(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】多層複合冷間圧延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240819BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240819BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240819BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240819BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240819BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/00 302A
C22C38/00 301S
C22C38/06
C22C38/14
C22C38/38
C21D9/00 Z
C21D9/46 Z
(21)【出願番号】P 2022580166
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 CN2021101581
(87)【国際公開番号】W WO2021259278
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】202010592319.3
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 曉 東
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110153185(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0222536(US,A1)
【文献】国際公開第2019/105264(WO,A1)
【文献】特開平02-286235(JP,A)
【文献】特開2019-127632(JP,A)
【文献】国際公開第2019/219031(WO,A1)
【文献】特表2019-524986(JP,A)
【文献】特開平06-256844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C21D 9/00
B32B 15/00 - 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の厚さ方向上に、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある中間層を有し、前記上表層と前記下表層それぞれの顕微組織中において、オーステナイトの相比例≧95%;前記中間層は、少なくとも一層の第一中間層を含み、前記第一中間層の顕微組織中において、マルテンサイトの相比例≧85%
の多層複合冷間圧延鋼板であって、前記多層複合冷間圧延鋼板は、全引張強度≧1180MPa、全降伏強度≧1050MPa、伸び率δが5%-8%、および、0.8
*
TSの応力レベルで1mol/Lの塩酸中に300時間を浸しても破裂が発生しない、の群から選択される性能の一つまたは複数を満たす、多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項2】
前記第一中間層の顕微組織がさらに、フェライト、ベイナイト、
残留オーステナイト、セメンタイトおよび析出物の少なくとも一つを含む、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項3】
前記第一中間層の硬度HV≧400;且つ/または前記第一中間層の引張強度≧1300MPa
を満たす、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項4】
前記中間層は、少なくとも一層の第二中間層をさらに含み、前記第二中間層の顕微組織中におけるフェライトの相比例≧70%
を満たす;任意選択的に、前記第二中間層の顕微組織が、マルテンサイト、ベイナイト、
残留オーステナイト、セメンタイトおよび析出物の少なくとも一つを含む、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項5】
前記中間層は二層の第二中間層を有する、請求項4に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項6】
前記第一中間層の厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの80-95%を占める;且つ/または前記上表層と下表層の合計厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの5-20%を占める、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項7】
前記第二中間層の合計厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さに占める割合≦15%
を満たす、請求項4に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項8】
前記多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さが0.7-2.5mmである、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項9】
前記第一中間層は、Feの他に、以下の質量パーセントで下記化学元素をさらに含む:C:0.15~0.3%、Si:0-0.5%、Mn:1.0~1.8%、B≦0.004%、Al:0.02-0.1%、N≦0.005%、Ti:0.015-0.04%、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項10】
前記第二中間層は、Fe以外に、以下の質量パーセント含有量で下記化学元素を含む、請求項4に記載の多層複合冷間圧延鋼板:C:0.001~0.1%、Si:0~1.5%、Mn:0.1~1.8%、Al:0.02~0.1%、N≦0.005%;任意選択的に、前記第二中間層がNb、V、Ti、Mo、Cr、Bの一つまたは複数をさらに含み、その質量パーセント合計≦1%である。
【請求項11】
前記上表層と下表層は、Feの他に、以下の質量パーセントで下記化学元素をさらに含む:C:0.4~0.8%、Mn:14~20%、Al:1.0~2.0%、N:0.001~0.003%、請求項1に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項12】
前記上表層と下表層は、RE:0.05~0.15%をさらに含有する、請求項
11に記載の多層複合冷間圧延鋼板。
【請求項13】
以下のステップを含む、請求項1-
12のいずれ一項に記載の多層複合冷間圧延鋼板の製造方法:
(1)各層ピレットを作製し、レイアップする;
(2)熱間圧延;
(3)酸洗いと冷間圧延;
(4)焼鈍:焼鈍温度を830-890℃とし、その後3-15℃/sの速度で700-800℃に冷却し、その後100℃未満の鋼板温度まで水冷する;
(5)酸洗い後に、鋼板を180-240℃まで再加熱し、200-600sの焼き戻し時間で焼き戻しを行う。
【請求項14】
ステップ(2)では、ピレットを1150-1260℃に加熱し、その後熱間圧延を行い、仕上げ圧延温度を830-930℃とし、卷取温度を500-650℃とする、請求項
13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびその製造方法、特に複合鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複合鋼板は、耐食効果があり、鋼板強度の増加による成形性および靱性の低減を補えることが、一般的に知られている。層状複合組織は、いわゆる鋼板の厚さ方向上に明らかに異なる組織および強度、硬度層を有する多層状鋼板のことである。圧延複合技術は、層状複合組織鋼板の製造における伝統技術である。
【0003】
現在、従来技術における多層複合組織冷間圧延鋼板は、一般的に三セットもしくは複数セットの異なる成分および組織からなる鋼板が採用され、圧延複合の方式で異なる組織を有する三層または多層鋼板が得られる。
【0004】
例えば:中国特許文献(特許公開CN102015423B、開示日2014年10月01日、題名「自動車構造中における金属複合材料の応用」)は、車体構造に有効に適用できる、圧延ロール方式で製造される卷取可能な多層金属複合材料を開示した。この発明における複合材料は、三層の異なる鋼板から、熱間圧延複合によって三層の異なる組織を有する複合鋼板が形成され、その少なくとも一層が高強度もしくは超高強度の合金鋼である。
【0005】
また、例えば、日本特許文献(特開平7-275938、開示日1995年10月24日、題名「形状凍結性に優れた複合高強度鋼板」)は、歪み回復に有利な複合高強度鋼板を開示した。この複合鋼板の表層は500-1000MPaの高張力鋼であり、内部が強度の低い250-400MPaの低強度鋼である。
【0006】
例えば、中国特許文献(特許公開CN102015423A、開示日2011年4月13日、題名「自動車構造中における金属複合材料の応用」)は、自動車構造中、特に車体構造中における圧延ロール方式で製造される湾曲可能な多層金属複合材料の応用を開示した。発明の目的は、単一の材料に置き換える金属複合材料の応用の提供である。この発明における複合材料は、軽質な複合材料であり、三層の合金鋼を有し、その少なくとも一層が高強度もしくは超高強度の合金鋼で作製される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの目的は、多層複合冷間圧延鋼板の提供である。この多層複合冷間圧延鋼板は、厚さ方向上において三層もしくは三層以上の鋼板で複合され、上表面から下表面まで少なくとも三層の異なる組織領域を含む。この多層複合冷間圧延鋼板は、高強度、高成形性および耐遅れ破壊という特性を有し、自動車安全件および構造件の製造に有効に適用でき、良好な汎用展望や応用価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を実現するために、本発明は、鋼板の厚さ方向上に、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある中間層を有し、前記上表層と前記下表層それぞれの顕微組織中において、オーステナイトの相比例≧95%;前記中間層は、少なくとも一層の第一中間層を含み、前記第一中間層の顕微組織中において、マルテンサイトの相比例≧85%、多層複合冷間圧延鋼板を提供する。
【0009】
本発明による技術案において、多層複合冷間圧延鋼板は、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある中間層を有し、鋼板は上表面から下表面まで少なくとも三層の異なる組織領域を含み、異なる領域の強度および硬度が異なる。上下表層の鋼板それぞれの組織が、全オーステナイト組織(オーステナイト体積分率≧95%)に近い。本発明の多層複合冷間圧延鋼板中における中間層が、少なくとも一層の第一中間層を含み、第一中間層の顕微組織中において、マルテンサイトの相比例≧85%、残りの組織が、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、セメンタイトおよび他の種類の析出相を含んでもいい。
【0010】
このように、異なる組織の合理的な分布により、本発明の多層複合冷間圧延鋼板は、高強度、高成形性および耐遅れ破壊という特性を有し、自動車安全件および構造件の製造に有効に適用でき、良好な汎用展望や応用価値を有する。
【0011】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層の顕微組織がさらに、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、セメンタイトおよび析出物の少なくとも一つを含む。
【0012】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層の硬度HV≧400;且つ/または前記第一中間層の引張強度≧1300MPa。
【0013】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記中間層はさらに少なくとも一層の第二中間層を含み、前記第二中間層の顕微組織中において、フェライトの相比例≧70%。
【0014】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層の顕微組織がさらに、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、セメンタイトおよび析出物の少なくとも一つを含む。
【0015】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記中間層は、二層の第二中間層を有する。前記二層の第二中間層は、同じでも異なってもいい。前記二層の第二中間層は、第一中間層の両側に分布してもいい。
【0016】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層の厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの80-95%を占める;且つ/または前記上表層と下表層の合計厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの5-20%を占める。
【0017】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記上表層の厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの10%以下、例えば2.5-10%を占める。
【0018】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記下表層の厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さの10%以下、例えば2.5-10%を占める。
【0019】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層の合計厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さに占める割合≦15%。
【0020】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層の合計厚さが、多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さに占める割合が15%未満である。
【0021】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記多層複合冷間圧延鋼板の合計厚さが0.7-2.5mmである。
【0022】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、その全引張強度≧1180MPa、好ましくは≧1300MPa、例えば1300-1650MPaである。
【0023】
さらに、本発明の多層複合冷間圧延鋼板の全降伏強度≧1050MPa、例えば1050-1260MPaである。
【0024】
さらに、本発明の多層複合冷間圧延鋼板の伸び率が5%-8%、好ましくは6%-8%である。
【0025】
さらに、本発明の多層複合冷間圧延鋼板は、0.8*TSの応力レベルで1mol/Lの塩酸中に300時間浸しても、いずれも割れが発生しない;好ましくは、本発明の多層複合冷間圧延鋼板は、1.0*TSの応力レベルで1mol/Lの塩酸中に300時間浸しても、いずれも割れが発生しない;より好ましくは、本発明の多層複合冷間圧延鋼板は、1.2*TSの応力レベルで1mol/Lの塩酸中に300時間浸しても、いずれも割れが発生しない。
【0026】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層は、Feの他に、以下の質量パーセントで下記化学元素をさらに含む:C:0.15~0.3%、Si:0-0.5%、Mn:1.0~1.8%、B≦0.004%、Al:0.02-0.1%、N≦0.005%、Ti:0.015-0.04%。
【0027】
説明しなければならないが、第一中間層の化学元素は、例えばPとSなどの避けられない不純物をさらに有する。PはP≦0.020%としてもよく、SはS≦0.005%としてもいい。
【0028】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層中に、Siの含有量が0.05-0.5%である。
【0029】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層中に、0.002%≦N≦0.005%。
【0030】
上述の技術案において、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の第一中間層に良好な引張強度および硬度を持たせるために、第一中間層中における各化学元素に対し合理的な設計を行い、得られる多層複合冷間圧延鋼板に優れた性能を持たせる必要がある。上記第一中間層の合理的な化学元素設計により、第一中間層の圧延および焼入れの後に、マルテンサイトを主とする組織が形成し、そのHV硬度≧400、引張強度≧1300MPa。
【0031】
また、説明しなければならないが、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の第一中間層は、NbとVの一つまたは複数を含んでも良く、例えば質量パーセント含有量が0.01-0.04%であるNbを含んでもいい。
【0032】
一実施形態では、質量パーセント含有量で、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の第一中間層の元素組成が、以下の通りである:C:0.15~0.3%、Si:0.05-0.5%、Mn:1.0~1.8%、B≦0.004%、Al:0.02-0.1%、N:0.002~0.005%、Ti:0.015-0.04%、Nb≦0.04%、P≦0.020%、S≦0.005%、残りがFeおよび避けられない不純物である。
【0033】
もちろん、第一中間層の強度および硬度が保たれる上で、本発明による第一中間層の化学元素の成分設計は、他の成分種類および成分含有量の範囲を採用してもいい。
【0034】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層は、Feの他に、以下の質量パーセントで下記化学元素をさらに含む:C:0.001~0.1%、Si:0~1.5%、Mn:0.1~1.8%、Al:0.02~0.1%、N≦0.005%。
【0035】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層中に、Si:0.03~1.5%。
【0036】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第一中間層中に、0.002%≦N≦0.005%。
【0037】
説明しなければならないが、第二中間層の化学元素は、例えばPとSなどの避けられない不純物をさらに有する。PをP≦0.020%としてもよく、SをS≦0.005%としてもいい。
【0038】
また、上述の技術案において、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の中間層が第二中間層をさらに含むとき、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の第二中間層の性能を確保するために、同様に、第二中間層の化学成分に対し合理的な設計を行う必要がある。上記第二中間層の化学元素の設計案は、第二中間層の顕微組織中におけるフェライトの相比例≧70%であることを有効に確保できる。
【0039】
もちろん、第二中間層の顕微組織中におけるフェライト含有量が保たれる上で、本発明による第二中間層の化学元素の成分設計は、同様に、他の成分種類および成分含有量の範囲を採用してもいい。
【0040】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層は、Nb、V、Ti、Mo、Cr、Bの一つまたは複数をさらに含有し、その質量パーセント合計≦1%。一実施形態では、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層では、Nb≦0.05%、Ti≦0.05%。
【0041】
一実施形態では、質量パーセント含有量で、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記第二中間層の元素組成が、以下の通りである:C:0.001~0.1%、Si:0.03~1.5%、Mn:0.1~1.8%、Al:0.02~0.1%、0.002%≦N≦0.005%、P≦0.020%、S≦0.005%、Nb≦0.05%、Ti≦0.05%、および残りのFeおよび避けられない不純物。
【0042】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記上表層と下表層は、Feの他に、以下の質量パーセントで下記化学元素をさらに含む:C:0.4~0.8%、Mn:14~20%、Al:1.0~2.0%、N:0.001~0.003%。
【0043】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記上表層と下表層は、RE(すなわち希土類元素):0.05~0.15%をさらに含有する。
【0044】
また、説明しなければならないが、同様に、上表層と下表層が例えばPとSなどの避けられない不純物をさらに有する。PをP≦0.020%としてもよく、SをS≦0.012%としてもいい。
【0045】
一実施形態では、質量パーセント含有量で、本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、前記上表層と下表層の元素組成が、以下の通りである:C:0.4~0.8%、Mn:14~20%、Al:1.0~2.0%、N:0.001~0.003%、RE:0.05~0.15%、P≦0.020%、S≦0.012%、および残りのFeおよび避けられない不純物。
【0046】
本発明による多層複合冷間圧延鋼板において、上述の技術案は、合理的な化学成分設計により、室温の組織がオーステナイトである高マンガンTWIP(変態誘起塑性)鋼が上表層と下表層として得られる。この高マンガンTWIP鋼の高温、室温の組織がいずれも全オーステナイトに近いため、水素の侵入が有効に阻害され、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の成形性が改善される。
【0047】
もちろん、その他の実施形態では、本発明の上下表層用鋼として、その室温組織が全オーステナイトに近く、且つTWIP効果を有すれば、合理的な化学成分設計によるその他の化学成分または化学元素含有量を有する高マンガンTWIP鋼を採用してもいい。
【0048】
また、本発明のもう一つの目的は、多層複合冷間圧延鋼板の製造方法の提供である。この製造方法は、合理的なプロセスパラメータの設計と制御により、生産コストを削減すると同時に、高強度、高成形性および耐遅れ破壊性を有する多層複合冷間圧延鋼板を有効に作製できる。
【0049】
上述の目的を実現するために、本発明は、以下のステップを含む上記多層複合冷間圧延鋼板の製造方法を提供する:
(1)各層ピレットを作製し、レイアップする;
(2)熱間圧延;
(3)酸洗いと冷間圧延;
(4)焼鈍:焼鈍温度を830-890℃とし、その後3-15℃/sの速度で700-800℃に冷却し、その後100℃未満の鋼板温度まで水冷する;
(5)酸洗い後に、鋼板を180-240℃まで再加熱し、200-600sの焼き戻し時間で焼き戻しを行う。
【0050】
本発明による多層複合冷間圧延鋼板の製造方法は、通常の熱間圧延複合と従来の熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍工程しか採用されていない。熱間圧延複合は分塊圧延およびレイアップを含み、従来の圧延および熱処理は、熱間圧延、酸洗い、冷間圧延、焼鈍、焼き戻しを含む。本発明による多層複合冷間圧延鋼板の製造方法において、中核プロセスは焼鈍および焼き戻しにおける具体的なプロセスパラメータの制御である。
【0051】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の製造方法において、ステップ(2)では、ピレットを1150-1260℃に加熱し、その後熱間圧延を行い、仕上げ圧延温度を830-930℃とし、卷取温度を500-650℃とする。
【0052】
さらに、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の製造方法において、ステップ(4)では、水冷速度≧500℃/s。
【0053】
本発明による多層複合冷間圧延鋼板およびその製造方法は、従来技術と比較して、以下の利点及び有益な効果を有する:
従来技術に比べると、本発明による多層複合冷間圧延鋼板は、上表層と下表面の顕微組織中におけるオーステナイトの相比例≧95%。重要なのは、本発明において、表層のオーステナイト高マンガン鋼が水素の拡散を防ぐ効果を有するため、鋼板内部の水素含有量を有効に低減し、多層複合冷間圧延鋼板の耐水素割れ性能を高めることができる。また、表層に採用されるオーステナイト高マンガン鋼は、高強度と超高成形性という特徴を有するため、複合鋼板の湾曲性能を有効に改善できる。
【0054】
従来伝統的な圧延複合による多層複合鋼板の作製に比べると、本発明による多層複合冷間圧延鋼板はより優れた性能を有し、その第一中間層の顕微組織中におけるマルテンサイトの相比例≧85%、超高硬度および超高の引張強度を有し、本発明の多層複合冷間圧延鋼板の高強度性能を確保できる。
【0055】
以上のように、本発明による多層複合冷間圧延鋼板は、高強度、高成形性および耐遅れ破壊という特性を有し、自動車安全件および構造件の製造に有効に適用でき、良好な汎用展望や応用価値を有する。
【0056】
ある実施形態では、本発明による多層複合冷間圧延鋼板の中間層が、フェライトの相比例≧70%である第二中間層を含んでもいい。組織の異なりにより、それが多層複合冷間圧延鋼板の成形性を改善する効果を有するだけでなく、鋼板の水素割れ敏感性を有効に低減することもできる。
【0057】
また、本発明による製造方法は、合理的なプロセスパラメータの設計および制御により、高強度、高成形性および耐遅れ破壊性を有する多層複合冷間圧延鋼板を有効に作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下では、具体的な実施例に基づき、本発明による多層複合冷間圧延鋼板およびその製造方法をさらに詳しく説明するが、その説明は本発明の技術案を限定するものではない。
【0059】
実施例1-9
本発明による実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板は、いずれも以下のステップを採用して作製した:
(1)表1に示される化学成分によって各層のピレットを作製し、レイアップした:各複合層の板スラブ原料を、比例に従って、複合板の比例を満たす厚さまで圧延した;各複合層の隣接する界面を洗い、酸化皮膜などの不純物を除去する;各複合層が接触する境界を溶接密封し、複合層の間の酸素ガスを除去するために真空引きし、その後複合レイアップを圧延した。
【0060】
(2)熱間圧延:ピレットを1150-1260℃まで加熱し、その後熱間圧延を行い、仕上げ圧延温度を830-930℃とし、卷取温度を500-650℃とした;
(3)酸洗いと冷間圧延;
(4)焼鈍:焼鈍温度を830-890℃とし、その後3-15℃/sの速度で700-800℃に冷却し、その後100℃未満の鋼板温度まで水冷した;
(5)酸洗い後に、鋼板を180-240℃まで再加熱し、200-600sの焼き戻し時間で焼き戻しを行った。
【0061】
本発明による実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板において、説明しなければならないが:
実施例1-3の多層複合冷間圧延鋼板は、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある中間層を有し、実施例1-3では中間層が一層の第一中間層だけを有し、第二中間層を有しない。
【0062】
実施例4-6の多層複合冷間圧延鋼板は、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある二層の中間層を有し、実施例4-6では中間層が一層の第一中間層と一層の第二中間層を有する。
【0063】
実施例7-9の多層複合冷間圧延鋼板は、上表層、下表層、および上表層と下表層の間にある三層の中間層を有し、実施例7-9では中間層が一層の第一中間層と二層の第二中間層を有する。
【0064】
実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板中において、各複合板の厚さ比例が表1に示される。
【0065】
表1は、本発明の実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板中における各複合層の厚さ比例を示す。
【0066】
【0067】
表2-1、表2-2および表2-3は、本発明の実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板中における各複合層の各化学元素の質量パーセント割合を示す。
【0068】
表2-1は、実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板中における上、下表層の各化学元素の質量パーセントを示す。各上、下表層の顕微組織中において、オーステナイトの相比例(体積)≧95%。
【0069】
【0070】
表2-2は、実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板中における第一中間層の各化学元素の質量パーセントを示す。各第一中間層は、硬度HV≧400、引張強度≧1300MPa、マルテンサイトの相比例(体積)≧85%。
【0071】
【0072】
表2-3は、実施例4-9の多層複合冷間圧延鋼板中における第二中間層の各化学元素の質量パーセントを示す。
【0073】
説明しなければならないが、実施例4-6の多層複合冷間圧延鋼板は、一層の第二中間層2しか有しないが、実施例7-9の多層複合冷間圧延鋼板は、第二中間層1と第二中間層2を有する。各第二中間層の顕微組織中において、フェライトの相比例(体積)≧70%。
【0074】
【0075】
表3は、実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0076】
【0077】
本発明による実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板に対し、各項の性能測定を行い、得られる測定結果を表4に示す。
【0078】
表4は、測定される実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板の関連性能パラメータを示す。本発明では、鋼板の全降伏強度σs、全引張強度σb、伸び率δは、「GB/T 228.1-2010 金属材料引張試験」で測定し、90度湾曲での最小R/Tは、「GB/T 232-2010 金属材料湾曲試験方法」で測定し、硬度は「GB/T 4342-1991 金属顕微ビッカース硬度試験方法」で測定する。
【0079】
【0080】
表4からわかるように、本発明の実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板は、全降伏強度σsが1050-1260MPaであり、全引張強度σbがいずれも≧1180MPa、伸び率δが5%-8%、好ましくは6%-8%であり、実施例1-9の多層複合冷間圧延鋼板を0.8*TS、1.0*TSおよび1.2*TSの応力レベルで1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、いずれも破裂が発生しない。各実施例の多層複合冷間圧延鋼板は、いずれも高い強度、高い成形性能および耐遅れ破壊という特徴を有する。
【0081】
本発明による多層複合冷間圧延鋼板の上下表層オーステナイト高マンガン鋼は、水素の拡散を防ぐ効果を有し、鋼板内部の水素含有量を有効に低減し、多層複合冷間圧延鋼板の耐水素割れ性能を高めることができる。また、上下表層に採用されるオーステナイト高マンガン鋼は、高強度(HV≧240)と超高成形性という特徴を有するため、複合鋼板の湾曲性能を有効に改善できる。従来伝統的な圧延複合による多層複合鋼板の作製に比べると、本発明による多層複合冷間圧延鋼板はより優れた性能を有し、その第一中間層が、超高硬度および超高の引張強度を有し、本発明の多層複合冷間圧延鋼板の高強度性能を確保できる。
【0082】
以上のように、本発明による多層複合冷間圧延鋼板は、高強度、高成形性および耐遅れ破壊という特性を有し、自動車安全件および構造件の製造に有効に適用でき、良好な汎用展望や応用価値を有する。
【0083】
また、本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0084】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、当業者は、その類似変化や変形を、本発明の開示内容から直接得られ、もしくは容易に想到できるため、本発明の保護範囲に属すことは、言うまでもない。