(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】神経記録からアーチファクト及び複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するためのシステム、方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/388 20210101AFI20240819BHJP
A61B 5/311 20210101ALI20240819BHJP
【FI】
A61B5/388
A61B5/311
(21)【出願番号】P 2021534769
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 AU2019051385
(87)【国際公開番号】W WO2020124135
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-13
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ジョン・パーカー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・スコット・ヴァラック・シングル
(72)【発明者】
【氏名】カイ・ファン
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第9044155(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0287609(US,A1)
【文献】特開2018-153469(JP,A)
【文献】特表2017-501767(JP,A)
【文献】国際公開第2018/170141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/311
A61B 5/388
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経記録からアーチファクト及び複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するためのシステムであって、
少なくとも1つの複合活動電位基底関数と少なくとも1つのアーチファクト基底関数とを含む1組の基底関数を記録するメモリと、
神経組織における電気的活動の神経記録を受信するための入力と、
前記1組の基底関数を使用して、前記神経記録内の前記複合活動電位及び前記アーチファクトのうちの少なくとも一方を決定することにより、前記神経記録を前記複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方に分解するように構成され、さらに複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方の推定値を出力するように構成されたプロセッサと
を含むシステム。
【請求項2】
前記電気的活動は、前記神経組織に印加された電気的刺激により誘発された、誘発複合活動電位を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアーチファクト基底関数は、1つ又は複数のそのような電気的刺激により生じることが知られている電気的アーチファクトに適合される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
2つ以上の基礎信号のそれぞれの推定値は出力され、前記2つ以上の基礎信号は、前記神経記録の前記複合活動電位と前記神経記録の前記アーチファクトとを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記2つ以上の基礎信号は、バックグラウンドニューロン活動及び誘発された遅発応答の1つ又は複数をさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記複合活動電位と前記アーチファクトの両方は同時に推定される、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
ノイズのない複合活動電位の推定値が出力される、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記神経記録から前記アーチファクト及び前記複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するための計算量が、オーダーO(n)に従い、nが、前記神経記録におけるサンプルの数である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記神経記録から前記アーチファクト及び前記複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するための計算プロセスは、所定の時間内に実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記神経記録から前記アーチファクト及び前記複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するための計算プロセスは、埋め込み型装置のファームウェアで実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記複合活動電位及び前記アーチファクトの各々は、基底関数の線形結合として表される、請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記複合活動電位は、誘発複合活動電位(ECAP)であり、
前記ECAPは、予測されるノイズのないECAP形態に適合された関数による基底関数でモデル化される、請求項1~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記ECAPは、導関数がそれらの境界において連続であるように、指数関数が後続する1周期の正弦波で構成された区分関数による基底関数でモデル化される、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記ECAPは、2つ以上の基底関数による基底関数でモデル化される、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項15】
前記2つ以上の基底関数は、シングルエンド神経記録用に最適化された第1の基底関数と、差動神経記録用に最適化された第2の基底関数とを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
アーチファクトは、直流オフセット基底関数、線形基底関数、及び指数基底関数を含む、3つの基底関数による基底関数でモデル化される、請求項1~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
アーチファクトは、直流オフセット基底関数、線形基底関数、及び部分極関数を含む、3つの基底関数による基底関数でモデル化される、請求項1~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
いかなる複合活動電位もない、アーチファクトのみが存在する記録を検出するようにさらに構成される、請求項1~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
神経記録からアーチファクト及び複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するためにコンピュータにより実行される方法であって、
メモリ内の1組の基底関数にアクセスするステップであって、前記1組の基底関数が、少なくとも1つの複合活動電位基底関数と少なくとも1つのアーチファクト基底関数とを含
む、ステップと、
神経組織における電気的活動の神経記録を受信するステップと、
前記1組の基底関数を使用して、前記神経記録内の前記複合活動電位及び前記アーチファクトのうちの少なくとも一方を決定することにより、前記神経記録を前記アーチファクト及び前記複合活動電位のうちの少なくとも一方に分解するステップと、
複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方の推定値を出力するステップと
を含む方法。
【請求項20】
神経記録からアーチファクト及び複合活動電位のうちの少なくとも一方を分離するための手順をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムであって、請求項19に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経刺激により誘発される複合活動電位などの神経活動の電気的記録に関し、特に、刺激アーチファクト、ノイズなどの存在下での神経応答の検出改善のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的神経調節は、慢性疼痛、パーキンソン病、及び片頭痛を含む様々な疾患を治療し、聴覚機能及び運動機能などの機能を回復させるために用いられるか、又は用いられることが想定されている。神経調節システムは、治療効果を生成するために神経組織に電気パルスを印加する。このようなシステムは、典型的には、埋め込み型電気パルス発生器と、経皮誘導伝達により再充電可能であり得るバッテリなどの電源とを含む。電極アレイは、パルス発生器に接続され、対象とする神経経路の近傍に位置決めされる。電極により神経組織に印加された電気パルスは、ニューロンの脱分極を引き起こし、これにより、逆行性、順行性、又はその両方であるかを問わず、伝播する活動電位が発生し、治療効果が達成される。
【0003】
例えば、慢性疼痛の緩和に用いられる場合、電気パルスは脊髄の後柱に印加され、電極アレイは背側の硬膜外腔に位置決めされる。このように刺激された後柱線維は、脊髄のその分節から脳への痛みの伝達を阻止する。
【0004】
概して、神経調節システムにおいて生成された電気的刺激は、抑制効果又は興奮効果のいずれかを有する神経活動電位をトリガする。痛みの伝達などの望ましくないプロセスを調整するために抑制効果を用いることができ、又は、筋肉の収縮若しくは聴神経の刺激などの望ましい効果を生じさせるために興奮効果を用いることができる。
【0005】
多数の線維間で生成された活動電位を総和して、複合活動電位(CAP)を形成する。CAPは、多数の単一の線維活動電位からの応答の総和である。CAPが電気的に記録される際には、測定は、多数の異なる線維の脱分極の結果を含む。伝播速度は、主として線維直径により決定され、背根入口帯(DREZ)及び近くの後柱に見られるような大きな有髄線維の場合、速度は60ms-1を超える可能性がある。同様の線維群の興奮から生成されたCAPは、記録された電位における正のピークP1、次いで、負のピークN1として測定され、その後に第2の正のピークP2が続く。これは、個々の線維に沿って活動電位が伝播するにつれて記録電極を通過する活性化領域により引き起こされ、典型的な3つのピークを有する応答プロファイルを生成する。刺激極性及び感知電極の構成に応じて、CAPの測定プロファイルによっては、2つの負のピーク及び1つの正のピークを有する逆の極性のものである場合もある。
【0006】
神経調節及び/又は他の神経刺激の効果をより良く理解するために、並びに、例えば、神経応答フィードバックにより制御される刺激器を提供するために、刺激に起因するCAPを正確に検出し、記録することが望ましい。誘発された応答がアーチファクトよりも後の時間に現れる場合、又は信号対ノイズ比が十分に高い場合には、誘発された応答を検出するのがそれほど難しくはない。アーチファクトは、刺激後1~2msの時間に限定される場合が多く、そのため、神経応答がこの時間窓の後に検出されるのであれば、応答測定値をより容易に得ることができる。これは、刺激部位から記録電極への伝播時間が2msを超えるような、刺激電極と記録電極との間に大きな距離(例えば、60ms-1で伝導している神経の場合であれば12cmを超える距離)がある手術モニタリングにおける場合である。
【0007】
しかしながら、後柱からの応答の特性を明らかにするには、高い刺激電流及び電極同士が近接することが必要とされる。同様に、どのような埋め込み型神経調節装置であっても、必然的に小型になってしまうことにより、このような装置が印加された刺激の効果をモニタリングするためには、刺激電極、及び記録電極は必然的に近接することになる。このような状況では、測定プロセスは、アーチファクトを直接克服しなければならない。しかしながら、これは、神経測定において観察されるCAP信号成分が典型的にマイクロボルトの範囲内の最大振幅を有するので、困難なタスクであり得る。対照的に、CAPを誘発するために印加される刺激は通常数ボルトであり、電極アーチファクトをもたらし、この電極アーチファクトは、神経測定においてCAP信号と部分的に又は全体的に同時に起こる数ミリボルトの減衰出力として現れ、対象となるはるかに小さなCAP信号の分離、又はさらには検出にさえ、著しい障害となっている。
【0008】
例えば、入力5Vの刺激の存在下で1μVの分解能で10μVのCAPを分解するには、例えば、134dBのダイナミックレンジを有する増幅器が必要であり、それは、インプラントシステムでは非実用的である。神経応答は、刺激及び/又は刺激アーチファクトと同時に起こる可能性があるので、CAP測定は、測定増幅器設計の難題となっている。実際上、多くの非理想的な回路の態様は、アーチファクトにつながり、これらの大半が、正又は負の極性であり得る減衰する指数関数的外観を有するので、それらの識別及び除去は、労力を要する可能性がある。
【0009】
この問題の難しさは、埋め込み型装置においてCAPの検出を実施しようとする場合には、さらに悪化する。典型的なインプラントは、所望のバッテリ寿命を維持するために、刺激ごとに限られた数の、例えば、何百又は数千のプロセッサ命令を可能にする電力予算を有する。それに応じて、埋め込み型装置用のCAP検出器が定期的に(例えば、1秒に1回程度)使用されることになる場合には、検出器が電力予算のほんの一部だけを消費するように、注意を払わなければならない。
【0010】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、物品などに関するいかなる考察も、単に本発明の背景を提供する目的のためのものにすぎない。これらの事項の一部又は全てが、先行技術基準の一部を形成したり、本出願の各請求項の優先日以前に存在していたために本発明に関連する分野において共通する一般知識であったりすることを認めるものと解釈すべきでない。
【0011】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という語又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を包含することを示唆し、他の任意の要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を除外することを示唆しないものと理解される。
【0012】
本明細書では、要素が選択肢の列挙「のうちの少なくとも1つ」であり得るという記述は、その要素が、列挙された選択肢のうちの任意の1つであり得るか、又は列挙された選択肢のうちの2つ以上の任意の組み合わせであり得ることを理解されたい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、本発明は、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するためのシステムであって、
少なくとも1つの複合活動電位基底関数と少なくとも1つのアーチファクト基底関数とを含む1組の基底関数を記録するメモリと、
神経組織における電気的活動の神経記録を受信するための入力と、
1組の基底関数から複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方を決定することにより神経記録を分解するように構成され、さらに複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方の推定値を出力するように構成されたプロセッサと
を含むシステムを提供する。
【0014】
さらなる態様によれば、本発明は、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための方法であって、
少なくとも1つの複合活動電位基底関数と少なくとも1つのアーチファクト基底関数とを含む1組の基底関数を含むメモリを評価することと、
神経組織における電気的活動の神経記録を受信することと、
1組の基底関数から複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方を決定することにより神経記録を分解することと、
複合活動電位及びアーチファクトのうちの少なくとも一方の推定値を出力することと
を含む方法を提供する。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、第2の態様の方法を実行するためのコンピュータソフトウェアを提供する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための手順をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品であって、第2の態様の方法を実行するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0017】
さらなる態様によれば、本発明は、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための非一時的コンピュータ可読媒体であって、1つ又は複数のプロセッサにより実行されたときに、第2の態様の方法を実施させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体を提供する。
【0018】
神経組織における電気的活動は、神経組織に印加された電気的刺激により誘発された、誘発複合活動電位を含み得る。アーチファクト基底関数は、1つ又は複数のそのような電気的刺激により生じることが知られている電気的アーチファクトに適合され得る。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、2つ以上の基礎信号のそれぞれの推定値は出力され得、基礎信号は、神経記録の複合活動電位信号成分と神経記録のアーチファクト成分とを含む。いくつかの実施形態では、基礎信号は、電気的神経刺激により誘発されないニューロン活動などの、バックグラウンドニューロン活動及び/又は誘発された筋電活動から生じ得る誘発された遅発応答の1つ又は複数をさらに含み得る。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、基礎信号の推定値又は各推定値は、決定性推定値であり得る。
【0021】
本発明のいくつかの態様では、誘発複合活動電位(ECAP)とアーチファクトの両方が同時に推定される。そのような実施形態では、推定されたECAP及び推定されたアーチファクトは、観察された神経記録を最も良く表すように均衡が保たれ得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、ノイズのないECAPの推定値は出力され得る。いくつかの実施形態では、信号特性は、出力推定値のいくつか又は全てに付与され得る。ゼロDCの信号特性は、いくつかの実施形態では、ECAP推定値に付与され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための計算プロセスは、オーダーO(n)に従うなど、計算効率が高いことがある。いくつかの実施形態では、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための計算プロセスは、決定性時間内に実行され得る。いくつかの実施形態では、神経記録におけるアーチファクトから複合活動電位を分離するための計算プロセスは、埋め込み型装置のファームウェアで実施され得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、各基礎信号は、基底関数の線形結合として表される。そのような実施形態では、基底関数は、経験的に導出される及び/又は基礎信号のモデルから導出されるなど、予め導出され得る。そのような実施形態では、基底関数は、一定であり得るか、又はファームウェアの更新などにより定期的に更新され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、ECAPは、予測されるノイズのないECAP形態に適合された関数による基底関数でモデル化され得る。例えば、ECAPは、導関数が境界において連続であるように、指数関数が後続する1周期の正弦波で構成された区分関数による基底関数でモデル化され得る。ECAPは、模擬ECAPモデルに適合する関数による基底関数でモデル化され得る。ECAPは、時間伸長、時間シフト及び/又は直流オフセットを可能にするパラメータを有するパラメータ化関数による基底関数でモデル化され得る。このようなパラメータ化は、予測される全ての実在のECAPを包含する一方で、計算性能を維持し、広帯域ノイズの影響を最小限に抑え、アーチファクトからの干渉を抑制するために、制約を受けることがある。ECAPは、例えば、シングルエンド神経記録用に最適化された第1の基底関数と、差動神経記録用に最適化された第2の基底関数とを含む、2つ以上の基底関数による基底関数でモデル化され得る。例えば、第2の基底関数は、各それぞれの記録電極において観察されるECAP信号間の差として差動記録の性質を反映するように、2つのパラメトリックECAP基底関数の差として形成され得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、アーチファクトは、直流基底関数、線形基底関数、及び指数基底関数を含む、3つの基底関数による基底関数でモデル化され得る。指数基底関数は、例えば、φ3(t)=e(-at)の形式を有し得、ここで、aは、アーチファクトの緩和成分をモデル化した又はアーチファクトの緩和成分に経験的に適合された定数である。例えば、aは、使用時の装置及び刺激パラダイムに関連するヒト神経刺激アーチファクト記録のライブラリから経験的に決定され得る。一実施形態では、aは10,000~70,000の範囲内であり、より好ましくは30,000~50,000の範囲内であり、より好ましくは35,000~40,000の範囲内であり、例えば一実施形態ではa=38,348である。
【0027】
代替的なそのような実施形態では、部分極スクラバーの代わりに指数基底関数が用いられ得る。
【0028】
本発明のいくつかの好ましい実施形態は、ECAPのない、アーチファクトのみが存在する記録の検出を行う。そのような実施形態では、信号は、アーチファクトのみの基底関数を使用してモデル化され、また、組み合わされたECAP及びアーチファクト基底関数を使用してモデル化される。1組の信号特徴が、両方のモデルにより生成された推定値から導出され、記録信号からの信号特徴と組み合わされる。ECAPとアーチファクトの両方又は単にアーチファクトのみを含むことが知られている一連の信号を本実施形態により分析し、導出された1組の特徴を保存した。「ECAP」又は「ECAPなし」というカテゴリで分類子を訓練するために、機械学習を使用した。十分な訓練後に、結果として得られた分類子は、信号中のECAPの存在を自動的に判断することができる。
【0029】
さらなる態様によれば、本発明は、神経記録からアーチファクトを除去するための方法であって、
神経組織における電気的活動の神経記録を受信することと、
アーチファクトの部分極モデルを神経記録に適合させることと、
適合された部分極モデルを神経記録から除去することと
を含む方法を提供する。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、神経応答を誘発するために印加される電気的刺激は、3つ以上の刺激電極から印加される多極刺激を含み得、この刺激は、単相の刺激のみから1つの部位のみにおいて神経応答を誘発するように構成される。例えば、多極刺激は、本出願人による国際特許出願第PCT/AU2019/051151号明細書の教示に従って構成されることがあり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
本発明のいくつかの態様では、神経記録は、埋め込み型脊髄刺激器により得られる。代替的に、神経記録は、代替的な神経刺激器により得られ得る。
【0032】
本明細書における推定又は決定への言及は、予め定められた推定又は決定手順を実行するように動作するプロセッサによりデータに対して実行される自動化プロセスを指すものとして理解されるべきである。本明細書で提示する手法は、ハードウェアで(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を使用して)、ソフトウェアで(例えば、上記で説明したステップをデータ処理システムに実行させるためのコンピュータ可読媒体に物理的に記憶された命令を使用して)、又はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで実施され得る。本発明はまた、コンピュータ可読媒体上のコンピュータ可読コードとして具現化することができる。コンピュータ可読媒体は、コンピュータシステムにより後に読み出すことができるデータを記憶できる任意のデータ記憶装置を含むことができる。コンピュータ可読媒体の例としては、読み出し専用メモリ「ROM」、ランダムアクセスメモリ「RAM」、CD-ROM、DVD、磁気テープ、光データ記憶装置、フラッシュ記憶装置、又は他の任意の好適な記憶装置が挙げられる。コンピュータ可読媒体はまた、コンピュータ可読コードが分散方式で記憶され実行されるように、ネットワークで連結されたコンピュータシステムに分散させることができる。
【0033】
ここで、添付図面を参照して本発明の一例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図3】埋め込み型刺激器の神経との相互作用を図示する概略図である。
【
図6】ECAP基底関数及びアーチファクト基底関数、並びにこれらの積を図示する。
【
図8】組織を刺激してECAPを記録するためのシステムの代替図である。
【
図11】入力インピーダンスの抵抗性成分と容量性成分との分離を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、埋め込み型脊髄刺激器100を概略的に図示する。刺激器100は、患者の下腹部又は上後臀部領域の好適な位置に埋め込まれた電子機器モジュール110と、硬膜外腔内に埋め込まれ、好適なリード線によりモジュール110に接続された電極アセンブリ150とを含む。埋め込み型神経装置100の動作の多くの態様は、外部制御装置192により再構成可能である。さらに、埋め込み型神経装置100は、データ収集の役割を果たし、収集されたデータは外部装置192に通信される。
【0036】
図2は、埋め込み型神経刺激器100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112と遠隔測定モジュール114とを含む。本発明の実施形態では、遠隔測定モジュール114により、赤外線(IR)、電磁、容量性及び誘導伝送などの、任意の好適なタイプの経皮的通信190を使用して、外部装置192と電子機器モジュール110との間で電力及び/又はデータを伝送し得る。
【0037】
モジュールコントローラ116は、患者設定120、制御プログラム122などを記憶する関連するメモリ118を有する。コントローラ116は、患者設定120と制御プログラム122とに従って、電流パルスの形態の刺激を生成するようにパルス発生器124を制御する。電極選択モジュール126は、生成されたパルスを電極アレイ150の適切な電極に切り替えて、選択された電極の周囲の組織に電流パルスが送達されるようにする。測定回路128は、電極選択モジュール126により選択された電極アレイの感知電極で感知された神経応答の測定値を取り込むように構成される。
【0038】
図3は、埋め込み型刺激器100と神経180との相互作用を図示する概略図であり、この場合、神経180は脊髄であるが、代替的な実施形態は、末梢神経、内臓神経、副交感神経又は脳構造を含む任意の所望の神経組織に隣接して位置決めされ得る。電極選択モジュール126は、電極アレイ150の刺激電極2を選択して、神経180を含む周囲の組織に三相電流パルスを送達するが、他の実施形態は、追加的又は代替的に、二相三極刺激を送達し得る。電極選択モジュール126はまた、ゼロの正味電荷移動を維持するための刺激電流回復のためにアレイ150の戻り電極4も選択する。
【0039】
慢性疼痛用の脊髄刺激器の場合には所望の場所で知覚異常を生じさせることであり得る治療目的で、神経180に適切な刺激を送達することにより、図示のように神経180に沿って伝播する複合活動電位を含む神経応答が誘発される。この目的で、30Hzで刺激を送達するために刺激電極が使用される。装置を適合させるために、臨床医は、ユーザが知覚異常として体感する感覚を生み出す刺激を印加する。知覚異常が、痛みの影響を受けるユーザの身体の部位と一致する場所及び大きさである場合、臨床医は、引き続き使用するためにその構成を指定する。
【0040】
装置100はさらに、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAP)の存在及び電気的プロファイルを、このようなCAPが電極2及び4からの刺激により誘発されるか、又は別様に誘発されるかにかかわらず、感知するように構成される。この目的で、測定電極6及び測定基準電極8としての役割を果たすように、電極選択モジュール126によりアレイ150の任意の電極が選択され得る。また、刺激器用ケースを、測定電極若しくは基準電極、又は刺激電極として使用してもよい。測定電極6及び8により感知された信号は、測定回路128に渡され、この測定回路は、例えば、内容が参照により本明細書に組み込まれる、本出願人による国際公開第2012155183号パンフレットの教示に従って動作し得る。本発明は、
図3に示されているような、記録電極が刺激部位に近接している状況では、刺激アーチファクトが複合活動電位の正確な記録を得ることの著しい障害となっているが、信頼できる正確なCAP記録が、一連の神経調節技術にとっての、目的実現への鍵であることを認識している。
【0041】
本発明は、信号成分が、別個の基底系で表され得る信号の閉空間に属する場合に、合成信号を分離するための方法を提供する。神経調節では、この方法は、記録信号の「ECAP部分」と「アーチファクト部分」とを分離するために使用される。
【0042】
合成信号は、ここでは基礎信号と呼ばれる、他の信号の総和により構成された信号である。本発明の基底要素信号分離法は、合成信号のみが与えられ、正確な基礎信号についての知識なしに、合成信号の基礎信号を推定する。本実施形態は、基礎信号に関する何らかの知識を推測することができるブラインド信号分離アルゴリズムを提供する。すなわち、本実施形態は、各基礎信号が1組の基底関数で表され得るとみなすことができることを認識している。複数の入力と1つの出力とを有するブラインド信号分離アルゴリズムとは異なり、本発明は、この前提を利用することにより、基礎信号の決定性推定値を生成する。
【0043】
神経刺激の分野では、混合信号は、ECAPと刺激アーチファクトとの組み合わせであり得る。いくつかの例では、信号を分解して成分を分析する必要がある。個々の成分を分析することにより、数多くの有利な方法で使用され得る信号成分の特性が明らかになり得る。場合により、混合信号の成分を分析することにより、システムにおける誤差が明らかになり得る。さらに、混合信号又は合成信号が、主成分を覆い隠す主要であるが余分な成分を有する状況があり得る。このような場合には、混合信号をその成分に分解し、不必要な成分を排除して、主成分とその特性とを分析しなければならない。
【0044】
本発明は、合成信号を構成する複数の信号の少なくとも1つを1組の基底関数から決定することにより混合信号を分解する。本発明は、基底を用いて各基礎成分をモデル化することにより合成信号を基礎成分に分離する。本発明は、これらの信号の混合である信号記録を考慮してアーチファクト波形(及びノイズ)からECAP波形を分離する際に神経調節において適用され得る。これにより、
図1~
図3の閉ループ制御システムの動作中に使用される特徴であるECAPの大きさを含む、ECAPからのよりロバストな特徴抽出が得られる。ECAPピーク位置などの追加の特徴もより確実に測定され得、このことは、科学的利益及び/又は動作上の利益をもたらし得る。本実施形態は、アーチファクトとECAPの両方を同時に推定し、ECAP及びアーチファクト信号の寄与は、記録信号を「最も良く」表すように均衡が保たれる。本実施形態は、ノイズのないECAP推定値を生成し、ECAP基底系の定義に従い、特定の信号特性(例えば0Vのベースライン)を付与することができる。さらに、本実施形態は、効率が高く(O(n))、(非決定性方法とは異なり)決定性時間内に実行され、このことは、本実施形態がファームウェアに組み込まれる可能性があり、ヒトが調整したフィルタを必要とせずに、改善されたリアルタイムのECAPの大きさの推定値を与え得ることを意味する。
【0045】
スクラバーは、ある合成信号のECAP及びアーチファクト成分を推定するアルゴリズムである。合成信号は、複数の別個の要素の総和で構成される信号として定義される。ECAP測定の文脈では、複合測定の成分は、アーチファクト、刺激に対する神経生理学的応答(ECAP)、及びその他の全てである。スクラバーの主な目的は、ECAPを分離することである。しかしながら、アーチファクトの推定は通常、この作業の副産物であり、アーチファクトのメカニズムへの洞察が将来の設計においてアーチファクトを最小限に抑えるのに役立つので、それ自体有用である。残されたものは、電子ノイズと、刺激に依存しない神経生理学的ノイズとからなる。
図4は、このプロセスを図示している。
【0046】
本実施形態は、以下のプロセスを採用する。各基礎信号は、基底関数の線形結合として表される。2つの基礎信号を有する合成信号について考察する。
【数1】
【0047】
基底関数は、経験と基礎信号の代替モデルとに基づいて経験的に導出される。説明の目的で、基底関数を一定であるとみなす。基底関数の対内積と、各基底関数と合成信号との内積とを計算し、係数アルファ及びベータの組を取得するために行列反転で解かれ得る1組の線形方程式が書き出され得る。アルファ係数が与えられた場合には、f(x)の基底表現を記録して、f(x)を推定し得る。同様に、ベータ係数が与えられた場合には、g(x)を推定し得る。この方法は、2つの成分を含む合成信号に限定されるものではないが、説明する神経調節分野で本方法が適用される問題は、2つの成分しか有しない。
【0048】
本実施形態の基底要素信号分離法は、合成信号を分解するための数学的ツールである。ECAP成分f(t)とアーチファクト成分g(t)とを含む信号について考察する。したがって、患者において測定する信号σ(t)は、σ(t)=f(t)+g(t)+e(t)として表現され、ここで、e(t)は何らかのノイズである。閉ループ刺激は、与えられた信号のECAP成分が2周期の減衰振動に似た規則的な形状を有するので効果を発揮する。同じように、信号のアーチファクト成分が規則的な形状を有しなければ、閉ループ刺激は効果を発揮しない。ECAP振幅を測定するために、検出器を使用してアーチファクトの大部分を除去するが、これは、アーチファクトが規則的な指数関数的形状を有することを前提とする。
【0049】
本実施形態は、ECAP及びアーチファクト信号成分が別個の関数群に属することを前提として動作する。すなわち、ECAPは常に短い振動事象であるが、アーチファクトは指数的な信号である。別個の各関数群に対して、それを表す基底を予め定めることができる。好適な基底関数については、基底係数を算出することができ、ECAP及びアーチファクト基底展開を各々分離することができる。次いで、ECAP基底展開により、アーチファクトのない、ECAP成分の推定値が提供される。
【0050】
基底係数の計算は、信号全体が可能な限り近似されるように、各基底関数の寄与の均衡を保つ。換言すれば、推定されたECAP及びアーチファクトの寄与は、記録された信号を最も良くモデル化するように均衡が保たれる。より良い性能を達成するために、本実施形態は、全てのECAPが特定の関数群に属し、この群以外のECAP形状が存在しないとみなす。本明細書の作成時点では、国際公開第2015070281号パンフレットに記載されているような遅発応答を有するECAPは、本実施形態で使用されるECAP関数群以外のものであり、それゆえ、適切に推定することができない。したがって、その時点で使用されているECAP基底により適切にモデル化されない信号を処理する場合には、他のスクラバーを使用する方が適切であることがある。本発明の代替的な実施形態は、遅発応答の推定を行うために、ECAP基底関数群内の遅発応答を有するECAPを含む基底関数を取り入れ得る。
【0051】
上記で説明した方法は、
図5の信号フロー図においてブロック504を形成する。いくつかの実施形態では、信号推定を向上させるために、前処理502及び後処理506が用いられる。例えば、信号の高周波ノイズを低減するために、前処理502を用いることができる。しかしながら、フィードバック機構510は、基底系の構成を改善するために使用される。大まかな「最初の推測」の基底を使用して信号を概算し得、生成された推定値を使用して、後続のパスで基底系を絞り込むことができる。例えば、最初のパスでは、アーチファクトの良好な推定値を得るためにECAP基底が推測され得る。信号からアーチファクトを差し引き、信号相関方法を使用することにより、ECAP基底の選択を絞り込むことができる。改善された基底を用いてアルゴリズムを再実行すると、ECAPとアーチファクトの両方のより良い推定値が得られる。
【0052】
アーチファクトは、以下の3つの基底関数を使用して、本実施形態によりモデル化される。
【数2】
【0053】
単位基底関数φ1は、測定信号の直流分を捕捉する。線形基底関数φ2は、増幅器ドリフトに起因するアーチファクトの成分を捕捉する。指数基底関数φ3は、アーチファクトの化学的電荷緩和成分を捕捉する。指数成分の減衰定数は任意の好適な変数とすることができ、ヒトのアーチファクト記録のライブラリに対するモデル性能に基づいて上記値を経験的に決定した。異なる装置は、異なるアーチファクト及び/又はECAPの結果を提示することがあり、その結果、異なる定数を必要とすることがあり、これらの定数は、同様に経験的に得ることができる。
【0054】
本実施形態のアルゴリズムが適用されると、信号のアーチファクト成分は、以下により表される。
A(t)=αΦ1(t)+βΦ2(t)+γΦ3(t)
【0055】
このモデルは、単純なものであるが、何千もの代表的なヒト患者の神経記録に適用されてきた。ECAP基底関数との組み合わせで、組み合わせモデルは、記録信号を正確に推定する。
【0056】
バックグラウンドニューロン活動又は遅発応答などの異常な神経学的アーチファクトは、本実施形態ではモデル化されないが、本発明の代替的な実施形態に従って取り入れられ得る。本実施形態の手法から得られた推定値は、そのような特徴を除去するので、少なくともこの実施形態では、その結果を、非ECAPの神経学的特徴の測定において当てにすることができない。
【0057】
ECAP基底関数は、パラメータk=1.7及びθ=0.60である、ガンマ確率密度関数の積を用いて定義される。
φ(t)=(ft)k-1・e-ft/θ
【0058】
これは、導関数が境界において連続であるように、指数関数が後続する1周期の正弦波で構成された区分関数である。
【数3】
ここで、C=0.37である。2つの成分及びこれらの積は、
図6に表されている。このFPAPモデルには形態パラメータ(すなわち、正弦波成分の周波数:f)が1つだけある。上記で分かるように、ガンマPDFの時間尺度は相応にスケールされる。このモデルは、模擬ECAPモデルへの初等関数のハンドフィッティングにより得られた。
【0059】
時間軸をνだけスケールしてオフセットt0を適用すること:ν(t-t0)により、ECAP基底関数を時間的に伸長させ且つシフトさせることができる。このように伸長されてスケールされたECAPをパラメトリックECAP基底関数:φν,t0(t)と呼ぶ。
【0060】
2つの別個のECAPモデルがあり、1つのECAPモデルはシングルエンド測定(装置接地などの無関係な基準に対して単一の電極から記録が行われる)用であり、もう1つのECAPモデルは差動測定(両方とも神経信号にさらされた2つの記録電極から記録が行われる)用である。シングルエンドECAP基底は、1つのパラメトリックECAP基底関数からなり、ECAP Eは、次式で表される。
【数4】
【0061】
差動ECAP基底は、以下のECAPモデルを与える2つのパラメトリックECAP基底関数の差により形成される。
【数5】
【0062】
いずれのモデルでも、時間伸長(ECAP振動周波数に対応する)及び時間オフセットは、κ又はκ+が正となり且つκ-が負となるように選択される。この条件が成立することを確実にするために、ECAP周波数及びオフセットの掃引が、本実施形態により試験される。記録信号のECAP成分をモデル化するために選択される周波数及びオフセットは、ECAPモデルとアーチファクトモデルの両方を使用する記録への適合が可能な限り良好になるように選択される。
【0063】
シングルエンドECAPモデルは、ピーク高さとピーク時間との比が一定であることを前提とすることに留意すべきである。半値全幅又はn1:p2の比などの神経生理学的パラメータは、パラメトリック基底関数に適用される時間伸長νにより完全に決定される。
【0064】
アーチファクトと同様に、この前提は、パラメトリック基底関数を実際のシングルエンド測定に適合させることにより検証されてきた。
【0065】
差動モデルの場合、そのような神経生理学的パラメータは、ν+及びν-とは独立して変化する可能性があり、加えて、ECAP推定値の構成に依存する。すなわち、κ+及びκ-は追加の自由度をもたらす。相対的な神経生理学的パラメータは、変化する可能性があるが、より自由形式のECAPモデルと比較して自由度が制限される。シングルエンドECAPの前提と同様に、このモデルの制限は、差動ECAP基底を実際の差動測定に適合させることにより検証されている。
【0066】
パラメトリックECAP周波数の範囲は、500Hz~2kHzの線形に離間した組の周波数に限定される。広域スペクトル(最大8kHz)ノイズの干渉を最小限に抑えるために、2kHzの上限を選択した。パラメータ選択手順へのアーチファクトの干渉を抑制するために、500Hzの下限を選択した。十分に遅いパラメトリックECAPは、限られた時間窓内ではアーチファクトに非常によく似ている。試験されるオフセットの範囲を、実際のECAPをモデル化するのに十分に広い範囲となるように選択したが、計算性能を維持するために適度に制約した。
【0067】
ここまでは、各記録信号がECAPを含むことを前提としてきた。しかしながら、実際には、このことは、閾値以下の信号には当てはまらない。閾値以下の信号のためのモデルにECAP基底関数を含めると、ECAPが信号中のノイズに適合され、推定値が無意味になるので、問題が生じる。追加的に、信号のアーチファクト成分は、組み合わせモデルにおいてECAP及びアーチファクトの特徴の均衡が保たれていると誤って表される。
【0068】
それゆえ、基礎ECAPが真正である場合にのみECAP基底が全体モデルに含まれ得るように、信号中のECAPの存在を検出する機構を含めることが望ましい。本実施形態は、このような機構を組み込んでいる。信号は、アーチファクトのみの基底と、組み合わされたECAP及びアーチファクト基底とを使用してモデル化される。1組の信号特徴が、両方のモデルにより生成された推定値から導出され、記録信号からの信号特徴と組み合わされる。ECAPとアーチファクトの両方又は単にアーチファクトのみを含むことが知られている一連の信号を本実施形態により分析し、導出された1組の特徴を保存した。機械学習は、「ECAP」又は「ECAPなし」というカテゴリで分類子を訓練するために使用される。十分な訓練後に、結果として得られた分類子は、信号中のECAPの存在を自動的に判定することができる。本実施形態は、ECAPを含む信号ではECAPを85%の精度で検出し、アーチファクトのみを含む信号ではECAPを95%の精度で拒絶するように評価される。
【0069】
これらの概念を互いに組み合わせることにより、
図7に示すような本実施形態の完全アルゴリズムが得られる。
【0070】
記録信号はまず、記録がECAPを含まないことを前提として、アーチファクトのみの基底704を用いて702においてモデル化される。ECAPの存在にかかわらず、これは、基底係数によりアーチファクトの推定値を提供する。ECAPが存在する場合には、この推定値は、ECAP基底も含めることにより精緻化され得る。初期アーチファクト推定値は、パラメトリックECAP基底をより良く決定するのに役立つように、706において記録信号から差し引かれる。702から推定されたアーチファクト及び導出された特徴もまた、後で使用するために「ECAP存在分類」(又はECAP検出器)ブロック712に渡される。
【0071】
708においてパラメトリックECAP基底のパラメータが決定されると、710において、ECAP及びアーチファクト基底の係数が同時に決定される。結果として得られた推定値及び特徴の組がECAP検出器712に渡される。
【0072】
ここでECAP検出器712は、記録信号中のECAPの存在を分類するために必要なものを全て有する。その決定に基づいて、推定値選択ブロック714は、ECAP及びアーチファクト推定値、又はアーチファクトのみの推定値のいずれかを返す。
【0073】
方法ステップは以下の通りである。
a.2つ以上の追加成分を有する、合成信号を捕捉/記録する。
b.基底系のプールから、第1の信号成分に対応する、第1の基底系を選択する。基底系の別のプールから、第2の信号成分に対応する、第2の基底系を選択する。
c.基底関数に基づいて合成関数の第1の成分及び第2の成分を決定する。第1の成分の推定値を第1の基底系の線形展開として、及び第2の成分の推定値を第2の基底系の線形展開として決定する。
d.前回の反復から推定された成分を使用して基底系を反復的に改善する。
【0074】
以下の説明では、本実施形態の数学的処理について掘り下げる。係数決定は以下の通りである。σ(t)を記録信号とし、f(t)及びg(t)をそれぞれ基礎ECAP成分及び基礎アーチファクト成分とする。解こうとしている問題は、既知である記録信号σ(t)を使用して、未知であるf(t)及びg(t)の推定値を求めることである。分かりやすくために、信号中にノイズが存在しないと仮定する。それゆえ、σ(t)=f(t)+g(t)である。
【0075】
ここで、基底関数の有限集合{φ
k(t):k∈{1,2,...n}}を使用してf(t)が表されると仮定する。同様に、f(t)を表すために使用した集合とは全く異なる基底関数の有限集合{φ
j(t):j∈{1,2,...m}}を使用してg(t)が表され得ると仮定する。次いで、f(t)及びg(t)は、それぞれの基底に対して展開され得る。
【数6】
【0076】
【0077】
問題のこの段階では、基底系は既知であるが、特定の信号σ(t)の係数は未知である。係数を用いて、f(t)及びg(t)の推定値が復元され得る。ここで、これらの値を復元する。
【0078】
f:φ
i(t)の任意の基底関数について且つ内積の線形性により以下の関数の内積を考察する。
【数8】
【0079】
同様に、g:φ
l(t)の任意の基底関数について関数の内積を考察する。
【数9】
【0080】
式(4)及び(5)により、n+m個の未知数(係数ak及びbj)を含むn+m個の連立線形方程式が提供される。したがって、係数を決定することは、線形方程式を解くことである。
Hv=b
ここで、
【数10】
である。
【0081】
したがって、係数はH-1bにより解かれ得る。行列Hは、ECAP基底からの基底関数のいずれもアーチファクト基底のスパンに属さず、その逆も然りであり、且つECAP基底及びアーチファクト基底を有する基底関数が異なる場合、並びにその場合に限り、可逆である。基底関数は、Hの反転中に比較的大きな又は小さな内積により計算誤差が起こらないように、単位電力にスケールされるべきである。
【0082】
実際には、いずれの基底によってもモデル化されない信号中にノイズが存在する。しかしながら、引き起こされる誤差は、無限の時間間隔でとられた内積に対して、独立したノイズ源及び任意の信号の内積がゼロであるので、小さな誤差となる。bを算出するときに内積を有限数のサンプルに限定することにより、多少の誤差が伝播するが、この誤差は、重大なものではない。
【0083】
ECAPパラメータ決定は、以下の通りである。パラメトリックECAP基底は、初期のアーチファクトを除去して残留ベースラインを差し引いた記録信号を使用して決定される。この信号を「精密な記録」と呼ぶ。相関メッシュは、基底ECAP周波数及びオフセットの範囲を掃引し、精密な記録と各パラメトリック基底関数とのドット積をとることにより決定される。
【0084】
シングルエンド及び差動モードでは、本実施形態は、800Hz~2kHzの間の16個の線形に離間した周波数をサンプリングし、-7個のサンプル~-1個のサンプルのオフセットを含む。この周波数及びオフセットの範囲は、ヒト被験者において観察される試験信号に対して良好に機能することが分かったが、これらの範囲は拡大され得る。これらの範囲をあまりにも拡大しすぎると、パラメトリックECAPがノイズ又はアーチファクトを標的にする可能性があるので、注意が必要である。相関メッシュの最も高い正の定常点は、最初のECAP基底要素のパラメータを決定する。測定がシングルエンドである場合、これが唯一のECAP基底要素である。
【0085】
差動ECAP測定の場合、新たな相関メッシュが算出され、500Hzと予め決定された基底要素の周波数との間の16個の線形に離間した周波数をサンプリングする。基準は常に記録電極よりも刺激から離れているとみなされる。これにより、ECAP周波数が記録距離と共に単調に低下するのでヒト神経生理学を利用することが可能となる。同じように、オフセットは、前回のECAP基底オフセットと12個のサンプルとの間で試験される。ここでも、これらの範囲を、ヒトからの良好な信号に対して良好に機能するように経験的に選択した。相関メッシュの最も高い正の定常点を使用するのではなく、その代わりに、最も負の定常点が、二次基底関数のパラメータを決定する。負の定常点がない場合は、1次基底関数のみが利用される。
【0086】
ブラインド信号分離アルゴリズムの大部分は、基礎信号が統計的に独立しているとみなして、統計的信号処理技術を使用して基礎信号を推定する。ECAP及びアーチファクトの推定の問題は、基礎信号が基本的に互いに依存し合っているので、この方法では解決することができない。むしろ、本実施形態は、基礎信号が合成信号の形態で記録される前に既に基礎信号についてのある程度の知識があるプロセスにその適用を制限する基底関数の線形結合(より強い前提)として各基礎信号が表現され得ることを前提とする。
【0087】
アーチファクトモデルは、ハードウェア/記録に存在するアーチファクトをモデル化するために使用される基底関数をリスト化する。FPAPモデルは、ECAP基底系全体で使用される特異基底関数である。実際には、シングルエンド測定用に1つのFPAPを使用し、差動測定用に2つのFPAPを使用して、2つの記録電極間で行われる差動測定で発生する基準電極効果に対処する。
【0088】
代替的な実施形態がさらに提供される。この実施形態では、
図4のプロセスは、むしろ以下のように実施される。
【0089】
アーチファクト推定スクラバーは、信号g(t)のアーチファクト成分のみを推定しようとし、σ(t)-g(t)を用いてECAP推定値を導出するスクラバーである。指数的スクラバーは、アーチファクトを指数関数の総和としてモデル化する。ここでは3つのモデルが想定されている。
【0090】
【0091】
非線形最適化は、パラメータa、b、c、d、e、f、g及びhが全て、コスト関数の値を最小化するように調整される、シンプレックス/山登り/ネルダーミードアルゴリズムを使用して実施される。非線形最適化は、推定されたアーチファクトサンプルと記録された信号サンプルとの間の2乗誤差の総和を最小化する。数学的には、コスト関数は次のように定義される。
【数11】
【0092】
非線形最適化は、非決定性アルゴリズムであり、予測可能又は事前に決定可能な時間内に終了しないことを意味する。このことは、妥当な時間枠内でスクラブできない信号をそのようなスクラバーに提供することが可能であることを意味する。さらに、非線形最適化は、極小値に留まり、真の最適解を求めることができない可能性がある。実際には、このスクラバーは良好に機能するが、スクラバーには、スクラバーを一般的に使用する前に知っておくべき限界がある。それにもかかわらず、そのような実施形態は、特定の用途で利用することができる。
【0093】
さらなる実施形態は、以下のアーチファクトモデルのパラメータa、k、α及びhを決定するために非線形最適化が使用される指数的スクラバーと同じ原理で機能する部分極スクラバーである。
g(t)=aexp(-kt)・t1.0-α+h
【0094】
より詳細には、本発明者らは、電極インピーダンス変化がヒトにおいて臨床的によく観察されることと、このような電極インピーダンス変化が電極-組織界面の挙動に影響を及ぼしてアーチファクトを生じさせる可能性があることに留意してきた。実際、このような変化は、インピーダンスの抵抗部分よりも電極-組織界面の定位相要素モデルに影響を与えることがある。したがって、本実施形態は、このような特性から生じるアーチファクトに、1つの電極と次の電極との電極インピーダンスの差の影響を理解することにより、最も良く対処できることを認識している。この目的で、内容が参照により本明細書に組み込まれる、本出願人による国際特許出願第PCT/AU2019/051160号明細書に記載されているような、定位相要素の分割電極モデルを考察する。
【0095】
電極-組織は、人体のイオンが豊富な水性環境と埋め込み電極の帯電した金属格子との間の界面である。実質的に、水性イオンは、金属格子の急速な帯電及び放電に応答して独特の挙動を示し、この挙動は、電極表面上のイオン二重層の急速な形成及び拡散により特徴付けられる。これは、イオン二重層として知られており、容量性と抵抗性の両方の特性を有する。金属面からのイオンの凝集及び拡散は、理想的なシステムでは純粋に容量性である。しかしながら、イオン種の可逆的修飾及び金属面での電極のイオン交換も、電圧に依存した速度で起こることが知られている。そのように、実質的に漏洩コンデンサである、定位相要素(CPE)として知られる概念を使用して、電極と組織の界面の電気的特性を明らかにする。CPEは、金属が組織内のイオン液体に接触したときに形成される。埋め込み時に、近接する骨又は被包組織などの材料により、接触の有効サイズが小さくなり、CPEのインピーダンス成分が増加するが、生理食塩水浴中では、電極表面全体が伝導に寄与する。埋め込まれたリード線に沿った個々の電極のインピーダンスは、2:1よりも大きく変化する可能性がある。
【0096】
図8は、
図1のシステムと同様の、組織を刺激してECAPを記録するためのシステムを示している。組織は、電子部品が定位相要素(CPE)を介して接続する抵抗性メッシュとして示されている。この表示は、国際特許出願第PCT/AU2019/051160号明細書に詳細に説明されている。この図では、システム刺激電極はCPE3及びCPE4で表され、記録電極はCPE1及びCPE2で表されている。電子回路上では、CPE1、2などへの接続部は、電極1、電極2などと呼ばれる。
【0097】
このシステムにおける刺激器は、スイッチ及び電流源の動作により1つ又は複数の位相を有する刺激を生成することができる。電流振幅及び切替タイミングは、刺激器により制御され、これは、刺激が発生する前に既知である。組織をVdd又は接地に接続するスイッチの動作により、電流がCPE1及びCPE2を通って増幅器の抵抗性及び容量性入力インピーダンスに流れる。
【0098】
本開示で説明する方法は、CPE1及びCPE2に関連する記録電極が、少なくとも組織接続面では、同じ電位であるとみなすことができる刺激部位から十分に離れている状況に関連している。換言すれば、これらの電極に近接する抵抗性メッシュを流れる電流は実質的にゼロである。システムが電極3に陽極刺激を送達しているときに、システムは、電極3を接地に接続し、電極4を正の電流源に接続する。記録電極1及び2にかかる電圧は、メッシュの詳細に応じて、電極3の電圧と電極4の電圧とのほぼ中間である。便宜上、この割合は、半分、すなわち、中間であるとみなされる。刺激電極間のインピーダンスがRである場合には、この電圧はIR/2となる。
【0099】
システムが電極3に陰極刺激を送達しているときに、システムは、電極3をVddに接続し、電極4を負の電流源に接続する。ここでも、組織電圧は、電極3の電圧と電極4の電圧との中間であるとみなされる。組織が駆動されていないときには、組織をVdd又は接地に接続することができ、この場合、任意であるが、接地が選択される。刺激しないときには高電圧電源を維持する必要がないので、接地の選択は、好ましい方法である。
【0100】
二相刺激の場合、波形は、記録電極に見られる刺激波形を図示する、
図9の第2のパネルのような波形である。この波形は、電極-電源間電圧と電極-電極間電圧との総和であることが観察される。
【0101】
電極2及び電極3にかかる電圧は同じであり、且つ波形は
図9で説明したようなものであるので、
図8は、
図10のように簡略化することができる。慎重な設計と成分制御により、R
I1=R
I2及びC
I1=C
I2であると仮定すると、P
B1!=P
B2である場合に、増幅器出力にはゼロでない電圧しか生じない。このことは、これらの電極が組織内に配置され均質ではないので、実際に予測され、したがって、これらのインピーダンスが同じではないと予測される。
【0102】
ここで、増幅器入力のインピーダンスを算出し、Z
iを入力回路のインピーダンスと呼び、Z
cをCPEのインピーダンスと呼ぶ場合、単純な分圧器のように、
【数12】
である。
【0103】
ニュートン近似を用いてZ
i>>Z
c1であるので、すなわち、pq<<1の場合、(1+p)
q=1+pqであるので、次のように書くことができる。
【数13】
【0104】
増幅器入力間の電圧は、
【数14】
であり、すなわち、電圧は、インピーダンスの差に比例する。Z
c1及びZ
c2は部分極であるので、このインピーダンスは、部分極の特性も有する。
【0105】
図11は、入力インピーダンスの抵抗性成分と容量性成分との分離を図示している。記録中にシステムに印加される電流はゼロであり、またZ
i>>Z
c1であるので、
図11の変換により、CPEを通る電流が抵抗性成分と容量性成分とに分けられる。波形は矩形であるので、電圧パルスは抵抗器によりCPE内への電流パルスを生成し、そのエッジは、コンデンサを介してインパルスを生成する。
【0106】
CPEのインパルス応答は、部分極の逆ラプラス変換であり、次式で与えられる。
t≧0の場合、i(t)=kt-α、及びt<0の場合、i(t)=0。
【0107】
このことから、ステップ応答は、次のように簡単に算出することができる。
【数15】
【0108】
ステップ応答を拡張して、幅Tのパルスに対するパルス応答を
p(t,T)=s(t)-s(t-T) 式2
と記述することができる。
【0109】
これを二相及び三相パルスなどのより複雑な波形に同等に拡張することができる。
【0110】
図9の波形は、2つの成分、すなわち、二相刺激パルスと矩形組織戻りパルスとを有する。CPEの応答を、増幅器入力インピーダンス項から、抵抗性(パルス)応答と容量性(インパルス)応答とに分離することができる。したがって、増幅器出力で生成されるアーチファクトは、抵抗性成分及び容量性成分と二相パルス及び供給戻りパルスとの総和である。
【0111】
二相パルスに関連するパルスを「b」、刺激戻りパルスに関連するパルスを「s」、矩形抵抗性パルスからのパルスを「r」、及びインパルスコンデンサパルスからのパルスを「c」と命名すると、これらの4つの項は次の通りである。
y(r,b)=k(r,b) [s(t)-s(t-pw)+s(t-pw-ipg)-s(t-2.pw-ipg)] 式3
y(c,b)=k(c,b) [i(t)-i(t-pw)+i(t-pw-ipg)-i(t-2.pw-ipg)] 式4
y(r,s)=k(r,s) [s(t-pw-ipg)-s(t-2.pw-ipg)] 式5
y(c,s)=k(r,s) [i(t-pw-ipg)-i(t-2.pw-ipg)] 式6
【0112】
全体のアーチファクトは、
y=y(r,b)+y(c,b)+y(r,s)+y(c,s) 式7
である。
【0113】
これらの項の各々は、比例定数、例えばk(r,b)を有する。これらは、CPEのインピーダンスの差(Zc2-Zc1)と、刺激の(可変)振幅及び供給電圧の固定振幅と、抵抗Ri及びコンデンサCiの値とに依存する。
【0114】
しかしながら、本実施形態は、これらの4つの項を、これらの成分の総和とECAPとの最も可能性の高い一致を求めるスクラバーにおいて使用できることを認識している。
【0115】
増幅器が、純粋に容量性である入力インピーダンスを有する場合、y(r,s)=y(r,b)=0である。この場合、対応する「k」値を求める必要はなく、解くべき未知数が2つだけ残る。
【0116】
CPEの容量性インピーダンス部分と抵抗性インピーダンス部分との関係は、国際特許出願第PCT/AU2019/051160号明細書で説明されている。この関係は、y(c,b)からy(r,b)を算出することを可能にして、評価しなければならない変数の数を減らすために使用することができる。
【0117】
最後に、組織インピーダンスが測定されており且つ刺激電流及び供給電圧が既知である場合に、組織電圧を算出することができ、先に説明した4つの式の代わりに使用することができる。
【0118】
項αは電極形状により変化することが観察された。それゆえ、スクラブプロセスは、このパラメータを最適化中に変更する必要があることもある。
【0119】
刺激アーチファクトの起源に対する数学的基底の実際のスクラブ性能の調査を、ヒトSCS患者において記録された混合されたECAP信号及びアーチファクト信号を使用して行った。前述で説明した基底要素信号分離器の修正版としての実装により、以下で説明するアーチファクト基底をスクラブ性能について調査した。
【0120】
上述したように、部分極の特性を有する2つの成分電圧信号を有するCPEの電圧応答を説明することができる。
【0121】
これらの時間変化成分の各々は、増幅器入力インピーダンスの異なる容量挙動及び抵抗挙動の1つを表す。1つの成分は、正の傾きを有し、且つ増幅器入力インピーダンスの抵抗性成分により生成された電圧を表す。この成分をステップ成分と呼ぶ。
【数16】
【0122】
他の成分は、負の傾きを有し、且つCPEと増幅器入力インピーダンスの容量性成分との相互作用を表す。この成分をインパルス成分と呼ぶ。
i(t)=kit-a
【0123】
部分極の時定数αは電極-組織の界面の形状に依存すると考えられる。この分析では、一定値を前提としてきた。
α=0.364
【0124】
ステップ(ks)及びインパルス(ki)のスカラー成分は、刺激電極に送達される刺激電流の振幅と、刺激部位と記録部位との間の組織の特性とに依存しているとみなされ、ここでは、これについては制御しない。重要なことに、ks及びkiは、所与の源(すなわち、刺激電極及び記録電極の組)に対して一定であると仮定する。
【0125】
所与の二相又は三相刺激パラダイムでは、刺激及び戻り電圧波形は、複数のステップを含む。電圧ステップの各エッジは、独立した組のステップ成分及びインパルス成分を定義できる、特異点として作用する。これらのエッジ/特異点の数及びタイミングは、刺激波形に基づいて正確に定めることができ、システムの以下の調節可能なパラメータに依存する。
相数(二相又は三相)
第一相の極性(負又は正)
パルス幅
相間ギャップ
【0126】
記録されたアーチファクトは、刺激及び戻り電圧波形により生成された時間オフセットステップ及びインパルス成分の全てのスケールされた総和である。刺激波形のこれらの既知のパラメータを使用するこれらの時間オフセット刺激及び戻りステップ及びインパルス応答についての一般方程式を定義することができる。
【0127】
上記で説明したアーチファクト基底を、前述で説明した基底要素信号分離器を修正することによりアーチファクトスクラバーの実装を構築するためにも使用した。上述のように、基底要素信号分離器は、3つの基底関数を使用して、アーチファクトをモデル化する。
一定の時定数の指数関数
線形勾配
直流オフセット
【0128】
本実施形態は、指数的アーチファクト基底を上記で説明した部分極モデルに置き換えることによりこれを修正する。K値は、代表的なアーチファクトに適合され、次いで、基底要素信号分離器で解析され、且つ所与の活性化プロットのために全ての信号をスクラブするために一定のままであった。
【0129】
基底要素信号分離器は、基礎信号への適合を最適化するために、アーチファクト及びECAP基底に対して線形演算を実施することに留意されたい。すなわち、この実施態様では、部分極アーチファクト基底は、基底要素信号分離器がフィッティングの一部として追加のスケーリングを実施するので、アーチファクト基底の大きさ及び極性を正確に指定する必要がなく、アーチファクト基底の時間特性及び形状特性のみを指定する必要がある。
【0130】
非線形法を使用した有界k値のフィッティングの結果により、モデルのアーチファクトは、全ての場合において、代表的なアーチファクトの時間特性及び形状特性に適合することができたが、記録信号のいくつかの線形特性が欠落していたことが示された。
【0131】
このモデルのアーチファクトを基底要素信号分離器で解析すると、アーチファクトへの結果として得られた適合は、最小誤差の一貫して高い品質であり、線形特性のみがモデルから欠落していることを示した。
【0132】
混合されたECAP信号及びアーチファクト信号を処理する場合に、アーチファクトスクラバーとしての改良された基底要素信号分離器の実装の性能を試験した。各入力活性化プロットでは、上記で説明したように、代表的なアーチファクトを使用してアーチファクト基底をパラメータ化した。また、パラメータ化モデルを使用して活性化プロットからの信号をスクラブして、その結果を可視化した。スクラバーはアーチファクトの効果的な除去を示し、残留ECAP信号は、平坦且つクリーンである。追加的に、スクラブされた活性化プロットは、元の活性化プロットに存在する閾値以下のオフセット又は傾きを全く有しない。
【0133】
考慮に入れている回路は、変数間の関係を理解するのを補助し得る、
図12に集約して示すことができる。
【0134】
2つの刺激波形がある。
1.電流源出力に組織インピーダンスを乗じて形成された電圧。この電圧は、組織インピーダンス及び刺激電流により変化する。組織インピーダンスは電極に固有のものであり、刺激電流はプログラミングシステムにより分かる(一方は未知である)。
2.戻り電圧(VddHV)。戻り電圧は、プログラミングシステムにより分かる。
【0135】
両方の波形は、振幅部分と形状部分とを有する。形状部分は、プログラミングシステムにより分かる。組織電圧は、戻り電圧と刺激電圧との総和である。
VT=VRrs+RTIScss
【0136】
CPEは、増幅器入力インピーダンスに流れる電荷を蓄積し、この電荷の再分配によりアーチファクトが生じる。
【0137】
静電容量は、刺激波形からインパルス応答を生成する経路を提供し、組織電圧を微分して、インパルス成分を提供する。
【0138】
これは、少数の変数を有する以下の式であって、スクラバーで実施された場合に、寄生成分Z
CPE、R
A及びC
Aの物理値を求める以下の式に集約される。
【数17】
【0139】
最後に、(1/RA)(VRrs+RTIScss)という項は、これまでに検討されたデータでは無視できることが観察されているので、この項を省略することが可能であり得ることに留意されたい。したがって、最小インピーダンスが観察される。この場合、CA d/dt(VRrs+RTIscss)成分に対してのみ機能するスクラバーも、ほぼ同様に機能する可能性が高い。CAは任意の所与のインプラントについての定数であり得ることが留意される。
【0140】
全体として、評価された修正スクラバーは良好に機能し、非常に多くの自由度を有し、さらなる最適化を行う機会を提示する。
【0141】
さらに別の実施形態は、複素極スクラバーである。アーチファクトが二次応答である(二重指数関数がこの種の応答の一部である)と仮定した場合、原信号に適合する二次応答のパラメータを推定することができる。離散信号の場合、アーチファクトgはモデルに従う。
g[n]=b・g[n-1]+c・g[n-2]
【0142】
一連のサンプルが与えられた場合、行列方程式が書き出され得る。
【数18】
である。
【0143】
それゆえ、係数b及びcは、次式を計算することにより決定され得る。
【数19】
【0144】
具体的な実施形態で示すように、広く説明した本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本発明に対して数多くの変形及び/又は修正がなされ得ることが、当業者には理解されるであろう。それゆえ、本実施形態は、全ての点において例示的なものとみなされるべきであり、限定的又は制限的なものとみなされるべきではない。
【符号の説明】
【0145】
100 埋め込み型神経装置
110 電子機器モジュール
112 バッテリ
114 遠隔測定モジュール
116 モジュールコントローラ
118 メモリ
120 患者設定
122 制御プログラム
124 パルス発生器
126 電極選択モジュール
128 測定回路
150 電極アレイ