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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】多結晶シリコン顆粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/03 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
C01B33/03
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023503115
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2020070298
(87)【国際公開番号】W WO2022012755
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴッタンカ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘルライン,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ケーニンガー,ベネディクト
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-146412(JP,A)
【文献】特表2016-522778(JP,A)
【文献】特開2013-224254(JP,A)
【文献】特開平02-021938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応器において多結晶シリコン顆粒を製造する方法であって、流動床領域において、連続的に供給されるシード粒子がガス流によって流動床内で流動化され、流動床領域は加熱装置によって加熱され、水素及びシラン及び/又はハロシランを含む供給ガス流の供給は元素状シリコンをシード粒子上に堆積させて多結晶シリコン顆粒を形成し、連続プロセスにおいてシリコン顆粒は流動床反応器から生成物流として排出され、応答変数として流動床温度TWSは平衡領域I及び/又は平衡領域IIの物質及びエネルギー収支によって、流動床領域からのオフガス流
【数1】
の温度Toffgas,WSとして決定され、平衡領域Iは、以下、すなわち、
- 供給流ガス流
【数2】
のエンタルピー、
【数3】
- 流動床領域へのシード粒子流
【数4】
のエンタルピー、
【数5】
- 生成物流
【数6】
のエンタルピー、
【数7】
- 流動床からのオフガス質量流量
【数8】
のエンタルピー、
【数9】
- 反応エンタルピーΔ23
- 加熱装置の加熱出力Q20
- 流動床領域における反応器からのエネルギー除去Q24
から構成され、及び
平衡領域Iに対するオフガス流のエンタルピー
【数10】
は式(10)で与えられ、
【数11】
平衡領域IIは、以下、すなわち、
- 流動床領域へのシード粒子流
【数12】
のエンタルピー、
【数13】
- 反応器へのシード粒子流
【数14】
のエンタルピー、
【数15】
- 流動床領域からのオフガス質量流量
【数16】
のエンタルピー、
【数17】
- 反応器からのオフガス流
【数18】
のエンタルピー、
【数19】
- 流動床より上の領域の反応器からのエネルギー除去Q25
から構成され、及び
平衡領域IIに対するオフガス流のエンタルピー
【数20】
は式(11)で与えられ、
【数21】
式中、
流動床の温度TWSは以下の式により与えられ、
【数22】
式中、
【数23】
=オフガス質量流量、
p,22=オフガス流の熱容量であり、
応答変数TWSは700℃~1200℃の範囲であり、TWSにより、少なくとも加熱出力Q20は、Q20が流動床中のシリコン1キログラム当たり0.5~3kWの範囲になるように制御される操作変数である、方法。
【請求項2】
流動床中のシリコン1キログラム当たりの加熱出力Q20が、1~2kW、好ましくは1.3~1.6kWの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
操作変数として、u/umfが1~6の範囲にあるように、最小流動化速度umfに対する表面ガス速度uの比として、流動床における流動化が制御され、uが式(14)によって与えられ、
【数24】
式中、
【数25】
=流動床中のガスの平均モル質量[kg/mol]、
【数26】
=流動床からのオフガスの物質流量[mol/秒]、
A=流動床の断面積[m
ρGas=流動床中のガスの密度[kg/m]であり、
及びumfは式(15)で与えられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【数27】
式中、
ψ=固定床空隙率
ν=流動床中のガスの粘度[m/秒]
=流動床中の粒子のザウター径[m]
Ψmf=初期流動化空隙孔率
ρparticle=流動床中の粒子の密度[kg/m
g=9.81m/s
【請求項4】
u/umfが2~5、好ましくは3~4の範囲にあることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
比u/umfがプロセス中一定に保たれることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
ρparticleが、2.250~2.330g/cm、好ましくは2.280~2.330g/cm、特に好ましくは2.320~2.330g/cmの範囲にあることを特徴とする、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項7】
ρgasが、0.5~2kg/m、好ましくは0.7~1.2kg/mの範囲にあることを特徴とする、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ψが、0.3~0.36の範囲内、好ましくは0.33であることを特徴とする、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Ψmfが、0.33~0.4の範囲、好ましくは0.37であることを特徴とする、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
が、150~10000μm、好ましくは500~5000μm、特に好ましくは850~2000μmの範囲にあることを特徴とする、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
操作変数として、流動床中のシリコン1kg当たりのシード粒子のシード導入量が、0.01~0.05、好ましくは0.02~0.03の範囲内にあるように制御されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
流動床の温度TWSが、800℃~1150℃、好ましくは850℃~1100℃の範囲にあることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
シリコン顆粒が、10~70ppmw、好ましくは15~40ppmwの塩素含有率を有することを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
オフガス流22の組成が、ガスクロマトグラフで決定されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床反応器において多結晶シリコン顆粒を製造するための方法であって、流動床温度TWSは、応答変数として、平衡領域I及び/又は平衡領域IIの物質及びエネルギー収支によって、流動床領域からのオフガス流
【0002】
【数1】
の温度Toffgas,WSとして決定される方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多結晶シリコン顆粒(以下、顆粒と称する)は、流動床反応器(移動床反応器としても知られる)で製造される。これは、流動床内のガス流によってシリコンシード粒子を流動させることによって行われ、該流動床は加熱装置によって高温に加熱される。シリコン含有反応ガスを加えると、高温の粒子表面で堆積反応が起こり、シード粒子上に元素状シリコンが堆積する。これにより、シード粒子の直径が大きくなる。直径が大きくなった粒子を定期的に取り出し、さらなるシード粒子を加えることで、このプロセスを連続的に操作することができる。採用可能なシリコン含有反応ガスには、例えば、ハロゲン化合物(例えば、クロロシラン又はブロモシラン)、モノシラン(SiH)及びこれらのガスと水素との混合物が挙げられる。元素シリコンの堆積は、変換されていない反応ガス及びガス状の副生成物、特にハロシランから構成されるオフガスを発生させる。
【0004】
これらを行うための堆積プロセス及び装置はよく知られている。ここでは、例えば、EP1990314A2及びEP2662334A1を参照することができる。
【0005】
流動床内の温度(流動床温度)は、一般に、必須の生成物及びプロセスパラメータを規定する。流動床温度の正確な調整は、最適な生成物品質及び経済的なプロセス管理のために不可欠である。
【0006】
さらに、理想的には一定の低い塩素含有率は、通常、その後の用途における顆粒の性能にとって非常に重要である。性能は、例えば、単結晶の引き上げ時の飛び散りの影響を最小限に抑えるか回避できる場合に良好である。塩素は原則として顆粒製造における主要不純物である。顆粒において設定された塩素含有率は、流動床反応器のプロセス条件、特に流動床温度に依存する。
【0007】
流動床温度はダスト生成、比エネルギー消費及び反応器運転時間にも影響を及ぼし、正確で理想的には瞬間的な温度制御が求められる。
【0008】
しかし、例えば、熱電対による流動床温度の直接的な測定は、熱電対の存在が一般にこのプロセス及び/又は生成物品質に負の影響を及ぼすため、不利である。シリコンが熱電対上に連続的に堆積する可能性があり、そのためプロセスの運転時間を制限する。また、熱電対表面で物理的及び化学的プロセスによっても生成物が汚染される可能性がある。例えば、EP2514521A1には、反応空間に配置されたカプセル化高温計又は熱電対を有する流動床反応器が記載されている。
【0009】
EP2653446A2には、顆粒製造のための方法が記載されており、ここでは、応答変数として、オフガス中のHClの濃度が測定され、操作変数として、新鮮なシード粒子の導入速度及び加熱装置の出力が制御される。ここでも、温度は高温計で決定する場合がある。
【0010】
高温計による流動床温度の測定は、ビーム経路がダスト形成のために乱されるので、一般に問題がある。これにより、正確な温度依存性反応器制御が不可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許出願公開第1990314号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2662334号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2514521号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2653446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、その目的として、流動床温度を乱されずに決定することを可能にする方法を提供することを有していた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、流動床反応器で顆粒を製造する方法によって達成され、流動床領域において、連続的に供給されるシード粒子は、ガス流によって流動床内で流動化され、流動床領域は、加熱装置によって反応器壁を介して加熱され、水素及びシラン及び/又はハロシランを含む供給ガス流の供給は、元素状シリコンをシード粒子上に堆積させて顆粒を形成し、連続プロセスにおいて顆粒は流動床反応器から生成物流として排出され、応答変数として、流動床温度TWSは、平衡領域I及び/又は平衡領域IIの物質及びエネルギー収支によって、流動床領域からのオフガス流
【0014】
【数2】
の温度Toffgas,WSとして決定される。
【0015】
平衡領域Iは、以下から形成される。
- 供給流ガス流
【0016】
【数3】
のエンタルピー、
【0017】
【数4】
- 流動床領域へのシード粒子流
【0018】
【数5】
のエンタルピー、
【0019】
【数6】
- 生成物流
【0020】
【数7】
のエンタルピー、
【0021】
【数8】
- 流動床からのオフガス質量流量
【0022】
【数9】
のエンタルピー、
【0023】
【数10】
- 反応エンタルピーΔ23
- 加熱装置の加熱出力Q20
- 流動床領域における反応器からのエネルギー除去Q24
【0024】
平衡領域Iに対するオフガス流のエンタルピー
【0025】
【数11】
は式(10)で与えられる。
【0026】
【数12】
【0027】
平衡領域IIは、以下から形成される。
- 流動床領域へのシード粒子流
【0028】
【数13】
のエンタルピー、
【0029】
【数14】
- 反応器へのシード粒子流
【0030】
【数15】
のエンタルピー、
【0031】
【数16】
- 流動床領域からのオフガス質量流量
【0032】
【数17】
のエンタルピー、
【0033】
【数18】
- 反応器からのオフガス流
【0034】
【数19】
のエンタルピー、
【0035】
【数20】
- 流動床より上の領域の反応器からのエネルギー除去Q25
【0036】
平衡領域IIに対するオフガス流のエンタルピー
【0037】
【数21】
は式(11)で与えられる。
【0038】
【数22】
【0039】
流動床温度TWSは式(12)で与えられる。
【0040】
【数23】
p,22は、オフガス流の熱容量である。
【0041】
このようにして決定された応答変数TWSにより、少なくとも加熱出力Q20は、Q20が流動床中のシリコン1キログラム当たり0.5~3kW、好ましくは1~2kW、特に好ましくは1.3~1.6kWの範囲になるように制御される操作変数である。一般に、目標温度TWSを下回ると、加熱出力を増加させ、目標温度TWSを上回ると、加熱出力を減少させる。
【0042】
制御の目的は、特に塩素含有率に関して一定の生成物品質を保証する経済的に最適なプロセスの管理である。反応器は、攪乱変数(例えば、粒径の変動による流動床の異なる流動化)及びTWSによって影響を受ける可能性があり、このため生成物中の塩素含有率は変動し得る。
【0043】
制御のための一次操作変数は、エネルギー収支(一次制御)に従う流動床からの計算されたオフガス温度に対応するTWSである。偏差の場合は、制御は操作変数の変更によって行われる。Q20は操作変数として働く。TWSの目標値が達成されない場合は、Q20を増加させ、TWSを超えた場合は、Q20を減少させる。
【0044】
平衡領域I及びIIの解明のために、図1は、最初に流動床反応器200の一般構成を示す。これは、任意に分割することができる反応器管2を内部に有する反応器容器1を備える。反応器管2は、反応器上部13と反応器底部15との間に固定される。反応器容器2の内壁4と反応器管2の外壁3との間には、空間5がある。これは典型的には断熱材を含み、不活性ガスで満たされることができる。空間5内の圧力は、典型的には、反応器管2内よりも高い。反応器内部は、操作中に流動床を含む流動床領域6と、流動床領域6の上方にある領域28とを含む。流動床領域6は、加熱装置7によって加熱される。領域28では、非加熱膨張区域があり、その断面積は流動床領域6と比較して拡大され、粒子の排出を防止する。導管8及びノズル9は、反応器管2に流動化ガスを供給する。導管10及びノズル11は、水素及びシラン及び/又はハロシランを含む反応ガス混合物(供給ガス流)を供給する。反応ガス混合物を供給するためのノズル11の高さは、流動化ガスを供給するためのノズル9の高さとは異なってもよい。装置12は、反応器上部13でシード粒子を反応器管2に供給する。完成した顆粒は、反応器底部15で生成物取出導管14を介して取り出される。さらに、反応器上部13において、オフガスは、オフガス取出導管26を介して除去される。ガスクロマトグラフのための試料流は、典型的には、オフガス取出導管26内に取り出される。
【0045】
反応器は以下のように操作される。反応器に供給ガスを供給する。シリコン顆粒の形態の出発物質を反応器に仕込み、流動化させる。加熱段階では、流動床への加熱出力を増加させる。目標値TWSが達成され、反応器が定常状態になるまで、エネルギー増加を行う。この状態では、反応器は最適な生成物品質を提供し、同時に、反応器が長い運転時間で制御された生産を達成することを確実にする。安定した生成物品質は、生成物中の塩素含有率が望ましい範囲にあることを特徴とする。応答変数TWSが閾値を超えた場合、反応器は、例えば、壁における顆粒粒子の焼結の結果として、早期の停止状態を被る可能性がある。TWSが閾値を下回ると、生成物中の塩素含有率が望ましくないほど高くなる可能性がある。
【0046】
流動床での流動化は、少ないダスト形成と結びついた長期運転時間による効率的なプロセス管理を達成する目的で制御される。流動化は、流動床内のガス速度uと最小流動化速度umfとの比によって決定され、圧力及びTWS、流動床内の粒子のザウター直径d、供給ガスの量及び組成、並びに初期流動化空隙率Ψmfの関数として計算することができる。ガス速度がumfに比べて低すぎる場合、流動床は不十分に流動化され、局所的なホットスポットが形成され得、そのため、流動床内で焼結が発生する可能性がある。ガス速度がumfに比べて高すぎる場合、流動床中の気泡のサイズが増加し、プロセス中のダスト形成速度が高くなる。最適なプロセス管理のために、流動床へのシード粒径子の導入により、ガス量及び流動床内の粒径dを変化させることによって、比u/umfが一定に保たれる。
【0047】
反応器のエネルギー及び物質収支により流動床温度TWSが計算される。
【0048】
図2は、図1の反応器を参考に、平衡領域I及びIIの基礎となる物質収支の平衡領域(破線長方形)を示す。明確にするために、導管8及びノズル9は省略した。反応器要素の指定の更新も行われていない。以下の物質流量は均衡している。
- 供給気流16:
【0049】
【数24】
- 反応器へのシード粒子流17:
【0050】
【数25】
- 生成物流18:
【0051】
【数26】
- 反応器からのオフガス流19:
【0052】
【数27】
【0053】
供給ガス、シード粒子及び生成物(顆粒)の物質流量は測定可能であり(質量流量計など)、したがって知られている。反応器からのオフガス流の組成(シラン/クロロシランの物質留分量)は、ガスクロマトグラフを使用して測定することができる。測定の結果は、オフガス中の総クロロシランの物質流量に基づくクロロシランの物質留分量y である[mol/molchlorsilane]。分析について、以下に詳しく述べる。
【0054】
生成物流及びオフガス流中の物質流量は、主要成分及び主要反応により計算される。三つの元素Si、Cl及びHは均衡している。供給ガスがHだけでなく、SiCl、SiHCl及び/又はSiHClを含む場合、7つの関連種、すなわち、Si、H、HCl、SiCl、SiHCl、SiHCl及びSiHClが生じる(i=7)。系j=7-3=4を完全に記述するためには、独立反応式が必要である。
(I) 4SiHCl→3SiCl+2H+Si
(II) SiHCl+H→Si+3HCl
(III) 2SiHCl→SiCl+SiHCl
(IV) 2SiHCl→SiHCl+SiHCl
【0055】
4つの独立反応式に対応して、4つの独立した主要成分、すなわち、SiCl、SiHCl、SiHCl及びSiHClが存在する。
【0056】
反応の程度ζは部分反応(I)~(IV)の進行度を示す。ある成分の物質量の変化は、反応の程度により決定可能である。
【0057】
オフガス中のクロロシランの物質流量は反応(I)及び(II)によって減少する。オフガス中のクロロシランの物質流量は、反応の程度及び供給流ガス中のクロロシランの物質流量によって次のように計算される。
【0058】
【数28】
【0059】
SiClの物質量の変化は次式により得られる。
【0060】
【数29】
【0061】
オフガス中のSiClの物質流量は、オフガス中のSiClの物質留分量及び反応の程度により計算できる。
【0062】
【数30】
【0063】
SiClについて、式(2)及び(3)は以下が得られる。
【0064】
【数31】
【0065】
この式は、成分SiHCl、SiHCl及びSiHClに対し類似して導き出せる。このようにして、4つの式の明確に解ける方程式系、それに伴って計算可能な4つの反応の未知の程度が得られる。
【0066】
反応の程度によって、全ての主要成分について、オフガス中の物質流量を計算することが可能になる。例えば、SiClの場合は、以下である。
【0067】
【数32】
【0068】
したがって、オフガス中の全ての成分について、個々の反応変換率及び物質流量を計算することが可能である。
【0069】
図3は、図1の反応器を参照して、エネルギー収支の平衡領域I(BI)及び平衡領域II(BII)を示す。
【0070】
エネルギー収支を計算するために、それぞれの平衡領域の境界と交わる全ての物質流量及びエネルギー流及び反応エンタルピーを計算する。流動床温度TWSは平衡領域I及び/又はIIを用いて計算される。
【0071】
平衡領域I(BI)は、以下を含む。
- 供給ガス流16:
【0072】
【数33】
- 生成物流18:
【0073】
【数34】
- 冷却流24(流動床領域における反応器からのエネルギー除去):Q24
- 反応エンタルピー23:Δ23
- 加熱装置20の加熱出力:Q20
- 流動床へのシード粒子流21:
【0074】
【数35】
- 流動床からのオフガス流22:
【0075】
【数36】
【0076】
平衡領域II(BII)は、以下を含む:
- 流動床へのシード粒子流21:
【0077】
【数37】
- 流動床からのオフガス流22:
【0078】
【数38】
- 反応器へのシード粒子流17:
【0079】
【数39】
- 反応器からのオフガス流19:
【0080】
【数40】
- 冷却流(流動床より上の領域での反応器からのエネルギー除去)25:Q25
【0081】
平衡境界と交差する物質流量のエンタルピーは、
【0082】
【数41】
、熱容量cp,i及び温度Tの関数として計算される。
【0083】
【数42】
【0084】
反応器は、冷却媒体(例えば、反応器底部)及び周囲により冷却される。冷却媒体を通る冷却出力は、冷却媒体のエンタルピー変化により計算される。十分な断熱がある場合、周囲への熱損失は無視できる。対流及び放射による周囲への熱損失は任意の方法で推定できる。
【0085】
【数43】
【0086】
電気加熱の場合、電気出力が取り込まれる。加熱媒体(例えば、燃焼ガス)で加熱する場合、加熱媒体のエンタルピーの変化を計算する。
【0087】
【数44】
【0088】
反応のエンタルピーは、反応物及び生成物の生成の標準エンタルピーの和により計算される。反応物及び生成物組成は、上記の物質収支から決定され得る。
(9) Δ23=ΣΔHB,Products-ΣΔHB,reactants
【0089】
WSを計算するために、流動床からのオフガス流の温度がエネルギー収支により計算される。前記流れは、流動床における熱平衡のために流動床と同じ温度を有する。また、流動床からのオフガス流22及び反応器からのオフガス流24は同じ組成を有すると仮定される。流動床へのシード粒子流21については、前記流れは、流動床からのオフガス流22と同じ温度を有すると仮定される。簡単にするために、準定常的な等圧プロセスを仮定してもよい。平衡境界と交差するエネルギー及びエントロピーの流れ及び反応エンタルピーの和は0である。
【0090】
平衡領域Iについては、流動床からのオフガス質量流のエンタルピー
【0091】
【数45】
を解明すると、以下が得られる。
【0092】
【数46】
【0093】
平衡領域IIについては、流動床からのオフガス質量流のエンタルピー
【0094】
【数47】
を解明すると、以下が得られる。
【0095】
【数48】
【0096】
エネルギー収支は、流動床領域からのオフガス質量流量22について解明される。ガスクロマトグラフによる測定によりオフガス質量流量の組成が知られている。オフガス質量流量は、主要反応の反応の程度により計算され得る。流動床からのオフガス質量流量の温度は、オフガス流の平均比熱容量によりエネルギー収支からのオフガス質量流量のエンタルピーによって計算される。
【0097】
【数49】
【0098】
熱容量は温度の関数として計算される。
(13) cp,i(T)=a+aT+a+a+a
【0099】
したがって、式(12)は繰り返して解くことができる。
【0100】
さらなる操作変数としてのプロセスの好ましい実施形態では、表面ガス速度uと最小流動化速度umfとの比としての流動床における流動化を、u/umfが1~6、好ましくは2~5、特に好ましくは3~4(二次調節)の範囲内にあるように制御することができる。
【0101】
表面ガス速度uと最小流動化速度umfとの比は流動床における流動化のためのパラメータとして計算される。流動床中のガス組成は、物質収支により知られている反応器からのオフガスと同じ組成を持つと仮定される。物質収支により、平均物質重量の量
【0102】
【数50】
及びオフガス物質流量
【0103】
【数51】
を計算することが可能になる。
【0104】
流動床中のガスの密度は理想気体の法則により計算される。
【0105】
【数52】
【0106】
ガス密度を用いて流動床内の表面ガス速度uを計算する。uは式(14)で得られる。
【0107】
【数53】
式中、
【0108】
【数54】
=流動床中のガスの平均モル質量[kg/mol]
【0109】
【数55】
=流動床からのオフガスの物質流量[mol/秒]
A=流動床の断面積[m
ρGas=流動床中のガスの密度[kg/m
及びumfは式(15)で得られる。
【0110】
【数56】
式中、
ψ=固定床空隙率
ν=流動床中のガスの粘度[m/秒]
=流動床中の粒子のザウター径[m]
Ψmf=初期流動化空隙率
ρparticle=流動床中の粒子の密度[kg/m]
g=9.81m/s
【0111】
このプロセス中に比u/umfが一定に保たれる場合が好ましい。比u/umfは、一般に、温度、圧力、ガスの量及び組成、並びに流動床中の粒径に依存する。過度に低い比u/umfでは、流動床への供給ガス量が増加し、及び/又はシード粒子の添加の増加により流動床中の粒径が減少する場合がある。過度に高い比u/umfでは、流動床へのガス量が減少し、及び/又はシード粒子の添加の減少により、流動床中の粒径は増加する場合がある。
【0112】
流動床中の粒子の密度は、好ましくは2.250~2.330g/cm、特に好ましくは2.280~2.330g/cm、特に2.320~2.330g/cmの範囲である。
【0113】
流動床中のシリコン粒子の密度は、ヘリウムガスを用いるガス吸着法(ピクノメーター)により決定することができ、好ましくはPorotec Pycnomatic ATC機器を用いる。試料体積は、例えば、60mLとすることができる。
【0114】
流動床中のガスの密度ρgasは、好ましくは0.5~2kg/m、特に好ましくは0.7~1.2kg/mの範囲である。
【0115】
固定床の空隙率ψは、好ましくは0.3~0.36の範囲、特に好ましくはψ0.33である。
【0116】
固定され、注入された床の注入密度ρは、ISO967により、例えば、Landgraf Laborsysteme HLL GmbH製の注入密度を決定する装置を用いて決定され得る。次いで、注入密度ρを用いて、式(16)に従って固定床の空隙率ψを計算することができる。
【0117】
【数57】
【0118】
初期流動化空隙率Ψmfは、好ましくは0.33~0.4の範囲、特に好ましくは0.37である。
【0119】
初期流動化空隙率Ψmfは、実験的に決定することができる(VDI-Waermeatlas[VDI Heat Atlas]、第11版、L3.2 Stroemungsformen und Druckverlust in Wirbelschichten[流動床における流れ及び圧力損失の形式]を参照されたい。)。Ψmfは、初期流動化の時点で、エルガン式(17)により決定され得る。
【0120】
【数58】
式中、
Δp:初期流動化点での流動床の差圧[bara]、
L:初期流動化点での流動床の高さ[m]。
【0121】
流動床反応器中の粒子のザウター直径dは、好ましくは150~10000μm、特に好ましくは500~5000μm、特に850~2000μmの範囲である。
【0122】
の決定には、動画像解析を用いる粒子解析装置(例:Retsch Technology製CAMSIZER P4、ISO13322-2による動画像解析、測定範囲:30μm~30mm、分析の種類:粉体及び顆粒の乾式測定)を使用する画像解析により、生成物として得られたシリコン粒子(顆粒)を用いることができる。
【0123】
操作変数としてのプロセスのさらなる実施形態では、流動床中のシリコン1kg当たりのシード粒子のキログラムで表されるシード粒子の導入量は、0.01~0.05、好ましくは0.02~0.03の範囲内にあるように制御することができる。
【0124】
シード粒子及び生成物流の質量流量mは、バルク材料用の連続オンラインフローシステム(例えば、Muetec InstrumentsのMF3000)で測定することができる。
【0125】
流動床中のシリコンの質量を連続的に決定してもよい。このために、反応器底部と反応器上部との間の差圧Δpが連続的に決定される(例えば、Endress+Hauserの電子差圧システムDeltabar FMD72を用いる)。
Δp=pBottom-ptop
【0126】
この差圧は流動床上の圧力降下に相当する。圧力降下は床の重さmbedに比例する。これは以下のように計算される。
【0127】
【数59】
式中、mBed:流動床中のシリコンの質量[kg]、
A:流動床の断面積[m]。
【0128】
流動床TWSの温度は、好ましくは700℃~1200℃、特に好ましくは800℃~1150℃、特に850℃~1100℃の範囲である。
【0129】
顆粒は、好ましくは10~70ppmw、特に好ましくは15~40ppmwの塩素含有率を有する。
【0130】
顆粒のバルク中の塩素含有率の決定は、機器による中性子活性化分析(INAA、SEMI PV10)によって実施することができる。バルク中の塩素含有率を「ppmw」単位で測定する。X線蛍光分析による測定も可能である。
【0131】
オフガス質量流量22の組成は、ガスクロマトグラフで決定することができる。
【0132】
堆積反応の全ての成分は、オンライン分析によりオフガス中で検出され、定量化されることができる。その成分は、特にクロロシラン、塩化水素及び水素である。採用可能な測定手段としては、火炎イオン化検出器及び熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフが挙げられる。物質収支に必要なオフガス中のクロロシランの組成y は、オフガス中の総クロロシラン物質流量に基づくクロロシランの物質留分量iとして出力され得る。
【0133】
冷却、供給ガス及びオフガス流の温度は、一般に熱電対(例えば、1250℃までの測定範囲を有するDIN EN60584-1によるK型熱電対)で測定することができる。
【0134】
供給ガス流及び冷却流の質量流量mは、Coriolis質量流量計(例:Endress+Hauser、Promass 83F)によって決定することができる。
【0135】
シリコン含有供給ガスの比質量流量は、好ましくは400~6500kg/h*mである)。比水素体積流量は、好ましくは800~4000Nm/(h*m)である。比流動床重量mbedは、好ましくは500~2000kg/mである。比シリコンシード粒子導入割合は、好ましくは1~40kg/(h*m)である。比反応器加熱出力は、好ましくは800~3000kW/mである。
【0136】
電気加熱出力Pelectricは、DIN EN 60076により、工場変圧器の二次側の出力として決定することができる。
【0137】
列挙されたパラメータの測定は、全プロセス期間にわたって継続的に行うことが好ましい。
【0138】
供給ガスとしては、Hと同様にトリクロロシラン又はジクロロシランを用いることが好ましい。流動化ガスは、H、アルゴン、窒素及びそれらの混合物を含む群から選択されることが好ましい。
【0139】
供給ガスは、1つ以上のノズルを介して流動床に導入することができる。ノズルからの出口における局所ガス速度は、0.5~200m/秒が好ましい。流動床を流れる全ガス量に基づくシリコン含有供給ガス成分の濃度は、好ましくは5~50mol%、特に好ましくは15~40mol%である。
【0140】
反応器に入る前及び全供給ガス量に基づくシリコン含有供給ガス成分の濃度は、好ましくは5~80mol%、特に好ましくは14~60mol%である。
【0141】
絶対反応器圧力は、好ましくは1~10bar、特に好ましくは1.5~5.5barの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1】流動床反応器の構成を示す。
図2】物質収支の平衡領域を示す。
図3】エネルギー収支の平衡領域I及びIIを示す。
【実施例
【0143】
図1に示す流動床反応器を、Hに加えてトリクロロシラン又はジクロロシランで操作する(表1参照)。
【0144】
直径400mmの反応器で実施例を行う。表1は、反応器の定常状態の操作時点に関するものであり、すなわち、列挙されたデータは数時間にわたって一定に保たれていた。
【0145】
【表1】
【0146】
供給ガス中のクロロシラン及びHの量は反応域(流動床)の断面積に基づいている。TWS(発明)は、エネルギー収支に従って本発明に従って計算された流動床の温度である(表II参照)
【0147】
WS(高温計)は、高温計を使用して測定した流動床の温度である。高温計を反応器上部に取り付け、上から流動床に向ける。ダスト生成のために、測定された信号は乱され、測定された温度は、本発明に従って計算されたTWS(発明)よりも著しく低い。
【0148】
EP2653446A2は、オフガス中のHCl値を顆粒中のCl値の制御に用いることができることを開示する。オフガス中のHCl値は流動床における化学平衡に起因する。この化学平衡は、圧力、温度及び供給ガスの組成の関数である。
【0149】
表1は、顆粒中のCl値が、オフガス中のHCl値に依存するよりもTWS(本発明)に大きく依存することを示している。したがってTWS(本発明)に基づくプロセス制御は、生成物品質の向上と関連している。オフガス中のHCl値に基づく反応器制御が、反応器圧力、反応器へのクロロシラン又は供給ガス量の変化により実施されるならば、顆粒中のClの許容できない濃縮がもたらされる。
【0150】
ここで、TWS(本発明)は、平衡領域I(反応器の断面積に対して正規化した)により決定した(表2参照)。
【0151】
【表2】
図1
図2
図3