(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】生体分子の標識
(51)【国際特許分類】
G01N 33/58 20060101AFI20240819BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G01N33/58 A
C12N15/10 Z
(21)【出願番号】P 2022517893
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 GB2020052264
(87)【国際公開番号】W WO2021053347
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-03
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】524191804
【氏名又は名称】タゴミクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ニーリー
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ・フェルナンデス-トリッロ
(72)【発明者】
【氏名】エロディ・ジャグ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ウィルキンソン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-539166(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105596(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0178086(US,A1)
【文献】Alexandra Plotnikova et al,Selective Covalent Labeling of miRNA and siRNA Duplexes Using HEN1 Methyltransferase,2014年08月29日,136(39),13550-13553
【文献】Lea Anhauser et al,Reversible modification of DNA by methyltransferase-catalyzed transfer and light-triggered removal of photo-caging groups,Chemical Communications,2018年01月16日,54(5),449-451
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、生体分子を可逆的に標識する方法:
a. リンカー分子を供給する工程であって、リンカー分子が、反応中心を含む第1の官能基、反応中心を含む第2の官能基、及び切断可能
な部分を含む、工程;
b. 生体分子と第1の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程;
c. 第1の標識と第2の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程;
d. リンカー分子の切断可能な部分を切断
して、第1の標識を除去し、且つ反応中心を含む第3の官能基を形成する工程;
e. 更なる分子と第3の官能基の反応中心との間に共有結合を形成して、切断可能な部
分を再形成する工程。
【請求項2】
更なる分子が第4の官能基を
含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の標識と第4の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程fを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
切断可能な部分を切断
して、第2の標識を除去し、且つ第3の官能基を再形成する工程を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
更なる分子と第3の官能基との間に共有結合を形成して、切断可能な部
分を再形成する工程hを更に
含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更なる分子が第2の標識を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
リンカー分子が以下の一般式を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法:
【化1】
式中、FGは、反応中心を含む第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは合わせて、切断可能な部
分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結から選択される非反応性基を表す;
LGは、反応中心を含む第1の官能基を表す。
【請求項8】
Zが、ポリエーテル
鎖を表す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
切断可能な部分A-B-Cが以下の部分のうちの1つを表す、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法:
【化2】
式中、R
Xが、水素原子、重水素原子、脂肪族連結、又は芳香族連結のうちの1つを表す。
【請求項10】
生体分子がポリヌクレオチ
ドである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
リンカー分子がS-アデノシル-l-メチオニン補因子の類似体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
生体分子と第1の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程bが、触
媒を供給する工程を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
触媒が、S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体からアルキル基を転移する能力があるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
11~13のいずれか一項に記載の方法:
【化3】
式中、FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部
分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
W-は、対イオンである。
【請求項15】
Uが、スルホニウム中心のβ位
にあるアルケン又はアルキンである、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
14又は
15に記載の方法:
【化4】
。
【請求項17】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
14又は
15に記載の方法:
【化5】
。
【請求項18】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
14又は
15に記載の方法:
【化6】
式中、切断可能な部分は、C=N-X-C-Q部分を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の
数;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を
表す;
Qは、独立して炭素中心と結合した、酸素原子、又は2個の水素原子、又は1個若しくは複
数の重水素原子のうちの1つを表す;
Xは、酸素原子又は窒素原子のうちの1つを表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【請求項19】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
14、
15、
16、又は
18のいずれか一項に記載の方法:
【化7】
式中、切断可能な部分は、-C=N-N-C=O結合を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の
数;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を
表す;
qは、1~15の間の
数;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を
表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【請求項20】
リンカー分子が以下の一般式を有する、請求項
14、
15、
16、又は
18のいずれか一項に記載の方法:
【化8】
式中、切断可能な部分は、-C=N-O-結合を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の
数;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を
表す;
qは、1~15の間の
数;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を
表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【請求項21】
第2の官能基FGがアジド部分である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
第1の標識と第2の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程が、炭素-窒素共有結合を形成する
、アジド部分
のアルキン部分との反応を含む、請求項1~
21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
リンカー分子の切断可能な部分を切
断して、標
識を除去し、且つ第3の官能基を形成する工程が
、ヒドロキシルアミンでの処理を含む、請求項1~
22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
1つ又は複数の標
識が、蛍光分子、放射性種
、又は生物学的分子のうちの1つ又は複数を含む、請求項1~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
更なる分子と第3の官能基との間に共有結合を形成して、切断可能
な部分を再形成する工程が、炭素-窒素二重結
合を形成する、NH
2部分の更なる分子上のアルデヒド部分との反応を更に含む、請求項1~
24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、ポリヌクレオチド分
子を可逆的に標識する方法:
a. 以下の一般式を有するリンカー分
子を供給する工程:
【化9】
[式中、Rは、転移可能な基を表す;
FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部
分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
kは、1又は2の整数を表す];
b. 化合物Aを補因子として用いる能力があるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を、化合物AのR基の、ポリヌクレオチド分子上への転移を可能にする条件下で用いて、ポリヌクレオチド分子と化合物AのR基との間に共有結合を形成する工程;
c. 第1の標識と、化合物Aの第2の官能基FGとの間に共有結合を形成する工程;
d. リンカー分子の切断可能な部分又は加水分解性の部
分を加水分解して、第1の標識を除去し、且つO-置換型ヒドロキシルアミン又はN-置換型ヒドラゾンを形成する工程;
e. 更なる分子のアルデヒド部分と、O-置換型ヒドロキシルアミン又はN-置換型ヒドラゾンとの間に共有結合を形成して、シッフ塩基部分を再形成する工程。
【請求項27】
第1の官能基LGが
、ハロゲ
ンを表す、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に、生体分子の標識に関する。より具体的には、排他的ではないが、この発明は、生体分子を可逆的に標識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオコンジュゲーションは、共有結合が生体分子と第2の分子との間に形成される化学的ストラテジーである。第2の分子は、タグ又は標識として働き得、その場合、第2の分子は、生体分子に新しい性質を与える。第2の分子は、例として、細胞事象を追跡する、酵素機能を決定する、薬物送達を測定する等のために、生体分子の位置及び/又は濃度の測定に用いるのに適している性質を与え得る。第2の分子は、例として、検出アッセイに用いるのに適した蛍光分子、放射性種、及び/又は異なる生体分子であり得る。或いは、第2の分子は、それが生体分子をある特定の環境においてより可溶に又はより安定にするように、選択され得る。他の場合では、第2の分子は、別の生体分子をターゲットするために用いられ得る。
【0003】
いくつかの単純なコンジュゲーション化学反応は、生体分子の部位選択的な化学修飾(又は官能化)に適用されるものの中心となっている(例として、Hermanson, G. T. Bioconjugate Techniques、2013; Bioconjugated Oligonucleotides: Recent Developments and Therapeutic Applications. Bioconjug. Chem. 2019; Contemporary Approaches to Site-Selective Protein Modification. Nat. Rev. Chem. 2019)。これらの化学反応は、様々な操作、次の分析が典型的に依存するソーティング及び標識実験を支えている。
【0004】
しかしながら、いつも、これらの方法論の焦点は、標的生体分子と必要な官能性部分との間の安定な連結を開発することに合わされている。したがって、官能化は、生体分子の研究を、単一の分析過程に限定し得る。このアプローチは、細胞行動を観察することへの統合的アプローチが益々重要になりつつある細胞生物学における最近の研究にはそぐわない。
【0005】
これらの問題の1つ又は複数に取り組むための最近の努力としては、以下の先行技術が挙げられる。Bernadesらは、部位特異的タンパク質修飾とパラジウム媒介性生体直交型脱ケージ化(decaging)を同時に可能にする二官能性リンカーの開発を報告している。これは、プロパルギルカルバメートリンカーにおけるチオエーテル結合モチーフ及び容易に入手可能なパラジウム複合体により可能になった(Bernadesら、Chem. Sci.、2018、9、4185頁、Angew. Chem. Int. Ed. 57巻、36、2018; Chem. Sci.、2016、7、4589~4593頁)。
【0006】
内因性メチルトランスフェラーゼ酵素の活性をモニターするためのツールとして、タンパク質の捕獲及び遊離における切断可能なジアゾ結合を用いることもまた報告されている(Louら、J. Am. Chem. Soc. 2012、134、36、14905~14912頁)。標識及び捕獲後、タンパク質は、ジアゾ基の亜ジチオン酸ナトリウムでの切断により遊離され得る。
【0007】
標識部分がUV光を用いて除去される可逆的mTAG標識ストラテジーが報告されている(Chem. Commun.、2018、54、449~451頁)。光でトリガーされる除去は絶対的であり、つまり、DNA分子の繰り返し標識が必要であった。加えて、標識部分は、更なる官能化のための官能性を含まなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hermanson, G. T. Bioconjugate Techniques、2013
【文献】Bioconjugated Oligonucleotides: Recent Developments and Therapeutic Applications. Bioconjug. Chem. 2019
【文献】Contemporary Approaches to Site-Selective Protein Modification. Nat. Rev. Chem. 2019
【文献】Bernadesら、Chem. Sci.、2018、9、4185頁
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. 57巻、36、2018
【文献】Chem. Sci.、2016、7、4589~4593頁
【文献】Louら、J. Am. Chem. Soc. 2012、134、36、14905~14912頁
【文献】Chem. Commun.、2018、54、449~451頁
【文献】Holligerら、Chem. Comm. 2009参照
【文献】Hollensteinら、ChemBiochem 2019
【文献】Deen, J.ら、Angew Chem Int Ed 2016
【文献】Wangら、Chem. Rev. 2018
【文献】Distefanoら、Chem. Rev. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、生体分子を第2の分子、例として、標識と可逆的に連結する生体直交型方法を提供することが、本発明の第1の非排他的目的である。複数の分析が単一の試料に連続的に実施され得るようにエンドレスサイクルで生体分子を標識し、非標識化し、及び再標識する生体直交型方法を提供することは、本発明の更なる非排他的目的である。第2の又は更なる分子を回収する生体直交型方法を提供することは、本発明の更なる非排他的目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の第1の態様は、以下の工程を含む、生体分子を可逆的に標識する方法を提供する:
a. リンカー分子を供給する工程であって、リンカー分子が、反応中心を含む第1の官能基、反応中心を含む第2の官能基、及び切断可能な、例えば加水分解性の部分を含む、工程;
b. 生体分子と第1の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程;
c. 第1の標識と第2の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程;
d. リンカー分子の切断可能な部分を切断し、例えば、加水分解性の部分を加水分解して、第1の標識を除去し、且つ反応中心を含む第3の官能基を形成する工程;
e. 更なる分子と第3の官能基の反応中心との間に共有結合を形成して、切断可能な部分、例えば加水分解性の部分を再形成する工程。
【0012】
有利には、本発明の方法におけるリンカー分子の切断可能な部分又は結合、例えば加水分解性の部分又は結合は、統合的アプローチにおいて生体分子上へ官能性を部位選択的に書き込み、修飾し、消去し、及び書き換えるために用いられ得る。本発明の方法は、例として、材料が限定される単一細胞分析において、用いられ得る。本発明の方法を用いて、複数の分析方法を組み合わせることにより、細胞行動の新しく、より全体論的な理解が可能である。より有利には、リンカー分子、標識、及び生体分子は、必要とされる分析が実施された後、元に戻され得る。
【0013】
実施形態において、切断可能な部分は加水分解性の部分である。加水分解性の部分は、シッフ塩基、例として、イミン部分、オキシム部分、及び/又はヒドラゾン部分であり得る。
【0014】
実施形態において、加水分解性の結合は、ジスルフィド(S-S)結合を含み得る。
【0015】
実施形態において、更なる分子は、反応中心を含む第4の官能基を含み得る。第4の官能基は、第2の官能基と同じ官能基であってもよい。
【0016】
実施形態において、方法は、第2の標識と第4の官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程fを更に含み得る。実施形態において、方法は、切断可能な部分を切断し、例えば、加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を加水分解して、第2の標識を除去し、且つ第3の官能基を再形成する工程gを更に含み得る。実施形態において、方法は、更なる分子と第3の官能基との間に共有結合を形成して、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を再形成する工程hを更に含み得る。実施形態において、工程eの更なる分子は、工程hと同じ種であってもよい。
【0017】
実施形態において、工程cは、工程bの前に実施される。代替の実施形態において、工程bは工程cの前に実施される。
【0018】
実施形態において、工程bは、第1の官能基の反応中心を曝露するために脱離基を除去する、事前又は同時期の工程を含み得る。実施形態において、工程cは、第2の官能基の反応中心を曝露するために脱離基を除去する、事前又は同時期の工程を含み得る。
【0019】
実施形態において、更なる分子は、標識を含み得る。方法は、標識を含む更なる分子と第3の官能基との間に共有結合を形成して、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を再形成する工程iを含み得る。この種が、本発明の方法における工程cの反応生成物に取って代わり得ることは、理解されるべきである。例として、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分は、加水分解されて、標識を除去し、且つ反応中心を含む官能基(例えば、第3の官能基)を形成し得る。方法は、更なる分子と官能基(例えば、第3の官能基)の反応中心との間に共有結合を形成して、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分を再形成する工程を更に含み得る。
【0020】
実施形態において、工程c、d、e、f、及びgは、連続的に実施されて、エンドレス又は閉じたサイクルで繰り返され得る。有利には、これは、生体分子の第1の標識、第2の標識、及び第nの標識での連続的な可逆的標識を可能にする。
【0021】
リンカー分子は、以下の一般式を有し得る:
【0022】
【0023】
式中、FGは、反応中心を含む第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは合わせて、切断可能な部分、例えば加水分解性の部分(例えば、シッフ塩基部分)を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結から選択される非反応性基を表す;
LGは、反応中心を含む第1の官能基を表す。
【0024】
実施形態において、第1の、第2の、第3の、又は第nの官能基の反応中心は、カルボカチオンを含み得る。代替の実施形態において、第1の、第2の、第3の、又は第nの官能基は反応中心を表し得、例として、その反応中心は、例えば、(例えば第1の標識上の)アルキン部分とのクリックケミストリー反応において、アジド部分を含み得る。反応中心は、例えば、(例えば第1の標識上の)アジド部分と反応を起こす、アルケン又はアルキン部分を含み得る。
【0025】
実施形態において、第2の官能基FGは、ハライド(例えば、F、Cl、Br、又はI原子)、不飽和結合(例えば、アルケン、アルキン)、アジド、活性化エステル、活性化カルボネート、カルバメート、エポキシド、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る。
【0026】
好ましくは、第2の官能基FGはアジド部分である。
【0027】
実施形態において、第1の官能基LGは、生体分子の化学的又は酵素的方法による部位選択的標識を可能にする官能基又は化学的実体である。
【0028】
実施形態において、第1の官能基LGは、ハライド、スルホネート(例えば、メシレート、トシレート)、ヨードニウム塩、アセテート、アクリレート(例えば、メタクリレート)、アクリルアミド(例えば、メタクリルアミド)、マレイミド(例えば、ブロモマレイミド、ジブロモマレイミド)、ブロモピリダジンジオン、プロパルギルエステル、プロパルギルアミド、α-ブロモエステル、α-ブロモアミド、3-アリールプロピオニトリル、-CH2で置換された三価スルホニウムイオン、ハライド(例えば、F、Cl、Br、又はI原子)、不飽和結合(例えば、アルケン、アルキン)、アジド、活性化エステル及び活性化カルボネート、カルバメート、エポキシド、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る。
【0029】
実施形態において、第1の官能基LGは、例として、生体分子上のフェノール(例えば、チロシン)と反応を起こすための、ジアゾニウム塩又はジアゾカルボキシレートを含み得る。
【0030】
好ましい実施形態において、第1の官能基LGは、例として、生体分子上のチオール(例えば、システイン)と部位選択的反応を起こすための、ニトリル部分、例えば、3-アリールプロピオニトリルを含む。
【0031】
実施形態において、第1の官能基LGは、反応中に脱離して、反応中心を露出させる脱離基を含む。
【0032】
好ましくは、第1の官能基LGの反応中心は、生体分子上のチオール部分との反応を起こす。
【0033】
実施形態において、第1の官能基LGは、ハロゲン、例えば、臭素原子であり、反応中心はカルボカチオンである。
【0034】
ある実施形態において、第1の官能基LGは、生体分子の酵素媒介性標識に用いるのに適した化学的部分である。前記化学的部分の例としては、以下が挙げられるが、以下の方法に限定されない:ポリメラーゼ依存性標識(Holligerら、Chem. Comm. 2009参照)又は末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ依存性標識(Hollensteinら、ChemBiochem 2019参照)のための修飾ヌクレオチド;MTアーゼ標識のためのS-アデノシルメチオニン誘導体(Deen, J.ら、Angew Chem Int Ed 2016参照);グリコシル化のためのグリコシル供与体、例えば、ハロゲン化グリコシル、グリカンオキサゾリン、及び他のグリコシド;関連酵素、例えば、グリコシダーゼ、エンドグリコシンターゼ、グリコシンターゼ、グリコセラミダーゼ、又はグリコシルトランスフェラーゼ(Wangら、Chem. Rev. 2018参照);ソルターゼA依存性ライゲーションのためのソルターゼ基質(例えば、LPTXG)(Distefanoら、Chem. Rev. 2018参照);トランスグルタミナーゼ依存性ライゲーションのためのQタグ及びKタグ(例えば、LLQG)(Distefanoら、Chem. Rev. 2018参照);チロシンリガーゼ依存性標識のためのチロシン及び誘導体(Distefanoら、Chem. Rev. 2018参照);ファルネシルトランスフェラーゼ依存性標識のためのファルネシル二リン酸(FPP)誘導体(Distefanoら、Chem. Rev. 2018参照);N-ミリストイルトランスフェラーゼ依存性標識のためのミリストイル-CoA誘導体(Distefanoら、Chem. Rev. 2018参照)。
【0035】
更なる好ましい実施形態において、第1の官能基LGは、S-アデノシルメチオニン誘導体である。別の好ましい実施形態において、第1の官能基LGは、S-アデノシル-l-ホモシステイン誘導体である。
【0036】
第2の官能基FG及び/又は第1の官能基LGは、それぞれ、標識又は生体分子と、化学反応(例えば、クリックケミストリー)又は化学酵素的反応(例えば、酵素媒介性反応における)によって、反応し得ると理解される。任意の適切な官能基は、切断可能な(例えば、加水分解性の)部分A-B-Cに対して生体直交型である反応のためのFG及び/又はLGとして選択され得る。例えば、第1の官能基LG又は第2の官能基FG、及び生体分子、及び標識、それぞれに関与する適切な反応としては、クリックケミストリー、環化付加、Staudinger反応、エポキシド開環反応、求核置換、及び/又は求核付加が挙げられる。
【0037】
好ましくは、FG及びLGは異なる型の官能基である。
【0038】
好ましい実施形態において、FGは、アジド部分であり、LGは、S-アデノシル-L-ホモシステイン部分である。別の好ましい実施形態において、FGはアジド部分であり、LGは臭素部分である。
【0039】
実施形態において、リンカー分子は、以下の一般式を有し得る:
【0040】
【0041】
式中、FG、Z、A-B-C、及びLGは、上記のように定義される;Uは、アルケン、アルキン、アルケニル、又は芳香族基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;M及びNは独立して、水素原子、重水素原子、脂肪族基、芳香族基のうちの1つから選択される非反応性基を表す。
【0042】
例として、メチレン(例えば、CH2)連結を形成するように、M及びNは、両方とも水素原子(又は1個若しくは複数の重水素原子)であり得る。或いは、CHR連結を形成するようにM又はNの1つが脂肪族又は芳香族基を表し得る。或いは、CR1R2連結を形成するようにMとNの両方が、脂肪族又は芳香族基(R1、R2)を表し得る。
【0043】
実施形態において、Zは、1個から20個の間の原子(例えば、炭素原子、酸素原子、及び/又は窒素原子)を含む非反応性脂肪族連結又は芳香族連結を表す。脂肪族及び/又は芳香族連結は、炭化水素骨格及び/又はポリエーテル骨格を含み得る。追加として又は代替として、Zは、アリール部分を含む芳香族連結、例として、2つの置換基を含むC6H4アレーン環、例えば、オルト-、メタ-、又はパラ-置換型アレーン環であり得る。
【0044】
実施形態において、Zは、ポリエーテル鎖、例えば、最大10個のエチレングリコールのモノマー、例えば、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、又は1個のエチレングリコールのモノマーを含むポリエチレングリコール鎖を表す。追加として又は代替として、Zは、芳香族基、例えばC6H4(C=O)NH基を含み得る。
【0045】
例えば、リンカー分子は、以下の一般的構造を有し得る:
【0046】
【0047】
式中、FG、A-B-C、Y、及びLGは、上記のように定義される;qは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を表す。実施形態において、qは2又は3である。
【0048】
例として、実施形態において、リンカー分子は以下の一般的構造を有し得る:
【0049】
【0050】
式中、FG、q、A-B-C、Y、U、M、N、及びFGは上記又は下記のように定義される。
【0051】
実施形態において、加水分解性の部分はシッフ塩基部分である。実施形態において、シッフ塩基部分A-B-Cは以下の部分の1つを表す:
【0052】
【0053】
式中、RXは、水素原子、重水素原子、脂肪族連結、又は芳香族連結のうちの1つを表す。
【0054】
実施形態において、Yは、例えば、リンカー分子の骨格において1個から15個の間の原子、例えば、骨格において1~10個又は1~5個の間の原子を含む、非反応性脂肪族又は芳香族鎖を表す。実施形態において、Yは、1~15個の間のCH2部分、例えば、1~10個の間のCH2部分、又は1~5個の間のCH2部分を含む非反応性脂肪族又は芳香族鎖を表す。
【0055】
実施形態において、第3の官能基は、加水分解性の部分、例えば、上記のシッフ塩基の、例としてヒドロキシルアミンを用いる、加水分解によって形成される。第3の官能基はNH2部分を含み得る。
【0056】
好ましい実施形態において、シッフ塩基部分はN-置換型ヒドラゾン又はO-置換型オキシムである。
【0057】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0058】
【0059】
式中、pは、CH2基の数を表し、pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数である。実施形態において、pは4を表し、すなわち、Yは(CH2)4を表す。
【0060】
実施形態において、Uはアルキンである。実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0061】
【0062】
式中、FG、Z、A-B-C、Y、及びLGは上記のように定義される。
【0063】
代替の実施形態において、Uはアルケンである。実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0064】
【0065】
式中、FG、Z、A-B-C、Y、及びLGは上記のように定義される。
【0066】
実施形態において、生体分子はペプチド、すなわち、アミノ酸のポリマーである。実施形態において、ペプチドは、チオール部分を含むアミノ酸、例えば、システイン部分を含有する。
【0067】
実施形態において、第1の官能基LGは、チオール部分との求核置換反応において脱離基として働き得る部分を含む。実施形態において、LGは、ハライド(例えば、F、Cl、Br、又はI)、スルホネート(例えば、メシレート、トシレート)、ヨードニウム塩、アセテート、アクリレート(例えば、メタクリレート)、アクリルアミド(例えば、メタクリルアミド)、マレイミド(例えば、ブロモマレイミド、ジブロモマレイミド)、ブロモピリダジンジオン、プロパルギルエステル、プロパルギルアミド、α-ブロモエステル、α-ブロモアミド、3-アリールプロピオニトリル、-CH2で置換された三価スルホニウムイオン、不飽和結合(例えば、アルケン、アルキン)、アジド、活性化エステル及び活性化カルボネート、カルバメート、エポキシド、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分の1つである。
【0068】
実施形態において、アミノ酸及び/又はペプチド及び/又はタンパク質を標識するためのリンカー分子は以下の一般式を有する:
【0069】
【0070】
式中、FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;及び
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す。
【0071】
実施形態において、Uは、アルキンを表し得る。実施形態において、リンカー分子は、以下の一般式を有し得る:
【0072】
【0073】
代替の実施形態において、Uはアルケンを表す。実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有し得る:
【0074】
【0075】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有し得る:
【0076】
【0077】
式中、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分は、C=N-X-C-Q部分を含むシッフ塩基部分である;
Uはアルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
Qは、独立して炭素中心と結合した、酸素原子、2個の水素原子、又は重水素原子のうちの1つを表す;
Xは、酸素原子又は窒素原子の1つを表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
FGは第2の官能基を表す。
【0078】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0079】
【0080】
式中、シッフ塩基部分は、-C=N-N-C=O結合である;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
qは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を表し、例えば、qは2又は3を表し得る;
FGは、第2の官能基を表す。
【0081】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0082】
【0083】
式中、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分は、-C=N-O-結合を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
qは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を表し、例えば、qは2又は3を表し得る;
FGは、第2の官能基を表す。
【0084】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0085】
【0086】
式中、pは4であり、qは2又は3である。
【0087】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0088】
【0089】
式中、pは4であり、qは2又は3である。
【0090】
実施形態において、生体分子は、ポリヌクレオチド、例えば、DNA又はRNAの鎖である。
【0091】
実施形態において、第1の官能基LGは、R基を含む、CH2で置換された三価スルホニウムイオンを含み、例えば、R基は、FG-Z-A-B-C-Y-U-CH2-によって表され、リンカー分子のCH2基と、アルキル化が可能な生体分子の原子との間に共有結合を形成するために使用可能であり得る。例として、リンカー分子は、S-アデノシル-l-ホモシステインの誘導体であり得、LGがS-アデノシル-l-ホモシステインである。この実施形態において、第1の官能基LGの反応中心は、スルホニウム中心と結合したR基の炭素原子である。
【0092】
実施形態において、リンカー分子は、酵素媒介性反応に用いられる補因子である。実施形態において、リンカー分子は、S-アデノシル-L-メチオニン補因子の類似体である。
【0093】
実施形態において、生体分子と第1の官能基との間に共有結合を形成する工程bは、触媒、例として酵素、例えば、S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体からアルキル基を転移する能力があるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を供給する工程を更に含み得る。
【0094】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0095】
【0096】
式中、FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
W-は、対イオンである。
【0097】
対イオンW-は、炭酸陰イオン(CO3
2-)、炭化水素陰イオン(HCO3
-)、テトラフルオロホウ酸陰イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロリン酸陰イオン(PF6
-)、酢酸陰イオン(OAc-)、トリフルオロ酢酸陰イオン、ギ酸陰イオン、ハライド(例えば、F-、Cl-、Br-、I-)、又はスルホン酸陰イオンの1つ又は複数であり得る。以下の実施形態は、スルホニウムイオンを含み、且つ対イオンも含むが、これは示されていない。
【0098】
有利には、リンカー分子は、ポリヌクレオチドを書き込み、消去し、及び書き換えるための本発明による方法に用いられ得る。先行技術において、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、及びタンパク質を研究するための、確立された及び新たに登場したアプローチは、それらのビオチン又はフルオロフォア等の化学官能基とのコンジュゲーションに頼る場合が多い。これらの官能性は、免疫沈降を用いる日常的な精製から蛍光画像化等の先端分析研究までの操作を可能にする。しかしながら、化学官能性を生体分子へ連結するために用いられる方法の現在の数々のバイオコンジュゲーション化学反応は、大部分、不活性である。それゆえに、そのコンジュゲーションは、その後の作業を単一の適用又は分析に焦点を合わせている。
【0099】
メチルトランスフェラーゼ(MTアーゼ)は、DNA、RNA、及びタンパク質の部位選択的修飾のための重要なツールとして浮上している。本来、メチルトランスフェラーゼ酵素は、メチル基をS-アデノシル-l-メチオニン補因子からDNA又はRNAへの非常に特異的な転移を触媒する。これらのクラスの生体分子へのメチル基の導入は、細胞内で遺伝子発現レベルを制御するのを助ける。これは、ヒストンのメチル化によるクロマチン構造の修飾か又はDNA及びRNAの直接的メチル化のいずれかを通してであり得る。
【0100】
mTAG標識において、メチル基が異なる部分、例えばリンカー部分又は標識と交換されているS-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体が、用いられる。その後、メチルトランスフェラーゼ酵素は、その修飾補因子を用いて、標的生体分子をその異なる部分でアルキル化するために用いられ得る。天然に存在するS-アデノシル-l-メチオニン補因子の化学構造を操作することにより、この標識過程を、生体分子への官能基の共有結合性導入のための方法として用いることが可能である。リンカー部分は、生体分子に、例えば、標識、タグ、又は更なる生体分子で、更に官能性をもたせるために使用可能であり得る、更なる官能性を含み得る。この方法論を用いて探索される最も一般的な適用の1つは、マッピングのためのフルオロフォアの導入のためのクリック可能な基のDNAへの導入である。
【0101】
EP第1712557号は、mTAGを用いてバイオポリマーを標識する方法を記載する。S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体の、延長された飽和アルキル基のDNAバイオポリマーへの転移への反応性は、不飽和の炭素-炭素結合、例えば、アルケン、アルキン、又は芳香族置換基をスルホニウム中心のβ位に付加することにより向上し得ることが示されている。
【0102】
ポリヌクレオチド生体分子を可逆的に標識する方法のいくつかの報告がある。例として、mTAG標識を用い、続いて、酸化還元試薬ジチオスレイトール(DTT)を用いて、切断可能なジスルフィド結合を含む架橋試薬とカップリングさせることもまた、知られている。これは、シーケンシングのためのDNA分子の捕獲及び遊離を可能にする。しかしながら、ジスルフィド化学は、生物学的系においてそれの使用を制限するいくつかの欠点を有する。例えば、チオールは、たいていの生物学的試料及びバッファーに存在する。これは、競合反応により、標識される生体分子の効率の低下をもたらす。更に、システインの酸化状態がタンパク質の3D構造を決定する場合が多く、それゆえに、酸化状態の変化がタンパク質変性をもたらすため、ジスルフィド化学を、タンパク質に適用することができない。
【0103】
記載されたリンカー分子を用いる本発明の方法は生体直交型である。
【0104】
有利には、三価スルホニウムイオンを含む本発明の実施形態によるリンカー分子は、スルホニウム中心のβ位に不飽和部分Uを含む。これは、メチルトランスフェラーゼ酵素を用いるポリヌクレオチド生体分子のアルキル化へのリンカー分子の反応性を増強する。
【0105】
実施形態において、Uは、アルキンを表し得る。実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有し得る:
【0106】
【0107】
式中、FG、Z、A-B-C、Y、kは上記のように定義される。
【0108】
代替の実施形態において、Uはアルケンを表し得る。実施形態において、リンカー分子は、以下の一般式を有し得る:
【0109】
【0110】
式中、FG、Z、A-B-C、Y、kは上記のように定義される。
【0111】
実施形態において、リンカー分子は、以下の一般式を有し得る:
【0112】
【0113】
式中、切断可能な部分、例えば加水分解性の部分は、C=N-X-C-Q部分を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
Qは、独立して炭素中心と結合した、酸素原子、又は2個の水素原子、又は重水素原子のうちの1つを表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
Xは、酸素原子又は窒素原子の1つを表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【0114】
実施形態において、リンカー分子は、以下の一般式を有する:
【0115】
【0116】
式中、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分は、-C=N-N-C=O結合を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
qは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を表し、例えば、qは2又は3を表し得る;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【0117】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0118】
【0119】
式中、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分は、-C=N-O-結合を含むシッフ塩基部分である;
pは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数を表し、例えば、pは4であり得る;
qは、1~15の間の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は1~10の間の数;又は1~5の間の数、又は1~4、若しくは1~3、若しくは1~2の間の数を表し、例えば、qは2又は3を表し得る;
kは、1又は2の整数を表す;及び
FGは、第2の官能基を表す。
【0120】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0121】
【0122】
式中、pは4であり、qは2又は3であり、kは上記のように定義される。
【0123】
実施形態において、リンカー分子は以下の一般式を有する:
【0124】
【0125】
式中、pは4であり、qは2又は3であり、kは上記のように定義される。
【0126】
実施形態において、リンカー分子の切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を加水分解して、標識、例えば第1の標識又は第nの標識を除去し、且つ第3の官能基を形成する工程は、例として、例えばpH4での、酢酸アンモニウムバッファー溶液中の、ヒドロキシルアミンでの処理を含み得る。
【0127】
代替の実施形態において、シッフ塩基部分を加水分解することは、リンカー分子を加熱すること、及び/又は酸での処理を含み得る。
【0128】
本発明の方法において、第1の官能基の反応中心は、生体分子と反応して、共有結合を形成する。生体分子は、リンカー分子の第1の官能基と反応して、共有結合を形成する能力がある官能基を含む。これは、化学反応又は酵素媒介性反応を含み得る。有利には、リンカー分子の第1の官能基は、特定の生体分子上の特定の官能基と反応するように選択され得る。実施形態において、生体分子と第1の官能基の反応中心との間に形成される共有結合は、例えば、炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、炭素-イオウ結合、又は炭素-酸素結合であり得る。
【0129】
実施形態において、第2及び/又は第4の官能基FGは、ハライド(例えば、F、Cl、Br、又はI原子)、不飽和結合(例えば、アルケン、アルキン)、アジド、活性化エステル、活性化カルボネート、カルバメート、エポキシド、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る。本発明の方法において、第2の官能基の反応中心は、第1の標識と反応して、共有結合を形成する。第1の標識は、リンカー分子の第1の官能基と反応して、共有結合を形成する能力がある官能基を含む。有利には、リンカー分子の第2の官能基は、特定の標識上の特定の官能基と反応するように選択され得る。第2の官能基が、例としてアジド部分を含む実施形態において、第1、第2、又は第nのリンカーの官能基は、クリックケミストリーによってアジド部分と反応する能力があるアルキン基であり得る。実施形態において、リンカー分子と標識との間に形成される共有結合は、例えばアジドとアルキンの反応から形成される、炭素-窒素結合であり得る。
【0130】
実施形態において、1つ又は複数の標識、例えば、第1の標識、第2の標識、及び/又は第nの標識は、蛍光分子、放射性種、及び/又はビオチン等の生物学的分子のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0131】
第3の官能基は、リンカー分子の加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分の加水分解により形成される。実施形態において、第3の官能基は、O-置換型ヒドロキシルアミン部分又はN-置換型ヒドラゾン部分のNH2基を含む。
【0132】
第3の官能基は、更なる分子と反応して共有結合を形成することにより、加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を再形成するための方法において使用可能である。実施形態において、更なる分子は、第3の官能基、例えば、NH2部分と反応して、シッフ塩基を再形成する能力がある、アルデヒド部分を含む。共有結合は、炭素-窒素二重結合、すなわち、C=Nを含み得る。
【0133】
実施形態において、更なる分子は、以下の一般式により表される:
【0134】
【0135】
式中、R2は、水素原子、重水素原子、脂肪族若しくは芳香族部分、又はヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、イオウ)のうちの1つを表す;
R3は、脂肪族部分又は芳香族部分のうちの1つを表す;
FGは、例えばアジド、アルキン、イソチオシアネート、若しくはイソシアネート部分、又は標識のうちの1つから選択される、第2の官能基を表す。
【0136】
実施形態において、更なる分子は、以下の一般式により表される:
【0137】
【0138】
本発明の更なる態様は、以下の工程を含む、ポリヌクレオチド分子、例えばDNAを可逆的に標識する方法を提供する:
a. 以下の一般式を有するリンカー分子(化合物A)を供給する工程:
【0139】
【0140】
[式中、Rは、転移可能な基を表す;
FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
kは、1又は2の整数を表す];
b. 化合物Aを補因子として用いる能力があるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を、化合物AのR基の、ポリヌクレオチド分子上への転移を可能にする条件下で用いて、ポリヌクレオチド分子と化合物AのR基との間に共有結合を形成する工程;
c. 第1の標識と、化合物Aの第2の官能基FGとの間に共有結合を形成する工程;
d. リンカー分子の切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を加水分解して、第1の標識を除去し、且つO-置換型ヒドロキシルアミン又はN-置換型ヒドラゾンを形成する工程;
e. 更なる分子のアルデヒド部分と、O-置換型ヒドロキシルアミン又はN-置換型ヒドラゾンとの間に共有結合を形成して、シッフ塩基部分を再形成する工程。
【0141】
以下の工程を特定の順番で含む、ポリヌクレオチド分子、例えばDNAを可逆的に標識する方法を提供する:
a. 化合物Aを補因子として用いる能力があるメチルトランスフェラーゼ酵素の存在下で、且つ化合物AのR基のポリヌクレオチド分子上への転移を可能にする条件下で、ポリヌクレオチド分子を化合物Aとインキュベートして、アルキル化ポリヌクレオチド分子「R-ポリヌクレオチド」を形成する工程であって、化合物Aが以下の一般式により表される、工程;
化合物A:
【0142】
【0143】
[式中、FGは、第2の官能基を表す;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
A-B-Cは、切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を表す;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結のうちの1つから選択される非反応性基を表す;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を含む炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を含むイオウ原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表す;
kは、1又は2の整数を表す];
b. アルキル化ポリヌクレオチド分子「R-ポリヌクレオチド」を第1の標識とインキュベートして、第1のコンジュゲートを形成する工程であって、第1の標識が、R基の官能基FGと反応して、「R-ポリヌクレオチド」と第1の標識との間に共有結合を形成する能力がある官能基を含む、工程;
c. 第1のコンジュゲートの切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を切断して、第1の標識を除去する工程;
d. 切断可能な部分、例えば加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を再活性化して、「R-ポリヌクレオチド」を再形成する工程;
e. 「R-ポリヌクレオチド」を第2の標識とインキュベートして、第2のコンジュゲートを形成する工程であって、第2の標識が、R基の官能基FGと反応して、「R-ポリヌクレオチド」と第2の標識との間に共有結合を形成する能力がある官能基を含む、工程。
【0144】
実施形態において、方法は、第2のコンジュゲートのシッフ塩基部分を切断して、第2の標識を除去する工程を更に含み得る。
【0145】
有利には、本発明による方法は、生体直交型であり、すなわち、それは、天然の生化学的過程に干渉することなく、生物学的系において実施され得る。より有利には、ポリヌクレオチド生体分子、例えばDNAになされた修飾は、元に戻ったならば、相対的に小さく且つ親水性であり、つまり、それは、DNAが溶液中で又は酵素と相互作用する様式に影響しないだろうことを意味する。
【0146】
リンカー分子は、標識が生体分子と可逆的にコンジュゲートし得るように切断可能又は加水分解性である、切断可能な部分、例えば、加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を含む。有利には、切断可能な又は加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分を切断し又は加水分解するのに必要とされる条件は、穏やかであり、生体分子の構造を損傷しない。興味深いことには、シッフ塩基化学的構造は、ジスルフィド連結の使用等の先行技術のアプローチと違って、生体分子中によく見出されるものではない。より有利には、オキシム及びヒドラゾン等の加水分解性の部分は、生理学的pHにおいて安定である。
【0147】
リンカー分子を用いて形成された共有結合は可逆的且つ書換え可能である。有利には、標識分子は、例えば蛍光標識及び/又は画像化のための、生体分子の繰り返し修飾、例えば、標識、捕獲、遊離、再官能化に用いられ得る。
【0148】
S-アデノシル-l-メチオニン補因子の類似体は、任意の適切な構造のリンカー分子を含むように設計され得る。
【0149】
有利には、リンカー分子の第2の官能基は、例としてクリックケミストリーを用いて、生体分子、例えばポリヌクレオチドを更に官能化するために使用可能である。これは、DNA捕獲、DNA複合体化、薬物付着、及び/又は蛍光標識のために用いられ得る。
【0150】
この出願の範囲内で、前の段落、特許請求の範囲、並びに/又は以下の説明及び図面に示された様々な態様、実施形態、例、及び選択肢、並びに特にそれらの個々の特徴は、独立して又は任意の組合せで採用され得ることは、明確に意図される。すなわち、全ての実施形態及び/又は任意の実施形態の特徴は、そのような特徴が両立しないことがない限り、任意の様式及び/又は組合せで組み合わせることができる。疑いを避けるために、本明細書で用いられる場合、用語「し得る」、「及び/又は」、「例えば」、「例として」、及び任意の類似した用語は、そのように記載されたいかなる特徴も存在する必要がないような、非限定的として解釈されるべきである。実際、選択肢の特徴の任意の組合せは、これらが明確に主張されているかされていないかに関わらず、本発明の範囲から逸脱することなく、明確に構想される。本出願人は、たとえ最初にそのように主張されていないとしても、任意の最初の出願された請求項を、任意の他の請求項に従属し及び/又は任意の他の請求項の任意の特徴を組み入れるように修正する権利を含めて、任意の最初に出願された特許請求の範囲を変える権利も、したがって、任意の新しい特許請求の範囲を出願する権利も保持する。
【0151】
本発明の実施形態は、ここで、添付の図面を参照して、例としてのみ記載され、その図面は以下である:
【図面の簡単な説明】
【0152】
【
図1】本発明の実施形態による、生体分子の可逆的且つ書換え可能な修飾の概略図である。
【
図2A】本発明の実施形態による、リンカー分子の概略図である。
【
図2B】本発明の更なる実施形態による、生体分子の可逆的且つ書換え可能な修飾の概略図である。
【
図3】前駆体の、ヒドラゾンシッフ塩基を含有するリンカー分子21Aへの形成についての反応スキームを示す図である。
【
図4】前駆体の、オキシムシッフ塩基を含有するリンカー分子21Bへの形成についての反応スキームを示す図である。
【
図5】S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体の形成についての反応スキームを示す図である。
【
図6B】酵素的DNA標識のゲル電気泳動による分析を示す図である。
【
図7】DNAの最初の官能性を書き換えた後の分析的HPLCクロマトグラフを示す図である。
【
図9】更なるリンカー分子の形成についての反応スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0153】
ここで、
図1を参照すると、本発明の実施形態による、生体分子10の可逆的且つ書換え可能な修飾の概略
図1が示されている。
【0154】
生体分子10及びリンカー分子11が示されている。リンカー分子11は、反応中心を含む第1の官能基LG、反応中心を含む第2の官能基FG、加水分解性の部分(例えば、シッフ塩基部分)A-B-C、非反応性基Y及びZ、並びに不飽和結合Uを含む。第1の標識L1及び第2の標識L2も示されている。
【0155】
生体分子10を可逆的に標識する方法は、以下の工程を含み、その工程は、概略図に符合で表示されている:
a) 反応中心を含む第1の官能基LG、反応中心を含む第2の官能基FG、及び加水分解性の部分、例えばシッフ塩基部分、A-B-Cを含むリンカー分子11を供給する工程;
b) 生体分子10と第1の官能基LGの反応中心との間に共有結合を形成する工程;
c) 第1の標識L1と第2の官能基FGの反応中心との間に共有結合を形成する工程;
d) リンカー分子11の加水分解性の部分A-B-Cを加水分解して、第1の標識L1を除去し、且つ反応中心を含む第3の官能基Wを形成する工程;
e) 更なる分子(示されていない)と第3の官能基Wの反応中心との間に共有結合を形成して、加水分解性の部分A-B-Cを再形成する工程。
【0156】
有利には、リンカー分子11の第1の官能基LGの反応中心と生体分子10との間に形成された共有結合は、更なる官能基FG及び加水分解性の部分A-B-Cの形態で、生体分子10に化学官能性を加える。
【0157】
本発明の方法は、標識を含む更なる分子、例えば、第2の標識L2と、第3の官能基Wの反応中心との間に共有結合を形成して、加水分解性の部分A-B-Cを再形成する任意の工程iを更に含み得る。
【0158】
実施形態において、工程cは、工程bの前に実施され得る。
【0159】
まず、
図2Aを参照すると、2つのリンカー分子構造;21A及び21Bが示されている。
【0160】
図2Bも参照すると、本発明の更なる実施形態による、生体分子20の可逆的且つ書換え可能な修飾の概略
図2が示されている。
【0161】
生体分子20とリンカー分子21が示されている。リンカー分子21は、
図2Aに示されたもののいずれかであり得る。リンカー分子21A、21B、それぞれは、第1の官能基LG、第2の官能基FG、及び加水分解性の部分A-B-Cを含む。
【0162】
第1の標識L1'及び第2の標識L2'もまた示されている。
【0163】
この実施形態において、生体分子20は、DNA分子であり、リンカー分子21は、S-アデノシル-l-メチオニン補因子の類似体である。
【0164】
リンカー分子21A、21Bの第1の官能基LGはS-アデノシル-l-ホモシステインであり、リンカー分子の第2の官能基FGはアジド部分であり、加水分解性の部分は、ヒドラゾン(リンカー21A)又はオキシム(リンカー21B)のうちの1つである。
【0165】
この実施形態において、加水分解性の部分(例えば、シッフ塩基)A-B-Cの加水分解は、例として、例えばpH4での、酢酸アンモニウムバッファー溶液中の、ヒドロキシルアミンでの処理を更に含む。加水分解性の部分A-B-Cは、加水分解されて、反応中心を含む第3の官能基W;N-置換型ヒドラゾン(シッフ塩基がヒドロキシルアミンである場合)又はO-置換型ヒドロキシルアミン(シッフ塩基がオキシムである場合)を提供する。
【0166】
N-置換型ヒドラゾン(21A)又はO-置換型ヒドロキシルアミン(21B)のNH
2基と共有結合を形成して、ヒドラゾン(21A)又はオキシム(21B)シッフ塩基部分を再形成するための工程eにおいて用いられる更なる分子22もまた
図2Aに示されている。
【0167】
この実施形態において、第1の標識L1'及び第2の標識L2'の官能基は、どちらもアルキン部分であり、そのアルキン部分は、クリックケミストリー反応により、第2の官能基FG(アジド部分)の反応中心とC-N共有結合を形成する。
【0168】
この実施形態において、方法2の工程bは、触媒、例として、酵素、例えば、S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体からアルキル基を転移する能力があるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を供給する工程を更に含む。
【0169】
DNA分子20の可逆的且つ書換え可能な修飾は、以下の工程を含み、その工程は、概略図に符合で表示されている:
a) リンカー分子21A又は21Bを供給する工程
リンカー分子21A又は21Bは、CH2で置換された三価スルホニウムイオン部分を含むS-アデノシル-l-ホモシステイン部分LG、アジド部分FG、及びヒドラゾン(21A)又はオキシム(21B)又はシッフ塩基部分A-B-Cを含む;
b) DNA分子20の部位選択的MTアーゼ依存性書込み
DNA分子20(シトシンC5、シトシンN4、又はアデノシンN6の1つ又は複数における)とリンカー分子21A又は21BのCH2基の炭素との間に共有結合を形成する;
c) アジド-アルキン環付加によるDNA分子20の修飾
第1の標識L1'とリンカー分子21A又は21Bのアジドとの間にC-N共有結合を形成する;
d) 導入された官能性を動的交換により消去する工程
リンカー分子21A又は21Bのヒドラゾン(21A)又はオキシム(21B)シッフ塩基部分を加水分解して、N-置換型ヒドラゾン(21A)又はO-置換型ヒドロキシルアミン(21B)を形成する
e) 中間体DNA分子をシッフ塩基形成により書き換える工程
更なる分子(示されていない)とN-置換型ヒドラゾン(21A)又はO-置換型ヒドロキシルアミン(21B)のNH2基との間に共有結合を形成して、ヒドラゾン(21A)又はオキシム(21B)シッフ塩基部分を再形成する。
【0170】
任意で、工程iは、標準コンジュゲーション技術によってDNA中間体を更に官能化する工程を含み得る。
【0171】
更なる分子、例えば、工程eの更なる分子又は工程iの更なる分子は、シッフ塩基を再形成する、第3の官能基のNH2官能性との反応のためのアルデヒド部分を含む。
【実施例】
【0172】
本発明を更に例示するために、以下の非限定的実施例もまた、参照される:
【0173】
リンカー21Aの合成に用いられる前駆体1の合成
ここで
図3を参照すると、前駆体1の、ヒドラゾンシッフ塩基を含有するリンカー分子21Aへの形成についての反応概略図が示されている。前駆体1を、以下のプロトコールを用いて合成した。
【0174】
1.1 8-ヒドロキシオクト-6-イン酸7の合成
6-ヘプチン酸の溶液(2g、15.87mmol)の溶液を、脱水THF(42ml)中、アルゴン下で作製し、これにHMPA(34.9mmol、6.13ml)を加え、その溶液を-78℃へ冷却した。これにnBuLi(ヘキサン中1.6M、34.9mmol、21.8ml)を、温度を-60℃未満に維持しながら、液滴で加えた。その後、その溶液を-40℃へ温め、1時間、撹拌した。1時間後、パラホルムアルデヒド(1.47g、47.6mmol)を、アルゴン流下、粉体分配漏斗を介して加えた。その後、その反応混合物を、45℃へ4時間、温めた。反応後、その混合物を、1M HClでpH4~5へクエンチし、EtOAcで抽出した。その後、溶媒を乾燥させ、EtOAcを、回転蒸発により除去して、粗生成物が生じた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、Hex:EtOAc、6:4)を用いて精製を完了した:収率=68%、Rf=0.27(Hex:EtOAc、6:4);1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 12.03(s, 1H)、5.03(s, 1H)、4.02(d, J=2.6Hz, 2H)、2.29~2.14(m, 4H)、1.63~1.50(m, 2H)、1.50~1.39(m, 2H);MS:m/z[M-H]=155.46。
【0175】
1.2 tert-ブチル2-(8-ヒドロキシオクト-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート8の合成
8-ヒドロキシオクト-6-イン酸7(1.35g、8.65mmol)及びカルバジン酸tert-ブチル(1.4g、10.38mmol)を、2:1 THF:H2O(13.5:6.75ml)中に溶解した。これに、EDC.HCl(1.87g、9.52mmol)を15分間かけてゆっくり加えた。その混合物を、3時間、撹拌したままにし、その後、EtOAcで抽出した。その有機層を、0.1M HCl、水、及び鹹水で洗浄し、その後、その有機層を収集し、無水硫酸ナトリウムの上で乾燥させ、溶媒を、減圧下で除去して、白色固体としての生成物が生じた:収率=63%; 1H NMR(400MHz、DMSO-d6) δ 9.47(s, 1H)、8.66(s, 1H)、5.04(t, J=5.9Hz, 1H)、4.02(dt, J=5.9, 2.2Hz, 2H)、2.19(tt, J=7.1, 2.2 Hz, 2H)、2.06(t, J=7.2Hz, 2H)、1.58(p, J=7.3Hz, 2H)、1.50~1.32(m, 12H);13C NMR(101MHz, DMSO) δ 172.01、84.36、80.94、79.42、49.59、33.06、28.53、28.08、24.70、18.24;MS:m/z[M+Na]=294.15。
【0176】
1.3 tert-ブチル2-(8-ブロモオクト-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート1の合成
tert-ブチル2-(8-ヒドロキシオクト-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート8(300mg、1.11mmol)の溶液を、脱水DCM(3.33ml)中に作製し、氷上で冷却した。トリフェニルホスフィン(437mg、1.67mmol)を加え、溶解させておき、溶解したならば、テトラブロモメタン(552mg、1.67mmol)をゆっくり加えた。その後、その反応物を室温にし、1時間、撹拌したままにした。反応後、溶媒を減圧下で除去し、粗混合物を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル Hex:EtOAc、7:3)によって精製した:収率=55%; Rf=0.15(Hex:EtOAc 7:3);1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 9.48(s, 1H)、8.67(s, 1H)、4.21(t, J=2.3 Hz, 2H)、2.27(tt, J=6.9, 3.4Hz, 2H)、2.06(t, J=7.4Hz, 2H)、1.65~1.31(m, 13H); 13C NMR(101MHz、DMSO) δ 171.4、155.2、87.7、78.9、76.3、54.9、39.5、32.5、28.0、27.3、24.1、17.9、17.2; MS:m/z[M+Na]=355/357.08。
【0177】
リンカー21Bの合成に用いられる前駆体4の合成
ここで
図4を参照すると、前駆体4の、オキシムシッフ塩基を含有するリンカー分子21Bへの形成についての反応スキームが示されている。前駆体4を以下のプロトコールを用いて合成した。
【0178】
2.1 7-ブロモ-ヘプト-1-イン9の合成
6-ヘプチン-1-オールの溶液(5g、44.6mmol)の溶液を、脱水DCM(60ml)中に作製し、氷上で冷却した。これにトリフェニルホスフィン(17.6g、67mmol)を加え、完全な溶解時点に、テトラブロモメタン(22.2g、67mmol)をゆっくり加えた。その反応混合物を室温にし、1時間、撹拌した。完了後、溶媒を減圧下で除去した。その粗生成物にヘキサンを加え、白色懸濁液が形成された。ヘキサン画分を濾過し、収集し、その後、溶媒を除去した。油性残留物が残り、それを、ヘキサンでのフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した:収率=91%、Rf=0.45(ヘキサン);%);νmax(neat)/cm-1 540(C-Br);1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 3.53(t, J=6.7Hz, 2H)、2.75(t, J=2.7Hz, 1H)、2.23~2.10(m, 2H)、1.89~1.74(m, 2H)、1.50~1.43(m, 4H)。
【0179】
2.2 8-ブロモオクト-2-イン-1-オール10の合成
7-ブロモヘプト-1-イン9(20.56mmol、3600mg)の溶液を、脱水THF(12.3ml)中に作製し、アルゴン下、-78℃に冷却した。これに、温度を-60℃未満に維持しながら、ヘキサン中nBuLiの溶液(1.6M、13ml)を液滴で加えた。その後、その反応混合物を、氷浴で0℃に温め、その時点に、パラホルムアルデヒド(1718mg、55.5mmol)をアルゴン流下で加え、30分間、撹拌した。その後、その混合物を、室温に温め、撹拌したままにし、発熱反応が停止するまで、温度を30℃未満に維持した。その後、その混合物を45℃へ2時間、加熱した。完了したならば、その反応物を、エーテル及び飽和NH4Clで抽出した。有機層を収集し、溶媒を減圧下で除去して、油状物としての粗生成物が生じた。乾燥したならば、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、9:1)により精製を完了した。その後、その生成物を、無色の油状物として収集した:収率=55%、Rf=0.15(Hex:EtOAc 9:1)、1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 5.04(t, J= 5.7Hz, 1H)、4.03(dt, J=5.5, 2.1Hz, 2H)、3.54(t, J=6.7Hz, 2H)、2.20(m, 2H)、1.88~1.75(m, 2H)、1.52~1.40(m, 4H)。
【0180】
2.3 tert-ブチル((8-ヒドロキシオクト-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート11の合成
DMF(4.3 ml)中のN-Bocヒドロキシルアミン(890mg、6.55mmol)の溶液に8-ブロモオクト-2-イン-1-オール(10)(1200mg、5.85mmol)及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(1000mg、6.55mmol)を加えた。その溶液を50℃で20時間、撹拌した。完了したならば、その反応物を、DCM及び15%クエン酸溶液で抽出した。有機層を乾燥させ、収集し、溶媒を減圧下で除去した。粗生成物として無色の油状物を収集した。これを、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、8:2)により更に精製した。その生成物を無色の油状物として収集した:収率=73%、Rf=0.27; 1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 9.91(s, 1H)、5.03(t, J=5.9Hz, 1H)、4.02(dt, J=5.9, 2.2 Hz, 2H)、3.66(t, J=6.2Hz, 2H)、2.17(tt, J=6.7, 1.7Hz, 2H)、1.40(m, 15H);MS:m/z[M+H]=258.2。
【0181】
2.4 tert-ブチル((8-ブロモオクト-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート4の合成
tert-ブチル((8-ヒドロキシオクト-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート11(1g、3.89mmol)の溶液を、脱水DCM(5.2ml)中に作製し、氷上で冷却した。これに、トリフェニルホスフィン(1.53g、67mmol)を加えた。完全な溶解時点に、テトラブロモメタン(1.94g、67mmol)をゆっくり加えた。その反応混合物を室温にし、1時間、撹拌した。完了後、溶媒を減圧下で除去した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、8:2)を用いて精製を完了させた:収率=67%、Rf 0.52(Hex:EtOAc、8:2); νmax(neat)/cm-1 1712(C=O)、607(C-Br); 1H NMR(300MHz、DMSO-d6) δ 9.90(s, 1H)、4.21(t, J=2.4Hz, 2H)、3.66(t, J=6.2Hz, 2H)、2.25(tt, J=6.9, 2.4Hz, 2H)、1.40(m, 15H); 13C NMR(101MHz、DMSO) δ 156.04、87.85、79.37、76.22、75.05、39.52、28.05、27.64、27.04、24.76、18.06、17.25; MS:m/z[M+Na]=342.35/344.35、[M-tBuOH]=246.38/248.38。
【0182】
ポリヌクレオチドの酵素的標識:ポリヌクレオチドのMTアーゼ依存性標識のためのリンカー分子の例
リンカー分子21A、21Bの合成
ここで、
図5を参照すると、ヒドラゾンシッフ塩基を含有するリンカー分子21Aの前駆体1からの形成についての反応スキーム5Aが示されている。オキシムシッフ塩基を含有するリンカー分子21Bの前駆体4からの形成についての反応スキーム5Bもまた示されている。
【0183】
3) S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体21A、21Bの合成
3.1 一般的なカップリング手順
前駆体1、4を、調製し、S-アデノシル-l-ホモシステインと酸性条件下で反応させて、可逆的且つ書換え可能なBoc保護化AdoMet誘導体が生じた。
【0184】
S-アデノシル-l-ホモシステイン(15mg、0.04mmol)の溶液を、ギ酸と酢酸の1;1混合物(300μl)中に作製した。その後、前駆体1又は4(tert-ブチル2-(8-ブロモオクト-6-イノイル)ヒドラゾン-1-カルボキシレート又はtert-ブチル((8-ブロモオクト-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート)(1.2mmol、30当量)を、氷上、液滴で加えた。その反応混合物を35℃に温め、一晩、撹拌したままにした。一晩の撹拌後、その反応混合物を、ジエチルエーテルで抽出し、水性層を収集し、凍結乾燥により乾燥させた:MS:m/z[M+H]=638(2)、[M+H]=624(5)。
【0185】
3.2 補因子脱保護
AdoMet類似体を、酸性条件下で脱保護して、ヒドラゾン又はアルコシキアミン部分を露出させた。
【0186】
粗生成物を、TFA(400μl)中に溶解し、室温で2時間、撹拌したままにした。反応後、その酸を、アルゴン流下で除去した。
【0187】
3.3 補因子精製
いかなる過剰な前駆体も精製により除去した。
【0188】
脱保護化補因子の両方のジアステレオマーは、HPLCにより分離することができた(より後の段階においては、分離は不可能である)。
【0189】
その後、粗反応混合物を水(2ml)中に溶解した。AdoMet類似体の精製を、20mM 酢酸アンモニウムpH5.5 水(A)/MeOH(B)グラジエント、10ml/分の流速で溶出する分取逆相HPLC(ACE 5 C-18 25×2.12cm)により実施した。グラジエントシステム:30分間 3~30% B、30分間にわたって30~97% B、5分間、97% Bで保持、プログラム停止。保持時間:ヒドラジド アイソマー1=17.51分間、アイソマー2=18.73分間、ヒドロキシルアミン アイソマー1=25.47分間、アイソマー2=28.24分間:MS:m/z[M+H]=538(2)、[M+H]=524(5)。
【0190】
脱保護化AdoMet誘導体は、特に凍結乾燥後、複数の経路を介して、ゆっくり分解し、より高い保持時間における追加のピークを生じる。
【0191】
3.4 アルデヒドカップリング
分解を軽減するために、AdoMet誘導体を、ヒドラゾン及びアルコシキアミン部分の求核性質による副反応を最小限にするためにHPLCによる精製後すぐに、市販のベンズアルデヒドと反応させた。
【0192】
収集されたHPLC画分に、Ald-PEG3-N3(1.2当量)を加え、室温で30分間、回転させた。その後、その画分を凍結乾燥により乾燥させた。乾燥したならば、その固体を100μl 0.1%酢酸中に溶解し、-20℃で保存した。濃度を、ε260=15.400dm-3 mol-1 cm-1でのUV吸収分析により決定した:MS:m/z[M+H]=867(3)、[M+H]=856(6)。
【0193】
生じたリンカー分子21A及び21Bは、アルデヒドのヒドラゾン又はアルコシキアミンとの縮合が動的官能性を組み入れると同時に、可逆的に官能化され得る、様々な官能基と容易にコンジュゲートすることができる反応性末端アジドを含有する。
【0194】
脱保護化中間体の完全な官能化を保証するために、わずかに過剰量のアルデヒド(1.2当量)を用いた。
【0195】
凍結乾燥したAdoMet誘導体21A及び21Bの分解は観察されなかった。
【0196】
ポリヌクレオチドの21A及び21BでのMTアーゼ依存性標識
制限アッセイを用いて、MTアーゼのリンカー分子21A及び21Bとの活性を実証した。
【0197】
M.TaqI(N6-アデニンDNA MTアーゼ)を、リンカー分子21A、21B、及びプラスミドpUC19(その酵素についての4つの認識部位(TCGA)を有する)と50℃で1時間、インキュベートした。
図6A参照。
【0198】
M.TaqIによる官能基の転移の成功は、プラスミドのR.TaqI(M.TaqIと同じ標的部位を有するエンドヌクレアーゼ)による制限消化からの保護を生じる。
【0199】
ここで、
図7Bを参照すると、AdoMet(375μl)又はリンカー21Bの存在下又は非存在下でのM.TaqI及び/又はR.TaqIでの酵素的処理後のpUC19のゲル電気泳動が示されている。
【0200】
M.TaqI媒介性アルキル化の非存在下で(
図6B、レーン4、8、及び12)、pUC19は断片へ切断され、その断片のうちの最も大きい3個がゲル電気泳動により同定することができる。AdoMet(
図6B、レーン10)又はリンカー21B(
図6B、レーン1~3及び5~7)に関するM.TaqI媒介性アルキル化は、結果として、R.TaqIによる制限からの部分的~完全な保護を生じ、主に、開環状及びスーパーコイル状プラスミドDNAがゲル電気泳動により観察された。どちらのアイソマーも、R.TaqIのプラスミドDNAを消化する能力に干渉しない(
図6B、レーン4及び8)。
【0201】
対照を、AdoMetの非存在下(
図6B、レーン11及び12)、M.TaqIの非存在下(
図6B、レーン4、8、及び12)、及びR.TaqIの非存在下(
図6B、レーン9)で実行し、標識が成功したことが示された。
【0202】
各アイソマーの標識効率を試験するために、酵素との親和性におけるいくらかの差を強調するために、補因子希釈系列を実行し、2番目の画分がより高い活性を有した。その優先的なアイソマー、ジアステレオマーIIを、更なる実験へと進めた。
【0203】
同様の効果はリンカー21Aに関して見られた。リンカー分子21A及び21Bのどちらも、生体分子の動的標識に用いられる可能性がある。
【0204】
M.MpeIは、CpGジヌクレオチドをターゲットするシトシン-C5 MTアーゼである。pUC19を、CpGジヌクレオチドのサブセットをターゲットする制限酵素R.HaeIIを加える前に、変異体M.MpeI(Q136A、N347A)及びリンカー21Bとインキュベートした。プラスミドDNAのM.MpeIでの効率的なトランスアルキル化もまた、観察された。
【0205】
DNAをリンカー21A、21Bでアルキル化するMTアーゼの能力の証拠は、トランスアルキル化のための1コピーのM.TaqI配列(TCGA)を有する14塩基対オリゴヌクレオチドをターゲットすることにより達成された。そのオリゴの標識を、HPLCを用いて直接的にモニターした。分析を、そのDNAの融解温度より上で実施し、両方の鎖がクロマトグラムにおいて明らかに同定することができた。非修飾DNAの保持時間と比較して、リンカー21A、21Bでの標識により、保持時間における明らかなシフトが見られた。シフトは、両方のピークについて観察され、M.TaqIが、MTアーゼが認識する配列のパリンドローム性質の結果として両方の鎖を標識することができることを実証した。そのシフトは、転移されたリンカーのサイズ及び性質と比例し、AdoMetメチル化は、保持時間における小さいシフトを生じ、オキシム誘導体21Bが最も大きいシフトを示した。少量の消去されたオリゴDNAの存在が観察され、HPLC条件下での加水分解による可能性が高い。個々のピークの分析を、MSを用いて実行し、それは、標識が成功したこと、及びインキュベーション後に導入された側鎖官能性の性質を確認した。
【0206】
可逆的酵素的標識プロトコール
以下のプロトコールは、
図2A及び
図2Bに示された実施形態に従って用いられ得る。
【0207】
1) 酵素的標識(本発明の方法の工程b)
各試料について、オリゴ生体分子(120μl、10μM)、バッファー(40μl、10×NEB社cutsmartバッファー)、M.TaqI(45μl)、水(189μl)、及びリンカー分子(6μl、20mM)の溶液を作製した。試料を、50℃で1.5時間、インキュベートした。インキュベーション後、プロテイナーゼK(2.5μl)を加え、試料を、50℃で更に1時間、インキュベートした。その後、試料を、Qiagen社(RTM)Qiaquickヌクレオチドクリーンアップキットを用いて精製し、50μlの水へ溶出し、それらの濃度を、shimadzu社biospec-nanoにより測定した。標識を元に戻すことになっていない試料を取って、HPLC分析まで冷蔵庫で保存した。
【0208】
2) シッフ塩基を元に戻す(本発明の方法の工程c)
ヒドラゾン標識DNAに、水中H2NOH.HClの溶液(10μl、10当量)を加えた。その後、その溶液のpHを、100mM酢酸アンモニウムバッファー(pH4.0、7μl)を用いて調整した。その後、試料を、50℃で1.5時間、インキュベートし、その後、分析まで冷蔵庫で保存した。
【0209】
3) HPLC標識分析
標識オリゴヌクレオチドの精製を、0.1M酢酸トリエチルアミンバッファー、pH7.0(A)/MeCN(B)グラジエント、1ml/分の流速、60℃で溶出する分析逆相HPLC(Phenomenex社、Gemini、5μm、C18、110Å)により実施した。グラジエントシステムA: 25分間にわたって5~18% B、5分間100%へ、10分間100%で保持、5分間5%へ低下。システムB: 50分間にわたって5~31% B、10分間100%へ、5分間100%で保持、10分間5%へ低下。非標識及びメチル化オリゴヌクレオチドについて、グラジエントAを用い、残り全ての試料についてシステムBを用いた。画分を収集し、質量分析により分析した。
【0210】
これらの条件下で、ヒドラゾン標識オリゴDNAは融解し、両方のDNA鎖は、独立して観察することができる。官能性リンカーの85%より多くが切断され、潜在的疎水性アルデヒドの喪失後、新しいHPLCピークがより低い保持時間へシフトした。
【0211】
これらの条件下でのオキシム標識オリゴDNAは、この型のシッフ塩基のより高い安定性と一致して、無傷のままである。
【0212】
4) 最初の官能性をシッフ塩基形成により書き換えること
ヒドラジド官能化オリゴDNA(
図7、ラインA)を、過剰量のアルデヒド5の存在下でインキュベートした(
図7)。オリゴDNAに関連した主要ピークの保持時間における明らかなシフトが観察された(
図7、ラインB)。オリゴDNAのM.TaqI及びリンカー21Aとのインキュベーション後に得られたクロマトグラフ(
図7、ラインC)は、約6.2分及び6.4分時点においてアジド官能化DNAに関連したピークのかなりの重複、及びこのピークの、遊離ヒドラジド(3.8分及び4.0分時点)の割合と類似した割合を示している。少量のヒドラジド官能化オリゴDNAの存在は、HPLC条件下でのシッフ塩基の加水分解による可能性が高い。アルデヒドでの書換え後に、3つの追加のピークが観察され、それは、このアルデヒドがH
2NOH・HClとインキュベートされた時に観察されたもの(
図7、ラインD)と重複する。個々のピークの分析は、LC-MSにより実行され、書換えが成功したこと、及びオリゴDNA上の化学官能性の性質が確認された。
【0213】
5) シッフ塩基切断後の更なる修飾
17個のCpG部位を含有する、PCRにより生成されたDNAの断片を、M.MpeIで部位選択的に標識した。標識に続いて、H2NOH・HClとインキュベートし、市販のNHS活性化フルオロフォアAtto647Nと反応させた(更なる官能化)。その反応を、ゲル電気泳動によりモニターし、Atto647Nの、リンカー21Bで修飾されたDNAとの特異的なコンジュゲーションを示している。Atto647Nの非存在下で赤色蛍光は観察されなかったが、この色素は、正に荷電され、対照試料におけるDNAに非特異的に会合することができた。単位DNAあたりのAtto647Nでの標識の程度を評価するための赤色及び緑色(Sybr(登録商標)Green)チャネルの強度の比較は、書込み-消去を受けているDNAについて、消去工程、H2NOH・HCl処理の非存在下より4.8倍高い標識の程度、及び書込み工程、MTアーゼ依存性標識の非存在下より23倍を超える標識の程度を示した。
【0214】
6) 二重修飾
補完的蛍光色素での連続修飾は、短いDNA断片を2つの異なる蛍光色素で標識すること(書込み-修飾-消去-更なる修飾)により達成された。この目的を達成するために、DNA断片をまず、M.MpeI及び動的リンカー21Aとインキュベートして、アジド官能化DNAが生じた(
図8、画像A、工程1)。この修飾は、結果として、ゲル上のDNAの移動時間における小さいシフトを生じたが(
図8、画像B、工程2)、予想通り、蛍光は観察されなかった(
図8、画像C、工程1)。アジド官能化DNAをTAMRA-DBCO 6で修飾した時、移動時間における更なるシフトが観察されたが(
図8、画像B、工程2)、より重要なことには、DNA会合TAMRAフルオロフォアからの発光が明らかに観察された(
図8、画像C、工程2)。TAMRA修飾を消去することは、過剰量のH
2NOH・HClとのインキュベーションにより達成された。生じたDNA断片から蛍光は観察されず(
図8、画像C、工程3)、最初の移動時間へ戻るシフトが観察され(
図8、画像B、工程3)、このヒドラジドリンカーがDNAの物理的性質にほとんど影響を生じなかったことを示唆している。このヒドラジド官能化DNAのNHS活性化Atto647N 7とのインキュベーションは、結果として、移動時間における新しいシフト(
図8、画像B、工程4)、及び今度こそ、赤色照明下で目に見える、対応する蛍光の出現(
図8、画像C、工程4)を生じた。
【0215】
修飾を、ゲル電気泳動を用いてモニターした:DNA濃度;7ng/μL、遊離バッファー;10mM 酢酸アンモニウム、pH6.8、1M NaCl、0.01% SDS。DNAをGelRed(登録商標)で染色した。ゲルを、Bio-Rad社Pharos FX(GelRed(登録商標):励起、トランスUV;発光フィルター、590/110nm;TAMRA:励起、epi-green照明;発光フィルター:602/50nm; Atto 647N 7:励起、epi-red照明;発光フィルター:700/50nm)を用いて可視化した。可視化のために、TAMRAチャネルを黄色に着色し、Atto 647N 7を赤色に着色した。(B)GelRed(登録商標)チャネル及び(C)TAMRAチャネルとAtto647nチャネルの合成画像。
【0216】
生体分子の化学的標識の例:ペプチドのシステイン標識
ここで
図9を参照すると、
図3に記載されているような前駆体1を用いる、第1の官能基LGが臭素原子である更なるリンカー分子31への合成経路が示されている。
【0217】
N-(2-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)-4-((2-(8-ブロモオクト-6-イノイル)ヒドラゾネイリデン)メチル)ベンズアミド31の合成
活性化リンカー(tert-ブチル2-(8-ブロモオクト-6-イノイル)ヒドラゾン-1-カルボキシレート)1(20mg、0.06mmol)を、500μLのTFA中に溶解し、2時間、撹拌した。TFAを蒸発させ、14mgの黄色の油状物が生成された。その後、この粗生成物を、200μLのPBS中に溶解し、PBSでの溶液におけるAld-Ph-PEG-アジド(22)(21mg、1当量)を加えた(pH7)。瞬時に、白色の沈殿物が現れた。この白色固体を濾過し、HPLC分取(0~60% ACN 40分間)による精製のためにDCM中に溶解した。リンカー分子31が生成された。MS:m/z[M+Na]=586.8/588.8。
【0218】
1) アミノ酸の化学的標識(本発明の方法の工程b)
システイン分子90を、以下のプロトコールにおいて、リンカー分子31を用いて標識した:
リンカー分子31(1.2mg)を、メタノール中アンモニア7Mに溶解した。N-アセチルシステイン(化合物90)(3mg、2.25当量)を加え、混合物を室温で2時間、撹拌した。反応後、化合物32が形成され、それを圧力下で濃縮した。
【0219】
2) シッフ塩基を元に戻す(本発明の方法の工程c)
化合物32のシッフ塩基を、以下のプロトコールにおいて加水分解した。化合物32を遊離バッファー(遊離バッファー: 200μlアンモニウムバッファー中231mg NH2OH pH6)に溶解し、50℃で1時間、加熱した。その生成物(化合物33、22)を、注入HPLC(分析用 40分間かけて0~60% ACN、及び10分間100% ACN)により精製した。
【0220】
本発明のこの例による、アミノ酸を標識する方法は、本発明の方法が、システイン以外のチオール部分を含有するアミノ酸を標識し及び遊離させ、並びに/又は再標識するために適用され得ることを示している。更に、この例は、チオール部分を含有するアミノ酸(例えば、システイン)を含むペプチドが、本発明の実施形態により、標識され及び遊離し、並びに再標識され得ることを例証している。
【0221】
有利には、本発明による方法は、生体直交型であり、すなわち、それは、天然の生化学的過程に干渉することなく生物学的系において実施され得る。より有利には、生体分子、例えばポリヌクレオチド生体分子、例としてDNAになされた修飾は、元に戻ったならば、相対的に小さく且つ親水性であり、つまり、それが、生体分子が溶液中で又は酵素と相互作用する様式に影響しないことを意味する。
【0222】
リンカー分子は、標識が生体分子と可逆的にコンジュゲートされ得るように加水分解性である加水分解性の部分、例えば、シッフ塩基部分を含む。有利には、シッフ塩基部分を加水分解するのに必要とされる条件は穏やかであり、生体分子の構造を損なわない。更に、ジスルフィド連結の使用等の先行技術アプローチと違って、シッフ塩基化学的構造は、生体分子中によく見出されるものではない。より有利には、オキシム及びヒドラゾン等のシッフ塩基は、生理学的pHにおいて安定である。
【0223】
リンカー分子を用いて形成された共有結合は可逆的且つ書換え可能である。有利には、標識分子は、生体分子の繰り返される修飾、例として、例えば蛍光標識及び/又は画像化のための、標識、捕獲、遊離、再官能化に用いられ得る。
【0224】
S-アデノシル-l-メチオニン補因子の類似体は、任意の適切な構造のリンカー分子を含むように設計され得る。
【0225】
有利には、リンカー分子の第2の官能基は、生体分子、例えばポリヌクレオチドを、例としてクリックケミストリーを用いて、更に官能化するために使用可能である。これは、DNA捕獲、DNA複合体化、薬物付着、及び/又は蛍光標識に用いられ得る。
【0226】
前述の実施形態のいくつかのバリエーションが、本発明の範囲から逸脱することなく、構想されることは、当業者に認識されているだろう。例として、生体分子はポリ核酸である必要はない。実施形態において、リンカー分子の第1の官能基は、異なる生体分子上の部分と反応して、共有結合を形成することができるように選択され得る。例として、生体分子はアジド部分を含み得、且つ第1の官能基は、クリックケミストリーによって共有結合を形成する能力があるアルキン部分を含み得、又は逆であり得る。
【0227】
前述の特徴及び/又は添付の図面に示された特徴の組合せのいくつでも、先行技術を凌ぐ明らかな利点を提供し、したがって、本明細書に記載された本発明の範囲内にあることもまた、当業者に認識されているだろう。