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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】硬化物、硬化物変性体及び硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/16 20060101AFI20240819BHJP
   C08G 77/38 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08G77/16
C08G77/38
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022119310
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2021502104の分割
【原出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2022141921
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019028764
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019028667
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019028719
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019028637
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知紘
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達朗
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0165617(US,A1)
【文献】特開2005-023075(JP,A)
【文献】DEQING,Xiao et al.,Chemical Modification of the Surface of Poly(dimethylsiloxane) by Atom-Transfer Radical Polymerization of Acrylamide,Langmuir,2002年11月14日,Vol.18,p.9971-9976
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00-77/62
C08L 83/00-83/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)であり、
【化1】
(式(10)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有し、
硬度が0.01GPa以上1GPa以下である、硬化物。
【請求項2】
IRスペクトルにおいて、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積比(SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)が、0.01以上である、請求項1に記載の硬化物。
【請求項3】
ヤング率が0.1GPa以上である、請求項1又は2に記載の硬化物。
【請求項4】
ヤング率が30GPa以下である、請求項1~3のいずれか項に記載の硬化物。
【請求項5】
厚が0.01μm以上2μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項6】
前記環状シラノール(A10)が、下記式(2)~(5)で表される環状シラノール(B1)~(B4):
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式(2)~(5)中、R1~R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基である。)
を含有し、
前記環状シラノール(B1)~(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとしたとき、0<b≦20を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項7】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A20)の面積が、前記環状シラノール(A10)及び前記脱水縮合物(A20)の総面積に対して、0%超過50%以下である、請求項のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項8】
前記シラノール組成物中の遷移金属の割合が1質量ppm未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項9】
前記シラノール組成物が溶媒を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項10】
接着剤に用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載の硬化物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化物を光照射して得られる硬化物変性体。
【請求項12】
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、前記式(10)で表される環状シラノール(A10)及びその脱水縮合物(A20)であり、
前記式(10)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含む、請求項11記載の硬化物変性体。
【請求項13】
シラノール組成物の硬化物の製造方法であって、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を熱硬化させる工程を含み、
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)であり、
【化6】
(式(10)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
前記熱硬化させる工程で、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有し、且つ、硬度が0.01GPa以上1GPa以下である、硬化物とする、シラノール組成物の硬化物の製造方法。
【請求項14】
シラノール組成物の硬化物の製造方法であって、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を熱硬化させる工程を含み、
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)であり、
【化7】
(式(10)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
前記熱硬化させる工程で、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有する、硬化物とする、シラノール組成物の硬化物の製造方法。
【請求項15】
前記熱硬化工程において25~200℃の温度条件で熱硬化させる、請求項13又は14に記載のシラノール組成物の硬化物の製造方法。
【請求項16】
前記熱硬化工程において10分~48時間熱硬化させる、請求項1315のいずれか一項に記載のシラノール組成物の硬化物の製造方法。
【請求項17】
シラノール組成物の硬化物変性体の製造方法であって、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を熱硬化させる工程と、
前記熱硬化させる工程で得られた硬化物に対して光照射する工程と、
を含み、
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)であり、
【化8】
(式(10)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
前記熱硬化させる工程で、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有し、且つ、硬度が0.01GPa以上1GPa以下である、硬化物とする、硬化物とする、シラノール組成物の硬化物変性体の製造方法。
【請求項18】
シラノール組成物の硬化物変性体の製造方法であって、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を熱硬化させる工程と、
前記熱硬化させる工程で得られた硬化物に対して光照射する工程と、
を含み、
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)であり、
【化9】
(式(10)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
前記熱硬化させる工程で、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有する、硬化物とする、シラノール組成物の硬化物変性体の製造方法。
【請求項19】
前記熱硬化工程において25~200℃の温度条件で熱硬化させる、請求項17又は18に記載のシラノール組成物の硬化物変性体の製造方法。
【請求項20】
前記熱硬化工程において10分~48時間熱硬化させる、請求項1719のいずれか一項に記載のシラノール組成物の硬化物変性体の製造方法。
【請求項21】
前記光照射工程で、IRスペクトルにおいて、Si―OH伸縮振動のピーク波数が940以上960cm-1以下であり、且つ、「0.1*a+b」で定義される官能基量(a、bはそれぞれ、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さ、である)が0以上0.05以下である硬化物変性体とする、請求項1720のいずれか一項に記載のシラノール組成物の硬化物変性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物、硬化物変性体及び硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状シラノールは、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する化合物である。このような化合物、このような化合物の脱水縮合物を含む硬化性組成物は、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護、封止、及び接着に使用される。また、環状シラノールは、発光ダイオード素子から発せられる光の波長を変更又は調整することができ、レンズ等の用途に用いられる。
【0003】
近年、構造が精密制御された環状シラノールが報告されている。例えば、非特許文献1には、all-cis体のテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Inorganic Chemistry Vol.49, No.2,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物に対して光を照射させると、硬化物中の水酸基密度(シラノール基密度)を高めることができ、反応性に優れることを見出している。しかしながら、非特許文献1に開示されているall-cis体のテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンを含む硬化性組成物の硬化物に対して光を照射させると、構造変化に伴うクラックが発生するという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、環状シラノール及び該環状シラノールの脱水縮合物を含むシラノール組成物を、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積比((SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)が所定範囲内となるように硬化させると、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物が得られることを見出した。
また、環状シラノール及び該環状シラノールの脱水縮合物を含むシラノール組成物に対し、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有するように硬化させると、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物が得られることを見出した。
また、環状シラノール及び該環状シラノールの脱水縮合物を含むシラノール組成物に対し、硬度を所定範囲内となるように硬化させると、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物が得られることを見出した。
環状シラノール及び該環状シラノールの脱水縮合物を含むシラノール組成物に対し、膜厚が所定範囲内となるように硬化させると、接着性と、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物が得られることを見出した。
さらに、シロキサン結合により形成されたシラノールの脱水縮合物を含む硬化物であって、IRスペクトルにおいて、Si―OH伸縮振動のピーク波数が940以上960cm-1以下であり、且つ、「0.1*a+b」で定義される官能基量(a、bはそれぞれ、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さ、である)が0以上0.05以下である硬化物が、耐クラック性に優れることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0008】
[1]
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
IRスペクトルにおいて、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積比(SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)が、0.01以上である硬化物。
[2]
前記SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比が1.0以下である、上記[1]に記載に硬化物。
[3]
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有する硬化物。
[4]
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
硬度が0.01GPa以上1GPa以下である、硬化物。
[5]
ヤング率が0.1GPa以上である、上記[4]に記載の硬化物。
[6]
ヤング率が30GPa以下である、上記[4]又は[5]に記載の硬化物。
[7]
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
膜厚が0.01μm以上2μm以下である硬化物。
[8]
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、下記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の硬化物。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。)
[9]
前記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)が、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及びその脱水縮合物(A20)である上記[8]に記載の硬化物。
【0011】
【化2】
【0012】
(式(10)中、Rは、前記式(1)中のRと同義である。)
[10]
前記環状シラノール(A10)が、下記式(2)~(5)で表される環状シラノール(B1)~(B4):
【0013】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0014】
(式(2)~(5)中、R1~R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基である。)
を含有し、
前記環状シラノール(B1)~(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとしたとき、0<b≦20を満たす、上記[9]に記載の硬化物。
[11]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A2)の面積が、前記環状シラノール(A1)及び前記脱水縮合物(A2)の総面積に対して、0%超過50%以下である、上記[8]~[10]のいずれかに記載の硬化物。
[12]
前記シラノール組成物中の遷移金属の割合が1質量ppm未満である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の硬化物。
[13]
前記シラノール組成物が溶媒を含む、上記[1]~[12]のいずれかに記載の硬化物。
[14]
接着剤に用いられる、上記[1]~[13]のいずれかに記載の硬化物。
[15]
上記[1]~[14]のいずれかに記載の硬化物を光照射して得られる硬化物変性体。
[16]
前記環状シラノール及びその脱水縮合物が、前記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)であり、
前記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含む、上記[15]記載の硬化物変性体。
[17]
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を、25~200℃の温度条件で熱硬化させる工程を含む、シラノール組成物の硬化方法。
[18]
前記熱硬化工程において10分~48時間熱硬化させる、上記[17]に記載の硬化方法。
[19]
シロキサン結合により形成されたシラノールの脱水縮合物を含む硬化物であって、
IRスペクトルにおいて、Si―OH伸縮振動のピーク波数が940以上960cm-1以下であり、且つ、「0.1*a+b」で定義される官能基量(a、bはそれぞれ、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さ、である)が0以上0.05以下である、硬化物。
[20]
前記Si-OH伸縮振動のピーク波数が940以上950cm-1以下である、上記[19]記載の硬化物。
[21]
前記「0.1*a+b」で定義される官能基量が0以上0.04以下である、上記[19]又は[20]に記載の硬化物。
[22]
ラマンスペクトルにおいて、470以上510cm-1以下にピークを有する、請求項[19]~[21]のいずれか記載の硬化物。
[23]
ラマンスペクトルにおいて、480以上500cm-1以下にピークを有する、上記[19]~[21]のいずれか記載の硬化物。
[24]
硬度が1.5GPa以上である、上記[19]~[23]のいずれか記載の硬化物。
[25]
硬度が2.0GPa以上である、上記[19]~[23]のいずれか記載の硬化物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光照射時の耐クラック性に優れる硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1-1にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例1-7にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図3】実施例2-1にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図4】実施例2-7にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図5】実施例2-1にて得られた硬化物のラマンスペクトルを示す図である。
図6】実施例2-1にて得られた硬化物変性体のラマンスペクトルを示す図である。
図7】実施例3-1にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図8】実施例3-7にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図9】実施例4-1にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図10】実施例4-7にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図11】実施例5-1にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である。
図12】実施例5-7にて得られたシラノール組成物の立体異性体割合を算出する際に用いた1H-NMRスペクトルを示す図である
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態(以下、「本実施形態1」ともいう。)の硬化物は、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
IRスペクトルにおいて、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積の比(SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)が、0.01以上である。
【0019】
(シラノール組成物)
環状シラノール及びその脱水縮合物は、式(1)で表される環状シラノール(A1)及び環状シラノールの脱水縮合物(A2)であることが好ましい。
【0020】
【化7】
【0021】
式(1)中、Rは、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、nは2~10の整数である。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、耐熱分解性の観点から、フェニル基が好ましい。
【0023】
フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、以下の基が挙げられる。
CF3-,
CF3CF2-,
CF3CF2CF2-,
(CF32CF-,
CF3CF2CF2CF2-,
HCF2CF2CF2CF2-,
(CF32CFCF2
上記の中でも、耐熱分解性の観点から、直鎖のフルオロアルキル鎖が好ましい。
【0024】
非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられ、中でも、耐熱分解性の観点から、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0025】
nは2~10の整数であり、好ましくは3~6の整数であり、より好ましくは4~5の整数であり、特に好ましくは4である。
【0026】
本実施形態のシラノール組成物は、ヘイズが10%以下であることが好ましい。シラノール組成物のヘイズが10%以下であることにより、硬化物としたときの透明性が高くなり、接着力に優れる傾向にある。なお、ここでいうヘイズは、シラノール組成物を後述する実施例の方法にて乾燥させて、3μmの膜厚としたときのヘイズをいう。
シラノール組成物におけるヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる遷移金属量を抑える方法等が挙げられる。
シラノール組成物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
シラノール組成物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0027】
本実施形態のシラノール組成物は、式(1)で表される環状シラノールの脱水縮合物(A2)を含むことが好ましい。式(1)で表される環状シラノールの脱水縮合物(A2)とは、式(1)で表される環状シラノールが有するシラノール基の少なくとも一つが、少なくとも一つの式(1)で表される別の環状シラノール分子における少なくとも一つのシラノール基と脱水縮合し、シロキサン結合を生成する反応により得られる化合物である。
【0028】
本実施形態における式(1)で表される環状シラノール(A1)、及び、前記環状シラノールの脱水縮合物(A2)は、下記式(10)で表される環状シラノール(A10)、及び、前記環状シラノールの脱水縮合物(A20)であることがより好ましい。
【0029】
【化8】
【0030】
式(10)中、Rは、前記式(1)中のRと同義である。
【0031】
式(10)で表される環状シラノールの脱水縮合物は、例えば、模式的に以下の式(7)で表すことができる。
【0032】
【化9】
【0033】
式(7)中、Rは、前記式(1)中のRと同義であり、mは、2以上の整数である。環状シラノールにおける脱水縮合するシラノール基は、いずれのシラノール基であってもよい。このとき、式(7)で表される脱水縮合物においては、2分子以上の環状シラノール構造間で2以上のシロキサン結合が形成されていてもよい。
【0034】
式(10)で表される環状シラノールの脱水縮合物としては、具体的には、以下の化合物が挙げられる。ただし、式(10)で表される環状シラノールの脱水縮合物は以下の化合物に限定されるものではない。
なお、以下の化合物における、環状シラノール骨格に対するヒドロキシ基(-OH)及びR基の配向は制限されない。また、以下の化合物におけるRは、各々独立して、式(1)におけるRと同義である。
【0035】
【化10】
【0036】
【化11】
【0037】
【化12】
【0038】
【化13】
【0039】
【化14】
【0040】
式(10)で表される環状シラノールの脱水縮合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定によって算出した分子量が、好ましくは500~1,000,000であり、より好ましくは500~100,000であり、さらに好ましくは500~10,000である。
【0041】
本実施形態のシラノール組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A2)の面積が、前記環状シラノール(A1)及び前記脱水縮合物(A2)の総面積に対して、0%超過50%以下であることが好ましい。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定により求められる各化合物の面積は、シラノール組成物中の各化合物の含有量を表す。(A2)の面積が0%超過50%以下であることにより、シラノール組成物を製造する際に、粘度が高くなり過ぎず、有機溶媒や水を含むシラノール組成物から有機溶媒や水を除去しやすくなる傾向にある。(A2)の面積は、より好ましくは0%超過40%以下であり、さらに好ましくは0%超過25%以下である。
【0042】
脱水縮合物(A2)の面積、すなわち脱水縮合物(A2)の含有量は、例えば、シラノール組成物の製造において、ヒドロシラン化合物を酸化させ環状シラノールを得るとき、酸化反応後の精製により制御することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる(A1)及び(A2)の面積、すなわち、(A1)及び(A2)の含有量の測定は、具体的には実施例に記載の方法によって行うことができる。
【0043】
本実施形態のシラノール組成物は、例えば、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させること等によって調製することができる。ヒドロシラン化合物(例えば、環状構造を有する環状ヒドロシラン化合物)は、水素を含有する四置換テトラシクロシロキサンであればいずれも使用することができ、市販品を使用することができる。
ヒドロシラン化合物は、好ましくは、以下の式(8)で表される四置換テトラシクロシロキサンである。
【0044】
【化15】
【0045】
式(8)中、R1~R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキルである。
ここで、R1~R4の各置換基の具体例は、式(1)中のRで表される各置換基の具体例と同様である。
【0046】
環状ヒドロシラン化合物としては、具体的には、テトラメチルテトラシクロシロキサン等が挙げられる。
一般的に、前記環状ヒドロシラン化合物は、ヒドロキシ又はアルコキシ官能基を有しないが、このような官能基は、酸化反応前に一定量含まれていてもよい。
【0047】
ヒドロシラン化合物を酸化する方法としては、例えば、触媒及び/又は酸化剤を使用する方法等が挙げられる。
触媒としては、例えば、Pd、Pt及びRh等の金属触媒を使用することができる。これらの金属触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの金属触媒は、炭素等の担体に担持されていてもよい。
酸化剤としては、例えば、ペルオキシド類等を使用することができる。ペルオキシド類としては、いずれも使用することができ、例えば、ジメチルジオキシランのようなオキシラン類等が挙げられる。
ヒドロシラン化合物を酸化する方法としては、反応性、及び反応後の触媒除去が容易であるとの観点から、Pd/炭素を用いることが好ましい。
【0048】
水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって調製される環状シラノールは、環状構造であるために、原料のSiH基の水素原子のシス、トランスに由来する種々の異性体を含む。
前記式(8)で表される環状ヒドロシラン化合物は、クロロシランの加水分解や、ポリメチルシロキサンの平衡化重合反応により得られるが、シス、トランスに由来する異性体の割合を制御することは困難であるため、環状ヒドロシラン化合物中には様々なシス、トランスに由来した異性体が混在する。本実施形態における環状ヒドロシラン化合物のシス及びトランスとは、それぞれ、隣接する2つのヒドロキシ基又は隣接する2つのR基が環状シロキサン骨格に対し同じ配向であること(シス)、隣接する2つのヒドロキシ基又は隣接する2つのR基が環状シロキサン骨格に対し異なる配向であること(トランス)を指す。
【0049】
上述の酸化反応により製造した環状シラノールに含まれる異性体としては、以下の式(2)で表されるall-cis型の環状シラノール(B1)が挙げられる。all-cis型の環状シラノール(B1)は、式(2)によって示されるように、すべてのヒドロキシ基及びR1~R4基が、それぞれ環状シロキサン骨格に対し同じ向きで配置する。
【0050】
【化16】
【0051】
式(2)中、R1~R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキルである。
ここで、R1~R4の各置換基の具体例は、式(1)中のRで表される各置換基の具体例と同様である。
【0052】
式(2)で表されるall-cis型の環状シラノール(B1)によって、環状ヒドロシラン化合物から酸化反応により合成した環状シラノールが白濁する傾向にある。この現象は、all-cis型の環状シラノール(B1)が結晶性を有するためであると考えられ、特に、保存中や、-30℃にて冷凍保管した場合に顕著である。結晶性が高い環状シラノールを除去することにより、シラノール組成物中で該シラノールが結晶化して析出することを防ぎ、透明性の高いシラノール組成物が得られ、透明性の高い硬化物も得ることができる。また、結晶性の高い環状シラノールを除去することにより、シラノール組成物の接着力が向上する。
【0053】
透明性の高いシラノール組成物を得る観点から、環状シラノール(B1)の割合を少なく抑えることが好ましい。
環状シラノール(B1)の割合を抑える方法としては、例えば、再結晶操作と結晶の除去とを組み合わせる方法等が挙げられる。
より具体的には、環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に、貧溶媒を添加することにより、環状シラノール(B1)が結晶として析出する。析出した環状シラノール(B1)を除去し、可溶部の溶液を濃縮することにより、シラノール組成物中の環状シラノール(B1)の割合を抑え、透明性の高いシラノール組成物を得ることができる。
【0054】
再結晶操作を行う際、透明性の高いシラノール組成物を得る観点から、冷却温度は10℃未満が好ましい。また、環状シラノールの収量向上の観点から、貧溶媒の量(体積)は、良溶媒の等量以上、20倍以下が好ましい。
【0055】
良溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの良溶媒は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
貧溶媒としては、例えば、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの貧溶媒は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
環状シラノール(B1)の割合は、合成により得られた環状シラノールを1H-NMR測定することより算出することができる。具体的には、1H-NMR測定において、環状シラノール(B1)が有するR1~R4基に含まれる水素は、環状シラノールの他の異性体が有するR1~R4基中の水素に対して、最も高磁場側にて観測される。したがって、これらの水素の積分値から環状シラノール(B1)の割合を算出する。
【0057】
ヒドロシラン化合物の酸化を行う際金属触媒を用いた場合、上述した再結晶操作により、不溶物残渣中に金属触媒中に含まれる遷移金属が残るため、結晶を除去する操作によって、ろ液中の遷移金属の割合を低減することができる。したがって、式(2)で表される環状シラノールを除くための操作によって、金属触媒が残留することに由来するシラノールの着色を低減することも可能となる。
シラノール組成物の光透過性を高くする観点から、遷移金属の割合は、シラノール組成物の全重量に対し、10質量ppm未満であることが好ましく、5質量ppm未満であることがより好ましく、1質量ppm未満であることがさらに好ましい。
遷移金属の割合は、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
遷移金属としては、例えば、パラジウムが挙げられる。
【0058】
また、ヒドロシラン化合物として式(8)で表される四置換テトラシクロシロキサンを原料に用いて酸化させた場合、得られるテトラヒドロキシ四置換テトラシクロシロキサンは、下記式(2)~(5)で表される環状シラノール(B1)~(B4)が混在してよく、好ましくは環状シラノール(B1)~(B4)からなる。
【0059】
【化17】
【0060】
【化18】
【0061】
【化19】
【0062】
【化20】
【0063】
式(2)~(5)中、R1~R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基である。
【0064】
本実施形態における環状シラノール(A1)は、上記式(2)~(5)で表される環状シラノール(B1)~(B4)を含有し、環状シラノール(B1)~(B4)の総量に対する環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとしたとき、0<b≦20を満たすことが好ましい。
【0065】
割合bを0<b≦20とする方法としては、上述したように、例えば、再結晶操作と結晶の除去とを組み合わせる方法等が挙げられる。
ヒドロシラン化合物としてテトラメチルテトラシクロシロキサンを原料に用いて酸化させた場合、得られるテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンの1H-NMRを測定した場合、4種類の異性体の6種類のピークが観測される(ここで、trans-trans-cisについては、3種類のピークが観測される。)。R1~R4基中の水素は、高磁場側から、all-cis(環状シラノール(B1))、trans-trans-cis(環状シラノール(B3))、trans-trans-cis(環状シラノール(B3))、cis-trans-cis(環状シラノール(B2))、all-trans(環状シラノール(B4))、trans-trans-cis(環状シラノール(B3))型の順に観測されるため、かかる水素の積分値から、前記環状シラノール(B1)~(B4)のそれぞれの割合を算出する。
【0066】
式(3)で表される環状シラノール(B2)もまた結晶性を有するため、反応溶液に良溶媒を用いた場合、貧溶媒を添加することにより結晶として析出する。環状シラノール(B2)により、合成した環状シラノール(A1)が白濁する傾向にある。この現象は、cis-trans-cis型の環状シラノール(B2)が結晶性を有するためであると考えられ、特に、保存中や、-30℃にて冷凍保管した場合に顕著である。
【0067】
透明性の高いシラノール組成物を得る観点から、環状シラノール(B2)の割合は、式(1)で表される環状シラノールに対して、好ましくは0%~50%であり、より好ましくは0%~40%であり、さらに好ましくは0~35%であり、よりさらに好ましくは0%以上35%未満である。
【0068】
本実施形態1のシラノール組成物は、上述したように、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって環状シラノールを調製し、当該環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に貧溶媒を添加することによる再結晶、ろ過を経て、ろ過により得られる可溶部の溶液を濃縮することにより、好適に製造される。
本実施形態1のシラノール組成物の製造において、可溶部の溶液の濃縮は任意で行えばよく、可溶部の溶液そのものをシラノール組成物として使用してもよい。また、可溶部の溶液の濃縮では当該溶液に含まれるすべての溶媒を除去する必要はないため、本実施形態のシラノール組成物は、可溶部の溶液に含まれる溶媒の一部を留去して得られる粗濃縮物であってもよい。またさらに、本実施形態のシラノール組成物は、可溶部の溶液を濃縮した後に、溶媒で再希釈したものであってもよい。以上のように、本実施形態1の好ましい態様の一つは、溶媒を含むシラノール組成物である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒の量は、特に制限されないが、シラノール組成物全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。溶媒の量の下限値は特に限定されないが、通常1質量%以上である。
【0069】
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒としては、反応に使用した水及び/又はアルコール、再結晶時に使用した良溶媒及び貧溶媒等が挙げられる。溶媒としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。
【0070】
[硬化物]
本実施形態1の硬化物は、環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、IRスペクトルにおいて、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積比(SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)が、0.01以上である。
本実施形態1の硬化物は、シラノール組成物中の環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(-Si-OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成させることにより得られる。また、本実施形態1の硬化物は、テトラヒドロフラン、トルエン等の溶媒に対して不溶なものである。
【0071】
本実施形態1の硬化物は、硬化物中のシラノール基(-Si-OH)密度及びシロキサン基(-Si-O-Si-)密度の割合が所定範囲内であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる。
【0072】
本実施形態1の硬化物の960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積比(SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比)は、0.01以上であり、好ましくは0.1以上1.0以下であり、より好ましくは0.2以上0.9以下であり、更に好ましくは0.2以上0.8以下であり、特に0.3以上0.7以下である。SiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比が0.01以上であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる。一方で、上限については特に限定されないが、1.0以下であることにより、流動性を無くし、硬化物の形態を十分に維持することができる傾向にある。
【0073】
また、本実施形態1の硬化物は、IRスペクトルにおいて、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積に対する、1220~1320cm-1で観測されるSi-メチル伸縮に由来するピークの面積比(Si-メチル伸縮/Si-O-Si伸縮面積比)が0以上であってもよく、0を超えて1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.1以上0.9以下であり、さらに好ましくは0.2以上0.8以下である。Si-メチル伸縮/SiOSi伸縮面積比が0を超えることにより、硬化物に大きな応力がかかる形態(例えば、ガラス/硬化物/ガラス、ガラス/硬化物/半導体の3層構造)で用いる場合の耐クラック性に優れる傾向にあり、1.0以下であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる傾向にある。
【0074】
硬化物のSiO―H伸縮/Si―O-Si伸縮面積比、及びSi-メチル伸縮/Si-O-Si伸縮面積比は、それぞれ後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0075】
本実施形態1の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。
硬化物のヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
硬化物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0076】
環状シラノールは、触媒非存在下で硬化(脱水縮合)してもよく、触媒を添加して硬化してもよい。
環状シラノールの硬化に使用される触媒は、環状シラノールの加水分解及び縮合反応を促進させる作用をする。触媒としては、酸触媒又はアルカリ触媒を使用することができる。
【0077】
酸触媒としては、特に制限はないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ酸、ホルム酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、マレイン酸、オレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、p-アミノ安息香酸、及びp-トルエンスルホン酸等が好適に挙げられる。
アルカリ触媒としては、特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水及び有機アミン等が好適に挙げられる。また、無機塩基が使用される場合には、金属イオンを含まない絶縁膜を形成するための組成物が使用される。
酸触媒及びアルカリ触媒は、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
触媒の添加量は、反応条件によって調節することができ、環状シラノールの水酸基1モルに対して、好ましくは0.000001~2モルである。添加量が環状シラノールの水酸基1モルに対して2モルを超える場合には、低濃度でも反応速度が非常に速いため分子量の調節が難しく、ゲルが発生しやすい傾向にある。
【0079】
硬化物を得る際に、シラノール組成物を酸触媒及びアルカリ触媒を利用することにより、段階的に加水分解及び縮合反応することができる。具体的には、シラノール組成物を酸で加水分解及び縮合反応を行った後、塩基で再び反応させたり、あるいは、塩基で先に加水分解及び縮合反応を行って、再び酸で反応させたりして、硬化物を得ることができる。また、酸触媒とアルカリ触媒とで各々反応させた後、縮合物を混合してシラノール組成物として使用することもできる。
【0080】
[硬化方法]
本実施形態1の一つは、環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を硬化させる方法である。本実施形態1のシラノール組成物を硬化させる方法としては、例えば、熱硬化することが挙げられる。シラノール組成物を熱硬化させるときの温度(硬化温度)は、特に制限はないが、好ましくは25~200℃であり、より好ましくは50~200℃であり、さらに好ましくは75~180℃であり、特に好ましくは100~150℃である。硬化温度を上記範囲内とすることにより、硬化物中の残留シラノール基の割合を制御することができるため、シラノール基/SiOSi基面積比を所望の値とすることができる。
【0081】
また、熱硬化させる時間は、10分~72時間が好ましく、より好ましくは30分~48時間、さらに好ましくは1~24時間、特に好ましくは1~12時間である。硬化温度を上記範囲内とすることにより、硬化物中の残留シラノール基の割合を一層制御することができるため、シラノール基/SiOSi基面積比を所望の値とすることができる。但し、シラノール基/SiOSi基面積比を所望の値とするためには、硬化温度を上記範囲内とすればよく、必ずしも硬化時間を上記範囲内とする必要はない。
【0082】
シラノール基は、IRにより検出でき、シラノール基/SiOSi基のピーク面積の積分比と光照射時の耐クラック性は相関する。
【0083】
[接着剤]
本実施形態1の硬化物は、接着剤として使用することができる。接着剤としての使用例を以下で説明する。すなわち、まず、本実施形態1のシラノール組成物を基材に塗布することにより、基材上に接着層を形成させる。次に、接着層を硬化させることにより硬化物が形成される。この硬化物が、接着剤に相当する。基材としては、例えば、ガラス、シリコンウエハー、SiO2ウエハー、SiNウエハー、化合物半導体等が挙げられる。
【0084】
[硬化物変性体]
本実施形態1の硬化物変性体は、本実施形態1の硬化物を光照射することにより得られる。これにより、硬化物中に含まれる1価の基(例えば、環状シラノールが、式(1)で表される環状シラノール(A1)である場合には、式(1)で表されるR等)が水酸基へ変換するため、硬化物中の水酸基密度(シラノール基密度)を高めることができる。また、得られる硬化物変性体は、反応性に優れる。ここで、環状シラノールを含む硬化物を光照射させると、クラッキングが発生する傾向にあるが、前述したように、本実施形態の硬化物は、光照射してもクラックを発生しにくい。このため、硬化物変性体は、クラックの発生が抑制され、かつ反応性に優れるという特性を備えている。
【0085】
本実施形態1の硬化物変性体において、環状シラノール及びその脱水縮合物が、上記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)であることが好ましい。この場合、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位(完全変換部位)を含むことが好ましい。硬化物変性体は、その全面(全部)で、水酸基への変換率が100%であることが好ましい。しかしながら、通常の光照射装置を用いて硬化物を光照射しても、各部位によって照射される光の強度が異なるため、全面で水酸基への変換率を100%とすることは困難である。このため、通常、硬化物変性体には、硬化物変性体を前面にわたって光照射しても、水酸基へ変換されている部位と、水酸基へ変換されていない部位とが存在している。
すなわち、本実施形態1の硬化物変性体は、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含むものであり、これにより、熱、光、衝撃に対する安定性の観点から、より良好な材料となる傾向にある。
【0086】
硬化物変性体は、硬化物を光照射することにより得られる。光照射する際の光源としては、レーザー、LED、ランプ等が挙げられる。また、セン特殊光源(株)PL17-110等の市販の装置を用いて、オゾン存在下で光照射を行ってもよい。
【0087】
硬化物に光照射する際の光の波長は10nm以上400nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以上300nm以下である。光照射する際の光の波長が上記範囲内にある場合、ケイ素-メチル基の光分解に起因するクラックの発生を抑制できるため、残留シラノールによる耐クラック性の効果が顕著となる傾向にある。
【0088】
[第2の実施形態]
本実施形態2の硬化物は、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有する。
【0089】
ここで、シラノール組成物に含まれる、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物としては特に限定されないが、例えば、上述した式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその環状シラノールの脱水縮合物(A2)が挙げられる。この場合、本実施形態2の硬化物は、環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(-Si-OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成させることにより得られる。
【0090】
本実施形態2のシラノール組成物は、本実施形態1のシラノール組成物と同様に、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって環状シラノールを調製し、当該環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に貧溶媒を添加することによる再結晶、ろ過を経て、ろ過により得られる可溶部の溶液を濃縮することにより、好適に製造される。
本実施形態2のシラノール組成物の製造において、可溶部の溶液の濃縮は任意で行えばよく、可溶部の溶液そのものをシラノール組成物として使用してもよい。また、可溶部の溶液の濃縮では当該溶液に含まれるすべての溶媒を除去する必要はないため、本実施形態2のシラノール組成物は、可溶部の溶液に含まれる溶媒の一部を留去して得られる粗濃縮物であってもよい。またさらに、本実施形態2のシラノール組成物は、可溶部の溶液を濃縮した後に、溶媒で再希釈したものであってもよい。以上のように、本実施形態2の好ましい態様の一つは、溶媒を含むシラノール組成物である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒の量は、特に制限されないが、シラノール組成物全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。溶媒の量の下限値は特に限定されないが、通常1質量%以上である。
【0091】
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒としては、反応に使用した水及び/又はアルコール、再結晶時に使用した良溶媒及び貧溶媒等が挙げられる。溶媒としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。
【0092】
本実施形態2の硬化物は、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、ラマンスペクトルにおいて、470cm-1以上600cm-1の範囲にピークトップを有する。ここで、470~600cm-1の範囲に存在するピークトップは、シロキサンの特定の環構造に起因する。ラマンスペクトルにおいて、特定の範囲にピークトップを有することにより、耐クラック性に優れる要因は以下のように考えられる。すなわち環状骨格を有する事で、剛性と柔軟性のバランスが取れるため、光照射時に発生する応力に対する機械強度が増すと考えられる。
【0093】
本実施形態2の硬化物は、硬化物のラマンスペクトルにおけるピークトップが所定範囲内であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる。
【0094】
本実施形態2のラマンスペクトルにおけるピークトップが存在する範囲は、470cm-1以上600cm-1であり、470cm-1以上575cm-1以下であってもよく、例えば、470cm-1以上550cm-1以下であってもよく、例えば、480cm-1以上550cm-1以下であってもよく、例えば、480cm-1以上530cm-1以下であってもよい。
【0095】
硬化物のラマンスペクトルは、後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0096】
本実施形態2の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。
硬化物のヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
硬化物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0097】
本実施形態2の硬化物の硬化方法及び硬化触媒等は、上述した本実施形態1と同様の硬化方法及び硬化触媒等を用いることができる。
【0098】
また、本実施形態2の硬化物は、上述した本実施形態1と同様に、接着剤として使用することができる。
【0099】
[硬化物変性体]
本実施形態2の硬化物変性体は、本実施形態2の硬化物を光照射することにより得られる。これにより、硬化物中に含まれる1価の基(例えば、環状シラノールが、式(1)で表される環状シラノール(A1)である場合には、式(1)で表されるR等)が水酸基へ変換するため、硬化物中の水酸基密度(シラノール基密度)を高めることができる。また、得られる硬化物変性体は、反応性に優れる。ここで、環状シラノールを含む硬化物を光照射させると、クラッキングが発生する傾向にあるが、前述したように、本実施形態の硬化物は、光照射してもクラックを発生しにくい。このため、硬化物変性体は、クラックの発生が抑制され、かつ反応性に優れるという特性を備えている。
【0100】
本実施形態2の硬化物変性体において、環状シラノール及びその脱水縮合物が、上記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)であることが好ましい。この場合、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位(完全変換部位)を含むことが好ましい。硬化物変性体は、その全面(全部)で、水酸基への変換率が100%であることが好ましい。しかしながら、通常の光照射装置を用いて硬化物を光照射しても、各部位によって照射される光の強度が異なるため、全面で水酸基への変換率を100%とすることは困難である。このため、通常、硬化物変性体には、硬化物変性体を前面にわたって光照射しても、水酸基へ変換されている部位と、水酸基へ変換されていない部位とが存在している。
すなわち、本実施形態2の硬化物変性体は、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含むものであり、これにより、熱、光、衝撃に対する安定性の観点から、より良好な材料となる傾向にある。
【0101】
硬化物変性体は、硬化物を光照射することにより得られる。光照射する際の光源としては、レーザー、LED、ランプ等が挙げられる。また、セン特殊光源(株)PL17-110等の市販の装置を用いて、オゾン存在下で光照射を行ってもよい。
【0102】
硬化物に光照射する際の光の波長は10nm以上400nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以上300nm以下である。光照射する際の光の波長が上記範囲内にある場合、ケイ素-メチル基の光分解に起因するクラックの発生を抑制できるため、耐クラック性の効果が顕著となる傾向にある。
【0103】
硬化物のシロキサン骨格に由来するラマンスペクトルの波数をXとし、硬化物変性体のシロキサン骨格に由来するラマンスペクトルの波数をYとするとき、|X-Y|は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが更に好ましく、10以下であることが更により好ましく、5以下であることが特に好ましい。|X-Y|が上記の値以下であることにより、光照射をしてもより構造を維持することができるため、耐クラック性に一層優れる傾向にある。
【0104】
[第3の実施形態]
本実施形態3の硬化物は、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
硬度が0.01GPa以上1GPa以下である。
【0105】
ここで、シラノール組成物に含まれる、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物としては特に限定されないが、例えば、上述した式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその環状シラノールの脱水縮合物(A2)が挙げられる。この場合、本実施形態3の硬化物は、環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(-Si-OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成させることにより得られる。
【0106】
本実施形態3のシラノール組成物は、本実施形態1のシラノール組成物と同様に、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって環状シラノールを調製し、当該環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に貧溶媒を添加することによる再結晶、ろ過を経て、ろ過により得られる可溶部の溶液を濃縮することにより、好適に製造される。
本実施形態3のシラノール組成物の製造において、可溶部の溶液の濃縮は任意で行えばよく、可溶部の溶液そのものをシラノール組成物として使用してもよい。また、可溶部の溶液の濃縮では当該溶液に含まれるすべての溶媒を除去する必要はないため、本実施形態3のシラノール組成物は、可溶部の溶液に含まれる溶媒の一部を留去して得られる粗濃縮物であってもよい。またさらに、本実施形態3のシラノール組成物は、可溶部の溶液を濃縮した後に、溶媒で再希釈したものであってもよい。以上のように、本実施形態3の好ましい態様の一つは、溶媒を含むシラノール組成物である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒の量は、特に制限されないが、シラノール組成物全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。溶媒の量の下限値は特に限定されないが、通常1質量%以上である。
【0107】
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒としては、反応に使用した水及び/又はアルコール、再結晶時に使用した良溶媒及び貧溶媒等が挙げられる。溶媒としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。
【0108】
本実施形態3の硬化物は、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、硬度が0.01GPa以上1GPa以下である。
【0109】
本実施形態3の硬化物は、硬化物の硬度が所定範囲内であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる。
【0110】
本実施形態3の硬化物の硬度は、0.01GPa以上1.0GPa以下であり、好ましくは0.03GPa以上0.9GPa以下であり、より好ましくは0.05GPa以上0.8GPa以下であり、更に好ましくは0.1GPa以上0.7GPa以下であり、特に0.1GPa以上0.6GPa以下(好ましくは0.1GPa以上0.5GPa以下であり、より好ましくは0.2GPa以上0.5GPa以下)である。硬度が0.01GPa以上であることにより、硬化物の形態を十分に維持することや、光照射に伴う材料からのガス発生によるクラック発生を低減できる為、光照射時の耐クラック性に優れる。一方で、1.0GPa以下であることにより、硬化後の材料に生じる残留応力を低減する事ができる点で光照射後の耐クラック性に優れる傾向にある。
【0111】
また、本実施形態3の硬化物のヤング率は、好ましくは0.1GPa以上30GPa以下であり、より好ましくは0.3GPa以上26GPa以下であり、更に好ましくは0.5GPa以上25GPa以下であり、特に1GPa以上20GPa以下(好ましくは1GPa以上18GPa以下であり、より好ましくは1GPa以上16GPa以下であり、更に好ましくは1GPa以上14GPa以下であり、特に1GPa以上12GPa以下)である。ヤング率が0.1GPa以上であることにより、硬化物の形態を十分に維持することや、光照射に伴う材料からのガス発生によるクラック発生を低減できる為、光照射時の耐クラック性に優れる傾向にある。一方で、ヤング率が30GPa以下であることにより、硬化後の材料に生じる残留応力を低減する事ができる点で光照射後の耐クラック性に優れる傾向にある
【0112】
硬化物の硬度及びヤング率は、それぞれ、以下の測定条件に準じて測定されたものである。
測定部位:硬化物の表面から20nm以上100nm以下の深さの部分
【0113】
本実施形態3の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。
硬化物のヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
硬化物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0114】
本実施形態3の硬化物の硬化方法及び硬化触媒等は、上述した本実施形態1と同様の硬化方法及び硬化触媒等を用いることができる。
【0115】
また、本実施形態3の硬化物は、上述した本実施形態1と同様に、接着剤として使用することができる。
【0116】
[硬化物変性体]
本実施形態3の硬化物変性体は、本実施形態3の硬化物を光照射することにより得られる。これにより、硬化物中に含まれる1価の基(例えば、環状シラノールが、式(1)で表される環状シラノール(A1)である場合には、式(1)で表されるR等)が水酸基へ変換するため、硬化物中の水酸基密度(シラノール基密度)を高めることができる。また、得られる硬化物変性体は、反応性に優れる。ここで、環状シラノールを含む硬化物を光照射させると、クラッキングが発生する傾向にあるが、前述したように、本実施形態3の硬化物は、光照射してもクラックを発生しにくい。このため、硬化物変性体は、クラックの発生が抑制され、かつ反応性に優れるという特性を備えている。
【0117】
本実施形態3の硬化物変性体において、環状シラノール及びその脱水縮合物が、上記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)であることが好ましい。この場合、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位(完全変換部位)を含むことが好ましい。硬化物変性体は、その全面(全部)で、水酸基への変換率が100%であることが好ましい。しかしながら、通常の光照射装置を用いて硬化物を光照射しても、各部位によって照射される光の強度が異なるため、全面で水酸基への変換率を100%とすることは困難である。このため、通常、硬化物変性体には、硬化物変性体を前面にわたって光照射しても、水酸基へ変換されている部位と、水酸基へ変換されていない部位とが存在している。
すなわち、本実施形態3の硬化物変性体は、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含むものであり、これにより、熱、光、衝撃に対する安定性の観点から、より良好な材料となる傾向にある。
【0118】
硬化物変性体は、硬化物を光照射することにより得られる。光照射する際の光源としては、レーザー、LED、ランプ等が挙げられる。また、セン特殊光源(株)PL17-110等の市販の装置を用いて、オゾン存在下で光照射を行ってもよい。
【0119】
硬化物に光照射する際の光の波長は10nm以上400nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以上300nm以下である。光照射する際の光の波長が上記範囲内にある場合、ケイ素-メチル基の光分解に起因するクラックの発生を抑制できるため、耐クラック性の効果が顕著となる傾向にある。
【0120】
本実施形態3の硬化物変性体の硬度は、好ましくは0.2GPa以上10GPa以下であり、より好ましくは0.2GPa以上9GPa以下であり、更に好ましくは0.2GPa以上8GPa以下であり、更により好ましくは0.3GPa以上7GPa以下であり、特に好ましくは0.5GPa以上6GPa以下である。硬度が0.2GPa以上であることにより、光照射に伴う材料からのガス発生によるクラック発生を低減できる為、光照射時の耐クラック性に優れる傾向にある。一方で、10GPa以下であることにより、硬化後の材料に生じる残留応力を低減する事ができる点で光照射後の耐クラック性に優れる傾向にある。
【0121】
本実施形態3の硬化物変性体のヤング率は、好ましくは1GPa以上100GPa以下であり、より好ましくは1GPa以上90GPa以下であり、更に好ましくは1GPa以上80GPa以下であり、更により好ましくは1GPa以上70GPa以下であり、特に好ましくは1GPa以上60GPa以下である。硬度が1GPa以上であることにより、光照射に伴う材料からのガス発生によるクラック発生を低減できる為、光照射時の耐クラック性に優れる傾向にある。一方で、100GPa以下であることにより、硬化後の材料に生じる残留応力を低減する事ができる点で光照射後の耐クラック性に優れる傾向にある。
【0122】
硬化物変性体の硬度及びヤング率は、それぞれ、硬化物の硬度及びヤング率の測定方法と同様の方法で求められる。
【0123】
光照射による硬化物の硬度変化(光照射後の硬化物変性体の硬度(GPa)/光照射前の硬化物の硬度(GPa))は、1倍以上100倍以下であることが好ましく、1倍以上20倍以下であることがより好ましく、1倍以上10倍以下であることがさらに好ましい。光照射による硬化物の硬度変化が1倍以上であることにより、光照射に伴う材料への内部発生に伴うクラック発生を抑制できる傾向にあり、100倍以下であることにより、光照射に伴う材料からのガス発生によるクラック発生を低減できる傾向にある。ただし、硬化を高温で長時間行った場合、硬度変化が小さくても硬化後の残留応力の影響により、光照射後の耐クラック性が悪化する場合がある。
【0124】
光照射による硬化物のヤング率変化(光照射後の硬化物変性体のヤング率(GPa)/光照射前の硬化物のヤング率(GPa))は、1倍以上100倍以下であることが好ましく、1倍以上50倍以下であることがより好ましく、1倍以上10倍以下であることがさらに好ましい。光照射による硬化物の硬度変化が1倍以上であることにより、光照射に伴う材料からの分解ガス発生によるクラック発生を低減できる傾向にあり、100倍以下であることにより、光照射に伴う材料への内部発生によるクラック発生を抑制できる傾向にある。
【0125】
[第4の実施形態]
本実施形態4の硬化物は、
シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、
膜厚が0.01μm以上2μm以下である。
【0126】
ここで、シラノール組成物に含まれる、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物としては特に限定されないが、例えば、上述した式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその環状シラノールの脱水縮合物(A2)が挙げられる。この場合、本実施形態4の硬化物は、環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(-Si-OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成させることにより得られる。
【0127】
本実施形態4のシラノール組成物は、本実施形態1のシラノール組成物と同様に、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって環状シラノールを調製し、当該環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に貧溶媒を添加することによる再結晶、ろ過を経て、ろ過により得られる可溶部の溶液を濃縮することにより、好適に製造される。
本実施形態4のシラノール組成物の製造において、可溶部の溶液の濃縮は任意で行えばよく、可溶部の溶液そのものをシラノール組成物として使用してもよい。また、可溶部の溶液の濃縮では当該溶液に含まれるすべての溶媒を除去する必要はないため、本実施形態4のシラノール組成物は、可溶部の溶液に含まれる溶媒の一部を留去して得られる粗濃縮物であってもよい。またさらに、本実施形態4のシラノール組成物は、可溶部の溶液を濃縮した後に、溶媒で再希釈したものであってもよい。以上のように、本実施形態4の好ましい態様の一つは、溶媒を含むシラノール組成物である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒の量は、特に制限されないが、シラノール組成物全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。溶媒の量の下限値は特に限定されないが、通常1質量%以上である。
【0128】
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒としては、反応に使用した水及び/又はアルコール、再結晶時に使用した良溶媒及び貧溶媒等が挙げられる。溶媒としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。
【0129】
本実施形態4の硬化物は、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する環状シラノール、及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物の硬化物であって、膜厚が0.01μm以上2μm以下である。
【0130】
本実施形態4の硬化物は、硬化物の膜厚が所定範囲内であることにより、光照射時の耐クラック性に優れる。硬化物が2つの材料間に挟まれる構造を有する場合、耐クラック性の効果はより顕著となる。
【0131】
本実施形態4の膜厚は、0.01μm以上2μm以下であり、好ましくは0.03μm以上2μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上2μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上2μm以下であり、特に好ましくは0.2μm以上2μm以下である。膜厚が0.01μm以上であることにより、優れた接着性を有する接着層を形成する事ができ、2μm以下であることにより、光照射による発生する応力に伴うクラックを低減することができる為、耐クラック性に優れる。
【0132】
膜厚を上記範囲内に制御する方法としては、特に限定されず、シラノール組成物の固形分濃度、シラノール組成物に含まれる溶媒の種類、シラノール組成物の粘度、塗布面積、塗布温度、乾燥温度、乾燥圧力、湿度などを公知の方法により適宜調整する方法が挙げられる。
【0133】
硬化物の膜厚は、後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0134】
本実施形態4の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。
硬化物のヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
硬化物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0135】
本実施形態4の硬化物の硬化方法及び硬化触媒等は、上述した本実施形態1と同様の硬化方法及び硬化触媒等を用いることができる。
【0136】
また、本実施形態4の硬化物は、上述した本実施形態1と同様に、接着剤として使用することができる。
[硬化物変性体]
本実施形態4の硬化物変性体は、本実施形態4の硬化物を光照射することにより得られる。これにより、硬化物中に含まれる1価の基(例えば、環状シラノールが、式(1)で表される環状シラノール(A1)である場合には、式(1)で表されるR等)が水酸基へ変換するため、硬化物中の水酸基密度(シラノール基密度)を高めることができる。また、得られる硬化物変性体は、反応性に優れる。ここで、環状シラノールを含む硬化物を光照射させると、クラッキングが発生する傾向にあるが、前述したように、本実施形態4の硬化物は、光照射してもクラックを発生しにくい。このため、硬化物変性体は、クラックの発生が抑制され、かつ反応性に優れるという特性を備えている。
【0137】
本実施形態4の硬化物変性体において、環状シラノール及びその脱水縮合物が、上記式(1)で表される環状シラノール(A1)及びその脱水縮合物(A2)であることが好ましい。この場合、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位(完全変換部位)を含むことが好ましい。硬化物変性体は、その全面(全部)で、水酸基への変換率が100%であることが好ましい。しかしながら、通常の光照射装置を用いて硬化物を光照射しても、各部位によって照射される光の強度が異なるため、全面で水酸基への変換率を100%とすることは困難である。このため、通常、硬化物変性体には、硬化物変性体を前面にわたって光照射しても、水酸基へ変換されている部位と、水酸基へ変換されていない部位とが存在している。
すなわち、本実施形態4の硬化物変性体は、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含むものであり、これにより、熱、光、衝撃に対する安定性の観点から、より良好な材料となる傾向にある。
【0138】
硬化物変性体は、硬化物を光照射することにより得られる。光照射する際の光源としては、レーザー、LED、ランプ等が挙げられる。また、セン特殊光源(株)PL17-110等の市販の装置を用いて、オゾン存在下で光照射を行ってもよい。
【0139】
硬化物に光照射する際の光の波長は10nm以上400nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以上300nm以下である。光照射する際の光の波長が上記範囲内にある場合、ケイ素-メチル基の光分解に起因するクラックの発生を抑制できるため、耐クラック性の効果が顕著となる傾向にある。
【0140】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態(以下、「本実施形態5」ともいう。)の硬化物は、
シロキサン結合により形成されたシラノールの脱水縮合物を含む硬化物であって、
IRスペクトルにおいて、Si―OH伸縮振動のピーク波数が940以上960cm-1以下であり、且つ、「0.1*a+b」で定義される官能基量(a、bはそれぞれ、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さ、である)が0以上0.05以下である。
ここで、「0.1*a+b」は、aの値の1/10の数値とbの値の和を意味する
【0141】
ここで、シロキサン結合により形成されたシラノールの脱水縮合物としては特に限定されないが、例えば、上述した式(1)で表される環状シラノールの脱水縮合物が挙げられる。この場合、本実施形態5の硬化物は、環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(-Si-OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成させることにより得られる。
【0142】
本実施形態5の硬化物は、IRスペクトルにおいて、Si―OH伸縮振動のピーク波数が940以上960cm-1以下であり、且つ、「0.1*a+b」で定義される官能基量(a、bはそれぞれ、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さ、である)が0以上0.05以下である。本実施形態5の硬化物は、上記特徴を有することにより、光照射時の耐クラック性に優れるという効果を奏する。
【0143】
Si―OH伸縮振動のピーク波数は、940以上960cm-1以下で観測され、光照射時の耐クラック性がさらに向上する傾向にあるため、940以上950cm-1以下で観測されることが好ましい。
【0144】
0.1*a+bで定義される官能基量は、0以上0.05以下であり、好ましくは0以上0.04以下である。0.1*a+bで定義される官能基量が0.05を超えると、光照射時の耐クラック性が低下する。
【0145】
本実施形態5の硬化物は、ラマンスペクトルにおいて、470以上510cm-1以下にピークを有することが好ましく、480以上500cm-1にピークを有することがより好ましい。ラマンスペクトルにおいて、470以上510cm-1以下にピークを有する場合、光照射に伴う構造変化が少なく耐クラック性に優れる傾向にある。
【0146】
本実施形態5の硬化物は、硬度が1.5GPa以上であることが好ましく、2.0GPa以上であることがより好ましい。硬化物の硬度が1.5GPa未満である場合、光照射時の耐クラック性が低下する傾向にある。
【0147】
本実施形態5の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0148】
硬化物の、Si―OH伸縮振動のピーク波数、「0.1*a+b」で定義される官能基量、ラマンスペクトルのピーク、硬度、及びヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0149】
本実施形態5の硬化物の硬化方法及び硬化触媒等は、上述した本実施形態1と同様の硬化方法及び硬化触媒等を用いることができる。
【0150】
また、本実施形態5の硬化物は、上述した本実施形態1と同様に、接着剤として使用することができる。
【0151】
本実施形態5の硬化物には、光照射した後の硬化物変性体も含まれる。ここで、光照射の方法や光源等については、上述した本実施形態1と同様の方法及び光源等を用いることができる。ここで、硬化物中に含まれるシロキサン結合により形成されたシラノールの脱水縮合物が上述した式(1)で表される環状シラノールの脱水縮合物である場合、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位(完全変換部位)を含むことが好ましい。本実施形態2の硬化物は、上記式(1)中、Rで表される基の水酸基への変換率が100%である部位を含む場合、熱、光、衝撃に対する安定性の観点から、より良好な材料となる傾向にある。
【実施例
【0152】
本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
本発明及び以下の実施例、比較例により得られるシラノール組成物及びその硬化物、硬化物変性体の物性の測定方法および評価方法は以下のとおりである。
【0153】
(重量パーセント濃度の算出)
溶液中の環状シラノール及びその重合体(脱水縮合物)の重量パーセント濃度は、日本電子株式会社製ECZ400Sを用い、プローブはTFHプローブを用いて、以下のようにしてNMR測定を行うことにより求めた。
例えば、テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその重合体のイソプロパノール溶液の場合は、テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその重合体のイソプロパノール溶液0.1gに重アセトン1gを添加したサンプルを用いて、1H-NMRを測定した。なお、重溶媒の基準ピークを2.05ppmとし、積算回数は64回で測定を行った。
テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその重合体の重量パーセント濃度は近似的に下記式により算出できる。
テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその重合体の重量パーセント濃度=(-0.1-0.3ppmの領域のSiに結合するメチル基のピーク積分比/12×304.51)/{(-0.1-0.3ppmの領域のSiに結合するメチル基のピーク積分比/12×304.51)+(3.7-4.1ppmの領域のイソプロパノールの炭素に結合する水素のピーク積分値/1×60.1)}
なお、前記式中、304.51はテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンの分子量、60.1はイソプロパノールの分子量を示す。
【0154】
(ヘイズの測定)
ヘイズは濁度計NDH5000W(日本電色工業製)を用い、JISK7136に基づき測定を行った。以下に具体的操作を示す。
シラノール組成物のヘイズは、素ガラス基板5cm×5cm×0.7mm厚(テクノプリント社製)にシラノール組成物42wt%イソプロパノール溶液をバーコーターNo.40(アズワン製)にて塗布後、60℃1時間にて減圧下で乾燥し、ヘイズを測定した。なお、ヘイズ測定のブランクは素ガラス基板5cm×5cm×0.7mm厚(テクノプリント社製)のみを用いた。
硬化物のヘイズはシラノール組成物のヘイズ測定で作製したサンプルを常圧にて所定時間加熱することにより得られたサンプルを用いて測定した。
【0155】
(IRスペクトル測定)
パーキンエルマージャパン製(型式Spectrum400,Spotlight400)を用いて、試料のATR-IRを測定した。得られたIRスペクトルに対して、計算ソフトIgorProを用い、960~1220cm-1で観測されるSi―O-Si伸縮に由来するピークの面積、2600~3800cm-1で観測されるSiO―H伸縮に由来するピークの面積、1220~1320cm-1で観測されるSi-メチル伸縮に由来するピーク面積を求めた。ただし、2900cm-1のCH結合由来のピークはSiO―H伸縮に由来するピークの面積には含めなかった。
また、パーキンエルマージャパン製(型式Spectrum400,Spotlight400)を用いて、試料のATR-IRを測定した。得られたIRスペクトルに対して、パーキンエルマージャパン製解析用ソフトSpectrumを用い、1030±40cm-1のSi-O-Si伸縮振動のピーク高さを1と規定した場合の、a=920±50cm-1に観測されるSi-OH伸縮振動のピーク高さ、b=1270±10cm-1に観測されるSi-メチル伸縮振動のピーク高さを求め、これらの値から、「0.1*a+b」で定義される官能基量を算出した。
【0156】
(レーザーラマン測定)
ラマンスペクトル測定での下地の影響を無くすために、ガラス基板の代わりに窒化アルミ基板を用いたこと以外はヘイズ測定用サンプル作成と同様の操作で硬化物を作製し、ラマンスペクトル測定用サンプルを得た。
ナノフォトン株式会社のレーザーラマン顕微鏡(型式:RAMANtouch)を用いて、532nmでのラマンスペクトルを測定した。
【0157】
(硬度及びヤング率の測定)
硬度及びヤング率は、ハイジトロン社製トライボインデンターを用いて測定した。下地の影響を極力避けるため、表面から30nm以上60nm以下の深さでの硬度(GPa)及びヤング率(GPa)の値を読み取った。

測定部位:表面から30nm以上60nm以下の深さの部分
最大荷重保持時間:2秒
除荷時間:5.625秒
【0158】
(膜厚の測定)
膜厚はヘイズの測定用に作製したサンプルを表面形状測定機計(製造所名:(株)小坂研究所型式:ET4000AK31製)にて測定し、膜厚を算出した
【0159】
(接着力の確認)
シラノール組成物のヘイズ測定で作製したサンプルの上に、T-3000-FC3マニュアルダイボンダー(TRESKY製)を用いて直径2ミリの半球石英レンズを荷重400g3秒で乗せた。その後、常圧下、100℃2時間加熱した後に、得られた半球レンズが載ったガラスを横から押し、接着の有無を確認した。
【0160】
(環状シラノール(A1)及び脱水縮合物(A2)のGPCによる面積比の測定)
シラノール組成物0.03gに対して、1.5mLの割合でテトラヒドロフランに溶解した溶液を測定試料とした。
この測定試料を用いて、東ソー社製HLC-8220GPCで測定した。
カラムは東ソー社製のTSKガードカラムSuperH-H、TSKgel SuperHM-H、TSKgel SuperHM-H、TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH1000を直列に連結して使用し、テトラヒドロフランを移動相として0.35ml/分の速度で分析した。
検出器はRIディテクターを使用し、American Polymer Standards Corporation製ポリメタクリル酸メチル標準試料(分子量:2100000、322000、87800、20850、2000、670000、130000、46300、11800、860)、及び1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(分子量240.5、東京化成製)を標準物質として、数平均分子量及び重量平均分子量を求め、p=0及び、p≧1のピークを特定し、環状シラノール(A1)及び脱水縮合物(A2)それぞれのピークの面積比を算出した。
【0161】
(遷移金属(Pd)の含有量)
シラノール組成物にフッ硝酸を加えて密閉加圧酸分解後、試料をテフロン(登録商標)ビーカーに移し、加熱乾固させた。その後、試料に王水を加え、完全溶解した溶解液を20mLに定容し、ICP質量分析装置(Themo Fisher Scientifi社製 iCAP Qc)による試料中の金属割合の定量分析を行った。
【0162】
1H-NMR測定を用いた環状シラノールの立体異性体割合の算出)
日本電子株式会社製ECZ400Sを用い、プローブはTFHプローブを用いて、以下のようにしてNMR測定を行った。
得られたシラノール組成物に生成物0.1g、及び重アセトン1gを添加し、1H-NMRを測定した。なお、重溶媒の基準ピークを2.05ppmとし、積算回数は64回で測定を行った。
ヒドロシラン化合物としてテトラメチルテトラシクロシロキサンを原料に用いて酸化させた場合、得られるテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンの1H-NMRでは、0.04-0.95ppmの領域に4種類の異性体に由来する6種類のSiに結合するメチル基のピークが観測された。
メチル基の水素は、高磁場側から、all-cis型(0.057ppm)、trans-trans-cis型(0.064ppm)、trans-trans-cis型(0.067ppm)、cis-trans-cis型(0.074ppm)、all-trans型(0.080ppm)、trans-trans-cis型(0.087ppm)の順に観測された。Delta5.2.1(日本電子製)を用いて前記6つのピークに関してローレンツ変換による波形分離を行い、これらの水素のピーク強度から、環状シラノールのそれぞれの立体異性体割合を算出した。
【0163】
(各立体異性体の調製)
・all-cis体(環状シラノール(B1))
Inorganic Chemistry Vol.49, No.2,2010の合成例に従って合成した。
・cis-trans-cis体(環状シラノール(B2))
実施例1にて得られた再結晶物を用いた。
・all-trans体(環状シラノール(B4))
実施例1にて作製したシラノール10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液をさらに濃縮し、シラノール20wt%となるまで濃縮した溶液を用いて、液体クロマトグラフィーを用いて立体異性体の分取を行った。
<液体クロマトグラフィーの条件>
装置 GLサイエンス製液体クロマトグラフィー
ポンプ :PU715
カラムオーブン :CO705
フラクションコレクラー :FC204YMC-PackSIL-06 φ30mm×250mm
溶離液 :Cyclohexane/EtoAc =60/40
流速 :40mL/min
注入量 :5mL
温度 :40℃
検出 :得られたフラクションをELSD測定にて評価し、検出した。
得られたall-trans体の溶離液を静置することでall-trans体の結晶が得られたため、濾別により回収した。
・trans-trans-cis体(環状シラノール(B3))
all-trans体と同様の方法にて得られた溶離液を濃縮後イソプロパノールに置換することで得た。
【0164】
[本実施形態1の実施例]
[実施例1-1]
(シラノール組成物の調製)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H-NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1wt%濃度の重アセトン溶液で1H-NMRを測定し、4~5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7-テトラヒドロキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮し、テトラヒドロフラン217mLとジクロロメタン4.4Lとの混合溶媒中へ投じた。混合液を5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定の濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H-NMRにより算出した。図11H-NMRスペクトルを示す。
【0165】
(硬化物の調製)
上記で得られたシラノール組成物を100℃で2時間、熱硬化させて硬化物を得た。
【0166】
(硬化物変性体の調製)
さらに、硬化物に対して、セン特殊光源製UVCオゾン処理装置の光源に密着した状態で光照射を行うことにより硬化物変性体を得た。硬化物変性体を10個作製したうち、クラックが発生しなかったものの数をカウントした。また、硬化物及び硬化物変性体のIRを測定し、SiO-H伸縮/Si-O-Si伸縮面積比、Si-メチル伸縮/Si-O-Si伸縮面積比を求めた。ATR-IRにより分析した結果、得られた硬化物変性体は、光照射によるメチル基から水酸基への変換率が100%である部位を含んでいた。また、その部位は、光源の直下の位置で照射強度が最も高いと考えられる場所であった。
【0167】
[実施例1-2]
実施例1-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を43%としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0168】
[実施例1-3]
実施例1-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を56%としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0169】
[実施例1-4]
実施例1-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体体比率を31%としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0170】
[実施例1-5]
実施例1-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を41%としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0171】
[実施例1-6]
実施例1-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans-trans-cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans-trans-cis体比率を66%としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0172】
[実施例1-7]
実施例1-1の再結晶温度を-40℃としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。図21H-NMRスペクトルを示す。
【0173】
[実施例1-8]
実施例1-1の熱硬化の温度を120℃としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0174】
[実施例1-9]
実施例1-1の熱硬化の温度を150℃としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0175】
[実施例1-10]
実施例1-1の熱硬化の温度を180℃としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0176】
[実施例1-11]
実施例1-1の熱硬化の温度を210℃とし、硬化時間を24時間としたこと以外は、実施例1-1と同様の実験を行った。
【0177】
[比較例1-1]
JCR6122(ダウコーニング製)を用いて150℃で2時間加熱することにより得た硬化物を用いて実施例1-1と同様の実験を行った。
【0178】
[比較例1-2]
メチルトリメトキシシラン(東京化成)、酢酸、水、エタノールを混合後、室温で24時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たメチルシロキサン硬化物を用いて実施例1-1と同様の実験を行った。
【0179】
[比較例1-3]
メチルトリメトキシシラン(東京化成)、ジメチルジメトキシシラン(東京化成)、酢酸水、エタノールを混合後、室温で24時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たジメチルシリコーン及びメチルシロキサン硬化物を用いて実施例1-1と同様の実験を行った。
【0180】
[比較例1-4]
テトラエトキシシラン(東京化成)、酢酸水、エタノールを混合後、室温で1時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たテトラエトキシシラン硬化物を用いて実施例1-1と同様の実験を行った。
【0181】
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
【表2】
【0184】
[本実施形態2の実施例]
[実施例2-1]
(シラノール組成物の調製)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H-NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1wt%濃度の重アセトン溶液で1H-NMRを測定し、4~5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7-テトラヒドロキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮し、テトラヒドロフラン217mLとジクロロメタン4.4Lとの混合溶媒中へ投じた。混合液を5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定の濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H-NMRにより算出した。図31H-NMRスペクトルを示す。
【0185】
(硬化物の調製)
上記で得られたシラノール組成物を100℃で2時間、熱硬化させて硬化物を得た。
【0186】
(硬化物変性体の調製)
さらに、硬化物に対して、セン特殊光源製UVCオゾン処理装置の光源に密着した状態で光照射を行うことにより硬化物変性体を得た。光照射1000時間後の耐クラック性を目視で評価し、クラックが発生しなかったものは〇、発生したものは×とした。
【0187】
また、硬化物及び硬化物変性体のラマンスペクトルを、レーザーラマン顕微鏡を用いて測定した。硬化物のラマンスペクトルを図5に、硬化物変性体のラマンスペクトルを図6に示す。
さらに、2800~3000cm-1の範囲のピークトップを観察することにより、メチル基の有無を確認した。ATR-IRにより分析した結果、得られた硬化物変性体は、光照射によるメチル基から水酸基への変換率が100%である部位を含んでいた。また、その部位は、光源の直下の位置で照射強度が最も高いと考えられる場所であった。
【0188】
[実施例2-2]
実施例2-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を43%としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0189】
[実施例2-3]
実施例2-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を56%としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0190】
[実施例2-4]
実施例2-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体体比率を31%としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0191】
[実施例2-5]
実施例2-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を41%としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0192】
[実施例2-6]
実施例2-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans-trans-cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans-trans-cis体比率を66%としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0193】
[実施例2-7]
実施例2-1の再結晶温度を-40℃としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。図41H-NMRスペクトルを示す。
【0194】
[実施例2-8]
実施例2-1の硬化温度を120℃としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0195】
[実施例2-9]
実施例2-1の硬化温度を150℃としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0196】
[実施例2-10]
実施例2-1の硬化温度を180℃としたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0197】
[比較例2-1]
メチルトリメトキシシラン(東京化成)、酢酸、水、エタノールを混合後、室温で24時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たメチルシロキサン硬化物を用いたこと以外は、実施例2-1と同様の実験を行った。
【0198】
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表3及び表4に示す。
【0199】
【表3】
【0200】
【表4】
【0201】
[本実施形態3の実施例]
[実施例3-1]
(シラノール組成物の調製)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H-NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1質量%濃度の重アセトン溶液で1H-NMRを測定し、4~5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7-テトラヒドロキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮し、テトラヒドロフラン217mLとジクロロメタン4.4Lとの混合溶媒中へ投じた。混合液を5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10質量%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10質量%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定の濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H-NMRにより算出した。図71H-NMRスペクトルを示す。
【0202】
(硬化物の調製)
上記で得られたシラノール組成物を100℃で2時間、熱硬化させて硬化物を得た。
【0203】
(硬化物変性体の調製)
さらに、硬化物に対して、セン特殊光源製UVCオゾン処理装置の光源に密着した状態で光照射を行うことにより硬化物変性体を得た。光照射1000時間後の耐クラック性を光学顕微鏡で評価し、クラックが発生しなかったものは〇、発生したものは×とした。
また、硬化物及び硬化物変性体の硬度及びヤング率を、ナノインデンターを用いて測定した。さらに、ATR-IRにより分析した結果、得られた硬化物変性体は、光照射によるメチル基から水酸基への変換率が100%である部位を含んでいた。また、その部位は、光源の直下の位置で照射強度が最も高いと考えられる場所であった。
【0204】
[実施例3-2]
実施例3-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を43%としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0205】
[実施例3-3]
実施例3-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を56%としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0206】
[実施例3-4]
実施例3-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体体比率を31%としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0207】
[実施例3-5]
実施例3-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を41%としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0208】
[実施例3-6]
実施例3-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans-trans-cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans-trans-cis体比率を66%としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0209】
[実施例3-7]
実施例3-1の再結晶温度を-40℃としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。図81H-NMRスペクトルを示す。
【0210】
[実施例3-8]
実施例3-1の熱硬化の温度を120℃としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0211】
[実施例3-9]
実施例3-1の熱硬化の温度を150℃としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0212】
[実施例3-10]
実施例3-1の熱硬化の温度を180℃としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0213】
[比較例3-1]
シラノール組成物の代わりにジメチルシリコーン樹脂(東レダウコーニング社製 JCR6122)を用い、硬化温度を150度で2時間としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0214】
[比較例3-2]
実施例3-1の熱硬化の温度を210℃とし、硬化時間を24時間としたこと以外は、実施例3-1と同様の実験を行った。
【0215】
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表5及び表6に示す。
【0216】
【表5】
【0217】
【表6】
【0218】
[本実施形態4の実施例]
[実施例4-1]
(シラノール組成物の調製)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H-NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1wt%濃度の重アセトン溶液で1H-NMRを測定し、4~5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7-テトラヒドロキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮し、テトラヒドロフラン217mLとジクロロメタン4.4Lとの混合溶媒中へ投じた。混合液を5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定の濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H-NMRにより算出した。図91H-NMRスペクトルを示す。
【0219】
(硬化物の調製)
上記で得られたシラノール組成物を、0.8mm角の窒化アルミ板にディスペンサーを用いて塗布し、直径2mmの半球型石英レンズを押圧400g3秒間で押し、100℃で2時間熱硬化させることにより、膜厚が1μmの硬化物が窒化アルミ板と半球型石英レンズに挟まれた光照射用サンプルを作製した。
【0220】
(硬化物変性体の調製)
さらに、光照射用サンプルに対して、セン特殊光源製UVCオゾン処理装置の光源に密着した状態で光照射を行うことにより硬化物変性体を得た。光照射1000時間後の耐クラック性を目視で評価し、クラックが発生しなかったものは〇、発生したものは×とした。
【0221】
ATR-IRにより分析した結果、得られた硬化物変性体は、光照射によるメチル基から水酸基への変換率が100%である部位を含んでいた。また、その部位は、光源の直下の位置で照射強度が最も高いと考えられる場所であった。
【0222】
[実施例4-2]
実施例4-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を43%としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0223】
[実施例4-3]
実施例4-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を56%としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0224】
[実施例4-4]
実施例4-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を31%としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0225】
[実施例4-5]
実施例4-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を41%としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0226】
[実施例4-6]
実施例4-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans-trans-cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans-trans-cis体比率を66%としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0227】
[実施例4-7]
実施例4-1の再結晶温度を-40℃としたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。図101H-NMRスペクトルを示す。
【0228】
[実施例4-8]
実施例4-1の硬化物膜厚を0.5μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0229】
[実施例4-9]
実施例4-1の硬化物膜厚を0.2μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0230】
[実施例4-10]
実施例4-1の硬化物膜厚を0.1μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0231】
[実施例4-11]
実施例4-1の硬化物膜厚を2μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0232】
[比較例4-1]
実施例4-1の硬化物膜厚を3μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0233】
[比較例4-2]
実施例4-1の硬化物膜厚を10μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様の実験を行った。
【0234】
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表7及び表8に示す。
【0235】
【表7】
【0236】
【表8】
【0237】
[本実施形態5の実施例]
[実施例5-1]
(シラノール組成物の調製)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H-NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1wt%濃度の重アセトン溶液で1H-NMRを測定し、4~5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7-テトラヒドロキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮し、テトラヒドロフラン217mLとジクロロメタン4.4Lとの混合溶媒中へ投じた。混合液を5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定の濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H-NMRにより算出した。図111H-NMRスペクトルを示す。
【0238】
(硬化物の調製)
上記で得られたシラノール組成物を100℃で2時間、熱硬化させて硬化物を得た。
【0239】
(硬化物変性体の調製)
さらに、硬化物に対して、セン特殊光源製UVCオゾン処理装置の光源に密着した状態で光照射を行うことにより硬化物変性体を得た。硬化物変性体を10個作製したうち、クラックが発生しなかったものの数をカウントした。また、硬化物及び硬化物変性体のIRを測定し、SiO-H伸縮/Si-O-Si伸縮面積比、Si-メチル伸縮/Si-O-Si伸縮面積比、Si-OH伸縮振動のピーク波数、Si-OH伸縮振動のピーク高さa、Si-メチル伸縮振動のピーク高さbを求めた。ATR-IRにより分析した結果、得られた硬化物変性体は、光照射によるメチル基から水酸基への変換率が100%である部位を含んでいた。また、その部位は、光源の直下の位置で照射強度が最も高いと考えられる場所であった。
【0240】
[実施例5-2]
実施例5-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を43%としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0241】
[実施例5-3]
実施例5-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-trans体(環状シラノール(B4))を加え、all-trans体比率を56%としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0242】
[実施例5-4]
実施例5-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体体比率を31%としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0243】
[実施例5-5]
実施例5-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したall-cis体(環状シラノール(B1))を加え、all-cis体比率を41%としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0244】
[実施例5-6]
実施例5-1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans-trans-cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans-trans-cis体比率を66%としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0245】
[実施例5-7]
実施例5-1の再結晶温度を-40℃としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。図121H-NMRスペクトルを示す。
【0246】
[実施例5-8]
実施例5-1の熱硬化の温度を120℃としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0247】
[実施例5-9]
実施例5-1の熱硬化の温度を150℃としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0248】
[実施例5-10]
実施例5-1の熱硬化の温度を180℃としたこと以外は、実施例5-1と同様の実験を行った。
【0249】
[比較例5-1]
JCR6122(ダウコーニング製)を用いて150℃で2時間加熱することにより得た硬化物を用いて実施例5-1と同様の実験を行った。
【0250】
[比較例5-2]
メチルトリメトキシシラン(東京化成)、酢酸、水、エタノールを混合後、室温で24時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たメチルシロキサン硬化物を用いて実施例5-1と同様の実験を行った。
【0251】
[比較例5-3]
メチルトリメトキシシラン(東京化成)、ジメチルジメトキシシラン(東京化成)、酢酸水、エタノールを混合後、室温で24時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たジメチルシリコーン及びメチルシロキサン硬化物を用いて実施例5-1と同様の実験を行った。
【0252】
[比較例5-4]
テトラエトキシシラン(東京化成)、酢酸水、エタノールを混合後、室温で1時間攪拌した溶液を、180℃で2時間加熱することにより得たテトラエトキシシラン硬化物を用いて実施例5-1と同様の実験を行った。
【0253】
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表9及び表10に示す。
【0254】
【表9】
【0255】
【表10】
【0256】
本出願は、2019年2月20日出願の日本特許出願(特願2019-28764号、特願2019-28667号、特願2019-28719号、特願2019-28637号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明のシラノール組成物を硬化して得られる硬化物は、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護、封止、及び接着や、発光ダイオード素子から発せられる光の波長の変更又は調整、並びに、レンズ等の分野において産業上の利用可能性を有する。さらに、本発明の硬化物は、レンズ材料、光学デバイス、光学部品用材料、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子デバイス、電子部品用絶縁材料、コーティング材料等の分野において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
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図5
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図8
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図11
図12