(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ペースメーカデバイス
(51)【国際特許分類】
A61N 1/365 20060101AFI20240819BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A61N1/365
A61B5/00 102A
(21)【出願番号】P 2022515669
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 GB2020052149
(87)【国際公開番号】W WO2021048530
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-01
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】522092000
【氏名又は名称】セリックス メディカル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CERYX MEDICAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ノガレ アラン
(72)【発明者】
【氏名】パトン ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】カーゾンス ポール
(72)【発明者】
【氏名】チョーハン アショク シンハ
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508299(JP,A)
【文献】特表2010-531164(JP,A)
【文献】ERIN L O'CALLAGHAN; ET AL,UTILITY OF A NOVEL BIOFEEDBACK DEVICE FOR WITHIN-BREATH MODULATION OF HEART RATE IN RATS: 以下備考,FRONTIERS IN PHYSIOLOGY,2016年02月04日,VOL:7,PAGE(S):27(1-13),http://dx.doi.org/10.3389/fphys.2016.00027,A QUANTITATIVE COMPARISON OF VAGUS NERVE VS. RIGHT ATRIAL PACING
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/365
A61N 1/36
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸信号によって時間的に変調された電気刺激信号のタイミングを判定するための装置であって、
呼吸を示す第1の入力信号を受信するように構成された第1の入力ステージと、前記第1の入力信号から
現時点の呼吸デューティサイクルを示す信号を判定するように構成された呼吸分析モジュールと、
呼吸周期と
前記電気刺激信号間の
周期の整数比との間の同期に対する偏向を維持するために、呼吸デューティサイクルを示す前記信号の関数として前記
電気刺激信号の前記タイミングを生成するように構成された同期モジュールと、を備える、装置。
【請求項2】
前記呼吸デューティサイクルは吸気相と、呼気相と、を有し、
前記同期モジュールは、前記吸気相と呼気相との間の差動刺激信号率を判定するパラメータ(RSA=(f
insp-f
exp)/f
exp)を設定
する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
単一の吸気相または単一の呼気相内の
前記電気刺激信号間の前記周期の各々が、同じ
持続時間を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記呼吸周期と
前記電気刺激信号間の前記周期の整数
比との間の同期に対する偏向を維持することが、前記吸気相または呼気相における
前記電気刺激信号間の周期を設定することを含む、
請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記同期モジュールが、前記呼吸周期の前記吸気相または呼気相と、
前記電気刺激信号間の前記周期の整数
比との間の同期に対する偏向を維持するように構成されている、
請求項2~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記電気刺激信号間の異なる整数の周期が、前記吸気相と前記呼気相とで提供される、
請求項2~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記同期モジュールが、非線形関数に従って前記
電気刺激信号の前記タイミングを変調する、
請求項2~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記同期モジュールが神経発振器を備える、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
前記同期モジュールが単一の神経発振器を備える、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
前記装置が、心臓の基本周波数を示す第2の入力と、呼吸デューティサイクルを示す前記信号と、を受信するように構成された非線形発振器をさらに含み、前記非線形発振器が、呼吸デューティサイクルを示す前記信号に同期
し、前記心臓の前記基本周波数は、固定された心拍数を提供するように設定された電流刺激、または呼吸数に応じて変化する心拍数を提供するように設定された電流刺激によって決定される、請求項
7~
9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記
電気刺激信号の前記タイミングを生成することが、心臓の基本周波数を変調することを含
み、前記心臓の前記基本周波数は、固定された心拍数を提供するように設定された電流刺激、または呼吸数に応じて変化する心拍数を提供するように設定された電流刺激によって決定される、
請求項2~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記呼吸分析モジュールと前記同期モジュールとを提供するアナログ電子信号処理チェーンを備える、
請求項2~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
i)前記
電気刺激信号の前記タイミングに基づいて、またはii)前記第1の入力信号における
前記電気刺激信号の干渉の検出に基づいて、呼吸を示す前記第1の入力信号にブランキング周期を提供するように構成されたブランキングモジュールを備える、
請求項2~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記
呼吸分析モジュールが前記同期モジュールに光学的に結合されている、
請求項2~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
呼吸を示す前記第1の入力信号が、dEMG信号であり、前記呼吸分析モジュールが、前記第1の入力信号を増幅するように構成された増幅器を備え、前記同期モジュールが、前記増幅器から電気的に絶縁されている、請求項
14に記載の装置。
【請求項16】
システムであって、
請求項1に記載の装置を備える心臓ペースメーカデバイスと、
前記心臓ペースメーカデバイスの前記第1の入力ステージに結合された1つ以上のセンサと、
前記心臓ペースメーカデバイスに結合され、前記心臓ペースメーカデバイスによって判定された前記タイミング
を示す情報に基づいて、前記心臓ペースメーカデバイスから周期的な
前記電気刺激信号を受信するように配置されたペーシング電極と、を備える、システム。
【請求項17】
呼吸信号によって時間的に変調された周期的な電気刺激信号のタイミングを判定するための方法をプロセッサに実行させるように構成されたコンピュータプログラムコードを備える非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記方法が、
呼吸を示す第1の入力信号を受信することと、
前記第1の入力信号から、
現時点の呼吸デューティサイクルを示す信号を判定することと、
呼吸周期と
前記電気刺激信号間の
周期の整数比との間の同期に対する偏向を維持するために、呼吸デューティサイクルを示す前記信号の関数として前記
電気刺激信号の前記タイミングを生成することと、を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓ペースメーカデバイスの分野、および、限定的ではないが、具体的には、呼吸性洞性不整脈を提供するように構成された心臓ペースメーカデバイスに関する。
【0002】
心臓ペースメーカデバイスは、心房活動を刺激するための通常の生物学的システムが機能していない被験者の心房活動を刺激するために使用され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第1の態様によれば、呼吸信号によって時間的に変調された電気刺激信号のタイミングを判定するための装置が提供され、装置は、
呼吸を示す第1の入力信号を受信するように構成された第1の入力ステージと、
第1の入力信号から、瞬間的な呼吸デューティサイクルを示す信号を判定するように構成された呼吸分析モジュールと、
呼吸周期と刺激信号周期とも称され得る刺激信号間の周期の整数比または整数倍との間の同期に対する偏向を維持するために、呼吸デューティサイクルを示す信号の関数として刺激信号のタイミングを生成するように構成された同期モジュールと、を備える。
【0004】
電気刺激信号は、周期性の電気刺激信号であり得る。刺激信号周期の整数倍は、所定の数であり得る。
【0005】
同期モジュールは、非線形関数に従って刺激信号のタイミングを変調することができる。同期モジュールは、神経発振器を備え得る。同期モジュールは、神経発振器を備え得る。刺激信号のタイミングは、心臓の基本周波数を変調することを含み得る。神経発振器は、単一の神経発振器を含み得る。すなわち、神経発振器は、1つの神経のみ、または1つの神経のみをエミュレートするシステムを含み得る。
【0006】
装置は、非線形発振器をさらに含み得る。非線形発振器は、心臓の基本周波数、例えば、f
expを判定する電流刺激I
expを示す第2の入力と、呼吸のデューティサイクルを示す信号とを受信するように構成され得る。非線形発振器は、呼吸デューティサイクルを示す信号に同期し得る。電流I
expは、例えば臨床医によって、固定された心拍数を提供するように設定され得るか、または設定された検量線に従って呼吸数に応じて変化するように設定され得る。後者では、例えば過去5回の呼吸サイクルにわたって平均化され得る平均呼吸数が、身体活動の尺度として使用され得る。呼吸数は、
図14(
図8(A)、9(A)、10(A)も参照)を参照して以下で考察される、1410によって出力されるI
inj信号(吸気相および呼気相の間にそれぞれI
inspまたはl
iexpの値を取ることができる)を受信する周波数カウンタと、この平均周波数に比例する電流を生成するデジタルまたはアナログの増幅器によって読み取ることができる。
【0007】
呼吸デューティサイクルは、吸気相を有し得る。呼吸デューティサイクルは、呼気相を有し得る。装置は、吸気相と呼気相の間の差動刺激信号率を判定するパラメータ(例えば、RSAまたは(finsp-fexp)/fexp)を設定する手段をさらに含み得る。
【0008】
単一の吸気相または単一の呼気相内の刺激信号間の周期の各々は、同じ目標持続時間を有し得る。単一の吸気相または呼気相内の刺激信号の周期の各々は、同じ持続時間になるように意図されているが、呼吸との同期を維持するために、この状態からわずかな偏差で逸脱する場合がある。
【0009】
呼吸周期と刺激信号間の周期の整数比または整数倍との間の同期に対する偏向を維持することは、吸気相または呼気相における刺激信号間の周期に対する周期を設定することを含み得る。
【0010】
同期モジュールは、呼吸周期の吸気相または呼気相と、刺激信号間の周期の整数比または整数倍との間の同期に対する偏向を維持するように構成され得る。
【0011】
刺激信号間の異なる整数の周期が、吸気相と呼気相とで提供され得る。
【0012】
装置は、結合係数の強さを設定するための手段をさらに含み得る。前述の手段は、(i)非線形発振器と呼吸デューティサイクル信号との間の同期速度、および/または(ii)呼吸周期と1つ以上の目標心拍間隔との間の周波数不整合に対する耐性を判定し得る。
【0013】
装置は、アナログ電子信号処理チェーンを備え得る。電子信号処理チェーンは、呼吸分析モジュールを提供することができる。電子信号処理チェーンは、同期モジュールを提供することができる。
【0014】
装置は、ブランキングモジュールを備え得る。ブランキングモジュールは、i)刺激信号のタイミングに基づいて、またはii)第1の入力信号における刺激信号の干渉の検出に基づいて、呼吸を示す第1の入力信号にブランキング周期を提供するように構成され得る。
【0015】
分析モジュールは、同期モジュールに光学的に結合され得る。呼吸を示す第1の入力信号は、dEMG信号または胸部電気インピーダンス信号であり得る。呼吸分析モジュールは、1つ以上の増幅器を含み得る。1つ以上の増幅器は、第1の入力信号を増幅するように構成され得る。同期モジュールは、分析モジュールから電気的に絶縁され得る。同期モジュールは、1つ以上の増幅器から電気的に絶縁され得る。神経発振器は、1つ以上の増幅器から電気的に絶縁され得る。神経発振器は、1つ以上の増幅器に光学的に結合され得る。
【0016】
さらなる態様によれば、
本明細書に記載の装置を備える心臓ペースメーカデバイスと、
心臓ペースメーカデバイスの第1の入力ステージに結合された1つ以上のセンサと、
心臓ペースメーカデバイスに結合され、心臓ペースメーカデバイスによって判定されたタイミング情報に基づいて、心臓ペースメーカデバイスから周期的な電気刺激信号を受信するように配置されたペーシング電極と、を備えるシステムが提供される。
【0017】
さらなる態様によれば、呼吸信号によって時間的に変調された電気刺激信号のタイミングを判定するための方法が提供される。本方法は、
呼吸を示す第1の入力信号を受信することと、
第1の入力信号から、瞬間的な呼吸デューティサイクルを示す信号を判定することと、
呼吸周期と刺激信号間の周期の整数比または整数倍との間の同期に対する偏向を維持するために、呼吸デューティサイクルを示す信号の関数として刺激信号のタイミングを生成することと、を含み得る。この方法は、コンピュータに実装され得る。
【0018】
さらなる態様によれば、呼吸信号によって時間的に変調された周期的な電気刺激信号のタイミングを判定するための方法をプロセッサに実行させるように構成されたコンピュータプログラムコードを含む非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の実施形態をこれより、例として、添付の図面を参照して説明する。
【0020】
【
図1】心臓ペースメーカシステムの概略ブロック図を示す。
【
図2】呼吸信号によって時間的に変調された周期的な電気刺激信号を判定する方法を示す。
【
図3】呼吸と心臓のリズムとを、非線形のバネを介して相互に作用する2つの発振器として記述した同期モデルを示す。
【
図4A】特定の強制周波数に対する自走周波数の関数としての強制発振器および自走発振器の平均合成周波数を示す。
【
図4B】「アーノルドの舌」を示し、2つの発振器間の結合強度が増加するにつれて同期窓が広がることを示す。
【
図5】心臓への一連の電気刺激を時間の関数として、それに対応する呼吸デューティサイクルをともに示す。
【
図6】心拍変調がランダムに変動し得る周波数のギャップで区切られた、個別の同期数を示す。
【
図7】神経膜電圧の周波数の依存性を、注入電流の関数として示す。
【
図8】
図8(A)は、神経発振器の入力に印加される入力電流の矩形変調を、呼吸周期で除算した時間に対して示し、
図8(B)は、入力電流の矩形変調に対応するペーシングパルスのプロファイルを呼吸周期で除算した時間で示し、
図8(C)は、心臓刺激のタイミングを、RSAの振幅を呼吸周期で除算した時間でプロットすることを示す。
【
図9】
図9(A)~
図9(C)は、対応する
図8(A)~
図8(C)と同じ形式であり、呼吸周期は基本心拍周期の2倍に設定されている。
【
図10】
図10(A)~
図10(C)対応する
図8(A)~
図8(C)と同じ形式であり、呼吸周期は基本心拍周期の3倍に設定されている。
【
図11】RSA値が0.1である、呼吸周期と基本心拍周期との比率を基本心拍周期で除算した時間に対するプロファイルを示す。
【
図12】RSA値が0.2である、呼吸周期と基本心拍周期との比率を基本心拍周期で除算した時間に対するプロファイルを示す。
【
図13】RSA値が0.3である、呼吸周期と基本心拍周期との比率を基本心拍周期で除算した時間に対するプロファイルを示す。
【
図14】心臓ペーシングデバイスの一例の概略ブロック図を示す。
【
図16】利得および遅延オフセットキャンセルを備えた差動モード増幅器を示す。
【
図17】被験者の横隔膜に設けられたdEMGセンサが、被験者の心臓から等間隔で配置されている例を示す。
【
図18】被験者の横隔膜1806に設けられたdEMGセンサが、被験者の心臓に対してオフセットされている例を示す。
【
図20】
図19のブランキング回路によって受信されるような、患者に印加される電気刺激パルスのプロファイルを示す。
【
図21】ECGスパイクが、呼吸サイクルと比較して非常に大きな振幅だが、非常に短い持続時間のパルスであることを示す。
【
図22】回復した呼吸エンベロープと対応するdEMG信号の例を示す。
【
図23A】先にヒツジで説明した装置および方法を用いてRSA補償ペーシングを適用した結果を示す。
【
図23B】ヒツジにモノトニックなペーシングを適用した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
身体の心拍の自然な調節は、呼吸(breathing)または呼吸(respiratory)サイクルと同相である。例えば、呼気(息を吐く)時には心臓の動きが遅くなり、吸気(息を吸う)時には心臓の動きが速くなる。これは、呼吸性洞性不整脈(RSA)と称される。RSAの消失は、心血管リスクの予測因子であり、心不全を含む複数の疾患の予後指標となる。
【0022】
本開示における様々な例では、RSAを人為的に回復させるために、ペーシングシステムが提供される。このようなシステムは、心臓デバイスを使う被験者の生活の質の結果を改善するために、疾患の進行を遅らせ、心筋の損傷を元に戻すこと(心筋のリモデリング)、または残存する心筋からより良い心臓ポンプ機能を得ることを目的とする。
【0023】
図1は、心臓ペースメーカシステム100の概略ブロック図を示している。心臓ペースメーカシステム100は、心臓ペースメーカデバイス102と、1つ以上のセンサ104と、1つ以上のペーシング電極106と、を備えている。ペーシングシステム100は、健康な個体に存在する生物学的なRSA制御プロセスを模倣して、それを、患者とも称され得る被験者において人工的に模倣するための電子デバイスである。このようなデバイスの提供はまた、患者において、自然にRSAが発生する場合、このようなデバイスを使用して自然に発生しているよりも高いレベルのRSAを適用することが有利であることを証明し得る。
【0024】
1つ以上のセンサ104は、例えば、筋電センサまたは胸部インピーダンスセンサを備え得る。そのようなセンサは、当技術分野で使用される従来のセンサによって提供され得、1つ以上のセンサ104を被験者に結合するための機構または接着剤を含み得る。1つ以上のセンサは、被験者の呼吸を示す信号を感知するように構成される。心臓ペースメーカデバイス102は、無線または有線の通信リンクを介して1つ以上のセンサ104と通信するように構成され得る。例えば、i)心臓ペースメーカデバイス102およびii)1つ以上のセンサ104のうちの一方が内部に設けられ、他方が外部に設けられるように、近距離通信リンクが患者の組織を介して動作することができる。
【0025】
1つ以上のペーシング電極106は、被験者に電気刺激を加えるように構成された従来のペーシング電極によって提供され得る。1つ以上のペーシング電極106は、1つ以上のペーシング電極106を被験者に取り付けるための機構または接着剤を備え得る。
【0026】
心臓ペースメーカデバイス102は、信号処理ユニット108と、電気刺激発生器110と、を備える。信号処理ユニット108は、被験者の呼吸を示す信号を1つ以上のセンサ104からセンサ信号入力112で受信するように構成され、信号処理ユニットは、呼吸を示す信号に基づいて複数の刺激のタイミング情報を生成するように構成される。
【0027】
心臓ペースメーカデバイス102は、植え込み型デバイスであり得る。例えば、心臓ペースメーカデバイス102は、生物学的に不活性であるか、または非反応性であり得るハウジングを有し得る。ハウジングは、例えば、10cm未満×5cm未満の寸法を有し得る。心臓ペースメーカデバイス102は、デバイス102に電力を供給するための電源を含み得る。
【0028】
電気刺激発生器110は、信号処理ユニット108によって提供されるタイミング情報に基づいて電気刺激信号を生成するように構成される。電気刺激発生器110は、例えば、従来のパルス生成ハードウェアによって提供され得、電気刺激信号を1つ以上のペーシング電極106に提供するように構成される。
【0029】
信号処理ユニット108は、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって提供され得る。一例では、信号処理ユニット108は、呼吸分析モジュールおよび同期モジュールを備える。このようなモジュールは、例えば、ハードウェアによって実行されるソフトウェアモジュールとして提供され得る。
【0030】
図2は、呼吸信号によって時間的に変調された周期的または周期性の電気刺激信号を判定するための方法200を示し、この方法は、
図1を参照して前述した信号処理モジュールによって実行され得る。
【0031】
呼吸信号によって時間的に変調された周期性の電気刺激信号のタイミングを判定するための方法200は、以下を含む。
呼吸を示す第1の入力信号を受信する(202)。
第1の入力信号から、瞬間的な呼吸デューティサイクルを示す信号を判定する(204)。
刺激間間隔またはスパイク間間隔とも称され得る、呼吸周期と刺激信号間の周期の整数比との間の同期に対する偏向を維持するために、瞬間的な呼吸デューティサイクルを示す信号の関数として、刺激信号のタイミングを生成する(206)。
【0032】
呼吸を示す第1の入力信号を用いて刺激信号のタイミングの生成を制御することは、本方法200が直接的な生理学的フィードバックを提供することを意味する。いくつかの例では、刺激信号のタイミングは、例えば、神経発振器によって提供され得る非線形関数に従って生成される。神経発振器は、例えば、中央パターン発生器を実装するアナログ回路によって、またはデジタルシミュレーションによって提供され得る。コンピュータ上で実行されると、本明細書に開示された回路、ユニット、コントローラ、デバイス、またはシステムを含む任意の装置に、本明細書に開示された任意の方法を実行するようにコンピュータに構成させるコンピュータプログラムが提供され得る。コンピュータプログラムは、ソフトウェア実装であってもよい。コンピュータは、コンピュータプログラムによって定義された方法を実行するように構成された1つ以上のプロセッサおよびメモリを含む、適切なハードウェアを備え得る。
【0033】
コンピュータプログラムは、ディスクもしくはメモリデバイスなどの物理的なコンピュータ可読媒体であるコンピュータ可読媒体上に提供され得るか、または一過性の信号として具現化され得る。このような一過性の信号は、インターネットのダウンロードを含むネットワークのダウンロードであり得る。コンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読記憶媒体または非一時的なコンピュータ可読媒体であり得る。
【0034】
本発明者らは、
図1を参照して説明したようなシステムを用いて、
図2を参照して説明したような方法でRSAペーシングを行うと、心臓のポンプ効率の向上につながるという「省エネ」論があることを認識している。
【0035】
RSAは、血液ガス、および、特に、呼吸を促す主要な物質である二酸化炭素(CO2)の安定性を可能にする。RSAは、モノトニックな拍動のときよりも少ない心拍でCO2を維持することができるため、心臓のエネルギーを節約することができる。深いゆっくりとした呼吸ではRSAが増加し(エネルギーが節約され)、RSAを伴わない深いゆっくりとした呼吸ではエネルギーが節約されず、CO2もコントロールされなかった。RSAによって節約される心臓エネルギーの量は、現在進行中の研究分野である。初期の計算では、1回の呼吸で3%のエネルギー、または1時間当たり35キロカロリーの節約を示す。これは、3日で約1日分のカロリー摂取量に相当する。
【0036】
本発明者らは、被験者のパルス状の心臓と肺の間の非線形同期プロセスが、線形アプローチと比較して、RSAの安定性を向上させ得ると考えている。通常、物理学では、同期したシステムは、エネルギー散逸が最も少なくなる。例えば、2つの調和発振器間の結合が線形(例えば、バネ)である場合、各々の発振器の押しと引きは、発振周期中に相殺され、その結果、発振器間の位相差は、サイクルの終了時にも開始時にも同じになる。言い換えると、線形結合では、1サイクルの間に一方の発振器から他方の発振器へのエネルギーの正味の移動はできない。つまり、同期は不可能である。
【0037】
同期させるためには、非線形性により、ある発振器から別の発振器にエネルギーが非対称に伝達され得る潜在性が必要である。例えば、発振器の固有周波数がわずかに異なる場合、両者が同期するためには、高速発振器を減速し、低速発振器を加速しなければならない。非線形性は、非対称な押し引きをもたらし、1サイクルの間に有限量のエネルギーを高速発振器から低速発振器に伝達することができる。何度かのサイクルの後、ペアは、同期し、位相差は、時間に依存しなくなり、エネルギーの伝達は、ゼロになり、散逸は、最小限に抑えられる。簡単に言えば、アーノルドの舌の概念は、(非線形)相互作用の強さが大きければ大きいほど、システムが同期できる固有周波数の差が大きくなるということである。
【0038】
心肺システムの同期に関して、非線形発振器を用いたペーシングの性能の優位性は、再同期のための偏向を維持すること、同期が得られる呼吸数/パターンが瞬時に変化すること、または他のパラメータとの関連性という点であり得る。
【0039】
ノイズ、呼吸周期の変動、環境の変化などが存在しても、呼吸に同期して安定したRSAペーシングを実現するために、神経細胞の発振器が実装する非線形科学の基本方式を、
図3~
図6を参照して以下に記載する。
【0040】
同期モジュールの実装における非線形性は、呼吸と心臓のリズムとを同期させ、エネルギー消費を最小限に抑えるために使用することができる。この手法は、実務者が本能的に「動作点」に関する電気的特性を線形化し、何としても非線形効果を回避しようとする従来の電子機器とは対照的である。実際、非線形効果は厄介なものだとみなされている。
【0041】
以下は詳細な記載であるが、
図3は、交感神経系と脳幹神経(点線)とを介して相互作用する呼吸リズムおよび心臓リズムの概略図である。脳幹の生体回路、神経、シナプスには、固有の閾値および非線形性(例えば、周波数-電流刺激応答)がある。これらの非線形性と、
図3の心臓ペーシング用振り子発振器とが、神経発振器の主な2つの構成要素となる。単一の神経発振器を含む神経発振器を提供することで、ペーシングのタイミング情報を生成するための計算効率の高いシステムを提供する。
【0042】
神経発振器は、非線形発振器の一例にすぎない。非線形発振器は、生体リズムに同期することになる。神経発振器は、生体が使用する発振器のモデルである。神経発振器は、パルス幅(洞房結節を刺激する場合は通常1ms)と心臓のペーシング周波数との仕様を満たすように、幅および周期が独立して調整され得る「スパイク状」パルスを生成する。スパイクベースのニューロモルフィックモデルは、生物学的システムと同じタイプの通信を使用して通信する。
【0043】
デジタル的に等価なペーシングデバイスは、同期を実現するための非線形特性を再現するために、ホジキンハクスレー方程式(または、ほぼ同一の膜電圧発振を予測するハードウェアの数学モデル)を解くことで、神経細胞の膜電圧をデジタル的に生成することができる。このモデルは、次の方程式によって与えられる。
【数1】
【0044】
このモデルの状態変数はそれぞれ(V,m,h,n)であり、膜電圧、Na活性化ゲート変数、Na不活性化ゲート変数、K活性化変数である。Iinjは、回路108によって生成される注入電流である。
【0045】
このモデルのパラメータの模範的な設定は以下のとおりである。
【表1】
【0046】
上記の微分システムは、マイクロプロセッサを使って様々な方法で統合することが可能であるが、好ましくはPythonで利用可能な、またはプログラム可能な適応ステップサイズodeintQルーチンを使用することが望ましい(Numerical Recipes in C:The Art of Scientific Computing,Press,Teukolsky,Vetteriing,Flannery,CUP,ISBN0-521-43108-5,Chapter 16を参照のされたい)。
【0047】
アナログ方式ではなく、デジタル方式にすることで、いくつかの利点が生まれることがある。例えば、動作の温度依存性を排除することができる。
【0048】
図3は、呼吸と心臓のリズムとを、非線形のバネ(点線)を介して相互に作用する2つの発振器として記述した、同期化の最も単純なモデルを示している。このシステムには、固有周波数cooの自走発振器(心臓ペーシング)302と、強制周波数coの強制発振器(呼吸)304と、がある。呼吸による心臓ペーシングの変調は、ある呼吸サイクルから次の呼吸サイクルへと繰り返されるため、呼吸数に同期させる必要があり、そうしなければ、変調は、ある周期から次の周期へと変動する。
【0049】
RSAが課されていない(RSA=0)場合、発振器302、304は分離され、心臓ペーシング発振器は角周波数ω0(l)で自走している。結合は、RSAが有限になったとき、すなわち、吸気相と呼気相finsp≠fexpで異なるペーシング周波数が適用されたときにスイッチオンされる。この場合、自走発振器は有限幅Δωの同期窓にわたって強制発振器に位相ロックし、ノイズが多く、呼吸数が変動する条件であっても安定したRSAが可能になる。
【0050】
注入電流(I)に応じて出力周波数が変化する非線形発振器の一例として、神経発振器がある。神経発振器には、同期の提供に役立ち得る2つの特性を有する。
(i)閾値:神経は、閾値電流注入(I
th)まで無音である。閾値I
thを超えると、神経は注入電流Iに応じて非線形に増加する周波数で発振し、ω
0=ω
0(I)となる(以下で考察される
図7参照)。ω
0(I)応答の非線形性は、強制発振器を自走発振器にラッチするための判定メカニズムを効果的に導入するために不可欠である。完全に線形であるω
0(I)応答を有する発振器は同期しないこととなる。
(ii)位相応答曲線:同期とは、自走発振器のリズムを強制発振器のリズムに合わせて、2つの発振器の位相差が経時的に一定になるように調整することを意味する。ただし、ω=ω
0(I)のときに同期が発生してもあまり意味がない。同期に対する瞬間的な偏向/力はサイクルの異なるポイントで異なり、この依存性が位相応答曲線となる。このような神経の特性により、ω
0を中心としたAcoのより広い周波数範囲で位相同期が可能になるのが位相応答曲線である。
【0051】
神経のような非線形発振器は、調和発振器ではなく、ホジキンハクスレーモデルの4つの微分方程式(式1)で規定されるように発振する。これらの4つの方程式から生じる力学は、周波数が互いに近い場合に、自走発振器の位相を強制発振器の位相に向ける傾向がある。これにより、ω0を中心とする周波数Δωの範囲で同期を行うことができる。
【0052】
図4Aは、強制発振器と自走発振器との平均結果周波数を、特定の強制周波数の自走周波数の関数として示している。強制発振器(呼吸)は、ペーシング発振器の自走周波数を中心とした有限の周波数窓Δωを介して、ペーシング発振器(神経)と同期する。
【0053】
数学的には、非調和性による位相の引きは、神経の位相応答曲線として知られる位相依存関数によって記述され、q(Δφ)と表記され、式中、Δφは強制発振器と自走発振器との間の位相差である。2つの発振器間の位相差の変化は次のようになる。
【数2】
【0054】
図4Bは、「アーノルドの舌」402を示している。これは、2つの発振器間の結合強度(e)が増加するにつれて、同期窓が広がることを意味している。位相応答曲線による位相緩和の「引き」は、神経が強制周波数の有限範囲、つまり|ω
0-ω|<εq
maxにわたって呼吸に同期したままになるであろうことを意味する。
【0055】
同期により、結合発振器システムのエネルギー散逸を最小限に抑えることができる。RSA同期によって心肺系のエネルギー散逸が少なくなれば、その分のエネルギーを他の場所で利用することができ、心拍数の増加につなげることができる。
【0056】
非線形結合は、一方の発振器が他方の発振器を非対称に押すおよび引くことを可能にすることによって、同期を誘発する。その結果、いくつかのサイクルの後に発振器の位相がロックされる。サイクルの各ポイントでの「押し引き」は、位相応答曲線(式2)によって判定される。エネルギーの観点から、非線形性により、1サイクルの間に有限量のエネルギーを高速発振器から低速発振器に伝達することができる。いくつかのサイクルの後、発振器が位相(同じ周波数)で発振すると、エネルギーの伝達が停止する。
【0057】
呼吸性洞性不整脈のメカニズムは、呼吸周期に応じて心拍数を変調させるもので、呼吸数ωと、基本心拍の周波数ω
exp(または
図3のω
0)に加えて、デューティサイクルの吸気部分の心拍の周波数ω
insp(ω
insp>ω
exp)を導入する。次に、RSAは次のように定義される。
【数3】
【0058】
この呼吸サイクルにおける心拍数の変調を
図5に示す。
【0059】
図5は、心臓への一連の電気刺激502を時間の関数として、それに対応する呼吸デューティサイクル504をともに示している。RSAを扱う場合、呼吸周期に適合する一連のスパイク間間隔を与える吸気数と呼気数との単一の組み合わせ以上のものがある(
図5)。呼吸デューティサイクル504は、吸気相510および呼気相512を有する。刺激502の各電気刺激は、電気刺激周期に関連付けられている。
【0060】
吸気相510の間にm回の電気刺激周期T
insp506と、呼気相512の間にn回の電気刺激周期T
exp508とがあり、これらは1つの呼吸周期内に収まる。
【数4】
【0061】
置換を行うと:
T
exp=2π/ω
expT
insp=2π/[ω
exp(1+RSA)]、式中、RSA=(ω
insp)/ω
exp)となり、次式のような同期数の多様体(m,n=1、2、3...)を与える。
【数5】
【0062】
RSAの振幅および心臓のペーシング周波数が設定されている場合、f
exp=90bpm(T
exp=0.666s)、およびf
insp=110bpm(T
insp=0.545s)である呼吸数が可能になると、例えば以下のような離散的な同期の周波数が得られる。
【表2】
【0063】
図6は、心拍変調がランダムに変動し得る周波数のギャップで区切られた、個別の同期数(点)を示している。
図6の横棒は、特定のRSAパラメータに対するアーノルドの舌の幅を示している。位相ロックの有限間隔により、安定したRSAが可能になる。
【0064】
神経発振器は、
図7に示すように、電流注入の関数として上昇する周波数を有する。したがって、結合の強さ、またはRSA=(f
insp-f
exp)/f
expは、サイクルの呼気部分(l
exp)で印加される電流と比較して、サイクルの吸気部分(I
insp)の間に神経に注入される電流の量を変化させることによって設定される。電流差(I
insp-I
exp)は、例えば、結合の強さを制御するために、例えばユーザが設定することができる。
【0065】
図7は、神経膜電圧の周波数の依存性を、ペースメーカ発振の数値シミュレーションからの注入電流:f(I
inj)の関数として示している。RSAは、周波数f
inspとf
expとを設定した2つのレベルhnspおよびIを持つ矩形の電流信号を神経に注入することで生成される。I
inspとI
expとは、両方とも閾値I
thよりも大きい。神経の発振周波数は電流注入とともに増加するため、RSA=(f
insp-f
exp)/f
expの強さは、I
inspに対してI
expを増加させることで増減する。
【0066】
神経の応答における非線形性の主な原因は、
図7に示す周波数-電流依存性である。生物学的な実装では、この非線形依存性は、神経膜のナトリウムおよびカリウムイオンチャネルのシグモイド型の活性化および不活性化曲線によって支えられており、各々が活性化閾値を有する。ナトリウムおよびカリウムのイオン電流の力学は、神経電子機器によってモデル化することができる。
【0067】
図15A~
図15Cは、神経発振器1500の実装例を示している。神経発振器1500は、神経の挙動を模倣するように構成されたアナログ電子機器によって提供される。神経発振器1500は、神経細胞の対応するイオンチャネルをモデル化するために、カリウムイオンチャネル部1502、ナトリウムイオンチャネル部1504、および膜部1506を有する。神経発振器1500は、膜電圧を出力レール1501上の出力として提供する。
【0068】
カリウムイオンチャネル部1502は、複数のFET(Field Effect Transistor)と、複数の可変電圧源と、スタータ回路1507と、カリウム活性化ゲートの回復速度を判定するタイミングコンデンサ1508と、を備える。複数のFETは、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、および第11および第12のFET1510~1532を備える。各FET1510~1532は、ゲート、ソース、ドレインを有する。
【0069】
神経の状態を設定するために使用することができる可変電圧源は、ポテンショメータによって形成される分圧器によって提供され得る。これらの電圧源は、上記の表に記載されている電圧閾値Vtm、Vth、VtnならびにコンダクタンスgNaおよびgkを設定するために使用される。
【0070】
第1のFET1510のゲートは、電圧源1511に結合されている。第1の(n型)FET1510のソースは、接地に結合され、第1のFET1510のドレインは、第2の(n型)FET1512のソース、第3の(n型)FET1514のソース、およびスタータ回路1507に結合されている。
【0071】
スタータ回路1507は、第1のFET1510のドレインと接地の間に抵抗とコンデンサとが直列に設けられたRCタイミング回路を備える。
【0072】
第2のFET1512のゲートは、レール1501(膜電圧Vmem)に結合されている。
【0073】
第4の(p型)FET1516のソースと第5の(p型)FET1518のソースとは、正電圧源に結合されている。第4のFET1516のゲートは、第5のFET1518のゲートに結合されている。第4のFET1516のドレインは、第4のFET1516のゲートおよび第2のFET1512のドレインに結合されている。第5のFET1518のドレインは、第3のFET1514のドレインに結合されている。第3のFET1514のゲートは、第3のFET1514のドレインおよび第6の(n型)FET1522のゲートに結合されている。タイミングコンデンサ1508は、第3のFET1514のゲートと接地の間に結合されている。
【0074】
第12の(n型)FET1520のソースは、接地に結合されている。第12のFET1520のゲートは、第2の電圧源1534に結合されている。第12のFET1520のドレインは、第6の(n型)FET1522のソースおよび第7の(n型)FET1524のソースに結合されている。第7のFET1524のゲートは、カリウムの活性化閾値を設定する第3の電圧源1536に結合されている。第7のFET1524のドレインは、正電圧源に結合されている。第8の(p型)FET1526のソースは、正電圧源に結合されている。第8のFET1526のゲートは、第8のFET1526のドレイン、第6のFET1522のドレイン、および第9の(p型)FET1530のゲートに結合されている。第9のFET1530のソースは、正電圧源に結合されている。
【0075】
第10の(n型)FET1528のソースは、接地に結合されている。第10のFET1528のゲートは、ドレイン第10のFET1528のドレイン、第9のFET1530のドレイン、および第11の(n型)FET1532のゲートに結合されている。第11のFET1532のソースは、接地に結合されている。第11のFET1532のドレインは、レール1501およびナトリウムイオンチャネル部1504に結合されている。
【0076】
また、ナトリウムイオンチャネル部1504は、複数の電界効果トランジスタ(FET)1540~1568と、複数の可変電圧源と、タイミングコンデンサ1571と、を備える。複数のFETは、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、および第15のFET1540~1568を備える。各FET1540~1568は、ゲート、ソース、ドレインを有する。
【0077】
第1の(n型)FET1540は、接地に結合されたソースを有する。第1のFET1540は、第1の可変電圧源1538に結合されたゲートを有する。第1のFET1540は、第2の(n型)FET1542のソースおよび第15の(n型)FET1544のソースに結合されたドレインを有する。第2のFET1542のゲートは、レール1501およびカリウムイオンチャネル部1502に結合されている。また、第2のFET1542のゲートは、第4の(p型)FET1548のドレインに結合されている。第4のFET1548のソースは、正電圧源に結合されている。第4のFET1548のゲートは、第3の(p型)FET1546のゲート、第3のFET1546のドレイン、および第5の(p型)FET1550のドレインに結合されている。第3のFET1546のソースは、正電圧源に結合されている。第5のFET1550のソースは、正電圧源に結合されている。
【0078】
第15の(n型)FET1544のドレインは、レール1501に結合されている。第15のFET1544のゲートは、ナトリウムチャネルの活性化閾値を設定する第2の可変電圧源1570に結合されている。
【0079】
第6の(p型)FET1552のゲートは、第6のFET1552のドレインと第5のFET1550のゲートとに結合されている。第6のFET1552のソースは、正電圧源に結合されている。
【0080】
第7のFETのソースは、接地に結合されている。第7の(n型)FET1554のゲートは、第3の可変電圧源1576に結合されている。第7のFET1554のドレインは、第8の(n型)FET1556のソースと、第9の(n型)FET1558のソースとに結合されている。第9のFET1558のドレインは、第6のFET1552のドレインおよびゲートに結合されている。
【0081】
第8のFET1556のゲートは、ナトリウム不活化閾値を設定する第4の可変電圧源1574に結合されている。第8のFET1556のソースは、正電圧源に結合されている。
【0082】
タイミングコンデンサ1571は、第9のFET1558のゲートと接地との間に結合されている。また、第9の(n型)FET1558のゲートは、第10の(n型)FET1560のゲート、第10のFET1560のドレイン、および第13の(p型)FET1566のドレインに接続されている。第13のFET1566のソースは、正電圧源に結合されている。
【0083】
第11の(n型)FET1562のソースは、接地に結合されている。第11のFET1562のゲートは、第5の可変電圧源1578に結合されている。第11のFET1562のドレインは、第10の(n型)FET1562のソースおよび第12の(n型)FET1564のソースに結合されている。第12のFET1564のドレインは、第14の(p型)FET1568のドレイン、第14のFET1568のゲート、および第13のFET1566のゲートに結合されている。
【0084】
第12のFET1564のゲートは、膜部1506に接続されている。膜部1506は、神経膜の膜コンデンサ1580およびリーク抵抗1582を備える。膜コンデンサ1580は、ナトリウムイオンチャネル部1504の第12のFET1564のゲートと接地との間に結合されている。また、第12のFET1564のゲートは、レール1501と膜部1506内の神経膜のリーク抵抗1582とに結合されている。
【0085】
神経発振器において、吸気相と呼気相の間の差動刺激信号率を判定するパラメータ(RSA=(f
insp...f
exp/f
exp)と、(i)非線形発振器と呼吸デューティサイクル信号との間の同期速度、および/または(ii)呼吸周期と1つ以上の目標心拍間隔との間の周波数不整合に対する耐性を判定する結合係数の強さと、を設定する際の考慮事項について、
図8~
図10を参照して以下で考察する。
【0086】
図8(A)~
図8(C)は、呼吸数(RR)が基本心拍数(HR)と同じで、HR/RR=1となる例に関連している。
【0087】
図8(A)は、神経発振器の入力に印加される入力電流801、802の矩形変調を、呼吸周期で除算した時間に対して示す。4.3%(801)および28.5%(802)の2つのRSAレベルでのペースメーカ神経の発振と、それに対応する矩形波形とがプロットされている。
【0088】
図8(B)は、呼吸周期で除算した時間に対して、4.3%(803)および28.5%(804)の2つのRSAレベルに対応するペーシングパルスプロファイルを示している。心拍は、数回の心拍の範囲において呼吸と同期する。この同期への偏向は、RSAが大きくなるほどより強くなる。特に、RSA=4.3%のトレース803とは異なり、RSA=28.5%の場合、トレース804はt=0からほぼ完全に同期している。
【0089】
図8(C)は、心臓刺激のタイミングを、RSAの振幅を呼吸周期で除算した時間でプロットしたものである。t<0の場合、神経は、定電流l
e0.5nAで刺激され、25.579965msの基本周期で発振を生成する。t=0では、矩形電流変調が適用される。
【0090】
RSAが10%未満の場合、結合が弱すぎて、神経を呼吸と同調して発火させることができない(プロファイル803と801、および
図8(C)の発振の位相が急速に変化している点を比較のこと)。一過性のレジームは約3周期の長さである。この小さなRSAレジームでは、システムはRSAの関数として発振の位相緩和を急激に変化させて適応する(左パネル)。
【0091】
RSAが10%より大きくなると、発振の位相は呼吸にロックされ、心拍数と呼吸との周波数が同じになる(プロファイル802と804、および
図8(B)の発振の安定した位相を比較のこと)。RSAがHRを増加させる傾向にあるにもかかわらず、非線形性によって適用される同期に対する偏向によって、モードロックHR/RR=1が維持される。この同期レジームは、第1のアーノルドの舌に対応する。つまり、第1のモードロック同期プラトー805は、RSAが10%より大きい場合に観測される。RSAの強度をさらに20%~50%に高めると、刺激がより速く呼吸周期にロックされるようになるので、RSAの増加に伴い、
図8(C)の左側の線がより直線的になっている。
【0092】
図9(A)~
図9(C)では、呼吸周期(RR=51.15993ms)を基本心拍周期(HR=25.579965ms)の2倍に設定し、HR/RR=2としている。1回の呼吸周期につき2拍動である。
図9(A)~
図9(C)は、対応する
図8(A)~
図8(C)と同じ形式である。
図9(B)では、ペースメーカ神経の発振、およびそれに対応する矩形の刺激波形(
図9(A))が、4.3%(901)および30%(902)の2つのRSAのレベルに関してプロットされている。
【0093】
図9(B)は、4.3%(903)と30%(904)との2つのRSAレベルに対応するペーシングパルスプロファイルを示している。
図9(A)ではt=0から矩形パルス変調が適用されているので、パルスプロファイル(903、904)は、数回の呼吸サイクルの後に、より安定した発振へと進化する一過性のレジームに関連している。このように、パルスプロファイル(903、904)は、あるレベルの同期を達成するために必要な周期の一例を示している。
【0094】
図9(C)では、マルチモーダルなモードロック同期905、906が、RSAが約10%、30%で観察され、呼吸周期にわたって、拍動から拍動への周波数変調と基本心拍数が維持されるが、発振の位相が呼吸にモードロックされていない領域(RSA=5%、22%、42%...を中心とする急速な位相シフトの領域)で区切られている。
【0095】
図10(A)~
図10(C)は、対応する
図8(A)~
図8(C)と同じ形式である。1回の呼吸周期につき3拍動である。呼吸周期(RR=76.739895ms)は基本心拍周期(HR=25.579965ms)の3倍に設定し、HR/RR=3としている。
図10(B)では、ペースメーカ神経の発振、およびそれに対応する矩形の刺激波形(
図10(A))が、4.3%(1001)および28.5%(1002)の2つのRSAのレベルに関してプロットされている。
【0096】
図10(B)は、4.3%(1003)と28.5%(1004)との2つのRSAレベルに対応するペーシングパルスプロファイルを示している。
【0097】
図10(C)では、マルチモーダルなモードロック同期1005,1006が、RSAが約10%、30%で観察され、呼吸周期にわたって、拍動から拍動への周波数変調と基本心拍数が維持されるが、発振の位相が呼吸にモードロックされていない領域(位相シフト)で区切られている。
【0098】
図11から
図13は、呼吸周期と基本心拍周期との比率を基本心拍周期(25.679965ms)で除算した時間に対するプロファイルを示す。
図11では、RSA値は、0.1である。
図12では、RSA値は、0.2である。
図13では、RSA値は、0.3である。したがって、
図11~
図13は、基本心拍数に対する呼吸周期の比率が増加するにつれて、システムが異なるモードロック発振を起こすときの刺激パターンを示している。
【0099】
マルチモード同期の領域とHR/RRアーノルド舌の値がプロファイル上に示されており、呼吸周期と刺激信号周期の整数倍との間の同期に対する偏向を維持するために、呼吸周期が変化しても調整する方法の効能が示され、RSAを0.1から0.3に増加させると、第1のアーノルドの舌である同期プラトーの幅が広がり、RSAを増加させると、マルチモード同期の同期発生の減少をも示すと考えられる。同期領域の間では、心臓の発振の位相は呼吸リズムに対して急激に変化するが、心拍数の変調は維持される。
【0100】
これらの結果から、HR/RR=1、2、3...(整数値)のときにモードロック同期のプラトーが形成されることが分かる。これらのプラトー内で、ペーシング周波数は呼吸数にモードロックされ(2つの間の位相は一定)、心拍ごとの心拍周波数の変調が発生する。心拍の位相はもはや呼吸にモードロックされておらず、RSAの変化に伴って急速な変化を示す。呼吸は依然として心拍数を変調するが、拍動パターンは1呼吸サイクルごとに変化する。
【0101】
アナログCFGシステムは、呼吸パターンの変化に伴う同期の迅速な再取得を含め、任意の吸気窓で適用することができるRSA(周波数増加)ペースの数を向上させることができ、これらの呼吸パターンは、動物の飲食、運動、休息、咳などに伴って停止および変化して、自然に無呼吸の周期が発生する。
【0102】
試作機で治療した少数の動物のセットでは、当初の予想を上回る心拍出量の向上が確認された。この心拍出量はまた、心臓刺激のタイミングを正弦波状に変調した場合(すなわち、心拍数を変調しても心拍同期は行わない場合)に誘発される心拍出量をも上回った。考察されるように、RSAペーシングが心臓のポンプ効率を向上させる理由には、生物学的な「省エネ」論があり、優れた結果を得るためには、被験者の呼吸および活動パターンの変化によって生じる制約の中で、高レベルのRSAを実現することが重要である。
【0103】
図14は、
図1を参照して前述したような心臓ペーシングデバイス1400の例の概略ブロック図を示している。心臓ペーシングデバイス1400は、前述の信号処理ユニットおよび電気刺激発生器の機能を提供する線形チェーンを備える。信号処理ユニットは、この例では5つのステージを有する。第1のステージへの入力は、dEMG(横隔膜筋電図センサ)入力から提供され得る。dEMGは、筋肉の収縮を検出するための標準的な生物医学的手法である。センサは、横隔膜の収縮に関与する筋肉に埋め込まれ得る。
【0104】
第1のステージでは、可変利得増幅器1402を使用して、相対的に低い振幅のdEMG入力信号を増幅して、増幅された信号を第2のステージに提供する。可変利得増幅器1402は、dEMG信号を回復するために、差動入力構成である低ノイズ、低電力増幅器によって提供され得る。dEMGは、マイクロボルトレベルの信号(10~100マイクロボルトの範囲)を検出し、それを何百、何千倍にも増幅することを伴う。体内には他にも電気的な乱れの原因(心拍(ECG)、骨格筋の収縮と弛緩など)が豊富にある。ペーシングアプリケーションでは、ペーシング信号によって誘発されるECGパルスは数十ミリボルトのオーダーであり、検出されるdEMG信号よりも約100~1000倍強く、横隔膜の収縮に起因する。第2のステージは、整流ユニット1404およびフィルタ1406を備える。フィルタ1406は、例えば、サレンキーフィルタまたはバターワースフィルタであり得る。整流ユニット1404は、整流を通じて、増幅された信号から呼吸信号を回復するように構成される。フィルタ1406は、ノイズを低減するために整流された信号をフィルタリングするように構成される。フィルタ1406の出力は、第3のステージに提供される。
【0105】
第3のステージでは、閾値比較器1408が設けられている。閾値比較器1408は、呼吸信号が吸気相または呼気相のどちらに関連しているかを判定するように構成されている。閾値比較器1408の出力は、第4のステージのスイッチングデバイス1410を制御するために使用される。スイッチングデバイス1410は、
図8(A)、
図9(A)、
図10(A)に示すものと同様の矩形の電流プロファイルを出力し得る。システムは、例えば、呼吸入力が受信されない場合に、デバイスが安全な心拍数範囲にデフォルトで設定されるようなfail-safe方式で動作し得る。
【0106】
第4のステージ1410は、呼吸デューティサイクル、つまり吸気相と呼気相との持続時間を判定する。吸気相(finsp)および呼気相(fexp)の間に求められる心拍数は、第5のステージにおいて、「高パルスレベル」および「低パルスレベル」によってそれぞれ設定される。吸気相の呼気周波数の選択は、閾値比較器1408が、信号が吸気相または呼気相に関連していると判定するかどうかに依存する。
【0107】
第5のステージ1412は、吸気相(f
insp)および呼気相(f
exp)の間に求められる心拍数を提供するように構成される。実際には、「低パルスレベル」と「高パルスレベル」とが第4のステージ1410によって出力される方形電流プロファイルにおける2つの電流レベルI
inspおよびI
expを設定する。この方形電流プロファイルの例は、
図8(A)、
図9(A)、
図10(A)で、呼吸周期と刺激信号周期の整数倍との間の同期に対する偏向を維持するための、呼吸デューティサイクルを示す信号の関数としての刺激信号のタイミングとして示されている。システム1400は、臨床医が、I
inspおよびI
expレベルを設定することによって、呼吸の吸気相および呼気相の各々に対して別個の高および低ペーシング率を設定することを可能にし得る。呼吸信号は、患者の横隔膜の動きから検出され、高速ペーシングと低速ペーシングとの時間窓を判定するために使用される。
【0108】
第5のステージ1410では、電気ペーシング信号のタイミングが、呼吸率およびデューティサイクルへの同期に対する偏向で修正された所望のペーシング率(吸気、f
insp/呼気、f
exp)に基づいて判定される。これらの「自然な」心拍数は、
図3を参照して上述したように、呼吸周期およびデューティサイクルとの相互作用によって修正される。この例では、これらのタイミングを生成するために、スパイキング神経1412が非線形発振器として使用されている。吸気数および呼気数は、1412に注入される矩形の電流プロファイルの2つのレベルによって設定される。スパイキング神経の実装には、セントラル・パターン・ジェネレータ(Central Pattern Generator、CFG)技術を用いることができる。神経発振器の実装例については、
図15A~
図15Cを参照して上で考察されている。
【0109】
いくつかの例では、信号処理ユニットのステージのチェーン全体が、アナログ電子機器によって提供され得る。デジタル実装に対するアナログ実装の利点には、回路の複雑さを軽減し、消費電力を削減し、アナログからデジタルへの変換なしでアナログ入力を直接処理できることなどが挙げられる。アナログチェーン内で生成されたアナログパルスは自然な形状の信号となり、被験者との相互作用を支援し得る。
【0110】
デジタル実装では、消費電力を削減するために、動作周波数を10kHz未満または1kHz未満に維持することができる。デジタル実装は、システムのパフォーマンスを監視できるようにするために動作ログを提供し得る。
【0111】
ペーシング電気信号を生成し、ペーシング出力でペーシング電気信号を提供するために、さらなる可変利得増幅器1414、またはリード駆動回路が提供される。この例では、可変利得出力1414は、
図1を参照して前述した刺激発生器の機能を提供する。
【0112】
前述の方法を実施する心臓ペーシングデバイスの実装の様々な態様を、
図16~
図22を参照して以下に説明する。呼吸入力を混交するペーシング偽像を選択的に抑制し、クリアな呼吸信号が取得されることを可能にする(ECGなしで吸気相と呼気相とを忠実に示す)ようにするために、様々な技術を採用することができる。そのような技術には、
パイロットトーンを使用して寄生(例えば、ECGなど)源の時間遅延オフセットを判定すること、出力を分離すること、
低ピーク需要の出力ステージを使用すること、および
ペーシング刺激ミューティング(またはブランキング)を行うこと、が含まれる。
【0113】
これらの概念の実装については、以下で考察する。
【0114】
いくつかの例では、パイロットトーンは、心臓に実質的な影響を与える範囲外のレベルと周波数で、1つ以上のペーシング電極に供給され得、最適なパフォーマンスのために経路を設定するために使用することを可能にする。動物が動くおよび伸びをすると、経路が変化する可能性が高いため、最適な経路の均等化を動的かつ定期的にリセットすることは有利であり得る。
【0115】
この「コモンモード」信号をキャンセルする一方で、より低いレベルの差動dEMG信号に対する感度を維持するには、心臓刺激点と各dEMGセンサ電極との間の異なる有効経路長を補償(無効化)する方法が有効であり得る。その目的は、ECGなどの不要な信号が、各々の差動EMGセンサ電極に異なるタイミングで到達するようにすることで、(希望する差動信号を増幅するために必要な)高い差動利得による増幅効果を最小限に抑え、増幅器のコモンモード除去能力の範囲内で不要なコモンモード信号を除去することを可能にする。
【0116】
図16は、利得(G)および遅延オフセットキャンセルを備えた差動モード増幅器1602を示している。後者は、dEMGセンサ1604への非対称経路の影響を補償するために使用される。高いコモンモード信号除去デバイスと差動入力とを使用して、呼吸信号の信号対雑音比を改善することができる。dEMGセンサ1604は、被験者の横隔膜1606に設けられ、被験者の心臓1608からオフセットされている。したがって、心臓1608とそれぞれのdEMGセンサ1604との間には異なる経路長が存在する。横隔膜上のdEMGリード1604は、呼吸信号と心臓からのECG信号との2つの信号を選ぶ。遅延オフセットキャンセル付きの差動モード増幅器を設けることで、心拍成分SVを入力からフィルタリングして、利得(G)で増幅された1つの信号が呼吸信号のみ(EMG信号)となるようにする。つまり、dEMGリード線がECG信号をキャンセルし、横隔膜からの呼吸信号のみが増幅される。
【0117】
図17は、dEMGセンサ1704が、被験者の横隔膜1706に設けられ、被験者の心臓1708から等間隔で配置されている例を示している。したがって、心臓1708とそれぞれのdEMGセンサ1704との間の経路長は、同じである。したがって、それぞれのdEMGセンサ1704によって、同じ信号が得られる。差動測定値dEMG=リード線A-リード線Bは、ECG信号を相殺し、横隔膜からの呼吸信号のみを含み、このような理想的な状況では、
図16の増幅器で遅延オフセットを適用する必要はない。
【0118】
図18は、dEMGセンサ1804が被験者の横隔膜1806に設けられ、被験者の心臓1808に対してオフセットされている例を示している。したがって、心臓1808とそれぞれのdEMGセンサ1804との間には異なる経路長が存在する。心臓に最も近いセンサは、さらなるセンサによって得られた信号よりも強い信号を受信し、かつその信号から早い時間に信号を受信する。この場合、差動読み取りdEMGは、ECGから生じる残留偽像を含むことになる。このような場合には、
図16の増幅器の遅延オフセットを調整して、dEMG測定値に対するECGの寄与を相殺する必要がある。
【0119】
光学的絶縁は、ペーシング出力ステージからの電源および接地信号(数ボルトのスイング)が、共通の電源接続を介して呼吸検出信号の高利得増幅器に渡され、微小な不要信号が重畳するのを避けるために使用することができる。スパイキング神経1412とさらなる可変利得増幅器1414との間に1つ以上の光学的絶縁器を使用して区切ることにより、ガルバニック接続が遮断され、2つの分離された電源領域ができ、電源を介した不要な結合が減少する。無線周波数絶縁などの代替技術もまた、使用され得る。
【0120】
dEMG信号の偽のEGGを排除するための代替的でより堅牢な戦略は、ペースメーカ(
図14)が心臓を刺激する相対的に短い時間間隔(約10ms)の間、dEMG入力をブランキングすることである。このブランキング回路は、
図14の整流ステージ(1404)とフィルタリングステージ(1406)との間に挿入される。
図19は、比較器モジュール1902、タイマーモジュール1904、およびスイッチングモジュール1906を備えるEMGブランキング回路1900の例を示しており、この回路は、
図14の整流ユニット1404とフィルタ1406との間に挿入され得る。
【0121】
この例では、タイマーモジュール1904は、電圧源1914と接地1916との間のノード1912において、第1の抵抗器1908と第2の抵抗器1910とが直列に接続された電位分圧器を備える。この例では、電圧源1914は+5Vであり、第1の抵抗器1908は190kΩの値を有し、第2の抵抗器1910は10kΩの値を有しているので、ノード1912の電圧は0.45Vとなる。ノード1912は、演算増幅器1920の非反転入力1918に接続されている。この例では、演算増幅器1920はLM311によって提供される。演算増幅器1920の反転入力1922は、ブランキング回路1900への入力を提供する。
【0122】
タイミングモジュール1904は、LM555集積回路1924、第3の抵抗器1926、第1のコンデンサ1928、および第2のコンデンサ1930を備える。LM555集積回路1924は、従来の様式で番号が付けられた8つの端子を有する。端子1は、接地1916に接続されている。端子2は、演算増幅器1920の出力1932に接続されている。端子3は、LM555集積回路1924の出力を提供する。端子4および端子8は、電圧供給1914に接続されている。端子5は、第2のコンデンサ1928を介して接地1916に結合されている。第2のコンデンサ1928はデカップリングコンデンサであり、10nFの値を有する。第3の抵抗器1926および第1のコンデンサ1930は、電圧源1914と接地1916の間に直列に提供され、ノード1934で一緒に結合される。この組み合わせは、出力パルスの約8msの持続時間を設定するRG時定数を与える。ノード1934は、LM555集積回路1924の端子6および端子7に接続されている。第1のコンデンサ1930の値は100nFを有する。この構成では、タイマーモジュール1904が、第2の端子で低論理レベルのトリガ信号を受信することに応答して、第3の端子で高論理レベルの出力パルスを提供する。この例で選択されたコンポーネント値は、1902においてスパイキング神経V
mem>0.45Vが脱分極するのに続いて、8.2ミリ秒長のブランキング窓を提供している。このV
memは、
図14のスパイキング神経(1412)が出力する膜電圧であり、これにより(増幅器ステージ1414を通過した後)心臓刺激信号が得られる。
【0123】
スイッチングモジュールは、DG419集積回路1936を備える。DG419集積回路1936は、従来の様式でラベル付けされた8つの端子を有する。8.2msのブランキング窓の間、端子1は端子2から切り離され、端子8を介して接地される。端子1は、
図14のフィルタ入力1406に接続され得、端子2は、
図14の整流出力1404に接続され得る。端子1は、
図14のフィルタリング回路1406に供給するための回路1900の最終的な出力を提供することができる。
図19の抵抗器1938は、このフィルタ回路1406の第1の構成要素であり得る。第2の端子は整流ステージの出力を受け取る(
図14の1404)。第3、第5、第7および第8の端子は、接地1916に結合されている。第4の端子は、電圧源1914に結合されている。DG419集積回路1936の第6の端子は、LM555集積回路1924の第3の端子に接続されている。DG419集積回路1936の第6の端子への入力は、第1の端子のフィルタへの出力が第8の端子(接地1916)に接続されるか、または第2の端子(整流ステージの出力から)に接続されるかを制御する。
【0124】
ミューティング回路は、ペーシング刺激の出力Vmemごとにトリガされ、ペーシングパルスとそれに続く生体組織からの減衰発振を含む時間窓にわたって、入力リードを接地して分離することができる。時間窓の持続時間は、大きな偽像を消去することと有用なdEMG信号を消去することの間のトレードオフ関係に基づいて、0~8msに調整することができる。また、心筋を通過するペーシング信号の移動時間は小さいが有限であるため、dEMG入力が心臓から偽のECGフィードバックを受信する前にブランキング回路をトリガすることができる。ブランキング窓は、心拍数周期(約1s)および呼吸周期(約3s)と比較して相対的に小さい(この例ではSms)。ブランキング回路1900の使用もまた、低侵襲性である。
【0125】
図20は、
図19のブランキング回路のコンパレータモジュールの入力で受信したような、被験者に印加された電気刺激パルス2002(
図16では8V、
図17および
図18ではdEMGで示される)のプロファイルと、電気刺激パルス2002を受けた被験者から得られた対応するdEMG信号2003とを示す。dEMG信号2003は、電気刺激パルス2002と一致する一次パルス2004、患者組織から反射された二次パルス2006、および三次パルス2008を含む。ブランキング周期2012の幅(最大25.2ms)は、一次パルス2004と二次パルス2006との間の測定周期(8.5ms)2010に基づいて設定され得る。このようにして、ECG関連パルスをブランキングするためのブランキング時間窓(25ms未満)の較正を実現することができる。
【0126】
図21は、EGGスパイクが、呼吸サイクルと比較して、非常に大きな振幅だが、非常に短い持続時間のパルスであることを示している。これにより、ブランキングアプローチは、ペーシングの影響を補償するための実行可能な非侵襲的アプローチとなる。
【0127】
図22(A)~
図22(C)は、回復した呼吸エンベロープ(上側のトレース)と対応するdEMG信号(下側のトレース)との例を示している。
【0128】
図22(A)は、
図14のテストポイントTP2で回復した呼吸エンベロープ(上側のトレース)が、遅延オフセットの均等化/差動パスの無効化によって偏向しており、ペーシング偽像の混交によって呼吸活動の表現としてエンベロープ(下側のトレースでバーストしているエンベロープ)が使えなくなっている極端なケースを示している。
【0129】
図22(B)は、
図22(A)と同様の信号を示しているが、経路遅延の均等化/無効ポイントが近づくにつれて、回復した呼吸エンベロープが改善されていることが分かる。
【0130】
図22(C)は、dEMG信号中に不要な成分としてペーシングスパイク(下側のトレースで狭いスパイクとして表示されている)が存在するにもかかわらず、高周波成分のフィルタリングと忠実なエンベロープ表現を示す低レベルのdEMG信号からの呼吸エンベロープの正しい回復を示す、上側トレースを示している。
【0131】
図22(C)と同様の結果が、ブランキング回路を用いた場合にも得られる。このアプローチは、以下に説明する動物実験でも使用された。
【0132】
非線形挙動を示すアナログCFGを用いたRSAペーシングの潜在的な利点を示す動物実験のデータが収集されている。
図23Aは、前述の装置および方法を用いてRSA補償ペーシングをヒツジに適用した結果を示している。
【0133】
心拍変動は健康時には存在するが疾患時には失われ、心血管リスクの早期予後指標となるという仮説を、(心拍変動を失った)心不全のヒツジにRSAを復活させ、心臓のポンプ効率への影響を観察することで検証した。
【0134】
この研究では、心不全を誘発するために、すべてのヒツジに透視化した視覚的ガイダンスの下でマイクロビーズを冠動脈内に注射し2~3ヵ月かけて慢性的に症状が現れるようにした。駆出率が70~75%から40~45%に低下した状態で、意識のあるヒツジに慢性的に測定用の器材が装着され、上行大動脈からの血流(心拍出量)、回旋冠動脈からの血流、動脈圧、心拍数、dEMGを測定した。駆出率は心エコー検査を使用して測定された。ヒツジは、RSAまたはモノトニックなペース(コントロール)で4週間、内因性心拍数80拍/分よりも15~20拍/分程度上回るペースで運動させた。RSAの振幅は12拍/分とした。つまり、finsp=112拍/分、fexp=100拍/分のペーシングデバイスを設定した場合、RSA=(finsp-fexp)/fexp=12%となる。追加のヒツジはペーシングされず、時間ベースのコントロールとして機能した。
【0135】
図23Aの上側のグラフは、時間の関数としての心拍出量デルタ値のプロファイルを日単位で示している。RSAペーシングを2~3日行った後、心拍出量は(マーカ2302において)次の4~5日にわたって1~1.2L/分で安定して増加した。この心拍数の改善は、RSAペーシングを中止するまで(マーカ2304)維持された。このような状況で、RSAペーシングに戻すと、再び心拍出量が増加した。
【0136】
図23Aの下側のグラフは、実験中のヒツジの駆出率を時間の関数として示す。駆出率はRSAペーシング中に約55%上昇した。動脈圧に明らかな変化はなかった。RSAペーシングを4週間続けた後、ペーシングを中断した(2304)。心拍出量の増加は2~3日は維持されたが、その後はRSAペーシングを行う前のレベルまで、あるいはそれ以下に減少した。後者は、RSAペーシングが心筋の何らかの記憶または逆リモデリングを誘発したことを示唆している。対照的に、
図23Bに示すように、モノトニックなペーシングしたヒツジ(n=4)では、心拍出量の減少が見られ、時間的にも減少が見られた(n=2)。
【0137】
RSAペーシングは、心不全のヒツジにおいて、心臓のポンプ効率を(心拍出量および駆出率の増加を介して)大幅に改善することが示された。その効果の大きさは、心拍出量が予想外にも18%増加することである。