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特許7539903積層造形された金属部品上の金属製支持構造体を除去するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】積層造形された金属部品上の金属製支持構造体を除去するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C25F 5/00 20060101AFI20240819BHJP
   C25F 7/00 20060101ALI20240819BHJP
   B22F 10/68 20210101ALI20240819BHJP
   B22F 10/62 20210101ALI20240819BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240819BHJP
【FI】
C25F5/00
C25F7/00 D
B22F10/68
B22F10/62
B33Y10/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021546470
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2019078418
(87)【国際公開番号】W WO2020079245
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】18201350.8
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521164289
【氏名又は名称】レナ テクノロジーズ オーストリア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(72)【発明者】
【氏名】ハンサル,セルマ
(72)【発明者】
【氏名】ハンサル,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】サンドゥラシェ,ガブリエラ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/102845(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/102844(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第02543058(GB,A)
【文献】欧州特許出願公開第03388172(EP,A1)
【文献】特表2019-513183(JP,A)
【文献】特開2018-150618(JP,A)
【文献】特開平06-238519(JP,A)
【文献】特開2017-214614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F1/00-7/02
B22F10/00-10/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形された金属部品上の金属製支持構造体、焼結ケーキおよび/または熱放出ラグを除去するためのプロセスであって、前記プロセス中に、前記金属部品が酸性電解質中で電解処理され、前記金属部品が所定の期間に亘ってアノードとして動作し、前記所定の期間中に、より高い電圧、次いでより低い電圧またはより高い電流密度、次いでより低い電流密度が前記金属部品に交互に複数回印加され、
前記より低い電圧は30V以下であるか、又は前記より低い電流密度は7A/dm2
下であり、
前記より高い電圧は60V以下であるか、又は前記より高い電流密度は15A/dm2
以下であることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
全持続時間が10~120分であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記より高い電圧または前記より高い電流密度が、30秒以下の期間に亘って印加されることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記より低い電圧が10V以下である、又は前記より低い電流密度が4A/dm2以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記より高い電圧が40V以下である、又は前記より高い電流密度が10A/dm2以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記酸性電解質が、Cl-および/またはF-を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酸性電解質が硫酸塩またはスルホン酸塩を含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記金属部品および前記金属製支持構造体、前記焼結ケーキおよび前記熱放出ラグが、チタンまたはチタン合金、アルミニウム合金、ニッケル基合金または鉄合金で作られることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
全持続時間が20~70分である、請求項2~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記より高い電圧または前記より高い電流密度が、5秒以下の期間に亘って印加されることを特徴とする、請求項3~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記酸性電解質が溶解したNH4HF2の形態でF-を含有することを特徴とする、請求項6~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形された金属部品上の金属製支持構造体、焼結ケーキおよび/または熱放出ラグを除去するためのプロセスであって、金属部品が酸性電解質中で電解処理され、金属部品が所定の期間に亘ってアノードとして動作する、プロセスに関する。さらに、本発明は、酸性電解質を備えた電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
選択的レーザー焼結、選択的レーザー溶融または選択的電子ビーム溶融などの金属部品の製造のための積層造形方法では、レーザーまたは電子ビームのエネルギーを使用して金属粉末層を選択的に凝固する。このような造形方法を使用して、原則として、複雑な金属部品を造形することができ、幾何学的形状に依るが、後に残る支持構造体が必要である。造形条件に依るが、焼結ケーキも金属部品上に残る場合がある。造形中の大きい温度勾配を避けるために、積層造形中に、適切な部品領域で熱を放散するための熱放出ラグが、原料金属部品に装備されることがある。
【0003】
これらの支持構造体および残留物は、完成部品において好ましくないため、金属部品の造形後に複雑な方法で除去する必要があり、特に複雑な金属部品の場合、フライス加工、振動研磨、ブラスト剤の使用などの機械的プロセスに加えて、電解研磨プロセスなどの電気化学的プロセスが行われる。
【0004】
英国特許第2543058号明細書には、積層造形された金属部品を平滑化するための電気化学的プロセスが記載されており、このプロセスでは、非常に高い電圧が使用され、無機塩、無機酸または無機塩基からなる異なる電解質が最大25重量%の量で添加される。
【0005】
しかしながら、英国特許第2543058号明細書に記載されているプロセスの選択性は低い。確かに金属部品の凹凸は十分に平滑化されるが、材料除去の制御が困難であることが分かる。
【0006】
国際公開第2018/102845号明細書には、メタンスルホン酸およびホスホン酸を使用して積層造形された金属部品の電解研磨プロセスが記載されている。これにより、造形方法に起因する軽微な凹凸が平滑化される。国際公開第2018/102844号明細書には、積層造形された金属部品の電解研磨プロセスが記載されており、電流強度が着実に増加されている。支持構造体の機械的前処理は、国際公開第2018/102845号明細書および国際公開第2018/102844号明細書の両方に記載されている。このような補助構造体を除去することはできない。別の電解研磨プロセスが、欧州特許第3388172号明細書に記載されている。これらの電解研磨プロセスは全て、表面の造形関連の凹凸を平滑化するために使用されている。これらの方法では、支持構造体、焼結ケーキまたは熱放出ラグを除去できない。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明の目的は、積層造形された金属部品上の支持構造体、焼結ケーキまたは熱放出ラグを選択的に除去することができる、最初に説明したタイプのプロセスを提供することである。
【0008】
この目的は、積層造形された金属部品上の金属製支持構造体、焼結ケーキおよび/または熱放出ラグを除去するためのプロセスであって、前記金属部品が酸性電解質中で電解処理され、前記金属部品が所定の期間に亘ってアノードとして動作し、前記所定の期間中に、より高い電圧、次いでより低い電圧またはより高い電流密度、次いでより低い電流密度が前記金属部品に交互に複数回印加されることを特徴とする、プロセスによって達成される。
【0009】
驚くべきことに、より高いおよびより低い電圧並びに電流密度をそれぞれ交互に印加することによって、焼結ケーキ、支持構造体または熱放出ラグなどの破壊目的の構造をより制御された方法で金属部品上で除去することができ、実際の金属部品自体への悪影響が少なくなることが分かった。
【0010】
好ましくは、処理の全持続時間は、10~120分、好ましくは20~70分、特に好ましくは30~60分続く。
【0011】
驚くべきことに、より高い電圧を短時間印加することで十分であることが分かった。具体的には、20秒以下、好ましくは5秒以下の持続時間で十分であることが示された。
【0012】
さらに短い時間に亘って、異なる電流を印加することで十分であったことはさらに驚くべきことであった。この場合、1秒未満の持続時間で既に十分であり得る。
【0013】
本プロセスでは、より高い電圧/電流およびより低い電圧/電流の両方を、英国特許出願公開第2543058号明細書よりも大幅に低く保つことができる。例えば、より低い電圧は、30V以下、好ましくは10V以下であってもよく、例えば、より高い電圧は、60V以下、好ましくは40V以下であってもよい。
【0014】
電解質は酸性であるように構成されなければならない。少なくとも1つのハロゲン化物、特に、塩化物またはフッ化物を含有する酸性電解質を用いて、特に良好な結果が得られた。塩化物は鉄(合金)で作られた金属部品に特によく適しているが、フッ化物は全ての金属部品で良好な結果を示す。後者は、好ましくは、溶解したHF 、好ましくはNHHFの形態で添加される。HF は、好ましくは0.5~1モル/l、好ましくは0.6~1.8モル/lの量で電解質に添加される。その結果、Fの濃度は、好ましくは1~2モル/l、好ましくは1.2~1.6モル/lの範囲である。
【0015】
酸性電解質が硫酸塩またはスルホン酸塩を含有する場合も効果的である。硫酸塩は、例えば、硫酸またはその塩の形態で添加することができる。スルホン酸塩としては、例えば、メチルスルホン酸またはその塩が考えられる。
【0016】
電解質は、強酸を含有することが好ましい。好ましい例は、硫酸または硝酸である。
【0017】
電解質は、好ましくは少なくとも30体積%の酸を含有する。
【0018】
このプロセスは、チタンまたはチタン合金で作られた金属部品および金属製支持構造体に特に適していることが判明した。適切な合金の例は、TiAl6V4である。他の適切な金属としては、アルミニウム合金、ニッケル基合金(好ましくはインコネル)または鉄合金が挙げられる。
【0019】
いずれの場合でも、焼結ケーキ、支持構造体、金属部品が同じ金属で作られていることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施例および比較例によってさらに詳細に説明する。
【0021】
全ての例に当てはまることは、金属部品自体の幾何学的形状が完全に保存されている一方で、支持構造体、焼結ケーキまたは熱放出ラグが処理後に完全に除去されたということである。
【0022】
実施例1:
チタン合金TiAl6V4(LPBF)からなる金属部品からの支持構造体の除去
合金TiAl6V4(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
33.3g/lのNHHF
室温で30分間、アノード電圧を以下のように変化させた。
5Vで1秒間、および
25Vで1秒間
を交互に印加。
【0023】
実施例2:
チタン合金TiAl6V4(EBM)からなる金属部品からの支持構造体の除去
合金TiAl6V4(EBM)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
33.3g/lのNHHF
工程1:金属部品を5Vで30分間電気分解した。
工程2:室温で5分間、金属部品の電圧を以下のように変化させた。
5Vで4秒間、および
35Vで1秒間
を交互に印加。
【0024】
実施例3:
チタン合金TiAl6V4(LPBF)からなる金属部品からの支持構造体の除去
合金TiAl6V4(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
33.3g/lのNHHF
工程1:金属部品を5Vで30分間電気分解した。
工程2:室温で5分間、金属部品の電圧を以下のように変化させた。
5Vで4秒間、および
35Vで1秒間
を交互に印加。
【0025】
実施例4:
チタン合金TiAl6V4(EBM)で作られた金属部品からの焼結ケーキおよび支持構造体の除去
合金TiAl6V4(EBM)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
33.3g/lのNHHF
室温で30分間、アノードの電圧を以下のように変化させた。
5Vで4秒間、および
25Vで1秒間
を交互に印加。
【0026】
実施例5:
チタン合金TiAl6V4(LPBF)で作られた金属部品からの焼結ケーキおよび支持構造体の除去
合金TiAl6V4(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
33.3g/lのNHHF
室温で60分間、アノードの電圧を以下のように変化させた。
5Vで4秒間、および
25Vで1秒間
を交互に印加。
【0027】
実施例6:
チタン合金TiAl6V4(EBM)で作られた金属部品からの焼結ケーキの除去
積層造形に際しては、合金TiAl6V4(EBM)からなる金属部品を無電流、溶液中、室温で、20分間前処理した。溶液は以下の成分を含有した。
20体積%のHNO、および
5体積%のフッ化水素酸。
工程2:前処理された金属部品を以下の成分の電解質中で、
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
50g/lのNHHF
室温で、
5Vで4秒間、および
25Vで1秒間
を20分間交互に印加し、電解的に電気分解した。
【0028】
実施例7:
アルミニウム合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品からの付着粉末残留物の除去
合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
50体積%のメタンスルホン酸、
50体積%のエチレングリコール、および
27g/lのNHHF
65℃で30分間、アノードの電流密度を以下のように変更した。
3A/dmで10ミリ秒間、および
9A/dmで10ミリ秒間。
【0029】
実施例8:アルミニウム合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品からの付着粉末残留物の除去
合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
50体積%のメタンスルホン酸、
50体積%の1,2-プロパンジオール、および
27g/lのNHHF
65℃で30分間、アノードの電流密度を以下のように変更した。
3A/dmで10ミリ秒間、および
9A/dmで10ミリ秒間。
【0030】
実施例9:ニッケル基合金インコネル718(登録商標)(LPBF)で作製された金属部品からの支持構造体の除去
ニッケル基合金インコネル718(登録商標)(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
50体積%の水、
12.5体積%のHNO 53%、および
37.5体積%のHCl 32%
7分間、アノードの電位を以下のように変化させた。
20Vで1000ミリ秒間、および
3Vで4000ミリ秒間。
【0031】
実施例10:ステンレス鋼316L(LPBF)で作られた金属部品からの支持構造体の除去
ステンレス鋼316L(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
50体積%の水、
12.5体積%のHNO 53%、および
37.5体積%のHCl 32%
7分間、アノードの電位を以下のように変化させた。
20Vで1000ミリ秒間、および
3Vで4000ミリ秒間。
【0032】
実施例11:アルミニウム合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品からの支持構造体の除去
アルミニウム合金AlSi10Mg(LPBF)で作られた金属部品を、積層造形時に電解質に入れ、アノードとして動作させた。使用した電解質は、以下の通りであった。
60体積%の水、
40体積%のHSO、および
50g/lのNHHF
10分間、アノードでの電位を以下のように変化させた。
20Vで1000ミリ秒間、および
3Vで4000ミリ秒間
注釈:
LPBFは、レーザーパウダーベッド溶融結合により造形された金属部品である。
EBMは、電子ビーム溶融により造形された金属部品である。