(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】細胞生着のためのパッチグラフト組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20240819BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240819BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240819BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240819BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A61L27/38 200
A61L27/20
A61P1/00
A61P1/16
A61P1/18
(21)【出願番号】P 2020517773
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(86)【国際出願番号】 US2018036960
(87)【国際公開番号】W WO2018231726
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-31
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501345323
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ウェンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ワウティア,エリアン
(72)【発明者】
【氏名】リード,ローラ エム.
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-210713(JP,A)
【文献】特表2006-500129(JP,A)
【文献】特表2009-519042(JP,A)
【文献】特表2013-526297(JP,A)
【文献】信州医誌,2017年03月,65(3),143-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/38
A61L 27/20
A61P 1/00
A61P 1/16
A61P 1/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の混合集団を持続させ維持するためのパッチグラフトであって、
(a)二つ以上の細胞型を有する混合集団と、
ここで、前記細胞型のうちの少なくとも一つが、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現する能力のある早期系統段階にあり、
前記混合集団は、第一のハイドロゲルが標的器官または組織につながれたときに前記混合集団の標的器官または組織への移動を可能にするのに十分な粘弾性を有する、前記第一のハイドロゲル中の培地で支持され、
前記第一のハイドロゲルは、0.1-200Paの粘弾性を有し、
前記第一のハイドロゲルは、少なくとも一つの前記細胞型からの膜結合型および/または分泌型MMPの発現を可能とし、
(b)裏打ちを介した前記混合集団の移動を阻害する、生体適合性、生分解性材料を含む前記裏打ちと、
(c)前記裏打ちの漿膜表面上に重ねられた第三のハイドロゲルであって、前記漿膜表面が前記混合集団と接触しているものと反対側にある、第三のハイドロゲルと、
ここで、第三のハイドロゲルは、250-400Paの粘弾性を有する、
を含む、
パッチグラフト。
【請求項2】
前記裏打ちが第二のハイドロゲルが注入された多孔性メッシュを含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項3】
要素(a)の前記第一のハイドロゲルが一つまたは複数のヒアルロナンを含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項4】
要素(b)の前記第二のハイドロゲルが一つまたは複数のヒアルロナンを含む、請求項2に記載のパッチグラフト。
【請求項5】
要素(c)の前記第三のハイドロゲルが一つまたは複数のヒアルロナンを含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項6】
前記培地が、クボタの培地を含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項7】
前記混合集団が、間葉細胞および上皮細胞を含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項8】
前記間葉細胞が、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む、請求項7に記載のパッチグラフト。
【請求項9】
前記ELSMCが、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、または星状細胞の前駆体または間葉幹細胞(MSC)のうち一つまたは複数を含む、請求項8に記載のパッチグラフト。
【請求項10】
前記上皮細胞が上皮幹細胞を含む、請求項7に記載のパッチグラフト。
【請求項11】
前記上皮細胞が胆管幹細胞(BTSC)を含む、請求項7に記載のパッチグラフト。
【請求項12】
前記上皮細胞が、コミットしたおよび/または成熟上皮細胞を含む、請求項7に記載のパッチグラフト。
【請求項13】
前記コミットしたおよび/または成熟上皮細胞が、成熟実質細胞を含む、請求項12に記載のパッチグラフト。
【請求項14】
前記成熟実質細胞が、肝細胞、胆管細胞、および膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む、請求項13に記載のパッチグラフト。
【請求項15】
前記間葉細胞および上皮細胞の両方が、幹細胞を含む、請求項7に記載のパッチグラフト。
【請求項16】
前記混合集団が、自己および/または同種細胞を含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項17】
一つまたは複数の細胞型が、遺
伝子組み換えされている、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項18】
前記裏打ちが、多孔性メッシュ、スカフォールド、または膜を含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項19】
前記裏打ちが非多孔性材料を含む、請求項1に記載のパッチグラフト。
【請求項20】
前記非多孔性材料が、絹、羊膜、胎盤、網、合成繊維、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項19に記載のパッチグラフト。
【請求項21】
前記第一のハイドロゲルが、10-100Paの粘弾性を有する、請求項1-20のいずれか一項に記載のパッチグラフト。
【請求項22】
前記第二のハイドロゲルが、250-800Paの粘弾性を有する、請求項2
または4に記載のパッチグラフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下に、2017年6月12日出願の米国出願第62/518,380号、および2018年4月30日に出願された米国出願第62/664,694号に対する優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、一般的に、細胞の移植または組織生着の分野に関する。より具体的には、固形臓器または組織から固形臓器または組織へ、特に内臓へである。本発明は、固形臓器または組織の疾患または状態を治療し、または疾患のモデルシステムを確立するために、固形臓器および組織への細胞の迅速な移植、生着および統合のための戦略を提供する組成物および方法に関する。この可能性の代表例は、肝疾患または膵疾患の治療のための細胞療法である。
【背景技術】
【0003】
固形臓器からの細胞のための移植戦略、造血細胞の移植または間葉幹/前駆体に使用されるものとは異なる戦略が、長い間必要とされてきた。Turner,R.,et al.Transplantation 90,807-810(2010);Gattinoni,L.et al.Nature Medicine 23,18-27(2017);Trounson A.et al.Cell Stem Cell 17,11-22(2015);Sun B.K.et al.Science 346,941-945(2014);Lainas,P.et al.J Hepatol 49,354-362(2008)。造血細胞および間葉細胞の移植は、血管チャネルを介した細胞の送達によって常法的に行われ、「ホーミング」と呼ばれるプロセスである微小環境シグナル伝達により、関連する標的部位にあるとき、移植細胞における接着分子の活性化に依存する。皮膚に使用する方法(眼の標的に類似したもの)は、標的部位に直接適用する細胞を用いた移植方法を採用する。Sun B.K.et al.Science 346,941-945(2014)。皮膚のための多くの移植方法は、固形内臓からの細胞のために利用可能であるが、これらの内臓の微小環境を収容するために実質的な修正を必要とする。移植片は、組織および器官の相互作用によって生じる機械力と拮抗しなければならない。例えば、呼吸中の肺の影響、横隔膜に対する肝臓の圧迫、または食品の処理中に腸管が隣接組織に及ぼす機械力の一時的な影響が挙げられる。移植片、特に内臓の移植片は、ダイナミックな機械力に加えて、器官の構造のサイズ、形状、および複雑さに関する懸念のため、設計が困難である。
【0004】
数十年にわたり、皮膚以外の固形臓器からの細胞に対する細胞療法は、血管経路を介した移植または組織への直接注射を使用して、試みられた。ほとんどの移植された細胞は、これらの戦略のいずれかによって送達されると、死亡するかまたは異所的部位に輸送され、そこで数ヶ月間生存し、不適切な部位に組織を生成し、臨床的に悪影響を及ぼす可能性がある。Turner,R.,et al.Transplantation 90,807-810(2010);Lanzoni,G.et al.Stem Cells 31,2047-2060(2013)。肝臓における生着は、細胞をヒアルロナンでコーティングし、肝臓に血管を送達することによって改善することができ、生着の効率の向上は、肝臓のヒアルロナンの除去の自然なプロセスに起因する。Nevi et al.Stem Cell Research&Therapy 8,68,2017。しかしながら、この改善は、移植戦略を用いた場合よりも依然として効率が低く、および重要なことに、異所的部位への細胞の送達を依然として可能にする。
【0005】
固形臓器への細胞生着の改善された方法の必要性が残っている。本開示は、この必要性を満たし、関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0006】
固形臓器からの細胞の移植戦略に対する必要性が長い間あり(Turner,R.,et al.Transplantation 90,807-810(2010)、戦略は、造血細胞、間葉幹細胞、または皮膚の移植に使用されるものとは異なる。造血細胞および間葉細胞の移植は、血管チャネルを介して常法的に行われ、「ホーミング」と呼ばれるプロセスである微小環境シグナル伝達により、関連する標的部位にある接着分子の活性化に依存する。皮膚に使用する方法は、標的部位に直接適用する細胞を用いた移植方法を採用する。
【0007】
皮膚以外の固形臓器からの細胞の移植は、長期間血管送達を使用してきた。これらの細胞上の接着分子は常に活性化され、生命を脅かす塞栓を生成する可能性のある急速な(秒)細胞凝集をもたらすため、これは論理的ではない。健康リスクを最小限にするために塞栓がうまく管理されていても、細胞生着の効率は低く、成人細胞では約20%、幹/前駆体ではさらに低い(<5%)。ほとんどの移植された細胞は、死亡するかまたは異所的部位に輸送され、そこで数ヶ月間生存し、不適切な部位に組織を生成し、臨床的に悪影響を及ぼす可能性がある。標的部位に生着する少ない割合の細胞は、組織の重要な部分になるためには数週間から数ヶ月を必要とし、ゆっくりと組み込まれる。細胞がヒアルロナンでコーティングされ、組織のヒアルロナン(例えば、肝臓)の除去のために血管に送達された場合、肝臓における生着が改善される。(Nevi et al.Stem Cell Research&Therapy 8,68,2017)。
【0008】
出願人は、細胞をヒアルロナンでコーティングするよりも成功した、根本的に異なるアプローチを提案する:標的部位の表面上に移植片を直接配置し、移植生体材料の状態にあるときに、移植生体材料および特定の細胞の固有の表現型特性を使用して、移植を促進する。これは、皮膚の細胞療法の戦略の一部の態様に対応するが、機械的な効果、相互に近い器官の摩耗または圧迫、および特定器官の固有の流体微小環境、ならびに器官のサイズ、構造および複雑さを考慮して、内臓のためには大幅な修正を必要とする。
【0009】
本明細書には、組織および固形臓器への細胞の移植のための新規のパッチグラフト組成物および方法が記載されている。いくつかの実施形態では、これらの方法と移植片は、特に細胞が幹細胞または成熟細胞であるかどうかの細胞の成熟レベルに応じた設計特徴を用いて、内臓に適合させる。いくつかの実施形態では、パッチグラフトのドナー細胞(随意に自己または同種)は、本明細書に開示され、任意選択で細胞の混合物、またはオルガノイドの形態、上皮幹細胞のおよびそれらのネイティブの凝集体、系統段階の適切な間葉細胞パートナー、例えば、早期系統段階の間葉細胞(ELSMC)などの間葉幹/前駆細胞として移植片生体材料に組み込まれる。いくつかの実施形態では、ドナー細胞は、成体上皮の細胞懸濁液として移植片材料に組み込まれ、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の発現を最適化するように設計された比率で、間葉幹/前駆細胞、任意でELSMCと提携した成体細胞である。いくつかの実施形態では、その他の重要な変数は、移植生体材料および裏打ち材料であり、両方ともドナー細胞の分化に対する影響がニュートラルである必要がある。
【0010】
本開示の態様は、単一細胞集団または混合細胞集団を持続および維持するためのパッチグラフトに関し、このパッチグラフトは、(a)単一細胞型または二つ以上の細胞型を有する混合集団であって、そのうちの少なくとも一つは、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現できる早期系統段階にあり、または別のソースからMMPが含まれており(例えば、精製または組み換えMMP)、ハイドロゲルマトリックス中に存在する培地で支持される該細胞集団または混合集団は、任意に該ハイドロゲル内もしくは外および/またはパッチグラフト内もしくは外に、該混合集団の移動を可能にするのに十分な粘弾性を有する、単一細胞型または混合集団と、(b)裏打ちの方向に該混合集団の移動を阻害するのに十分な粘弾性を有する生体適合性、生分解性材料を含む該裏打ちと、任意に(c)該裏打ちの漿膜(すなわち外側)表面に重ねられるハイドロゲルであって、これは該混合集団と接触しているものとは反対であり、パッチグラフトが標的部位につながれている実施形態では、標的部位と接触している側とは反対である(例えば、器官または組織)、ハイドロゲルと、を含む。いくつかの実施形態では、この層は、他の組織もしくは器官によるまたは他の組織もしくは器官からの癒着を防止または阻害する。いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、該混合集団を持続および維持する一方で、該少なくとも一つの早期系統段階細胞型が、膜結合型および/または分泌型MMPをもはや発現できない後期系統段階への分化またはさらなる成熟を阻害するように構成されている。パッチグラフトは、単層に裏打ち層または複数層を加えたものでありうる。
【0011】
いくつかの実施形態では、該裏打ちは多孔性または非多孔性である。いくつかの実施形態では、裏打ちは、多孔性メッシュ、スカフォールド、または膜を含む。いくつかの実施形態では、裏打ちは、絹、合成繊維、またはアミニオン(aminion)、胎盤もしくは網などの天然材料、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、該裏打ちは、ハイドロゲルが注入された多孔性メッシュを含む。さらなる実施形態では、こうした注入は、標的器官または組織からの細胞の移動を防止する。いくつかの実施形態では、該裏打ちは固体材料を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、該ハイドロゲルのうちの一つまたは複数は、ヒアルロナンを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、該培地は、クボタの培地、または幹細胞を支持し、幹細胞性を維持することができる別の培地を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、間葉細胞および上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、外胚葉性、内胚葉性、または中胚葉性であってもよい。いくつかの実施形態では、該間葉細胞は、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む。いくつかの実施形態では、該ELSMCは、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体、および間葉幹細胞(MSC)のうち一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、上皮幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、胆管幹細胞(BTSC)を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、コミットした(committed)および/または成熟上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該コミットしたおよび/または成熟上皮細胞は、成熟した実質細胞を含む。いくつかの実施形態では、該成熟実質細胞は、肝細胞、胆管細胞、および膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該間葉細胞および上皮細胞はどちらも幹細胞を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、自己細胞および/または同種細胞を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、一つまたは複数の細胞型は遺伝子組み換えされている。
【0017】
さらなる態様が、開示されたパッチグラフト組成物を使用する方法に関した。したがって、本明細書に提供されるのは、標的組織を本明細書で上記に開示したパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る、細胞を標的組織に生着させる方法である。
【0018】
この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺、胃腸、肺、前立腺、乳房、脳、膀胱、脊髄、皮膚および皮下組織、子宮、腎臓、筋肉、血管、心臓、軟骨、腱、および骨組織からなる群から選択される。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は肝臓組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は膵臓組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は胆管組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は胃腸組織である。いくつかの実施形態では、組織は病気であるか、損傷している、または障害を有する。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は腎臓組織である。
【0019】
この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は器官である。この方法のいくつかの実施形態では、器官は、筋骨格系、消化器系、呼吸器系、泌尿器系、女性生殖器系、男性生殖器系、内分泌系、循環器系、リンパ系、神経系、または外皮系の器官である。この方法のいくつかの実施形態では、器官は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺、胃、腸、肺、前立腺、乳房、脳、膀胱、脊髄、皮膚および皮下組織、子宮、腎臓、筋肉、血管、心臓、軟骨、腱、および骨からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、器官は病気であるか、損傷している、または障害を有する。
【0020】
また、肝臓疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、対象の肝臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、肝疾患または障害は、肝線維症、肝硬変、ヘモクロマトーシス、肝臓ガン、胆道閉鎖症、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝炎、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、肝蛭症、アルコール性肝疾患、α1-アンチトリプシン欠損症、糖原病II型、トランスサイレチン関連遺伝性アミロイドーシス(amyloidoisis)、ジルベール症候群、原発性胆汁肝硬変、原発性硬化性胆管炎、バッド・キアリ症候群、肝外傷またはウィルソン病である。
【0021】
他の態様では、膵臓の疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、対象の膵臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、膵臓の疾患または障害は、糖尿病、膵外分泌不全、膵炎、膵臓がん、オッディ括約筋機能不全、嚢胞性線維症、膵管癒合不全、輪状膵、膵臓外傷、または膵管出血(hemosuccus pancreaticus)である。
【0022】
他の態様では、胃腸の疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、一つまたは複数の対象の腸を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。いくつかの実施形態では、胃腸疾患または障害は、胃腸炎、胃腸がん、回腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、消化性潰瘍、セリアック病、線維症、血管形成異常、ヒルシュスプルング病、偽膜性大腸炎、または胃腸外傷である。
【0023】
いくつかの態様では、腎臓疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、一つまたは複数の対象の腎臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、腎臓疾患または障害は、腎炎、ネフローゼ、腎炎症候群、ネフローゼ症候群、慢性腎臓疾患、急性腎障害、腎臓外傷、嚢胞性腎疾患、多発性嚢胞腎疾患、糸球体腎炎、IgA腎症、ループス腎症、腎臓がん、アルポート症候群、アミロイドーシス、グッドパスチャー症候群、またはウェグナー肉芽腫症である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1-1】
図1A~1Cは、パッチグラフトのためのブタドナー細胞についての情報を提供する。
図1Aは、プロセスの概略図であり、オルガノイドの調製、パッチグラフトの組み立て、および手術を行うために必要な時間を予測する。
図1Bでは、幹細胞パッチグラフトのためのドナー細胞を、遺伝子導入ブタ由来の胆管組織の細胞懸濁液から単離し、細胞を無血清クボタ培地中および低付着性培養皿上のオルガノイドとして調製した。胆管幹細胞(BTSC)、ならびにそれらの早期系統段階間葉細胞(ELSM)パートナー、血管芽細胞、および血管内皮と星状細胞の前駆体のオルガノイド。それらは、導入遺伝子である緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を示すものと位相顕微鏡写真で示されている。)。導入遺伝子は上皮細胞および間葉細胞の両方にあるため、凝集体の全ての細胞は緑色である。導入遺伝子をヒストン(H-2B)座位に結合した。パラフィン包埋、切片化、ヘマトキシリン/エオシンで染色された幹細胞オルガノイドの組織学。(d)BTSCおよびELSMCのオルガノイドの拡大画像。
図1Cは、これらの細胞が、肝臓および膵臓の両方の前駆体であることを示す幹細胞、肝臓および膵臓マーカーの発現を示す免疫組織化学(IHC)を示している。IHCアッセイは、EpCAMなどの中間段階幹細胞マーカーを有する外層を示し、また多能性遺伝子および内胚葉性転写因子(例えば、SOX17、SOX9、PDX1)などの非常に原始的遺伝子を発現する内部細胞を示す。
【
図1-2】
図1Dは、パッチグラフトのためのブタドナー細胞についての情報を提供する。
図1Dは、オルガノイド内の様々な遺伝子の発現を評価し、細胞が幹細胞または早期前駆体であることを示す、代表的なqRT-PCRアッセイである。対照は、コブタの肝臓由来の成熟肝細胞であった。
【
図2-1】
図2A~2Bは、パッチグラフトの主要な成分についての情報を提供する。
図2Aは、ブタの肝臓に貼り付けられたパッチグラフトの概略図であり、右側は移植片の組成である。上皮細胞と間葉細胞の両方の早期系統段階細胞は、生着の主要な調節因子であるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の産生源である。ドナー細胞が配置される移植片生体材料のマトリックス成分は、ヒアルロナンハイドロゲルなどの硫酸化なしで(または最小限で)軟質である(約100Pa)。移植片の構造は、標的部位につながれた生体材料および細胞の層から成る。培地成分は、ドナー細胞の分化に影響を与える血清、成長因子およびサイトカインを欠いており、幹細胞/前駆体などの早期系統段階細胞の生存および増殖に合わせたものであるべきである。裏打ちは、外科手術において使用されるのに十分な引張強さを有するが、ドナー細胞の分化においてその影響は中立である(例えば、I型コラーゲンを有するものは避けるべきである)。裏打ちは、より剛直な10Xハイドロゲル(約700Pa)で含浸または被覆され、ドナー細胞の移動を標的組織に向けるバリアとして機能し、癒着を最小限にする。標的部位への付着後、漿膜表面上にコーティングまたはペイントするのに十分な流体である2X HAハイドロゲルを添加し、癒着をさらに最小限にするために使用する。
図2Bは、宿主の肝臓または膵臓に貼り付けられた移植片を示す。
【
図2-2】
図2C~2Eは、パッチグラフトの主要な成分についての情報を提供する。
図2Cは、移植片組成を構成する層を示す、移植片の概略図である。
図2Dは、特定のハイドロゲル層のレオロジー特性または粘弾性特性(せん断および圧縮機械力)を経験的に評価するアッセイの結果を示す。
図2Eは、ハイドロゲルの3層の粘弾性特性の配合組成を提供する。
【
図2-3】
図2Fは、パッチグラフトの主要な成分についての情報を提供する。
図2Fは、ブタの肝臓の表面に縫合されたパッチグラフトの近接画像である。
【
図3-1】
図3A~3Bは、肝臓パッチグラフトの免疫組織化学(IHC)および組織学の結果を示す。
図3Aは、一週間後のパッチグラフトのトリクローム染色の結果を示す。トリクロームは、コラーゲン(青色)、細胞質(赤色)および核(黒色)を識別し、グリソン鞘(通常は肝小葉の表面に隣接)と癒着(移植片の漿膜表面上)を識別するために使用された。漿膜表面の層には高レベルの青色の染色があり、移植片への癒着を示唆している。また、移植片は、裏打ちと宿主の間の界面で宿主組織から分離しており、これはこの界面で生成されるMMPが多くなるため、頻繁に見出された。再形成領域は、肝臓の古典的な小葉構造の損失の証拠を提供し、それらはドナー細胞が組織内に移動し、同時に宿主組織構造を変化させる領域をもたらす。低倍率画像(a)では、肝臓に配置された移植片のトリクローム染色により、グリソン鞘の広範な再形成が発生し、移植片と宿主の肝臓がしばしば分離されることが確認された。より高倍率の画像(b)では、再形成領域は驚くべき広範囲であり、(c)肝小葉構造が全く欠失している移植片に近い領域、および(d)再形成プロセスで分解が進行している残りの肝小葉内の領域から成る。
図3Bは、三週間後のパッチグラフトのトリクローム染色の結果を示す。移植片内のヒアルロナンは、裏打ちのみを残して再吸収されている(a)。HAを再吸収すると、グリソン鞘が再現し、(b)移植片近くの肝小葉は、肝臓の小葉および腺房などの典型的な組織学的パターンに再び安定化した。(b)の矢印は、グリソン鞘の再形成におけるコラーゲンの再現を示す。
【
図3-2】
図3C~3Dは、肝臓パッチグラフトの免疫組織化学(IHC)および組織学の結果を示す。
図3Cおよび
図3Dは、移植後一週間(C)および移植後二週間(D)の移植片からの部分のヘマトキシリン/エオシン染色の結果を示す。上部の図は40倍である。図(a、b、c)の部位は、100倍に拡大された拡大写真であり、これら各々の下の長方形の画像は、200倍に拡大されている。移植片の3つの部位(a)裏打ちおよび関連する移植片生体材料内の部位、(b)移植片と宿主組織の間の界面の部位、(c)肝小葉内の部位が示されている。ヘマトキシリン/エオシン染色により、炎症性プロセスの特徴を組み込む生着および移動プロセスの評価に寄与する画像が得られる。
【
図4】
図4A~4Cは、生着、移動、および一週間以内に成体の運命への急速な成熟を示す。
図4Aは、一週間後のブタの肝臓の表面上のパッチグラフトの低倍率画像である。破線は移植片および宿主肝臓の界面を示す。ドナーGFP+細胞(ピンク色の核を有する、白の矢印は、多数のドナーGFP+幹細胞のある領域を示す)は、GFPに対する抗体で標識化し、二次的に赤色蛍光プローブであるNovo Redに連結したもので標識化することで視覚化された。核を4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で青色に染色することで、青色の核のみを有する宿主細胞およびピンク色の核を有するドナー細胞の認識が可能になった(DAPIおよびNovo Redの混合)。宿主組織(a)は移植片のヒアルロナン(HA、黒バックグラウンド)内に延び、裏打ちによる組織には時々はオルガノイド(挿入)が含まれるが、多くのドナー細胞が単一細胞に分散され、多数の分散ドナーGFP+幹細胞(b)が宿主組織全体に見られる。再形成の領域を構成するこの領域におけるグリソン鞘の証拠はない。
図4Bは、ドナー細胞の生着および移動が急速であったことを示し、一週間以内に、すべてのドナー細胞が宿主肝臓内にあり、ドナー細胞は、移植部位の近くおよび肝葉の反対側の両方にあった(推定距離は移植片から少なくとも1.5cm)。継続的な研究では、コブタの肝臓の領域をより大きな距離(すなわち肝臓の他の葉)で分析し、特定の時間内にドナー細胞がどれほどの距離を移動できるかをより正確に定義している。移植部位の肝葉から遠隔側にある宿主の成熟肝細胞(リポフスチンの自己蛍光からの森林緑色)の小葉近くのドナー細胞(ピンク色の核)が示されている。
図4Cは、ドナー細胞の成熟が、HAの再吸収と並行して成体運命を引き起こすことを示す。森林緑色(リポフスチンの自己蛍光)の宿主の肝細胞(a)近くのドナーGFP+細胞(ピンク色の核を有する単一細胞)を含み、ラベンダー色(ピンク色のGFP、青色-DAPI、および緑色のリポフスチンの混合)の肝細胞(b)由来の成熟ドナーから容易に識別される領域の拡大写真であり、すなわちそれはドナーGFP+幹細胞から制限された系統である。他のIHCアッセイ(データ非表示)では、宿主肝細胞およびドナー肝細胞両方のプレート中の明るい新緑色細胞は、血管内皮および星状細胞であることが証明された。
【
図5-1】
図5A~
図5Bは、肝臓パッチグラフト中の細胞の生着および成熟を、移植後一週間後と二週間後で比較する。
図5Aは、パッチグラフト後1週間のブタ肝臓の検査である。シリウスレッド染色、コラーゲンを染色するアゾ染料使用し、パンサイトケラチン(pCK)およびSox9に対する免疫組織化学および免疫蛍光法(IF)染色を、連続3-μm部分で実施した。パッチグラフト部位では、移植されたドナー細胞は、肝小葉と融合した。上部パネル(元の倍率=5倍)では、パッチグラフトは、間葉および上皮pCK
+細胞(矢印)から成る。中間パネルでは、より高い倍率が提供される(20倍)。上皮細胞は、胆汁サイトケラチン(pCK)および内胚葉性幹細胞マーカーSox9を発現する典型的な胆管幹細胞(BTSC)の免疫表現型を示す。パッチグラフト内のBTSCは、細胆管を再構築する細胞列に配置され(矢印)、隣接する肝小葉の肝細胞プレートと直接連続している(矢頭)。小葉中の宿主肝細胞は、pCKおよびSox9陰性である。下部パネル(元の倍率=20倍)では、GFPの免疫蛍光法は、個々の移植細胞およびその子孫を識別することを可能にする。パッチグラフトに隣接した小葉中の肝細胞は、GFP陽性であり、これらは宿主肝実質組織に融合されたドナー細胞由来であったことを示している。パッチグラフトと肝小葉との間の界面では、pCK
+/GFP
+小管(ドナー由来胆管細胞)が、小葉(矢頭)内のGFP
+/pCK
-細胞(ドナー由来肝細胞)と直接連続しており、肝細胞の運命への移植細胞の成熟を示唆している。
図5Bは、パッチグラフト後2週間のブタ肝臓の検査である。IF染色で、GFP
+細胞が移植部位の遠隔にある小葉内に存在することが明らかになる。それらは均一に分散するため、宿主細胞(DAPIによる青色の核を持つ細胞)およびドナー細胞(DAPIによる青色とGFPラベルの赤色の融合によるピンク色/紫色の核)が混在している。肝細胞核因子(HNF)4α(緑色およびピンク色/紫色の核の混合物)およびアルブミン(緑色の細胞質とピンク色/紫色の核)などの成熟肝細胞マーカーを共発現する。別個のチャネルまたは融合したチャネルが含まれた。核を青色で表示した(DAPI)。元の倍率:40倍。
【
図5-2】
図5Cは、肝臓パッチグラフト中の細胞の生着および成熟を、移植後一週間後と二週間後で比較する。
図5Cは、パッチグラフト一週間後のブタの肝臓の評価であり、パッチグラフトと宿主組織との間の界面で起こる再形成の広範囲な領域を示している。低倍率画像および1の拡大画像の部分は、ヘマトキシリン/エオシン(軽く染色)であり、2はベクター-SGで染色され、青色/灰色を提供し、3はヘマトキシリン/エオシンのバックグラウンドで、アルファ-フェトプロテインを染色している。5C内の特定の部位は番号付けされ、小葉内で発生する変化を示す拡大写真と相関する。ドナー細胞とともに大量のMMPがこの領域に浸食するため、宿主の肝小葉および腺房は壊れる。ドナー細胞は、小葉の境界領域で観察され、HNF4-αおよびα-フェトプロテインなどの肝特異的マーカーを示す部位も、細胞が肝臓の運命に成熟していることを意味する。これらの特性はBTSCによって発現されなかったため、これらはドナー細胞が肝臓の運命への成熟を遂げていることが示している。
【
図6-1】
図6A~6Bは、膵臓につながれた幹細胞オルガノイドのパッチグラフトに関する情報を提供する。
図6Aは、膵臓の大部分と、十二指腸(ブルンナー腺を含有する領域)の粘膜下組織に生着した、GFP+ドナー細胞の低倍率(パノラマスキャン)画像である。パッチグラフトの部位におけるブタ膵臓、肝臓、および十二指腸の免疫蛍光染色。GFP(緑)、インスリン(赤)、DAPI(青)。ドナー由来GFP+細胞は、パッチグラフトが位置付けられた部位の近くで発生し、膵臓実質組織内に統合されているように見える。SERI外科用スカフォールドのシルクメッシュは、膵臓、肝臓、および十二指腸の間に挟まれているのが観察される。
図6Bは、ドナー細胞が機能的な膵島に成熟することを示す。より高い倍率では、ドナー由来のGFP+/インスリン+ベータ細胞(GFPのマージからの黄色およびインスリンの染色からの赤)は、膵臓実質組織内の宿主GFP-/インスリン+(赤色)ベータ細胞と混合されて観察される。膵島細胞の周囲には、腺房細胞および管細胞を含む、膵外分泌細胞の形態と一致する形態を示す多数のGFP+細胞がある。この解釈を支持するのは、実際にはこれらの細胞が、古典的な腺房マーカーであるアミラーゼを産生するというCおよびDの所見である。
【
図6-2】
図6C~6Dは、膵臓につながれた幹細胞オルガノイドのパッチグラフトに関する情報を提供する。
図6Cおよび
図6Dは、ドナー幹細胞に由来する機能的腺房細胞の証拠を示す。生着したGFP+ドナー細胞の領域に焦点を当てた、パッチグラフト部位における同一組織ブロックからの連続部分の免疫蛍光染色。アミラーゼ(緑色)、インスリン(赤色)、グルカゴン(白色-Cではパノラマスキャンで見えないが、Dではより高い倍率で見える)、DAPI(青色)。アミラーゼ+腺房細胞は、膵臓の外分泌組織の大部分である。低倍率および高倍率で連続部分に示される染色を比較することによって、膵臓のドナー由来GFP+細胞のほとんどがアミラーゼ+腺房運命を獲得したことが推定される。
【
図7-1】
図7A~7Dは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の特徴付けを提供する。MMPは、細胞外マトリックス成分を溶解するカルシウム依存性亜鉛含有酵素の大きな遺伝子ファミリーから成る。サブセットが分泌型因子(例えば、MMP1、MMP2、MMP7、MMP9)であり、サブセットが膜結合型(例えば、MMP14、MMP15)である、ブタで知られている少なくとも24個のアイソフォームがある。MMP1は、特に再形成の領域でIHCによって同定されたが、RNA配列分析に利用できるブタMMP1の注釈付き形態がまだないため、RNA配列によっては同定されなかった。
図7A,
図7B,
図7C、および
図7Dは、分泌および膜結合型カテゴリーのアイソフォームが、幹/前駆体および成熟細胞の両方によって発現されたことを示している。発現レベルの定量化は、膜結合型形態が幹/前駆体および成熟細胞の両方に対して類似していたことを示した(
図7Dの比較を参照)。対照的に、分泌型は、幹/前駆体において非常に高いレベルで発現され、成熟細胞型においては低いまたは無視できるレベルで発現された。分析された成体細胞の細胞集団は、コブタの肝臓および胆管組織の懸濁液から単離され、CD45+細胞(造血細胞)、CD146+細胞(星状細胞)、CD31+細胞(血管内皮)、EpCAM+/CD45-細胞(成体二倍性肝細胞および胆管細胞)から成る。これらのEpCAM+/CD45-細胞は、コブタの肝臓に見られる成熟実質細胞である。BTSCは、実施例で与えられるプロトコルによって胆管から分離された。
【
図7-2】
図7E~7Hは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の特徴付けを提供する。
図7Eは、BTSC/ELSMC移植片を用いた再形成の領域における代表的MMP発現を示す。BTSC/ELSMCのパッチグラフトに隣接した部分では、再形成の領域(ブラケット)を示すトリクロームで染色した。領域は、MMPの「海」に溶解する細胞とマトリックス成分である、赤と青の線形ストライプとして表示される。ストライプは、まだほとんど無傷である小葉の端で終わるが、侵入する細胞に由来するMMPの効果から、それらの境界で「ほつれ」始める。
図7Fは、MMP1(Novo-red+)に対するIHCアッセイの代表的画像を示す。メチルグリーンはバックグラウンド染色である。肝臓の小葉/腺房構造は、細胞の起伏のある渦巻きに溶解し、MMPの分泌アイソフォームであるMMP1の強い発現によって特徴付けられる。
図7Gは、MMP2(Novo-red+)を染色した部分を示す。ヘマトキシリンはバックグラウンド染色である。肝臓の小葉/腺房構造は消失し、MMP2(錆び茶色)が強く染色された細胞の混合物によって置換された。
図7Hは、肝小葉の中で進行中の再形成プロセスを示す。肝小葉は、侵入細胞が点在する細胞片になっており、MMP2+発現(錆び色)は非常に高く、小葉/腺房構造の消失に寄与する。ヒアルロナンが除去されると(2~3週間)、小葉構造が再現した。
【
図8】
図8は、肝臓および膵臓における生着および統合現象の概略的な実証である。
【
図9-1】
図9A~9Cは、血管内皮または星状細胞などの成熟した間葉細胞(MMC)と組み合わされた、成熟(成体)肝細胞のパッチグラフトに関する情報を提供する。これらのパッチグラフトは生着できなかった。肝細胞が、ここではブタ間葉幹細胞(MSC)である、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と組み合わされた場合、生着は達成可能であった。ELSMCが提示された場合、生着が発生したが、移植片近くの領域に制限された。
図9Aは、正常なブタの肝臓のトリクローム染色を示す。バーは、低倍率画像(a)については200μm、高倍率画像(b)については50μmである。グリソン鞘のコラーゲンおよび肝腺房間の境界に注意されたい。
図9Bは、成熟した間葉細胞(MMC)、血管内皮、および星状細胞と組み合わせた正常な成体肝細胞のパッチグラフトのトリクローム染色が生着しなかったことを示す。低倍率画像(a)では、グリソン鞘が損傷していないこと、および細胞が鞘の上に残っていることに注意されたい。(b)より高い倍率では、移植片の隣にある小葉の細胞(肝細胞内のまだらの赤色)の再形成(可塑性現象)の証拠がある。この可塑性は、幹細胞および成体細胞の両方に存在することが知られている膜結合型MMPに起因すると仮定される。
図9Cは、成熟した間葉細胞(MMC)と組み合わされた正常な成体肝細胞のパッチグラフトに関するIHCアッセイを示す。切片をRBMY-1に対する抗体で染色し、対比染色としてヘマトキシリンで染色した。グリソン鞘は無傷であり、小葉間の境界ゾーンも同様である。より高い倍率(b)では、生着が起こっていないことは明らかである。(d)非特異的染色を示すための陰性対照(一次抗体なしの染色)。
【
図9-2】
図9D~9Eは、血管内皮または星状細胞などの成熟した間葉細胞(MMC)と組み合わされた、成熟(成体)肝細胞のパッチグラフトに関する情報を提供する。
図9Dは、ここではブタ間葉幹細胞(MSC)が、MMPの細胞源の役割を果たした、ELSMCと組み合わされた正常な成体肝細胞のパッチグラフトのトリクローム染色を示す。移植片は、移植片と宿主組織との間の界面で分離される。ブラケットは、再形成の領域を示す。肝小葉は、通常はそれらの間の境界ゾーンを構成するマトリックスを失い、端でほつれているように見えることに留意されたい。より高い倍率(a)では、画像全体にドナー細胞(小葉の中心にある濃い赤色のものと比較して薄い赤色)が見られ、(b)および(c)では、グリソン鞘がパッチの下でかなり薄くなっていることを示す領域の拡大写真である(ボックスの左の領域と比較して)。移植片(c)に隣接した細胞において、幅広い再形成が明らかであった。
図9Eは、ELSMC(ブタMSC)と組み合わされた肝細胞の一週間後のパッチグラフトを示す。切片(a)をRBMY-1(茶色)に対する抗体で染色し、対比染色としてメチルグリーンで染色した。ドナー細胞は生着し(錆赤色の領域)、移植片近くの腺房で成体実質細胞に成熟した。切片(b)は、薄くなったグリソン鞘の残りの部分に近い画像の拡大写真を示し、ドナー細胞(暗褐色の核)が宿主細胞(核はメチルグリーンであった)に均一に散在していることを示した。切片(c)は(b)の陰性対照である。切片(d)を、GFPに対する抗体(ノーバスレッド(Novus red)と結合し、錆茶色になる)と、対比染色としてメチルグリーンで染色した。ほとんどの細胞が生着し、宿主肝腺房内に濃い赤色のドナー(成熟)肝細胞のバンドを形成した。グリソン鞘は残っていたが、厚さが減少した。移植片近くの肝臓の領域をはるかに超える移動は、実験の三週間の時間枠以内に観察されなかった。
【
図10】
図10は、幹細胞と成体細胞との生着を比較する概略図である。
【
図11】
図11は、生着プロセスが、宿主組織内の相当な距離への細胞の移動を伴う証拠を示す。BTSC/ELSMCの移植片では、移植後一週間のオルガノイドが示されている。8つの異なるゾーンに分けられた肝臓の概略図は、ドナー細胞の存在について評価された領域を示すために使用される。切片は、領域1~8から調製され、次いでドナー細胞の識別を可能にするために染色される。表には、移植片と各領域の間の距離、および見つかったGFP+細胞の割合を示す結果が要約されている。表の左側の画像は、各ゾーンの代表的な切片のスキャンである。暗褐色の染色は、移植片近くの6で最も強く、移植片からの距離が大きくなるにつれて薄くなり、最も薄いのはゾーン1である。
【
図12-1】
図12Aは、宿主肝臓全体でのドナー細胞の移動の証拠を提供する。GFP+細胞をNovo-red(錆茶色)で染色し、宿主細胞をメチルグリーンで染色した。
図12Aは、移植片と宿主肝臓との界面の低倍率画像である。宿主肝臓からの移植片の分離はしばしば見られ(
図3でもこれに注意のこと)、非常に高レベルの分泌型MMPと相関していることが示された。領域(a)および(b)の拡大写真は、以下に示される。染色がまだらであり、組織のヒアルロナンレベルが起因することが証明された色のさめた外観を示す領域を有する、低倍率画像の領域、および(b)の拡大写真の領域に注目されたい。
【
図12-2】
図12B~12Eは、宿主肝臓全体でのドナー細胞の移動の証拠を提供する。GFP+細胞をNovo-red(錆茶色)で染色し、宿主細胞をメチルグリーンで染色した。
図12Bは、細胞が移動する中間ゾーンを示す。ドナー細胞は、胆管および腺房の実質組織の両方の組織全体に存在する。
図12Cは、細胞が移動する距離ゾーンを示す。胆管のみが染色されていることに注目のこと。
図12Dは、胆管中のドナー細胞を示す拡大写真を提供する。
図12Eおよび
図12Fは、実質組織内の拡大写真を提供し、ドナー細胞が核中にGFPラベリングを有することを示す。
【
図13】
図13は、特定の裏打ちを備えたパッチグラフトで得た有害状態を示す(表1および2も参照のこと)。これらには、壊死、癒着、および膨張が管の閉塞を引き起こすように、移植片がいくつかの管に近すぎるところに置かれた場合に起こることが見出された、胆汁うっ滞の部位が含まれた。
【
図15】
図15は、腎臓にパッチグラフトされたH2B-GFP+BTSC/ELSMCのオルガノイドを示す。評価は移植後1週間で行われた。パネルAは、移植された腎臓のトリクローム染色を示す。腎臓は、断面で調製され、移植片を用いて「V」字型になっているより深い層を露出させた。明るい青色で染色されている「V」の下半分は、腎臓の移植片側であり、図中の「V」の上側は、移植された層より深い層である。パネルBは、移植された腎臓の同じ切片のH&E染色を示す。パネルCはパッチグラフトされた腎臓の高倍率である。移植片下の腎臓の被嚢は、肝臓と類似した方法で緩められた(MMPによる溶解から)。パネルDは、パッチ下の層で腎臓に生着したGFP+細胞(濃い赤色)のIHC染色を示す。パネルEは、腎臓のより深い層でGFP+細胞(濃い赤色)の生着を示す。剖検レポートでは、移植された腎臓内またはパッチグラフトを受けた動物の他の場所では壊死が見られなかったことが示された。
【0025】
表の簡単な説明
表1は、パッチグラフトのための外科手術またはその他の手法の概要を提供する。
【0026】
表2は、例示的パッチグラフトに対して試験された裏打ちの比較を提供する。
【0027】
表3は、実施例において、IHCおよびIFに使用される抗体の概要を提供する。
【0028】
表4は、qRT-PCRアッセイに使用されるプライマーの概要を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示による実施形態は、以下により完全に説明される。しかしながら、本開示の態様は、異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であるように提供され、本発明の範囲を当業者に完全に伝達することになる。本明細書の記載で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のために過ぎず、本発明の限定を意図するものではない。本明細書に記載されるすべての刊行物、特許出願、特許およびその他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されたものなどの用語は、本出願および関連する当該技術分野の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書に明示的に定義されていない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことがさらに理解される。以下に明示的に定義されていないが、そのような用語は、それらの共通の意味にしたがって解釈されるべきである。
【0031】
本技術の実施は、別段の指示がない限り、当業分野の範囲内にある組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および組み換えDNAの従来技術を採用する。例えば、Sambrook and Russell eds.(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4rd edition;the series Ausubel et al.eds.(2012)Current Protocols in Molecular Biology;the series Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);MacPherson et al.(1991)PCR 1:A Practical Approach(IRL Press at Oxford University Press);MacPherson et al.(1995)PCR 2:A Practical Approach;Harlow and Lane eds.(2014)Antibodies,A Laboratory Manual,2d edition;Freshney(2011)Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,6th edition;Gait ed.(1984)Oligonucleotide Synthesis;U.S.Patent No.4,683,195;Hames and Higgins eds.(1985)Nucleic Acid Hybridization;Anderson(1999)Nucleic Acid Hybridization;Hames and Higgins eds.(1984)Transcription and Translation;Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press(1986));Perbal(1984)A Practical Guide to Molecular Cloning;Miller and Calos eds.(1987)Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(Cold Spring Harbor Laboratory);Makrides ed.(2003)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells;Mayer and Walker eds.(1987)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology(Academic Press,London);and Herzenberg et al.eds(1996)Weir’s Handbook of Experimental Immunologyを参照のこと。
【0032】
文脈が別途示されていない限り、本明細書に記載の本発明の様々な特徴を任意の組み合わせで使用できることが特に意図されている。さらに、本開示は、いくつかの実施形態では、本明細書に記載される特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることも意図する。説明するために、本明細書が、複合体が成分A、BおよびCを含むと述べている場合、A、BまたはCのいずれか、またはそれらの組み合わせを、単独または任意の組み合わせで省略および放棄できることを特に意図している。
【0033】
例えば、pH、温度、時間、濃度、および範囲を含む分子量などのすべての数値表示は、必要に応じて1.0または0.1の増分、あるいは+/-15%、あるいは10%、あるいは5%、あるいは2%の変動で(+)または(-)に変化する近似値である。当然のことながら、必ずしも明示的に述べられていないが、すべての数値表示の前には「約」という用語がつく。また、当然のことながら、必ずしも明示的に述べられていないが、本明細書に記載される試薬は単に例示であり、そのような同等物は当該技術分野で公知である。
【0034】
定義
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別途示されていない限り、複数形を含むことが意図されている。
【0035】
本明細書で使用される「約」という用語は、量または濃度(例えば、バイオマトリックススカフォールド内の総タンパク質中のコラーゲンの割合)などの測定可能な値を指す場合、特定量の20%、10%、5%、1%、0.5%、またはさらに0.1%の変動を包含することを意味する。
【0036】
本明細書に開示される任意の成分、範囲、剤形などの選択を説明するために使用される用語または「許容可能」、「有効」もしくは「十分」は、該成分、範囲、剤形などが開示された目的に適しているとことを意図する。
【0037】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、一つまたは複数の関連する列挙された項目のうちの任意のおよび全ての可能性のある組み合わせ、ならびに二者択一(「または」)で解釈された時の組み合わせの欠如を意味し、包含する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、組成物および方法が列挙された要素を含むが、他のものを除外しないことを意味することを意図する。本明細書で使用される場合、「本質的に~から成る」(および文法的変形)という移行句は、列挙した材料またはステップおよび列挙された実施形態の「基本的および新規な特性に実質的に影響を与えないもの」を包含すると解釈されるべきである。In re Herz,537 F.2d 549,551-52,190 U.S.P.Q.461,463(CCPA 1976)(emphasis in the original);MPEP § 2111.03を参照のこと。したがって、本明細書で使用される「本質的に~から成る」という用語は、「含む」と同等として解釈されるべきではない。「から成る」は、他の成分の微量以上の要素、および本明細書に開示される組成物を投与するための実質的な方法ステップを除外することを意味するものとする。これらの移行用語の各々によって定義される態様は、本開示の範囲内である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「パッチグラフト」という用語は、ドナー細胞(同種または自己)を宿主に移植することを可能にする適切な生体材料中に埋め込まれた、または含まれた細胞の組成を指す。いくつかの実施形態では、用語は、ドナー細胞を宿主に移植することを可能にする適切な生体材料中に埋め込まれた、または含まれた細胞の組成を指す。生体材料は、定義された条件下で調製され(例えば、任意選択的に補充された基本培地および/または栄養因子、ビタミン、アミノ酸、炭水化物、ミネラル、インスリン、トランスフェリン/Fe、および/または脂質の培地(精製アルブミンと高密度リポタンパク質などのリポタンパク質担体分子との複合体である精製遊離脂肪酸))、任意選択で凝固し、ソフトゲルに含まれ(200Pa未満、任意に約100Pa)、外科的付着を可能にするのに十分な引っ張り強度を有するか、さもなければ宿主の組織または器官につながれ、さらにドナー細胞の分化に最小限の影響を及ぼす化学物質である裏打ちで覆われてもよい。避けたいのは、細胞の分化を促進する可能性のある因子、特に早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含むサプリメントであり、これらにはELSMCに影響を及ぼす血清、成長因子およびサイトカイン、ならびに成熟マトリックス成分(例えば、I型コラーゲン)が含まれる。
【0040】
「裏打ち」という用語は、本明細書で使用される場合、移植片を標的部位につなぎ、および/またはその中の細胞の標的部位への移動を促進し、および/または裏打ちに向かって細胞の移動を防止または阻害することができるパッチグラフトの表面上の裏打ちまたはバリアとして機能する材料を指す。裏打ちは、「生分解性、生体適合性材料」、「生体適合性、生分解性材料」、または材料を指すその任意のバリエーションであるか、またはそれらを含み、材料は(i)移植される対象と生体適合性がある、(ii)器官および組織(特に内部のもの)で発生する圧縮およびせん断力に耐える機械的弾性を示し、これによりこの材料が手術用組織として機能できるようになる、(iii)材料と接触している細胞の分化状態に中立的または最小限の影響を有する。いくつかの実施形態では、パッチグラフトの裏打ちはこうした材料を含む。このような実施形態では、(ii)の機械的弾性は、裏打ちが移植片を標的部位につなぐことができるようなものであるべきである。さらなるこうした実施形態では、裏打ちは、例えば、標的部位から離れる方向に移動するこれらの細胞の分化に影響を与えることによって、または該移動を物理的に遮断することによって、細胞移動を標的部位に向かって方向付ける。これに関して、適切な材料には、セリシルク(Seri-silk)、随意に輪郭セリシルク、またはその誘導体、そのアミニオン(aminion)またはその抽出物(例えば、胎児に面する側および/またはPGAおよび/またはPLLAから成るパッチまたは織物)が含まれるがこれらに限定されない。合成材料の適切なパッチの非限定的な例には、91%PGA-co-9%PLLAから成る織布パッチ、91%PGA-co-9%PLLAから成るニットパッチ、または100%PGAから成る不織布パッチが含まれる。より一般的に、適切な裏打ちには、SeriR Surgical Silk Scaffold(Sofregen、New York、NY)などのカイコガシルクの形態、カイコガシルクの他の誘導体、およびポリグリコール酸-co-ポリ-L-乳酸(PGA/PLLA)の形態などの合成繊維が含まれ得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、裏打ちは生体吸収性でもある。本明細書で使用される場合、「生体吸収性」とは、移植片の宿主またはレシピエントの身体によって破壊することができ、機械的除去を必要としない材料を指す。いくつかの実施形態では、生体吸収性裏打ちは、約2~約10週間、約2~約20週間、約2~約52週間、約4~約16週間、約4~約12週間、または約4~約8週間の間隔で生体吸収性である。いくつかの実施形態では、生体吸収性裏打ちは、約4~約8週間、約4~約12週間、約4~約16週間、約4~約20週間、および約4~約52週間の間隔で生体吸収性である。
【0042】
本明細書で使用される場合、移植片の生体材料には、裏打ちとは無関係に、ハイドロゲルを形成できるものが含まれる。「ゲル」という用語は、軟らかくて弱いものから硬くて丈夫なものまでさまざまな特性を有することができる固体のゼリー様材料を意味する。ゲルは実質的に希薄な架橋システムとして定義され、定常状態にある時には流れを示さない。重量では、ゲルはほとんど液体であるが、それらは液体内の三次元架橋ネットワークにより固体のように動くことになる。ゲルにその構造(硬度、剛性、機械的特性または粘弾性特性)を与え、その接着性に寄与するのは、流体内の架橋である。このように、ゲルは、固体が連続相であり、液体が不連続相である固体内の液体の分子の分散である。「ハイドロゲル」は本明細書では「ハイドロゲルマトリックス」とも呼称されるが、ポリマー鎖のネットワークで構成された高分子ポリマーゲルで構成されるゲルの非限定的な例である。ハイドロゲルは、ネットワーク形成と共に、鎖またはステップ成長のいずれかによって、親水性モノマーまたは親水性二量体(例えば、ヒアルロナンの場合)から合成される。空隙欠陥と共にネット様構造は、水素結合を介して大量の水を吸収するハイドロゲルの能力を高める。結果として、ハイドロゲルは、特徴的でしっかりした、しかし弾性のある機械的特性を発達させる。古い結合が材料内で破壊された場合、新しい結合を自然に形成することができる。静電気吸着力と共にハイドロゲルの構造は、非共有の水素結合を介した新しい結合形成を促進する。
【0043】
移植片に使用される生体材料は、生体材料の粘弾性としてより厳しく定義されうる機械的特性、剛性を有する。https://en.wikipedia.org/wiki/Viscoelasticityを参照のこと。生着につながる移植片生体材料は、非常に軟質(例えば、約100Pa)で、ドナー細胞が未成熟のままであり(Lozoya et al.Biomaterials 2011;32(30):7389-7402)、膜結合型および/または分泌型MMPを生成できる条件でなければならない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「粘弾性」という用語は、変形を受けると粘性および弾性の両方の特性を示す材料の特性を意味する。ハチミツのような粘性材料は、せん断流に抵抗し、応力が加わると、時間と共に直線的に歪む。弾性材料は、引き伸ばされると歪み、応力が取り除かれると、迅速に元の状態に戻る。粘弾性材料は、これらの特性の両方の要素を有し、そのため、時間依存性歪みを呈する。弾性は通常、秩序ある固体における結晶学的平面に沿って延びる結合の結果であるが、粘性は非晶質材料内部の原子または分子の拡散の結果である。材料の機械的および粘弾性応答を試験する数多くの機器があるが、粘弾性の挙動を試験するために、周囲温度より上および下で使用でき、粘弾性を試験するのにより具体的であるため、広帯域粘弾性分光法(BVS)および共鳴超音波分光法(RUS)は、より一般的に使用される。これらの二つの機器は、時間と温度の重ね合わせに訴えることなく、様々な周波数および時間範囲で減衰機構を採用する。BVSおよびRUSを使用して材料の機械的特性を研究することは、粘弾性を呈する材料がどのように機能するかを理解するために重要である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ヒアルロナン」または「ヒアルロン酸」という用語は、β1-4、β1-3結合およびその塩によって連結されたグルコサミンおよびグルクロン酸[1-3]から成る二糖単位のポリマーを意味する。したがって、ヒアルロナンという用語は、ヒアルロナンの天然形態および合成形態の両方を指す。天然起源のヒアルロナン(HA)、D-グルクロン酸(GlcUA)およびN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)の二糖単位を含む水溶性多糖類は、交互に連結されて線状ポリマーを形成する。高分子量HAは、100~10,000個の二糖単位を含み得る。HAは、多くの場合、ナトリウム塩、ヒアルロン酸ナトリウムとして天然に発生している。HA;ヒアルロン酸ナトリウムおよびHAまたはヒアルロン酸ナトリウムのいずれかの調製物は、「ヒアルロナン」と呼ばれることが多い。許容可能なヒアルロン酸の非限定的な例としては、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、およびヒアルロン酸カルシウムが挙げられる。
【0046】
その他のグリコサミノグリカン(GAG)をハイドロゲルで使用することもできる。これらには、コンドロイチン硫酸(CS)とデルマタン硫酸(DS)、グルクロン酸とガラクトサミンのポリマー、ヘパラン硫酸(HS)とヘパリン(HP)、グルクロン酸とグルコサミンのポリマーが含まれる。硫酸化パターンは、複数のタンパク質ファミリー(例えば、凝固タンパク質、成長因子、サイトカイン、好中球酵素)との複合体の形成を決定するため、これらのGAGの硫酸化の程度およびパターンは重要である。例えば、Powell AK,Yates EA,Fernig DG,Turnbull JE.Interactions of heparin/heparan sulfate with proteins:appraisal of structural factors and experimental approaches.Glycobiology.2004 Apr;14(4):17R-30R]を参照のこと。以下に示されるように、生着を最適化するパッチグラフトに適したものには、ヒアルロナン、非硫酸化GAG、肝細胞の壁龕に見られるコンドロイチン硫酸のような硫酸化が最小限のものが含まれる。Karumbaiah L、et al.Chondroitin Sulfate Glycosaminoglycan Hydrogels Create Endogenous Niches for Neural Stem Cells.Bioconjug Chem.2015 Dec 16;26(12):2336-49 and Hayes AJ,et al.Chondroitin sulfate sulfation motifs as putative biomarkers for isolation of articular cartilage progenitor cells.J Histochem Cytochem.2008 Feb;56(2):125-38(参照により本明細書に組み込まれる)。
【0047】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、移植片中の一つまたは複数の細胞を指す。本開示の細胞は真核生物である。いくつかの実施形態では、この細胞は、任意でヒト器官由来の動物由来であり、幹細胞、成熟体細胞、前駆細胞、または幹細胞から成熟細胞までの系統段階の中間体であり得る。「細胞の集団」または「細胞」という用語は、同じまたは異なる起源を持つ同じまたは異なる細胞型の一つまたは複数の細胞の群を指し、この用語は、本明細書では「ドナー細胞」という用語と交換可能に使用され、自己または同種でありうる細胞を意図する。いくつかの実施形態では、この細胞の集団は、新たに単離された細胞からの細胞株に由来してもよく、またはいくつかの実施形態では、この細胞の集団は、任意でドナーまたはレシピエントからの器官または組織の一部に由来してもよい。
【0048】
「幹細胞」という用語は、自己複製することができ(親細胞と同一の娘細胞を生成)、多能性であり、すなわち、複数のタイプの成体細胞を生じさせることができる細胞集団を指す。本明細書で使用される場合、「前駆細胞」または「前駆体」という用語は、幹細胞の子孫およびその子孫を包含するように広く定義される。前駆体は、多能性、両能性、または単能性であり得るが、自己複製能力が(あるとしても)最小限の細胞集団である。コミットした前駆体は、単能性であり、特定の系統に分化して、一つの成熟細胞型のみにつながる可能性がある。幹細胞の非限定的な例としては、胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、胚葉幹細胞、決定された幹細胞(外胚葉性、中胚葉性、または内胚葉性)、周産期幹細胞、羊水由来幹細胞、間葉幹細胞(MSC)、血管芽細胞、および臍帯、ホウォートンゼリー、および/または胎盤由来のものが挙げられるが、これらに限定されない。幹細胞とコミットした前駆体との間の中間体には、肝芽細胞および膵管前駆体などの細胞集団、および多能性であるが、広範な増殖能力があり、自己複製性能が(もしあれば)より限定的である、他の形態のTA細胞が含まれる。
【0049】
「間葉細胞」という用語は、血管芽細胞、血管内皮前駆体、星状細胞前駆体、血管内皮、星状細胞、間質細胞、成熟および前駆細胞のさまざまな亜集団、ならびに多能性間質細胞および成熟および前駆体間葉細胞のさまざまな亜集団である間葉幹細胞(MSC)を含むが、これらに限定されない、間葉由来の細胞を指す。MSCは、組織から培養選択プロセスにより調製された細胞集団である(Cathery et al.Stem Cells 2018;PMID:29732653;Graceb et al.Biochimie 2018:PMID 29698670;Caplan AI.Stem Cells Int.2015;PMID:26273305。成熟した間葉細胞には少なくとも二つの主なカテゴリーがある。(a)線維コラーゲン(例えば、I、III、V型)および関連するマトリックス成分(フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン)、および複合体を形成する結合シグナル(例えば、成長因子、サイトカイン)、および通常は線形(紐状)細胞集団である細胞に関連する複合体を形成する結合シグナル(例えば、成長因子、サイトカイン)を含む細胞外マトリックスの形態を生成し、それらに囲まれている成熟した間葉細胞(星状/間質細胞)。こうした細胞の非限定的な例には、星状細胞、腱、間質、および筋線維芽細胞が挙げられる。(b)ネットワークコラーゲン(例えば、IV型、VI型、VIII、X)および関連するマトリックス分子(ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ヘパリンプロテオグリカン)、およびより扁平または立方状または玉石の形態を有する細胞に関連する結合シグナル(例えば、成長因子、サイトカイン)を含む細胞外マトリックスの形態を生成し、それらに囲まれている血管内皮などの成熟した間葉細胞。こうした細胞の非限定的な例としては、血管内皮、および筋上皮が挙げられる。
【0050】
これらの間葉細胞型の前駆体には、多能性であり、血管内皮(この後期段階は有窓血管内皮)または星状細胞(この後期段階は筋線維芽細胞(間質)の系統に分化することができる血管芽細胞が含まれるが、これらに限定されない。前駆体には、多能性細胞であり、線維芽細胞(間質)、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨細胞(軟骨細胞)、筋細胞(筋肉細胞)、および脂肪細胞(脂肪細胞)にも分化できる間葉幹細胞(MSC)も含まれる。MSCは、培養選択方法によって任意に調製され得る(Cathery et al.Stem Cells 2018;PMID:29732653;Graceb et al.Biochimie 2018:PMID 29698670;Caplan AI.Stem Cells Int.2015;PMID:26273305。
【0051】
「上皮細胞増殖」という用語は、典型的には立方状または玉石形態を有するコロニーを形成する上皮細胞のコロニーの直径と、コロニーの細胞の直径の複合である成長の推定値と相関する。対照的に、間葉細胞がより遊走性および運動性が高く、コロニー密度はコロニー境界内に残る細胞の正味合計を反映しているので、間葉細胞コロニーの成長の推定値はコロニーの密度と相関する。
【0052】
「上皮細胞」という用語は、組織および/または宿主の全身ニーズに多様な機能を提供する特殊な細胞である、上皮に由来する細胞を指す。それらは、前駆体または未成熟細胞として移動する能力によって認識される。成熟すると静止状態になり、頂部、基底部、および側面を有する扁平または玉石状または柱状の分極細胞の層を形成し、それらは各種接合部(コネキシン、密着結合、付着)によって相互に結合される。その膨張可能性は、コロニーの(密度によってではなく)直径で示される。成熟した上皮細胞は、特殊な産生物の分泌、または代謝(肝細胞、胆管細胞)、解毒(肝細胞)、酵素の産生(腺房細胞)、内分泌因子の産生(例えば、膵島または他の内分泌細胞)、電気活性度(神経細胞)、および吸収(腸細胞)への寄与などの多様な機能を提供する。
【0053】
「胆管幹細胞」(BTSC)という用語は、胆管全体に見られ、胆管周囲腺(PBG)、ブルンナー腺、壁外および壁内の両方、ならびに胆嚢絨毛の陰窩中に位置する上皮幹細胞を指す。これらは、コミットした肝臓および/または膵臓前駆細胞に移行する能力を有する。肝臓の子孫は、ヘリング管を介して肝臓の類洞に入る。膵臓の前駆体は、膵臓内に位置する胆管の領域である膵管腺(PDG)内に見られる。
【0054】
これまでのところ、幹細胞集団の少なくとも7つの亜集団は、重複した特性で特定され、極めて原始的なBTSCから肝臓または膵臓幹細胞として定義可能な幹細胞集団にまで渡る。これらについて知られている内容の説明を以下に示す。最も原始的なものは、壁外胆管周囲腺―胆管の表面につながれたものと、壁内胆管周囲腺―胆管壁内に見られるもの、の両方に見られた。胆管壁の中心にある線維筋層の近くの壁内胆管周囲腺(PBG)は、最も原始的な幹細胞集団が見られる壁龕である、陰窩とみなすこともできる(腸陰窩と類似)。胆管ネットワーク内のPBGの最大数は、肝膵の共通管内および大きな肝内胆管内で見られる。胆嚢にはPBGは発生しないが、代わりに、胆嚢内の幹細胞壁龕は、肝幹細胞の前駆体である中期から後期段階幹細胞集団を含む胆嚢絨毛の底部である。BTSCは、肝臓および膵臓両方の前駆体である。それらは肝臓幹細胞、肝臓の前駆体、および膵臓幹細胞、膵臓の前駆体を生じさせ、これらは胆管全体に見られるが、その数は肝臓に近いか膵臓に近いかによって影響を受ける。したがって、少数の膵臓幹細胞および多数の肝臓幹細胞が大きな肝内胆管のPBGに位置し、一方で少数の肝臓幹細胞および多数の膵臓幹細胞が肝膵の共通管のPBGに位置する。
【0055】
遺伝子シグネチャの概要を図に示す。一般的に、BTSCのすべての亜集団は、肝臓および膵臓の両方の内胚葉性転写因子(例えば、SOX9、SOX17、PDX1)、多能性遺伝子(例えば、OCT4、SOX2、NANOG、SALL4、KLF4/KLF5、BMI-1);CD44の一つまたは複数のヒアルロナン受容体アイソフォーム(標準および/またはバリアントアイソフォーム);CXCR4;ならびにサイトケラチン8および18を含む、ジェネリックバイオマーカーを発現する。胆管およびPBG内の幹細胞亜集団は以下を含む。(1)CK7、TRA-160および181を発現し、また腸の幹細胞とは異なる特性を有する、十二指腸の粘膜下層にあるブルンナー腺細胞。(2)ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)およびCXCR4、OCT4、SOX2、NANOGは発現するが、LGR5またはEpCAMは発現しない、初期段階壁内胆管幹細胞(BTSC)。(3)NISの発現は少ないが、EpCAMではなくLGR5の発現を得る中間段階壁内BTSC。(4)大きな肝内胆管および肝膵の共通管でも多数見られる、後期段階壁内BTSC(胆嚢で見られる唯一のBTSC)。これらはLGR5とEpCAMの両方を発現する。これらは肝臓幹細胞(肝臓内にあり、SOX17を発現するが、PDX1は発現しない)および膵臓幹細胞(肝膵の共通管内にあり、PDX1を発現するがSOX17は発現しない)の前駆体である。(5)肝臓幹細胞は、へリング管、大きな肝内胆管のPBG、肝外胆管のPBG、および肝膵の共通管のPBGに見ることができるが、最も多く見られるのは肝内部位である。肝臓幹細胞は、自己複製の能力および多能性を保持する。これらの細胞のためのバイオマーカーには、SOX9、SOX17、HNF-4アルファ、ITGB1(CD29)、ONECUT2、SALL4、LGR5、CD44、細胞質中および細胞膜に見られる上皮細胞接着分子(EpCAM)、神経細胞接着分子(NCAM)、CD133(プロミニン)、無視できるレベル(または存在しない)アルブミン、αフェトプロテイン(AFP)の完全欠如、P450 A7の欠如、およびセクレチン受容体(SR)の欠如が挙げられる。肝臓幹細胞および肝芽細胞は、サイトカイン8、18、および19を発現する。(6)膵臓幹細胞は、胆管全体にわたって少数見られるが(大きな肝内胆管のPBGでも)、肝膵の共通管のPBGでは多数見られる。これらは、多能性遺伝子と、全ての幹細胞集団に見られる他の遺伝子の発現を有するが、SOX17を有さなくなったという点で異なり、膵島に系統を限定する亜集団は、NGN3を発現する。これらは細胞全体および細胞膜でEpCAMを発現し、低インスリンを発現する(または発現しない)。それらの成熟は、インスリン発現の増加、ならびに他の膵島ホルモン(例えば、グルカゴン)の発現と相関する。腺房集団に成熟するものは、MUC6およびアミラーゼを発現する。
【0056】
肝臓幹細胞および膵臓幹細胞も、発生の初期にそれぞれのソース器官に見られる場合があり(例えば、ESC他)、本明細書に開示されるこれらの細胞のいずれかは、誘導を通して代替的に生成できる(すなわち、「iPSC」)ことに留意されたい。
【0057】
本明細書で使用される場合、「支持」という用語は、別の系統段階からの細胞の伝播を支援するか、または生存、膨張、移動、分化、および成熟の観点から隣接細胞に対する影響にアクティブな要因である「パラクリン信号」の生成を通じて隣接細胞に支援を提供できる細胞を説明するために使用される。例えば、支持間葉細胞は、上皮細胞に影響を与える能力、随意にマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)および/または一つまたは複数のパラクリン信号または成長因子の分泌を介して定義され得る。これらの多くは最近のレビューにまとめられている。(Cathery et al.Stem Cells 2018;PMID:29732653;Graceb et al.Biochimie 2018:PMID 29698670;Caplan AI.Stem Cells Int.2015;PMID:26273305。
【0058】
「系統段階パートナー」という用語は、本明細書において、細胞の生着をサポートするのに適切な系統段階である、間葉細胞および/または上皮細胞を指す。肝臓または胆管幹細胞については、血管芽細胞(CD117+、CD133+、VEGFr+、CD31陰性)およびその直接の子孫、血管内皮の前駆体(CD133+、VEGFr+、CD31+、フォン・ヴィレブランド因子(vWF+))ならびに星状細胞の前駆体(CD146+、ICAM-1+、平滑筋αアクチン+(ASMA)、ビタミンA陰性)から成る。これらは、限定されないが、骨髄または脂肪組織由来のものなど、間葉幹細胞(MSC)を使用することによって、部分的におよび/またはある程度で模倣することができる。理論に束縛されるものではないが、このような細胞は、組織から分離した直後に、または理想的には無血清条件下での最小限の継代後に使用されるべきであると考えられる。これらの細胞は、本明細書において、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と総称される。
【0059】
系統ネットワーク内の中間体は、「TA細胞」と呼ばれるが、両能性(または多能性)であり得る細胞は、かなりの増殖能力を有するが、真の自己複製は(もしあれば)ほとんど示さず、低から中程度(ない場合も)の多能性遺伝子発現を有し、肝臓(例えば、アルブミン、アルファ-フェトタンパク質)または膵臓(例えば、インスリン、MUC6、アミラーゼ)の運命に対するコミットを示す特性を発現する。これらには、肝芽細胞(肝臓を生じさせるネットワーク)および膵管前駆体(膵臓を生じるネットワーク)が含まれる。
【0060】
本明細書において使用される場合、「膵管前駆体」という用語は、膵臓内の膵管腺(PDG)内に見られる両能性細胞を指し、腺房細胞および膵島を生じさせる。研究では、これらが、SOX9、PDX1、PTF1a、HNF1β、EpCAM、LGR5、ICAM-1、CD44を発現し、亜集団がNGN3またはMUC6またはアミラーゼを発現することが見出された。それらは他者によって広範囲に特徴付けられてきた。例えば、Rezanejad H,Ouziel-Yahalom L,Keyzer CA,Sullivan BA,Hollister-Lock J,Li WC,Guo L,Deng S,Lei J,Markmann J,Bonner-Weir S.Heterogeneity of SOX9 and HNF1β is dynamic.Stem Cell Reports.2018 Mar 13;10(3):725-738を参照のこと。
【0061】
本明細書において使用される場合、「肝芽細胞」という用語は、肝細胞および胆管細胞系統を生じさせることができ、ヘリング管内もしくはヘリング管に隣接して、または大きな肝内胆管内のPBG内に見られる、両能性肝臓細胞を指す。これらは、肝臓幹細胞またはBTSCで観察されたものに比べて、増殖(すなわち、拡大)する並外れた能力を有するが、自己複製する能力(もしあれば)は低い。これらの細胞は、肝臓幹細胞または胆管幹細胞と重複するが、それと異なるバイオマーカープロファイルによって特徴付けられる。これらは、SOX9、低(または無視できる)レベルのSOX17、高レベルのLGR5、HNF4-α、およびEpCAMを発現し、主に細胞膜で見られ、P450A7、サイトケラチン7、セクレチン受容体を発現し、すべての肝芽細胞で一貫してアルブミンを発現し、高レベルのアルファフェトタンパク質(AFP)、細胞接着分子(ICAM-1)を発現するが、NCAMは発現せず、多能性遺伝子は無視できるレベルか全く発現しない(例えば、SALL4、KL4/KLF5、OCT4、SOX2、NANOG)。)また、成熟肝臓実質マーカーも発現しない(例えば、P4503AなどのP450)。
【0062】
本明細書で使用される場合、「コミットした前駆体」という用語は、単一の細胞型、例えばコミットした肝細胞前駆体細胞を生じさせる、単能性前駆体を指す。いくつかの実施形態では、これらは多能性遺伝子を発現しない。コミットした肝細胞性前駆体は、アルブミン、AFP、グリコーゲン、ICAM-1、グリコーゲン合成に関与する様々な酵素、およびギャップ接合遺伝子、コネキシン28の発現によって認識される。これらは肝細胞を生じさせる。コミットした胆管(または胆管細胞)前駆体は、胆管細胞を生じさせ、EpCAM、サイトケラチン7および19、アクアポリン、CFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)、および胆汁の産生に関連する膜ポンプの発現によって認識される。いくつかの実施形態では、コミットした膵島前駆体は、インスリン、グルカゴン、およびその他の膵島ホルモンを低レベルではあるが発現し、成熟すると、膵島ホルモンの発現レベルは増加するが、特定の細胞が優先的に特定のホルモンを発現する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「凝集体」という用語は、一緒に集められた複数の細胞を指す。凝集体は、サイズおよび形状の両方で異なってもよく、または実質的に均一なサイズおよび/または形状であってもよい。本明細書で使用される細胞凝集体は、例えば、球形、円筒(好ましくは等しい高さおよび直径を有する)、またはとりわけ棒状など、様々な形状のものとすることができる。他の形状の凝集体を使用することができるが、本開示の一実施形態では、細胞凝集体は球形または円筒形であることが一般的に好ましい。「非凝集」という用語は、個体、または単細胞、幹および/または前駆細胞または成熟細胞を指す。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される組成物は、実質的に凝集した細胞、実質的に凝集していない細胞、またはそれらの混合物を含むことができる。
【0064】
本明細書では、「オルガノイド」という用語は、本明細書に記載される単純なパニング法によって自己組織化される間葉細胞を有するドナー上皮細胞の特定の細胞凝集体を意味する。いくつかの実施形態では、間葉細胞は支持的な間葉細胞である。いくつかの実施形態では、オルガノイドは、低付着皿で培養した後に、懸濁液中の凝集細胞の系統段階に合わせた無血清の定義された条件下で形成される。他には、マトリゲルなどの特定のマトリックス抽出物を利用して、オルガノイドが調製される。実際に、この物質は業界標準であることが知られている。Hindley et al.Dev.Biology 2016;420:251-261.PMID:27364469を参照のこと。これらのオルガノイドが維持される記載の条件は、本発明で説明したパッチグラフトにおけるこれらのオルガノイドの使用にはうまく機能しない。マトリゲルに見られるものなどの因子は、これらのパッチグラフトの成功に必要な細胞によるMMP産生を停止または実質的に減少させる。さらに、マトリゲルは、細胞を臨床的にヒトで使用したり、獣医目的で使用するための条件の成分にはなり得ない。
【0065】
「培養」または「細胞培養」という用語は、人工的なインビトロ環境での細胞の維持を意味する。「細胞培養システム」は本明細書で使用される場合、細胞集団がエクスビボ(生体外で)で成長できる培養条件を指す。
【0066】
本明細書で使用される「培養培地」は、細胞の培養、成長、または増殖のための栄養液を指す。培養培地は、これらに限定されないが、細胞を特定の状態(例えば、多能性状態、増殖状態、静止状態、など)に維持する能力、細胞を成熟させる能力、いくつかの場合では、具体的には、前駆体細胞の特定の系統の細胞への分化を促進する能力などの機能的特性によって特徴付けられてもよい。培養培地の非限定的な例は、典型的には約10%~約20%のレベルで血清を補充した任意の基底培地である、血清補充培地(SSM)である。血清は、自己(細胞と同じ種)、またはより一般的には、商業的な目的(例えば、ニワトリ、ウシ、ブタなど)のために日常的に屠殺される動物由来の血清とすることができる。特に、幹細胞が関与する本実施形態は、分化を駆動する血清および/または血清成分の組み込みを回避する培地を使用する。内胚葉性の幹/前駆体用に設計された無血清培地である、クボタの培地は、銅、低カルシウム(<0.5mM)を含まず、セレン、亜鉛、インスリン、トランスフェリン、脂質で補充されているが、サイトカインまたは成長因子を含まない培地(栄養素、アミノ酸、ビタミン、塩、炭水化物)である、基底培地から成る。幹細胞を支持するその他の培地も使用できる可能性があるが、成熟プロセスが膜結合型および/または分泌型MMPの産生を弱めることになるため、細胞を分化させる任意の要因を回避する必要がある。
【0067】
基底培地は、細胞培養に使用される緩衝液であり、アミノ酸、糖、脂質、ビタミン、ミネラル、塩、微量元素、および細胞周囲の間質液の化学成分を模倣する組成物中の様々な栄養素から成る。さらに、細胞培養培地は通常、少ない割合(典型的に2~10%)の血清で補充された基底培地から成る。本明細書に記載する移植技術では、条件を使用して細胞を幹細胞または早期前駆体細胞として維持するため、細胞を成熟細胞の運命に向かわせる可能性のある血清または任意の典型的なサプリメントを回避する。通常の基底培地に加えて、様々な栄養補助剤、脂質(アルブミンと高密度リポタンパク質などの担体分子と複合した遊離脂肪酸の混合物)。二つのホルモン/成長因子のみが追加される:炭水化物代謝に必要なインスリン、およびポリメラーゼのためのFe担体として必要なトランスフェリン。内胚葉性の幹/前駆体用に設計された無血清培地である、クボタの培地は、銅、低カルシウム(<0.5mM)を含まず、亜鉛、セレン、インスリン、トランスフェリン、脂質で補充されているが、サイトカインまたは成長因子を含まない基底培地から成る。その他の成長因子およびサイトカインおよび特に血清は、ドナー細胞の分化を誘発し、それによって生着および移動プロセスに必要なMMPの産生を最小化するために避けるべきである。
【0068】
本明細書で使用する場合、「クボタの培地」とは、銅、カルシウム(<0.5mM)、セレン、亜鉛、インスリン、トランスフェリン/Fe、精製アルブミンに結合した遊離脂肪酸の混合物、および任意に高密度のリポタンパク質(HDL)を含有しない任意の培地を指す。いくつかの実施形態では、クボタの培地は、銅、低カルシウム(例えば、0.3mM)、約10~9Mのセレン、約0.1%ウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミン(高精製および脂肪酸なし)、約4.5mMのニコチンアミド、約0.1nMの硫酸亜鉛七水和物、約10~8Mのヒドロコルチゾン(肝臓前駆体には使用されるが膵臓前駆体には使用されない任意の成分)、約5μg/mlのトランスフェリン/Fe、約5μg/mlのインスリン、約10μg/mlの高密度リポタンパク質、および精製血清アルブミンに結合した後に加えられた精製遊離脂肪酸の混合物を含まない、任意の培地(例えば、RPMI 1640またはDMEM-F12)を含む。遊離脂肪酸混合物は、それぞれ約100mMのパルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびステアリン酸から成る。この培地の調製のための非限定的な例示的方法は、他の場所で公開されている。例えば、Kubota H,Reid LM,Proc.Nat.Acad.Scien.(米国)2000;97:12132-12137、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
いくつかの実施形態では、したがって、これらのパッチグラフトの条件は、少ない割合(一般的に2~10%)の血清で補充した培地の日常的な使用に反している。血清は、生物学的プロセス(例えば、増殖、分化)を促進するために必要な必須シグナル伝達分子(ホルモン、成長因子、サイトカイン)を提供するために、長期間追加されてきた。いくつかの実施形態では、細胞の分化を避けるため、および/または特に分泌型MMPの産生の不活性化もしくは抑制を避けるために、血清は含まれていない。
【0070】
本明細書で使用される場合、「有効な量」または「有効量」という用語は、疾患状態または症状(例えば、肝臓または膵臓疾患)を治療するのに十分な量を指す。有効量は、一回または複数回の投与、塗布または用量で投与することができる。このような送達は、個別の投与単位が使用される期間、組成物の生物学的利用性、投与経路などを含む多くの変数に依存する。しかしながら、任意の特定の患者に対する組成物の特定の量は、使用される特定の薬剤の活性、患者の年齢、体重、健康状態、性別、および食事、投与の時間、排泄量、組成物の組み合わせ、治療している特定の疾患(例えば、肝臓または膵臓疾患)の重症度、および投与の形態を含む種々の要因に依存することが理解される。
【0071】
「同等」または「生物学的同等物」という用語は、特定の分子、生物学的、または細胞材料を指すときに互換的に使用され、所望の構造または機能を維持しながら、最小限の相同性を有するものを意図する。
【0072】
本明細書で使用される場合、「発現」という用語は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNAがその後ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含み得る。遺伝子の発現レベルは、細胞または組織試料中のmRNAまたはタンパク質の量を測定することによって決定されてもよく、さらに、複数の遺伝子の発現レベルは、特定の試料の発現プロファイルを確立するために決定されてもよい。
【0073】
本明細書で使用される場合、「機能的」という用語は、特別な特定の効果を達成することを意図するために、任意の分子、生物学的、または細胞材料を修飾するために使用され得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、RNAがコード(例えば、mRNA)または非コード(例えば、ncRNA)であるかどうかにかかわらず、RNA分子に転写された任意の核酸配列を広く含むことを意味する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「生成する」という用語とその同義語(例えば、生成している、生成した、など)は、本開示のオルガノイドを存在させる方法ステップを指すとき、「産生する」およびその同義語と互換的に使用される。
【0076】
「単離された」という用語は、本明細書で使用される場合、その他の材料を実質的に含まない分子または生物学的もしくは細胞材料を指す。
【0077】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドまたはその類似体のいずれかの任意の長さのヌクレオチドの高分子形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元(3D)構造を有することができ、公知または未知の任意の機能を実施し得る。以下はポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子フラグメント(例えば、プローブ、プライマー、ESTまたはSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、RNAi、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブおよびプライマー。
【0078】
ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含むことができる。存在する場合、ポリヌクレオチドのアセンブリの前または後に、ヌクレオチド構造に対する修飾を付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断される可能性がある。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合などにより、重合後にさらに修飾することができる。この用語はまた、二本鎖分子および一本鎖分子の両方を指す。別途指定または必要な場合を除き、ポリヌクレオチドであるこの技術の任意の態様は、二本鎖型と、二本鎖型を構成することが公知のまたは予測される、それぞれの二つの相補的な一本鎖型との両方を包含する。
【0079】
「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、二つ以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸類似体、またはペプチド模倣体の化合物を意味するために、互換的に最も広い意味で使用される。サブユニットは、ペプチド結合によって連結されてもよい。別の態様では、サブユニットは、他の結合、例えば、エステル、エーテルなどによって連結されてもよい。タンパク質またはペプチドは、少なくとも二つのアミノ酸を含む必要があり、タンパク質またはペプチドの配列を構成し得る、アミノ酸の最大数に制限はない。本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、グリシンおよびDおよびL両方の光学異性体、アミノ酸類似体、およびペプチド模倣体を含む、天然および/または非天然または合成アミノ酸のいずれかを指す。
【0080】
本明細書で使用される場合、「対象」および「患者」という用語は、互換的に使用され、任意の動物を意味することが意図されている。いくつかの実施形態では、対象は哺乳類であってもよい。いくつかの実施形態では、哺乳類は、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、マウス、ヒト、またはラットである。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0081】
本明細書で使用される場合、「組織」という用語は、生きているもしくは死亡した生物体の組織、または生きているもしくは死亡した生物体由来のまたはそれを模倣するように設計された任意の組織を指す。組織は、健康、病気、外傷によって負傷、損傷および/または遺伝的変異を有する場合がある。「自然組織」または「生体組織」という用語および変形は、本明細書で使用される場合、その自然状態、または生物体に由来するときから未修飾の状態で存在する生体組織を指す。「微小器官」は、「自然組織」を模倣する「生物工学的組織」のセグメントを指す。
【0082】
生体組織は、任意の単一組織(例えば、相互接続され得る細胞の集合)または生物体の体の器官もしくは部分もしくは領域を構成する組織の群を含み得る。組織は、均質な細胞材料を含んでもよく、または例えば、肺組織、骨格組織、および/または筋組織を含むことができる胸部を含む体の領域で見られるような複合構造であってもよい。例示的組織としては、肝臓、膵臓、胆管、肺、腸、甲状腺、胸腺胸腺、膀胱、腎臓、前立腺、子宮、乳房、皮膚および皮下組織、脳、脊髄、血管(例えば、大動脈、腸骨静脈)、心臓、筋肉、およびそれらの任意の組み合わせに由来するものを含むが、これらに限定されない。
【0083】
本明細書で使用される場合、対象の疾患を「治療する」または疾患の「治療」は、(1)疾患の素因がある、または疾患の症状がまだ表れていない対象に、症状または疾患が発生するのを防ぐこと、(2)疾患を抑制すること、または発症を阻止すること、(3)疾患または疾患の症状を改善すること、または退行させることを指す。当技術分野で理解されているように、「治療」は、臨床結果を含む、有益または望ましい結果を得るための手法である。本技術の目的のための有益または望ましい結果は、検出可能または検出不能にかかわらず、一つまたは複数の症状の緩和または改善、状態の程度の減弱(疾患を含む)、状態の状況(疾患を含む)の安定化(すなわち、悪化しない)、状態の遅延または減速(疾患を含む)、状態の進行、改善、または緩和(疾患を含む)、状況および寛解(部分的か全身的か)のうちの一つまたは複数を含むことができるが、これらに限定されない。
【0084】
略語
AFP、α-フェトタンパク質;ALB、アルブミン;BTSC、胆管幹細胞;CD、共通決定;CD44、ヒアルロナン受容体;CD133、プロミニン;CFTR、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子;CK、サイトケラチンタンパク質;CXCR4、CXC-ケモカイン受容体4(フーシンまたはCD184とも呼ばれる;血小板因子4とも呼ばれる;EGF、上皮成長因子;ELSMC、血管芽細胞およびそれらの子孫、血管内皮細胞および星状細胞の前駆体から成る早期系統段階間葉細胞;EpCAM、上皮細胞接着分子;FGF、線維芽細胞成長因子;HB、肝芽細胞;HGF、肝細胞成長因子;HpSC、肝臓幹細胞;KM、内胚葉性幹細胞用に設計された無血清培地であるクボタの培地;KRT、サイトケラチン遺伝子;LGR5、R-スポンジンに結合するロイシンリッチリピート含有G-タンパク質共役型受容体5;MMP、細胞外マトリックスの溶解、細胞移動および再生反応に関連するプロテイナーゼの大きなファミリーである、マトリックスメタロプロテイナーゼ;NANOG、自己複製に決定的に関与する転写因子;NCAM、神経細胞接着分子;NIS、ナトリウム/ヨウ化物共輸送体;OCT4、(オクタマー結合転写因子4)幹細胞によって発現される遺伝子である、POU5F1とも呼ばれる(POUドメイン、クラス5、転写因子1);PDX1、膵臓の発達に重要な転写因子である、膵臓および十二指腸のホメオボックス1;PBG、胆管幹細胞の幹細胞壁龕である、胆管周囲腺;SALL4、幹細胞の自己複製に重要であることが見出された、Sal様タンパク質4;SOX、Sry-関連HMGボックス;SOX2、胚性幹細胞および決定された幹細胞の自己再生または多能性の維持に必須である転写因子。SOX9、内胚葉性組織(肝臓、腸および膵臓)と関連する転写因子;SOX17、肝臓の分化に必須である転写因子;VEGF、血管内皮細胞成長因子;vWF、フォン・ヴィルブランド因子。
【0085】
本開示を実施する方法
本明細書に提供される実施例では、出願人は、細胞が幹細胞または成熟細胞であるかどうかによって設計特徴を有する内臓に細胞を移植するための新規の方法である、パッチグラフティングを確立する。出願人は、肝臓および膵臓の両方の前駆体である、胆管幹細胞(BTSC)の移植片を用いて肝臓または膵臓に移植し、本明細書でこれらの方法を実証する。これらの方法を開発するために使用される宿主は、ブタの種、Sus scrofa domesticsである。これらは、探索医療、外科手術モデル、および手順訓練で使用される主な動物種であり、前臨床研究のサルの代替としてますます使用されている。
【0086】
例示的な成功は、肝臓および膵臓の前駆体である胆管幹細胞(BTSC)のオルガノイドが、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と組み合わされ、軟質(約100Pa)のヒアルロナン(HA)ハイドロゲルに含まれることで達成された。オルガノイドを含有するHAハイドロゲルを、より剛直なHAハイドロゲル(約700Pa)を漿膜側に含浸させたセリシルクの裏打ち(メッシュ材料)上に配置し、肝臓または膵臓の表面に外科手術的にまたはその他の方法でつないだ。一週間以内に、移植片は、器官被嚢および隣接組織、および随意に遠位実質組織の再形成を引き起こし、その後ドナー細胞および宿主細胞の合併が生じた。二週間後までに、ドナー細胞は、肝細胞(アルブミン)または膵島(β-細胞-インスリン)などの機能的成体運命に成熟した。三週間後までに、HAが除去され、器官被嚢および正常な組織の組織学が回復した。生着/移動/統合プロセスは、細胞によって発現された複数の細胞膜結合型および分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼに依存していることが判明した。
【0087】
これらの実施例の結果は、固形臓器から内臓へ細胞を移植する過去の努力の結果とは対照的であり、移植は直接注入または血管経路を介した細胞の送達のいずれかによって達成された(Bhatia et al.、Lanzoni et al.、Weberおよびその他によるレビューを参照)。過去の移植方法では、生命を脅かす可能性のある塞栓のリスクがあり、有意なレベルの異所細胞分布がある中で、少数の細胞が生着した。これらの問題により、内部固形臓器の細胞療法が最小限に使用されるか、または全く使用されない。
【0088】
パッチグラフト戦略は、細胞療法の代替方法を提供し、適切な細胞数の送達および組織へのそれらの統合を可能にし、機能の著しい回復を提供することができる。実施例は、使用する生体材料および裏打ちが、ドナー細胞の一部またはすべてを未成熟として維持することを支持し、MMPの関連するレパートリーを生成できる限り、安全性を実証する。一般的な失敗の原因は、ドナー細胞の分化をもたらす任意の因子であった。理論に束縛されるものではないが、本明細書では、必要なMMPを自然に産生する細胞を移植片に提供する代わりに、組み換え型発現系またはその他の遺伝子改変技術を使用して、精製MMPを移植片生体材料に組み込むことができ、および/または細胞を形質転換させて、MMPを分泌させることができると考えられる。このような実施形態では、構築体を介して組み込まれたまたは形質導入されたMMPの組み合わせには、以下の実施例で提供される発現プロファイルで特定されるものが含まれるべきである。
【0089】
パッチグラフトの組成
本明細書に開示される態様は、細胞の単一の集団または二つ以上の集団(例えば、自己もしくは同種でありうるドナー細胞)およびMMP供給源を含む層と、移植片を標的部位につなぐために使用されうる、生体適合性、生分解性材料を含む裏打ちとを含むパッチグラフトに関する。いくつかの実施形態では、集団または細胞の集団は、上皮細胞の集団および間葉細胞の集団を含む。いくつかの実施形態では、細胞の集団は、移植片の一部として特定の状態または「系統段階」で維持される必要があり、これらは器官に組み込まれるまで、さらに分化または成熟しないことを意味する。これは、細胞源、MMP含量、使用される培地、および裏打ち品質に関連する変数のバランスをとることによって達成できる。これらの態様の各々は、以下でより詳細に説明される。
【0090】
理論に束縛されるものではないが、パッチグラフトは、(1)支持間葉幹/前駆体細胞集団の分化につながらない、または適切なMMPを含有する培地およびハイドロゲル中の最適な細胞集団または細胞の混合物-例えば、膜結合型および/または分泌型MMPを生成する、ドナー上皮細胞および支持間葉幹/前駆体細胞集団-と、(2)標的部位に移植片をつなぎ、移植片内の細胞が標的部位から離れて裏打ちに移動するのを防ぐのに適した裏打ちと、を用いて成功できると考えられる。
【0091】
例示的な細胞
理論に束縛されるものではないが、細胞は、胚性幹(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細胞、決定された幹細胞、コミットした前駆体、TA細胞、または成熟細胞を含む任意の成熟系統段階にありうる。しかしながら、特定の実施形態では、MMP供給源はパッチグラフト内に存在しなければならない。したがって、本明細書で意図されるのは、パッチグラフトで使用するためのMMPの細胞源である。こうした細胞源は、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼを発現することができる早期系統段階にある必要がある。このような早期系統段階の非限定的な例は、早期系統段階の間葉幹細胞(ESMLC)である。
【0092】
いくつかの実施形態では、移植される細胞は、間葉細胞と組み合わせた上皮細胞である。いくつかの実施形態では、上皮細胞は、上皮幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、上皮細胞は、コミットしたおよび/または成熟上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、コミットしたおよび/または成熟した上皮細胞は、成熟した実質細胞を含む。いくつかの実施形態では、成熟実質細胞は、肝細胞、胆管細胞、または膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、間葉細胞はELSMCを含む。いくつかの実施形態では、ELSMCは、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体、およびMSCのうち一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞は、互いの系統段階パートナーである。いくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞は、互いの系統段階パートナーではない。例えば、それぞれほぼ同じ系統段階または成熟段階にはない。いくつかの実施形態では、上皮細胞は成熟細胞である。いくつかの実施形態では、間葉細胞はELSMCである。
【0093】
いくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、ドナーに由来する。いくつかの実施形態では、ドナーは、組織移植を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、ドナーは組織移植のための健康な細胞源である。いくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、パッチグラフトの意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、全ての細胞(すなわち、上皮および間葉)は、移植片の意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、細胞のドナーは、レシピエント(同種移植)以外のものであってもよく、または病気または機能不全の状態の内臓を有する対象(自己)であってもよく、随意に、細胞は病気または機能不全ではない内臓の一部から、および/または機能を復元するように遺伝子組み換えされている細胞から取得される。
【0094】
別の態様では、間葉細胞は、ドナー細胞の系統段階パートナーであり、例えば、同等または対応する系統段階にある。別の態様では、間葉細胞は、ドナー細胞の系統段階の適切なパートナーではない。間葉系統段階細胞は、血管芽細胞、血管内皮および/または星状細胞の早期系統段階前駆体、間葉幹細胞、血管内皮または星状細胞、またはこれらの細胞集団の誘導体であってもよい。
【0095】
幹細胞移植については、上皮細胞を、本来の系統段階パートナー間葉細胞(血管芽細胞および/または血管内皮または星状細胞の前駆体)と組み合わせるべきである。成体の上皮細胞については、適切なパートナーは、血管芽細胞および/または星状細胞および血管内皮細胞の前駆体から成る早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む。出願人は、間葉幹細胞(MSC)の調製物を成体細胞と組み合わせて使用して、生着を達成できることを示した。いくつかの実施形態では、特定のMSCは他のMSCより好ましい場合がある。理論に束縛されるものではないが、細胞の培養を最小限に抑え、細胞の分化を促進する可能性のある血清およびマトリックス成分を回避する細胞の組み合わせを選択することによって、移植片は最適化できると考えられる。理論に束縛されるものではないが、パラクリンシグナル伝達はMMPの産生をサポートするため、上皮‐間葉関係が重要であることがさらに理解される。しかしながら、成熟血管内皮と組み合わせた成熟上皮細胞は、移植片内で生存し、機能的細胞になるが、生着しない。したがって、成熟上皮細胞が成熟間質と組み合わされて移植片を形成する場合、結果として生じる移植片は線維症になる可能性が高い。
【0096】
病気または機能不全の器官の治療については、細胞はレシピエント以外のドナー(同種移植)由来のものであるか、または自己移植であってもよく、したがって、病気または機能不全の状態の内臓を有する対象由来の細胞は、随意に病気または機能不全ではない内臓の一部から、および/または機能を復元するように遺伝子組み換えされている細胞から取得される。
【0097】
疾患を研究するモデルシステムを確立するために、細胞は、疾患を有し、実験的宿主の正常な組織の上/中へと移植されるものとすることができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、上皮細胞は、支持間葉細胞、任意でELSMCと組み合わされた幹細胞であり、任意で自己組織化するオルガノイドを形成してもよい。これらのオルガノイドは、ヒアルロナンハイドロゲル中に埋め込まれてもよく、これに含まれてもよい。本開示の幹および/または前駆細胞は、例えば、胚性幹細胞(ESC)、胚性生殖細胞(EGC)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、膵臓幹細胞(PSC)、肝臓幹細胞(HpSC)、胆管幹細胞(BTSC)、肝芽細胞、膵管前駆体、コミットした膵臓前駆細胞、またはコミットした肝臓前駆細胞を含む、当技術分野で公知の任意の幹および/または前駆細胞を含むことができる。いくつかの実施形態では、細胞集団は、膵臓幹細胞、肝臓幹細胞、胆管幹細胞(BTSC)またはブルンナー腺幹細胞などの幹細胞のみを含む。他の実施形態では、細胞は、肝芽細胞または膵管前駆細胞などの多能性前駆体亜集団のみを含むか、または移植片は、コミットした、単能性前駆体(例えば、肝細胞性または胆管もしくは膵島もしくは腺房コミットした前駆細胞)を含むことができる。他の実施形態では、細胞は幹細胞と前駆体との混合物を含む。
【0099】
成体の上皮細胞を使用する場合、それらは適切な比でELSMCと混合され、生体材料の中に移植されうる。細胞混合物の比は、標的組織を模倣するように決定されてもよい。別の方法として、または追加的に、比はオルガノイドの自己組織化を通して決定されうる。オルガノイドまたは細胞混合物は、軟質のヒアルロナンハイドロゲルなどの軟質移植生体材料内に埋め込まれる。幹細胞移植片の場合、本開示の幹および/または前駆細胞は、例えば、胚性幹細胞(ESC)、胚性生殖細胞(EGC)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、ブルンナー腺幹細胞(BGSC)、胆管幹細胞(BTSC)、膵臓幹細胞(PSC)、肝臓幹細胞(HpSC)、TA細胞(例えば、肝芽細胞または膵管前駆体)、およびコミットした、単能性前駆体(例えば、コミットした膵臓前駆体または肝細胞もしくは胆管細胞前駆体)を含む、当技術分野で公知の任意の幹および/または前駆細胞を含むことができる。いくつかの実施形態では、細胞集団は幹細胞のみを含む。他の実施形態では、細胞は前駆体亜集団のみを含む。他の実施形態では、細胞は、幹細胞と前駆体の混合物、または幹/前駆細胞とより成熟した細胞の混合物を含む。さらに他の方法として、成体細胞(例えば、肝細胞、胆管細胞、腸細胞、膵島)とELSMCのキメラ混合物がある。
【0100】
幹細胞および/または前駆細胞は、当業者に公知の任意の方法によって特定することができる。非限定的な例としては、自己複製能力を定義するアッセイと、形態学的解析、遺伝子および/またはタンパク質発現、細胞表面マーカーなどによる多能性を示すアッセイの組み合わせの使用が挙げられる。いくつかの実施形態では、幹および/または前駆細胞は、早期段階の肝細胞系統細胞(例えば、SOX17、HNF-4アルファ、HNF6、HES1、CK19))を示す少なくとも一つのマーカーと、早期段階の膵細胞系統(例えば、PDX1、PROX1、NGN3、HNFβ1)を示す少なくとも一つのマーカーを示す。例えば、幹および/または前駆細胞、特にBTSCは、SOX9、SOX17、PDX1、CD133、NCAM、ソニックヘッジホッグ(SHH)、ナトリウム・ヨウ素共輸送体(NIS)、LGR5、LGR6、EpCAM、CD44のさまざまなアイソフォーム、CXCR4、およびさまざまな多能性遺伝子(例えば、OCT4、SOX2、NANOG、KLF4、KLF5、SALL4、BMi-1)、またはそれらの任意の組み合わせの発現によって特定されうる。
【0101】
いくつかの実施形態では、幹および/または前駆細胞は、肝臓および膵臓の親系統などの早期親段階細胞系統を示す、少なくとも一つのマーカーを発現する。したがって、肝臓系統と膵臓系統の両方の系統(例えば、SOX9、LGR5/LGR6、EpCAM、CD133、CK19)によって共有されるもの、および肝臓系統(例えば、SOX17、HNF-4-アルファ、HNF6、HES1)について一つ、および早期段階膵臓細胞系統(例えば、PDX1、PROX1、NGN3、HNFβ1)について一つを発現する。例えば、幹および/または前駆細胞、特にBTSCは、SOX9、SOX17、PDX1、CD133、NCAM、ソニックヘッジホッグ(SHH)、ナトリウム・ヨウ素共輸送体(NIS)、LGR5、LGR6、EpCAM、およびさまざまな多能性遺伝子(例えば、OCT4、SOX2、NANOG、KLF4、KLF5、SALL4、BMi-1)、またはそれらの任意の組み合わせの発現によって特定されうる。
【0102】
成熟細胞型の生成
幹および/または前駆細胞も、希望する場合、より成熟細胞型に分化することができる。自然分化および/または方向付けられた分化によって、インビトロでこれを実行できる。方向付けられた分化は、限定培地の使用、幹および/または前駆細胞を遺伝的に改変して目的の遺伝子、またはその組み合わせ発現させることを含み得る。
【0103】
細胞を分化するための限定培地の非限定的な例としては、内胚葉性幹細胞の成体運命への分化に使用されるホルモン限定培地(HDM)が挙げられる。クボタの培地にサプリメントを追加して、正常な肝臓または胆管幹細胞の特定の成体運命への分化を促進する、無血清のホルモン限定培地(HDM)を生成することができる。これらには、0.6mM以上の濃度、1nMトリヨードチロニン(T3)、10-12Mの銅、10nMのヒドロコルチゾン、および20ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を達成するためのカルシウムの補充が含まれる。肝細胞(HDM-H)対胆管細胞(HDM-C)対膵島(HDM-P)を選択的に産生するために必要なこれらに加えての培地条件は以下のとおりである:
1)HDM-H:7μg/Lのグルカゴン、2g/Lガラクトース、10ng/mlの上皮成長因子(EGF)および20ng/ml肝細胞成長因子(HGF)で補充;
2)HDM-C:20ng/mlの血管内皮細胞成長因子(VEGF)および10ng/mlのHGFでさらに補充;および
3)HDM-P:グルココルチコイドなしで調製し、1%のB27、0.1mMのアスコルビン酸、0.25μMのシクロパミン、1μMのレチノイン酸、20ng/mlのFGF-7を4日間さらに補充し、次いで50ng/mlのエキセンディン-4、および20ng/mlのHGFを補充したものに変更し、さらに6日間誘導した。
【0104】
本明細書に提供されるHDMには、Wnt信号、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子(HGF)、インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)、神経成長因子(NGFs)、神経栄養因子、さまざまなインターロイキン、白血病抑制因子(LIF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、幹細胞因子(SCF)、コロニー刺激因子(CSF)、GM-CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ヘパリン結合成長因子、IGF結合タンパク質、および/または胎盤成長因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
本明細書に提供されるHDMは、インターロイキン、リンホカイン、モノカイン、コロニー刺激因子、ケモカイン、インターフェロン、および腫瘍壊死因子(TNF)を含むがこれに限定されないサイトカインで補充することができる。
【0106】
出願人は、ヒアルロナンが幹および/または前駆細胞に影響を与え、細胞の付着および細胞間相互作用に必要な重要な細胞接着分子を調節する因子を発現し、幹および/または前駆細胞が、細胞懸濁液の調製、凍結保存、または移植後のこれらの付着因子の内部移行を防止することができる。こうした付着因子の非限定的な例には、インテグリンが含まれる。インテグリンは、細胞を基底膜の細胞外マトリックスタンパク質、その他の細胞上のリガンド、および可溶性リガンドに付着させるように機能するヘテロ二量体膜貫通糖タンパク質の大きなファミリーである。インテグリンは、それぞれαおよびβと呼ばれる大小のサブユニットを含む。このサブユニットは、αβヘテロ二量体を形成し、ヒトでは少なくとも18個のαおよび8個のβサブユニットが公知であり、24個のヘテロ二量体を生成する。いくつかの実施形態では、幹および/または前駆細胞は、より高いレベルのインテグリンサブユニット、例えばITGα1、ITGα2、ITGα2B、ITGα3、ITGα4、ITGα5、ITGα6、ITGα7、ITGα8、ITGα9、ITGα10、ITGα11、ITGαD、ITGαE、ITGαL、ITGαM、ITGαV、ITGαX、ITGβ1、ITGβ2、ITGβ3、ITGβ4、ITGβ5、ITGβ6、ITGβ7、およびITGβ8を発現する。一つの好ましい実施形態では、幹および/または前駆細胞は、より高いレベルのインテグリンサブユニットベータ1(ITGβ1)および/またはインテグリンサブユニットベータ4(ITGβ4)を発現する。Takada Y.et al.(2007)Genome Biol.8(5):215。
【0107】
いくつかの実施形態では、本開示の幹および/または前駆細胞は、天然起源の幹および/または前駆細胞とは、未修飾の幹および/または前駆細胞のインテグリンサブユニットの量よりも少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%を超える量でインテグリンサブユニットを発現するという点で異なっている。インテグリンサブユニットの増加は、これが望ましい場合、幹および/または前駆細胞を付着させ、細胞間相互作用を形成させ、および幹および/または前駆細胞の内部移行の防止を助けられることが意図されている。
【0108】
MMP
MMPは、生着および統合を促進する主要な要因の一つである。MMPは、多くのアイソフォーム(少なくとも28個、ピグ中で24個のアイソフォームが知られている)から成り、その一部は分泌され(例えば、MMP1、MMP2、MMP7、MMP9)、一部は細胞膜に関連する(例えば、MMP14、MMP15)。理論に束縛されるものではないが、生着、特に分泌型の混合には、これらの混合が必要であると考えられる。検査されたすべての細胞は、分泌型および膜結合型の両方をさまざまな量で生成するが、幹/前駆体は非常に高いレベルの分泌型を生成する。生着は、これらの分泌型MMP(および膜結合型との一部の既知の相乗効果)に依存する。これらの細胞源は、生着を達成するために必要なMMPを提供する実用的な方法である。代替的手法として、出願人は、MMPの精製/組み換え型を移植片生体材料および/または移植片内の細胞の遺伝子操作に組み込み、必要なMMPを生成することを企図している。
【0109】
細胞は、複数のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の供給源、理想的には細胞源、任意選択的に分泌型および膜結合型の一方または両方がある限り、成功裏に生着できる。MMPは、未成熟細胞および成熟細胞の両方のすべての細胞型によって生成されるが、それらはどのアイソフォームが生成されるか、特定のMMPのどのレベルにおいて発現するかは異なる。代表的な分泌型には、MMP1、MMP2、MMP7およびMMP9が含まれる。代表的な膜結合型には、MMP14およびMMP15が含まれる。経験的に、分泌型MMPの最も高い産生は、早期系統段階細胞、幹細胞および早期前駆体によるものであることが分かっている。移植片の生体材料は、上皮細胞および間葉細胞の両方の能力をサポートして、器官または組織周辺の被嚢を溶解し、細胞外マトリックス成分の複数形態の溶解手段によって細胞の移動を可能にする、これらの複数形態のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を生成する。
【0110】
より一般的には、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPS)は、細胞外マトリックス成分の分解および調節に関与し、ならびに正常または病原性プロセスでの移植、浸潤、血管新生、血管形成、および移動に関与する亜鉛依存性プロテイナーゼの大きなファミリーである。マトリクシン(matrixin)、アダマライシン、アスタシン、セラリシンなどを含む少なくとも28個のアイソフォームがある。それらの役割は、胎盤の移植などの通常のプロセス、ならびに癌の浸潤および転移などの病原性のもので特徴付けられてきた。
【0111】
本明細書に記載される研究は、移植された細胞の生着、移動および統合に寄与するMMPの完全に新しい役割のための証拠を提供する。上皮および間葉の両方の幹/前駆体は、これらの役割に特に強力な複数のMMPアイソフォームを発現する。細胞の成熟により、一つまたは複数の強力な幹/前駆細胞関連MMPの発現が弱まり、浸潤および移動プロセスが減少する。成体細胞はまた、主に膜結合型(MT-MMP)であるMMPも発現し、該MMPは可塑性プロセスに関与しているが、細胞の組織への大規模な生着および統合には関与していない。ただし、MT-MMPと分泌型の間にはいくらかの相乗作用がある。この実現の正味合計は、移植片生体材料、裏打ちおよびその他の条件が、他の特性の中でもとりわけ、分泌型MMPなどの様々なMMPの発現を最適化し、移植および移動プロセスが発生するのを可能にするものでなければならないということである。したがって、移植された細胞の分化を促進する要因は、並行して、複雑なMMP応答を弱める。この実現は、回避するべき要因には、血清(分化を促進する)、分化を促進する可溶性信号(例えば、特定の成長因子、サイトカインおよびホルモン);分化を促進する細胞外マトリックス成分(例えば、コラーゲン、接着分子、高度に硫酸化されたグリコサミノグリカン/プロテオグリカン);および移植片の剛性(分化を促進する粘弾性特性)に寄与する機械力を含まれることを意味する。
【0112】
いくつかの実施形態では、混合物中の一つまたは複数の細胞は、分泌型および/または膜結合型MMPの供給源である。分泌型MMPは、随意に、一つまたは複数の上皮細胞または間葉細胞によって自然に生成されるか、または随意に、MMP産生のための組み換え発現ベクターまたは遺伝子編集による一つまたは複数の上皮細胞または間葉細胞の形質転換により生成されてもよい。いくつかの実施形態では、MMPを自然に分泌する幹/前駆細胞集団などを含むが、これらに限定されず、MMP発現を弱める変数-随意に膜結合型および/または分泌型MMP発現がパッチグラフト内で制御される。こうした変数の非限定的な例には、培地または移植片生体材料への血清補充、上皮細胞および/または間葉細胞の分化に影響を与えるホルモンまたは他の可溶性信号、酸素レベル(嫌気性条件が細胞を未成熟に保つ一方で、より高い酸素レベルが分化を促進するため)、および移植片材料の剛性(剛性、またはせん断力および圧縮などの機械力が分化を促進し得るため)などが挙げられるが、これらに限定されない、幹/前駆細胞の成熟をもたらす変数が含まれる。
【0113】
幹細胞移植片については、上皮細胞およびその間葉細胞パートナーの両方が、最適な幹細胞または前駆体であり、両方とも複数のタイプのMMPの寄与を提供するためである。成体細胞を生着させるために、上皮細胞または間葉細胞の一つは、膜結合型および/または分泌型MMPの細胞源を最適に提供するべきである。例えば、必要に応じて、膜結合型および/または分泌型MMPの細胞源としてELSMCを使用する。したがって、上皮および間葉細胞の両方が成熟細胞型である移植片は、生着に成功していない。成熟血管内皮の場合、上皮細胞は生存する可能性が高く、増殖および機能するが、生着しない。成熟間質の場合、移植片は線維症になる可能性が高い。
【0114】
まとめると、上皮‐間葉細胞パートナーの両方が幹/前駆体であるか、または上皮細胞または間葉細胞のうち少なくとも一つが幹細胞である場合、生着は生じることになる。例えば、随意にマトリックス結合型および/またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の分泌型アイソフォームの供給源としてのELSMCを使用するか、またはそれらのMMPの精製/組み換え型が移植片生体材料に供給される場合。パッチグラフトに適した早期系統段階の間葉細胞(ELSMC)は、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、早期系統段階の血管内皮、星状細胞の前駆体、早期段階の星状細胞、または間葉幹細胞(MSC)、またはこれらの混合物になり得る。
【0115】
したがって、本明細書で意図されているのは、少なくとも一つの細胞集団(例えば、上皮細胞および間葉細胞)およびMMPの供給源を含むパッチグラフトとして使用するための組成物である(すなわち、随意に培地および/またはハイドロゲルの条件によって支持される、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現する能力を有する早期系統段階の細胞集団)。
【0116】
培地成分
本明細書に開示される細胞およびMMPの供給源と組み合わせて使用するために、任意の培地(栄養素、ビタミン、塩などを含む)に加えて、幹/前駆体の増殖および/または生存に有用であることがわかっている、インスリン、トランスフェリン/Feおよび脂質などの重要な可溶性因子を使用することができる。成熟はMMPの発現の低下または減弱をもたらすので、細胞を成熟させるすべての要因を回避する必要がある。回避するべき要因には、血清、分化を促進する可溶性信号、分化を促進する細胞外マトリックス成分、および剛性または機械力(圧縮、摩耗)が含まれる。こうした培地の非限定的な例は、クボタの培地である。
【0117】
したがって、本明細書で意図されているのは、少なくとも一つの細胞集団およびMMPの供給源を含むパッチグラフトとして使用するための組成物である(例えば、適切な培地で支持された、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、または精製されたMMPを発現する能力を有する早期系統段階の細胞集団)。適切な培地の非限定的な例は、クボタの培地である。胚幹(ES)細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞に使用されるものなど、その他の幹細胞培地は、MMPの供給源である細胞の分化を促進する可溶性信号もしくはマトリックス信号を含まない限り、またはMMPが存在するかもしくは他のソースから含まれる限り、同様に適切でありうる。
【0118】
ハイドロゲル
パッチグラフトは、一つまたは複数のハイドロゲル成分を含む。いくつかの態様では、ハイドロゲルを形成することができる生体材料、または類似の不溶性複合体(例えば、非コラーゲン性ゼラチン)は、ヒアルロナン、チオール修飾ヒアルロナン、その他のグリコサミノグリカン(GAG)、またはその組み合わせを含む。凝固のトリガーは、マトリックス成分の架橋またはゲル化できるそれらの成分のゲル化を誘発する任意の要因とすることができる。架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはPEG-ジアクリレート(PEGDA)ハイドロゲル、またはそのジスルフィド含有誘導体を含んでもよい。特に、ハイドロゲル中に含まれる生体材料は、例えば、ELSMCなどのパッチグラフトで使用するために開示された一つまたは複数の細胞集団の幹細胞性を支持する能力について選択されるべきである。
【0119】
幹細胞性の維持を支持するマトリックス成分は、使用できるが、分化を促進する成分は使用できない。支持成分の非限定的な例には、ヒアルロナンたは非硫酸化(または最小硫酸化)グリコサミノグリカンが含まれる。これらは、さまざまなレベルの剛性(随意に粘弾性として測定)を有するように修飾されて「調整」できるため、特に有用である。したがって、いくつかの態様では、随意に内臓の単離された細胞である細胞集団は、細胞を宿主に導入する前に、生体材料内でエクスビボで凝固させるか、または別の方法として、流体物質として注入し、インビボで凝固させることができる。
【0120】
ハイドロゲルの非常に軟質のバージョン(例えば約100Pa)は、ドナー細胞を未成熟状態で維持するのに理想的である。より剛直なバージョン(例えば>500Pa)を使用して、MMPの生産を遮断して移動をブロックするのに十分なほど細胞を成熟させることができる。さらに剛直なバージョンは、隣接組織からの癒着を最小化することもできる。特定の実施形態では、細胞の集団およびMMPの供給源、随意に別の細胞集団(すなわち、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現する能力を有する早期系統段階での細胞集団)。
【0121】
理論に束縛されるものではないが、羊膜中に見られる細胞外マトリックスの形態は、ドナー細胞を未成熟に保つことができると考えられる。したがって、羊膜は、ハイドロゲルでの使用、および随意に、代替的な生体適合性、生分解性材料としての使用の両方が意図されている。
【0122】
特に、成熟を引き起こすことが知られている材料には、これに限定されないが、I型コラーゲンなどの成熟細胞外マトリックスに由来する特定の成分が含まれる。これらの材料は、細胞、ハイドロゲル、培地、裏打ち、および/または任意のさらなる成分を含むが、これらに限定されない、パッチグラフトのすべての要素から除外されるべきである。
【0123】
したがって、本明細書で意図されているのは、少なくとも一つの細胞集団およびMMPの供給源を含むパッチグラフトで使用するための組成物である(すなわち、適切な培地で支持され、およびハイドロゲルに含まれた、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現する能力を有する早期系統段階の細胞集団)。
【0124】
上述のように、剛性は細胞を分化させる能力を駆動することができる。さらなる剛直なハイドロゲルは、移動する細胞の能力に対して効果を有しうる。細胞が器官内へ移動する必要があるとき、細胞が含まれるハイドロゲルは、任意で、ハイドロゲルおよび/またはパッチグラフト内にまたはそれから離れるように、該細胞の移動を可能にするのに十分な粘弾性を有するべきである。こうした粘弾性の非限定的な例には、限定されないが、約50~約100Paまたは約250Paの範囲の粘弾性、例えば少なくとも約50Pa、少なくとも約100Pa、少なくとも約150Pa、少なくとも約200Pa、最大で約250Pa、最大で約200Pa、最大で約150Pa、最大で約100Pa、および/または限定されないが、これらの間の任意の個々の値である、約50Pa、約100Pa、約150Pa、約200Pa、および約250Paなどが挙げられる。
【0125】
理論に束縛されるものではないが、細胞がパッチグラフトから標的器官または組織へと移動すると、それらが関連付けられたまたはそれらをコーティングするハイドロゲルの一部と共に移動すると考えられる。ハイドロゲルは、細胞が分化または成熟するのに影響を与える組織微小環境内の信号から細胞をシールドし、細胞を未成熟のままでいるのを可能にする。これにより、実質組織を通って移動する細胞が促進される。ハイドロゲル中のヒアルロナンが徐々に分解され、除去されると、細胞は分化または成熟し始め、成体細胞の機能を開始する。
【0126】
オルガノイドの生成方法
理論に束縛されるものではないが、早期段階の系統細胞は、オルガノイドまたは凝集体に組み込まれた場合、移植片の成功率が高い可能性があることが判明している。こうした組織化は、任意選択的に、上皮細胞および間葉細胞の両方の早期系統段階を含みうる。
【0127】
したがって、本明細書に提供されるのは、オルガノイドの形成方法であり、この方法は、組織培養に適した容器で培養培地の存在下で、上皮細胞と間葉細胞の混合物を培養すること、容器の表面に付着した成熟細胞をパニングによって除去すること、および培養培地の細胞懸濁液から自己組織化したオルガノイドを回収することを、含むか、それらから成るか、または本質的にそれらから成る。また、このように生成したオルガノイドを含む組成物が本明細書に開示される。
【0128】
いくつかの実施形態では、手順には、無血清状態下および37oCで、通常の培養皿に選択的、かつ迅速(15~30分)に付着させることによって成熟細胞を除去するためのパニングが関与する。これらの条件下でも、成熟細胞は細胞付着を可能にする様々なマトリックス成分を発現するためである。このようなパニングプロセスを複数回(例えば、4~5回)行うと、早期系統段階細胞の細胞懸濁液が濃縮される。次いで、細胞懸濁液を低付着皿に移し、早期系統段階細胞用に設計された無血清培地中に再び移し、370Cのインキュベーター中に一晩置く。この条件は、系統段階が一致する上皮細胞および間葉細胞のオルガノイドへの自己組織化を促進する。オルガノイドは、早期段階の上皮細胞(ES細胞、iPS細胞、決定された幹細胞、TA細胞、前駆体)と早期段階の間葉細胞(血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体)を混ぜ合わせることで得ることができる。
【0129】
生体上皮細胞と成熟間葉細胞との混合物、および成熟上皮細胞と早期系統段階間葉細胞(ELSMC)のキメラ混合物は、通常オルガノイドを生成しないが、移植片生体材料の懸濁液中の細胞の混合物として使用できる。成熟上皮細胞(例えば、肝細胞、胆管細胞、膵島、腺房細胞、腸細胞など)が成熟間葉細胞(例えば、血管内皮、星状細胞、間質細胞、筋線維芽細胞)と組み合わされている場合、混合物は移植片の標的部位または器官への統合を成功させないが、器官または組織の表面に持続するものをもたらす。成体および幹/前駆体(例えば、血管芽細胞を有する成熟肝細胞)を含むキメラ混合物が使用される場合、細胞の生着および移動を可能にするMMP供給源があるため、生着が発生する。
【0130】
別の態様では、内臓の単離された細胞は、細胞を宿主に導入する前に、生体材料内でエクスビボで凝固させるか、または別の方法として、流体物質として注入し、インビボで移植片に凝固させることができる。好ましくは、細胞は、病気または機能不全の組織またはその近くに導入され、注入または組織上/組織中への移植を介して、または適切な外科手術方法を使用して導入され得る。
【0131】
別の態様では、ハイドロゲルを形成することができる生体材料、または類似の不溶性複合体は、ヒアルロナン、チオール修飾ヒアルロナン、またはその他のグリコサミノグリカン(GAG)を含むことができる。凝固のトリガーは、マトリックス成分の架橋またはゲル化できるそれらの成分のゲル化を誘発する任意の要因とすることができる。架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはPEG-ジアクリレート(PEGDA)ハイドロゲル、またはそのジスルフィド含有誘導体を含んでもよい。
【0132】
別の態様では、本開示は、第一のタイプの細胞(上皮)を一つまたは複数の第二のタイプの細胞(間葉細胞)と培養することによってオルガノイドの形成方法を提供し、第二のタイプの細胞は、第一のタイプの細胞の適切な系統パートナーとなるための成熟段階にある。いくつかの実施形態では、パニングによって培養皿に付着した成熟細胞を除去すること、低付着培養皿に付着しなかった細胞を適切な培地に移すこと、およびこれらの条件下で自己組織化するオルガノイドを回収することによって、達成することができる。第一のタイプの細胞は、上皮幹細胞、上皮細胞のコミットした前駆体、または成熟細胞(例えば、肝細胞)であってもよい。第二のタイプの細胞は、間葉系統(例えば、血管芽細胞、間葉幹細胞)の幹細胞、これらの系統の前駆体(例えば、血管内皮または星状細胞前駆体)、または早期系統段階間葉細胞の混合物であってもよい。結果的に、こうした形成はすべての条件下で発生することはできない。例えば、マトリゲルでの培養は、パッチグラフトの成功に適切なオルガノイドを生成しない。マトリゲル調製されたオルガノイドは生着する可能性があるが、生着の程度は、定義された条件で調製されたオルガノイドの生着と比較して弱まる。さらに、マトリゲルは、臨床製品に使用される条件の成分であることはできない。
【0133】
別の態様では、本開示は、ドナー細胞の分化対する効果が中立である生体適合性、生分解性の裏打ちを含む複数の層、ハイドロゲルなどに凝固されうるヒアルロナンなどの一つまたは複数の生体材料を含む第二の層、凝固した生体材料に組み込まれる上皮細胞および支持間葉細胞の混合物、縫合または外科手術用接着剤で標的部位に付着させたバンドエイド様構造を含むパッチグラフトを接触させることを含む、器官内への細胞の生着方法を提供する。裏打ちの漿膜表面には、ドナー細胞が組み込まれる軟質生体材料中に見られる少なくとも二倍のレベルである、400Pa以上を達成するように調製された凝固した生体材料の層が追加される。パッチグラフト内の細胞は、生着し、組織/器官を通って組織/器官内へと移動し、その後、それらが位置する微小環境によって指定される、関連する成体運命に成熟することができる。多孔性裏打ちに埋め込まれた、または含まれる生体材料のより高いパスカルレベルは、細胞が間違った方向に移動するのを妨ぎ、移植片の漿膜表面に追加されて、他の器官および組織からの細胞の癒着を最小限にする。
【0134】
オルガノイド
本明細書に開示される一実施形態によると、胆管幹細胞(以下、「BTSC」)の浮遊凝集体であるオルガノイド、および早期系統段階間葉細胞(以下「ELMC」)は、移植片に細胞を組み込む最も成功した方法であることが証明された。本明細書に開示されるのは、BTSCおよびELMCが、成熟した星状/間質細胞を除去するためにパニングによってオルガノイドに自己選択でき、またこれにより、移植片の系統段階の適切な上皮‐間葉パートナーの確立において、より効率的かつ効果的であることが証明された。別の態様では、本開示は、第一のタイプの細胞を第二のタイプの細胞で培養することによってオルガノイドの形成方法を提供し、第二のタイプの細胞は、第一のタイプの細胞の段階に適切な系統パートナーであり、培養皿に付着した成熟細胞をパニングで除去し、培養物の懸濁液から自己組織化したオルガノイドを回収する。第一のタイプの細胞は、上皮幹細胞、またはコミットした上皮細胞であってもよい。第二のタイプの細胞は、間葉系統、間葉幹細胞、または早期系統段階間葉細胞の細胞であってもよい。さらなる態様は、自己組織化したオルガノイドおよびその使用に関する。
【0135】
いくつかの実施形態では、ドナー細胞および/または支持間葉細胞のいずれかで、マトリックスメタロプロテイナーゼ(以下、MMP)を発現する。理論に束縛されるものではないが、MMPは、ドナーおよび宿主細胞の合併、およびグリソン鞘(または組織もしくは器官の周りの同等の被嚢)の溶解を可能にすると考えられる。本明細書の開示は、いくつかの実施形態では、早期段階幹細胞またはELMCが高レベルのMMPを発現する一方で、成熟肝細胞は低レベルのMMPを発現する。いくつかの実施形態では、成熟肝細胞と成熟類洞血管内皮(CD31+++、VEGF-受容体+、タイプIVコラーゲン+およびCD117に対して陰性の場合)および成体胆管細胞との組み合わせは、成熟星状細胞および間質細胞(ICAM-1+、ASMA+、ビタミンA++、タイプIコラーゲン+)と関連しており、結果として細胞凝集体が器官の表面に残り、効果的に生着することができない。いくつかの実施形態では、成熟上皮細胞の生着は、生着および移動に必要なMMPを産生する未成熟な間葉細胞と組み合わせることが必要である。
【0136】
本明細書に開示される一実施形態によると、BTSCおよびELSMCなどの幹/前駆細胞の浮遊凝集体であるオルガノイドは、パッチグラフトで成功するための細胞の最も成功した提示を証明した。本明細書に開示されるのは、BTSCおよびELSMCは、無血清の条件下で通常の皿に付着した細胞の標準的なパニング手順によって、成熟間葉細胞の除去によりオルガノイドに自己選択でき、その後、残りの細胞(付着しなかった)を低付着皿および無血清の規定された培地中で培養する。オルガノイドは、これらの条件下で自己組織化する。
【0137】
別の態様では、本開示は、第一のタイプの細胞、上皮細胞を第二のタイプの細胞、間葉細胞で培養することによってオルガノイドの形成方法を提供し、第二のタイプの細胞は、第一のタイプの細胞の段階に適切な系統パートナーであり、通常の培養皿に付着した成熟細胞をパニング手順で除去し、低付着の培養皿上の培養物の懸濁液から自己組織化のオルガノイドを回収する。第一のタイプの細胞は、上皮幹細胞、TA細胞、コミットした上皮前駆体であってもよい。第二のタイプの細胞は、間葉細胞系統の幹細胞、TA細胞、またはコミットした間葉前駆体であってもよい。
【0138】
いくつかの実施形態では、ドナー細胞および/または支持間葉細胞のいずれかで、マトリックスメタロプロテイナーゼ(以下、MMP)を発現する。理論に束縛されるものではないが、MMPは、組織もしくは器官の周りの被嚢の溶解をもたらし、ドナー細胞と宿主細胞の合併を可能にすると考えられる。本明細書の開示は、いくつかの実施形態では、早期段階幹細胞またはELMCが高レベルのMMPを発現する一方で、成熟肝細胞は低レベルのMMPを発現する。いくつかの実施形態では、成熟肝細胞と成熟類洞血管内皮(CD31+++、VEGF-受容体+、タイプIVコラーゲン+およびCD117に対して陰性の場合)および成体胆管細胞との組み合わせは、成熟星状細胞および間質細胞(ICAM-1+、ASMA+、ビタミンA++、タイプIコラーゲン+)と関連しており、結果として細胞凝集体が器官の表面に残り、効果的に生着することができない。いくつかの実施形態では、成熟上皮細胞の生着は、生着および移動に必要なMMPを産生する未成熟な間葉細胞と組み合わせることが必要である。
【0139】
本明細書に開示される一実施形態によると、BTSCおよびELSMCなどの幹/前駆細胞の浮遊凝集体であるオルガノイドは、パッチグラフトで成功するための細胞の最も成功した提示を証明した。本明細書に開示されるのは、BTSCおよびELSMCは、無血清の条件下で通常の皿に付着した細胞の標準的なパニング手順によって、成熟間葉細胞の除去によりオルガノイドに自己選択でき、その後、残りの細胞(付着しなかった)を低付着皿および無血清の規定された培地中で培養する。オルガノイドは、これらの条件下で自己組織化する。
【0140】
別の態様では、本開示は、第一のタイプの細胞、上皮細胞を第二のタイプの細胞、間葉細胞で培養することによってオルガノイドの形成方法を提供し、第二のタイプの細胞は、第一のタイプの細胞の段階に適切な系統パートナーであり、通常の培養皿に付着した成熟細胞をパニング手順で除去し、低付着の培養皿上の培養物の懸濁液から自己組織化のオルガノイドを回収する。第一のタイプの細胞は、上皮幹細胞、TA細胞、コミットした上皮前駆体であってもよい。第二のタイプの細胞は、間葉細胞系統の幹細胞、TA細胞、またはコミットした間葉前駆体であってもよい。
【0141】
いくつかの実施形態では、パッチグラフト戦略で成功するためには、ドナー細胞および/または支持間葉細胞のいずれかが、複数のマトリックスメタロプロテイナーゼ(以下、MMP)および特に分泌型MMPを発現する必要がある。理論に束縛されるものではないが、MMPの複数のアイソフォームは、器官または組織の周りの被嚢の溶解を可能にし、それに続いてドナー細胞の宿主組織への急速な移動が可能となると考えられる。本明細書の開示は、早期段階上皮幹細胞および/またはELSMCが高レベルの膜結合型および/または分泌型MMPを発現するが、成熟細胞(例えば、肝細胞)は細胞膜結合型MMPを発現する場合であっても、低いレベルの分泌型MMPを発現することを提供する。かかる成体細胞(例えば、肝細胞、胆管細胞、膵島、腸細胞など)の生着は、間葉パートナーはMMP、生着が起こる場合には、特に分泌型MMPの細胞供給源であることが必要である。別の方法として、移植片の生体材料に、MMPの関連アイソフォーム、つまり精製された形態のMMPを提供することである。
【0142】
本開示によると、パッチグラフトを使用して生着できる細胞の数はかなり多く(>108)、移植片の寸法、オルガノイドの数およびサイズ(または細胞数―オルガノイドの一部でない場合)、ドナー細胞が幹細胞かまたは成熟細胞か、および分泌型および膜結合型MMPの発現(上皮および/または間葉細胞由来かどうか)によって指定される。これらの所見は、血管送達または注入移植によって実現可能な、限られた数の細胞(例えば、105-106)とはかなり異なる。
【0143】
本明細書に開示されているのは、移植片を作製することが、細胞と、不溶性になり、標的部位に細胞を局在化させたままにできる適切な生体材料との混合を含むことである。別の態様では、内臓の単離された細胞は、細胞を宿主に導入する前に、生体材料内でエクスビボで凝固させるか、または別の方法として、流体物質として注入し、インビボで凝固させることができる。別の態様では、ハイドロゲルを形成することができる生体材料、または類似の不溶性複合体は、ヒアルロナンまたは他の非硫酸化または最小硫酸化グリコサミノグリカン、チオール修飾ヒアルロン酸ナトリウム、または植物由来材料(例えばアルギン酸)を含むことができる。凝固のトリガーは、マトリックス成分の架橋またはゲル化できるそれらのゲル化を誘発する任意の要因とすることができる。架橋剤は、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそのジスルフィド含有誘導体を含んでもよい。細胞および生体材料の不溶性複合体は、約0.1~200Pa、好ましくは約0.1~約1Pa、約1~約10Pa、約10~100Pa、または約100~約200の範囲の粘弾性を持つことが好ましい。
【0144】
好ましくは、細胞は、病気または機能不全の組織またはその近くに導入され、注入または外科手術送達を介して導入され得る。理論に束縛されるものではないが、本明細書の仮説では、より剛直なHAハイドロゲル(例えば>500Pa)が細胞の分化を誘発し、部分的に成熟を伴うMMPの発現の減少、および同時に移行能力の低下により、生着を減少させる。
【0145】
裏打ち
ドナー細胞の成熟状態に対する中立性を備えた、生体適合性、生分解性裏打ちには、複数のオプションがある。これらには、SeriR Surgical Silk ScaffoldsまたはContour Seri-Silk(Sofregen、New York、NY)などのカイコガシルクの形態、カイコガシルクの他の誘導体、羊膜誘導体、網、胎盤、およびポリグリコール酸-co-ポリ-L-乳酸(PGA/PLLA)の形態などの合成繊維または材料が含まれる。裏打ちの有効性に重要なことは、ドナー細胞の分化に影響が最小限であることである。したがって、臨床的に使用される多くの形態の裏打ちは、ドナー細胞の分化を誘発する成分(例えば、成熟型の細胞外マトリックスの形態)から成るため、パッチグラフトには有用ではない。
【0146】
裏打ちは、縫合または外科手術用接着剤によって移植片を標的部位に取り付けるのに十分な引張強さを有する必要がある。数か月以内に分解できるが、ドナー細胞の成熟状態を変化させない分解生成物を含む、生体適合性、生分解性材料から成るべきである。したがって、生成物は、pHまたは環境の他の側面に対する影響を最小限に抑えるべきである。裏打ちはまた、標的部位の表面に適合することができる必要があり、そのため可撓性の裏打ちは、曲率が大きい部位での移植片の使用を容易にする。セリシルク(Seri-Silk)は、裏打ちに適した材料の非限定的な例である。羊膜由来代替物はまた、これに限らないが、Osiris Therapeutics、Inc(米国メリーランド州コロンビア)によって生産された羊膜由来材料など、裏打ちに適した材料として企図されている。
【0147】
裏打ちは、セリシルクなどの多孔性スカフォールド、または羊膜もしくは胎盤の膜もしくは網などの非多孔性膜、または多孔性もしくは非多孔性の合成繊維、またはそれらの組み合わせから供給されうる。裏打ちが多孔性である場合、それを密封するために生体材料を注入/含浸し、裏打ちの方向、すなわち標的部位から離れるか、または裏打ちを介して細胞の該集団の移動を阻害する必要がある。裏打ち材料の重要な特性として、上記で定義されたように生体適合性、生分解性、中性であり、上記のように十分な引張強さを有するということがある。さらに、材料は随意に生体吸収性であってもよい。
【0148】
裏打ちは、使用に応じてさらに最適化されうる。例えば、いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、空気の乾燥効果を耐えるように設計された裏打ちを含む場合、皮膚および皮下組織に有用である。
【0149】
本明細書で上記に開示したハイドロゲルマトリックスは、パッチグラフトの他の部分でも有用でありうる。例えば、生体適合性、生分解性の裏打ちは多孔性であるべきであり、ハイドロゲルを使用して、裏打ちの方向への細胞の該集団の移動を阻害してもよい。こうしたハイドロゲルは、ハイドロゲルと比較して、より高い粘弾性を必要とすることになる。例えば、1.5~15倍、例えば2倍以上。適切な粘弾性の非限定的な例には、限定されないが、約250~約600Paの範囲の粘弾性特性、例えば、少なくとも約250Pa、少なくとも約300Pa、少なくとも約350Pa、少なくとも約400Pa、少なくとも約450Pa、少なくとも約500Pa、少なくとも約550Pa、最大で約600Pa、最大で約550Pa、最大で約500Pa、最大で約450Pa、最大で約400Pa、最大で約350Pa、最大で約200Paおよび/または限定されないが、これらの間の任意の個々の値である、約250Pa、約300Pa、約350Pa、約400Pa、約450Pa、約500Pa、約550Pa、および約600Paなどが挙げられる。さらに適切な粘弾性の非限定的な例には、限定されないが、約600~約800Paの範囲の粘弾性、例えば少なくとも約600Pa、少なくとも約650Pa、少なくとも約700Pa、少なくとも約750Pa、最大で約800Pa、最大で約750Pa、最大で約700Pa、最大で約650Pa、最大で約600Pa、および/または限定されないが、これらの間の任意の個々の値である、約600Pa、約650Pa、約700Pa、約750Pa、および約800Paなどが挙げられる。なおさらなる非限定的例は、約250Pa~約800Paの範囲を含む。
【0150】
さらに、本明細書に開示されたハイドロゲルは、細胞に隣接した裏打ちの側とは反対の裏打ちの漿膜表面への癒着を防止するためのコーティングとして有用であり得る。こうしたハイドロゲルは、細胞が含まれるハイドロゲルに適した粘弾性と、裏打ちを封止するのに適切な粘弾性との間の粘弾性を有するべきである。適切な粘弾性の非限定的な例には、限定されないが、約250~約400Paまたは約500Paの範囲の粘弾性、例えば少なくとも約250Pa、少なくとも約300Pa、少なくとも約350Pa、少なくとも約400Pa、少なくとも約450Pa、最大で約500Pa、最大で約450Pa、最大で約400Pa、最大で約350Pa、最大で約200Pa、および/または限定されないが、これらの間の任意の個々の値である、約250Pa、約300Pa、約350Pa、約400Pa、約450Pa、および約500Paなどが挙げられる。
【0151】
一般的な移植片
一般に、パッチグラフトは、前述の方法および成分を使用して、ドナー(同種または自己の)細胞を固形臓器または組織に移植し、ドナー細胞を早期成熟系統段階で持続させ維持する条件で設計され得る。より具体的には、一部または全てのドナー細胞を早期成熟系統段階で持続させ維持する条件で、固形臓器または組織へのドナー細胞(同種または自己の)の移植に有用なパッチグラフトが企図されている。いくつかの実施形態では、ドナー細胞は、上皮および間葉細胞の混合物である。いくつかの実施形態では、両方のドナー細胞集団は、幹/前駆細胞である。いくつかの実施形態では、上皮細胞は成熟細胞であり(例えば、肝細胞、膵島など)、間葉細胞は幹/前駆孫細胞である。いくつかの実施形態では、移植片生体材料の条件、例えば、培地およびマトリックス成分が、ドナー細胞集団または少なくとも間葉細胞集団の両方を幹/前駆細胞として残すことを可能にする。いくつかの実施形態では、培地は、基底培地および可溶性信号を含む。さらなる実施形態では、この基底培地および可溶性信号は、ドナー集団または少なくとも間葉細胞集団の両方における幹細胞性の維持を支持する。いくつかの実施形態では、任意選択で細胞外マトリックス成分を含むマトリックス、およびその剛性レベルは、ドナー集団または少なくとも間葉細胞集団の両方の幹細胞性の維持を支持する。いくつかの実施形態では、マトリックスは、約50Pa~約150Paの粘弾性を有する軟質ハイドロゲルとして任意で調製されたヒアルロナンを含む。いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、移植片を標的部位につなげられる十分な機械的強度を有し、ドナー細胞の成熟系統段階を著しく変化させない生体適合性、生分解性材料から成る裏打ちを含む。随意に、さらなる修正なしに、ドナー細胞の成熟系統段階に有意に影響を与えることなく、ドナー細胞を含有する層を保護するために、裏打ちはそれ自体で適切であるべきである。いくつかの実施形態では、裏打ちはメッシュまたはスカフォールドであり、さらにヒアルロナンなどの生体材料で含浸され、粘弾性はその中に移動する任意の細胞を十分に成熟させて、標的部位に向かう以外の方向にドナー細胞の移動を阻止するのに十分に高い。いくつかの実施形態では、この粘弾性は、約500Pa以上である。いくつかの実施形態では、移植片の血清学的表面は、隣接する組織または器官からの癒着を最小限に抑えるために生体材料で被覆される。いくつかの実施形態では、これらの生体材料は、約200Pa~約300Paの粘弾性を有する。
【0152】
提案された裏打ちは、機械力に耐えるのに十分な弾性を有することが企図され、標的器官または組織につなぐことができ、曲率のある場所につなぐのに十分な可撓性を有する。また、生体材料が、細胞集団を持続および維持する能力を持ち、パッチグラフト内またはパッチグラフトから離れる細胞集団の移動を可能にするのに十分な粘弾性特性を有する限り、任意の生体材料(ハイドロゲル以外)も利用することができる。
【0153】
別の実施形態では、パッチグラフトは、細胞集団を持続および維持するのに有用であり、(a)パッチグラフト内またはパッチグラフトから離れる細胞の移動を可能にするのに十分な粘弾性を有する、ハイドロゲルまたはその他の生体材料内の培地で支持された細胞集団(任意選択で単一型)と、(b)裏打ちの方向に細胞集団が移動するのを阻害(またはバリアを提供)するために十分な粘弾性を有する生体適合性、生分解性材料を含む裏打ち、とを含む。
【0154】
MMPは膜結合型および/または分泌型MMPでありうることに注意することが重要であり、それらは、そのような細胞に由来するMMP産生細胞によって提供されてもよく、または目的の組成物に添加されてもよい(例えば、精製または組み換えで生成)。
【0155】
別の実施形態では、カバーまたはコーティングに印加される機械力に耐えるのに十分な粘弾性および弾性を備えたハイドロゲルまたは他の生体材料を含み、そのような力が他の組織および器官からまたはそれらによって印加されることを含む、パッチグラフトまたは組織のカバーまたはコーティングが提供される。カバーまたはコーティングを使用することにより、癒着の形成を阻害または防止するための方法が提供されており(これは、他の器官および組織からの機械力または接触の関与または結果)、この方法は、ハイドロゲルまたは他の同等の生体材料を用いた表面のカバーまたはコーティングを含む。
【0156】
さらに別の実施形態では、細胞を標的組織内に生着させる方法が提供され、これは標的細胞とパッチグラフトとを接触させることを含み、パッチグラフトは、(a)細胞の集団であって、早期系統段階を有する少なくとも一つの集団を含み、パッチグラフト内またはパッチグラフトから離れる細胞集団の移動を可能にするのに十分なレオロジー特性(例えば、粘弾性)を有するハイドロゲルまたは他の生体材料中の培地に支持された単一型または複数型の細胞を含む、細胞の集団と、(b)裏打ちの方向に細胞集団の移動を阻止(またはバリアを提供)するのに十分なレオロジー特性(例えば、粘弾性)を有する生体適合性、生分解性材料を含む、該裏打ちであって、パッチグラフトが、該細胞集団を持続および維持しながら、早期系統段階を有する該少なくとも一つの集団が後期系統段階に分化またはさらに成熟することを阻害するように構成される、裏打ちと、を含む。さらなる実施形態では、早期系統段階を有する一つの集団が、膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現する能力を持つ、方法が提供される。別の実施形態では、細胞はこの能力を持たないが、MMPが存在するか、または他のソース(例えば、組み換え)から含まれる。
【0157】
MMPの細胞源を用いた移植片
本開示の態様は、細胞の混合集団を持続および維持するためのパッチグラフトに関し、(a)二つ以上の細胞型を有する混合集団であって、そのうちの少なくとも一つは、分泌型および/または膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現できる早期系統段階にあり、ハイドロゲルマトリックス中に存在する培地で支持される該混合集団は、任意に該ハイドロゲル内もしくは外および/またはパッチグラフト内もしくは外に、該混合集団の移動を可能にするのに十分な粘弾性を有する、二つ以上の細胞方を有する混合集団と、(b)裏打ちであって、該裏打ちの方向に該混合集団の移動を阻害するのに十分な粘弾性を有する生体適合性、生分解性材料を含む、裏打ちと、任意に((c)該裏打ちの漿膜(すなわち外側)表面に重ねられたハイドロゲルであって、これは該混合集団と接触しているものとは反対であり、パッチグラフトが標的部位につながれている実施形態では、標的部位と接触している側とは反対である(例えば、器官または組織)、ハイドロゲルと、を含む。いくつかの実施形態では、この層は、他の組織もしくは器官によるまたは他の組織もしくは器官からの癒着を防止または阻害する。いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、該混合集団を持続および維持する一方で、該少なくとも一つの早期系統段階細胞型が、膜結合型および/または分泌型MMPをもはや発現できない後期系統段階への分化またはさらなる成熟を阻害するように構成されている。
【0158】
いくつかの実施形態では、移植片は、胚性幹(ES)細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞などの一つの細胞型のみを含みうる。これは、この細胞がMMPの細胞源であるか、または別の方法として、MMPの精製された(例えば、組み換え)形態などの他のソースが移植片に添加される限り、成功する可能性がある。
【0159】
いくつかの実施形態では、該裏打ちは多孔性または非多孔性である。いくつかの実施形態では、裏打ちは、多孔性および/もしくは非多孔性メッシュ、スカフォールド、または膜を含む。いくつかの実施形態では、裏打ちは、絹、合成繊維、または羊膜、胎盤もしくは網もしくはそれらの誘導体などの天然材料、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、該裏打ちは、それをバリアに変換するために使用されるハイドロゲルまたは他の生体材料を注入された多孔性メッシュを含む。さらなる実施形態では、こうした注入は、標的器官または組織からの細胞の移動を防止する。いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態では、該裏打ちは固体材料を含む。
【0160】
いくつかの実施形態では、該ハイドロゲルのうちの一つまたは複数は、ヒアルロナンを含む。
【0161】
いくつかの実施形態では、該培地は、クボタの培地、または幹細胞を支持し、幹細胞性を維持することができる別の培地を含む。
【0162】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、間葉細胞および上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、外胚葉性、内胚葉性、または中胚葉性であってもよい。いくつかの実施形態では、該間葉細胞は、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む。いくつかの実施形態では、該ELSMCは、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体、および間葉幹細胞(MSC)のうち一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、上皮幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、胆管幹細胞(BTSC)を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、コミットした(committed)および/または成熟上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該コミットしたおよび/または成熟上皮細胞は、成熟した実質細胞を含む。いくつかの実施形態では、該成熟実質細胞は、肝細胞、胆管細胞、および膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該間葉細胞および上皮細胞はどちらも幹細胞を含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、自己細胞および/または同種細胞を含む。
【0164】
いくつかの実施形態では、一つまたは複数の細胞型は遺伝子組み換えされている。
【0165】
「層状」移植片
いくつかの実施形態では、パッチグラフトは多層移植片として理解されている。例えば、本明細書に提供されているのは、少なくとも(a)ドナー細胞、随意に上皮細胞および/または間葉細胞を含むハイドロゲルの軟質の第一層、(b)ハイドロゲルの硬質の第二層、および(c)生体適合性、生分解性裏打ちを含む第三層、を含む複数層を、含む、それらから成る、または本質的にそれらから成るパッチグラフトである。いくつかの実施形態では、特に第三層が多孔性である場合、第二層が第三層に組み込まれ、含浸され、および/または注入される。いくつかの実施形態では、パッチグラフトはハイドロゲルの第四層をさらに含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第四層は移植片の漿膜表面上にコーティングまたはペイントされる。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第一層は、標的組織または器官に直接接触するように適合されている。
【0166】
本明細書で使用される場合、「軟質」という用語は、パスカル(Pa)アッセイによって定量的に決定される低いレベルの内部圧力を示すハイドロゲル層を指す。パスカルは、1平方メートル当たり1ニュートンとして定義される。いくつかの実施形態では、軟質層は、約10Pa~約300Pa、約50Pa~約250Pa、約100Pa~約250Pa、約50Pa~約200Pa、約150Pa~約200Pa、または約100Pa~約200Paの粘度を有する。特定の実施形態では、軟質ハイドロゲル層は、約200Paまたはそれ未満の粘度を有する。
【0167】
本明細書で使用される場合、「硬質」という用語は、パスカル(Pa)アッセイによって定量的に決定される高いレベルの内部圧力を示すハイドロゲル層を指す。いくつかの実施形態では、硬質層は、約300Pa~約3000Pa、約300Pa~約1000Pa、約400Pa~約750Pa、約400Pa~約550Pa、約450Pa~約600Pa、または約500Pa~約600Paの粘度を有する。特定の実施形態では、硬質ハイドロゲル層は、約500Paまたはそれを超える粘度を有する。
【0168】
層状移植片の第一層については、細胞および生体材料の不溶性複合体は、約0.1~200Pa、好ましくは約0.1~約1Pa、約1~約10Pa、約10~100Pa、または約100~約200、または約50~約250Paの範囲、または約200Paの粘度または粘弾性を持つことが好ましい。層状移植片の第一層については、細胞および生体材料の不溶性複合体は、約0.1~200Pa、好ましくは約0.1~約1Pa、約1~約10Pa、約10~100Pa、または約100~約200の範囲の粘弾性を持つことが好ましい。
【0169】
いくつかの実施形態では、混合物中の一つまたは複数の細胞は、分泌型および/または膜結合型MMPの供給源である。いくつかの実施形態では、MMPを自然に分泌する幹/前駆細胞集団などを含むが、これらに限定されず、MMP発現を弱める変数-随意に分泌型MMP発現がパッチグラフト内で制御される。こうした変数の非限定的な例には、培地または移植片生体材料への血清補充、上皮細胞および/または間葉細胞の分化に影響を与えるホルモンまたは他の可溶性信号、酸素レベル(嫌気性条件が細胞を未成熟に保つ一方で、より高い酸素レベルが分化を促進するため)、および移植片材料の剛性(せん断力および圧縮などの機械力が分化を促進し得るため)などが挙げられるが、これらに限定されない、幹/前駆細胞の成熟をもたらす変数が含まれる。
【0170】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第一層の粘度は、約50~約250Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第一層の粘度は、約200Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第二層の粘度は、約250~約600Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第二層の粘度は、約500Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第四層の粘度は、約250~約500Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第四層の粘度は、約400Paである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第二層の粘度は、層1の粘度よりも大きい。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第二層の粘度は、第一層の粘度よりも約1.5~約15倍大きい。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第二層は、第一層の粘度よりも約2倍大きい。
【0171】
一実施形態では、パッチグラフトは、標的部位と接触する層から始まり、無血清の規定された培地中で調製された軟質(<200Pa)ハイドロゲルに埋め込まれたドナー細胞からなる層;同じ培地で調製され、より高い剛性(例えば、約500Pa以上)を有するようにトリガーされ、標的組織に向かう以外の任意の方向に移動するドナー細胞にバリアを提供するハイドロゲルの第二層;ドナー細胞の成熟状態への影響が中立で、外科手術的または他の手段を使用して標的部位に移植片をつなぐことができる、生体適合性、生分解性、生体吸収性の裏打ちである第三層;および軟質ハイドロゲルと非常に剛直なものとの間の中間の剛性であり、近位の組織による癒着を最小限に抑えるために表面にペイントまたはコーティングするのに十分な流体であるハイドロゲルの最終層を含む、これらから成る、または本質的にこれらから成る。
【0172】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第一および第二層が、それぞれ一つまたは複数のヒアルロナンを含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、第四層が一つまたは複数のヒアルロナンを含む。
【0173】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞は、一つまたは複数の凝集体を形成する。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、一つまたは複数の凝集体は、オルガノイドである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞は、上皮幹細胞を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞は、胆汁上皮細胞を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞は、コミットしたおよび/または成熟上皮細胞を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、コミットしたおよび/または成熟した上皮細胞は、成熟した実質細胞を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、成熟実質細胞は、肝細胞、胆管細胞、および膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む。
【0174】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、間葉細胞は支持的な間葉細胞である。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、間葉細胞は、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、ELSMCは、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体、および間葉幹細胞(MSC)からなる群の一つまたは複数を含む。
【0175】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞は、互いの系統段階パートナーではない。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞は成熟細胞である。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、間葉細胞はELSMCである。
【0176】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、ドナーに由来する。いくつかの実施形態では、ドナーは、組織移植を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、ドナーは組織移植のための健康な細胞源である。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、パッチグラフトの意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、全ての細胞(すなわち、上皮および間葉)は、移植片の意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、細胞のドナーは、レシピエント(同種移植)以外のものであってもよく、または病気または機能不全の状態の内臓を有する対象(自己)であってもよく、随意に、細胞は病気または機能不全ではない内臓の一部から、および/または機能を復元するように遺伝子組み換えされている細胞から取得される。疾患を研究するモデルシステムを確立するために、ドナー細胞は、疾患を有し、実験的宿主の正常な組織の上/中へと移植されるものとすることができる。
【0177】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、上皮細胞または間葉細胞のうちの少なくとも一つは修飾されている。いくつかの実施形態では、すべての細胞が修飾される。いくつかの実施形態では、修飾は遺伝的な修飾である。いくつかの実施形態では、一つまたは複数の細胞が修飾され、治療用核酸またはポリペプチドを発現する。いくつかの実施形態では、一つまたは複数の細胞が修飾され、核酸またはポリペプチドの野生型アレルを発現する。
【0178】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、生体適合性、生分解性の裏打ちは、生体吸収性である。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、生体適合性、生分解性の裏打ちは、多孔性材料を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、生体適合性、生分解性の裏打ちは、スカフォールドまたは膜を含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、スカフォールドまたは膜は、絹、羊膜、合成繊維、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、生体適合性、生分解性の裏打ちは、細胞の分化を誘導または防止する任意の因子を含まない。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、生体適合性、生分解性の裏打ちは、成熟細胞外マトリックスに由来する一つまたは複数の成分を含まない。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、成熟細胞外マトリックスに由来する成分は、I型コラーゲンである。
【0179】
パッチグラフトのいくつかの実施形態では、パッチグラフトは、一つまたは複数のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)をさらに含む。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、MMPは、膜結合型MMPである。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、膜結合型MMPは、上皮細胞または間葉細胞のうちの一つまたは複数によって提供される。パッチグラフトのいくつかの実施形態では、MMPは、分泌型MMPである。分泌型MMPは、随意に、一つまたは複数の上皮細胞または間葉細胞によって自然に生成されるか、または随意に、MMP産生のための組み換え発現ベクターによる一つまたは複数の上皮細胞または間葉細胞の形質転換により生成されてもよい。
【0180】
いくつかの態様では、本明細書に提供されているのは、少なくとも胆管幹細胞を含むハイドロゲルの軟質の第一層、ハイドロゲルの硬質の第二層、および生体適合性、生分解性裏打ちを含む第三層、を含む複数層を、含む、それらから成る、または本質的にそれらから成るパッチグラフトである。
【0181】
一実施形態では、パッチグラフトは、外科手術的にまたはその他の方法で標的部位につなぐことができる「バンドエイド様移植片」を集合的に形成する材料および細胞の層から成る。標的部位に対向する第一層は、細胞の増殖および/または生存のために設計された規定された、無血清の、栄養豊富な培地に懸濁した上皮細胞および支持間葉細胞の混合物を播種した軟質のハイドロゲル(200Pa未満)を含み、第二層は、同じ培地で調製したハイドロゲルを含有するが、より剛直なレベル(すなわち、パスカルレベル以上)にゲル化され、標的部位以外の方向に細胞が移動するのをブロックするバリアを形成し、第三レベルは、ドナー細胞の分化レベルに影響しないかまたは影響を最小限に抑えるが、パッチの機械的支持構造として機能する、生体適合性、生分解性の裏打ちを含み、第四層は、軟質対硬質のハイドロゲルの中間の剛性レベルであり、近接組織の細胞から移植片への癒着を最小限に抑える役割を果たすペイント可能なハイドロゲル(再びヒアルロナンなど)から成る。ハイドロゲルは、生体適合性、生分解性、および剛性に関して調節可能であるという意味の「調整可能」である材料からなる必要がある。ハイドロゲルの一つの成功した材料は、酸素および/またはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)に曝露された時、ハイドロゲルを形成しするためにトリガーされてもよく、ヒアルロナンおよびPEGDA濃度(および/または酸素レベル)の正確な比率によって容易に「調整可能」である、チオール修飾ヒアルロナンである。
【0182】
別の実施形態では、パッチグラフトは複数の層を含む。標的部位に対向する第一層は、ゲル化または固化させることができ、ドナー細胞に配置される、最小化硫酸化もしくは非硫酸化GAGまたは他の非硫酸化もしくは中性生体材料である軟質ハイドロゲルである。より剛直で、裏打ち中/上または内に組み込まれた、ハイドロゲルまたは生体材料の第二層であり、裏打ちは、生体適合性、生分解性、生体吸収性の裏打ちで、外科手術または他の目的でパッチを取り扱うことができ、細胞を標的組織に向かって移動させるバリアとしての役割を果たす。裏打ちの漿膜側は、手術の時点でヒアルロナン(または他の最小硫酸化または非硫酸化GAGまたはゲル化もしくは固化可能な他の材料)などの生体材料でコーティングされ、パスカルレベルは軟質生体材料の層に見られるパスカルレベルの少なくとも二倍であり、隣接組織からの癒着を最小化するという目的に役立つ。パッチグラフトは標的器官または組織につながれ、細胞は組織または器官に移動し、完全に組み込まれ得る。
【0183】
特定の実施形態では、パッチグラフトは、軟質のヒアルロナンハイドロゲルなどの軟質の生体材料(<200Pa)の第一層を含み、その中に配置されるのは、細胞の系統段階に合わせた無血清、規定された培地に移植されるドナー細胞である。この層は、ドナー細胞を標的組織への移動に向けるように仕向けるバリアとして機能する、より剛直な層(例えば、より剛直なハイドロゲル)の上に配置される。より剛直な層は、外科手術または他の処置のためにパッチを処理して、パッチを標的部位に貼り付けることを可能にする、生体適合性、生分解性の裏打ちである、裏打ちに事前に準備される。最終層は、標的組織側のドナー細胞の剛性と、バリアの剛性の中間の生体材料である。この層は、外科手術時に移植片の漿膜側に追加され、隣接組織からの癒着を最小限に抑える役割を果たす。生体適合性、生分解性の裏打ちは、セリシルクまたはその誘導体であってもよい。
【0184】
パッチグラフトの使用および送達方法
本開示の態様は、器官内に細胞を生着させるための組成物および方法に関する。固形臓器から内臓への細胞移植に対する努力は典型的に、血管経路を介した細胞の直接注射または送達のいずれかを使用した。Lanzoni,G.et al.Stem Cells 31,2047-2060(2013)。これらの移植方法は、少数の細胞が標的部位に移植され、生命を脅かす可能性のある塞栓のリスクが生じる。細胞が、「注入移植」によって送達された場合、細胞をヒアルロナンに懸濁、またはヒアルロン酸でコーティングした後に、トリガー(PEGDA)を同時注入し、以下に記載されているように、ヒアルロナンが生体内原位置でゲル化する。Turner R.et al.Hepatology 57,775-784(2013)。注入移植法により、少数にもかかわらず、通常は注入部位あたり105-107、106-107、または105-106の細胞を特定の部位に局在化するための戦略が提供される。この戦略は、異所的な細胞分布を排除または最小化し、部位内の細胞の統合を最適化する。しかしながら、成熟した機能的細胞が使用される場合、それらは免疫原性が高く、長期免疫抑制を必要とする場合がある。また、注入できる細胞の量は、必要な臨床結果を達成するために不十分でありうる。
【0185】
これらの障害および懸念は、本明細書に記載される「パッチグラフト」戦略によって克服される。いくつかの実施形態では、「バンドエイド様の」移植片は、外科手術的にまたは他の方法で、器官または組織の表面につながれ、移植片の条件は、細胞が完全に部位内に生着し、器官/組織全体に移動し、その後、関連する成体細胞型に成熟するようなものである。多数の細胞を移植する可能性(>108細胞)は、パッチのサイズ、移植片内の細胞の数または混合物、およびMMPの複数の形態の供給源、理想的にはMMPの細胞源によって形成または決定される。さらに、いくつかの実施形態では、オルガノイドの使用は、規定の無血清条件下でオルガノイドを凍結保存できる容易さを考えると、ドナー細胞を備蓄する能力を促進する。
【0186】
本明細書に提供されるパッチグラフト組成物は、組織または固形臓器上への細胞の直接移植を目的とする。方法は安全であり、塞栓および異所性細胞分布を回避し、組織全体への細胞数生着および分布を最適化する。
【0187】
したがって、本明細書に提供されるのは、標的組織を本明細書で上記に開示したパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る、細胞を標的組織に生着させる方法である。
【0188】
この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺、胃腸、肺、前立腺、乳房、脳、膀胱、脊髄、皮膚および皮下組織、子宮、腎臓、筋肉、血管、心臓、軟骨、腱、および骨組織からなる群から選択される。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は肝臓組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は膵臓組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は胆管組織である。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は胃腸組織である。いくつかの実施形態では、組織は病気であるか、損傷している、または障害を有する。この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は腎臓組織である。
【0189】
この方法のいくつかの実施形態では、標的組織は器官である。この方法のいくつかの実施形態では、器官は、筋骨格系、消化器系、呼吸器系、泌尿器系、女性生殖器系、男性生殖器系、内分泌系、循環器系、リンパ系、神経系、または外皮系の器官である。この方法のいくつかの実施形態では、器官は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺、胃腸、肺、前立腺、乳房、脳、膀胱、脊髄、皮膚および皮下組織、子宮、腎臓、筋肉、血管、心臓、軟骨、腱、および骨からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、器官は病気であるか、損傷している、または障害を有する。
【0190】
また、肝臓疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、対象の肝臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、肝疾患または障害は、肝線維症、肝硬変、ヘモクロマトーシス、肝臓ガン、胆道閉鎖症、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝炎、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、肝蛭症、アルコール性肝疾患、α1-アンチトリプシン欠損症、糖原病II型、トランスサイレチン関連遺伝性アミロイドーシス(amyloidoisis)、ジルベール症候群、原発性胆汁肝硬変、原発性硬化性胆管炎、バッド・キアリ症候群、肝外傷またはウィルソン病である。
【0191】
他の態様では、膵臓の疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、対象の膵臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、膵臓の疾患または障害は、糖尿病、膵外分泌不全、膵炎、膵臓がん、オッディ括約筋機能不全、嚢胞性線維症、膵管癒合不全、輪状膵、膵臓外傷、または膵管出血(hemosuccus pancreaticus)である。
【0192】
他の態様では、胃腸の疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、一つまたは複数の対象の腸を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。いくつかの実施形態では、胃腸疾患または障害は、胃腸炎、胃腸がん、回腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、消化性潰瘍、セリアック病、線維症、血管形成異常、ヒルシュスプルング病、偽膜性大腸炎、または胃腸外傷である。
【0193】
いくつかの態様では、腎臓疾患または障害を有する対象を治療する方法が本明細書に提供されており、この方法は、一つまたは複数の対象の腎臓を本明細書の上記に開示されるパッチグラフトに接触させることを含む、それから成る、または本質的にそれから成る。この方法のいくつかの実施形態では、腎臓疾患または障害は、腎炎、ネフローゼ、腎炎症候群、ネフローゼ症候群、慢性腎臓疾患、急性腎障害、腎臓外傷、嚢胞性腎疾患、多発性嚢胞腎疾患、糸球体腎炎、IgA腎症、ループス腎症、腎臓がん、アルポート症候群、アミロイドーシス、グッドパスチャー症候群、またはウェグナー肉芽腫症である。
【0194】
治療法のいくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、ドナーに由来する。いくつかの実施形態では、ドナーは、組織移植を必要とする対象である。いくつかの実施形態では、ドナーは組織移植のための健康な細胞源である。いくつかの実施形態では、上皮細胞および間葉細胞のうちの少なくとも一つは、パッチグラフトの意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、全ての細胞(すなわち、上皮および間葉)は、移植片の意図されたレシピエントに対して自己である。いくつかの実施形態では、細胞のドナーは、レシピエント(同種移植)以外のものであってもよく、または病気または機能不全の状態の内臓を有する対象(自己)であってもよく、随意に、細胞は病気または機能不全ではない内臓の一部から、および/または機能を復元するように遺伝子組み換えされている細胞から取得される。
【0195】
いくつかの実施形態では、本明細書の上記に開示される方法で使用されるパッチグラフトは、少なくとも上皮細胞および間葉細胞を含むハイドロゲルの第一層、ハイドロゲルの第二層、生体適合性、生分解性裏打ちを含む第三層、および随意にハイドロゲルの第四層を含む、複数の層を含むパッチグラフトである。いくつかの実施形態では、方法は、パッチグラフト内に含まれる細胞が、組織に組み込まれることを可能にすることをさらに含む。方法のいくつかの実施形態では、ハイドロゲルの第一層は軟質である。方法のいくつかの実施形態では、ハイドロゲルの第二層は硬質である。方法のいくつかの実施形態では、間葉細胞は支持的な間葉細胞である。
【0196】
別の態様では、本開示は、外科手術的にまたは他の方法で、標的部位に集合的につながることのできる、複数層の材料および細胞で構成されるバンドエイド様の複合体である、パッチグラフトの使用を含む、器官への細胞の生着方法を提供する。標的部位に対向する第一層は、細胞の増殖および/または生存のために設計された規定された、無血清の、栄養豊富な培地に懸濁した上皮細胞および支持間葉細胞の混合物を播種した軟質のハイドロゲル(200Pa未満)を含み、第二層は、同じ培地で調製したハイドロゲルを含有するが、より剛直なレベル(すなわち、パスカルレベル以上)にゲル化され、標的部位以外の方向に細胞が移動するのをブロックするバリアを形成し、第三レベルは、ドナー細胞の分化レベルに影響しないかまたは影響を最小限に抑え、したがって「中立」である、生体適合性、生分解性の裏打ちを含み、第四層は、軟質対硬質のハイドロゲルの中間の剛性レベルであり、近接組織の細胞から移植片への癒着を最小限に抑える役割を果たすペイント可能なハイドロゲル(再びヒアルロナンなど)から成る。ハイドロゲルは、生体適合性、生分解性、および剛性に関して調節可能であるという意味の「調整可能」である材料からなる必要がある。ハイドロゲルの一つの成功した材料は、酸素および/またはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)に曝露された時、ハイドロゲルを形成しするためにトリガーされてもよく、ヒアルロナンおよびPEGDA濃度(および/または酸素レベル)の正確な比率によって容易に「調整可能」である、チオール修飾ヒアルロナンである。移植片の生体材料の条件下の細胞は、ドナー細胞のレシピエントの組織への生着、移動、および統合を促進する、複数のマトリックメタロスプロテイナーゼ(MMP)を産生する。レシピエント組織の微小環境は、移植された細胞の成体運命を指定する。
【0197】
別の態様では、本開示は、少なくとも、生体適合性、生分解性の裏打ちを含む第一層、上皮細胞および支持間葉細胞の混合物を含む一つまたは複数のヒアルロナンを含む第二層、一つまたは複数のヒアルロナンを含む第三層を含む、複数の層を含む、パッチグラフトとの接触を含む器官の中への細胞の生着方法を提供するものであり、細胞が埋め込まれている層は非常に軟質(200Pa未満)で、裏打ちに関連する層はより剛直(約500Pa以上)であり、第三層はパスカルのレベルの中間であり、近くの組織または器官からの癒着を最小限に抑えるのに役立つ。さらに別の態様では、細胞は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺腸、肺、前立腺、乳房、脳、脊髄、神経節、皮膚および皮下組織、子宮、骨、胸腺、腸、子宮、骨、腎臓、筋肉、血管、または心臓からなる群から選択される器官に生着してもよい。
【0198】
さらに別の態様では、細胞は、肝臓、膵臓、胆管、甲状腺、胸腺胸腺、腸、肺、前立腺、乳房、脳、脊髄、神経節、皮膚および皮下組織、子宮、骨、腱、軟骨、腎臓、筋肉、血管、または心臓からなる群から選択される器官に生着してもよい。
【0199】
本明細書に開示される方法に適切なパッチグラフトの非限定的な例は、以下を含むパッチグラフトである。(a)二つ以上の細胞型を有する混合集団であって、そのうちの少なくとも一つは、分泌型および/または膜結合型および/または分泌型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を発現できる早期系統段階にあり、ハイドロゲルマトリックス中に存在する培地で支持される該混合集団は、任意に該ハイドロゲル内もしくは外および/またはパッチグラフト内もしくは外に、該混合集団の移動を可能にするのに十分な粘弾性を有する、二つ以上の細胞型を有する混合集団、(b)裏打ちであって、該裏打ちの方向に該混合集団の移動を阻害またはこれにバリアを提供するのに十分な粘弾性を有する生体適合性、生分解性材料を含む、裏打ち、任意に((c)ハイドロゲルであって、該裏打ちの漿膜(すなわち外側)表面に重ねられ、これは該混合集団と接触しているものとは反対であり、パッチグラフトが標的部位につながれている実施形態では、標的部位と接触している側とは反対である(例えば、器官または組織)、ハイドロゲル。いくつかの実施形態では、この層は、他の組織もしくは器官によるまたは他の組織もしくは器官からの癒着を防止または阻害する。いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、該混合集団を持続および維持する一方で、該少なくとも一つの早期系統段階細胞型が、膜結合型および/または分泌型MMPをもはや発現できない後期系統段階への分化またはさらなる成熟を阻害するように構成されている。
【0200】
いくつかの実施形態では、該裏打ちは多孔性または非多孔性である。いくつかの実施形態では、裏打ちは、多孔性メッシュ、スカフォールド、または膜を含む。いくつかの実施形態では、裏打ちは、絹、合成繊維、またはアミニオン(aminion)、胎盤もしくは網などの天然材料、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、該裏打ちは、ハイドロゲルが注入された多孔性メッシュを含む。さらなる実施形態では、こうした注入は、標的器官または組織からの細胞の移動を防止する。いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態では、該裏打ちは固体材料を含む。
【0201】
いくつかの実施形態では、パッチグラフトは、該裏打ちの漿膜表面上に重ねられたハイドロゲルをさらに含み、これは該単一細胞または混合細胞集団と接触するものとは相反する。
【0202】
いくつかの実施形態では、該ハイドロゲルのうちの一つまたは複数は、ヒアルロナンを含む。
【0203】
いくつかの実施形態では、該培地は、クボタの培地、または幹細胞を支持し、幹細胞性を維持することができる別の培地を含む。
【0204】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、間葉細胞および上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、外胚葉性、内胚葉性、または中胚葉性であってもよい。いくつかの実施形態では、該間葉細胞は、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)を含む。いくつかの実施形態では、該ELSMCは、血管芽細胞、血管内皮の前駆体、星状細胞の前駆体、および間葉幹細胞(MSC)のうち一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、上皮幹/前駆細胞を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、胆管幹細胞(BTSC)を含む。いくつかの実施形態では、該上皮細胞は、コミットした(committed)および/または成熟上皮細胞を含む。いくつかの実施形態では、該コミットしたおよび/または成熟上皮細胞は、成熟した実質細胞を含む。いくつかの実施形態では、該成熟実質細胞は、肝細胞、胆管細胞、および膵島細胞のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、該間葉細胞および上皮細胞はどちらも幹細胞を含む。
【0205】
いくつかの実施形態では、該混合集団は、自己細胞および/または同種細胞を含む。
【0206】
いくつかの実施形態では、一つまたは複数の細胞型は遺伝子組み換えされている。
【実施例】
【0207】
以下の実施例は、本開示を実施する際に様々な場合で使用できる手順の非限定的および例示的なものである。さらに、本明細書の以下に開示される全ての参照は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0208】
実施例1:パッチグラフト検証用のブタモデル
動物
宿主としてまたは細胞のドナーとして使用された動物は、NCSU(ノースカロライナ州ローリー市)のCollege of Veterinary Medicineの施設で維持された。これらの施設では、手術、剖検、および全生物学的液体および組織の収集が実施された。すべての手順は、NCSUのIACUC委員会によって承認された。レシピエントとして使用されるブタは、ヨークシャー、ラージホワイト、ランドレース(雌ブタから)、デュロック、スポット、およびピエトラン(雄ブタから)から成る六方向交配の、六品種の混合物であった。この非常に異種の遺伝的背景は、ヒト集団の異種の遺伝的構成に相似するという点で望ましい。宿主動物はすべて雌であり、生後約六週間および約15kgであった。
【0209】
二つの分類があった。a)生後約六週間および約15kgの雄ブタは、雌に細胞移植するためのドナーとして使用された。b)GFP導入遺伝子を担持する遺伝子導入ドナー動物。GFP+ドナー動物は、標準的な人工受精により、野生型未経産ブタと遺伝子導入H2B-GFP雄ブタを、繁殖させることにより得られた。このモデルは、内因性β-アクチン(ACTB)座位へのIRES-pH2B-eGFPのCRISPR-Cas9介在性相同組み換え修復(HDR)を介して開発された。遺伝子導入動物は、すべての組織におけるpH2B-eGFPのユビキチン発現を示す。GFPのH2Bへの融合により、GFPマーカーがヌクレオソームに局在化し、核の明らかな視覚化と染色体ダイナミクスの研究が可能となる。樹立系統は広範囲に分析され、遍在性および核局在化発現が確認されている。さらに、繁殖は、H2B-GFPの次世代への伝播を示している。全ての動物は健康であり、子孫はpH2B-eGFPの伝播について予想されるメンデル比を示す、複数の妊娠が確立された。雄の子孫は誕生時に遺伝子型が同定され、導入遺伝子に対して陽性であったものは組織収集およびドナー細胞の単離のために人道的に安楽死された。
【0210】
各ドナーおよびレシピエント動物については、ブタ白血球抗原クラスI(SLA-I)およびクラスII(SLA-II)遺伝子座は、PCR配列特異的プライマー戦略に基づいて、これらの領域において公知のアレルを増幅するよう設計されたプライマーを使用してPCR増幅されている。システムは、SLA-1、SLA-2、およびSLA-3の遺伝子座53を増幅する47個の識別用SLA-Iプライマーセットと、DRB1、DQB1、およびDQA遺伝子座を増幅する47個の識別用SLA-IIプライマーセットで構成される。これらのプライマーセットは、類似した配列モチーフを共有する群によってアレルを区別するように開発され、公知のSLA-IおよびSLA-IIアレルを検出するために簡単かつ明確に示されている。一緒に使用された場合、これらのプライマーは、試験された各動物のハプロタイプを効果的に提供し、ドナーおよびレシピエント動物で一致または不一致のハプロタイプを簡単に確認するためのアッセイを提供する。
【0211】
培地および溶液
すべての培地は滅菌ろ過し(0.22μmフィルター)、使用前に暗所で4℃に保った。基底培地および胎児ウシ血清(FBS)をGIBCO/Invitrogenから購入した。すべての成長因子はR&D Systemsから購入した。その他のすべての試薬は、記載されたものを除き、Sigmaから得た。
【0212】
細胞洗浄液は、0.5グラムの血清アルブミン(Sigma、#A8896-5G、脂肪酸無し)、10-9Mセレンおよび5mlの抗生物質(Gibco #35240-062、AAS)で補充された、599mlの基底培地(例えば、RPMI 1640;Gibco #11875-093)を用いて調製した。処理中の組織および細胞の洗浄に使用した。
【0213】
コラゲナーゼ緩衝液が作成され、胆管(管)組織の場合は600U/ml(R1451 25mg)の最終濃度、器官実質組織(肝臓、膵臓)の場合は300U/ml(12.5mg)の最終濃度で、コラゲナーゼ(Sigma #C5138)で補充した100mlの細胞洗浄液で構成されている。
【0214】
内胚葉性幹/前駆体用に設計された、指定された無血清培地であるクボタの培地を使用して、細胞懸濁液、オルガノイド、およびHAハイドロゲルを調製した。この培地は、銅を含まず、低カルシウム(0.3mM)、1nMのセレン、0.1%のウシ血清アルブミン(精製済、脂肪酸無し、画分V)、4.5mMのニコチンアミド、0.1nMの硫酸亜鉛七水和物、5μg/mlのトランスフェリン/Fe、5μg/mlのインスリン、10μg/mlの高密度リポタンパク質、および脂肪酸を含まない高度に精製されたアルブミンと複合体を形成した、精製された遊離脂肪酸の混合物を含む、任意の基底培地(ここではRPMI1640)で構成される。その準備は、方法のレビュー57に詳細に記載されている。また、これはPhoenixSongs Biologicals(米国コネチカット州ブランフォード)から市販されている。
【0215】
HAの可溶性の長鎖型(Sigma Catalog #52747)は、オルガノイド培養の安定化および凍結保存に使用した。ハイドロゲルの生成に使用したチオール修飾HAは、Biotimeの子会社であるGlycosan Biosciencesから入手した。これらのチオール修飾HAの成分は、ISO9001:2000プロセスの宿主としてのバチルス・スブチリスを使用した専有の細菌発酵プロセスにより生成された(www.bioppolymers.novozyme.com/)。この成分は、HyaCare(登録商標)の商標に基づいてNovozymesによって生成され、動物由来原材料および有機溶剤の残留物を100%含有していない。動物由来成分は生産で使用されておらず、タンパク質レベルは非常に低く、エンドトキシンはない。生産は、欧州薬局方によって設定された標準に従っている。HAハイドロゲルは、チオール修飾HAであるGlycosil(HyStem(登録商標)HA、ESI BIO-CG313)を用いて調製され、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)を使用してジスルフィド架橋を形成するようにトリガーすることができる。Glycosil(登録商標)は、脱気水を用いて1%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で、またはこの場合ではクボタの培地で、チオール化HAの1%の溶液として再構成される。再構成すると、数時間液体のままであるが、酸素に曝露された場合にはいくらかゲル化する可能性がある。GlycosilをPEGDAなどの架橋剤で処理した場合、数分以内にゲル化が発生し、温度またはpH変化なしでより正確なゲル化が発生する。
【0216】
架橋のレベルは、剛性のレベルを指定し、チオール修飾HAのPEGDAに対する比によって正確に定義されうる。従来の研究では、幹細胞集団は、さまざまな剛性レベルのHAハイドロゲルで試験され、剛性レベルが200Pa
23未満である場合にのみ、抗原的にも機能的にも(例えば、移動能力に関して)幹細胞として維持されることが見出された。この所見を使用して、漿膜側に非常に軟質の層と、ヒアルロナンハイドロゲルのより剛直な層を有する移植片を設計し、標的組織以外の方向への移動に対するバリアを形成し、近辺組織からの細胞からの癒着を最小限に抑える。異なるレベルの剛性を有するハイドロゲルの3つのバージョンは、
図2に特徴付けられており、特徴はレオロジー特性の直接測定値を含む。最も剛直なバリアである10X HAハイドロゲル(剛性=760Pa)のバリアは、事前に裏打ち上に調製され、所望により凍結保存されうる。手術の時点で、ドナー細胞は、軟質の1X HAハイドロゲル(剛性=60Pa)で調製され、より剛直な10Xハイドロゲル(既に裏打ち上にある)上に置かれ、パッチは標的部位につながれた。つなげた後、移植片の漿膜側に、BD Micro-Fine(商標)IVの永久針を備えた、NORM-JECT 4010.200V0プラスチックシリンジを使用して、2X HAハイドロゲル(剛性=106Pa)でコーティングまたはペイントした。
【0217】
ハイドロゲルのマクロスケールのレオロジー特性は、応力制御された円錐平板レオメーター(TA Instruments、AR-G2、40mm円錐直径、1°角度)を使用して決定された。ゲルは、1rad/sの周波数および0.6Pa応力振幅で振動しながらレオメーター上で積極的に重合し、架橋反応の十分な完了を照会するために、係数を継続的に監視した。一旦平衡化すると、ハイドロゲルは振動周波数掃引を受けた(応力振幅:0.6Pa、周波数範囲:0.01~100Hz)。使用された3バージョンのヒアルロナンハイドロゲルの粘弾性(レオロジー)特性を
図2にまとめる。
【0218】
最も一般的に使用されるドナー細胞は、上述のように遺伝子導入H2B-GFPブタから誘導された。これらは、すべての細胞がGFPでタグ付けされる点において、細胞移植研究に有意な利点を提供する。分子タグとしての蛍光タンパク質の使用は、移植後のドナー細胞の移動および生着を追跡することを可能にした。この融合タンパク質は、核/クロマチンGFP信号をもたらすヌクレオソームを標的とする。説明した移植片では、幹細胞は完全に核内でGFPを発現するが、成体細胞型に制限される系統は、細胞質または核内でそれを有することができる。細胞質GFPのレベルは、一週目で特に高く、時間と共に減少することに留意されたい。これは、生着/浸潤/統合プロセスが、H2B結合型GFPが細胞質で見出される細胞に影響を及ぼすためである。これは、細胞が死にかけていることを意味するのではなく、再構築ゾーンの一部である高レベルのMMPおよび関連するシグナル伝達に応答していることを意味する。実際、検出されたGFP+細胞は明確に生存可能で増殖し、すべてがさまざまな成体機能を発現する(例えば、アルブミン、HNF4α、AFP、インスリン、グルカゴン、またはアミラーゼ)。
【0219】
移植片の特徴付けでより詳細に説明されるように、成熟肝細胞における裏打ち(新緑色)およびリポフスチン(ダークフォレスト緑色)の両方の自己蛍光は、波長がGFPの波長と重複しているという課題を示した。したがって、出願人は、GFPに対する抗体を使用して、GFP+信号をピンク色またはローズ色にシフトし、二次的に赤色蛍光プローブを有する抗体にシフトした。これにより、幹細胞は、ピンク核(核青色DAPI染色と抗体タグ付きローズ色GFP+ラベルとの融合)を有する小細胞として認識された。肝細胞に成熟した任意のドナー細胞は、緑色の自己蛍光(リポフスチン)、青色(DAPI)、およびローズ色(GFP)の融合によりラベンダー色を有すると認識された(
図4)。
【0220】
ブタ肝外胆管組織(胆嚢、共通管、肝管)を遺伝子導入ブタから取得した。組織は、滅菌されたステンレス鋼マレットで叩かれ、肝内胆管および肝外胆管の連結を注意深く維持しながら、実質細胞を除去した。続いて、胆管を、0.1%の血清アルブミンおよび1nMのセレン(10-9M)の抗生物質で補充した、滅菌無血清の基底培地から成る「細胞洗浄」緩衝液で洗浄した。次いで、交差した外科用メスで機械的に分離し、0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)、1nMのセレン、300U/mlのIV型コラゲナーゼ、0.3mg/mlのデオキシリボヌクレアーゼ(DNAse)および抗生物質で補充されたRPMI-1640中の細胞懸濁液中に凝集体を酵素的に分散させた。消化は32°Cで30~60分間、頻繁に撹拌しながら行った。ほとんどの組織は、2ラウンドの消化を必要とし、続いて4℃で1100rpmで遠心分離した。細胞ペレットは組み合わされ、細胞洗浄液中に再懸濁した。細胞懸濁液を、4℃で5分間30Gで遠心分離し、赤血球を除去した。細胞ペレットを再び細胞洗浄液中に再懸濁し、40μmナイロン細胞ストレーナーで濾過し(Becton Dickenson Falcon #352340)、新鮮な細胞洗浄液を加えた。細胞数を測定し、トリパンブルーを使用して生存率を評価した。90~95%を超える細胞生存率が日常的に観察された。
【0221】
以前の研究では、出願人は、肝細胞および胆管幹細胞に必要とされる重要なパラクリン信号と、成熟実質細胞に必要とされる他の信号とを提供する、間葉細胞集団の抗原性プロファイルを定義した。BTSCとパートナーとなる間葉細胞は、MHC抗原を含まず、側方散乱が低く、血管芽細胞(CD117+、CD133+、VEGF受容体+およびCD31陰性)、血管内皮の前駆体(CD133+、VEGF受容体+、およびCD31+)、および星状細胞の前駆体(CD146+、ICAM1+、VCAM+、α-平滑筋アクチン(ASMA)+、およびビタミンA陰性)として識別可能な亜集団である。これら3つの亜集団は、まとめて早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と称される。対照的に、成体肝細胞は、成熟類洞血管内皮(CD31+++、IV型コラーゲン+、VEGF受容体+、およびCD117陰性)および成熟した星状細胞および間質細胞(ICAM-1+、ASMA+、ビタミンA++、I型コラーゲン+)に関連する成体胆管細胞に関連付けられる。
【0222】
細胞懸濁液を、無血清のクボタの培地中のMultiwell Flat Bottom Cell Culture Plate(Corning #353043)に加え、37℃で約一時間インキュベートし、成熟間葉細胞の付着を促進した。培地が無血清であっても、成熟間葉細胞は10~15分以内に皿に付着した。懸濁液中に残留する細胞を別の皿に移し、再び最大一時間インキュベートした。この繰り返しにより、成熟間葉細胞のかなりの部分の枯渇が生じた。成熟間葉細胞の枯渇後、残りの浮遊細胞が、Corningの超低付着皿(Corning #3471)の無血清クボタの培地にウェル当たり約2×10
5の細胞で播種し、CO2インキュベーターで37℃で一晩インキュベートした。胆管幹細胞(BTSC)および一晩で形成されるELMSCから成るオルガノイド(
図1)。これらのオルガノイド培養物は、特に培地が可溶性形態のHA(Sigma)で補充された(0.1%)場合には、クボタの培地で数週間生存し、以下に記載されるように凍結保存される場合もある。新生仔ブタ胆管組織の各グラムから、約1.5X10
7細胞を得た。6ウェルで超低付着プレートのウェル当たり約3~6X10
5の細胞を使用し、無血清のクボタ培地でインキュベートした。細胞は、平均6000~20,000個の小さなオルガノイド(約50~100細胞/オルガノイド/ウェル)を生成する。移植片に対して、少なくとも100,000個のオルガノイド(>10
7細胞)を使用した。裏打ちのサイズに応じて、出願人は、移植片内のオルガノイドの数を、3cmX4.5cmの裏打ち上の約1mlの軟性ヒアルロナンハイドロゲルに埋め込まれた10
8オルガノイド(すなわち、約10
9細胞)以上まで増加させることができた。
【0223】
単離された幹細胞オルガノイドは、不凍因子、デキストラン、およびDMSO(ワシントン州、シアトル、Bioliife;https://www.stemcell.com/products/cryostor-cs10.html)を含有する等張性凍結保存緩衝液であるCS10で凍結保存された。細胞の生存率は、0.1%のHA(Sigma #52747)を補充することで、さらに改善した。CryoMed(商標)Controlled-Rate Freezerを使用して凍結保存を行った。解凍上の生存率は90%を超え、解凍後の細胞は付着し、エクスビボおよびインビボで増殖し、インビトロおよびインビボで予想される成熟細胞を生じさせることができた。
【0224】
細胞を単離し、移植片を組み立てることは、
図1の概略図で特徴付けられ、
図2に詳細が要約されている。移植片は裏打ちを使用して形成され(表1)、その上に軟質ヒアルロナンハイドロゲル中に埋め込まれた幹細胞オルガノイドを配置した。これらは事前に容易に調製され、インキュベーター内の培養皿で一晩維持された。移植片は、実験期間の間、標的部位で安定していた。オルガノイドの凍結保存は容易に達成されたが、軟質ハイドロゲル内のオルガノイドの場合はそうではなかった。これは、オルガノイドの軟質ハイドロゲルへの埋め込みを、手術の直前に行う必要があることを意味した。
【0225】
手術
麻酔は、静脈内に注射されたケタミン/キシラジンの組み合わせ(各々2~3mg/kg体重)または筋肉内に注射された20mg/kgのケタミンと2mg/kgのキシラジンを投与することにより誘導され、閉回路ガス麻酔薬ユニットを介して投与される酸素中のイソフルランによって維持された。
【0226】
動物を背臥位に位置付け、腹部を剣状突起(xyphoid)から恥骨まで切開した。皮膚は、ヨウ素化スクラブおよびアルコール溶液を交互に用いて無菌的に準備した。手術室へ入った後、滅菌技術を用いて皮膚の準備を繰り返し、滅菌外科用ドレープの適用前に、その領域を局所ヨウ素溶液で覆った。外科医は適切な無菌技術を使用した。剣状突起から始まり、尾側に8~12cm延びる、皮膚、皮下組織および白線を介して、腹部中央の切開が行われた。左肝部分を露出させ、3x4.5cmのパッチグラフトを肝臓の腹側表面に適用し、これは10X HA(約760Pa)を含む裏打ちに配置されたオルガノイドが埋め込まれた1X HA(約60Pa)を含み、パッチは肝臓被嚢の表面に直接接触させて配置した。パッチグラフトは、4-0ポリプロピレンの4~6の単純な断続縫合を用いて、肝臓に縫合した。次いで、移植片の露出した表面を、2mlの2X HAハイドロゲル(約106Pa)で処理し、その剛性レベルは移植片の漿膜側にペイントまたはコーティングするのに十分な流体であり、隣接組織からの癒着をさらに最小限に抑えるよう機能した。外科手術移植片の配置後、白線は0-PDSを使用した単純な連続縫合で閉鎖された。白線は、2mg/kg0.5%のブピバカインを筋肉内注射してブロックした。皮下組織および皮膚は、それぞれ2-0のPDS、および3-0のMonocrylで連続縫合で閉じられた。組織接着剤を皮膚表面上に置いた。
【0227】
遺伝子導入ブタからレシピエントへの移植片の移植は、同種異系であり、そのため免疫抑制が必要であった。使用された免疫抑制プロトコルは、他によって確立されたものであった。すべてのブタに、手術の24時間前から、免疫抑制薬剤タクロリムス(0.5mg/kg)およびミコフェノール酸(500mg)を一日二回経口投与した。薬物は実験期間全体にわたって連続的に与えられた。これらはお気に入りの食品と混合すると、動物に容易に与えることができる。
【0228】
すべての動物を、ケタミン/キシラジンにより、およびイソフルオラン(isofluorane)麻酔により鎮静させ、続いて致死量のペントバルビタールナトリウムの静脈内注射によって、指定時点で人道的に安楽死させた。死亡の確認に伴い、死体を慎重に解剖し、標的臓器を取り出し、実験室への輸送のために冷却済みのクボタの培地に置いた。肝臓に加えて、肺、心臓、腎臓、および脾臓が回収され、10%の中性ホルマリン中に固定された。
【0229】
移植片の特徴付け
固定後48時間以上で、組織試料を70%のエタノールの標識カセットに配置し、Leica ASP300S組織プロセッサー内でおよそ10時間、60度で長いサイクルで処理した。一晩の処理完了後、試料はLeica EG1160エンベデッドステーションを使用して埋め込まれた。型をろうで充填し、試料を正しい配向に配置して、所望の切片を収集できるようにした。カセットは、ブロックおよび組織試料が型から一つの単位として取り除かれるまで、冷却された。このブロックをLeica RM2235マイクロトームを使用して5ミクロンで切断し、切片を水槽内で浮遊させ、スライド上に配置した。スライドを染色前に一晩空気乾燥させた。切片は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E;試薬#7211 および#7111)またはマッソンのトリクローム(Masson’s Trichrome Stain:Blue Collagen Kit# 87019)で、Richard Allan Scientific Histology Productsを使用し、メーカー推奨プロトコルに従って染色した。このプロトコルはLeica Autostainer XLにプログラムされている。
【0230】
組織を埋め込み、OCT で凍結させ、凍結切片のために-20℃で瞬間凍結させた。凍結切片を、上述のプロトコルに従ってIHCで染色した。免疫蛍光法では、凍結切片を室温で1時間解凍し、その後、抗体仕様にしたがって10%の緩衝ホルムアルデヒド、アセトン、またはメタノールで固定した。固定後、切片を1%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、続いて、PBS中2.5%のウマ血清で室温で1時間、ブロッキングした。PBS中10%のヤギ血清で希釈した一次抗体を加え、4℃で一晩インキュベートした。次の朝、切片をPBSで3回すすぎ、PBS中2.5%のウマ血清で希釈した二次抗体で室温で2時間インキュベートした。Zeiss CLSM 710 スペクトル共焦点レーザー走査顕微鏡(Carl Zeiss 顕微法)を使用して画像を撮影した。抗体は 表3に列挙している。
【0231】
図5の画像については、標準的なプロトコルに従い、切片(3μm)をヘマトキシリン-エオシンとシリウスレッドとで染色した。免疫組織化学のために、内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール過酸化水素(2.5%)で30分間のインキュベーションによりブロックした。ベンダーによって示されるように、プロテイナーゼK(コードS3020、Dako、Glostrup、デンマーク)を室温で10分間適用することにより、抗原を取り出した。次いで、切片を、一次抗体(pan-Cytokeratin、Dako、コード:Z0622、希釈:1:100;Sox9、Millipore、コード:AB5535、希釈:1:200)を用いて4°Cで一晩インキュベートした。試料をPBSで5分間2回すすぎ、二次ビオチン化抗体(LSAB+ System-HRP、コードK0690、Dako、Glostrup、デンマーク)を用いて、次いでストレプトアビジン-HRP(LSAB+ System-HRP、コードK0690、Dako、Glostrup、デンマーク)を用いて、室温で20分間インキュベートした。ジアミノベンジジン(Dako、Glostrup、デンマーク)を基材として使用し、切片を ヘマトキシリン(PMID:29248458)で対比染色した。免疫蛍光法では、非特異的な タンパク質結合は、5%の正常なヤギ血清によってブロックされた。標本を、一次抗体で4℃で一晩インキュベートした(ニワトリ 抗GFP、Abcam、コード:ab13970、希釈=1:200;ウサギ抗HNF4α、Abcam、コード:92378、希釈:1:50、ウサギ抗アルブミン、ab2406、希釈= 1:500)。標本を洗浄し、標識されたアイソタイプ特異的二次抗体(抗-ニワトリAlexaFluor-546、抗マウスAlexaFluor-488、抗ウサギAlexaFluor-488、Invitrogen、Life Technologies Ltd、Paisley、英国)で1時間インキュベートし、4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で 細胞核(PMID:26610370)の視覚化のために対比染色した。すべての免疫反応については、陰性対照(一次抗体を免疫前血清で置換した)も含まれた。切片を、Jenoptik Prog Res C10 Plus Videocam(Jena、ドイツ)を装備した、Leica Microsystems DM 4500 B 光学および蛍光顕微鏡(Leica Microsystems、Weltzlar、ドイツ)によってコード化された方法で調べた。免疫蛍光染色も共焦点顕微鏡(Leica TCS-SP2)によって解析した。スライドは、画像解析システム(IAS-Delta Sistemi、ローマ、イタリア)でさらに処理され、盲検法で二人の研究者によって独立して評価された。免疫蛍光染色は、デジタルスキャナ(Aperio Scanscope FL System、Aperio Technologies、Inc、オックスフォード、英国)によって走査され、ImageScopeによって処理された。
【0232】
肝細胞(リポフスチン)の高い自己蛍光およびセリシルク裏打ちの蛍光を考慮すると、凍結切片は問題であった。出願人は、パラフィン切片の調製、およびGFP(Novus Biologcoils、NE600-308)に対するウサギポリクローナル抗体を用いたGFPの染色により、大きな成功を収めた。ウサギ抗GFP抗体は、ロバ抗ウサギIgG H&L(Alexa Fluor 568;ab175470、Invitrogen)の二次抗体と組み合わせて使用される一方で、ロバ抗ヤギIgG Alexa Fluor488抗体は、肝臓の自己蛍光の非特異的染色を除外するために使用された。トリパンブルーを含む染料を使用したクエンチングにより、自己蛍光を減少させた。トリパンブルーは、PBSの0.4%で組織/細胞に使用された。これにより、バックグラウンドが著しく低減される。
【0233】
トリゾール(Invitrogen)を使用して、総RNAをオルガノイドまたは移植片から抽出した。Primescript 1st strand cDNA合成キット(Takara)を使用して合成された第一鎖cDNAを、PCR増幅のテンプレートとして使用した。ABI PRISM 7900HT配列検出システム(Applied Biosystems)を備えたFaststart Universal Probe Master(Roche Diagnostics)を用いて、mRNAレベルの定量的解析を行った。プライマーは、Universal Probe Library Assay Design Center(Roche Applied Science)で設計された。プライマー配列は、表4に列挙している。プライマーを50℃で2分間、95℃で10分間アニールし、次いで95℃(15 秒)と60℃(1分)で40サイクル行った。グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の発現は、一般的に対照および標準として使用された。
【0234】
Qiagen RNeasy Kitを使用して細胞からRNAを精製し、Agilent 2000 Bioanalyzerを使用してRNA完全性(RIN)解析を行った。cDNAライブラリは、Illumina TruSeq Stranded mRNA調製キットを用いて生成し、Illumina HiSeq 2500プラットフォーム上で配列決定した。1レーン当たり二つの試料を配列決定し、全ての試料(1つのフローセル)で合計8レーンを占めた。FastQを使用して品質管理分析を完了した。配列読み取りのヒトゲノム(hg19)へのマッピングを、デフォルトパラメータを使用してMapSplice2で実施した。転写物定量化をRSEM分析により実施し、DESeqを使用して遺伝子発現を正規化し、差次的に発現する遺伝子を特定した。MapSplice2も使用して、候補融合転写物を検出した。融合コール(Fusion Calls)は、候補融合接合部にわたる読み取りの深さおよび複雑さに基づいていた。ピアソンの相関分析を使用して遺伝子発現プロファイルを比較し、階層的クラスタリングをRで実施した。階層的クラスタリングは、DESeqパッケージで提供される分散安定化変換に従って実施した。経路濃縮分析を、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェアで行った。差次的遺伝子発現解析は、少なくとも一つのカテゴリーで、最小平均正規化数が50を超える遺伝子に対してのみ実施された。
【0235】
試料間の統計的有意差は、スチューデントの両側t検定を使用して計算され、結果は平均±標準偏差(SD)として表示される。0.05未満のP値は、統計的に有意とみなされた。
【0236】
結果
注入移植に関する以前の研究では、生着には上皮細胞とその系統段階に適切な間葉細胞パートナーの共移植が必要であることが見出された。肝臓および胆管幹細胞については、これらの間葉細胞は、血管芽細胞(CD117+、CD133+、VEGFr+、CD31陰性)およびその直接の子孫、血管内皮の前駆体(CD133+、VEGFr+、CD31+、フォン・ヴィレブランド因子)ならびに星状細胞の前駆体(CD146+、ICAM-1+、平滑筋αアクチン+(ASMA)、ビタミンA陰性)から成る。出願人は、これらをまとめて早期系統段階間葉細胞(ELSMCと呼ぶ。出願人はまた、他の方法によって調製され、新生ブタ肝臓から細胞を分離した分離ブタ間葉幹細胞(MSC)でも部分的に成功した。
【0237】
以前の研究では、出願人は、マルチパラメトリックフローサイトメトリーを使用して、細胞懸濁液の上皮および間葉細胞の系統段階パートナーの比率を決定することにより、一致する上皮および間葉細胞段階の分離を達成し、次いで免疫選択細胞を使用した移植片内でそれらの比率を使用した。これらの研究で、出願人は、パニング手順を繰り返し、その後、残りの細胞懸濁液を低付着皿および無血清クボタの培地で6~8時間培養することにより、成熟間葉細胞の細胞懸濁液を枯渇させることがより効率的であることを見出した。約50~100個の細胞を含有する各凝集体で自己組織化されたオルガノイド。マーカー分析は、BTSCのELSMCとの組み合わせを示した(
図1)。
図1Aの概略図にまとめられている通り、それらは直ちに使用されたか、または事前に決定された定義された条件下で凍結保存され、移植片の必要に応じて解凍された。BTSC/ELSMCのオルガノイドは、免疫蛍光法(IF)、qRT-PCRおよびRNA配列を使用して特徴付けられ、BTSC(
図1)およびELSMC(データ非表示)の古典的形質を発現するために示されている。オルガノイドにおけるBTSCは、成熟肝臓または膵臓遺伝子を発現しないが、低レベルの多能性遺伝子(例えば、OCT4、SOX2)および内胚葉性幹細胞遺伝子(例えば、EpCAM、SOX 9、SOX17、PDX1、LGR5、CXCR4、MAFA、NGN3、およびNISなど)を発現した。代表的なqRT-PCRアッセイは、移植前の細胞のIFおよびIHCからの所見を確認した(
図1D)。IHCアッセイは、より原始的な細胞(例えば、多能性遺伝子を発現するもの)が、オルガノイドの内部および周辺部の後期成熟系統段階に分布した(例えば、EpCAMまたはアルブミンを発現する細胞)ことを示した(
図1C)。
【0238】
パッチグラフトからの結果を、以前に確立された、細胞の注入から成る方法で、および数分以内にポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)でヒアルロナンをゲル化することによる、部位への局在化で、注入移植片の結果と比較した。ブタ肝実質組織への注入移植片は、本質的に100%の生着をもたらしたが、最小限の(ある場合)移動があり、および宿主組織への統合(データ非表示)は数週間にわたってゆっくり発生した。所見は、肝臓幹細胞の注入移植片で以前に観察されたものと類似していた
17。肝葉のすぐ後側の肝臓の管/門脈枝に隣接する腸間膜への注入移植片は、大きな管で実現可能であったが、より小さなものがHAハイドロゲルの腫脹効果から閉塞し、また胆汁うっ滞をもたらした(
図13)。パッチグラフトを用いた成功によって、注入移植片戦略のさらなる努力を放棄することになった。
【0239】
幹細胞の移植片の組成は、レオロジーアッセイによって評価された剛性のレベルを達成するために、PEGDAに対するHAの正確な濃度を有する、ヒアルロナン(HA)ハイドロゲルの3つの別個の層の条件の使用を伴った(
図2C)。 ドナー細胞は軟質HA層(約100Pa)に埋め込まれ、肝臓/膵臓表面に対して配置された。軟質ハイドロゲルは幹細胞性形質
23を維持し、これらの研究では、生着に必須であることが証明された。この層は、裏打ち上で事前に調製され、移動するバリアとしての役割を果たす、剛直な(10X;約700Pa)HA層の上に配置された。パッチは、縫合または外科手術用接着剤で標的部位に取り付けられた。外科手術時に移植片の漿膜表面をペイントまたはコーティングし、近辺組織からの癒着をさらに最小化するのに十分軟質(剛性 = 約200Pa)の2X HAハイドロゲル。
【0240】
パッチグラフトは、肝臓表面、すなわちグリソン鞘または膵臓被嚢の表面に置かれ、縫合または外科手術用接着剤によって角に取り付けられた(
図2F)。セリシルクの剛性により、移植片は、最小限の曲率を有する部位に、有意な機械力(例えば、横隔膜近傍)を有する部位から離れて、配置された。膵臓への移植片では、移植片を十二指腸と膵臓の間にくさび留めした。
【0241】
試されて放棄されたパッチグラフトの唯一のバリアントは、被嚢の鋭利な外科手術除去の後のものであった。出血は、肝不全に関連する止血が変化した宿主、またはドナー細胞に対する血清の悪影響を与えられた正常な宿主でさえ、将来の使用を過剰に妨げるものであった。器官被嚢を変更するこうした努力がなければ、パッチグラフトは外科手術処置に容易であると証明された。
【0242】
多くの裏打ちが、腹部外科手術において臨床的に使用されるものに焦点を当てて試された(表1 および 表2)。セリシルクを除くすべてが問題を引き起こし、さらなる検討のためにそれらの排除につながった。この問題には、脆弱性(例えば、Seprafilm、Retroglyde)、壊死または線維症の誘発および有意なレベルの癒着(例えば、Surgisis、Vetrix)、ならびにセリシルクの線維状スポンジバージョンまたは腹部にカルボキシメチルセルロース(「ベリーゼリー」)を補充した裏打ちのいずれかとの重度の癒着形成が含まれる。試験されたもののうち、SERI外科手術用シルク24-26(Allergan、Inc.アーヴィン、カリフォルニア州)は、機械的支持と最小癒着との最良の組み合わせを提供し、この効果は、標的部位への付着後にSeriSilkの漿膜表面に2X HAを適用することによってさらに強化された。この製品は、Bombyxモスシルクの精製フィブロインであり、David Kaplan(Tuft’s University、ボストン、マサチューセッツ州)によって開発された。出願人はこれを硬いと思ったが、この特性は、外科手術操作および肝臓のような平面/剛直な器官への配置に有用であることを見出した。硬さは、有意な曲率を有する部位または可撓性の必要な部位への適用を困難にした。それでも、その硬さは、ドナー細胞に対する成熟効果に関して中立であることを証明し、この裏打ちがパッチグラフトに許容可能になった所見である。3週間の移植片では、セリシルクはコラーゲンの帯によって包まれ、軽度の異物反応を示唆していた。合成線維などのその他の候補の裏打ちの評価は進行中である。
【0243】
手術後1週目での再形成の証拠は、コラーゲンおよびその他の細胞外マトリックス成分を染色する色素を含む、トリクローム染色(
図3、7)またはサフラニンOで検証された。トリクロームで染色された移植片の画像(
図3A~B)は、同じ部位のものと比較され、ヘマトキシリン/エオシンで染色された(
図3C~D)。グリソン鞘および小葉の再構成は、HAが吸収されるのと並行して3週間までに発生した。再形成領域を含む帯域は、驚くべき大きさであった(
図3~5、7)。
【0244】
遺伝子導入GFP+ブタから得られたドナー細胞は、IHCアッセイを通してGFP発現によって容易に特定された。膵臓では、ドナー細胞は緑色蛍光によって識別された。しかし、肝臓では、肝細胞のリポフスチンの自己蛍光は、GFPの波長と重複する波長でピークとなる。したがって、GFPに対する抗体で肝臓のドナー細胞を特定し(ウサギ抗GFP抗体;Novus、NB600-308)し、赤色蛍光プローブ(ロバ抗ウサギ555、Invitrogen)で二次抗体に結合し、ドナー細胞にピンク色の核(赤色蛍光プローブ+青色DAPI)を持たせた。宿主細胞は、それらの青色核(DAPI 染色)が認められたが、GFP発現は認められなかった(
図4)。
【0245】
成熟肝細胞の肝小葉は、自己蛍光(リポフスチン)からの森林緑色であった(
図4B)。肝細胞の凝集体に成熟したドナーGFP+細胞は、GFPからの赤色蛍光プローブ、DAPIからの青色、およびリポフスチンからの自己蛍光暗緑色の融合により、ピンク色の核を有するラベンダー色である(
図4C)。肝細胞は、宿主由来であろうとドナー由来であろうと、成熟した星状細胞中のビタミンAによるもの(
図4C)と推測される、明るい黄色/緑色の自己蛍光を伴う宿主間葉細胞(血管内皮、星状細胞)によってクラスター化された。血管内皮および星状細胞のIHCデータは示されていない。
【0246】
1週間以内に、BTSC/ELSMCオルガノイドのパッチグラフトは、器官被嚢および隣接した小葉の再形成をもたらし、その後に宿主およびドナー細胞の合併をもたらした(
図3~5、7)。ドナー細胞の指のような拡張部分は、宿主組織の肝小葉へと拡大し、並行して、宿主細胞は移植片のHAへと拡大した(
図4)。膵臓の場合、移植片は膵臓と十二指腸の間にくさび留めされ、手術後1週間までに、膵臓内と十二指腸の粘膜下のブルンナー腺の両方にドナー細胞の生着が発生した(
図6)。肝臓(または膵臓)の大きな領域内の細胞の統合は、HA層がほとんど吸収された2週間までに完了した。ドナー細胞は、胆管細胞および肝細胞の両方の成体肝実質運命(
図5)または膵臓運命に制限された系統を有していた(
図6)。
【0247】
3週間までに、HA層を完全に吸収し、裏打ちのみを残した。これは、器官被嚢および被嚢近くの組織の組織学的構造(
図3、5、6)、または膵臓被嚢および膵臓組織学的構造(
図6)の再出現と相関した。膵臓において、成熟細胞は、膵島細胞(ベータ細胞)用のインスリンおよび腺房細胞用アミラーゼを含む、機能マーカーによって特定された。
【0248】
肝臓および膵臓の両方に対する生着効率は、1週間までに100%に近づいた。これは特定されたすべてのドナー細胞が、器官被嚢の上の移植片の残骸内ではなく、肝臓もしくは膵臓内で生育可能であり、他の器官(例えば、肺)の異所的な細胞分布の証拠は無視できるか、まったくないことが見出されたからである。
【0249】
肝臓および膵臓を通るBTSC/ELSMC移植片中のドナー細胞の移動速度は、一週間の終わりまでに器官(肝臓または膵臓)のほとんどの領域にドナー細胞をもたらす顕著な結果を示し、2~3週間までには組織(肝臓/膵臓)全体に均一に分散された細胞が明らかになった。(
図3~6)。
【0250】
グリソン鞘(または膵臓被嚢)および隣接する肝小葉(または膵臓組織)の溶解および再形成と相関し、有意な生着と相関するのは、細胞外マトリックス成分を溶解し、細胞移動に関連することが知られている、複数のMMPの発現の上昇であった。
図7は、幹/前駆体対成体細胞により発現したMMPのRNA配列研究およびIHCアッセイのデータをまとめたものである。BTSCは、分泌型(例えば、MMP2、MMP7)および膜結合型形態(例えば、MMP14およびMMP15)の両方から成る高レベルの複数MMPを発現した。血管内皮および星状細胞の前駆体であるELSMCも、複数のMMPに寄与した。
【0251】
RNA配列データからの所見は、MMP遺伝子によってコードされるタンパク質に対するIHCアッセイによって確認された(
図7)。IHCアッセイは、特に再形成領域において、分泌型のMMP(例えば、MMP1、MMP2、MMP7、MMP9)の存在を確認した。MMP1のタンパク質発現は、BTSC/ELSMCオルガノイドおよび移植片の再形成領域でも見られたが、RNA配列所見の既存データバンクには、分析に使用するブタMMP1の注釈付き種が欠如しているため、MMP1は含まれない。したがって、その発現の認識は、IHCアッセイに基づいている。
【0252】
ドナー細胞の分化を引き起こす変数によって、MMP、特に分泌型の発現が抑制され、並行して、生着および移動の可能性が失われた(データ非表示)。これらの要因には、血清、ドナー細胞の分化に影響を与えることが知られている様々な可溶性調節信号(成長因子、サイトカイン、ホルモン)、ハイドロゲル中または裏打ち中(特にI型コラーゲン含有裏打ち)の細胞外マトリックス成分、およびHAハイドロゲル(すなわち、Paレベル)の剛性がが含まれる。ELSMCの分化が間質に対して優先的に進行した場合、移植片は線維化し、血管内皮に対する場合、移植片は生存可能な細胞および組織を保持したが、器官被嚢に対しては表層のままであった(データ非表示)。
【0253】
BTSC/ELSMCのオルガノイドは、移植のための細胞に対する最も成功した配置を証明した。過去には、特徴的な表面抗原を使用したフローサイトメトリーによって細胞懸濁液からそれらを免疫選択し、次いで新鮮な分離組織からの細胞懸濁液中に見つかった比率にしたがってそれらを混合することにより、上皮間葉パートナーを共移植した17。ここで、成熟間葉細胞のパニングによる除去後に、それらをオルガノイドに自己選択させることが、移植片に関連するパラクリンシグナル伝達を伴う系統段階の適切な上皮間葉パートナーを確立し、定義された(無血清)条件下でオルガノイドを生成するのにより効率的かつ効果的であり、それらが簡単かつ安全に凍結保存されることが判明した。
【0254】
移植片の一次設計は、細胞と、不溶性になり、標的部位に細胞を局在化させたままにできる適切な生体材料との混合から成る。移植片について、理想的な生体材料は、全ての幹細胞の壁龕に見られるヒアルロナン(HA)などの非硫酸化または最小硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)であって、HAの受容体は古典的な幹細胞形質であることが証明された。幹/前駆体としての細胞の維持は、生着に有効な分泌型および膜結合型MMPの発現を最適化した。
【0255】
生着プロセスの証拠は、移植片および宿主組織の界面で発生した再形成の領域内で特に劇的であった。再形成の所見を検証するために、細胞外マトリックス成分を染色する染料を含む、トリクローム染色およびサフラニンO用いて、ヘマトキシリン/エオシンで染色された隣接する切片と並行して分析した(
図3、7)。外科手術後一週間以内に、器官被嚢および隣接組織の再形成を確認した。手術後3週間までに、これらのアッセイは、HA除去後の器官被嚢および正常な組織の組織学の再構成を示した。再形成ゾーンは、特に手術後一週間で驚くべき大きさであり(
図3、7)、複数の形態のMMPが関与することが示された(
図7)。
【0256】
HAには数多くのソースおよび型があるが、中でも最も有用なものは、Glenn Prestwich(ユタ大学、ソルトレークシティ、ユタ州)によって確立されたチオール修飾物であり、これはPEGDAでトリガーされ、正確な生化学的および機械的特性を有するハイドロゲルを形成できる。HAのこれらの特性は、完全な弾性を与え、血液、リンパまたは間質液の全ての可溶性信号の移植片へのアクセスを可能にし、生着および移動が起こるまでドナー細胞の成熟を最小限に抑える。HAおよびPEGDA濃度の単純な変化でレオロジー因子を変化させる能力は、細胞の移動方向を導き、癒着を最小限に抑えるために追加的利点を提供した。幹細胞の壁龕における特性を模倣するソフトHAハイドロゲルは、MMPの幹/前駆体細胞関連レパートリーの発現に許容的であった。したがって、骨格組織の機能で長年研究されたHAの機械的特性は、移植戦略の管理においても重要である23。
【0257】
幹/前駆体を含むパッチグラフトは、数日以内に移植片が組織内に「融解」し、その後ドナーおよび宿主細胞が合併し、器官のほとんどの領域全体に一、二週間で細胞が分布するという著しい現象が生じた。その後、ドナー細胞の成熟および器官被嚢の回復が、HAの組織除去と並行して発生した。
【0258】
生着および統合プロセスは、細胞外マトリックス成分を分解する、カルシウム依存性、亜鉛含有エンドペプチダーゼのファミリーである、複数のMMPの発現と相関していた。RNA配列研究を使用して、高レベルの分泌型(例えば、MMP2、MMP7)ならびに膜結合型(例えば、MMP14、MMP15)で構成される、幹/前駆体関連MMPのパターンを見出した。IHCアッセイは、分泌型MMP(例えば、MMP1、MMP2、MMP7)のタンパク質レベルが、再形成の領域で豊富に発現したことを示した(
図7)。ドナー細胞を分化させる条件(可溶性成長因子、サイトカイン、血清、マトリックス成分、機械力)は、特に分泌型MMPの減少、また並行して、生着プロセスの抑止をもたらした。
【0259】
移植片、特にHAの生体材料は、エクスビボおよびインビボで示され、細胞内で幹細胞性形質を維持する。移植片は運命決定をトリガーしうる公知の信号を欠いているため、移植片が肝臓または膵臓のどちらに配置されたかによって、異なる成体運命に成熟したドナー細胞の所見は、宿主組織の局所的微小環境を、成熟プロセスの関連因子の論理的なソースとして示唆する。
【0260】
生着可能な細胞の数は、相当数(>108)あり、移植片の寸法、細胞数、ならびに分泌型および細胞膜結合型MMPのレパートリーによって指定される。これらの所見は、血管送達または注入移植によって実現可能な、限られた数の細胞(例えば、105-106)とは対照的である。
【0261】
パッチグラフトは、内臓器官を含む固形臓器に多数の細胞を移植するための安全な戦略であり、特に疾患状態で生着が十分に発生する場合には、患者の治療に有用でありうる。しかしながら、組織が線維症であるか、または肝硬変による影響を受けている場合、異常生着が起こりうる懸念がある。したがって、本明細書では、方法の態様に対するパッチグラフトの有効性を決定するための実施例が提供されている。
【0262】
実施例2:肝疾患の治療。
本実施例は、パッチグラフトを使用して肝疾患または障害を有する対象を治療する例示的方法を説明する。ドナー細胞は、本明細書に記載されるように、肝臓および膵臓の前駆体である、胆管幹細胞(BTSC)のオルガノイドとして調製され、オルガノイドは、血管内皮前駆体および星状細胞前駆体である、血管芽細胞およびそれらの早期系統段階子孫から成る、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と凝集したものである。BTSC/ELSMCオルガノイドは、対象の肝臓の標的部位につながれた裏打ち上に置かれた軟質ヒアルロナンハイドロゲル(<200Pa)に埋め込まれている。
【0263】
パッチグラフトの適用後、対象は肝機能の改善を監視される。肝機能をチェックするために一般的に使用される試験には、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アルカリホスファターゼ(ALP)、アルブミン、およびビリルビン試験が含まれるが、これらに限定されない。ALTおよびAST試験は、損傷または疾患に応答して肝臓によって放出される酵素を測定する。アルブミンおよびビリルビン試験では、肝臓がタンパク質であるアルブミンをどれだけうまく生成するか、血液の廃棄物であるビリルビンをどれだけうまく処分するかを測定する。約2週間~約36週間後に、肝機能の改善が検出されることが期待される。改善は、移植片の適用前の値と比較した一つまたは複数の肝機能試験の改善された値、および/または肝疾患または障害の一つまたは複数の症状の改善または寛解を検出することによって決定される。
【0264】
実施例3:膵臓疾患の治療。
本実施例は、パッチグラフトを使用して膵臓の疾患または障害を有する対象を治療する例示的方法を説明する。ドナー細胞は、本明細書に記載されるように、胆管幹細胞(BTSC)のオルガノイドとして調製され、オルガノイドは、血管内皮前駆体および星状細胞前駆体である、血管芽細胞およびそれらの早期系統段階子孫から成る、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と凝集したものである。BTSC/ELSMCオルガノイドは、対象の膵臓の標的部位につながれた裏打ち上に置かれた軟質ヒアルロナンハイドロゲル(< 200Pa)に埋め込まれている。
【0265】
パッチグラフトの適用後、対象は膵臓機能の改善を監視される。膵機能のチェックに一般的に使用される検査には、膵臓酵素アミラーゼおよびリパーゼのレベルの血液検査、セレクチンまたはコレシストキニンの投与後の直接的な膵臓機能検査、糞便エラスターゼ試験、造影剤を用いたCTスキャン、腹部超音波、内視鏡逆行性胆道膵管造影(ERCP)、超音波内視鏡、および磁気共鳴胆道膵管造影が挙げられるが、これらに限定されない。約2週間~約36週間後に、膵臓機能の改善が検出されることが期待される。改善は、移植片の適用前の値と比較した一つまたは複数の膵臓機能試験の改善された値、および/または膵臓の疾患または障害の一つまたは複数の症状の改善または寛解を検出することによって決定される。
【0266】
実施例4:腎臓疾患の治療。
本実施例は、パッチグラフトを使用して腎臓の疾患または障害を有する対象を治療する例示的方法を説明する。ドナー細胞は、本明細書に記載されるように、胆管幹細胞(BTSC)のオルガノイドとして調製され、オルガノイドは、血管内皮前駆体および星状細胞前駆体である、血管芽細胞およびそれらの早期系統段階子孫から成る、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と凝集したものである。BTSC/ELSMCオルガノイドは、対象の腎臓の標的部位につながれた裏打ち上に置かれた軟質ヒアルロナンハイドロゲル(<200Pa)に埋め込まれている。
【0267】
パッチグラフトの適用後、対象は腎臓機能の改善を監視される。膵臓機能をチェックするために一般的に使用される検査には、当該技術分野で知られている腎臓機能の臨床的に関連する終点が含まれるがこれらに限定されない。約2週間~約36週間後に、腎臓機能の改善が検出されることが期待される。改善は、移植片の適用前の値と比較した一つまたは複数の腎臓機能試験の改善された値、および/または腎臓の疾患または障害の一つまたは複数の症状の改善または寛解を検出することによって決定される。
【0268】
実施例5:胃腸疾患の治療。
本実施例は、パッチグラフトを使用して胃腸の疾患または障害を有する対象を治療する例示的方法を説明する。ドナー細胞は、本明細書に記載されるように、胆管幹細胞(BTSC)のオルガノイドとして調製され、オルガノイドは、血管内皮前駆体および星状細胞前駆体である、血管芽細胞およびそれらの早期系統段階子孫から成る、早期系統段階間葉細胞(ELSMC)と凝集したものである。BTSC/ELSMCオルガノイドは、対象の腸の標的部位につながれた裏打ち上に置かれた軟質ヒアルロナンハイドロゲル(<200Pa)に埋め込まれている。
【0269】
パッチグラフトの適用後、対象は腸機能の改善を監視される。腸機能をチェックするために一般的に使用される検査には、当該技術分野で知られている腸機能の臨床的に関連する終点が含まれるがこれらに限定されない。約2週間~約36週間後に、腸機能の改善が検出されることが期待される。改善は、移植片の適用前の値と比較した一つまたは複数の腸機能試験の改善された値、および/または胃腸の疾患または障害の一つまたは複数の症状の改善または寛解を検出することによって決定される。
明細書の添付書類
表1~4 パッチグラフト2018
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】