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特許7539910人工毛髪用繊維及びその製造方法、並びに、頭髪装飾品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及びその製造方法、並びに、頭髪装飾品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20240819BHJP
   A41G 3/00 20060101ALI20240819BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240819BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
D01F6/90 311E
A41G3/00 A
C08L77/00
C08L39/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021554904
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040299
(87)【国際公開番号】W WO2021090735
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019202026
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020127218
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】袴田 翔
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/187843(WO,A1)
【文献】特開2011-246845(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109056109(CN,A)
【文献】特開2015-094033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96,
9/00- 9/04
A41G 1/00- 11/02
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有し、
前記マレイン酸化合物が無水マレイン酸を含み、
前記ポリアミド系樹脂の含有量が、人工毛髪用繊維の全質量を基準として65~95質量%であり、
前記マレイン酸系ポリマーの含有量が、人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.1~35質量%でり、
前記マレイン酸系ポリマーの含有量が、前記ポリアミド系樹脂及び前記マレイン酸系ポリマーの合計量を基準として0.1~35質量%である、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
当該人工毛髪用繊維の繊維軸方向に対して平行な断面において、前記マレイン酸系ポリマーの凝集体が前記ポリアミド系樹脂中に島状に分散している、請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記繊維軸方向における前記凝集体の平均長さが0.1μm以上である、請求項2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記マレイン酸化合物の前記単量体単位の含有量が、前記マレイン酸系ポリマーの全質量を基準として1質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記マレイン酸系ポリマーがスチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品。
【請求項7】
ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有する組成物を紡糸する工程を備え、
前記マレイン酸化合物が無水マレイン酸を含み、
前記ポリアミド系樹脂の含有量が、人工毛髪用繊維の全質量を基準として65~95質量%であり、
前記マレイン酸系ポリマーの含有量が、人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.1~35質量%でり、
前記マレイン酸系ポリマーの含有量が、前記ポリアミド系樹脂及び前記マレイン酸系ポリマーの合計量を基準として0.1~35質量%である、人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド系樹脂における270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度が50~300Pa・sであり、
前記マレイン酸系ポリマーにおける270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度が500~1000Pa・sである、請求項7に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアミド系樹脂における270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度と、前記マレイン酸系ポリマーにおける270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度との差が200Pa・s以上である、請求項7又は8に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維及びその製造方法、頭髪装飾品等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維(人工毛髪に用いられる繊維)は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等において用いることができる。下記特許文献1には、ポリアミド系樹脂と臭素系難燃剤を含有する樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-246844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の人工毛髪用繊維は、人毛と比較して過剰に高い光沢を有することから、人工の毛髪であることが認識されやすい問題がある。そのため、人工毛髪用繊維に対しては、光沢が少ないことが求められる。
【0005】
本発明の一側面は、光沢の少ない人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、光沢の少ない人工毛髪用繊維を得ることが可能な人工毛髪用繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有する、人工毛髪用繊維に関する。
【0007】
本発明の他の一側面は、上述の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品に関する。
【0008】
本発明の他の一側面は、ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有する組成物を紡糸する工程を備える、人工毛髪用繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、光沢の少ない人工毛髪用繊維を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、光沢の少ない人工毛髪用繊維を得ることが可能な人工毛髪用繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0012】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位(単量体単位=構造単位。以下同様)として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有する。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、人工毛髪として用いることが可能であり、人工毛髪を得るために用いることもできる。
【0013】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、光沢が少ない(光沢度が90%以下である)人工毛髪用繊維である。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを併用することにより繊維の表面に凹凸を好適に形成することによって光沢が低減されると推測される。但し、光沢が少ない要因は当該要因に限定されない。
【0014】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維によれば、未延伸時において優れた紡糸性を得ることもできる(例えば、長さ3000mの人工毛髪用繊維200本あたり糸切れの数を5本以下に留めることができる)。また、本実施形態に係る人工毛髪用繊維によれば、延伸処理後において優れた櫛通り性を得ることもできる(例えば、櫛通り時の抵抗力を90gf以下に留めることができる)。
【0015】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを含有する組成物であってよく、当該樹脂組成物が溶融変形された繊維で構成されていてよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、延伸処理後の繊維であってよく、未延伸の繊維であってもよい。ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマーのそれぞれは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、延伸処理後において下記の範囲が好ましい。単繊度は、20デシテックス以上が好ましく、35デシテックス以上がより好ましい。単繊度は、100デシテックス以下が好ましく、80デシテックス以下がより好ましい。これらの観点から、単繊度は、20~100デシテックスが好ましく、35~80デシテックスがより好ましい。
【0017】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、細繊度の人工毛髪用繊維を得るために延伸倍率を小さくすることが可能であり、延伸処理後の人工毛髪用繊維に光沢が発生しにくい観点から、未延伸時において、300デシテックス以下が好ましく、200デシテックス以下がより好ましい。
【0018】
ポリアミド系樹脂は、例えば、脂肪族ポリアミド;芳香族ポリアミド;脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とが縮合重合されて得られる骨格を有する半芳香族ポリアミド等のポリアミドであってよい。脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド12(ナイロン12)、ポリアミド6/66(ナイロン6/66)、ポリアミド6/12(ナイロン6/12)等が挙げられる。芳香族ポリアミドとしては、ポリメタキシリレン・アジポアミド(ナイロンMXD6)等が挙げられる。半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド6T(ナイロン6T)、ポリアミド9T(ナイロン9T)、ポリアミド10T(ナイロン10T)等が挙げられる。
【0019】
ポリアミド系樹脂の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。ポリアミド系樹脂の含有量は、優れた櫛通り性を得やすい観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、40質量%以上が特に好ましく、50質量%以上が極めて好ましく、50質量%を超えることが非常に好ましく、60質量%以上がより一層好ましく、65質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、75質量%以上が極めて好ましい。ポリアミド系樹脂の含有量は、光沢を低減しやすい観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましく、75質量%以下が特に好ましく、70質量%以下が極めて好ましく、65質量%以下が非常に好ましく、60質量%以下がより一層好ましく、50質量%以下が更に好ましく、50質量%未満が特に好ましく、40質量%以下が極めて好ましい。これらの観点から、ポリアミド系樹脂の含有量は、10~95質量%が好ましい。
【0020】
マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有しており、マレイン酸化合物に由来する単量体単位を有することができる。マレイン酸誘導体としては、無水マレイン酸、マレイン酸塩(例えばマレイン酸ナトリウム)、マレイン酸エステル(例えば、マレイン酸メチル等のマレイン酸アルキルエステル)などが挙げられる。マレイン酸化合物は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、無水マレイン酸を含むことが好ましい。
【0021】
マレイン酸系ポリマーにおけるマレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、マレイン酸系ポリマーの全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。マレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、光沢を低減しやすい観点、並びに、優れた櫛通り性及び紡糸性を得やすい観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。マレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、3質量%以下が特に好ましく、2質量%以下が極めて好ましく、1.5質量%以下が非常に好ましい。これらの観点から、マレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、0.1~10質量%が好ましい。マレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、更に優れた櫛通り性及び紡糸性を得やすい観点から、0.8質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.2質量%以上が更に好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。マレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、光沢を更に低減しやすい観点から、1.2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。マレイン酸系ポリマーにおけるマレイン酸化合物の単量体単位の含有量は、例えば滴定法により測定できる。同様の観点から、マレイン酸系ポリマーにおける無水マレインの単量体単位の含有量は、マレイン酸系ポリマーの全質量を基準としてこれらの各範囲であることが好ましい。
【0022】
マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸化合物とは異なる化合物を単量体単位として有してよく、マレイン酸化合物とは異なる化合物に由来する単量体単位を有することができる。マレイン酸化合物とは異なる化合物としては、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物、オレフィン系炭化水素(エチレン、プロピレン、ブチレン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、不飽和ジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等)、不飽和ジカルボン酸無水物(イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、アコニット酸無水物等)、酢酸ビニル、ビニルカルボン酸((メタ)アクリル酸等)、(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられる。マレイン酸系ポリマーは、ポリアルキレン鎖(例えばポリプレピレン鎖)を有してよい。マレイン酸系ポリマーは、光沢を低減しやすい観点から、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物及びオレフィン系炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種を単量体単位として有することが好ましく、芳香族ビニル化合物及びマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を単量体単位として有することがより好ましく、芳香族ビニル化合物及びマレイミド化合物を単量体単位として有することが更に好ましい。
【0023】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等のスチレン系化合物などが挙げられる。芳香族ビニル化合物は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、スチレンを含むことが好ましい。
【0024】
マレイン酸系ポリマーにおける芳香族ビニル化合物の単量体単位の含有量(例えば、スチレンの単量体単位の含有量)は、マレイン酸系ポリマーの全質量を基準として、40~60質量%又は45~55質量%であってよい。
【0025】
マレイミド化合物としては、マレイミド;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-アルキルマレイミド;N-フェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミド等の芳香族マレイミドなどが挙げられる。マレイミド化合物は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、マレイミドを含むことが好ましい。
【0026】
マレイン酸系ポリマーにおけるマレイミド化合物の単量体単位の含有量(例えば、マレイミドの単量体単位の含有量)は、マレイン酸系ポリマーの全質量を基準として、35~50質量%又は37~45質量%であってよい。
【0027】
マレイン酸系ポリマーの具体例としては、スチレン-無水マレイン酸共重合体;無水マレイン酸変性ポリアルキレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン);無水マレイン酸グラフト重合体;スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の三元共重合体などが挙げられる。マレイン酸系ポリマーは、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体を含むことが好ましい。
【0028】
マレイン酸系ポリマーの含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。マレイン酸系ポリマーの含有量は、光沢を低減しやすい観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が特に好ましく、3質量%以上が極めて好ましく、4質量%以上が非常に好ましく、5質量%以上がより一層好ましく、7質量%以上が更に好ましく、8質量%以上が特に好ましく、9質量%以上が極めて好ましく、10質量%以上が非常に好ましく、15質量%以上がより一層好ましく、20質量%以上が更に好ましく、25質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が極めて好ましく、35質量%以上が非常に好ましい。マレイン酸系ポリマーの含有量は、優れた櫛通り性及び紡糸性を得やすい観点から、50質量%以下が好ましく、50質量%未満がより好ましく、45質量%以下が更に好ましく、40質量%以下が特に好ましく、35質量%以下が極めて好ましく、30質量%以下が非常に好ましく、25質量%以下がより一層好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が極めて好ましく、9質量%以下が非常に好ましく、8質量%以下がより一層好ましく、7質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましく、4質量%以下が極めて好ましく、3質量%以下が非常に好ましく、1質量%以下がより一層好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、マレイン酸系ポリマーの含有量は、0.1~50質量%が好ましい。
【0029】
マレイン酸系ポリマーの含有量は、ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマーの合計量を基準として下記の範囲であることが好ましい。マレイン酸系ポリマーの含有量は、光沢を低減しやすい観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、3質量%以上が特に好ましく、5質量%以上が極めて好ましく、8質量%以上が非常に好ましく、10質量%以上がより一層好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上が特に好ましく、25質量%以上が極めて好ましく、30質量%以上が非常に好ましく、35質量%以上がより一層好ましく、40質量%以上が更に好ましく、45質量%以上が特に好ましく、50質量%以上が極めて好ましい。マレイン酸系ポリマーの含有量は、優れた櫛通り性及び紡糸性を得やすい観点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が極めて好ましく、50質量%未満が非常に好ましく、45質量%以下がより一層好ましく、40質量%以下が更に好ましく、35質量%以下が特に好ましく、30質量%以下が極めて好ましく、25質量%以下が非常に好ましく、20質量%以下がより一層好ましく、15質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましく、8質量%以下が極めて好ましく、5質量%以下が非常に好ましく、3質量%以下がより一層好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。これらの観点から、マレイン酸系ポリマーの含有量は、0.1~90質量%が好ましい。
【0030】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、マレイン酸系ポリマーの凝集体を含有してよい。 本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、人工毛髪用繊維の繊維軸方向に対して平行な断面において、マレイン酸系ポリマーの凝集体がポリアミド系樹脂中に島状に分散していることが好ましい。この場合、繊維の表面に凹凸を好適に形成しやすいことによって光沢が低減されやすい。
【0031】
人工毛髪用繊維の繊維軸方向におけるマレイン酸系ポリマーの凝集体の平均長さは、下記の範囲であることが好ましい。凝集体の平均長さは、光沢を低減しやすい観点から、0.01μm以上が好ましく、0.03μm以上がより好ましく、0.05μm以上が更に好ましく、0.07μm以上が特に好ましく、0.1μm以上が極めて好ましく、0.2μm以上が非常に好ましく、0.3μm以上がより一層好ましく、0.4μm以上が更に好ましく、0.5μm以上が特に好ましく、0.6μm以上が極めて好ましく、0.8μm以上が非常に好ましく、1.0μm以上がより一層好ましい。凝集体の平均長さは、優れた櫛通り性及び紡糸性を得やすい観点から、10μm以下が好ましく、8.0μm以下がより好ましく、6.0μm以下が更に好ましく、5.5μm以下が特に好ましく、5.0μm以下が極めて好ましく、4.0μm以下が非常に好ましく、3.0μm以下がより一層好ましく、2.0μm以下が更に好ましく、1.0μm以下が特に好ましく、0.8μm以下が極めて好ましく、0.6μm以下が非常に好ましく、0.5μm以下がより一層好ましく、0.4μm以下が更に好ましく、0.3μm以下が特に好ましく、0.2μm以下が極めて好ましく、0.1μm以下が非常に好ましい。これらの観点から、凝集体の平均長さは、0.01~10μmが好ましい。凝集体の平均長さは、2.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、5.0μm以上、又は、5.5μm以上であってよい。凝集体の平均長さは、0.07μm以下、又は、0.05μm以下であってよい。凝集体の平均長さは、後述の実施例に記載の方法により測定できる。凝集体の平均長さは、延伸処理後の人工毛髪用繊維における凝集体の平均長さであってよい。凝集体の平均長さは、マレイン酸系ポリマーの種類、使用量等により調整できる。
【0032】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマー以外の添加剤を含有してよい。添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、着色剤(顔料、染料等)、微粒子、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、可塑剤、滑剤などが挙げられる。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、ポリエステルを含有しなくてよい。
【0033】
難燃剤は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、臭素系難燃剤(臭素原子を含む難燃剤)を含むことが好ましい。難燃剤の含有量は、ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマーの合計100質量部に対して、3~30質量部が好ましく、5~25質量部がより好ましく、10~25質量部が更に好ましい。また、難燃剤の含有量は、ポリアミド系樹脂100質量部に対して30質量部を超えていてもよい。
【0034】
臭素系難燃剤としては、臭素化フェノール縮合物、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂(臭素化エポキシ樹脂に該当する成分を除く)、臭素化ポリカーボネート樹脂、臭素含有トリアジン系化合物等が挙げられる。難燃剤は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、下記式(1)で表される構造を有する化合物(臭素系難燃剤)を含むことが好ましく、下記式(1)で表される構造を有する臭素化エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維が、式(1)で表される構造を有する化合物を含有する場合、マレイン酸系ポリマーは、難燃剤の分散性の向上が図られる観点から、芳香族ビニル化合物(例えばスチレン)を単量体単位として有することが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、マレイン酸化合物とは異なる化合物に関して上述したスチレン系化合物等を用いることができる。
【0035】
【化1】
[nは1以上の整数を示す。]
【0036】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、ポリアミド系樹脂と、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有するマレイン酸系ポリマーと、を含有する組成物を紡糸する紡糸工程を備える。本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法によれば、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を得ることができる。
【0037】
紡糸工程では、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを含有する糸を得ることができる。紡糸工程では、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを含有する組成物を溶融紡糸(溶融変形)することができる。
【0038】
ポリアミド系樹脂における270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度は、下記の範囲が好ましい。ポリアミド系樹脂の溶融粘度は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、50Pa・s以上が好ましく、60Pa・s以上がより好ましく、70Pa・s以上が更に好ましく、80Pa・s以上が特に好ましい。ポリアミド系樹脂の溶融粘度は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、300Pa・s以下が好ましく、250Pa・s以下がより好ましく、200Pa・s以下が更に好ましく、150Pa・s以下が特に好ましく、120Pa・s以下が極めて好ましく、110Pa・s以下が非常に好ましく、105Pa・s以下がより一層好ましい。これらの観点から、ポリアミド系樹脂の溶融粘度は、50~300Pa・sが好ましい。ポリアミド系樹脂の溶融粘度は、90Pa・s以上、又は、100Pa・s以上であってよい。ポリアミド系樹脂の溶融粘度は、100Pa・s以下、90Pa・s以下、又は、80Pa・s以下であってよい。
【0039】
マレイン酸系ポリマーにおける270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度は、下記の範囲が好ましい。マレイン酸系ポリマーの溶融粘度は、光沢を低減しやすい観点から、50Pa・s以上が好ましく、100Pa・s以上がより好ましく、300Pa・s以上が更に好ましく、500Pa・s以上が特に好ましく、600Pa・s以上が極めて好ましく、650Pa・s以上が非常に好ましい。マレイン酸系ポリマーの溶融粘度は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、1000Pa・s以下が好ましく、900Pa・s以下がより好ましく、800Pa・s以下が更に好ましく、700Pa・s以下が特に好ましく、680Pa・s以下が極めて好ましい650Pa・s以下が非常に好ましい。これらの観点から、マレイン酸系ポリマーの溶融粘度は、50~1000Pa・sが好ましく、500~1000Pa・sがより好ましい。マレイン酸系ポリマーの溶融粘度は、680Pa・s以上であってよい。マレイン酸系ポリマーの溶融粘度は、600Pa・s以下、500Pa・s以下、300Pa・s以下、又は、100Pa・s以下であってよい。
【0040】
ポリアミド系樹脂における270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度と、マレイン酸系ポリマーにおける270℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度との差(絶対値)は、下記の範囲が好ましい。溶融粘度の差は、繊維の表面に凹凸が特に好適に形成されることによって光沢を低減しやすい観点から、20Pa・s以上が好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上が更に好ましく、200Pa・s以上が特に好ましく、300Pa・s以上が極めて好ましく、500Pa・s以上が非常に好ましく、540Pa・s以上がより一層好ましい。溶融粘度の差は、光沢を低減しやすい観点、及び、優れた櫛通り性を得やすい観点から、900Pa・s以下が好ましく、800Pa・s以下がより好ましく、700Pa・s以下が更に好ましく、650Pa・s以下が特に好ましい。これらの観点から、溶融粘度の差は、20~900Pa・sが好ましい。溶融粘度の差は、550Pa・s以上、590Pa・s以上、600Pa・s以上、又は、610Pa・s以上であってよい。溶融粘度の差は、610Pa・s以下、600Pa・s以下、590Pa・s以下、550Pa・s以下、500Pa・s以下、300Pa・s以下、100Pa・s以下、又は、50Pa・s以下であってよい。
【0041】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを混合して組成物を得る混合工程を備えてよい。混合工程において、ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶融粘度は上述の範囲であることが好ましく、ポリアミド系樹脂及びマレイン酸系ポリマーの溶融粘度の差は上述の範囲であることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを含有する組成物を溶融混練する混練工程を備えてよい。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の後に、紡糸工程で得られた糸(未延伸糸)を延伸処理する延伸工程を備えてよい。
【0044】
延伸工程における延伸倍率は、繊維の強度発現が起こりやすい観点から、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。延伸倍率は、延伸処理時に糸切れが発生しにくい観点から、5.0倍以下が好ましく、4.0倍以下がより好ましい。これらの観点から、延伸倍率は、1.5~5.0倍が好ましく、2.0~4.0倍がより好ましい。
【0045】
延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取った後、紡糸工程と連続しない工程で延伸する2工程法で行われてよく、未延伸糸をボビンに巻き取ることなく紡糸工程と連続する工程で延伸する直接紡糸延伸法で行われてもよい。延伸処理は、1回で目的の延伸倍率まで延伸する一段延伸法で行われてよく、2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行われてよい。
【0046】
延伸処理の温度は、90~120℃が好ましい。温度が90℃以上であると、繊維の強度を充分に確保しやすいと共に糸切れが発生しにくい。温度が120℃以下であると、繊維の好適な触感が得られやすい。
【0047】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、延伸工程の後に、延伸工程で得られた糸(延伸糸)を熱処理(アニール)する熱処理工程を備えてよい。熱処理工程を行うことにより延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。
【0048】
熱処理温度は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上が更に好ましく、180℃以上が特に好ましい。熱処理温度は、200℃以下が好ましい。熱処理は、延伸処理の後に連続して行ってよく、一旦巻き取った後に時間をあけて行ってもよい。
【0049】
本実施形態に係る頭髪装飾品は、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を備える。本実施形態に係る頭髪装飾品は、頭部に装脱着可能な物品であり、本実施形態に係る人工毛髪用繊維からなる態様(例えば、人工毛髪用繊維の繊維束)であってもよい。頭髪装飾品としては、かつら、ヘアウィッグ、つけ毛等が挙げられる。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
<未延伸糸の作製>
ポリアミド系樹脂を乾燥して吸湿率を1000ppm以下に調整した。表1及び表2に示すポリアミド系樹脂、マレイン酸系ポリマー、及び、その他の添加剤を混合して混合物を得た(表1及び表2の配合量の単位:質量部)。
【0052】
実施例及び比較例で使用した各材料の詳細は以下の通りである。無水マレイン酸の含有量は、マレイン酸系ポリマーにおける無水マレイン酸の単量体単位の含有量を意味する。
【0053】
[ポリアミド系樹脂]
ポリアミド樹脂A:ポリアミドA1(ポリアミド66、宇部興産株式会社製、商品名「1013B」、溶融粘度80Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定))とポリアミドA2(ポリアミド66、宇部興産株式会社製、商品名「1022B」、溶融粘度187Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定))との混合物(質量比、A1:A2=65:35)
ポリアミド樹脂B:ポリアミド66、宇部興産株式会社製、商品名「1013B」、溶融粘度80Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
ポリアミド樹脂C:ポリアミド66、旭化成株式会社製、商品名「レオナ 1300 301」
【0054】
[マレイン酸系ポリマー]
ポリマーA:スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、デンカ株式会社製、商品名「MS-NB」、溶融粘度696Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)、無水マレイン酸の含有量1.5質量%
ポリマーB:スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、自社調製品、溶融粘度650Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)、無水マレイン酸の含有量0.5質量%
ポリマーC:変性SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体の無水マレイン酸変性体)、旭化成株式会社製、商品名「タフテック M1913」、溶融粘度79Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)、無水マレイン酸の含有量1.5質量%
ポリマーD:スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、デンカ株式会社製、商品名「MS-L2A」、溶融粘度944Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)、無水マレイン酸の含有量6.0質量%
ポリマーE:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス 1010」、溶融粘度10Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
ポリマーF:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス 1001」、溶融粘度12Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
ポリマーG:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-670P」、溶融粘度2.5Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
ポリマーH:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-400P」、溶融粘度2.2Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
ポリマーI:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-250P」、溶融粘度1.6Pa・s(270℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
【0055】
[その他の添加剤]
難燃剤:臭素化エポキシ樹脂、阪本薬品工業株式会社製、商品名「SRT-20000」
難燃助剤:株式会社鈴裕化学製、商品名「S-370DE」
着色剤A:彩華化学工業株式会社製、商品名「SPUNDYE NGS BK-35」
着色剤B:彩華化学工業株式会社製、商品名「PA7-4089 レッド」
着色剤C:彩華化学工業株式会社製、商品名「PA7-4092 イエロー」
酸化防止剤A:BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガノックス1098」
酸化防止剤B:BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガフォス168」
滑剤:日東化成工業株式会社製、商品名「CS-8CP」
【0056】
φ30mm二軸押出機を用いて上述の混合物を混錬し、紡糸用の原料ペレットを得た。次いで、原料ペレットを乾燥して吸湿率を1000ppm以下に調整した。続いて、φ40mm二軸押出機を用いて原料ペレットをバレル設定温度280℃で溶融混練した。そして、ギアポンプにより一定吐出量になるように調整して、温度295℃、穴径0.5mm/本のダイスから鉛直方向に溶融紡出させ、ノズル直下2mの位置に設置した引取機にて未延伸糸(未延伸の人工毛髪用繊維)を一定速度で巻き取った。未延伸糸の単繊度は145デシテックスであった。
【0057】
<紡糸性の測定>
実施例1~28及び比較例1の上述の未延伸糸について、目視評価で、200本(1本の長さが3000m)あたりの糸切れの数を測定した。結果を表1及び表2に示す。糸切れの数が少ないほど好ましい。
【0058】
<評価用繊維の作製>
未延伸糸を100℃で延伸した後、180℃でアニールを行い、単繊度66デシテックスの評価用繊維(延伸後の人工毛髪用繊維)を得た。延伸倍率は2.3倍であり、アニール時の弛緩率は6.8%であった。アニール時の弛緩率は、「(アニール時の引き取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)」で算出される値である。
【0059】
<評価用繊維における断面観察>
実施例1~28の上述の評価用繊維における断面観察を行った。まず、評価用繊維をエポキシ樹脂に包埋した後、RuO染色を施した。次に、評価用繊維における繊維軸方向に対して平行な断面をクライオミクロトームで露出させた後、プラズマエッチング処理、及び、導電処理(Osコーティング処理)を行った。続いて、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、Carl Zeiss社製、商品名「MERLIN」)を用いて加速電圧1.2kVで断面を観察して画像を取得した。実施例1~10、12~28の評価用繊維について、マレイン酸系ポリマーの凝集体がポリアミド系樹脂中に島状に分散していることが観察された。
【0060】
実施例1~10、12~13の上述の評価用繊維について、上述の断面観察で取得された画像を用いて、マレイン酸系ポリマーの凝集体の繊維軸方向の平均長さを測定した。画像から任意にマレイン酸系ポリマーの凝集体を20個選び、繊維軸方向の平均長さを算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<評価用繊維の評価>
上述の評価用繊維を用いて光沢及び櫛通り性を評価した。櫛通り性は、実施例1~13及び比較例1について評価した。各評価の詳細は以下の通りである。表1及び表2に測定結果を示す。
【0062】
(光沢)
光沢の評価は、光沢度を測定することにより行った。光沢度の測定には、株式会社村上色彩技術研究所製の変角光度計(ゴニオフォトメーター)GP-700を用いた。まず、基準繊維(デンカ株式会社製、ポリアミド系人工毛髪用繊維 Luxeena、色相#613T)を試料台にセットし、感度調整ダイヤル値(COARSE)を718に設定し、感度調整ダイヤル値(FINE)を737に設定し、入射角を45°に設定し、受光角45°における反射光強度が装置の検出限界の80%となるように、入射光の強度、検出器のゲイン等を調整した。その後、上述の評価用繊維を試料台にセットし、受光角を10°から80°に変化させて反射光強度を測定した。そして、装置の検出限界に対する反射光強度の最大値を光沢度[単位:%]として得た。光沢度が90%以下である場合を良好であると判断した。
【0063】
(櫛通り性)
櫛通り性の評価は、上述の評価用繊維を櫛通りさせたときの抵抗力を測定することにより行った。具体的には、長さ30cm、質量20gの評価用繊維を移動速度10mm/sec、移動距離100mmで櫛通りさせたときの抵抗力[単位:gf]を静・動摩擦測定機(TRINITY-LAB社製、商品名「TL201Tt」)で測定した。抵抗力が小さいほど好ましい。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び表2に示されるとおり、ポリアミド系樹脂とマレイン酸系ポリマーとを併用することにより、光沢の少ない人工毛髪用繊維を達成できることが分かる。