(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】マウスピース型可撤式矯正装置
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
A61C7/08
(21)【出願番号】P 2022528896
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021271
(87)【国際公開番号】W WO2021246495
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2020096976
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596117832
【氏名又は名称】金 漢俊
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 漢俊
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/170300(WO,A1)
【文献】特表2008-532563(JP,A)
【文献】特表2018-505016(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1744000(KR,B1)
【文献】国際公開第2005/000145(WO,A1)
【文献】特開2016-202921(JP,A)
【文献】特開2015-150179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯列形態
を表わすデジタル立体
歯列情報に基づ
いて構成されるマウスピース型矯正装置であって、
基底部と、前記基底部に設けられた装着部とを含み、
前記基底部は、非弾性素材で形成され、装着する顎の歯列の咬合面側の形状に沿った
平面視がU字形状(馬蹄形状)の薄板体であり、
前記薄板体の一方面は前記歯列に対向する装着面となっており、前記装着面と反対側の他方面は咬合面となっていて、
前記装着部は、移動
させたい歯に装着する移動部材と、移動
させない歯に装着する把持部材とを備え、
前記移動部材は、
前記基底部の前記装着面から装着面に対して交差方向に突出しており、移動
させたい歯の移動後の位置及び状態の歯冠歯面に適合し、当該歯冠を中心に外側(唇側又は頬側)及び内側(舌側)を包む2個1組の矯正用歯面パット対と、前記
矯正用歯面パット対を前記基底部に取り付けており、
前記基底部を基準にして前記
矯正用歯面パット対に矯正力及び把持力を付与する矯正用弾性体とを含み、
前記把持部材は、
前記基底部の前記装着面から装着面に対して交差方向に突出しており、移動
させない歯の歯冠歯面に適合し、当該歯冠を中心に外側(唇側又は頬側)及び内側(舌側)を包む2個1組の把持用歯面パット対と、前記
把持用歯面パット対を前記基底部に取り付けており、
前記基底部を基準にして前記歯面パット対に把持力を付与する把持用弾性体とを含む、マウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項2】
前記矯正用弾性体は、前記矯正用歯面パット対と一体に形成されており、
前記把持用弾性体は、前記把持用歯面パット対と一体に形成されている、請求項1に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項3】
前記矯正用弾性体は、合金素材の弾性体を含む、請求項1に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項4】
前記矯正用弾性体は、弾性を備えた形状記憶合金を含む、請求項3に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項5】
前記把持用弾性体は、弾性を備えた形状記憶合金を含む、請求項4に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項6】
前記矯正用弾性体及び把持用弾性体は、合金部分が露出しないように非金属素材により表面がコーティングされている、請求項5に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項7】
前記基底部には、
オプション部材として、ゴムやワイヤを掛けるためのフックが設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項8】
前記基底部
の前記咬合
面には、生理的に適正な位置で咬合するための
咬合用形状が付与されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【請求項9】
前記基底部は
、前記装着面
、前記移動部材及び前記把持部材を含む装着面
側部材と、前記咬合面を含む咬合面
側部材とに分離可能に構成されており、
前記咬合面
側部材の前記咬合面には、生理的に適正な位置で咬合するための
咬合用形状が付与されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のマウスピース型可撤式歯列矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列矯正歯科分野における歯を移動するためのマウスピース型可撤式歯列矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯列や噛み合わせを、患者個々の顔や口腔機能に合わせて、立体的に理想的な位置及び状態に配置・配列する矯正歯科治療分野において、歯の表面にブラケットを装着し、そのブラケットに結紮し、装着する弾性ワイヤーにより、また、強固なワイヤー上を滑らして、歯の移動を図るマルチブラケット治療法が主流である。しかし、患者は、2~3年に及ぶ治療期間、そのブラケットやワイヤー等の固定式矯正装置を口腔内に装着した状態で過ごす必要がある。そのため、それら装着した装置の周りに食渣が溜まりやすくなり、虫歯や歯肉炎等に罹患するリスクや、笑ったり、会話時に、装着が視えること、また、食事や会話時の不便、不快感等の課題が、治療を開始し進める上で、患者の大きな負担となっている。
【0003】
また、古くから、可撤式の装置もあるが、小児期の混合歯列期の限られた軽微で限局的な歯の移動には対応できるが、永久歯全体を、顎顔面と調和するように立体的に配置する現在のマルチブラケットシステムによる治療効果には及ばない。
【0004】
そこで、近年、歯列形状デジタル情報を利用し、CAD・CAMにより、少しずつ歯を移動させた複数のマウスピース(一例として、70~80個)を作成し、順に付け替えて、歯を移動させていくマウスピース型矯正治療法が実用に供されている。
【0005】
しかしながら、従来のマウスピース型可撤式矯正装置は、マルチブラケットにおいて指摘されていた課題は解決できるが、しっかりと必要な矯正力を加え、効率良く的確に歯の移動を行って治療効果を高めるためには、改善の余地が数多く存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6029220号公報
【文献】実用新案登録第3200778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マウスピース型矯正装置を含む従来の可撤式矯正装置では、矯正力に拮抗する力が、装置を支える歯に加わるため、装置を保持する歯が支えられる以上の強さや範囲の矯正力を加えることはできない。装置を保持する力以上に矯正力を加えると、装置が外れ、口腔内に装着して使用することができないからである。従って、従来の可撤式矯正装置では、一度に調整できる歯の移動量及び移動数に制限がある。そのため、少しずつ歯の移動を行うため、治療期間が長期化する傾向がある。特に、マウスピース型矯正装置の場合には、矯正力を調整するのではなく、装置を取り換えることで、矯正力を変え、歯の移動を進めるため、多数の装置を用意する必要があり、治療期間や装置作成コストの面が課題となっている。
【0008】
また、従来のマウスピース型矯正装置は、薄く、均質な材質であるため、装置の中央部(歯の咬合面を覆う部分)と端部(歯頸部を覆う端縁部分)で、歪や変形量が異なり、その弾性力、すなわち、適用される矯正力に差が生じる。特に、端縁部分では、着脱を繰り返すうちに変形するなどし、十分な矯正力を持続的にかけることが難しい。更に、従来のマウスピース型矯正装置は、歯の咬合面全体を覆うため、上下のマウスピース型矯正装置が接触する位置、あるいは、上下どちらかのマウスピース型矯正装置と対合歯が接触する位置が、生理的に適切な位置として考慮されていないため、非生理的な上下歯列の位置関係による偏った咬合力が装置に加わることがある。このため、装置全体に生じる歪による望ましくない歯の移動や、下顎の位置が偏位する危険性も指摘されている。
【0009】
そこで、本発明は、可撤式矯正装置において、歯面パットを介して移動させたい歯に矯正力を加え、十分な矯正力を個々の歯に的確に付与することができる新たなマウスピース型の可撤式矯正装置を創出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、患者歯列形態のデジタル立体情報から作成した移動後の予測歯列に基づくマウスピース型矯正装置であって、所望の弾力性を備えた弾性素材で作成され、移動したい歯の移動後の位置・状態の歯冠歯面に適合し、歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む一対の歯面パットを備え、移動前の歯を当該歯面パットで挟むことで、歯を移動後の位置・状態に移動して矯正する移動部材と、移動しない歯の歯冠歯面に適合し、歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む一対の歯面パットを備え、当該歯面パットで歯を挟み、歯を現状の状態で把持するための把持部材と、歯列形状に沿ったU字(馬蹄)形状で、前記移動部材及び把持部材を取り付けられる非弾性素材で作成された基底部と、を備えるマウスピース型可撤式歯列矯正装置である。
【発明の効果】
【0011】
歯面に力を伝える歯面パットを用いて、歯を挟み、立体的に把持及び移動する矯正力を発現する。患者個々に合わせて規格された弾性材や板バネを組み合わせることで、歯を個別に立体的に移動させることが可能となる。
【0012】
また、金属部品をすべて規定、規格化し、歯と接触しない位置に組み込む構造にすること、又は、金属部分を非金属素材で覆い被せ、その金属部分が口腔内で露出しないようにすることで、金属アレルギー患者であっても、矯正治療を施行することが可能となる。
【0013】
2個一組(一対)の歯面パットで歯を挟むことで、歯を把持し、立体的な位置及び向きに歯を移動できる。その際、弾性材やバネ板を選択し、組み合わせることで、各歯に歯面パットを介して、必要にして十分な矯正力を発現させるように調整できる。また、弾性材やバネ板による持続的で安定した矯正力を的確に歯に加え、立体的な歯の移動及び把持を実現できる。
【0014】
また、歯面パットに接続する板バネを形状記憶合金にすることで、冷やして口腔内に装着し、体温で形状が回復し、歯面にしっかり適合するようにできる。よって、様々な凸凹形状の歯又は歯列形状であっても、装置を着脱可能とするための制約を受けず、しっかりと歯面を立体的に覆う歯面パットを活用できる。
【0015】
また、マウスピース型矯正装置が接触する咬合面位置及び形状を、生理的に正しい位置に設定することで、マウスピース型矯正装置に不要な矯正力が加わることを防ぎ、適正な咬合力による上下歯列位置及び下顎の位置を、矯正治療中適正位置に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置1の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-IIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す基底部10に取り付けられた移動部材30の変形例を示す図解的な図である。
【
図4】
図4は、移動したい歯である上顎の2本の中切歯を下面側から見た図解的な図であり、移動前の位置及び状態(実線)と、移動後の位置及び状態(破線)を示す図である。
【
図5】
図5は、移動後の上顎の2本の中切歯と歯面パットとの関係を示す図解的な図である。
【
図6】
図6は、移動前の上顎の2本の中切歯と歯面パットとの関係を示す図解的な図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置2の斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7のII-IIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。
【
図9】
図9(A)は、
図8における歯冠前(唇)側の歯面パット310を示す図解図であり、
図9(B)は、
図8における歯冠後(舌)側の歯面パット320を示す図解図である。
【
図10】
図10は、
図8に示す歯列矯正装置2の切断面端面の変形例を示す図解的な図である。
【
図11】
図11は、
図7のIII-IIIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。
【
図12】
図12は、さらに他の実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置3、4の側面図である。
【
図13】
図13は、
図12に示すマウスピース型可撤式歯列矯正装置3、4を奥側から見た状態の図解図である。
【
図14】
図14は、上顎用の矯正装置3にオプション部材が組み込まれた実施形態を示す図であり、(A)は矯正装置3の側面図、(B)は矯正装置3の背面図、(C)は側面カバーを装着した状態の矯正装置3の斜視図である。
【
図15】
図15は、上顎用の矯正装置3に他のオプション部材が組み込まれた実施形態を示す側面図である。
【
図16】
図16は、可撤式マウスピース型歯列矯正装置3の変形例を示す図で、矯正装置3Mの側面図である。
【
図17】
図17は、咬合面部材90と置換可能な咬合面部材90′の図解的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について詳細に説明をする。
[第1実施形態]
この発明の一実施形態は、患者歯列形態のデジタル立体情報から作成した移動後の予測歯列に基づくマウスピース型矯正装置であって、所望の弾力性を備えた弾性素材で作成され、移動したい歯の移動後の位置・状態の歯冠歯面に適合し、歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む一対の歯面パットを備え、移動前の歯を、前記歯面パットで挟むことで、当該歯を移動後の位置・状態に移動して矯正する移動部材と、移動しない歯の歯冠歯面に適合し、当該歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む一対の歯面パットを備え、その歯面パットで当該歯を挟み、当該歯をその状態で把持するための把持部材と、患者の歯列形状に沿ったU字(馬蹄)形状で、前記の移動部材及び把持部材を取り付けられる非弾性素材で作成された基底部と、を備えるマウスピース型可撤式歯列矯正装置である。
【0018】
本実施形態は、個々の歯を、所望の弾性力を備えたシリコン等の弾性素材で作成した歯面パットで挟む移動部、及び、把持部と、それらの個々の移動部及び把持部を取り付ける非弾性素材で作成された基底部との2層構造になっている。歯面パットは、主に、歯冠の外側及び内側(すなわち、唇舌面、又は、頬舌面)を包み、歯の移動を妨げない範囲で、近遠心面も含め、出来るだけ広く、歯を包むようにして、立体的に歯を移動、把持できるようにする。また、必要に応じて、歯面パットは、歯冠の切端、咬合面部まで覆い、広げることで、咬合面からの圧下力を付与したり、咬合力に対する装置の支持(把持)力を高めることができる。
【0019】
従来のマウスピース矯正装置は、一つの素材でできているため、歯を移動する矯正力に拮抗する力(反作用)が、装置全体に、歪や変形を生じさせ、移動したい歯に十分な矯正力が届かず、むしろ、その移動歯に隣在する、移動したくない歯に、その反作用による望まない歯の移動を引き起こす場合がある。
【0020】
本発明では、強固な土台となる基底部を設け、移動部材及び把持部材を支える2層構造により、マウスピース型矯正装置を構成する。これにより、各歯の必要に合わせた異なる矯正力及び方向を、各歯に個別に加えることができる。また、各歯に加える矯正力の反作用を基底部で吸収し、個々の歯への矯正力が隣在歯に波及することを最小限に抑えることができる。
【0021】
また、所望の厚み、素材、形状のパット部を基底部に付け替えることで、挟む力、すなわち、移動量、移動向きに関する立体的な矯正力を変化させることができる。そして、ターゲット歯を所望の立体的位置及び向きに確実に移動することが可能となる。歯面パットは、歯毎に、2個一組を作成し、基底部に着脱可能としても良いし、2個一組としないで歯面パットを各々別々に基底部に着脱できるようにしても良い。又は、移動しない複数本の隣接歯列に対し、連なった複数の歯面パットを1組作成して、把持部材を形成してもよい。
【0022】
以下、図面を参照して、より具体的に説明をする。
【0023】
図1は、一実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置1の斜視図である。この矯正装置1は、一例として、上顎の永久歯列に装着する装置として例示されている。
【0024】
矯正装置1は、基底部10と装着部20とを含む。基底部10は、硬質樹脂やチタン等の金属、すなわち非弾性素材で形成される。基底部10は、上顎の永久歯列の咬合面側の形状に沿った平面視がU字形状(馬蹄形状)の薄板体である。基底部10は、図において上面が装着面となっており、下面が咬合面となっている。そして、上面である装着面には装着部20が取り付けられている。
【0025】
装着部20は、移動部材30,40と、把持部材50,60とを含んでいる。
【0026】
この実施形態では、一例として、移動部材30,40が、それぞれ上中切歯(上右1番及び上左1番)に適合するものであり、把持部材50,60は、残りの歯(上右2番~8番及び上左2番~8番)に適合するものである場合を例にとって説明する。
【0027】
また、
図1に示すように、把持部材60は、上左2番~8番の7本の各歯毎に、独立した一対の歯面パットを設けた構成ではなく、任意の複数の歯、例えば上左6、7、8番の3本の歯(第1大臼歯、第2大臼歯及び第3大臼歯)については、隣接する歯間がつながって3本が一体になった一対の歯面パットを含む構成としてもよい。把持部材50についても、同様の構成であってもよい。
【0028】
図2は、
図1のII-IIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。
図1及び
図2を参照して、上中切歯(上右1番)に対応する移動部材30は、上右1番の歯冠歯面に適合する一対の歯面パット31,32を含んでいる。すなわち、上右1番の歯冠を中心に前(唇側)を包む歯面パット31及び後(舌側)を包む歯面パット32の2個一組(一対)の歯面パット31,32を含んでいる。一対の歯面パット31,32は、それぞれ、歯の近遠心面を含め、出来るだけ広く歯を包むように、歯の歯冠形状に対応付けられていてもよい。歯面パット31,32は、一例として、シリコン樹脂で形成されていてもよい。
【0029】
一対の歯面パット31,32は、移動したい歯(上右1番)の移動後の位置及び状態の歯冠歯面に適合するように支持部材33,34によって支持されている。そして、各支持部材33,34には、取付部35,36が設けられている。支持部材33,34及び取付部35,36によって、歯面パット31,32は、立体的に一義的に決まる位置になるように、基底部10に取り付けられている。支持部材33,34は、それぞれ、歯面パット31,32と一体的に形成されていてもよい。また、支持部材33,34は、一例としてシリコン樹脂で形成されていてもよい。
【0030】
また、一対の歯面パット31,32を支持する支持部材は、
図3に示すように、歯面パット31,32を共通に支持する1つの支持部材37とすることもできる。この場合は、支持部材37に取付部38が設けられており、支持部材37及び取付部38によって、歯面パット31,32は、立体的に一義的に決まる位置になるように、基底部10に取り付けられている。
【0031】
図4は、この例における移動したい歯である上中切歯の上右1番TR1及び上中切歯の上左1番TL1を下面側から見た図解的な図である。
図4において、実線で示すTR1,TL1は、上中切歯(上右1番及び上左1番)の移動前の位置及び状態を示しており、破線で示すTR1′,TL1′は、上中切歯(上右1番及び上左1番)の移動後の位置及び状態を示している。
【0032】
この実施形態では、2個一組(一対)の歯面パット31,32は、移動したい歯(上右1番)の移動後の位置及び状態の歯冠歯面に適合するように設けられており、2個一組(一対)の歯面パット41,42は、移動したい歯(上左1番)の移動後の位置及び状態の歯冠歯面に適合するように設けられている。
【0033】
従って、
図5に示すように、移動後の上右1番TR1′に歯面パット31,32は適合し、移動後の上左1番TL1′に歯面パット41,42は適合する。そして、
図6に示すように、移動前は、上右1番TR1は歯面パット31,32に挟まれ、上左1番TL1は歯面パット41,42に挟まれ、移動後の歯位置、状態となるように立体的に歯を移動させる矯正力CFが付与され続ける。
【0034】
なお、移動したい歯に対し、移動後の最終位置及び最終状態の歯冠歯面に適合するように一対の歯面パットを設けるのに替えて、段階的に移動モデル(一対の歯面パットを含む移動部材)を作成してもよい。すなわち、各段階の移動後の歯冠位置及び状態に合わせた一対の歯面パットを含む移動部材を作成し、基底部10に付け替えていくことで、矯正力を調整可能にして、より適切に移動したい歯を所望の位置・状態に段階的に移動させる装置としてもよい。
【0035】
この実施形態において、移動部材30は、弾性素材を含む構成であってもよい。例えば、移動部材30は、シリコンを主体とする素材で作られており、歯面パット31,32部分及び取付部35,36,38部分は相対的に低弾性に形成され、支持部材33,34,37部分は相対的に高弾性で高復元力を有するように形成されていてもよい。また、移動部材30は、全体が同一素材で形成されておらず、歯面パット31,32部分、取付部35,36,38部分及び支持部材33,34,37部分が異なる素材で形成されて一体化されたものでもよい。
【0036】
移動部材40も、移動部材30と同じ弾性素材を含む構成であってもよい。
【0037】
把持部材50,60は、上右2番~8番及び上左2番~8番に適合するものであるが、各歯の歯冠を中心に外(唇側又は頬側)を包む歯面パット及び内(舌側)を包む歯面パットの2個一組(一対)の歯面パットが独立して設けられた構成であってもよいし、外(唇側又は頬側)を包む歯面パット及び内(舌側)を包む歯面パットが、隣接する歯間でつながった構成であってもよい。
図1では、つながった構成の一例を示している。
【0038】
なお、この実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置は、患者歯列形態のデジタル立体情報から、直接、CAD・CAMにより作成してもよい。また、患者歯列形態の立体情報からCAD・CAMにより作成した移動後の予測歯列模型上で作成してもよい。
【0039】
[第2実施形態]
この発明の第2の一実施形態は、患者歯列形態のデジタル立体情報から作成した移動後の予測歯列に基づくマウスピース型矯正装置であって、移動したい歯の移動後の位置、状態の歯冠歯面に適合し、当該歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む2つ(一対)の歯面パットを備え、移動前の歯を歯面パットで挟むことで、歯を移動後の位置及び状態に移動させて矯正する移動部材と、移動しない歯の歯冠歯面に適合し、当該歯冠を中心に前後(唇舌)、又は、側方(頬舌)を包む2つ(一対)の歯面パットを備え、その歯面パットで歯を挟み、当該歯をその状態で把持するための把持部材とを備え、前記の移動部材の各歯面パットは、弾性を備えた形状記憶合金を含む合金素材の弾性体により、所定の位置関係で支持されていて、前記弾性体を選択したり付け替えたりすることで、移動部材の矯正力を調整できるものである。さらに、患者の歯列形状に沿ったU字(馬蹄)形状で、前記の移動部材及び把持部材を取り付けられる非弾性素材で作成された基底部を備えている。
【0040】
従来、マウスピース型矯正装置で利用されるビニール、弾性シリコン、シリコンゴム、弾性樹脂、薄い樹脂等の素材では、いずれも、必要とする矯正力及び方向を細かに調整して加えることが難しいと言う課題がある。すなわち、素材の厚みや形状により、必要な矯正力を必要な方向に、100%加えることに限界がある。
【0041】
そこで、本実施形態は、歯面パットを弾性のない素材で形成し、各歯を挟む歯面パットに加える矯正力や把持力を、所望の方向及び量に調整できる形状記憶合金を含む合金素材の弾性体により発現するものである。すなわち、洗濯鋏のように、2つの歯面パットが金属製コイルやバネで繋がっており、その金属の弾性力により歯を挟む構造である。予め、発現できる矯正力が正確に規格されている既成の複数種の金属製弾性体の中から、必要とする矯正力に合わせて弾性体を選択することで2つのパットが歯面に密着するよう、しっかり挟むために必要にして十分な把持力及び矯正力を付与でき、より的確で、確実な歯の立体的な移動と、安定した装置の把持(支持、維持)が可能となる。
【0042】
歯面パットは、歯の移動を妨げない範囲で、唇舌面(若しくは、頬舌面)をはじめ、近遠心面を含め、出来るだけ広く歯を包むようにして、立体的に歯を移動できるようにする。また、必要に応じ、各歯面パットは、切端や咬合面部まで覆い、広げることで、咬合面からの圧下を付与したり、咬合力に対する装置の支持(把持)力を高めることができる。
【0043】
また、既成の弾線やバネ板等の弾性体から所望の矯正力を発現できる弾性体を選択し、歯面パットを付け替えることで、矯正力、把持力を調整できることに加え、歯面パットの形状や厚みを変えて、付け替えることでも、矯正力を増強し、移動方向を調整することができる。
【0044】
本実施形態では、形状記憶合金等の温度で形状を変えられる素材の弾性体を、歯面パットの保持及び矯正力の発現に利用することで、歯面パットを歯の豊隆部のアンダーカットも含め、広く包む形態にすることができ、歯にしっかりと立体的な矯正力を加え、的確に移動、あるいは、把持することが可能となる。
【0045】
例えば、着脱時には、冷水で装置を冷やし、形状記憶合金素材の弾性体の形状の適用性、自由度を高めることで、どのような歯並びであっても装置の着脱が容易となる。装着後は、口腔内の体温で、形状記憶合金製の各弾性体は、所定の位置、形状に戻り、所定の矯正力及び把持力を発現し、装置は把持部でしっかりと把持され、口腔内所定の位置に、安定して維持され、所望の矯正力を加えても、その反作用で装置が外れることはない。装置を外すときは、冷水を口に含むことで、容易に外すことが可能となる。
【0046】
使用する形状記憶合金製の弾性体の設定温度を、把持部と移動部とで変え、把持部の弾性体が、口腔内でより早く所定の形状に戻るよう設定することで、把持部により、装置が所定の位置にまず固定され、次に移動部が歯を包むことで、装置の装着位置の誤差を減らし、移動したい歯に加えたい矯正力をより的確かつ正確に加えることができる。
【0047】
歯の豊隆がきつくない歯の場合には、通常の合金製のバネ板、弾線等の弾性体であっても、着脱時にあたる歯頸部側のパット端縁部分を着脱しやすい斜面形状にしても可能で、形状記憶合金製の弾性体と、通常の矯正で用いられる合金製の弾性体とを組み合わせて作成することもできる。例えば、通常の合金製弾性体を、把持部で利用することで、着脱時の装着位置、方向を特定しやすくし、装置の着脱ガイドとして利用することができる。
【0048】
このように、歯の豊隆や向き等による装置着脱に係る制約なしに、各歯を十分に覆う歯面パットを介して、歯を移動、把持することができ、その移動、把持力を発現する素材に、形状記憶合金を含む合金で作成された弾性体を使用することで、適正な矯正力、そのために必要な把持力を、適正かつ十分に備え、着脱もスムーズに行える可撤式矯正装置を実現できる。
【0049】
以下、図面を参照して、より具体的に説明をする。
【0050】
図7は、第2の一実施形態に係るマウスピース型可撤式歯列矯正装置2の斜視図である。この矯正装置2は、一例として、上顎の永久歯列に装着する装置として例示されている。
【0051】
矯正装置2は、基本的には、
図1を参照して説明した矯正装置1と同様に、基底部10と装着部20とを含んでいる。
【0052】
基底部10は、硬質樹脂やチタン等の金属、すなわち非弾性素材で形成される。基底部10は、上顎の永久歯列の咬合面側の形状に沿った平面視がU字形状(馬蹄形状)の薄板体である。基底部10は、図において上面が装着面となっており、下面が咬合面となっている。そして、上面である装着面には装着部20が取り付けられている。
【0053】
装着部20は、移動部材30,40と、把持部材50,60とを含んでいる。
【0054】
この実施形態では、一例として、移動部材30,40が、それぞれ上中切歯(上右1番及び上左1番)に適合するものであり、把持部材50,60は、それぞれ残りの歯(上右2番~8番及び上左2番~8番)に適合するものである場合を説明する。
【0055】
また、
図7に示すように、把持部材60は、上左2番~8番の7本の各歯毎に、独立した一対の歯面パットを設けた構成ではなく、任意の複数の歯、例えば上左6、7、8番の3本の歯(第1大臼歯、第2大臼歯及び第3大臼歯)については、隣接する歯間がつながって3本が一体になった一対の歯面パットを含む構成としてもよい。把持部50についても、同様の構成であってもよい。
【0056】
図8は、
図7のII-IIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。また、
図9(A)は、
図8における歯冠前(唇面)側の歯面パット310を示す図解図であり、
図9(B)は、
図8における歯冠後(舌面)側の歯面パット320を示す図解図である。
【0057】
図7、
図8及び
図9を参照して、上中切歯(上右1番)に対応する移動部材30は、上右1番の歯冠歯面に適合する2個一組(一対)の歯面パット310,320を含んでいる。歯面パット310の外表面には弾性体取付部101により金属製弾性体102の一端が固定されている。また、金属製弾性体102の他端は、弾性体取付部103により基底部10に固定されている。金属製弾性体102は、一例として、左右方向に対称な形状をした一対の金属ワイヤ102で作られている。一対の金属ワイヤ102には、その長さ方向途中部に横方向に張り出すように曲げられ、また、元に戻されたバッファ曲げ部102Bが形成されていてもよい。
【0058】
同様に歯面パット320の外表面には弾性体取付部104により金属製弾性体105の一端が固定され、金属製弾性体105の他端は、弾性体取付部106により基底部10に固定されている。金属製弾性体105も、金属製弾性体102と同様に、左右方向に対称な形状をした一対の金属ワイヤ105で作られ、その長さ方向途中部にバッファ曲げ部105Bを含んでいてもよい。
【0059】
各歯面パット310,320は金属製弾性体102,105により基底部10に対して所定の位置及び向きになるように支持されている。より具体的には、各歯面パット310,320は、移動後の上右1番の歯冠の位置、向き及び状態に対応するように支持されている。
【0060】
この実施形態に係る移動部材30であれば、上右1番の歯冠歯面に装着した状態において、金属製弾性体102,105により、歯面パット310,320が移動後の歯冠の位置及び向きになるように常時矯正力及び把持力が加えられている。よって、移動すべき歯(上右1番)に対して、金属製弾性体102,105による弾力で適切な矯正力及び把持力を加え続けることができる。
【0061】
また、金属製弾性体102,105を形状記憶合金を含む弾性体で形成し、例えば、装着時には冷水で装置2を冷やすことにより、歯面パット310,320の間が開くように金属製弾性体102,105を変形させ、装置2の歯列への装着を容易にしてもよい。そして、装着後は、口腔内の体温で金属製弾性体102,105が元の形状に戻り、歯面パット310,320により所定の矯正力及び把持力が発現されるようにしてもよい。
【0062】
なお、装置を外すときには、例えば冷水を口に含むことで金属製弾性体102,105を変形できるようにすれば、容易に取り外すこともできる。
【0063】
移動部材30は、
図10に示すように、金属製弾性体102及び105が、共通の弾性体取付部107により基底部10に固定されていてもよい。
図10において、
図8と同一部分には同一の番号を符して重複した説明については省略する。
【0064】
上記の実施形態では、金属製弾性体102,105は、それぞれ、一対の金属ワイヤ102,105で構成された例を示したが、これに限定されるものではない。金属製弾性体102,105は、歯面パット310,320に対して常時矯正力及び把持力を弾性的に付与するものであればよく、その形態は、弾性ワイヤであってもよいし、板ばね状の板体であってもよいし、コイルばね状のものでもよいし、その他の形態物であってもよい。
【0065】
さらに、金属製弾性体は、合金部分が露出しないように、その表面全体が非金属素材によりコーティングされていてもよい。このように、非金属素材によりコーティングされた金属製弾性体を用いた装置を作ると、金属アレルギーの患者に対して支障のない装置とすることができる。
【0066】
また、形状記憶合金を含む金属製弾性体を多種の形状、長さ、大きさ、弾性力等に応じて規格したものを準備しておき、その規格情報に基づき歯面パット及び基底部10への取付け位置を設計する製作方法をとれば、より簡易に装置2を製作することができる。
【0067】
図11は、
図7のIII-IIIに沿って切断した切断面端面を示す図解的な図である。
【0068】
図7及び
図11を参照して、上左6番(左上の第1大臼歯)を把持する把持部材60は、上左6番の歯冠歯面に適合する2個一組(一対)の歯面パット610,620を含んでいる。歯面パット610は、上左6番に対し、外側(頬側)から当接して、上左6番の外側の歯冠歯面を覆うパットである。歯面パット620は、上左6番に対し、内側(舌側)から当接して、上左6番の内側の歯冠歯面を覆うパットである。
【0069】
なお、
図7に示すように、この実施例では、歯面パット610,620は、独立した単体のパットではなく、隣接する上左7番(左上の第2大臼歯)の歯冠歯面に適合する歯面パット及び上左8番(左上の第3大臼歯)の歯冠歯面に適合する歯面パットと繋がった形態をしている。
【0070】
歯面パット610の外表面には、弾性体取付部603により金属製弾性体601の一端が固定されている。金属製弾性体601の他端は、弾性体取付部604により基底部10に固定されている。同様に、歯面パット620の外表面には、弾性体取付部605により金属製弾性体602の一端が固定され、金属製弾性体602の他端は、弾性体取付部604により基底部10に固定されている。金属製弾性体601は、歯面パット610に対して内向き(
図11において左向き)の弾性力Fを常時付与している。また、金属製弾性体602は、歯面パット620に対して内向き(
図11において右向き)の弾性力Fを常時付与している。よって、外側の歯冠歯面及び内側の歯冠歯面が歯面パット610及び620で挟まれる上左6番の歯は、その植立位置において、歯面パット610,620で確実にかつ強固に把持される。
【0071】
なお、この実施例では、隣接する上左7番の歯を挟持する一対の歯面パットには金属製弾性体は設けられていないが、上左6番の歯を挟持する一対の歯面パット610,620の弾性力F及び上左8番の歯を挟持する一対の歯面パットの弾性力が左右から伝達されるので、上左7番の歯を挟持する一対の歯面パットにも、確実でかつ強固な把持力が生じる。
【0072】
[第3実施形態]
矯正力を加えると、必ず、その矯正力に拮抗する力が装置に、そして、その装置と繋がっている歯にも加わる。すなわち、装置が外れようとする反作用が生じる。この装置が外れるように作用する拮抗力を抑え、望ましくない歯の移動を防ぐ力の一つが咬合力である。この咬合力及び咬合位置により、装置は、適正な位置及び状態に維持され、矯正力を適正に作用させることができる。そのため、咬合力を装置の安定した維持に適正に活かすことは、良好な治療結果を得る上で重要である。
【0073】
しかし、従来のマウスピース型矯正装置の製作にあたっては、患者口腔内で上下歯列が噛み合う上下顎間位置で移動後の歯を配列し、予測模型を作製するが、この治療前の不正な歯列における上下歯列咬合位置が、必ずしも正しい顎位、上下顎間関係であるとは限らない。不正な歯列により、咬む位置、すなわち、下顎の位置が偏位している可能性があるためである。
【0074】
また、マウスピース型の矯正装置では、装置が歯の咬合面を覆うので、通常、臼歯部で早期接触が生じる。しかも、左右で当たり方が異なる場合もある。このように、咬合面を含む歯列全体を覆うマウスピース型矯正装置では、上下の装置が生理的な位置で、咬合面側全面で均等に接触し、適正、かつ、均等に咬合力がかかることは、通常、困難である。もし、装置間で非対称な接触が生じ、左右どちらかの一方に強い咬合力がかかるようであれば、その強く当たる領域の歯には、圧下力がかかり、上下歯列が噛み合う咬合平面に歪みや傾斜が生じる恐れがある。また、より安定して噛める位置を探し、下顎の位置が本来の位置から偏位する恐れもある。このように、マウスピース型矯正装置では、生理的な下顎位で、上下歯列全面に咬合力が均等に加わることで、装置が機能的に適正な位置に維持され、作用することが、良好な治療効果を得る上で、重量な要素と言える。
【0075】
そこで、この実施形態では、マウスピース型矯正装置の咬合面側接触位置を、生理的、機能的に適正な下顎位に合わせ、装置咬合面側接触面全面に、咬合力を均等に加える構成とした。
【0076】
通常、上下歯列形状を採取時、口腔内での生理的な上下歯列の咬合、もしくは、接触位置関係を記憶する咬合採得が行われる。しかし、これら咬合接触情報だけでは、マウスピース型矯正装置を装着し、装置を介して装置の厚み分開口した位置で接触した状態における下顎の生理的な位置、すなわち、上下歯列の生理的に適正な位置関係は判らない。
【0077】
そのため、例えば、マウスピース型矯正装置を実際の口腔内に装着した状態で、生理的な位置関係を口腔内で確認し、その上下顎関係位置で上下マウスピース型矯正装置間の位置関係の記録(咬合採得)をする。より具体的には、咬合採得を行う際に、上下マウスピース型矯正装置の厚みを考慮し、その分、開口した状態での生理的な下顎位の上下歯列位置関係の咬合採得する。
【0078】
この採得した生理的な開口時の咬合採得に基づいて、上下マウスピース型矯正装置の各対合面同士が接触する咬合面位置(上下装置もしくは、そのどちらかの装置と対合歯列との接触位置)を設定し、例えば、上下に装置を装着する場合には、上顎用対合面部と、下顎用対合面部とを作成し、各々、上顎、下顎装置の基底部に取り付ける。これにより、上下マウスピース型矯正装置は、この上下対合面で接触することで、生理的に適正な下顎の位置で、上下のマウスピース型矯正装置全体に、咬合力が均等に加えられ、しっかりと、矯正力に拮抗する反作用を抑え、上下装置を適正な位置に維持し、所望とする歯の移動をより確実に行うことができる。
【0079】
以下、図面を参照して、より具体的に説明をする。
【0080】
図12は、一実施形態に係る可撤式マウスピース型歯列矯正装置3,4の側面図である。この矯正装置は、上顎の永久歯列に装着する矯正装置3と、下顎の永久歯列に装着する矯正装置4とを含んでいる。
【0081】
上顎用の矯正装置3は、基本的には、
図1を参照して説明した矯正装置1及び/又は
図7を参照して説明した矯正装置2と同様に、基底部10及び装着部20を含んでいる。装着部20の構成は、先に説明した各実施形態の構成と同様である。
【0082】
下顎用の矯正装置4も、基本的には、
図1を参照して説明した矯正装置1及び/又は
図7を参照して説明した矯正装置2と同様であり、基底部10D及び装着部20Dを含んでいる。そして、装着部20Dが下顎の永久歯列に装着して矯正を行う構成にされている。
【0083】
図13は、
図12に示す歯列矯正装置3,4を奥側(
図12において右側)から見た状態の図である。なお、
図13における係合形状13(凸14及び凹15)は、理解を容易にするため、極端に誇張して描かれている。
【0084】
図12及び
図13を参照して、この実施形態の特徴は、基底部10の咬合面11及び基底部10Dの咬合面12に、両咬合面11,12が適切に当接するための係合形状13が形成されていることである。係合形状13は、一例として、咬合面11に形成された凸14と、咬合面12に形成され、凸14と係合する凹15であってもよい。また、係合形状13は、咬合面11に形成されたステップ(段差)16と、咬合面12に形成され、ステップ16(段差)と係合するステップ(段差)17であってもよい。
【0085】
係合形状13は、マウスピース型矯正装置3,4を実際の口腔内に装着した状態で、生理的に適切な上下顎関係位置で矯正装置3,4が当接し合うよう(咬合し合うよう)に咬合採得を得て、当該取得した咬合採得を実現する係合形状13であればよい。
【0086】
特に係合形状13が、上記のステップ(段差)16及びステップ(段差)17の場合、成長期の矯正治療では、下顎を本来の位置から前方で、左右対称な所望の位置に誘導した位置で咬合採得し、その位置で、対合面部を作成することで、噛み合う度に、下顎は前方に誘導され、下顎の前方成長を促す顎骨矯正治療に応用することもできる。
【0087】
図14は、
図12及び
図13を参照して説明した上顎用の矯正装置3にオプション部材が組み込まれた実施形態を示す図であり、
図14(A)はオプション部材が組み込まれた矯正装置3の側面図、
図14(B)はオプション部材が組み込まれた矯正装置3を奥側(背面)から見た図、
図14(C)は側面カバーを装着した状態の矯正装置3の斜視図である。
【0088】
図14(A)に示すように、矯正装置3の基底部10には、オプション部材として、側面カバー70を取り付けるための取付部71が設けられていてもよい。具体的には、基底部10の外側面に所定の間隔で複数個の取付部71が配置されていてもよい。取付部71は、一例として、ボタンやホックで構成してもよい。また、取付部71は、基底部10の外側面に埋設するように組み込まれていてもよい。
【0089】
図14(B)に示すように、矯正装置3の基底部10の内側面や後側面にも、オプション部材として、側面カバー70を取り付けるための取付部71が設けられていてもよい。
【0090】
側面カバー70は、矯正装置3に備えられた装着部20の外側面(唇頬側)、若しくは内側面(舌側)、又は装着部20の外側面及び内側面の両側を覆うためのカバーである。この側面カバー70は、一例として、シリコン等の弾性素材で形成されている。取付部71に側面カバー70を取り付けることにより、装着部20に対して、口唇、頬内側粘膜、及び舌表面が直接接触するのを防ぐことができる。
【0091】
側面カバー70には、基底部10の外側面が内側面等に設けられた取付部71と嵌合する被取付部72が設けられている。取付部71と被取付部72とを嵌合し、又は、その嵌合を外すことにより、基底部10に対して側面カバー70を必要に応じて着脱することができる。
【0092】
図14(C)は、側面カバー70を装着した状態の矯正装置の図解的な斜視図である。側面カバー70は、図示のように、装着部20の外側面、後側面、及び内側面の全てを覆うものであってもよいし、外側面又は内側面のいずれかを覆うものであってもよい。あるいは、装着部20の外側面又は内側面の一部分を覆うような部分的な側面カバーを用いてもよい。
【0093】
図14(C)の例に示す側面カバー70は、その外表面に模様73が描かれている。このように、側面カバー70は、絵や模様や着色が施されることにより、デザイン性が向上していてもよい。
【0094】
図15は、
図12を参照して説明した上顎用の矯正装置3に、他のオプション部材が組み込まれた実施形態を示す側面図である。
図15に示す矯正装置3は、基底部10の外側面の予め定める位置に、オプション部材として、ゴムやワイヤや紐等を掛けるためのフック75が設けられた例である。フック75は、矯正装置3を上顎歯列に装着した状態において、矯正装置3を外そうとする反作用を抑えるために利用する。すなわち、フック75に、例えばゴムの一端側を掛け、そのゴムの他端側を顎外固定装置や骨アンカー等に掛けることにより、ゴムの弾性力で矯正装置3を外そうとする反作用を抑えるものである。
【0095】
基底部10の外側面に設けるフック75の設置位置や、フック75の形状については、種々の態様が考えられ、矯正装置3を確実に固定でき、矯正効果を向上できるものであればよい。
【0096】
図16は、
図12及び
図13を参照して説明した可撤式マウスピース型歯列矯正装置3の変形例を示す図であり、上顎の永久歯列に装着する矯正装置3Mの側面図である。
【0097】
上顎用の矯正装置3Mは、前述した矯正装置3と同様に、基本的には、
図1を参照して説明した矯正装置1及び/又は
図7を参照して説明した矯正装置2と同様に、基底部10及び装着部20を含んでいる。装着部20の構成は、先に説明した各実施形態の構成と同様である。
【0098】
この実施形態の特徴は、基底部10が、装着部20が取り付けられる装着面10FUと、当該装着面10FUと反対側の咬合面10FDとを有しており、咬合面10FDには、咬合面部材90が着脱可能に取り付けられていることである。咬合面部材90は、平面視においては、基底部10と等しく、上顎の永久歯列の咬合面側の形状に沿ったU字形状(馬蹄形状)をした薄板体である。咬合面部材90の上面91は、基底部10の咬合面10FDに密着するように形成されている。咬合面部材90の上面91及び基底部10の咬合面10FDには、それぞれ、両者の取付位置を位置決めして、取付後にズレ等が生じないようにするための取付部93,18が設けられている。取付部93,18は、それぞれ、複数設けられていてもよく、また、取付部93,18は、例えば、凹と、その凹と嵌合する凸であってもよい。
【0099】
咬合面部材90の下面92には、咬合面部材90が基底部10に取り付けられた状態において、矯正装置3Mが生理的に適正な位置で咬合するための係合形状13が形成されている。係合形状13は、先の実施形態と同様に、下面92に形成された凸や凹やステップ(段差)であってもよい。
【0100】
この実施形態において、基底部10に咬合面10FDを設け、かつ、咬合面10FDに咬合面部材90が着脱可能に取り付けられる構成とした理由は、次の通りである。
【0101】
口腔内で採取した顎位が、正しくなかった場合、あるいは、生理的でなく、習慣性の位置であった場合など、使用して経過を観ながら、修正の必要を認める場合がある。そのような場合、すべてを作り直すのでなく、咬合面だけを作り直し、取り換えたい。この場合、当該上下マウスピース装置、もしくは、当該マウスピース装置と対合歯列模型との位置関係を新たに咬合採取し、その位置関係に基づき、マウスピース間、もしくは、マウスピースと歯列模型咬合面間を埋める咬合面部材を作成し直して、付け替える。取付部があることで、何度作り直しても、取付部が基準となり、マウスピース基底部(咬合面10FD)と咬合面部材90との位置関係が、適正に位置決めできるので、最終的には、正しい位置にたどり着ける。
【0102】
図17に、咬合面部材90と置換可能な咬合面部材90′の図解的な側面図を示す。
図17において、先の実施形態と同一の参照符号は、同一又は対応する部位であり、重複した説明は省略する。
【0103】
図16及び
図17を参照して説明した実施形態においても、先に
図14及び
図15を参照して説明した構成と同様に、基底部10の側面又は咬合面部材90,90′の側面に、オプション部材としての取付部71(一例として、ボタンやホック)やフック75が設けられた構成としてもよい。
【0104】
この発明は、以上説明した実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0105】
本出願は、2020年6月3日に日本国特許庁に提出された特願2020-096976号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【符号の説明】
【0106】
1、2、3、3M、4 マウスピース型可撤式歯列矯正装置
10、10D 基底部
10FU 装着面
11、12、10FD 咬合面
13 係合形状
14 凸
15 凹
16、17 ステップ(段差)
20、20D 装着部
30、40 移動部材
31、32、41、42 歯面パット
33、34、37 支持部材
18、35、36、38、93 取付部
50、60 把持部材
70 側面カバー
71 取付部
72 被取付部
73 模様
75 フック
90、90′ 咬合面部材
91 上面
92 下面
101、103、104、106、603、604、605 弾性体取付部
102、105、601、602 金属製弾性体
310、320、610、620 歯面パット