(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】医用システムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240819BHJP
A61B 6/58 20240101ALI20240819BHJP
【FI】
A61B6/03 573
A61B6/03 530Z
A61B6/58 500Z
(21)【出願番号】P 2024027948
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】319011672
【氏名又は名称】ジーイー・プレシジョン・ヘルスケア・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】緒方 研太郎
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-23515(JP,A)
【文献】特開2013-215480(JP,A)
【文献】特開2013-132507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0100517(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第117297637(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管であって、第1の管電圧と第2の管電圧との間で前記X線管に印加される管電圧を切り替えることができるように構成されたX線管と、
前記X線管から照射されたX線を検出する検出器アセンブリであって、前記検出器アセンブリは、X線を検出する参照領域とフィルタとを含み、前記参照領域は、前記フィルタを通過したX線を検出する第1のサブ領域と、前記フィルタを通過していないX線を検出する第2のサブ領域とを含む、検出器アセンブリと、
1つ又は複数のプロセッサであって、
管電圧を第1の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第1の遅延時間と、管電圧を第2の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第2の遅延時間を設定すること、
前記X線管に前記第1の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第1の管電圧の第1の実効電圧値を決定すること、
前記X線管に前記第2の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第2の管電圧の第2の実効電圧値を決定すること、および
第1の実効電圧値と第2の実効電圧値との差を表す実効電圧差を計算すること
を実行する1つ又は複数のプロセッサと
を含み、
前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記第1の遅延時間と前記第2の遅延時間を設定すること、前記第1の実効電圧値を決定すること、前記第2の実効電圧値を決定すること、および前記実効電圧差を計算することを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得し、前記複数の実効電圧差に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間を求めること
を実行する、医用システム。
【請求項2】
前記医用システムが有する記憶装置又は前記医用システムがアクセス可能な記憶装置に、前記第1の遅延時間の基準値を表す第1の基準遅延時間と、前記第2の遅延時間の基準値を表す第2の基準遅延時間が記憶されており、
前記医用システムに対して第1のキャリブレーションが実行される場合、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記第1の遅延時間が前記第1の基準遅延時間に設定され、前記第2の遅延時間が前記第2の基準遅延時間に設定された場合に得られたデータに基づいて、前記第1の実効電圧値と前記第2の実効電圧値との差を表す第1の実効電圧差を計算すること、
前記第1の遅延時間が前記第1の基準遅延時間よりも長い遅延時間に設定され、前記第2の遅延時間が前記第2の基準遅延時間よりも長い遅延時間に設定された場合に得られたデータに基づいて、前記第1の実効電圧値と前記第2の実効電圧値との差を表す第2の実効電圧差を計算すること、
前記第1の遅延時間が前記第1の基準遅延時間よりも短い遅延時間に設定され、前記第2の遅延時間が前記第2の基準遅延時間よりも短い遅延時間に設定された場合に得られたデータに基づいて、前記第1の実効電圧値と前記第2の実効電圧値との差を表す第3の実効電圧差を計算すること、および
前記第1の実効電圧差、前記第2の実効電圧差、および前記第3の実効電圧差に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間を求めること
を実行する、請求項1に記載の医用システム。
【請求項3】
前記第1のキャリブレーションは、前記医用システムの設置作業、保守作業、又は部品交換のときに実行される、請求項2に記載の医用システム。
【請求項4】
前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間は同じ値又は異なる値である、請求項2に記載の医用システム。
【請求項5】
前記医用システムが有する記憶装置又は前記医用システムがアクセス可能な記憶装置に、前記第1の遅延時間の最新の値として登録された遅延時間を表す第1の登録された遅延時間と、前記第2の遅延時間の最新の値として登録された遅延時間を表す第2の登録された遅延時間と、前記第1の登録された遅延時間および前記第2の登録された遅延時間に対応する第4の実効電圧差が記憶されており、
前記医用システムに対して第2のキャリブレーションが実行される場合、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記第1の遅延時間を、前記第1の登録された遅延時間とは異なる第1の別の遅延時間に設定し、前記第2の遅延時間を、前記第2の登録された遅延時間とは異なる第2の別の遅延時間に設定すること、
前記第1の遅延時間が前記第1の別の遅延時間に設定され、前記第2の遅延時間が前記第2の別の遅延時間に設定された場合に得られたデータに基づいて、前記第1の実効電圧値と前記第2の実効電圧値との差を表す第5の実効電圧差を計算すること、および
前記第5の実効電圧差が、前記第4の実効電圧差よりも大きい場合、前記第1の遅延時間を前記第1の別の遅延時間に更新し、前記第2の遅延時間を前記第2の別の遅延時間に更新すること、
を実行する、請求項1に記載の医用システム。
【請求項6】
前記第2のキャリブレーションは、ユーザが定期的に実行するキャリブレーションである、請求項5に記載の医用システム。
【請求項7】
前記第1の実効電圧値を決定することは、
前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値とに基づいて、前記第1の実効電圧値を決定することを含み、
前記第2の実効電圧値を決定することは、
前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値とに基づいて、前記第2の実効電圧値を決定することを含む、請求項1に記載の医用システム。
【請求項8】
前記第1の実効電圧値を決定することは、
前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値とに基づいて、第1の指標値を計算すること、および
前記第1の指標値に基づいて前記第1の実効電圧値を決定することを含み、
前記第2の実効電圧値を決定することは、
前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値とに基づいて、第2の指標値を計算すること、および
前記第2の指標値に基づいて前記第2の実効電圧値を決定することを含む、請求項7に記載の医用システム。
【請求項9】
前記第1の指標値および前記第2の指標値は、前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値との比によって計算される、請求項8に記載の医用システム。
【請求項10】
前記1つ以上のプロセッサは、
管電圧と指標値とを対応付けるベースラインに基づいて、前記第1の実効電圧値および前記第2の実効電圧値を計算する、請求項9に記載の医用システム。
【請求項11】
前記ベースラインは、複数の基準管電圧と前記複数の基準管電圧に対応する複数の指標値とに基づいて作成されるラインであり、
前記複数の指標値の各々は、前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値と、前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値との比である、請求項10に記載の医用システム。
【請求項12】
X線管であって、第1の管電圧と第2の管電圧との間で前記X線管に印加される管電圧を切り替えることができるように構成されたX線管と、
前記X線管から照射されたX線を検出する検出器アセンブリであって、前記検出器アセンブリは、X線を検出する参照領域とフィルタとを含み、前記参照領域は、前記フィルタを通過したX線を検出する第1のサブ領域と、前記フィルタを通過していないX線を検出する第2のサブ領域とを含む、検出器アセンブリと、
1つ又は複数のプロセッサと
を含む医用システムの前記1つ又は複数のプロセッサによって実行される命令が記憶された非一時的な記憶媒体であって、前記命令は、前記1つ又はプロセッサによって実行されると、前記1つ又はプロセッサに、
管電圧を第1の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第1の遅延時間と、管電圧を第2の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第2の遅延時間を設定すること、
前記X線管に前記第1の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第1の管電圧の第1の実効電圧値を決定すること、
前記X線管に前記第2の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第2の管電圧の第2の実効電圧値を決定すること、および
第1の実効電圧値と第2の実効電圧値との差を表す実効電圧差を計算すること
を実行させ、
前記命令は、前記1つ又はプロセッサによって実行されると、前記1つ又はプロセッサに、更に、
前記第1の遅延時間と前記第2の遅延時間を設定すること、前記第1の実効電圧値を決定すること、前記第2の実効電圧値を決定すること、および前記実効電圧差を計算することを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得し、前記複数の実効電圧差に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間を求めること
を実行させる、記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管電圧を切り替えることができる医用システム、および当該医用システムを制御するための命令が記録された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体を非侵襲的に撮影する医用装置としてCTシステムが知られている。CTシステムは、短いスキャン時間で被検体の断層画像を取得することができるので、病院などの医療施設に普及している。
【0003】
CTシステムは、X線管の陰極-陽極管に所定の電圧を印加し、X線を発生させる。発生したX線は被検体を透過して検出器で検出される。CTシステムは、検出器で検出されたデータに基づいて、被検体のCT画像を再構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CTシステムの撮影技術として、SECT(Single Energy CT)が知られている。SECTは、X線管の陰極-陽極管に所定の電圧(例えば、120kV)を印加し、X線を発生させ、被検体のCT画像を得る方法である。しかし、SECTでは、異なる物質であってもCT値が近い値になることがあり、異なる物質の同定が難しい場合がある。
【0006】
そこで、DECT(Dual Energy CT)の技術が研究、開発されている。DECTは、異なるエネルギー領域のX線を利用して物質の弁別を行う技術であり、臨床現場での診断に有益な画像を取得することができ、広く普及し始めている。DECTの技術では、X線管の管電圧を、低い管電圧と高い管電圧との間で切り替えるkVスイッチング技術が知られている。
【0007】
kVスイッチングの技術では、検出器で取得したデータを、高い管電圧に対応するデータと、低い管電圧に対応するデータに分ける必要がある。一般には、高い管電圧と低い管電圧との電圧差が小さいと、物質の識別精度(データの識別精度)が低くなりやすい。そこで、kVスイッチングの技術では、高い管電圧と低い管電圧との差ができるだけ大きくなるように、管電圧が設定されている。
【0008】
一方、kVスイッチングでは、短時間で低い管電圧と高い管電圧とを切り替える必要がある。理想的には、管電圧を切り替えた場合、電圧は矩形状に変化することが望ましい。しかし、実際には、管電圧を切り替えた場合、管電圧が所望の値に到達するには、一定の時間が掛かる。例えば、管電圧を、低い管電圧から高い管電圧に切り替えた場合、管電圧が所望の値に到達するまでには、一定の立ち上がり時間が必要になる。同様に、管電圧を、高い管電圧から低い管電圧に切り替えた場合、管電圧が所望の値に到達するまでには、一定の立ち下がり時間が必要になる。そこで、この管電圧の立ち上がり時間および立ち下がり時間の影響を低減するために、CTシステムは、管電圧の切替えと同時にデータの収集を開始するのではなく、管電圧を切り替えてから、対応する管電圧のデータの収集を開始するまでの間に遅延時間を設けている。
【0009】
しかし、CTシステムの管電圧の立ち上がり時間および立ち下がり時間には個体差があり、或るCTシステムで設定されている遅延時間が、別のCTシステムでは必ずしも適切な遅延時間であるとは限らない。また、CTシステムを長期間使用することによって部品は経年劣化し、その結果、現在使用されている遅延時間が理想的な遅延時間から離れていき、画質が劣化するという問題がある。
そこで、最適な遅延時間を求めることができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、X線管であって、第1の管電圧と第2の管電圧との間で前記X線管に印加される管電圧を切り替えることができるように構成されたX線管と、
前記X線管から照射されたX線を検出する検出器アセンブリであって、前記検出器アセンブリは、X線を検出する参照領域とフィルタとを含み、前記参照領域は、前記フィルタを通過したX線を検出する第1のサブ領域と、前記フィルタを通過していないX線を検出する第2のサブ領域とを含む、検出器アセンブリと、
1つ又は複数のプロセッサであって、
管電圧を第1の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第1の遅延時間と、管電圧を第2の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第2の遅延時間を設定すること、
前記X線管に前記第1の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第1の管電圧の第1の実効電圧値を決定すること、
前記X線管に前記第2の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第2の管電圧の第2の実効電圧値を決定すること、および
第1の実効電圧値と第2の実効電圧値との差を表す実効電圧差を計算すること
を実行する1つ又は複数のプロセッサと
を含み、
前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記第1の遅延時間と前記第2の遅延時間を設定すること、前記第1の実効電圧値を決定すること、前記第2の実効電圧値を決定すること、および前記実効電圧差を計算することを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得し、前記複数の実効電圧差に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間を求めること
を実行する、医用システムである。
【0011】
また、本発明の第2の観点は、X線管であって、第1の管電圧と第2の管電圧との間で前記X線管に印加される管電圧を切り替えることができるように構成されたX線管と、
前記X線管から照射されたX線を検出する検出器アセンブリであって、前記検出器アセンブリは、X線を検出する参照領域とフィルタとを含み、前記参照領域は、前記フィルタを通過したX線を検出する第1のサブ領域と、前記フィルタを通過していないX線を検出する第2のサブ領域とを含む、検出器アセンブリと、
1つ又は複数のプロセッサと
を含む医用システムの前記1つ又は複数のプロセッサによって実行される命令が記憶された非一時的な記憶媒体であって、前記命令は、前記1つ又はプロセッサによって実行されると、前記1つ又はプロセッサに、
管電圧を第1の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第1の遅延時間と、管電圧を第2の管電圧に切り替えてからデータの収集を開始するまでの第2の遅延時間を設定すること、
前記X線管に前記第1の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第1の管電圧の第1の実効電圧値を決定すること、
前記X線管に前記第2の管電圧が印加された場合、前記検出器アセンブリの前記第1のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報と、前記検出器アセンブリの前記第2のサブ領域で検出されたX線のエネルギー情報とに基づいて、前記第2の管電圧の第2の実効電圧値を決定すること、および
第1の実効電圧値と第2の実効電圧値との差を表す実効電圧差を計算すること
を実行させ、
前記命令は、前記1つ又はプロセッサによって実行されると、前記1つ又はプロセッサに、更に、
前記第1の遅延時間と前記第2の遅延時間を設定すること、前記第1の実効電圧値を決定すること、前記第2の実効電圧値を決定すること、および前記実効電圧差を計算することを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得し、前記複数の実効電圧差に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの前記第1の遅延時間および前記第2の遅延時間を求めること
を実行させる、記憶媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、前記第1の遅延時間と前記第2の遅延時間を設定すること、前記第1の実効電圧値を決定すること、前記第2の実効電圧値を決定すること、および前記実効電圧差を計算することを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得する。したがって、複数の実効電圧差に基づいて、実効電圧差を大きい値に設定するのに適した遅延時間を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるCTシステム100のブロック図である。
【
図3】管電圧波形の高kVの期間と低kVの期間の説明図である。
【
図4】期間21の管電圧に対応する実効電圧値VHと、期間22の管電圧に対応する実効電圧値VLの一例を示す図である。
【
図6】矩形状の波形30に対して得られる実効電圧差を示す図である。
【
図8】検出器アセンブリ108の参照領域109の拡大図である。
【
図13】CTシステムの設置作業時において、最適な遅延時間を求めるためのフロー図である。
【
図15】高kVに対応する指標値M(=MHr)と、低kVに対応する指標値M(=MLr)の計算方法の説明図である。
【
図17】ベースライン60を用いて実効電圧値VHrおよびVLrを決定する方法の具体的な説明図である。
【
図18】遅延時間を基準遅延時間よりも長い時間に設定した例を示す図である。
【
図19】高kVに対応する指標値M(=MHL)と、低kVに対応する指標値M(=MLL)の計算方法の説明図である。
【
図21】遅延時間を基準遅延時間よりも短い時間に設定した例を示す図である。
【
図22】高kVに対応する指標値M(=MHS)と、低kVに対応する指標値M(=MLS)の計算方法の説明図である。
【
図23】データセットQ1、Q2、およびQ3を示す図である。
【
図24】ユーザがCTシステムのキャリブレーションを定期的に実行する場合において、最適な遅延時間の求める方法のフロー図である。
【
図25】登録されている遅延時間の最新の値の説明図である。
【
図26】登録された遅延時間(TAN,TBN)とは異なる時間に設定された遅延時間を示す図である。
【
図27】第5の実効電圧差D5の計算方法の説明図である。
【
図28】データセットQ4およびQ5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0015】
図1は、本実施形態におけるCTシステム100のブロック図である。
CTシステム100は、ガントリ102およびテーブル116を含んでいる。
ガントリ102はボア107を有しており、そのボア107に被検体112が搬送され、被検体112がスキャンされる。
【0016】
ガントリ102には、X線管104、フィルタ部103、前置コリメータ105、および検出器アセンブリ108などが取り付けられている。
【0017】
X線管104は、陰極-陽極管に所定の電圧が印加されることにより、X線を発生させるものである。X線管104は、XY面内において、回転軸206を中心とした経路上を回転することができるように構成されている。ここで、Z方向は体軸方向を表し、Y方向は鉛直方向(テーブル116の高さ方向)を表し、X方向は、Z方向およびY方向に対して垂直の方向を表している。本実施形態では、X線管104は、第1の管電圧と第2の管電圧との間でX線管104に印加される管電圧を切り替えることができるkVスイッチング方式に対応したX線管である。尚、本実施形態では、CTシステム100は1つのX線管104を備えているが、2つのX線管104を備えてもよい。
【0018】
フィルタ部103は、例えば、平板フィルタおよび/又はボウタイフィルタを含んでいる。
前置コリメータ105は、不要な領域にX線が照射されないようにX線の照射範囲を絞り込むための部材である。
【0019】
検出器アセンブリ108は複数の検出器素子202を含んでいる。複数の検出器素子202は、X線管104から照射され、患者などの被検体112を通過するX線106を検出する。したがって、検出器アセンブリ108は、ビューごとに投影データを取得することができる。
【0020】
検出器アセンブリ108により検出された投影データは、DAS214で収集される。DAS214は、収集した投影データに対して、サンプリング、デジタル変換などを含む所定の処理を実行する。処理された投影データは、コンピュータ216に送信される。コンピュータ216は、DAS214からのデータを記憶装置218に記憶する。記憶装置218は、プログラムや、プロセッサで実行される命令などを記録する1つ以上の記録媒体を含むものである。記録媒体は、例えば、1つ以上の非一時的でコンピュータ可読記録媒体とすることができる。記憶装置218は、例えば、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクドライブ、コンパクトディスク読み出し/書き込み(CD-R/W)ドライブ、デジタル多用途ディスク(DVD)ドライブ、フラッシュドライブ、および/またはソリッドステート記録ドライブを含むことができる。
【0021】
コンピュータ216は1つ又は複数のプロセッサ217を含んでいる。コンピュータ216は、1つ又は複数のプロセッサ217を使用して、DAS214、X線コントローラ210、および/又はガントリモータコントローラ212に、コマンドおよびパラメータを出力し、データ取得および/または処理などのシステム動作を制御する。また、コンピュータ216は、1つ又は複数のプロセッサを使用して、後述するフローの各ステップにおいて、信号処理、データ処理、画像処理など、様々な処理を実行する。尚、
図1では、1つ又は複数のプロセッサ217はコンピュータ216に含まれているが、1つ又は複数のプロセッサ217は、コンピュータ216と他の構成要素(例えば、X線コントローラ210、ガントリモータコントローラ212、テーブルモータコントローラ118など)に分散させるように設けられていてもよい。
【0022】
コンピュータ216には、オペレータコンソール220が結合されている。オペレータは、オペレータコンソール220を操作することにより、CTシステム100の動作に関連する所定のオペレータ入力をコンピュータ216に入力することができる。コンピュータ216は、オペレータコンソール220を介して、コマンドおよび/またはスキャンパラメータを含むオペレータ入力を受信し、そのオペレータ入力に基づいてシステム動作を制御する。オペレータコンソール220は、オペレータがコマンドおよび/またはスキャンパラメータを指定するためのキーボード(図示せず)またはタッチスクリーンを含むことができる。
【0023】
X線コントローラ210は、コンピュータ216からの命令に基づいてX線管104を制御する。また、ガントリモータコントローラ212は、コンピュータ216からの命令に基づいて、X線管104および検出器アセンブリ108などの構成要素が回転するように、ガントリモータを制御する。
【0024】
図1は、1つのオペレータコンソール220のみを示しているが、2つ以上のオペレータコンソールをコンピュータ216に結合してもよい。
【0025】
また、CTシステム100は、例えば、有線ネットワークおよび/又は無線ネットワークを介して、遠隔に位置する複数のディスプレイ、プリンタ、ワークステーション、および/もしくは同様のデバイスが結合されるようにしてもよい。
【0026】
一実施形態では、例えば、CTシステム100は、画像保管通信システム(PACS)224を含んでいてもよいし、PACS224に結合されていてもよい。例示的な実施態様では、PACS224は、放射線科情報システム、病院情報システム、および/または内部もしくは外部ネットワーク(図示せず)などの遠隔システムに結合されていてもよい。
【0027】
コンピュータ216は、テーブルモータコントローラ118に、テーブル116を制御するための命令を供給する。テーブルモータコントローラ118は、受け取った命令に基づいて、テーブル116が移動するように、テーブルモータを制御することができる。例えば、テーブルモータコントローラ118は、被検体112が撮影に適した位置に位置決めされるように、テーブル116を移動させることができる。
【0028】
前述のように、DAS214は、検出器素子202によって取得された投影データをサンプリングしてデジタル変換する。その後、画像再構成器230が、サンプリングされデジタル変換されたデータを使用して画像を再構成する。画像再構成器230は1つ又は複数のプロセッサを含んでおり、このプロセッサが画像再構成の処理を実行することができる。
図1では、画像再構成器230は、コンピュータ216とは別個の構成要素として示されているが、画像再構成器230は、コンピュータ216の一部を形成するものであってもよい。また、コンピュータ216が、画像再構成器230の1つまたは複数の機能を実施してもよい。さらに、画像再構成器230は、CTシステム100から離れた位置に設けられ、有線ネットワークまたは無線ネットワークを使用してCTシステム100に動作可能に接続されるようにしてもよい。
【0029】
画像再構成器230は、再構成された画像を記憶装置218に記憶することができる。また、画像再構成器230は、再構成された画像をコンピュータ216に送信してもよい。コンピュータ216は、再構成された画像および/または患者情報を、コンピュータ216および/または画像再構成器230に通信可能に結合された表示装置232に送信することができる。
【0030】
本明細書で説明される様々な方法およびプロセスは、CTシステム100内の非一時的な記録媒体に実行可能命令として記録することができる。この実行可能命令は、1つの記録媒体に記録されていてもよいし、複数の記録媒体に分散させて記録されるようにしてもよい。CTシステム100に備えられる1つ以上のプロセッサは、記録媒体に記録された命令に従って、本明細書で説明される様々な方法、ステップ、およびプロセスを実行する。
【0031】
CTシステム100は上記のように構成されている。本実施形態では、CTシステムは、X線管の管電圧を、高い管電圧(以下、「高kV」と呼ぶ)と低い管電圧(以下、「低kV」と呼ぶ)との間で切り替えるkVスイッチング技術を使用して被検体の撮影をすることができるように構成されている。
【0032】
kVスイッチングの技術では、検出器で取得したデータを、高kVに対応するデータと、低kVに対応するデータに分ける必要がある。一般には、高kVと低kVとの電圧差が小さいと、物質の識別精度(データの識別精度)が悪くなりやすい。そこで、kVスイッチングの技術では、高kVと低kVとの差ができるだけ大きくなるように、管電圧を切り替えることが必要となる。
【0033】
図2は、管電圧を切り替える時の説明図である。
図2には、管電圧の波形10が示されている。
時点t1の直前では、X線管に低kVが印加されていたとする。時点t1において、X線管104に印加される管電圧は、低kVから高kVに切り替わる。管電圧は矩形状に切り替わるのが理想ではあるが、実際には管電圧の過渡現象により、時点t1において低kVから瞬間的に高kVに到達することはできず、所定の電圧値に到達するまでに一定の時間が掛かる。
【0034】
そして、時点t1から所定の時間が経過した時点t2で、X線管の管電圧は、高kVから低kVに切り替わる。しかし、管電圧の過渡現象により、時点t2において高kVから瞬間的に低kVに到達することはできず、所定の電圧値に到達するまでに一定の時間が掛かる。
【0035】
次に、時点t2から所定の時間が経過した時点t3で、X線管の管電圧は、低kVから高kVに切り替わる。しかし、管電圧の過渡現象により、時点t3において低kVから瞬間的に高kVに到達することはできず、所定の電圧値に到達するまでに一定の時間が掛かる。
【0036】
以下同様に、高kVと低kVとが切り換えられる。したがって、管電圧の波形には、高kVの期間と、低kVの期間が含まれている。
【0037】
図3は、管電圧波形の高kVの期間と低kVの期間の説明図である。
図3の上段には、
図2で示した管電圧波形10が示されており、下段には、矩形状の波形20が示されている。矩形状の波形20は、高kVに対応する期間21と、低kVに対応する期間22を表す波形である。期間21は、管電圧が低kVから高kVに切り替わり始めた時点t1から、管電圧が高kVから低kVに切り替わり始めた時点t2までの期間を表している。
【0038】
一方、期間22は、管電圧が高kVから低kVに切り替わり始めた時点t2から、管電圧が低kVから高kVに切り替わり始めた時点t3までの期間を表している。
【0039】
上記の例では、期間21が高kVの期間を表しており、期間22が低kVの期間を表している。しかし、管電圧は、
図3に示すように、矩形状に変化せず、一定の立ち上がり時間および立ち下がり時間に従って変化する。したがって、期間21には、高kVに十分に近い電圧だけでなく、低kVから高kVに切り替わった直後の電圧も含まれている。このため、期間21の管電圧を考える場合、管電圧の理想値ではなく、実効電圧値を考える必要がある。同様に、期間22には、低kVに十分に近い電圧だけでなく、高kVから低kVに切り替わった直後の電圧も含まれている。したがって、期間22の管電圧を考える場合も、管電圧の理想値ではなく、実効電圧値を考える必要がある。
図4には、期間21の管電圧に対応する実効電圧値VHと、期間22の管電圧に対応する実効電圧値VLの一例が示されている。
【0040】
kVスイッチングの技術では、検出器で取得したデータを、高kVに対応するデータと、低kVに対応するデータに分ける必要がある。一般には、実効電圧値VHと実効電圧値VLとの実効電圧差Dが小さいと、物質の識別精度(データの識別精度)が低くなりやすいので、実効電圧差Dはできるだけ大きくする必要がある。しかし、
図4の例では、期間21には、高kVに十分に近い電圧だけでなく、低kVから高kVに切り替わった直後の電圧も含まれているので、実効電圧値VHは、低kVから高kVに切り替わった直後の電圧の影響を受けて、十分に大きな値にすることができない。同様に、期間22には、低kVに十分に近い電圧だけでなく、高kVから低kVに切り替わった直後の電圧も含まれているので、実効電圧値VLは、高kVから低kVに切り替わった直後の電圧の影響を受けて、十分に小さい値にすることができない。このため、実効電圧差Dを十分に大きい値にすることができない。そこで、この問題に対処するために、管電圧が変化してから投影データの収集を開始するまでの間に、一定の遅延時間を設けている。次に、この遅延時間について説明する。
【0041】
図5は、遅延時間の説明図である。
図5には、管電圧波形10が示されており、管電圧波形10の下には、遅延時間が設けられた矩形状の波形30が示されている。尚、参考として、矩形状の波形30の下には、遅延時間が設けられていない矩形状の波形20も示してある。
【0042】
矩形状の波形30には、矩形状の波形20に対して、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBが設けられている。
図5では、紙面の制約上、2つの第1の遅延時間TA(即ち、期間35の第1の遅延時間TAと、期間37の第1の遅延時間TA)と、2つの第2の遅延時間TB(即ち、期間36の第2の遅延時間TBと、期間38の第2の遅延時間TB)のみを図示してある。
【0043】
期間35の遅延時間TAは、低kVから高kVに切り替わり始めた時点t1から、投影データの収集が開始される時点t11までの時間である。また、期間36の遅延時間TBは、高kVから低kVに切り替わり始めた時点t2から、投影データの収集が開始される時点t21までの時間である。したがって、検出器アセンブリ108は、期間31(つまり、期間21から遅延時間TAおよびTBだけずれた期間)の間に高kVに対応する投影データを検出する。
【0044】
また、期間37の遅延時間TAは、低kVから高kVに切り替わり始めた時点t3から、投影データの収集が開始される時点t31までの時間である。したがって、検出器アセンブリ108は、期間32(つまり、期間22から遅延時間TBおよびTAだけずれた期間)の間に低kVに対応する投影データを検出する。
【0045】
図6は、矩形状の波形30に対して得られる実効電圧差を示す図である。
期間31は、期間21よりも、高kV(および高kVに近い電圧)を含む範囲を広くすることができる。したがって、実効電圧値VHを大きくすることができる。また、期間32は、期間22よりも、低kV(および低kVに近い電圧)を含む範囲を広くすることができる。したがって、実効電圧値VLを小さくすることができる。このため、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBを設けることによって、実効電圧差Dを大きくすることができる。
【0046】
第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBの具体的な値は、一般的には、CTシステムの開発段階で、実験などを通じて、CTシステム自体の個体差や経年劣化を考慮した上で固定値として決められている。そして、その開発段階で決定された遅延時間が、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBのデフォルト値として使用される。しかし、最適な遅延時間は、CTシステム自体の個体差によって異なる。また、CTシステムで使用される部品の経年劣化などによって、最適な遅延時間は変化する。したがって、デフォルト値として設定された遅延時間をそのまま使用し続けていると、高品質な画像を取得することが難しくなるという問題がある。
【0047】
そこで、本実施形態のCTシステムは、CTシステムを病院などの施設に設置した後も最適な遅延時間を求めることができるように構成されている。以下に、最適な遅延時間の求め方について説明する。
【0048】
尚、本実施形態では、後述するように、高kVに対応する実効電圧値VHと、低kVに対応する実効電圧値VLとを求め、この実効電圧値VHおよびVLに基づいて、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBの最適値を求めている。したがって、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBの最適値を求めるためには、実効電圧値VHおよびVLを求める必要がある。そこで、以下では、先ず、本実施形態において実効電圧値VHおよびVLを求める方法について説明する。そして、この説明の後で、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBの最適値の求め方について説明する。
【0049】
図7~
図12は、本実施形態において実効電圧値を計算する方法の説明図である。
図7は、検出器アセンブリ108の説明図である。
【0050】
検出器アセンブリ108は複数の検出器素子202を有している。検出器アセンブリ108には、参照領域109が設けられている。参照領域109で検出されたX線のエネルギー情報は、後述する指標値Mを計算するために使用される。指標値Mについては後で詳細に説明する。参照領域109は、被検体112のスキャン中において、X線管104から照射されたX線のうち、被検体112を通過しないX線を検出することができるように、検出器アセンブリ108のx方向の中心位置120からできるだけ離れた位置に設けられている。本実施形態では、参照領域109は、検出器アセンブリ108の一方の端部121に設けられている。尚、参照領域109は、検出器アセンブリ108の一方の端部121だけでなく、検出器アセンブリ108の反対側の端部122に設けてもよい。本実施形態では、参照領域109は検出器アセンブリ108の一方の端部121のみに設けられているとして説明を続ける。
【0051】
また、検出器アセンブリ108は、散乱線による画質劣化を低減するために、検出器コリメータ123を有している。検出器コリメータ123は、検出器素子202に対してX線管104側に配置されている。
【0052】
図8は、検出器アセンブリ108の参照領域109の拡大図である。
検出器コリメータ123は、隣り合う検出器素子202の境界の延長上に設けられている。
【0053】
また、
図8には、X線104Aおよび104Bが示されている。X線104Aは、検出器アセンブリ108の参照領域109に設けられた複数の検出器素子202のうちの検出器素子202Aに向かって進むX線を表している。また、X線104Bは、検出器アセンブリ108の参照領域109に設けられた複数の検出器素子202のうちの検出器素子202Bに向かって進むX線を表している。
【0054】
検出器アセンブリ108は、フィルタ124を有している。フィルタ124は、例えば、銅、モリブデン、又はタングステンなどを使用して製造することができる。フィルタ124は、X線104Aの経路上には配置されていないが、X線104Bの経路上に配置されている。X線104Aは、フィルタ124を通過することなく検出器素子202Aで検出される。一方、X線104Bは、フィルタ124を通過し、フィルタ124でエネルギーが吸収された後のX線104Cが検出器素子202Bで検出される。したがって、検出器アセンブリ108の参照領域109は、フィルタ124を通過したX線を検出する第1のサブ領域109Bと、フィルタ124を通過していないX線を検出する第2のサブ領域109Aとを有している。
【0055】
本実施形態では、上記のように、CTシステム100は、参照領域109にフィルタ124を設けた検出器アセンブリ108を備えており、この検出器アセンブリ108の参照領域109で検出されたX線に基づいて、X線管104の実効電圧値を求めることができる。しかし、実効電圧値を求めるためには、予め実効電圧値を求めるために使用されるベースラインを準備しておく必要がある。このベースラインは、一般的には、CTシステム100を病院などの施設に設置するための設置作業が行われるときに作成することができる。以下に、ベースラインの作成方法を説明する。
【0056】
図9は、ベースラインの作成方法のフロー図である。
ステップST1では、ベースラインを作成するために使用される管電圧の基準電圧(以下、「基準管電圧」と呼ぶ)を決定する。本実施形態では、基準管電圧として、4つの基準管電圧VR1、VR2、VR3、およびVR4を決定する。基準管電圧VR1~VR4は、kVスイッチングで実際に使用される管電圧に基づいて決定することができる。本実施形態では、基準管電圧は、VR1=80kvV、VR2=100kV、VR3=120kV、およびVR4=140kVとするが、別の基準管電圧を採用してもよい。
【0057】
尚、本実施形態では、ベースラインを作成するために使用される基準管電圧として4つの基準管電圧VR1~VR4が決定されている。しかし、5つ以上の基準管電圧を、ベースラインを作成するために使用される基準管電圧として決定してもよいし、3つ以下の基準管電圧を、ベースラインを作成するために使用される基準管電圧として決定してもよい。尚、基準管電圧の数が少なすぎると、実効管電圧の精度の信頼性が低くなる恐れがあり、一方、基準管電圧の数が多すぎると、データ収集に時間が掛かるので、これらのバランスを考えて基準管電圧の数を決定することが望ましい。一例としては、本実施形態で採用した4つの基準管電圧VR1~VR4を、ベースラインを作成するために使用される基準管電圧として決定することが望ましい。4つの基準管電圧VR1~VR4を決定した後、ステップST2に進む。
【0058】
ステップST2において、X線管104の管電圧を、ベースラインを作成するために使用される基準管電圧に設定する。ここでは、ステップST1で決定された4つの基準管電圧VR1~VR4のうち、先ず、基準管電圧VR1(=80kV)を選択し、X線管104の管電圧を、基準管電圧VR1(=80kV)に設定する。基準管電圧を設定したら、ステップST3に進む。
【0059】
ステップST3では、X線管104に基準管電圧VR1(=80kV)が印加され、X線管104からX線が照射される。X線管104から照射されたX線は検出器アセンブリ108で検出される。検出器アセンブリ108で検出されたX線は、
図10に示すように、アナログ信号として、DAS214に出力される。DAS214は、検出器アセンブリ108から受信したアナログデータをサンプリングし、アナログデータを後続の処理ができるようにデジタル信号に変換する。デジタル信号は、コンピュータ216に出力される。
【0060】
ステップST4では、コンピュータのプロセッサ217は、デジタル信号に基づいて、参照領域109の第1のサブ領域109Bで検出されたX線(つまり、フィルタ124を通過したX線)のエネルギー情報と、参照領域109の第2のサブ領域109Aで検出されたX線(つまり、フィルタ124を通過していないX線)のエネルギー情報との違いを表す指標値Mを計算する。指標値Mの計算方法については、
図10を参照しながら説明する。
【0061】
本実施形態では、指標値Mは、以下の式で計算することができる。
M= Sfilt(E)/S(E) (1)
ここで、M:指標値
Sfilt(E):第1のサブ領域109Bの検出器素子202Bで検出されたX線(つまり、フィルタ124を通過したX線)のエネルギー情報を含む信号値
S(E):第2のサブ領域109Aの検出器素子202Aで検出されたX線(つまり、フィルタ124を通過していないX線)のエネルギー情報を含む信号値
【0062】
したがって、指標値Mは、フィルタ124を通過し第1のサブ領域109Bで検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値Sfilt(E)と、フィルタ124を通過せずに第2のサブ領域109Aで検出されたX線のエネルギー情報を含む信号値S(E)との比で表すことができる。
【0063】
尚、信号値Sfilt(E)は、5つの検出器素子202Bのうちの1つ以上の検出器素子202Bから得られる信号に基づいて求めることができる。例えば、信号値Sfilt(E)は、5つの検出器素子202Bのうちの1つ検出器素子202Bから得られる信号の代表値(最大値、積分値など)などに基づいて求めてもよいし、5つの検出器素子202Bの2つ以上の検出器素子202Bから得られる各信号の代表値(最大値、積分値など)の平均値及び/又は合計値などに基づいて求めてもよい。
【0064】
同様に、信号値S(E)は、5つの検出器素子202Aのうちの1つ以上の検出器素子202Aから得られる信号に基づいて求めることができる。例えば、信号値S(E)は、5つの検出器素子202Aのうちの1つ検出器素子202Aから得られる信号の代表値(最大値、積分値など)などに基づいて求めてもよいし、5つの検出器素子202Aの2つ以上の検出器素子202Aから得られる各信号の代表値(最大値、積分値など)の平均値及び/又は合計値などに基づいて求めてもよい。
【0065】
したがって、X線管104の管電圧を80kVに設定し、検出器アセンブリ108の参照領域109で検出されたX線のエネルギーに基づいて、信号値Sfilt(E)およびS(E)を得ることにより、式(1)から、基準管電圧VR1(=80kV)に対応する指標値M(=M80)を計算することができる。
【0066】
上記のように、指標値M80を計算する場合、X線管104の管電圧は80kVで一定である。したがって、ガントリが回転している間、管電圧を高kVおよび低kVの間で切り替える必要がないので、ガントリが回転している間、管電圧の値は安定している。このため、ガントリの回転速度の影響を受けることなく、指標値M80を計算することができる。また、指標値M80は、X線のエネルギー情報に基づいて計算される値である。X線のエネルギーは、基本的にはX線管104の管電圧に依存し、管電流にはあまり依存しないので、管電流の影響を受けることなく、指標値M80を計算することができる。
【0067】
このように、基準管電圧VR1(=80kV)に対応する指標値M80は、ガントリの回転速度や管電流に実質的な影響を受けることなく計算することができる。
指標値M80を計算した後、指標値M80を記憶装置に記憶し、ステップST5に進む。
【0068】
ステップST5では、基準管電圧を変更するかどうかを判断する。ここでは、4つの基準管電圧VR1~VR4のうち、基準管電圧VR1の指標値M80しか計算していない。したがって、残りの基準管電圧の指標値Mを計算するために、ステップST2に戻る。
【0069】
ステップST2では、X線管104の基準管電圧を別の電圧値に設定する。ここでは、ステップST1で決定された4つの基準管電圧VR1~VR4のうち、基準管電圧VR2(=100kV)を選択し、X線管104の管電圧を、基準管電圧VR2(=100kV)に設定する。
【0070】
ステップST3では、X線管104に基準管電圧VR2(=100kV)が印加され、X線管104からX線が照射される。X線管104から照射されたX線は検出器アセンブリ108で検出される。検出器アセンブリ108で検出されたX線は、
図5に示すように、アナログ信号として、DAS214に出力される。DAS214は、検出器アセンブリ108から受信したアナログデータをサンプリングし、アナログデータを後続の処理ができるようにデジタル信号に変換する。デジタル信号は、コンピュータ216に出力される。
【0071】
ステップST4では、プロセッサ217は、式(1)を使用して、基準管電圧VR2に対応する指標値M100を計算し、指標値M100を記憶装置に記憶する。そして、ステップST5に進み、基準管電圧を変更するかどうかを判断する。ここでは、4つの基準管電圧VR1~VR4のうち、2つの基準管電圧VR1およびVR2の指標値M80およびM100は計算したが、残りの2つの基準管電圧VR3およびVR4の指標値は、まだ計算していない。したがって、残りの基準管電圧の指標値を計算するために、ステップST2に戻る。
【0072】
以下同様に、基準管電圧VR3(=120kV)に対応する指標値M120と、基準管電圧VR4に対応する指標値M140を計算するまで、ステップST2~ST5のループを繰り返し実行する。そして、基準管電圧VR4に対応する指標値M140を計算したら、ステップST5に進む。
【0073】
ステップST5では、基準管電圧を変更するかどうかを判断する。ここでは、4つの基準管電圧VR1~VR4の全ての基準管電圧に対応する指標値M80~M140が計算されている。したがって、ステップST6に進む。
【0074】
ステップST6では、計算した4つの指標値M80~M140に基づいて、実効電圧値を決定するために使用するベースラインを作成する。
【0075】
図11は、ベースラインの作成方法の説明図である。
コンピュータのプロセッサ217は、二次元座標上で、基準管電圧VR1~VR4と指標値M80~M140とを対応付ける。
【0076】
点P1は、基準管電圧VR1と、基準管電圧VR1に対して計算された指標値M80とを対応付ける点である。
点P2は、基準管電圧VR2と、基準管電圧VR2に対して計算された指標値M100とを対応付ける点である。
点P3は、基準管電圧VR3と、基準管電圧VR3に対して計算された指標値M120とを対応付ける点である。
点P4は、基準管電圧VR4と、基準管電圧VR4に対して計算された指標値M140とを対応付ける点である。
【0077】
そして、プロセッサ217は、点P1~P4に基づいて、管電圧と指標値Mとの関係を表すベースラインを作成する。このベースラインは、例えば、点P1~P4に最もよく当てはまるような曲線として求めることができる。
図12に、求められたベースライン60を示す。このベースライン60を表すデータは、CTシステム100の記憶装置又はCTシステム100と通信可能な外部の記憶装置に記憶される。
以下に、ベースラインを使用して最適な遅延時間を求める方法について説明する。
【0078】
尚、最適な遅延時間を求める作業を実行することが望ましい例として、一般的には、2つの例が考えられる。第1の例は、CTシステムを病院などの施設に設置する設置作業を実行する場合、メンテナンスを実行する場合、又は部品を交換する場合である。第2の例は、施設に設置されたCTシステムを実際に稼働し始めてから、CTシステムのユーザがCTシステムの簡易的なキャリブレーションを定期的に実行する場合である。そこで、以下の説明では、第1の例および第2の例の各例について、最適な遅延時間を求める方法を説明する。尚、第1の例としては、CTシステムを病院などの施設に設置する設置作業を取り上げて説明することにする。
【0079】
(1)CTシステムの設置作業時において、最適な遅延時間を求める方法
図13は、CTシステムの設置作業時において、最適な遅延時間を求めるためのフロー図である。
【0080】
ステップST11では、プロセッサ217は、
図14に示すように、第1の遅延時間TAを第1の基準遅延時間TArに設定し、第2の遅延時間TBを第2の基準遅延時間TBrに設定する。第1の基準遅延時間TArは、第1の遅延時間TAの基準値を表す遅延時間であり、第2の基準遅延時間TBrは、第2の遅延時間TBの基準値を表す遅延時間である。基準遅延時間TArおよびTBrは、CTシステムの設置作業の前の段階で予め決められている値であって、デフォルト値として記憶装置又は外部記憶装置に記憶されている値である。基準遅延時間(TAr,TBr)は、例えば、CTシステムの開発段階で実験などを通じて決定された値を採用することができる。尚、第1の基準遅延時間TArおよび第2の基準遅延時間TBrは、互いに同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。プロセッサ217は、記憶装置から基準遅延時間TArおよびTBrを読み出し、
図14に示すように、第1の遅延時間TAを第1の基準遅延時間TArに設定し、第2の遅延時間TBを第2の基準遅延時間TBrに設定する。基準遅延時間を設定した後、ステップST12に進む。
【0081】
ステップST12では、遅延時間(TA,TB)が基準遅延時間(TAr,TBr)に設定された状態で、管電圧が高kVと低kVとの間で交互に切り替えられるkVスイッチングが実行され、検出器アセンブリ108でX線を検出する。一例として、高kVは140kV、低kVは80kVとすることができる。DAS214は、検出されたX線のエネルギー情報を含むデータに対して、サンプリング処理等を含む所定の処理を実行してデジタルデータに変換し、コンピュータに出力する。
【0082】
ステップST13では、コンピュータのプロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、第1の実効電圧差D1(
図16参照)を計算する。尚、ステップST13はステップST131~ST133を有しているので、各ステップについて順に説明する。
【0083】
ステップST131では、コンピュータのプロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、式(1)に含まれる信号値Sfilt(E)と信号値S(E)とを決定し、高kVに対応する指標値M(=MHr)と、低kVに対応する指標値M(=MLr)を計算する(
図15参照)。
【0084】
図15は、高kVに対応する指標値M(=MHr)と、低kVに対応する指標値M(=MLr)の計算方法の説明図である。
【0085】
プロセッサ217は、高kVのデータ収集が行われる期間31の間に参照領域109(
図10参照)から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、高kVに対応する指標値M(=MHr)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、高kVのデータ収集が行われる期間31がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間31で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間31のうちのM(<N)個の期間31で得られたデータに基づいて決定してもよい。決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、高kVに対応する指標値M(=MHr)を計算する。
【0086】
また、プロセッサ217は、低kVのデータ収集が行われる期間32の間に参照領域109から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、低kVに対応する指標値M(=MLr)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、低kVのデータ収集が行われる期間32がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間32で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間32のうちのM(<N)個の期間32で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0087】
高kVに対応する指標値M(=MHr)と、低kVに対応する指標値M(=MLr)とを計算した後、ステップST132に進む。
【0088】
ステップST132では、プロセッサ217は、指標値M(=MHr)に基づいて高kVに対応する第1の実効電圧値を決定し、指標値M(=MLr)に基づいて低kVに対応する第2の実効電圧値を決定する(
図16参照)。
【0089】
図16は、実効電圧値の決定方法の説明図である。
プロセッサ217は、記憶装置に記憶されたベースライン60を読み出す。そして、プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、高kVの指標値M(=MHr)に対応する第1の実効電圧値VH(=VHr)と、低kVの指標値M(=MLr)に対応する第2の実効電圧値VL(=VLr)とを決定する(
図17参照)。
【0090】
図17は、ベースライン60を用いて実効電圧値VHrおよびVLrを決定する方法の具体的な説明図である。
ベースライン60は、指標値Mと管電圧との関係を表している。したがって、プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、高kVの指標値M(=MHr)に対応する第1の実効電圧値VH(=VHr)を特定することができる。この実効電圧値VHrが、高kVに対応する実効電圧値として決定される。
【0091】
また、プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、低kVの指標値M(=MLr)に対応する第2の実効電圧値VL(=VLr)を特定することができる。この実効電圧値VLrが、低kVに対応する実効電圧値として決定される。
【0092】
図16に戻ると、管電圧波形10には、ベースライン60を使用して決定された実効電圧値VHrと実効電圧値VLrが示されている。実効電圧値VHrおよび実効電圧値VLrを決定した後、ステップST133に進む。
【0093】
ステップST133では、プロセッサ217は、高kVに対応する第1の実効電圧値VH(=VHr)と低kVに対応する第2の実効電圧値VL(=VLr)との差を表す第1の実効電圧差D1を計算する。第1の実効電圧差D1は、
図16に示すように、D1=VHr-VLrである。実効電圧差D1は、実効電圧値(VHr,VLr)および基準遅延時間(TAr,TBr)と対応付けて記憶装置に記憶される。第1の実効電圧差D1を求めた後、ステップST14に進む。
【0094】
ステップST14では、プロセッサ217は、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングが実行されたかどうかを判断する。ここでは、遅延時間を基準遅延時間に設定してkVスイッチングが実行されたが、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングは実行されていない。したがって、ステップST15に進む。
【0095】
ステップST15では、プロセッサ217は、遅延時間を、基準遅延時間よりも長い時間に設定する(
図18参照)。
【0096】
図18は、遅延時間を基準遅延時間よりも長い時間に設定した例を示す図である。
図18には、管電圧波形10が示されており、管電圧波形10の下には、基準遅延時間よりも長い遅延時間が設けられた矩形状の波形70が示されている。尚、参考として、矩形状の波形70の下には、遅延時間が基準遅延時間に設定された矩形状の波形30も示してある。
【0097】
矩形状の波形70では、遅延時間TAは、第1の基準遅延時間TArよりもΔa1だけ長い遅延時間TALに設定されている。また、遅延時間TBは、第2の基準遅延時間TBrよりもΔb1だけ長い遅延時間TBLに設定されている。尚、長い遅延時間TALおよび長い遅延時間TBLは、互いに同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。遅延時間を、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも長い時間(TAL,TBL)に設定したら、ステップST12に戻る。
【0098】
ステップST12では、遅延時間(TA,TB)が、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも長い時間(TAL,TBL)に設定された状態で、管電圧が高kVと低kVとの間で交互に切り替えられるkVスイッチングが実行され、検出器アセンブリ108でX線を検出する。DAS214は、検出されたX線のエネルギー情報を含むデータに対して、サンプリング処理等を含む所定の処理を実行してデジタルデータに変換し、コンピュータに出力する。
【0099】
ステップST13では、コンピュータのプロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、第2の実効電圧差D2(
図20参照)を計算する。具体的には、以下のようにして、第2の実効電圧差D2を計算する。
【0100】
ステップST131では、プロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、式(1)に含まれる信号値Sfilt(E)と信号値S(E)とを決定し、高kVに対応する指標値M(=MHL)と、低kVに対応する指標値M(=MLL)を計算する(
図19参照)。
【0101】
図19は、高kVに対応する指標値M(=MHL)と、低kVに対応する指標値M(=MLL)の計算方法の説明図である。
【0102】
プロセッサ217は、高kVのデータ収集が行われる期間71の間に参照領域109(
図10参照)から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、高kVに対応する指標値M(=MHL)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、高kVのデータ収集が行われる期間71がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間71で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間71のうちのM(<N)個の期間71で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0103】
また、プロセッサ217は、低kVのデータ収集が行われる期間72の間に参照領域109から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、低kVに対応する指標値M(=MLL)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、低kVのデータ収集が行われる期間72がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間72で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間72のうちのM(<N)個の期間72で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0104】
高kVに対応する指標値M(=MHL)と、低kVに対応する指標値M(=MLL)とを計算した後、ステップST132に進む。
【0105】
ステップST132では、プロセッサ217は、指標値M(=MHL)に基づいて高kVに対応する第1の実効電圧値を決定し、指標値M(=MLL)に基づいて低kVに対応する第2の実効電圧値を決定する(
図20参照)。
【0106】
図20は、実効電圧値の決定方法の説明図である。
プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、高kVの指標値M(=MHL)に対応する第1の実効電圧値VH(=VHL)と、低kVの指標値M(=MLL)に対応する第2の実効電圧値VL(=VLL)とを決定する。実効電圧値の決定方法は、
図17を参照しながら説明した方法と同じであるので、詳細な説明は省略する。
図20の管電圧波形10には、ベースライン60を使用して決定された実効電圧値VHLと実効電圧値VLLを示してある。実効電圧値VHLおよび実効電圧値VLLを決定した後、ステップST133に進む。
【0107】
ステップST133では、プロセッサ217は、高kVに対応する第1の実効電圧値VH(=VHL)と低kVに対応する第2の実効電圧値VL(=VLL)との差を表す第2の実効電圧差D2を計算する。第2の実効電圧差D2は、
図20に示すように、D2=VHL-VLLである。第2の実効電圧差D2は、実効電圧値(VHL,VLL)および長い遅延時間(TAL,TBL)と対応付けて記憶装置に記憶される。第2の実効電圧差D2を求めた後、ステップST14に進む。
【0108】
ステップST14では、プロセッサは、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングが実行されたかどうかを判断する。ここでは、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングが実行されたので、ステップST16に進む。
【0109】
ステップST16では、プロセッサは、基準遅延時間よりも短い遅延時間でkVスイッチングが実行されたかどうかを判断する。ここでは、基準遅延時間のkVスイッチングと、基準遅延時間よりも長い遅延時間のkVスイッチングは実行されたが、基準遅延時間よりも短い遅延時間でkVスイッチングは実行されていない。したがって、ステップST17に進む。
【0110】
ステップST17では、プロセッサ217は、遅延時間を、基準遅延時間よりも短い時間に設定する(
図21参照)。
【0111】
図21は、遅延時間を基準遅延時間よりも短い時間に設定した例を示す図である。
図21には、管電圧波形10が示されており、管電圧波形10の下には、基準遅延時間よりも短い遅延時間が設けられた矩形状の波形80が示されている。尚、参考として、矩形状の波形80の下には、遅延時間が基準遅延時間に設定された矩形状の波形30も示してある。
【0112】
矩形状の波形80では、遅延時間TAは、基準遅延時間TArよりもΔa2だけ短い遅延時間TASに設定されている。また、遅延時間TBは、基準遅延時間TBrよりもΔb2だけ短い遅延時間TBSに設定されている。尚、短い遅延時間TASおよび短い遅延時間TBSは、互いに同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。遅延時間を、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも短い時間(TAS,TBS)に設定したら、ステップST12に戻る。
【0113】
ステップSTで12は、遅延時間(TA,TB)が、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも短い時間(TAS,TBS)に設定された状態で、管電圧が高kVと低kVとの間で交互に切り替えられるkVスイッチングが実行され、検出器アセンブリ108でX線を検出する。DAS214は、検出されたX線のエネルギー情報を含むデータに対して、サンプリング処理等を含む所定の処理を実行してデジタルデータに変換し、コンピュータに出力する。
【0114】
ステップST13では、コンピュータのプロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、第3の実効電圧差D3(
図22参照)を計算する。具体的には、以下のようにして、第3の実効電圧差D3を計算する。
【0115】
ステップST131では、プロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、式(1)に含まれる信号値Sfilt(E)と信号値S(E)とを決定し、高kVに対応する指標値M(=MHS)と、低kVに対応する指標値M(=MLS)を計算する(
図22参照)。
【0116】
図22は、高kVに対応する指標値M(=MHS)と、低kVに対応する指標値M(=MLS)の計算方法の説明図である。
【0117】
プロセッサ217は、高kVのデータ収集が行われる期間81の間に参照領域109(
図10参照)から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、高kVに対応する指標値M(=MHS)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、高kVのデータ収集が行われる期間81がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間81で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間81のうちのM(<N)個の期間81で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0118】
また、プロセッサ217は、低kVのデータ収集が行われる期間82の間に参照領域109から得られたデータに基づいて、式(1)の信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を決定し、決定した信号値Sfilt(E)と信号値S(E)を式(1)に代入して、低kVに対応する指標値M(=MLS)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、低kVのデータ収集が行われる期間82がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間82で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間82のうちのM(<N)個の期間82で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0119】
高kVに対応する指標値M(=MHS)と、低kVに対応する指標値M(=MLS)とを計算した後、ステップST132に進む。
【0120】
ステップST132では、プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、高kVの指標値M(=MHS)に対応する第1の実効電圧値VH(=VHS)と、低kVの指標値M(=MLS)に対応する第2の実効電圧値VL(=VLS)とを決定する。実効電圧値の決定方法は、
図17を参照しながら説明した方法と同じであるので、詳細な説明は省略する。
図22の管電圧波形10には、ベースライン60を使用して決定された実効電圧値VHSと実効電圧値VLSを示してある。実効電圧値VHSおよび実効電圧値VLSを決定した後、ステップST133に進む。
【0121】
ステップST133では、プロセッサ217は、高kVに対応する第1の実効電圧値VH(=VHS)と低kVに対応する第2の実効電圧値VL(=VLS)との差を表す第3の実効電圧差D3を計算する。第3の実効電圧差D3は、
図22に示すように、D3=VHS-VLSである。第3の実効電圧差D3は、実効電圧値(VHS,VLS)および短い遅延時間(TAS,TBS)と対応付けて記憶装置に記憶される。したがって、記憶装置には、
図23に示すように、データセットQ1、Q2、およびQ3が記憶される。
【0122】
データセットQ1は、第1の実効電圧差D1と、第1の実効電圧差D1に対応付けられた実効電圧値(VHr,VLr)および基準遅延時間(TAr,TBr)とを含んでいる(
図16参照)。
データセットQ2は、第2の実効電圧差D2と、第2の実効電圧差D2に対応付けられた実効電圧値(VHL,VLL)および長い遅延時間(TAL,TBL)とを含んでいる(
図20参照)。
データセットQ3は、第3の実効電圧差D3と、第3の実効電圧差D3に対応付けられた実効電圧値(VHS,VLS)および短い遅延時間(TAS,TBS)とを含んでいる(
図22参照)。
【0123】
第3の実効電圧差D3を求めた後、ステップST14に進む。
【0124】
ステップST14では、プロセッサ217は、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングが実行されたかどうかを判断する。ここでは、基準遅延時間よりも長い遅延時間でkVスイッチングが実行されたので、ステップST16に進む。
【0125】
ステップST16では、プロセッサ217は、基準遅延時間よりも短い遅延時間でkVスイッチングが実行されたかどうかを判断する。ここでは、基準遅延時間よりも短い遅延時間でkVスイッチングが実行されたので、ステップST18に進む。
【0126】
ステップST18では、プロセッサ217は、第1の実効電圧差D1、第2の実効電圧差D2、および第3の実効電圧差D3に基づいて、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBを最適化する。具体的には、プロセッサ217は、第1の実効電圧差D1、第2の実効電圧差D2、および第3の実効電圧差D3に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBを求める。以下に、最大の実効電圧差が得られるときの第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBを求める方法の一例について説明する。
【0127】
プロセッサ217は、記憶装置から、データセットQ1~Q3を読み出す。
次に、プロセッサ217は、データセットQ1~Q3に基づいて、最大の実効電圧差が得られるように、第1の遅延時間TAおよび第2の遅延時間TBを最適化し、第1の遅延時間TAの最適値を表す第1の最適遅延時間TAOと、第2の遅延時間TBの最適値を表す第2の最適遅延時間TBOとを求める。プロセッサは、例えば、一定の制約(例えば、実効電圧差と遅延時間が正規分布で表されるという制約など)を加えることにより、実効電圧差D1~D3と遅延時間(TAr,TBr)、(TAL,TBL)、(TAS,TBS)に基づいて、第1の最適遅延時間TAOと、第2の最適遅延時間TBOとを求めることができる。尚、データセットQ1~Q3の中から、最大の実効電圧差を含むデータセットを特定し、そのデータセットに含まれる遅延時間を、最適遅延時間(TAO,TBO)として特定してもよい。例えば、データセットQ1~Q3のうち、最大の実効電圧差を含むデータセットがQ2である場合、データセットQ2に含まれる長い遅延時間(TAL,TBL)を、最適遅延時間(TAO,TBO)としてもよい。
【0128】
このようにして、最大の実効電圧差が得られるときの遅延時間である最適遅延時間(TAO,TBO)を求めることができる。プロセッサは、最適遅延時間(TAO,TBO)を記憶装置に登録し、フローを終了する。
【0129】
CTシステム設置作業では、基準遅延時間(TAr,TBr)に対応する第1の実効電圧差D1(
図16参照)の他に、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも長い遅延時間(TAL,TBL)に対応する第2の実効電圧差D2(
図20参照)と、基準遅延時間(TAr,TBr)よりも短い遅延時間(TAS,TBS)に対応する第3の実効電圧差D3(
図22参照)とを計算する。そして、これらの実効電圧差D1、D2、およびD3に基づいて、最大の実効電圧差が得られるときの遅延時間である最適遅延時間(TAO,TBO)を求めることができる。したがって、CT検査で被検体を実際に撮影する場合には、上記のフローで得られた最適化された遅延時間である最適遅延時間(TAO,TBO)に基づいて、高kVに対応する投影データと、低kVに対応する投影データを取得することができる。したがって、最大の実効電圧差が得られるときの遅延時間で、高kVに対応する投影データと、低kVに対応する投影データを取得することができるので、高品質なCT画像を再構成することができる。
【0130】
尚、
図13のフローでは、基準遅延時間(TAr,TBr)、長い遅延時間(TAL,TBL)、および短い遅延時間(TAS,TBS)に対してkVスイッチングが実行されている。つまり、3通りの遅延時間に対してkVスイッチングが実行されている。しかし、2通りの遅延時間を設定して、2通りの遅延時間に対してkVスイッチングを実行してもよいし、4通り以上の遅延時間を設定し、4通り以上の遅延時間に対してkVスイッチングを実行してもよい。
【0131】
次に、施設に設置されたCTシステムを実際に稼働し始めてから、CTシステムのユーザがCTシステムのキャリブレーションを定期的に実行する場合に、最適な遅延時間を求める例について説明する。
【0132】
(2)CTシステムのユーザがCTシステムのキャリブレーションを定期的に実行する場合に、最適な遅延時間を求める方法
図24は、ユーザがキャリブレーションを定期的に実行する場合において、最適な遅延時間を求める方法のフロー図である。
【0133】
ステップST20では、プロセッサ217は、記憶装置にアクセスし、登録されている遅延時間の最新の値を読み出す。
図25は、登録されている遅延時間の最新の値の説明図である。
【0134】
図25の上段には、管電圧波形10が示されており、下段には、矩形状の波形50が示されている。矩形状の波形50は、高kVに対応する期間51と、低kVに対応する期間52を表す波形である。
【0135】
矩形状の波形50には、第1の登録された遅延時間TANと第2の登録された遅延時間TBNが示されている。第1の登録された遅延時間TANは、第1の遅延時間TAの最新の値として登録された遅延時間を表しており、第2の登録された遅延時間TBNは、第2の遅延時間TBの最新の値として登録された遅延時間を表している。尚、遅延時間TANおよび遅延時間TBNは、互いに同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、実効電圧値VH(=VHN)および実効電圧値VL(=VLN)は、それぞれ、期間51および52に対して得られた実効電圧値である。第4の実効電圧差D4は、実効電圧値VH(=VHN)と実効電圧値VL(=VLN)との差を表している。登録された遅延時間(TAN,TBN)、実効電圧値(VHN,VLN)、および第4の実効電圧差D4は、互いに対応付けられ、
図25の下に示すように、データセットQ4として記憶装置に記憶されている。プロセッサ217は、記憶装置にアクセスし、データセットQ4の中から、第1の登録された遅延時間TANと、第2の登録された遅延時間TBNを読み出す。プロセッサ217が、登録された遅延時間(TAN,TBN)を読み出したら、ステップST21に進む。
【0136】
ステップST21では、プロセッサ217は、遅延時間を、登録された遅延時間(TAN,TBN)とは異な遅延時間に設定する(
図26参照)。
【0137】
図26は、登録された遅延時間(TAN,TBN)とは異なる時間に設定された遅延時間を示す図である。
図26には、管電圧波形10が示されており、管電圧波形10の下には、矩形状の波形90が示されている。
【0138】
矩形状の波形90は、高kVに対応する期間91と、低kVに対応する期間92を表す波形である。矩形状の波形90には、第1の登録された遅延時間TANとは異なる第1の別の遅延時間TAFと、第2の登録された遅延時間TBNとは異なる第2の別の遅延時間TBFが設けられている。
【0139】
矩形状の波形90において、第1の別の遅延時間TAFは、第1の登録された遅延時間TANよりもΔa3だけ長い遅延時間に設定されている。また、第2の別の遅延時間TBFは、第2の登録された遅延時間TBNよりもΔb3だけ長い遅延時間に設定されている。尚、
図26では、別の遅延時間(TAF,TBF)は、それぞれ、登録された遅延時間(TAN,TBN)よりも長い遅延時間であるが、登録された遅延時間(TAN,TBN)よりも短い遅延時間であってもよい。別の遅延時間(TAF,TBF)を設定した後、ステップST22に進む。
【0140】
ステップST22では、遅延時間が、別の遅延時間(TAF,TBF)に設定された状態で、管電圧が高kVと低kVとの間で交互に切り替えられるkVスイッチングが実行され、検出器アセンブリ108でX線を検出する。一例として、高kVは140kV、低kVは80kVとすることができる。DAS214は、検出されたX線のエネルギー情報を含むデータに対して、サンプリング処理等を含む所定の処理を実行してデジタルデータに変換し、コンピュータに出力する。
【0141】
ステップST23では、コンピュータのプロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、第5の実効電圧差D5を計算する(
図27参照)。
【0142】
図27は、第5の実効電圧差D5の計算方法の説明図である。尚、ステップST23は、
図13に示すステップST13と同じであるので、以下では、簡単に説明する。
【0143】
ステップST131では、プロセッサ217が、DAS214から受け取ったデータに基づいて、式(1)に含まれる信号値Sfilt(E)と信号値S(E)とを決定し、高kVに対応する指標値M(=MHF)と、低kVに対応する指標値M(=MLF)を計算する。尚、kVスイッチングのスキャンにおいて、高kVのデータ収集が行われる期間91がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間91で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間91のうちのM(<N)個の期間91で得られたデータに基づいて決定してもよい。また、kVスイッチングのスキャンにおいて、低kVのデータ収集が行われる期間92がN個現れる場合、信号値Sfilt(E)および信号値S(E)は、N個の期間92で得られた全データに基づいて決定してもよいし、N個の期間92のうちのM(<N)個の期間92で得られたデータに基づいて決定してもよい。
【0144】
高kVに対応する指標値M(=MHF)と、低kVに対応する指標値M(=MLF)とを計算した後、ステップST132に進む。
【0145】
ステップST132では、プロセッサ217は、ベースライン60に基づいて、高kVの指標値M(=MHF)に対応する実効電圧値VH(=VHF)と、低kVの指標値M(=MLF)に対応する実効電圧値VL(=VLF)とを決定する。実効電圧値VHFおよび実効電圧値VLFを決定した後、ステップST133に進む。
【0146】
ステップST133では、プロセッサ217は、高kVに対応する実効電圧値VH(=VHF)と低kVに対応する実効電圧値VL(=VLF)との差を表す第5の実効電圧差D5を計算する。第5の実効電圧差D5は、
図27に示すように、D5=VHF-VLFである。第5の実効電圧差D5、実効電圧値(VHF,VLF)および遅延時間(TAF,TBF)は、1つのデータセットとして、記憶装置に記憶される。
図28に、記憶装置に記憶されたデータセットQ4およびQ5を示す。データセットQ4は、先の
図25で説明した登録された遅延時間(TAN,TBN)、実効電圧値(VHN,VLN)、および第4の実効電圧差D4を含むデータセットである。一方、データセットQ5は、
図24のフローのステップST21で設定された別の遅延時間(TAF,TBF)と、ステップST23で得られた実効電圧値(VHF,VLF)および実効電圧差D5を含むデータセットである。データセットQ5を記憶した後、ステップST24に進む。
【0147】
ステップST24では、プロセッサ217は、データセットQ4の登録された遅延時間(TAN,TBN)に対応する第4の実効電圧差D4と、データセットQ5の別の遅延時間(TAF,TBF)に対応する第5の実効電圧差D5とを比較する。D5>D4の場合、これは、ステップST21で設定した遅延時間(TAF,TBF)が、登録された遅延時間(TAN,TBN)よりも、大きい実効電圧差を得ることができることを意味する。したがって、D5>D4の場合、ステップST21で設定した遅延時間(TAF,TBF)は、登録された遅延時間(TAN,TBN)よりも、画質を向上させることができると考えられる。このため、D5>D4の場合、ステップST25に進み、遅延時間を、第5の実効電圧差D5に対応する別の遅延時間(TAF,TBF)に更新し、フローを終了する。
【0148】
一方、D5≦D4の場合、これは、ステップST21で設定した遅延時間(TAF,TBF)が、登録された遅延時間(TAN,TBN)と同じ実効電圧差又は小さい実効電圧差を有することを意味する。したがって、D5≦D4の場合、ステップST21で設定した遅延時間(TAF,TBF)は、登録された遅延時間(TAN,TBN)よりも、画質を向上させることは困難であると考えられる。このため、D5≦D4の場合、ステップST26に進み、遅延時間を更新せずに、登録された遅延時間(TAN,TBN)を維持し、フローを終了する。
【0149】
図24に示すフローでは、ステップST21で設定された遅延時間(TAF,TBF)に対して1回のキャリブレーションスキャンが実行され、1回のキャリブレーションスキャンにより得られたデータに基づいて、遅延時間を更新するかどうかが判断される。したがって、
図24に示すフローは、1回のキャリブレーションスキャンを実行すればよいだけなので、できるだけ短時間で終わらせることが優先されるキャリブレーションに適している。例えば、ユーザは、1日に1回を目処にデイリーキャリブレーションを実行することが推奨されている場合がある。しかし、デイリーキャリブレーションは、ユーザの日々の忙しい業務の中で、原則として毎日実行しなければならない作業であるため、ユーザの立場としては、デイリーキャリブレーションは、できるだけ短時間で済ませたい作業になる。そこで、デイリーキャリブレーションに、
図24に示すフローを組み込むことにより、ユーザは、1回のキャリブレーションスキャンで遅延時間を更新する作業を完了することができるので、キャリブレーションに掛かる時間を短縮することが可能となる。
【0150】
尚、本発明は、管電圧を切り替えながらスキャンを実行するのであれば、フルスキャンだけでなく、ハーフスキャンを実行する場合にも適用することができる。
【0151】
尚、本実施形態では、医用システムとしてCTシステム100を使用した例が示されている。しかし、本発明は、CTシステム100に限定されることはなく、X線源を被検体に照射する医用システムであれば、CTシステム100以外の他のシステム(例えば、PET-CTシステム)に適用することができる。
【符号の説明】
【0152】
60 ベースライン
100 CTシステム
102 ガントリ
103 フィルタ部
104 X線管
104A X線
104B X線
104C X線
105 前置コリメータ
106 X線
107 ボア
108 検出器アセンブリ
109 参照領域
109A 第2のサブ領域
109B 第1のサブ領域
112 検体
116 テーブル
118 テーブルモータコントローラ
120 中心位置
121 端部
122 端部
123 検出器コリメータ
124 フィルタ
202 検出器素子
202A 検出器素子
202B 検出器素子
206 回転軸
210 X線コントローラ
212 ガントリモータコントローラ
214 DAS
216 コンピュータ
217 プロセッサ
218 記憶装置
220 オペレータコンソール
224 PACS
230 画像再構成器
232 表示装置
【要約】 (修正有)
【課題】最適な遅延時間を求めることができる技術を提供する。
【解決手段】管電圧を高kVに切り替えてからデータの収集を開始するまでの第1の遅延時間TAと、管電圧を低kVに切り替えてからデータの収集を開始するまでの第2の遅延時間TBを設定すること、X線管に高kVが印加された場合、高kVの第1の実効電圧値VHを決定すること、X線管に低kVが印加された場合、低kVの第2の実効電圧値VLを決定すること、および実効電圧値VHと実効電圧値VLとの差を表す実効電圧差を計算することを実行し、更に、上記のステップを複数回実行することによって、複数の実効電圧差を取得し、前記複数の実効電圧差に基づいて、第1の最適遅延時間TANと、前記第2の最適遅延時間TBNとを求めることを実行する。
【選択図】
図16