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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】車両用操向装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240819BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240819BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240819BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240819BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021554259
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038170
(87)【国際公開番号】W WO2021085070
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019199286
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 早紀矢
(72)【発明者】
【氏名】森 堅吏
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-053404(JP,A)
【文献】特開2005-104439(JP,A)
【文献】特開2003-175846(JP,A)
【文献】特開2009-248660(JP,A)
【文献】特開2014-210496(JP,A)
【文献】特開2010-254266(JP,A)
【文献】特開2009-227276(JP,A)
【文献】特開2013-028312(JP,A)
【文献】特開2006-205878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルに操舵反力を付与する反力装置と、
前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する駆動装置と、
前記反力装置を制御する第1制御部と、
前記駆動装置を制御する第2制御部と、
前記ハンドルの操舵角を検出して前記第2制御部に出力する複数の舵角センサと、
少なくとも前記複数の舵角センサの検出値である前記ハンドルの操舵角のうちの一つを前記第2制御部から前記第1制御部に伝送する通信系統と、
を備え、
前記第2制御部は、
前記複数の舵角センサの検出値の何れか一つを、前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力し、
前記第1制御部は、
前記通信系統を介して前記第2制御部から入力される前記ハンドルの操舵角に基づき前記反力装置を制御し、
前記複数の舵角センサは、第1舵角センサ及び第2舵角センサを含み、
前記第2制御部は、
前記第1舵角センサの検出値を受信した場合に、当該検出値を前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力し、
前記第1舵角センサの検出値を受信できない場合に、前記第2舵角センサの検出値を前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力し、
前記第1制御部は、
前記通信系統が正常であるか否かを判定する処理を実行し、前記通信系統が正常である場合に、前記ハンドルの操舵角を受信したか否かを判定する処理を実行し、
前記ハンドルの操舵角を受信できないか、又は、前記通信系統が失陥した場合に、所定の異常時処理を行い、
前記第2制御部は、
前記第1舵角センサの検出値を受信したか否かを判定する処理を実行し、前記第1舵角センサの検出値を受信できない場合に、前記第2舵角センサの検出値を受信したか否かを判定する処理を実行し、
前記複数の舵角センサの検出値の全てを受信できない場合に、所定の異常時処理を行う、
車両用操向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操向装置として、運転者が操舵を行う操舵反力生成装置(FFA:Force Feedback Actuator、操舵機構)と、車両の舵を切るタイヤ転舵装置(RWA:Road Wheel Actuator、転舵機構)とが機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置がある。このようなSBW式の車両用操向装置は、操舵機構と転舵機構とがコントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)を介して電気的に接続され、電気信号によって操舵機構と転舵機構と間の制御が行われる構成が一般的である。これに対し、SBW式の車両用操向装置において、操舵機構と転舵機構とをそれぞれ異なるECUで制御する構成が考えられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-218992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両システムでは、各部の異常時における運転継続や安全停止等のフェイルセーフ機能を実現するための高い冗長性が求められる。特に、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離され、操舵機構と転舵機構とでそれぞれ異なるECUを有するSBW式の車両用操向装置において、例えば各ECU間の通信系が失陥すると、車両が操舵不能状態に陥る可能性がある。一方で、各種センサ、制御系、通信系等の主要各部を多重化する等の冗長性の過剰確保は、製造コストの増大を招く可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、簡素な構成で車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる車両用操向装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両用操向装置は、ハンドルに操舵反力を付与する反力装置と、前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する駆動装置と、前記反力装置を制御する第1制御部と、前記駆動装置を制御する第2制御部と、前記ハンドルの操舵角を検出して前記第2制御部に出力する複数の舵角センサと、少なくとも前記複数の舵角センサの検出値である前記ハンドルの操舵角のうちの一つを前記第2制御部から前記第1制御部に伝送する通信系統と、を備え、前記第2制御部は、前記複数の舵角センサの検出値の何れか一つを、前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力し、前記第1制御部は、前記通信系統を介して前記第2制御部から入力される前記ハンドルの操舵角に基づき前記反力装置を制御する。
【0007】
上記構成によれば、複数の舵角センサによりハンドルの操舵角に対する冗長性を確保することができる。また、舵角センサの検出値が駆動装置を制御する第2制御部に入力されることにより、反力装置を制御する第1制御部との間の通信系統が失陥したとしても、駆動装置による運転継続が可能となり、簡素な構成で車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる。
【0008】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記複数の舵角センサは、第1舵角センサ及び第2舵角センサを含み、前記第2制御部は、前記第1舵角センサの検出値を受信した場合に、当該検出値を前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力し、前記第1舵角センサの検出値を受信できない場合に、前記第2舵角センサの検出値を前記ハンドルの操舵角として前記駆動装置を制御すると共に、前記通信系統を介して前記第1制御部に出力することが好ましい。
【0009】
これにより、第1舵角センサ及び第2舵角センサのうちの何れかで検出したハンドルの操舵角により車両の制御が可能となる。
【0010】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記第1制御部は、前記ハンドルの操舵角を受信できないか、又は、前記通信系統が失陥した場合に、所定の異常時処理を行うことが好ましい。
【0011】
第1制御部における異常時処理として、例えば、反力装置による操舵反力制御機能を停止すると共に、操舵反力制御機能を停止したことを運転者に報知する。これにより、車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる。
【0012】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記第2制御部は、前記複数の舵角センサの検出値の全てを受信できない場合に、所定の異常時処理を行うことが好ましい。
【0013】
第2制御部における異常時処理として、例えば、自動運転レベルに応じた安全停止処理を行うと共に、操舵角検出機能が失陥したことを運転者に報知する。これにより、より安全な車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡素な構成で車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる車両用操向装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。
図2図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
図3図3は、コントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。
図4図4は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。
図5図5は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。
図6図6は、転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。
図7図7は、転舵角制御部の動作例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態に係るステアバイワイヤ式の車両用操向装置のシステム概略構成の一例を示す図である。
図9図9は、比較例に係るステアバイワイヤ式の車両用操向装置のシステム概略構成の一例を示す図である。
図10図10は、第1ECU及び第2ECUの内部機能ブロックの一例を示す図である。
図11図11は、第2ECUにおける処理フローの一例を示すフローチャートである。
図12図12は、第1ECUにおける処理フローの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。図1に示すステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置(以下、「SBWシステム」とも称する)は、反力装置60及び駆動装置70を備え、ハンドル1の操作を電気信号によって操向車輪8L,8R等からなる転舵機構に伝えるシステムである。ここでは、SBWシステムの具体的動作を説明するため、制御部としてのコントロールユニット(ECU)50が反力装置60及び駆動装置70の両装置の制御を行う構成を例示している。
【0018】
反力装置60は、減速機構3及び反力用モータ61等を備えている。これらの各構成部は、ハンドル1のコラム軸2に設けられている。
【0019】
また、ハンドル1のコラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ10、操舵角θhを検出する舵角センサ14等が設けられている。
【0020】
反力装置60は、操向車輪8L,8Rから伝わる車両の運動状態を反力トルクとして運転者に伝達する。反力トルクは、反力用モータ61により生成される。
【0021】
SBWシステムの中にはトーションバーを有さないタイプもあるが、図1に示すSBWシステムはトーションバーを有するタイプであり、トルクセンサ10にて操舵トルクTsを検出する。また、角度センサ74は、反力用モータ61のモータ角θmを検出する。
【0022】
駆動装置70は、駆動用モータ71及びギア72等を備えている。駆動用モータ71により発生する駆動力は、ギア72、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。
【0023】
駆動装置70は、運転者によるハンドル1の操舵に合わせて、駆動用モータ71を駆動し、その駆動力を、ギア72を介してピニオンラック機構5に付与し、タイロッド6a,6bを経て、操向車輪8L,8Rを転舵する。ECU50は、反力装置60及び駆動装置70を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ12からの車速Vs等を基に、反力用モータ61を駆動制御する電圧制御指令値Vref1及び駆動用モータ71を駆動制御する電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0024】
また、ピニオンラック機構5の近傍には、操向車輪8L,8Rの転舵角θtを検出する角度センサ73が配置されている。
【0025】
コントロールユニット(ECU)50には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット50は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいて電流指令値の演算を行い、反力用モータ61及び駆動用モータ71に供給する電流を制御する。
【0026】
コントロールユニット50には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40等の車載ネットワークが接続されている。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN40aも接続可能である。
【0027】
コントロールユニット50は、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【0028】
コントロールユニット50を構成する制御用コンピュータ1100は、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)1004、インターフェース(I/F)1005、A/D(Analog/Digital)変換器1006、PWM(Pulse Width Modulation)コントローラ1007等を備え、これらがバスに接続されている。
【0029】
CPU1001は、SBWシステムの制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、SBWシステムを制御する処理装置である。
【0030】
ROM1002は、SBWシステムを制御するための制御プログラムを格納する。また、RAM1003は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM1004には、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納されている。制御データは、コントロールユニット30に電源が投入された後にRAM1003に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM1004に上書きされる。
【0031】
ROM1002、RAM1003、及びEEPROM1004等は情報を格納する記憶装置であって、CPU1001が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。
【0032】
A/D変換器1006は、操舵トルクTs、及び操舵角θhの信号等を入力し、ディジタル信号に変換する。
【0033】
インターフェース1005は、CAN40に接続されている。インターフェース1005は、車速センサ12からの車速Vの信号(車速パルス)を受け付けるためのものである。
【0034】
PWMコントローラ1007は、反力用モータ61及び駆動用モータ71に対する電流指令値に基づいてUVW各相のPWM制御信号を出力する。
【0035】
図3は、コントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。本実施形態では、捩れ角Δθに対する制御(以下、「捩れ角制御」とする)と、転舵角θtに対する制御(以下、「転舵角制御」とする)を行い、反力装置を捩れ角制御で制御し、駆動装置を転舵角制御で制御する。なお、駆動装置は他の制御方法で制御しても良い。
【0036】
コントロールユニット50は、内部ブロック構成として、目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、変換部500、目標転舵角生成部910、及び転舵角制御部920を備えている。
【0037】
目標操舵トルク生成部200は、本開示において車両の操舵系をアシスト制御する際の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクTrefを生成する。変換部500は、目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。捩れ角制御部300は、反力用モータ61に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Imcを生成する。
【0038】
捩れ角制御では、捩れ角Δθが、操舵角θh等を用いて目標操舵トルク生成部200及び変換部500を経て算出される目標捩れ角Δθrefに追従するような制御を行う。反力用モータ61のモータ角θmは角度センサ74で検出され、モータ角速度ωmは、角速度演算部951にてモータ角θmを微分することにより算出される。駆動用モータ71の転舵角θtは角度センサ73で検出される。また、電流制御部130は、捩れ角制御部300から出力されるモータ電流指令値Imc及びモータ電流検出器140で検出される反力用モータ61の電流値Imrに基づいて、反力用モータ61を駆動して、電流制御を行う。
【0039】
以下、捩れ角制御部300について、図4を参照して説明する。
【0040】
図4は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Imcを演算する。捩れ角制御部300は、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、減算部361及び加算部362を備えている。
【0041】
変換部500から出力される目標捩れ角Δθrefは、減算部361に加算入力される。捩れ角Δθは、減算部361に減算入力されると共に、捩れ角速度演算部320に入力される。モータ角速度ωmは、安定化補償部340に入力される。
【0042】
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標捩れ角速度ωrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0043】
目標捩れ角速度ωrefは、速度制御部330に入力される。捩れ角FB補償部310及び速度制御部330により、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能となる。
【0044】
捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対して微分演算処理を行い、捩れ角速度ωtを算出する。捩れ角速度ωtは、速度制御部330に出力される。捩れ角速度演算部320は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行なっても良い。また、捩れ角速度演算部320は、捩れ角速度ωtを別の手段や捩れ角Δθ以外から算出し、速度制御部330に出力するようにしても良い。
【0045】
速度制御部330は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標捩れ角速度ωrefに捩れ角速度ωtが追従するようなモータ電流指令値Imca1を算出する。
【0046】
減算部333は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を算出する。積分部331は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を積分し、積分結果を減算部334に加算入力する。
【0047】
捩れ角速度ωtは、比例部332にも出力される。比例部332は、捩れ角速度ωtに対してゲインKvpによる比例処理を行い、比例処理結果を減算部334に減算入力する。減算部334での減算結果は、モータ電流指令値Imca1として出力される。なお、速度制御部330は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imca1を算出しても良い。
【0048】
安定化補償部340は、補償値Cs(伝達関数)を有しており、モータ角速度ωmからモータ電流指令値Imca2を算出する。追従性及び外乱特性を向上させるために、捩れ角FB補償部310及び速度制御部330のゲインを上げると、高域の制御的な発振現象が発生してしまう。この対策として、モータ角速度ωmに対し、安定化するために必要な伝達関数(Cs)を安定化補償部340に設定する。これにより、EPS制御システム全体の安定化を実現することができる。
【0049】
加算部362は、速度制御部330からのモータ電流指令値Imca1と安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2とを加算し、モータ電流指令値Imcbとして出力する。
【0050】
出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imcを出力する。
【0051】
なお、本実施形態における捩れ角制御部300の構成は一例であり、図4に示す構成とは異なる態様であっても良い。例えば、捩れ角制御部300は、安定化補償部340を具備しない構成であっても良い。
【0052】
転舵角制御では、目標転舵角生成部910にて操舵角θhに基づいて目標転舵角θtrefが生成される。目標転舵角θtrefは、転舵角θtと共に転舵角制御部920に入力され、転舵角制御部920にて、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctが演算される。そして、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出される駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、電流制御部930が、電流制御部130と同様の構成及び動作により、駆動用モータ71を駆動して、電流制御を行う。
【0053】
以下、目標転舵角生成部910について、図5を参照して説明する。
【0054】
図5は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。目標転舵角生成部910は、制限部931、レート制限部932及び補正部933を備える。
【0055】
制限部931は、操舵角θhの上下限値を制限した操舵角θh1を出力する。図4に示す捩れ角制御部300内の出力制限部350と同様に、操舵角θhに対する上限値及び下限値を予め設定して制限をかける。
【0056】
レート制限部932は、操舵角の急変を回避するために、操舵角θh1の変化量に対して制限値を設定して制限をかけ、操舵角θh2を出力する。例えば、1サンプル前の操舵角θh1からの差分を変化量とし、その変化量の絶対値が所定の値(制限値)より大きい場合、変化量の絶対値が制限値となるように、操舵角θh1を加減算し、操舵角θh2として出力し、制限値以下の場合は、操舵角θh1をそのまま操舵角θh2として出力する。なお、変化量の絶対値に対して制限値を設定するのではなく、変化量に対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良く、変化量ではなく変化率や差分率に対して制限をかけるようにしても良い。
【0057】
補正部933は、操舵角θh2を補正して、目標転舵角θtrefを出力する。
【0058】
以下、転舵角制御部920について、図6を参照して説明する。
【0059】
図6は、転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。転舵角制御部920は、目標転舵角θtref、及び操向車輪8L,8Rの転舵角θtに基づいてモータ電流指令値Imctを演算する。転舵角制御部920は、転舵角フィードバック(FB)補償部921、転舵角速度演算部922、速度制御部923、出力制限部926、及び減算部927を備えている。
【0060】
目標転舵角生成部910から出力される目標転舵角θtrefは、減算部927に加算入力される。転舵角θtは、減算部927に減算入力されると共に、転舵角速度演算部922に入力される。
【0061】
転舵角FB補償部921は、減算部927で算出される目標転舵角速度ωtrefと転舵角θtとの偏差Δθt0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標転舵角θtrefに転舵角θtが追従するような目標転舵角速度ωtrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0062】
目標転舵角速度ωtrefは、速度制御部923に入力される。転舵角FB補償部921及び速度制御部923により、目標転舵角θtrefに転舵角θtを追従させ、所望のトルクを実現することが可能となる。
【0063】
転舵角速度演算部922は、転舵角θtに対して微分演算処理を行い、転舵角速度ωttを算出する。転舵角速度ωttは、速度制御部923に出力される。速度制御部923は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行なっても良い。また、速度制御部923は、転舵角速度ωttを別の手段や転舵角θt以外から算出し、速度制御部923に出力するようにしても良い。
【0064】
速度制御部923は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標転舵角速度ωtrefに転舵角速度ωttが追従するようなモータ電流指令値Imctaを算出する。なお、速度制御部923は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imctaを算出しても良い。
【0065】
減算部928は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を算出する。積分部924は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を積分し、積分結果を減算部929に加算入力する。
【0066】
転舵角速度ωttは、比例部925にも出力される。比例部925は、転舵角速度ωttに対して比例処理を行い、比例処理結果を出力制限部926にモータ電流指令値Imctaとして出力する。
【0067】
出力制限部926は、モータ電流指令値Imctaに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部926は、モータ電流指令値Imctaの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imctを出力する。
【0068】
なお、本実施形態における転舵角制御部920の構成は一例であり、図6に示す構成とは異なる態様であっても良い。
【0069】
このような構成において、転舵角制御部の動作例を、図7のフローチャートを参照して説明する。図7は、転舵角制御部の動作例を示すフローチャートである。
【0070】
動作を開始すると、角度センサ73は転舵角θtを検出し、角度センサ74はモータ角θmを検出し(ステップS110)、転舵角θtは転舵角制御部920に、モータ角θmは角速度演算部951にそれぞれ入力される。
【0071】
角速度演算部951は、モータ角θmを微分してモータ角速度ωmを算出し、捩れ角制御部300に出力する(ステップS120)。
【0072】
その後、目標操舵トルク生成部202において、図7に示されるステップS10~S40と同様の動作を実行し、反力用モータ61を駆動し、電流制御を実施する(ステップS130~S160)。
【0073】
一方、転舵角制御においては、目標転舵角生成部910が操舵角θhを入力し、操舵角θhは制限部931に入力される。制限部931は、予め設定された上限値及び下限値により操舵角θhの上下限値を制限し(ステップS170)、操舵角θh1としてレート制限部932に出力する。レート制限部932は、予め設定された制限値により操舵角θh1の変化量に対して制限をかけ(ステップS180)、操舵角θh2として補正部933に出力する。補正部933は、操舵角θh2を補正して目標転舵角θtrefを求め(ステップS190)、転舵角制御部920に出力する。
【0074】
転舵角θt及び目標転舵角θtrefを入力した転舵角制御部920は、減算部927にて目標転舵角θtrefから転舵角θtを減算することにより、偏差Δθt0を算出する(ステップS200)。偏差Δθt0は転舵角FB補償部921に入力され、転舵角FB補償部921は、偏差Δθt0に補償値を乗算することにより偏差Δθt0を補償し(ステップS210)、目標転舵角速度ωtrefを速度制御部923に出力する。転舵角速度演算部922は転舵角θtを入力し、転舵角θtに対する微分演算により転舵角速度ωttを算出し(ステップS220)、速度制御部923に出力する。速度制御部923は、速度制御部330と同様にI-P制御によりモータ電流指令値Imctaを算出し(ステップS230)、出力制限部926に出力する。出力制限部926は、予め設定された上限値及び下限値によりモータ電流指令値Imctaの上下限値を制限し(ステップS240)、モータ電流指令値Imctとして出力する(ステップS250)。
【0075】
モータ電流指令値Imctは電流制御部930に入力され、電流制御部930は、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出された駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、駆動用モータ71を駆動し、電流制御を実施する(ステップS260)。
【0076】
なお、図7におけるデータ入力及び演算等の順番は適宜変更可能である。また、転舵角制御部920での追従制御は、一般的に用いられている制御構造で行っても良い。転舵角制御部920については、目標角度(ここでは目標転舵角θtref)に対して実角度(ここでは転舵角θt)が追従する制御構成であれば、車両用装置に用いられている制御構成に限定されず、例えば、産業用位置決め装置や産業用ロボット等に用いられている制御構成を適用しても良い。
【0077】
(実施形態)
図1に示す構成では、上述したように、1つのECU50で反力装置60及び駆動装置70の制御を行っている。以下に示す実施形態では、反力装置60用のECUと駆動装置70用のECUをそれぞれ設けた構成について説明する。
【0078】
図8は、実施形態に係るステアバイワイヤ式の車両用操向装置のシステム概略構成の一例を示す図である。本実施形態に係るSBWシステムでは、図8に示すように、反力装置60用の第1ECU51と駆動装置70用の第2ECU52とが、通信線Lcを介してデータの送受信を行うことになる。
【0079】
第1ECU51は、本開示における第1制御部に対応する。また、第2ECU52は、本開示における第2制御部に対応する。なお、第1ECU51及び第2ECU52のハードウェア構成は、図2に示す構成と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0080】
第1ECU51は、内部ブロック構成として、図3に示す目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、及び変換部500に相当する構成部を備えている。すなわち、第1ECU51は、ハンドル1の操舵角θhに基づき反力装置60(反力用モータ61)を制御する操舵反力制御機能を有している。目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、及び変換部500における操舵反力制御機能の各動作については、ここでは説明を省略する。
【0081】
第2ECU52は、内部ブロック構成として、図3に示す目標転舵角生成部910、及び転舵角制御部920に相当する構成部を備えている。すなわち、第2ECU52は、ハンドル1の操舵角θhに基づき駆動装置70(駆動用モータ71)を制御する転舵駆動制御機能を有している。目標転舵角生成部910、及び転舵角制御部920における転舵駆動制御機能の各動作については、ここでは説明を省略する。
【0082】
図8において、第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42は、図1に示す舵角センサ14に相当する。第1舵角センサ41は、ハンドル1の操舵角θhaを検出する。第2舵角センサ42は、ハンドル1の操舵角θhbを検出する。第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42が共に正常である場合、操舵角θha及び操舵角θhbは実質的に同一である。すなわち、本実施形態に係る構成では、操舵角検出機能を多重化することにより、ハンドル1の操舵角の検出に対して冗長性を有している。
【0083】
本実施形態において、第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42の検出値である操舵角θha及び操舵角θhbは、駆動装置70を制御する第2ECU52に入力される。操舵角θhaは、信号線Laを介して第2ECU52に入力される。操舵角θhbは、信号線Lbを介して第2ECU52に入力される。
【0084】
第2ECU52は、第1舵角センサ41の検出値である操舵角θha、又は、第2舵角センサ42の検出値である操舵角θhbの何れか一方を、ハンドル1の操舵角θhとして、駆動装置70を作動させ転舵駆動制御を行うと共に、通信線Lcを介して、第1ECU51に出力する。
【0085】
第1ECU51は、第2ECU52から通信線Lcを介して入力されたハンドル1の操舵角θhに基づき、反力装置60を作動させて操舵反力制御を行う。
【0086】
図9は、比較例に係るステアバイワイヤ式の車両用操向装置のシステム概略構成の一例を示す図である。図9に示す比較例に係る車両用操向装置では、第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42の検出値である操舵角θha及び操舵角θhbは、反力装置60を制御する第1ECU51に入力され、通信線Lcを介して、第1ECU51から駆動装置70を制御する第2ECU52に操舵角θha及び操舵角θhbの何れか一方が出力される。この図9に示す比較例の構成では、第1ECU51と第2ECU52との間の通信線Lcを含む通信系統が失陥した場合には、駆動装置60による転舵駆動制御機能を動作させた運転継続が不可能となる。このため、通信線Lcを含む通信系統を多重化する等により、通信系統に対する冗長性を確保する必要がある。また、図9に示す比較例の構成では、通信線Lcを含む通信を多重化させるので、第1ECU51と第2ECU52との双方において冗長性を確保する必要がある。
【0087】
これに対し、図8に示す本実施形態の構成では、第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42の検出値である操舵角θha及び操舵角θhbが駆動装置70(駆動用モータ71)を制御する第2ECU52に入力されることにより、反力装置60(反力用モータ61)を制御する第1ECU51との間の通信線Lcを含む通信系統あるいは第1ECU51が失陥したとしても、駆動装置70による運転継続が可能となり、簡素な構成で車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる。すなわち、図8に示す本実施形態の構成では、図10で後述するように、第2ECU52に冗長性を有していれば良く、必ずしも第1ECU51に冗長性を有していなくても良い。以下、図10図11、及び図12を参照して、本実施形態の処理の具体例について説明する。
【0088】
図10は、第1ECU及び第2ECUの内部機能ブロックの一例を示す図である。図11は、第2ECUにおける処理フローの一例を示すフローチャートである。図12は、第1ECUにおける処理フローの一例を示すフローチャートである。
【0089】
まず、第2ECU52における処理について説明する。
【0090】
第2ECU52は、第1舵角センサ41から図8に示す信号線Laを介して操舵角θhaを受信したか否かを判定する(ステップS101)。ここで、θha診断機能は、例えば、θha受信機能部によって操舵角θhaを正常に受信できたか否かを判定する。操舵角θhaを正常に受信できていれば、操舵角θhaを受信したと判定し(ステップS101;Yes)、操舵角θhaを正常に受信できていなければ、操舵角θhaを受信できないと判定する(ステップS101;No)。具体的に、操舵角θhaを受信できない場合、第1舵角センサ41、信号線La、θha受信機能部の何れかが失陥したことを示している。
【0091】
操舵角θhaを受信した場合(ステップS101;Yes)、第2ECU52は、第1舵角センサ41から受信した操舵角θhaをハンドル1の操舵角θhとして(ステップS102)、駆動装置70(駆動用モータ71)を制御(転舵駆動制御)すると共に、図8に示す通信線Lcを含む通信系統を介して、当該操舵角θhを第1ECU51に送信して(ステップS103)、ステップS101の処理に戻る。ここで、θha診断機能は、切替機能により、転舵駆動制御及び操舵反力制御に用いる操舵角θhとして、第1舵角センサ41から受信した操舵角θhaを適用する。
【0092】
操舵角θhaを受信できない場合(ステップS101;No)、第2ECU52は、第2舵角センサ42から図8に示す信号線Lbを介して操舵角θhbを受信したか否かを判定する(ステップS104)。ここで、θhb診断機能は、例えば、θhb受信機能部によって操舵角θhbを正常に受信できたか否かを判定する。操舵角θhb正常に受信できていれば、操舵角θhbを受信したと判定し(ステップS104;Yes)、操舵角θhbを正常に受信できていなければ、操舵角θhbを受信できないと判定する(ステップS104;No)。具体的に、操舵角θhbを受信できない場合、第2舵角センサ42、信号線Lb、θhb受信機能部の何れかが失陥したことを示している。
【0093】
操舵角θhbを受信した場合(ステップS104;Yes)、第2ECU52は、第2舵角センサ42から受信した操舵角θhbをハンドル1の操舵角θhとして(ステップS105)、駆動装置70(駆動用モータ71)を制御(転舵駆動制御)すると共に、図8に示す通信線Lcを含む通信系統を介して、当該操舵角θhを第1ECU51に送信して(ステップS103)、ステップS101の処理に戻る。ここで、θhb診断機能は、切替機能により、転舵駆動制御及び操舵反力制御に用いる操舵角θhとして、第2舵角センサ42から受信した操舵角θhbを適用する。
【0094】
操舵角θhbを受信できない場合(ステップS104;No)、第2ECU52は、所定の異常時処理を行い(ステップS106)、本処理を終了する。第2ECU52における異常時処理としては、例えば、本実施形態に係る車両用操向装置を適用した車両の自動運転レベルに応じた安全停止処理を行うと共に、第1舵角センサ41、第2舵角センサ42、信号線La,Lb、θha受信機能部、θhb受信機能部を含む舵角検出機能が失陥したことを運転者に報知する。舵角検出機能が失陥したことを運転者に報知する手段としては、例えば、メーターパネル等の表示部に表示する態様や、LED等の発光素子を発光させる態様であっても良いし、警報音を発する態様であっても良い。第2ECU52における異常時処理の態様により限定されるものではない。
【0095】
次に、第1ECU51における処理について説明する。
【0096】
第1ECU51は、図8に示す通信線Lc、第1ECU51のθh受信機能部、第2ECU52のθh送信機能部を含む通信系統が正常であるか否かを判定する(ステップS201)。ここで、θh診断機能は、例えば、第2ECU52に対して操舵角θhの送信要求を行い、θh受信機能部によって当該送信要求に対するACK信号を受信できたか否かを判定する。ACK信号を受信できていれば、通信系統が正常であると判定し(ステップS201;Yes)、ACK信号を受信できていなければ、通信系統が異常であると判定する(ステップS201;No)。具体的に、通信系統が異常であるとは、通信線Lc、第1ECU51のθh受信機能部、第2ECU52のθh送信機能部を含む通信系統が失陥したことを示している。
【0097】
通信系統が正常である場合(ステップS201;Yes)、第1ECU51は、第2ECU52から図8に示す通信線Lcを介して操舵角θhを受信したか否かを判定する(ステップS202)。ここで、θh診断機能は、例えば、θh受信機能部によって操舵角θhを正常に受信できたか否かを判定する。操舵角θhを正常に受信できていれば、操舵角θhを受信したと判定し(ステップS202;Yes)、操舵角θhを正常に受信できていなければ、操舵角θhを受信できないと判定する(ステップS202;No)。具体的に、操舵角θhを受信できない場合、第1舵角センサ41、第2舵角センサ42、信号線La,Lb、θha受信機能部、θhb受信機能部を含む舵角検出機能が失陥したことを示している。
【0098】
操舵角θhが正常である場合(ステップS202;Yes)、第1ECU51は、第2ECU52から受信した操舵角θhに基づき、反力装置60(反力用モータ61)を制御(操舵反力制御)して(ステップS203)、ステップS201の処理に戻る。
【0099】
通信系統が異常である場合(ステップS201;No)、又は、操舵角θhを受信できない場合(ステップS202;No)、すなわち、通信系統又は舵角検出機能が失陥した場合、第1ECU51は、所定の異常時処理を行い(ステップS204)、本処理を終了する。第1ECU51における異常時処理としては、例えば、操舵反力制御機能を停止すると共に、操舵反力制御機能を停止したことを運転者に報知する。操舵反力制御機能を停止したことを運転者に報知する手段としては、例えば、メーターパネル等の表示部に表示する態様や、LED等の発光素子を発光させる態様であっても良いし、警報音を発する態様であっても良い。第1ECU51における異常時処理の態様により限定されるものではない。
【0100】
本実施形態に係る車両用操向装置では、第1ECU51における処理(図11)、及び、第2ECU52における処理(図10)において、舵角検出機能が健全、すなわち、少なくとも第1舵角センサ41の検出値である操舵角θha又は第2舵角センサ42の検出値である操舵角θhbの何れか一方を正常に受信できていれば、仮に、通信線Lc、θh受信機能部、第2ECU52のθh送信機能部を含む通信系統が失陥したとしても、第2ECU52による駆動装置70(駆動用モータ71)の転舵駆動制御により運転継続が可能である。すなわち、第1ECU51と第2ECU52との間の通信線Lcを含む通信系統を多重化する等、通信系統に対する冗長性を有することなく、簡素な構成で車両システムのフェイルセーフ機能を実現することができる。
【0101】
なお、上述した実施形態では、舵角センサとして第1舵角センサ41及び第2舵角センサ42の2つの舵角センサを設けた構成例を示したが、舵角センサを3つ以上設け、舵角検出機能をさらに多重化して冗長性を高めた構成としても良い。さらには、多重化する要素は舵角検出機能に限らず、例えば、図1に示すトルクセンサ10に相当するトルク検出機能や、各要素に供給する電源系統を多重化した構成であっても良いし、第1ECU51や第2ECU52の内部構成を多重化した構成であっても良い。この場合、第1ECU51や第2ECU52を構成する半導体チップ上に設けたハードウェア構成を多重化しても良いし、同一の半導体チップを複数搭載した構成であっても良い。
【0102】
また、第1ECU51と第2ECU52との間の通信系統は、図1に示すCAN40であっても良いし、非CAN40aであっても良い。第1ECU51と第2ECU52との間の通信系統の態様により限定されるものではない。
【0103】
なお、上述で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 ハンドル
2 コラム軸
3 減速機構
5 ピニオンラック機構
6a,6b タイロッド
7a,7b ハブユニット
8L,8R 操向車輪
10 トルクセンサ
11 イグニションキー
12 車速センサ
13 バッテリ
14 舵角センサ
41 第1舵角センサ
42 第2舵角センサ
50 コントロールユニット(ECU)
51 第1ECU(第1制御部)
52 第2ECU(第2制御部)
60 反力装置
61 反力用モータ
70 駆動装置
71 駆動用モータ
72 ギア
73 角度センサ
130 電流制御部
140 モータ電流検出器
200 目標操舵トルク生成部
300 捩れ角制御部
310 捩れ角フィードバック(FB)補償部
320 捩れ角速度演算部
330 速度制御部
331 積分部
332 比例部
333,334 減算部
340 安定化補償部
350 出力制限部
361 減算部
362 加算部
500 変換部
910 目標転舵角生成部
920 転舵角制御部
921 転舵角フィードバック(FB)補償部
922 転舵角速度演算部
923 速度制御部
926 出力制限部
927 減算部
930 電流制御部
931 制限部
933 補正部
932 レート制限部
940 モータ電流検出器
1001 CPU
1005 インターフェース
1006 A/D変換器
1007 PWMコントローラ
1100 制御用コンピュータ(MCU)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12