(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】複合材料部品を形成するためのプリプレグテープの自動積層
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240819BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240819BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:08
B29K101:10
(21)【出願番号】P 2021535771
(86)(22)【出願日】2019-12-21
(86)【国際出願番号】 US2019068197
(87)【国際公開番号】W WO2020132663
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース, スコット
(72)【発明者】
【氏名】ハワード, スティーヴン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス, スコット
(72)【発明者】
【氏名】ポンソル, ドミニク
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504118(JP,A)
【文献】特表2017-521291(JP,A)
【文献】特表2003-513110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織ベールを一方向繊維トウの層に接合して繊維積層体を形成すること;
樹脂が不織ベールと直接接触するように硬化性樹脂の層を繊維積層体と接触させること;
不織ベールが硬化性樹脂の層に埋め込まれるように、且つ一方向繊維トウが硬化性樹脂によって部分的に囲まれるように、熱及び圧力をかけながら硬化性樹脂の層を繊維積層体の中に押し込み、それによって片面のみ連続樹脂表面を有する部分的に含浸されたプリプレグを形成すること;
部分的に含浸されたプリプレグを狭い幅の連続したプリプレグテープへと細長く切断すること;
を含む、自動積層プロセスにおいて使用するための部分的に含浸されたプリプレグテープを形成するための方法。
【請求項2】
一方向繊維トウの層が第1の不織ベールと第2の不織ベールとの間に挟まれている繊維積層体を形成すること;
第1の不織ベールが硬化性樹脂と直接接触するように硬化性樹脂の層を繊維積層体の片面と接触させること;
第1の不織ベールが硬化性樹脂の層に埋め込まれるように、且つ一方向繊維トウが樹脂によって部分的に囲まれるように、ただし第2の不織ベールは前記樹脂を含まないように、熱及び圧力をかけながら硬化性樹脂の層を繊維積層体の中に押し込み、それによって樹脂表面と前記硬化性樹脂を含まない乾燥表面とを有する部分的に含浸されたプリプレグを形成すること;
部分的に含浸されたプリプレグを狭い幅の連続したプリプレグテープへと細長く切断すること;
を含む、自動積層プロセスにおいて使用するための部分的に含浸されたプリプレグテープの形成方法。
【請求項3】
不織ベールがランダムに配向した炭素繊維又は熱可塑性繊維からなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
不織ベールがランダムに配向した炭素繊維からなり、
不織ベールが、(i)不織ベール及び一方向繊維トウの層のうちの少なくとも1つに第1のバインダーを塗布すること、並びに(ii)不織ベールを一方向繊維トウの層に接合して繊維積層体を形成すること、
によって一方向繊維トウの層に接合される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
不織ベールがランダムに配向した炭素繊維からなり、
不織ベールが、(i)不織ベール及び一方向繊維トウの層のうちの少なくとも1つに第1のバインダーを塗布すること、(ii)不織ベールを一方向繊維トウの層に接合して繊維積層体を形成すること、(iii)液体形態の第2のバインダーを繊維積層体に塗布すること、並びに(iv)バインダーで処理された繊維積層体を乾燥すること、
によって一方向繊維トウの層に接合される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
不織ベールがランダムに配向した熱可塑性繊維からなり、繊維積層体が、ベールが一方向繊維トウの層に接着するように不織ベールに熱及び圧力をかけることによって形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
一方向繊維トウの層に接合された不織ベールと、
不織ベールが埋め込まれた硬化性樹脂の層と、
を含み、片面にのみ連続した樹脂表面を有し、且つ約0.125インチ~約12インチ(又は約0.3cm~約30.5cm)の範囲の幅を有する、自動積層プロセスで使用するための部分的に含浸されたプリプレグテープであって、
一方向繊維トウが、硬化性樹脂層によって部分的に囲まれている、
部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項8】
第1の不織ベールと第2の不織ベールとの間に挟まれた一方向繊維トウの層と、
第1の不織ベールが埋め込まれた硬化性樹脂の層と、
を含み、片面にのみ連続した樹脂表面を有し、且つ約0.125インチ~約12インチ(又は約0.3cm~約30.5cm)の範囲の幅を有する、自動積層プロセスで使用するための部分的に含浸されたプリプレグテープであって、
第2の不織ベールが硬化性樹脂の層に埋め込まれておらず、一方向繊維トウが硬化性樹脂層によって部分的に囲まれている、
部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項9】
幅の少なくとも10倍である長さを有する、請求項
7又は
8に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項10】
硬化性樹脂の層に埋め込まれたポリマー粒子を更に含む、請求項
7~9のいずれか一項に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項11】
硬化性樹脂の層が、1種以上のエポキシ樹脂及び硬化剤を含む、請求項
7~10のいずれか一項に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項12】
一方向繊維トウが一方向炭素繊維トウである、請求項
7~11のいずれか一項に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項13】
不織ベールが、ランダムに配置された熱可塑性繊維又は炭素繊維又はこれらの組み合わせから構成される、請求項
7、9~11のいずれか一項に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【請求項14】
第1及び第2の不織ベールが、熱可塑性繊維、炭素繊維、及びこれらの組み合わせから選択されるランダムに配置された繊維から構成される、請求項
8~11のいずれか一項に記載の部分的に含浸されたプリプレグテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月21日に出願された先の米国仮出願第62/783,972号に基づく利益を主張するものであり、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、複合材料部品の製造に関する。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1A-1B】一実施形態による部分的に含浸されたプリプレグの成形方法を示す。
【
図2A-2B】別の実施形態による部分的に含浸されたプリプレグの成形方法を示す。
【
図3】別の実施形態による強化粒子を含有する部分的に含浸されたプリプレグを示す。
【
図4】別の実施形態による不織ベールを含まない部分的に含浸されたプリプレグを示す。
【
図5】従来の粘着性プリプレグテープを使用して自動繊維積層(AFP)によって製造された硬化した複合材料積層体の断面図を示す光学画像である。
【
図6】一実施例に従って製造されたスリット状の部分的に含浸されたプリプレグの上面図である。
【
図7】一実施例に従って作製された片面粘着性プリプレグテープを使用して製造された硬化した複合材料積層体の断面図を示す光学画像である。
【発明を実施するための形態】
【0004】
マトリックス樹脂と強化繊維とからなる複合材料は、典型的には例えば航空機部品などの高い強度と低い重量が重要な領域で使用される。航空宇宙構造用途に使用されるほとんどの複合材料は、熱硬化性樹脂と連続炭素繊維などの高強度繊維とを含む。典型的には、これらの熱硬化性樹脂は、オートクレーブを使用して、高温(例えば250~350oF又は121~177℃)及び高圧下(例えば85psi又は586kPa)で硬化される。
【0005】
複合材料部品を形成するための従来の製造方法は、「プリプレグ」と呼ばれる樹脂含浸複合材料のシートが、複合材料部品の形状を再現できるツール表面に互いに積み重ねられて配置されるプリプレグレイアッププロセスである。その後、プリプレグのレイアップをコンソリデーションし、硬化させることで、固化した複合材料部品が製造される。
【0006】
厚い複合材料部品の製造で遭遇する主な問題は、最終的な複合材料部品の多孔性(又はボイド)である。複合材料積層体におけるボイドの形成及び成長は、主に閉じ込められた揮発性物質に起因する。同様の条件下で処理された複合材料部品は、大きく異なるボイドレベルをもたらし、生産速度を低下させることが判明している。ボイドの形成は、複合材料の機械的特性を著しく損ない、多くの場合は部品の不合格に起因して多額の修理費用を要する。
【0007】
ボイドのない積層体を製造することが可能な1つの方法は、オートクレーブを利用することである。オートクレーブは、プリプレグのレイアップを高温高圧にさらすことが可能なため、これらは容易に合体して強化された複合材料を形成することができる。樹脂のゲル化とその後の硬化中に圧力が維持される場合には、ボイドのないマトリックスが得られる。しかしながら、オートクレーブからの圧力の印加は、ボイドのない強化された複合材料部品を得るためのその潜在能力の観点から魅力的であるものの、関連する装置の高い資本コストの観点からは費用がかかる。更に、強化された複合材料部品のサイズが大きすぎてそのような方法では効率的に硬化できない場合には、オートクレーブは望ましくないとみなされる。加えて、低い生産率で強化された複合材料部品を製造する場合には、木製の低コストのツール又は低いガラス転移温度のポリマーツールが一般的に使用される。しかしながら、これらのツールが使用される場合には、複合材料部品は比較的低い温度及び圧力を使用してのみ硬化することができる。したがって、オートクレーブの使用はこれらの状況では現実的ではない。
【0008】
オートクレーブを使用するより安価な代替手段は、プリプレグのレイアップをツール表面に配置し、次いでガス不透過性のフレキシブルな膜(「真空バッグ」と呼ばれる)に封入する真空バッグオンリー(VBO)と呼ばれる真空プロセスである。膜で囲まれた容積は排気され、プリプレグレイアップとツールとのアセンブリはゆっくりと加熱される。真空バッグを使用した圧力の印加は、オートクレーブを使用するよりもコスト効率が高いものの、樹脂マトリックスにボイドが発生するため、得られる積層体は通常は品質が劣っている。ボイドは、マトリックス樹脂と、プリプレグのシート又はプライの間の層間領域の両方に閉じ込められる。
【0009】
ボイド問題の解決手段は、レイアッププロセスで部分的に含浸されたプリプレグを使用することである。部分的に含浸されたプリプレグは、硬化性樹脂組成物で部分的に含浸された繊維層からなる。部分的に含浸されたプリプレグのレイアップがVBOプロセスで加熱されると、樹脂が繊維層の中に完全に注入され、樹脂のない領域が埋められる。硬化すると、ボイドのない積層体が実現する。
【0010】
部分的に含浸されたプリプレグは、樹脂が繊維層の厚さを部分的に貫通するように、樹脂フィルム又は2枚の樹脂フィルムを繊維層(例えば布地)の1つの表面又は片面に押し付けることによって製造することができる。好ましくは、プリプレグの中央に乾燥繊維の樹脂を含まない領域が存在するように部分的に含浸されたプリプレグを製造する場合には、繊維層の上面と下面の両方又は両面が部分的に含浸される。プリプレグの樹脂を含まない領域は、プリプレグレイアップが真空引きされる際にプリプレグ中の閉じ込められた空気及び/又は他の揮発性物質を除去することができる逃げ道を提供する。典型的には、そのような部分的に含浸されたプリプレグは、樹脂と繊維層の総重量を基準として約25重量%~約50重量%の樹脂成分を含む。
【0011】
そのような部分的に含浸されたプリプレグは、ボイドのない複合材料積層体を製造するために使用できるものの、これらは、繊維床の低い樹脂成分含有量又は樹脂の不足に起因して、幅の制御が不十分なけば立ったスリット製品になり、その結果繊維積層装置が詰まってしまうことから、自動強化積層(ATL)及び自動繊維積層(AFP)などの自動積層プロセスに適した「プリプレグスリットテープ」とも呼ばれる狭い幅の連続ストリップへと細長く切断することはできない。
【0012】
ATL及びAFPは、レイアッププロセスの速度及び効率を高めるために使用されてきた。ATLプロセス又はAFPプロセスは、プリプレグテープなどの材料の複数の狭い幅の平らなストリップを並列にツール表面上に自動的に分配して、「プライ」と称される大きな寸法の層を作ることを含む。この自動配置方法は高速で行われ、典型的に、最終複合材料部品の形状を再現する選択されたツール表面の表面に相応する様々な形態でプリプレグテープを敷設することができる。レイダウン速度を維持し、硬化した部品構造の欠陥をもたらすレイアップの隙間や重なりを回避するためには、スリットの縁の品質の制御が必要とされる。
【0013】
ATL又はAFP装置は、一般的に、積層ヘッドと、ツール表面全体にわたって異なった方向に積層ヘッドを移動させるためのロボットシステムと、プリプレグテープの連続したストリップが巻き取られる保存用クリールと、テープをクリールから積層ヘッド上に誘導するための機構とを備える。積層ヘッドは、回転可能な締固めローラーと、テープをクリールから締固めローラーに搬送するための搬送手段とを備える。締固めローラーは、テープをツール表面又はテープの先行配置されたプライに対して適用するためにツール表面と接触するように構成される。装置は、切断手段、例えば、連続強化材の長さを供給クリールから切断するための刃を更に備える。積層ヘッドは、一回の通過の間に複数のテープを同時に堆積するように構成されてもよい。
【0014】
スリット状の熱硬化性プリプレグテープを自動的にレイダウンして複合材料構造部品を製造し、その後これを真空バッグシステム内で硬化させることができるAFP装置を利用できることが望ましい。産業界で一般的な含浸方法は、空気除去機構を繊維トウの中心線に配置するデュアルフィルムアプローチである。プリプレグを狭い幅に細く切断する要求は、中心線における乾燥繊維の量を減らす最小レベルの含浸を更に規定し、これは2つの粘着性のあるプライの間に空気を閉じ込める一方で空気の排出を制限する。樹脂含浸プリプレグを細長く切断するには、典型的には90%を超える高い含浸レベルが必要とされる。そのような含浸レベルは、吸水性試験によって測定することができ、これによってプリプレグのサンプルは、繊維方向にその中の乾燥繊維空間に水を取り込む。このレベルの含浸未満では、細長く切断される間にプリプレグ内の乾燥繊維がその位置から外れる。したがって、空気除去機構は、細長く切断するために必要なより高いレベルの含浸によって妨げられる。
【0015】
本開示は、細長く切断する性能、含浸のレベル、及び層間空隙率に関連する前述した問題を解決することを目的とした自動積層プロセスを提供する。このプロセスは、部分的に含浸されたプリプレグのシートを形成し、それを連続的なプリプレグテープへと細長く切断することを含む。テープの長さは連続しており、又はその幅に対して非常に長く、例えば、その幅の100~100,000倍である。部分的に含浸されたプリプレグテープは、約0.125インチ~約12インチ(又は約0.3cm~約30.5cm)の幅を有してもよい。一実施形態において、プリプレグテープは、約0.125インチ~約2.0インチ(又は約0.3cm~約5.0cm)、又は約0.25インチ~約0.50インチ(又は約0.6cm~約1.28cm)の幅を有する。別の実施形態では、テープは、約6インチ~約12インチ(又は約15.2cm~約30.5cm)の幅を有する。連続した形態において、表面テープは、自動化方法においてその適用前に貯蔵のためにロールに巻き上げられ得る。
【0016】
複合材料積層体を形成するために、プリプレグテープは、自動積層プロセス、例えばATL又はAFPにより、ツール又はモールド表面上にレイアップされて、複合材料積層体を形成する。ATL/AFPプロセスでは、1つ以上の数値が制御された積層ヘッドを使用して個々のプリプレグテープがマンドレル又はモールド表面に高速で直接レイダウンされ、積層中に各テープが分配、クランプ、切断、及び再開される。プリプレグテープは並列で分配されて望まれる幅及び長さの層を形成し、多くの場合、これは排気を支援するためのテープ間の制御されたギャップを含んでおり、その後、前の層の上に追加の層が形成されることで、望まれる厚さを有するプリプレグレイアップが提供される。後続テープは、先行テープに対して異なった角度に配向されてもよい。ATL/AFPシステムは、テープを直接にマンドレル表面上に分配して圧縮するための手段を備えている。
【0017】
図1A及び1Bは、一実施形態による部分的に含浸されたプリプレグを形成するための方法を示す。この実施形態では、硬化性樹脂10の層は、部分的に含浸されたプリプレグ13を形成するように、トウ12の形態の一方向繊維の層に隣接する不織ベール11上に押し付けられる。好ましくは、不織ベール11と繊維トウ12は、樹脂で含浸される前に繊維積層体として互いに接合される。「一方向」という用語は、同じ方向に平行に整列することを意味する。各繊維トウ12は、複数の連続繊維フィラメントの束である。硬化性樹脂層10は、熱及び/又は圧力を加えることで、ベール10及び繊維トウ12上に押し付けられる。熱を加えると、樹脂10が軟化する。軟化樹脂10は、不織ベール11を完全に含浸するが、一方向繊維トウ12の層を部分的にのみ含浸し、その結果、「粘着面」と呼ばれる片面にある連続樹脂表面と、そのような連続した樹脂表面を有さない反対側の乾燥した粘着性のない面とを有する部分的に含浸されたプリプレグ13が得られる。粘着面は、室温(20℃~25℃)で粘着性のある未硬化の樹脂10の存在に起因する。樹脂表面に関して使用される「粘着性」という用語は、触れるとそれが粘着性があることを意味する。
【0018】
部分的に含浸されたプリプレグ中の樹脂の塊は、マトリックス樹脂と呼ばれる。不織ベールはマトリックス樹脂に埋め込まれる。すなわち、不織ベールは樹脂マトリックス内にある一方で、繊維トウはマトリックス樹脂で完全には囲まれていない。
【0019】
本発明との関係における「含浸」という用語は、溶融状態又は液体の樹脂を繊維質材料の隙間又は穴に注入又は導入することを指す。一方向繊維トウ12の層に関して、「部分的に含浸された」という語句は、繊維トウが樹脂によって部分的に囲まれるように、すなわち樹脂に完全には囲まれないように、一方向繊維トウの間の空間に樹脂10が部分的に浸透することを指す。
【0020】
樹脂含浸の前に、不織ベール11及び一方向繊維トウ12の層は、接合を強化するために少なくとも1種のバインダーを使用して互いに接合されてもよい。好ましい実施形態では、異なるバインダーの組み合わせが適用される。或いは、不織ベール11は、熱及び圧力を加えることによって一方向繊維トウ12の層に熱的に接合することが可能な熱可塑性材料から形成される。
【0021】
図1Bに示されている実施形態では、部分的に含浸されたプリプレグ13の樹脂含有量は、プリプレグの総重量を基準として約25重量%~約50重量%である。
【0022】
図2A及び2Bによって示されている別の実施形態では、硬化性樹脂層20は、2枚の不織ベール22及び23の間に挟まれた一方向繊維トウ21のアセンブリ上に押し付けられて、部分的に含浸されたプリプレグ24を形成する。繊維トウは、樹脂含浸の前に2枚の不織ベールに接合されてもよい。最終的なプリプレグ24の硬化性樹脂層20にはベールのうちの1枚のみが埋め込まれており、繊維トウはマトリックス樹脂によって完全には囲まれていない。部分的に含浸されたプリプレグ24は、樹脂の存在による粘着性の面と、そのような樹脂を含まない外側の不織ベール23に起因する反対側の乾燥した非粘着性の面とを有する。
【0023】
図2Bに示されている実施形態では、部分的に含浸されたプリプレグ24の樹脂含有量は、プリプレグの総重量を基準として約25重量%~約50重量%である。
【0024】
一実施形態では、
図1A又は
図2Aの樹脂層は、樹脂層が繊維積層体の中に押し込まれた際に粒子が不織ベールによって濾過され、不織ベールの片面のみに位置するように、ポリマー系強化粒子を含む。
図3は、埋め込まれた不織ベール31の片面に粒子を有する部分的に含浸されたプリプレグ30を示している。
【0025】
上述した部分的に含浸されたプリプレグは、従来の切断機を使用して細長く切断されて、その幅の少なくとも10倍の長さ、例えばその幅の100倍~1000倍の長さを有する複数の狭い幅のプリプレグの連続ストリップ、すなわちプリプレグテープを形成する。スリット形状への切断は、好ましくは、繊維トウの長手方向の長さに沿ったものである。本開示のプリプレグ構成の1つの利点は、切り口に毛羽立ちを生じさせずにスリット形状への切断を実行できることである。更に、スリット形状への切断は、最初のプリプレグプライのいずれかの面にポリマー系バッキングシート又は剥離紙を貼り付けずに行うことができる。部分的に含浸されたプリプレグの形成中に使用されたバッキングシート又は剥離紙は、いずれも細長く切断する前に除去される。ATL/AFP装置などの自動積層装置で使用する場合、プリプレグテープは最大5cm(又は2インチ)の幅を有することができる。一実施形態によれば、各テープは、0.6cm~5cm又は0.32cm~1.28cmの範囲内の幅、及びその幅の少なくとも100倍である長さを有する。任意選択的には、剥離ライナー(これはポリエステル製であってもよい)がスリット状プリプレグテープの粘着性樹脂表面に塗布され、スリット状プリプレグテープは剥離ライナーと共にスプールに巻き付けられる。剥離ライナーはプリプレグテープよりも大きい幅の寸法を有し、スプールに巻きつけられた際にプリプレグテープの粘着性のある樹脂表面が乾いた面に粘着するのを防ぐように機能する。そのようなスプールは、ATL/AFP装置に取り付けることができる。
【0026】
図4は、部分的に含浸されたプリプレグ40が不織ベールを含まない別の実施形態を示している。この実施形態では、繊維トウ41は、樹脂フィルム含浸の前にバインダー組成物で前処理される。繊維トウは、トウ間にギャップなしで平行に配置される。本明細書に開示の目的のためには繊維トウの間にギャップを持たせる必要はないものの、小さなギャップは、樹脂フィルムを繊維層の中に更に浸透させることができるため可能である。一実施形態では、液体バインダー組成物(以下で更に詳しく説明する)を一方向繊維トウの層に塗布し、次いで樹脂層を一方向繊維トウの中に押し込むことで、
図4に示す部分的に含浸されたプリプレグが形成される。或いは、液体バインダー組成物は、炭素繊維製造プロセスの最後に、且つ繊維をトウに束ねる前に、炭素繊維に塗布される。その後、バインダー処理された繊維トウが樹脂フィルムの含浸に使用されることで、部分的に含浸されたプリプレグが形成される。
【0027】
本開示の部分的に含浸されたプリプレグは、好ましくは、吸水性試験によって決定される最大87%、いくつかの実施形態では75%~87%の低レベルの含浸を有する。
【0028】
ベール/繊維アセンブリ
不織ベールが存在する実施形態では、部分的に含浸されたプリプレグにおいて使用するための不織ベールは、ランダムに配向された、又はランダムに配置された繊維を含み得る。ベールの繊維には、無機繊維又はポリマー繊維が含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、ベールは、炭素繊維若しくは熱可塑性繊維、又は炭素繊維と熱可塑性繊維との組み合わせから構成される。繊維の長さは、1/8インチ(0.32cm)から2インチ(5.08cm)まで様々であってもよい。この実施形態における不織ベールの目付は、好ましくは10グラム/平方メートル(gsm)未満である。
【0029】
或いは、不織ベールは、熱可塑性グリッド、又は開口部の制御されたパターンを有する多孔質の熱可塑性膜の形態である。熱可塑性グリッド又は多孔質膜は、2~50gsm、好ましくは2~20gsm、より好ましくは2~10gsmの範囲の目付を有し得る。
【0030】
樹脂含浸の前に、一方向繊維(トウの形態)及び不織ベールは、接合を強化するために1種以上のバインダーを使用して互いに接合されてもよい。一実施形態によれば、バインダーを塗布する方法は、粒子形態又は液体形態のバインダーを、トウの形態で広げられた一方向繊維の繊維層に塗布すること;不織ベールを繊維層の少なくとも片面に接合させること;を含む。或いは、バインダーは、粒子又は液体組成物として不織ベールに塗布され、次いでベールが繊維層に接合される。別の代替の実施形態では、バインダーは、不織ベールの製造に使用される。その後、バインダーを含むベールが一方向繊維の繊維層に接合される。
【0031】
一実施形態では、バインダーは、50℃までの温度で固体であり、65℃~125℃の範囲の温度で軟化点を有し、エポキシ樹脂と熱可塑性ポリマーとのブレンドを含むが、65℃より高い温度で活性を有する触媒又は架橋剤を含まない。バインダー中の熱可塑性ポリマーは、ポリアリールスルホンポリマーであってもよい。一実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルスルホン-ポリエーテルエーテルスルホン(PES-PEES)コポリマーである。この固体バインダー材料の製造方法は、Cytec Technology Corp.に譲渡された米国特許第8,927,662号明細書の中で見ることができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
別の実施形態によれば、バインダーは、(a)1種以上の多機能エポキシ樹脂、(b)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー、(c)アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選択される1種以上の界面活性剤、(d)水、を含有する水性バインダー分散液であり、好ましくは、有機溶媒を本質的に含まない。有機又は無機充填剤及び消泡剤などの任意選択的な添加剤も、バインダー組成物中に含まれていてもよい。バインダー分散液中の熱可塑性ポリマーは、ポリアリールスルホンポリマー、例えばPES又はPES-PEESコポリマーであってもよい。
【0033】
別の実施形態によれば、2つの異なるタイプのバインダーが、一方向繊維と不織ベールとのアセンブリに塗布されて、得られる積層体に凝集性を付与する。この実施形態では、粒子形態又は液体形態の第1のバインダーが、最初に一方向繊維の繊維層又は不織ベールに塗布され、ベールが繊維層の少なくとも片面に接着されて繊維積層体が形成され、続いて液体組成物の形態の第2のバインダーが、例えばディップコーティングなどにより繊維積層体に塗布され、バインダー処理された繊維積層体がオーブン中で乾燥される。代替の実施形態では、第1のバインダーは、不織ベールの製造に使用される。その後、バインダー含有ベールが一方向繊維の繊維層に接合されて繊維積層体を形成し、続いて第2の液体バインダーが塗布され乾燥される。
【0034】
液体バインダー組成物は、ポリマーエマルジョンであってもよく、繊維積層体をコーティングするため及びこれに浸透させるために塗布される。水は、その後制御された時間/温度プロファイルに従って蒸発され、望まれる物理的特性のバランスを実現する。液体バインダー組成物は、これが繊維積層体全体に分布するように塗布される。
【0035】
一例として、液体バインダー組成物は、(i)ポリヒドロキシエーテルとポリウレタンとのコポリマー、(ii)架橋剤、及び任意選択的な(iii)触媒、を含有する水性分散液であってもよい。架橋剤は、アミノプラスト架橋剤、例えばメトキシアルキルメラミンの分類のアミノプラスト架橋剤であってもよい。触媒としては、限定するものではないが、プロトン供与酸(カルボン酸、リン酸、酸性アルキルリン酸エステル、スルホン酸、ジスルホン酸など)及び/又はルイス酸(塩化アルミニウム、臭化物、又はハロゲン化物、ハロゲン化第二鉄、三ハロゲン化ホウ素など)、並びに当業者に周知の両方のカテゴリーのその他の多くのものが挙げられる。
【0036】
繊維積層体中のバインダーの総含有量は、積層体の総重量を基準として約15重量%以下、例えば0.1~15重量%である。上で説明した第1のバインダーも第2のバインダーも、繊維積層体の表面上に連続層を形成しない。そのため、繊維積層体は多孔質であり、樹脂含浸中に溶融樹脂が浸透して、部分的に含浸されたプリプレグが形成される。
【0037】
不織ベールが炭素繊維又は他の無機繊維から構成される場合には、上述した1種以上のバインダーの塗布が好ましい。
【0038】
いくつかの実施形態では、不織ベールは、バインダー材料として機能する熱可塑性材料製である。そのような実施形態では、単一の不織熱可塑性ベールが、熱及び圧力の印加によって一方向繊維の繊維層の少なくとも片面に接合される。この接合プロセスは、熱接合と呼ばれる。不織熱可塑性ベールは、繊維層の片面に接合されてもよく、或いは繊維層が2枚の不織熱可塑性ベールの間に挟まれるように繊維層の両面に接合されてもよい。不織熱可塑性ベールの材料は、ポリアミド、ポリフタルアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、ポリオレフィン、ポリアリールスルホン(ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)を含む)、ポリフェニレンスルホン、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)(ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む)、液晶ポリマー(LCP)、フェノキシ、アクリル、アクリレート、これらの混合物及びコポリマーから選択することができる。
【0039】
上で説明したように、一方向繊維は連続繊維トウの形態であってもよい。各繊維トウは、数百もの小さな連続繊維のフィラメントから構成される。繊維トウは、トウあたり1000~100,000本の繊維フィラメントを有することができ、いくつかの実施形態では、トウあたり3000~24000本のフィラメントを有し得る。繊維フィラメントは、3~15μm、好ましくは4~7μmの範囲内の断面直径を有し得る。適切な繊維は、航空宇宙及び自動車用途の複合材料部品などの高性能複合材料の構造補強材として使用されているものである。構造繊維は、炭素(グラファイトを含む)、ガラス(E-ガラス又はS-ガラス繊維を含む)、石英、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、及びその他のセラミックなどの高強度材料、並びにアラミド(Kevlarを含む)、高弾性ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾビスオキサゾール(PBO)、及びこれらのハイブリッドの組み合わせから製造することができる。飛行機の主要部品などの高強度複合材料構造体を製造するためには、一方向繊維は、好ましくは500ksiを超える引張強さを有する。好ましい実施形態では、一方向繊維は炭素繊維である。
【0040】
硬化性樹脂
部分含浸プリプレグを形成するための硬化性樹脂層は、1種以上の未硬化の熱硬化性樹脂を主成分として含む熱硬化性樹脂組成物から形成される(組成物の重量%で最も大きい割合を占める)。硬化すると、樹脂組成物中の熱硬化性樹脂は架橋され、組成物は硬化した材料になる。適切な熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、イミド(ポリイミド又はビスマレイミドなど)、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールなど)、ポリエステル、アクリル、これらのハイブリッド、ブレンド、及び組み合わせが挙げられる。硬化すると、そのような熱硬化性樹脂組成物は硬化する。
【0041】
本開示で使用される用語「硬化する(cure)」、「硬化する(curing)」は、化学反応、紫外線、又は熱によって引き起こされる分子架橋による材料の固化を指す。「硬化性」の材料は、硬化することができる、すなわち硬くなることができるものである。
【0042】
好適なエポキシ樹脂には、芳香族ジアミン、芳香族モノ第一級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のポリグリシジル誘導体が含まれる。好適なエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS及びビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル、並びにクレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが含まれる。
【0043】
具体的な例は、4,4’-ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o-クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル又はテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0044】
ホストマトリックス樹脂での使用に好適な市販のエポキシ樹脂には、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例えばHuntsman製のMY 9663、MY 720、及びMY 721);N,N,N’,N’-テトラグリシジル-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソ-プロピルベンゼン(例えばMomentive製のEPON 1071);N,N,N’,N’-テトラクリシジル(tetraclycidyl)-ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン(例えばMomentive製のEPON 1072);p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstman製のMY 0510);m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstman製のMY 0610);2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールA系材料のジグリシジルエーテル(例えばDow製のDER 661、又はMomentive製のEPON 828、及び好ましくは25℃で粘度8~20Pa・sのノボラック樹脂;フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(例えばDow製のDEN 431又はDEN 438);ジ-シクロペンタジエン系フェノールノボラック(例えばHuntsman製のTactix(登録商標)556);並びにジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)のジグリシジル誘導体(例えばHuntsman製のPY 306)が含まれる。
【0045】
一般に、硬化性樹脂組成物は、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー制御剤、粘着性付与剤、無機若しくは有機充填剤、強靱化剤としての熱可塑性及び/又はエラストマー系ポリマー、安定剤、抑制剤、顔料、染料、難燃剤、反応性稀釈剤などの他の添加剤、並びに硬化前又は硬化後のマトリックス樹脂の特性を変性させるための当業者に周知の他の添加剤と組み合わせて1種以上の熱硬化性樹脂を含有する。
【0046】
強化剤は、ポリマー系強化粒子の形態であってもよい。本明細書の目的に適したポリマー系強化粒子には、熱可塑性又はエラストマー性の粒子が含まれる。熱可塑性粒子については、熱可塑性ポリマーは、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA/ナイロン)、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、架橋ポリブタジエン、ポリアクリル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリエーテルイミド(PEl)、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルケトンケトン(PEKK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリヒドロキシエーテル、スチレン-ブタジエン、ポリアクリレート、ポリアセトール、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド-イミド、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、それらのブレンド、又はそれらのコポリマーから選択することができる。
【0047】
ポリマー系強化粒子は任意の三次元形状であってもよく、いくつかの実施形態では、それらは実質的に球形である。いくつかの実施形態では、強化粒子は約1:1のアスペクト比を有する。強化粒子に関して、用語「アスペクト比」は、粒子の最大断面寸対最小断面寸法の比を意味する。
【0048】
本明細書に開示の目的のためには、ポリマー系強化粒子は、約100μm未満、例えば約10μm~約50μmの範囲内、又は約15μm~約30μmの範囲内の平均粒子サイズ(d50)を有し得る。本明細書に開示される平均粒径は、レーザー回折技術により、例えば0.002ナノメートル~2000ミクロンの範囲で稼働するMalvern Mastersizer2000を用いて、測定できる。「d50」は、粒度分布の中央値を表し、又は代替として、粒子の50%がこの値以下の粒径を有するような分布の値である。
【0049】
球状粒子(約1:1のアスペクト比を有する)については、平均粒度はその直径を指す。非球状粒子については、平均粒度は粒子の最大横断面寸法を指す。
【0050】
通常、強化剤が添加される場合、それらは硬化性樹脂組成物の総重量を基準として最大20重量%の量で存在する。ポリマー系強化粒子が樹脂層の組成物に添加される場合、ポリマー系強化粒子の含有量は、硬化性樹脂層の総重量を基準として約2重量%~約20重量%、例えば約10重量%~約15重量%であってもよい。
【0051】
強化粒子は、その硬化中に熱硬化性樹脂組成物に可溶性であっても不溶性であってもよい。可溶性粒子は、樹脂の硬化時に周囲の樹脂へ溶解するが、不溶性粒子は、硬化後、硬化ポリマーマトリックス中にばらばらの粒子としてとどまる。ある種の粒子が不溶性であるか可溶性であるかの決定は、それらが存在する特定の樹脂系への粒子の溶解性に関連している。
【0052】
硬化性樹脂組成物への硬化剤及び/又は触媒の添加は任意選択であるが、そのようなものの使用は、必要に応じて、硬化速度を増加させる及び/又は硬化温度を低下させことができる。硬化剤は好適には、公知の硬化剤、例えば、芳香族若しくは脂肪族アミン、又はグアニジン誘導体から選択される。芳香族アミン硬化剤が好ましく、好ましくは、1分子当たり少なくとも2つのアミノ基を有する芳香族アミンであり、例えばアミノ基がスルホン基に対してメタ位又はパラ位にある、ジアミノジフェニルスルホンが特に好ましい。特定の例は、3,3’-及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(DDS);メチレンジアニリン;ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;4,4’メチレンビス-(2,6-ジエチル)-アニリン(Lonza製のMDEA);4,4’メチレンビス-(3-クロロ,2,6-ジエチル)-アニリン(Lonza製のMCDEA);4,4’メチレンビス-(2,6-ジイソプロピル)-アニリン(Lonza製のM-DIPA);3,5-ジエチルトルエン-2,4/2,6-ジアミン(Lonza製のD-ETDA 80);4,4’メチレンビス-(2-イソプロピル-6-メチル)-アニリン(Lonza製のM-MIPA);4-クロロフェニル-N,N-ジメチル-尿素(例えばMonuron);3,4-ジクロロフェニル-N,N-ジメチル-尿素(例えばDIURON TM)及びジシアノジアミド(例えばPacific Anchor Chemical製のAMICURE TM CG 1200)である。
【0053】
好適な硬化剤には又、酸無水物、特にポリカルボン酸無水物、例えばナド酸無水物、メチルナド酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、及びトリメリット酸無水物などが含まれる。
【0054】
真空バッグオンリープロセス
複合材料構造体を形成するために、本明細書に開示の片面粘着性プリプレグテープは、自動積層プロセス、例えばATL又はAFPにおいて使用されてプリプレグプライのスタックを形成し、続いてこれは真空バッグオンリー(VBO)プロセスを使用してコンソリデーション及び硬化される。例示的な製造方法は、
a.上述した方法のいずれかに従って、複数の片面粘着性プリプレグテープを形成する工程;
b.自動化により、プリプレグテープをツール表面に並列に(必要に応じて制御されたギャップで)分配して、各プリプレグテープの粘着性樹脂表面がツール表面に面する第1のプリプレグプライを形成する工程;
c.第1のプリプレグプライ上に1つ以上の後続のプリプレグプライを形成して、部分的に含浸されたプリプレグプライのスタックを形成し、自動化により、複数のプリプレグテープを予め形成したプリプレグプライ上に並列に分配することによって、後続プリプレグテープの樹脂表面がその前に形成されたプリプレグプライと接触するように各後続のプリプレグプライを形成する工程;
d.プリプレグプライのスタックを、フレキシブルな非多孔質フィルムとモールド表面との間に規定された真空エンベロープの中に入れる工程;
e.プリプレグプライのスタックを加熱する工程;
f.プリプレグプライのスタックをコンソリデーションするのに十分な真空圧を形成するために真空エンベロープから空気を抜き出し、それによってプリプレグプライの樹脂がプリプレグプライのスタック内の全てのボイド空間を埋める工程;及び
g.熱を加えることによりプリプレグプライのコンソリデーションされたスタックを硬化させることで、硬化した複合材料構造体を形成する工程;
を含む。
【0055】
上記方法によって製造された構造化された硬化複合材料は、ボイドを有さないか実質的に有さない。ボイドは、複合材料構造体の空隙率を決定することにより測定することができる。
【0056】
真空エンベロープを形成するためのフレキシブルな非多孔質フィルムは、フルオロポリマーなどの弾性材料製であってもよい。
【0057】
プリプレグプライのスタックが上に配置されるモールド表面は、曲面であってもよく、或いは最終的な複合材料構造体の形状を表す他の三次元構成を有していてもよい。
【0058】
VBOプロセス中、プリプレグ樹脂は、樹脂を低粘度に溶融する温度に加熱され、これにより樹脂はプリプレグプライのスタック内のボイドに流れ込むことができる。
【実施例】
【0059】
実施例1
デュアルフィルム含浸法を使用して、Cytec Engineered Materials Inc.のCycom5320-1樹脂とIM-7一方向炭素繊維とから構成されるプリプレグを、吸水法で測定される92%の含浸レベルで製造した。プリプレグ材料を確実に適切に細長く切断するために、このレベルの含浸が必要とされた。続いて、プリプレグ材料を幅6.35mmのプリプレグテープへと細長く切断し、ポリエステルのバッキング層を一時的に貼り付けた。その後、これらの細長く切断されたプリプレグテープをAFP装置によって積層して、試験パネルを製造した。パネルをオーブン内で真空下で硬化させることで、硬化した積層体を製造した。
【0060】
硬化した積層体の空隙率を光学顕微鏡で測定したところ、1.0~2.0%であることが判明した。これは、航空宇宙用途の許容限界である0.5%を上回っている。硬化した積層体の断面図を
図5に示す。硬化した積層体は、AFPレイアップ中に空気が閉じ込められたスリットテープの表面上の粘着性を有する層間の領域にボイドを示す。
【0061】
実施例2
この目的は、AFP積層のためにプリプレグ材料を狭い幅に細長く切断する能力を維持しながらも、空気除去メカニズムをプリプレグ材料の表面に移動させることであった。この目的を達成するために、バインダーでコーティングされた一方向炭素繊維の繊維ウェブをコア補強材として使用した。
【0062】
ポリヒドロキシエーテル及びポリウレタンのバインダー(2.5%)でコーティングされた炭素繊維ウェブと不織炭素ベールとのアセンブリをラミネート機に供給し、部分的な含浸のみ生じるようにラミネート機の熱源に対してベールを配置して、1枚の98gsmのCycom5320-1エポキシ樹脂フィルムをベール面に積層した。170°F、180°F、及び190°Fの含浸温度を異なる実験で適用した。得られた材料は、片側のみ粘着性表面を有しており、反対側の面は乾燥していた。
【0063】
片面が粘着性の材料を幅6.04mmのテープへと細長く切断した。
図6は、190°Fの含浸温度で形成されたスリットテープの一部の上面図を示している。
【0064】
スリットテープを使用して積層体を形成し、これを引き続き29in Hgの真空下で250°Fで2時間、次いで350°Fで2時間硬化させた。
【0065】
未硬化の積層体のサンプルを水に浸すことにより、吸水性試験を実施した。浸漬前後の重量を測定した。含浸の推定レベルは、吸水のパーセント割合(%)に基づいて決定した。含浸の最低レベル(重量%)は85.15%であり、最高レベルは94.37%であることが判明した。これらの結果は、この実施例の部分的に含浸されたプリプレグが、含浸のレベルが90%未満の場合、毛羽立ちを発生させることなくきれいに細長く切断できることを示している。通常、94%未満の含浸レベルのプリプレグを細長く切断することは、乾燥繊維が多く存在しすぎることに起因して非常に困難であった。
【0066】
硬化した積層体を切断し、光学顕微鏡で空隙率を測定した。光学的な空隙率は0.028%であることが判明した。
図7は、硬化した積層体の断面図を示している。結果は、バインダーでコーティングされた一方向繊維ウェブと組み合わせて片面粘着性材料を使用することにより、繊維ウェブの露出面に空気除去メカニズムをシフトすることによって、AFP用途向けに材料を狭い幅へ細長く切断する能力を維持しながらも低空隙率の積層体が可能であることを示している。