(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】自己架橋PVDF
(51)【国際特許分類】
C08F 214/22 20060101AFI20240819BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20240819BHJP
C08F 220/04 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F220/26
C08F220/04
(21)【出願番号】P 2021506278
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2019071215
(87)【国際公開番号】W WO2020030690
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-07
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ブルソー, セゴレーヌ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525124(JP,A)
【文献】特開2005-310747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/22
C08F 220/26
C08F 220/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性フルオロポリマー[ポリマー(F)]と、少なくとも1つの酸性架橋触媒とを含む組成物(C)であって、
架橋性フルオロポリマー[ポリマー(F)]が、
-(i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位と、
-(ii)少なくとも0.1モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位と、
-(iii)少なくとも0.1モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、を含
み、
前記ポリマー(F)におけるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して、多くとも10.0モル%であり、
少なくとも40%の割合のモノマー(HA)及び少なくとも40%の割合のモノマー(CA)は、前記ポリマー(F)にランダムに分布している、
組成物(C)。
【請求項2】
ヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)は、式(I):
(式中、
R
1、R
2及びR
3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、R
OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含み、鎖内に1つ以上の酸素原子、カルボニル基、又はカルボキシ基を場合により含むC
2~C
10炭化水素鎖部位である)の化合物である、請求項1に記載の
組成物(C)。
【請求項3】
モノマー(HA)は、式(Ia):
(式中、
R
1、R
2及びR
3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、R’
OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部位である)の化合物である、請求項2に記載の
組成物(C)。
【請求項4】
式(Ia)のモノマー(HA)は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の
組成物(C)。
【請求項5】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は、式(II):
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、R
Hは、少なくとも1つのカルボキシル基を含むC
1~C
10炭化水素鎖部位である)の化合物である、請求項1に記載の
組成物(C)。
【請求項6】
モノマー(CA)は、式(IIa):
(式中、
R
1、R
2及びR
3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、R’
Hは、水素、又は少なくとも1つのカルボキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部位である)の化合物である、請求項5に記載の
組成物(C)。
【請求項7】
式(IIa)のモノマー(CA)は、アクリル酸(AA)、(メタ)アクリル酸及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の
組成物(C)。
【請求項8】
ポリマー(F)におけるモノマー(HA)とモノマー(CA)の間のモル比は、20:1~1:20の範囲に含まれる、請求項1~7のいずれか一項に記載の
組成物(C)。
【請求項9】
VDFと異なる1つ以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の
組成物(C)。
【請求項10】
-少なくとも70モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と、
-0.1モル%~3.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)と、
-0.1モル%~3.0モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)と、
-任意選択で、0.5~3.0モル%の少なくとも1つのフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の
組成物(C)。
【請求項11】
25℃でジメチルホルムアミドにて測定される、ポリマー(F)の固有粘度は、0.80l/gより低い、請求項1~10のいずれか一項に記載の
組成物(C)。
【請求項12】
酸性架橋触媒は、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第一スズ、三塩化アンチモン、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジプロピルエーテル錯体、及び三酸化アンチモンからなる群から選択されるルイス酸である、請求項
1~11のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載
の組成物(C)を130℃~250℃の温度で熱処理する工程を含む、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を調製するためのプロセス。
【請求項14】
請求項
13に記載の架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む成形された物品。
【請求項15】
(a)請求項1~
12のいずれか一項に記載
の組成物(C)を成形された物品に処理する工程と、
(b)工程(a)でもたらされた成形された物品を、130℃~250℃の温度で熱処理する工程と、
を含む、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む成形された物品を作製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月9日出願の欧州特許出願公開第18306091.2号の優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、改善された性能を特徴とする成形された物品を作製するのに有用な親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含む架橋性フッ化ビニリデンコポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)は、押出成形、射出成形、繊維紡糸、押出ブロー成形、及びインフレーションフィルムなどの多くの様々なプロセスによってポリマー構造に形成される溶融加工可能な樹脂である。
【0004】
又、PVDFは、フィルム、コーティング、及び繊維などの物品の製造のために、PVDF粉末をアセトン又はNMPなどの有機溶媒に溶解することによって調製された溶液の形態で使用される。
【0005】
PVDFの分子量を増加させると、特に機械的特性の点で、これらの材料から作製された物品の性能が向上することが知られている。
【0006】
しかしながら、高分子量のPVDFは、溶融加工が困難又は更には不可能である。
【0007】
又、高分子量のPVDFは、有機溶媒に適切に溶解することが困難である。特に、分子量が高いほど、溶液の調製に時間がかかる。
【0008】
従って、当技術分野で知られているプロセスによって前述の高分子量PVDFを成形することは困難又は不可能である。
【0009】
PVDF樹脂の分子量は、架橋によって増加させることができる。
【0010】
架橋の手法は、通常、架橋促進剤をフルオロポリマーとブレンドし、続いて熱処理又は電離放射線で処理して架橋を与えることを伴う。
【0011】
米国特許第5003008号明細書では、ポリフッ化ビニリデン樹脂をオルガノシランと配合する工程と、前述のオルガノシラン化合物をポリフッ化ビニリデン樹脂の分子にグラフトする工程と、樹脂化合物を成形して物品の形態に形成する工程と、水及びそれに接触するシラノール縮合触媒の存在下でこのように成形された物品を加熱する工程と、を含む架橋されたポリフッ化ビニリデン樹脂の成形された物品の調製方法を開示している。
【0012】
別の手法では、ペンダント官能基を含むフッ素化コポリマーは、架橋促進剤の存在下で熱的に架橋することができる。例として、欧州特許第0969023号明細書では、ポリアミドなどの架橋促進剤の存在下で熱的に架橋され得る官能化フルオロポリマーを開示しており、この場合、前述のフルオロポリマーの官能基は、エステル、アルコール及び酸を含む。
【0013】
米国特許出願公開第2006/0148912号明細書では、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、エステル基、アミド基及び酸無水物基から選択される親水性基の少なくとも1つの種を骨格に組み込んだフッ化ビニリデンコポリマーを開示しており、これは、可塑剤、及び多孔質膜の製造に有用な組成物を調製するための良好な溶媒と混合される。次いで、前述の組成物の押出によって得られたフィルムは、その中で得られた多孔質膜の改善された加工性を提供する目的で、その結晶化度を高めるために熱処理される。熱処理後、フィルムは可塑剤を除去し多孔質膜を提供するために抽出プロセスにかけられる。
【発明の概要】
【0014】
架橋を受けることができる特定のモノマーをフッ化ビニリデン骨格にランダムに組み込むことにより、成形され続いて熱的に架橋することができる架橋性フッ化ビニリデンコポリマーを提供することが見出された。これから得られた成形された物品は、添加剤又は架橋促進剤の非存在下で架橋された場合でさえ、改善された性能を示す。
【0015】
従って、本発明の目的は、
-(i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位と、
-(ii)少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位と、
-(iii)少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、を含む架橋性フルオロポリマー[ポリマー(F)]であり、
この場合、前述のポリマー(F)におけるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して、多くとも10.0モル%、好ましくは多くとも5.0モル%、より好ましくは多くとも1.5モル%であり、
モノマー(HA)の少なくとも40%の割合及びモノマー(CA)の少なくとも40%の割合が、前述のポリマー(F)にランダムに分布している。
【0016】
本発明の第2の目的は、上記で定義された架橋性ポリマー(F)と、少なくとも1つの酸性架橋触媒とを含む組成物(C)に関する。
【0017】
本発明の第3の目的は、ポリマー(F)又は組成物(C)を130℃~250℃の温度で熱処理する工程を含む、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を調製するためのプロセスに関する。
【0018】
更に、本発明は、上記で定義されたように得られた架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む物品に関する。
【0019】
又、本発明は、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む物品を作製するための方法に関し、この方法は、
(a)上記で定義されたポリマー(F)又は組成物(C)を成形された物品に処理する工程と、
(b)工程(a)でもたらされた成形された物品を、130℃~250℃の温度で熱処理する工程と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(一般的に二フッ化ビニリデン1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)という用語は、式CF2=CH2の繰り返し単位を示すことを意図する。
【0021】
適切なヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)は、式(I):
(式中、
R1、R2及びR3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、及びC1~C3炭化水素基から独立して選択され、ROHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含み、鎖内に1つ以上の酸素原子、カルボニル基、又はカルボキシ基を場合により含むC2~C10炭化水素鎖部位である)の化合物である。
【0022】
好ましい実施形態では、モノマー(HA)は、式(Ia):
(式中、
R1、R2及びR3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC1~C3炭化水素基から独立して選択され、R’OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC1~C5炭化水素部位である)の化合物である。
【0023】
式(Ia)のモノマー(HA)の非限定的な例には、特に、
-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
-2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
-ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びこれらの混合物が含まれる。
【0024】
好ましくは、少なくとも1つのモノマー(HA)は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)である。
【0025】
適切なカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は、式(II):
(式中、
R1、R2、及びR3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC1~C3炭化水素基から独立して選択され、RHは、少なくとも1つのカルボキシル基を含むC1~C10炭化水素鎖部位である)の化合物である。
【0026】
好ましい実施形態では、モノマー(CA)は、式(IIa):
(式中、
R1、R2及びR3は、互いに等しく又は異なり、水素原子、及びC1~C3炭化水素基から独立して選択され、R’Hは、水素、又は少なくとも1つのカルボキシル基を含むC1~C5炭化水素部位である)の化合物である。
【0027】
式(IIa)のモノマー(CA)の非限定的な例には、特に、
-アクリル酸(AA)及び
-(メタ)アクリル酸、及び
これらの混合物が含まれる。
【0028】
好ましくは、少なくとも1つのモノマー(CA)は、アクリル酸(AA)である。
【0029】
ポリマー(F)における繰り返し単位(ii)と繰り返し単位(iii)の間のモル比は、好ましくは20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは1:2~2:1の範囲に含まれ、更により好ましくは、モル比は1:1である。
【0030】
ポリマー(F)において、少なくとも40%のモノマー(HA)の割合及び少なくとも40%のモノマー(CA)の割合が、前述のポリマー(F)にランダムに分布していることが不可欠である。
【0031】
「ランダムに分布したモノマー(HA)の割合」という表現は、以下の式による、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位の間に含まれている(HA)モノマー配列の平均数(%)と、(MA)モノマー繰り返し単位の総平均数(%)の間のパーセント比を示すことを意図する:
【0032】
(HA)繰り返し単位のそれぞれが分離されている場合、即ち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれている場合、(HA)配列の平均数は、(HA)繰り返し単位の平均総数に等しいため、ランダムに分布した単位(HA)の割合は100%であり、この値は、(HA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。
【0033】
従って、上記のように、(HA)単位の総数に対して分離した(HA)単位の数が大きいほど、ランダムに分布した単位(HA)の割合のパーセント値が高くなる。
【0034】
「ランダムに分布したモノマー(CA)の割合」という表現は、以下の式による、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位に含まれている(CA)モノマー配列の平均数(%)と、(CA)モノマー繰り返し単位の総平均数(%)の間のパーセント比を示すことを意図する:
【0035】
(CA)繰り返し単位のそれぞれが分離されている場合、即ちVDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれている場合、(CA)配列の平均数は、(CA)繰り返し単位の平均総数に等しいため、ランダムに分布した単位(HA)の割合は100%である:この値は、(CA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。従って、上記のように、(CA)単位の総平均数に対して分離した(CA)単位の数が大きいほど、ランダムに分布した単位(CA)の割合のパーセント値が高くなる。
【0036】
ポリマー(F)中の(HA)モノマー繰り返し単位及び(CA)モノマー繰り返し単位の総数の決定は、任意の適切な方法によって実施することができ、NMRが好ましい。
【0037】
ランダムに分布した単位(HA)及び(CA)の割合は、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%である。
【0038】
ポリマー(F)は、好ましくは少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の前述のモノマー(HA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0039】
ポリマー(F)は、好ましくは多くとも7.0%、より好ましくは多くとも5.0モル%、更により好ましくは多くとも3.0モル%のモノマー(HA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0040】
ポリマー(F)は、好ましくは少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の前述のモノマー(CA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0041】
ポリマー(F)は、好ましくは多くとも7.0%、より好ましくは多くとも5.0モル%、更により好ましくは多くとも3.0モル%のモノマー(CA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0042】
少なくとも70モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含むポリマー(F)を使用して、優れた結果が得られている。
【0043】
ポリマー(F)は、エラストマー又は半結晶性ポリマーであり得、好ましくは半結晶性ポリマーである。
【0044】
本明細書で用いるところでは、「半結晶性」という用語は、DSC分析でガラス転移温度Tgに加えて、少なくとも1つの結晶融点を有するフルオロポリマーを意味する。本発明の目的のために、半結晶性フルオロポリマーは、ASTM D3418-08に従って測定されるように、10~90J/g、好ましくは30~80J/g、より好ましくは35~75J/gの融解熱を有するフルオロポリマーを意味することを本明細書では意図する。
【0045】
本発明の目的のために、「エラストマー」という用語は、真のエラストマー、又は真のエラストマーを得るための基礎成分として役立つポリマー樹脂を示すことを意図する。
【0046】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、第184規格により、室温でその固有長さの2倍に伸長でき、それらを5分間張力下に保持した後、解放すると、同時にその初期長さの10%以内に戻る材料として定義されている。
【0047】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミドにて測定される、ポリマー(F)の固有粘度は、0.80l/gより低く、好ましくは0.50l/gより低く、より好ましくは0.20l/gより低い。
【0048】
本発明のポリマー(F)は、通常、130~200℃の範囲に含まれる融解温度(Tm)を有する。
【0049】
融解温度は、示差走査熱量測定(以下、DSCとも呼ばれる)によって得られたDSC曲線から決定することができる。DSC曲線が複数の融解ピーク(吸熱ピーク)を示す場合、融解温度(Tm)は、最大のピーク面積を有するピークに基づいて決定される。
【0050】
一般的に、プロセス発明の熱処理工程は、物品を包む空気又は不活性ガスを含み得るオーブン内で実施される。
【0051】
ポリマー(F)は、VDFと異なる1つ以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含み得る。
【0052】
「フッ素化コモノマー(CF)」という用語は、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することを本明細書では意図する。
【0053】
適切なフッ素化コモノマー(CF)の非限定的な例には、特に以下が含まれる:
(a)C2~C8フルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレン、
(b)C2~C8水素化モノフルオロオレフィン、例えば、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン、
(c)式CH2=CH-Rf0(式中、Rf0は、C1~C6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン、
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C2~C6フルオロオレフィン。
【0054】
フッ素化コモノマー(CF)は、好ましくはHFPである。
【0055】
1つの好ましい実施形態では、ポリマー(F)は、半結晶性であり、0.1~10.0モル%、好ましくは0.3~5.0モル%、より好ましくは0.5~3.0モル%の前述のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を含む。
【0056】
鎖末端、欠陥又は他の不純物タイプの部位がポリマー(F)中に含まれる場合があるが、これらはその特性を損なわないということを理解されたい。
【0057】
ポリマー(F)は、より好ましくは、
-少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と、
-0.1%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)と、
-0.1%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、
-任意選択で、0.5~3.0モル%の少なくとも1つのフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、を含む。
【0058】
ポリマー(F)は、例えば、国際公開第2008129041号パンフレットに記載されている手順に従って有機媒体に懸濁した状態で、又は、典型的には当技術分野(例えば、米国特許第4,016,345号明細書、米国特許第4,725,644号明細書及び米国特許第6,479,591号明細書を参照されたい)に記載されているように実施される水性エマルジョンにおいて、VDFモノマー、少なくとも1つのモノマー(HA)、少なくとも1つのモノマー(CA)、及び任意選択で少なくとも1つのコモノマー(CF)を、重合することによって得ることができる。
【0059】
ポリマー(F)を調製するための手順は、ラジカル開始剤の存在下で水性媒体にて、ポリフッ化ビニリデン(VDF)モノマー、モノマー(HA)及びモノマー(CA)、並びに任意選択でコモノマー(CF)を反応容器にて重合することを含み、前述のプロセスは、
-モノマー(HA)とモノマー(CA)とを含む水溶液を連続的に供給する工程と、
-フッ化ビニリデンの臨界圧力を超えて前述の反応容器中の圧力を維持する工程と、を含む。
【0060】
重合の全実行中、圧力は、フッ化ビニリデンの臨界圧力を超えて維持される。一般的に、圧力は、50バール超、好ましくは75バール超、更により好ましくは100バール超の値に維持される。
【0061】
モノマー(HA)及びモノマー(CA)を含む水溶液の連続供給は、重合実行の全期間中に実行されることが不可欠である。
【0062】
従って、ポリマー(F)のVDFモノマーポリマー骨格内のモノマー(HA)及びモノマー(CA)の両方のほぼ統計的な分布を得ることが可能である。
【0063】
「連続供給」又は「連続的供給」という表現は、重合が完了するまで、モノマー(HA)及びモノマー(CA)の水溶液がゆっくりと少量で徐々に増加して添加されることを意味する。
【0064】
重合中に連続的に供給されるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の水溶液は、反応中に供給されるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量の少なくとも50重量%となる(即ち、初期投入及び連続供給)。好ましくは、モノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量の少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%が、重合中に連続的に供給される。この要件が必須ではない場合でも、VDFモノマーを徐々に増加して添加することは、重合中に行うことができる。一般的に、本発明のプロセスは、少なくとも35℃、好ましくは少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも45℃の温度で実施される。
【0065】
重合が懸濁状態で行われる場合、ポリマー(F)は、典型的には粉末の形態でもたらされる。
【0066】
ポリマー(F)を得るための重合が乳化状態で行われる場合、ポリマー(F)は、典型的には水性分散液(D)の形態でもたらされ、乳化重合によって直接得られるように、又は濃縮工程の後に使用され得る。好ましくは、分散液(D)中のポリマー(F)の固形分は、20~50重量%の範囲にある。
【0067】
乳化重合によって得られたポリマー(F)は、分散液の濃縮及び/又は凝固によって水性分散液(D)から単離されることができ、その後の乾燥によって粉末形態で得られることができる。
【0068】
粉末の形態のポリマー(F)を任意選択で更に押出して、ペレットの形態のポリマー(F)を得ることができる。
【0069】
押出は、押出機で適切に実施される。押出の持続時間は、適切には数秒から3分の範囲である。
【0070】
ポリマー(F)を任意の適切な有機溶媒に溶解して、ポリマー(F)の溶液(S)を得ることができる。好ましくは、溶液(S)中のポリマー(F)の固形分は、2~30重量%の範囲にある。
【0071】
ポリマー(F)を溶解するのに適した有機溶媒の非限定的な例は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、及びリン酸トリメチル、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、脂環式エステルである。これらの有機溶媒は、単独で使用されても2つ以上の混合物で使用されてもよい。
【0072】
ポリマー(F)は、熱処理及び架橋に曝される前に物品に成形することができる。
【0073】
架橋は熱的に起こることから、架橋プロセスは、成形された物品へのポリマー(F)の製造と調整して行うことができる。
【0074】
ポリマー(F)は、熱的に加熱されて、そのままで又は酸性架橋触媒と組み合わせて架橋を受けることができる。
【0075】
従って、本発明の更なる目的は、上記で定義された架橋性ポリマー(F)と、少なくとも1つの酸性架橋触媒とを含む組成物(C)である。
【0076】
適切な酸性架橋触媒には、例えば、ルイス酸、強度の鉱酸、例えば、硫酸、リン酸、ポリリン酸、過塩素酸など、飽和脂肪族炭化水素スルホン酸及び芳香族炭化水素スルホン酸、例えば、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、低級アルキル置換ベンゼンスルホン酸などが含まれる。
【0077】
ここでの適切なルイス酸は、カチオンが、好ましくは、ホウ素、アルミニウム、スズ、アンチモン、及び鉄からなる群から選択される無機又は有機金属化合物である。
【0078】
言及されたルイス酸のうち、特に、金属ハロゲン化物ルイス酸、例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第一スズ、三塩化アンチモン、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素-ジプロピルエーテル錯体などが特に好ましく、塩化第一スズが特に好ましい。
【0079】
ルイス酸には、ルイス酸自体だけでなく、ルイス酸の機能を付与する金属又は金属化合物、例えば酸化物及び硫化物が含まれ、三酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫化亜鉛(ZnS)が好ましい。
【0080】
組成物(C)において、酸性架橋剤は、好ましくは、ポリマー(F)の総重量に対して、0.001~2.0重量%の量、より好ましくは0.005~0.5重量%の量で含まれる。
【0081】
一般的に、組成物(C)は、酸性架橋剤をポリマー(F)と共に適切なミキサーにて混合することによって得られる。
【0082】
組成物(C)は、上記で定義したように、酸性架橋剤を溶液(S)の形態のポリマー(F)と混合することによって得られることができ、溶液の形態の組成物(CS)をもたらす。
【0083】
組成物(C)は、上記で定義したように、分散液(D)の形態で酸性架橋剤をポリマー(F)と混合して得ることができ、分散液の形態の組成物(CD)をもたらす。
【0084】
本発明の一実施形態では、組成物(C)は、
a)
-少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、
-任意選択で、0.5~3.0モル%の少なくとも1つのフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含むポリマー(F)と、
b)ポリマー(F)の総重量に対して0.001~2.0重量%、より好ましくは0.005~0.5重量%の量の酸性架橋触媒と、
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0085】
本発明の別の実施形態では、組成物(CS)は、
a)
-少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくともカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、
-任意選択で、0.5~3.0モル%の少なくとも1つのフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含むポリマー(F)と、
b)ポリマー(F)の総重量に対して0.001~2.0重量%、より好ましくは0.005~0.5重量%の量の酸性架橋触媒と、
c)少なくとも1つの有機溶媒と、
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0086】
本発明の別の実施形態では、組成物(CD)は、
a)
-少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)と、
-0.1モル%~3.0モル%、好ましくは0.2%~1.5モル%、より好ましくは0.5%~1.0モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位と、
-任意選択で、0.5~3モル%の少なくとも1つのフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含むポリマー(F)と、
b)ポリマー(F)の総重量に対して2.0重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の量の酸性架橋触媒と、
c)水と、
を含み、好ましくはこれらからなる。
【0087】
組成物(CS)及び組成物(CD)は、それぞれ、少なくとも1つの有機溶媒又は水を除去するための熱処理に供されて、前述の有機溶媒又は水を含まない組成物(C)を再び得ることができる。
【0088】
本発明の架橋性ポリマー(F)又は組成物(C)は、130℃~250℃の温度で熱処理して、分子量の増大を特徴とする架橋されたフルオロポリマー(XLF)を得ることができる。
【0089】
本明細書で使用される場合、「熱処理」、「熱的に架橋された」及び「熱的に起こる」は、本発明の架橋プロセスが温度によって活性化されることを意味すると理解される。当業者は、架橋を実現するために必要な時間が、一般的に温度に依存し、温度が上昇するにつれて架橋がより急速に起こることを認識するであろう。従って、熱処理の時間は、温度、及びポリマー(F)の性質に応じて、5分から30日まで変動し得る。
【0090】
熱架橋は、モノマー(HA)に由来する繰り返し単位のヒドロキシル基の少なくとも一部と、モノマー(CA)に由来する繰り返し単位のカルボキシル基の少なくとも一部との反応を伴う。
【0091】
本発明のポリマー(F)及び組成物(C)は、成形された物品に適切に変換され、次いで前述の物品の性能を改善するために熱架橋に供されることができる。
【0092】
一態様では、本発明は、架橋されたフッ素ポリマー(XLF)を含む物品を作製するための方法を提供し、この方法は、
a)押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形などの技術によって上記で定義されたポリマー(F)又は組成物(C)を溶融加工して成形された物品を形成する工程と、
b)工程a)で得られた成形された物品を、130℃~250℃の温度で熱処理する工程と、を含む。
【0093】
本発明の好ましい実施形態では、溶融加工が関与する場合、25℃でジメチルホルムアミドにて測定されるポリマー(F)の固有粘度は、0.05l/g~0.15l/gである。
【0094】
別の態様では、本発明は、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む物品を作製するための方法を提供し、この方法は、
a)水平面又はパッドにて開放鋳型中の溶液を流延するなどの技術によって上記の定義された有機溶媒中の溶液(S)又は溶液(CS)を処理して成形された物品を形成する工程と、
b)有機溶媒を除去して、ポリマー(F)又は組成物(C)の成形された物品を得る工程と、
c)工程b)で得られた成形された物品を、130℃~250℃の温度で熱処理する工程と、を含む。
【0095】
本発明の好ましい実施形態では、溶液プロセスが関与する場合、25℃でジメチルホルムアミドにて測定されるポリマー(F)の固有粘度は、適切には、0.15l/g~0.35l/gである。
【0096】
別の態様では、本発明は、架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む物品を作製するための方法を提供し、この方法は、
a)技術によって上記で定義された水中の分散液(D)又は分散液(CD)を処理して成形された物品を形成する工程と、
b)水を除去して、ポリマー(F)又は組成物(C)の成形された物品を得る工程と、
c)工程bで得られた成形された物品を、130℃~250℃の温度で熱処理する工程と、を含む。
【0097】
更に、本発明は、上記で定義されたように得られた架橋されたフルオロポリマー(XLF)を含む物品に関する。
【0098】
本発明の架橋性フルオロポリマー(F)、及び前述のポリマー(F)を含む組成物(C)の主な標的とする用途は、耐薬品性、表面特性、及び高い使用温度の点で、PVDFの周知で実証済みの特性を維持しながら、成形されその後熱処理によって架橋を受けることができる物品の製造である。
【0099】
例えば、固体形態のポリマー(F)又は組成物(C)は、化学処理産業及び石油及びガス産業におけるパイプ、シート、継手及びコーティングの調製に特に適している。
【0100】
溶液中のポリマー(F)又は組成物(C)は、フィルム及び膜、特に例えばJournal of Membrane Science 178(2000)13-23に記載されているような多孔質膜の調製に特に適している。
【0101】
分散液中のポリマー(F)又は組成物(C)は、例えば、米国特許出願公開第201503906号明細書(ARKEMA Inc.)2014年8月19日に記載されている用途など、セパレーターコーティングとして使用される電極及び層用のバインダーなどの電池用構成要素の調製に特に適している。
【0102】
参照により本明細書中に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と対立する場合、本記載が優先するものとする。
【0103】
実験の部
ポリマー(F)の固有粘度の測定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(F)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の方程式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηrは、相対粘度、即ち、試料溶液の滴下時間と、溶媒の滴下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、即ち、ηr-1であり、Γは、ポリマー(F)については3に相当する実験因子である)を用いて測定した。
【0104】
ランダムに分布した(HA)及び(CA)単位の割合の決定
ランダムに分布したHA及びCA単位の割合は、国際公開第2013/010936号パンフレットに開示されている手順に従って、19F-NMRによって決定される。
【0105】
原料
比較例1:国際公開第2008129041号パンフレットに従って調製されたVDF-AAコポリマー。
比較例2:国際公開第2008129041号パンフレットに従って調製されたVDF-HEAコポリマー。
【0106】
実施例1:テトラポリマーVDF-HFP-AA-HEA(Copo 3)の調製
650rpmの速度で作動するインペラを備えた4リットルの反応器に、2265gの脱塩水、0.7gのAlkox(登録商標)E-45及び0.18gのMethocell(登録商標)K100を懸濁剤として順に導入した。反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素をパージした。次いで、開始剤としてイソドデカン中の9.41gのt-アミルパーピバレート開始剤の75重量%溶液、及び15.3gの炭酸ジエチル(DEC)を導入した。880rpmの速度で、7.64gのアクリル酸(AA)、7.64gのヒドロキシルエチルアクリレート(HEA)及び59gのヘキサフルオロプロピレン(HFP)を導入した。最後に、1100gのフッ化ビニリデン(VDF)を反応器に導入した。反応器を57℃での設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120バールに固定した。重合中に780gの脱塩水を供給することにより、圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入せず、圧力が低下し始めた。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。モノマーの77%で変換に達した。次いで、こうして得たポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥させた。
【0107】
実施例2:ターポリマーの調製:VDF-AA-HEA(F1、F2、F3)
650rpmの速度で動作するインペラを備えた4リットルの反応器に、脱塩水及び0.8g/kgのMethocell(登録商標)K100のMni(設定温度の前に反応器に添加された初期のモノマー)を順に導入した。反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素をパージした。次いで、開始剤としてイソドデカン(75重量%溶液)中の11gのt-アミル-パーピバレートを導入し、必要に応じて、表1に記載されているように、DECを導入した。880rpmの速度で、アクリル酸(AA)とヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を導入した、表1を参照されたい。最後に、1174gのフッ化ビニリデン(VDF)を反応器に導入した。反応器を、ポリマーF1については58℃、ポリマーF2及びF3については59℃の設定温度まで徐々に加熱し、圧力を110バールに固定した。重合中に、表1に記載されているAA及びHEAの濃度で水溶液中で混合されたアクリル酸及びヒドロキシエチルアクリレートを供給することにより、圧力を常に110バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入せず、圧力が低下し始めた。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。77~79%のモノマーの変換に達した。次いで、こうして得たポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥させた。
【0108】
モノマーの量及び温度条件を表1に示す。
【0109】
【0110】
実施例3:テトラポリマーの調製:VDF-HFP-AA-HEA(F4、F5、F6、F7)
650rpmの速度で作動するインペラを備えた4リットルの反応器に、2,205gの脱塩水及び0.6g/kgのMethocell(登録商標)K100のMni(設定温度の前に反応器に添加された初期のモノマー)を順に導入した。反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素をパージした。次いで、開始剤としてイソドデカン中の9.50gのt-アミル-パーピバレート(75重量%溶液)を導入し、続いて表2に記載のように炭酸ジエチル(DEC)を導入した。880rpmの速度で、アクリル酸(AA)とヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を導入した、表2を参照されたい。最後に、59gのヘキサフルオロプロピレン(HFP)と1114gのフッ化ビニリデン(VDF)を反応器に導入した。反応器を57℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を110バールに固定した。重合中に、表2に記載されているAA及びHEAの濃度で水溶液中にて混合されたアクリル酸及びヒドロキシエチルアクリレートを供給することにより、圧力を常に110バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入せず、圧力が低下し始めた。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。72~76%のモノマーの変換に達した。次いで、こうして得たポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥させた。
【0111】
モノマーの量及び温度条件を表2に示す。
【0112】
【0113】
実施例1~3並びに比較例1及び2で調製されたポリマーの組成及び固有粘度を表3に報告する。
【0114】
【0115】
ランダムに分布した単位(HA)と(CA)の割合は、ポリマーF1~F6で40%を超えている。
【0116】
実施例4:F6の溶融押出及びペレット化
実施例3で得られたポリマーF6を、主要供給機(main feeder)を備えた二軸共回転押出機(34mmのスクリュー直径Dを有するLeistritz LSM 30.34 GG-5R)にてペレット化した。必要な温度プロファイルを設定できる6つの温度制御されたゾーンがある(表4を参照されたい)。ダイは、それぞれ直径4mmの2つの孔からなった。押出機の回転速度は100rpmであった。2つの押出物を水タンクにて冷却し、引き出し、次いで圧縮空気で乾燥させた。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0117】
【0118】
実施例5:Sb2O3(100ppm)との配合、ポリマーF6(化合物C1)の溶融押出及びペレット化
実施例3で得られたポリマーF6を、高速ミキサーHenschel(FML 40モデル)で、ポリマーF6の重量に対してSigma-Aldrichにより提供された0.01重量パーセントの酸化アンチモン(III)(Sb2O3)と混合した。混合した粉末を導入し、主要供給機を備えた二軸共回転押出機(34mmのスクリュー直径Dを有するLeistritz LSM 30.34 GG-5R)にてペレット化した。実施例4と同じ6つの温度制御されたゾーンを使用した(表4を参照されたい)。ダイは、それぞれ直径4mmの2つの孔からなった。押出機回転速度は100rpmであった。2つの押出物を水タンクにて冷却し、引き出し、次いで圧縮空気で乾燥させた。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0119】
実施例6:Sb2O3(250ppm)との配合、ポリマーF6(化合物C2)の溶融押出及びペレット化
第1の工程で、実施例3で得られたポリマーF6を、高速ミキサーHenschel(FML 40モデル)で、ポリマーF6の重量に対してSigma-Aldrichにより提供された0.025重量パーセントの酸化アンチモン(III)(Sb2O3)と混合した。次いで、第2の工程で、混合した粉末を導入し、主要供給機を備えた二軸共回転押出機(34mmのスクリュー直径Dを有するLeistritz LSM 30.34 GG-5R)にてペレット化した。実施例4と同じ6つの温度制御されたゾーンを使用した(表4を参照されたい)。ダイは、それぞれ直径4mmの2つの孔からなった。押出機回転速度は100rpmであった。2つの押出物を水タンクにて冷却し、引き出し、次いで圧縮空気で乾燥させた。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0120】
実施例7:ZnO(250ppm)との配合、ポリマーF6(化合物C3)の溶融押出及びペレット化
Sb2O3の代わりにZnOを使用したことを除いて、実施例6と同じ手順に従った。
【0121】
実施例8:ZnO(10000ppm)との配合、ポリマーF6(化合物C4)の溶融押出及びペレット化
Sb2O3の代わりにZnO 10000ppmを使用したことを除いて、実施例6と同じ手順に従った。
【0122】
実施例9:ZnS(10000ppm)との配合、ポリマーF6(化合物C5)の溶融押出及びペレット化
Sb2O3の代わりにZnS 10000ppmを使用したことを除いて、実施例6と同じ手順に従った。
【0123】
実施例10:熱処理-架橋
表3に要約されているポリマーと化合物C1~C5を、動的機械分光計Anton Paar MCR502(形状:平行板(25mm)、モード:190℃及び230℃の2つの温度での動的時間掃引試験)に置いた。28.8秒及び7200秒後に測定された見かけの粘度を以下の表5に示す。
【0124】
【0125】
実施例11:架橋評価
実施例4及び実施例6のペレットを用いて、それぞれ1.5mmの厚さ(10×10cm)の2つのプラークを調製した。それぞれの1つを、140℃で48時間、オーブンで処理した。次いで、4つのプラークのゲルのパーセントを以下のように決定した。
【0126】
完全に溶解するまで(約2時間)、撹拌しながら45℃でペレット(0.25%の重量/体積)をDMAに溶解した。次いで、Sorvall RC-6 Plus遠心分離機(ローターモデル:F21S-8X50Y)を使用して、20000rpmで60分間室温で遠心分離した。遠心分離して測定した。次いで、乾燥した残留物を計量して、ゲルのパーセントを推定した。
【0127】
結果を表6に示す。
【0128】
【0129】
結果は、ポリマーF6と化合物C2が完全に架橋されており、不溶性のパーセントが非常に高いことを示している。