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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】軟質食品の製造方法及び食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240819BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20240819BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20240819BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20240819BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23L5/00 M
A23L5/00 N
A23L29/256
A23L29/269
A23L29/238
A23L5/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021511996
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014009
(87)【国際公開番号】W WO2020203765
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019066747
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】堀内 真美
(72)【発明者】
【氏名】赤地 利幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮児
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102261(JP,A)
【文献】特開2014-187946(JP,A)
【文献】特表2002-500030(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109090616(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108402264(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0223993(US,A1)
【文献】DICK, A. et al.,3D printing of meat,Meat Science,2019年03月07日,Vol. 153,pp. 35-44,doi: 10.1016/j.meatsci.2019.03.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00 - 29/269
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、加熱することにより不可逆的に固化する第2食品と
を含み、
前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
【請求項2】
前記第2食品が不可逆的に固化する前記温度に加熱した後、冷却することにより固化させた場合に、5×10N/m以下の硬さを有する請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
前記第2食品は熱硬化性ゲル化剤を含んだ請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品との混合物を形成している固体である第2食品であって、熱硬化性ゲル化剤を含んだ第2食品
を含み、
第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
【請求項5】
冷却することにより固化させた場合に、5×10N/m以下の硬さを有する請求項に記載の食品組成物。
【請求項6】
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
第1液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、前記第1液化温度よりも高い第2液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第2食品であって、熱硬化性ゲル化剤を含んだ第2食品
を含み、
前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1液化温度以上であり且つ前記第2液化温度よりも低い第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1液化温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
【請求項7】
冷却することにより固化させた場合に、5×10N/m以下の硬さを有する請求項に記載の食品組成物。
【請求項8】
前記第1食品はゲル化剤を含んだ請求項1乃至の何れか1項に記載の食品組成物。
【請求項9】
前記第2食品は蛋白質を含んだ請求項1乃至の何れか1項に記載の食品組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の食品組成物を、前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
【請求項11】
請求項に記載の食品組成物を前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
【請求項12】
請求項に記載の食品組成物を、前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質食品の製造方法及び食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、咀嚼や嚥下が困難な高齢者等向けの介護用食品として、固形食品をすり潰し、所望の形状に固めて再形成した軟質食品が流通している。このような軟質食品は、柔らかくて飲み込みやすい。
【0003】
ところで、焼き菓子やまんじゅうの製造に、3Dプリンタが用いられるようになっている。3Dプリンタを使用すると、例えば、複雑な形状を造形することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/146618号公報
【文献】日本国特開平05-130832号公報
【文献】日本国特開2012-165704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、上述したような軟質食品は、型に食品組成物を流し込んで固めることにより製造している。但し、このような方法では、製造する食品が軟質であるため、型を複雑な形状とすることができない。また、この方法では単一の食材を固めることしかできないため、得られる軟質食品は、その全体に亘って均質なものとなる。それ故、軟質食品は、外観、味、香り、及び食感などが単調なものとなり易い。
【0006】
本発明は、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、前記第1食品と混合された、加熱することにより不可逆的に固化する第2食品とを含み、前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、前記第1食品との混合物を形成している固体である第2食品であって、熱硬化性ゲル化剤を含んだ第2食品とを含み、第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物が提供される。
【0009】
本発明の第3側面によると、三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、第1液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、前記第1食品と混合された、前記第1液化温度よりも高い第2液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第2食品であって、熱硬化性ゲル化剤を含んだ第2食品とを含み、前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1液化温度以上であり且つ前記第2液化温度よりも低い第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1液化温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物が提供される。
【0010】
本発明の第4側面によると、第1側面に係る食品組成物を、前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することとを含んだ軟質食品の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第5側面によると、第2側面に係る食品組成物を前記第1温度で射出することと、射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することとを含んだ軟質食品の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第6側面によると、第3側面に係る食品組成物を、前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することとを含んだ軟質食品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明よると、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る軟質食品の製造方法に使用可能な3Dプリンタの一例を概略的に示す斜視図。
図2】実施例1-1で得られた造形物を表す図。
図3】比較例1-2で得られた造形物を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
<第1実施形態>
(食品組成物)
第1実施形態に係る食品組成物は、三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のためのものである。ここで、「軟質食品」は、6×10N/m以下の硬さを有している食品である。軟質食品の硬さの測定法については、後で説明する。
【0020】
この食品組成物は、第1及び第2食品を含んでいる。後述するように、第1食品は加熱することによって可逆的に液化し、第2食品は加熱することにより不可逆的に固化する。この食品組成物は、第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、第1温度では流動性を呈し、第1温度からこれよりも低い第2温度へ冷却することにより固化する。
【0021】
第1食品は、加熱することによって可逆的に液化する熱可塑性食品である。第1食品は、少なくとも第2食品が不可逆的に固化する温度へ加熱した後において、食品組成物を熱可塑性にしている。このような熱処理後に、食品組成物を加熱して流動化させた状態で、3Dプリンタを使用した三次元造形や押出機を使用した押出成形を行うことにより、ノズルやダイの吐出口に食品組成物が詰まるのを防止できる。
【0022】
液化した第1食品の温度を下げた場合にその固化を開始する温度、即ち、第1食品の凝固温度は、20乃至80℃の範囲内にあることが好ましく、30乃至50℃の範囲内にあることがより好ましい。第1食品の凝固温度が高いと、食品組成物を流動化させるべく加熱した場合に、食品組成物が含んでいる成分の不所望な変質を生じる可能性がある。一例によれば、第1食品の凝固温度は、第2食品の温度を上昇させた場合に不可逆的な固化を開始する温度、即ち、第2食品の固化温度未満である。第1食品の凝固温度が低いと、軟質食品が室温で流動化する可能性がある。なお、第1食品の凝固温度は、第2食品が不可逆的に固化する温度での熱処理(以下、単に熱処理ともいう)を経た食品組成物の凝固温度と等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0023】
第1食品は、例えば、ゲル化剤を含むことができる。一例によれば、第1食品は、溶質の少なくとも一部としてゲル化剤を含んだ水溶液である。
【0024】
ゲル化剤としては、例えば、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、タラガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、寒天、サイリウムシードガム、及びジェランガムなどの公知のゲル化剤を適宜選択することができる。第1食品は、ゲル化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上のゲル化剤を含んでいてもよい。
【0025】
食品組成物におけるゲル化剤の濃度は、0.01乃至7質量%の範囲内にあることが好ましく、0.05乃至6質量%の範囲内にあることがより好ましい。この濃度を低くすると、熱処理後の食品組成物を冷却によって固化させ難くなる。この濃度を高くすると、軟質食品が硬くなる。
【0026】
第2食品は、第1食品と混合された、加熱することにより不可逆的に固化する熱硬化性食品である。第2食品は、これが不可逆的に固化する温度に食品組成物を加熱し、その後、この食品組成物をその固化温度よりも高い温度でノズルやダイの吐出口から吐出させた場合に、吐出された食品組成物が、吐出直後の形状とほぼ等しい形状を保持することを可能とする。なお、上記熱処理後の食品組成物の「固化温度」は、上記熱処理後の食品組成物の温度を下げた場合に固化を開始する温度である。
【0027】
第2食品は、例えば、加熱することにより熱変性して不可逆的に固化する蛋白質を含んだ蛋白質含有食品である。一例によれば、第2食品は、溶質の少なくとも一部として蛋白質を含んだ水溶液である。蛋白質又は蛋白質含有食品としては、例えば、大豆蛋白、ホエイ、卵白、グルテン、乳蛋白、若しくはそれらの2以上を含んだ混合物、又は、これらの1以上を含んだ食品を使用できる。また、他の例として、第2食品は、加熱することにより不可逆的に固化するゲル化剤を含んだ熱硬化性ゲル化剤含有食品である。熱硬化性ゲル化剤としては、例えば、カードランを含んだ食品を使用できる。
【0028】
なお、カゼインは蛋白質であるが、溶質としてカゼインのみを含んだ水溶液は加熱することにより不可逆的に固化するものではない。このように、蛋白質を含んだあらゆる食品を、第2食品として使用可能であるという訳ではない。
【0029】
食品組成物における蛋白質の濃度は、0.1乃至25質量%の範囲内にあることが好ましく、1乃至15質量%の範囲内にあることがより好ましい。この濃度を低くすると、熱処理後の食品組成物をノズル又はダイから吐出した場合に、吐出された食品組成物が固化するまでの間に生じる変形が大きくなる。
【0030】
第2食品の固化温度は、その組成に応じて、例えば、蛋白質の種類に応じて変化する。第2食品の固化温度は、好ましくは50乃至90℃の範囲内にあり、より好ましくは60乃至80℃の範囲内にある。固化温度が高い第2食品は、その固化のために、高温且つ長時間の加熱を必要とする。
【0031】
食品組成物は、第1及び第2食品に加え、第3食品を更に含むことができる。第3食品は、食品組成物の調製を開始してから軟質食品の製造を完了するまでの期間内に、水に対して不溶性のものであってもよく、水に溶解してイオンとなるような可溶性のものであってもよい。第3食品は、例えば、動物性食材、植物性食材又はそれらの組み合わせである。第3食品としては、肉類、魚介類、海藻、果実、木の実、穀類、油脂類若しくは砂糖及び塩等の調味料類又はそれらの2以上を使用することができる。
【0032】
固形分を含んだ第3食品は、すり潰されていることが好ましい。径が大きな粒子を食品組成物が含んでいる場合、ノズルやダイの詰まりを生じる可能性がある。また、粒子径が小さくなるほど、軟質食品の口当たりが滑らかになる。第3食品の粒子径は、2.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることが更に好ましい。ここで、「粒子径」は、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定によって得られる値である。
【0033】
この食品組成物は、例えば、以下の方法によって調製する。即ち、第1食品及び第2食品並びに必要に応じて添加される第3食品を、適切な混合比で混合し、この混合液を攪拌して均質化する。この攪拌は、第2食品の固化温度よりも低い温度で行う。これにより、均質な食品組成物を得る。
【0034】
この混合液が含む成分の種類や含有量は、成形性や軟質食品の硬さに影響を及ぼす。従って、この混合液が含む成分の種類やそれらの含有量は、例えば、3Dプリンタ又は押出機における成形性や軟質食品に要求される硬さなどに応じて設定する。
【0035】
一例によれば、軟質食品は、嚥下困難者用食品又は咀嚼困難者用食品である。嚥下困難者用食品又は咀嚼困難者用食品は、硬さや粘度に応じて区分1乃至4へ分類される。区分1の食品には硬さが5×10N/m以下であることが要求され、区分2の食品には硬さが5×10N/m以下であることが要求され、区分3の食品には硬さが2×10N/m以下であることが要求され、区分4の食品には硬さが5×10N/m以下であることが要求される。
【0036】
なお、軟質食品の硬さは、以下の方法により測定する。
測定装置としては、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いる。直径40mmの容器に試料を15mmの高さに充填し、直径が20mmのプランジャでこれを圧縮して、圧縮応力を測定する。この測定は、20±2℃の温度で、圧縮速度を10mm/秒とし、容器の底面とプランジャとのクリアランスが5mmになるまで行う。試料が不定形である場合などには、クリアランスを試料の厚さの30%として測定してもよい。この測定を5回行い、最大値及び最小値を除いた3回の値の平均を測定値とする。
【0037】
上記混合液が含む成分の種類や含有量は、硬さが5×10N/m以下の軟質食品が得られるように設定することが好ましい。軟質食品は、例えば、第1食品の含有量を高めるとより硬くなる。しかしながら、上記混合液における第1食品の含有量を高めると、その攪拌に大きな力が必要となり、また、食品組成物のノズルからの吐出に必要な圧力も大きくなり、成形性が低下する傾向にある。
【0038】
また、上記混合液が含む成分の種類や含有量は、硬さが2×10N/m以上の軟質食品が得られるように設定することが好ましい。軟質食品を軟らかくしすぎると、軟質食品に形状を維持させることが難しくなる。
【0039】
この食品組成物は、第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、第1温度では流動性を呈し、第1温度からこれよりも低い第2温度へ冷却することにより固化する。
【0040】
第2食品が不可逆的に固化する温度での加熱は、好ましくは50乃至130℃の範囲内、より好ましくは60乃至130℃の範囲内、更に好ましくは65乃至130℃の範囲内の温度で行う。
【0041】
第1温度は、上記熱処理後の食品組成物の固化温度よりも高い温度である。第1温度は、上記熱処理の温度以上であってもよく、この熱処理の温度未満であってもよい。一例によれば、第1温度は、後述するノズル又はダイにおける食品組成物の温度である。
【0042】
第2温度は、第1温度よりも低い温度である。また、第2温度は、上記熱処理後の食品組成物の固化温度以下の温度である。
【0043】
(軟質食品の製造)
次に、上述した食品組成物を使用した軟質食品の製造について説明する。
上述した食品組成物は、例えば、三次元造形された軟質食品の製造に使用する。
【0044】
軟質食品の三次元造形には、吐出型の3Dプリンタを使用する。吐出型の3Dプリンタは、上記熱処理後の食品組成物を第1温度でノズルから吐出し、吐出した食品組成物を第2温度へ冷却することにより、軟質食品を三次元造形するものである。このような3Dプリンタとしては、例えば、公知のものが使用できる。3Dプリンタの吐出方式は、限定されない。3Dプリンタは、例えば、空気圧により食品組成物を吐出するものであってもよく、スクリューを回転させて食品組成物を吐出するものであってもよい。吐出型の3Dプリンタとしては、例えば、図1に示すものを使用することができる。
【0045】
図1は、本発明の実施形態に係る軟質食品の製造方法に使用可能な3Dプリンタの一例を概略的に示す斜視図である。なお、図1において、Z方向は重力方向に平行な方向であり、X方向及びY方向は、各々がZ方向に垂直であり且つ互いに直交する方向である。
【0046】
この3Dプリンタ1は、卓上型ロボット10と、ディスペンスコントローラ20と、ケーブル30Aと、チューブ30Bとを含んでいる。
【0047】
卓上型ロボット10は、テーブル11と、第1移動機構12と、第2移動機構13と、第3移動機構14と、キャリッジ15と、ノズルヘッド16と、貯留容器17とを含んでいる。
【0048】
テーブル11は、略平坦な上面を有している。テーブル11には、冷却装置と温度センサとが設置されている。冷却装置は、テーブル11を冷却する。温度センサは、テーブル11の温度に対応した信号を出力する。
【0049】
第1移動機構12、第2移動機構13及び第3移動機構14は、それぞれ、テーブル11、キャリッジ15及び第2移動機構13を支持している。第1移動機構12は、テーブル11をY方向へ平行移動させる。第2移動機構13は、キャリッジ15をZ方向へ平行移動させる。第3移動機構14は、第2移動機構13をX方向へ平行移動させる。
【0050】
キャリッジ15は、ノズルヘッド16を支持している。ノズルヘッド16は、造形物の素材をテーブル11へ向けて吐出するノズルを有している。
【0051】
キャリッジ15は、貯留容器17を更に支持している。貯留容器17は、造形物の素材を収容する。貯留容器17は、この素材をノズルヘッド16へ供給する。
【0052】
貯留容器17には、加熱装置と温度センサとが設置されている。加熱装置は、貯留容器17内の素材を加熱する。温度センサは、貯留容器17内の素材の温度に対応した信号を出力する。
【0053】
ディスペンスコントローラ20は、ケーブル30Aを介して、第1移動機構12、第2移動機構13、第3移動機構14、冷却装置、加熱装置、テーブル11に設置された温度センサ、及び貯留容器17に設置された温度センサへ電気的に接続されている。ディスペンスコントローラ20は、第1移動機構12、第2移動機構13、第3移動機構14、冷却装置及び加熱装置の動作を制御する。
【0054】
具体的には、ディスペンスコントローラ20は、テーブル11に対するノズルの相対位置が、造形物の各レイヤーのパターンに沿って変化するように第1移動機構12及び第3移動機構14の動作を制御するとともに、ノズルからテーブル11又はその上のレイヤーまでの距離が一定になるように、第2移動機構13の動作を制御する。
【0055】
また、ディスペンスコントローラ20は、第1設定温度と貯留容器17に設置された温度センサから供給される信号とに基づいて、貯留容器17内の温度が第1設定温度に維持されるように加熱装置の出力を制御する。加えて、ディスペンスコントローラ20は、第2設定温度とテーブル11に設置された温度センサから供給される信号とに基づいて、テーブル11の温度が第2設定温度に維持されるように冷却装置の出力を制御する。
【0056】
また、ディスペンスコントローラ20は、チューブ30Bを介して、貯留容器17へ接続されている。ディスペンスコントローラ20は、テーブル11に対するノズルの相対位置が造形物の各レイヤーのパターンに沿って変化している間、チューブ30Bを介して貯留容器17へ空気圧を供給して、貯留容器17内の素材をノズルヘッド16から吐出させる。
【0057】
この3Dプリンタ1は、第1移動機構12及び第3移動機構14を含んでいるため、テーブル11の所望の位置へ食品組成物を吐出することができる。また、この3Dプリンタ1は、第2移動機構13を含んでいるため、テーブル11の同一位置へ食品組成物を複数回吐出すること、即ち、複数のレイヤーを形成することができる。従って、この3Dプリンタ1によると、三次元造形が可能である。
【0058】
次に、上述した食品組成物を使用した、3Dプリンタ1による軟質食品の製造方法の一形態について説明する。
【0059】
先ず、上記の食品組成物を、第2食品の固化温度以上の温度へ加熱し、この温度に一定時間保持する。これにより、蛋白質の熱変性及び熱硬化性ゲル化剤の固化を生じさせる。上記の通り、この熱処理前の食品組成物は均質化されている。従って、この熱処理後の食品組成物も均質である。
【0060】
この熱処理後の食品組成物は、その流動性が維持される温度に保ったまま、次工程の三次元造形に使用することが好ましい。上記熱処理後の食品組成物を凝固させ、これを再加熱して流動化させたものを次工程の三次元造形に使用した場合、上記熱処理後の食品組成物を、その流動性が維持される温度に保ったまま、次工程の三次元造形に使用した場合とは、硬さが異なる軟質食品が得られる可能性がある。
【0061】
続いて、この食品組成物を貯留容器17へ供給し、3Dプリンタ1による三次元造形を行う。具体的には、第1設定温度は、ノズルの位置における食品組成物の温度が、上記熱処理後の食品組成物の固化温度よりも高い温度、例えば第1温度になるように設定する。第2設定温度は、テーブル11上へ吐出された食品組成物が、上記熱処理後の食品組成物の固化温度以下の温度、例えば第2温度へ速やかに冷却されるように設定する。以上のようにして、軟質食品を得る。
【0062】
この方法では、食品組成物の吐出は、ノズルの位置における温度が、食品組成物の固化温度よりも高い温度、例えば第1温度となるように行う。食品組成物は、事前の熱処理によって蛋白質及び熱硬化性ゲル化剤の固化を生じさせているが、上記固化温度よりも高い温度では流動性を呈する。それ故、この方法によると、ノズルを詰まらせることなしに、食品組成物をノズルヘッド16からテーブル11へ向けて吐出させることができる。
【0063】
また、この方法では、食品組成物を、その吐出前に、第2食品の固化温度以上の温度へ加熱し、この温度に一定時間保持する。この事前の熱処理により、食品組成物は、冷却するだけで固化するようになるのに加え、吐出直後から形状保持に十分な硬さを有し、速やかに固化するようになる。
【0064】
それ故、例えば、第1温度、即ち、ノズルの位置における食品組成物の温度と、この食品組成物の固化温度との差(以下、第1温度差という)が小さければ、ノズルから吐出された食品組成物は、その後の冷却によって、吐出直後の形状とほぼ等しい形状を保持したまま速やかに固化し得る。或いは、この食品組成物の固化温度と冷却装置の第2設定温度(又はテーブル11の温度)との差(以下、第2温度差という)が大きければ、ノズルから吐出された食品組成物は、その後の冷却によって、吐出直後の形状とほぼ等しい形状を保持したまま速やかに固化し得る。従って、例えば、ノズルからテーブル11上へと吐出された食品組成物に、その吐出直後の形状とほぼ等しい形状を保持させることができる。
【0065】
また、先に形成したレイヤーを構成している食品組成物が完全に固化した後に、食品組成物を更に吐出して次のレイヤーを形成すると、それらレイヤー間の接着性が不十分となる可能性がある。第1温度差を大きくするか、又は、第2温度差を小さくすると、ノズルから吐出された食品組成物が、その後の冷却によって過度に速やかに固化するのを防ぐことができる。それ故、こうすることにより、先に形成したレイヤーを構成している食品組成物が完全に固化する前に、次のレイヤーを容易に形成することができ、従って、それらレイヤー間の接着性を高めることができる。
【0066】
第1温度差は、1乃至60℃の範囲内とすることが好ましく、5乃至30℃の範囲内とすることがより好ましい。また、第2温度差は、0乃至70℃の範囲内とすることが好ましく、0乃至50℃の範囲内とすることがより好ましい。第1温度差を大きくするか又は第2温度差を小さくすると、吐出された食品組成物が固化するまでの間に生じる変形が大きくなる。第1温度差を小さくすると、レイヤー間の接着性が低下する。
【0067】
以上の通り、上述した技術によると、軟質食品を三次元造形によって製造することができる。従って、上述した技術によると、複雑な外観又は食感を有する軟質食品を製造することが可能となる。例えば、中空構造を有している軟質食品や、麺が塊状に一体化した形状を有する軟質食品を製造することができる。
【0068】
上述した方法には、様々な変形が可能である。
例えば、上述した方法では、ノズルから吐出した食品組成物の冷却に、食品組成物からテーブル11への熱伝導を利用しているが、この冷却には、他の方法を利用することも可能である。例えば、ノズルから吐出した食品組成物を取り巻く雰囲気の温度が十分に低ければ、食品組成物を空冷することができる。或いは、この冷却に水冷を利用してもよい。
【0069】
また、ここでは、軟質食品の製造に1種の食品組成物を使用する例を説明したが、軟質食品の製造には、複数種の食品組成物を使用することも可能である。例えば、組成が異なる2以上の食品組成物を別々のノズルから吐出することにより、組成が異なる複数の領域を含んだ軟質食品を得ることができる。例えば、身と皮とを有する魚の切り身の如き軟質食品を得ることができる。そのような軟質食品は、上記領域間で、色、香り、味、及び食感の1以上が異なっている。即ち、この技術によると、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造することができる。
【0070】
軟質食品は、三次元造形によって製造する代わりに、押出成形によって製造してもよい。例えば、吐出口が複雑な形状を有しているダイを使用した場合、複雑な外観又は食感を有する軟質食品を製造することが可能となる。或いは、2以上のTダイを直列に配置し、それらTダイから種類が異なる食品組成物を、それらが多層構造を形成するように吐出することにより、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造することができる。
【0071】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る食品組成物は、第2食品が、第1食品との混合物を形成している固体であることを除き、第1実施形態に係る食品組成物と同様である。
【0072】
そのような食品組成物は、例えば、第1実施形態に係る食品組成物を、第2食品の固化温度以上の温度へ加熱し、この温度に一定時間保持することにより得られる。
【0073】
或いは、そのような食品組成物は、第1実施形態において第2食品について例示したものを固化させてなる固体の粒子を、第1及び第3食品の混合液中に分散させることによって得ることもできる。或いは、そのような食品組成物は、他の粒子を第1及び第3食品の混合液中に分散させることによって得ることもできる。
【0074】
他の粒子としては、食品組成物の調製を開始してから軟質食品の製造を完了するまでの期間内に水に対して不溶性の食物繊維、例えば、セルロース、キチン、キトサン等からなる粒子を使用することができる。食品組成物は、上記粒子を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0075】
第1温度からこれよりも低い第2温度へ冷却して第1食品を固化させるまでの間、押し出した食品組成物がだれないよう保形することが必要である。他の粒子として不溶性の食物繊維を第1及び第3食品の混合液中に分散させると、不溶性であるために食品組成物の粘度が上昇し、押し出した食品組成物がだれないよう保形することができる。一方、他の粒子として水に対して可溶性の粒子を使用すると、粒子が溶解するために粘度上昇の程度が小さく、食品組成物がだれないよう保形することが難しい。
【0076】
上記粒子の粒子径は、0.003乃至1,000μmの範囲内にあることが好ましく、20乃至500μmの範囲内にあることがより好ましい。この粒子径を小さくすると、食品組成物の粘度が高くなる。この粒子径を大きくすると、均質な食品組成物を得ることが難しくなるか、又は、ノズルやダイの詰まりを生じ易くなることがある。
【0077】
食品組成物は、第1実施形態に係る食品組成物を、第2食品の固化温度以上の温度へ加熱し、この温度に一定時間保持することにより得られるものであることが好ましい。粒子は、均一に分散させることが難しいことがある。また、分散液において、粒子が均一に分散した状態を維持することが難しいことがある。このような不均一さは、ノズルの詰まりや成形性の低下を生じさせることがある。上記の通り、第1実施形態に係る食品組成物を、第2食品の固化温度以上の温度へ加熱し、この温度に一定時間保持することにより得られた食品組成物は均質であり、また、その状態を維持し得る。
【0078】
この食品組成物を使用した場合、蛋白質を熱変性させるための熱処理が不要であること以外は、第1実施形態に係る方法と同様の方法により軟質食品を製造することができる。従って、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造することができる。
【0079】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る食品組成物は、以下の方法によって調製されたものであることを除き、第1実施形態に係る食品組成物と同様である。
【0080】
即ち、先ず、第2食品と第3食品とを含んだ混合液を調製し、この混合液を攪拌して均質化する。この攪拌は、第2食品の固化温度よりも低い温度で行う。次いで、この混合液に上記の熱処理を施し、蛋白質の熱変性を生じさせる。その後、この混合液と第1食品とを混合し、これを攪拌して均質化する。第1食品は、加熱して液化させた状態、例えば水溶液の状態で上記混合液と混合してもよく、液化させずに上記混合液と混合してもよい。但し、第1食品を液化させずに上記混合液と混合した場合は、混合した後に第1食品を溶解させるための熱処理をすることが必要である。これにより、食品組成物を得る。
【0081】
この方法によれば、第1実施形態における熱処理後の食品組成物ほど均質な食品組成物を得られない可能性がある。しかしながら、この食品組成物を使用した場合も、蛋白質を熱変性させるための熱処理が不要であること以外は、第1実施形態に係る方法と同様の方法により軟質食品を製造することができる。従って、複雑な外観、味、香り、又は食感を有する軟質食品を製造することができる。
【0082】
<第4実施形態>
第4実施形態に係る食品組成物は、第2食品が、第1食品の液化温度(第1液化温度)よりも高い第2液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する食品であることを除き、第1実施形態に係る食品組成物と同様である。なお、「液化温度」は、第1又は第2食品を加熱した場合に、それが固体から液体へと変化する温度である。
【0083】
そのような食品組成物を用いた軟質食品の製造では、例えば、上記の食品組成物を、第2液化温度以上の温度へ加熱した後、第1液化温度以上であり且つ第2液化温度よりも低い第1温度に一定時間保持する。こうすると、第2食品が固化して、食品組成物の粘度が上昇する。そして、この状態で食品組成物を射出し、射出された食品組成物を第2温度へ冷却する。射出時の食品組成物は粘度が高められているので、押し出された食品組成物がだれないように保形することができる。
【0084】
第4実施形態に係る食品組成物に用いられる第2食品は、例えば、溶質の少なくとも一部として、第1液化温度よりも高い温度に加熱することによって可逆的に液化する熱可塑性ゲル化剤を含んだ水溶液である。熱可塑性ゲル化剤としては、例えば、ネイティブジェランガム(HA(High Acyl)ジェランガム)又はIotaカラギーナンが用いられる。
【0085】
食品組成物における熱可塑性ゲル化剤の濃度は、0.01乃至7質量%の範囲内にあることが好ましく、0.05乃至6質量%の範囲内にあることがより好ましい。この濃度を低くすると、熱処理後の食品組成物を冷却によって固化させ難くなる。この濃度を高くすると、軟質食品が硬くなる。
【実施例
【0086】
以下に、本発明の実施例を記載する。
(実施例1:第2食品が含む蛋白質が成形性に及ぼす影響に関する確認試験)
第2食品が含む蛋白質の種類が異なる複数の食品組成物を調製し、それらを用いて軟質食品を造形した。そして、これら造形物について、蛋白質による保形作用の有無を評価する試験を行った。
【0087】
具体的には、第1食品として、カラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムを含有した水溶液を使用した。第2食品としては、表1に示す製品の水溶液を使用した。第3食品としては、ゴボウをすり潰してなるゴボウペーストを使用した。第1乃至第3食品を混合し、この混合物を室温で攪拌して、均質な食品組成物を得た(実施例1-1乃至1-6)。
【0088】
食品組成物におけるカラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムの濃度は、それぞれ、0.3質量%、0.2質量%及び0.2質量%とした。食品組成物における蛋白質の濃度は3質量%とした。ゴボウの量は、食品組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0089】
また、第2食品において蛋白質を使用する代わりにゲル化剤であるカードランを使用し、食品組成物におけるカードランの濃度を1.2質量%としたこと以外は、実施例1-1乃至1-5と同様の方法により、食品組成物を調製した(実施例1-6)。
【0090】
また、第2食品を省略したこと以外は、実施例1-1乃至1-6と同様の方法により、食品組成物を調製した(比較例1-1)。更に、第2食品として、加熱することにより不可逆的に固化しないもの、具体的には、カゼイン水溶液を使用したこと以外は、実施例1-1乃至1-6と同様の方法により、食品組成物を調製した(比較例1-2)。
【0091】
次に、これら食品組成物を、恒温槽を用いて、90℃で14分間の熱処理に供した。なお、この熱処理条件は、カゼイン以外の蛋白質が熱変性するのに十分な条件である。また、この熱処理条件は、カードランが不可逆的にゲル化するのに十分な条件である。
【0092】
続いて、これらの各々を50℃まで冷却し、この食品組成物と武蔵エンジニアリング製ディスペンサ方式の3Dプリンタ装置とを用いて造形物を製造した。ここでは、中心から外周までの距離が一旋回当たり2mm増加する渦形状のパターンを各々が有する複数のレイヤーが積層されるように、3Dプリンタ装置の動作を制御した。また、ここでは、ノズルにおける食品組成物の温度が45℃となり、ノズルから吐出した食品組成物が30℃まで速やかに冷却されるように温度管理した。
【0093】
このようにして得られた実施例1-1乃至1-6の造形物及び比較例1-2の造形物を撮像した。図2及び図3に、それぞれ、実施例1-1の造形物及び比較例1-2の造形物の写真を示す。
【0094】
また、このようにして得られた写真から、食品組成物の保形性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1では、渦を構成する線が形状を保持していたものを「○」とし、渦を構成する線が形状を保持していなかったものを「×」としている。
【0095】
また、熱処理した上記食品組成物の48℃における硬さを、テクスチャメータで測定した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例1-1乃至1-6の造形物では、図2に示すように、渦を構成する線は形状を保持しており、これら造形物の製造に使用した食品組成物は十分な保形作用を有することが確認できた。これに対し、比較例1-1の造形物は、形状を維持できておらず、硬さの測定ができなかった。また、比較例1-2の造形物では、図3に示すように、渦を構成する線が繋がっており、これに使用した食品組成物は保形性が不十分であることが確認された。これは、カゼインは加熱によって固化せず、表1に示すように比較例1-2では造形時に十分な固さが得られなかった、保形作用を示さなかったからであると考えられる。
【0098】
(実施例2:第1食品が含むゲル化剤が成形性に及ぼす影響に関する確認試験)
第1食品が含むゲル化剤の種類が異なる複数の食品組成物を調製し、それらを用いて軟質食品を造形した。そして、これら造形物について、ゲル化剤による保形作用の有無を評価する試験を行った。
【0099】
具体的には、第1食品として、表2に示す製品の水溶液を使用した。第2食品としては、卵白と乳蛋白とを含んだ水溶液を使用した。第3食品としては、ゴボウをすり潰してなるゴボウペーストを使用した。第1乃至第3食品を混合し、この混合物を室温で攪拌して、均質な食品組成物を得た(実施例2-1乃至2-4)。なお、実施例2-3及び2-4では、それぞれ、塩化カリウム及び乳酸カルシウムを上記混合物に添加した。
【0100】
食品組成物における卵白由来の蛋白質及び乳蛋白の濃度は、それぞれ、0.8質量%及び2質量%とした。ゴボウの量は、食品組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0101】
また、第1食品を省略したこと以外は、実施例2-1及び2-2と同様の方法により、食品組成物を調製した(比較例2-1)。
【0102】
次に、これら食品組成物を、恒温槽を用いて、90℃で14分間の熱処理に供した。なお、この熱処理条件は、蛋白質が熱変性するのに十分な条件である。
【0103】
続いて、これらの各々を表2に示す造形時温度まで冷却し、この食品組成物と武蔵エンジニアリング製ディスペンサ方式の3Dプリンタ装置とを用いて造形物を製造した。ここでは、幅方向に並んだ複数の線からなるパターンを各々が有する7つのレイヤーが積層されるように、3Dプリンタ装置の動作を制御した。また、ここでは、ノズルにおける食品組成物の温度が表2に示す造形時温度となり、ノズルから吐出した食品組成物が30℃まで速やかに冷却されるように温度管理した。
【0104】
その後、各レイヤーの保形性を観察することにより、線の保形性を評価した。ここでは、線状の形状を維持し且つ滑らかな表面を有しているものを「○」とし、線状の形状を維持していないものを「×」とした。結果を、表2の「線の保形性」の欄に示す。
【0105】
また、手で持ち上げることにより、レイヤー間の接着性を評価した。ここでは、持ち上げたときに多層構造を維持できたものを「○」とし、多層構造を維持できなかったものを「×」とした。結果を、表2の「レイヤー間の接着性」の欄に示す。
【0106】
更に、造形物の硬さをテクスチャメータで測定した。結果を表2に示す。
なお、表2において、「三次元造形への適応性」と題した欄では、造形時温度を適切に設定した場合に「線の保形性」及び「レイヤー間の接着性」の双方が「○」となったものを「○」とし、それ以外を「×」としている。
【0107】
【表2】
【0108】
表2に示すように、実施例2-1乃至2-4では、ゲル化剤の種類に応じて造形時の温度を適切に設定すれば、良好な保形性及び良好なレイヤー間の接着性を達成でき、三次元造形が可能であった。比較例2-1は、ゲル化剤を添加していなかったことから、保形作用がなく、三次元造形に適さないことが分かった。
【0109】
(実施例3:ユニバーサルデザインフード区分1の軟質食品造形試験)
ユニバーサルデザインフードの区分では、柔らかい区分の方が、硬い区分と比較して造形が容易である。そこで、ユニバーサルデザインフード区分では最も硬い区分である区分1の軟質食品の造形試験を行った。
【0110】
具体的には、第1食品として、Kappaカラギーナンを含有した水溶液を使用した。Kappaカラギーナンとしては、表3に示すように、GENUGEL carrageenan type WR-78-J及びWR-80-J(何れも三晶株式会社製)を使用した。第2食品としては、卵白と乳蛋白とを含んだ水溶液を使用した。第3食品としては、ゴボウをすり潰してなるゴボウペーストを使用した。これら第1乃至第3食品と塩化カリウムとを混合し、この混合物を室温で攪拌して、均質な食品組成物を得た(実施例3-1乃至3-5)。
【0111】
食品組成物における卵白由来の蛋白質及び乳蛋白の濃度は、それぞれ、0.8質量%及び2質量%とした。ゴボウの量は、食品組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0112】
次に、これら食品組成物を、恒温槽を用いて、90℃で14分間の熱処理に供した。なお、この熱処理条件は、蛋白質が熱変性するのに十分な条件である。
【0113】
続いて、これらの各々を冷却し、この食品組成物と武蔵エンジニアリング製ディスペンサ方式の3Dプリンタ装置とを用いて造形物を製造した。ここでは、線状のパターンが形成されるように、3Dプリンタ装置の動作を制御した。また、ここでは、ノズルにおける食品組成物の温度が表3に示す吐出温度となり、ノズルから吐出した食品組成物が速やかに30℃まで冷却されるように温度管理した。
【0114】
その後、このようにして得られた造形物の外観を目視で評価した。線状の形状を維持し、滑らかな表面を有しているものを「○」とし、線状の形状を維持していないか又は滑らかな表面を有していないものを「×」とした。
【0115】
また、上記と同様の条件で、幅方向に並んだ複数の線からなるパターンを各々が有する複数のレイヤーが積層されるように、造形物を製造した。そして、実施例2と同様の方法により、レイヤー間の接着性を評価した。更に、造形物の硬さをテクスチャメータで測定した。
以上の結果を表3に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
表3に示すように、実施例3-1乃至3-4では、ユニバーサルデザインフードの区分1の硬さの範囲の軟質食品を造形することができた。これら実施例では、食品組成物は滑らかに吐出され、線同士の接着性も良好であり、三次元造形への適応性は良好であった。また、実施例3-5では、区分1の上限を僅かに超える硬さであるが、吐出された食品組成物からなる線の形状及び線同士の接着性は良好であり、三次元造形への適応性は良好であると判断された。
【0118】
(実施例4:凝固温度の異なる2種類のゲル化剤を用いた処方による造形試験)
先ず、第1食品が含むゲル化剤の凝固温度よりも高い温度に加熱することにより液化するゲル化剤を用いて第2食品を調製した。また、第1食品が含むゲル化剤の凝固温度よりも高い温度に加熱することにより凝固する熱硬化性ゲル化剤を用いて第2食品を調製した。次いで、それらを用いて軟質食品を造形した。そして、これらの造形物について、ゲル化剤による保形作用を評価する試験を行った。
【0119】
具体的には、第1食品として、カラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムを含有した水溶液を使用した。第2食品としては、表4に示す製品の水溶液を使用した。第3食品としては、ゴボウをすり潰してなるゴボウペーストを使用した。第1乃至第3食品を混合し、この混合物を室温で攪拌して、均質な食品組成物を得た(実施例4-1乃至4-3)。
【0120】
食品組成物におけるカラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムの濃度は、それぞれ、0.3質量%、0.2質量%及び0.2質量%とした。ゴボウの量は、食品組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0121】
また、第2食品に含まれるゲル化剤として、加熱時にゲル化し、冷却時にはゾル化するゲル化剤であるメチルセルロースを使用したこと以外は、実施例4-1乃至4-3と同様の方法により、食品組成物を調製した(比較例4-1)。
【0122】
次に、これら食品組成物を、恒温槽を用いて、90℃で14分間の熱処理に供した。なお、この熱処理条件は、実施例4-1乃至4-3において第2食品に使用したゲル化剤が可逆的に液化するのに十分な条件である。そして、この熱処理条件は、比較例4-1において第2食品に使用したゲル化剤が可逆的に凝固するのに十分な条件である。
【0123】
続いて、これらの各々を表4に示す造形時温度まで冷却し、この食品組成物と武蔵エンジニアリング製ディスペンサ方式の3Dプリンタ装置とを用いて造形物を製造した。ここでは、幅方向に並んだ複数の線からなるパターンを各々が有する7つのレイヤーが積層されるように、3Dプリンタ装置の動作を制御した。また、ここでは、ノズルにおける食品組成物の温度が表4に示す造形時温度となり、ノズルから吐出した食品組成物が30℃まで速やかに冷却されるように温度管理した。
【0124】
その後、各レイヤーの保形性を観察することにより、線の保形性を評価した。ここでは、線状の形状を維持し且つ滑らかな表面を有しているものを「○」とし、線状の形状を維持していないものを「×」とした。結果を、表4「線の保形性」の欄に示す。
【0125】
また、手で持ち上げることにより、レイヤー間の接着性を評価した。ここでは、持ち上げたときに多層構造を維持できたものを「○」とし、多層構造を維持できなかったものを「×」とした。結果を、表4の「レイヤー間の接着性」の欄に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表4に示すように、実施例4-1乃至4-3では、第2食品として添加するゲル化剤の種類に応じて造形時の温度を適切に設定すれば、良好な保形成及び良好なレイヤー間の接着性を達成でき、三次元造形が可能であった。比較例4-1の食品組成物は、第2食品が含むメチルセルロースの性質に由来して、冷却時にゾル化を生じてしまい、レイヤー間の接着性が不十分となり、三次元造形には適さなかった。
【0128】
(実施例5:蛋白質を第2食品とした処方の造形可能温度確認試験)
高温域での造形について、第2食品に可逆的に液化するゲル化剤を使った場合には、造形可能温度の上限は第2食品の液化温度に依存するため、適切なゲル化剤を選択する必要があるが、タンパク質を第2食品とすれば高温域での造形が可能である。そこで、蛋白質を第2食品とした処方での造形可能温度域について、造形試験を行った。
【0129】
第1食品として、カラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムを含有した水溶液を使用した。第2食品としては、表5に示す製品の水溶液を使用した。第3食品としては、ゴボウをすり潰してなるゴボウペーストを使用した。第1乃至第3食品を混合し、この混合物を室温で攪拌して、均質な食品組成物を得た。
【0130】
食品組成物におけるカラギーナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムの濃度は、それぞれ、0.3質量%、0.2質量%及び0.2質量%とした。ゴボウの量は、食品組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0131】
次に、これら食品組成物を、恒温槽を用いて、90℃で14分間の熱処理に供した。なお、この熱処理条件は、表5に示す蛋白質が熱変性するのに十分な条件である。
【0132】
続いて、これらの各々を表5に示す造形時温度まで冷却し、この食品組成物と武蔵エンジニアリング製ディスペンサ方式の3Dプリンタ装置とを用いて造形物を製造した。ここでは、幅方向に並んだ複数の線からなるパターンを各々が有する7つのレイヤーが積層されるように、3Dプリンタ装置の動作を制御した。また、ここでは、ノズルにおける食品組成物の温度が表5に示す造形時温度となり、ノズルから吐出した食品組成物が30℃まで速やかに冷却されるように温度管理した。
【0133】
その後、各レイヤーの保形性を観察することにより、線の保形性を評価した。ここでは、線状の形状を維持し且つ滑らかな表面を有しているものを「○」とし、線状の形状を維持していないものを「×」とした。結果を、表5の「線の保形性」の欄に示す。
【0134】
また、手で持ち上げることにより、レイヤー間の接着性を評価した。ここでは、持ち上げたときに多層構造を維持できたものを「○」とし、多層構造を維持できなかったものを「×」とした。結果を、表5の「レイヤー間の接着性」の欄に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
表5に示すように、蛋白質の添加量を増やした実施例5-2では、80℃での造形が可能であった。このように、蛋白質の添加量を保形に十分な量とすることにより、高い温度域でも造形が可能となることが分かった。
【0137】
なお、本発明は、上述した具体例に限定されず、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で適宜変更してもよい。
以下に、当初の請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、加熱することにより不可逆的に固化する第2食品と
を含み、
前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
[2]
前記第2食品が不可逆的に固化する前記温度に加熱した後、冷却することにより固化させた場合に、5×10 N/m 以下の硬さを有する項1に記載の食品組成物。
[3]
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品との混合物を形成している固体である第2食品と
を含み、
第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
[4]
冷却することにより固化させた場合に、5×10 N/m 以下の硬さを有する項3に記載の食品組成物。
[5]
三次元造形又は押出成形された軟質食品の製造のための食品組成物であって、
第1液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、前記第1液化温度よりも高い第2液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第2食品と
を含み、
前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1液化温度以上であり且つ前記第2液化温度よりも低い第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1液化温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する食品組成物。
[6]
冷却することにより固化させた場合に、5×10 N/m 以下の硬さを有する項5に記載の食品組成物。
[7]
前記第1食品はゲル化剤を含んだ項1乃至6の何れか1項に記載の食品組成物。
[8]
前記第2食品は蛋白質を含んだ項1乃至7の何れか1項に記載の食品組成物。
[9]
前記第2食品は熱硬化性ゲル化剤を含んだ項1乃至8の何れか1項に記載の食品組成物。
[10]
項1に記載の食品組成物を、前記第2食品が不可逆的に固化する温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
[11]
項3に記載の食品組成物を前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
[12]
項5に記載の食品組成物を、前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1温度で射出することと、
射出された前記食品組成物を前記第2温度へ冷却することと
を含んだ軟質食品の製造方法。
[13]
三次元造形又は押出成形された軟質食品であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、加熱することにより不可逆的に固化した第2食品と
を含み、
第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する軟質食品。
[14]
三次元造形又は押出成形された軟質食品であって、
加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品との混合物を形成している固体である第2食品と
を含み、
第1温度へ加熱した場合に流動性を呈し、前記第1温度から前記第1温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する軟質食品。
[15]
三次元造形又は押出成形された軟質食品であって、
第1液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第1食品と、
前記第1食品と混合された、前記第1液化温度よりも高い第2液化温度以上の温度に加熱することによって可逆的に液化する第2食品と
を含み、
前記第2液化温度以上の温度に加熱した後、前記第1液化温度以上であり且つ前記第2液化温度よりも低い第1温度では流動性を呈し、前記第1温度から前記第1液化温度よりも低い第2温度へ冷却することにより固化する軟質食品。
[16]
組成が異なる複数の領域を含んだ項13乃至15の何れか1項に記載の軟質食品。
[17]
中空構造を有している項13乃至16の何れか1項に記載の軟質食品。
【符号の説明】
【0138】
1…3Dプリンタ、10…卓上型ロボット、11…テーブル、12…第1移動機構、13…第2移動機構、14…第3移動機構、15…キャリッジ、16…ノズルヘッド、17…貯留容器、20…ディスペンスコントローラ、30A…ケーブル、30B…チューブ。
図1
図2
図3