(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用炭素被覆シリコン粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240819BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240819BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2022580379
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068651
(87)【国際公開番号】W WO2022002404
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハウフェ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ドレーゲル,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ベーゲナー,ジェニファー
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-507547(JP,A)
【文献】国際公開第2018/229515(WO,A1)
【文献】特表2019-534537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
H01M 4/36
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粒子と、アミド、ラクタム、イミド、カルバメート、
及びウレタ
ンを含む群から選択される1つ以上の官能基を含む1種以上の高分子炭素前駆体とを含む乾燥混合物を、酸化性雰囲気中で200~400℃の温度で処理し(熱処理)、次いでこれを不活性雰囲気中で炭化することにより、Horiba LA950装置を使用し、炭素被覆シリコン粒子の分散媒質としてエタノールを使用するMieモデルを用いて、炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布を静的レーザー散乱によって決定した1~15μmの平均粒径d
50を有し、
前記炭素被覆シリコン粒子の体積荷重粒径分布d
50
と前記炭素被覆シリコン粒子を製造するための出発材料として用いた前記シリコン粒子の体積荷重粒径分布d
50
との間の相違が5μm以下であり、いずれも炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて10重量%以下の炭素及び90重量%以上のシリコンを含有する非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項2】
前記1種以上の高分子炭素前駆体が、ポリビニルラクタム、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、タンパク質、及びビニルピロリドンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項3】
前記1種以上の高分子炭素前駆体が、ポリビニルラクタムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項4】
前記高分子炭素前駆体が、GPCによって決定した200~2000000g/molの分子量Mwを有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項5】
前記乾燥混合物が、前記高分子炭素前駆体を、前記乾燥混合物の総重量に基づいて1重量%~80重量
%含有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項6】
前記酸化性雰囲気が、酸素、二酸化炭素、酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン、過酸化物、及び水蒸気を含む群から選択される1種以上の酸化性ガスを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項7】
前記酸化性雰囲気が空気を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項8】
前記シリコン粒子が、1~15μm未満の直径パーセンタイルd
50を有する体積加重粒径分布を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項9】
前記炭化が400超~1400℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項10】
前記炭素被覆シリコン粒子が、40%以下の強凝集度(篩分析による定量)を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項11】
前記炭素被覆シリコン粒子の炭素皮膜が、1~100nmの範囲内の平均層厚を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項12】
前記炭素被覆シリコン粒子の体積荷重粒径分布d
50と前記炭素被覆シリコン粒子を製造するための出発材料として用いた前記シリコン粒子の体積荷重粒径分布d
50との間の相違が
3μm以下であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の非凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって得られた炭素被覆シリコン粒子をアノード用のアノード活物質として用いるリチウムイオン電池を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆シリコン粒子の製造方法、このようにして得られる炭素被覆シリコン粒子、及びリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の電気化学的エネルギー貯蔵手段のうち、再充電可能なリチウムイオン電池は、現在、250Wh/kgまでの最も高い比エネルギーを有する。これらは、特に携帯電子機器の分野で、工具及びまた輸送手段、例えば、二輪車又は自動車に利用される。しかし、特に自動車に使用するためには、より長い車両範囲を達成するために、バッテリーのエネルギー密度を大幅に増加させることが必要である。実際に使用される負極材料(「アノード」)は、現在、主に黒鉛状炭素である。しかし、欠点は、理論的には372mAh/gという比較的低い電気化学容量であり、これはリチウム金属で理論的に達成可能な電気化学容量のわずか約10分の1に相当する。リチウムイオンに対する最も高い貯蔵容量は4199mAh/gのシリコンのそれである。
【0003】
不利なことに、シリコン含有電極活物質は、リチウムによる充電又は放電時に約300%までの極端な体積変化を起こし、これが活物質及び電極構造全体の重度の機械的ストレスを引き起こす。これは、電気化学的研削とも呼ばれ、電気的接触の喪失、ひいては容量の損失を伴う電極の破壊につながる。さらに問題となるのは、シリコンアノード材料の表面が電解質の構成成分と反応して、不動態化保護層(固体電解質界面、SEI)を形成し、これが可動性リチウムイオンの不可逆的な喪失、ひいては容量の損失につながるということである。
【0004】
このような問題に打ち勝つために、多くの研究がリチウムイオン電池のアノードの活物質として炭素被覆シリコン粒子を推奨してきた。例えば、Liu、Journal of The Electrochemical Society、2005、152(9)、A1719~A1725頁は、炭素含有率が27重量%の炭素被覆シリコン粒子を記載している。20重量%の炭素で被覆されたシリコン粒子は、Journal of The Electrochemical Society、2002、149(12)、A1598~A1603頁に、Ogumiにより記載されている。JP2002151066号では、炭素被覆シリコン粒子の炭素含有率は11~70重量%と報告されている。Yoshio、Chemistry Letters、2001、1186~1187頁の被覆粒子は20重量%の炭素を含み、平均粒径は18μmである。炭素皮膜の層厚は1.25μmである。N.-L.Wuによる刊行物、Electrochemical and Solid-State Letters、8(2)、2005、A100~A103頁は、炭素含有率が27重量%の炭素被覆シリコン粒子を開示している。
【0005】
JP2004-259475号は、シリコン粒子を非黒鉛炭素材料及び任意に黒鉛で被覆した後の炭化のプロセスを教示しており、被覆及び炭化のプロセスサイクルは複数回繰り返される。また、JP2004-259475号では、表面皮膜には非黒鉛状炭素材料及び任意の黒鉛を懸濁液の形態で使用することを教示する。このようなプロセス手段は、知られているように、強凝集した炭素被覆シリコン粒子に導く。US8394532号でも、炭素被覆シリコン粒子は分散液から生成された。出発材料については、シリコンに基づいて20重量%の炭素繊維含有率が規定されている。
【0006】
EP1024544号は、その表面が炭素層で完全に覆われたシリコン粒子に関する。しかし、シリコン及び生成物の平均粒径に基づく例によって示されるように、強凝集した炭素被覆シリコン粒子のみが具体的に開示される。EP2919298号は、シリコン粒子及び主に高分子化合物を含む混合物を熱分解し、次に粉砕(強凝集粒子を暗示する)することにより、複合体を製造する方法を教示する。US2016/0104882号は、多数のシリコン粒子が炭素マトリックスに埋め込まれた複合材料に関する。このように個々の炭素被覆シリコン粒子は強凝集体の形態で存在する。WO2018/229515号には、20~500nmの平均粒径d50のシリコン粒子と窒素原子又は酸素原子を含む炭素前駆体とを溶媒中に分散させた後、乾燥させ、任意に最初に200~400℃で熱処理し、最後に熱分解して直径1~25μmのSi/C複合粒子を形成する複合粒子を製造する方法が記載されている。
【0007】
US2009/0208844号は、導電性の弾性炭素材料、特に膨張黒鉛を含有する炭素皮膜を有するシリコン粒子を記載する。このようにして開示されるのは、表面上に炭素皮膜によって粒子状の膨張黒鉛粒子が付着したシリコン粒子である。US2009/0208844号から、非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造に関するプロセス関連助言は推測できない。US2012/0100438号は、炭素皮膜を有する多孔性シリコン粒子を含むが、皮膜の製造並びに粒子の炭素及びシリコン含有量に関する具体的な詳細は含まない。
【0008】
WO2018/082880号では、シリコン粒子と可溶性炭素前駆体との混合物を、炭素前駆体が完全に溶融して、炭化するまで400℃未満の温度に加熱する、シリコン粒子を炭素で被覆するための乾式方法、又はCVD(化学気相成長)方法を教示する。乾式方法のために具体的に言及された炭素前駆体は、単糖、ポリアニリン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、及びピッチである。溶融及び炭化はいずれも嫌気条件下で特異的に行われる。PCT/EP2020/057362号(出願番号)には、炭素前駆体としてポリアクリロニトリルを用いた炭素によるシリコン粒子の被覆が記載されている。
【0009】
EP1054462号では、集電体をシリコン粒子及びバインダーで被覆し、その後炭化することによりアノードを作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-151066号公報
【文献】特開2004-259475号公報
【文献】米国特許第8,394,532号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1024544号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2919298号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0104882号明細書
【文献】国際公開第2018/229515号
【文献】米国特許出願公開第2009/0208844号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0100438号明細書
【文献】国際公開第2018/082880号
【文献】国際公開第2021/185435号
【文献】欧州特許出願公開第1054462号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】Liu、Journal of The Electrochemical Society、2005、152(9)、A1719~A1725頁
【文献】Ogumi、Journal of The Electrochemical Society、2002、149(12)、A1598~A1603頁
【文献】Yoshio、Chemistry Letters、2001、1186~1187頁
【文献】N.-L.Wu、Electrochemical and Solid-State Letters、8(2)、2005、A100~A103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような背景から、対応するリチウムイオン電池が高い初期可逆容量を有し、その後のサイクルにおける可逆容量の低下(フェージング)が可能な限り低い安定した電気化学的挙動を有するような方法で、リチウムイオン電池のアノードの活物質としてシリコン粒子を修飾するという目的がさらにあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、シリコン粒子と、1個以上の酸素原子並びに窒素、硫黄、及びリンからなる群から選択される1個以上のヘテロ原子を含む1種以上の高分子炭素前駆体とを含む乾燥混合物を、酸化性雰囲気中で200~400℃の温度で処理し(熱処理)、その後不活性雰囲気中でこれを炭化することにより、1~15μmの平均粒径d50を有し、いずれの場合も炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、10重量%以下の炭素及び90重量%以上のシリコンを含む、非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法を提供する。
【0014】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られる、1~15μmの平均粒径d50を有し、いずれの場合も炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、10重量%以下の炭素及び90重量%以上のシリコンを含む、非強凝集炭素被覆シリコン粒子を提供する。
【0015】
本発明による非強凝集炭素被覆シリコン粒子を、以下、略して炭素被覆シリコン粒子とも呼ぶ。
【0016】
本発明の炭素被覆シリコン粒子を得ることができるためには、本発明による乾燥混合物が本発明による処理に供されることが必須であることがわかった。
【0017】
驚くべきことに、強凝集していない炭素被覆シリコン粒子は、本発明に従って得ることができる。異なる粒子の粘着又は焼結、ひいては凝集は、驚くべきことにわずかな程度にしか起こらないか、まったく起こらない。これは、高分子炭素前駆体が通常、炭化中に液体又はペースト状で存在し、接着剤(この接着剤は、冷却又は炭化後に粒子を一緒に凝固させ、その結果、強凝集生成物に導く。)として作用することができるため、なおさら驚くべきことであった。驚くべきことに、非強凝集炭素被覆シリコン粒子はそれにもかかわらず、本発明に従って得られた。
【0018】
炭素被覆シリコン粒子は、炭素被覆シリコン粒子の強凝集体の形態ではなく、単離粒子又は緩い弱凝集体の形態で存在することが好ましい。弱凝集体は複数の炭素被覆シリコン粒子のクラスターである。強凝集体は炭素被覆シリコン粒子の集合体である。弱凝集体は、例えば、混練又は分散プロセスによって個々の炭素被覆シリコン粒子に分離することができる。強凝集体は、炭素被覆シリコン粒子を破壊することなしに、このようにして個々の粒子に分離することはできない。しかし、個々の場合において、これは、本発明による方法において、強凝集された炭素被覆シリコン粒子を少量形成することを排除しない。
【0019】
強凝集体の形態の炭素被覆シリコン粒子の存在は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって可視化できる。この目的に特に適しているのは、未被覆シリコン粒子のSEM画像又はTEM画像と、炭素被覆シリコン粒子の対応する画像との対比である。粒径分布又は粒径を決定するための静的光散乱法は、それ自体では強凝集体の存在を確かめるのに適していない。しかし、炭素被覆シリコン粒子が、測定精度の限界内において、それらを製造するために使用されるシリコン粒子の粒径よりも有意に大きい粒径を有する場合、このことは強凝集した炭素被覆シリコン粒子の存在を示す。上記の決定法を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0020】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下の強凝集度を有する。強凝集度は篩分析によって決定される。強凝集度は、一般に、超音波処理と同時にエタノールに分散させた後、分析中の各粒子組成物の体積加重粒径分布のd90値の2倍のメッシュサイズを有する篩を通過せず、特にメッシュサイズが20μmの篩を通過しない粒子の割合に相当する。
【0021】
炭素被覆シリコン粒と出発材料として用いるシリコン粒子の体積加重粒径分布d50の相違も、炭素被覆シリコン粒子が強凝集していないことを示す指標である。炭素被覆シリコン粒子の体積荷重粒径分布d50と炭素被覆シリコン粒子を作製するための出発材料として用いるシリコン粒子の体積荷重粒径分布d50との相違は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下が最も好ましい。
【0022】
本発明による炭素前駆体の発明による使用及び熱処理中の酸化性雰囲気の結果は、本発明による炭素被覆シリコン粒子が従来の炭素被覆シリコン粒子と構造的に異なることである。これは、例えば、本発明による炭素被覆シリコン粒子をアノード活物質として使用した場合に、リチウムイオン電池で観察される増強されたサイクル安定性においても明らかであり、これは、特定の構造特性を有するアノード活物質によってのみ説明することができる。特定の理論に拘束されないが、これらの影響は、本発明の炭素前駆体に由来する、又は乾燥混合物の本発明による熱処理における酸化性雰囲気に由来する、炭素被覆シリコン粒子中の酸素原子若しくはヘテロ原子又は特定の酸素含有官能基若しくは種若しくはヘテロ原子含有官能基又は種の特定の含有量によってもたらされ得る。このような酸素原子又はヘテロ原子は、例えば、ファンデルワールス相互作用、水素結合、イオン相互作用又は特に共有結合を介して、例えば、炭素皮膜内の凝集、又はシリコン粒子上の炭素皮膜の接着性を改善することができ、又はそれらの弾性を増加させることができる。
【0023】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、最も好ましくは4μm以上の直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布を有する。炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下のd50値を有する。
【0024】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは40μm以下、より好ましくはd90≦30μm、さらにより好ましくはd90≦10μmのd90値を有する体積加重粒径分布を有する。
【0025】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくはd10≧1μm、最も好ましくはd10≧1.5μmのd10値を有する体積加重粒径分布を有する。
【0026】
炭素被覆シリコン粒子の粒径分布は、二峰性又は多峰性であってもよく、好ましくは単峰性であり、より好ましくは狭い。炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下の幅(d90-d10)/d50を有する。
【0027】
Horiba LA950装置を使用し、炭素被覆シリコン粒子の分散媒質としてエタノールを使用するMieモデルを用いて、炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布を静的レーザー散乱によって決定した。
【0028】
炭素被覆シリコン粒子の炭素皮膜は、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~50nmの範囲内の平均層厚を有する(決定法:走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM))。
【0029】
炭素被覆シリコン粒子は、典型的には、好ましくは0.1~10m2/g、より好ましくは0.3~8m2/g、最も好ましくは0.5~5m2/gのBET比表面積を有する(窒素を用いたDIN ISO9277:2003-05に従って決定)。
【0030】
炭素皮膜は多孔性であってもよいが、好ましくは非多孔性である。炭素皮膜は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下の多孔度を有する(全多孔度を決定する方法:1-[見かけの密度(DIN51901に従ってキシレンピクノメトリーにより決定)及び骨格密度(DIN66137-2に従ってHeピクノメトリーにより決定)の比]。
【0031】
炭素被覆シリコン粒子の炭素皮膜は、水性又は有機溶媒又は溶液、特に水性又は有機電解質、酸又はアルカリなどの液体媒体に対して不透過性であることが好ましい。
【0032】
炭素被覆シリコン粒子では、シリコン粒子は部分的又は好ましくは完全に炭素に埋め込まれる。炭素被覆シリコン粒子の表面は、部分的に又は好ましくは完全に炭素からなる。
【0033】
一般に、シリコン粒子は細孔内には位置しない。炭素皮膜は、一般に、シリコン粒子の表面と直接接触する。
【0034】
炭素皮膜は、一般に、フィルムの形態であり、粒子状又は繊維状ではない。一般に、炭素皮膜は、いかなる粒子又はいかなる繊維、例えば、炭素繊維又は黒鉛粒子も含有しない。
【0035】
一般に、各炭素被覆シリコン粒子は1個のシリコン粒子(決定法:走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM))を含む。
【0036】
炭素皮膜の炭素は、一般に、本発明による炭化によって得られる。炭素皮膜の炭素は、例えば、非晶質形態で、又は好ましくは部分的又は完全に結晶形態で存在してもよい。
【0037】
炭素被覆シリコン粒子は、任意の所望の形状を取ることができ、好ましくは、破片状である。
【0038】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは0.1重量%~8重量%、より好ましくは0.3重量%~6重量%、さらにより好ましくは0.5重量%~4重量%、特に好ましくは0.5重量%~3重量%の炭素を含む。炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは92重量%~99.9重量%、より好ましくは94重量%~99.7重量%、さらにより好ましくは96重量%~99.5重量%、特に好ましくは97重量%~99.5重量%のシリコン粒子を含む。上記の重量パーセンテージは、いずれの場合も炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいている。
【0039】
炭素皮膜は、例えば、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の酸素含有率を有することができる。窒素は、例えば、0重量%~10重量%、好ましくは0.05%~5重量%の間の程度まで炭素皮膜中に存在することができる。存在する場合、窒素は、好ましくは、複素環の形態で、例えば、ピリジン又はピロール単位(N)として化学的に結合されるか、又は窒素原子を含有する官能基、例えばアミノ基として炭素種に結合される。記載の主成分に加えて、さらなる化学元素、例えば、Li、Fe、Al、Cu、Ca、K、Na、S、Cl、Zr、Ti、Pt、Ni、Cr、Sn、Mg、Ag、Co、Zn、B、P、Sb、Pb、Ge、Bi又は希土類が、例えば、意図的添加又は偶発的不純物の形態で存在することも可能であり、それらの含有率は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは100ppm以下である。上記の重量パーセンテージは、いずれの場合も炭素皮膜の総重量に基づいている。
【0040】
さらに、炭素被覆シリコン粒子は、1種以上の導電性添加剤、例えば、黒鉛、導電性ブラック、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ又は銅のような金属粒子を含有していてもよい。好ましくは、導電性添加剤は存在しない。
【0041】
シリコン粒子は、好ましくは1~15μm未満、より好ましくは2~10μm未満、最も好ましくは3~8μm未満の直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布を有する(決定法:炭素被覆シリコン粒子について上述したHoriba LA950装置を用いる)。
【0042】
シリコン粒子は、好ましくは強凝集しておらず、より好ましくは弱凝集していない。強凝集とは、シリコン粒子の製造中に気相プロセスで最初に形成されたもののような球形又は非常に概ね球形の一次粒子が、気相プロセスにおける反応のさらなる過程で結合して強凝集体を形成することを意味する。強凝集体又は一次粒子は弱凝集体を形成することもある。弱凝集体は、強凝集体又は一次粒子の緩いクラスターである。弱凝集体は、典型的に用いられる混練及び分散プロセスによって、再び強凝集体に容易に分割することができる。強凝集体は、そのようなプロセスによっては、もしあったとしても、部分的にしか一次粒子に分解できない。強凝集体及び弱凝集体は、それらが形成される方法のために、必然的に好ましいシリコン粒子とは全く異なる粒形をしている。強凝集の決定において、炭素被覆シリコン粒子に関連して述べられてきたことは、類推によってシリコン粒子に当てはまる。
【0043】
シリコン粒子は、破片状の粒子形状を有することが好ましい。
【0044】
シリコン粒子は、元素状シリコン、酸化シリコン、又は(例えば、Li、Na、K、Sn、Ca、Co、Ni、Cu、Cr、Ti、Al、Feとの)二元、三元又は多元シリコン/金属合金からなることができる。特に、リチウムイオンの貯蔵能力が有利に高いので、元素状シリコンが好ましい。
【0045】
元素状シリコンは、一般に、低含有量の異種原子(例えばB、P、As)を有する高純度ポリシリコン、意図的に異種原子(例えばB、P、As)をドープしたシリコンのみならず、元素不純物(例えばFe、Al、Ca、Cu、Zr、C)を含み得る冶金加工からのシリコンも意味するものと理解される。
【0046】
シリコン粒子が酸化シリコンを含む場合、酸化物SiOxの化学量論は0<x<1.3の範囲であることが好ましい。シリコン粒子がより高い化学量論を有する酸化シリコンを含む場合、これはシリコン粒子の表面に位置することが好ましく、10nm未満の層厚を有することが好ましい。
【0047】
シリコン粒子をアルカリ金属Mで合金化した場合、合金MySiの化学量論は0<y<5の範囲であることが好ましい。シリコン粒子は、任意に、予めリチウム化されていてもよい。シリコン粒子がリチウムと合金化された場合、合金LizSiの化学量論は、好ましくは0<z<2.2の範囲である。
【0048】
80モル%≧のシリコン及び/又は20モル%以下の異種原子、非常に特に好ましくは10モル%以下の異種原子を含有するシリコン粒子が特に好ましい。
【0049】
好ましい実施形態では、シリコン粒子は、シリコン粒子の総重量に基づいて、好ましくは96重量%以上、より好ましくは98重量%以上の程度までシリコンからなる。シリコン粒子は、本質的に炭素を含有しないことが好ましい。
【0050】
シリコン粒子の表面は、任意に酸化物層によって、又は他の無機及び有機基によって覆われていてもよい。特に好ましいシリコン粒子は、表面にSi-OH-若しくはSi-H基又は共有結合した有機基、例えば、アルコール若しくはアルケンを有する。
【0051】
多結晶シリコン粒子が好ましい。多結晶シリコン粒子は、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらにより好ましくは60nm以下、特に好ましくは20nm以下、最も好ましくは18nm以下、最も好ましくは全てが16nm以下の結晶子サイズを有する。結晶子サイズは、3nm以上が好ましく、6nm以上がより好ましく、9nm以上が最も好ましい。結晶子サイズは、2θ=28.4°でのSi(111)回折ピークの半値全幅から、シェラー法によるX線回折パターン解析によって求める。なお、シリコンのX線回折パターンに用いる標準は、NISTのX線回折用標準物質SRM640C(単結晶シリコン)であることが好ましい。
【0052】
シリコン粒子は、例えば、粉砕プロセス、例えば、湿式粉砕、又は好ましくは乾式粉砕プロセスによって製造され得る。ジェットミル、例えば、対向ジェットミル、又はインパクトミル、遊星ボールミル又は撹拌ボールミルを使用することが好ましい。湿式粉砕は一般に、有機又は無機分散媒を用いた懸濁液中で行われる。これは、出願番号DE102015215415.7を有する特許出願に記載されているような確立されたプロセスの使用を含むことができる。
【0053】
炭素被覆シリコン粒子を製造する本発明の方法は、本発明のシリコン粒子及び炭素前駆体を含む乾燥混合物を使用する。
【0054】
乾燥混合物は、乾燥混合物の総重量に基づいて、好ましくは20重量%~99重量%、より好ましくは30重量%~98重量%、さらにより好ましくは50重量%~97重量%、特に好ましくは70重量%~96重量%、最も好ましくは80重量%~95重量%の程度までシリコン粒子を含有する。
【0055】
好ましくは、高分子炭素前駆体は、酸素原子及び窒素原子、並びに任意に硫黄原子及び/又はリン原子を含む。より好ましくは、高分子炭素前駆体は、酸素原子及び窒素原子を含み、他のヘテロ原子を含まない。
【0056】
高分子炭素前駆体は、例えば、アミド、ラクタム、イミド、カルバメート、ウレタン、硫酸塩、硫酸エステル、亜硫酸塩、亜硫酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、チオエステル、リン酸、リン酸エステル、リン酸アミド、ホスホン酸、ホスホン酸エステル、及びホスホン酸アミドを含む群から選択される1つ以上の官能基を有することができる。上記の酸はまた、それらの塩の形態、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム塩の形態で存在し得る。最も好ましい官能基はアミド及びラクタムである。
【0057】
高分子炭素前駆体は、脂肪族、好ましくは芳香族、より好ましくは複素環式芳香族であることができる。
【0058】
好ましい高分子炭素前駆体は、ポリビニルラクタム、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、及びタンパク質である。ポリビニルラクタムが特に好ましい。ポリビニルラクタムは、好ましくは、1つ以上のカルボニル基を有するN-ビニル化窒素複素環の高分子化合物、例えば、窒素原子上でビニル化されたβ-、γ-、δ-又はε-ラクタム、特にビニルピロリドンである。最も好ましいのはポリビニルピロリドンである。
【0059】
高分子炭素前駆体の分子量Mwは、好ましくは200~2000000g/mol、より好ましくは500~1500000g/mol、さらにより好ましくは1000~500000g/mol、特に好ましくは1500~100000g/mol、最も好ましくは2000~50000g/molである(決定方法:GPC)。
【0060】
乾燥混合物は、高分子炭素前駆体を、乾燥混合物の総重量に基づいて、好ましくは1重量%~80重量%、より好ましくは2重量%~70重量%、さらにより好ましくは3重量%~50重量%、特に好ましくは4重量%~30重量%、最も好ましくは5重量%~20重量%の程度まで含有する。
【0061】
乾燥混合物はまた、任意に、本発明による高分子炭素前駆体とは異なる1種以上のさらなる炭素前駆体を含み得る。乾燥混合物は、使用される炭素前駆体全体の総重量に基づいて、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上の本発明による高分子炭素前駆体を含有する。最も好ましくは、乾燥混合物は、本発明による高分子炭素前駆体の他に、さらなる炭素前駆体を含有しない。さらなる炭素前駆体の例は、ポリアクリロニトリル、単糖類、二糖類、及び多糖類のような炭水化物、ポリアニリン、ポリスチレンのようなポリビニル芳香族又はポリ芳香族、ピッチ又はタールのようなポリ芳香族炭化水素、又は代替CVD(化学気相成長)プロセスで一般に使用されるようなガス状炭化水素である。
【0062】
さらに、乾燥混合物は、1種以上の導電性添加剤、例えば、黒鉛、導電性ブラック、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ又は銅のような金属粒子を含有していてもよい。好ましくは、導電性添加剤は存在しない。
【0063】
一般に、本発明による方法では溶媒は使用しない。この方法は、一般に、溶媒が存在せずに行われる。しかし、これは、使用する出発材料が、例えば、それらの製造の結果として残留含有量の溶媒を有し得る可能性を除外するものではない。乾燥混合物、より具体的にはシリコン粒子及び/又は高分子炭素前駆体は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下の溶媒を含有する。溶媒の例としては、水のような無機溶媒、又は有機溶媒、特に炭化水素、エーテル、エステル、窒素官能基溶媒、硫黄官能基溶媒、エタノール及びプロパノールのようなアルコール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-メチルピロリドン、N-エチル-2-メチルピロリドン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0064】
シリコン粒子及び高分子炭素前駆体は、従来の方法で、例えば、0~50℃、好ましくは15~35℃の温度で混合され得る。混合は、酸化性雰囲気中で、特に空気の存在下で行うことが好ましい。標準ミキサー、例えば、空気式ミキサー、自由落下型ミキサー、例えば、コンテナミキサー、コーンミキサー、回転ドラムミキサー、ドラムフープミキサー、タンブルミキサー、又は変位及びインペラーミキサー、例えば、ドラムミキサー及びスクリューミキサーを使用することが可能である。混合にはミル、例えば、ドラムミル又はボールミル、特に遊星ボールミル又は撹拌ボールミルを使用することが好ましい。
【0065】
熱処理は酸化性雰囲気中で行われる。酸化性ガスとして、酸化性雰囲気は、例えば、二酸化炭素、酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン、過酸化物、及び特に酸素又は水蒸気を含み得る。酸化性雰囲気は、酸化性ガスを、好ましくは1体積%~100体積%、より好ましくは5体積%~80体積%、さらにより好ましくは10体積%~50体積%、特に好ましくは15体積%~30体積%の程度まで含有する。代替の実施形態では、酸化性雰囲気は、好ましくは1体積%~25体積%、より好ましくは2体積%~20体積%、及び特に好ましくは5体積%~15体積%の程度まで酸化性ガスを含有する。酸化性雰囲気はまた、窒素、希ガス又は他の不活性ガスのような不活性ガスを含み得る。不活性ガスの含有率は、好ましくは99体積%以下、より好ましくは20~95体積%、特に好ましくは50~90体積%、最も好ましくは70~85体積%である。酸化性雰囲気はまた、不純物又は他のガス成分を、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、最も好ましくは1体積%以下の程度まで含んでもよい。述べた体積パーセンテージは、いずれの場合も、酸化性雰囲気の全体積に基づいている。最も好ましくは、酸化性雰囲気は、周囲の空気又は合成空気のような空気を含む。全ての中で最も好ましくは、酸化性雰囲気は空気からなる。
【0066】
酸化性雰囲気は、好ましくは0.1~10bar、より好ましくは0.5~5bar、そして最も好ましくは0.7~1.5barの圧力を有する。酸化性雰囲気は、好ましくは0.1~2000mbar、より好ましくは1~1000mbar、特に好ましくは10~700mbar、最も好ましくは100~500mbarの分圧を有する酸化性ガスを含む。
【0067】
熱処理における温度は、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下、最も好ましくは280℃以下である。該温度は、好ましくは210℃以上、より好ましくは230℃以上、最も好ましくは250℃以上である。
【0068】
熱処理における温度は、それぞれの高分子炭素前駆体の分解温度未満で、好ましくは50~300℃、より好ましくは100~250℃、特に好ましくは125~200℃、最も好ましくは150~160℃である。高分子炭素前駆体の分解温度は、例えば、TGA(熱重量分析、加熱速度10℃/分の窒素雰囲気中での測定、分解温度は、得られた測定曲線の変曲点から導かれる)によって従来の方法で決定することができる。
【0069】
熱処理における温度は、それぞれの高分子炭素前駆体の可能な溶融温度と分解温度との間であることが好ましい。好ましくは、高分子炭素前駆体は、熱処理の間、部分的に又は完全に溶融物の形態で存在する。
【0070】
熱処理は、好ましくは10分~24時間、好ましくは30分~10時間、より好ましくは1~4時間持続する。熱処理の持続期間は、例えば、個々の場合で選択された温度、又はそれぞれの高分子炭素前駆体に基づいている。
【0071】
乾燥混合物は、温度を間欠的に又は好ましくは連続的に上昇させることによって加熱することができる。間欠加熱の場合、例えば、予熱した炉に乾燥混合物を導入することができる。連続加熱の場合、混合物は一定又は可変の加熱速度で加熱することができるが、一般的には正の加熱速度で加熱することができる。加熱速度とは、単位時間当たりの温度の上昇を指す。前記温度に達するまでの又は熱処理中の加熱速度は、好ましくは毎分1~20℃、より好ましくは1~15℃/分、特に好ましくは1~10℃/分、最も好ましくは1~5℃/分である。特定の温度、特に熱処理における上記の温度の範囲で、1つ以上の保持段階があることが好ましい。
【0072】
熱処理における温度、酸化性雰囲気、及び圧力、並びに高分子炭素前駆体の分子量Mwは、好ましくは、熱処理の条件下でそれぞれの高分子炭素前駆体が燃焼しないか、又はせいぜい部分的にしか燃焼せず、分解しないか、又はせいぜい部分的にしか分解せず、及び炭化しないか、又はせいぜい部分的にしか炭化しないように選択される。高分子炭素前駆体の燃焼温度、分解温度又は炭化温度は、従来の方法で、例えば、DSC(示差走査熱量測定)又は熱重量分析(TGA)によって迅速に決定することができる。
【0073】
一般に、高分子炭素前駆体の炭化は熱処理中には起こらないか、又はわずかな程度しか起こらない。熱処理中に炭化を受ける高分子炭素前駆体の割合は、使用される高分子炭素前駆体の全体の総重量に基づいて、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0074】
高分子炭素前駆体の熱処理は、従来の炉、例えば、管状炉、か焼炉、ロータリーキルン、ベルト炉、チャンバ炉、レトルト炉又は流動床反応器において行われ得る。加熱は、対流又は誘導によって、マイクロ波又はプラズマによって行われる。
【0075】
1つの実施形態において、熱処理に続いて、例えば、10~30℃の範囲内の温度、特に周囲温度まで冷却が行われる。冷却は、能動的又は受動的に、均等に、又は段階的に行うことができる。このようにして得られた生成物は貯蔵され、及び/又は酸化性雰囲気を不活性雰囲気に置き換えた後、炭化に供される。
【0076】
あるいは、酸化性雰囲気を不活性雰囲気に置き換え、その後冷却せずに、特に室温まで冷却せずに、熱処理直後、好ましくは熱処理中の温度で炭化を行うことも可能である。
【0077】
炭化の過程で、高分子炭素前駆体は一般に無機炭素に変換される。
【0078】
不活性雰囲気は、窒素又は希ガスの雰囲気、特にアルゴン雰囲気であることが好ましい。不活性雰囲気は、窒素又は希ガスを好ましくは95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、最も好ましくは99.9体積%以上含む。不活性雰囲気は、好ましくは5体積%以下、より好ましくは1体積%以下、最も好ましくは0.1体積%以下の酸化性ガス、特に酸素を含む。不活性ガス雰囲気は、必要に応じて、ある割合の水素のような還元ガスをさらに含むことができる。不活性ガス雰囲気は、反応媒体の上の静的雰囲気であってもよく、又はガス流の形態で反応混合物の上を流れてもよい。
【0079】
炭化は、好ましくは400超~1400℃、より好ましくは700~1200℃、最も好ましくは900~1100℃の温度で行われる。混合物は、好ましくは、30分~24時間、より好ましくは1~10時間、最も好ましくは2~4時間上記の温度に保持される。
【0080】
混合物は、温度を間欠的に又は好ましくは連続的に上昇させることによって加熱することができる。炭化温度に達するまでの加熱速度は、好ましくは毎分1~20℃、より好ましくは2~15℃/分、最も好ましくは3~10℃/分である。様々な中間温度及び加熱速度を用いる段階的なプロセスも可能である。目標温度に達したら、反応混合物は通常、一定時間その温度に保たれるか、直ちに冷却される。冷却は、能動的又は受動的に、均等に、又は段階的に行うことができる。
【0081】
炭化は、同じ装置、特に熱処理にも使用される同じ装置で行われることが好ましい。
【0082】
熱処理及び/又は炭化は、反応混合物を連続的に混合するか、好ましくは静的に、すなわち混合することなく実施することができる。固体で存在する成分は、好ましくは流動化されない。これにより、技術的な複雑さが減少する。
【0083】
本発明の方法によって得られた炭素被覆シリコン粒子は、例えば、電極材料の製造のように、そのさらなる利用のために直接供給されてもよく、あるいは、分級技術(篩分け(sieving又はsifting))によって、過大な又は過少な粒子を除いてもよい。機械的な後処理又は分級、特に粉砕がないことが好ましい。
【0084】
炭素被覆シリコン粒子は、例えば、リチウムイオン電池のアノード活物質用のシリコンベースの活物質として適している。
【0085】
本発明は、さらに、本発明の方法により得られた炭素被覆シリコン粒子を、リチウムイオン電池用のアノードの製造におけるアノード活物質として用いることにより、リチウムイオン電池を製造する方法を提供する。リチウムイオン電池は、一般に、カソード、アノード、セパレータ、及び電解質を含む。
【0086】
電池ハウジング内に位置するカソード、アノード、セパレータ、電解質及び/又は別のリザーバが、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩(NO3
-)、亜硝酸塩(NO2
-)、アジド(N3
-)、リン酸塩(PO4
3-)、炭酸塩(CO3
2-)、ホウ酸塩及びフッ化物(F-)塩を含む群から選択される1種以上の無機塩を含むことが好ましい。この無機塩は電解質中及び/又は特にアノード中に存在することが特に好ましい。特に好ましい無機塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩(NO3
-)、亜硝酸塩(NO2
-)、アジド(N3
-)塩であり、最も好ましいのは硝酸リチウム及び亜硝酸リチウムである。さらに、特にさらなる無機塩、例えば、LiBOB又はLiPF6が存在してもよい。
【0087】
電解質中の無機塩の濃度は、好ましくは0.01~2モル、より好ましくは0.01~1モル、さらにより好ましくは0.02~0.5モル、最も好ましくは0.03~0.3モルである。アノード内、カソード内及び/又はセパレータ内、特にアノード内の無機塩の充填量は、いずれの場合もアノード、カソード及び/又はセパレータの表面積に基づいて、好ましくは0.01~5.0mg/cm2、より好ましくは0.02~2.0mg/cm2、最も好ましくは0.1~1.5mg/cm2である。
【0088】
アノード、カソード又はセパレータは、好ましくは0.8重量%~60重量%、より好ましくは1重量%~40重量%、最も好ましくは4重量%~20重量%の無機塩を含む。アノードの場合、これらのパーセンテージはアノード皮膜の乾燥重量に関係し、カソードの場合、それらはカソード皮膜の乾燥重量に関係し、セパレータの場合、それらはセパレータの乾燥重量に関係する。
【0089】
満充電したリチウムイオン電池のアノード材料は、部分的にリチウム化されているだけであることが好ましい。したがって、アノード材料、より具体的には本発明の炭素被覆シリコン粒子が、満充電したリチウムイオン電池内で部分的にリチウム化されているだけであることが好ましい。「満充電した」とは、電池のアノード材料がリチウムの最高充填量を有する電池の状態をいう。アノード材料の部分的リチウム化は、アノード材料中のシリコン粒子の最大リチウム吸収容量が消耗されていないことを意味する。シリコン粒子の最大リチウム吸収容量は、概ねLi4.4Siの式に対応し、したがって、シリコン原子当たり4.4個のリチウム原子である。これは、シリコン1g当たり4200mAhの最大比容量に相当する。
【0090】
リチウムイオン電池のアノード中のシリコン原子に対するリチウム原子の比(Li/Si比)は、例えば、電荷の流れにより調節することができる。アノード材料又はアノード材料中に存在するシリコン粒子のリチウム化の程度は、流れた電荷に比例する。この変形例では、リチウムイオン電池の充電中にリチウムに対するアノード材料の容量が完全に消耗しない。これはアノードの部分的リチウム化をもたらす。
【0091】
代替の好ましい変形例では、リチウムイオン電池のLi/Si比は、セル・バランシング(balancing)によって調整される。この場合、アノードのリチウム吸収容量が好ましくはカソードのリチウム放出容量より大きいように、リチウムイオン電池が設計される。これの効果は、満充電した電池では、アノードのリチウム吸収容量が完全に消耗されないことであり、これは、アノード材料が部分的にしかリチウム化されないことを意味する。
【0092】
本発明の部分的リチウム化の場合、満充電状態のリチウムイオン電池のアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは2.2以下、より好ましくは1.98以下、最も好ましくは1.76以下である。満充電状態のリチウムイオン電池のアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.44以上、最も好ましくは0.66以上である。
【0093】
リチウムイオン電池のアノード材料中のシリコンの容量は、シリコン1g当たり4200mAhの容量に基づいて、50%以下の程度、より好ましくは45%以下の程度、最も好ましくは40%以下の程度まで利用されることが好ましい。
【0094】
シリコンのリチウム化の程度、又はリチウムのためのシリコンの容量の利用率(Si容量利用率α)は、例えば、WO17025346号の11頁4行~12頁25行に記載されているように、より具体的にはSi容量利用率α及び「Bestimmung der Delithiierungs-Kapazitaet β」[脱リチウム化容量βの決定]及び「Bestimmung des Si-Gewichtsanteils ωSi」[Siの重量による割合ωsiの決定](「参照により援用される」)という見出しの下の補足情報についてそれに記載されている式を用いて決定することができる。
【0095】
リチウムイオン電池における本発明に従って製造された炭素被覆シリコン粒子の使用は、驚くべきことに、そのサイクル挙動の改善をもたらす。このようなリチウムイオン電池は、最初の充電サイクルでの容量の不可逆的損失が低く、その後のサイクルでわずかなフェージングを伴うだけで安定した電気化学的挙動を示す。したがって、本発明の炭素被覆シリコン粒子は、リチウムイオン電池の低い初期容量損失を達成し、さらに低い連続容量損失を達成することができる。全体として、本発明のリチウムイオン電池は非常に良好な安定性を有する。これは、多数のサイクルの後でさえ、例えば、本発明のアノード材料の機械的破壊又はSEIの結果としての疲労現象はほとんど存在しないことを意味する。
【0096】
これらの効果は、硝酸リチウムのような無機塩をリチウムイオン電池に加えることによってさらに高めることができる。
【0097】
熱処理及び/又は炭化は静的に、すなわち、反応混合物の流動化、撹拌又は他の一定の混合なしに行うこともできるので、本方法は技術的に簡単な方法で構成することができる。特別な装置は必要ない。特に、この方法の規模を拡大する際には、この全ては非常に有利である。またエチレンのような炭素含有ガスを扱う必要がなく、そのため安全要件がより低いので、本方法はCVDプロセスと比較して操作が容易である。全体として、反応混合物は、出発材料を単に混合することによって得ることができ、したがって、溶媒又は噴霧乾燥などの他の慣用の乾燥工程の必要がないので、本方法は安価に実施することができる。
【0098】
驚くべきことに、本発明に従って製造された炭素被覆シリコン粒子は、上記の有利なサイクル挙動の他にも、高い体積エネルギー密度を有するリチウムイオン電池を得るために使用することができる。
【0099】
さらに、本発明に従って製造された炭素被覆シリコン粒子は、有利には、高い導電率を有し、有機溶媒、酸又はアルカリのような腐食性媒体に対して高い耐性を有する。本発明による炭素被覆シリコン粒子を用いると、リチウムイオン電池のセル内部抵抗を低下させることも可能である。
【0100】
本発明に従って製造された炭素被覆シリコン粒子は、さらに水中、特にリチウムイオン電池のアノード用の水性インク配合物中で驚くほど安定であり、このことは、従来のシリコン粒子を用いてそのような条件下で生じる水素発生を減少させることができることを意味する。これにより、水性インク配合物の発泡なしに処理を行うことが可能となり、安定した電極スラリーを提供し、特に均質で気泡のないアノードを生成することが可能となる。本発明の方法において出発材料として使用されるシリコン粒子は、対照的に、水中で比較的大量の水素を放出する。
【0101】
例えば、溶媒を用いて炭素でシリコン粒子を被覆する際に得られる又は他の本発明でない方法で得られるような強凝集した炭素被覆シリコン粒子は、仮にあったとしても、本発明の程度までそのような有利な効果を達成することができない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1】実施例1のシリコン粉末のSEM画像(7500×倍率)を示す。
【
図2】実施例2のC被覆非強凝集シリコン粒子のSEM画像(7500×倍率)を示す。
【実施例】
【0103】
以下の実施例は、本発明をさらに明確にするために役立つ。
【0104】
特に明記しない限り、以下の実施例及び比較例は、空気中及び周囲圧(1013mbar)及び室温(23℃)で実施した。以下の方法及び材料を用いた。
【0105】
<炭化>
N型試料熱電対を含むカスケード制御を用いて、Carbolite GmbH製の1200℃の三ゾーン管状炉(TFZ12/65/550/E301)で炭化を行った。記載されている温度は、熱電対の部位での管状炉の内部温度を指す。いずれの場合も炭化される出発材料を石英ガラス(QCS GmbH)製の1個以上の燃焼ボートに秤量し、石英ガラス製の作業管に導入した。炭化に用いた構成及びプロセスパラメータをそれぞれの例で報告する。
【0106】
<分級/篩分け>
炭化又は化学的気相成長後に得られたC被覆Si粉末から、ステンレス鋼篩上で水を用いたAS200基本篩分け機(Retsch GmbH)による湿式篩分けにより20μmを超える過大サイズ粒子を除いた。粉状生成物は、超音波処理(Hielscher UIS250V、振幅80%、サイクル:0.75、期間:30分)によりエタノール中に分散(固形分含有量20%)し、篩(20μm)を有する篩塔に適用した。篩分けは、無限時間の事前選択及び50~70%の振幅で、水流を通過させて行った。底部から流出したシリコン含有懸濁液を200nmナイロン膜で濾過し、フィルタ残渣を100℃、50~80mbarの真空乾燥オーブン中で恒量まで乾燥させた。
【0107】
<走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)>
顕微鏡分析を、Zeiss Ultra55走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散性INCA x-サイトx線分光計を用いて行った。分析前に、帯電現象を防止するために、Baltec SCD500スパッタ/炭素被覆ユニットで試料に炭素の蒸着を行った。
【0108】
<無機/元素分析>
C含有率はLeco CS230分析器を用い決定し、Leco TCH-600分析器を用いてO及びN含有率を測定した。得られた炭素被覆シリコン粒子中の他の元素の定性的及び定量的決定をICP(誘導結合プラズマ)発光分析(Perkin Elmer製Optima 7300DV)により行った。これのために、試料をマイクロ波(Anton Paar製Microwave 3000)で酸分解(HF/HNO3)させた。ICP-OESの決定は、ISO11885「Water quality - Determination of selected elements by inductively-coupled plasma optical emission spectrometry(ICP-OES)(ISO11885:2007)、ドイツ語版EN ISO11885:2009」の指針に基づき、このISOは酸性水溶液(例えば、酸性化飲料水、排水、その他の水試料並びに土壌及び堆積物の王水抽出物)の分析に用いられる。
【0109】
<粒径決定>
粒径分布は、Horiba LA950を用いた静的レーザー散乱によりISO13320に従って決定した。試料の調製にあたって、測定溶液中に粒子を分散させる際には、測定されるのが弱凝集体のサイズではなく、個々の粒子のサイズであることを確認するため、特別の注意を払わなければならない。ここで分析したC被覆Si粒子については、粒子をエタノール中に分散させた。測定に先立ち、LS24d5ソノトロードを備えたHielscher UIS250v実験室超音波装置において、必要ならば、分散液を250Wで4分間超音波処理した。
【0110】
<C被覆Si粒子の強凝集度の決定>
この決定は篩分析により行う。強凝集度は、エタノール中に分散させ、同時に超音波処理した後、特定の場合に分析を行う粒子組成物の体積加重粒径分布のd90値の2倍に相当するメッシュサイズを有する篩を通過しない粒子の割合に相当する。
【0111】
<BET比表面積測定>
材料の比表面積は、DIN ISO9277:2003-05に従ったBET法により、Sorptomatic 199090機器(Porotec)又はSA-9603MP機器(Horiba)を用いて窒素によるガス吸着により測定した。
【0112】
<液体媒体に対するSiの利用性>
C被覆Si粒子中のシリコンの液体媒体に対する利用性は、(元素分析から)既知のシリコン含有率の材料について、以下の試験方法を用いて決定した。0.5~0.6gのC被覆シリコンを、まず超音波処理によりNaOH(4M、H2O)とエタノールとの混合物(1:1体積)20mlで分散させた後、40℃で120分間撹拌した。粒子を200nmナイロン膜に通して濾過し、水で中性のpHまで洗浄し、次いで100℃/50~80mbarの乾燥オーブン中で乾燥させた。NaOH処理後のシリコン含有率を測定し、試験前のSi含有率と比較した。不浸透性(imperviosity)は、アルカリ処理後のパーセントで表される試料のSi含有率と未処理のC被覆粒子のパーセントで表されるSi含有率との比に相当する。
【0113】
<粉末導電率の決定>
C被覆試料の比抵抗は、圧力チャンバ(ダイ半径6mm)及び油圧ユニット(Caver製、USA、モデル3851CE-9、S/N:130306)からなるKeithley 2602システムソースメーターID266404測定システムにおいて、制御された圧力下(60MPaまで)で決定した。
【0114】
[実施例1(Ex.1)]
<粉砕によるシリコン粒子の製造>
流動床ジェットミル(Netzsch-Condux CGS16、粉砕ガスとして7bar、90m3/時の窒素を用いる)中で太陽光シリコンの製造から粗いSi砂粒を粉砕することにより、先行技術に従ってシリコン粉末を製造した。
【0115】
粒径はエタノール中の高度に希釈した懸濁液中で決定した。
【0116】
図1のシリコン粉末のSEM画像(7500×倍率)は、試料が個々の強凝集していない破片状の粒子からなることを示している。
【0117】
元素組成:Si≧98重量%、C0.01重量%、H<0.01重量%、N<0.01重量%、O0.47重量%。
粒径分布:単峰性、D10:2.19μm、D50:4.16μm、D90:6.78μm、(D90-D10)/D50=1.10、(D90-D10)=4.6μm。
強凝集度:0%。
比表面積(BET):2.662m2/g。
Si不浸透性:0%。
粉末導電率:2.15μS/cm。
【0118】
[実施例2(Ex.2)]
<C前駆体としてのポリビニルピロリドン(PVP)及び酸化熱処理を用いて製造したC被覆シリコン粒子>
実施例1からの15.02gのシリコン粉末(D50=4.16μm)及び2.65gのポリビニルピロリドン(PVP、Mw=3600g/mol)をボールミルローラーベッド(Siemens/Groschopp)を用いて80rpmで3時間機械的に混合した。
【0119】
こうして得られた混合物17.27gを石英ガラスボート(QCS GmbH)に入れ、酸化性雰囲気(空気)中でN型試料熱電対を含むカスケード制御システムを用いて、3ゾーン管状炉(TFZ12/65/550/E301、Carbolite GmbH)中で熱処理した。
加熱速度2℃/分、温度250℃、保持時間2時間。
【0120】
室温まで冷却した後、16.95gの灰色の粉末が得られた(収率98%)。
【0121】
得られた生成物(16.04g)を以下の温度プログラムで不活性ガスとしてのアルゴン下で炭化に供した。
加温速度5℃/分、温度1000℃、保持時間3時間、Ar流速200ml/分。
【0122】
室温まで冷却後、14.49gの黒色粉末が得られ(炭化収率90%)、これから湿式篩分けにより過大サイズ粒子を除いた。
【0123】
粒径D99<20μmのC被覆シリコン粒子14.01gを得た。
【0124】
図2に得られたC被覆非強凝集シリコン粒子のSEM画像(7500×倍率)を示す。
【0125】
元素組成:Si≧98重量%、C0.9重量%、H<0.01重量%、N0.1重量%、O0.6重量%。
粒径分布:単峰性、D10:2.23μm、D50:4.79μm、D90:7.13μm、(D90-D10)/D50=1.02。
強凝集度:3.3%。
比表面積(BET):2.72m2/g。
Si不浸透性:約100%(不浸透)。
粉末導電率:12078.19μS/cm。
【0126】
[比較例3(CEx.3)]
<C前駆体としてポリビニルピロリドン(PVP)を用いたが、不活性熱処理を用いて製造したC被覆シリコン粒子>
実施例1からの15.00gのシリコン粉末(D50=4.16μm)及び2.65gのポリビニルピロリドン(PVP、Mw=3600g/mol)をボールミルローラーベッド(Siemens/Groschopp)を用いて80rpmで3時間機械的に混合した。
【0127】
このようにして得られた混合物17.36gを石英ガラスボート(QCS GmbH)に入れ、アルゴンを不活性ガスとして使用し、N型試料熱電対を含むカスケード制御システムを用いて3ゾーン管状炉(TFZ12/65/550/E301、Carbolite GmbH)で熱処理した後、炭化させた。
初期加熱速度2℃/分、温度250℃、保持時間2時間、Ar流速200ml/分、続いて直ちに加熱速度5℃/分、温度1000℃、保持時間3時間、Ar流速200ml/分を続けた。
【0128】
冷却後、14.88gの黒色粉末が得られ(炭化収率86%)、これから湿式篩分けにより過大サイズ粒子を除いた。粒径D99<20μmのC被覆シリコン粒子14.46gを得た。
【0129】
元素組成:Si≧98重量%、C0.7重量%、H<0.01重量%、N0.03重量%、O0.6重量%。
粒径分布:単峰性、D10:2.45μm、D50:4.60μm、D90:7.19μm、(D90-D10)/D50=1.03。
強凝集度:2.8%。
比表面積(BET):2.42m2/g。
Si不浸透性:約100%(不浸透)。
粉末導電率:11298.83μS/cm。
【0130】
[比較例4(CEx.4)]
<C前駆体としてのピッチ及び酸化性熱処理を用いて作製したC被覆シリコン粒子>
実施例1からの47.60gのシリコン粉末(D50=4.16μm)及び0.96gのピッチ(Petromasse ZL250M)をボールミルローラーベッド(Siemens/Groschopp)を用いて80rpmで3時間機械的に混合した。
【0131】
こうして得られた混合物48.40gを石英ガラスボート(QCS GmbH)に入れ、酸化性雰囲気(空気)中でN型試料熱電対を含むカスケード制御システムを用いて、3ゾーン管状炉(TFZ12/65/550/E301、Cabolite GmbH)中で熱処理した。
加熱速度2℃/分、温度350℃、保持時間2時間。
【0132】
室温まで冷却した後、48.00gの灰色の粉末が得られた(収率99%)。
【0133】
得られた生成物(47.50g)を以下の温度プログラムで不活性ガスとしてのアルゴン下で炭化に供した。
加温速度5℃/分、温度1000℃、保持時間3時間、Ar流速200ml/分。
【0134】
室温まで冷却後、46.60gの黒色粉末が得られ(炭化収率98%)、これから湿式篩分けにより過大サイズ粒子を除いた。
【0135】
粒径D99<20μmのC被覆シリコン粒子45.80gを得た。
【0136】
元素組成:Si≧97重量%、C0.9重量%、H<0.01重量%、N<0.01重量%、O0.7重量%。
粒径分布:単峰性、D10:3.51μm、D50:5.43μm、D90:8.57μm、(D90-D10)/D50=0.93。
強凝集度:1.7%。
比表面積(BET):1.4m2/g。
Si不浸透性:約100%(不浸透)。
粉末導電率:21006.14μS/cm。
【0137】
[比較例5(CEx.5)]
<C前駆体としてのポリアクリロニトリル(PAN)及び酸化性熱処理を用いて作製したC被覆シリコン粒子>
実施例1からの54.00gのシリコン粉末(D50=4.16μm)及び10.80gのポリアクリロニトリル(PAN)をボールミルローラーベッド(Siemens/Groschopp)を用いて80rpmで3時間機械的に混合した。
【0138】
こうして得られた混合物64.60gを石英ガラスボート(QCS GmbH)に入れ、酸化性雰囲気(空気)中でN型試料熱電対を含むカスケード制御システムを用いて、3ゾーン管状炉(TFZ12/65/550/E301、Carbolite GmbH)中で熱処理した。
加熱速度2℃/分、温度250℃、保持時間2時間。
【0139】
室温まで冷却した後、63.30gの灰色の粉末が得られた(収率98%)。
【0140】
得られた生成物(63.00g)を以下の温度プログラムで不活性ガスとしてのアルゴン下で炭化に供した。
加温速度5℃/分、温度1000℃、保持時間3時間、Ar流速200ml/分。
【0141】
室温まで冷却後、59.40gの黒色粉末が得られ(炭化収率94%)、これから湿式篩分けにより過大サイズ粒子を除いた。粒径D99<20μmのC被覆シリコン粒子58.04gを得た。
元素組成:Si≧97重量%;C0.8重量%;H<0.01重量%;N0.2重量%;O0.69重量%。
【0142】
粒径分布:単峰性、D10:2.41μm、D50:4.51μm、D90:8.09μm、(D90-D10)/D50=1.26。
強凝集度:2.3%。
比表面積(BET):1.3m2/g。
Si不浸透性:約100%(不浸透)。
粉末導電率:14752.73μS/cm。
【0143】
[実施例6(Ex.6)]
<実施例2からのC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池での電気化学的試験>
ポリアクリル酸29.71g(85℃で恒量まで乾燥、Sigma-Aldrich、Mw約450000g/mol)及び脱イオン水756.60gをシェーカー(290L/分)によりポリアクリル酸が完全に溶解するまで2.5時間撹拌した。水酸化リチウム一水和物(Sigma-Aldrich)を、pHが7.0になるまで少しずつ溶液に加えた(WTW pH 340i pHメーター及びSenTix RJDプローブを用いて測定)。その後、この溶液をさらに4時間シェーカーにより混合した。
【0144】
次に、実施例2からの炭素被覆シリコン粒子7.00gを中和されたポリアクリル酸12.50g溶液及び脱イオン水5.10g中に、20℃で冷却しながら、円周速度4.5m/秒で5分間、12m/秒で30分間、溶解機によって分散させた。2.50gの黒鉛(Imerys、KS6L C)を添加し、次に混合物を円周速度12m/秒でさらに30分間撹拌した。脱気後、ギャップ高さ0.20mmのフィルムアプリケーター(Erichsen、モデル360)によって、厚さ0.03mmの銅箔(Schlenk Metallfolien、SE-Cu58)に分散液を塗布した。こうして作製したアノード皮膜を50℃、1barの大気圧で60分間乾燥させた。
【0145】
乾燥したアノード皮膜の平均基本重量は3.20mg/cm2、皮膜密度は0.9g/cm3であった。
【0146】
2電極配置のボタン電池(CR2032型、Hohsen Corp.)で電気化学的研究を行った。
【0147】
実施例6からの電極皮膜を、対極又は負極(Dm=15mm)として使用した、含有率94.0%、平均基本重量15.9mg/cm2(SEI Corp.から得た)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物6:2:2をベースとする被膜を、作用極又は陽極(Dm=15mm)として使用した。60μlの電解質に浸漬したガラス繊維濾紙(Whatman、GDタイプA/E)をセパレータ(Dm=16mm)とした。使用した電解質は、炭酸フルオロエチレンとジエチルカーボネートとの1:4(v/v)混合物中のヘキサフルオロリン酸リチウムの1.0モル溶液からなっていた。セルをグローブボックス(<1ppm H2O、O2)で組み立て、使用した全ての成分の乾燥物質中の水分含有率は20ppm未満であった。
【0148】
電気化学的試験は20℃で行った。セルを、最初のサイクルでは5mA/g(C/25に相当)、その後のサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流、4.2Vの電圧限界に達すると、電流が1.2mA/g(C/100に相当)又は15mA/g(C/8に相当)を下回るまで、定電圧を用いるcc/cv(定電流/定電圧)法により充電した。セルを、最初のサイクルで5mA/g(C/25に相当)の定電流、その後のサイクルでは3.0Vの電圧限界に達するまで60mA/g(C/2に相当)の定電流を用いるcc(定電流)方法で放電させた。選択した比電流は、陽極の皮膜の重量に基づいていた。
【0149】
この配合物に基づいて、リチウムイオン電池を、アノードの部分的リチウム化によるセルバランシングによって作動させた。
【0150】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0151】
[比較例7(CEx.7)]
<比較例3からのC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池での電気化学的試験>
実施例6で前述したようにリチウムイオン電池を作製し、試験したが、比較例3からの炭素被覆シリコン粒子を用いた点が異なっていた。
【0152】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0153】
[比較例8(CEx.8)]
<比較例4からのC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池での電気化学的試験>
実施例6で前述したようにチウムイオン電池を作製し、試験したが、比較例4からの炭素被覆シリコン粒子を用いた点が異なっていた。
【0154】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0155】
[比較例9(CEx.9)]
<比較例5からのC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池での電気化学的試験>
実施例6で前述したようにリチウムイオン電池を作製し、試験したが、比較例5からの炭素被覆シリコン粒子を用いた点が異なっていた。
【0156】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0157】
【0158】
本発明による実施例6からのリチウムイオン電池は、比較例7、8、及び9からのリチウムイオン電池と比較して、サイクル1後のより高い放電容量と関連して、驚くべきことにより安定した電気化学的挙動を示した。