(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240819BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240819BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240819BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M50/451
H01M4/13
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021534018
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028031
(87)【国際公開番号】W WO2021015157
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019136301
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉾谷 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】森川 敬元
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0054829(KR,A)
【文献】特開2001-202965(JP,A)
【文献】特開2018-125216(JP,A)
【文献】特開2017-091701(JP,A)
【文献】特開2005-158627(JP,A)
【文献】特開平10-064549(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137376(WO,A1)
【文献】特開2007-280911(JP,A)
【文献】特開2002-329495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/451
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に設けられる耐熱層及び基材層を有するセパレータと、を有する電極体、及び非水電解質を備え、
前記正極は、正極活物質と、金属系粒子を100℃以上150℃以下で溶融する樹脂で被覆した樹脂被覆粒子とを含む正極合材層を備え、
前記金属系粒子は、4.3V(vs.Li/Li
+)以下で前記非水電解質に溶出する、金属粒子及び金属化合物粒子のうちの少なくともいずれか一方を含み、
前記金属系粒子の平均粒径は1μm超であり、前記樹脂被覆粒子の含有量は前記正極合材層の総量に対して0.5質量%以上10質量%未満であり、
前記耐熱層は、フィラーと結着材とを含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記金属系粒子の平均粒径は5μm以上50μm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記金属系粒子を被覆する前記樹脂の厚みは、0.05μm以上10μm以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記金属系粒子は、Cu、Sn及びZnのうちの少なくとも1つの金属粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、60℃を超える温度で充電状態にある正極活物質を還元する材料を、60℃を超える所定の温度で溶融する樹脂で被覆した還元剤を含む正極を用いた非水電解質二次電池が開示されている。そして、特許文献1には、当該非水電解質二次電池により、充電状態で高温環境下に晒された場合でも、電池の安全性を確保することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、非水電解質二次電池の高容量化、高エネルギー密度化等に伴い、より高い安全性を確保することが求められている。そして、より高い安全性を確保するため、充電状態で高温環境下に晒された非水電解質二次電池の電池温度の上昇を抑えることについて、更なる改善が求められている。
【0006】
そこで、本開示の目的は、充電状態で高温環境下に晒された非水電解質二次電池の電池温度の上昇を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に設けられる耐熱層及び基材層を有するセパレータと、を有する電極体、及び非水電解質を備え、前記正極は、正極活物質と、金属系粒子を100℃以上150℃以下で溶融する樹脂で被覆した樹脂被覆粒子とを含む正極合材層を備え、前記金属系粒子は、4.3V(vs.Li/Li+)以下で非水電解質に溶出する、金属粒子及び金属化合物粒子のうちの少なくともいずれか一方を含み、前記金属系粒子の平均粒径は1μm超であり、前記樹脂被覆粒子の含有量は前記正極合材層の総量に対して0.5質量%以上10質量%未満であり、前記耐熱層は、フィラーと結着材とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、充電状態で高温環境下に晒された非水電解質二次電池の電池温度の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の非水電解質二次電池に用いられる電極体の一例を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に設けられる耐熱層及び基材層を有するセパレータと、を有する電極体、及び非水電解質を備え、前記正極は、正極活物質と、金属系粒子を100℃以上150℃以下で溶融する樹脂で被覆した樹脂被覆粒子とを含む正極合材層を備え、前記金属系粒子は、4.3V(vs.Li/Li+)以下で非水電解質に溶出する、金属粒子及び金属化合物粒子のうちの少なくともいずれか一方を含み、前記金属系粒子の平均粒径は1μm超であり、前記樹脂被覆粒子の含有量は前記正極合材層の総量に対して0.5質量%以上10質量%未満であり、前記耐熱層は、フィラーと結着材とを含むものである。
【0011】
本開示の一態様である非水電解質二次電池によれば、充電状態で高温環境下に晒された際の電池温度の上昇を抑制することができる。当該効果を奏するメカニズムとしては、以下のことが推察される。本開示の電池が充電状態で高温環境下(例えば100℃以上)に晒された際には、樹脂被覆粒子の樹脂が溶融し、金属系粒子が露出する。金属系粒子は、充電状態の正極の電位で非水電解質に溶出し、対向する負極上に析出する。負極上に析出する析出物は成長して、セパレータを通り、正極に到達して、正負極間で微小短絡が起こる。この微小短絡により、充電状態の電池のエネルギーが徐々に低下して、高温環境下での電池温度の上昇が抑制される。
【0012】
ここで、耐熱層を有しないセパレータを用いると、短絡時における正負極間の短絡電流によって、セパレータが溶融してしまうため、正負極間の短絡面積が拡大してしまう。その結果、短絡電流が増大するため、電池が発熱し、電池温度の上昇を十分に抑制できない。一方、本開示の電池は、耐熱層を有するセパレータを採用しているため、短絡時における正負極間の短絡電流によるセパレータの溶融が抑えられ、短絡電流の増大が抑えられる。すなわち、本開示は、樹脂被覆粒子を用いた正負極間の短絡だけでなく、耐熱層を有するセパレータとの組合せによって、短絡度合いを制御するという考えに基づくものであり、そのような考えは従来にない顕著なものである。
【0013】
さらに、本開示では、金属系粒子の溶出電位、平均粒径、樹脂被覆粒子の含有量によっても、正負極間の短絡度合いの制御を行っている。例えば、4.3V(vs.Li/Li+)以下で溶出しない金属系粒子では、電池が充電状態で高温環境下に晒されても、正極から溶出し難く、対向する負極上に析出物が析出し難いため、正負極間での微小短絡が生起され難い。また、例えば、金属系粒子の平均粒径が1μm以下の小さい粒子では、負極上で析出する析出物が、正極に到達するまで成長できないため、正負極間で微小短絡が生起され難い。また、例えば、樹脂被覆粒子の含有量が0.1質量%と低いと、負極上で析出した析出物による正負極間の微小短絡点が少なく、効率的に短絡できない。また、例えば、樹脂被覆粒子の含有量が10質量%以上と高いと、負極上で析出した析出物による正負極間の微小短絡点が多くなり過ぎて、短絡電流が増大する。いずれの場合も、短絡度合いを制御できず、高温環境下での電池温度の上昇に繋がる。
【0014】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0015】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型電池)などが例示できる。
【0016】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0017】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で非水電解質二次電池10の内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0018】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0019】
図2は、
図1の非水電解質二次電池に用いられる電極体の一例を示す一部拡大断面図である。以下、
図2を用いて、正極、負極、セパレータについて説明する。
【0020】
[正極]
正極11は、正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、樹脂被覆粒子を含み、好ましくは導電材、及び結着材を更に含む。正極合材層は、正極集電体の両面に形成されることが好ましい。正極11は、例えば、正極集電体上に、正極活物質、樹脂被覆粒子、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合材層を正極集電体の両面に形成することにより作製できる。電池の高容量化の観点から、正極合材層の密度は、好ましくは3.6g/cc以上であり、より好ましくは3.6g/cc以上4.0g/cc以下である。
【0021】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni、Al等の金属元素を含有するリチウム金属複合酸化物が例示できる。リチウム金属複合酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0.95≦x≦1.2、0.8<y≦0.95、2.0≦z≦2.3)等が例示できる。
【0022】
樹脂被覆粒子は、金属系粒子と、金属系粒子の表面を被覆する樹脂層とを有する。樹脂層は、100℃以上150℃以下で溶融する樹脂を含む。金属系粒子は、4.3V(vs.Li/Li+)以下で溶出する、金属粒子及び金属化合物粒子のうちの少なくともいずれか一方を含む。
【0023】
4.3V(vs.Li/Li+)以下で溶出する、金属粒子及び金属化合物粒子としては、例えば、Cu、Sn、SnSO4、SnCl4、Bi、Bi2(SO4)3、BiCl3、Zn、ZnCl2、ZnSO4、Co、Ag2O、Pb、PbCl2、Fe、Fe2O3等が挙げられる。これらの中では、溶出速度が速く、早期に正負極間の微小短絡を生起することができる等の点で、Cu、Sn、Znが好ましい。
【0024】
金属系粒子の平均粒径は、正負極間の微小短絡を生起する点で、1μm超であればよいが、好ましくは5μm以上50μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。なお、平均粒径が50μmを超える場合でも、正負極間の微小短絡は生起される。しかしその場合、正極の電気抵抗が増大し、通常時における電池性能が低下する場合がある。金属系粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる体積平均粒径(Dv50)を意味する。
【0025】
100℃以上150℃以下で溶融する樹脂は、100℃以上150℃以下の範囲に融点を有する樹脂であり、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、低密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。なお、当然ながら、樹脂の融点は、結晶性、分子量、枝分かれ、密度等により変更可能である。
【0026】
100℃未満で溶融する樹脂を用いると、電池の通常動作時に、樹脂が溶融して、金属系粒子が露出して、正負極間の微小短絡が起こる場合がある。また、150℃を超える温度で溶融する樹脂を用いると、電池が高温環境時に晒された際に、樹脂の溶融、及びそれに伴う金属系粒子の溶出が遅れて、正負極間の微小短絡が起こる前に電池が発熱する場合がある。
【0027】
金属系粒子を被覆する樹脂の厚み(すなわち被覆層の厚み)は、例えば、電池が高温環境下に晒された際に速やかに金属系粒子を露出することができる点等で、0.05μm以上10μm以下が好ましく、0.1μm以上8μm以下がより好ましい。
【0028】
樹脂被覆粒子の含有量は、正負極間の微小短絡を生起する点で、正極合材層の総量に対して0.5質量%以上10質量%以下であればよいが、好ましくは1質量%以上9質量%以下の範囲であり、より好ましくは2質量%以上8質量%以下の範囲である。
【0029】
樹脂被覆粒子の作製方法としては、金属系粒子表面に樹脂を被覆することができる方法であれば如何なる方法でもよい。例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロンコスモスシステム(川崎重工業社製)、イノマイザーシステム(ホソカワミクロン社製)等の高速気流中衝撃法を応用した表面改質装置、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、メカノミル(岡田精工社製)等の乾式メカノケミカル法を応用した表面改質装置、ディスパーコート(日清エンジニアリング社製)、コートマイザー(フロイント産業社製)の湿式コーティング法を応用した表面改質装置等を使用することにより、金属系粒子表面に樹脂を被覆させた樹脂被覆粒子を作製することができる。
【0030】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の含フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。
【0031】
[負極]
負極12は、負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、例えば、負極活物質及び結着材を含み、負極集電体の両面に形成されることが好ましい。負極12は、負極集電体上に負極活物質及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0032】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のLiと合金化する金属、Si、Sn等の金属元素を含む酸化物、リチウムチタン複合酸化物等が挙げられる。なお、リチウムチタン複合酸化物を用いる場合には、負極合材層にカーボンブラック等の導電材が含まれることが好ましい。負極合材層に含まれる結着材は、正極11の場合と同様の材料が用いられる。
【0033】
[セパレータ]
図2に例示するように、セパレータ13は、基材層30と、基材層30上に配置された耐熱層32と、を有する。耐熱層32は、フィラーと結着材とを含む。
【0034】
図2に示す基材層30と耐熱層32は、正極11と負極12との間に配置されている。また、耐熱層32は、正極11と対向する基材層30の面に配置されている。すなわち、耐熱層32は、基材層30と正極11との間に配置されている。耐熱層32の配置は上記に限定されるものではなく、例えば、負極12と対向する基材層30の面に配置されていてもよい(すなわち、基材層30と負極12との間に配置されていてもよい)。また、耐熱層32は、例えば、基材層30の両面に配置されていてもよい(すなわち、基材層30と正極11との間及び基材層30と負極12との間に配置されていてもよい)。なお、耐熱層32は、基材層30上に形成し、電極と対向させることが望ましいが、正極11上や負極12上に形成し、基材層30と対向させてもよい。いずれにしろ、電極体14を組み立てた際に、耐熱層32及び基材層30とが正極11と負極12との間に配置されていればよい。
【0035】
基材層30は、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔質シート、例えば微多孔薄膜、織布、不織布等で構成される。基材層30を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとαオレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、セルロースなどが例示できる。基材層30は、例えばポリオレフィンを主成分として構成され、実質的にポリオレフィンのみで構成されてもよい。基材層30は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。基材層30の厚みは、特に限定されないが、例えば、3μm以上20μm以下が好ましい。
【0036】
基材層30の平均孔径は、イオン透過性等の点で、例えば0.02μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.03μm以上0.3μm以下であることがより好ましい。基材層30の平均孔径は、バブルポイント法(JIS K3832、ASTM F316-86)による細孔径測定ができるパームポロメーター(西華産業製)を用いて測定される。
【0037】
耐熱層32は、熱による基材層30の溶融を抑制する部材であり、基材層30上に配置される。耐熱層32に含まれるフィラーは、基材層30に使用される材料より耐熱性の高い材料から構成され、特に、非水電解質二次電池の使用電圧において安定に存在する材料から構成されることが好ましい。なお、非水電解質二次電池の使用電圧において安定に存在するとは、当該使用電圧において全く溶出しないこと、あるいは、非水電解質二次電池の機能を低下させる程度に溶出しないことをいう。
【0038】
フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素または窒化チタン等の金属窒化物、炭化ケイ素または炭化ホウ素等の金属炭化物等が挙げられる。また、フィラーは、ゼオライト(M2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O、Mは金属元素、x≧2、y≧0)等の多孔質アルミノケイ酸塩、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)等の層状ケイ酸塩、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の鉱物等でもよい。
【0039】
耐熱層32中のフィラーの含有量は、例えば、耐熱性向上の点等から、20質量%以上が好ましく、50質量%以上が好ましい。上限値は特に限定されないが、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0040】
耐熱層32の厚みは、例えば、5μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましく、特に1μm以上4μm以下であることがより好ましい。
【0041】
耐熱層32に含まれる結着材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとαオレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、PVdF、PTFE、ポリフッ化ビニル(PVF)等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリビニルアルコール、CMC、アクリルアミド、PVA、メチルセルロース、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム及びこれらの塩などが挙げられる。
【0042】
耐熱層32中の結着材の含有量は、例えば、耐熱層32の機械的強度、接着性等を高める等の点で、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
耐熱層32は、例えば、基材層30の表面に、フィラー、結着材等を含むスラリーを塗布、乾燥することにより形成される。スラリーの塗布方法は、例えば、グラビア印刷法等の従来公知の方法でよい。
【0044】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0045】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0046】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0047】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0048】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
[樹脂被覆粒子の作製]
粒径5μmの銅粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いた。
【0051】
[正極の作製]
N-メチルピロリドン(NMP)溶媒中、正極活物質としてのLiNi0.8Co0.15Al0.05O2と、導電材としてのカーボンブラックと、結着材としてのPVDF(平均分子量110万)と、上記樹脂被覆粒子とを、90:2.5:2.5:5の質量比で混合し、固形分70%の正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延して、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0052】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末を95質量部、負極活物質としてのSi酸化物を5質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)を1質量部、及び適量の水を混合した。当該混合物に、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)1.2質量部及び適量の水を添加混合して、負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延して、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。
【0053】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とからなる混合溶媒100質量部(体積比でEC:DMC=1:3)に、ビニレンカーボネート(VC)を5質量部添加し、さらに、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットル溶解して、電解液を調製した。
【0054】
[セパレータの作製]
粒径0.5μmのアルミナ(Al2O3)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、水とを、30:3:0.2:66.8の質量比で混合し、スラリーを調製した。基材層としてのポリエチレン製微多孔膜(膜厚:16μm、ガーレ値:156s/100mL、空孔径:0.06μm)の一方の面に、上記スラリーをグラビア方式で塗工した後、乾燥させて水分を除去することにより、基材層の一方の面に耐熱層が形成されたセパレータを作製した。耐熱層の厚みは2μmであった。
【0055】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極及び上記負極にそれぞれリード端子を取り付けた後、上記セパレータの耐熱層と正極とが対向するように、正極と負極との間にセパレータを介在させて巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。当該電極体をケース本体に収容し、負極に取り付けたリード端子をケース本体の底部に溶接し、正極に取り付けたリード端子を封口体に溶接した。そして、ケース本体内に上記電解液を注入した後、ケース本体を封口体で密閉して、非水電解質二次電池を作製した。作製した非水電解質二次電池の電池容量は2500mAhである。
【0056】
<実施例2>
樹脂被覆粒子の作製において、粒径10μmの銅粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0057】
<実施例3>
樹脂被覆粒子の作製において、粒径50μmの銅粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
<比較例1>
実施例2で作製した樹脂被覆粒子を用いたこと、耐熱層を形成していないポリエチレン製微多孔膜(膜厚:16μm、ガーレ値:156s/100mL、空孔径:0.06μm)をセパレータとして用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0059】
<比較例2>
樹脂被覆粒子を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0060】
<比較例3>
樹脂被覆粒子を用いなかったこと、耐熱層を形成していないポリエチレン製微多孔膜(膜厚:16μm、ガーレ値:156s/100mL、空孔径:0.06μm)をセパレータとして用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0061】
<比較例4>
樹脂被覆粒子の作製において、粒径1μmの銅粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0062】
<実施例4>
樹脂被覆粒子の作製において、粒径10μmの亜鉛粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
<実施例5>
正極の作製において、正極活物質と、導電材と、結着材と、実施例2で作製した樹脂被覆粒子とを、94.5:2.5:2.5:0.5の質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
<比較例5>
正極の作製において、正極活物質と、導電材と、結着材と、実施例2で作製した樹脂被覆粒子とを、94.9:2.5:2.5:0.1の質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
<比較例6>
正極の作製において、正極活物質と、導電材と、結着材と、実施例2で作製した樹脂被覆粒子とを、85:2.5:2.5:10の質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
<実施例6>
樹脂被覆粒子の作製において、粒径10μmの錫粒子の表面を、高速気流中衝撃法を用いて、低密度ポリエチレン樹脂で被覆し、厚さ3μmのポリエチレン層を形成した。これを樹脂被覆粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
[加熱試験]
各実施例及び各比較例の電池を、25℃の環境下で、0.3C(750mA)の電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流値が1/20C(125mA)になるまで定電圧充電を行った。充電後の電池を恒温槽内に静置し、恒温槽内の温度を150℃まで加熱した。そして、電池側面部の電池温度を測定して、その温度が恒温槽の温度に対して何℃上昇したかを求めた(オーバーシュート)。その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
正極合材層に、粒径10μmの銅粒子をポリエチレン樹脂で被覆した樹脂被覆粒子を5質量%含む実施例2及び比較例1において、耐熱層及び基材層を含むセパレータを用いた実施例2は、オーバーシュート温度が低く抑えられたが、耐熱層を設けていない基材層のみをセパレータとして用いた比較例1は、実施例2よりオーバーシュート温度が著しく上昇した。すなわち、実施例2は、充電状態で高温環境下に晒された非水電解質二次電池の電池温度の上昇が抑制された。実施例2では、正極から銅粒子が溶出し、負極上で析出した析出物によって、正負極間で微小短絡が起こっている。その結果、電池のエネルギーが徐々に低下して、オーバーシュート温度が低く抑えられたと考えられる。一方、比較例1でも、負極上で析出した析出物によって、正負極間で短絡が起こるが、耐熱層を有しないセパレータを用いているため、短絡時における正負極間の短絡電流によって、セパレータが溶融し、正負極間の短絡面積が拡大した。その結果、短絡電流が増大するため、電池が発熱し、オーバーシュート温度が高くなったものと推察される。
【0070】
また、正極合材層に樹脂被覆粒子を含まず、耐熱層及び基材層を含むセパレータを用いた比較例2も、実施例2よりオーバーシュート温度が上昇した。比較例2のように、樹脂被覆粒子が存在しないと、正負極間で微小短絡が起こらないため、電池は、高電圧で高温保持される。その結果、正極が発熱し、オーバーシュート温度が高くなったものと推察される。
【0071】
正極合材層に、粒径5μmの銅粒子をポリエチレン樹脂で被覆した樹脂被覆粒子を5質量%含む実施例1は、オーバーシュート温度が低く抑えられたが、正極合材層に、粒径1μmの銅粒子をポリエチレン樹脂で被覆した被覆樹脂を5質量%含む比較例4は、実施例1よりオーバーシュート温度が上昇した。実施例1のように、銅粒子の粒径が大きいと、正極から銅粒子が溶出し、負極上で析出した析出物によって、正負極間で微小短絡が起こるが、比較例4のように、銅粒子の粒径が1μm以下と小さいと、負極上で析出した析出物が、正極に到達するまで成長できず、正負極間で微小短絡が起こらないため、電池は、高電圧で高温保持される。その結果、比較例4では、正極が発熱し、オーバーシュート温度が高くなったものと推察される。
【0072】
正極合材層に、粒径5μmの銅粒子をポリエチレン樹脂で被覆した樹脂被覆粒子を0.5質量%含む実施例5は、オーバーシュート温度が低く抑えられたが、正極合材層に、粒径5μmの銅粒子をポリエチレン樹脂で被覆した被覆樹脂を0.1質量含む比較例5及び10質量%含む比較例6は、実施例5(及び実施例1)よりオーバーシュート温度が上昇した。比較例5のように、樹脂被覆粒子の含有量が0.1質量%と低いと、析出物による正負極間の微小短絡点が少なく、効率的に短絡できないため、電池は、高電圧で高温保持される。その結果、比較例5では、正極が発熱し、オーバーシュート温度が高くなったものと推察される。また、比較例6のように、樹脂被覆粒子の含有量が10質量%以上と高いと、析出物による正負極間の微小短絡点が多くなり過ぎて、短絡電流が増大する。その結果、比較例6では、電池が発熱し、オーバーシュート温度が高くなったものと推察される。
【0073】
正極合材層に、粒径10μmの亜鉛粒子をポリエチレン樹脂で被覆した樹脂被覆粒子を5質量%含む実施例4、正極合材層に、粒径10μmの錫粒子をポリエチレン樹脂で被覆した樹脂被覆粒子を5質量%含む実施例6は、銅粒子を用いたその他の実施例と同様に、オーバーシュート温度が低く抑えられた。実施例4及び5でも、正極から亜鉛粒子や錫粒子が溶出し、負極上で析出した析出物によって、正負極間で微小短絡が起こっている。その結果、電池のエネルギーが徐々に低下して、オーバーシュート温度が低く抑えられたと考えられる。このように、樹脂被覆粒子を構成する金属系粒子として、4.3V(vs.Li/Li+)以下で溶出する金属系粒子を用いることで、オーバーシュート温度を低く抑えることができる。なお、実施例で用いた金属系粒子以外に、4.3V(vs.Li/Li+)以下で溶出する金属系粒子として、SnSO4、SnCl4、Bi、Bi2(SO4)3、BiCl3、ZnCl2、ZnSO4、Co、Ag2O、Pb、PbCl2、Fe、Fe2O3があるが、これらについても、実施例と同様に試験した結果、オーバーシュート温度を低く抑えることができた。
【符号の説明】
【0074】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 ケース本体、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 張り出し部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 基材層、32 耐熱層。