(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240819BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2023065607
(22)【出願日】2023-04-13
(62)【分割の表示】P 2021205640の分割
【原出願日】2018-02-19
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山本 考史
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-270681(JP,A)
【文献】特開平08-051143(JP,A)
【文献】特開2017-157726(JP,A)
【文献】特開2016-012733(JP,A)
【文献】特開2009-158917(JP,A)
【文献】特開2002-222851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略垂直な略平面状の第1の表面を有し、前記第1の表面に複数の突起が形成されたセラミックス部材を備え、
前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
前記セラミックス部材の前記第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の前記突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含んでおり、
前記第1の表面領域のうち、前記突起が形成されていない非形成部分には、前記突起の前記第1の方向の長さ未満の深さを
有するとともに、前記第1の方向に略垂直な略平面状の底面を有し、かつ、前記略平面状の底面の面積が前記各突起の前記第1の方向に垂直な断面積より大きい凹所が形成されており、
前記第2の表面領域のうち、前記非形成部分には、前記凹所が形成されておらず、
前記セラミックス部材
には、空洞が形成されており、
前記第1の方向視で、前記空洞は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
第1の方向に略垂直な略平面状の第1の表面を有し、前記第1の表面に複数の突起が形成されたセラミックス部材と、前記セラミックス部材の内部において前記第1の方向視で部分的に設けられ、熱伝導率が前記セラミックス部材よりも低い部材とを備え、
前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
前記セラミックス部材の前記第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の前記突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含んでおり、
前記第1の表面領域のうち、前記突起が形成されていない非形成部分には、前記突起の前記第1の方向の長さ未満の深さを
有するとともに、前記第1の方向に略垂直な略平面状の底面を有し、かつ、前記略平面状の底面の面積が前記各突起の前記第1の方向に垂直な断面積より大きい凹所が形成されており、
前記第2の表面領域のうち、前記非形成部分には、前記凹所が形成されておらず、
前記第1の方向視で、熱伝導率が前記セラミックス部材よりも低い前記部材は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
第1の方向に略垂直な略平面状の第1の表面を有し、前記第1の表面に複数の突起が形成されたセラミックス部材を備え、
前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
前記セラミックス部材の前記第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の前記突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含んでおり、
前記第1の表面領域のうち、前記突起が形成されていない非形成部分には、前記突起の前記第1の方向の長さ以上の深さを有し、かつ、前記第1の方向視で非環状であるとともに、前記第1の方向に略垂直な略平面状の底面を有し、かつ、前記略平面状の底面の面積が前記各突起の前記第1の方向に垂直な断面積より大きい凹所が、互いに離間した位置に複数形成されており、
前記第2の表面領域のうち、前記非形成部分には、前記凹所が形成されておらず、
前記セラミックス部材には、空洞が形成されており、
前記第1の方向視で、前記空洞は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
第1の方向に略垂直な略平面状の第1の表面を有し、前記第1の表面に複数の突起が形成されたセラミックス部材と、前記セラミックス部材の内部において前記第1の方向視で部分的に設けられ、熱伝導率が前記セラミックス部材よりも低い部材とを備え、
前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
前記セラミックス部材の前記第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の前記突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含んでおり、
前記第1の表面領域のうち、前記突起が形成されていない非形成部分には、前記突起の前記第1の方向の長さ以上の深さを有し、かつ、前記第1の方向視で非環状であるとともに、前記第1の方向に略垂直な略平面状の底面を有し、かつ、前記略平面状の底面の面積が前記各突起の前記第1の方向に垂直な断面積より大きい凹所が、互いに離間した位置に複数形成されており、
前記第2の表面領域のうち、前記非形成部分には、前記凹所が形成されておらず、
前記第1の方向視で、熱伝導率が前記セラミックス部材よりも低い前記部材は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項
3または請求項4に記載の保持装置であって、
前記凹所は、前記突起の前記第1の方向の長さ以上の深さを有し、かつ、前記第1の方向視で非環状であるとともに前記第1の表面領域内で全周にわたって閉塞している、
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体を製造する際にウェハを保持する保持装置として、静電チャックが用いられる。静電チャックは、所定の方向(以下、「第1の方向」という)に略垂直な略平面状の表面(以下、「吸着面」という)を有するセラミックス部材と、セラミックス部材の内部に設けられたチャック電極とを備えており、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、セラミックス部材の吸着面にウェハを吸着して保持する。このような静電チャックでは、セラミックス部材の吸着面に複数の突起が形成されており、複数の突起によって半導体ウェハが支持される。また、セラミックス部材の吸着面と半導体ウェハとの間に存在するガスを介して、セラミックス部材と半導体ウェハとの間の熱伝達が行われる(下記特許文献1,2参照)。
【0003】
静電チャックの吸着面に保持されたウェハの温度が所望の温度にならないと、ウェハに対する各処理(成膜、エッチング等)の精度が低下するおそれがあるため、静電チャックにはウェハの温度分布を制御する性能が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/156619号
【文献】特開2002-222851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の突起が吸着面に形成されたセラミックス部材を備える静電チャックでは、例えばセラミックス部材の内部構造に起因して高温または低温の温度特異点が存在することがある。そのため、従来の静電チャックでは、セラミックス部材の吸着面の温度分布の制御性(ひいては、ウェハの温度分布の制御性)の点で向上の余地がある。
【0006】
なお、このような課題は、静電引力を利用してウェハを保持する静電チャックに限らず、複数の突起が形成された表面を有するセラミックス部材を備え、セラミックス部材の表面上に対象物を保持する保持装置一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される保持装置は、第1の方向に略垂直な略平面状の第1の表面を有し、前記第1の表面に複数の突起が形成されたセラミックス部材を備え、前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、前記セラミックス部材の前記第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の前記突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含んでおり、前記第1の表面領域のうち、前記突起が形成されていない非形成部分には、前記突起の前記第1の方向の長さ未満の深さを有することと、前記突起の前記第1の方向の長さ以上の深さを有し、かつ、前記第1の方向視で非環状であることとのいずれか一方を満たす凹所と、前記突起の前記第1の方向の長さ未満の突出長さを有し、かつ、前記第1の方向視で非環状の凸所と、の少なくとも一方が形成されており、前記第2の表面領域のうち、前記非形成部分には、前記凹所および前記凸所のいずれも形成されていない。保持装置では、セラミックス部材の第1の表面に形成された複数の突起によって対象物が支持される。また、セラミックス部材の第1の表面と対象物との間に存在するガスを介して、セラミックス部材と対象物との間の熱伝達が行われる。本保持装置では、セラミックス部材の第1の表面は、互いに異なる位置に位置し、かつ、互いに同じ数(2以上)の突起を含む、第1の表面領域と第2の表面領域とを含む。第1の表面領域のうち、突起が形成されていない非形成部分には、凹所と凸所との少なくとも一方が形成されている。凹所は、突起の第1の方向の長さ未満の深さを有することと、突起の第1の方向の長さ以上の深さを有し、かつ、第1の方向視で非環状であることとのいずれか一方を満たす。凸所は、突起の第1の方向の長さ未満の突出長さを有し、凸所の第1の方向視の形状は、非環状である。一方、第2の表面領域のうち、非形成部分には、凹所および凸所のいずれも形成されていない。第1の表面領域に凹所が形成されている場合、凹所の底面と第1の表面に保持される対象物との間の距離は、第2の表面領域の非形成部分と対象物との間の距離に比べて長い。このため、第1の表面領域の凹所から対象物への熱伝達効率は、第2の表面領域から対象物への熱伝達効率に比べて低い。また、第1の表面領域に凸所が形成されている場合、凸所の突出先端と対象物との間の距離は、第2の表面領域の非形成部分と対象物との間の距離に比べて短い。このため、第1の表面領域の凸所から対象物への熱伝達効率は、第2の表面領域から対象物への熱伝達効率に比べて高い。したがって、本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分に凹所および凸所の少なくとも一方が形成されることにより、高温または低温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0010】
(2)上記保持装置において、前記セラミックス部材は、前記第1の方向において前記第1の表面の反対側に配置された第2の表面を有し、前記保持装置は、さらに、第3の表面を有し、前記第3の表面が前記セラミックス部材の前記第2の表面に対向するように配置されたベース部材と、前記セラミックス部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置され、前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備える構成としてもよい。例えばベース部材の構造等に起因して、ベース部材の第3の表面上の特定位置と他の位置との間でセラミックス部材からベース部材への吸熱効果に差が生じ、いわゆる吸熱ムラが発生することがある。このような吸熱ムラがベース部材に生じる場合でも、本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、例えば吸熱効果に差が生じる箇所に対応した位置に凹所および凸所の少なくとも一方が形成されることにより、高温または低温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0011】
(3)上記保持装置において、前記セラミックス部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間には、前記接合部が介在する接合領域と、前記接合部が介在しない非接合領域とが存在しており、前記第1の方向視で、前記非接合領域は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている構成としてもよい。セラミックス部材の第2の表面とベース部材の第3の表面との間において接合部が介在する接合領域と接合部が介在しない非接合領域とでは、セラミックス部材からベース部材への吸熱効果に差が生じ、吸熱ムラが生じることがある。このような吸熱ムラが生じる場合でも、本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、例えば非接合領域に対応した位置に凹所が形成されることにより、非接合領域の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0012】
(4)上記保持装置において、さらに、前記セラミックス部材に設けられた発熱抵抗体を備え、前記発熱抵抗体は、第1の発熱部分と、前記第1の発熱部分より単位発熱量が多い第2の発熱部分と、を有し、前記第1の方向視で、前記発熱抵抗体における前記第2の発熱部分は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている構成としてもよい。本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、相対的に単位発熱量が多い発熱抵抗体における第2の発熱部分に対応した位置に凹所が形成されることにより、第2の発熱部分の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0013】
(5)上記保持装置において、さらに、前記セラミックス部材に設けられた発熱抵抗体を備え、前記発熱抵抗体は、第1の発熱部分と、前記第1の発熱部分より単位発熱量が少ない第3の発熱部分と、を有し、前記第1の方向視で、前記発熱抵抗体における前記第3の発熱部分は、前記第1の表面領域に形成された前記凸所の少なくとも一部と重なっている構成としてもよい。本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、相対的に単位発熱量が少ない発熱抵抗体における第3の発熱部分に対応した位置に凸所が形成されることにより、第3の発熱部分の存在に起因する低温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0014】
(6)上記保持装置において、さらに、前記セラミックス部材には空洞が形成されており、前記第1の方向視で、前記空洞は、前記第1の表面領域に形成された前記凹所の少なくとも一部と重なっている構成としてもよい。本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、セラミックス部材に形成された空洞に対応した位置に凹所が形成されることにより、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【0015】
(7)上記保持装置において、さらに、少なくとも一部が前記セラミックス部材の内部に配置され、気孔率が前記セラミックス部材の気孔率より高い多孔質部を備え、前記第1の方向視で、前記多孔質部は、前記第1の表面領域に形成された前記凸所の少なくとも一部と重なっている、ことを特徴とする構成としてもよい。本保持装置によれば、第1の表面領域の非形成部分において、多孔質部に対応した位置に凸所が形成されることにより、多孔質部の存在に起因する低温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材の第1の表面における温度分布を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態における静電チャック10の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態における静電チャック10のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】第1実施形態における静電チャック10のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図4】第1実施形態における静電チャック10のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図5】静電チャック10の吸着面S1上の構成を概略的に示す説明図である。
【
図6】静電チャック10のXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
【
図7】静電チャック10のXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
【
図8】静電チャック10のXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
【
図9】第2実施形態における静電チャック10aのXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
【
図10】変形例における静電チャック10bのXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施形態:
A-1.静電チャック10の構成:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、第1実施形態における静電チャック10のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、
図3および
図4は、第1実施形態における静電チャック10のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
図2には、
図3のII-IIの位置における静電チャック10のXZ断面構成が示されており、
図3には、
図2のIII-IIIの位置における静電チャック10のXY断面構成が示されており、
図4には、
図2のIV-IVの位置における静電チャック10のXY断面構成が示されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0018】
静電チャック10は、対象物(例えば半導体ウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス部材100およびベース部材200を備える。セラミックス部材100とベース部材200とは、セラミックス部材100の下面S2とベース部材200の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。セラミックス部材100の下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当し、ベース部材200の上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
【0019】
セラミックス部材100は、例えば円形平面の板状部材であり、セラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。セラミックス部材100の直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~450mm程度)であり、セラミックス部材100の厚さは例えば1mm~10mm程度である。
【0020】
セラミックス部材100の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された一対のチャック電極400が設けられている(
図2には一方のチャック電極400のみ図示)。一対のチャック電極400に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によって半導体ウェハWがセラミックス部材100における下面S2とは反対側の表面(以下、「吸着面S1」という)に吸着固定される。セラミックス部材100の吸着面S1は、上述した配列方向(Z軸方向)に略垂直な略平面状の表面である。ただし、本実施形態では、セラミックス部材100の吸着面S1に複数の微小な突起170(
図1および
図2では省略)が形成されている。複数の突起170は、少なくとも一の面方向において互いに等間隔に配置されていることが好ましい。半導体ウェハWが吸着面S1に吸着固定された状態では、複数の突起170の先端が半導体ウェハWに接触するとともに、吸着面S1のうちの突起170が形成されていない非形成部分172と半導体ウェハWの表面との間にわずかな空間が存在する。なお、突起170の先端の形状は、例えば略平坦状でもよいし(後述の
図6等参照)、略凸状でもよい。セラミックス部材100の吸着面S1は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。また、本明細書では、Z軸に垂直な方向(すなわち、吸着面S1に平行な方向)を「面方向」という。
【0021】
ベース部材200は、例えばセラミックス部材100と同径の、または、セラミックス部材100より径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材200の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~470mm)であり、ベース部材200の厚さは例えば20mm~40mm程度である。
【0022】
ベース部材200の内部には冷媒流路210が形成されている(
図2参照)。冷媒流路210に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材200が冷却され、接着層300を介したベース部材200とセラミックス部材100との間の伝熱によりセラミックス部材100が冷却され、セラミックス部材100の吸着面S1に保持された半導体ウェハWが冷却される。これにより、半導体ウェハWの温度制御が実現される。
【0023】
セラミックス部材100とベース部材200とは、セラミックス部材100の下面S2とベース部材200の上面S3との間に配置された接着層300によって互いに接合されている。接着層300は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成されている。接着層300の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。接着層300は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
【0024】
図2および
図4に示すように、セラミックス部材100の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ電極500が設けられている。ヒータ電極500に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ電極500が発熱することによってセラミックス部材100が温められ、セラミックス部材100の吸着面S1に保持された半導体ウェハWが温められる。これにより、半導体ウェハWの温度制御が実現される。ヒータ電極500は、特許請求の範囲における発熱抵抗体に相当する。
【0025】
本実施形態では、セラミックス部材100の吸着面S1の温度制御を精度良く行うため、ヒータ電極500は、第1のヒータ500Lと第2のヒータ500Rとを含んでいる。第1のヒータ500Lと第2のヒータ500Rとは、Z軸方向に略垂直な一の仮想平面(例えば
図4のXY平面)上において互いに独立に配置されている。換言すれば、各ヒータ500L,500Rは、セラミックス部材100の少なくとも一部をZ軸方向に略垂直な方向に並ぶ複数のセグメント(領域)に仮想的に分割したときの各セグメント(領域)内に配置された発熱用抵抗体である。セグメントの設定態様としては、セラミックス部材100の全部または一部を、吸着面S1の中心点を中心とする円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割する態様が用いられる。各ヒータ500L,500Rは、上下方向(Z方向)視で線状のヒータライン部506と、ヒータライン部506の両端に接合された一対のヒータパッド部508とを含む。ヒータライン部506は、吸着面S1の中心点を中心とし、互いに径が異なる円弧部分506Cと、円弧部分506C同士をつなぐ直線部分506Dとを含んでいる。このような構成によれば、各セグメントに配置されたヒータ500L,500Rを個別に制御することにより、セグメント毎に温度制御を行うことができ、その結果、セラミックス部材100の吸着面S1の温度制御を精度良く行うことができる。
【0026】
A-2.ガスを供給するための構成:
また、静電チャック10は、セラミックス部材100と半導体ウェハWとの間の伝熱性を高めて半導体ウェハWの温度分布の均一性をさらに高めるため、セラミックス部材100の吸着面S1と半導体ウェハWの表面との間に存在する空間にガスを供給するための構成を備えている。なお、本実施形態では、このようなガスとして、ヘリウムガス(Heガス)が用いられる。以下、ヘリウムガスを供給するための構成について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0027】
A-2-1.ベース部材200におけるガスを供給するための構成:
図2および
図4に示すように、ベース部材200の下面S4には、図示しないヘリウムガス源と接続されるガス源接続孔221が形成されており、ベース部材200の上面S3には、ガス供給孔222が開口している。ベース部材200の内部には、ガス源接続孔221とガス供給孔222とを連通するガス供給流路220が形成されている。
【0028】
A-2-2.接着層300におけるガスを供給するための構成:
また、
図2に示すように、接着層300には、ベース部材200に形成されたガス供給孔222に連通すると共に、接着層300を厚さ方向(上下方向)に貫通する貫通孔310が形成されている。
【0029】
A-2-3.セラミックス部材100におけるガスを供給するための構成:
また、
図1および
図2に示すように、セラミックス部材100の吸着面S1には、8つのガス噴出孔102が開口している。また、セラミックス部材100の内部には、セラミックス部材100に形成された後述する収容室140の上面144(
図4)と、セラミックス部材100の吸着面S1に開口するガス噴出孔102とを接続するガス噴出流路110が形成されている。
図2および
図3に示すように、ガス噴出流路110は、収容室140の上面144から上方に延びる第1の縦流路111と、第1の縦流路111と連通すると共に面方向に環状に延びる横流路114と、横流路114から上方に延びてガス噴出孔102に連通する第2の縦流路112とから構成されている。
【0030】
なお、本実施形態の静電チャック10では、ヘリウムガスの供給経路が2系統存在する。すなわち、
図3に示すように、セラミックス部材100の内部には2つの横流路114が形成されている。
図2および
図3に示すように、2つの横流路114の内のセラミックス部材100の中心に近い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、
図2に示す収容室140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内のセラミックス部材100の中心に近い4つのガス噴出孔102と連通している。また、2つの横流路114の内のセラミックス部材100の中心から遠い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、図示しない収容室140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内のセラミックス部材100の中心から遠い4つのガス噴出孔102と連通している。なお、後述の充填部材160は、ヘリウムガスの供給経路の2系統のそれぞれに配置されるとしてもよいし、2系統のうちの一方だけに配置されるとしてもよい。
【0031】
また、
図2および
図4に示すように、セラミックス部材100の内部には、収容室140が形成されている。上述したように、収容室140の上面には、ガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)が開口している。一方、収容室140の下端側は、セラミックス部材100の下面S2に開口し、接着層300の貫通孔310に連通している。本実施形態では、収容室140における接着層300側への開口部の面積は、貫通孔310におけるセラミックス部材100側への開口面積より大きい(後述の
図6参照)。また、本実施形態では、収容室140(収容室140の内部空間)の形状は、略円柱状である。このため、収容室140における上面144の面積と、収容室140における下面145の面積と、収容室140における上下方向(Z軸方向)に直交する任意の断面の面積とは略同一である。
【0032】
図2および
図4に示すように、セラミックス部材100に形成された収容室140には、絶縁材料により形成され、かつ、通気性を有する充填部材(「通気性プラグ」とも呼ばれる)160が充填されている。充填部材160は、セラミックス部材100よりも気孔率が高いため、充填部材160の熱伝導率は、比較的緻密なセラミックス部材100の熱伝導率より低い。充填部材160の形成材料としては、例えば、セラミックス多孔質体やグラスファイバー、耐熱性ポリテトラフルオロエチレン樹脂スポンジ等を用いることができる。本実施形態では、充填部材160の形状は、収容室140の形状と同様、略円柱状である。また、充填部材160は、収容室140内にほぼ隙間無く埋設されている。充填部材160は、特許請求の範囲における多孔質部に相当する。
【0033】
このように、収容室140内に絶縁材料により形成された充填部材160が充填されていることにより、収容室140内を経由したセラミックス部材100とベース部材200との間の放電や収容室140内でのヘリウムガスの放電の発生が抑制される。
【0034】
図2および
図3に示すように、図示しないヘリウムガス源から供給されたヘリウムガスが、ガス源接続孔221からベース部材200内部のガス供給流路220内に流入する。ガス供給流路220内に流入したヘリウムガスは、ガス供給流路220からガス供給孔222を経て接着層300の貫通孔310内に流入する。貫通孔310内に流入したヘリウムガスは、セラミックス部材100の収容室140内に充填された充填部材160の内部を通過して、セラミックス部材100の内部のガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111内に流入し、横流路114および第2の縦流路112を経て吸着面S1に形成された各ガス噴出孔102から噴出する。このようにして、吸着面S1と半導体ウェハWの表面との間に存在する空間に、ヘリウムガスが供給される。
【0035】
A-3.セラミックス部材100の吸着面S1における温度分布を制御するための構成:
図5は、静電チャック10の吸着面S1上の構成を概略的に示す説明図である。
図5には、静電チャック10を上方から見た構成が示されるとともに、吸着面S1上における4つの表面領域X1~X4の構成(凹凸状態)が拡大して示されている。4つの表面領域X1~X4は、互いに同数(2以上
図5では4つ)の突起170をそれぞれ含む。
図6から
図8は、静電チャック10のXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
図6には、
図5のVI-VIの位置における孔形成領域X1を含む静電チャック10のXZ断面構成が部分的に示されており、
図7には、
図5のVII-VIIの位置におけるヒータ高温対応領域X3を含む静電チャック10のXZ断面構成が部分的に示されており、
図8には、
図5のVIII-VIIIの位置における経路対応領域X4に対応する部分のXZ断面構成が示されている。
【0036】
A-3-1.吸着面S1上における孔形成領域X1の構成:
図5および
図6に示すように、吸着面S1上における孔形成領域X1は、複数の突起170に加えて、ガス噴出流路110(ガス噴出孔102)の開口部を含む。具体的には、孔形成領域X1のうち、突起170が形成されていない非形成部分172にガス噴出流路110が開口している。また、孔形成領域X1の非形成部分172には、上下方向(Z方向)視でガス噴出孔102を囲む環状の第1の凹所182が形成されている。第1の凹所182は、非形成部分172における第1の凹所182の周囲部分に対してセラミックス部材100の下面S2側に凹んでいる。また、第1の凹所182の周囲部分からの第1の凹所182の上下方向の深さH2は、第1の凹所182の周囲部分からの突起170の長さH1より短い。なお、第1の凹所182の深さH2は、突起170の長さH1の10%以上であることが好ましく、また、突起170の長さH1の90%以下であることが好ましい。また、上下方向視で、第1の凹所182の内周は、全周にわたってガス噴出孔102に隣接している。還元すれば、第1の凹所182とガス噴出孔102との間に突出部は無い。ここで、上述したように、ガス噴出流路110に連通する収容室140内には充填部材160が充填されている。第1の凹所182は、上下方向視で、ガス噴出流路110と充填部材160と接着層300に形成された貫通孔310とに重なっている。また、上下方向視で、第1の凹所182の外周線と充填部材160の外周線とが全周にわたって互いに重なっている。ガス噴出流路110は、特許請求の範囲における空洞に相当する。接着層300における貫通孔310以外の部分は、特許請求の範囲における接合領域に相当し、接着層300における貫通孔310は、特許請求の範囲における非接合領域に相当する。
【0037】
A-3-2.吸着面S1上におけるヒータ高温対応領域X3の構成:
図5および
図7に示すように、吸着面S1上におけるヒータ高温対応領域X3は、複数の突起170を含む。また、ヒータ高温対応領域X3のうち、突起170が形成されていない非形成部分172には、上下方向(Z方向)視で略丸状の第2の凹所184が形成されている。第2の凹所184は、ガス噴出孔102から離れた位置に形成されている。第2の凹所184は、非形成部分172における第2の凹所184の周囲部分に対してセラミックス部材100の下面S2側に凹んでいる。また、第2の凹所184の周囲部分からの第2の凹所184の上下方向の深さH3は、突起170の長さH1より短い。第2の凹所184の深さH3は、突起170の長さH1の10%以上であることが好ましく、また、突起170の長さH1の90%以下であることが好ましい。ここで、
図5に示すように、ヒータライン部506では、円弧部分506Cと直線部分506Dとが折れ線部分506Eを介して繋がっている。第2の凹所184は、上下方向視で、ヒータライン部506の折れ線部分506Eに重なっている。円弧部分506Cおよび直線部分506Dは、特許請求の範囲における第1の発熱部分に相当し、折れ線部分506Eは、特許請求の範囲における第2の発熱部分に相当する。
【0038】
A-3-3.吸着面S1上における経路対応領域X4の構成:
図5および
図8に示すように、吸着面S1上における経路対応領域X4は、複数の突起170を含む。また、経路対応領域X4のうち、突起170が形成されていない非形成部分172には、上下方向(Z方向)視で略矩形状の第3の凹所186が形成されている。第3の凹所186は、ガス噴出孔102から離れた位置に形成されている。第3の凹所186は、非形成部分172における第3の凹所186の周囲部分に対してセラミックス部材100の下面S2側に凹んでいる。また、第3の凹所186の周囲部分からの第3の凹所186の上下方向の深さH4は、突起170の長さH1より短い。第3の凹所186の深さH4は、突起170の長さH1の10%以上であることが好ましく、また、突起170の長さH1の90%以下であることが好ましい。ここで、
図5に示すように、上下方向視で、第3の凹所186の全体は、横流路114に重なっている。横流路114は、特許請求の範囲における空洞に相当する。
【0039】
A-3-4.吸着面S1上における基準領域X2の構成:
図5に示すように、吸着面S1上における基準領域X2は、複数の突起170を含む。また、基準領域X2のうち、突起170が形成されていない非形成部分172は、凹所および凸所のいずれも形成されていない略平坦状である。また、基準領域X2(非形成部分172)は、上記表面領域X1,X3,X4とは異なり、上下方向(Z方向)視で、静電チャック10に形成された空洞(ガス噴出流路110、収容室140、貫通孔310)や、ヒータライン部506の折れ線部分506Eに重なっていない。すなわち、基準領域X2は、上下方向視で、静電チャック10(セラミックス部材100)の内部構造に起因して高温の温度特異点となる部分とは異なる位置に位置する表面領域である。なお、
図5に示す基準領域X2の位置は一例であり、吸着面S1上において、静電チャック10の内部構造(空洞、セラミックス部材100より熱伝達率が低い部材の存在やヒータの高温部分)に起因して高温の温度特異点となる部分とは異なる位置に位置する表面領域は、基準領域X2である。孔形成領域X1、ヒータ高温対応領域X3および経路対応領域X4は、特許請求の範囲における第1の表面領域に相当し、基準領域X2は、特許請求の範囲における第2の表面領域に相当する。なお、第2の表面領域(基準領域X2)は、第1の表面領域と少なくとも1つの突起170を共有する領域であるとしてもよい。
【0040】
なお、上述の各凹所182,184,186は、例えばエンボス加工により突起170が形成された吸着面S1に対して研磨加工を施すことにより形成することができる。
【0041】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態における静電チャック10では、セラミックス部材100の吸着面S1に形成された複数の突起170によって半導体ウェハWが支持される。吸着面S1における非形成部分172と半導体ウェハWの表面との間にわずかな空間が存在し、この空間にガス噴出孔102からガスが供給される。このため、吸着面S1(特に非形成部分172)と半導体ウェハWとの間の熱伝達は、主としてガスを介して行われる。ここで、
図5から
図8に示すように、本実施形態における静電チャック10では、セラミックス部材100の吸着面S1上における第1の表面領域(孔形成領域X1、ヒータ高温対応領域X3、経路対応領域X4)の非形成部分172に、凹所(182,184,186)が形成されている。一方、セラミックス部材100の吸着面S1上における基準領域X2には、凹所が形成されていない。第1の表面領域に形成された凹所の底面と吸着面S1に支持される半導体ウェハWとの間の距離は、第2の表面領域の非形成部分172と半導体ウェハWとの間の距離に比べて長い。このため、第1の表面領域の凹所から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、第2の表面領域から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて低い。したがって、本実施形態における静電チャック10によれば、第1の表面領域の非形成部分172に凹所が形成されることにより、高温の温度特異点の発生を抑制することができ、セラミックス部材100の吸着面S1における温度分布を制御することができる。以下、具体的に説明する。
【0042】
A-4-1.吸着面S1上における孔形成領域X1による効果:
図5および
図6に示すように、静電チャック10における孔形成領域X1の直下には、空洞(ガス噴出流路110、接着層300に形成された貫通孔310、ベース部材200に形成されたガス供給流路220)が存在する。一般に、空洞内に存在する空気の熱伝導率は、セラミックス部材100、ベース部材200や接着層300の形成材料(セラミックスや金属など)の熱伝導率より低い。このため、静電チャック10のうち、上下方向(Z方向)視で空洞と重なる孔形成領域X1の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果は、空洞と重ならない基準領域X2の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果に比べて低い(
図6の白抜き矢印参照)。したがって、孔形成領域X1における空洞の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(空洞)に起因する高温の温度特異点になり易い。また、静電チャック10における孔形成領域X1の直下に、さらに、充填部材160が存在する。上述したように、充填部材160の熱伝達率は、比較的に低く、形成材料等によっては、空洞の熱伝達率より低いことがある。このため、孔形成領域X1の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果は特に低くなり、孔形成領域X1における空洞の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(空洞)に起因する高温の温度特異点になり易い。
【0043】
これに対して、孔形成領域X1における空洞の直上の部分に第1の凹所182が形成されている。第1の凹所182の底面と吸着面S1に支持される半導体ウェハWとの間の距離は、基準領域X2の非形成部分172と半導体ウェハWとの間の距離に比べて長い。このため、孔形成領域X1の第1の凹所182から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、基準領域X2から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて低い(
図6の黒塗り矢印参照)。したがって、セラミックス部材100に形成された空洞に対応した位置に第1の凹所182が形成されることにより、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、例えばセラミックス部材100の吸着面S1における温度分布の均一性を向上させることができる。また、第1の凹所182の深さH2は、突起170の長さH1より短い。このため、第1の凹所182の深さH2が突起170の長さH1以上である場合に比べて、第1の凹所182自体が低温の温度特異点になることが抑制される。なお、第2の凹所184および第3の凹所186も同様である。また、第1の凹所182とガス噴出孔102との間に突出部は無いため、この突出部に起因する高温の温度特異点の発生が抑制される。
【0044】
A-4-2.吸着面S1上におけるヒータ高温対応領域X3による効果:
図5および
図7に示すように、吸着面S1上におけるヒータ高温対応領域X3の直下には、ヒータライン部506の折れ線部分506Eが存在する。この折れ線部分506Eは、ヒータライン部506における折れ線部分506E以外の部分(円弧部分506C、直線部分506D)に比べて、角部に電流が集中することによって高温になる(
図7の白抜き矢印参照)。したがって、ヒータ高温対応領域X3における折れ線部分506Eの直上の部分は、静電チャック10の内部構造(ヒータ電極500)に起因する高温の温度特異点になり易い。
【0045】
これに対して、ヒータ高温対応領域X3における折れ線部分506Eの直上の部分に第2の凹所184が形成されている。第2の凹所184の底面と吸着面S1に支持される半導体ウェハWとの間の距離は、基準領域X2の非形成部分172と半導体ウェハWとの間の距離に比べて長い。このため、ヒータ高温対応領域X3の第2の凹所184から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、基準領域X2から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて低い(
図7の黒塗り矢印参照)。したがって、セラミックス部材100に設けられたヒータ電極500における高温部(折れ線部分506E)に対応した位置に第2の凹所184が形成されることにより、ヒータ電極500における高温部の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、例えばセラミックス部材100の吸着面S1における温度分布の均一性を向上させることができる。
【0046】
A-4-3.吸着面S1上における経路対応領域X4による効果:
図5および
図8に示すように、吸着面S1上における経路対応領域X4の直下には、横流路114が存在する。横流路114も空洞であるため、静電チャック10のうち、上下方向(Z方向)視で横流路114と重なる経路対応領域X4の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果は、横流路114と重ならない基準領域X2の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果に比べて低い(
図8の白抜き矢印参照)。したがって、経路対応領域X4における横流路114の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(横流路114)に起因する高温の温度特異点になり易い。
【0047】
これに対して、経路対応領域X4における横流路114の直上の部分に第3の凹所186が形成されている。第3の凹所186の底面と吸着面S1に支持される半導体ウェハWとの間の距離は、基準領域X2の非形成部分172と半導体ウェハWとの間の距離に比べて長い。このため、経路対応領域X4の第3の凹所186から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、基準領域X2から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて低い(
図8の黒塗り矢印参照)。したがって、セラミックス部材100に形成された空洞(横流路114)に対応した位置に第3の凹所186が形成されることにより、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、例えばセラミックス部材100の吸着面S1における温度分布の均一性を向上させることができる。
【0048】
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態における静電チャック10aのXZ断面構成を部分的に示す説明図である。第2実施形態の静電チャック10aの構成の内、上述した第1実施形態の静電チャック10と同一の構成については、同一符号を付すことによって、その説明を省略する。
【0049】
B-1.吸着面S1上におけるヒータ低温対応領域X5の構成:
図9に示すように、吸着面S1上におけるヒータ低温対応領域X5は、複数の突起170を含む。また、ヒータ低温対応領域X5のうち、突起170が形成されていない非形成部分172には、上下方向(Z方向)視で非環状(例えば略矩形状や略丸状)の凸所190が形成されている。凸所190は、非形成部分172における凸所190の周囲部分に対してセラミックス部材100aの下面S2とは反対側に突出している。また、凸所190の周囲部分からの凸所190の上下方向の突出長さH5は、突起170の長さH1より短い。このため、凸所190の突出長さH5が突起170の長さH1以上である場合に比べて、凸所190自体が高温の温度特異点になることが抑制される。凸所190の突出長さH5は、突起170の長さH1の10%以上であることが好ましく、また、突起170の長さH1の90%以下であることが好ましい。ここで、上下方向視で、凸所190の一部または全体は、ヒータ電極500のヒータパッド部508に重なっている。ヒータ低温対応領域X5は、特許請求の範囲における第1の表面領域に相当する。また、ヒータライン部506は、特許請求の範囲における第1の発熱部分に相当し、ヒータパッド部508は、特許請求の範囲における第3の発熱部分に相当する。
【0050】
なお、凸所190は、例えばエンボス加工により突起170とともに非形成部分172に凸所が形成された吸着面S1に対して研磨加工を施すことにより形成することができる。
【0051】
B-2.吸着面S1上におけるヒータ低温対応領域X5による効果:
図9に示すように、吸着面S1上におけるヒータ低温対応領域X5の直下には、ヒータ電極500のヒータパッド部508が存在する。このヒータパッド部508は、ヒータライン部506に比べて、電気抵抗が低いため、単位発熱量が少ない(
図9の白抜き矢印参照)。単位発熱量は、上下方向視での単位面積当たりの発熱量を意味する。例えばAとBとの単位発熱量の大小を判断するには、AとBとについて、上下方向視で同じ面積の領域における発熱量を比較する。同発熱量は、該領域の抵抗値と、該領域に流れる電流量との乗算によって求めることができる。ただし、上述のヒータライン部506およびヒータパッド部508のように、互いに流れる電流量が略同一である場合には、ヒータパッド部508とヒータライン部506との抵抗値の大小のみによって単位発熱量の大小を判断できる。したがって、ヒータ低温対応領域X5におけるヒータパッド部508の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(ヒータ電極500)に起因する低温の温度特異点になり易い。なお、ヒータパッド部508は、ビア600を介して図示しない給電端子に電気的に接続される。
【0052】
これに対して、ヒータ低温対応領域X5におけるヒータパッド部508の直上の部分に凸所190が形成されている。凸所190の上面と吸着面S1に支持される半導体ウェハWとの間の距離は、基準領域X2の非形成部分172と半導体ウェハWとの間の距離に比べて短い。このため、ヒータ低温対応領域X5の凸所190から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、基準領域X2から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて高い(
図9の黒塗り矢印参照)。したがって、セラミックス部材100に設けられたヒータ電極500における低温部(ヒータパッド部508)に対応した位置に凸所190が形成されることにより、ヒータ電極500における低温部の存在に起因する低温の温度特異点の発生を抑制することができ、例えばセラミックス部材100の吸着面S1における温度分布の均一性を向上させることができる。
【0053】
C.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0054】
上記各実施形態における静電チャック10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、第1実施形態において、吸着面S1上における孔形成領域X1とヒータ高温対応領域X3と経路対応領域X4のうちの1つまたは2つは、基準領域X2と同様、非形成部分172に凹所および凸所のいずれも形成されていない略平坦状であるとしてもよい。また、上記実施形態では、4つの表面領域X1~X4は、互いに4つの突起170をそれぞれ含むとしたが、2つの突起、3つの突起、または、5つ以上の突起を含むとしてもよい。
【0055】
上記第1実施形態において、孔形成領域X1に形成された第1の凹所182は、全周にわたって連続的に繋がった環状に限らず、一部が繋がっていない略環状や略円弧状であるとしてもよい。また、第1の凹所182は、上下方向の深さH2が、突起170の長さH1以上であり、かつ、上下方向視の形状が非環状(例えば、略丸状や略矩形状)であるとしてもよい。また、上記第1実施形態において、第1の凹所182とガス噴出孔102との間に突出部が全周または一部に介在する構成であるとしてもよい。また、上記第1実施形態において、第1の凹所182の一部が、上下方向視で、空洞(ガス噴出流路110、充填部材160、接着層300に形成された貫通孔310)に重なっているとしてもよい。このような構成でも、孔形成領域X1に第1の凹所182が形成されない構成に比べて、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制できる。また、上記第1実施形態において、静電チャック10が、孔形成領域X1の直下に収容室140および充填部材160を備えない構成であるとしてもよい。さらに、静電チャック10が、孔形成領域X1の直下にガス噴出流路110を備えない構成であるとしてもよい。このような構成でも、接着層300に形成された貫通孔310の存在により、孔形成領域X1における貫通孔310の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(貫通孔310)に起因する高温の温度特異点になり易い。このため、孔形成領域X1に形成された第1の凹所182により、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制できる。また、充填部材160の形状は、略円柱状であるとしたが、これに限らず、例えば略円錐状や略角柱状などであるとしてもよい。
【0056】
また、上記第1実施形態において、ヒータ高温対応領域X3に形成された第2の凹所184は、例えば略矩形状であるとしてもよい。また、第2の凹所184は、上下方向の深さH3が、突起170の長さH1以上であり、かつ、上下方向視の形状が非環状(例えば、略丸状や略矩形状)であるとしてもよい。また、上記第1実施形態において、第2の凹所184の全体が、上下方向視で、ヒータライン部506の折れ線部分506Eに重なっているとしてもよい。また、第2の発熱部分は、ヒータライン部506の折れ線部分506Eに限らず、例えばヒータライン部506の円弧部分506Cまたは直線部分506Dにおける高温部分であるとしてもよい。
【0057】
また、上記第1実施形態において、経路対応領域X4に形成された第3の凹所186は、例えば略丸状であるとしてもよいし、横流路114に沿って延びる略円弧状であるとしてもよい。また、第3の凹所186は、上下方向の深さH4が、突起170の長さH1以上であり、かつ、上下方向視の形状が非環状(例えば、略丸状や略矩形状)であるとしてもよい。また、上記第1実施形態において、経路対応領域X4に形成された第3の凹所186は、特に、ガス噴出流路110における第1の縦流路111に重なる位置に形成されていることが好ましい。横流路114のうち、第1の縦流路111が形成された部分が、特に、高温の温度特異点の発生要因になり易いからである。また、上記第1実施形態において、第3の凹所186の一部が、上下方向視で、横流路114に重なっているとしてもよい。このような構成でも、経路対応領域X4に第3の凹所186が形成されない構成に比べて、空洞の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制できる。
【0058】
上記各実施形態において、セラミックス部材100の吸着面S1に凹所と凸所との両方が形成されているとしてもよい。また、セラミックス部材100の吸着面S1に、突起170の第1の方向の長さH1以上の深さを有する窪み部が形成されており、その窪み部の底面に、凸所が形成されている構成でもよい。また、第1の方向視での凹所の面積や凸所の面積は、1つの突起の面積より大きくてもよいし、小さくてもよい。また、空洞は、例えばセラミックス部材の第2の表面に形成された凹部(端子収容孔)などでもよい。
【0059】
図10は、変形例における静電チャック10bのXZ断面構成を部分的に示す説明図である。
図10に示すように、吸着面S1上における低吸熱対応領域X6は、複数の突起170を含む。また、低吸熱対応領域X6のうち、突起170が形成されていない非形成部分172には、上下方向(Z方向)視で略矩形状または略丸状の第4の凹所192が形成されている。第4の凹所192は、ガス噴出孔102から離れた位置に形成されている。第4の凹所192は、非形成部分172における第4の凹所192の周囲部分に対してセラミックス部材100の下面S2側に凹んでいる。また、第4の凹所192の周囲部分からの第4の凹所192の上下方向の深さH6は、突起170の長さH1より短い。第4の凹所192の深さH6は、突起170の長さH1の10%以上であることが好ましく、また、突起170の長さH1の90%以下であることが好ましい。ここで、上下方向視で、第4の凹所192の一部または全体は、ベース部材200のうちの冷媒流路210同士の間の非冷媒流路部分230に重なっている。
【0060】
図10に示すように、吸着面S1上における低吸熱対応領域X6の直下には、非冷媒流路部分230が存在する。非冷媒流路部分230には冷媒が流れないため、静電チャック10のうち、上下方向(Z方向)視で非冷媒流路部分230と重なる低吸熱対応領域X6の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果は、冷媒流路210と重なる基準領域X2の直下の部分におけるセラミックス部材100からベース部材200への吸熱効果に比べて低い(
図10の白抜き矢印参照)。したがって、低吸熱対応領域X6における非冷媒流路部分230の直上の部分は、静電チャック10の内部構造(非冷媒流路部分230)に起因する高温の温度特異点になり易い。
【0061】
これに対して、低吸熱対応領域X6における非冷媒流路部分230の直上の部分に第4の凹所192が形成されている。このため、低吸熱対応領域X6の第4の凹所192から半導体ウェハWへの熱伝達効率は、基準領域X2から半導体ウェハWへの熱伝達効率に比べて低い(
図10の黒塗り矢印参照)。したがって、ベース部材200における非冷媒流路部分230に対応した位置に第4の凹所192が形成されることにより、非冷媒流路部分230の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができ、例えばセラミックス部材100の吸着面S1における温度分布の均一性を向上させることができる。なお、第4の凹所192は、上下方向の深さH6が、突起170の長さH1以上であり、かつ、上下方向視の形状が非環状(例えば、略丸状や略矩形状)であるとしてもよい。
【0062】
また、例えば、上記各実施形態において、上下方向視で、ヒータ電極500が充填部材160を避けるように配置された構成(具体的には、上下方向視で、一対のヒータ同士の距離が充填部材160を挟む部分だけ広くなっている構成)では、セラミックス部材100の吸着面S1における充填部材160の直上の部分が低温の温度特異点になる。このような構成では、吸着面S1における充填部材160の直上の部分に凸所を形成することが好ましい。
【0063】
また、上記各実施形態において、セラミックス部材100の内部に、チャック電極400とヒータ電極500との少なくとも1つの備えないとしてもよい。また、ヒータ電極500は、セラミックス部材100の内部ではなく、セラミックス部材100のベース部材200側(セラミックス部材100と接着層300との間)に配置されるとしてもよい。
【0064】
また、上記各実施形態では、冷媒流路210がベース部材200の内部に形成されるとしているが、冷媒流路210が、ベース部材200の内部ではなく、ベース部材200の表面(例えばベース部材200と接着層300との間)に形成されるとしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態において、セラミックス部材100とベース部材200とが、一体の接着層300ではなく、複数の接合部分によって接合されているとしてもよい。具体的には、セラミックス部材100とベース部材200との間に、セラミックス部材100とベース部材200との対向方向に直交する一の仮想平面上に配置された複数の接合部分が離散的に形成されているとしてもよい。これらの複数の接合部分は、特許請求の範囲における接合部に相当する。また、上記各実施形態では、セラミックス部材100とベース部材200とが、接着層300により接合されるとしているが、セラミックス部材100とベース部材200との接合方法として、他の方法(例えば、ろう付けや機械的接合等)が採用されてもよい。
【0066】
また、上記各実施形態では、セラミックス部材100の内部に一対のチャック電極400が設けられた双極方式が採用されているが、セラミックス部材100の内部に1つのチャック電極400が設けられた単極方式が採用されてもよい。また、上記各実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
【0067】
また、本発明は、静電引力を利用して半導体ウェハWを保持する静電チャック10に限らず、他の保持装置(真空チャックなど)や、ベース部材を備えないヒータ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10,10a,10b:静電チャック 100,100a:セラミックス部材 102:ガス噴出孔 110:ガス噴出流路 111:第1の縦流路 112:第2の縦流路 114:横流路 140:収容室 144:上面 145:下面 160:充填部材 170:突起 172:非形成部分 182:第1の凹所 184:第2の凹所 186:第3の凹所 190:凸所 192:第4の凹所 200:ベース部材 210:冷媒流路 220:ガス供給流路 221:ガス源接続孔 222:ガス供給孔 230:非冷媒流路部分 300:接着層 310:貫通孔 400:チャック電極 500:ヒータ電極 500L:第1のヒータ 500R:第2のヒータ 506:ヒータライン部 506C:円弧部分 506D:直線部分 506E:折れ線部分 508:ヒータパッド部 600:ビア H1:長さ H2,H3,H4,H6:深さ H5:突出長さ S1:吸着面 S2:下面 S3:上面 S4:下面 W:半導体ウェハ X1:孔形成領域 X2:基準領域 X3:ヒータ高温対応領域 X4:経路対応領域 X5:ヒータ低温対応領域 X6:低吸熱対応領域