(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】撥液剤、撥液組成物、硬化樹脂及び物品
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240819BHJP
C08G 18/81 20060101ALI20240819BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240819BHJP
C08F 220/24 20060101ALI20240819BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20240819BHJP
C08F 290/12 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09K3/18 103
C08G18/81 016
C08G18/62 075
C08F220/24
C08F220/28
C08F290/12
(21)【出願番号】P 2023066177
(22)【出願日】2023-04-14
(62)【分割の表示】P 2020094926の分割
【原出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 豊
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-125049(JP,A)
【文献】特開2013-76029(JP,A)
【文献】特許第5997998(JP,B2)
【文献】特開2011-184517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C09K3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有フッ素系ポリマーと少なくとも1種のイソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーを反応させてなるウレタン系反応生成物から構成される撥液剤であって、前記水酸基含有フッ素系ポリマーは、下記(A)~(C)
(A)下記式(A1)で表されるモノマーおよび下記式(A2)で表されるモノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、パーフルオロエーテル部分を含有する(メタ)アクリレート系モノマー
【化1】
(式中、R
1 = H または メチル基を示す。
R
2は炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。
R
3は、Hまたはメチル基を示す。
R
4は、炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。nは、1~10の整数である。)
(B)下記式(B1)で表されるモノマーを含む、少なくとも1種の水酸基含有(メタ)アクリレート系モノマー
【化2】
(式中、R
5は、Hまたはメチル基を示す。R
6は、直鎖又は分岐を有するアルキレン基を示す。mは、1~20の整数を示す。)
(C)少なくとも1種の(メタ)アクリレート系モノマー(但し、(A)、(B)に相当するモノマーを除く)
のモノマーを共重合して得られるものであ
り、
前記モノマー(A)、前記モノマー(B)及び前記モノマー(C)の合計量を100質量%として、
前記モノマー(A)は40~60質量%であり、かつモノマー(A1)とモノマー(A2)の質量比は1:0~1:0.4であり、
前記モノマー(B)は10~40質量%であり、
前記モノマー(C)は10~40質量%である、
撥液剤。
【請求項2】
前記ウレタン系反応生成物が、水酸基含有フッ素系ポリマーの水酸基1当量に対し、イソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーを0.3当量~1.0当量を反応させてなる、請求項1に記載の撥液剤。
【請求項3】
水酸基含有フッ素系ポリマーのフッ素含有率が20~35質量%である、請求項1
又は2に記載の撥液剤。
【請求項4】
溶剤に溶解されてなる、請求項1
~3のいずれか1項に記載の撥液剤。
【請求項5】
UV硬化樹脂に添加して使用される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の撥液剤。
【請求項6】
UV硬化樹脂と請求項1~
5のいずれか1項に記載の撥液剤を含む撥液組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の撥液組成物に紫外線を照射してなる撥液性硬化樹脂。
【請求項8】
請求項
7に記載の撥液性硬化樹脂を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液剤、撥液組成物、硬化樹脂及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ用の画素や配線、カラーフィルタ、バイオチップなどのデバイスを、インクジェットに代表される印刷技術で製造するためには、予め基板をフォトリソグラフィー法によりマイクロメートルスケールで撥液性領域と親液性領域にパターニングすることが求められる。撥液性領域を得るために、例えばUV硬化樹脂組成物、カラーレジストなどに撥液剤が添加される。
【0003】
しかしながら、硬化樹脂組成物、カラーレジストなどに高性能の撥液剤を添加するとカラーレジストに濁りが生じたり、レジスト表面にハジキが生じたりする不具合があった。
【0004】
特許文献1の開示される含フッ素オリゴマーをUV硬化樹脂組成物、カラーレジストなどに添加した場合には、上記の濁りやハジキが生じることはないが、撥液性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面自由エネルギーを安定的に低下させる撥液剤、撥液組成物、硬化樹脂及び物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の撥液剤、撥液組成物、硬化樹脂及び物品を提供する。
項1. 水酸基含有フッ素系ポリマーと少なくとも1種のイソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーを反応させてなるウレタン系反応生成物から構成される撥液剤であって、前記水酸基含有フッ素系ポリマーは、下記(A)~(C)
(A)パーフルオロエーテル部分を含有する少なくとも1種の(メタ)アクリレート系モノマー
(B)少なくとも1種の水酸基含有(メタ)アクリレート系モノマー
(C)少なくとも1種の(メタ)アクリレート系モノマー
のモノマーを共重合して得られるものである、撥液剤。
項2. (A)がパーフルオロエーテル部分を1個 含有する(メタ)アクリレート系モノマーとパーフルオロエーテル部分を複数個含有する(メタ)アクリレート系モノマーとを含む、項1に記載の撥液剤。
項3. パーフルオロエーテル部分を1個 含有する(メタ)アクリレート系モノマーが下記式(A1)で表され、パーフルオロエーテル部分を複数個含有する(メタ)アクリレート系モノマーが下記式(A2)で表される、項2に記載の撥液剤
【化1】
(式中、R
1 = H または メチル基を示す。
R
2は炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。
R
3は、Hまたはメチル基を示す。
R
4は、炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。
nは、1~10の整数である。)
項4. 水酸基含有フッ素系ポリマーのフッ素含有率が20~35質量%である、項1~3のいずれか1項に記載の撥液剤。
項5. 溶剤に溶解されてなる、項1~4のいずれか1項に記載の撥液剤。
項6. UV硬化樹脂に添加して使用される、項1~5のいずれか1項に記載の撥液剤。項7. UV硬化樹脂と項1~5のいずれか1項に記載の撥液剤を含む撥液組成物。
項8. 項7に記載の撥液組成物に紫外線を照射してなる撥液性硬化樹脂。
項9. 項8に記載の撥液性硬化樹脂を含む物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の撥液剤をUV硬化樹脂組成物、カラーレジストなどに添加し、得られた組成物を硬化することで、自由エネルギーが大きく低下した硬化表面を形成することができ、得られた硬化表面の自由エネルギーは、経時変化が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の撥液剤をUV硬化樹脂又はカラーレジストに添加した組成物を基板などに塗布し、硬化させた場合、UV硬化樹脂又はカラーレジストに含まれる硬化成分と本発明の撥液剤が反応して得られる硬化膜などの硬化樹脂に撥液性を付与することができる。
【0010】
・成分(A)
(メタ)アクリレート系モノマーのパーフルオロエーテル部分としては、-O-(パーフルオロアルキル基)、
-O-(パーフルオロアルキレン基)、
(パーフルオロアルキレン基)-O-(パーフルオロアルキル基)、
などが挙げられる。
【0011】
パーフルオロアルキル基としては、具体的には、-CF3、-CF2CF3、
-CF2CF2CF3、-CF(CF3)2、-CF2CF2CF2CF3、
などの直鎖又は分岐を有するC1~C8、好ましくはC1~C4のパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0012】
パーフルオロアルキレン基としては、具体的には、-CF2-、-CF2CF2-、-CF(CF3)-、-CF2CF2CF2-、-CF2CF(CF3)-、-CF(CF3)CF2-、-CF2CF2CF2CF3-、などの直鎖又は分岐を有する2価のC2~C8、好ましくはC2~C4のパーフルオロアルキレン基が挙げられる。
【0013】
パーフルオロエーテル部分を含む(メタ)アクリレート系モノマーは、好ましくは下記式(A1)又は(A2)で表される。
【0014】
【化2】
(式中、R
1 は、Hまたはメチル基を示す。
R
2は炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。
R
3は、Hまたはメチル基を示す。
R
4は、炭素原子数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基(該飽和脂肪族炭化水素基は直鎖型でも分岐型でも良く、所望によりエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、アミド結合(-CONH-または-NHCO-)を有していても良い)を示す。
nは、1~10の整数である。)
nは、好ましくは2~10、より好ましくは3~9、さらに好ましくは4~8、特に好ましくは5~7である。
【0015】
二価の飽和脂肪族炭化水素基としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH(CH3)CH2-、-CH2CH2CH2CH3-などのC1~C10、好ましくはC1~C6、より好ましくはC1~C4の二価の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0016】
また、エーテル結合を有する二価の飽和脂肪族炭化水素基としては、-CH2-O-CH2CH2-、-CH2CH2-O-CH2-、-(CH2CH2-O)l-(lは、1~5の整数)などが挙げられる。エステル結合を有する二価の飽和脂肪族炭化水素基としては、-CH2CH2-COO-、-CH2CH2-OCO-、-CH2CH2CH2-COO-、-CH2CH2CH2-OCO-、-CH2CH2-COO-CH2-、-CH2CH2-OCO-CH2-などが挙げられる。アミド結合を有する二価の飽和脂肪族炭化水素基としては、-CH2CH2-NHCO-、-CH2CH2-CONH-、-CH2-NHCO-CH2-、-CH2-CONH-CH2-などが挙げられる。
【0017】
パーフルオロエーテル部分を含む(メタ)アクリレート系モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
・成分(B)
水酸基含有(メタ)アクリレート系モノマーの水酸基数は1個又は2個、好ましくは1個である。好ましい水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーは下記式(B1)
【0019】
【化3】
(式中、R
5は、Hまたはメチル基を示す。
R
6は、直鎖又は分岐を有するアルキレン基を示す。
mは、1~20の整数を示す。)
で表される化合物が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
直鎖又は分岐を有するアルキレン基としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH(CH3)CH2-、-CH2CH2CH2CH3-などのC1~C4アルキレン基が挙げられる。
【0021】
・成分(C)
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(4-HBMA)、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートが挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
・水酸基含有フッ素系ポリマー
水酸基含有フッ素系ポリマーは、上記成分(A)、成分(B)、成分(C)を共重合させることにより得ることができる。共重合反応は、ラジカル開始剤の存在下に70~90℃で、4~12時間反応させることにより有利に進行する。ラジカル開始剤としては、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましい。本発明の製造方法に用いることのできるラジカル重合開始剤としては、例えばt-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチル-α-クミルパーオキシド、ジ-α-クミルパーオキシド、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-ヘキシン-3アセチルパーオキシド、コハク酸パーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-イソブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル=2,2’-アゾビスイソブチレート、アゾビスイソ酪酸ジメチル(V-601)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]およびその二硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルアミドオキシム)二塩酸塩等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。共重合反応は、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等の連鎖移動剤を使用して分子量を調整してもよい。
【0023】
水酸基含有フッ素系ポリマーを得るために使用される成分(A)、成分(B)、成分(C)の割合は、これらの合計を100質量%として、
成分(A):好ましくは40~70質量%、より好ましくは50~60質量%、
成分(B):好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~30質量%、
成分(C):好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~30質量%、
である。
【0024】
水酸基含有フッ素系ポリマーを得るために用いる成分(A)において、式(A1)で表されるモノマーと式(A2)で表されるモノマーの好ましい質量比は、モノマー(A1):モノマー(A2)=1:0 ~ 1:0.4である。(A1)成分に対して(A2)成分の量が多すぎると、液に濁りが発生して液外観が悪くなる。
【0025】
水酸基含有フッ素系ポリマーのフッ素含有率は、好ましくは15~40質量%、より好ましくは20~35質量%、さらに好ましくは22~32質量%である。フッ素の含有率が多すぎるとUV硬化樹脂と混合し、硬化して得られた硬化樹脂の表面にハジキが生じるため好ましくない。フッ素の含有率が少なすぎると撥液性が低下するため好ましくない。
【0026】
水酸基含有フッ素系ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは3000~50000、より好ましくは10000~20000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレンの分子量に換算した値として算出することができる。
【0027】
・イソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマー
イソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、2-イソシアナト-1-メチルエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナト-1,1-ジメチルエチル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-(2-イソシアナトエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-イソシアナトエトキシ)(メタ)アクリレート等が挙げられ、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが好ましい。イソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
・ウレタン系反応生成物
ウレタン系反応生成物は、水酸基含有フッ素系ポリマーとイソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーを、必要に応じてアミン系触媒の存在下に反応させて得ることができる。アミン系触媒としては、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N'-ジメチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、ビス (ジメチルアミノエチル) エーテルなどが挙げられる。水酸基含有フッ素系ポリマーの水酸基1当量に対し、イソシアネート基含有(メタ)アクリレート系モノマーを0.3~1.0当量使用し、50~80℃で4~8時間反応させることにより、反応は有利に進行する。
【0029】
・撥液剤、撥液組成物、撥液性硬化樹脂、物品
本発明の撥液剤は、ウレタン系反応生成物を含み、さらに溶媒を含む液状の撥液剤が好ましい。溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロパノール、1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メチル-2-プロパノール、ニトロエタン、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコール、3-メトキシブチルアセテート(MBA)、1,3-ブチレングリコールジアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、カルビトールアセテート、乳酸エチル、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、メシチレン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどが挙げられる。
【0030】
本発明の撥液剤は、UV硬化樹脂に添加することで撥液組成物とすることができる。UV硬化樹脂および撥液組成物は液状のものが好ましい。この撥液組成物を硬化することで、硬化樹脂に撥液性を付与することができる。本発明のウレタン系反応生成物は、UV硬化樹脂に添加することでその硬化物に撥液性を付与することができるので、UV硬化樹脂用の撥液性添加剤として有用である。
【0031】
本発明の撥液剤は、撥液性能が持続するものであり、例えば硬化樹脂と混合して撥液組成物を製造し、この撥液組成物を硬化して硬化樹脂(硬化膜)を得たときの硬化樹脂の初期の表面自由エネルギー(SFE0)と3日後の表面エネルギー(SFE3)の変化率の絶対値(式Xで表される)
【0032】
【数1】
が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、特に3%以下であるものである。
【0033】
UV硬化樹脂としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂などが使用できる。1つの好ましい実施形態のUV硬化樹脂は、カラーフィルタ、カラーレジストなどの製造に使用されるものである。カラーレジストは、ブラックマトリクス製造用のレジスト(ブラックレジスト)を包含する。UV硬化樹脂は、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性などの物性を満足させるため、2官能以上の硬化樹脂であってもよい。UV硬化樹脂は、低分子量、非晶性を示すものが、低粘度、液状の撥液組成物を得るために好ましい。
【0034】
本発明の撥液組成物は、全固形分を100質量%として、UV硬化樹脂(固形分)を20~40質量%、撥液剤の固形分を0.05~2.0質量%含むことが好ましく、UV硬化樹脂(固形分)を25~35質量%、撥液剤の固形分を0.2~0.7質量%含むことがより好ましい。
【0035】
本発明の撥液組成物をUV(紫外線)照射により硬化することで撥液性硬化樹脂を得ることができる。硬化は、UV硬化樹脂の硬化条件で実施することができる。好ましい1つの実施形態において、液状の本発明の撥液組成物を基板に塗布し、UV硬化することにより、硬化樹脂としての硬化膜を有する物品を得ることができる。この硬化膜は撥液性表面を有する。基板としては、シリコンウエハ、合成樹脂、ガラス、金属、セラミックなどが挙げられる。 合成樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。ガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。 金属としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、白金等が挙げられる。セラミックとしては、酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、ジルコニア、チタン酸バリウム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素)、硫化物(例えば、硫化カドミウム)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)等が挙げられる。
【0036】
撥液組成物の基板への塗布は、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、フローコート法、バーコート法、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法などが採用でき、基材の種類、形状、生産性、膜厚の制御性などを考慮して選択できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0038】
使用材料
AC-500 :2-Propenoic acid, 2-methyl-, 2-[2,3,3,3-tetrafluoro-2-(1,1,2,2,3,3,3-heptafluoropropoxy)-1-oxopropoxy]ethyl ester
【化4】
【0039】
AC-1000 :Poly[oxy[trifluoro(trifluoromethyl)-1,2-ethanediyl]], α-(1,1,2,2,3,3,3-heptafluoropropyl)-ω-[1,2,2,2-tetrafluoro-1-[[2-[(2-methyl-1-oxo-2-propen-1-yl)oxy]ethoxy]carbonyl]ethoxy]-
【化5】
【0040】
PE-90 :Poly(oxy-1,2-ethanediyl), α-(2-methyl-1-oxo-2-propen-1-yl)-ω-hydroxy-
【化6】
【0041】
4-HBMA :2-Propenoic acid, 2-methyl-, 4-hydroxybutyl ester
【化7】
【0042】
MMA :2-Propenoic acid, 2-methyl-, methyl ester
【化8】
【0043】
PME-200 :Poly(oxy-1,2-ethanediyl), α-(2-methyl-1-oxo-2-propen-1-yl)-ω-methoxy-
【化9】
【0044】
カレンズAOI :2-Isocyanatoethyl acrylate
【化10】
【0045】
フタージェント601ADH2:(株式会社ネオス製)
【0046】
合成例1
冷却管を備えた三つ口フラスコ(500ml)内に、AC-500(50g)、PE-90(20g)、MMA(20g)、酢酸ブチル(200g)、ラウリルメルカプタン(1.48g)、V-601(0.84g)を入れた。反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応溶液を撹拌しながら反応溶液を80℃まで加熱し反応を開始した。その後80℃で撹拌を8時間続行した。反応の終了を1H-NMRの、それぞれのアクリレート特有のピークの消失で確認した。目的の含フッ素オリゴマーが定量的に得られた。PE-90に対して50mol%のカレンズAOI及び1mol%のトリエチルアミンを入れ、50℃で反応溶液の攪拌を8時間続行した。反応の終了をFT-IRを用いて-N=C=O吸収の消失により確認した。目的のウレタン系反応生成物である反応性含フッ素オリゴマー1が定量的に得られた。
【0047】
合成例2~9
合成例1と同様の操作を表1に記載のモノマー重量に変更して反応性含フッ素オリゴマー2~9を合成した。
【0048】
合成例10
フタージェント601ADH2を反応性含フッ素オリゴマー10とした。
【0049】
【0050】
実施例1~5及び比較例1~5
レジスト用コーティング液の有効成分に対して、撥液剤の有効成分濃度が0.5wt%になる様に、合成例1~9で合成した反応性含フッ素オリゴマー1~9を添加した。コーティング液をスピンコートにより、ガラス基材に塗工し加熱乾燥後にUV照射によりコーティング膜を作製し、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
実施例6~10及び比較例6~9
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含んだUV硬化ハードコート液の有効成分に対して、撥液剤の有効成分濃度が0.5wt%になる様に、合成例1~9で合成した反応性含フッ素オリゴマー1~9を添加した。ハードコート液をバーコートにより、PET基材に塗工し加熱乾燥後にUV照射によりコーティング膜を作製し、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0052】
評価
膜外観
各コーティング膜の膜外観を目視で観察し、膜にハジキがないものを〇、外観にハジキ等の異常がある場合は×とした。
【0053】
表面自由エネルギー測定
作成したコーティング膜の接触角を測定し、表面自由エネルギーを算出。計算式は、Kaelble-Uyの式を使用。
初期の表面自由Eが17mN/m以下であれば性能良好。
【0054】
膜性能安定性
作成したコーティング膜を25℃、30%の環境で3日間保管。保管後の接触角を測定し、表面自由Eを算出。
【0055】
初期と保管後の表面自由エネルギーを比較。
3日後の表面自由Eの変化量が1mN/m以下であれば〇。
3日後の表面自由Eの変化量が1mN/m以上であれば×。
【0056】
【0057】
【0058】
表2に示されるように比較例5で使用したフタージェント601ADH2は、初期のSFEが高いだけでなく、初期SFEに対し3日後に10%以上変化しており好ましくないが、本発明の撥液剤は初期のSFEが十分低く、初期SFEに対する3日後にSFEの変化率が5%未満であり、レジスト用コーティング材に撥液性を付与する撥液剤として好ましいことが明らかになった。
【0059】
表3に示されるようにUV硬化ハードコート液の場合では、実施例6から10は膜外観が良好であり、初期SFEも良好である。比較例6から9の場合は膜外観にハジキが発生した。本発明の撥液剤は、UV硬化ハードコート液に撥液性を付与する撥液剤として好ましいことが明らかになった。