(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】補酵素Q10の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/66 20060101AFI20240819BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240819BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C12P7/66 A
B01D61/00
B01D61/14
(21)【出願番号】P 2020515550
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017546
(87)【国際公開番号】W WO2019208676
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018087146
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
(72)【発明者】
【氏名】加茂 文貴
(72)【発明者】
【氏名】クーハプレマ チャーノン
(72)【発明者】
【氏名】神田 彰久
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107337593(CN,A)
【文献】国際公開第2004/029076(WO,A2)
【文献】特開昭60-078588(JP,A)
【文献】特表2002-511243(JP,A)
【文献】特開平09-173792(JP,A)
【文献】特開昭57-091196(JP,A)
【文献】特開平11-103883(JP,A)
【文献】特開昭62-083894(JP,A)
【文献】特開昭63-317092(JP,A)
【文献】特開昭63-036789(JP,A)
【文献】SCEPTER Stainless Steel Membrane, Proven Technology for the Most Challenging Separations,2007年,p. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 - 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌または酵母である補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、35℃以上90℃以下に加温した状態で、平均細孔径が0.01~3μmであって合成樹脂製、セラミック製または金属製の多孔質膜に通液させて前記培養懸濁液を濃縮し、微生物細胞培養濃縮液
と補酵素Q10濃度が検出限界以下である濾液を取得する濾過工程
、及び
前記微生物細胞培養濃縮液中の微生物細胞を破砕して微生物細胞破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液とし、該破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液から補酵素Q10を抽出する抽出工程を有することを特徴とする補酵素Q10の製造方法。
【請求項2】
前記加温温度が48℃以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記培養懸濁液のpHが3~7の範囲内である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記濾過工程における通液の線速が0.1m/s以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記培養懸濁液の通液処理中に、濾過装置を密閉して加圧し、その後圧力を開放する再生処理を少なくとも1回実施する請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加圧する際の圧力が0.1~1MPaである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加圧する際に使用する媒体が、空気、窒素、水、前記培養懸濁液、前記培養懸濁液を多孔質膜に通液して得られる濾過液のいずれか1種類以上である請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記濾過工程の終了後に、前記多孔質膜に付着している微生物懸濁成分を洗浄する洗浄工程を実施し、その後、再び前記濾過工程を行うことを繰り返す請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記洗浄する洗浄液が水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液のいずれか1種類以上である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記洗浄する洗浄液の温度が10℃~90℃である請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質膜が金属製である請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記金属製の多孔質膜が、酸化チタンによる分離層とステンレス支持体からなる筒であり、その内径は5mm以上である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記分離層の平均細孔径が0.01~3μmである請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養懸濁液の通液処理中に、濾過液出口側より媒体を流入して通液する処理を実施後、濾過工程を再開する請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記流入する媒体が、空気、窒素、水、前記培養懸濁液を多孔質膜に通液して得られる濾過液のいずれか1種類以上である請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記流入する媒体の温度が10℃~90℃である請求項14又は15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補酵素Q10の製造方法に関する。さらに詳しくは、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、多孔質膜に通液させる濾過工程を有する、補酵素Q10の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補酵素Qは、細菌から哺乳動物まで広く生体に分布する必須成分であり、生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成成分として知られている。補酵素Qは、ミトコンドリア内で酸化と還元を繰り返すことで、電子伝達系における伝達成分としての機能を担っているほか、還元型補酵素Qは抗酸化作用を持つことが知られている。ヒトの補酵素Qは、補酵素Qの側鎖に、繰り返し構造を10個持つ補酵素Q10が主成分であり、生体内においては、通常、40~90%程度が還元型として存在している。補酵素Qの生理的作用としては、ミトコンドリア賦活作用によるエネルギー生産の活性化、心機能の活性化、細胞膜の安定化効果、抗酸化作用による細胞の保護効果等が挙げられている。
【0003】
現在製造・販売されている補酵素Q10の多くは酸化型であるが、近年では、酸化型補酵素Q10に比べて高い経口吸収性を示す還元型補酵素Q10も市場に登場し、広く用いられるようになってきている。
【0004】
補酵素Q10を製造するには、いくつかの方法が知られている。例えば、特許文献1には、還元型補酵素Q10生産性微生物を培養し、必要に応じて微生物細胞を破砕してから、有機溶媒で抽出する還元型補酵素Q10の製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、補酵素Q10生産微生物の抽出液を、ケイ酸アルミニウムを主成分とする吸着剤単独あるいは前記吸着剤とそれとは異なる吸着剤を併用する複数の吸着剤と接触させる補酵素Q10の製造方法が記載されている。特許文献2の方法によれば、補酵素Q10生産微生物の抽出液から微生物由来の不純物を効率的に除去して、補酵素Q10の製造工程を簡潔かつ安定的に操作運転するための補酵素Q10製造方法を提供できる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-253271号公報
【文献】WO2018/003974
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の方法では、安定的かつ効果的に、補酵素Q10を簡便で大量生産するには、まだ改善の余地がある。
【0008】
例えば、特許文献1の方法では、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁物の濃度は薄く水分含量が多いため、抽出工程での設備は大型化する必要があるだけでなく、微生物細胞を破砕する場合の時間を多大に要し、経済的に効率が悪いなどの問題がある。
特許文献2においては、微生物細胞培養液を適宜濃縮してから抽出できる旨が記載され、実施例では遠心分離により濃縮している。しかし、遠心分離機で濃縮した場合、一部の補酵素Q10生産微生物菌体が上清側へ流出し、収率の低下を招くことがある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、抽出工程の前に行われる濾過工程であって、補酵素Q10生産微生物培養懸濁液中の補酵素Q10のロスを最小化しつつ、可能な限り培養懸濁液を効果的に濃縮出来る、簡潔かつ安定的に操作運転可能な濾過工程を有する補酵素Q10製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、35℃以上に加温するという特定の温度条件下で多孔質膜に通液させる濾過工程を抽出工程の前に設けることが有効であり、上記濾過工程の採用によって上記培養懸濁液の固形分濃度を高くしてから微生物内の成分を抽出出来、その後精製すると、補酵素Q10のロスを最小化し得、効率よく補酵素Q10を精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明に係る補酵素Q10の製造方法の構成は以下のとおりである。
1.補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、35℃以上の温度に加温して多孔質膜に通液させる濾過工程を有することを特徴とする補酵素Q10の製造方法。
2.前記加温温度が48℃以上である上記1に記載の製造方法。
3.前記培養懸濁液のpHが3~7の範囲内である上記1又は2に記載の製造方法。
4.前記濾過工程における通液の線速が0.1m/s以上である上記1~3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記培養懸濁液の通液処理中に、濾過装置を密閉して加圧し、その後圧力を開放する再生処理を少なくとも1回実施する上記1~4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記加圧する際の圧力が0.1~1MPaである上記5に記載の製造方法。
7.前記加圧する際に使用する媒体が、空気、窒素、水、前記培養懸濁液、前記培養懸濁液を多孔質膜に通液して得られる濾過液のいずれか1種類以上である上記5又は6に記載の製造方法。
8.前記濾過工程の終了後に、前記多孔質膜に付着している微生物懸濁成分を洗浄する洗浄工程を実施し、その後、再び前記濾過工程を行うことを繰り返す上記1~7のいずれかに記載の製造方法。
9.前記洗浄する洗浄液が水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液のいずれか1種類以上である上記8に記載の製造方法。
10.前記洗浄する洗浄液の温度が10℃~90℃である上記8又は9に記載の製造方法。
11.前記多孔質膜が、合成樹脂製、セラミック製、または金属製のいずれかである上記1~10のいずれかに記載の製造方法。
12.前記多孔質膜が金属製である上記11に記載の製造方法。
13.前記金属製の多孔質膜が、酸化チタンによる分離層とステンレス支持体からなる筒であり、その内径は5mm以上である上記12に記載の製造方法。
14.前記分離層の平均細孔径が0.01~3μmである上記13に記載の製造方法。
15.前記培養懸濁液の通液処理中に、濾過液出口側より媒体を流入して通液する処理を実施後、濾過工程を再開する上記1~14のいずれかに記載の製造方法。
16.前記流入する媒体が、空気、窒素、水、前記培養懸濁液を多孔質膜に通液して得られる濾過液のいずれか1種類以上である上記15に記載の製造方法。
17.前記流入する媒体の温度が10℃~90℃である上記15又は16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抽出工程の前に、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、多孔質膜に通液させる濾過工程を実施することで、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液中の補酵素Q10のロスを最小化しつつ培養懸濁液を効果的に濃縮可能な補酵素Q10の製造方法を提供できる。その結果、補酵素Q10を抽出又は精製する際の溶剤使用量の低減や、抽出の安定化など、作業性および経済性の面からも補酵素Q10を効果的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の補酵素Q10の製造方法の一形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の製造方法は、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を、35℃以上に加温した状態で多孔質膜に通液させる濾過工程を有することを特徴とする。本発明の製造方法においては、多孔質膜を用いた上記濾過工程により、補酵素Q10生産微生物を含有する微生物細胞懸濁液;あるいは微生物細胞破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液を濃縮した濃縮液から、有機溶媒を用いて補酵素Q10を抽出し、さらに必要に応じてアルカリ水溶液や水と接触させることで、精製された、あるいは純度の向上した補酵素Q10を単離・回収することができる。
【0014】
以下、本発明の製造方法を詳しく説明する。
【0015】
(1)本発明で用いる補酵素Q10生産微生物
補酵素Q10には、酸化型と還元型が存在する。本発明は、補酵素Q10として、酸化型補酵素Q10、還元型補酵素Q10のいずれをも対象とし、還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の混合物である補酵素Q10もその対象である。本発明で用いる補酵素Q10が還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の混合物である場合の還元型補酵素Q10含有比率も特に限定されない。なお、本明細書において、補酵素Q10とのみ記載した場合はその種類を問わず、酸化型補酵素Q10、還元型補酵素Q10、還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の混合物の全てを表すものである。
【0016】
本発明で用いる補酵素Q10生産微生物としては、補酵素Q10を微生物内に生産する微生物であれば、細菌、酵母、カビのいずれも制限無く使用することができる。上記微生物としては、具体的には、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アセトバクター(Acetobacter)属、アミノバクター(Aminobacter)属、アグロモナス(Agromonas)属、アシドフィラス(Acidiphilium)属、ブレロミセス(Bulleromyces)属、ブレラ(Bullera)属、ブレブンジモナス(Brevundimonas)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、キオノスファエラ(Chionosphaera)属、カンジタ(Candida)属、セリノステルス(Cerinosterus)属、エキソフィアラ(Exisophiala)属、エキソバシジウム(Exobasidium)属、フィロミセス(Fellomyces)属、フィロバシジエラ(Filobasidiella)属、フィロバシジウム(Filobasidium)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、グラフィオラ(Graphiola)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コッコバエラ(Kockovaella)属、クルツマノミセス(Kurtzmanomyces)属、ララリア(Lalaria)属、ロイコスポリジウム(Leucosporidium)属、レギオネラ(Legionella)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ミコプラナ(Mycoplana)属、オースポリジウム(Oosporidium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュドジマ(Psedozyma)属、パラコッカス(Paracoccus)属、ペトロミセス(Petromyc)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、リゾモナス(Rhizomonas)属、ロドビウム(Rhodobium)属、ロドプラネス(Rhodoplanes)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、スポロボロミセス(Sporobolomyces)属、スポリジオボラス(Sporidiobolus)属、サイトエラ(Saitoella)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、スポトリクム(Sporotrichum)属、シンポジオミコプシス(Sympodiomycopsis)属、ステリグマトスポリジウム(Sterigmatosporidium)属、タファリナ(Tapharina)属、トレメラ(Tremella)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、チレチアリア(Tilletiaria)属、チレチア(Tilletia)属、トリポスポリウム(Tolyposporium)属、チレチオプシス(Tilletiopsis)属、ウスチラゴ(Ustilago)属、ウデニオミセス(Udeniomyce)属、キサントフィロミセス(Xanthophllomyces)属、キサントバクテリウム(Xanthobacter)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、アクレモニウム(Acremonium)属、ハイホモナス(Hyhomonus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ファフィア(Phaffia)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属等の微生物を挙げることができる。
これらのうち培養の容易さや生産性の観点からは、細菌または酵母が好ましい。細菌では非光合成細菌がより好ましく、さらには、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属等が、酵母ではシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、サイトエラ(Saitoella)属、ファフィア(Phaffia)属等が特に好ましい例として挙げられる。
なお、補酵素Q10として、還元型補酵素Q10を製造する目的においては、生産される補酵素Q10中の還元型補酵素Q10含有比率の高い微生物を用いることが好ましく、例えば培養後の補酵素Q10に占める還元型補酵素Q10含有比率(重量%基準)として好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上となる微生物を用いることがより好ましい。
【0017】
本発明で用いる補酵素Q10生産微生物としては、上記微生物の野生株のみならず、例えば、上記微生物の目的とする補酵素Q10の生合成に関与する遺伝子の転写及び翻訳活性、或いは発現蛋白質の酵素活性を、改変或いは改良した変異体や組換え体も使用することができる。
【0018】
上記微生物を培養することで、補酵素Q10を含有する微生物細胞を得ることができる。培養方法は特に限定されず、対象となる微生物に適した、あるいは目的とする補酵素Q10の生産に適した培養方法が適宜選択し得る。培養期間も特に限定されず、微生物細胞中に目的とする補酵素Q10が所望の量蓄積される期間であればよい。
【0019】
本発明では、上記のような方法によって得られる補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を多孔質膜に通液させるのが好ましいが、これに限定されず、他の方法によって得られた補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を通液させてもよい。例えば、一旦フィルタープレスによる固液分離や乾燥を行った微生物菌体を水に再懸濁したもの(乾燥微生物細胞破砕物の懸濁液)を用いても良い。また、後述するように、微生物細胞の破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液を用いてもよい。多孔質膜に通液させる培養懸濁液中の微生物濃度は、特に制限されないが、微生物の乾燥重量に換算して0.01~10重量%の範囲であるのが好ましい。
【0020】
(2)濾過工程
本発明の製造方法においては、上記培養懸濁液を35℃以上に加温してから多孔質膜に通液させる必要がある。35℃未満の場合、培養懸濁液中に雑菌が増殖し、濾過効果が低下する虞がある。上記加温温度は35℃以上であれば特に制限されないが、濾過効果を一層向上させるためには、40℃以上が好ましく、48℃以上がより好ましい。また、その上限は限定されないが操作性や品質の観点から、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。濾過工程において、上記加温温度は一定である必要はなく、上記範囲内であれば、濾過操作中に温度を変えてもよい。
【0021】
また、多孔質膜に通液させる際の上記培養懸濁液のpHは3~7の範囲内であるのが好ましく、より好ましくはpH3~5、さらに好ましくはpH3.5~4.5の範囲内である。得られた培養懸濁液のpHがこれらの範囲を満たす場合はそのまま用いれば良いが、そうでない場合は酸やアルカリを用いて所望とするpHに調整することができる。pHを上記範囲とすることで、培養懸濁液中の無機塩の析出を抑制し、多孔質膜内の閉塞を防ぐだけでなく、培養懸濁液の粘度を低下させ、多孔質膜での濾過工程を迅速化することができる。
【0022】
上記濾過工程において、微生物培養懸濁液を多孔質膜に通液する際の線速については特に限定されないが、好ましくは0.1m/s以上、より好ましくは1m/s以上、さらに好ましくは3m/s以上である。線速が速いほど、濾過工程を迅速化することが可能である。
【0023】
上記濾過工程において、微生物培養懸濁液を多孔質膜に通液する際の透過流束は、完全に閉塞しない限り特に限定されないが、設備費や生産量等の経済的な面を踏まえればその値は高いほうが好ましい。濾過工程を通じての平均透過流束は、0.50kg/min/m2以上が好ましく、より好ましくは1.0kg/min/m2以上である。
【0024】
上記補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を通液させる多孔質膜の種類は特に限定されないが、合成樹脂製、セラミック製、金属製などが好ましい例として挙げられる。
【0025】
上記合成樹脂としては、通液に耐え得る分子量を有するものであれば特に限定はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレン、フッ素樹脂などが挙げられる。価格や入手性を踏まえれば、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンである。
【0026】
上記セラミックとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウムなどの酸化物系、ハイドロキシアパタイトなどの水酸化物系、炭化ケイ素などの炭化物系、窒化ケイ素などの窒化物系、蛍石などのハロゲン化物系、リン酸塩系などが挙げられる。汎用性や入手性を踏まえれば、好ましくは酸化物系セラミックであり、より好ましくはアルミナである。
【0027】
上記金属としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、スズ、水銀、鉛、アルミニウム、チタン、酸化チタン、ステンレスなどが挙げられる。耐酸性、耐アルカリ性、強度を踏まえれば、好ましくはステンレスあるいは酸化チタンである。
【0028】
本発明の製造方法においては、再生工程時に高い再生効果が得られる点から、金属製の多孔質膜の使用が好ましく、詳細には上記多孔質膜は、フィルター部に相当する分離層が酸化チタンで、それを支持する外装(支持体)がステンレスで構成されていることがより好ましい。本発明において「分離層(フィルター部)」は、培養懸濁液中の微生物細胞またはその破砕物を通さず、水溶性の媒体部分を通すものであれば特に限定されず、メッシュ状、不織布状、細孔状のいずれの形態でも良い。
【0029】
本発明の製造方法において、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を濾過するための多孔質膜の形状は特に限定されないが、操作運転面、設備設置の面から、筒状であることが好ましい。特に多孔質膜が上記のように分離層(フィルター部)とそれを支持する外装(支持体)で構成されている場合、酸化チタンなどによる分離層を有する中空体が、ステンレスなどの筒状の支持体中に収納されている筒であることがより好ましい。具体的には、例えば外装(ステンレス)の内部に中空状の細孔体(酸化チタン)を有する多孔質膜とすることにより、中空部を濃縮されたスラリーが通り、外側に濾液が排出されて濾過・濃縮が進行するようになる。本発明に用いる筒は、取り扱い易さを踏まえると軽量かつ細いことが望ましいが、一方、培養懸濁液中の固形分濃度や粘度を踏まえれば、その内径は2mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。その上限は、上記観点からは特に限定されないが、設備の重量化や比表面積の確保などの観点を考慮すると、おおむね、30mmであることが好ましい。
【0030】
さらに、上記分離層の平均細孔径は、培養懸濁液中の微生物およびその他の微生物培養由来の固形分の粒子径を踏まえれば、0.01~3μmの範囲が好ましい。さらに生産性や強度、閉塞のし難さ、再生のし易さを踏まえれば、0.05μm以上がより好ましく、また1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましい。多孔質膜の分離層の平均細孔径を上記範囲とすることで、濾液中に補酵素Q10を含む固形分を漏洩させることなく、高い収率が得られる。
【0031】
本発明の製造方法では上記濾過工程を実施することで、微生物細胞懸濁液を濃縮することが出来る。濾過工程後の微生物細胞濃縮懸濁液の中の微生物濃度は、特に制限されないが、微生物の乾燥重量に換算して、好ましくは0.1~25重量%で濃縮工程を実施する。さらに安定的、経済的観点を考慮すると10~20重量%の範囲となるように濃縮工程を実施するのがより好ましい。
【0032】
上記濾過工程において、平均透過流束を向上させるために、運転途中で温度を変化させたり、再生操作を適宜導入してもよい。
微生物培養懸濁液の多孔質膜への通液処理を継続すると、多孔質膜内部および表面に微生物培養懸濁液由来の固形分が付着して、その濾過速度や透過流束は徐々に低下する傾向にある。従って、本発明の製造方法では、培養懸濁液の多孔質膜への通液中に、濾過装置を密閉して加圧し、その後圧力を開放する再生処理を少なくとも1回実施することが好ましい。この再生処理を行うことで、多孔質膜内部および表面に付着した固形分を濾過装置外へ除去し、濾過速度を回復させ、濾過工程を迅速化することができる。
上記再生工程は、培養懸濁液の多孔質膜への通液中に、一時的に(通液工程の少なくとも一部の期間)行われるものであり、培養懸濁液の通液中全般にわたって再生処理を実施する意図ではない。具体的には、例えば培養懸濁液の多孔質膜への通液中に、一時的に出口部分を閉鎖しつつ入り口部分からの培養懸濁液の通液を継続することで加圧し、その後出口部分を開放することで系内の圧力を元に戻すといった作業を実施することで、加圧と圧力の開放という再生工程を実施することが出来る。あるいは、培養懸濁液の多孔質膜への通液中に、一時的に入り口部分か出口部分のいずれかを閉鎖し、逆側の出口部分または入り口部分から、媒体を系内に注入することで加圧し、その後閉鎖した入り口または出口部分を開放することで系内の圧力を元に戻すといった作業を実施することで、加圧と圧力の開放という再生工程を実施することも出来る。このような再生工程の実施期間は、例えば通液工程中の全期間の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。
【0033】
加圧するための方法は特に限定されないが、加圧する際に使用する媒体として、空気、窒素、水、微生物細胞懸濁液、微生物細胞懸濁液を濾過膜に通液して得られる濾過液(以下、単に濾過液と略記する場合がある。)のいずれか1種類以上を用いて加圧することが好ましい。より好ましい媒体は、空気である。
【0034】
上記濾過装置を密閉して加圧する際の圧力は、特に限定されないが、0.1~1MPaの範囲が好ましい。洗浄効果、再生効果、および装置の安全性を踏まえれば0.2MPa以上がより好ましく、また0.6MPa以下がより好ましい。
【0035】
また、上記加圧後に圧力を開放するまでの時間は特に限定されないが、生産性の観点から、なるべく短い時間で再生処理を行うことが望ましく、好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内、さらに好ましくは20秒以内である。
【0036】
上記再生処理は、培養懸濁液の通液中に、少なくとも1回実施すればよい。但し、再生処理を多くすると、処理時間が長くなること、操作が煩雑になるなどの問題があるため、上限は、例えば100回であり、60回であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の製造方法では、濾過工程終了後に、多孔質膜に付着している微生物懸濁成分を洗浄する洗浄工程を実施し、その後再び濾過工程を行うことを繰り返すことが好ましく、これにより、多孔質膜を長期的に利用することができる。多孔質膜に付着している微生物懸濁成分を洗浄する洗浄液としては、特に限定されないが、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液のいずれか1種類以上を用いることが出来る。具体的には洗浄対象物の種類に応じて洗浄液の種類を適宜選択することができ、例えば有機物の洗浄にはアルカリ性水溶液、無機物の洗浄には酸性水溶液を使用することが推奨される。好ましくはアルカリ性水溶液と酸性水溶液であり、アルカリ性水溶液による洗浄と酸性水溶液による洗浄を両方行うのがより好ましい。
【0038】
上記アルカリ性水溶液の種類は特に限定されないが、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。経済性を踏まえれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。上記アルカリ性水溶液の濃度も特に限定されないが、取り扱い性を踏まえれば5重量%以下が好ましい。
【0039】
上記酸性水溶液の種類は特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、スルファミン酸、クエン酸、硫化水素などが挙げられる。経済性や取り扱い性を踏まえれば、硫酸、スルファミン酸、クエン酸が好ましい。上記酸性水溶液濃度も特に限定されないが、経済性や取り扱い性を踏まえれば5重量%以下が好ましい。
【0040】
洗浄時の上記洗浄液の温度は高温であることが好ましく、10℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、さらに好ましくは65℃以上である。より高温で洗浄することで、多孔質膜の再生効率を向上させることができる。その上限は特に限定されないが、好ましくは90℃以下である。
【0041】
本発明の製造方法では、多孔質膜を再生する方法として、上記記載した再生方法以外に、培養懸濁液の通液処理中に、濾過液出口側より媒体を流入して通液後、濾過工程を再開する方法も可能である。その際に流入する媒体は特に限定されず、空気、窒素、水、濾過液、アルカリ性水溶液、酸性水溶液などを利用できるが、経済性や安全性、品質の観点から空気、窒素、水、濾過液の使用が好ましい。
上記再生工程は、培養懸濁液の通液処理中に、一時的(通液工程の少なくとも一部の期間)に行われるものであり、培養懸濁液の通液中全般にわたって再生処理を実施する意図ではない。具体的には、例えば、培養懸濁液の通液処理中に、濾過液出口側より媒体を流入して一定時間逆向きに通液後、再び入り口側から培養懸濁液の通液を再開するといった方法などが挙げられる。上記再生処理のタイミングは許容される処理時間などによっても相違するが、例えば平均濾過速度が低下(おおむね0.2L/min/m2以下)になったら再生処理を行う;平均濾過速度に拘わらず、例えば1時間ごとに再生処理を行うなどの方法が挙げられる。
また上記再生工程において媒体を流入して通液する時間は特に限定されず、低下した濾過速度が所定数値まで向上する時間行えば良いが、例えば、1回の再生処理に通常5秒以上、好ましくは15秒以上、より好ましくは30秒以上行うことが推奨される。
【0042】
また、上記多孔質膜を再生するために流入する媒体の温度は特に限定されないが、10℃~90℃が好ましい。濾過処理工程の温度を大きく変化させないこと、洗浄回復性を担保することを踏まえれば30℃以上がより好ましく、また70℃以下がより好ましい。
【0043】
(3)必要に応じて破砕
本発明の製造方法では、上記濾過工程の後、有機溶媒を用いて補酵素Q10を抽出する。補酵素Q10を抽出するに当たり、上記のように多孔質膜に通液する濾過工程を経て得られた微生物細胞培養濃縮液から補酵素Q10を直接抽出することもできるが、濃縮液中の微生物細胞を破砕して微生物細胞破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液とし、該破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液から補酵素Q10を抽出することが好ましい。あるいは、微生物細胞を乾燥させて、該乾燥微生物細胞から補酵素Q10を抽出することもできる。
なお本発明においては、微生物細胞培養液の破砕を先に実施し、その後、得られた微生物細胞破砕物の培養懸濁液または水性懸濁液を多孔質膜に通液させることで濃縮しても良い。すなわち(2)の濾過工程と(3)の破砕工程の順序は問わない。但し、(2)の濾過工程を先に行う方が好ましい。
なお、本発明における「破砕」においては、目的とする補酵素Q10の抽出が可能となる程度に細胞壁等の表面構造が損傷を受ければよい。
【0044】
上記破砕方法としては、例えば、物理的処理、化学的処理等を挙げることができる。
【0045】
上記物理的処理としては、例えば、高圧ホモジナイザー、回転刃式ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、フレンチプレス、ボールミル等の使用、あるいは、これらの組み合わせを挙げることができる。
【0046】
上記化学的処理としては、例えば、塩酸、硫酸等の酸(好ましくは強酸)を用いる処理、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の塩基(好ましくは強塩基)を用いる処理等や、これらの組み合わせを挙げることができる。
【0047】
本発明において、補酵素Q10の抽出・回収の前処理としての細胞破砕方法としては、上記破砕方法の中でも、破砕効率の点から物理的処理がより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法においては前述したとおり、上記のようにして得られた補酵素Q10生産微生物含有培養懸濁液を上記濾過工程により濃縮した後に、乾燥させて該乾燥微生物細胞から補酵素Q10を抽出することもできる。この場合の微生物細胞を乾燥させる乾燥機としては、例えば、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、箱型乾燥機、円錐型乾燥機、円筒振動式乾燥機、円筒撹拌式乾燥機、逆円錐型乾燥機、濾過乾燥機、凍結乾燥機、マイクロウエーブ乾燥機等を使用、あるいはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0049】
乾燥させた上記微生物細胞内の水分濃度は、0~50重量%の範囲であることが好ましい。また、乾燥微生物細胞をさらに上記のような破砕方法で破砕処理するか、あるいは、上記微生物細胞破砕物を乾燥して得られる、乾燥微生物細胞破砕物を用いることも出来る。
【0050】
(4)抽出工程
本発明の製造方法において、補酵素Q10の抽出に用いる上記有機溶媒としては、特に限定されないが、炭化水素、脂肪酸エステル、エーテル、アルコール、脂肪酸、ケトン、窒素化合物(ニトリル、アミドを含む)、硫黄化合物等を挙げることができる。
【0051】
上記炭化水素としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。このなかでも脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素がより好ましい。
【0052】
脂肪族炭化水素としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数3~20、好ましくは炭素数5~12、より好ましくは炭素数5~8のものが用いられる。具体例としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、2-メチルブタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、ヘプタン異性体(例えば、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン)、オクタン、2,2,3-トリメチルペンタン、イソオクタン、ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、2-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p-メンタン、シクロヘキセン等を挙げることができる。好ましくは、ペンタン、2-メチルブタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、オクタン、2,2,3-トリメチルペンタン、イソオクタン、ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p-メンタン等である。より好ましくは、ペンタン、2-メチルブタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、オクタン、2,2,3-トリメチルペンタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等であり、さらに好ましくは、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等である。特に好ましくは、酸化からの防護効果が特に高いという点や汎用性の点から、ヘプタン、ヘキサン、メチルシクロヘキサンであり、最も好ましくはヘプタン、ヘキサンである。
【0053】
上記芳香族炭化水素としては、特に制限されないが、通常、炭素数6~20、好ましくは炭素数6~12、より好ましくは炭素数7~10のものが用いられる。具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p-シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、スチレン等を挙げることができる。好ましくは、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p-シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン等である。より好ましくは、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、クメン、テトラリンである。最も好ましくは、クメンである。
【0054】
上記ハロゲン化炭化水素としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、非環状のものが好ましく用いられる。より好ましくは塩素化炭化水素、フッ素化炭化水素であり、さらに好ましくは塩素化炭化水素である。
また、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1~2のハロゲン化炭化水素が好適に用いられる。具体例としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,2,3-トリクロロプロパン、クロロベンゼン,1,1,1,2-テトラフルオロエタン等を挙げることができる。好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン等である。より好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、1,1,1,2-テトラフルオロエタンである。
【0055】
上記脂肪酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、プロピオン酸エステル、酢酸エステル、ギ酸エステル等を挙げることができる。好ましくは、酢酸エステル、ギ酸エステルであり、より好ましくは酢酸エステルである。上記エステル基としては、特に制限されないが、通常、炭素数1~8のアルキルエステル、炭素数7~12のアラルキルエステルが、好ましくは炭素数1~6のアルキルエステルが、より好ましくは炭素数1~4のアルキルエステルが用いられる。
【0056】
上記プロピオン酸エステルの具体例としては、例えば、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチルを挙げることができる。好ましくはプロピオン酸エチルである。
【0057】
上記酢酸エステルの具体例としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec-ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル等を挙げることができる。好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec-ヘキシル、酢酸シクロヘキシル等を挙げることができる。好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルであり、最も好ましくは、酢酸エチルである。
【0058】
上記ギ酸エステルの具体例としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸sec-ブチル、ギ酸ペンチル等を挙げることができる。好ましくは、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチルである。最も好ましくは、ギ酸エチルである。
【0059】
上記エーテルとしては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数3~20、好ましくは炭素数4~12、より好ましくは炭素数4~8のエーテルが用いられる。上記エーテルの具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン、フラン、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルである。より好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルである。さらに好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、アニソールであり、最も好ましくは、メチルtert-ブチルエーテルである。
【0060】
上記アルコールとしては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6のアルコールが用いられる。なかでも、炭素数1~5の1価アルコール、炭素数2~5の2価アルコール、炭素数3の3価アルコールが好ましい。
【0061】
これらアルコールの具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール等の1価アルコール;1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコールを挙げることができる。
【0062】
上記1価アルコールとしては、好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール等を挙げることができる。好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、シクロヘキサノールである。より好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコールである。さらに好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコールであり、最も好ましくは、2-プロパノールである。
【0063】
上記2価アルコールとしては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールが好ましく、1,2-エタンジオールが最も好ましい。上記3価アルコールとしては、グリセリンが好ましい。
【0064】
上記脂肪酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等を挙げることができる。好ましくは、ギ酸、酢酸であり、最も好ましくは酢酸である。
【0065】
上記ケトンとしては、特に制限されず、炭素数3~6のものが好適に用いられる。具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。好ましくは、アセトン、メチルエチルケトンであり、最も好ましくはアセトンである。
【0066】
上記ニトリルとしては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数2~20、好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8のニトリルが用いられる。
【0067】
上記ニトリルの具体例としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、マロノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、グルタロニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプチルシアニド、オクチルシアニド、ウンデカンニトリル、ドデカンニトリル、トリデカンニトリル、ペンタデカンニトリル、ステアロニトリル、クロロアセトニトリル、ブロモアセトニトリル、クロロプロピオニトリル、ブロモプロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、トルニトリル、ベンゾニトリル、クロロベンゾニトリル、ブロモベンゾニトリル、シアノ安息香酸、ニトロベンゾニトリル、アニソニトリル、フタロニトリル、ブロモトルニトリル、メチルシアノベンゾエート、メトキシベンゾニトリル、アセチルベンゾニトリル、ナフトニトリル、ビフェニルカルボニトリル、フェニルプロピオニトリル、フェニルブチロニトリル、メチルフェニルアセトニトリル、ジフェニルアセトニトリル、ナフチルアセトニトリル、ニトロフェニルアセトニトリル、クロロベンジルシアニド、シクロプロパンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、シクロヘプタンカルボニトリル、フェニルシクロヘキサンカルボニトリル、トリルシクロヘキサンカルボニトリル等を挙げることができる。
【0068】
好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、ベンゾニトリル、トルニトリル、クロロプロピオニトリルであり、より好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリルであり、最も好ましくは、アセトニトリルである。
【0069】
ニトリル類を除く上記窒素化合物としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;ニトロメタン、トリエチルアミン、ピリジン等を挙げることができる。
【0070】
上記硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を挙げることができる。
【0071】
本発明に用いる上記有機溶媒は、沸点、融点、粘性等の性質を考慮して選定するのが好ましい。例えば、沸点としては、溶解度を高めるための適度な加温ができ、且つ、溶媒回収や置換が行い易いという観点から、1気圧下、約30~150℃の範囲である有機溶媒が好ましい。融点としては、室温での取り扱い時及び室温以下に冷却した時も固化し難いという観点から、約0℃以上、好ましくは約10℃以上、より好ましくは約20℃以上である有機溶媒が用いられる。粘性は、20℃において約10cp以下と低い有機溶媒の使用が好ましい。
【0072】
上記有機溶媒のうち、本発明の製造方法においては、微生物細胞又は微生物細胞破砕物の水性濃縮懸濁液から、補酵素Q10を抽出する場合には、抽出溶媒として疎水性有機溶媒または疎水性有機溶媒を含有する有機溶媒を用いるのが好ましい。また、疎水性有機溶媒に少量の親水性有機溶媒(例えばイソプロパノールなどのアルコール類)や、界面活性剤を混合した有機溶媒を使用することで、より抽出効率を高めることも出来る。
【0073】
この場合に使用される疎水性有機溶媒としては、特に制限されず、上述の有機溶媒のうち疎水性のものを使用できるが、好ましくは、炭化水素、脂肪酸エステル、エーテルであり、より好ましくは脂肪酸エステル又は炭化水素、さらに好ましくは脂肪族の炭化水素を用いることができる。
上記脂肪族炭化水素のなかでも、炭素数5~8のものが好適に用いられる。上記炭素数5~8の脂肪族炭化水素の具体例としては、例えば、ペンタン、2-メチルブタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、オクタン、2,2,3-トリメチルペンタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等を挙げることができる。特に好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサンであり、最も好ましくは、ヘキサンである。
また脂肪酸エステルとしては、酢酸エチルが好ましく用いられる。
【0074】
本発明の製造方法において、抽出溶媒の使用量としては、特に制限されないが、抽出時の濃度として、全溶液の容量に対して、25~80容量%の範囲で使用するのが好ましく、50~75容量%の範囲で使用するのがより好ましい。本発明の製造方法において、抽出時の温度は、特に制限されないが、通常0~60℃、好ましくは20~50℃の範囲で実施できる。
【0075】
上記抽出方法としては、回分抽出、連続抽出のどちらの方法でも行うことができるが、工業的には連続抽出が生産性の面で好ましく、連続抽出の中でも向流多段抽出が特に好ましい。回分抽出の場合の撹拌時間は、特に制限されないが、通常5分以上であり、連続抽出の場合の平均滞留時間は、特に制限されないが、通常10分以上である。
【0076】
(5)固形分の分離除去
本発明の製造方法においては、上記のようにして得られる補酵素Q10生産微生物の抽出液をそのまま、あるいはアルカリ性水溶液と接触させて微生物由来の脂溶性成分をけん化させ、水洗した後に濃縮して濃縮抽出液とした後、冷却して固形分を析出させて、固形分を分離除去することで、抽出液中の不純物を除去し、補酵素Q10の純度が高い抽出液を得ることもできる。
【0077】
上記補酵素Q10生産微生物の抽出液をけん化させるためのアルカリ性水溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、酸化マグネシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。けん化効率を鑑みれば強アルカリが好ましく、さらに経済性も踏まえれば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液がより好ましい。
また、抽出液に対して接触させるアルカリ性水溶液の量は特に制限されないが、全抽出液容量に対して、1容量%以上200容量%以下、好ましくは1容量%以上30容量%以下、より好ましくは1容量%以上10容量%以下である。
【0078】
上記アルカリ性水溶液との接触方法としては、回分式、連続式のどちらの方法でも行うことができるが、工業的には連続式が生産性の面で好ましく、連続式の中でも洗浄性を踏まえれば並流式が特に好ましい。回分式の場合の撹拌時間は、特に制限されないが、通常1分以上であり、連続抽出の場合の平均滞留時間は、特に制限されないが、通常10秒以上である。
【0079】
アルカリ性水溶液と接触後の抽出液は、熱等による補酵素Q10の分解、二量体の形成による品質の低下が起こり易いので、水洗することが好ましい。抽出液に対して接触させる水の量は特に制限されないが、全抽出液に対して、1容量%以上200容量%以下、好ましくは1容量%以上30容量%以下、より好ましくは1容量%以上10容量%以下である。
上記との接触方法としては、回分式、連続式のどちらの方法でも行うことができるが、工業的には連続式が生産性の面で好ましく、連続式の中でも洗浄性を踏まえれば並流式が特に好ましい。回分式の場合の撹拌時間は、特に制限されないが、通常1分以上であり、連続抽出の場合の平均滞留時間は、特に制限されないが、通常10秒以上である。
【0080】
本発明の製造方法においては、以上の操作によって、多孔質膜により濃縮した補酵素Q10生産微生物を含有する微生物細胞懸濁液を濃縮した後、必要に応じて微生物細胞破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液、乾燥微生物細胞又は乾燥微生物細胞破砕物とした上で、それらから、有機溶媒中に補酵素Q10を抽出し、さらに必要に応じてアルカリ性水溶液や水と接触させることで、精製された、あるいは純度の向上した補酵素Q10を単離・回収できる。
水洗処理後の補酵素Q10溶液は、そのまま利用することもできるし、吸着剤等を用いてさらに不純物を除去して精製した補酵素Q10抽出液をさらに処理して、より好ましい形態である高純度の補酵素Q10含有組成物や補酵素Q10結晶としても良い。そのような処理工程としては、濃縮、溶媒置換、酸化、還元、カラムクロマトグラフィー、晶析などが挙げられ、もちろんこれらを組み合わせても良い。例えば、吸着剤から分離した補酵素Q10抽出液から溶媒を留去して(濃縮)、補酵素Q10を含む精製物とする、あるいは必要に応じてさらにシリカゲルなどのカラムクロマトグラフィーなどで精製した後、有機溶媒を留去して、補酵素Q10を含む精製物とすることもできる。さらに晶析操作などで目的とする補酵素Q10を結晶体として得ることもできる。
上記カラムクロマトグラフィー、酸化、還元、晶析の前に、必要に応じて、さらに溶媒置換を行っても良い。
【0081】
なお、本発明の製造方法において、補酵素Q10として還元型補酵素Q10単独あるいは還元型補酵素Q10比率の高い補酵素Q10を製造する目的においては、補酵素Q10生産微生物として、生産される補酵素Q10中の還元型補酵素Q10含有比率の高い微生物を用い、耐酸化性雰囲気下(たとえば窒素ガスなどの不活性雰囲気下)で、上記濃縮工程後、抽出や精製処理を行う方法が有効である。これにより、還元型補酵素Q10単独あるいは還元型補酵素Q10比率の高い補酵素Q10を、特段の処理を行うことなく得ることが可能である。もちろん、このようにして得られた還元型補酵素Q10比率の高い補酵素Q10をさらに還元することで還元型比率をより高めることも可能である。また、補酵素Q10含有抽出液に特に酸化防止手段を施すことなく、あるいは、空気中の酸素や酸化剤により酸化させて還元型補酵素Q10比率の比較的低いもの(例えば、50mol%以下、あるいは30mol%以下)を得た後、還元反応を実施することで、還元型補酵素Q10比率の高い補酵素Q10を製造することも可能である。
還元型補酵素Q10を製造する目的においては、製造の最終工程あるいは最終製品としての還元型補酵素Q10含有比率は高い方が好ましく、補酵素Q10の総量100mol%中、還元型補酵素Q10は、例えば70mol%以上、好ましくは80mol%以上、より好ましくは90mol%以上、さらにより好ましくは96mol%以上であるのが良い。
【0082】
より具体的な一態様としては、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を多孔質膜に通液させて濃縮し、当該濃縮液又はその破砕物から有機溶媒中に補酵素Q10を抽出し、得られた補酵素Q10を含有する抽出液を、カラムクロマトグラフィーを用いてさらに精製した後、還元処理を行い、晶析操作を用いて、高純度の還元型補酵素Q10の結晶を取得することができる。
【0083】
さらに本発明の製造方法は酸化型補酵素Q10の製造にも利用できる。その場合、補酵素Q10生産微生物懸濁液を濃縮した微生物細胞濃縮懸濁液、微生物細胞破砕物又は微生物細胞破砕物の水性懸濁液、乾燥微生物細胞又は乾燥微生物細胞破砕物から、有機溶媒中に補酵素Q10を抽出し、その後、酸化剤による酸化処理を行っても良いし;あるいは、単に空気中などで、抽出、吸着、その他精製や後処理等を行ったり、抽出前に菌体を空気中で乾燥することで、自然酸化により酸化型補酵素Q10比率の高い補酵素Q10を簡便な操作で得ることも可能である。
【0084】
より具体的な一態様としては、補酵素Q10生産微生物の培養懸濁液を多孔質膜に通液させて濃縮し、当該濃縮液又はその破砕物から、有機溶媒中に補酵素Q10を抽出し、得られた補酵素Q10を含有する抽出液を溶媒置換後、カラムクロマトグラフィーを用いてさらに精製した後、酸化処理を行い、晶析操作を用いて、高純度の酸化型補酵素Q10の結晶を取得することができる。
【0085】
2018年4月27日に出願された日本国特許出願第2018-087146号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年4月27日に出願された日本国特許出願第2018-087146号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0086】
以下に実施例、比較例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また、実施例、比較例中の補酵素Q10の収率および補酵素Q10の純度は、本発明における限界値を規定するものではなく、その上限値を規定するものでもない。
【0087】
補酵素Q10の濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(SHIMADZU製)を使用し、下記の条件で測定した。
(HPLC測定条件)
カラム:YMC-Pack ODS-A
オーブン温度:30℃
移動相:メタノール/ヘキサン=85/15(容積比)
送液速度:1.0ml/min
検出:UV275nm
多孔質膜により濾過する際の濃縮度は、濾液量を直接計算あるいは上記HPLC分析条件にて補酵素Q10生産微生物懸濁液の補酵素Q10濃度を測定し、計算した。また、濾液中の補酵素Q10濃度を測定することにより、ロスの有無を評価した。
【0088】
また、多孔質膜の洗浄回復性については、上記補酵素Q10生産微生物懸濁液を通液前に水を多孔質膜に通液し、3時間経過した時の透過速度を基準として、濾過処理後に温水や薬剤を用いて洗浄を施した後に同様に水を通液し、3時間後の透過速度から回復率として計算した。
【実施例1】
【0089】
補酵素Q10を産生するサイトエラ・コンプリカタ(Saitoella complicata)IFO10748株を、培地(ペプトン5g/L、酵母エキス3g/L、マルトエキス3g/L、グルコース20g/L、pH6.0)を用いて、好気的に25℃で160時間培養した。
その後、得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を60℃に加温し、pH6に調整後、酸化チタンの中空状の細孔体とステンレス製の支持体からなる多孔質膜(Φ=6mm、L=609mm、平均細孔径=0.5μm、濾過面積=0.0114m2;Graver社製)に、線速4m/s、膜間圧力差(TMP)0.2MPaで通液し、濾過処理を実施した。
10時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度(微生物細胞懸濁液の中の微生物の乾燥重量に換算した微生物濃度に相当)は8.06%であったのに対し、濾過処理後では10.35%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は0.69kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を圧力破砕機によって微生物を破砕し、当該微生物破砕液に、ヘキサンを微生物破砕液の体積の1.8倍、2-プロパノールを0.7倍に相当する量添加し、40℃で1時間撹拌する操作を2回繰り返し、2段バッチ抽出操作で補酵素Q10を抽出した。その結果、抽出率は96.8%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例2】
【0090】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH6に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速3m/s、膜間圧力差(TMP)0.3MPaで通液し、濾過処理を実施した。
10時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では10.32%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は0.59kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した。その結果、抽出率は97.1%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例3】
【0091】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を40℃に加温し、pH6に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速5m/s、膜間圧力差(TMP)0.4MPaで通液し、濾過処理を実施した。
11.2時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では10.85%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は0.78kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した。その結果、抽出率は97.0%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例4】
【0092】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を60℃に加温し、pH5に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速3m/s、膜間圧力差(TMP)0.4MPaで通液し、濾過処理を実施した。
10時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では10.27%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は0.55kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した結果、抽出率は94.6%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例5】
【0093】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH4に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速4m/s、膜間圧力差(TMP)0.4MPaで通液し、濾過処理を実施した。
8.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では11.0%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は1.09kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した結果、抽出率は97.2%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例6】
【0094】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を60℃に加温し、pH4に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速5m/s、膜間圧力差(TMP)0.3MPaで通液し、濾過処理を実施した。
6時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.15%が、濾過処理後では13.04%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は1.60kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した。その結果、抽出率は96.9%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例7】
【0095】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を40℃に加温し、pH4に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速3m/s、膜間圧力差(TMP)0.2MPaで通液し、濾過処理を実施した。
10時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では10.09%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は0.65kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した結果、抽出率は96.9%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例8】
【0096】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速5m/s、膜間圧力差(TMP)0.2MPaで通液し、濾過処理を実施した。
8.7時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度8.06%が、濾過処理後では11.01%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は1.08kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した結果、抽出率は95.9%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例9】
【0097】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH4に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速5m/s、膜間圧力差(TMP)0.2MPaで通液し、濾過処理を実施した。
6.7時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度7.9%が、濾過処理後では12.2%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は1.65kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した。その結果、抽出率は98.0%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例10】
【0098】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH4に調整後、酸化チタンの中空状の細孔体とステンレス製の支持体からなる多孔質膜(Φ=9mm、L=1520mm、平均細孔径:0.5μm、濾過面積:0.0462m2;Graver社製)に線速5m/s、膜間圧力差(TMP)0.2MPaで通液し、濾過処理を実施した。
29.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度は7.11%であったのが、濾過処理後では12.96%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は2.35kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
さらに、得られた微生物濃縮懸濁液を実施例1と同様に圧力破砕し、補酵素Q10を抽出した結果、抽出率は98.0%となり、多孔質膜により濃縮したことで、補酵素Q10が良好に抽出されていることが確認された。
【実施例11】
【0099】
上記実施例10の濾過運転中に、空気を濾液排出側から30秒間流入して、多孔質膜の洗浄と再生処理を実施した。その結果、再生処理前の透過流束が1.49kg/min/m2であったのに対し、再生処理後は2.34kg/min/m2まで回復した。
【実施例12】
【0100】
上記実施例11の濾過運転後に、該多孔質膜を50℃の温水で1時間循環洗浄したところ、その洗浄回復性は40%だった。また、洗浄に使用した洗浄液中の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例13】
【0101】
上記実施例12の後に、該多孔質膜を70℃の2%水酸化ナトリウム水溶液で1時間循環洗浄したところ、その洗浄回復性は97%であった。
また、洗浄に使用した洗浄液中の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例14】
【0102】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速10m/s、膜間圧力差(TMP)0.25MPaで通液し、濾過処理を実施した。
7.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度6.96%が、濾過処理後では13.29%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は3.41kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例15】
【0103】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、上記実施例1と同じ多孔質膜に、線速7m/sで4時間、次に5m/sで5.5時間、さらに6m/sで4時間と線速を変えながら、膜間圧力差(TMP)は0.35MPaで通液し、濾過処理を実施した。
合計13.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度7.46%であったのに対し、濾過処理後では12.71%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は2.74kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例16】
【0104】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、実施例1と同じ多孔質膜に、線速7m/s、膜間圧力差(TMP)0.25MPaで通液し、濾過処理を実施した。濾過処理前の固形分濃度6.71%が、12.5%まで濃縮されたのを確認した時点で、得られた濾液の一部を処理前の微生物培養懸濁液の原液に戻して固形分濃度を9.5%まで希釈し、再び12.5%まで濃縮するという連続繰り返し試験を合計4回実施した。
それぞれ所定の濃度まで濃縮されるまでの平均透過流束は、1回目が2.41kg/min/m2、2回目は2.40kg/min/m2、3回目は2.08kg/min/m2、4回目は1.38kg/min/m2となり、徐々に平均透過流束は低下するものの、4回の繰り返し運転を通じて良好に濾過された。
【実施例17】
【0105】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、セラミック膜(Φ=3.5mm、L=1187mm、平均細孔径:0.2μm、濾過面積:0.35m2;TAMI社製)に、線速7.5m/s、膜間圧力差(TMP)0.19MPaで通液し、濾過処理を実施した。
1.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度が8.0%であったのに対し、濾過処理後は12.84%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は2.92kg/min/m2であった。
また、濾液側の補酵素Q10濃度を測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例18】
【0106】
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を50℃に加温し、pH5に調整後、実施例17と同じセラミック膜に、線速7m/s、膜間圧力差(TMP)0.3MPaで通液し、濾過処理を実施した。
30分の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度が7.57%であったのに対し、濾過処理後は12.93%まで濃縮されており、濾過工程を通しての平均透過流束は3.81kg/min/m2であった。その後、循環処理に切り替えて20時間運転したところ、その間の平均透過流束は1.32kg/min/m2まで低下し、運転全体で見た時の平均透過流束は1.80kg/min/m2となった。
【0107】
(比較例1)
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液(固形分濃度8.06%)を、桐山ロートおよび桐山ロート用のろ紙No.5-Cを用いて濾過しようと試みたが、最初から目詰まりを起こしたため、濾液は得られなかった。
【0108】
(比較例2)
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液(固形分濃度8.06%)を、1000gで5分間BECKMAN COULTER社製 Allegra X-22R CENTRIGUGEにより遠心分離し、微生物濃縮液と上清に分離し、上清を回収した。上清中の補酵素Q10濃度は0.3g/Lであり、微生物培養液中の1.4%の補酵素Q10をロスしていることが確認された。
【0109】
(比較例3)
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液(固形分濃度8.06%)を、2000gで5分間比較例2と同様の遠心分離機で遠心分離し、微生物濃縮液と上清に分離し、上清を回収した。上清中の補酵素Q10濃度は0.1g/Lであり、微生物培養液中の0.6%の補酵素Q10をロスしていることが確認された。
【0110】
(比較例4)
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を30℃に加温し、pH5に調整後、セラミック膜(Φ=6mm、L=1187mm、平均細孔径:0.2μm、濾過面積:0.16m2;TAMI社製)に、線速3m/s、膜間圧力差(TMP)0.05MPaで通液し、濾過処理を実施した。
4.5時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度が7.0%であったのに対し、濾過処理後では11.72%まで濃縮されたが、濾過工程を通しての平均透過流束は0.49kg/min/m2とかなり低下した。
【0111】
(比較例5)
上記実施例1と同様にして得られた補酵素Q10を含む微生物培養液を30℃に加温し、pH5に調整後、有機膜(平均細孔径:0.2μm、濾過面積:0.022m2;ダイセン社製)に線速1.1m/s、膜間圧力差(TMP)0.015MPaで通液し、濾過処理を実施した。
12時間の連続運転を行った結果、濾過処理前の固形分濃度6.75%であったのに対し、濾過処理後では9.98%まで濃縮されたが、濾過工程を通しての平均透過流束は0.42kg/min/m2とかなり低下した。