(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】多孔質メタルボンド砥石の製造方法および多孔質メタルボンドホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20240819BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20240819BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20240819BHJP
B24D 3/10 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B24D3/00 340
B24D3/02 310Z
B24D3/06 A
B24D3/10
(21)【出願番号】P 2022561352
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2021038076
(87)【国際公開番号】W WO2022102335
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020187173
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】山口 勝
(72)【発明者】
【氏名】古野 大樹
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104079(JP,A)
【文献】特開昭63-212059(JP,A)
【文献】特表2005-525242(JP,A)
【文献】特開2008-30194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
B24D 3/02
B24D 3/06
B24D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、金属粉末と、気孔形成材とを含む未焼成成形体を得る成形工程と、
前記気孔形成材に対して溶解性を有する溶媒の蒸気と、前記未焼成成形体とを接触させて、前記気孔形成材を除去し、気孔を含む未焼成成形体を得る脱溶質工程と、
前記気孔を含む未焼成成形体を焼成する焼成工程と、を有する多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成成形体に対する前記気孔形成材の体積比が、5~90体積%である請求項1に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項3】
前記気孔形成材の平均粒径が、5~250μmである請求項1または2に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、水、アルコールおよびアセトンからなる群から選択される1以上を含む請求項1から3のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、水を含み、
前記気孔形成材が、水溶性化合物である請求項1から4のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項6】
前記気孔形成材が、水溶性の無機塩である請求項5に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法により製造された多孔質メタルボンド砥石を台金に接着する工程と、
ドレッサを用いて、前記台金に接着された前記多孔質メタルボンド砥石の仕上げを行う仕上げ工程と、を有する多孔質メタルボンドホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質メタルボンド砥石の製造方法に関するものである。また、本発明は、多孔質メタルボンドホイールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高硬度脆性材料を安定した研削能力で、高能率、高寿命に研削するための適した研削砥石として、従来からビトリファイドボンド砥石が使用されている。従来、高硬度脆性材料の研削需要は多くなく、時間をかけて行えば十分であった。しかしながら、パワーデバイス市場やLED市場の伸長につれて、その研削に対しても、生産性向上や加工コスト低減の目的から高能率、高寿命の加工要求が高まっており、それらを達成する砥石が必要とされている。
【0003】
こういった高硬度脆性材料の高能率、高精度加工分野や超仕上げと呼ばれる仕上げ加工分野において、寿命に優れる工具として多孔質メタルボンド砥石が用いられることがある。多孔質メタルボンド砥石の製造方法として、中空微粒子等の独立気泡材料を添加し気孔を形成する方法や、有機媒体を添加し焼成による燃え抜けにより気孔を形成する方法、塩を添加して焼成後に溶媒に溶出させ気孔を形成する方法などが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属結合材またはガラス質結合材の中に、砥粒と無機質の中空微粒子が分散していることを特徴とする有気孔砥石が開示されている。また、砥粒と中空微粒子と金属結合材の粉末とを混合した混合粉末を、加熱して当該金属結合材を溶融したのち冷却することで、有気孔砥石が製造できることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、硬質材料の加工物を研磨加工して所望の表面仕上げにするための複合材であって、特定の砥粒、特定の金属結合材、および気孔部を特定の割合で有する複合材やその製造方法が開示されており、研磨物品を溶剤中に浸漬して分散質を浸出させ、それによって連続気孔を研磨物品中に残すことが記載されている。
【0006】
特許文献3には、(a)砥粒約0.5~約25体積%、結合材約19.5~約49.5体積%、及び分散質粒子約50~約80体積%を含有する混合物を混和すること、(b)前記混合物をプレス加工して研磨材の充填された複合材料にすること、(c)前記複合材料を熱処理すること、(d)実質的に全ての前記分散質粒子を溶解するのに適した一定の時間にわたって、前記複合材料を、前記分散質粒子を溶解する溶媒に浸漬すること、を含み、前記砥粒及び前記結合剤が前記溶媒に対して実質的に不溶性である、少なくとも50体積%の連通気孔を有する研磨用品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-88035号公報
【文献】特許5314030号公報
【文献】特開2008-30194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、中空微粒子のような独立気泡材料を用いて気孔を形成する方法は、独立気泡材料の添加量により、気孔率を調整できる。しかしながら、気孔の外郭が不要な残渣物として残ってしまうため、工具として使用する場合、この残渣物が加工時にワークに接触し、抵抗の上昇に伴う研削やけや加工精度の悪化が懸念される。
【0009】
分散質のような気孔形成材を溶媒に溶出させて気孔を形成させる方法では、独立気泡材料の外郭のような不要な残渣物は残らない。また、
図6に示すように、従来の多孔質メタルボンド砥石の製造方法では、焼成工程後に脱溶質工程が行われる。焼成工程を経ることで、メタルボンドに砥粒が強固に固着された焼成体が得られ、溶媒に浸漬してもメタルボンドの強度の低下や砥粒の固着力の低下を抑え、気孔形成材の溶出が可能と考えられる。しかしながら、メタルボンドが強固に焼き固められているため、溶媒が浸透するためには、気孔形成材が連通している必要がある。焼成体中の気孔形成材の割合が低すぎると、気孔形成材が連通していない部分が生じ、溶媒が浸透できず気孔形成材を溶出させることが困難となる。全ての分散質を消失させるために気孔が連通する必要があり、例えば、特許文献2や特許文献3の方法では、少なくとも40体積%以上の分散質の添加が必要とされている。しかしながら、40体積%以上の気孔率の砥石を工具として使用する場合、被研材によっては、高い切れ味を有する一方で、メタルボンド部が少なくなると耐摩耗性が低くなるという問題があり、より低い気孔率の砥石が求められる場合もあった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶媒で溶出させることができる気孔形成材を用いた、低い気孔率から高い気孔率まで任意に気孔率を調整可能な多孔質メタルボンド砥石の製造方法およびこれを利用した多孔質メタルボンドホイールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 砥粒と、金属粉末と、気孔形成材とを含む未焼成成形体を得る成形工程と、前記気孔形成材に対して溶解性を有する溶媒の蒸気と、前記未焼成成形体とを接触させて、前記気孔形成材を除去し、気孔を含む未焼成成形体を得る脱溶質工程と、前記気孔を含む未焼成成形体を焼成する焼成工程と、を有する多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<2> 前記未焼成成形体に対する前記気孔形成材の体積比が、5~90体積%である前記<1>に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<3> 前記気孔形成材の平均粒径が、5~250μmである前記<1>または<2>に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<4> 前記溶媒が、水、アルコールおよびアセトンからなる群から選択される1以上を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<5> 前記溶媒が、水を含み、前記気孔形成材が、水溶性化合物である前記<1>から<4>のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<6> 前記気孔形成材が、水溶性の無機塩である前記<5>に記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法。
<7> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の多孔質メタルボンド砥石の製造方法により製造された多孔質メタルボンド砥石を台金に接着する工程と、ドレッサを用いて、前記台金に接着された前記多孔質メタルボンド砥石の仕上げを行う仕上げ工程と、を有する多孔質メタルボンドホイールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶媒で溶出させることができる気孔形成材を用いた、低い気孔率から高い気孔率まで任意に気孔率を調整可能な多孔質メタルボンド砥石の製造方法が提供される。これにより、独立気泡材料の外郭のような不要な残渣物の影響が抑えられた多孔質メタルボンド砥石を所望の気孔率で得ることができる。
また、低い気孔率から高い気孔率までの任意に気孔率を有する多孔質メタルボンド砥石を備えた多孔質メタルボンドホイールの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法の工程図である。
【
図2】本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法で製造される砥石の一部断面模式図である。
【
図3】本発明にかかる多孔質メタルボンド砥石の研削時の状態を説明するための図である。
【
図4】本発明の多孔質メタルボンドホイールの製造方法の工程図である。
【
図5】本発明の多孔質メタルボンドホイールの製造方法で製造される多孔質メタルボンド砥石の一例を示す斜視図である。
【
図6】従来の多孔質メタルボンド砥石の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
<本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法>
本発明は、砥粒と、金属粉末と、気孔形成材とを含む未焼成成形体を得る成形工程と、前記気孔形成材に対して溶解性を有する溶媒の蒸気と、前記未焼成成形体とを接触させて、前記気孔形成材を除去し、気孔を含む未焼成成形体を得る脱溶質工程と、前記気孔を含む未焼成成形体を焼成する焼成工程と、を有する多孔質メタルボンド砥石の製造方法(以下、「本発明の砥石の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0017】
本発明の砥石の製造方法は、成形体が未焼成の状態で気孔形成材の除去を行うことと、気孔形成材の除去のために蒸気を用いることが特徴である。このように成形体が未焼成の状態で気孔形成材の除去を行うこと(すなわち、焼成工程の前に脱溶質工程を行うこと)で、成形体が強固に焼き固められていないため、溶媒の蒸気が内部まで浸透しやすくなる。そのため、気孔形成材の量が少ない場合でも、成形体の内部まで溶媒の蒸気が浸透でき、気孔形成材を十分に溶出させることが可能となる。また、溶媒へ成形体を浸漬させるのではなく、成形体を溶媒の蒸気と接触させるため、成形体の内部までさらに浸透しやすくなる。また、未焼成成形体は形状安定性が低いため、これを溶媒に浸漬させると、形状が崩れるおそれがあるが、本発明の砥石の製造方法では、溶媒の蒸気と接触させるため、未焼成であっても成形体の形状も崩れにくい。こうしてできた気孔が形成された未焼成成形体を焼成することで、気孔が保持されたまま金属粉末が溶融、焼成され、低い気孔率でも、気孔形成材が十分に除去された多孔質メタルボンド砥石を作製することができる。
【0018】
図1は、本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法の工程図である。以下、
図1に基づいて各工程について説明する。
【0019】
[成形工程(P1)]
成形工程は、砥粒と、金属粉末と、気孔形成材とを含む未焼成成形体を得る工程である。
【0020】
(砥粒)
砥粒は、ダイヤモンドなどを用いることができる。砥粒の平均粒径は、研削材料の種類等により適宜選定することができる。炭化ケイ素、サファイアなどの高硬度脆性材料を研削する場合、砥粒が深く食い込むとダメージが高硬度脆性材料の内部に到達し、次工程での加工時間が長くなる。砥粒の平均粒径が大きすぎると、研削材料に砥粒が深く食い込むことにより研削材料のダメージが大きくなる傾向にある。一方で、砥粒の平均粒径が小さすぎると、研削材料に砥粒が食い込まず加工が困難になる傾向にある。そのため、砥粒の平均粒径は、4~55μmが望ましい。例えば、サファイアウェハを研削する場合には、12~55μmとすることができる。より加工し難い炭化ケイ素(SiC)ウェハを研削する場合には、4~20μmが望ましい。
【0021】
なお、本願において、平均粒径は、粒度分布測定器(レーザー回析散乱法)によって測定した粒度分布のメジアン径である。メジアン径はJIS Z 8825:2013に準じる測定方法にて、(株)堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960)を用いて測定された体積基準のD50の値である。
【0022】
(金属粉末)
金属粉末としては、銅、錫、コバルト、鉄、ニッケル、タングステン、銀、亜鉛、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、およびこれらの合金からなる群から選択される1以上を用いることができる。一般的には、金属粉末は、銅および錫の混合物を含有することが好ましい。例えば、高硬度脆性材料の研削としては銅を約30質量%~約70質量%、錫を約30質量%~約70質量%含有する組成が好ましい。
【0023】
(気孔形成材)
気孔形成材は、水、アルコール(メタノールやエタノール等)、アセトンなどの溶媒に容易に溶解することができる任意の溶質粒子を用いることができる。その中でも、気孔形成材は、水溶性化合物が好ましく、水溶性の無機塩がより好ましい。水溶性の無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムおよび硫酸マグネシウムからなる群から選択される1以上が好ましい。
【0024】
気孔形成材の平均粒径は、例えば、5~300μmとできる。本発明の砥石の製造方法で得られる多孔質メタルボンド砥石の気孔の大きさは、気孔形成材の大きさに対応するため、気孔形成材の粒径を調整することで、形成される気孔の大きさを調整することができる。また、気孔形成材の大きさは、次工程での除去のしやすさ等も考慮して、適宜選択して用いることができる。気孔形成材の平均粒径が小さすぎると、溶媒の蒸気が浸透しにくくなり、気孔形成材が成形体内部に残存してしまうおそれがある。そのため、平均粒径の下限は、5μm以上が好ましく、10μm以上や、50μm以上、80μm以上としてもよい。一方で、平均粒径が大きすぎると、形成される気孔数が減少し、部分的にボンドマトリクスが大きくなる箇所が発生し、その部分でボンド擦れが発生してしまうことで高硬度脆性材料の研削に適さないものとなるおそれがある。そのため、平均粒径の上限は、250μm以下が好ましく、200μm以下や、100μm以下としてもよい。
【0025】
目的とする多孔質メタルボンド砥石の気孔の平均粒径は、砥粒の大きさや被研材の種類により適宜選択されるものであるが、例えば、平均粒径8μmのダイヤモンド砥粒を使用し、炭化ケイ素(SiC)ウェハを研削するための砥石を製造する場合、気孔形成材の平均粒径は、70~200μmが好ましい。
【0026】
なお、気孔形成材の平均粒径は、上記の通り、粒度分布測定器(レーザー回析散乱法)によって測定した粒度分布のメジアン径である。
【0027】
本発明の砥石の製造方法で得られる多孔質メタルボンド砥石は気孔を有するメタルボンドのため、一般的な集中度ではなく、砥面から気孔を除いた部分(いわゆる素地部)の砥粒数で切れ味や耐摩耗性を調整する。砥粒、金属粉末および気孔形成材は、研削面から気孔を除いた素地部の砥粒数が、700~6500個/cm2となるように混合することが好ましい。素地部の砥粒数が少なすぎると砥粒1粒あたりのメタルボンド量が多い多孔質メタルボンド砥石となるため、摩滅した砥粒の目替わりが阻害されやすく、加工を持続することが困難になる傾向にある。素地部の砥粒数が多すぎると砥粒1粒あたりの荷重が小さくなり高硬度脆性材料への食いつきが悪くなる傾向にある。
【0028】
なお、研削面から気孔を除いた素地部の砥粒数は、製造する多孔質メタルボンド砥石の形状、および、砥粒と金属粉末と気孔形成材の混合割合から算出することができる。また、得られた多孔質メタルボンド砥石から砥粒数を計数する場合は、対象となる多孔質メタルボンド砥石の気孔を除く研削面の500倍の拡大画像において2値化処理を行なった後に、単位面積(cm2)当たりの砥粒数を計数することで求められる。
【0029】
(未焼成成形体)
未焼成成形体は、砥粒と、金属粉末と、気孔形成材とを混合した後、所定の成形金型内に充填し、プレス(例えば、500~5000kg/cm2でプレス)することにより所定の形状に成形したものである。
未焼成成形体における気孔形成材の体積比(気孔形成材の体積/未焼成成形体の体積×100(%))は、5~90体積%が好ましい。未焼成成形体における気孔形成材の体積比が5体積%よりも小さいとメタルボンドが多い(気孔が少ない)砥石となるため、気孔の無い砥石と同様にボンド擦れが発生し、高硬度脆性材料の研削に適さないものとなるおそれがある。90体積%より大きくなると砥粒を保持するメタルボンドが少ない砥石となるため、構造を保つことが困難になる。
【0030】
得られる多孔質メタルボンド砥石の気孔率は、未焼成成形体中の気孔形成材の量に対応するため、気孔形成材の量を調整することで、低気孔率から高気孔率まで任意に砥石の気孔率を調整することができる。未焼成成形体における気孔形成材の体積比は、5体積%以上が好ましく、10体積%以上としてもよい。また、未焼成成形体における気孔形成材の体積比は、90体積%以下が好ましく、85体積%以下や、80体積%以下、75体積%以下、70体積%以下、65体積%以下としてもよい。
【0031】
また、従来の製造方法では製造が困難であった低気孔率の多孔質メタルボンド砥石とするため、未焼成成形体における気孔形成材の体積比を5~35体積%や、10~30体積%としてもよい。
【0032】
[脱溶質工程(P2)]
脱溶質工程は、気孔形成材に対して溶解性を有する溶媒の蒸気と、未焼成成形体とを接触させて、気孔形成材を除去し、気孔を含む未焼成成形体を得る工程である。脱溶質工程では、通常、未焼成成形体を成形金型から取り出して、気孔形成材を溶かす溶媒の蒸気と接触させる。これにより、効率的に未焼成成形体中の気孔形成材を除去し、気孔形成材が存在した部分に気孔を形成させることができる。
【0033】
気孔形成材に対して溶解性を有する溶媒の蒸気と、未焼成成形体とを接触させる方法としては、溶媒をその沸点以上に加熱して発生させた蒸気を未焼成成形体に供給する方法や、溶媒の蒸気が充満した処理部に未焼成成形体を導入する方法などが挙げられる。例えば、水蒸気と未焼成成形体とを接触させる場合、水蒸気発生装置より発生する水蒸気を未焼成成形体に供給したり、加湿炉を用いたりすることができる。また、用いる溶媒の種類や未焼成成形体中への溶媒の蒸気の浸透性などを考慮して、加圧下や減圧下で接触させてもよい。
【0034】
蒸気として未焼成成形体と接触させる溶媒は、気孔形成材が溶ける溶媒(気孔形成材に対して溶解性を有するもの)であればよく、気孔形成材の種類に応じて適宜選択することができる。取り扱いやすさや気化のしやすさ等を考慮して、水、アルコールおよびアセトンからなる群から選択される1以上を含む溶媒の蒸気を用いることが好ましい。水を含む溶媒の蒸気を用いることがより好ましい。
【0035】
溶媒の蒸気の温度は、用いる溶媒の沸点以上で、焼成工程における焼成温度以下が好ましく、溶媒の種類等によって適宜設定される。例えば、水蒸気の場合は、100~200℃とすることができる。
【0036】
溶媒の蒸気と未焼成成形体とを接触させる時間は、気孔形成材が消失できる時間以上であればよく、気孔形成材の種類や未焼成成形体中の割合などに応じて適宜設定されるものである。例えば、12~120時間や24~72時間とすることができる。
【0037】
[焼成工程(P3)]
焼成工程は、気孔を含む未焼成成形体を焼成する工程である。焼成工程は公知の方法で行えばよい。例えば、脱溶質工程後の気孔を含む未焼成成形体を、減圧または常圧下で200~900℃に予め設定された焼成温度の焼成炉中で熱処理することで、形成された気孔が保持された状態で金属粉末同士が溶融接合し、メタルボンドが形成される。これにより多孔質な焼成体が得られる。
【0038】
[多孔質メタルボンド砥石]
本発明の砥石の製造方法により得られる多孔質メタルボンド砥石は、多孔質な焼成体からなる。
図2は、本発明の砥石の製造方法で製造される多孔質メタルボンド砥石の一部断面模式図である。
図3は、多孔質メタルボンド砥石の研削時の状態を説明するための図である。
図2、
図3に示すように、本発明の砥石の製造方法で製造される多孔質メタルボンド砥石10は、メタルボンド12と砥粒14と気孔16を含む。
【0039】
このような構造の多孔質メタルボンド砥石10のメリットとして、以下が挙げられる。
図3に示すように、多孔質構造により、被削材30に接触するメタルボンド12の接触面積が低減する。これによりボンド擦れを軽減することができるとともに、被削材30に対する接触面圧を高めることができる。研削面18の気孔16はチップポケットとして寄与し、研削時の切りくず32の排出性向上に期待できるとともに冷却性機能も向上する。
また、多孔質メタルボンド砥石10の構造内部に気孔16を有することから多孔質メタルボンド砥石の強度が低強度化するため、研削で寿命となった砥粒14を脱落させ、次の砥粒14に役割を譲る自生作用が効果的に作用し、安定した負荷で連続研削することが可能となる。
【0040】
多孔質メタルボンド砥石10において、気孔の気孔径は、5~300μmである。気孔の気孔径は、10μm以上や、50μm以上、80μm以上としてもよい。また、250μm以下や、200μm以下、100μm以下としてもよい。気孔形成材の粒径を調整することで気孔径は制御することができる。なお、気孔径は、多孔質メタルボンド砥石の研削面の500倍の拡大画像10枚において、50個の気孔について長径および短径の平均径をそれぞれ測定して、さらに、50個の気孔の平均値を算出した値である。
【0041】
また、多孔質メタルボンド砥石10の気孔率は5~90体積%である。多孔質メタルボンド砥石10の気孔率は、10体積%以上としてもよい。また、。多孔質メタルボンド砥石10の気孔率は、85体積%以下や、80体積%以下、75体積%以下、70体積%以下、65体積%以下としてもよい。気孔形成材の割合を調整することで気孔率は制御することができる。なお、気孔率は、多孔質メタルボンド砥石の体積および質量から密度を算出し、予め求められた密度と気孔率(体積%)との関係を示す検量線から算出した値である。
【0042】
上記の通り、本発明の砥石の製造方法では、独立気泡材料を用いずに低い気孔率の多孔質メタルボンド砥石を製造することができる。例えば、本発明の砥石の製造方法は、中空微粒子等の独立気泡材料を含まず、実質的にメタルボンド12と砥粒14と気孔16とからなり(すなわち、不可避的に含まれる不純物の混入までも排除するものではない)、かつ、気孔率5~35体積%や10~30体積%の低気孔率の多孔質メタルボンド砥石なども製造可能である。独立気泡材料の有無は、気孔の外郭の成分の分析などから判断することが可能である。
【0043】
多孔質メタルボンド砥石10の研削面18において、接触する砥粒数が700~6500個/cm2である。砥粒数は、砥粒、金属粉末および気孔形成材の割合を調整することで制御できる。このように、接触する砥粒数を700~6500個/cm2でとすれば、高硬度脆性材料の被削材へ切り込む深さを確保し、高速送りでも低負荷で研削により適したものとなる。
【0044】
本発明の砥石の製造方法で製造される多孔質メタルボンド砥石の形状は特に限定されるものではない。用途に応じて成形工程(P1)で用いる成形金型を適宜選択し、プレート状、角柱状、円状、円筒状、リング状、円弧状など任意の形状の多孔質メタルボンド砥石(焼成体)を得ることができる。
【0045】
<多孔質メタルボンドホイールの製造方法>
図4は、本発明の多孔質メタルボンドホイールの製造方法の工程図である。
図4に示すように、本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法で製造された多孔質メタルボンド砥石を台金に接着する工程(P4)と、ドレッサを用いて、台金に接着された多孔質メタルボンド砥石の仕上げを行う仕上げ工程(P5)を行うことで、台金と、台金に接着された多孔質メタルボンド砥石を有する多孔質メタルボンドホイールを得ることができる。
【0046】
図5は、本発明の多孔質メタルボンドホイールの製造方法で得られる多孔質メタルボンドホイールの一例を示す斜視図である。多孔質メタルボンドホイール100は、鉄やアルミニウムなど金属製の円板状の台金20と、セグメントチップ22とを備えている。セグメントチップ22は、多孔質メタルボンド砥石10からなる。多孔質メタルボンド砥石10は、本発明の砥石の製造方法により製造されたものである。台金20を、図示しない研削装置の主軸に取り付けることにより、多孔質メタルボンドホイール100を回転駆動させることができる。多孔質メタルボンドホイール100は、250mm程度の外径を有し、セグメントチップ22は、3mm程度の幅を有している。
【0047】
図5に示すように、台金20の下面の外周縁に沿って円環状に連ねて複数個のセグメントチップ22を固着する。多孔質メタルボンドホイール100において、セグメントチップ22は、一面側(回転軸芯と平行な方向(
図5の下方))へ突き出す環状の研削面18を構成する。次いで、台金20に接着されたセグメントチップ22の仕上げがドレッサを用いて行われる。これにより、多孔質メタルボンドホイール100が得られる。
【0048】
また、多孔質メタルボンドホイール100では、セグメントチップ22を多孔質メタルボンド砥石10からなるものとしているが、セグメントチップ22の表層だけが多孔質メタルボンド砥石10からなるように接着させてもよい。
【0049】
多孔質メタルボンドホイール100は、炭化ケイ素(SiC)ウェハやサファイアウェハなどの高硬度脆性材料の研削のために用いることができる。多孔質メタルボンドホイール100の多孔質メタルボンド砥石10は、台金20の回転に伴って研削面18を、炭化ケイ素(SiC)ウェハ、サファイアウェハなどの高硬度脆性材料と摺接させ、その高硬度脆性材料を平面状に研削することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]:多孔質メタルボンド砥石の試験片の製造
・材料
砥粒:ダイヤモンド(平均粒径8μm)
金属粉末(メタルボンドを形成する材料):Cu60質量%とSn40質量%の混合物
気孔形成材:硫酸ナトリウム(平均粒径70μm)
【0052】
・製造方法
表1に示すように、所定の砥粒と金属粉末と気孔形成材を混合した混合物を成形金型に充填し、圧力(500~5000kg/cm2、室温)をかけて、未焼成成形体を得た。
次に、未焼成成形体を成形金型から取り出して、水蒸気雰囲気(100~200℃)下に、72時間曝した。
水蒸気に曝した後の未焼成成形体を焼成(200~900℃)し、多孔質メタルボンド砥石の試験片(寸法:長さ40mm×幅7mm×厚み4mm)を得た。
【0053】
【0054】
SEM・EDS装置を用いて、製造した実施例1-1~実施例1-4の試験片の断面観察を行った。全ての試験片断面でEDS分析を行った結果、気孔形成材の残渣物は確認されず、すべて消失していることが確認できた。また、試験片断面のSEM画像(500倍)の2値化による粒子解析を行った結果、全ての試験片で設計した気孔率と同面積率を示し、設計通りの多孔質メタルボンド構造体ができていることが確認できた。また、気孔径も用いた気孔形成材の平均粒径に対応することが確認できた。
【0055】
[実施例2]
得られる多孔質メタルボンド砥石の寸法が長さ35mm×幅3mm×厚み9mmとなるように成形金型を変更した以外は実施例1と同様にして、表2に示す気孔率の多孔質メタルボンド砥石を製造した。
得られた多孔質メタルボンド砥石を、外径300mmの台金の下面に
図5に示すように接着し、多孔質メタルボンドホイールを製造した。
【0056】
実施例2の多孔質メタルボンドホイールを用いて以下の研削加工試験条件で高硬度脆性材料の加工試験を行い、研削抵抗と砥石摩耗率を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
なお、研削抵抗は、以下の研削加工試験条件の研削において、多孔質メタルボンド砥石を回転駆動する電動機の駆動電流値である。また、砥石摩耗率は、以下の研削加工試験条件での1回の研削における砥石試料の摩耗量を割合で示したものであり、砥石の摩耗量(厚み)を加工物の取り代(厚み)で除したものである。例えば、ウェハ(加工物)取り代50μmを加工した際に、砥石が100μm摩耗した場合、砥石摩耗率は200%となる。
【0058】
(研削加工試験条件)
・研削機械:平面研削盤(インフィード方式)
・研削方法:湿式平面研削
・加工物:4インチ単結晶炭化ケイ素(SiC)ウェハ
・加工条件:砥石回転数 2400rpm、ウェハ回転数 400rpm、切込み速度 0.5μm/sec.、加工取り代 200μm、
・研削液:水溶性研削液
【0059】
[比較例]
気孔形成材を用いなかった以外は実施例1と同様にして、気孔率0体積%のメタルボンド砥石を得た。実施例2と同様に、得られたメタルボンド砥石を台金に接着させたメタルボンドホイールを用いて研削加工試験を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
高気孔率になるほど加工抵抗が低いが、摩耗量が多くなる傾向であることが確認でき、低気孔率化が工具として耐摩耗性向上に有効であることが確認できた。
【0062】
[実施例3]
表3に示す平均粒径の気孔形成材を用い、気孔率60体積%、砥粒数700個/cm2とした以外は実施例1と同様にして多孔質メタルボンド砥石を製造した。実施例2と同様に、得られた多孔質メタルボンド砥石を台金に接着させた多孔質メタルボンドホイールを用いて、研削加工試験を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【0064】
[実施例4]
表4に示す素地部の砥粒数、気孔径70μm、気孔率60体積%の多孔質メタルボンド砥石を接着させた多孔質メタルボンドホイールを製造し、これを用いて研削加工試験を行った。結果を表4に示す。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の多孔質メタルボンド砥石の製造方法は、様々な気孔率を有する砥石を製造することができる。得られた砥石やこれを備えた多孔質メタルボンドホイールは、炭化ケイ素(SiC)ウェハやサファイアウェハなどの高硬度脆性材料の研削のために用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
10 多孔質メタルボンド砥石
12 メタルボンド
14 砥粒
16 気孔
18 研削面
20 台金
22 セグメントチップ
30 被削材
32 切りくず
100 多孔質メタルボンドホイール