(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】弁部材および搾乳器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/06 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
A61M1/06
(21)【出願番号】P 2020203094
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000112288
【氏名又は名称】ピジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 達之
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04857051(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0038662(US,A1)
【文献】特開2009-228812(JP,A)
【文献】特開2015-152144(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0046234(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0135683(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搾乳器用の弁部材であって、前記搾乳器が負圧状態のとき乳汁を内部通路に一時貯留可能とし、前記搾乳器が常圧状態のとき前記内部通路に貯留されている前記乳汁を流出可能とする前記弁部材であって、
前記搾乳器に取り付けられるキャップであって、前記乳汁の流入側の第1空間と前記乳汁の流出側の第2空間とに仕切る仕切壁と、前記仕切壁において前記第1空間と前記第2空間とを繋ぐ貫通孔とを備える前記キャップと、
前記第2空間に配置される弁であって、前記負圧状態が形成されたとき前記貫通孔を閉じ、前記常圧状態となったとき前記貫通孔を開く前記弁とを備え
、
前記キャップは、外周壁を備え、
前記外周壁における前記第2空間を構成する部分は、第1厚さであって内側に向かって膨らむ肉厚部と、前記肉厚部より薄い第2厚さの肉薄部とを備えると共に、前記仕切壁からの高さが第1高さの高部と、前記仕切壁からの高さが前記第1高さより低い第2高さの低部とを備え、
前記低部には、前記肉厚部が構成され、前記高部には、前記肉薄部が構成される
弁部材。
【請求項2】
搾乳器用の弁部材であって、前記搾乳器が負圧状態のとき乳汁を内部通路に一時貯留可能とし、前記搾乳器が常圧状態のとき前記内部通路に貯留されている前記乳汁を流出可能とする前記弁部材であって、
前記搾乳器に取り付けられるキャップであって、前記乳汁の流入側の第1空間と前記乳汁の流出側の第2空間とに仕切る仕切壁と、前記仕切壁において前記第1空間と前記第2空間とを繋ぐ貫通孔とを備える前記キャップと、
前記第2空間に配置される弁であって、前記負圧状態が形成されたとき前記貫通孔を閉じ、前記常圧状態となったとき前記貫通孔を開く前記弁とを備え、
前記キャップは、外周壁を備え、
前記外周壁における前記第2空間を構成する部分は、第1厚さであって内側に向かって膨らむ肉厚部と、前記肉厚部より薄い第2厚さの肉薄部とを備え、
前記仕切壁は、前記貫通孔を周回方向に複数備え、前記複数の貫通孔より内側の中央領域と、前記複数の貫通孔より外周側の外周領域と、隣り合う前記貫通孔の間において前記中央領域と前記外周領域とを繋ぐ連結部とを備え、
前記外周壁における前記第2空間を構成する部分において、前記肉厚部は、前記連結部と対応する位置に構成され、前記肉薄部は、前記貫通孔に対応する位置に構成されている
弁部材。
【請求項3】
搾乳器用の弁部材であって、前記搾乳器が負圧状態のとき乳汁を内部通路に一時貯留可能とし、前記搾乳器が常圧状態のとき前記内部通路に貯留されている前記乳汁を流出可能とする前記弁部材であって、
前記搾乳器に取り付けられるキャップであって、前記乳汁の流入側の第1空間と前記乳汁の流出側の第2空間とに仕切る仕切壁と、前記仕切壁において前記第1空間と前記第2空間とを繋ぐ貫通孔とを備える前記キャップと、
前記第2空間に配置される弁であって、前記負圧状態が形成されたとき前記貫通孔を閉じ、前記常圧状態となったとき前記貫通孔を開く前記弁とを備え、
前記キャップは、外周壁を備え、
前記外周壁における前記第2空間を構成する部分は、第1厚さであって内側に向かって膨らむ肉厚部と、前記肉厚部より薄い第2厚さの肉薄部とを備え、
前記肉薄部の最薄部から前記肉厚部の最厚部にかけて、および、前記肉厚部の最厚部から前記肉薄部の最薄部にかけて、なだらかな曲面で繋がっている
弁部材。
【請求項4】
前記弁は、前記貫通孔を塞ぐための板状部を備え、
前記板状部の前記仕切壁に対する対向面は、フロスト加工が施されている
請求項1ないし
3のうち何れか1項に記載の弁部材。
【請求項5】
搾乳された乳汁を一時貯留する内部通路と、前記内部通路に一時貯留した前記乳汁を収容容器に流出させるための弁部材と、前記内部通路に負圧状態と常圧状態を交互に形成する負圧発生機構とを備える搾乳器であって、
前記弁部材は、
前記請求項1ないし
4のうち何れか1項に記載の構成を備える
搾乳器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁部材および弁部材を備えた搾乳器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、手動の搾乳器は、乳房にあてがわれるフードと乳汁を貯留するボトルとが取り付けられる本体部と、フードが構成する搾乳口とボトルとを接続する内部通路に負圧を発生させるダイヤフラムと、手動操作によってダイヤフラムを変位させるハンドルとを備えている。搾乳器は、ハンドルが操作されてダイヤフラムが引き上げられるように変位することによって、内部通路の容積が拡大し、内部通路に負圧を発生させる。すると、負圧が発生しているとき、乳首から吐出された乳汁は、内部通路に貯留される。内部通路が負圧状態から常圧状態に戻ると、内部通路の弁が開き、乳汁はボトルに流出する。
【0003】
内部通路の下端には、ボトルに流出させる乳汁を一時的に貯留させるための弁部材が取り付けられている。弁部材は、シリコーンゴムなどの弾性を有する合成樹脂の成形体であって、内部通路の下端に取り付けるための基部と、基部の下端から延びる2枚の面状可動部とを備えている。2枚の面状可動部は、徐々に互の距離が減少するように設けられ、先端の突き合わせ部分は、スリットが構成されており、弾性の作用で自ずと閉じるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような搾乳器における、内部通路に貯留した乳汁をボトルに流出させるための弁部材には、搾乳器の清潔性を維持するためにも洗い易さが求められる。しかし、特許文献1に記載された弁部材は、基部が筒形状であって、弁体の部分が断面三角形形状をしている。したがって、弁部材の内面は、洗浄しにくい形状となっている。
【0006】
なお、手動の搾乳器だけでなく、電動の搾乳器においても清潔性が求められ、電動の搾乳器に用いられる弁部材にも洗浄のし易さが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような課題を解決する弁部材は、搾乳器用の弁部材であって、搾乳器が負圧状態のとき乳汁を内部通路に一時貯留可能とし、前記搾乳器が常圧状態のとき前記内部通路に貯留されている前記乳汁を流出可能とする前記弁部材であって、前記搾乳器に取り付けられるキャップであって、前記乳汁の流入側の第1空間と前記乳汁の流出側の第2空間とに仕切る仕切壁と、前記仕切壁において前記第1空間と前記第2空間とを繋ぐ貫通孔とを備える前記キャップと、前記第2空間に配置される弁であって、前記負圧状態が形成されたとき前記貫通孔を閉じ、前記常圧状態となったとき前記貫通孔を開く前記弁とを備える。
【0008】
上記構成によれば、搾乳時において、内部通路が負圧状態となることによって、第2空間に配置されている弁が第1空間の方向に引き上げられ仕切壁に密着することで、貫通孔を塞ぐ。これにより、乳汁が第1空間側に一時的に貯留される。常圧状態になると、弁が仕切壁から離れ、貫通孔を通じて乳汁が第2空間側へ流出する。このような弁部材は、キャップから弁を取り外すことで、容易に洗浄できる。
【0009】
上記弁部材において、前記弁は、前記貫通孔を塞ぐための板状部と、前記板状部から突出する取付突起とを備え、前記仕切壁は、前記取付突起が係合される取付孔を備える構成としてもよい。上記構成によれば、キャップに対する弁の取外作業や取付作業が、取付孔に対して接続突起を着脱するだけで良く容易である。
【0010】
上記弁部材において、前記キャップは、外周壁を備え、前記外周壁における前記第2空間を構成する部分は、第1厚さであって内側に向かって膨らむ肉厚部と、前記肉厚部より薄い第2厚さの肉薄部とを備える構成としてもよい。上記構成によれば、貫通孔から第2空間へ流出した乳汁は、弁の板状部で受けてから外周壁の方向に流れる。弁の外周端と外周壁の内側との間隔は、肉厚部の部分より肉薄部の部分の方が広くなる。したがって、板状部で受けた乳汁は、肉薄部の部分において収容容器へ流れ易くなる。乳汁の一部は、弁の外周端から肉厚部および肉薄部へ伝わり、外周壁の先端から収容容器へ流れる。このように、乳汁の一部は、整流されて、外周壁における第2空間を構成する部分の先端から収容容器へ流れることで、飛散してボトルに滴下する場合と比べ滴下音を小さくできる。
【0011】
上記弁部材において、前記外周壁における前記第2空間を構成する部分は、前記仕切壁からの高さが第1高さの高部と、前記仕切壁からの高さが前記第1高さより低い第2高さの低部とを備え、前記低部には、前記肉厚部が構成され、前記高部には、前記肉薄部が構成されるようにしてもよい。上記構成によれば、乳汁の一部は、肉厚部の低部から肉薄部の高部へと導かれ、高部の先端から収容容器に対して流れる。
【0012】
上記弁部材において、前記仕切壁は、前記貫通孔を周回方向に複数備え、前記複数の貫通孔より内側の中央領域と、前記複数の貫通孔より外周側の外周領域と、隣り合う前記貫通孔の間において前記中央領域と前記外周領域とを繋ぐ連結部とを備え、前記外周壁における前記第2空間を構成する部分において、前記肉厚部は、前記連結部と対応する位置に構成され、前記肉薄部は、前記貫通孔に対応する位置に構成されているようにしてもよい。
【0013】
上記構成によれば、貫通孔から第2空間へ流出した乳汁を、弁の面で受けてから外周壁の方向に流れるにあたって、特定の方向に偏ることなく全方向に亘って同じように流すことができる。貫通孔に対応する位置に構成された肉薄部の部分は、連結部に対応する位置に構成された肉厚部の部分より広い空間が存在する。したがって、貫通孔から流出した乳汁の一部は、肉薄部の部分において流れ易くなる。そして、乳汁の一部は、弁の外周端から肉厚部および肉薄部へ伝わり、外周壁の先端から収容容器へ流れる。
【0014】
上記弁部材において、前記弁は、弾性を有する合成樹脂材料の成形品としてもよい。上記構成によれば、一時貯留部の負圧状態によって、弁が仕切壁に密着することで貫通孔をしっかりと塞ぐことができる。
【0015】
上記弁部材において、前記弁は、前記貫通孔を塞ぐための板状部を備え、前記板状部の前記仕切壁に対する対向面は、フロスト加工が施された構成としてもよい。上記構成によれば、仕切壁に対する対向面が仕切壁に対して貼り付くことを抑えることができる。
【0016】
以上のような課題を解決する搾乳器は、搾乳された乳汁を一時貯留する内部通路と、前記内部通路に一時貯留した前記乳汁を収容容器に流出させるための弁部材であって、上述のような構成を備えた前記弁部材と、前記内部通路に負圧状態と常圧状態を交互に形成する負圧発生機構とを備える搾乳器である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、弁部材を洗浄し易いものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図7】搾乳器の内部通路が常圧状態のときの断面図。
【
図8】搾乳器の内部通路が常圧状態のときの弁部材の断面図。
【
図9】搾乳器の内部通路が負圧状態のときの弁部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~
図10を参照して、搾乳器について説明する。
図1に示すように、搾乳器1は、使用者が片手で操作可能な大きさを有した手動の搾乳器である。搾乳器1は、本体部11と、ボトル12と、フード13と、ダイヤフラム14(
図2参照)と、ハンドル15と、ハンドルベース16と、引き上げプレート17とを備えている。
【0020】
本体部11は、乳汁を貯留するボトル12が接続されるとともに、乳房にあてがわれるフード13が取り付けられる部材である。本体部11は、軽量でかつ硬質な合成樹脂材料の成形品である。具体的には、本体部11は、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの合成樹脂材料で形成されている。
【0021】
図2に示すように、本体部11は、ボトル取付部21と、フード取付部22と、内部通路23とを備えている。ボトル取付部21は、フード取付部22に対して下側に位置している。ボトル12は、乳汁を貯留する容器であって、ボトル取付部21と接続されるボトル開口部12aを備えている。ボトル開口部12aは、本体部11に代わって人工乳首を取り付けることができる。これにより、ボトル12は、哺乳瓶の容器としても使用可能である。ボトル取付部21は、ボトル開口部12aを閉塞するようにして、ボトル開口部12aを構成する周壁がねじ作用により締め付けられる。
【0022】
フード取付部22は、筒状に形成され、内部通路23に繋がる流入路25を備えている。フード13は、乳房の形状に対応するドーム形状もしくはラッパ形状を有し、乳房にあてがわれる拡径部13aと、拡径部13aの頂部に設けられる筒部13bとを備えている。拡径部13aは、内側に搾乳口13cを有している。拡径部13aにおいて、その開口端である外縁には、弾性パッドなどが装着されて、乳房に対して密着し易くなっている。筒部13bは、フード取付部22に挿入され嵌合される。
【0023】
内部通路23は、本体部11の内部に設けられ、ボトル取付部21の内側に位置する下端26aとダイヤフラム14が取り付けられる取付端24との間を延びてこれらの間を繋いでいる。また、内部通路23は、取付端24とボトル取付部21の内側に位置する下端26aとの間に、流入路25の出口を備えている。流入路25の出口とボトル取付部21の内側に位置する下端26aとの間の通路は、フード13から流入した乳汁を一時的に貯留する一時貯留部26となる。また、取付端24から流入路25に至るまでの通路は、負圧が形成される負圧生成路27となる。負圧生成路27の上端は、ダイヤフラム14が取り付けられる取付端24である。取付端24は、外側に広がったフランジ形状を有し、開口面積を大きくしている。
【0024】
ダイヤフラム14は、内部通路23に負圧を生成する負圧生成部材である。ダイヤフラム14は、可撓性、弾性などを有するシリコーンゴムなどの合成樹脂材料の成形品である。ダイヤフラム14は、取付端24を塞ぐように係止される。一時貯留部26の下端26aと搾乳口13cとは、流入路25および内部通路23によって繋がっている。フード13が乳房にあてがわれ搾乳口13cが塞がれたとき、内部通路23および流入路25は、弁部材41とダイヤフラム14とが塞がれていることで、ほぼ密閉された空間となる。ダイヤフラム14の内側には、ハンドル15と接続するための接続部としての引き上げプレート17が配置される。
【0025】
引き上げプレート17は、ダイヤフラム14より硬い合成樹脂材料の成形体であって、ポリカーボネートなどの弾性をゆする合成樹脂材料の成形品である。引き上げプレート17は、ハンドル15との接続部であり、プレート部31と、接続突起32とを備えている。プレート部31は、ダイヤフラム14の内面に配置される。接続突起32は、プレート部31においてダイヤフラム14と対向する面のほぼ中央部から突設されている。ダイヤフラム14は、中央部に挿通孔14aを備えており、接続突起32は、挿通孔14aを通じてダイヤフラム14の外方に突出する。
【0026】
プレート部31には、挿入部材30が取り付けられる。挿入部材30は、内部通路23の中の負圧生成路27の部分に挿入される挿入部30aを備え、挿入部30aは、内部通路23の一部である負圧生成路27の容積を減容する。挿入部30aの突出形状は、内部通路23における負圧生成路27の内部形状に対応した形状を有している。挿入部30aは、ダイヤフラム14が引き上げられた状態において、流入路25の一時貯留部26への出口を塞いでしまわない程度の長さを有し、負圧発生時、流入路25から一時貯留部26へ乳汁を流入可能としている。
【0027】
ハンドル15は、ハンドルベース16によって本体部11に回動可能に支持されている。ハンドルベース16は、取付端24の筒状形状を有した根本部に回動可能に取り付けられる。ハンドルベース16は、取付部34と、回動支持片35とを備えている。取付部34は、C型形状を有し、取付端24の根本に嵌合されることで、周回方向に回動可能に取り付けられる。回動支持片35は、取付部34から上方に延長して先端部がダイヤフラム14の上方に位置するように設けられた湾曲形状を有した延長片である。回動支持片35の先端部は、ハンドル15を回動支持する回動軸となる支軸部36を備えている。
【0028】
ハンドル15は、ポリカーボネートなどの合成樹脂材料で形成されている。ハンドル15は、リフト部37と、レバー部38とを備えている。リフト部37は、引き上げプレート17を介してダイヤフラム14を引き上げる部分であって、引き上げプレート17の接続突起32が係合される。これにより、ハンドル15は、ダイヤフラム14を引き上げ可能な状態となる。
【0029】
レバー部38は、取っ手としての機能を有し、ボトル12が配置される下方に向かって延びている。レバー部38とリフト部37との境界付近であって、その内側には、支軸部36が係合される軸受部39を備えている。ハンドル15は、軸受部39に対して支軸部36が回動可能な状態で係合されることによって、本体部11に対して回動可能に支持される。ハンドル15は、当該部分を回動支点として往復動する。ハンドル15は、手からの入力によって、回動操作方向である矢印D1方向に回動し、ダイヤフラム14の弾性復帰力によって、復帰方向である矢印D2方向に回動する(
図1参照)。
【0030】
本体部11において、ハンドル15と対向するフード取付部22の下側には、窪み部40が設けられている。窪み部40は、使用者の親指の付け根部が係合される。すなわち、搾乳器1は、レバー部38に使用者の親指以外の指が添えられ、窪み部40に親指の付け根部が係合され、使用者が掌で握るような動作をすることで、ハンドル15を支軸部36を支点とした回動操作が可能となる。
【0031】
内部通路23の下端26a、すなわち一時貯留部26の下端26aは、ボトル12がボトル取付部21に取り付けられている状態において、ボトル開口部12aに臨み、弁部材41が取り付けられている。弁部材41は、ボトル開口部12a内に位置している。弁部材41は、逆流防止弁であって、ボトル12内の乳汁や空気が本体部11の方に逆流することを抑制し、かつ、内部通路23とボトル12の内部空間とを仕切って内部通路23に負圧状態を形成する。ダイヤフラム14、ハンドル15、および、引き上げプレート17は、内部通路23に負圧状態と常圧状態を交互に形成する負圧発生機構を構成する。
【0032】
図3に示すように、弁部材41は、内部通路23の下端26a、すなわち一時貯留部26の下端26aに取り付けられるキャップ42と、キャップ42内に配置される弁43とを備えている。キャップ42および弁43は、シリコーンゴムなどの弾性を有する合成樹脂材料の成形品である。キャップ42は、筒形状を有した外周壁44と、外周壁44の高さ方向において内部空間を2つに仕切る仕切壁45とを備えている。仕切壁45は、一時貯留部側に第1空間46を構成し、ボトル12側に第2空間47を構成する。
【0033】
第1空間46は、内部通路23の下端26aに対して外嵌可能な内径を有している。外周壁44における第2空間47を構成する部分は、第1空間46よりも大きな内径を有しており、外周壁44における第1空間46を構成する部分よりも膨らんだ形状を有している。
図4に示すように、外周壁44における第2空間47を構成する部分は、第1厚さT1の肉厚部48と、第1厚さT1さよりも薄い第2厚さT2を有する肉薄部49とを備えている。肉厚部48と肉薄部49は、第2空間47における内周面に臨み、交互に3つずつ設けられている。肉厚部48は、外周壁44における第2空間47を構成する部分の内周面において、膨出した部分となり、肉薄部49は、凹んだ部分となる。外周壁44における第2空間47を構成する部分の内周面において、肉薄部49の最薄部から肉厚部48の最厚部にかけて、および、肉厚部48の最厚部から肉薄部49の最薄部にかけては、なだらかな曲面で繋がっている。
【0034】
図5に示すように、外周壁44における第2空間47を構成する部分の下端は、第1高さH1の高部51と第1高さH1さよりも低い第2高さH2の低部52とを交互に備えており、高部51および低部52は、交互に3つずつ設けられている。また、高部51の最高部と低部52の最低部とは、なだらかな曲線で繋がっている。外周壁44における第2空間47を構成する部分の先端は、最高部および最低部の2つの高さを有した波形状を有している。高部51は、肉薄部49の位置に設けられ、低部52は、肉厚部48の位置に設けられている。第1高さH1は、仕切壁45の第2空間47を区画する面から高部51における最高部までの高さであり、第2高さH2は、仕切壁45の第2空間47を区画する面から高部51における最低部までの高さである。
【0035】
高部51における第2空間47を区画する内面は、低部52の内面より面積が広い。そこで、高部51の内面には、弁部材41の一時貯留部26の下端26aへ第1空間46を外嵌させるための取付方向、および、弁43を仕切壁45に取り付けるための取付方向を示す取付方向表示部50が形成されている。一例として、取付方向表示部50は、矢印によって構成され、突状の線によって設けられている。
【0036】
仕切壁45は、中心と外周壁44の内周面との間に、複数の貫通孔53を備えている。ここでは、貫通孔53は、3つであり、等間隔に設けられている。各貫通孔53は、円弧形状を有した長孔である。仕切壁45は、第2空間47側から見て、貫通孔53の内側に中央領域54と、貫通孔53と外周壁44の内周面との間の領域である外周領域55と、互いに隣接する貫通孔53の間に位置し中央領域54と外周領域55とを繋ぐ連結部56とを備えている。そして、低部52の最低部および肉厚部48の最厚部は、連結部56に対応する位置に設けられ、高部51の最高部および肉薄部49の最薄部は、貫通孔53に対応する位置に設けられている。なお、高部51の最高部および肉薄部49の最薄部は、貫通孔53の長手方向の両端と中心を繋ぐ半径方向に延びる線の間に位置する。また、中央領域54の中央、すなわち仕切壁45の中心には、弁43を取り付けるための取付孔59を備えている。
【0037】
図6に示すように、弁43は、貫通孔53を塞ぐための板状部57と、板状部57から突出する取付突起58とを備えている。板状部57は、仕切壁45に対向する第1面57aと、第2空間47に臨む第2面57bとを備えている。板状部57は、外周壁44における第2空間47を構成する部分に配置可能な大きさを有し、また、ここでは円形板形状を有している。板状部57は、その外周端と外周壁44における第2空間47を構成する部分の内面との間に若干の隙間57c(
図8参照)が形成される大きさである。この隙間57cは、乳汁が流れる隙間である。
【0038】
第1面57aは、平坦な面形状を有し、第2面57bは、貫通孔53と対応する位置に板状部57の変形を抑えるための環状突部60を備えている。第1面57aは、仕切壁45に対する対向面である。第1面57aは、フロスト加工が施されており、表面に微細凹凸が形成されている。第1面57aは、フロスト加工によって、仕切壁45に対する貼り付きを抑える。
【0039】
第1面57aの中央は、取付突起58を備えている。取付突起58は、先端に膨出部58aを備え、膨出部58aの根元に係止溝58bを備えている。取付突起58は、第2空間47側から第1空間46側に圧入され、取付孔59の周縁が係止溝58bに係止される。
【0040】
板状部57は、第2空間47において、仕切壁45に対して近接離間するように配置されている。弁43がキャップ42に取り付けられると、第2空間47において、板状部57の外周端と外周壁44における第2空間47を構成する部分の内面との間は、肉厚部48の位置よりも肉薄部49の位置に広い空間が構成される。すなわち、板状部57の外周端と外周壁44における第2空間47を構成する部分の内面との間は、連結部56に対応する位置よりも貫通孔53に対応する位置に広い空間が構成される。
【0041】
以上のように構成された搾乳器1の作用について説明する。
分解状態にある搾乳器1は、次のように組み立てられる。
まず、弁部材41は、キャップ42と弁43とが分離した状態にあり、組み立てるには、取付方向表示部50を見ながらキャップ42における第2空間47に対して弁43が取付突起58を仕切壁45に側にして挿入される。すなわち、ユーザが誤って第1空間46にキャップ42を挿入してしまうことを防ぐことができる。そして、取付突起58は取付孔59に挿入され、係止溝58bに取付孔59の周縁が係止される。これにより、弁部材41は、キャップ42と弁43とが一体化される。この後、キャップ42の第1空間46は、一時貯留部26の下端26aに外嵌される。キャップ42は、弾性を有する合成樹脂材料の成形品であるので、下端26aに対して密着される。この際、ユーザは、取付方向表示部50を確認することで、弁部材41の下端26aへの取付方向を容易に確認できる。
【0042】
また、引き上げプレート17と挿入部材30とが一体化され、挿入部30aが負圧生成路27に挿入される。その後、ダイヤフラム14は、挿通孔14aに接続突起32が挿通され、取付端24に取り付けられる。また、本体部11には、ハンドルベース16が取り付けられる。そして、接続突起32は、ハンドル15のリフト部37に係合される。これと共に、ハンドルベース16の支軸部36は、ハンドル15の軸受部39に係合される。さらに、本体部11には、ボトル取付部21に対してボトル12が取り付けられ、フード取付部22に対してフード13が取り付けられる。
【0043】
図7に示すように、搾乳を行うとき、搾乳器1は、使用者よって持たれ、フード13が搾乳口13cを塞ぐように使用者の乳房にあてがわれる。これにより、内部通路23は、ほぼ密閉された空間が構成される。
【0044】
ハンドル15は、レバー部38がボトル12の側面に近接する矢印D1方向に手動で回動操作されると、引き上げプレート17を介してダイヤフラム14を引き上げる。このとき、挿入部30aも負圧生成路27内を上昇する。すると、内部通路23は、負圧状態となり、搾乳された乳汁が流入路25から一時貯留部26に流入する。負圧状態のとき、弁部材41は、一時貯留部26の底部を閉じているので、流入路25から流入した乳汁は、一時貯留部26に貯留される。
【0045】
具体的には、ハンドル15が矢印D1方向に回動されていないとき、内部通路23は常圧状態にあり、
図8に示すように、弁部材41における板状部57は、第2空間47において、仕切壁45に対して近接離間するように配置されている。すなわち、仕切壁45と第1面57aの間には隙間61が形成される状態である。
【0046】
ハンドル15が矢印D1方向に回動されて内部通路23が負圧状態になると、
図9に示すように、板状部57は、貫通孔53の部分に第2空間47から第1空間46の方向に入り込むように撓む。これにより、貫通孔53は、確実に閉塞される。この際、弁43は、貫通孔53に対応する位置に環状突部60を備え強度が高められているので、第1空間46の方向に撓み過ぎることが抑えられる。そして、一時貯留部26には、流入路25から流入した乳汁が貯留される。仕切壁45および板状部57は、共に弾性を有する合成樹脂材料の成形品であるので、内部通路23が負圧状態になると、密着される。したがって、一時貯留部26に貯留されている乳汁は、貫通孔53から漏れにくい状態となる。
【0047】
使用者が把持力を緩めると、ダイヤフラム14の弾性復帰する作用によって、ハンドル15は、矢印D2方向に回動し、内部通路23は、常圧に戻る。これにより、
図8に示すように、弁部材41において、弁43は、仕切壁45に対して緩み、再び、仕切壁45に対して近接離間するように配置された状態となる。すると、
図10に示すように、一時貯留部26に貯留されている乳汁は、貫通孔53を通じて流下し、板状部57で受けられ、仕切壁45と板状部57の第1面57aとの間の隙間61に流れ込み、さらに、第1面57aの外周方向に流れる(矢印D3方向)。
【0048】
ここで、板状部57の外周端と外周壁44における第2空間47を構成する部分の内面との間の隙間57cは、肉厚部48の位置よりも肉薄部49の位置に広い空間が構成される。すなわち、板状部57の外周端と外周壁44における第2空間47を構成する部分の内面との間の隙間57cは、連結部56に対応する位置よりも貫通孔53に対応する位置に広い空間が構成される。したがって、貫通孔53から流下し板状部57に受けられている乳汁の一部は、貫通孔53の位置において、肉薄部49の方向に円滑に流れる。また、乳汁の残りは、肉厚部48の方向に流れる。そして、肉薄部49を伝う乳汁は、高部51の先端部に向かって流れる。また、肉厚部48を伝う乳汁は、肉厚部48から肉薄部49の方向に流れる。そして、多くの乳汁は、肉薄部49が位置する高部51の先端部からボトル12へ滴下する。なお、一部の乳汁は、板状部57の外周端から直接ボトル12に滴下する。
【0049】
搾乳は、ハンドル15を繰り返し往復動させることにより行われ、これに合わせ、挿入部30aも負圧生成路27内を往復動する。これにより、内部通路23には、常圧状態と負圧状態とが繰り返し形成されることになり、順次、一時貯留部26に乳汁が貯留され、一時貯留部26に貯留された乳汁がボトル12に滴下される。
【0050】
使用後、搾乳器1は、洗浄のため、
図2のように分解される。すなわち、本体部11からは、ボトル12、フード13、ハンドル15、ハンドルベース16、ダイヤフラム14、および、挿入部30aが付設された引き上げプレート17が取り外される。そして、本体部11からは、弁部材41も取り外される。弁部材41は、キャップ42と弁43とが分離される。かくして、搾乳器1は、容易に組立および分解を容易に行うことができ、指やブラシを使って容易に洗浄することができる。弁部材41もキャップ42と弁43とを分離することで、指やブラシを使って各部材を容易に洗浄することができる。キャップ42は、小さな貫通孔や深い孔などの細かな窪みもなく、第1空間46、第2空間47および貫通孔53を容易に洗浄することができる。弁43も細かな窪みもなく容易に洗浄することができる。洗浄後、搾乳器1は、上述のように組み立てられる。
【0051】
以上のような搾乳器1によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)弁部材41は、キャップ42から弁43を取り外すことで、容易に洗浄できる。したがって、搾乳器1を清潔に維持できる。
【0052】
(2)キャップ42に対する弁43の取外作業や取付作業が、取付孔59に対して取付突起58を着脱するだけで良く容易である。
(3)貫通孔53から第2空間47へ流出した乳汁は、弁部材41の板状部57で受けてから外周壁44の方向に流れる。貫通孔53と外周壁44の内側の空間は、肉厚部48の部分より肉薄部49の部分の方が広くなる。したがって、貫通孔53から流出し板状部57で受けた乳汁は、肉薄部49の部分において外周壁44へ流れ易くなる。乳汁の一部は、弁43の外周端から肉厚部48および肉薄部49へ伝わり、外周壁44の先端からボトル12へ流れる。このように、乳汁の一部は、整流されて、外周壁44における第2空間47を構成する部分の先端からボトル12へ流れることで、飛散してボトルに滴下する場合と比べ滴下音を小さくできる。
【0053】
(4)貫通孔53から流出し板状部57で受け外周壁44へ流れた乳汁の一部は、肉厚部48の低部52から肉薄部49の高部51へと導かれ、高部51の先端部からボトル12に対して流れ易くなる。高部51から滴下される乳汁が多くなるほど、ボトル12内の液面までの距離が短くなり滴下音を小さくできる。
【0054】
(5)外周壁44は、第2空間47を構成する部分を、第1高さH1に揃えて高部51の高さに揃えた場合より、第2高さH2の低部52を設けることで、弾性を有する合成樹脂材料の使用量を削減できる。
【0055】
(6)貫通孔53に対応する位置に構成された肉薄部49の部分は、連結部56に対応する位置に構成された肉厚部48の部分より広い空間が存在する。したがって、貫通孔53から流出した乳汁の一部は、肉薄部49の部分において流れ易くなる。そして、乳汁の一部は、弁43の外周端から肉厚部48および肉薄部49へ伝わり、多くの乳汁は、外周壁44の先端部からボトル12へ流れる。
【0056】
(7)一時貯留部26の負圧状態によって、弁43が仕切壁45に密着することで貫通孔53をしっかりと塞ぐことができる。
(8)仕切壁45との対向面である第1面57aは、フロスト加工が施されることで、仕切壁45に対する貼り付きを抑えることができる。
【0057】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・板状部57の第1面57aにおいて、フロスト加工は、第1面57aの仕切壁45に対する貼り付きが抑えられれば良いことから、取付突起58の表面には必ずしも設けられている必要はないし、少なくとも連結部56と対向する位置に設けられていればよい。
【0058】
・弁部材41において、弁43は、弾性を有する合成樹脂材料の成形品であれば、キャップ42と同じ弾性を有する合成樹脂材料に限定されるものではない。また、キャップ42は、弁43に対して剛性を有する合成樹脂材料の成形品であってもよい。弁43は、貫通孔53を塞ぐことができればよいからである。
【0059】
・貫通孔53の数は、1つでもよいし、2つでもよいし、4つ以上であってもよい。一例として、多数の真円または楕円形状の貫通孔53が取付孔59の周囲に散点状に設けられていてもよい。また、貫通孔の形状も、円弧形状を有した長孔に限定されるものではない。貫通孔53は、一例として放射方向に延びる直線形状の長孔であってもよい。
【0060】
・貫通孔53の位置に肉厚部48を設けて連結部56の位置に肉薄部49を設けるようにしてもよい。
・外周壁44における第2空間47を構成する部分において、高部51と低部52とを備えていなくてもよい。一例として、仕切壁からの高さを高部51の高さである第1高さH1に揃えてもよい。これにより、滴下音を小さくできる。これとは逆に、低部52の第2高さH2に揃えてもよい。これにより、使用する合成樹脂材料を少なくできる。外周壁44における第2空間47を構成する部分の高さを揃えることで、外周壁44の構造を簡素化できる。
【0061】
・外周壁44は、肉厚部48と肉薄部49とを備えず、同じ厚さで構成されていてもよい。例えば、外周壁44としての強度を確保できるのであれば、肉薄部49の第2厚さT2で揃えてもよい。これにより、使用する合成樹脂材料を少なくできる。これとは逆に、肉厚部48の第1厚さT1で揃えてもよい。
【0062】
・キャップ42と弁43の取付構造は、上述の例に限定されるものではない。一例として、弁43の中心に取付孔を設け、仕切壁45の第2空間47側の中心に取付突起58を設けるようにしてもよい。また、仕切壁45の第2空間47側の面であって、その外周部分に複数の取付突起58および取付孔59の一方を等間隔に設け、相手側に、取付突起58および取付孔59の他方に設けてもよい。
【0063】
・引き上げプレート17と挿入部材30とは、部品点数削減のため一体成形された1部品で構成してもよい。また、挿入部材30を省略してもよい。また、引き上げプレート17を省略し、ハンドル15のリフト部37と接続する接続部としての接続突起32をダイヤフラム14の外面に設けるようにしてもよい。
【0064】
・ハンドル15は、ハンドルベース16を介してではなく、直接、本体部11に回動支持されてもよい。この場合、回動支持片35や支軸部36が本体部11と一体的に設けられる。
【0065】
・ボトル取付部21に対してボトル12は着脱可能でなく、一体であってもよい。また、フード取付部22に対してフード13は着脱可能でなく、一体であってもよい。収容容器としてのボトル12は、可撓性を有する袋体で構成されていてもよい。
【0066】
・搾乳器1は、以上のような手動のもの以外に、電動の搾乳器にも使用することができる。
【符号の説明】
【0067】
11…本体部
14…ダイヤフラム
15…ハンドル
23…内部通路
25…流入路
26…一時貯留部
26a…下端
27…負圧生成路
41…弁部材
42…キャップ
43…弁
44…外周壁
45…仕切壁
46…第1空間
47…第2空間
48…肉厚部
49…肉薄部
51…高部
52…低部
53…貫通孔