(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】湿式微粒化装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240819BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240819BHJP
H01B 13/00 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021150444
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】山田 侑矢
(72)【発明者】
【氏名】原島 謙一
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-083133(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164224(WO,A1)
【文献】特開平08-047889(JP,A)
【文献】特開2018-012063(JP,A)
【文献】特開2007-144250(JP,A)
【文献】特開2016-117003(JP,A)
【文献】特開2012-243496(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0006808(US,A1)
【文献】米国特許第05628665(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池原料を貯留する原料タンクと、
前記全固体電池原料を供給する給液ポンプと、
前記給液ポンプから供給された前記全固体電池原料を加圧する増圧機と、
前記増圧機で加圧された前記全固体電池原料をフィルタ処理する高圧フィルタと、
前記高圧フィルタでフィルタ処理された前記全固体電池原料を噴射する噴射チャンバーと、
前記全固体電池原料を処理するための空間を密閉する密閉部と、
前記密閉部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記密閉部と密閉可能な本体と、
前記本体と前記密閉部とを密閉するシール部と、
を有
し、
前記原料タンクと、前記給液ポンプと、前記増圧機と、前記高圧フィルタと、前記噴射チャンバーは、前記密閉部に配置される、
湿式微粒化装置。
【請求項2】
前記不活性ガス供給部は、
前記不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
前記不活性ガス供給源と前記密閉部を連結する第1の不活性ガス供給路と、
前記不活性ガス供給源と前記原料タンクを連結する第2の不活性ガス供給路と、
を有する、
請求項1に記載の湿式微粒化装置。
【請求項3】
前記本体は、全周に亘って第1のシール溝を有し、
前記密閉部は、全周に亘って第2のシール溝を有し、
前記シール部は、前記第1のシール溝と前記第2のシール溝に嵌合される、
請求項1または2に記載の湿式微粒化装置。
【請求項4】
前記噴射チャンバーは、前記噴射チャンバー内の少なくとも一面において、セラミック壁を有する、
請求項1~3のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【請求項5】
前記全固体電池原料は、硫化物系固体電解質材である、
請求項1~4のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【請求項6】
前記不活性ガス供給部は、前記密閉部に、窒素又はアルゴンを供給する、
請求項1~5のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【請求項7】
前記不活性ガスを循環精製するガス循環精製部を更に有する、
請求項1~6のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【請求項8】
前記ガス循環精製部は、
前記不活性ガスや前記密閉部内で発生する気体を精製する精製部と、
前記不活性ガスや前記密閉部内で発生する気体を循環させる送風部と、
を有する、
請求項
7に記載の湿式微粒化装置。
【請求項9】
前記密閉部は、
前記密閉部内の密閉環境において作業可能な作業用グローブと、
前記作業用グローブを配置する作業窓と、
前記全固体電池原料を出し入れするための取出窓と、
を有する、
請求項1~8のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【請求項10】
前記密閉部は、前記全固体電池原料を移動可能な作業用ロボットを有する、
請求項1~9のいずれかに記載の湿式微粒化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池原料を処理するための湿式微粒化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン電池等の液体電解質材を用いた電池は、正極材と負極材をセパレータで区切り、隙間に液状のバインダを介在させる。正極材は、Ni、Mn、Co、LiCoO2等である。負極材は、グラファイト等である。セパレータは、多孔質樹脂である。バインダは、高分子材料である。正極材、負極材、セパレータ、バインダ自体の改良や、電池としてのパッケージ方法の改良等が研究されている。
【0003】
近年、液体のバインダ(電解質材)に代わり、固体電解質材を用いる電池が検討されている。固体電解質材を用いる電池では、セパレータが不要となる。電気を発生させるために正極材と負極材を往来する電荷の移動の自由度を高め、電流の出力効率を向上させる取り組みがなされている。正極材、負極材、固体電解質材は、すべて固体で構成されることから、全固体電池と言われる。全固体電池に用いられる固体電解質材として、酸化物系固体電解質材と硫化物系固体電解質材が検討されている。
【0004】
また、国際公開第2018/164224号公報(以下、「特許文献1」)に記載の硫化物固体電解質粒子は、窒素雰囲気下のグローブボックス内で、ジェットミル装置(NJ-50、アイシンナノテクノロジーズ社製)を用いて微粒化する。また、処理速度を180g/時間(処理時間:10分間)とし、粉砕ガスには窒素を用い、投入ガス圧を2.0MPaとし、粉砕ガス圧を2.0MPaとする処理条件が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池は、液体電池と異なり、セパレータを有さない。そのため、正極材、負極材、固体電解質材を均一な状態にするためには、各素材および電池を構成するすべての素材を合わせた均一性を高める必要がある。
また、正極材、負極材、固体電解質材を圧着させて一体の固体状にする方法も確立していない。
【0006】
酸化物系固体電解質材は、La、Li、Ti、O等である。これらの素材は硬度が高く、一体の固体状に圧着させることが容易ではない。また、これらの素材は硬度が高いため、固体電解質材の小型化が困難である。
硫化物系固体電解質材は、Li、Ge、P、S等で構成される。これらの素材は柔らかく、均一性を維持して一体の固体状にすることが困難である。さらに、硫化物系固体電解質材は、水と反応する特性を有する。硫化物系固体電解質材が水と反応すると、硫化物由来の毒性の高い気体が発生し、作業者や電池の利用者に害を与える可能性がある。
【0007】
酸化物系固体電解質材と硫化物系固体電解質材ともに、このような課題があり、現状、固体電解質材の量産化には至っていない。特に、硫化物系固体電解質材を生成するためには、密閉性や処理完了後の操作性やメンテナンス性を確保した装置の開発が求められる。
【0008】
少なくとも、特許文献1には、硫化物系固体電解質粒子を製造する際に用いる装置概念は記載されているが、詳細な装置構成については、開示されていない。
【0009】
本発明は、密閉性や処理完了後の操作性やメンテナンス性を確保した状態で、全固体電池原料を処理する湿式微粒化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの観点は、
全固体電池原料を供給する給液ポンプと、
前記給液ポンプから供給された前記全固体電池原料を加圧する増圧機と、
前記増圧機で加圧された前記全固体電池原料をフィルタ処理する高圧フィルタと、
前記高圧フィルタでフィルタ処理された前記全固体電池原料を噴射する噴射チャンバーと、
前記全固体電池原料を処理するための空間を密閉する密閉部と、
前記密閉部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
を有する湿式微粒化装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の湿式微粒化装置によれば、密閉性や処理完了後の操作性やメンテナンス性を確保した状態で、全固体電池原料を処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】第1実施形態の湿式微粒化装置の本体および密閉部の連結部を示す斜視図
【
図5】第1実施形態の湿式微粒化装置のガス循環精製部の詳細を示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本実施形態の湿式微粒化装置1は、
図1および
図2に示すように、原料タンク2と、給液ポンプ3と、増圧機4と、高圧フィルタ5と、チャンバー6と、熱交換器7とを有する。
原料タンク2は、スラリー状の全固体電池原料Mを貯留する。給液ポンプ3は、原料タンク2の全固体電池原料Mを増圧機4に供給する。増圧機4は、給液ポンプ3から供給された全固体電池原料Mを加圧する。高圧フィルタ5は、加圧された全固体電池原料Mの粗大粒子をフィルタ処理する。チャンバー6は、全固体電池原料Mをノズル(不図示)から100~245MPaで高圧噴射することで、微粒化処理を行う。なお、微粒化処理を複数回繰り返すことによって、粒径等の物性を変化させることもできる。
【0014】
原料タンク2は、全固体電池原料Mを一時的に貯留する。原料タンク2の大きさは、試作段階、量産段階に応じて、適宜変更してもよい。また、原料タンク2の素材は、全固体電池原料Mおよび使用する溶媒に応じて、ステンレス等の金属等を適宜選択する。
【0015】
全固体電池原料Mとしては、例えば、酸化物系固体電解質材や硫化物系固体電解質材が想定できる。酸化物系固体電解質材は、La、Li、Ti、O等である。硫化物系固体電解質材は、Li、Ge、P、S等で構成される。
溶媒としては、酸化物系固体電解質材であれば、素材を酸化させない組合せを選択し、さらに、硫化物系固体電解質材であれば、硫化水素を発生させない組合せを選択しなければならない。
【0016】
原料タンク2において、全固体電池原料Mと溶媒を混ぜた状態で貯留されるため、溶媒等によって物性を変化させない場合は気にする必要はないが、溶媒等によって物性を変化させる場合は、原料タンク2内で10分、30分、1時間等、適切な化学処理が行われる時間の経過を待って、微粒化処理することもできる。
なお、明細書中においては、酸化物系固体電解質材や硫化物系固体電解質材等を例示しているが、全固体電池原料Mであれば、どのようなものでも構わないことは言うまでもない。
【0017】
給液ポンプ3は、全固体電池原料Mを湿式微粒化装置1の流路を適切に通過または循環させるために、全固体電池原料Mを供給する。給液ポンプ3は、全固体電池原料Mを供給できる程度の動力が得られればよい。給液ポンプ3は、市販の給液ポンプ等でもよい。
【0018】
増圧機4は、全固体電池原料Mを加圧する。油圧ポンプ(不図示)または電動モータ(不図示)で増圧機4のピストンを移動させることで、加圧室で全固体電池原料Mが加圧される。加圧圧力は、例えば、100~245MPaで適宜変更できる。
図1においては、増圧機4を2つ配置しているが、全固体電池原料Mの容量や加圧が必要な圧力や流量に応じて、増圧機4の個数を変更することもできる。
【0019】
高圧フィルタ5は、全固体電池原料Mに含まれるコンタミや、処理できない大きさの粒度のものをフィルタリングする。全固体電池原料Mの粒度等に応じて、高圧フィルタ5の通過径や網構造等を適宜変更できる。
【0020】
チャンバー6は、全固体電池原料Mを高圧噴射することで、微粒化処理を行う。チャンバー6は、例えば、チャンバー6は、1つのノズル6aからボールに向けて全固体電池原料Mを衝突させることで微粒化する方式である。また、2つ以上のノズル6aから全固体電池原料M同士を衝突させることで微粒化する方式でもよい。チャンバー6のノズルの個数、形状、角度等は、適宜変更できる。
【0021】
熱交換器7は、微粒化処理を行った全固体電池原料M(全固体電池材料E)の温度を調整することで、原料特性を維持する。熱交換器7は、湿式微粒化装置1の流路の外部から冷却等する構造を有する。
【0022】
全固体電池原料Mを処理するための湿式微粒化装置1には、通常の原料を処理する場合よりも高い密閉性が求められる。例えば、酸化物系固体電解質材等を処理する場合等、全固体電池原料Mを酸化させないように、密閉性が求められる。さらに、硫化物系固体電解質材等を処理する場合等、固体電池原料Mが湿気または水分と反応することで毒性の高い気体が発生したとしても外部に放出しないように、密閉性が求められる。また、硫化物系固体電解質材等を処理する場合等、内部の気体管理が必要なケースもある。そのため、湿式微粒化装置1には、密閉性を確保しながら、内部の気体を循環させる構造が求められる。
【0023】
本実施形態の湿式微粒化装置1は、
図2に示すように、本体1aと、密閉部1bとを有する。密閉部1bは、本体1aの上部に連結される。これにより、湿式微粒化装置1の密閉性が確保される。原料タンク2と、給液ポンプ3と、増圧機4と、高圧フィルタ5と、チャンバー6は、密閉部1bに配置される。
また、湿式微粒化装置1は、不活性ガス供給部8と、ガス循環精製部9とを有する。不活性ガス供給部8は、密閉部1bに不活性ガスFを供給する。ガス循環精製部9は、不活性ガスFを循環させる。
【0024】
本体1aは、箱状の土台である。本体1aは、給液ポンプ3や増圧機4を駆動する駆動源(各種ポンプ)や配管等を収納する。密閉性を確保するため、本体1aは、直方体または立方体の上面以外の全面を覆う形状を有する。本体1aは、外部との通気を行う通気口等を有する。
【0025】
密閉部1bは、箱状のケーシングである。密閉部1bは、原料タンク2と、給液ポンプ3と、増圧機4と、高圧フィルタ5と、チャンバー6を密閉する。密閉性を確保するため、密閉部1bは、直方体または立方体の下面以外の全面を覆う形状を有する。密閉部1bは、外部との通気を行う通気口等を有する。
【0026】
微粒化処理を行う場合、本体1aと密閉部1bを密閉する。密閉部1bは、
図2および
図3に示すように、作業窓1cと、取出窓1dとを有する。作業窓1cは、ゴムやナイロン等の遮蔽性の高い素材で全面が形成される。作業窓1cは、密閉部1bの内部と外部を遮断する。作業者は、作業用グローブ1eを介して、作業窓1cから密閉部1bに手を出し入れできる。なお、
図3においては、作業用グローブ1eや作業窓1cを1セットずつ表示しているが、作業用グローブ1eや作業窓1cの個数や配置等は、本体1aや密閉部1bの状況に応じて、適宜増加することもできる。
【0027】
湿式微粒化装置1は、操作部16を有する。操作部16は、給液ポンプ3や増圧機4等を駆動する駆動源を操作する。操作部16に配置されるボタンやつまみを調整することによって、給液ポンプ3や増圧機4等の圧力、速度、回数等の設定を変更する。
操作部16は、不活性ガスFの環境下でも利用できる。しかし、万が一、硫化物系の全固体電池原料Mから硫化水素が発生すると、操作部16の電子部品が劣化したり損傷したりする可能性がある。そのため、操作部16の少なくとも1面以上は、密閉部1bの外に配置されることが望ましい。
【0028】
取出窓1dは、密閉部1bの内部と外部を遮断する。微粒化処理する全固体電池原料Mおよび全固体電池材料Eは、取出窓1dから取り入れ/取り出しを行う。取出窓1dは、箱状の空間である。取出窓1dは、密閉部1bの内部又は外部に形成される。
【0029】
図4に示すように、本体1aは、第1のシール溝18aを有する。第1のシール溝18aは、本体1aの上面の周縁部に形成される。第1のシール溝18aは、本体1aの周縁部の全周に形成される。密閉部1bは、第2のシール溝18bを有する。第2のシール溝18bは、密閉部1bの下面の周縁部に形成される。第2のシール溝18bは、密閉部1bの周縁部の全周に形成される。
第1のシール溝18aと第2のシール溝18bにシール部17を密着させて、本体1aと密閉部1bが固定される。シール部17は、ゴムやパッキン等である。シール部17の直径は、第1のシール溝18aと第2のシール溝18bの溝深さの合計と一致することが好ましい。これによって、密閉部1bの密閉性が確保される。なお、シール部17として、単層構造で密閉効果が弱い場合には、複層構造や別の部材を重畳的に配置することで密閉効果を向上させることができることは言うまでもない。
【0030】
また、本体1aは、固定部19を有する。固定部19は、密閉部1bと本体1aが連結した状態で、密閉部1bと本体1aを固定する。固定部19は、2つ以上の部材を固定できるものであればよい。固定部19は、例えば、各種クランプ部品である。
【0031】
また、本明細書中においては、
図2~
図6に示すように、本体1aの上面の全体を広く覆うように密閉部1bで連結および固定する形態で説明したが、原料タンク2と、給液ポンプ3と、増圧機4と、高圧フィルタ5と、チャンバー6と、各種配管(不図示)といった全固体電池原料Mの供給や処理を行う箇所の要部または一部を覆う形態でもよい。
【0032】
不活性ガス供給部8は、密閉部1bに不活性ガスFを供給する不活性ガス供給源8aを有する。不活性ガスFは、例えば、窒素やアルゴンである。密閉部1bに不活性ガスFを充満させることによって、万が一、全固体電池原料M(硫化物系固体電解質材)が水と反応し、硫化物由来の毒性の高い気体が発生しても、気体の活性化を防止できる。
【0033】
不活性ガス供給部8は、第1の不活性ガス供給路8bと、第2の不活性ガス供給路8cを有してもよい。第1の不活性ガス供給路8bは、密閉部1bに不活性ガスFを供給する。第2の不活性ガス供給路8cは、原料タンク2に不活性ガスFを供給する。
第2の不活性ガス供給路8cは、原料タンク2に投入する全固体電池原料Mに残存している溶存酸素を除去する。これにより、全固体電池原料Mおよび全固体電池材料Eの酸化を防止する。
また、
図5に示すように、原料タンク2には、撹拌棒2aを配置してもよい。撹拌棒2aによって全固体電池原料Mを撹拌することによって、全固体電池原料Mの酸化を防止できる。
【0034】
ガス循環精製部9は、密閉部1bの気体の安全性を確保する。特に、硫化物系電解質材料等を微粒化処理する場合に、毒性の高いガス等が発生したとしても、ガス循環精製部9が、毒性の高いガスを吸引し、毒性を下げる処理を行う。ガス循環精製部9は、本体1aの外部又は内部に配置される。
【0035】
ガス循環精製部9は、
図5に示すように、精製部10と、送風部13とを有する。精製部10は、毒性の高いガス等が発生した場合に、毒性を下げる処理を行う。精製部10は、酸素吸着部11と、水分吸着部12とを有する。送風部13は、密閉部1bに不活性ガスFが適切に循環するように、送風する。
【0036】
密閉部1bの内部には、不活性ガスFが充満する。酸素吸着部11や水分吸着部12は、触媒や多孔質体を有する。毒性の高いガス等が発生した場合、酸素吸着部11および水分吸着部12の触媒や多孔質体が、不活性ガスFとともに毒性の高いガス等を吸着または置換する。これによって、ガス循環精製部9は、密閉部1bの内部の毒性を低くする。
【0037】
具体的には、硫化水素は、空間内における硫化水素濃度が10ppmを越えると目の粘膜を刺激し、人体に害を与える。そのため、硫化水素濃度が10ppmを越えないように、継続的に換気することが好ましい。不活性ガス供給部8およびガス循環精製部9が、密閉部1b内の硫化水素濃度を10ppm以下とすることによって、作業者の安全性を確保できる。
【0038】
密閉状態となる密閉部1bの内部の状況は、外部から管理できない。内部の各種数値を適切に取得するため、センサ等を適宜、密閉部1bの内部に配置することが好ましい。特に、ガス循環精製部9を適切に稼働させるため、密閉部1bの酸素や水分の濃度を適切に管理することが好ましい。そのため、密閉部1bには、酸素濃度計14や水分濃度計15が配置されることが好ましい。これにより、密閉部1bの密閉性および安全性が管理される。
【0039】
また、全固体電池原料Mは、安全性を確保したうえで処理する必要があるため、湿式微粒化装置1内における不純物であるコンタミを最小限に抑えることによって、全固体電池材料Eの品質向上や一層高い安全性を確保することができる。具体的には、コンタミの種類にもよるが、コンタミが金属等であった場合、コンタミを含めた全固体電池原料Mが湿式微粒化装置1内を通過する際に高圧、高温下となり、コンタミが分離して拡散してしまうことや黒色化することがある。そのまま放置すると、全固体電池材料Eの能力に悪影響を与えてしまう可能性がある。そうしたコンタミレスを考慮した場合におけるチャンバー6の別の実施形態として、
図7に示すように、チャンバー6は、ノズル6aと、衝突体(ボール)6bと、加圧室6cと、セラミック壁6dを有する。
【0040】
ノズル6aは、増圧機4で加圧された全固体電池原料Mをチャンバー6内に取り入れる箇所であり、流路が縮径されることで衝突エネルギーを高める。衝突体(ボール)6bは、衝突エネルギーが高まった全固体電池原料Mを衝突させることで微細化するための箇所であり、全固体電池原料Mの衝突によって、加圧室6c内を回転することでかき乱すことで、流れを形成する。加圧室6cは、チャンバー6の内部空間であり、全固体電池原料Mが処理される箇所である。セラミック壁6dは、加圧室6cの表面に配置する壁である。
【0041】
チャンバー6の内部空間における全固体電池原料Mの接触面積を小さくするために、
図7に示すように、ノズル6aの先端に溝部を形成し、セラミック壁6dの一面を係合させることも有効である。全固体電池原料Mの接触面積やコンタミレス効果を得られればよく、セラミック壁6dをチャンバー6または加圧室6cの全面に対して配置する形態だけでなく、セラミック壁6dをチャンバー6または加圧室6cの少なくとも一面において配置する形態であってもよい。
【0042】
コンタミレスの効果を得るためには、全固体電池原料Mが衝突する箇所の耐摩耗性や溶媒による表面の剥がれ等を抑える必要があり、衝突体(ボール)6bをジルコニア等のセラミック材料で構成することや、加圧室6c内の表面にセラミック壁6dを配置または形成することが有効である。
【0043】
全固体電池原料Mが衝突する箇所の耐摩耗性や溶媒による表面の剥がれ等を抑えることができることを確認するために、
図7に示すチャンバー6を用いた湿式微粒化装置1に、全固体電池原料Mを含むスラリーを投入し、200MPaで高圧噴射させる処理を50回(パス)実施した。結果、全固体電池原料Mおよび全固体電池材料Eの変色等は見受けられなかった。
【0044】
なお、本明細書中においては、チャンバー6におけるコンタミレスを中心に説明したが、湿式微粒化装置1の各構成要素のそれぞれに対しても、セラミック素材やセラミックコーティングを施すことによって、耐摩耗性等を強化することができることは言うまでもない。
【0045】
以下、本実施形態の湿式微粒化装置1の処理手順を説明する。
まず、ガス循環精製部9を稼働させることで、密閉部1bに不活性ガスFを充満させる。酸素濃度計14や水分濃度計15の取得値が適正なものか、適宜確認する。
【0046】
次に、全固体電池原料Mを入れた容器を、一時的に取出窓1dに取り入れる。その後、作業者は、作業用グローブ1eを用いて、作業窓1cに手を入れて、取出窓1dに配置された全固体電池原料Mを入れた容器を取り入れる。作業者は、原料タンク2に全固体電池原料Mを投入し、調整する。
【0047】
次に、給液ポンプ3は、原料タンク2の全固体電池原料Mを、増圧機4の増圧室に供給する。供給された全固体電池原料Mは、増圧機4によって加圧される。加圧された全固体電池原料Mは、高圧フィルタ5を通った後、チャンバー6に供給され、噴射される。なお、この処理は1回だけでなく、複数回繰り返してもよい。
【0048】
全固体電池原料Mから毒性の高いガス等が生じた場合、ガス循環精製部9の精製部10において、酸素吸着部11および水分吸着部12の触媒や多孔質体が、不活性ガスFとともに毒性の高いガスを置換する。
【0049】
微粒化処理が完了した場合、原料タンク2に貯留する全固体電池材料Eを容器に入れ、密閉部1bの内側から取出窓1dに配置する。そして、取出窓1dを介して、全固体電池材料Eの容器を密閉部1bの外側に取り出す。
【0050】
なお、気体は目に見えないため、微粒化処理および全固体電池材料Eの取り出しが完了した後、メンテナンスを施すことが好ましい。メンテナンスは、例えば、湿式微粒化装置1を水、洗浄または滅菌用の溶媒等の各種液体での洗浄、ガス循環精製部9によるガスの循環、吸引装置(不図示)による内部のガスの吸引である。
【0051】
この処理手順を用い、密閉部1bに不活性ガスFを充満した状態で、
図1に示す湿式微粒化装置1に、全固体電池原料M(硫化物系固体電解質材、酸化物系固体電解質材)を含むスラリーを50ml投入し、200MPaで高圧噴射させる処理を10回(パス)実施した。結果、全固体電池原料M(硫化物系固体電解質材、酸化物系固体電解質材)および全固体電池材料Eの粒径が1μm以下に微粒化した。
また、硫化物系固体電解質材の処理における硫化水素の漏れや、酸化物系固体電解質材の酸化等も見受けられなかった。
【0052】
<第2実施形態>
第1実施形態の湿式微粒化装置1は、作業者が作業用グローブ1eを用いて、作業窓1cから手動で作業を行うものである。
しかし、硫化物系の全固体電池原料Mを精製する際の危険性や量産体制の整備を考慮した場合、自働化によって、作業効率を向上させることがこのましい。本実施形態の湿式微粒化装置1は、
図6に示すように、作業ロボットRを有する。本実施形態のその他の基本的な構成は、第1実施形態の湿式微粒化装置1と同様である。
【0053】
作業ロボットRは、取出窓1dと原料タンク2の間に配置される。作業ロボットRの前後左右の移動によって、全固体電池原料Mを容器から原料タンク2内に投入する。
作業ロボットRは、容器を着脱保持する工具を先端に有する。また、作業ロボットRは、モータ等の駆動源によって前後左右に移動する。
作業ロボットRは、多関節ロボットに限らず、一軸上を前後または左右にスライド移動する簡易な移動機構でもよい。
【0054】
<第3実施形態>
全固体電池原料Mは、安全性を確保したうえで処理する必要がある。湿式微粒化装置1内における不純物であるコンタミを最小限に抑えることによって、全固体電池材料Eの品質向上や一層高い安全性を確保できる。
図7は、コンタミレスを考慮した第3実施形態のチャンバー6を示す。本実施形態のチャンバー6は、ノズル6aと、衝突体(ボール)6bと、加圧室6cと、セラミック壁6dを有する。
【0055】
ノズル6aは、増圧機4で加圧された全固体電池原料Mをチャンバー6内に取り入れる。ノズル6aにおいて、流路が縮径されることで、衝突エネルギーが高まる。衝突エネルギーが高まった全固体電池原料Mを衝突体6bに衝突させる。これにより、全固体電池原料Mを微細化する。全固体電池原料Mの衝突によって、衝突体6bが加圧室6c内を回転してかき乱すことで、流れを形成する。加圧室6cは、チャンバー6の内部空間であり、全固体電池原料Mが処理される。セラミック壁6dは、加圧室6cの表面に配置される。
【0056】
全固体電池原料Mが衝突する箇所の耐摩耗性や溶媒による表面の剥がれ等を抑えることにより、コンタミを低減できる。そのため、衝突体6bをセラミック材料で構成することや、加圧室6c内の表面にセラミック壁6dを配置または形成することが好ましい。
【0057】
なお、本明細書中においては、チャンバー6におけるコンタミレスを中心に説明したが、湿式微粒化装置1の各構成要素のそれぞれに対しても、セラミック素材やセラミックコーティングを施すことによって、耐摩耗性等を強化できることは言うまでもない。
【0058】
以上、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
1 湿式微粒化装置
1a 本体
1b 密閉部
1c 作業窓
1d 取出窓
1e 作業用グローブ
2 原料タンク
2a 撹拌棒
3 給液ポンプ
4 増圧機
5 高圧フィルタ
6 チャンバー
7 熱交換器
8 不活性ガス供給部
8a 不活性ガス供給源
8b 第1の不活性ガス供給路
8c 第2の不活性ガス供給路
9 ガス循環精製部
10 精製部
11 酸素吸着部
12 水分吸着部
13 送風部
14 酸素濃度計
15 水分濃度計
16 操作部
17 シール部
18a 第1のシール溝
18b 第2のシール溝
19 固定部
M 全固体電池原料
E 全固体電池材料
F 不活性ガス