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特許7540067電磁波シールドシートの製造方法、および電磁波シールドシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】電磁波シールドシートの製造方法、および電磁波シールドシート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240819BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20240819BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20240819BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240819BHJP
   C09K 23/56 20220101ALI20240819BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C01B32/174
C08L1/26
C08K3/04
C09K23/56
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023207461
(22)【出願日】2023-12-08
(62)【分割の表示】P 2019182392の分割
【原出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2024037824
(43)【公開日】2024-03-19
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】込山 英秋
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】楚山 智彦
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204203(JP,A)
【文献】特開2016-173930(JP,A)
【文献】特開2013-82610(JP,A)
【文献】特開2017-65964(JP,A)
【文献】特開2014-28935(JP,A)
【文献】特開2016-117639(JP,A)
【文献】特開2007-335680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0226650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C01B 32/174
C08L 1/26
C08K 3/04
C09K 23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、水と、を含むカーボンナノチューブ水分散液を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ水分散液を乾燥させる工程と、
を含み、
前記カーボンナノチューブ水分散液を作製する工程では、分散剤として前記カルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い、
前記カーボンナノチューブ水分散液において、前記カーボンナノチューブの質量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの質量の比は、3以下であり、
前記カーボンナノチューブ水分散液における前記カーボンナノチューブの含有量は、1.3質量%以上4.2質量%以下であり、
前記カルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度は、0.7以上1.2以下である、電磁波シールドシートの製造方法。
【請求項2】
前記比は、1以下である、請求項1に記載の電磁波シールドシートの製造方法。
【請求項3】
前記比は、1/6以上である、請求項1または2に記載の電磁波シールドシートの製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ水分散液を作製する工程は、
前記カーボンナノチューブと、前記カルボキシメチルセルロースナトリウムと、前記水と、を混合して混合液を作製する工程と、
水中対向衝突法によって、前記混合液に含まれる前記カーボンナノチューブを分散させる工程と、
を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電磁波シールドシートの製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、から実質的に構成され、
前記カーボンナノチューブの質量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの質量の比は、3以下であり、
同軸管法において、透過損失を測定した場合に、測定周波数300MHzおよび7GHzの透過損失が-30dB以下であり、
厚さが30μm以上160μm以下である、電磁波シールドシート。
【請求項6】
前記比は、1以下である、請求項5に記載の電磁波シールドシート。
【請求項7】
前記比は、1/6以上である、請求項5または6に記載の電磁波シールドシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドシートの製造方法、および電磁波シールドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、一様な平面のグラファイトを筒状に巻いたような構造を有している。カーボンナノチューブの両端は、フラーレンの半球のような構造で閉じられており、必ず5員環を6個ずつ有している。カーボンナノチューブは、このような独特の構造を有するため、様々な特性を有しており、広範な分野において応用が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1では、カルボキシメチルセルロース等からなる多糖類と、アニオン性界面活性剤と、を分散剤として用いたカーボンナノチューブ水分散液から、電磁波をシールドするためのシートを作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-82610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電磁波シールドシートは、電磁波に対するシールド性が高いことが望まれている。
【0006】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、電磁波に対するシールド性が高い電磁波シールドシートの製造方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、電磁波に対するシールド性が高い電磁波シールドシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁波シールドシートの製造方法の一態様は、
カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、水と、を含むカーボンナノチューブ水分散液を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ水分散液を乾燥させる工程と、
を含み、
前記カーボンナノチューブ水分散液を作製する工程では、分散剤として前記カルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い、
前記カーボンナノチューブ水分散液において、前記カーボンナノチューブの質量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの質量の比は、3以下である。
【0008】
前記電磁波シールドシートの製造方法の一態様において、
前記比は、1以下であってもよい。
【0009】
前記電磁波シールドシートの製造方法のいずれかの態様において、
前記比は、1/6以上であってもよい。
【0010】
前記電磁波シールドシートの製造方法のいずれかの態様において、
前記カーボンナノチューブ水分散液を作製する工程は、
前記カーボンナノチューブと、前記カルボキシメチルセルロースナトリウムと、前記水
と、を混合して混合液を作製する工程と、
水中対向衝突法によって、前記混合液に含まれる前記カーボンナノチューブを分散させる工程と、
を含んでもよい。
【0011】
本発明に係る電磁波シールドシートの一態様は、
カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、から実質的に構成され、
前記カーボンナノチューブの質量に対する前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの質量の比は、3以下である。
【0012】
前記電磁波シールドシートの一態様において、
前記比は、1以下であってもよい。
【0013】
前記電磁波シールドシートのいずれかの態様において、
前記比は、1/6以上であってもよい。
【0014】
前記電磁波シールドシートのいずれかの態様において、
厚さが30μm以上160μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電磁波シールドシートの製造方法によれば、電磁波に対するシールド性が高い電磁波シールドシートを製造することができる。また、本発明に係る電磁波シールドシートは、電磁波に対して高いシールド性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るカーボンナノチューブ水分散液の製造方法を説明するためのフローチャート。
図2】カーボンナノチューブ水分散液1~12の分散性の評価結果を示す表。
図3】カーボンナノチューブ水分散液1~12を一晩乾燥させた後の状態を示す写真。
図4】カーボンナノチューブとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの比率を変えたときの電磁波シールド性の評価結果を示す表。
図5】塗工紙における周波数に対するS21を示すグラフ。
図6】塗工紙における周波数に対するS21を示すグラフ。
図7】乾燥フィルムにおける周波数に対するS21を示すグラフ。
図8】乾燥フィルムにおける周波数に対するS21を示すグラフ。
図9】カーボンナノチューブ含有率に対するS21を示すグラフ。
図10】Pass回数を変えたときの電磁波シールド性の評価結果を示す表。
図11】周波数に対するS21を示すグラフ。
図12】周波数に対するS21を示すグラフ。
図13】周波数300MHzにおける厚さに対するS21を示すグラフ。
図14】周波数7GHzにおける厚さに対するS21を示すグラフ。
図15】マイクロストリップライン法による周波数に対するS21を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0018】
1. 電磁波シールドシートの製造方法
まず、本実施形態に係る電磁波シールドシートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る電磁波シールドシートの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0019】
本実施形態に係る電磁波シールドシートの製造方法は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、「CMC」ともいう)と、水と、を含むCNT水分散液を作製するCNT水分散液作製工程を含む。CNT水分散液作製工程は、図1に示すように、CNTと、CMCと、水と、を混合して混合液を作製する混合液作製工程(ステップS1)と、水中対向衝突法によって、混合液に含まれるCNTを分散させるCNT分散工程(ステップS2)と、を含む。さらに、本実施形態に係る電磁波シールドシートの製造方法は、CNT水分散液を乾燥させる乾燥工程(ステップS3)を含む。以下、本実施形態に係る電磁波シールドシートの製造方法の各工程について、順に説明する。
【0020】
1.1. 混合液作製工程(ステップS1)
1.1.1. カーボンナノチューブ(CNT)
混合液作製工程で用いられるCNTとしては、炭素によって作られる1枚の六員環ネットワーク(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれ
た多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube)が挙げられる。混合液作製工程では、SWNTおよびMWNTのうち一方のみを用いてもよいし、両方を用いてもよいが、CNTの分散性を考慮すると、CNTとしてMWNTのみを用いることが好ましい。
【0021】
上記のようなCNTは、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、好ましいサイズに作製される。混合液作
製工程で用いられるCNTは、いずれの方法を用いて作製されたものであってもよい。
【0022】
CNTの直径は、特に限定されないが、好ましくは1nm以上100nm以下であり、より好ましくは5nm以上50nm以下であり、さらにより好ましくは8nm以上15nm以下である。CNTの直径が上記範囲内であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。CNTの直径は、SEM(Scanning Electron Microscope)によって測定することができる。
【0023】
CNTの繊維長は、特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上50μm以下であり、より好ましくは1μm以上5μm以下である。CNTの繊維長が上記範囲内であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。CNTの繊維長は、SEMによって測定することができる。なお、「CNTの繊維長」とは、CNTがファンデルワールス力によって束(バンドル)となっている状態での長さであり、溶媒に分散される前のCNTの長さである。
【0024】
CNTのBET比表面積は、特に限定されないが、好ましくは50m/g以上500m/g以下であり、より好ましくは100m/g以上300m/g以下である。CNTのBET比表面積が上記範囲内であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。なお、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer Emmett Teller)法で測定された比表面積のことであり、自動比表面積測定装置によって測定することができる。
【0025】
混合液において、CNTの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以
上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、さらにより好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。CNTの含有量が0.1質量%以上であれば、電磁波に対してシールド性(電磁波シールド性)の高い電磁波シールドシートを製造することができる。さらに、CNTの含有量が5.0%質量以下であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。
【0026】
1.1.2. カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)
混合液作製工程では、分散剤としてCMCのみを用いる。ここで、「分散剤」とは、CNTを水に分散させて、CNT水分散液の低粘度化、およびCNTの凝集・沈降防止に寄与する添加剤のことをいう。
【0027】
すなわち、混合液作製工程で作製される混合液は、CNT水分散液の低粘度化、CNTの凝集・沈降防止に寄与する添加剤を、CMC以外に含んでいない。分散剤としてCMCのみを用いることにより、例えばCMCの他に分散剤としてアニオン性界面活性剤などを添加する場合に比べて、気泡の混入などを防ぐことができるので、混合液を容易に作製することができる。混合液は、分散剤以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、後述するような増粘剤が挙げられる。
【0028】
CMCの分子量は、特に限定されないが、好ましくは5000以上100000以下であり、より好ましくは10000以上60000以下であり、さらに好ましくは10000以上35000以下である。CMCの分子量が5000以上であれば、CMCがCNTに絡みつきやすく、CNTの分散性が向上する。ただし、分子量が大きすぎると逆に分散性が悪化するので、好ましくは100000以下である。
【0029】
CMCのエーテル化度は、特に限定されないが、好ましくは0.6以上1.2以下であり、より好ましくは0.6以上0.8以下である。CMCのエーテル化度が上記範囲内であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。
【0030】
混合液において、CMCの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、さらにより好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。
【0031】
混合液において、CNTの質量MCNTに対するCMCの質量MCMCの比MCMC/MCNTは、1/7以上であり、好ましくは1/6以上である。比MCMC/MCNTが1/7以上であれば、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる(詳細は後述する「3. 実験例」参照)。
【0032】
混合液において、比MCMC/MCNTは、3以下であり、より好ましくは1以下である。比MCMC/MCNTが3以下であれば、電磁波シールド性の高い電磁波シールドシートを製造することができる(詳細は後述する「3. 実験例」参照)。
【0033】
1.1.3. 水
混合液作製工程では、溶媒として水を用いる。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、および蒸留水等の純水、ならびに超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。溶媒として水を用いることにより、溶媒として有機溶媒を用いる場合に比べて、環境にやさしい混合液を作製することができる。混合液作製工程では、CNT、CMC、および水のみを混合して混合液を作製してもよい。すなわち、混合液は、CNT、CMC、および水のみを含んでいてもよい。
【0034】
1.1.4. 増粘剤
混合液作製工程では、さらに増粘剤を混合して混合液を作製してもよい。すなわち、混合液は、CNTと、CMCと、水と、増粘剤と、を含んでいてもよい。混合液が増粘剤を含むことにより、CNT水分散液の粘度を調整することができる。これにより、電磁波シールドシートを容易に製造することができる。電磁波シールドシートは、例えば、ロールコーターを用い、CNT水分散液をローラーに付着させ、該ローラーによってCNT水分散液を、紙などの基材に転写させる方法により製造される。CNT水分散液の粘度が低いと、CNT水分散液をローラーに付着させることが困難となる。したがって、混合液に増粘剤を添加させることにより、CNT水分散液のローラーに対する付着性を向上させ、電磁波シールドシートを容易に製造することができる。
【0035】
なお、電磁波シールドシートは、ロールコーターに限定されず、例えば、ワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、リバースロールコーター、ダイコーター等を用いて、CNT水分散液を基材に直接塗布する方法によって製造されてもよい。
【0036】
混合液の粘度は、特に限定されないが、20℃において、100mPa・s以上3000mPa・s以下であることが好ましい。混合液の粘度が100mPa・s以上であれば、上記のようにローラーを用いてCNT水分散液を基材に塗工し易い。さらに、混合液の粘度が3000mPa・s以下であれば、後述するように、湿式微粒化装置のノズル孔から混合液を吐出させ易い。CNT水分散液の粘度は、粘度計によって測定することができる。混合液に増粘剤が含まれる場合、増粘剤の質量は、混合液の質量に対して、例えば、0.4%以下であり、好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは100ppm(0.01%)以下である。
【0037】
混合液作製工程で用いられる増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、およびこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸類、およびこれらのアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物;ポリアクリルアミド系共重合体などの水溶性ポリマーが挙げられる。
【0038】
1.1.5. その他の添加剤
混合液作製工程で作製される混合液は、必要に応じて、さらに、保存剤、pH調整剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
1.2. CNT分散工程(ステップS2)
CNT分散工程では、水中対向衝突法によって、混合液に含まれるCNTを分散させる。水中対向衝突法によって混合液に含まれるCNTを分散させることにより、混合液が分散剤としてCMCしか含んでいなくても、分散性良くCNTを分散させることができる。これにより、分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。
【0040】
ここで、「水中対向衝突法」とは、対向配置された一対のノズル孔(第1ノズル孔および第2ノズル孔)からCNTを含む混合液を高圧で吐出させて、第1ノズル孔から吐出された混合液と、第2ノズル孔から吐出された混合液と、を衝突させてCNTを分散させることをいう。好ましくは、水中対向衝突法では、第1ノズル孔から吐出された混合液に含まれるCNTと、第2ノズル孔から吐出された混合液に含まれるCNTと、を衝突させてCNTを分散させる。水中対向衝突法では、第1ノズル孔の中心軸と、第2ノズル孔の中心軸とが、互いに交われば、両中心軸は、一直線上にあってもよいし、互いに傾いていてもよい。
【0041】
CNT分散工程における水中対向衝突法では、好ましくは50μm以上200μm以下、より好ましくは80μm以上120μm以下、さらにより好ましくは100μmの径を有するノズル孔から、混合液を吐出させて、混合液同士を衝突させる。ノズル孔の径が50μm以上であれば、粘度が高い混合液であっても、ノズル孔から吐出させることができる。さらに、ノズル孔の径が200μm以下であれば、混合液に含まれるCNT同士の衝突エネルギーを高くすることができる。
【0042】
CNT分散工程における水中対向衝突法では、好ましくは150MPa以上250MPa以下、より好ましくは180MPa以上220MPa以下、さらにより好ましくは200MPaの圧力で、混合液を吐出させて、混合液同士を衝突させる。圧力が150MPa以上であれば、混合液に含まれるCNT同士の衝突エネルギーを高くすることができる。さらに、圧力が250MPa以下であれば、衝突エネルギーが高すぎてCNTの繊維が切れ、CNT水分散液の粘度が低くなることを抑制することができる。
【0043】
具体的には、CNT分散工程における水中対向衝突法は、株式会社スギノマシン製の湿式微粒化装置「スターバーストラボ」(機種名:HJP-25005)を用いて行われる。当該湿式微粒化装置は、例えば超音波ホモジナイザーやボールミルに比べて、エネルギー密度が高く、短時間で分散性の良いCNT水分散液を作製することができる。さらに、当該湿式微粒化装置は、不純物の混入を極小とすることができ、不純物の混入が極めて少ないCNT水分散液を製造することができる。
【0044】
湿式微粒化装置における混合液のPass回数は、好ましくは1回以上40回以下であり、より好ましくは2回以上10回以下であり、さらにより好ましくは2回または3回である。Pass回数が40回以下であれば、CNT同士の衝突によってCNTの繊維が切れてCNT水分散液の粘度が低くなることを抑制することができる。また、Pass回数が2回以上であれば、CNTを水分散液中に均質に分散させることができる。さらに、Pass回数が2回以上であれば、電磁波に対するシールド性に有意差は確認されない(詳細は後述する「3. 実験例」参照)。したがって、Pass回数が2回以上10回以下であれば、分散性および電磁波シールド性を保ちつつ、湿式微粒化装置による処理時間の短縮化を図ることができる。
【0045】
ここで、「湿式微粒化装置における混合液のPass回数」とは、湿式微粒化装置における混合液の循環回数のことであり、例えば「Pass回数が2回」とは、1度衝突したCNTがもう1度衝突するように、混合液を2回循環させることを意味する。このように、Pass回数は、混合液に含まれるCNTの衝突回数に相当する。さらに、Pass回数は、湿式微粒化装置における処理時間に比例する。湿式微粒化装置における処理時間が長いと、混合液の循環回数が増える。
【0046】
なお、分散性の良いCNT水分散液を作製し、かつ電磁波シールド性の高い電磁波シールドシートを製造することができれば、CNT分散工程における水中対向衝突法で用いられる装置は、上記の湿式微粒化装置「スターバーストラボ」に限定されない。また、分散性の良いCNT水分散液を作製し、かつ電磁波シールド性の高い電磁波シールドシートを製造することができれば、CNT分散工程において水中対向衝突法を用いなくてもよい。
【0047】
CNT分散工程で作製されたCNT水分散液に含まれるCNTの質量とCMCの質量との比は、上述した混合液に含まれるCNTの質量とCMCの質量との比と同じである。
【0048】
なお、CNT分散工程を行う前に、前処理として、ホモジナイザーによって混合液を処理することが好ましい。ホモジナイザーは、超音波でキャビテーションを起こす超音波式
であってもよいし、混合液を攪拌する攪拌式であってもよいし、混合液に圧力をかける圧力式であってもよい。ホモジナイザーによる処理によって、CNTによる凝集物を減らすことができ、CNT分散工程をスムーズに行うことができる。
【0049】
1.3. 乾燥工程(ステップS3)
乾燥工程では、CNT分散工程で作製されたCNT水分散液を乾燥させる。これにより、CNT水分散液の水分を蒸発させて、電磁波シールドシートを製造することができる。CNT水分散液を乾燥させる方法は、特に限定されず、熱プレートやヒーターなどによって乾燥させてもよいし、自然乾燥であってもよい。
【0050】
乾燥工程では、CNT水分散液をシャーレなどに入れた後に、CNT水分散液を乾燥させることにより、電磁波シールドシートを製造してもよい。
【0051】
または、乾燥工程では、CNT水分散液を紙などの基材に塗工し、塗工されたCNT水分散液を乾燥させることにより、電磁波シールドシートを製造してもよい。CNT水分散液の基材への塗工方法は、特に限定されないが、例えば、ワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーコーター、ブレードコーター、リバースロールコーター、ダイコーター等を用いて基材に直接塗工する方法や、CNT水分散液をローラーに付着させ、ローラーに付着されたCNT水分散液を基材に転写させる方法、所謂ロールコーターなどが挙げられる。
【0052】
2. 電磁波シールドシート
次に、本実施形態に係る電磁波シールドシートついて説明する。本実施形態に係る電磁波シールドシートは、上述の「1. 電磁波シールドシートの製造方法」で製造される。
【0053】
本実施形態に係る電磁波シールドシートは、CNTとCMCとから実質的に構成される。ここで、「CNTとCMCとから実質的に構成される」とは、CNTとCMCとから構成される場合(CNTおよびCMCのみから構成される場合)と、CNTとCMCとその他の微量物質とから構成される場合と、を含む。「その他の微量物質」とは、CNTおよびCMC以外の物質であり、当該物質の質量は、電磁波シールドシートの質量に対して、100ppm以下である。「その他の微量物質」は、電磁波シールドシートを製造する際に意図的に添加した添加剤であってもよいし、意図せずに混入した不純物であってもよい。
【0054】
本実施形態に係る電磁波シールドシートに含まれるCNTの質量とCMCの質量との比は、上述した混合液に含まれるCNTの質量とCMCの質量との比と同じである。電磁波シールドシートに含まれるCNTの質量とCMCの質量との比は、質量分析法によって測定することができる。
【0055】
本実施形態に係る電磁波シールドシートは、厚さに対して、厚さ方向と直交する方向の大きさが十分に大きい形状を有している。厚さ方向からみて、電磁波シールドシートの形状は、特に限定されないが、例えば、円、楕円、四角形などの多角形である。
【0056】
本実施形態に係る電磁波シールドシートの厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上500μm以下であり、より好ましくは1μm以上300μm以下であり、さらにより好ましくは30μm以上160μm以下である。電磁波シールドシートの厚さは、SEMによって測定することができる。
【0057】
電磁波シールドシートの厚さが0.1μm以上であれば、電磁波シールドシートの電磁波シールド性を高くすることができる。さらに、電磁波シールドシートの厚さが500μ
m以下であれば、電磁波シールドシートにクラックが生じることを抑制することができる。
【0058】
また、電磁波シールドシートの厚さが30μm以上であれば、電磁波シールドシートの透過損失を-30dB以下にすることができ(詳細は後述する「3. 実験例」参照)、電磁波シールド性を非常に高くすることができる。さらに、電磁波シールドシートの厚さが160μm以下であれば、電磁波シールド性を保ちつつ、CNTの量を減らすことができる。電磁波シールドシートは厚いほど(CNTの量が多いほど)、電磁波シールド性は高くなるが、厚さが160μmを超えてくると、透過損失が飽和する傾向にある(詳細は後述する図13参照)。CNTは、カーボンブラックなどの他の炭素材料に比べて高価であるため、厚さを160μm以下としてCNTの量を減らすことにより、低コスト化を図ることができる。
【0059】
本実施形態に係る電磁波シールドシートは、特に限定されないが、例えば、10MHz以上100GHz以下の周波数に対して高いシールド性を有している。電磁波シールドシートのシールド性は、例えば、同軸管法、自由空間法、マイクロストリップライン法、KEC(関西電子工業振興センター)法などによって評価される。
【0060】
3. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
3.1. CNTの分散性の評価
3.1.1. CNT水分散液の作製
(1)CNT水分散液1~10
CNTと、CMCと、水と、を混合して混合液を作製した。CNTは、KUMHO PETROCHEMICAL社製の「K-Nanos-100P」を用いた。当該CNTは、MWNT、直径8nm~15nm、繊維長3μm(バンドル)、BET比表面積220m/gである。CMCは、第一工業製薬株式会社製の「セロゲン5A」を用いた。当該CMCは、分子量11000~15000、エーテル化度0.7である。混合液のCNT含有量とCMC含有量との合計を、5質量%とした。CNTの質量に対するCMCの質量の比を1/9~9(CNT:CMC=1:9~9:1)と振った。分散剤としてはCMCのみを用いた。また、増粘剤等の添加剤は、添加しなかった。
【0062】
次に、株式会社日本精機製作所製のホモジナイザー「バイオミキサーBM-2」によって、上記混合液を処理した。処理時間を5分とした。
【0063】
次に、上記混合液に対して、水中対向衝突法を行った。水中対向衝突法は、株式会社スギノマシン製の湿式微粒化装置「スターバーストラボ」(機種名:HJP-25005)を用いて行った。混合液が吐出されるノズル孔の径を100μmとし、混合液の吐出圧力を200MPaに設定した。湿式微粒化装置による混合液のPass回数は、2回とした。
【0064】
以上により、CNTとCMCとの比率が異なるCNT水分散液1~10を作製した。以下、「CNT水分散液」を単に「分散液」ともいう。図2は、分散液1~10および後述する分散液11,12の作製条件を示す表である。
【0065】
(2)CNT水分散液11
混合液を作製する際に、CMCを混入しなかったこと以外は、上述した分散液1と同様にして、分散液11を作製した。
【0066】
(3)CNT水分散液12
混合液に対して水中対向衝突法を行わなかったこと以外は、上述した分散液4と同様にして、分散液12を作製した。
【0067】
3.1.2. 評価方法
上記のように作製した分散液1~12を直径8.5cmのシャーレに入れて、50℃で一晩乾燥させて水分を蒸発させた。そして、乾燥物の成膜性を観察することにより、CNTの分散性を評価した。CNTの分散性が良いほど、均一性の良い膜が形成される。具体的な評価基準は、以下のとおりである。
【0068】
A:シャーレ全面にクラックの無い膜が形成された。
B:シャーレ全面に膜が形成されたが、クラックが発生した。
C:膜が形成されなかった。
【0069】
3.1.3. 評価結果
図2に、分散液1~12の分散性の評価結果を示す。また、図3は、分散液1~12をシャーレに入れて50℃で一晩乾燥させた後の状態を示す写真である。
【0070】
図2および図3に示すように、分散液1~8は、分散液9~12に比べて、成膜性が良く、CNTの分散性が良かった。
【0071】
分散液1~7では、成膜性に有意差は、確認されず、クラックの無い膜が形成された。分散液8は、CNTに対するCMCの含有量が少ないために、膜にクラックが発生した。分散液9,10は、CNTに対するCMCの含有量が少なすぎて、膜が形成されなかった。本評価により、CNTの質量に対するCMCの質量の比を1/7以上、好ましくは1/6以上とすることにより、分散性の良いCNT水分散液を作製できることがわかった。
【0072】
分散液11は、混合液にCMCを添加していないので、CNTの分散性が悪く、分散液9,10と同様に膜が形成されなかった。
【0073】
分散液12は、混合液に対して水中対向衝突法を行っていないため、CNTの分散性が悪く、膜が形成されなかった。水中対向衝突法によってCNTを分散させることにより、分散性の良いCNT水分散液を作製できることがわかった。
【0074】
3.2. 電磁波シールド性の評価
3.2.1. 塗工紙および乾燥フィルムの作製
上述した分散液1~10を、ロールコーターによって紙(北越コーポレーション株式会社製の「ミューコートネオス」(登録商標)、坪量157g/m)に塗工させた後、50℃で一晩乾燥させて水分を蒸発させ、塗工紙を作製した。すなわち、「塗工紙」は、紙に、CNTを含むCNT含有シートが塗工されたものである。
【0075】
さらに、分散液1~8を、上述した「3.1.2. 評価方法」と同様に、乾燥させて、乾燥フィルムを作製した。すなわち、「乾燥フィルム」は、CNT含有シートであり、紙などの基材に塗工されていない状態のものである。なお、分散液9,10については、上記のように膜が形成されなかったため、乾燥フィルムを作製することができなかった。
【0076】
3.2.2. 評価方法
同軸管法において、「S21」を測定することにより、電磁波シールド性を評価した。った。「S21」は透過損失に相当し、「S21」の絶対値が大きいほど、電磁波シール
ド性が高い。試験機としては、ROHDE&SCHWARZ社製のネットワークアナライザー「ZVA67」、およびKEYCOM社製のシールド効果測定キット「S-39D」を用いた。測定周波数を、45MHz~3GHzと、500MHz~18GHzと、で分けて行った。
【0077】
3.2.3. 評価結果
(1)CNTとCMCとの比率を変えたときの評価結果
上記のように作製した塗工紙および乾燥フィルムの電磁波シールド性を評価した。図4は、塗工紙および乾燥フィルムの電磁波シールド性の評価結果を示す表である。図5図8は、周波数に対する「S21」を示すグラフであり、図4に示す「S21」は、図5図8から300MHzおよび7GHzの値を抜き出したものである。図9は、図4に示す「CNT含有率」に対して「S21」をプロットしたグラフである。
【0078】
なお、図5および図6は、塗工紙の「S21」を示すグラフであって、図5の測定周波数は45MHz~3GHzであり、図6の測定周波数は500MHz~18GHzである。図7および図8は、乾燥フィルムの「S21」を示すグラフであって、図7の測定周波数は45MHz~3GHzであり、図8の測定周波数は500MHz~18GHzである。
【0079】
また、図4に「CNT含有率」を示した。「CNT含有率」は、CNTの質量とCMCの質量との合計を100質量%としたときのCNTの含有割合(質量%)である。
【0080】
また、図4に塗工紙および乾燥フィルムの厚さを示した。塗工紙および乾燥フィルムの厚さは、SEMによって測定した。なお、図4において、塗工紙の厚さは、CNT含有シートのみの厚さ(紙を含まない厚さ)を示している。このことは、後述する図10,13,14において、同様である。
【0081】
図4図9に示すように、分散液1~4から作製された塗工紙および乾燥フィルム(以下、「塗工紙」等ともいう)では、CNTの含有量が多くなるほど、「S21」の絶対値は大きくなった。分散液4~7から作製された塗工紙等では、「S21」は、おおむね横ばいであった。CNT水分散液8~10から作製された塗工紙等は、分散液4~7から作製された塗工紙等に比べて、「S21」の絶対値は小さかった。これは、分散液8~10は、上記のように、分散性が悪いので、電磁波シールド性が低くなったためと考えられる。
【0082】
本評価より、CNTの質量に対するCMCの質量の比を1/6以上3以下(CNT:CMC=1:3~6:1)、好ましくは1/6以上1以下(CNT:CMC=1:1~6:1)とすることにより、電磁波シールド性を高くできることがわかった。
【0083】
なお、塗工紙と乾燥フィルムとでは、乾燥フィルムの方が厚いため、電磁波シールド性が高くなった。
【0084】
(2)Pass回数を変えたときの評価結果
上述した分散液4(CNT:CMC=1:1)について、湿式微粒化装置による混合液の処理時間を変えることにより、Pass回数を変え、上述した「(1)CNTとCMCとの比率を変えたときの評価」と同様に、塗工紙を作製した。そして、塗工紙の電磁波シールド性を評価した。なお、湿式微粒化装置による混合液の処理時間0.5分が、Pass回数1回に相当するように混合液の量を調整した。さらに、上述した分散液12(湿式微粒化装置による処理を行っていない分散液)から塗工紙を作製し、同様に評価した。塗工紙は、乾燥フィルムに比べて、CNT含有シートを薄くできるため、分散性の悪い分散
液12でも、評価することができた。
【0085】
図10は、Pass回数を変えたときの電磁波シールド性の評価結果を示す表である。図11および図12は、周波数に対する「S21」を示すグラフであり、図10に示す「S21」は、図11および図12からそれぞれ300MHzおよび7GHzの値を抜き出したものである。図11の測定周波数は45MHz~3GHzであり、図12の測定周波数は500MHz~18GHzである。
【0086】
図10図12に示すように、湿式微粒化装置による処理を起こった塗工紙は、処理を行っていない塗工紙に比べて、電磁波シールド性が高かった。未処理の塗工紙は、図10に示すように、厚さが大きいにもかかわらず、電磁波シールド性が低かった。
【0087】
本評価により、湿式微粒化装置による処理、すなわち、水中対向衝突法を行うことにより、シールド性を高くできることがわかった。なお、湿式微粒化装置による処理を行った塗工紙については、電磁波シールド性に有意差は確認されなかった。
【0088】
(3)厚さを変えたときの評価結果
上述した分散液4(CNT:CMC=1:1)について、上述した「(1)CNTとCMCとの比率を変えたときの評価」と同様に、塗工紙および乾燥フィルムを作製した。CNTおよびCMCの量を変えることにより、塗工紙および乾燥フィルムの厚さを変えた。そして、塗工紙および乾燥フィルムの電磁波シールド性を評価した。
【0089】
図13および図14は、厚さに対する「S21」を示すグラフある。図13の測定周波数は300MHzであり、図14の測定周波数は7GHzである。なお、図13および図14において、厚さ3.6μm以下は、塗工紙のCNT含有シートの厚さ(すなわち全体の厚さから紙の厚さを差し引いた厚さ)をプロットしており、厚さ24μm以上は、乾燥フィルムの厚さをプロットしている。
【0090】
図13および図14に示すように、厚さが大きくなるほど、電磁波シールド性が高くなることがわかった。図13に示すように、特に測定周波数300MHzにおいて、厚さ160μm以上では、電磁波シールド性が飽和する傾向にあることがわかった。本評価により、厚さを30μm以上160μm以下とすることにより、透過損失を-30dB以下に保ちつつ、CNTの量を減らせることがわかった。
【0091】
(4)マイクロストリップライン法による評価結果
以上の電磁波シールド性の評価は同軸管法で行ったが、本評価ではマイクロストリップライン法によって評価を行った。上述した「(3)厚さを変えたときの評価」と同様に、分散液4から塗工紙(CNT含有層の厚さ0.34μmおよび4.5μm)を作製した。そして、塗工紙の電磁波シールド性を評価した。さらに、参考例として、CNTを含まない紙(北越コーポレーション株式会社製の「ミューコートネオス」、坪量157g/m)、およびアルミ箔(厚さ6.5μm)の電磁波シールド性を評価した。
【0092】
試験機としては、Agilent Technologies社製のネットワークアナライザー「8720ES」、およびKEYCOM社製のテストフイクスチャ「TF-18C」を用いた。測定周波数は、50MHz~20GHzとした。
【0093】
図15は、マイクロストリップライン法による電磁波シールド性の評価結果を示すグラフである。なお、図15の縦軸の「Rtp」は、伝送減衰率を示しており、絶対値が大きいほど、電磁波シールド性が高い。
【0094】
図15に示すように、CNTを含む塗工紙は、紙およびアルミ箔よりも、電磁波シールド性が高いことがわかった。本評価により、マイクロストリップライン法によっても、CNTを含む塗工紙の電磁波シールド性を確認することができた。
【0095】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15