライダの位置を検出するための位置センサと、前記2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、前記位置センサからの位置検出信号を受けて前記2つのサーボアンプに位置指令値を出力する制御演算装置とを備えた気体圧アクチュエータの制御方法であって、
前記制御演算装置は、前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して、前記シリンダ室内における前記受圧板の位置変化に起因する各圧力室の体積変化分を補償する演算を行ったうえで、それぞれ補償された位置指令値を前記2つのサーボアンプへ出力し、
前記制御演算装置は、前記体積変化分を補償する演算のために、前記スライダの位置についての原点出しを実行し、当該原点出しでは、前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して前記体積変化分を補償する演算を行わず、
前記制御演算装置は、前記位置センサからの位置検出信号に基づいて前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値を算出する際のゲインを、前記原点出しの完了前後で切り替えることを特徴とする気体圧アクチュエータの制御方法。
【請求項2】
前記制御演算装置は、前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して前記体積変化分を補償する演算を行わない状態から前記体積変化分を補償する演算を行う状態に切り替える場合、前記2つの圧力室の体積が等しくなる位置に前記スライダを移動させてから、その切り替えを実行することを特徴とする請求項1に記載の気体圧アクチュエータの制御方法。
【請求項3】
ガイド部と前記ガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、前記ガイド部と前記スライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、前記シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板を前記ガイド部および前記スライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで前記2つの圧力室の差圧で前記スライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、前記スライダの位置を検出するための位置センサと、前記2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、を備えた気体圧アクチュエータの前記2つのサーボアンプに前記位置センサからの位置検出信号を受けて位置指令値を出力する制御演算装置であって、
前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して、前記シリンダ室内における前記受圧板の位置変化に起因する各圧力室の体積変化分を補償する演算を行ったうえで、それぞれ補償された位置指令値を前記2つのサーボアンプへ出力し、
前記体積変化分を補償する演算のために、前記スライダの位置についての原点出しを実行し、当該原点出しでは、前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して前記体積変化分を補償する演算を行わず
前記位置センサからの位置検出信号に基づいて前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値を算出する際のゲインを、前記原点出しの完了前後で切り替えることを特徴とする制御演算装置。
【請求項4】
前記2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して前記体積変化分を補償する演算を行わない状態から前記体積変化分を補償する演算を行う状態に切り替える場合、前記2つの圧力室の体積が等しくなる位置に前記スライダを移動させてから、その切り替えを実行することを特徴とする請求項3に記載の制御演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体圧アクチュエータの制御方法および制御演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイド軸とガイド軸に沿って移動可能なスライダとを含み、ガイド軸とスライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板をガイド軸およびスライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで2つの圧力室の差圧でスライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータが知られている。従来では、スライダの位置による動特性変化を補償し、スライダをストローク内で安定に制御することのできる気体圧アクチュエータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-295404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、より安定した位置決め制御を可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の気体圧アクチュエータの制御方法は、ガイド部とガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、ガイド部とスライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板をガイド部およびスライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで2つの圧力室の差圧でスライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、スライダの位置を検出するための位置センサと、2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、位置センサからの位置検出信号を受けて2つのサーボアンプに位置指令値を出力する制御演算装置とを備えた気体圧アクチュエータの制御方法であって、制御演算装置は、2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して、シリンダ室内における受圧板の位置変化に起因する各圧力室の体積変化分を補償する演算を行ったうえで、それぞれ補償された位置指令値を2つのサーボアンプへ出力し、制御演算装置は、体積変化分を補償するために、スライダの位置についての原点出しを実行する。
【0006】
本発明の別の態様は、気体圧アクチュエータの制御方法である。この方法は、ガイド部とガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、ガイド部とスライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板をガイド部およびスライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで2つの圧力室の差圧でスライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、スライダの位置を検出するための位置センサと、2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、位置センサからの位置検出信号を受けて2つのサーボアンプに位置指令値を出力する制御演算装置とを備えた気体圧アクチュエータの制御方法であって、制御演算装置は、位置センサからの位置検出信号に基づいて2つのサーボアンプに与える各位置指令値を算出する際のゲインを、スライダの位置についての原点出しの完了前後で切り替える。
【0007】
本発明のさらに別の態様は、制御演算装置である。この装置は、ガイド部とガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、ガイド部とスライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板をガイド部およびスライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで2つの圧力室の差圧でスライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、スライダの位置を検出するための位置センサと、2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、を備えた気体圧アクチュエータの2つのサーボアンプに位置センサからの位置検出信号を受けて位置指令値を出力する制御演算装置であって、2つのサーボアンプに与える各位置指令値に対して、シリンダ室内における受圧板の位置変化に起因する各圧力室の体積変化分を補償する演算を行ったうえで、それぞれ補償された位置指令値を2つのサーボアンプへ出力し、体積変化分を補償するために、スライダの位置についての原点出しを実行する。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、制御演算装置である。この装置は、ガイド部とガイド部に沿って移動可能なスライダとを含み、ガイド部とスライダとの間にシリンダ室を形成すると共に、シリンダ室を移動方向に関して2つの圧力室に区画する受圧板をガイド部およびスライダの一方に設け、2つに区画された圧力室にそれぞれ、サーボ弁を介して圧縮気体を出入り可能にすることで2つの圧力室の差圧でスライダを駆動するようにした気体圧アクチュエータであって、スライダの位置を検出するための位置センサと、2つのサーボ弁をそれぞれ制御するための2つのサーボアンプと、を備えた気体圧アクチュエータの2つのサーボアンプに位置センサからの位置検出信号を受けて位置指令値を出力する制御演算装置であって、位置センサからの位置検出信号に基づいて2つのサーボアンプに与える各位置指令値を算出する際のゲインを、スライダの位置についての原点出しの完了前後で切り替える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、より安定した位置決め制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る気体圧アクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して示す。
【0013】
図1は、実施の形態に係る気体圧アクチュエータ1の断面図である。気体圧アクチュエータ1は、両端部を支持体により固定されて一軸方向に延びるガイド軸14と、ガイド軸14に沿って移動可能なスライダ13と、を含む。スライダ13は、ガイド軸14の周囲を囲むことができるような筒状体である。ガイド軸14とスライダ13との間にシリンダ空間16が形成される。この例では、ガイド軸14の中央部が細く形成されることで、スライダ13とガイド軸14との間にシリンダ空間16が形成される。
【0014】
スライダ13の内壁には受圧板(隔壁)17が固定される。受圧板17は、スライダ13とともにガイド軸14に沿って移動可能である。なお、受圧板17は、ガイド軸14に固定されてもよい。シリンダ空間16は、受圧板17によって、軸方向に関して圧力室16Aと圧力室16Bに区画される。
【0015】
スライダ13とガイド軸14は静圧気体軸受を形成している。具体的には、スライダ13の内側またはガイド軸14の外側に設けられたエアパッドから圧縮気体(例えば空気)を噴出することにより、スライダ13はガイド軸14から浮上し、スライダ13はガイド軸14に対して非接触で移動が可能となる。したがって、移動に際しての摺動抵抗をもたない。
【0016】
位置センサ15は、スライダ13の位置に関する情報を検出しその位置に関する情報を電気信号により出力する。位置センサ15からの位置検出信号は制御演算装置20に入力される。
【0017】
制御演算装置20では入力された位置情報をもとに制御演算を行い、サーボアンプ21A、21Bに位置指令信号を出力する。この際、サーボアンプ21A、21Bへの指令値は、絶対値が同じで符号を反転させた値を用いる。
【0018】
サーボアンプ21A、21Bは、この指令値に従いサーボ弁22A、22Bのスプール位置をそれぞれ制御する。
【0019】
サーボ弁22A、22Bは図示しないレギュレータにより適当な圧力に調節された圧縮気体(例えば空気)が供給されており、サーボ弁22A、22B内のスプール位置により通過する流量が変動する。サーボ弁22A、22Bを通過した気体はスライダ13内に設けられた2つの圧力室16A、16Bに供給される。その結果、圧力室16A、16Bには差圧が生じ、この差圧がスライダ13の内壁に取り付けられた受圧板17に作用し、スライダ13を移動させる。
【0020】
このような気体圧アクチュエータは、コンパクトな構造で大きな出力を制御できるため2点間の位置決め用アクチュエータとしての利用が期待されている。しかし、連続位置決めを行う場合、このような気体圧アクチュエータは、受圧板の位置による動特性変化等の非線形特性によって安定した制御が難しく、スライダの機械的ストロークに対して有効ストロークを長く取ることが困難である。これは、シリンダ室内で受圧板の位置が変化すると圧力室の圧力も変化し、これが安定制御に影響を及ぼすからである。
【0021】
そこで、スライダ13を2つのサーボ弁22A、22Bを用いて気体圧により駆動する気体圧アクチュエータ1において、スライダ13の位置による動特性変化を補償し、スライダ13をストローク内で安定に制御する方法について説明する。
【0022】
以下に示す主な記号は、圧力P、体積V、温度θ、気体定数R、受圧板17の受圧面積Aであり、添え字1は圧力室16A側、添え字2は圧力室16B側の状態量を示すものとする。また、以降で示される様々な式中で、記号の上に1つの・(ドット)のついているものは1階時間微分を示し、例えば記号xの上にドットが1つついているものは、xドットと呼び、記号の上に2つの・(ドット)のついているものは2階時間微分を示し、例えば記号xの上にドットが2つついているものはxダブルドットと呼ぶ。一方、記号の上に-(バー)のついているものは圧力室16A、16Bが平衡状態であるときの状態量であることを示し、例えば記号Pの上にバーのついているものはPバーと呼ぶことにする。
【0023】
本実施の形態の気体圧アクチュエータ1は、上述したように、2つのサーボ弁22A、22B、2つのサーボアンプ21A、21B、制御演算装置20を用いて圧力室16A、16Bへの圧縮気体流量を制御し、圧力室16A、16B間の差圧によりスライダ13を駆動するアクチュエータである。
【0024】
圧力室内の気体の状態変化を断熱変化(断熱係数k)と仮定した場合、状態変化は次の式(1)で表される。
【0025】
【数1】
但し、Gはサーボ弁22Aから供給される気体の質量流量を表す。
【0026】
式(1)の状態方程式は非線形であるため、圧力室の体積が変わると特性は変化する。
【0027】
受圧板17がスライダ13の中央付近に位置した状態でスライダ13が停止している状態(圧力Pバー、体積Vバー、温度θバー)を基準状態として線形化すると、以下の式(2)となる。
【0028】
【数2】
【0029】
このとき温度変化は非常に小さいとしてθ=θバーとしている。式(2)は、スライダ中央を基準状態として、体積をVバー=一定としているので特性変化はない。
【0030】
式(1)の入力GをG´として以下の式(3)とし、次の式(4)のような入力を考える。
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
式(4)を式(3)に代入すると、式(1)の非線形方程式が式(2)の線形方程式と等しくなる。
【0034】
サーボ弁22Aの通過流量式を線形化した式(サーボ弁22Aを給気、サーボ弁22Bを排気の状態としている)は、以下の式(5)で表される。
【0035】
【数5】
【0036】
但し、K、δはサーボ弁の形状や供給圧力で決まる係数、Kseはサーボ弁開度とサーボアンプへの指令とのゲイン、uはサーボアンプ21Aへの位置指令値である。
【0037】
式(5)で新たなサーボアンプ21Aへの入力をu´とし、式(4)、式(5)から以下の式(6)とすれば、
【数6】
式(4)の補償(質量流量の式)をサーボアンプ21Aへの指令値の式に変換できる。この式は、制御演算装置20からサーボアンプ21Aへの指令を入出力としているので、式(6)の演算を制御演算装置20で行い、新しい入力u´をサーボアンプ21Aに出力する。
【0038】
圧力室16Bについては、サーボ弁22Bが排気側と仮定しているので、サーボ弁22Bの通過流量式は、以下の式(7)で表される。
【0039】
【数7】
【0040】
圧力室16B側についても同様にして式(6)に対応する式を導くと、以下の式(8)となる。
【0041】
【数8】
【0042】
式(6)、式(8)のような補償を制御演算装置20で行われる制御演算に入れることによって、スライダ13の位置、すなわちスライダ13内での受圧板17´の位置変化による動特性変化は打ち消され、動特性はスライダ13内での受圧板17´の位置によらずスライダ13の中央にある場合の特性と一致する。
【0043】
以下に、制御演算装置20の作用を順に説明する。
【0044】
(1)位置センサ15によりスライダ13の位置が検出され、位置情報を示す電気信号が得られる。位置センサ15からの位置検出信号は制御演算装置20に入力される。制御演算装置20では以下のような演算(2)~(6)を行う。
【0045】
(2)位置センサ15から入力したスライダ位置xを微分して速度xドット、更に微分して加速度xダブルドットを計算する。
【0046】
(3)スライダ目標位置Xrefとスライダ位置x、速度xドット、加速度xダブルドットより、以下の式(9)に基づいて位置指令値uを計算する。
【0047】
【数9】
【0048】
但し、K、K、Kはそれぞれ適宜に設計された比例ゲイン、速度ゲイン、加速度ゲインである。
【0049】
(4)サーボアンプ21A、21Bへの位置指令値u、uを次のように計算する。
=u
=-u
【0050】
(5)サーボアンプ21Aへの新たな位置指令値u´を式(6)を用いて次の式(10)のように計算する。
【0051】
【数10】
【0052】
ここでは、式(6)の圧力Pをスライダ停止時の平衡圧Pバー(あらかじめ計測されている)、温度θを平衡温度θバー=大気温度θとしている。また、サーボアンプ21Bへの位置指令値u´を式(8)を用いて下記の式(11)のように計算する。
【0053】
【数11】
【0054】
ここでも、式(8)の圧力Pをスライダ停止時の平衡圧Pバー、温度θを平衡温度θバー=大気温度θとしている。
【0055】
なお、式(10)、式(11)はサーボ弁22Aを供給側、サーボ弁22Bを排気側としている。
【0056】
供給側と排気側とが逆の場合は、以下の式(12)、式(13)を用いる。
【0057】
【数12】
【数13】
【0058】
なお、V、Vはスライダ13内の断面積が軸方向に関して一定であり、既知であるので、スライダ13の位置を知ることで算出できる。
【0059】
(6)位置指令値u´をサーボアンプ21Aに、位置指令値u´をサーボアンプ21Bに出力する。
【0060】
(7)サーボアンプ21A、21Bは、位置指令値に従いサーボ弁22A、22Bのスプール位置をそれぞれ制御する。サーボ弁22A、22Bには適切な圧力に調節された気体が供給されており、サーボ弁22A、22Bのスプール位置により通過する圧縮気体流量が変動する。
【0061】
(8)サーボ弁22A、22Bを通過した気体はスライダ13内の2つの圧力室16A、16Bに供給される。そして、圧力室16A、16Bの差圧がスライダ13に作用しスライダ13を駆動させる。
【0062】
(9)(1)から(8)を繰り返しスライダ13を目標位置Xrefに位置制御する。
【0063】
以上の説明で明らかなように、本実施の形態では、2つのサーボ弁により2つの圧力室への圧縮気体流量を制御し、スライダの位置制御を行う複動形気体圧アクチュエータにおいて、有効ストロークを長く取り安定した位置決め制御を行うために、制御方式にスライダ位置変化による動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行っている。より具体的には、本実施の形態では、スライダ13ひいては受圧板17の位置変化による動特性変化の補償(動特性変化の非線形性補償)を、スライダ13ひいては受圧板17の位置変化に起因する各圧力室の圧力変化分及び体積変化分を補償する演算を行うことで実行している。
【0064】
続いて、上記の式(6)、式(8)では、気体の状態変化を断熱変化として導出したが、断熱係数kをポリトロープ指数nに置き換えて導出しても同様の式が得られるので、上記の技術思想は他の状態変化(等温変化など)の場合も適用可能である。以下に、この場合について説明する。
【0065】
圧力室の状態方程式は、気体の状態変化をポリトロープ変化と仮定すると、以下の式(14)で表され、
【数14】
線形化モデルの状態方程式は、以下の式(15)で表される。
【0066】
【数15】
但し、nはポリトロープ指数である。
【0067】
式(15)の線形化モデル式に対して決定されるサーボ弁流量による圧力変化で、容積V、圧力P、温度θが変化し線形化モデルとの間に差異が生じる。線形化モデルにより決定された流量値と式(14)の非線形モデル式による圧力応答が同じになるようにするためには、以下の式(16)、式(17)とすれば良い。
【0068】
【数16】
【数17】
【0069】
ここで、容積変化による影響のみを補償する。圧力、温度変化を無視すると、P=P=Pバー、θ=θ=θであるから、以下の式(18)、式(19)のようになる。
【0070】
【数18】
【数19】
ここで、G、G2はそれぞれ、以下の式(20)、式(21)で表される。
【数20】
【数21】
但し、Se1、Se2はそれぞれ、サーボ弁22A、22Bを通過する流路の有効断面積で、有効断面積で表すと、以下の式(22)、式(23)であり、
【数22】
【数23】
更に、以下の式
e1=Kse
e2=Kse
により、位置指令値(電圧)で表すと、以下の式(24)、式(25)となる。
【0071】
【数24】
【数25】
【0072】
上記の制御演算装置20による演算(5)において、式(10)、式(11)の代わりに式(24)、式(25)を用いればよい。
【0073】
このようにして、気体の状態変化が断熱変化の場合と同様に、スライダ位置変化による動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行うことができる。
【0074】
ところで、スライダ13ひいては受圧板17の位置変化に起因する動特性変化の体積変化分を補償するには、体積変化分が補償された位置指令値を算出する必要がある。その算出には、式(10)~式(14)や式(24)、式(25)から明らかなように、圧力室16A、16Bの体積V、Vが必要である。上述したように、スライダ13内の断面積は軸方向に関して一定であり、既知であるので、体積V、Vはスライダ13の位置を知ることで算出できる。スライダ13の位置は、位置センサ15により検出できる。
【0075】
位置センサ15からの位置検出信号によりスライダ13の位置を特定するには、制御演算装置20の電源投入後に「原点出し」を行う必要がある。原点出しは、ユーザが決めた原点Oを、制御演算装置20が原点として認識する処理である。したがって、受圧板17の位置変化に起因する動特性変化の体積変化分を補償するためには、電源投入後に原点出しを行う必要がある。
【0076】
まず、位置センサ15がアブソリュート式の位置センサである場合について説明する。この場合の原点出しは、制御演算装置20が所定のストレージに記憶されている原点情報をメインメモリに読み出す処理である。原点情報は、原点Oに対応する位置情報であって、スライダ13が原点Oに位置するときにアブソリュート式の位置センサ15が出力する位置検出信号が示す位置情報である。原点情報は、アブソリュート式の位置センサ15を設置するときに特定し、予めストレージに記憶しておけばよい。
【0077】
続いて、位置センサ15がインクリメンタル式の位置センサである場合について説明する。この場合の原点出しは、例えば、スライダ13が原点Oに位置するときにセンサによるカウント数を初期化する処理であってもよいし、スライダ13が原点Oに位置するときのカウント数を特定する処理であってもよい。
【0078】
具体的には例えば、一方側(例えば図1における右側)の可動端を原点Oとし、制御演算装置20は原点出しとして、スライダ13を当該一方側の可動端に向けて移動させ、スライダ13が当該一方側の可動端に達したときにカウント数を初期化してもよい。
【0079】
また例えば、一方側の可動端から所定距離の位置を原点Oとし、制御演算装置20は原点出しとして、スライダ13を、当該一方側の可動端に向けて移動させ、当該一方側の可動端に達したら他方側の可動端に向けて移動させ、スライダ13が当該一方側の可動端から当該所定距離の位置に到達したときにカウント数を初期化してもよい。
【0080】
また例えば、スライダ13が原点Oに位置しているときにスライダ13を検出するように配置されたスライダ検出センサ(不図示)をさらに備え、制御演算装置20は原点出しとして、スライダ13を移動させ、スライダ検出センサがスライダ13を検出したときにカウント数を初期化してもよい。この場合、例えば、原点出しの事前処理としてスライダ13を一方側の可動端に移動させ、原点出しにおいて、当該一方側の可動端から他方側の可動端に移動させてもよい。
【0081】
原点出しのためにスライダ13を移動させるときは、スライダ13の位置がまだ分かっておらず、したがって体積V、Vも分かっていないため、動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行うことができない。したがって制御演算装置20は、原点出しでは、上述の演算(5)を実行せず、演算(6)では位置指令値u´の代わりに位置指令値u(=u)をサーボアンプ21Aに、位置指令値u´の代わりに位置指令値u(=-u)をサーボアンプ21Bに出力する。つまり、原点出しでは動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行わない。
【0082】
ここで、位置指令値uを計算する式(9)において、比例ゲインK、速度ゲインK、加速度ゲインKは、スライダ位置変化による動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行うことを前提として設計されたゲインである。上記のように動特性変化の補償が加えられない原点出しにおいて、動特性変化の補償が加えられることを前提として設計されたゲインを用いると、スライダ13が発振するなどの意図しない動きをするおそれがある。したがって、より好ましくは、原点出しが完了するまでは、式(9)において、比例ゲインK、速度ゲインK、加速度ゲインKの代わりに比例ゲインKp0(<K)、速度ゲインKv0(<K)、加速度ゲインKa0(<K)を用いてもよい。例えば、比例ゲインKp0、速度ゲインKv0、加速度ゲインKa0はそれぞれ、例えばユーザの知見に基づいて決定されればよく、例えば比例ゲインK、速度ゲインK、加速度ゲインKの1/2倍であっても、1/5倍であって、1/10倍であっても、1/100倍であってもよい。この場合、原点出しにおいてスライダ13が意図しない動きをするおそれを低減できる。
【0083】
原点出しの完了後は、動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行う。またその際には、位置指令値uを計算する式(9)において比例ゲインK、速度ゲインK、加速度ゲインKを用いる。つまり、ゲインを、原点出し用のゲインから、動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行うことを前提として設計されたゲインに切り替える。
【0084】
なお、補償を加えていない状態から補償を加えた状態に切り替えるときに、万が一にでもスライダ13が発振するなどの意図しない動きをするのを避けるために、圧力室16A、16Bの体積V、Vが等しくなる中立点Nにスライダ13を移動させてから、その切り替えを実行してもよい。中立点Nは、原点Oからの距離をあらかじめ特定しておけば、原点Oに基づいて特定できる。もちろん、中立点Nが原点となるように原点Oを設定してもよい。
【0085】
以上説明した本実施の形態によれば、スライダの位置についての原点出しが実行されるため、スライダ13の位置ひいては各圧力室16A、16Bの体積V、Vを算出でき、スライダ13の位置による動特性変化の体積変化分が補償された位置指令値を算出できる。
【0086】
また、本実施の形態によれば、原点出しの完了前後で、位置指令値を算出する際のゲインが、原点出し用のゲインと、スライダ位置変化による動特性変化の補償を加えた位置決め制御を行うことを前提として設計されたゲインとの間で切り替えられる。これにより、原点出しにおいては、ゲインを低くすることでスライダ13が意図しない動きをするおそれを低減でき、動特性変化の補償を加えた位置決め制御においては、ゲインを高くすることで制御性を高めることができる。
【0087】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0088】
13 スライダ、 14 ガイド軸、 16 シリンダ空間、 16A 圧力室、 16B 圧力室、 17 受圧板、 22A,22B サーボ弁、 15 位置センサ、 21A,21B サーボアンプ、 20 制御演算装置。
図1