(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及び頭髪装飾品
(51)【国際特許分類】
D01F 6/90 20060101AFI20240819BHJP
A41G 3/00 20060101ALI20240819BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240819BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20240819BHJP
C08L 39/00 20060101ALI20240819BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240819BHJP
C08L 63/02 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
D01F6/90 311E
A41G3/00 A
C08L101/00
C08L77/00
C08L39/00
C08L63/00 A
C08L63/02
(21)【出願番号】P 2021554905
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040300
(87)【国際公開番号】W WO2021090736
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019202026
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020127218
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】袴田 翔
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/187843(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/111283(WO,A1)
【文献】特開昭63-243317(JP,A)
【文献】特開2006-097185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96,
9/00- 9/04
A41G 1/00- 11/02
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重縮合系ポリマーと、架橋剤と、を含有
する人工毛髪用繊維であって、
前記重縮合系ポリマーがポリアミド系樹脂を含み、
前記架橋剤が、マレイミド系重合体、エポキシ変性ポリマー、及び、マレイン酸系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記ポリアミド系樹脂の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として65
~95質量
%であり、
前記架橋剤の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.1
~35質量
%であ
り、
前記架橋剤の含有量が、前記重縮合系ポリマー及び前記架橋剤の合計量を基準として0.1~35質量%であり、
前記重縮合系ポリマー及び前記架橋剤の合計量に対する前記架橋剤の含有量の割合X[質量%]と、前記架橋剤において架橋に寄与する官能基の当量Y[meq/g]との積が1.8~10である、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記重縮合系ポリマー及び前記架橋剤の合計量に対する前記架橋剤の含有量の割合X[質量%]と、前記架橋剤において架橋に寄与する官能基の当量Y[meq/g]との積が2~10である、請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として65~90質量%である、請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記架橋剤がマレイミド系重合体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記架橋剤がエポキシ変性ポリマーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
前記架橋剤がマレイン酸系ポリマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
下記式(1)で表される構造を有する化合物を更に含有し、
前記架橋剤が、芳香族ビニル化合物を単量体単位として有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【化1】
[nは1以上の整数を示す。]
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維、頭髪装飾品等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維(人工毛髪に用いられる繊維)は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等において用いることができる。下記特許文献1には、ポリアミド系樹脂と臭素系難燃剤を含有する樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1では、溶融紡糸によって形成した未延伸の糸を延伸することによって人工毛髪用繊維が作製されている。このとき、延伸の際に糸が均一に延伸されずに、延伸後の糸にコブ状の節が形成される場合がある。人工毛髪用繊維に節が存在していると、触感が悪くなる等の問題がある。
【0005】
本発明の一側面は、節の少ない人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、重縮合系ポリマーと、架橋剤と、を含有する、人工毛髪用繊維に関する。
【0007】
本発明の他の一側面は、上述の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、節の少ない人工毛髪用繊維を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリル」とは、アクリル、及び、それに対応するメタクリルの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。
【0011】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマーと、架橋剤と、を含有する。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、人工毛髪として用いることが可能であり、人工毛髪を得るために用いることもできる。
【0012】
本発明者が鋭意検討を行ったところ、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する樹脂組成物(例えば、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含むベース樹脂を含有する樹脂組成物)を繊維化することによって、節の発生が抑制された人工毛髪用繊維が得られることを見出した。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、延伸処理した際に節が少ない人工毛髪用繊維である。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、重縮合系ポリマーと架橋剤との架橋により分子鎖の絡み合いが向上することによって節の発生が抑制されると推測される。但し、節が少ない要因は当該要因に限定されない。
【0013】
ところで、従来の人工毛髪用繊維は、人毛と比較して過剰に高い光沢を有することから、人工の毛髪であることが認識されやすい問題がある。そのため、人工毛髪用繊維に対しては、光沢が少ないことが求められる場合がある。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、光沢が少ない人工毛髪用繊維であってよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、重縮合系ポリマーと架橋剤とを併用することにより繊維の表面に凹凸(コブを形成しない程度の凹凸)を好適に形成することによって光沢が低減されると推測される。但し、光沢が少ない要因は当該要因に限定されない。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、光沢が発生しにくいことで、半艶~七部艶状態を維持しやすい。
【0014】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する樹脂組成物であってよい。樹脂組成物は、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含むベース樹脂を含有してよく、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する混合物を溶融混錬することにより得てよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する樹脂組成物からなる繊維で構成されていてよく、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する樹脂組成物が溶融変形された繊維で構成されていてよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、延伸処理後の繊維(樹脂組成物が延伸された繊維で構成されている人工毛髪用繊維)であってよく、未延伸の繊維(未延伸糸)であってもよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する樹脂組成物を紡糸して得られる未延伸の繊維であってよく、当該未延伸の繊維を延伸して得られる繊維であってよい。重縮合系ポリマー及び架橋剤のそれぞれは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、延伸処理後において下記の範囲が好ましい。単繊度は、20デシテックス以上が好ましく、35デシテックス以上がより好ましい。単繊度は、100デシテックス以下が好ましく、80デシテックス以下がより好ましい。これらの観点から、単繊度は、20~100デシテックスが好ましく、35~80デシテックスがより好ましい。
【0016】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、細繊度の人工毛髪用繊維を得るために延伸倍率を小さくすることが可能であり、延伸処理後の人工毛髪用繊維に光沢が発生しにくい観点から、未延伸時において、300デシテックス以下が好ましく、200デシテックス以下がより好ましい。
【0017】
重縮合系ポリマーとしては、ポリアミド系樹脂(ポリアミド)、ポリエステル等が挙げられる。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、ポリエステルを含有しなくてもよい。重縮合系ポリマーは、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、ポリアミド系樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
ポリアミド系樹脂は、例えば、脂肪族ポリアミド;芳香族ポリアミド;脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とが縮合重合されて得られる骨格を有する半芳香族ポリアミド等のポリアミドであってよい。脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド12(ナイロン12)、ポリアミド6/66(ナイロン6/66)、ポリアミド6/12(ナイロン6/12)等が挙げられる。芳香族ポリアミドとしては、ポリメタキシリレン・アジポアミド(ナイロンMXD6)等が挙げられる。半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド6T(ナイロン6T)、ポリアミド9T(ナイロン9T)、ポリアミド10T(ナイロン10T)等が挙げられる。
【0019】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0020】
重縮合系ポリマーの含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。重縮合系ポリマーの含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、50質量%超、60質量%以上、65質量%以上、67質量%以上、68質量%以上、又は、69質量%以上が好ましい。重縮合系ポリマーの含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、74質量%以下、73質量%以下、72質量%以下、71質量%以下、又は、70質量%以下が好ましい。これらの観点から、重縮合系ポリマーの含有量は、10~95質量%、50~90質量%、又は、60~90質量%が好ましい。重縮合系ポリマーの含有量は、70質量%以上、71質量%以上、72質量%以上、73質量%以上、又は、74質量%以上であってよい。重縮合系ポリマーの含有量は、69質量%以下、又は、68質量%以下であってよい。同様の観点から、ポリアミド系樹脂の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準としてこれらの各範囲であることが好ましい。
【0021】
架橋剤としては、重縮合系ポリマーの末端官能基(例えばアミノ基)と反応可能な化合物を用いることができる。架橋剤は、架橋に寄与する官能基を有している。このような官能基としては、カルボキシル基、無水マレイン酸基等が挙げられる。架橋剤としては、重縮合系ポリマーに該当しない化合物を用いることができる。
【0022】
架橋剤は、各種単量体を単量体単位(単量体単位=構造単位。以下同様)として有してよく、各種単量体に由来する単量体単位を有することができる。このような単量体としては、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物(マレイミド基を有する化合物)、マレイン酸化合物、オレフィン系炭化水素(エチレン、プロピレン、ブチレン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、不飽和ジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等)、不飽和ジカルボン酸無水物(イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、アコニット酸無水物等。マレイン酸無水物(無水マレイン酸)を除く)、酢酸ビニル、ビニルカルボン酸((メタ)アクリル酸等)、(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられる。単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
架橋剤は、節を低減しやすい観点、光沢を低減しやすい観点、並びに、架橋剤及び人工毛髪用繊維の色相を向上させやすい(黄色味を抑えやすい)観点から、芳香族ビニル化合物を単量体単位として有することが好ましく、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を有することも好ましい。
【0024】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等のスチレン系化合物などが挙げられる。芳香族ビニル化合物は、節を更に低減しやすい観点、光沢を更に低減しやすい観点、並びに、架橋剤及び人工毛髪用繊維の色相を向上させる効果が更に高い観点から、スチレンを含むことが好ましい。芳香族ビニル化合物(スチレン系化合物等)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
マレイミド化合物としては、マレイミド;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-アルキルマレイミド;N-フェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミド等の芳香族マレイミドなどが挙げられる。マレイミド化合物は、節を低減しやすい観点、光沢を低減しやすい観点、並びに、架橋剤及び人工毛髪用繊維の耐熱性を向上させる効果が高い観点から、マレイミド及びN-フェニルマレイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。マレイミド化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
マレイン酸化合物としては、マレイン酸、マレイン酸誘導体等が挙げられる。マレイン酸誘導体としては、無水マレイン酸、マレイン酸塩(例えばマレイン酸ナトリウム)、マレイン酸エステル(例えば、マレイン酸メチル等のマレイン酸アルキルエステル)などが挙げられる。マレイン酸化合物は、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、無水マレイン酸を含むことが好ましい。
【0027】
架橋剤としては、マレイミド系重合体(マレイミド系ポリマー)、エポキシ変性ポリマー(マレイミド系重合体に該当する化合物を除く)、マレイン酸系ポリマー(エポキシ変性ポリマー又はマレイミド系重合体に該当する化合物を除く)等が挙げられる。架橋剤は、マレイミド系重合体を含む態様であってよく、エポキシ変性ポリマーを含む態様であってよく、マレイン酸系ポリマーを含む態様であってよい。マレイミド系重合体、エポキシ変性ポリマー及びマレイン酸系ポリマーのそれぞれは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
架橋剤は、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、マレイミド系重合体、エポキシ変性ポリマー、及び、マレイン酸系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、光沢を更に低減しやすい観点から、マレイミド系重合体、及び、マレイン酸系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、マレイミド系重合体を含むことが更に好ましい。
【0029】
マレイミド系重合体は、マレイミド化合物を単量体単位(マレイミド単量体単位)として有しており、マレイミド化合物に由来する単量体単位を有することができる。マレイミド系重合体を用いることにより、人工毛髪用繊維の耐熱性を向上させやすい。マレイミド化合物の単量体単位は、マレイミド化合物を含む原料を重合させることにより得てよく、不飽和ジカルボン酸無水物を重合しておき、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する基とアンモニア又は第1級アミンとを反応させ、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する基を変換(後イミド化法)することにより得てもよい。マレイミド系重合体としては、マレイミド系単独重合体(マレイミド化合物の単独重合体)、又は、マレイミド系共重合体(マレイミド化合物の共重合体)を用いることができる。
【0030】
マレイミド系重合体におけるマレイミド化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系重合体の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。マレイミド化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系重合体及び人工毛髪用繊維の耐熱性の向上を図りやすい観点から、35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましい。マレイミド化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系重合体及び人工毛髪用繊維の良好な衝撃強度が得られやすい観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。これらの観点から、マレイミド化合物の単量体単位の含有量は、35~50質量%が好ましく、37~45質量%がより好ましい。
【0031】
マレイミド系共重合体は、マレイミド化合物とは異なる化合物を単量体単位として有する。マレイミド系共重合体は、マレイミド化合物と、マレイミド化合物以外の単量体と、を含む原料を共重合させることにより得てよく、不飽和ジカルボン酸無水物を共重合しておき、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する基とアンモニア又は第1級アミンとを反応させ、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する基を変換(後イミド化法)することにより得てもよい。マレイミド化合物とは異なる化合物としては、架橋剤に関して上述した各種単量体を用いることができる。
【0032】
マレイミド系共重合体は、節を低減しやすい観点、光沢を低減しやすい観点、並びに、マレイミド系共重合体及び人工毛髪用繊維の色相を向上させやすい(黄色味を抑えやすい)観点から、芳香族ビニル化合物を単量体単位として有することが好ましく、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を有することも好ましい。芳香族ビニル化合物としては、架橋剤に関して上述したスチレン系化合物等を用いることができる。芳香族ビニル化合物は、節を更に低減しやすい観点、光沢を更に低減しやすい観点、並びに、マレイミド系共重合体及び人工毛髪用繊維の色相を向上させる効果が更に高い観点から、スチレンを含むことが好ましい。
【0033】
マレイミド系共重合体における芳香族ビニル化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系共重合体の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。芳香族ビニル化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系共重合体及び人工毛髪用繊維の良好な色相が得られやすい観点から、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましい。芳香族ビニル化合物の単量体単位の含有量は、マレイミド系共重合体及び人工毛髪用繊維の良好な耐熱性が得られやすい観点から、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましい。これらの観点から、芳香族ビニル化合物の単量体単位の含有量は、40~60質量%が好ましく、45~55質量%がより好ましい。
【0034】
マレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸無水物を単量体単位として有することが好ましく、不飽和ジカルボン酸無水物に由来する単量体単位を有することが好ましい。この場合、不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位が、アミノ基又はアルコール基末端を有する他のポリマーと反応し、当該ポリマーに対する相溶化剤としての効果が得られやすい。
【0035】
マレイミド系重合体における不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、マレイミド系重合体の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点、並びに、不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位が、アミノ基又はアルコール基末端を有する他のポリマーと反応し、当該ポリマーに対する相溶化剤としての効果が更に得られやすい観点から、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は、6質量%以上が好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点、並びに、優れた熱安定性が得られやすい観点から、10質量%以下、8質量%以下、又は、6質量%以下が好ましい。これらの観点から、不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、0.1~10質量%、0.5~10質量%、又は、0.5~6質量%が好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は、1.5質量%以下であってよい。不飽和ジカルボン酸無水物の単量体単位の含有量は、0.5~5質量%であってよい。
【0036】
マレイミド系重合体の具体例としては、スチレン-マレイミド共重合体、マレイミド-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。マレイミド系重合体は、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体を含むことが好ましい。
【0037】
架橋剤がマレイミド系重合体を含む場合、マレイミド系重合体の含有量は、架橋剤の全質量(人工毛髪用繊維に含まれる架橋剤の全質量。以下同様)を基準として、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は、99質量%以上が好ましい。架橋剤が実質的にマレイミド系重合体からなる(架橋剤の実質的に100質量%がマレイミド系重合体である)態様であってもよい。
【0038】
エポキシ変性ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーの主鎖の末端及び/又は側鎖にエポキシ基を有するポリマーであるエポキシ変性(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオレフィンの主鎖の末端及び/又は側鎖にエポキシ基を有するポリマーであるエポキシ変性ポリオレフィン等が挙げられる。エポキシ変性ポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
エポキシ変性(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリロイル基を有する。エポキシ変性ポリオレフィンは、オレフィン系炭化水素を単量体単位として有しており、オレフィン系炭化水素に由来する単量体単位を有することができる。
【0040】
エポキシ変性ポリマーは、節を低減しやすい観点、光沢を低減しやすい観点、並びに、エポキシ変性ポリマー及び人工毛髪用繊維の色相を向上させやすい(黄色味を抑えやすい)観点から、芳香族ビニル化合物を単量体単位として有することが好ましく、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を有することも好ましい。芳香族ビニル化合物としては、架橋剤に関して上述したスチレン系化合物等を用いることができる。芳香族ビニル化合物は、節を更に低減しやすい観点、光沢を更に低減しやすい観点、並びに、エポキシ変性ポリマー及び人工毛髪用繊維の色相を向上させる効果が更に高い観点から、スチレンを含むことが好ましい。
【0041】
架橋剤がエポキシ変性ポリマーを含む場合、エポキシ変性ポリマーの含有量は、架橋剤の全質量を基準として、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は、99質量%以上が好ましい。架橋剤が実質的にエポキシ変性ポリマーからなる(架橋剤の実質的に100質量%がエポキシ変性ポリマーである)態様であってもよい。
【0042】
マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のマレイン酸化合物を単量体単位として有しており、マレイン酸化合物に由来する単量体単位を有することができる。マレイン酸誘導体としては、架橋剤に関して上述したマレイン酸誘導体を用いることができる。マレイン酸化合物は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、無水マレイン酸を含むことが好ましい(マレイン酸系ポリマーは、無水マレイン酸の骨格が分子中に導入された共重合体である無水マレイン酸変性ポリマーであることが好ましい)。マレイン酸系ポリマーは、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、ポリアルキレン鎖(例えばポリプレピレン鎖)を有することが好ましい。
【0043】
マレイン酸系ポリマーの具体例としては、スチレン-無水マレイン酸共重合体;無水マレイン酸変性ポリアルキレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン);無水マレイン酸グラフト重合体;エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の三元共重合体などが挙げられる。
【0044】
架橋剤において架橋に寄与する官能基の当量は、下記の範囲であることが好ましい。官能基の当量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、0.1meq/g以上、0.2meq/g以上、0.3meq/g以上、0.4meq/g以上、0.45meq/g以上、0.48meq/g以上、0.5meq/g以上、0.6meq/g以上、0.7meq/g以上、0.8meq/g以上、0.9meq/g以上、1meq/g以上、1.2meq/g以上、1.4meq/g以上、1.5meq/g以上、1.8meq/g以上、2meq/g以上、2.5meq/g以上、3meq/g以上、又は、3.5meq/g以上が好ましい。官能基の当量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、5meq/g以下、4meq/g以下、3.5meq/g以下、3meq/g以下、2.5meq/g以下、2meq/g以下、1.8meq/g以下、1.5meq/g以下、1.4meq/g以下、1.2meq/g以下、1meq/g以下、0.7meq/g以下、0.6meq/g以下、0.5meq/g以下、0.48meq/g以下、0.45meq/g以下、0.4meq/g以下、0.3meq/g以下、又は、0.2meq/g以下が好ましい。これらの観点から、官能基の当量は、0.1~5meq/gが好ましい。
【0045】
架橋剤がマレイン酸系ポリマーを含む場合、マレイン酸系ポリマーの含有量は、架橋剤の全質量を基準として、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は、99質量%以上が好ましい。架橋剤が実質的にマレイン酸系ポリマーからなる(架橋剤の実質的に100質量%がマレイン酸系ポリマーである)態様であってもよい。
【0046】
架橋剤の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。架橋剤の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は、0.75質量%以上が好ましい。架橋剤の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、50質量%以下、50質量%未満、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、又は、7.5質量%以下が好ましい。これらの観点から、架橋剤の含有量は、0.1~50質量%が好ましい。同様の観点から、マレイミド系重合体の含有量、エポキシ変性ポリマーの含有量、又は、マレイン酸系ポリマーの含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準としてこれらの各範囲であることが好ましい。
【0047】
架橋剤の含有量は、架橋剤の種類に応じて調整可能であり、節、光沢等のバランスを考慮して、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲であってよい。架橋剤の含有量は、0.8質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上、4.5質量%以上、5質量%以上、5.5質量%以上、6質量%以上、6.5質量%以上、又は、7質量%以上であってよい。架橋剤の含有量は、7質量%以下、6.5質量%以下、6質量%以下、5.5質量%以下、5質量%以下、4.5質量%以下、4質量%以下、3.5質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、2質量%以下、1.8質量%以下、1.5質量%以下、1質量%以下、0.8質量%以下、又は、0.75質量%以下であってよい。同様の観点から、マレイミド系重合体の含有量、エポキシ変性ポリマーの含有量、又は、マレイン酸系ポリマーの含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準としてこれらの各範囲であってよい。
【0048】
架橋剤の含有量は、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量を基準として下記の範囲であることが好ましい。架橋剤の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は、1質量%以上が好ましい。架橋剤の含有量は、節及び光沢をバランスよく低減しやすい観点から、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、50質量%未満、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は、10質量%以下が好ましい。これらの観点から、架橋剤の含有量は、0.1~90質量%が好ましい。同様の観点から、マレイミド系重合体の含有量、エポキシ変性ポリマーの含有量、又は、マレイン酸系ポリマーの含有量は、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量を基準としてこれらの各範囲であることが好ましい。
【0049】
架橋剤の含有量は、架橋剤の種類に応じて調整可能であり、節、光沢等のバランスを考慮して、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量を基準として下記の範囲であってよい。架橋剤の含有量は、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、7.5質量%以上、8質量%以上、又は、10質量%以上であってよい。架橋剤の含有量は、8質量%以下、7.5質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、又は、1質量%以下であってよい。同様の観点から、マレイミド系重合体の含有量、エポキシ変性ポリマーの含有量、又は、マレイン酸系ポリマーの含有量は、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量を基準としてこれらの各範囲であってよい。
【0050】
重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量に対する架橋剤の含有量の割合X[質量%]と、架橋剤において架橋に寄与する官能基の当量Y[meq/g]との積XY(X・Y=X×Y)は、下記の範囲であることが好ましく、重縮合系ポリマーがマレイミド系重合体である場合において下記の範囲であることがより好ましい。積XYは、節の発生を抑制しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、1.8以上、1.9以上、2以上、2.2以上、2.3以上、2.5以上、3以上、3.3以上、3.5以上、4以上、4.2以上、4.5以上、又は、4.6以上が好ましい。積XYは、節の発生を抑制しやすい観点、光沢を低減しやすい観点、並びに、優れた紡糸性及び加工性を得やすい観点から、10以下、8以下、又は、7以下が好ましい。これらの観点から、積XYは、1.8~10、又は、2~7が好ましい。積XYは、4.65以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5以上、6以上、又は、7以上であってよい。積XYは、6以下、5以下、4.9以下、4.8以下、4.7以下、4.65以下、4.6以下、4.5以下、4.2以下、4以下、3.5以下、3.3以下、3以下、2.5以下、2.3以下、2.2以下、2以下、1.9以下、又は、1.8以下であってよい。
【0051】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマー及び架橋剤以外の添加剤を含有してよい。添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、着色剤(顔料、染料等)、微粒子、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、可塑剤、滑剤などが挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、難燃剤を含有してよい。難燃剤は、光沢を低減しやすい観点から、臭素系難燃剤(臭素原子を含む難燃剤)を含むことが好ましい。難燃剤の含有量は、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計100質量部に対して、3~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましく、10~28質量部が更に好ましい。また、難燃剤の含有量は、重縮合系ポリマー(例えばポリアミド系樹脂)100質量部に対して30質量部を超えていてもよい。
【0053】
臭素系難燃剤としては、臭素化フェノール縮合物、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂(臭素化エポキシ樹脂に該当する成分を除く)、臭素化ポリカーボネート樹脂、臭素含有トリアジン系化合物等が挙げられる。難燃剤は、人工毛髪用繊維の耐ドリップ性、加工性、原糸の透明性等のバランスに優れる観点、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、下記式(1)で表される構造を有する化合物(臭素系難燃剤)を含むことが好ましく、下記式(1)で表される構造を有する臭素化エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維が、式(1)で表される構造を有する化合物を含有する場合、架橋剤は、難燃剤の分散性の向上が図られる観点から、芳香族ビニル化合物(例えばスチレン)を単量体単位として有することが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、架橋剤に関して上述したスチレン系化合物等を用いることができる。
【0054】
【0055】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する組成物を紡糸する紡糸工程を備える。本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法によれば、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を得ることができる。
【0056】
紡糸工程では、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する糸を得ることができる。紡糸工程では、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する組成物を溶融紡糸(溶融変形)することができる。人工毛髪用繊維は、重縮合系ポリマーの種類に応じた適正な温度条件の下、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0057】
重縮合系ポリマー(例えばポリアミド系樹脂)における300℃、せん断速度2400[1/s]で測定される溶融粘度は、下記の範囲が好ましい。重縮合系ポリマーの溶融粘度は、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、50Pa・s以上が好ましく、60Pa・s以上がより好ましく、70Pa・s以上が更に好ましく、75Pa・s以上が特に好ましい。重縮合系ポリマーの溶融粘度は、優れた紡糸性及び加工性を得やすい観点、節を低減しやすい観点、及び、光沢を低減しやすい観点から、300Pa・s以下が好ましく、250Pa・s以下がより好ましく、200Pa・s以下が更に好ましく、140Pa・s以下が特に好ましく、120Pa・s以下が極めて好ましく、100Pa・s以下が非常に好ましく、80Pa・s以下がより一層好ましい。これらの観点から、重縮合系ポリマーの溶融粘度は、50~300Pa・sが好ましい。
【0058】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、重縮合系ポリマーと架橋剤とを混合して組成物を得る混合工程を備えてよい。混合工程において、重縮合系ポリマーの溶融粘度は上述の範囲であることが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、重縮合系ポリマーと架橋剤とを含有する組成物を溶融混練する混練工程を備えてよい。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられ、混練度の調整及び操作の簡便性の観点から、二軸押出機が好ましい。
【0060】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の後に、紡糸工程で得られた糸(未延伸糸)を延伸処理する延伸工程を備えてよい。
【0061】
延伸工程における延伸倍率は、繊維の強度発現が起こりやすい観点から、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。延伸倍率は、延伸処理時に糸切れが発生しにくい観点から、5.0倍以下が好ましく、4.0倍以下がより好ましい。これらの観点から、延伸倍率は、1.5~5.0倍が好ましく、2.0~4.0倍がより好ましい。
【0062】
延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取った後、紡糸工程と連続しない工程で延伸する2工程法で行われてよく、未延伸糸をボビンに巻き取ることなく紡糸工程と連続する工程で延伸する直接紡糸延伸法で行われてもよい。延伸処理は、1回で目的の延伸倍率まで延伸する一段延伸法で行われてよく、2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行われてよい。このような延伸処理によって100デシテックス以下の細繊度の延伸糸を得やすいと共に、繊維の引張強度を向上させやすい。
【0063】
延伸処理の温度は、90~120℃が好ましい。温度が90℃以上であると、繊維の強度を充分に確保しやすいと共に糸切れが発生しにくい。温度が120℃以下であると、繊維の好適な触感が得られやすい(繊維の触感がプラスチック的な滑り触感になることを抑制しやすい)。
【0064】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、延伸工程の後に、延伸工程で得られた糸(延伸糸)を熱処理(アニール)する熱処理工程を備えてよい。熱処理工程を行うことにより延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。
【0065】
熱処理温度は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上が更に好ましく、180℃以上が特に好ましい。熱処理温度は、200℃以下が好ましい。熱処理は、延伸処理の後に連続して行ってよく、一旦巻き取った後に時間をあけて行ってもよい。
【0066】
本実施形態に係る頭髪装飾品は、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を備える。本実施形態に係る頭髪装飾品は、頭部に装脱着可能な物品であり、本実施形態に係る人工毛髪用繊維からなる態様(例えば、人工毛髪用繊維の繊維束)であってもよい。頭髪装飾品としては、かつら、ヘアウィッグ、つけ毛等が挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
<未延伸糸の作製>
重縮合系ポリマーを乾燥して吸湿率を1000ppm以下に調整した。重縮合系ポリマー及び架橋剤(表1~3に示す架橋剤)の合計100質量部と、難燃剤27.5質量部と、難燃助剤2.3質量部と、着色剤A1.4質量部と、着色剤B0.6質量部と、着色剤C0.2質量部と、酸化防止剤A0.2質量部と、酸化防止剤B0.2質量部と、滑剤1.1質量部と、を混合して混合物を得た。「重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計100質量部」について、例えば、実施例1では、重縮合系ポリマー92.5質量部及び架橋剤7.5質量部が用いられており、比較例1では、架橋剤が用いられることなく重縮合系ポリマー100質量部が用いられている。表中、「含有量(X)」は、重縮合系ポリマー及び架橋剤の合計量を基準とした架橋剤の含有量を示し、「当量(Y)」は、架橋剤において架橋に寄与する官能基の当量を示し、「積XY」は、含有量(X)及び当量(Y)の積を示す。
【0069】
実施例及び比較例で使用した各材料の詳細は以下の通りである。無水マレイン酸の含有量は、マレイミド系重合体における無水マレイン酸の単量体単位の含有量を意味する。
【0070】
(重縮合系ポリマー)
ポリアミド系樹脂:ポリアミド66、旭化成株式会社製、商品名「レオナ 1300 301」、溶融粘度75Pa・s(300℃、せん断速度2400[1/s]で測定)
【0071】
(架橋剤)
[マレイミド系重合体]
架橋剤A:スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、デンカ株式会社製、商品名「MS-L2A」、無水マレイン酸の含有量6.0質量%
架橋剤B:スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体、デンカ株式会社製、商品名「MS-NB」、無水マレイン酸の含有量1.5質量%
[エポキシ変性ポリマー]
架橋剤C:エポキシ変性アクリル-スチレンポリマー、東亜合成株式会社製、商品名「ARUFON UG4070」
架橋剤D:エポキシ変性アクリル-スチレンポリマー、東亜合成株式会社製、商品名「ARUFON UG4035」
架橋剤E:エポキシ変性アクリル-スチレンポリマー、BASFジャパン株式会社製、商品名「Joncryl ADR 4368C」
[マレイン酸系ポリマー]
架橋剤F:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス 1010」
架橋剤G:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス 1001」
架橋剤H:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-670P」
架橋剤I:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-400P」
架橋剤J:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製、商品名「リケエイド MG-250P」
【0072】
(その他の添加剤)
難燃剤:臭素化エポキシ樹脂、阪本薬品工業株式会社製、商品名「SRT-20000」
難燃助剤:株式会社鈴裕化学製、商品名「S-370DE」
着色剤A:彩華化学工業株式会社製、商品名「SPUNDYE NGS BK-35」
着色剤B:彩華化学工業株式会社製、商品名「PA7-4089 レッド」
着色剤C:彩華化学工業株式会社製、商品名「PA7-4092 イエロー」
酸化防止剤A:BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガノックス1098」
酸化防止剤B:BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガフォス168」
滑剤:日東化成工業株式会社製、商品名「CS-8CP」
【0073】
φ30mm二軸押出機を用いて上述の混合物を混錬し、紡糸用の原料ペレットを得た。次いで、原料ペレットを乾燥して吸湿率を1000ppm以下に調整した。続いて、φ40mm二軸押出機を用いて原料ペレットをバレル設定温度280℃で溶融混練した。そして、ギアポンプにより一定吐出量になるように調整して、温度295℃、穴径0.5mm/本のダイスから鉛直方向に溶融紡出させ、ノズル直下2mの位置に設置した引取機にて未延伸糸(未延伸の人工毛髪用繊維)を一定速度で巻き取った。未延伸糸の単繊度は145デシテックスであった。
【0074】
<評価用繊維の作製>
未延伸糸を100℃で延伸した後、180℃でアニールを行い、単繊度66デシテックスの評価用繊維(延伸後の人工毛髪用繊維)を得た。延伸倍率は2.3倍であり、アニール時の弛緩率は6.8%であった。アニール時の弛緩率は、「(アニール時の引き取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)」で算出される値である。
【0075】
<評価用繊維の評価>
上述の評価用繊維を用いて節の数及び光沢を評価した。各評価の詳細は以下の通りである。表1~3に測定結果を示す。
【0076】
(節の数)
1mの評価用繊維50本に見られた節の数を計測した。ここで、「節」とは、径方向外側にコブ状に膨出するコブ状部分であり、当該コブ状部分の最大径が、当該最大径の位置から繊維長さ方向に±10mmの範囲の領域における最小径に対して1.2倍以上である部分である。表1~3の数値は、評価用繊維50本に見られた節の総数である。
【0077】
(光沢)
光沢の評価は、光沢度を測定することにより行った。光沢度の測定には、株式会社村上色彩技術研究所製の変角光度計(ゴニオフォトメーター)GP-700を用いた。まず、基準繊維(デンカ株式会社製、ポリアミド系人工毛髪用繊維 Luxeena、色相#613T)を試料台にセットし、感度調整ダイヤル値(COARSE)を718に設定し、感度調整ダイヤル値(FINE)を737に設定し、入射角を45°に設定し、受光角45°における反射光強度が装置の検出限界の80%となるように、入射光の強度、検出器のゲイン等を調整した。その後、上述の評価用繊維を試料台にセットし、受光角を10°から80°に変化させて反射光強度を測定した。そして、装置の検出限界に対する反射光強度の最大値を光沢度[単位:%]として得た。光沢度は小さい数値であるほど良好である。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
表1~3に示す結果から、重縮合系ポリマーと架橋剤とを併用した実施例1~21では、架橋剤が用いられていない比較例1よりも、繊維における節の発生が抑制されていることが分かる。また、実施例1~21では、比較例1よりも、繊維の光沢が低くなることが分かる。特に、架橋剤としてマレイミド共重合体を用いた場合(実施例1~6)には、架橋剤としてエポキシ変性ポリマー又はマレイン酸系ポリマーを用いた場合(実施例7~21)よりも、繊維の光沢が低くなる傾向にあることが分かる。