(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンド分散組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240819BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240819BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/04
C08K9/06
(21)【出願番号】P 2021522262
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019893
(87)【国際公開番号】W WO2020241404
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019101168
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】木本 訓弘
(72)【発明者】
【氏名】梅本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】柏木 健
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-179738(JP,A)
【文献】特開2013-117016(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128258(WO,A1)
【文献】特開2011-084609(JP,A)
【文献】特開2017-186234(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235599(WO,A1)
【文献】特開2016-044092(JP,A)
【文献】特開2005-001983(JP,A)
【文献】特開2010-126669(JP,A)
【文献】特許第5364588(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機分散媒と、前記有機分散媒中に分散しているナノダイヤモンド粒子と、脂肪酸エステル系分散剤と、を含
み、
溶媒の含有割合が90~99.9999質量%であり、溶媒の総量における前記有機分散媒の含有割合が60質量%以上であり、
前記ナノダイヤモンド粒子の平均分散粒子径が2~80nmであり、
前記脂肪酸エステル系分散剤の平均分子量Mpが3000~10000であるナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸エステル系分散剤の、温度200℃の空気雰囲気下で180分間維持したときの質量減少率が20%以下である請求項1に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸エステル系分散剤の酸価が40mgKOH/g以下である請求項1または2に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項4】
ヘイズ値が5以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項5】
前記有機分散媒のSP値が6.0~12.0(cal/cm
3)
1/2である請求項1~
4のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項6】
25℃における粘度が0.2~120mPa・sである請求項1~
5のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項7】
ナノダイヤモンド粒子の含有割合が0.01~5.0質量%である請求項1~
6のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【請求項8】
前記ナノダイヤモンド粒子が、下記式(I)で表される基がナノダイヤモンド粒子表面を修飾した表面修飾ナノダイヤモンドを含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
-X-R (I)
[式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、または-S-を示し、Xから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。Rは、一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【請求項9】
前記式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、または-O-C(=O)-を示す、請求項
8に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノダイヤモンド分散組成物に関する。より詳細には、本開示は、有機分散媒中にナノダイヤモンド粒子が分散した組成物に関する。本願は、2019年5月30日に日本に出願した特願2019-101168号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微細な物質は、バルク状態では発現し得ない新しい特性を有することが知られている。例えば、ナノダイヤモンド粒子(=ナノサイズのダイヤモンド粒子)は、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、樹脂などの結晶化を促進する作用などを有する。そのようなナノダイヤモンドの製造に関する技術については、例えば下記の特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-001983号公報
【文献】特開2010-126669号公報
【文献】特許5364588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ナノダイヤモンド粒子は、一般に、表面原子の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きく、凝集(aggregation)しやすい。これに加えて、ナノダイヤモンド粒子の場合、隣接結晶子の結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成する凝着(agglutination)という現象が生じ得る。そのため、ナノダイヤモンド粒子を一次粒子の状態で有機溶媒に分散させることは非常に困難であった。
【0005】
また、特許文献3には、ビーズミリング法で湿式分散処理を行うことの記載があるが、この方法ではSP値が11(cal/cm3)1/2以上である有機分散媒に分散させることしかできず、SP値が例えば11(cal/cm3)1/2未満の低SP値の有機分散媒に分散させることは困難であった。
【0006】
従って、本開示の目的は、SP値が低い有機分散媒にもナノダイヤモンド粒子の分散性に優れるナノダイヤモンド分散組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の分散剤を用いることにより、SP値が低い有機分散媒にもナノダイヤモンド粒子の分散性に優れるナノダイヤモンド分散組成物を得ることができることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0008】
すなわち、本開示は、有機分散媒と、上記有機分散媒中に分散しているナノダイヤモンド粒子と、脂肪酸エステル系分散剤と、を含むナノダイヤモンド分散組成物を提供する。
【0009】
上記脂肪酸エステル系分散剤は、温度200℃の空気雰囲気下で180分間維持したときの質量減少率が20%以下であることが好ましい。
【0010】
上記脂肪酸エステル系分散剤の酸価は40mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0011】
上記ナノダイヤモンド分散組成物中の上記ナノダイヤモンド粒子の平均分散粒子径は2~240nmであることが好ましい。
【0012】
上記ナノダイヤモンド分散組成物はヘイズ値が5以下であることが好ましい。
【0013】
上記有機分散媒のSP値は6.0~12.0(cal/cm3)1/2であることが好ましい。
【0014】
上記ナノダイヤモンド分散組成物は25℃における粘度が0.2~120mPa・sであることが好ましい。
【0015】
上記脂肪酸エステル系分散剤の平均分子量Mpは300以上であることが好ましい。
【0016】
上記ナノダイヤモンド分散組成物はナノダイヤモンド粒子の含有割合が0.01~5.0質量%であってもよい。
【0017】
上記ナノダイヤモンド粒子は、下記式(I)で表される基がナノダイヤモンド粒子表面を修飾した表面修飾ナノダイヤモンドを含むことが好ましい。
-X-R (I)
[式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、または-S-を示し、Xから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。Rは、一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【0018】
上記式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、または-O-C(=O)-を示すことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本開示のナノダイヤモンド分散組成物は、SP値が高い有機分散媒に加え、SP値が低い有機分散媒にもナノダイヤモンド粒子の分散性に優れる。また、脂肪酸エステル系分散剤は耐熱性が高く、本開示のナノダイヤモンド分散組成物は高温環境下における分散安定性にも優れる傾向がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の一実施形態に係るナノダイヤモンド分散組成物(ND分散組成物)は、有機分散媒と、上記有機分散媒中に分散しているナノダイヤモンド粒子(ND粒子)と、脂肪酸エステル系分散剤と、を少なくとも含む。
【0021】
上記ND分散組成物中におけるND粒子の平均分散粒子径(D50、メディアン径)は、2~240nmが好ましく、より好ましくは4~200nm、より好ましくは10~180nm、さらに好ましくは20~150nm、特に好ましくは25~80nmである。上記平均分散粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。上記ND分散組成物はND粒子の分散性に優れるため、上記範囲内の平均分散粒子径で有機分散媒中に分散することができる。
【0022】
上記ND分散組成物中のND粒子の含有割合は、例えば0.01~5.0質量%、好ましくは0.1~4.0質量%、より好ましくは0.25~3.0質量%、さらに好ましくは0.5~2.0質量%である。含有割合が上記範囲内であると、ND粒子の分散性がより優れる。
【0023】
上記ND分散組成物中の脂肪酸エステル系分散剤の含有量は、上記ND分散組成物中のND粒子の総量100質量部に対して、例えば10~10000質量部、好ましくは50~1000質量部、より好ましくは70~300質量部である。脂肪酸エステル系分散剤の含有量が上記範囲内であると、上記ND分散組成物中のND粒子の分散性によりいっそう優れる。なお、上記ND分散組成物は、ND粒子の含有割合が低くなるよう(例えば0.1~2000質量ppm)使用時に希釈される濃縮液であってもよく、上記濃縮液における脂肪酸エステル系分散剤の含有量は、上記ND分散組成物中のND粒子の総量100質量部に対して、1000~1000000質量部が好ましく、より好ましくは2000~100000質量部、特に好ましくは3000~50000質量部である。
【0024】
上記ND分散組成物中の溶媒の含有割合は、例えば90~99.9999質量%である。そして、溶媒の総量における有機分散媒の含有割合は、例えば60質量%以上、好ましくは70質量%以上、さら好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0025】
上記ND分散組成物は、ヘイズ値が5以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、特に好ましくは0.5以下である。上記ND分散組成物はND粒子の分散性に優れるため、上記ヘイズ値のND分散組成物を得ることができる。上記ヘイズ値は、JIS K 7136に基づいて測定することができる。
【0026】
上記ND分散組成物の25℃における粘度は、0.2~120mPa・sが好ましく、より好ましくは10~100mPa・s、さらに好ましくは20~90mPa・sである。上記ND分散組成物はND粒子の分散性に優れるため、上記粘度が上記範囲内においても有機分散媒中の分散性に優れる。上記粘度の測定の際の回転子および回転子の回転速度は、測定値に応じて適宜選択される。上記粘度は、例えば、EMS粘度計(商品名「EMS1000」、京都電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0027】
上記ND分散組成物は、ND粒子、脂肪酸エステル系分散剤、および有機分散媒のみからなるものであってもよく、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、脂肪酸エステル系分散剤以外の分散剤、界面活性剤、増粘剤、カップリング剤、防錆剤、腐食防止剤、凝固点降下剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、防腐剤、着色料などが挙げられる。なお、脂肪酸エステル系分散剤の含有割合は、上記ND分散組成物中の分散剤の総量に対して90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。上記その他の成分の含有割合は、上記ND分散組成物総量に対して、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。従って、ND粒子、脂肪酸エステル系分散剤、および有機分散媒の合計の含有割合は、上記ND分散組成物総量に対して、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0028】
(ナノダイヤモンド粒子)
上記ND粒子は、特に限定されず、公知乃至慣用のナノダイヤモンド粒子を用いることができる。上記ND粒子は、表面修飾されたND(表面修飾ND)粒子であっていてもよいし、表面修飾されていないND粒子であってもよい。なお、表面修飾されていないND粒子は、表面にヒドロキシ基(-OH)やカルボキシ基(-COOH)を有する。ND粒子は、一種のみを用いてもよいし二種以上を用いてもよい。
【0029】
上記表面修飾NDにおいてND粒子を表面修飾する化合物または官能基としては、例えば、シラン化合物、ホスホン酸イオン若しくはホスホン酸残基、末端にビニル基を有する表面修飾基、アミド基、カチオン界面活性剤のカチオン、ポリグリセリン鎖を含む基、ポリエチレングリコール鎖を含む基などが挙げられる。
【0030】
上記表面修飾NDにおいてND粒子を表面修飾する化合物または官能基は、有機基を含むことが好ましい。上記有機基は、より好ましくは炭素原子数が4以上(例えば4~25)の有機基、さらに好ましくは6以上(例えば6~22)の有機基、特に好ましくは炭素数8以上(例えば8~20)の有機基である。上記表面修飾する化合物または官能基が有機基(特に、炭素原子数が4以上の有機基)を含むと、上記有機基と有機分散媒との疎水性相互作用により、有機分散媒中のND粒子の分散性がより良好となる。上記有機基としては、例えば、置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の複素環式基、上記炭化水素基および/または上記複素環式基が2以上結合した基などが挙げられる。上記有機基の具体例としては、後述の式(I)におけるRとして例示および説明された一価の有機基における有機基が挙げられる。
【0031】
上記表面修飾NDにおいてND粒子を表面修飾する化合物または官能基としては、中でも、脂肪酸エステル系分散剤との組み合わせにより有機分散媒中の分散性により優れる観点から、下記式(I)で表される基が好ましい。すなわち、上記表面修飾NDは、下記式(I)で表される基がナノダイヤモンド粒子表面を修飾した表面修飾NDであることが好ましい。
-X-R (I)
[式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、または-S-を示し、Xから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。Rは、一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【0032】
上記Rにおける一価の有機基としては、例えば、置換または無置換の炭化水素基(一価の炭化水素基)、置換または無置換の複素環式基(一価の複素環式基)、上記一価の炭化水素基および/または上記一価の複素環式基が2以上結合した基などが挙げられる。上記結合した基は、直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。上記連結基としては、例えば、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、ホスフィン酸基、スルフィド結合、カルボニル基、有機基置換アミド基、有機基置換ウレタン結合、有機基置換イミド結合、チオカルボニル基、シロキサン結合、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。
【0033】
上記一価の有機基における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基などが挙げられる。
【0034】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基等のC1-22アルキル基(好ましくはC2-20アルキル基、より好ましくはC3-18アルキル基)などが挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等のC2-22アルケニル基(好ましくはC4-20アルケニル基、より好ましくはC8-18アルケニル基)などが挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等のC2-22アルキニル基(好ましくはC4-20アルキニル基、より好ましくはC8-18アルキニル基)などが挙げられる。
【0035】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等のC3-12シクロアルキル基;シクロヘキセニル基等のC3-12シクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基等のC4-15架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0036】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14アリール基(特に、C6-10アリール基)などが挙げられる。
【0037】
上記複素環式基を形成する複素環としては、芳香族性複素環、非芳香族性複素環が挙げられる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも一種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、これらの縮合環が挙げられる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)などが挙げられる。
【0038】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基としては、例えば、シクロへキシルメチル基、メチルシクロヘキシル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等のC7-18アラルキル基(特に、C7-10アラルキル基)、シンナミル基等のC6-10アリール-C2-6アルケニル基、トリル基等のC1-4アルキル置換アリール基、スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基などが挙げられる。
【0039】
上記一価の炭化水素基および/または上記一価の複素環式基が連結基を介して2以上結合した基としては、例えば、上記一価の炭化水素基および/または上記一価の複素環式基と、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルケニルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、オキセタニル基含有基、カルバモイル基、またはこれらの2以上が結合した基とが結合した基などが挙げられる。
【0040】
上記一価の有機基は置換基を有していてもよい。上記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;イソシアナート基;イソチオシアナート基などが挙げられる。また、上記一価の有機基は、活性水素を含む官能基(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、モノ置換アミノ基、チオール基、リン酸基など)を有しないことが好ましい。
【0041】
上記一価の有機基における炭素原子数は、4~25であることが好ましく、より好ましくは6~22、さらに好ましくは8~20である。上記炭素原子数が4以上であると、表面修飾基同士の立体障害が充分となり分散媒中で分散しやすい。上記炭素原子数が25以下であると、表面修飾基同士が絡まり合うのを抑制し、分散媒中で分散しやすい。
【0042】
上記一価の有機基としては、中でも、一価の置換または無置換の炭化水素基、一価の置換または無置換の炭化水素基とアルコキシ基とが結合した基、一価の置換または無置換の炭化水素基とジアルキルアミノ基とが結合した基が好ましい。
【0043】
上記Rは、直鎖状に炭素原子が4以上連続した炭化水素基を含むことが好ましい。このような炭化水素基としては、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の直鎖状アルキレン基;2-エチルヘキサメチレン基等の分岐鎖状アルキレン基;1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、3-ペンテニレン基等の直鎖状アルケニレン基;2-メチル-2-ブテニレン基等の分岐鎖状アルケニレン基;シクロヘキシル基等の炭素数4以上の脂環式炭化水素基;フェニル基等の炭素数6以上の芳香族炭化水素基;ピペリジン環等の炭素原子が4以上連続した構造を含む複素環式基などが挙げられる。
【0044】
式(I)中、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびケイ素原子からなる群より選択されるヘテロ原子の総量に対する炭素原子のモル比は、4.5以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは5.5以上である。上記モル比が4.5以上であるとにより、有機溶媒に対する分散性により優れる。上記モル比は、特に限定されないが、例えば、22以下であってもよく、20以下であってもよい。
【0045】
特に、上記式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、または-C(=O)-O-であることが好ましく、より好ましくは-Si-、-NH-、-O-、または-O-C(=O)-である。この場合、有機分散媒に対する分散性が優れる表面修飾NDをより容易に作製することができる。
【0046】
上記式(I)中、Xが-O-、-O-C(=O)-、または-C(=O)-O-である場合、Rは、一価の置換または無置換の炭化水素基であることが好ましく、炭素数8~20の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であることがより好ましい。
【0047】
上記式(I)中、Xが-NH-である場合、Rは、8~20個の炭素原子を含む一価の有機基であることが好ましい。また、Xが-NH-である場合、Rは、直鎖状に炭素原子が4以上連続した炭化水素基を含む一価の有機基であることが好ましい。
【0048】
上記式(I)中、Xが-Si-である場合、当該ケイ素原子には、ナノダイヤモンド粒子に結合する結合手、および上記式(I)中のRに結合する結合手以外に、さらに二つの結合手が存在する。上記二つの結合手は、同一または異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、他の上記式(I)で表される基におけるケイ素原子、後述のシラン化合物におけるケイ素原子、またはナノダイヤモンド粒子に、酸素原子を介して結合している。上記二つの結合手は、具体的には、同一または異なって、後述のOR1、OR2、またはナノダイヤモンド粒子に結合する。
【0049】
上記式(I)中、Xが-Si-である場合の上記表面修飾NDは、シラン化合物が表面に結合した表面修飾NDであることが好ましい。上記シラン化合物としては、加水分解性基および脂肪族炭化水素基を有することが好ましい。ND粒子の表面修飾に用いるシラン化合物は、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
【0050】
上記シラン化合物としては、中でも、下記式(1-1)で表される化合物を少なくとも含有することが好ましい。
【0051】
【0052】
上記式(1-1)中、R1、R2、R3は、同一または異なって、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示す。R4は炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す。
【0053】
上記R1、R2、R3における炭素数1~3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状または分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状または分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状または分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0054】
上記R4は、上記式(I)におけるRに相当し、一価の有機基を示す。上記一価の有機基は、好ましくは炭素数1以上の脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ラウリル、ミリスチル、イソミリスチル、ブチルオクチル、イソセチル、ヘキシルデシル、ステアリル、イソステアリル、オクチルデシル、オクチルドデシル、イソベヘニル基等の直鎖状または分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル、1-ブテニル、7-オクテニル、8-ノネニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基等の直鎖状または分岐鎖状アルケニル基;エチニル、プロピニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基等の直鎖状または分岐鎖状アルキニル基などが挙げられる。
【0055】
R4は、中でも、親油性がより高く、また、より大きな立体障害となり得ることから凝集抑制効果に優れ、より高度の分散性を付与することができる点で、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に好ましくは炭素数6以上の脂肪族炭化水素基である。なお、脂肪族炭化水素基の炭素数の上限は、例えば25、好ましくは20、より好ましくは12である。また、脂肪族炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基が好ましく、特に好ましくは直鎖状または分岐鎖状アルキル基である。
【0056】
R4は炭素数が4以上の脂肪族炭化水素基であると、有機分散媒に対する親和性を示し、また、より大きな立体障害となり得ることから凝集抑制効果に優れ、さらに、酸素原子を含む基(式(1)中のOR1’基とOR2’基)が有機分散媒に対する親和性を示すため、有機分散媒に対する親和性に優れ、有機分散媒中においてよりいっそう優れた分散性を発揮することができる。
【0057】
従って、シラン化合物により表面修飾されたND粒子(シラン化合物表面修飾ND粒子)としては、例えば、下記式(1)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子が挙げられる。
【0058】
【0059】
上記式(1)中、R4は、上記式(1)で表される基におけるRに相当し、一価の有機基を示す。R1’、R2’は同一または異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、または下記式(a)で表される基である。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する。
【0060】
【0061】
上記式(a)中、R4は、上記式(1)で表される基におけるRに相当し、一価の有機基を示す。R3、R5は同一または異なって、水素原子、または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示す。m、nは同一または異なって、0以上の整数を示す。なお、ケイ素原子から左にのびる結合手が酸素原子に結合する。また、波線が付された結合手はナノダイヤモンド粒子の表面に結合する。上記式(1)中のR4は式(1-1)中のR4に対応する。
【0062】
上記式(1)中のR1’、R2’、R3、R5における炭素数1~3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状または分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状または分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状または分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0063】
m、nは括弧内に示される構成単位の数であり、同一または異なって0以上の整数を示す。m、nが2以上である場合、2個以上の構成単位の結合方法としては、ランダム、交互、ブロックの何れであってもよい。
【0064】
上記シラン化合物表面修飾ND粒子は、上記式(1)で表される基以外にも、例えば下記式(1’)で表される基、その他の表面官能基(例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシ基等)などのその他の官能基を有していてもよい。上記その他の官能基は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。
【0065】
【0066】
上記式(1’)中、R1’、R4は上記に同じ。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する。
【0067】
表面処理を施す化合物としてシラン化合物(特に、上記式(1-1)で表される化合物)を使用した場合、上記化合物は、例えば上記式(1-1)中のOR1基、OR2基、OR3基などの加水分解性アルコキシシリル基が容易に加水分解してシラノール基を形成するため、例えばシラノール基のうちの1個がND粒子の表面に存在する水酸基と脱水縮合して共有結合を形成すると共に、残りの2個のシラノール基に、他のシラン化合物のシラノール基が縮合してシロキサン結合(Si-O-Si)を形成することができ、ND粒子に有機分散媒に対する親和性を付与することができ、有機分散媒中において、よりいっそう優れた分散性を発揮することができる。
【0068】
表面修飾NDを構成するND粒子は、ナノダイヤモンドの一次粒子を含むことが好ましい。その他、上記一次粒子が複数個凝集(凝着)した二次粒子を含んでいてもよい。また、表面修飾NDの表面には、上記表面修飾基以外にも、その他の表面官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)を一種または二種以上有していてもよい。
【0069】
上記表面修飾NDにおける、上記表面修飾基に対するNDの質量比[ND/表面修飾基]は、特に限定されないが、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは2.5以上である。また、上記質量比は、15.0以下であることが好ましく、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは7.0以下、特に好ましくは5.0以下である。上記質量比が0.5以上であると、ナノダイヤモンド材料としての特性を損ないにくい。上記質量比が15.0以下(特に、7.0以下)であると、上記表面修飾基の修飾度が充分となり、有機分散媒における分散性により優れる。上記質量比は、熱重量分析により測定される200℃から450℃の重量減少率に基づき、減少した重量を表面修飾基の質量として求められる。
【0070】
(有機分散媒)
上記有機分散媒としては、公知乃至慣用の有機溶媒を用いることができる。中でも、より低SP値の有機分散媒に対するND粒子の分散性に優れる観点から、SP値[ヒルデブラントによる溶解性パラメーター(δ)、25℃における、単位:(cal/cm3)1/2]が6.0~12.0であることが好ましく、より好ましくは6.0以上11.0未満である。特に、上記ND分散組成物は、脂肪酸エステル系分散剤を配合することでND粒子の分散性が低い有機溶媒を用いた場合であってもND粒子の分散性が優れることから、上記SP値が、好ましくは8.2以下(例えば6.0~8.2)または9.0以上(例えば9.0~12.0)、より好ましくは8.0以下(例えば6.5~8.0)または9.2以上(例えば9.2~12.0、好ましくは9.2以上11.0未満)である有機分散媒であることが好ましい。上記有機分散媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。なお、二種以上の有機分散媒を用いる場合、二種以上の有機分散媒の混合物のSP値が上記範囲であることが好ましく、それぞれの有機分散媒のSP値は上記の範囲外であってもよい。
【0071】
上記有機分散媒としては、例えば、ヘキサン(SP:7.0)等のアルカン;アセトン(SP:10.0)、メチルエチルケトン(MEK、SP:9.3)、メチルイソブチルケトン(MIBK、SP:8.4)等のケトン;ジオキサン(SP:9.8)、テトラヒドロフラン(SP:9.1)等のエーテル;n-プロパノール(SP:11.9)、イソプロパノール(IPA、SP:11.5)、ヘキサノール(SP:10.7)、シクロヘキサノール(SP:11.4)等のアルコール;酢酸エチル(SP:9.1)、ポリオールエステル(SP:9.6)等のエステル;トルエン(SP:8.8)、アルキルベンゼン(SP:7.6)等の芳香族化合物;クロロホルム(SP:9.3)、塩化メチレン(SP:9.7)、二塩化エチレン(SP:9.8)等のハロゲン化炭化水素;エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC=1/1:体積比)混合溶媒(SP:11.75)、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート(1/1/1:体積比)混合溶媒(SP:10.97)等のカーボネート化合物;ポリα-オレフィン(SP:6.0~8.0程度)等のポリオレフィン;鉱油(SP:6.0~8.0程度)、酢酸(SP:12.4)、アセトニトリル(SP:11.8)などが挙げられる。
【0072】
また、上記ND分散組成物を後述の潤滑剤として用いる場合、上記有機分散媒は潤滑基剤であってもよい。上記潤滑基剤としては、潤滑基剤として用いられる公知乃至慣用の有機溶媒を用いることができ、例えば、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル油、グリコール系合成油、ポリオレフィン系合成油、鉱油などが挙げられる。より具体的には、ポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブデン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、リン酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、GTL(Gas to Liquids)、鉱油などが挙げられる。中でも、摺動部材の摩耗量低減効果により優れる観点から、ポリオールエステル、ポリα-オレフィン、鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレングリコールが好ましい。
【0073】
(脂肪酸エステル系分散剤)
上記ND分散組成物は、脂肪酸エステル系分散剤を用いることで、有機分散媒中のND粒子の分散性が特に優れる。また、脂肪酸エステル系分散剤は耐熱性が高いため、熱による分解が起こりにくい。このため、上記ND分散組成物が使用中に昇温した場合や、高温環境下で使用された場合にも、上記ND分散組成物は高温環境下における分散安定性にも優れ、また変色も起こりにくい。さらに、脂肪酸エステル系分散剤は市販されており入手も容易であるため、煩雑な製造工程を経て製造する必要はなく、製造容易性に優れる。脂肪酸エステル系分散剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0074】
脂肪酸エステル系分散剤の酸価は、40mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは35mgKOH/g以下、さらに好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下、特に好ましくは6mgKOH/g以下である。また、上記酸価は、例えば0.1mgKOH/g以上、0.3mgKOH/g以上、0.5mgKOH/g以上であってもよい。上記酸価が40mgKOH/g以下(特に30mgKOH/g以下)であると、SP値の低い有機分散媒に対する分散性により優れる傾向がある。
【0075】
脂肪酸エステル系分散剤のアミン価は、5mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.1mgKOH/g以下、特に好ましくは0mgKOH/gである。
【0076】
脂肪酸エステル系分散剤は、平均分子量Mpが300以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上(例えば、1000~100000)、さらに好ましくは3000以上(例えば、3000~10000)である。上記平均分子量Mpが300以上であると、SP値の低い有機分散媒に対する分散性により優れる傾向がある。なお、上記平均分子量Mpは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0077】
脂肪酸エステル系分散剤は、温度200℃の空気雰囲気下で180分間維持したときの質量減少率(「200℃180分質量減少率」と称する場合がある)が20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下である。上記質量減少率が20%以下であると、上記ND分散組成物は耐熱性により優れ、高温環境下における分散安定性に優れる。上記質量減少率は、示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)により測定することができる。
【0078】
脂肪酸エステル系分散剤は、酸性官能基を有していてもよい。上記酸性官能基としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、およびこれらの塩が挙げられる。
【0079】
脂肪酸エステル系分散剤を構成する脂肪酸としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、およびこれらの塩が挙げられる。上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソノナン酸、アラキン酸等の脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、p-(t-ブチルブチル)安息香酸等の芳香族モノカルボン酸などが挙げられる。上記スルホン酸としては、例えば、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。上記脂肪酸は高級脂肪酸であることが好ましい。すなわち、脂肪酸エステル系分散剤は高級脂肪酸エステル分散剤であることが好ましい。上記脂肪酸は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0080】
脂肪酸エステル系分散剤のエステル成分を構成する化合物としては、例えば、プロピオラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル化合物;グリコールと二塩基酸の縮合物などが挙げられる。また、脂肪酸エステル系分散剤におけるポリエステルは、分子量が約300~9000であることが好ましく、より好ましくは400~6000である。
【0081】
脂肪酸エステル系分散剤は、市販品を用いることもできる。脂肪酸エステル系分散剤の市販品としては、例えば、商品名「アジスパー PA111」、商品名「アジスパー PN411」(以上、味の素ファインテクノ株式会社製)などが挙げられる。
【0082】
上記ND分散組成物は、ジルコニアを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ジルコニアを含む場合、ジルコニアは、上記ND粒子に付着していてもよいし、付着せずにND分散組成物中に分散していてもよい。ジルコニアの付着状態は、物理的付着(固着、接着など)であってもよいし、化学的付着(ND粒子または上記表面修飾基との共有結合、分子間力による結合、水素結合、イオン結合など)であってもよいし、これらの両方であってもよい。
【0083】
上記ND分散組成物中のジルコニアの含有割合は、100質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは20質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下である。上記ジルコニアの含有割合が100質量ppm未満であると、上記ND分散組成物を潤滑剤(特に初期なじみ用潤滑剤)として用いた場合になじみ面の形成性に優れ、被摺動部材上に容易になじみ面を形成することができる。また、なじみ面中へのジルコニウムの混入が抑制され、薄膜でも優れた摩耗抑制効果および摩擦低減効果を奏する。上記ジルコニアの含有割合の下限は、例えば0.02質量ppm、0.1質量ppmであってもよい。
【0084】
また、上記ND分散組成物中のジルコニアの含有割合は、0.01~7.5質量%であってもよく、0.1~6.0質量%、0.25~4.5質量%、または0.5~3.0質量%であってもよい。また、上記潤滑剤組成物中のジルコニアの含有割合は、例えば0.1~3000質量ppmであってもよく、0.2~1500質量ppm、0.5~750質量ppm、または1~150質量ppmであってもよい。上記ND分散組成物はND粒子の分散性に優れるため、このような二段階の含有割合においても有機分散媒(特に潤滑基剤)中の分散性に優れる。このため、例えば上記ND分散組成物中のジルコニアの含有割合について、流通時は0.01~7.5質量%とし、使用時は0.1~3000質量ppmとするなど、流通時と使用時とで異なるものとすることができる。
【0085】
ジルコニアの含有割合は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)によりZrを検出し、含有割合が既知である分散液を基準としてZrの検出量に基づき求めることができる。ジルコニアは、ND粒子の凝着体を解砕してND粒子をナノ分散させるために使用されるビーズミルに含まれるジルコニアビーズに由来してND分散組成物に混入することが多い。このため、ジルコニアビーズを用いたビーズミリングを行わない、あるいは、当該ビーズミリングを行う時間を最小限とすることで、ジルコニアの含有割合が低いND分散組成物を得ることができる。
【0086】
上記ND分散組成物は、例えば、微細なND粒子が有する特性を樹脂など(例えば、熱若しくは光硬化性樹脂や熱可塑性樹脂など)に付与する添加剤として好ましく使用することができる。上記ND粒子が有する特性としては、例えば、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、結晶化促進作用、デンドライト抑制作用などが挙げられる。そして、上記ND分散組成物を樹脂に添加して得られる組成物は、例えば、機能性ハイブリッド材料、熱的機能(耐熱、蓄熱、熱電導、断熱等)材料、フォトニクス(有機EL素子、LED、液晶ディスプレイ、光ディスク等)材料、バイオ・生体適合性材料、コーティング材料、フィルム(タッチパネルや各種ディスプレイなどのハードコートフィルム、遮熱フィルム等)材料、シート材料、スクリーン(透過型透明スクリーン等)材料、フィラー(放熱用フィラー、機械特性向上用フィラー等)材料、耐熱性プラスチック基板(フレキシブルディスプレイ用基板等)材料、リチウムイオン電池等材料として好ましく使用することができる。また、上記ND分散組成物は、その他、機械部品(例えば、自動車や航空機等)の摺動部などに適用する減摩剤または潤滑剤(初期なじみ用途、本潤滑用途等)として好ましく使用できる。
【0087】
上記初期なじみ用途の潤滑剤(初期なじみ用潤滑剤)は、摺動部材を有する機械の初期において、低摩擦面(なじみ面)を形成するために用いられるものである。初期なじみ用潤滑剤を使用することにより、例えば摺動部材表面の凹凸をならして平滑化したり、あるいは改質面を形成する。なじみ面の形成後には、初期なじみ用潤滑剤は洗浄などにより取り除かれ、本潤滑を行う潤滑剤を用いた摺動が行われる。ここで、本潤滑を行う潤滑剤とは、通常摺動部材の稼働中(機械の使用中)において除去されず摺動部に存在し続ける潤滑剤をいう。なお、上記初期なじみ用潤滑剤は、なじみ面の形成後、除去せずにそのまま若しくは一旦除去した後再度摺動部に供給して、本潤滑を行う潤滑剤として使用することもできる。
【0088】
(ナノダイヤモンド分散組成物の製造方法)
上記ND分散組成物は、例えば、上記有機分散媒中にND粒子および脂肪酸エステル系分散剤、さらに必要に応じてその他の成分を混合することで製造することができる。例えば、表面修飾ND粒子を用いた分散組成物は、有機分散媒中において、表面処理を施す化合物をND粒子に反応させる工程(修飾化工程)を経て製造することができる。この場合、修飾化工程に用いた溶媒をそのままND分散組成物における有機分散媒としてもよいし、修飾化工程の後に溶媒交換を行ってもよい。
【0089】
上記修飾化工程において、ND粒子中にND粒子が凝着して二次粒子を形成したND粒子凝集体が含まれる場合には、表面修飾を施す化合物とND粒子との反応を、ND粒子を解砕若しくは分散化しつつ行ってもよい。これにより、ND粒子凝集体を一次粒子にまで解砕することができ、ND一次粒子の表面を修飾することができ、ND分散組成物中のナノダイヤモンド粒子の分散性を向上することが可能となるからである。
【0090】
(1)修飾・分散化工程
まず、上記修飾化工程を、表面修飾を施す化合物とND粒子との反応を、ND粒子を解砕若しくは分散化しつつ行う場合(修飾・分散化工程)について説明する。修飾化工程における反応に供するND粒子と表面処理を施す化合物(特に、シラン化合物)との質量比(前者:後者)は、例えば2:1~1:20である。また、表面処理を施す際の上記有機分散媒中のND粒子の濃度は、例えば0.5~10質量%であり、上記化合物の濃度は、例えば5~40質量%である。
【0091】
表面処理のための反応時間は、例えば4~20時間である。また、上記反応は、発生する熱を、氷水などを用いて冷却しながら行うことが好ましい。
【0092】
ND粒子を解砕若しくは分散化する方法としては、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ジェットミルなどにより処理する方法が挙げられる。中でも、解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズなど)の存在下で超音波処理を施すことが好ましい。
【0093】
上記解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズなど)の直径は、例えば15~500μm、好ましくは15~300μm、特に好ましくは15~100μmである。
【0094】
(2)修飾化工程
上記式(I)で表される基を含む表面修飾NDを作製する修飾化工程は、ND分散組成物中へのジルコニアの混入を最小限とするために、ND粒子の解砕若しくは分散化とは別途行うことができる。上記表面修飾NDは、表面にヒドロキシ基またはカルボキシ基を有すND粒子が水にナノ分散した状態で、酸触媒の存在下、ND粒子と下記式(II)で表される化合物とを反応させて表面修飾ND粒子を得る工程(「反応工程」と称する場合がある)を有する製造方法により製造することができる。
R-X-H (II)
[式(II)中、XおよびRは、それぞれ、上記式(I)中におけるRおよびXに相当する。]
【0095】
上記反応工程では、表面にヒドロキシ基および/またはカルボキシ基を有するND粒子が水にナノ分散した状態で、ND粒子と上記式(II)で表される化合物とを反応させ、ND粒子におけるヒドロキシ基および/またはカルボキシ基と上記式(II)で表される化合物における-Hと脱水縮合させることで表面修飾ND粒子を得る。
【0096】
上記反応工程は、ND粒子が水にナノ分散した状態、すなわちND粒子の水分散組成物中で行われる。上記水分散組成物におけるND粒子のメディアン径(D50)は、1~100nmであることが好ましく、より好ましくは1~50nm、さらに好ましくは1~10nmである。上記メディアン径が上記範囲内であると、ND粒子表面のヒドロキシ基および/またはカルボキシ基の量が多く、上記式(II)で表される化合物との反応がより多く進行する。また、得られる表面修飾ND粒子の分散性に優れる。
【0097】
上記酸触媒は、カルボン酸とアルコールのエステル化、アルコールとアミンの脱水縮合反応、アルコールとチオールの脱水縮合反応などに用いられる公知乃至慣用の酸触媒を用いることができる。上記酸触媒としては、例えば、スルホン酸基含有化合物、塩酸、硝酸、硫酸、無水硫酸、リン酸、ホウ酸、トリハロ酢酸(トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等)、これらの塩(アンモニウム塩等)、無機固体酸などが挙げられる。上記酸触媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0098】
上記酸触媒は、反応時に溶媒や基質に溶解し得る均一系触媒、反応時に溶解しない不均一系触媒のいずれの形態であってもよい。不均一系触媒としては、例えば、酸成分が担体に担持された担持型触媒が挙げられる。
【0099】
上記スルホン酸基含有化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸;10-カンファースルホン酸等の脂環式スルホン酸;ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、ヘキシルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、オクタデシルベンゼンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、ブチル-2-ナフタレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;スルホン酸型イオン交換樹脂、3-[トリオクチルアンモニオ]プロパン-1-スルホン酸-トリフルイミド、4-[トリオクチルアンモニオ]ブタン-1-スルホン酸-トリフルイミド、下記式(A)で表される化合物などが挙げられる。
【0100】
【0101】
上記無機固体酸としては、例えば、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、ゼオライト類、活性白土、モンモリロナイトなどが挙げられる。
【0102】
上記酸触媒としてのアンモニウム塩としては、例えば、下記式(B-1)で表されるアンモニウムイオンの塩、下記式(B-2)で表されるアンモニウムイオンの塩、下記式(B-3)で表されるアンモニウムイオンの塩、下記式(B-4)で表されるアンモニウムイオンの塩などが挙げられる。
【化6】
【0103】
上記式(B-1)中、RI~RIIIは、同一または異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を含む基を示す。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状または分岐鎖状C1-22炭化水素基が好ましい。上記芳香族炭化水素基を含む基としては、フェニル基等の芳香族炭化水素基;4-t-ブチルフェニル基、メシチル基等の肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基が結合した基などが挙げられる。中でも、上記RI~RIIIのうちの二以上が芳香族炭化水素基を含む基であることが好ましい。
【0104】
上記式(B-1)~(B-3)で表されるアンモニウムイオンのカウンターアニオンとなる酸アニオンとしては、スルホン酸イオンが好ましく、より好ましくは芳香族スルホン酸イオン、特に好ましくはp-ドデシルベンゼンスルホン酸イオンである。
【0105】
上記式(B-4)中、RiおよびRiiは、同一または異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を含む基を示す。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状または分岐鎖状C1-4炭化水素基が好ましい。上記芳香族炭化水素基を含む基としては、フェニル基等の芳香族炭化水素基、肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基が結合した基などが挙げられる。中でも、水素原子、メチル基、イソプロピル基、フェニル基が好ましい。
【0106】
上記式(B-4)で表されるアンモニウムイオンのカウンターアニオンとなる酸アニオンとしては、スルホン酸イオン、硫酸イオンが好ましく、特に好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸イオン、10-カンファースルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、硫酸イオンである。
【0107】
上記式(B-1)~(B-4)で表されるアンモニウムイオンのカウンターアニオンとなる酸アニオンは、酸基を形成する酸素原子と、上記式(B-1)~(B-4)中の窒素原子上の水素原子とで水素結合を形成して錯塩を形成していてもよい。上記錯塩は、アンモニウムカチオン1個と酸アニオン1個とで1つの塩を形成していてもよいし、アンモニウムカチオン2個と酸アニオン2個とで1つの塩を形成していてもよく、1つの塩を形成するアンモニウムカチオンと酸アニオンのそれぞれの個数は特に限定されない。また、1つの塩中において、酸アニオンは多量体を形成していてもよい。例えば、硫酸イオンを形成する硫酸は[H
2SO
4(SO
3)
X]で表される構造を形成していてもよい。酸アニオンと上記式(B-4)とで形成される錯塩としては、例えば下記式(C)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0108】
上記式(C)中、RiおよびRiiは、上記式(B-4)におけるものと同様である。
【0109】
上記酸触媒としては、中でも、上記反応工程における反応がより促進される観点から、スルホン酸基含有化合物、スルホン酸基含有化合物のアンモニウム塩が好ましい。
【0110】
反応に供するND粒子と上記式(II)で表される化合物との比率(前者:後者、質量比)は、例えば1:1~1:25である。また、水分散組成物中におけるND粒子の濃度は、例えば1~10質量%であり、水分散組成物中における上記式(II)で表される化合物の濃度は、例えば1~60質量%である。
【0111】
ND粒子と上記式(II)で表される化合物の反応条件は、例えば、温度0~100℃、反応時間1~48時間、圧力1~5atmの範囲内から適宜選択できる。
【0112】
以上のようにして、上記式(I)で表される基を含む表面修飾NDの水分散組成物が得られる。
【0113】
なお、ND粒子の分散性が比較的低い有機分散媒を用いたND分散組成物を得た場合、または、ND分散組成物を水分散組成物として得た場合、ND分散組成物中の分散媒を交換してもよい。例えば、ND粒子の分散性が比較的高いND分散組成物に分散剤を添加・撹拌し、エバポレーターなどでND分散組成物中の有機分散媒を留去した後、新たに有機分散媒を混合して撹拌することができる。ND粒子がナノ分散した分散組成物を一度得た後、ND粒子を乾燥粉体とすることなく有機分散媒を交換する方法を採用すること、また、交換前後の有機分散媒同士との濡れ性や溶解性を考慮して両有機分散媒を適宜選択することで、分散性が比較的低い有機分散媒中にND粒子がナノ分散しやすくなる。なお、分散剤の添加・撹拌は、分散媒の交換前後のいずれの段階で行ってもよい。また、分散媒の交換を行わない場合は得られたND分散組成物に添加して撹拌してもよい。
【0114】
以上のようにして、ND粒子が有機溶媒中に分散したND分散組成物が得られる。
【0115】
なお、上記ND粒子は、例えば爆轟法によって製造することができる。上記爆轟法には、空冷式爆轟法、水冷式爆轟法が挙げられる。中でも、空冷式爆轟法が水冷式爆轟法よりも一次粒子が小さいND粒子を得ることができる点で好ましい。
【0116】
爆轟は大気雰囲気下で行ってもよく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、二酸化炭素雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0117】
ND粒子の製造方法の一例を以下に説明するが、上記ND粒子は以下の製造方法によって得られるものに限定されない。
【0118】
(生成工程)
成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5~40m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲である。
【0119】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってND粒子が生成する。生成したND粒子は、隣接する一次粒子或いは結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体を形成する。
【0120】
生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粒子粗生成物(上述のようにして生成したND粒子の凝着体および煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粒子粗生成物を回収する。以上のような方法によって、ND粒子の粗生成物を得ることができる。また、以上のようなナノダイヤモンド生成工程を必要回数行うことによって、所望量のナノダイヤモンド粗生成物を取得することが可能である。
【0121】
(酸処理工程)
酸処理工程では、原料であるナノダイヤモンド粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させて金属酸化物を除去する。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器などに由来するFe、Co、Niなどの酸化物である。例えば水溶媒中で強酸を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、王水が挙げられる。上記強酸は、一種を用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1~50質量%である。酸処理温度は例えば70~150℃である。酸処理時間は例えば0.1~24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2~3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物における金属酸化物の含有量が少ない場合には、以上のような酸処理を省略してもよい。
【0122】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてND粒子粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるND粒子粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちND粒子結晶を形成しなかった炭素に由来する。ND粒子粗生成物に、水溶媒中で酸化剤を作用させることにより、ND粒子粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ND粒子表面にカルボキシ基やヒドロキシ基などの酸素含有基を導入することができる。
【0123】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、これらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば硫酸など)との混酸、これらの塩が挙げられる。中でも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0124】
上記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。なお、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、より好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、より好ましくは85/15、さらに好ましくは80/20である。上記混合割合が60/40以上であると、高沸点を有する硫酸の含有量が高いため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以上となり、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。上記混合割合が95/5以下であると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が多くなるため、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。
【0125】
酸化剤(特に、上記混酸)の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、より好ましくは20~40質量部である。また、上記混酸中の硫酸の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、より好ましくは15~30質量部である。また、上記混酸中の硝酸の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、より好ましくは5~8質量部である。
【0126】
また、酸化剤として上記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用してもよい。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上させることができる。上記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)などが挙げられる。触媒の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物100質量部に対して例えば0.01~10質量部程度である。
【0127】
酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。
【0128】
(アルカリ過水処理工程)
上記酸処理工程を経た後であっても、ND粒子に除去しきれなかった金属酸化物が残存する場合は、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。このような場合には、ND粒子に対して水溶媒中でアルカリおよび過酸化水素を作用させてもよい。これにより、ND粒子に残存する金属酸化物を除去することができ、凝着体から一次粒子の分離を促進することができる。この処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ過水処理において、アルカリの濃度は例えば0.1~10質量%であり、過酸化水素の濃度は例えば1~15質量%であり、処理温度は例えば40~100℃であり、処理時間は例えば0.5~5時間である。また、アルカリ過水処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。
【0129】
上記酸化処理工程あるいは上記アルカリ過水処理工程の後、例えばデカンテーションにより上澄みを除去することが好ましい。また、デカンテーションの際には、固形分の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上澄み液は着色しているが、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うことが好ましい。
【0130】
(解砕処理工程)
ND粒子には、必要に応じて、解砕処理を施してもよい。解砕処理には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどを使用することができる。なお、解砕処理は湿式(例えば、水などに懸濁した状態での解砕処理)で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。乾式で行う場合は、解砕処理前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0131】
(乾燥工程)
上記アルカリ過水処理工程の後、乾燥工程を設けることが好ましい。例えば、上記アルカリ過水処理工程を経て得られたND粒子含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーターなどを使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、ND粒子が得られる。
【0132】
また、ND粒子には、必要に応じて、気相にて酸化処理(例えば酸素酸化)や還元処理(例えば水素化処理)を施してもよい。気相にて酸化処理を施すことにより、表面にC=O基を多く有するND粒子が得られる。また、気相にて還元処理を施すことにより、表面にC-H基を多く有するND粒子が得られる。
【0133】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0134】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0135】
製造例1
(シラン化合物表面修飾ND粒子の作製)
まず、爆轟法によるナノダイヤモンドの生成工程を行った。本工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。この爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた(爆轟法によるナノダイヤモンドの生成)。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。
【0136】
上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対し、次に、酸処理工程を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85~100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0137】
次に、酸化処理工程を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸と1Lの69質量%硝酸とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140~160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0138】
次に、上述の水洗処理を経て得られたナノダイヤモンド含有液1000mLを、噴霧乾燥装置(商品名「スプレードライヤー B-290」、日本ビュッヒ株式会社製)を使用して噴霧乾燥に付した(乾燥工程)。これにより、50gのナノダイヤモンド粉体を得た。
【0139】
上記乾燥工程で得られたナノダイヤモンド粒子0.3gを反応容器に量り取り、MIBK13.5gおよびシラン化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1.2gを添加し10分間撹拌した。
【0140】
撹拌後、ジルコニアビーズ(東ソー株式会社製、登録商標「YTZ」、直径30μm)36gを添加した。添加後、氷水中で冷やしながら超音波分散機(型式「UP-400s」、ヒールッシャー社製)を用い、超音波分散機の振動子の先端を反応容器内の溶液に浸けた状態で20時間超音波処理して、ND粒子とシラン化合物を反応させた。最初は灰色であったが、徐々に小粒径化し分散状態もよくなり最後は均一で黒い液体となった。これは、ND粒子凝集体から順次にND粒子が解かれ(解砕)、解離状態にあるND粒子にシラン化合物が作用して結合し、シラン化合物により表面修飾されたND粒子がMIBK中で分散安定化しているためであると考えられる。このようにしてシラン化合物表面修飾ND分散液(MIBK分散液)が得られた。
【0141】
製造例2
(オレイルアミノ基表面修飾ND粒子の作製)
製造例1と同様にして爆轟法により得られたナノダイヤモンド粗生成物について、製造例1と同様にして酸処理工程および酸化処理工程を行った後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。その後、乾燥してND凝着体を粉体として得た。さらに、酸素約8体積%、窒素約92体積%の気体を流速20L/minで吹き込んだロータリーキルン中にて400℃、6時間加熱した。
【0142】
次に、上記ND凝着体を含むスラリー約30mlに、アンモニア水を用いてpHを10に調整した後に、ビーズミリング装置(商品名「並列四筒式サンドグラインダー LSG-4U-2L型」、アイメックス株式会社製)を使用してビーズミリングを行った。具体的には、100mlのミル容器であるベッセル(アイメックス株式会社製)に対して超音波照射後のスラリー30mlと直径30μmのジルコニアビーズとを投入して封入し、装置を駆動させてビーズミリングを実行した。このビーズミリングにおいて、ジルコニアビーズの投入量はミル容器の容積に対して例えば33体積%であり、ミル容器の回転速度は2570rpmであり、ミリング時間は3時間である。
【0143】
次に、上述のような解砕工程を経たスラリーについて、遠心分離装置を使用して遠心分離処理を行った(分級操作)。この遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は30分間とした。次に、当該遠心分離処理を経たND含有溶液の上清10mlを回収した。このようにして、ナノダイヤモンドが純水に分散するND水分散液を得た。このND水分散液について、固形分濃度は6.0質量%であり、pHは9.0であった。上述のようにして得られたND水分散液のメディアン径(粒径D50)は6.0nmであった。
【0144】
次に、上述の解砕工程を経て得られたND水分散液1gに、酸触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸0.5mmol、オレイルアミン2mmolを添加し、撹拌しつつ、80℃で8時間反応させた。反応終了後、トルエン10mLを添加し室温まで冷却した後、水および飽和食塩水による洗浄を行い、オレイルアミノ基で表面修飾されたND粒子のトルエン分散組成物を得た。
【0145】
製造例3
(オレイルオキシ基表面修飾ND粒子の作製)
製造例2と同様にして、解砕工程を経て得られたND水分散液1gに、酸触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸0.5mmol、オレイルアルコール2mmolを添加し、撹拌しつつ、80℃で24時間反応させた。反応終了後、トルエン10mLを添加し室温まで冷却した後、水及び飽和食塩水による洗浄を行い、オレイルオキシ基で表面修飾されたND粒子のトルエン分散組成物を得た。
【0146】
製造例4
(オレート基表面修飾ND粒子の作製)
製造例2と同様にして、解砕工程を経て得られたND水分散液1gに、酸触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸0.5mmol、オレイン酸2mmolを添加し、撹拌しつつ、100℃で24時間反応させた。反応終了後、トルエン10mLを添加し室温まで冷却した後、水及び飽和食塩水による洗浄を行い、オレート基で修飾された表面ND粒子のトルエン分散組成物を得た。
【0147】
実施例1~4
(ND分散組成物の作製)
上記製造例1で得られた表面修飾ND分散液10gに、分散剤0.2gを加えて撹拌した後、ロータリーエバポレーターによりMIBKを留去し、分散媒を加えて総重量を10gとした。このようにして、ND分散組成物を作製した。なお、ND分散組成物のナノダイヤモンド濃度は2質量%であった。ナノダイヤモンド濃度は、350nmにおける吸光度より求めた。実施例1~4で用いた分散剤および分散媒は下記の通りである。
実施例1
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価35mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp5200、200℃180分質量減少率17.8%)
分散媒:POE
実施例2
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価35mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp5200、200℃180分質量減少率17.8%)
分散媒:ヘキサン
実施例3
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:POE
実施例4
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)、分散媒:ヘキサン
【0148】
実施例5~10
(ND分散組成物の作製)
上記製造例2~4で得られた各種表面修飾ND分散液3gに、分散剤0.06gを加えて撹拌した後、ロータリーエバポレーターによりトルエンを留去し、分散媒を加えて総重量を3gとした。このようにして、ND分散組成物を作製した。なお、ND分散組成物のナノダイヤモンド濃度は2質量%であった。ナノダイヤモンド濃度は、350nmにおける吸光度より求めた。実施例5~10で用いた表面修飾ND、分散剤、および分散媒は下記の通りである。
実施例5
表面修飾ND:製造例2で得られたオレイルアミノ基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:POE
実施例6
表面修飾ND:製造例2で得られたオレイルアミノ基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:ヘキサン
実施例7
表面修飾ND:製造例3で得られたオレイルオキシ基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:POE
実施例8
表面修飾ND:製造例3で得られたオレイルオキシ基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:ヘキサン
実施例9
表面修飾ND:製造例4で得られたオレート基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:POE
実施例10
表面修飾ND:製造例4で得られたオレート基表面修飾ND
分散剤:高級脂肪酸エステル分散剤(酸価0.5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g、平均分子量Mp8100、200℃180分質量減少率12.1%)
分散媒:ヘキサン
【0149】
比較例1~5
分散剤および分散媒として下記のものを使用したこと以外は実施例1と同様にしてND分散組成物を作製した。なお、比較例1および2では分散剤を使用しなかった。
比較例1
分散媒:ヘキサン
比較例2
分散媒:POE
比較例3
分散剤:商品名「SOLSPERSE 20000」(ルーブリゾール社製、ポリエーテル系分散剤、200℃180分質量減少率:49.2%)
分散媒:POE
比較例4
分散剤:商品名「SNスパース 70」(サンノプコ株式会社製、不飽和炭化水素・飽和脂肪酸系分散剤、200℃180分質量減少率:32.3%)
分散媒:POE
比較例5
分散剤:商品名「SNスパース 70」(サンノプコ株式会社製、不飽和炭化水素・飽和脂肪酸系分散剤、200℃180分質量減少率:32.3%)
分散媒:ヘキサン
【0150】
(評価)
実施例および比較例で得られた各ND分散組成物および使用した分散剤について以下の通り評価した。評価結果は表に記載した。
【0151】
(1)ヘイズ値
実施例および比較例で得られたND分散組成物について、ヘイズ測定装置(商品名「ヘーズメーター 300A」、日本電色工業株式会社製)を使用して測定した。測定に供された各試料液は、超音波洗浄機による10分間の超音波洗浄を経たものである。試料液が充填されて測定に使用された測定用ガラスセルの厚さ(内寸)は1mmであって、測定に係る試料内光路長は1mmである。なお、表中の「-」は、測定を行わなかったことを示す。
【0152】
(2)D50
実施例および比較例で得られたND分散組成物を、分散媒を加えて0.1質量%に希釈し、ND粒子の粒度分布を、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)により測定した。
【0153】
(3)分散性
実施例および比較例で得られたND分散組成物を、分散媒を加えて0.1質量%に希釈し、下記の評価基準に基づいて目視で分散性の評価を行った。
○:透明であり凝集が見られない。
△:少し濁っているが凝集は確認できなかった。
×:濁っており、明らかな凝集が確認できた。
【0154】
(4)粘度
実施例および比較例で得られたND分散組成物について、EMS粘度計(商品名「EMS1000」、京都電子工業株式会社製)を使用して測定した。試験管にサンプル500μLとφ2mmアルミボールを入れ、温度25℃、回転数1000rpmとして測定した。
【0155】
(5)200℃180分質量減少率
実施例および比較例で使用した分散剤について、示差熱熱重量同時測定装置(商品名「TG-DTA 6200」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、下記の条件で200℃180分の質量減少率を測定した。
雰囲気:空気
温度:30℃より、昇温速度20℃/minで200℃まで昇温し、200℃到達後180分間保持
サンプルパン:石英
【0156】
【0157】
表1から分かるように、脂肪酸エステル系分散剤を用いたND分散組成物(実施例)は、SP値が低いヘキサンやPOE中において分散性が優れていた。一方、分散剤を使用しなかった場合(比較例1および2)、およびポリエーテル系分散剤(比較例3)や不飽和炭化水素・飽和脂肪酸系分散剤(比較例4および5)は、SP値が低いヘキサンやPOE中において分散性が劣っていた。
【0158】
また、実施例3で得られたND分散組成物40gを、撹拌子および温度計を備え、空気充填された三ツ口フラスコに投入し、加熱温度230℃(液温190~200℃)で17時間撹拌し、加熱後について、目視による変色の程度および酸価を評価したところ、酸価は0.43mgKOH/gであり、変色は確認できなかった。なお、分散剤を使用しなかった比較例2についても同様の試験を行ったところ、酸価は0.42mgKOH/gであり変色は確認できなかった。したがって、実施例3で得られたND分散組成物は、分散剤を使用しない場合と同程度の耐熱性を有すると評価される。なお、実施例4~10では実施例3と同じ分散剤を使用しており、また、実施例1および2で使用した分散剤の200℃180分質量減少率が実施例3で使用した分散剤と同程度であるため、実施例1、2、および4~10も実施例3と同程度の耐熱性を有するものと推測される。
【0159】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]有機分散媒と、前記有機分散媒中に分散しているナノダイヤモンド粒子と、脂肪酸エステル系分散剤と、を含むナノダイヤモンド分散組成物。
[付記2]前記脂肪酸エステル系分散剤の、温度200℃の空気雰囲気下で180分間維持したときの質量減少率が20%以下(好ましくは15%以下)である付記1に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記3]前記脂肪酸エステル系分散剤の酸価が40mgKOH/g以下(好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下、特に好ましくは6mgKOH/g以下)である付記1または2に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記4]前記脂肪酸エステル系分散剤の酸価が0.1mgKOH/g以上(好ましくは0.3mgKOH/g以上、より好ましくは0.5mgKOH/g以上)である付記1~3のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記5]前記ナノダイヤモンド粒子の平均分散粒子径が2~240nm(好ましくは4~200nm、より好ましくは10~180nm、さらに好ましくは20~150nm、特に好ましくは25~80nm)である付記1~4のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記6]ヘイズ値が5以下(好ましくは3以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下)である付記1~5のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記7]前記有機分散媒のSP値が6.0~12.0(cal/cm3)1/2(好ましくは6.0以上11.0未満)である付記1~6のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記8]25℃における粘度が0.2~120mPa・s(好ましくは10~100mPa・s、より好ましくは20~90mPa・s)である付記1~7のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記9]前記脂肪酸エステル系分散剤の平均分子量Mpが300以上(好ましくは1000以上(例えば、1000~100000)、より好ましくは3000以上(例えば、3000~10000))である付記1~8のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記10]前記脂肪酸エステル系分散剤のアミン価が5mgKOH/g以下(好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.1mgKOH/g以下、特に好ましくは0mgKOH/g)である付記1~9のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記11]ナノダイヤモンド粒子の含有割合が0.01~5.0質量%(好ましくは0.1~4.0質量%、より好ましくは0.25~3.0質量%、さらに好ましくは0.5~2.0質量%)である付記1~10のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記12]前記脂肪酸エステル系分散剤の含有量が、前記ナノダイヤモンド分散組成物中のナノダイヤモンド粒子の総量100質量部に対して、10~10000質量部(好ましくは50~1000質量部、より好ましくは70~300質量部)である、付記1~11のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記13]前記脂肪酸エステル系分散剤の含有量が、前記ナノダイヤモンド分散組成物中のナノダイヤモンド粒子の総量100質量部に対して、1000~1000000質量部(好ましくは2000~100000質量部、より好ましくは3000~50000質量部)である、付記1~12のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記14]脂肪酸エステル系分散剤の含有割合は、前記ナノダイヤモンド分散組成物中の分散剤の総量に対して、90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)である、付記1~13のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記15]ナノダイヤモンド粒子、脂肪酸エステル系分散剤、および有機分散媒の合計の含有割合は、前記ナノダイヤモンド分散組成物総量に対して、70質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上)である、付記1~14のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
【0160】
[付記16]前記ナノダイヤモンド粒子は有機基を含む化合物または官能基により表面修飾された表面修飾ナノダイヤモンド粒子を含む、付記1~15のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記17]前記有機基は、炭素原子数が4以上(例えば4~25)(好ましくは6以上(例えば6~22)、より好ましくは炭素数8以上(例えば8~20))の有機基である、付記16に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記18]前記ナノダイヤモンド粒子が、下記式(I)で表される基がナノダイヤモンド粒子表面を修飾した表面修飾ナノダイヤモンドを含む、付記1~17のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
-X-R (I)
[式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、または-S-を示し、Xから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。Rは、一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
[付記19]前記一価の有機基が、一価の置換または無置換の炭化水素基、一価の置換または無置換の炭化水素基とアルコキシ基とが結合した基、一価の置換または無置換の炭化水素基とジアルキルアミノ基とが結合した基である、付記18に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記20]前記一価の有機基中の炭素原子数が4~25(好ましくは6~22、より好ましくは8~20)である、付記18または19に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記21]前記式(I)中、Xは、-Si-、-NH-、-O-、-O-C(=O)-、または-C(=O)-O-(好ましくは、-Si-、-NH-、-O-、または-O-C(=O)-)を示す、付記18~20のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記22]前記式(I)中、Xが-O-、-O-C(=O)-、または-C(=O)-O-であり、Rが、一価の置換または無置換の炭化水素基(好ましくは炭素数8~20の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基である)、付記18~21のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記23]前記式(I)中、Xが-NH-であり、Rが、8~20個の炭素原子を含む一価の有機基である、付記18~22のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記24]前記式(I)中、Xが-NH-であり、Rが、直鎖状に炭素原子が4以上連続した炭化水素基を含む一価の有機基である、付記18~23のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記25]前記式(I)中、Rは、直鎖状に炭素原子が4以上連続した炭化水素基を含む、付記18~24のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記26]前記式(I)中、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびケイ素原子からなる群より選択されるヘテロ原子の総量に対する炭素原子のモル比は4.5以上(好ましくは5以上、より好ましくは5.5以上)である、付記18~25のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。