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特許7539836哺乳類卵母細胞を裸化するためのマイクロ流体システムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】哺乳類卵母細胞を裸化するためのマイクロ流体システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240819BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20240819BHJP
   C12M 3/08 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/075
C12M3/08
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2020554520
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 US2019025895
(87)【国際公開番号】W WO2019195620
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】62/652,648
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/732,884
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,リンドン
(72)【発明者】
【氏名】リー,グロリア・ワイ
(72)【発明者】
【氏名】トナー,メフメット
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-533221(JP,A)
【文献】国際公開第2017/173373(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/055361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、
基体と、
入口、出口、および前記入口と前記出口との間に直列に配置された1つ以上のステージを備えるチャネルとを備え、
各ステージは、次のステージと流体接続しており、
各ステージは、1つ以上の拡張ユニットと1つ以上のくびれユニットとを備え、
前記ステージのうち少なくとも1つは、2つの対向壁をそれぞれ有する1つ以上のくびれユニットを備え、前記2つの対向壁は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備え、
前記複数の歯は、前記チャネル内を通る流れの方向に逆らって傾斜しており、
前記2つの対向壁は、第1の対向壁と第2の対向壁とを備え、
前記第1の対向壁上の歯の先端と前記第2の対向壁上の歯の先端との間隔は、裸化される卵母細胞の直径に近い、システム。
【請求項2】
各くびれユニットにおける前記2つの対向壁の各々は複数の歯を備え、前記第1の対向壁上の複数の歯は、前記第2の対向壁上の複数の歯の方を向いている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の対向壁上の複数の歯の先端と前記第2の対向壁上の複数の歯の先端とは平行に配置されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ステージのうち少なくとも1つは、1つ以上のくびれユニットと互い違いに配置された1つ以上の拡張ユニットを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記複数の歯のうち1つ以上は、前記チャネル内を通る流れの方向に逆らって30度~90度未満の角度に設定されている、請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記1つ以上のステージのうち少なくとも1つのステージは、滑らかな内側表面を有する1つ以上のくびれユニットを備える、請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
少なくとも1つの拡張ユニットは、約250~約600ミクロンの幅を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
少なくとも1つのくびれユニットは、約100~約350ミクロンの幅を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、
基体と、
入口、出口、および直列に配置された3つのステージを備え、各ステージが次のステージと流体接続している、チャネルとを備え、
前記3つのステージのうち第1のステージは、第1のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第1の拡張ユニットを備え、前記第1の拡張ユニットは第1の幅を有し、前記第1のくびれユニットは第2の幅と滑らかな内側表面とを有し、
前記3つのステージのうち第2のステージは、第2のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第2の拡張ユニットを備え、前記第2の拡張ユニットは第3の幅を有し、前記第2のくびれユニットは第4の幅と滑らかな内側表面とを有し、
前記3つのステージのうち第3のステージは、第3のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第3の拡張ユニットを備え、前記第3の拡張ユニットは第5の幅を有し、前記第3のくびれユニットは第6の幅と少なくとも2つの対向壁とを有し、
前記2つの対向壁の各々は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備え、前記第3のくびれユニットの第1の対向壁上の複数の歯は、前記第3のくびれユニットの第2の対向壁上の複数の歯の方を向くように配置されており、前記第1の対向壁上の複数の歯の先端と前記第2の対向壁上の複数の歯の先端とは平行に配置されており、
前記複数の歯は、前記チャネル内を通る流れの方向に逆らって傾斜しており、
前記第1の対向壁上の歯の先端と前記第2の対向壁上の歯の先端との間隔は、裸化される卵母細胞の直径に近く、
前記第1のステージの下流に前記第2のステージが配置され、前記第2のステージの下流に前記第3のステージが配置されている、システム。
【請求項10】
前記チャネルは約200~300ミクロンの高さを有する、請求項1~のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記歯は、前記チャネル内を通る流れの方向に逆らって30度~90度未満の角度に設定されている、請求項に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1の幅は約250~約600ミクロンであり、前記第2の幅は約200~約350ミクロンである、請求項または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記第3の幅は約250~約600ミクロンであり、前記第4の幅は約100~約250ミクロンであり、前記第5の幅は約250~約600ミクロンである、請求項11または12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記第6の幅は約70~約120ミクロンである、請求項または1113のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記歯の先端同士の間隔は約80~110ミクロンである、請求項または1114のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1の幅は約500ミクロンであり、前記第2の幅は約230~260ミクロンであり、前記第3の幅は約500ミクロンであり、前記第4の幅は約130~約160ミクロンであり、前記第5の幅は約500ミクロンであり、前記第6の幅は約90~約120ミクロンであり、前記歯の先端同士の間隔は約90~約110ミクロンである、請求項に記載のシステム。
【請求項17】
液体試料中において、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、
基体と、
入口、出口、および前記入口と前記出口との間に直列に配置された1つ以上のステージを備えるチャネルとを備え、
各ステージは、次のステージと流体接続しており、
各ステージは、前記チャネルにわたって配置された複数のポストからなる1つ以上の列を備え、所与の列におけるポストと当該列内における隣りのポストとの間に間隔があいて、隣り合う2つのポストの間にサブチャネルが画定されており、
少なくとも1つのステージにおける複数のポストの各々は、同じ列内における隣りのポストの対向壁に向き合うように、または前記チャネルの内壁に向き合うように配置された1対の壁を含み、前記複数のポストの各々における壁は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備え、
前記複数の歯は、前記チャネル内を通る流れの方向に逆らって傾斜しており、
前記隣りのポストの対向壁上の歯の先端と前記ポストの前記壁上の歯の先端との間隔は、裸化される卵母細胞の直径に近く、
前記ステージは、第1のステージと、前記第1のステージの下流に配置された第2のステージと、前記第2のステージの下流に配置された第3のステージとを備え、
前記第1のステージの少なくとも1つのサブチャネルの幅、前記第2のステージの少なくとも1つのサブチャネルの幅、および前記第3のステージにおける少なくとも1つのサブチャネルの幅が互いに異なっている、システム。
【請求項18】
1つの列における隣り合うポストの対向壁の各々は、互いに向き合うように配置された複数の歯を備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記第1のステージの前記少なくとも1つのサブチャネルは、約240~260ミクロンの前記幅を備え、前記第1のステージは、液体試料から細片をろ過するように配置されたポストの列を備える、請求項17または18に記載のシステム。
【請求項20】
前記第2のステージの前記少なくとも1つのサブチャネルは、約140~160ミクロンの前記幅を備え、前記第2のステージは、液体試料から細片をろ過するように配置されたポストの列を備える、請求項1719のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記第3のステージにおける前記少なくとも1つのサブチャネルは、約90~110ミクロンの前記幅を備え、前記第3のステージは、卵母細胞を裸化するように配置されたポストの列を備え、各列における1つ以上のポストは、複数のぎざぎざの歯を備える、請求項1720のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記第3のステージにおけるすべてのポストは、同じ列内における隣りのポストの対向壁に向き合うように、または前記チャネルの内壁に向き合うように配置された1対の壁を含み、前記第3のステージにおける各ポストの各壁は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1のステージのすべてのサブチャネルは第1の幅を備え、前記第2のステージのすべてのサブチャネルは、前記第1の幅よりも小さい第2の幅を備える、請求項1822のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記複数のポストからなる1つ以上の列は、前記チャネルの長軸に対して垂直に配置されている、請求項1723のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
液体試料中において卵母細胞から卵丘細胞を除去する方法であって、
請求項1~24のいずれか1項に記載のシステムの前記入口に1つ以上の卵母細胞を備える前記液体試料を注入する工程と、
前記チャネルの1つ以上のステージ内に前記液体試料をある流速にて流す工程と、
前記出口から卵母細胞を回収する工程と、を備える、方法。
【請求項26】
前記液体試料は卵胞液を備える、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記液体試料は、培養媒体またはバッファー媒体を備える、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記流速はほぼ一定であり、約0.5~約5.0ml/分である、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記流速は、約1.0ml/分~約4.0ml/分である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記卵母細胞はヒト卵母細胞であり、前記対向壁上の複数の歯の先端同士の間隔は約100~110ミクロンである、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2018年9月18日付で提出された米国仮特許出願第62/732,884号および2018年4月4日付で提出された米国仮特許出願第62/652,648号の利益を主張する。これら2つの先行出願の全記載内容を、引用により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
背景
体外受精(In Vitro fertilization:IVF)などの生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology:ART)は、不妊症または遺伝学的問題の処置、および子の受胎の補助に使用できる。IVFにおいては、成熟した卵子(卵母細胞)を卵巣から回収し、実験室で精子によって受精させることができる。次いで、受精卵(胚として知られる)を子宮内に移植することができる。IVFは、排卵誘発、卵母細胞回収、精子回収、受精、および胚移植という工程を伴う。従来のIVFにおいては、卵子と、準備した精子とを、シャーレ中の培養媒体に入れ、その中で卵子と精子とを一晩かけて自発的に受精させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
卵細胞質内精子注入(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)は、ごく細い注射針を使用して顕微鏡下で卵子1個に精子1個を注入できるという点で、慣習的なIVFとは異なり得る。ICSIは、男性不妊症の唯一の処置法であるとして認識されている。効果的なICSI手順のためには、微量注入の前に卵母細胞を裸化しておくことが重要であり得る、というのは、卵母細胞の周囲が特殊な顆粒膜細胞(卵丘細胞)からなるいくつかの層で覆われて卵丘-卵母細胞複合体(COC)を形成し得るためである。典型的な診療所での手術では、酵素的方法(ヒアルロニダーゼ)および力学的方法(手作業によるピペッティング)を組み合わせて使用して卵母細胞を裸化し得るが、これは、熟練した技術者による実施が必要であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本開示は、ヒト生殖補助の分野において広い用途を有する、周囲を覆っている卵丘細胞および冠細胞から卵母細胞を裸化するためのマイクロ流体システムを提供する。このシステムは、くびれユニットおよび拡張ユニットの繰り返しを有する1つ以上のチャネルを含む。一般的に、COCを含有する試料(COCのみをバッファーもしくは他の液体中に採取したもの、またはCOC、血餅、および多様なサイズの組織細片を含有する患者由来の未処理の卵胞液、のいずれか)をシステムの入口に注入し、試料がシステムの1つまたは複数のチャネル内を流れる際に、くびれユニットと拡張ユニットとが連携して卵母細胞の裸化を容易化する。たとえば、くびれユニットは、COCに力学的ストレスをかけるために、ぎざぎざのまたは滑らかな内表面などの表面特徴を含み得る。いくつかの実現例において、拡張ユニットは、COCがシステム内を転がりながら通ることができるように促す。いくつかの実施形態において、システムは、COCが連続的に流れ得るように構成される。
【0005】
一態様において、本開示は、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムを提供する。システムは、基体と、チャネルまたは2つ以上のサブチャネルとを含む。各チャネルは、入口、出口、およびチャネル内に直列に配置された1つ以上のステージを含む。1つ以上のステージの各々は、次のステージと流体接続している。1つ以上のステージの各々は、1つ以上の拡張ユニットと1つ以上のくびれユニットとを含む。1つ以上のステージのうち少なくとも1つのステージは、2つの対向壁を有する1つ以上のくびれユニットを含む。対向壁の1つまたはその各々は、チャネルの内側に向いたぎざぎざの表面を含む。ぎざぎざの内側表面は複数の歯を含み、第1の対向壁上の複数の歯は、第2の対向壁上の複数の歯の方を向くように配置されている。第1の対向壁上の複数の歯の先端は、第2の対向壁上の複数の歯の先端から等間隔である、たとえば、歯は平行に配置されている。
【0006】
別の一態様において、本開示は、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、基体と、入口、出口、および入口と出口との間に直列に配置された1つ以上のステージを有するチャネルとを含み、各ステージは、次のステージと流体接続しており、各ステージは、1つ以上の拡張ユニットと1つ以上のくびれユニットとを含み、ステージのうち少なくとも1つは、2つの対向壁をそれぞれ有する1つ以上のくびれユニットを含み、2つの対向壁のうち少なくとも1つは、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備える、システムを提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、各くびれユニットにおける2つの対向壁の各々は複数の歯を含み、第1の対向壁上の複数の歯は、第2の対向壁上の複数の歯の方を向いている。たとえば、第1の対向壁上の複数の歯の先端と第2の対向壁上の複数の歯の先端とは平行に配置されていてよく、第1の対向壁上の歯の先端と第2の対向壁上の歯の先端との間隔は、裸化される卵母細胞の直径に近くてよい。
【0008】
いくつかの実施形態において、ステージのうち少なくとも1つは、1つ以上のくびれユニットと互い違いに配置された1つ以上の拡張ユニットを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、複数の歯のうち1つ以上、たとえばすべての歯は、チャネル内を通る流れの方向に逆らって約30度~約90度の角度に設定されている。
【0010】
多様な実施形態において、1つ以上のステージのうち少なくとも1つのステージは、滑らかな内側表面を有する1つ以上のくびれユニットを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの拡張ユニットは約250~約600ミクロンの幅を有する、および/または少なくとも1つのくびれユニットは約100~約350ミクロンの幅を有する。
【0011】
別の一態様において、本開示は、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、基体と、入口、出口、および直列に配置された3つのステージを含むチャネルとを含み、各ステージが次のステージと流体接続しており、第1のステージは、第1のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第1の拡張ユニットを備え、第1の拡張ユニットは第1の幅を有し、第1のくびれユニットは第2の幅と滑らかな内側表面とを有し、第2のステージは、第2のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第2の拡張ユニットを備え、第2の拡張ユニットは第3の幅を有し、第2のくびれユニットは第4の幅と滑らかな内側表面とを有し、第3のステージは、第3のくびれユニットと互い違いに配置された一連の第3の拡張ユニットを備え、第3の拡張ユニットは第5の幅を有し、第3のくびれユニットは第6の幅と少なくとも2つの対向壁とを有し、2つの対向壁の各々は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備え、第3のくびれユニットの第1の対向壁上の複数の歯は、第3のくびれユニットの第2の対向壁上の複数の歯の方を向くように配置されており、第1の対向壁上の複数の歯の先端と第2の対向壁上の複数の歯の先端とは平行に配置されている、システムを提供する。
【0012】
本明細書中に記載されるシステムの特定の実施形態において、チャネルは約200~300ミクロンの高さを有する。いくつかの実施形態において、歯は、チャネル内を通る流れの方向に逆らって約30度~約90度の角度に設定されている。
【0013】
特定の実施形態において、第1の幅は、約250~約600ミクロン、たとえば、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、または600ミクロンであってよい。第1の幅は、約500ミクロンであってよい。第2の幅は、約200~約350ミクロン、たとえば、200、225、250、275、300、325、または350ミクロンであってよい。第2の幅は、約230~260ミクロン、たとえば、235、240、245、250、255、または260ミクロンであってよい。第3の幅は、約250~約600ミクロンであってよく、上述されるとおりの実現可能な大きさを有していてよい。第3の幅は、約500ミクロン、たとえば、400、425、450、475、500、525、550、または600ミクロンであってよい。第4の幅は、約100~約250ミクロン、たとえば、100、125、150、175、200、225、または250ミクロンであってよい。第4の幅は、約130~約160ミクロン、たとえば、130、135、140、145、150、155、または160ミクロンであってよい。第5の幅は、約250~約600ミクロンであってよく、上述されるとおりの実現可能な大きさを有していてよい。第5の幅は、約500ミクロン、たとえば、400、425、450、475、500、525、550、または600ミクロンであってよい。第6の幅は、約70~約120ミクロン、たとえば、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、または120ミクロンであってよい。第6の幅は、約90~約120ミクロン、たとえば、95、100、105、110、115、または120ミクロンであってよい。
【0014】
特定の実施形態において、第1の幅は約500ミクロンであり、第2の幅は約230~260ミクロンであり、第3の幅は約500ミクロンであり、第4の幅は約130~約160ミクロンであり、第5の幅は約500ミクロンであり、第6の幅は約90~約120ミクロンであり、歯の先端同士の間隔は約90~約110ミクロンである。
【0015】
別の一態様において、本開示は、液体試料中において、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのシステムであって、基体と、入口、出口、および入口と出口との間に直列に配置された1つ以上のステージを有するチャネルとを含み、各ステージは、次のステージと流体接続しており、各ステージは、チャネルにわたって配置された複数のポストからなる1つ以上の列を備え、所与の列におけるポストと当該列内における隣りのポストとの間に間隔があいて、隣り合う2つのポストの間にサブチャネルが画定されており、少なくとも1つのステージにおける複数のポストの各々は、同じ列内における隣りのポストの対向壁に向き合うように、またはチャネルの内壁に向き合うように配置された1対の壁を含み、複数のポストの各々における壁の少なくとも1つは、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を備える、システムを提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、1つの列における隣り合うポストの対向壁の各々は、互いに向き合うように配置された複数の歯を含む。多様な実施形態において、第1のステージの少なくとも1つのサブチャネルは約240~260ミクロンの幅を有し、第1のステージは、体試料から細片をろ過するように配置されたポストの列を含む。いくつかの実施形態において、第2のステージの少なくとも1つのサブチャネルは約140~160ミクロンの幅を有し、第2のステージは、体試料から細片をろ過するように配置されたポストの列を含む。特定の実施形態において、第3のステージにおける少なくとも1つのサブチャネルは約90~110ミクロンの幅を有し、第3のステージは、卵母細胞を裸化するように配置されたポストの列を含み、各列における1つ以上のポストは、複数のぎざぎざの歯を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、第3のステージにおけるすべてのポストは、同じ列内における隣りのポストの対向壁に向き合うように、またはチャネルの内壁に向き合うように配置された1対の壁を含み、第3のステージにおける各ポストの各壁は、複数の歯を備えるぎざぎざの内側表面を含む。
【0018】
特定の実施形態において、第1のステージのすべてのサブチャネルは第1の幅を有し、第2のステージのすべてのサブチャネルは、第1の幅よりも小さい第2の幅を有する。いくつかの実施形態において、第3のステージのすべてのサブチャネルは、第2の幅よりも小さい第3の幅を有する。
【0019】
別の一態様において、本開示は、液体試料中において卵母細胞から卵丘細胞を除去する方法を提供する。当該方法は、1つ以上の卵母細胞を含む液体試料を得る工程と、本明細書中に記載されるいずれかのシステムの入口に液体試料を注入する工程と、チャネルの1つ以上のステージ内に液体試料をある流速にて流す工程と、出口から卵母細胞を回収する工程とを含む。
【0020】
こうした方法の特定の実施形態において、液体試料は、卵胞液、培養媒体、もしくはバッファー媒体であってよい、またはこれらを含んでよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、流速はほぼ一定であり、約0.5~約5.0ml/分、たとえば約1.0ml/分~約4.0ml/分であり、たとえば、流速は、約0.5~約2.0ml/分、たとえば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、または2.0ml/分であってよい。流速は、約1.0ml/分であってよい。卵母細胞は、哺乳類卵母細胞、たとえばヒト卵母細胞であってよい。第3のステージのくびれユニット(contracting units)の幅は、約100~110ミクロン、たとえば、100、102、104、106、108、または110ミクロンであってよい。いくつかの実施形態において、卵母細胞はヒト卵母細胞であり、対向壁上の複数の歯の先端同士の間隔は約100~110ミクロンである。
【0022】
多様な実施形態において、1つ以上のステージのうち少なくとも1つは、1つ以上のくびれユニットと互い違いに配置された1つ以上の拡張ユニットを含む。1つ以上のステージのうち少なくとも1つのステージは、滑らかな内側表面を有する1つ以上のくびれユニットを含んでよい。少なくとも1つの拡張ユニットは、約250~約600ミクロン、たとえば、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、または600ミクロンの幅を有してよい。少なくとも1つのくびれユニットは、約200~約350ミクロン、たとえば、200、225、250、275、300、325、または350ミクロンの幅を有してよい。少なくとも1つのくびれユニットは、約100~250ミクロン、たとえば、125、150、175、200、225、もしくは250ミクロン、またはそれ以上の幅を有してよい。
【0023】
別の一態様において、本開示は、付着している卵丘細胞から卵母細胞を裸化するための複数のサブチャネルを含むチャネルを有するシステムを提供する。当該システムは、基体とチャネルとを含む。チャネルは、入口、出口、およびチャネル内に直列に配置された1つ以上のステージを含む。1つ以上のステージの各々は、次のステージと流体接続している。1つ以上のステージの各々は、チャネルにわたって(たとえばチャネルに対して垂直に)列に並んだ1つ以上のポストを含む。ポストは、2つの細長い(たとえば、まっすぐな)(たとえば、互いに平行である)壁を有する限り、楕円形、正方形、または矩形などであってよい。各列は、複数のポスト(たとえば2つ以上、たとえば2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のポスト)を含む。所与の列の各ポストと当該所与の列内における隣りのポストとの間に間隔があいて、サブチャネルが画定されている。1つの列における1つ以上のポストは、当該ポストの、チャネルの壁に向き合うまたは当該列における別のポストに向き合う細長いまっすぐな壁上に、複数のぎざぎざの歯または他の表面粗さを含む。
【0024】
少なくとも1つのサブチャネルは、約240ミクロン、たとえば、200、210、220、230、240、250、260、270、または280ミクロンの幅を有してよい。少なくとも1つのサブチャネルは、140ミクロン、たとえば、120、130、140、150、または160ミクロンの幅を有してよい。少なくとも1つのサブチャネルは、約90ミクロン、たとえば、80、85、90、95、100、または105ミクロンの幅を有してよい。
【0025】
すべてのポストは、たとえば当該ポストのまっすぐな(strait)壁に沿って、複数のぎざぎざの歯を含んでよい。第1のステージのすべてのサブチャネルは第1の幅を有してよく、第2のステージのすべてのサブチャネルは、第1の幅よりも小さい第2の幅を有してよい。第3のステージのすべてのサブチャネルは、第2の幅よりも小さい第3の幅を含んでよい。
【0026】
本開示は、ART分野における不利な点を解決しようとするシステムおよび方法に関する。本明細書中に記載されるシステムの少なくとも1つの利点は、連続的な流体の流れを使用する卵母細胞の裸化手段を提供できるという点である。本システムの別の利点は、より単純で自動式の卵母細胞裸化方法を実施可能とする点である。加えて、当該新たなシステムは、未処理の卵胞液、または血液細胞、血餅、組織片などの形態の細片を著しく含む液体試料を扱うことができ、かつ、優れた裸化卵母細胞収量を提供できる。また、卵母細胞を裸化するための他のデバイス、システム、および従来の手作業による手順と比較して、本システムおよび方法は、卵母細胞の受精または発生能力が損なわれる確率を低減する。したがって、当該新たなシステムおよび方法は、自動式で標準化された連続的な様式にてヒト卵母細胞を処理するための高効率かつ効果的な方法を提供する。
【0027】
特に定義がなければ、本明細書中において使用されるすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または同等の方法および材料を本発明の実施または試験の際に使用できるが、好適な方法および材料が以下に記載される。本明細書中において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、および他の参考資料の全体を、引用により本明細書に援用する。万一矛盾がある場合には、本明細書(定義を含む)が支配する。これに加えて、材料、方法、および例示は、例証することのみを目的とし、限定を意図しない。
【0028】
本発明の他の特徴および利点が、以下の詳細な説明および請求項によって明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示の少なくとも1つの例示的な実施形態に係るマイクロ流体システムを使用するための方法の概略的かつ例証的な全体図である。
図2A】本開示に係る、卵丘-卵母細胞複合体(COCs)から卵丘細胞を除去するための1つのチャネルを有するマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図2B】本開示に係る、卵丘-卵母細胞複合体(COCs)から卵丘細胞を除去するための1つのチャネルを有するマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図2C】本開示に係る、卵丘-卵母細胞複合体(COCs)から卵丘細胞を除去するための1つのチャネルを有するマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図3A】本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム内のチャネルの第1のステージ内に位置する滑らかなくびれユニットとこれに最も近い拡張ユニットとを拡大して示す概略的な略図である。
図3B】本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム内のチャネルの第2のステージ内に位置する滑らかなくびれユニットとこれに最も近い拡張ユニットとを拡大して示す概略的な略図である。
図3C】本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム内のチャネルの第3のステージ内に位置するぎざぎざのくびれユニットとこれに最も近い拡張ユニットとを拡大して示す概略的な略図である。
図4A】本開示の一実施形態に係る、チャネルを有し、このチャネルが当該チャネル内のポストの列によって確定された複数のサブチャネルを含む、COCから卵丘細胞を除去するためのマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図4B】本開示の一実施形態に係る、チャネルを有し、このチャネルが当該チャネル内のポストの列によって確定された複数のサブチャネルを含む、COCから卵丘細胞を除去するためのマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図4C】本開示の一実施形態に係る、チャネルを有し、このチャネルが当該チャネル内のポストの列によって確定された複数のサブチャネルを含む、COCから卵丘細胞を除去するためのマイクロ流体システムの概略的な例証である。
図5】本開示の少なくとも1つの実施形態に係る、本明細書中に記載されるマイクロ流体システムを使用する方法の例を示すフローチャートである。
図6A】本開示の少なくとも1つの実施形態に係る、3つの別個のぎざぎざのくびれユニット内を流れるCOCを示す拡大画像の図示である。
図6B】本開示の少なくとも1つの実施形態に係る1つのぎざぎざのくびれユニット内を流れるCOCを示す概略的な例証である。
図7】ステージ3のくびれユニットの幅(W)が、処理されたCOCの収率および裸化効率に及ぼす効果を示す棒グラフである。
図8A】チャネル内におけるくびれユニットに沿って傾斜したぎざぎざの歯の4つの異なる実現例(θ=0°、39°、90°、および141°)の例証である。
図8B】異なる傾斜角度θを有するマイクロ流体システムの収率および裸化効率を示すグラフである。裸化効率は、傾斜角度が、矢印で示される流れの方向に逆らって141°である場合に、最も高い。
図8C】異なる傾斜角度θを有するマイクロ流体システムの収率および裸化効率を示すグラフである。裸化効率は、傾斜角度が、矢印で示される流れの方向に逆らって141°である場合に、最も高い。
図9】列に並んだ楕円形のポスト同士の間に画定された複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システムのサブチャネルにおいて捕捉されている細片を示す拡大画像の図示である。
図10】複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システムの収率および裸化効率に及ぼす流速の効果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
体外受精(IVF)および卵細胞質内精子注入(ICSI)などの生殖補助技術(ART)は、不妊症の処置方法としてますます広く用いられている。しかしながら、典型的なARTの手順は、高価である、時間がかかるといった、様々な制約を有し得る。また、典型的なARTの手順は、胚培養士などの高度な技術を有する技術者に依存しており、その結果、施術者による差異や標準化の欠如といったことが起こり得る。効果的なICSIのためには、卵母細胞中への精子の注入を容易化して、卵母細胞の形態、特に核成熟期の評価を可能とする目的で、典型的には、当該手順よりも前に卵母細胞を裸化しておくことが重要である。
【0031】
臨床でのICSIの実施において、胚培養士は、まず、顕微鏡下において約150mLの卵胞液からおよそ十数個の卵丘-卵母細胞複合体(COCs)を手作業で選ぶ必要がある。最初に卵巣から回収した卵母細胞は、典型的には、特殊な顆粒膜細胞(卵丘細胞)からなるいくつかの層に周囲が覆われていて、卵丘-卵母細胞複合体(COC)として知られる秩序のある構造を形成している。卵胞液試料は、典型的には体積が20~200mLであり、いくつかの細片、いくつかの組織片、凝固した血液細胞、血液細胞、およびCOCを含有している。次いで、胚培養士は、卵細胞質内精子注入よりも前に、酵素的方法(たとえば、ヒアルロニダーゼ)および力学的方法(手作業によるピペッティング)を組み合わせて使用して卵母細胞を裸化する必要がある。
【0032】
卵母細胞と密接に接触している卵丘細胞は、冠細胞としても知られるが、これらによって、透明帯を通過する細胞質の突出が生じ、卵細胞膜とのギャップ結合が形成され得る。典型的な手順においては、卵母細胞を、ヒアルロニダーゼの酵素作用および手作業によるピペッティングによって、卵丘-冠細胞の集まりから裸化できる。しかしながら、こうした型の手順は、非効率であり得て、かつ施術者による差異があり得る。他の手順においては、接合体を1つずつ処理して、流体の流れを手作業で制御するが、これには時間がかかり、施術者による差異もある。本明細書中に記載される新たな方法およびシステムは、ARTにおけるこうした問題を回避または克服できる。
【0033】
本開示は、ヒト生殖補助の分野において広い用途を有する、周囲を覆っている卵丘細胞および冠細胞から卵母細胞を裸化するためのマイクロ流体システムおよび方法を提供する。一般的なレベルにおいて、当該システムは、1つ以上のステージを有する少なくとも1つのチャネルを含み、各ステージはくびれユニットおよび拡張ユニットの繰り返しを有する。COCを含有する液体試料(たとえば、未処理の卵胞液試料)を、たとえば連続的な流速にて、システムの入口に注入してよい。この流速によって、COCがシステムのチャネル内を通過する。くびれユニットと拡張ユニットとが連携して、卵母細胞の裸化を容易化する。たとえば、くびれユニットは、外側の細胞をCOCから剥ぎ取るまたは剥がすために、滑らかなまたはぎざぎざの内表面などの表面特徴を含む。拡張ユニットは、COCがシステム内を転がりながら通ることができるように促す。システムは、COCが連続的に流れ得るように構成される。
【0034】
他の実施形態において、本開示は、多様なサイズの細片を含有し得る多量の液体試料からCOCを回収し、周囲を覆っている卵丘細胞から卵母細胞を裸化するためのマイクロ流体システムおよび方法を提供する。いくつかの実施形態において、卵丘細胞に特異的な酵素(たとえば、ヒアルロニダーゼ)を、試料(たとえば、卵胞液試料)に添加して、COCを緩め、他の細片は緩めず、次いで、液体試料を、本明細書中に記載されるシステム内に流す。大きな細片(凝固血液など)がチャネルおよび/または上流の粗いフィルタにおいて捕捉され、COCは裸化されてチャネル内を通る。このようにして、当該デバイスは、大きな細片を除去し、かつCOCを裸化して、システムの出口で卵母細胞が集められる。この新たなシステムは以下の目的を達成する:1)酵素(たとえば、ヒアルロニダーゼ)処理により卵母細胞から卵丘細胞を緩めて、周囲を覆っている卵丘細胞から卵母細胞を自動的に裸化する、2)多量の流体懸濁液(卵胞液など)を、詰まりを生じることなく、1回の操作で処理する、3)大き過ぎる血餅および組織細片を選択的に捕集する、ならびに4)処理時間を縮小して標準化を改善するとともに、人間の介入を最小限とする。特に、この多チャネルシステムは、凝固血液などの大きな細片を上流の粗いフィルタおよび/またはチャネルにおいて捕捉し、かつ、COCが裸化されてチャネル内を通過できる。したがって、当該新たなシステムは、大きな細片を除去し、かつCOCを自動的に裸化して、出口において卵母細胞を得る。
【0035】
図1は、本開示の少なくとも1つの実施形態に係るマイクロ流体システム100を使用するための方法の概略的な全体図である。マイクロ流体システム100は、自動式で標準化された様式にて、周囲を覆っている卵丘マトリックスから卵母細胞を剥ぎ取ることができる。一般的に、卵丘-卵母細胞複合体(COCs)170aの懸濁液をバッファーまたは培養媒体と混合できる。媒体は、卵母細胞を健康なままで生かしておくために重要である。一般的に、懸濁液は、約10~50マイクロリットルの体積を有してよい。混合物は、約500マイクロリットルの総体積を有してよい。一般的に、混合物は、培養媒体(たとえば、体積上限約500マイクロリットル)を満たした容器(たとえばチューブ)にCOC懸濁液を添加することによって調製される。得られる液体を、たとえばポンプの使用により、マイクロ流体システム100中に注入する。得られる液体を、たとえば連続的な流速にて、マイクロ流体システム100中に注入する。多様な実施形態において、ポンプは、シリンジポンプまたは圧力駆動ポンプのような電動式システムであってよい。いくつかの実施形態において、出口から真空を引くことによって、必要な流速を達成してもよい。
【0036】
いくつかの実現例において、懸濁液は、多様なサイズの細片を含む。たとえば、懸濁液は、COCよりも大きいおよび/またはCOCよりも小さい細片を含んでよい。いくつかの実現例において、懸濁液を、マイクロ流体システム100中に注入する前に、ヒアルロニダーゼなどの酵素と共にプレインキュベートする。たとえば、懸濁液を、0.3mg/mLのヒアルロニダーゼと共にプレインキュベートしてよい。
【0037】
連続的な流速を注意深く選択することが、最終的な結果のために重要である。たとえば、流速が遅すぎると、マイクロ流体システム100内を通る混合物の動きが妨げられる傾向があり、デバイスによる卵母細胞の裸化が非効果的なものとなり得る。一方、流速が速すぎると、システム100が卵母細胞に損傷を与える可能性がある。本明細書中に記載されるとおり、最適な流速は、使用されるマイクロ流体システムの具体的な構成に依存して、約0.5~約2.0ml/分(0.5.0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、または2.0ml/分)、および/または約3.0ml/分~約5.0ml/分(3.0.3.2.3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、または5.0ml/分)である。COC 170aがマイクロ流体システム100内を通る際、マイクロ流体システム100の特徴によって、COC 170に力学的な力がかかり、COC 170a卵丘細胞の裸化を容易化する。COC 170aは、マイクロ流体システム100の終点に到達すると、部分的に、または完全に、裸化卵母細胞170bとなる。裸化卵母細胞170bは、マイクロ流体デバイス100の出口槽の中に集められる。
【0038】
システムの全体像
図2A図2Cは、本開示に係る、卵母細胞から卵丘細胞を除去するためのマイクロ流体システム100の概略的な例証である。図2Aはシステム全体を示し、図2Bおよび図2Cは、マイクロ流体システム100のいくつかの部分を拡大して示す。図2Aを参照して、マイクロ流体システム100は、入口101、出口102、第1のステージ110、第2のステージ120、および第3のステージ130を含む。第1のステージ110、第2のステージ120、および第3のステージ130は、連携して、長く蛇行したチャネルを画定している。入口101は、COC 170aを受け、COC 170aを第1のステージ110へと導くように構成される。COC 170aは、バッファーまたは培養媒体と懸濁および/または混合されてよい。当該例証において、長く蛇行したチャネルは3つの「列」を含む。第1の(すなわち、上の)列は第1のステージ110および第2のステージ120を含み、第2および第3の(すなわち、下の)列は第3のステージ130を含む。チャネルは蛇行しているように示されているが、チャネルは、直線状、環状、または多様な他の形状であってもよい。また、チャネルは、マイクロ流体システム100の所望の用途に依存して、より多い、またはより少ない列を含んでもよい。
【0039】
蛇行したチャネルは、滑らかなくびれユニット141および/またはぎざぎざのくびれユニット142と互い違いに配置された一連の繰り返しの拡張ユニット140に分かれている。これらユニット140、141、142の形状および大きさは、チャネルの全長にわたって変化してよい。たとえば、この特定の例証において、第1のステージ110は正方形の拡張ユニット140を有し、第2のステージ120および第3のステージ130は八角形の拡張ユニット140を有する。しかしながら、各ステージは、多様な形状の拡張ユニット140を任意の数にて含んでよく、正方形、八角形、および/または円形を含んでよい。示されている実施形態において、第1のステージ110は、25個の拡張ユニット140および25個の滑らかなくびれユニット141を含む。第2のステージ120は、25個の拡張ユニット140および25個の滑らかなくびれユニット141を含む。第3のステージ130は、100個の拡張ユニット140および100個のぎざぎざのくびれユニット142を含む。
【0040】
また、示されている実施形態において、第1のステージ110および第2のステージ120は、長さが等しい。しかしながら、第1のステージ110および第2のステージ120は、異なる長さを有してもよい。一実施形態において、第1および第2のステージ110、120の長さは、拡張およびくびれユニット140、141の数に依存して、約10~50mmである。第3のステージ130は、最初の2つのステージ110、120より長くてもよい。示されている実施形態において、第3のステージ130は、第1または第2のステージ110、120の約4倍の長さである。示されている実施形態において、第3のステージ130は、約40~200mmの長さである。
【0041】
図2Aは拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142の特定の配置を有する各ステージを示すが、マイクロ流体システム100は、これらのユニット140、141、142の多様な組み合わせを含むステージを任意の数にて含んでよい。たとえば、第2のステージ120は、複数のぎざぎざのくびれユニット142を含んでもよい。第3のステージ130は、複数の滑らかなくびれユニット141を含んでもよく、これらは、ぎざぎざのくびれユニット142と互い違いに配置されていても、されていなくてもよい。これらのユニット140、141、142の数および位置は、マイクロ流体システム100の具体的な用途に基づいて最適化されてよい。ステージ110、120、130の具体的な設計は、ステージ110、120、130に所望される機能に基づき得る。たとえば、例証されている実施形態において、第1および第2のステージ110、120の構成は、COC 170aからの、かさ高でゆるく付着している卵丘細胞の除去を容易化する。また、例証されている実施形態において、第3のステージ130の構成は、COC 170aの放射冠(細胞の、透明帯に直接隣接する最内層を指す)の除去を容易化する。
【0042】
拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142は、多様な高さを有してよい。本明細書中に記載される場合、高さとは、所与の時においてユニットがどちらを向いているかに応じて、ユニット140、141、および142の「上」の内表面と「下」の内表面との間の間隔を指す(所与の時にユニットが向いている空間的方向によっては、「上」を「下」と見ることもできるということが理解される)。したがって、たとえば、高さは、断面(たとえば、正方形または八角形のユニットの場合)、または直径(たとえば、円形のユニットの場合)であってよい。いくつかの実施形態において、拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142は、150~500ミクロンの高さを有する。いくつかの実施形態において、拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142のすべては、高さが一定である。いくつかの実施形態において、拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142は、著しいチャネル詰まりを生じずにCOCのサイズを収容できる十分な高さを有するように構成される。ユニット140、141、142は、広範囲の幅を有するように構成されていてよい。たとえば、特定の実施形態において、拡張ユニット140は、250~600ミクロンまたはそれ以上の幅を有する。一般的に、拡張ユニット140の幅は、COC 170aが転がって、COCの全表面が後続のくびれユニット141、142の内壁と接触できるように選択されてよい。いくつかの実施形態において、滑らかなくびれユニット141は100~300ミクロンの幅を有するように構成され、ぎざぎざのくびれユニット142は90~130ミクロンの幅を有するように構成される。また、ユニット140、141、142は、広範囲の長さを有するように構成されてもよい。たとえば、特定の実施形態において、拡張ユニット140は400~600ミクロンの長さを有し、滑らかなくびれユニットおよびぎざぎざのくびれユニット141、142は550~750ミクロンの長さを有する。
【0043】
図2Bは、第2のステージ120から第3のステージ130に移行する湾曲150(この例において、長く蛇行したチャネルの2番目の2つの列を形成している)を拡大して示す。また、湾曲150は、図2A中に示されるとおり、第2の列から第3の列にも移行する。
【0044】
図2Cは、第3のステージ130内に位置するぎざぎざのくびれユニット142を拡大して示す。ぎざぎざのくびれユニット142は、いくつかのぎざぎざの歯142aを含む。以下に図8Aを参照して説明されるとおり、ぎざぎざの歯142aは、チャネル内を通る流れの方向に沿ったまたはこれに逆らったいくつかの異なる角度のうち1つ以上にて設定されていてよい。たとえば、いくつかの実施形態において、ぎざぎざの歯142aは、チャネル内を通る流れの方向に逆らって約30度~約90度の角度(たとえば、45、50、55、60、65、70、75、80、または85度)にて設定されている。他の実施形態において、ぎざぎざの歯142aは、チャネル内を通る流れの方向に逆らって約40度~約150度の角度にて設定されている。
【0045】
ぎざぎざの歯142aの先端同士の間隔は、変動してもよい。一般的に、ぎざぎざの歯142aの先端同士の間隔は、ヒト(または他の動物、たとえば、哺乳類)の卵母細胞の平均直径(たとえば、100ミクロン)に基づいて選択され、したがって約80~110ミクロンに設定されている。ぎざぎざの歯142aの先端同士の間隔はいくつかの間隔にて設定されてもよいが、歯142aの先端同士の間隔は、卵母細胞を過度に損傷せずに裸化を容易化することができるように設定されていることが好ましい。たとえば、歯142aの先端同士の間隔が小さ過ぎると、卵母細胞は損傷を受けずに間に入り込むことができない可能性がある。歯142aの先端同士の間隔が大き過ぎると、歯142aがCOC 170aから卵丘細胞を除去できない可能性がある。歯142aの先端同士の間隔は、少なくとも部分的に、歯142aの長さによって画定されてよい。したがって、ぎざぎざの歯142aの各々は、いくつかの長さのうち1つを有するように構成されていてよい。たとえば、いくつかの実施形態において、ぎざぎざの歯142aは、約0.5~20ミクロンの長さ(たとえば、1、2、3、4、5、10、15、または20ミクロンの長さ)である。
【0046】
マイクロ流体システム100は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)または他の硬質かつ不活性のプラスチックまたは他の材料でできた基体で作られていてよく、基体は、標準的な技術を用いてエッチングまたは切断して基体内にチャネルを形成した後、スライドガラスなどのカバーに接着させることにより、水密に封止される。基体およびカバーの材料を選択する際、チャネル内を通過する卵母細胞を傷つけないように適合性かつ生物学的に不活性であることが重要である。
【0047】
くびれおよび拡張ユニット
図3Aは、本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム100の第1のステージ110に位置する滑らかなくびれユニット141とこれに最も近い拡張ユニット140とを拡大して示す。図3Bは、本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム100の第2のステージ120に位置する滑らかなくびれユニット141とこれに最も近い拡張ユニット140とを拡大して示す。図3Cは、本開示の一実施形態に係るマイクロ流体システム100の第3のステージ130に位置するぎざぎざのくびれユニット142とこれに最も近い拡張ユニット140とを拡大して示す。
【0048】
図3A中に示されるとおり、滑らかなくびれユニット141は拡張ユニット140に先行および後続される。この実施形態において、第1のステージ110の拡張ユニット140は矩形であり、幅Wを有する。この実施形態において幅Wは約500ミクロンであるが、図2A図2Cを参照して前述されるとおり、幅Wは、いくつかの他のサイズのうちの1つであってもよい。3つのステージ110、120、130のすべてにおいて、拡張ユニット140は、COCが転がるのを容易化して、COCの表面の実質的に全体が、後続の滑らかなくびれユニット141またはぎざぎざのくびれユニット142の内表面と相互作用できるようにしてもよい。滑らかなくびれユニット140は滑らかな内表面を含み、これは、一般的に、卵母細胞の周囲を覆う卵丘層中に入り込む可能性のあるぎざぎざの歯および他の粗さまたは突出部を有さない表面を指す。第1のステージ110の滑らかなくびれユニット141は、また、幅Wをも有する。この例証的な実施形態において、幅Wは約240ミクロンであり、これによって、COC中に存在するゆるく付着した大きな卵丘クラスタの除去を容易化することができる。しかしながら、幅Wは、図2A図2Cを参照して前述されるとおり、いくつかの他のサイズのうちの1つであってもよい。また、図2A図2Cを参照して上述されるとおり、第1のステージ110は、滑らかなくびれユニット141に加えて、またはこれの代わりに、1つ以上のぎざぎざのくびれユニット142を含んでよい。
【0049】
図3B中に示されるとおり、第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141は、幅Wを有する。第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141は、第1のステージ110の滑らかなくびれユニット141の幅Wよりも小さい幅Wを有してよい。しかしながら、第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141の幅Wは、第1のステージ110の滑らかなくびれユニット141の幅Wよりも大きくてもよい、またはこれと等しくてもよい。いくつかの実施形態において、幅Wは、第1のステージ110の滑らかなくびれユニット141によって除去されなかった可能性のある中程度のサイズの卵丘クラスタの除去を容易化するように選択される。この例証的な実施形態において、幅Wは約140ミクロンであり、したがって、第1のステージ110の滑らかなくびれユニット141の幅Wよりも小さい。しかしながら、幅Wは、図2A図2Cを参照して前述されるとおり、いくつかの他のサイズのうちの1つであってもよい。第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141は、また、滑らかな内表面をも有する。滑らかなくびれユニット141は、拡張ユニット140に先行および後続される。
【0050】
第2のステージ120の拡張ユニット140は、八角形の形状である。しかしながら、第2のステージ120の拡張ユニット140は、正方形または円形でもよい。八角形および/または円形の拡張ユニット140は、正方形の拡張ユニット140の四隅において見られ得る渦の発生を防止し得る。第2のステージ120の拡張ユニット140は、また、500ミクロンの幅Wを有する。しかしながら、第2のステージ120の拡張ユニット140は、第1のステージ110の拡張ユニット140の幅Wよりも大きいまたは小さい幅を有してもよい。たとえば、一実施形態において、第2のステージ120の拡張ユニット140は、第1のステージ110の拡張ユニット140の幅Wよりも大きな幅を有する。本実施形態において、第2のステージ120の拡張ユニット140は、第1のステージ110の拡張ユニット140の幅Wよりも小さいが第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141の幅Wよりも大きい幅を有する。
【0051】
図3C中に示されるとおり、第3のステージ130のぎざぎざのくびれユニット142は、幅Wを有する。ぎざぎざのくびれユニット142の幅Wは、一般的に、第2のステージ120の滑らかなくびれユニット141の幅Wよりも小さい。たとえば、この例証的な実施形態において、ぎざぎざのくびれユニット142は、130ミクロンの最大幅Wを有する。しかしながら、幅Wは、図2A図2Cを参照して前述されるとおり、いくつかの他のサイズのうちの1つであってもよい。ぎざぎざのくびれユニット142は、複数のぎざぎざの歯142aを含む。複数のぎざぎざの歯142aは、蛇行したチャネルの連続的な流れ(右向きの太い矢印で示される)に沿って傾斜している。ぎざぎざのくびれユニット142は、拡張ユニット140に先行および後続される。第3のステージ130の拡張ユニット140はまた、幅Wをも有し、これは、他のステージにおける拡張ユニット140のそれに等しい。しかしながら、第2のステージ120の拡張ユニット140と類似して、第3のステージ130の拡張ユニット140は、他のステージ110、120の拡張ユニット140の幅Wよりも小さいまたは大きい幅を有してもよい。図2B図2C、および図3A図3C中に例証される実施形態において、くびれユニット141、142の幅は、後続の各ステージにおけるものよりも小さい。たとえば、第1のステージの滑らかなくびれユニット141は、第2のステージ120における滑らかなおよび/またはぎざぎざのくびれユニットの幅Wよりも大きい幅Wを有し、続いて、後者は、第3のステージ130のぎざぎざのくびれユニット142の幅Wよりも大きい幅(W)を有する。これにより、COCからの卵丘層の漸進的な除去が容易化され得る。卵丘層の除去に対してさらに漸進的なアプローチを可能とすることによって、例証されている実施形態の設計は、ステージ間において生じ得る詰まりを防止し得て、かつ、後続の各ステージにおける仕事量を軽減し得る。
【0052】
いくつかの実現例において、マイクロ流体システム100は、たとえば平行に配置された、複数のチャネルを含み(たとえば、各チャネルが、COC 170aを裸化するために、第1のステージ110、第2のステージ120、および第3のステージ130を含む)、いくつかのCOC 170aを含む液体試料が複数のチャネル内を流れ得る。当該複数のチャネルは、同じまたは異なる基体上に形成されていてよく、たとえば主たる入口に多様な入口を一緒にかつシステムの主たる出口に多様な出口を一緒に接続する導管またはマニホールドを使用して、平行に接続されていてよい。平行な複数のチャネルを含むことにより、万一1つのチャネルが欠陥を有する場合または詰まった場合にも、COC 170aの連続的な流れが容易化され得る。
【0053】
複数のサブチャネルを有するチャネルを有するマイクロ流体システム
図4A図4Cは、本開示の一実施形態に係る、COCから卵丘細胞を除去するための複数のサブチャネルを有するチャネルを有するマイクロ流体システム600の概略的な例証である。複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システム600は、たとえばCOCを含有する液体試料が1つのチャネルを遮断し得るまたは詰まらせ得るさらなる細片を含有し得る場合に、使用できる。多様なサブチャネルは、1つの通路が遮断された際または詰まった際にCOCが流れる多様な通路を提供し得る。
【0054】
図4Aはシステム全体を示し、図4Bおよび図4Cは、マイクロ流体システム600のいくつかの部分を拡大して示す。図4Aを参照して、マイクロ流体システム600は、入口601、出口602、第1のステージ610、第2のステージ620、および第3のステージ630を含む。第1のステージ610、第2のステージ620、および第3のステージ630は、連携して、長く蛇行したチャネルを画定する。当該例証において、長く蛇行したチャネルは3つの区画を含む。第1の(すなわち、上の)区画は第1のステージ610および第2のステージ620を含み、これらは両方とも、液体試料からの細片の除去を助けるろ過ステージであり、第2および第3の(すなわち、下の)区画は第3のステージ630を含み、これは裸化効果を提供する。チャネルは蛇行しているように示されているが、チャネルは、直線状、環状、または多様な他の形状であってもよい。また、チャネルは、マイクロ流体システム600に所望の長さおよび/または用途に依存して、より多い、またはより少ない区画を含んでもよい。
【0055】
蛇行したチャネルは、ポスト640aの複数の列640を含む。各列640は、複数のポスト640aを含む。これらのポスト640aの形状および大きさは、チャネルの全長にわたって、一定であってもよい、または変化してもよい。たとえば、この特定の例証において、第1のステージ610、第2のステージ620、および第3のステージ630は、楕円形のポスト640aを含む。しかしながら、各ステージは、多様な形状のポスト640aを任意の数にて含んでよく、正方形、矩形、および/または八角形のポストを含んでよい。また、各ステージは、ポスト640aの列640を任意の数にて含んでよく、各列640は任意の数のポスト640aを有してよい。示されている実施形態において、第1のステージ610は、7つのポスト640aを有するいくつかの列640と、6つのポスト640aを有するいくつかの列640とを含む。第2のステージ620は、6つのポスト640aを各々有するいくつかの列640と、5つのポスト640aを各々有するいくつかの列640とを含む。第3のステージ630は、6つのポスト640aを各々有するいくつかの列と、5つのポスト640aを各々有するいくつかの列640とを含む。すべての実施形態において、ポストの列は、チャネルにわたって、たとえば、チャネルの長軸に対して垂直に、またはチャネルの長軸に対して角度(たとえば、わずかな角度)をつけて、配置されている。
【0056】
第1のステージ610、第2のステージ620、および第3のステージ630は、すべてが等しい長さを有してもよい、または異なる長さを有してもよい。いくつかの実現例において、第1および第2のステージ610、620の長さは、ポストの列640の数に依存して、約10~50mmである。第3のステージ630は、最初の2つのステージ610、620より長くてもよい。示されている実施形態において、第3のステージ630は、第1または第2のステージ610、620の約4倍の長さである。多様な実施形態において、第3のステージ630は、約40~200mmの長さであってよい。一実施形態において、各ポストは、約800ミクロンの長さであってよく、システムは、効果的な裸化を達成するために、第3のステージにおいてこれらのポストを約100個を含んでよい。ポストの列同士の間の水平方向の間隔は約400ミクロンであってよいが、この間隔は決定的なものではなく、COCがポストの列の間を転がるまたは回転するための十分な空間および時間がある限り、変動してもよい。たとえば、この実施形態において、第3のステージは、120mmの全長であってよい。
【0057】
重要なパラメータは、1つのサブチャネルに沿ってすべてのポストをカウントした際の、ぎざぎざの表面の長さの総計であり、上述される実施形態において、これは約80mmである。各ポストのぎざぎざの表面の長さをより短くすることも可能ではあるが、その場合、第3のステージにおいて、より多くのポストが必要となり得る。代替的には、第3のステージにおいて、各ポストのぎざぎざの表面の長さを長くしてポストの数を少なくすることもできる。しかしながら、第3のステージにおけるぎざぎざの表面の長さの総計は約80mmよりも長くするべきである。ぎざぎざの表面の長さの総計は、たとえば100mm、120mm、または150mmのように、より長くてもよいが、ぎざぎざの表面の長さの総計が長すぎると、卵母細胞が過度に損傷を受け得る。
【0058】
図4Bは、第3のステージ630内に位置するポストの列640を拡大して示す。所与の列640における各ポスト640aと、隣りのポスト640aとの間に間隔があいて、幅(W)を有するサブチャネル640bが画定されている。列640の両端のポスト640aと、チャネルの壁との間に間隔があいて、さらなるサブチャネル640bが画定されている。これらのサブチャネルの幅は、約80~110ミクロン、たとえば、80、85、90、95、100、105、または110ミクロンであってよく、これは一般的に、裸化される卵母細胞の直径に基づく。
【0059】
第1のステージ610、第2のステージ620、および第3のステージ630はすべて、等しい幅(W)または変動する幅(W)を有するサブチャネル640bを有するポスト列640を含んでよい。示されている実施形態において、第1のステージ610における各サブチャネル640bは240ミクロンの幅(W)を有し、第2のステージ620における各サブチャネル640bは140ミクロンの幅(W)を有し、第3のステージ630における各サブチャネル640bは90ミクロンの幅(W)を有する。
【0060】
図4Cは、第3のステージ630内に位置する2~3個のポスト640aを拡大して示す。各ポスト640aは、当該ポストの細長い壁に沿って複数のぎざぎざの歯640cを含む。ぎざぎざの歯640cは、サブチャネル内を通る流れの方向に沿った、または好ましくはこれに逆らった、いくつかの異なる傾斜角度のうちの1つ以上にて設定されていてよい。たとえば、いくつかの実施形態において、ぎざぎざの歯640cは、チャネル内を通る流れの方向に逆らって約30度から約90度未満の角度にて設定されている。また、ぎざぎざの歯640cの先端同士の間隔は変動してもよいが、一般的には、ぎざぎざの歯640cの先端同士の間隔は、ヒト(または他の動物、たとえば、哺乳類)の卵母細胞の平均直径(たとえば、100ミクロン)に基づいて選択され、したがって約80~110ミクロンに設定されている。
【0061】
ぎざぎざの歯640cの先端同士の間隔はいくつかの異なる間隔にて設定されてよいが、卵母細胞を過度に損傷せずに裸化を容易化することができるように歯640cの先端同士の間隔が設定されていることが好ましい。たとえば、歯640cの先端同士の間隔が小さ過ぎると、卵母細胞は損傷を受けずに間に入り込むことができない可能性がある。歯640cの先端同士の間隔が大き過ぎると、歯640cがCOCから卵丘細胞を除去できない可能性がある。歯640cの先端同士の間隔は、少なくとも部分的に、歯640cの長さによって画定されてよい。したがって、ぎざぎざの歯640cの各々は、いくつかの長さのうちの1つを有するように構成されていてよい。たとえば、いくつかの実施形態において、ぎざぎざの歯640cは、約0.5~20ミクロンの長さ(たとえば、1、2、3、4、5、10、15、または20ミクロンの長さ)である。
【0062】
図4A図4C中に示されている実施形態において、ステージ610、620、630のすべてにおける各ポスト640aは、ぎざぎざの歯640cを含む。しかしながら、これらのステージのうち任意のものは、さらにまたは代替的に、任意の数の滑らかなポスト640aを含んでもよい。さらに、各ステージにおける各ポスト640aのぎざぎざの歯640cは、多様な長さと、先端同士の間の空間とを含んでよい。加えて、蛇行したチャネルの壁はこの実施形態においては滑らかであるが、ステージ610、620、630のうちの任意のものまたはこれらのすべては、ぎざぎざの歯640cをも有する壁を含んでもよい。
【0063】
ステージ610、620、630の具体的な設計は、ステージ610、620、630に所望される機能に基づいていてよい。たとえば、例証されている実施形態において、第1および第2のステージ610、620のポスト列640の構成は、サブチャネル640b内を流れるCOCの、かさ高でゆるく付着している卵丘細胞の除去を容易化し、かつ、液体試料中に含まれる大きな細片を捕捉する。加えて、示されている実施形態において、第3のステージ630の構成は、チャネル内を流れるCOCの放射冠の除去を容易化し、かつ、液体試料中に含まれるより小さな細片を捕捉する。
【0064】
示される実施形態の各ステージはポストのいくつかの列640を含むが、これらのステージのうちの任意のものまたはこれらのすべては、いくつかの縦長のポスト640aを有するポストの列を1つだけ含んでもよい。しかしながら、各列640同士の間にいくらかの空間を有する複数の列640を有する場合には、より高効率の裸化が容易化され得る、というのは、ポストの列同士の間の空間が、チャネル内を流れるCOCの回転を容易化するためである。
【0065】
図9は、マイクロ流体システムのサブチャネルによって捕捉されている細片を示す拡大画像の図示である。示されるとおり、マイクロ流体デバイス600の多様なサブチャネル640cは、液体試料中に含まれ得る細片を捕捉し得て、試料のCOCは他のサブチャネル640内を流れて裸化され得る。
【0066】
使用方法
図5は、本開示の少なくとも1つの実施形態に係るマイクロ流体システム100の使用方法を示すブロック図である。例証する目的から、以下には、当該方法が、図2A図2Cを参照して上述されるマイクロ流体システム100と共に使用されるとして記載される。しかしながら、当該方法は、図4A図4Cを参照して上述される複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システム600などの他のマイクロ流体システムと共に使用することもできる。当該方法は、液体試料を生成する工程(ブロック510)と、マイクロ流体システム100中に液体試料を注入する工程(ブロック520)と、マイクロ流体システム100内に液体試料を流す工程(ブロック530)と、裸化卵母細胞を回収する工程(ブロック540)とを含む。
【0067】
ブロック510において、COC 170aを含有する懸濁液を、培養媒体を予め充填してあってよいチューブ中に入れる。いくつかの実施形態において、チューブにはバッファーが予め充填してある。COC 170aの懸濁液を培養/バッファー媒体と混合して、液体試料を生成する。液体試料は、約300~700マイクロリットルの総体積を有してよい。いくつかの実施形態において、液体試料は、約500マイクロリットルの総体積を有する。いくつかの実施形態において、懸濁液は、多様なサイズの細片を含む。たとえば、懸濁液は、COCよりも大きいおよび/またはCOCよりも小さい細片を含んでよい。いくつかの実現例において、懸濁液を、マイクロ流体システム中に注入する前に、ヒアルロニダーゼと共にプレインキュベートする。たとえば、懸濁液を、0.3mg/mLのヒアルロニダーゼと共にプレインキュベートしてよい。懸濁液をヒアルロニダーゼと共にインキュベートすることによって、COCの卵丘細胞同士の間の結合を緩めることによる卵丘細胞の除去が容易化され得る。
【0068】
ブロック520において、チューブをポンプに、たとえばポンプにより(たとえば注射針により)制御されるシリンジなどに、接続する。シリンジは、一定の流速をかけることができるポンプに搭載される。チューブの他端を、マイクロ流体システム100の入口101に差し込む。次いで、COC 170aを含有する液体試料を、一定の流速にて、マイクロ流体システム100の入口101に注入する。当該一定の流速は、0.1~2.0mL/分であってよい。いくつかの実施形態において、当該一定の流速は、0.5mL/分である。他の実施形態において、当該一定の流速は、0.75mL/分または1mL/分である。
【0069】
本明細書中において図4A図4Cを参照して記載される複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システム600を使用する場合、多くのサブチャネルがあるために、より高い一定の流速を使用できる。いくつかの実施形態において、当該一定の流速は3mL/分~5mL/分である。
【0070】
ブロック530において、ポンプ流の作用によって、液体試料がマイクロ流体システム100内を流れる。液体試料がマイクロ流体システム100内を流れる際、COCが、マイクロ流体システム100のいくつかの拡張ユニット140、滑らかなくびれユニット141、およびぎざぎざのくびれユニット142内を通過する。一般的に、拡張ユニット140は、COC 170aを転がらせるように設計され、これが、COCの表面のできるだけ多くが後続のくびれチャネル141、142の内壁と接触するのを助ける。一般的に、滑らかなくびれユニット141は、COC 170aのかさ高でゆるく付着している卵丘細胞の除去を容易化し、かつ、ぎざぎざのくびれユニット142は、COC 170aの放射冠の除去を容易化する。
【0071】
たとえば、図6Bは、ぎざぎざのくびれユニット142内を流れるCOC 170aを示す。くびれユニットは、COC 170aの流れに沿って傾斜したぎざぎざの歯を含み、この流れは、右向きの太い矢印で示される。COC 170aがぎざぎざのくびれユニット170aを通過する際、ぎざぎざの歯によってCOC 170aに剪断応力がかかり、COC 170aにおける卵母細胞の裸化が容易化される。COC 170aがマイクロ流体システム100内を通る際、COC 170aはさらに裸化される。たとえば、図6Aは、それぞれ3、25、および97という番号のついた3つの別個のぎざぎざのくびれユニット142内を流れるCOC 170aを示す。上のぎざぎざのくびれユニット142は、マイクロ流体システム100の第3のステージ130における3個めのぎざぎざのくびれユニット142を表す。中央のぎざぎざのくびれユニット142は、マイクロ流体システム100の第3のステージ130における25個めのぎざぎざのくびれユニット142を表す。下のぎざぎざのくびれユニット142は、マイクロ流体システム100の第3のステージ130における97個めのぎざぎざのくびれユニット142を表す。示されるとおり、COC 170aは、ぎざぎざのくびれユニット142の各々を通過する際に、さらに裸化される。COC 170aが最後の一連のぎざぎざのくびれユニット142を通過する際に、卵母細胞は大部分または完全に裸化されている。
【0072】
再び図5を参照して、図4A図4Cを参照して上述される複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システム600を使用する場合、COCは、ポストの列640の複数のサブチャネル640cを通過し得る。サブチャネル640cは、くびれユニット142に類似する様式にて(たとえば、卵丘細胞に力学的な力をかけることによって)、COCの卵丘細胞を除去するように構成される。
【0073】
ブロック540において、COC 170aが一連のユニット140、141、142内を通って処理された後、COC 170aは十分に裸化された卵母細胞170bになっている。しかしながら、COC 170aは、マイクロ流体システム100の具体的な設計および意図される用途に基づいて、部分的にのみ裸化された卵母細胞170bになっていてもよい。部分的におよび/または十分に裸化された卵母細胞170bは、マイクロ流体システム100の出口102(すなわち、出口槽102)で集められる。
【0074】
実施例
以下の実施例において本発明がさらに記載されるが、これらの実施例は請求項中に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0075】
実施例1-マイクロ流体式卵母細胞裸化システムの操作
約7~12個のマウスCOCを含有する懸濁液10μlを0.3mg/mLのヒアルロニダーゼと共にプレインキュベートしたものを、培養媒体0.5mlを予め充填しておいたTygon(登録商標)チューブ中に移した。このチューブは、約1.27mmの内径を有するものであった。15ゲージの鈍針を用いて、チューブの一端をシリンジポンプに接続した。ポンプにより、一定の流速1ml/分をかけた。チューブの他端をマイクロ流体システムの入口に挿入した。次いで、試料を、本明細書中に記載されるようにマイクロ流体システム中に注入した。マイクロ流体システムを75mm×25mmスライドガラス1枚に接着した。マイクロ流体システムは3つのステージを有し、第3のステージは、くびれユニットの幅が80、90、100、110、120、130、または140μmのいずれかであった。30秒以内に、処理された卵母細胞を出口槽において集めた。チューブ中に移した全COCのうちの処理された卵母細胞の数として、収量を計算した。出口槽において集めた処理されたすべての卵母細胞のうちの裸化卵母細胞の割合として、効率を計算した。
【0076】
図7は、ステージ3のくびれの幅(W)が、処理されたCOCの収率および裸化効率に及ぼす効果を示す棒グラフである。示されるとおり、裸化効率は、90および100ミクロンの幅では100%またはこれに近かったが、100ミクロンを超える幅では急速に低下した。図示はされていないが、効率は、80ミクロンの幅についても100%であったが、典型的なマウス卵母細胞は直径が約90ミクロンであるため、卵母細胞の損傷を回避するには、第3のステージのくびれユニットにおける歯の先端同士の間隔が卵母細胞のおよその幅よりも小さくないことが重要である。したがって、マウス卵母細胞について、第3のステージのくびれユニットにおける歯の先端同士の有用な間隔は、このシステムにおいて約90~100ミクロンである。ヒト卵母細胞は典型的には約100ミクロンの幅を有するため、マイクロ流体システムにおいて、ヒト卵母細胞について、第3のステージのくびれユニットにおける歯の先端同士の有用な間隔は、約100~110ミクロンである。
【0077】
実施例2-幾何学的配置および流量パラメータの選択
卵核胞(GV)期の卵母細胞およびこれに関連するCOCを、裸化デバイスにおいて使用した。GV期のCOCは、広がっていない密集した卵丘-冠細胞の集まりを特徴とし、一方、中期II(MII)のCOCは、広がっていてそれほど密集していない卵丘-冠細胞の集まりを有し、冠細胞が透明帯から放射状に広がっている。マウスのMII期のCOCは、典型的には、大きなクラスタを形成している。GV期のCOCについて得られる最適化されたパラメータを、体外受精実験のための成熟したMII期のCOCに対して使用した。
【0078】
GV期のCOCを使用して、3つの主要なパラメータを調整し、GV期の卵母細胞の完全な裸化を達成した。当該3つの主要なパラメータは、ぎざぎざの表面を有するくびれユニットの幅(W)、第3の区画におけるくびれ-拡張ユニットの総数(N)、およびシリンジポンプがかける流速(Q)であった。マイクロ流体システムの出口槽において回収された完全または不完全に裸化された卵母細胞の割合として、収率を計算した。出口槽において回収された卵母細胞の総数のうち完全に裸化された卵母細胞の割合として、裸化効率を計算した。W、N、およびQとは独立して、デバイスに入ったCOCからの卵母細胞のほぼ100%が出口槽において回収された。いくつかの卵母細胞またはCOCがチューブの親水性の内表面に付着している可能性がある。N=100およびQ=1mL/分とし、Wを90μmから130μmに増大した場合に、平均裸化効率が98.6%から26.7%に低下した。
【0079】
これらの結果は、裸化を行なうためには、最も狭いくびれ幅(W)が卵丘を有さない卵母細胞の平均サイズ(すなわち、直径90μm以下)に近いことが重要であることを示し、このことから、COCと内壁との物理的な接触が必須であることが強調される。
【0080】
幅Wに加えて、NおよびQの効果についても監視した。W=90μmおよびQ=1mL/分とし、第3の区画におけるくびれ-拡張ユニットの数(N)を50に減らした場合に、裸化効率が劇的に減少して28.3%となった。これらの結果は、所与のCOCの表面全体がくびれチャネルの内壁と接触し得るように十分なくびれ-拡張ユニットを有するようマイクロ流体システムを構成することが、卵母細胞の完全な裸化にとって重要であることを示唆する。
【0081】
COCとぎざぎざの表面の内壁との接触は重要であるが、このことのみでは、卵母細胞の完全な裸化が保証されない可能性がある。流速を0.5mL/分に低下させた場合に、裸化効率は22.2%であった。流速が0.75mL/分であっても、裸化効率(86.2%)は、流速1mL/分の場合(98.6%)よりも低かった。したがって、十分な物理的接触に加えて、剪断応力を流速と直接相関させて、卵丘-冠細胞の集まりを剥ぎ取れるほど十分に大きくすることが重要である。剪断応力の効果を調べるために、デバイス内における、または手作業によるピペッティング中にキャピラリの先端を通る流体の流れについて、数値流体力学(CFD)シミュレーションを行なった。最大剪断応力は流速と直接相関していた。
【0082】
一方で、繰り返しのくびれ-拡張ユニット内の流体の流れについて、流速を0.5mL/分から1mL/分に増加すると、最大剪断力(τmax)が64.1Paから163.5Paに増加した。最大剪断力は、ぎざぎざの表面のくびれチャネルに入って最初の1対の歯において生じた。一方、手作業によるピペッティングにより生じる流速が0.5mL/分から1mL/分に増加すると、τmaxが149.8Paから392.0Paに増加した。手作業によるピペッティングについては、最大剪断力は、キャピラリ先端の内輪において生じた。裸化に使用するガラスキャピラリは、外径200μmおよび内径125μmを有してよい。多くの胚培養士が用いる典型的な流速は、60フレーム/秒におけるビデオ記録から推定したところ、500~750μL/分の範囲であり得る。手作業によるピペッティングでは、流速の変動のために、各々の上下サイクルにおいて異なる剪断応力がかかり得て、これにより、0.5~1mL/分において、上限250Paまでの最大剪断応力の差異が生じ得る。しかしながら、マイクロ流体デバイスは、一定の流速をかけたために、剪断応力を一定に維持することができた。オンチップと手作業による裸化との間の剪断応力における最大の差異は、1mL/分の流速の場合に、230Paという大きな値であり得る。
【0083】
CFDシミュレーションの結果を実証するために、流れを十分に発生させた領域においてガラスキャピラリの内壁に作用する剪断応力を予測した。キャピラリの先端から軸方向に2,500μmの位置において内壁に作用する剪断応力は、0.5、0.75、および1mL/分の流速においてそれぞれ44.9、65.5、および82.5Paであった。この位置での剪断応力(τ)は、ポアズイユの法則τ=4μQ/πrに基づいて理論的に計算することもでき、式中、μは流体(すなわち、水)の粘度(dynamic viscosity)、Qは流速、rはキャピラリの内半径である。理論上の計算によると、0.5、0.75、および1mL/分の流速において剪断応力はそれぞれ38.7、58.0、および77.4Paであった。この結果はCFDシミュレーションの結果とよく一致しており、これにより、シミュレーションモデルの精度が示された。
【0084】
MII期のマウスCOCが排卵されると、これらは卵管内において1つの密なクラスタを形成する。このクラスタは、0.3mg/mLのヒアルロニダーゼと共に37℃において5分間インキュベーションすると緩められ得る。典型的なART診療所に近い条件においてマイクロ流体システムの性能を評価するために、MII期のマウスCOCに対する裸化実験を行なった。裸化卵母細胞を、その後、IVFおよびICSI実験において使用して、その受精および発生能力を調べた。W=90μmおよびN=100であるマイクロ流体システムは、ヒアルロニダーゼで処理したMII期のCOCのクラスタが流速1mL/分で当該システムを通過した際に、完全な裸化を達成するのに十分であった。平均収率は98.9%であり、裸化効率は平均93.7%であった。密に詰まったMII期のCOCのクラスタがヒアルロニダーゼでのインキュベーション後に様々な程度で緩められたために、クラスタを壊して個々のCOCにする必要性によって、典型的には孤立した複合体であり得るGV期のCOCの裸化と比較して、裸化効率が低下し得るということが観察された。注目するべきことに、典型的な臨床用ヒト試料は、たとえMII期のものであっても、このようなクラスタを有さないと考えられる。
【0085】
実施例3-ぎざぎざの歯の傾斜角度の選択
くびれユニットの表面特徴が裸化性能にどう影響するかを調べるために、多様な傾斜角度θをシステムに導入した。「傾斜角度」とは、COCが流れる方向とくびれユニットのぎざぎざの歯の中央線との間の角度を指す。図8Aは、くびれチャネルに沿って傾斜したぎざぎざの歯の4つの異なる傾斜角度の例証である。図8A中に示されるとおり、θが0°から141°に増加すると、ぎざぎざの表面の内壁の歯が、COCの流れる方向に沿っておよびこれに従って傾斜していたものが、COCの流れる方向に逆らって傾斜するように変化した。図7Bおよび図7Cは、異なる傾斜角度θを有するマイクロ流体システムの収率および裸化効率を示す。
【0086】
示されるとおり、収率は傾斜角度θとは独立しているようである。しかしながら、傾斜角度θ>90°を有するぎざぎざの歯は冠細胞を完全に「削り」取ることができるようである。したがって、これらの結果に基づいて、最も有効な傾斜角度θの範囲は90°<θ<180°であり、これは、歯がCOCの流れる方向に逆らって傾斜している範囲を意味する。注目するべきことに、流速は1mL/分であり、マイクロ流体システムは、第3の区画において、くびれユニット幅W=90μmである繰り返しのくびれ-拡張ユニットを100個有していた。また、傾斜角度θの効果は剪断応力とは関係がない可能性があることも観察された。CFDシミュレーションにより、θ=39°および141°について最大剪断応力がそれぞれ145.3Paおよび163.5Paであると推定された。いずれの場合においても、最大剪断応力は、くびれユニットに入って最初の歯において生じた。また、くびれユニットに沿った他の歯について、剪断応力の最小の差異は、傾斜角度θ=39°~141°において生じ得る。2つめから最後の歯についての剪断応力は、傾斜角度θ=39°である場合に84.1Paであり、傾斜角度θ=141°である場合に94.7Paであった。したがって、剪断応力は、裸化効率の差異の原因ではなかった可能性がある。したがって、裸化効率にとってより重要なのは、歯と歯の間の空間が卵丘層で満たされた際にぎざぎざの歯が卵丘細胞を剥ぎ取る、剥がす、または削り取ることができるように、歯がCOCの流れる方向に逆らって(たとえば、θ=141°で)傾斜していることであり得る。
【0087】
卵母細胞の裸化における拡張ユニットの役割をさらに調べるために、第3の区画における100個のくびれチャネルの端同士が接続されていてその間に拡張チャネルが存在しないマイクロ流体システムを設計した。このマイクロ流体システムは、図2A図2Cを参照して上述されるものと同じ第1の区画および第2の区画を有するものであった。収率は100%に近かったが、繰り返しの拡張ユニットが存在しない際の裸化効率は20%未満になった。したがって、COCが転がるのを促す拡張ユニットは、裸化効率の点で重要である。さらに、マイクロ流体システムによって処理したCOCは、2次元画像において、典型的には、1つまたは2つの側面に透明帯が露出し、他の側面では卵丘-冠細胞が完全な状態で残った外観を有する。このことは、拡張ユニットが存在しない際には、COC表面の(表面全体というよりも)特定部分のみが内壁との物理的な相互作用を受けることを示唆していると考えられる。
【0088】
実施例4-複数のサブチャネルの使用
図4A図4Cを参照して上述されるマイクロ流体システム600と類似する、複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システムを使用して、液体試料中に懸濁したCOCを裸化した。懸濁液は、COCおよび多様なサイズの細片を含有していた。懸濁液を0.3mg/mlのヒアルロニダーゼと共にプレインキュベートして、卵母細胞から卵丘細胞を緩めた。懸濁液を、流速3mL/分~5mL/分にて、マイクロ流体システム内に流した。システムの第1のステージは、240ミクロンの幅を有するサブチャネルを含んでいた。システムの第2のステージは、140ミクロンの幅を有するサブチャネルを含んでいた。システムの第3のステージは、90ミクロンの幅を有するサブチャネルを含んでいた。どのステージも、流体の流れる方向に逆らって傾斜したぎざぎざの歯を有するポストを含んでいた。
【0089】
図10は、複数のサブチャネルを有するマイクロ流体システムの収率および裸化効率に及ぼす流速の効果を示すグラフである。示されるとおり、流速5mL/分とした結果、最も高い収量(すなわち、入口に入った卵母細胞の数に対する、出口で集めた卵母細胞の数)および裸化効率(すなわち、出口で集めた卵母細胞の数に対する、首尾よく裸化された卵母細胞の数)が得られた。
【0090】
他の実施形態
ここまで、本発明が、その詳細な説明と共に説明されているが、前述される説明は例示を意図したものであり、本開示の範囲を限定するものではなく、本開示の範囲は付属の請求項の範囲によって定義されるということが理解される。他の態様、利点、および改変も、以下の請求項の範囲内である。
図1
図2A
図3A
図3B
図3C
図4A-4C】
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10