(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20240819BHJP
F04C 18/16 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
F04C29/02 311K
F04C29/02 351D
F04C18/16 A
(21)【出願番号】P 2020210403
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 直幸
(72)【発明者】
【氏名】永井 翔
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-004306(JP,A)
【文献】特開昭56-009694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/02
F04C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に形成されたロータ室内に噛み合い状態で回転可能に収容されたオス,メス一対のスクリュロータを備え,被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮する油冷式スクリュ圧縮機において,
前記ケーシング内に,
前記スクリュロータのロータ軸が挿入される軸孔と,
前記軸孔内に形成された軸受室内に収容されて,前記ロータ軸を支承する軸受と,
前記軸受と前記ロータ室間の前記ロータ軸の外周面と前記軸孔の内周面間の隙間に潤滑油を給油する給油流路を設け,
前記ロータ軸の外周面と前記軸孔の内周面間の前記隙間とは別に,
前記軸受の前記ロータ室側の側面に向かって開口し,かつ,前記給油流路と前記軸受室間を連通する給油孔を設けたことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【請求項2】
前記軸受と前記ロータ室間で前記ロータ軸に外嵌されて,該位置における前記ロータ軸の外径を拡大する円筒状のスペーサを設け,該スペーサの外周面を前記ロータ軸の前記外周面としたことを特徴とする請求項1記載の油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【請求項3】
前記給油孔を,前記軸受室と前記給油流路間を直接連通する位置で前記ケーシング内に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【請求項4】
前記スペーサの外周面に周方向に連続する環状溝を形成すると共に,前記給油流路を前記環状溝と連通し,
前記給油孔を,前記軸受室と前記環状溝を連通する位置で前記スペーサに設けて,前記環状溝を介して前記軸受室と前記給油流路を連通させたことを特徴とする請求項2記載の油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【請求項5】
前記給油孔を,前記軸受室に向けて前記潤滑油を噴霧するノズル形状に形成したことを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【請求項6】
前記給油孔を,前記軸受室と前記給油流路を連通する連通孔と,該連通孔内に取り付けたオリフィスの組合せにより形成したことを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造に関し,より詳細には,油冷式スクリュ圧縮機のスクリュロータに設けられたロータ軸を支承する軸受に対し潤滑油を給油する軸受給油構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油冷式スクリュ圧縮機100は,ケーシング内に形成されたロータ室111内にオス,メス一対のスクリュロータ140,150を噛み合い回転可能に収容し,前記一対のスクリュロータ140,150の噛み合い回転により被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮して気液混合流体として吐出するもので,このような油冷式スクリュ圧縮機100を圧縮機本体と成すと共にエンジンやモータなどの駆動源,その他の必要な機器と組み合わせて構成された圧縮機ユニットの構成例を
図8に示す。
【0003】
この
図8に示す圧縮機ユニットは,前述した油冷式のスクリュ圧縮機から成る圧縮機本体100と,この圧縮機本体100を駆動するエンジンやモータなどの駆動源210,前記圧縮機本体100より吐出された圧縮気体を貯留するレシーバタンク220を備えている。
【0004】
このレシーバタンク220は,圧縮機本体100が潤滑油との気液混合流体として吐出した圧縮気体を導入して圧縮気体と潤滑油とに気液分離できるように構成されており,潤滑油が分離された圧縮気体は,逆止弁221を介して図示せざる空気作業機等が接続された消費側に対して供給することができるように構成されている。
【0005】
一方,圧縮気体より分離された潤滑油は,レシーバタンク220内に回収されると共に,回収された潤滑油はレシーバタンク220内の圧力によって押し出され,オイルフィルタ222,オイルクーラ223を備える給油配管224を介して,再度,圧縮機本体100に給油することができるように構成されている。
【0006】
このようにして圧縮機本体100に給油された潤滑油は,圧縮作用空間内に給油される他,圧縮機本体100のスクリュロータ140,150に設けたロータ軸141,142,151,152を支承する軸受160,170や,軸受170とロータ室111間に設けられた軸封部134,圧縮機本体100が増速装置180などの歯車機構を備える場合には歯車機構等,潤滑油の給油を必要とする部分に対し供給することができるように構成されている。
【0007】
一例として後掲の特許文献1に記載の油冷式スクリュ圧縮機では,
図9(A)に示すように,レシーバタンクに接続された給油配管224を,吐出側ケーシング130内に設けた軸封部134に連通する給油流路193を介して圧縮機本体100に給油している。
【0008】
この油冷式スクリュ圧縮機100では,
図10に示すように,吐出側ケーシング130内に設けられた軸封部134には,ロータ軸142のうち軸受170とロータ室111間の位置に環状溝137が設けられており,前述の給油流路193をこの環状溝137と連通させることで,ロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’に潤滑油を導入すると共に,この潤滑油を軸受170側に漏出させることで,ロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’を封止すると共に,漏出させた潤滑油によって軸受170を潤滑することができるように構成されている。
【0009】
そして,軸受170を潤滑した潤滑油は,軸受170を通過した後,軸受170に対し機外側に配置された潤滑油回収室135に流入すると共に,
図9(A),(B)に示すように,この潤滑油回収室135に連通する歯車室給油流路196を介して歯車室123内に導入され,歯車室123内に収容されている増速装置180や,歯車室123と連通する軸受室に収容された軸受160,160を潤滑し,その後,歯車室123と連通した連通路126〔
図9(B)参照〕を介して圧縮作用空間に導入できるように構成されている(特許文献1の請求項1,段落[0038]-[0042],
図1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上で説明したように,従来の油冷式スクリュ圧縮機100では,吐出側の軸受170に対する給油を,ロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’を介して行っている。
【0012】
しかし,高圧仕様の油冷式スクリュ圧縮機100では,高圧の圧縮気体を得るためにロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’を可及的に狭めて圧縮気体の漏出を防止する必要があるが,このようにして隙間Δ’を狭めれば,軸受170に対して供給される潤滑油量は減少することになる。
【0013】
一方,高圧仕様の油冷式スクリュ圧縮機100では,軸受170にかかる負荷も大きくなるため,軸受170に対し十分な量の給油を行うことが必要で,ロータ軸142外周面と軸孔131内周面間の隙間Δ’の減少による圧縮気体の漏出防止と,軸受170に対する給油量の確保という,相反する要求が同時に求められている。
【0014】
また,軸受170に対する給油は,給油量が多すぎると軸受170が潤滑油を攪拌することに伴い生じる動力ロスが大きくなることから,油冷式スクリュ圧縮機100の仕様などに応じて最適な給油量とすることが好ましい。
【0015】
しかし,
図8を参照して説明したように,油冷式スクリュ圧縮機100に対する潤滑油の供給は,レシーバタンク220等に回収された潤滑油を,レシーバタンク220内の圧力によって圧送して油冷式スクリュ圧縮機100の各部に給油する等,圧縮機本体100の吐出側圧力を利用して給油を行う構造となっているため,高圧仕様の油冷式スクリュ圧縮機100の軸受170に対し適切な量の給油を行うことができるようにロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’を調整すると,低圧設定の油冷式スクリュ圧縮機100では潤滑油の送出圧力が低下するために軸受170に対する給油量が不足して軸受170の寿命を縮めるといった問題が生じ得る。
【0016】
その結果,油冷式スクリュ圧縮機100の圧力設定等に応じて,軸受170に対する給油構造についてもそれぞれ専用の設計とする必要がある等,部品の共用によるコスト減等が図り難いものとなっている。
【0017】
そこで,本発明は上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,軸封部のシール性に影響を与えない,又は,シール性を向上させることができる構成でありながら,軸受に対する必要な給油量を確保することができ,しかも既存の装置構成をそのまま利用しつつ,僅かな構造変更で,油冷式スクリュ圧縮機の仕様毎に最適な量で軸受に対する給油を行うことができ,高圧仕様と低圧仕様の油冷式スクリュ圧縮機間で,ケーシング等の部品の共用化を可能とする油冷式スクリュ圧縮機の軸受給油構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0019】
上記目的を達成するために,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1の軸受給油構造は,
ケーシング2内に形成されたロータ室11内に噛み合い状態で回転可能に収容されたオス,メス一対のスクリュロータ40,50を備え,被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮する油冷式スクリュ圧縮機1において,
前記ケーシング2内に,
前記スクリュロータ40,50のロータ軸42,52が挿入される軸孔31と,
前記軸孔31内に形成された軸受室32内に収容されて,前記ロータ軸42,52を支承する軸受70,70と,
前記軸受70,70と前記ロータ室11間の前記ロータ軸42,52(図示の例では該位置のロータ軸42,52に外嵌されたスペーサ36)の外周面と前記軸孔31の内周面間の隙間Δに潤滑油を給油する給油流路93を設け,
前記ロータ軸42,52(図示の例ではスペーサ36)の外周面と前記軸孔31の内周面間の前記隙間Δとは別に,前記軸受70の前記ロータ室11側の側面に向かって開口し,かつ,前記給油流路93と前記軸受室32間を連通する給油孔95を設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0020】
前記軸受70,70と前記ロータ室11間の前記ロータ軸42,52に外嵌されて,該位置における前記ロータ軸42,52の外径を拡大する円筒状のスペーサ36を設け,該スペーサ36の外周面を前記ロータ軸42,52の前記外周面とするものとしても良い(請求項2)。
【0021】
前記給油孔95は,前記軸受室32と前記給油流路93間を直接連通する位置で前記ケーシング2(図示の例ではケーシング2の吐出側ケーシング30)内に設けることができる(請求項3,
図3~5参照)。
【0022】
また,前述のスペーサ36を設けた構成では,前記スペーサ36の外周面に周方向に連続する環状溝37を形成すると共に,前記給油流路93を前記環状溝37と連通し,
前記給油孔95を,前記軸受室32と前記環状溝37を連通する位置で前記スペーサ36に設けて,前記環状溝37を介して前記軸受室32と前記給油流路93を連通させるものとしても良い(請求項4,
図6参照)。
【0023】
更に,前記給油孔95は,前記軸受室32に向けて前記潤滑油を噴霧するノズル形状に形成するものとしても良い(請求項5,
図4参照)。
【0024】
また,前記給油孔95は,前記軸受室32と前記給油流路93を連通する連通孔95aと,該連通孔95a内に取り付けたオリフィス95bの組合せにより形成するものとしても良い(請求項6,
図5参照)。
【発明の効果】
【0025】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の軸受給油構造を備えた油冷式スクリュ圧縮機1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0026】
ロータ軸42,52の外周面(図示の例ではロータ軸42,52の外径を拡張するスペーサ36の外周面)と軸孔31の内周面間の隙間Δとは別に,前記軸受室31と前記給油流路93間を連通する給油孔95を設けたことで,給油孔95を介して給油流路93の潤滑油を軸受70に給油することができるため,ロータ軸42,52(スペーサ36)の外周面と軸孔31の内周面間の隙間Δを可及的に狭めてロータ室11からの圧縮気体の漏出を抑制した場合であっても,軸受70に対する十分な給油量の確保が可能となった。
【0027】
しかも,既存の装置構成をそのままに,形成する給油孔95の孔径の調整によって,高圧仕様から低圧仕様に至るまで,各種仕様の油冷式スクリュ圧縮機1に適合した給油量で軸受70を潤滑することができた。
【0028】
前記給油孔95を,前記軸受室32と前記給油流路93間を直接連通する位置で前記ケーシング2(吐出側ケーシング30)内に設けた構成では,該位置のケーシングに穴加工を施すことによって油冷式スクリュ圧縮機の仕様に適合したサイズのキリ孔を設けるだけで前述した給油孔95を簡単に形成することができた。
【0029】
また,前記軸受70,70と前記ロータ室11間のロータ軸42,52に円筒状のスペーサ36を外嵌し,前記給油孔95を,前記軸受室32と前記スペーサ36の外周面に設けた環状溝37間を連通する位置で前記スペーサ36に設けた構成では,予め各種の油冷式スクリュ圧縮機1の仕様に対応したサイズの給油孔95を形成したスペーサ36を取り付けるだけで,共通のケーシングを使用しつつ,各種の油冷式スクリュ圧縮機1の仕様に対応した量で軸受に対する給油を行うことができた。
【0030】
特に,このように給油孔95をスペーサ36に設けた環状溝37と連通させる構成では,
図7に示すように給油孔95を周方向に所定間隔で複数設けることもでき,軸受70の全体に均一に潤滑油を給油できるようにすることも可能である。
【0031】
前記給油孔95を,前記軸受室32に向けて潤滑油を噴霧するノズル形状に形成した構成(
図4参照)では,軸受70に対し潤滑油を噴霧することで,軸受70の冷却効果を高めることができ,給油量を減少させることが可能となり,軸受70が攪拌する潤滑油量の減少によって動力ロスを減らすことができた。
【0032】
前記給油孔95を,前記軸受室32と前記給油流路93を連通する連通孔95aと,該連通孔95a内に取り付けたオリフィス95bの組合せにより形成した構成(
図5参照)では,オリフィス95bのみを交換するだけで油冷式スクリュ圧縮機1の仕様に対応した給油量で軸受70を潤滑することが可能となり,油冷式スクリュ圧縮機1の仕様に拘わらず,共通のケーシングを使用可能であり,部品の共用により製造コストを低下することができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の軸受給油構造を備えた油冷式スクリュ圧縮機の縮尺断面平面図。
【
図2】本発明の軸受給油構造を備えた油冷式スクリュ圧縮機の縮尺断面正面図。
【
図3】軸受給油構造部分の拡大図(
図2の吐出側端部の拡大図)。
【
図4】軸受給油構造部分の変更例を示す拡大図(
図2の吐出側端部の拡大図)。
【
図5】軸受給油構造部分の別の変更例を示す拡大図(
図2の吐出側端部の拡大図)。
【
図6】軸受給油構造部分の更に別の変更例を示す拡大図。
【
図7】
図6のVII-VII線方向より見たスペーサ36の軸受側に配置される部分36aの側面図。
【
図8】油冷式スクリュ圧縮機を圧縮機本体とした圧縮機ユニットの説明図。
【
図9】従来の油冷式スクリュ圧縮機の(A)は縮尺断面平面図,(B)は縮尺断面正面図(特許文献1の
図1,
図3に対応)。
【
図10】
図9(A)中に破線の円で囲んだ部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら説明する。
【0035】
〔全体構成〕
図1及び
図2中の符号1は,本発明の軸受給油構造が適用される油冷式スクリュ圧縮機であり,この油冷式スクリュ圧縮機1は,外殻を成すケーシング2を備えている。
【0036】
このケーシング2は,ロータケーシング10と,このロータケーシング10の吸入側端部に取り付けられあるいはこれと一体に形成される吸入側ケーシング20と,ロータケーシング10の吐出側端部に取り付けられる吐出側ケーシング30を備えており,このうちのロータケーシング10内に形成されたロータ室11内にオス・メス一対のスクリュロータ40,50が噛み合い回転可能に収容されている。
【0037】
このロータケーシング10の吸入側端部に取り付けた吸入側ケーシング20にはスクリュロータ40,50の吸入側ロータ軸41,51を収容する軸孔が形成され,この軸孔内に形成された軸受室21,22内に軸受60,60を収容し,この軸受60,60にオス,メスの各スクリュロータ40,50の吸入側ロータ軸41,51が支承されている。
【0038】
また,この吸入側ケーシング20には,ギヤ室23が形成されており,このギヤ室23内には,オス,メスいずれかのスクリュロータ40,50に対して,図示せざるモータやエンジン等の駆動源からの回転駆動力を増速して入力する増速装置80が収容されている。
【0039】
この増速装置80は,一例としていずれか一方のスクリュロータ40又は50の吸入側ロータ軸(本実施形態にあってはオスロータ2の吸入側ロータ軸41)に固着された従動歯車81と,この従動歯車81に対して回転駆動力を伝達する駆動歯車82,及び前記駆動歯車82に駆動源で発生した回転駆動力を入力する駆動軸83を備え,前記駆動歯車82に対して従動歯車81を小径とすることにより,駆動軸83を介して入力された回転駆動力が増速されてオスロータ40の吸入側ロータ軸41に伝達され,スクリュロータ40,50を増速回転させることができるように構成されている。
【0040】
なお,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1において,上記増速装置80及び上記ギヤ室23は必須の構成ではなく,油冷式スクリュ圧縮機1の外部に増速装置を設けたり,駆動源からの回転駆動力を増速することなくそのままの回転速度で入力したりする場合など,増速装置80及びギヤ室23を設けない場合には,オス・メスいずれか一方の吸入側ロータ軸,例えばオスロータ40の吸入側ロータ軸41を,ケーシングを貫通させて機外に突設し,これを駆動軸としてエンジンやモータからの回転駆動力を入力するように構成しても良い。
【0041】
ロータケーシング10の吐出側端部は,オスロータ40及びメスロータ50の吐出側ロータ軸42,52を収容する軸孔31,31を備えた吐出側ケーシング30で覆われており,スクリュロータ40,50の吐出側ロータ軸42,52を,前記吐出側ケーシング30の軸孔31,31内に形成された軸受室32,32内に収容された軸受70で支承している。
【0042】
なお,前述の吸入側ケーシング20には吸気口24が形成されており(
図2参照),この吸気口24を介して導入された被圧縮気体が,オス・メス一対のスクリュロータ40,50とロータ室11の内壁によって画成される圧縮作用空間内に導入されて潤滑油と共に圧縮され,吐出側ケーシング30に設けられた吐出口33(
図2参照)を介して機外に吐出されるように構成されている。
【0043】
この油冷式スクリュ圧縮機1のロータケーシング10の底部には,図示せざるレシーバタンクからの給油配管が連通される給油口12(
図2参照)が設けられていると共に,この給油口12に連通して,ケーシングの肉厚内には,油冷式スクリュ圧縮機1内の給油を必要とする各部に対して潤滑油を給油する給油流路91,92,93が形成されている。
【0044】
図示の実施形態では,
図2に示すように,給油口12より3方向に分岐された給油流路91,92,93を設け,そのうちの1つ91を吸気閉込後の圧縮作用空間に連通して,圧縮作用空間に潤滑,冷却,及び密封のための潤滑油を給油することができるように構成している。
【0045】
また,残りの給油流路の一方92は,ロータケーシング10の肉厚内を吸入側に向かって延びて吸入側ケーシング20内に至り,この吸入側ケーシング20内において増速装置80が収容されたギヤ室23内に潤滑油を噴射する給油ノズル25に連通されており,これによりギヤ室23内に収容された増速装置80や,ギヤ室23に連通して設けられた軸受室21,22内に収容された軸受60,60等を潤滑することができるように構成されている。
【0046】
このギヤ室23は,図示せざる連通路によってロータ室11と連通しており,ギヤ室23内に所定の油面高さ以上に溜まった潤滑油は,この連通孔(図示せず)を介してロータ室11内に導入されて被圧縮気体と共に圧縮されるように構成されている。
【0047】
更に,給油流路の残りの1つ93は,
図2に示すようにロータケーシング10の肉厚内を吐出側に延びた後,吐出側ケーシング30内に至りロータ軸42の軸線と直交する方向に向きを変えて,吐出側の軸封部34,34と,この軸封部34,34に隣接して設けられた軸受70,70に対し潤滑油を供給することができるように構成されている。
【0048】
この吐出側の軸封部34,34と軸受70,70を潤滑した潤滑油は,軸受70,70に対し機外側に設けられた潤滑油回収室35に導入され,この潤滑油回収室35に連通する潤滑油回収流路94(
図1参照)を介して圧縮作用空間に回収されるように構成されている。
【0049】
〔軸受給油構造〕
図1及び
図2を参照して説明した油冷式スクリュ圧縮機1の吐出側ケーシング30には,吐出側ロータ軸42,52を収容するための軸孔31,31が設けられていると共に,この軸孔31,31内に設けた軸受室32,32に収容された軸受70,70によって,吐出側ロータ軸42,52が回転可能に支承されている。
【0050】
そして,この軸受70,70とロータ室11間には,ロータ室11からの圧縮気体の漏出を防止するための前述の軸封部34,34が設けられている。
【0051】
図3に,オスロータ40の吐出側ロータ軸42に設けた軸封部34と軸受70に対する給油構造の構成例を示す。
【0052】
図3に示すように,軸封部34においてロータ軸42の外径が軸孔31の内径に対し僅かに小さく形成されており,この部分のロータ軸42の外周面と軸孔31の内周面間の隙間Δが狭められていると共に,後述するようにこの隙間Δに潤滑油を給油して封止することで,ロータ室11から圧縮気体の漏出が防止されている。
【0053】
軸封部34におけるロータ軸42の外径は,該位置のロータ軸42自体の外径を軸孔31の内径に対し僅かに小さく形成するものとしても良いが,
図3に示す実施形態では,この位置のロータ軸42に円筒状のスペーサ36を焼き嵌めや圧嵌等の方法で外嵌し,このスペーサ36によってロータ軸42の外径を拡張してスペーサ36の外周面と軸孔31の内周面間を前述の隙間Δとしても良く,この場合,スペーサ36の外周面が,ロータ軸42の外周面となる。このスペーサ36は,ロータ軸42に外嵌されてロータ軸42と共に,軸孔31の内壁面と非接触の状態で回転するもので,このスペーサ36の外周面と軸孔31の内周面間に生じた前述の隙間Δに潤滑油を給油してこの隙間Δを塞ぐと共に,軸受70側に漏出させることで,該隙間Δを封止してロータ室11から圧縮気体が漏出することを防止している。
【0054】
このスペーサ36の外周面には,周方向に連続して環状溝37が形成されていると共に,吐出側ケーシング30内にロータ軸42の軸線方向に対し直交方向に形成された前述の給油流路93を,この環状溝37と連通させて,環状溝37内に導入した潤滑油を,スペーサ36の外周面と軸孔31の内周面間の隙間Δに給油することができるように構成されている。
【0055】
ここで,従来の油冷式スクリュ圧縮機1では,
図10を参照して説明したように,ロータ軸142の外周面と軸孔131の内周面間の隙間Δ’を介して漏出した潤滑油によって軸受170に対する給油を行う構成を採用していた。
【0056】
これに対し,本発明の軸受給油構造では,スペーサ36の外周面と軸孔31の内周面間の隙間Δを介した給油の他,この隙間Δとは別に,給油流路93と軸受室32間を連通する給油孔95を設け,この給油孔95を介しても軸受70に対し給油を行うことができるようにした。
【0057】
図3に示す実施形態では,穴加工を施すことによって軸受室32側から水平方向に,給油流路93に直接連通するキリ孔を吐出側ケーシング30の肉厚内に形成し,このキリ孔を軸受70に対し潤滑油を給油するための前述の給油孔95とした。
【0058】
従って,既存の油冷式スクリュ圧縮機1に設けられている吐出側ケーシング30をそのまま使用しつつ,これに給油孔95を形成することで,軸受70に対する給油量の調整が可能であり,また,形成する給油孔95の口径を変化させることで,スペーサ36の外周面と軸孔31の内周面間の隙間Δを変更することなく,従って,軸封部34の封止性能に影響を与えることなく,又は,隙間Δを可及的に狭く形成してシール性を向上させつつ,軸受70に対する給油量を最適な量に調整することができる。
【0059】
なお,
図3に示す実施形態では,軸受70の下部側より給油を行うよう給油孔95を形成しているが,この構成に代えて,
図4に示すように給油流路93,93’を,スペーサ36を越えて更にその上方まで延長し,このスペーサ36の上方に延長した部分の給油流路93’と連通させて給油孔95を形成するようにしても良く,このように構成することで,比較的油の量が少なくなる軸受70の上部側より直接給油することができる。
【0060】
また,
図3を参照して説明した軸受給油構造では,軸受70に対し給油を行う給油孔95を,単なるキリ孔として形成する構成例について説明したが,この構成に代え,
図4に示す実施形態では,給油孔95をノズル形状に形成し,軸受70に対する給油を,潤滑油をスプレー状に噴霧することにより行うことができるようにしている。
【0061】
このように軸受70に対する給油を,潤滑油を噴霧して行う場合,軸受70の冷却効率が向上することから,軸受70に対する給油量を少なく抑えることが可能となる。
【0062】
その結果,軸受70が攪拌する潤滑油量が減少し,潤滑油の攪拌に伴い生じていた動力ロスを減少させることができるという利点がある。
【0063】
なお,軸受70の下側部分は潤滑油が溜まり易いことから,前述したように給油孔95をノズル形状とする場合,軸受70の下側部より給油を行うよう給油孔95を形成すると,溜まった潤滑油に阻まれて潤滑油をうまく噴霧することができない場合がある。
【0064】
そのため,給油孔95をノズル形状とした
図4に示す実施形態では,給油流路93,93’を,スペーサ36を越えて更にその上方まで延長し,このスペーサ36の上方に延長した部分の給油流路93’と連通させて給油孔95を形成する構成とすることが望ましく,このように構成することで,軸受70の上部側より給油を行うことで,より好適に潤滑油を噴霧できるようにしている。
【0065】
なお,
図4に示した実施形態では,給油流路93,93’を吐出側ケーシング30の下方から上方に向けて形成して,スペーサ36を越えて更に上方に延長する構成としたが,この構成に代えて,図示は省略するが,給油流路93を吐出側ケーシング30の上部から下方に向けてスペーサ36の環状溝37に至るまで形成し,この給油流路93と連通する給油孔95を設けることにより,軸受70の上側部分に対し潤滑油を給油できるようにしても良い。
【0066】
更に,
図3を参照して説明した実施形態では,前述の給油孔95を,吐出側ケーシング30の肉厚内に直接,キリ孔とし形成する例について説明した。
【0067】
これに対し,
図5に示す実施形態では,給油孔95を,軸受室32と給油流路93間を連通する連通孔95aと,この連通孔95aに取り付けたオリフィス95bの組合せによって形成している。
【0068】
このようなオリフィス95bの取り付けは,
図5中に拡大図で示すように,前述した連通孔95aの内壁に雌ネジを形成すると共に,これに螺合する雄ネジをオリフィス95bの外周に形成しておき,両者を螺着することにより取り付けるようにしても良い。
【0069】
この構成では,連通孔95aを各種仕様の油冷式スクリュ圧縮機に対応できるよう,ある程度大きな径に形成しておき,この連通孔95aに取り付けるオリフィス95bとして,油冷式スクリュ圧縮機1の仕様にあわせて内径の異なるものを選択して取り付けることで,仕様の異なる各種の油冷式スクリュ圧縮機1で共通の吐出側ケーシング30を使用しつつ,内径の異なるオリフィス95bを取り付けるだけで最適な油量で軸受70に対し給油を行うことが可能となる。
【0070】
なお,このようにして取り付けるオリフィス95bは,ノズル型の孔が形成されたものであっても良い。
【0071】
以上,
図3~
図5を参照して説明した実施形態では,いずれも前述の給油孔95を吐出側ケーシング30の肉厚内に形成し,給油流路93と直接連通して設ける構成について説明した。
【0072】
これに対し,
図6に示す実施形態では,給油孔95をスペーサ36に形成することで,この給油孔95を介して軸受室32と給油流路93を,環状溝37を介して連通するように構成した。
【0073】
図示の実施形態では,スペーサ36を軸線方向に2分割し,断面略矩形状を成す,軸受70側に配置される部分36aと,断面L字状を成す,スクリュロータ40側に配置される部分36bを組み合わせることにより,外周面に環状溝37が形成されたスペーサ36を形成した。
【0074】
そして,このスペーサ36のうち,軸受70側に配置される部分36aを貫通する給油孔95を形成し,この給油孔95によって軸受室32と環状溝37とを連通させている。
【0075】
このようにスペーサ36に給油孔95を設けることで,油冷式スクリュ圧縮機1の仕様に拘わらず,共通の吐出側ケーシング30を使用することができる一方,仕様の変更に伴い,スペーサ36のみ(図示の実施形態ではスペーサ36のうち軸受側に配置される部分36aのみ)を適切な孔径の給油孔95が形成されたものに交換することで,各種の仕様に応じた最適な給油量で軸受70に対する給油を行うことが可能となる。
【0076】
また,給油孔95を,環状溝37を介して給油流路93と連通させる構成としたことで,
図7に示すように,給油孔95をスペーサ36の周方向に所定の間隔で複数箇所に設けることが可能となり,軸受70の全体に均一に潤滑油を給油できるようにすることも可能となる。
【0077】
なお,
図3~
図6を参照して説明した実施形態では,本発明の軸受給油構造を,油冷式スクリュ圧縮機1の吐出側の軸受70に対する給油構造とした構成例について説明したが,本発明の給油構造は,ロータ軸41,42,51,52を支承する軸受60,70であって,この軸受60,70とスクリュロータ40,50間に,給油を必要とするスペーサを設けた軸封部を有する構成であれば,吸入側に設けた軸受60に対する給油構造としても採用することができる。
【0078】
また,
図1及び
図2を参照して説明したように,図示の実施形態では,本発明の軸受給油構造を備えた油冷式スクリュ圧縮機1を,給油口12を介して導入された潤滑油を三方に分岐して,圧縮作用空間,ギヤ室23,及び,吐出側の軸封部34及び軸受70に対し同時に給油するものとして説明したが,この構成に代えて,
図9を参照して説明した特許文献1に記載の油冷式スクリュ圧縮機のように,吐出側の軸封部34と軸受70に給油した後の潤滑油をギヤ室23内に噴射すると共に,ギヤ室23に溜まった潤滑油を圧縮作用空間に回収するように構成するようにしても良く,油冷式スクリュ圧縮機1内における潤滑が必要な各部に対する潤滑油の供給を行うことができるものであれば,図示の構成例に限定されず,既知の各種の構成が採用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 油冷式スクリュ圧縮機
2 ケーシング
10 ロータケーシング
11 ロータ室
12 給油口
20 吸入側ケーシング
21,22 軸受室
23 ギヤ室
24 吸気口
25 噴射ノズル
30 吐出側ケーシング
31 軸孔
32 軸受室
33 吐出口
34 軸封部
35 潤滑油回収室
36 スペーサ
36a (スペーサの)軸受側に配置される部分
36b (スペーサの)スクリュロータ側に配置される部分
37 環状溝
40 オスのスクリュロータ
41 ロータ軸(吸入側)
42 ロータ軸(吐出側)
50 メスのスクリュロータ
51 ロータ軸(吸入側)
52 ロータ軸(吐出側)
60,70 軸受
80 増速装置
81 従動歯車
82 駆動歯車
83 駆動軸
91,92,93 給油流路
94 潤滑油回収流路
95 給油孔
95a 連通孔
95b オリフィス
100 油冷式スクリュ圧縮機(圧縮機本体)
111 ロータ室
130 吐出側ケーシング
123 歯車室
126 連通路
131 軸孔
134 軸封部
135 潤滑油回収室
137 環状溝
140,150 スクリュロータ
141,142,151,152 ロータ軸
160,170 軸受
180 増速装置
193 給油流路
196 歯車室給油流路
210 駆動源
220 レシーバタンク
221 逆止弁
222 オイルフィルタ
223 オイルクーラ
224 給油配管
Δ ロータ軸(スペーサ)の外周面と軸孔の内周面間の隙間
Δ’ ロータ軸の外周面と軸孔の内周面間の隙間