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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】欠陥検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
G01N25/18 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022579205
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003831
(87)【国際公開番号】W WO2022168191
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】324003956
【氏名又は名称】三菱ジェネレーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】葉名 紀彦
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-151809(JP,A)
【文献】特開2003-185608(JP,A)
【文献】特開2015-190838(JP,A)
【文献】特開2014-240801(JP,A)
【文献】特表2017-527813(JP,A)
【文献】特開2011-226855(JP,A)
【文献】特開平03-197856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105973929(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109540968(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、前記検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、前記第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、前記第1サーモカメラおよび前記第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、前記加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部、およびこの熱流束逆解析部の推定結果を用いて前記検査対象物の前記第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定する欠陥逆解析部を有し、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定とその後に行う前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定とを他方の結果に基づき各解析のモデルを更新して繰り返して推定した前記検査対象物の欠陥の位置と大きさから前記検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備える欠陥検査装置。
【請求項2】
前記欠陥逆解析部は、前記第2温度測定領域の温度分布の時間変化から前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定する請求項1に記載の欠陥検査装置。
【請求項3】
検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、前記検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、前記第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、前記第1サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、前記加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部、および前記熱流束逆解析部の推定結果と前記第2サーモカメラの測定データとに基づき、前記検査対象物の前記第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定する欠陥逆解析部を有し、推定した前記検査対象物の欠陥の位置と大きさから前記検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備え、
前記解析部は、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定とその後に行う前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定とを他方の結果に基づき各解析のモデルを更新して繰り返す欠陥検査装置。
【請求項4】
前記欠陥逆解析部は、前記検査対象物の欠陥の分布を表す欠陥分布ベクトルを推定し、
前記解析部は、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定とその後に行う前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定との繰り返しを欠陥の推定結果の前回からの前記欠陥分布ベクトルの変化量が基準値以下となるまで繰り返す請求項に記載の欠陥検査装置。
【請求項5】
検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、前記検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、前記第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、前記第1サーモカメラおよび前記第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、前記加熱部による熱流束を推定し、この熱流束の推定結果を用いて前記検査対象物の前記第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定し、この欠陥の位置と大きさの推定結果を用いて再度熱流束を推定することを繰り返して、推定した前記検査対象物の欠陥の位置と大きさから前記検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備え、
前記解析部は、モデル生成部と、推定部と、解析結果判定部とを備え、
前記モデル生成部は、前記検査対象物の形状および材質に基づいて形状モデルを作成し、さらに前記形状モデルから熱流束推定モデルおよび欠陥推定モデルを生成し、
前記推定部は、前記モデル生成部が生成した前記熱流束推定モデルと前記第1サーモカメラの測定データに基づき、前記加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部と、前記モデル生成部が生成した前記欠陥推定モデルと前記第2サーモカメラの測定データに基づき、前記検査対象物の欠陥の位置と大きさとを推定する欠陥逆解析部とを備え、
前記モデル生成部は、前記熱流束逆解析部の推定結果を基に前記熱流束推定モデルの熱流束の境界条件を更新し、前記欠陥逆解析部の推定結果に基づき前記欠陥推定モデルの前記欠陥の位置の要素の熱伝導率を更新し、
前記モデル生成部および前記推定部は協働して、前記欠陥の位置の要素数の変化量が基準値以下になるまで、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定と前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定、さらに前記モデル生成部による前記形状モデルの更新、および前記形状モデルの更新に基づいた前記熱流束推定モデルと前記欠陥推定モデルの変更を繰り返し、
前記解析結果判定部は、前記欠陥の位置の要素数の変化量が基準値以下になったとき、前記欠陥の大きさと位置から前記検査対象物の異常の有無を判定する欠陥検査装置。
【請求項6】
前記モデル生成部は、形状モデル生成部と、熱流束推定モデル生成部と、欠陥推定モデル生成部とを備え、
前記形状モデル生成部は、前記検査対象物のあらかじめ設定された形状および材質に基づいて、前記検査対象物の前記形状モデルを生成し、
前記熱流束推定モデル生成部は、前記形状モデル生成部が生成した前記形状モデルから、前記熱流束推定モデルを生成し、
前記欠陥推定モデル生成部は、前記形状モデル生成部が生成した前記形状モデルから、前記欠陥推定モデルを生成する、請求項5に記載の欠陥検査装置。
【請求項7】
1台のサーモカメラで、前記検査対象物の前記第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化の測定および前記検査対象物の前記第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化の測定を行う構成とした、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の欠陥検査装置。
【請求項8】
前記加熱部と前記第1サーモカメラとの相対位置が固定されている構成とした、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の欠陥検査装置。
【請求項9】
前記検査対象物の構造から構造解析によって、前記検査対象物の欠陥の発生が予想される領域をあらかじめ決定して、前記解析部の前記モデル生成部に前記欠陥の発生が予想される領域のデータをあらかじめ設定する構成とした、請求項5または請求項6に記載の欠陥検査装置。
【請求項10】
前記検査対象物は複数の部品から構成され、
前記検査対象物の欠陥による前記複数の部品の接触面の面圧を構造解析で求め、前記接触面の面圧を前記解析部の前記モデル生成部にあらかじめ設定する構成とし、
前記解析部の前記モデル生成部は、前記検査対象物の形状モデルを生成し、前記接触面の面圧から接触熱抵抗を算出し、前記熱流束推定モデルおよび前記欠陥推定モデルの生成に用いる、請求項5に記載の欠陥検査装置。
【請求項11】
前記加熱部は、放射熱で加熱対象表面を加熱する機器、レーザーで加熱対象表面を加熱する機器、あるいは電磁誘導で加熱対象表面を加熱する機器のいずれかの非接触加熱機器である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の欠陥検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、欠陥検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タービン発電機の回転子ウェッジは、回転子コイルが遠心力によりロータから飛び出ることを防ぐ部品であり、その内部に運転時の遠心力により欠陥が生じることがある。欠陥を放置したまま運転を続けると、欠陥が成長し、発電機の破損につながることがあるため、定期的な検査が必要である。
【0003】
現在、この欠陥を超音波検査で探傷しているが、発電機の検査の短縮のために、発電機を分解せずに検査する技術が求められている。しかし、超音波では分解せずに検査できない発電機がある。
また、欠陥の検査装置として、例えば鉄筋コンクリートの鉄骨に入熱し、サーモカメラでコンクリートの表面の温度分布を測定し、3次元熱解析と逆解析を用いて鉄骨とコンクリートの内部の欠陥を推定する装置が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-139731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献の装置を適用する場合、発電機内では検査装置とヒータの固定が困難であり、熱流束分布が不定となるため、欠陥判定の精度が低下する問題がある。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、検査対象の加熱が不安定になる環境でも、構造物内部における欠陥を精度よく推定でき、小型化できる検査装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される欠陥検査装置は、検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、第1サーモカメラおよび第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部、およびこの熱流束逆解析部の熱流束の推定結果を用いて検査対象物の第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定する欠陥逆解析部を有し、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定とその後に行う前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定とを他方の結果に基づき各解析のモデルを更新して繰り返して、推定した検査対象物の欠陥の位置と大きさから検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備えたものである。
本願に開示される欠陥検査装置は、検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、前記検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、前記第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、前記第1サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、前記加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部、および前記熱流束逆解析部の推定結果と前記第2サーモカメラの測定データとに基づき、前記検査対象物の前記第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定する欠陥逆解析部を有し、推定した前記検査対象物の欠陥の位置と大きさから前記検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備え、前記解析部は、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定とその後に行う前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定とを他方の結果に基づき各解析のモデルを更新して繰り返すものである。
本願に開示される欠陥検査装置は、検査対象物の第1温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1サーモカメラと、前記検査対象物の第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第2サーモカメラと、前記第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、前記第1サーモカメラおよび前記第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、前記加熱部による熱流束を推定し、この熱流束の推定結果を用いて前記検査対象物の前記第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある前記検査対象物の欠陥の位置と大きさを推定し、この欠陥の位置と大きさの推定結果を用いて再度熱流束を推定することを繰り返して、推定した前記検査対象物の欠陥の位置と大きさから前記検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備え、前記解析部は、モデル生成部と、推定部と、解析結果判定部とを備え、前記モデル生成部は、前記検査対象物の形状および材質に基づいて形状モデルを作成し、さらに前記形状モデルから熱流束推定モデルおよび欠陥推定モデルを生成し、前記推定部は、前記モデル生成部が生成した前記熱流束推定モデルと前記第1サーモカメラの測定データに基づき、前記加熱部による熱流束を推定する熱流束逆解析部と、前記モデル生成部が生成した前記欠陥推定モデルと前記第2サーモカメラの測定データに基づき、前記検査対象物の欠陥の位置と大きさとを推定する欠陥逆解析部とを備え、前記モデル生成部は、前記熱流束逆解析部の推定結果を基に前記熱流束推定モデルの熱流束の境界条件を更新し、前記欠陥逆解析部の推定結果に基づき前記欠陥推定モデルの前記欠陥の位置の要素の熱伝導率を更新し、前記モデル生成部および前記推定部は協働して、前記欠陥の位置の要素数の変化量が基準値以下になるまで、前記熱流束逆解析部による熱流束の推定と前記欠陥逆解析部による前記欠陥の推定、さらに前記モデル生成部による前記形状モデルの更新、および前記形状モデルの更新に基づいた前記熱流束推定モデルと前記欠陥推定モデルの変更を繰り返し、
前記解析結果判定部は、前記欠陥の位置の要素数の変化量が基準値以下になったとき、前記欠陥の大きさと位置から前記検査対象物の異常の有無を判定するものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される欠陥検査装置によれば、検査対象の加熱が不安定になる環境でも、構造物内部における欠陥を精度よく推定でき、欠陥検査装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1による欠陥検査装置の機能ブロック図である。
図2】実施の形態1による欠陥検査装置に係る検査対象物と測定部、加熱部の配置図である。
図3】実施の形態1による欠陥検査装置に係る検査対象物の解析対象の説明図である。
図4】実施の形態1による欠陥検査装置に係る第1温度測定領域の解析用の格子説明図である。
図5】実施の形態1による欠陥検査装置に係る第2温度測定領域の解析用の格子説明図である。
図6】実施の形態1による欠陥検査装置に係る欠陥発生予想領域の解析用の格子説明図である。
図7】実施の形態1による欠陥検査装置に係る検査処理のフローチャートである。
図8】実施の形態1による欠陥検査装置に係るハードウェア構成例のブロック図である。
図9】実施の形態2による欠陥検査装置に係る検査対象物と測定部、加熱部の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1は、検査対象物の第1、第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1、第2サーモカメラと、第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、第1、第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、加熱部による熱流束、および検査対象物の第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱伝導経路上にある検査対象物の欠陥の位置と大きさを求め、検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備えた欠陥検査装置に関するものである。
【0011】
以下、実施の形態1に係る欠陥検査装置の構成および動作について、欠陥検査装置の機能ブロック図である図1、検査対象物と測定部、加熱部の配置図である図2、検査対象物の解析対象の説明図である図3、第1温度測定領域の解析用の格子説明図である図4、第2温度測定領域の解析用の格子説明図である図5、欠陥発生予想領域の解析用の格子説明図である図6、検査処理のフローチャートである図7、およびハードウェア構成例のブロックである図8に基づいて説明する。
【0012】
実施の形態1の欠陥検査装置システムおよび欠陥検査装置1の全体の構成を図1の機能ブロック図に基づいて説明する。
欠陥検査装置システムは、欠陥検査装置1と欠陥検査の対象である検査対象物6とで構成される。本欠陥検査装置1は、タービン発電機の回転子ウェッジの欠陥を検査することを目的としているが、タービン発電機の回転子ウェッジ全体は省略し、3次元熱解析有限要素法を用いて検査する対象を模式的に検査対象物6として表している。
【0013】
欠陥検査装置1の構成について説明する。
欠陥検査装置1は、解析部2、データ取得部3、測定部4、加熱部5を備えている。
解析部2は、モデル生成部21と、推定部22と、繰り返し判定部23と、解析結果判定部24とを備えている。なお、図1において、「繰り返し判定部」は「繰返判定部」と記載している。
モデル生成部21は、形状モデル生成部211と、熱流束推定モデル生成部212と、欠陥推定モデル生成部213とを備える。推定部22は、熱流束逆解析部221と、欠陥逆解析部222とを備える。
データ取得部3は、第1熱データ取得部31と、第2熱データ取得部32とを備える。
以下、欠陥検査装置1の各部の構成、機能、動作について、信号の発生、測定、処理の順で、熱源である加熱部5から順次説明していく。
【0014】
まず、検査対象物6と測定部4、加熱部5の配置図である図2に基づいて、測定部4と加熱部5の構成、機能、動作を説明する。合わせて、検査対象物6の構造について説明する。
測定部4は、2台のサーモカメラ、すなわち第1サーモカメラ41、第2サーモカメラ42を備える。第1サーモカメラ41、および第2サーモカメラ42はそれぞれの異なった検査対象物6の表面の領域の温度を測定する。
第1サーモカメラ41が測定する領域を第1温度測定領域61とし、第2サーモカメラ42が測定する領域を第2温度測定領域62とする。
【0015】
加熱部5は、ヒータ51と電源(図示なし)とからなる。図2において、ヒータ51を検査対象物6の第1温度測定領域61の一部に接触させている。
ヒータ51は、電源から供給された電力を用いて熱を発生し、この熱が第1温度測定領域61の一部に伝わることで、第1温度測定領域61の一部の表面の温度が上昇する。
【0016】
サーモカメラとは、赤外線を検知するセンサを備え、温度を測定する対象の表面の温度を、広範囲にわたって、同時に測定し、温度分布を求めることができる。
第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で一定の時間間隔で検査対象物6の第1温度測定領域61および第2温度測定領域62の温度分布をそれぞれ取得する。
【0017】
一般的に、サーモカメラで検知される赤外線には、検査対象物表面の温度により生じた赤外線の他に、検査対象物表面で反射され、サーモカメラに届くものがある。検査対象物6の表面に反射を防止する塗料などを塗ることで、検査対象物6の表面の状態によって生じる、すなわち反射による赤外線を抑制することができる。
検査対象物6の表面からの反射による赤外線を抑制することで、第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で測定した温度分布の誤差を低減することができる。
【0018】
図2に示すように、検査対象物6内に欠陥の発生が予想される領域を定め、欠陥発生予想領域63とする。また、第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で測定する第1温度測定領域61および第2温度測定領域62は、欠陥発生予想領域63を挟み込むように配置されている必要がある。すなわち、検査対象物6の欠陥は第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱が伝導する経路上にある。
欠陥発生予想領域63は、後で説明するように、別途構造解析を行って決定され、欠陥検査装置1にデータとして設定される。
【0019】
第1温度測定領域61、第2温度測定領域62の内の片方の温度測定領域の一部を加熱部5のヒータ51によって加熱する必要がある。実施の形態1では、第1温度測定領域61にヒータ51を設置する構成としている。
第1温度測定領域61は、ヒータ51によって加熱されていない領域を含む。これは、ヒータ51で加熱している領域の近傍の温度分布を第1サーモカメラ41で測定するためである。
ヒータ51によって加熱される領域、すなわち第1温度測定領域61内のヒータ51が接触している領域の位置と大きさは、測定部4が第1サーモカメラ41からの測定データから算出し、モデル生成部21の形状モデル生成部211に伝達される。この情報の伝達を図1では、A1と記載している。
【0020】
測定部4の第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42は、それぞれ第1温度測定領域61と第2温度測定領域62の表面の温度分布を一定の時間間隔で測定する。測定された温度分布の測定データは、データ取得部3に伝達される。
第1サーモカメラ41によって第1温度測定領域61の一定の時間間隔で測定された温度分布は、データ取得部3の第1熱データ取得部31に伝達される。この情報の伝達を図1では、A2と記載している。
第2温度測定領域62の一定の時間間隔で測定された温度分布は、データ取得部3の第2熱データ取得部32に伝達される。この情報の伝達を図1では、A3と記載している。
【0021】
データ取得部3は、測定部4から伝達された第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42のそれぞれによって一定の時間間隔で測定された温度分布から、検査対象物6の加熱熱流束および欠陥を推定するための解析に用いるデータ構造を作成し、解析部2に伝達する。データ構造については、後で説明する。
【0022】
次に、3次元熱解析有限要素法を用いるために必要な検査対象物6の第1温度測定領域61、第2温度測定領域62、および欠陥発生予想領域63の格子要素の区切りの例を図3図6に基づいて説明する。
図3は、検査対象物6のヒータ51設置領域を含めた第1温度測定領域61および第2温度測定領域62を格子点状に区切った図である。図3では、それぞれ領域611、領域621としている。なお、ヒータ51設置領域を領域511としている。
また、欠陥発生予想領域63については、領域631であるが、図面上で格子点状に区切ることが難しいため、斜線を記載している。
【0023】
図4は第1温度測定領域61の格子点の区切り、すなわち解析用の格子の例を説明している。図4図3の領域611に対応している。
図4に示すように、検査対象物6の表面の第1温度測定領域61は、複数の格子(要素A)に分割されている。各要素Aは、X軸方向に沿ってm個に分割され、Y軸方向に沿ってn個に分割されている。第1温度測定領域61が横m個および縦n個の格子状に分割されることにより、各格子は交差し、第1温度測定領域61にはm×n個の要素Aが作成される。
【0024】
第1温度測定領域61の各格子点の座標は、(i,j)により表される。(i,j)の原点は、(0,0)である。iとjの値がそれぞれ最大となる位置は、(m,n)である。各格子を節点とすると、各節点は要素Aを形成する線上に位置する点である。
【0025】
図5は第2温度測定領域62の格子点の区切り、すなわち解析用の格子の例を説明している。図5図3の領域621に対応している。
図5に示すように、検査対象物6の表面の第2温度測定領域62は、複数の格子(要素B)に分割されている。各要素Bは、X軸方向に沿ってr個に分割され、Y軸方向に沿ってs個に分割されている。第2温度測定領域62が横r個および縦s個の格子状に分割されることにより、各格子は交差し、第2温度測定領域62にはr×s個の要素Bが作成される。
第2温度測定領域62の各格子点の座標は、(i,j)により表される。(i,j)の原点は、(0,0)である。iとjの値がそれぞれ最大となる位置は、(r,s)である。各格子を節点とすると、各節点は、要素Bを形成する線上に位置する点である。
【0026】
データ取得部3では、測定部4から伝達されてきた第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で測定した温度分布から、各格子点の位置の温度を算出する。第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42の温度分布から作成される格子点の数は一致しなくともよい。
【0027】
ここで、図6で欠陥発生予想領域63の格子点の区切り、すなわち格子要素の例を説明する。なお、図6図3の領域631に対応している。
図6に示すように、欠陥発生予想領域63は、複数の要素Cに分割されている。各要素Cは、X軸方向に沿ってj個に分割され、Z軸方向に沿ってk個に分割され、Y軸方向には1個である。すなわち、欠陥発生予想領域63の要素CはY軸方向にも一定の長さを持っている6面体である。
【0028】
各格子の座標は、(i,j)により表される。(i,j)の原点は、(0,0)である。iとjのそれぞれの値が最大となる位置は、(j,k)である。各格子点を節点とすると、各節点は、要素Cを形成する線上に位置する点である。
欠陥発生予想領域63内にはj×k個に区切られた要素が存在する。要素を構成する4つの格子点のうち、最もi及びjの値が小さい格子点でその要素の位置を表すとする。例えば、(i,j)、(i,j+1)、(i+1,j)、(i+1,j+1)の4つの格子点からなる要素の位置を(i,j)と表す。
【0029】
次に、データ取得部3で作成する3次元熱解析に使用するデータ構造について、説明する。
ある温度分布を測定した時の時間tは、測定を開始する時間を0とし、測定の時間間隔をΔtとすると、(1)式で表される。ここで、温度分布を測定する時間間隔を一定としているため、Δtは一定値となる。
【0030】
【数1】
【0031】
(1)式において、τは整数であり、撮影終了時刻のτをτmaxとする。
第1サーモカメラ41、第2サーモカメラ42の温度の測定を開始する時間、終了する時間、および温度を測定する時間間隔は同じ値に設定する。
このように設定することで、同じ時間に第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で測定された温度の分布のデータをτで整理することができる。この結果、欠陥の解析を簡素化かつ高速化することができる。
【0032】
まず第1温度測定領域61の温度分布の時間変化に関するデータ構造について説明する。図4の座標系において、時間がtにおける(i,j)での温度をT1τ(i,j)とする。
時間tにおける表面温度分布を表す表面温度分布ベクトルT1τを(2)式で定義する。 第1温度測定領域61の格子点の数は(m+1)×(n+1)個あるため、T1τは(m+1)×(n+1)次元ベクトルである。
【0033】
【数2】
【0034】
このT1τから、表面の温度分布の時間変化を示す行列T1を(3)式で定義し、温度分布時間行列と称する。
【0035】
【数3】
【0036】
上記T1τ、T1の作成と同様に、第2サーモカメラ42による第2温度測定領域62の測定データから、第2温度測定領域62の表面温度分布ベクトルT2τと温度分布時間行列T2を作成する。ただし、T2τは(r+1)×(s+1)次元ベクトルとなる。
なお、以降の説明において、表面温度分布ベクトルT1τ、温度分布時間行列T1と表面温度分布ベクトルT2τ、温度分布時間行列T2を区別する必要がなく、まとめて記載する場合は、適宜表面温度分布ベクトルTτ、温度分布時間行列Tと記載する。
【0037】
データ取得部3では、2台のサーモカメラで一定の時間間隔で測定したそれぞれの温度測定領域の温度分布から、この温度分布時間行列Tを生成し、解析部2の推定部22に伝達する。
第1サーモカメラ41が測定した第1温度測定領域61の測定データは、第1熱データ取得部31に伝達され、温度分布時間行列T1を作成する。第1熱データ取得部31は、この温度分布時間行列T1を推定部22の熱流束逆解析部221に伝達する。図1では、この情報の伝達をC1と記載している。
第2サーモカメラ42が測定した第2温度測定領域62の測定データは、第2熱データ取得部32に伝達され、温度分布時間行列T2を作成する。第2熱データ取得部32は、この温度分布時間行列T2を推定部22の欠陥逆解析部222に伝達する。図1では、この情報の伝達をC2と記載している。
【0038】
次に、解析部2のモデル生成部21、推定部22、繰り返し判定部23、および解析結果判定部24の機能、解析処理について説明する。
【0039】
推定部22の熱流束逆解析部221は、データ取得部3から伝達された温度分布時間行列T1に基づき、検査対象物6のヒータ51による熱流束を推定する。
また、欠陥逆解析部222はデータ取得部3から伝達された温度分布時間行列T2に基づき、検査対象物6の欠陥発生予想領域63における欠陥の位置と大きさを推定する。
解析結果判定部24は、推定部22の欠陥逆解析部222によって推定された検査対象物6の欠陥の分布(位置と大きさ)を判定し、その結果を出力する。
【0040】
次に解析部2のモデル生成部21について説明する。
モデル生成部21の形状モデル生成部211は、欠陥検査装置内にあらかじめ設定された検査対象物6の形状と材質のデータから検査対象物6の形状モデルを生成する。
形状モデル生成部211は、生成した形状モデルを熱流束推定モデル生成部212と欠陥推定モデル生成部213とに伝達する。図1では、この情報伝達をそれぞれB1、B2と記載している。
【0041】
熱流束推定モデル生成部212と欠陥推定モデル生成部213はそれぞれ、形状モデル生成部211が生成した形状モデルからそれぞれの目的に適した3次元熱解析モデルを生成する。
熱流束推定モデル生成部212は、形状モデルから熱流束推定モデルを生成し、熱流束逆解析部221へ伝達する。図1では、この情報伝達をD1と記載している。
欠陥推定モデル生成部213は、形状モデルから欠陥推定モデルを生成し、欠陥逆解析部222へ伝達する。図1では、この情報伝達をD2と記載している。
【0042】
3次元熱解析モデルは、3次元熱解析を行うときに使用するモデルである。3次元熱解析を行うためには、3次元熱解析モデルと3次元熱解析モデルに対する境界条件とが必要である。
境界条件は、熱流束と固定温度境界条件から構成される。すなわち、3次元熱解析が行われるためには、3次元熱解析モデル、熱流束境界条件および固定温度境界条件の3つが必要である。ただし、実施の形態1の欠陥検査装置1では、加熱部5のヒータ51による熱流束境界条件は、推定部22の熱流束逆解析部221の逆解析処理で求める。
【0043】
第1温度測定領域61のヒータ51で加熱される領域以外の熱流束の境界条件は、検査対象物6と検査対象物6に接している物体との温度差によって定義される。
一方、固定温度境界条件は、検査対象物6が熱浴に接している場合において熱浴に接する面における温度の変化をゼロとする情報が定義される。
実施の形態1の欠陥検査装置1では、ヒータ51で加熱される領域以外の領域の熱流束境界条件は、断熱条件にし、ヒータ51による加熱領域以外の検査対象物6の表面を通過する熱流速をゼロとして解析を行う。
【0044】
形状モデル生成部211で生成する形状モデルの格子点と要素の配置は、データ取得部3で作成した格子点の配置と同じのものとする。このような構成にすることで、推定部22で解析を行う際に、データ取得部3から伝達される温度分布時間行列T1、T2の適用が容易になり、熱流束および欠陥の解析が簡素化できる。
【0045】
図3を参照して、形状モデル生成部211が生成する形状モデルについて説明する。
形状モデルには、第1温度測定領域61、第2温度測定領域62、第1温度測定領域61内のヒータ51によって加熱される領域、および欠陥発生予想領域63が設定されている。
形状モデル生成部211で、形状モデル内の第1温度測定領域61と、ヒータ51によって加熱される領域を設定するとき、第1温度測定領域61の温度分布を測定する第1サーモカメラ41が測定した画像を基に設定する。
また、形状モデル生成部211で、形状モデル内の第2温度測定領域62を設定するとき、第2温度測定領域62の温度分布を測定する第2サーモカメラが測定した画像を基に設定する。
【0046】
ヒータ51によって加熱される領域は、加熱時にはヒータ51によって隠されているため、温度を測定することができない。このため、ヒータ51によって加熱される表面の領域の各要素Aを通る熱流束量は、解析部2の熱流束逆解析部221の逆解析処理によって推定する。
解析部2の熱流束逆解析部221で推定されたヒータ51によって加熱される領域の熱流束の分布は、形状モデル生成部211に伝達される。この情報の伝達を図1ではE1と記載している。
【0047】
ここで、推定部22の熱流束逆解析部221で推定される、ヒータ51で加熱される領域の熱流束のデータ構造について説明する。
先に図4で説明したように、第1温度測定領域61には、X方向にm個の接点が並びY方向にn個の接点が並んでいる。そのため、表面にはm×n個に区切られた要素Aが存在する。
これらの要素のうち、第1サーモカメラ41が測定した画像を基にヒータ51によって直接加熱されている領域を定める。この領域の要素をモデル上でヒータ51によって加熱される領域と設定し、各要素を通過してヒータ51から検査対象物6に伝わる熱流束を推定部22の熱流束逆解析部221で推定する。
【0048】
熱流束は要素ごとに求められる。要素を構成する4つの格子点のうち、最もi及びjの値が小さい格子点でその要素の位置を表す。例えば、(i,j)、(i,j+1)、(i+1,j)、(i+1,j+1)の4つの格子点からなる要素の位置を(i,j)と表す。
【0049】
ある時間tで、(i,j)の位置にある要素を通過する熱流束をqτ(i,j)とする。 (1)式で説明したように、τはΔtを温度分布の測定の時間間隔とし、t=0を温度分布の測定を開始した時間としたときに、τ=t/Δtと表される整数である。
時間tにおけるヒータ51によって加熱される領域の熱流束分布を表す熱流束分布ベクトルqτを(4)式で定義する。
【0050】
【数4】
【0051】
この熱流束分布ベクトルqτから、ヒータ51によって加熱される領域の熱流束分布の時間変化を示す行列qを(5)式で定義し、熱流束分布時間行列と称する。
【0052】
【数5】
【0053】
解析部2の熱流束逆解析部221では、この熱流束分布時間行列qを、熱流束推定モデル生成部212が生成した熱流束推定モデルとデータ取得部3から伝達される温度分布時間行列T1とから推定する。そして、熱流束逆解析部221は熱流束分布時間行列qをモデル生成部21の形状モデル生成部211に伝達する。
【0054】
次に、欠陥の推定結果に基づく、図6の欠陥発生予想領域63の形状モデルの更新について説明する。
先に、欠陥発生予想領域63内にはj×k個に区切られた要素Cが存在し、要素Cを構成する4つの格子点のうち、最もi及びjの値が小さい格子点でその要素の位置を表すことを説明した。
(i,j)の位置にある要素が欠陥領域であるかどうかをz(i,j)で表すとする。(i,j)の要素が欠陥領域に含まれている場合、z(i,j)=0とし、それ以外であれば、z(i,j)=1とする。
欠陥発生予想領域63の欠陥の分布を表す欠陥分布ベクトルzを(6)式で定義する。
【0055】
【数6】
【0056】
欠陥分布ベクトルzは、解析部2の欠陥逆解析部222により逆解析で推定され、形状モデル生成部211に伝達される。この情報の伝達を図1では、E2と記載している。ただし、欠陥逆解析部222から形状モデル生成部211に直接伝達されるのではなく、繰り返し判定部23を経由する。
【0057】
形状モデル生成部211では、すべての要素の熱伝導率に、検査対象物6の材質に対応した熱伝導率を用いる。
形状モデル生成部211は、推定部22の欠陥逆解析部222から伝達された欠陥分布ベクトルzを基に、欠陥発生予想領域63内の要素の熱伝導率を変化させる。
具体的には、欠陥逆解析部222で欠陥と推定された要素の熱伝導率を他の要素の熱伝導率より低くし、欠陥でないと推定された要素は検査対象の材質に対応した熱伝導率とする。このように構成することで、形状モデルの格子点および要素の配置を変えることなく、形状モデル内に欠陥の領域を生成することができる。このため、欠陥の解析を簡素化、かつ高速化することができる。
【0058】
ここで、モデル生成部21と推定部22との関係をまとめる。
推定部22の熱流束逆解析部221では、第1サーモカメラ41で測定されたヒータ51によって加熱される領域を含む第1温度測定領域61の温度分布の時間変化データである温度分布時間行列T1をデータ取得部3から取得する。熱流束逆解析部221は、熱流束推定モデル生成部212で生成した熱流束推定モデルとデータ取得部3からの温度分布時間行列T1とを用いて、ヒータ51による熱流束を推定し、熱流束分布時間行列qを作成する。熱流束逆解析部221は、この熱流束分布時間行列qを形状モデル生成部211に伝達する。
形状モデル生成部211は、熱流束分布時間行列qを受けて形状モデルを更新する。
【0059】
推定部22の欠陥逆解析部222では、第2サーモカメラ42で測定された第2温度測定領域62の温度分布の時間変化データである温度分布時間行列T2をデータ取得部3から取得する。欠陥逆解析部222は、欠陥推定モデル生成部213で生成した欠陥推定モデルとデータ取得部3からの温度分布時間行列T2とを用いて、欠陥発生予想領域63内の欠陥の分布を推定し、欠陥分布ベクトルzを作成する。欠陥逆解析部222は、この欠陥分布ベクトルzを形状モデル生成部211に伝達する。
形状モデル生成部211は、欠陥分布ベクトルzを受けて形状モデルを更新する。
【0060】
以上説明した熱流束逆解析結果による検査対象物6の形状モデルの熱流束の更新と、欠陥逆解析結果による検査対象物6の形状モデルの欠陥発生予想領域63内の欠陥の分布の更新を繰り返して行う。
熱流束逆解析と欠陥逆解析、およびこれらの解析結果に基づく検査対象物6の形状モデルの更新の繰り返しは、欠陥の分布の逆解析結果の変化量が基準値以下になるまで行う。
【0061】
具体的には、繰り返し判定部23では、欠陥逆解析部222より推定結果である欠陥分布ベクトルzを受けて、欠陥分布ベクトルzの変化量が基準値以下でない場合、欠陥逆解析部の推定結果である欠陥分布ベクトルzを形状モデル生成部211に伝達する。この情報の伝達を図1では、F1と記載している。先に説明したようにこの情報は、欠陥逆解析部222から繰り返し判定部23に伝達されたものである。
また、繰り返し判定部23では、前回の欠陥分布ベクトルzからの変化量が基準値以下の場合、その欠陥の分布を解析結果判定部24に伝達し、繰り返しを終了する。この情報の伝達を図1では、F2と記載している。
【0062】
繰り返し判定部23による繰り返しを終了する基準値の設定例を説明する。
欠陥逆解析の繰り返しによって欠陥の分布が変化しなくなったとき、つまり基準となる値を0とすることが考えられる。また、基準値に0よりも大きい数値を用いる場合は、ひとつ前の繰り返しの欠陥の分布の変化量の差異から判定することが考えられる。
【0063】
解析結果判定部24では、欠陥逆解析部222が推定し、この推定した欠陥の発生位置及び大きさに基づいて、欠陥(き裂)の位置と形状と、検査対象物6の形状および欠陥検査装置1に与えられる使用状況のデータとを用いて、疲労寿命を算出する。解析結果判定部24は、この算出した疲労寿命を基に検査対象物6の交換の必要性を判断し、その結果を欠陥検査装置1の表示装置(図示なし)に表示したり、外部に出力したりする。
【0064】
以上説明した実施の形態1の欠陥検査装置1の各部の機能と動作をわかりやすくするため、欠陥検査処理の流れを図7のフローチャートに基づいて説明する。
なお、本実施の形態1の欠陥検査処理は、以下のステップ1(S01)からステップ9(S09)から成る。
【0065】
ステップ1(S01)の形状モデル生成ステップでは、形状モデル生成部211は、検査対象物6の形状と材質と、第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42が測定した画像に基づいて、ヒータ51による加熱領域をも含めた検査対象物6の形状モデルを生成する。
【0066】
ステップ2(S02)の熱流束推定モデル生成ステップでは、熱流束推定モデル生成部212はステップ1(S01)で生成した形状モデルに基づいて熱流束推定モデルを生成する。
【0067】
ステップ3(S03)の加熱領域熱流束推定ステップでは、熱流束逆解析部221はステップ2(S02)で生成した熱流束推定モデルとデータ取得部3からの温度分布時間行列T1に基づいて、ヒータ51によって加熱される領域の熱流束分布時間行列qを逆解析により推定する。
【0068】
ステップ4(S04)の第1形状モデル更新ステップでは、形状モデル生成部211は、ステップ3で推定した熱流束分布時間行列qに基づいて、ヒータ51による加熱領域をも含めた検査対象物6の形状モデルを更新する。
【0069】
ステップ5(S05)の欠陥モデル生成ステップでは、欠陥推定モデル生成部213は、ステップ4(S04)で更新した形状モデルに基づいて欠陥推定モデルを生成する。
【0070】
ステップ6(S06)の欠陥推定ステップでは、欠陥逆解析部222はステップ5(S05)で生成した欠陥推定モデルとデータ取得部3からの温度分布時間行列T2に基づいて、欠陥発生予想領域63の欠陥の分布を逆解析により推定する。
【0071】
ステップ7(S07)の繰り返し判定ステップでは、繰り返し判定部23は、欠陥の推定結果の前回からの変化量を求め、その変化量が基準値以下かどうかを判定する。変化量が基準値以下の場合、ステップ9(S09)に進む。変化量が基準値より大きい場合、ステップ8(S08)に進む。欠陥の逆解析が1回目の場合、ステップ7(S07)の判定は実施せずに、ステップ8(S08)に進む。
【0072】
ステップ8(S08)の第2形状モデル更新ステップでは、形状モデル生成部211は、ステップ6(S06)で求めた欠陥発生予想領域63の欠陥の分布に基づいて検査対象物6の形状モデルを更新する。検査対象物6の形状モデルを更新した後、ステップ02(S02)に戻る。
【0073】
ステップ9(S09)の異常判定ステップでは、解析結果判定部24において、ステップ6(S06)で解析した欠陥発生予想領域63の欠陥の分布(発生位置、大きさ)から検査対象物6の欠陥の有無を判定する。さらにその判定結果を出力する。
【0074】
以上説明したように、実施の形態1において、欠陥検査装置1は解析部2と、データ取得部3と、測定部4と、加熱部5とを備える。
加熱部5は、検査対象物6の表面を加熱する。測定部4は、検査対象物6の第1温度測定領域61と第2温度測定領域62の温度分布の時間変化を測定する。データ取得部3は、測定部4で測定した温度分布の時間変化データに基づいて、温度分布時間行列T1、T2を作成する。
解析部2のモデル生成部21では、検査対象物6の形状モデル、およびこの形状モデルから熱流束推定モデルと欠陥推定モデルを生成する。解析部2の推定部22では、加熱部5によって検査対象物6に伝わる熱流束の推定と、検査対象物6の欠陥の推定とを行う。次に解析部2のモデル生成部21では、推定部22で行った熱流束の推定と欠陥の推定の結果に基づいて、形状モデルを更新する。解析部2は、熱流束の推定、欠陥の推定と形状モデルの更新を欠陥の推定結果の変化量が基準値以下になるまで繰り返す。欠陥を推定結果の変化量が基準値以下になったときに、欠陥の推定結果を判定し、判定結果を出力する。
【0075】
このように構成にすることで、検査対象物6の表面の温度分布の時間変化から、検査対象物6の欠陥と加熱部5による熱流束を推定して、欠陥の推定精度を高めることができる。
【0076】
また、検査対象物6の表面の温度分布の時間変化から、熱流束の推定と欠陥の推定とを同時に行わずに、別々に行うことで、推定モデルの作成を簡素化することができる。その結果、熱流束と欠陥を同時に推定する場合に比べて、欠陥の推定の簡素化と高速化が図れる。
【0077】
測定部4の第1サーモカメラ41と第2サーモカメラ42での温度分布の測定は、加熱部5による加熱と同時に開始する。加熱部5で検査対象物6を加熱している間と、加熱の終了後の一定の時間、測定部4の第1サーモカメラ41と第2サーモカメラ42での測定を続ける。このように構成することで、加熱によって生じた熱の過渡現象を測定することができ、ヒータ51で検査対象物6を加熱する時間を短くできる。
【0078】
一定の時間間隔で検査対象物6の表面の温度分布を測定することで、ヒータ51での加熱によって生じた熱の過渡現象を測定する。このように構成することで、熱平衡になるまで検査対象物6を加熱する必要がないため、検査時間を短縮できる。
【0079】
形状モデル生成部211の欠陥発生予想領域63は、検査対象物6の構造から、材料力学および破壊力学の知見に基づいて構造解析で決定される。このように構成にすることで、欠陥の推定領域を狭めることができ、欠陥の推定のための解析処理を簡素化し処理時間を短縮することができる。
【0080】
欠陥検査装置1の加熱部5と測定部4の第1サーモカメラの相対位置を固定している。その結果、ヒータ51によって加熱される領域と、第1サーモカメラ41によって測定される領域の相対位置が固定され、測定が容易になる。
【0081】
第1温度測定領域61と第2温度測定領域62の測定を1台のサーモカメラで行ってもよい。この構成にすることにより、欠陥検査装置1の構成を簡素化できる。
【0082】
図2では、加熱部5のヒータ51として、検査対象に直接接触する加熱器の例を示した。しかし、直接接触する機器以外にハロゲンヒータなどの放射熱で対象表面を加熱するもの、レーザーで対象表面を加熱するもの、および電磁誘導で対象表面を加熱するものなど、検査対象物6に非接触で加熱する機器を用いてもよい。
【0083】
測定する検査対象物6の表面の物理量の分布の時間変化には、熱以外を用いてもよい。例えば、ハンマリングを加えた時のひずみ分布の時間変化、または熱衝撃を与えた時の温度分布とひずみ分布などを用いることも考えられる。
【0084】
ここで、欠陥検査装置1のハードウェアの一例を図8に示す。図8に示すようにプロセッサ1000と記憶装置1001から構成される。記憶装置は図示していないが、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを備える。
また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を備えてもよい。プロセッサ1000は、記憶装置1001から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶措置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ1000にプログラムが入力される。また、プロセッサ1000は、演算結果等のデータを記憶装置1001の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0085】
以上説明したように、実施の形態1の欠陥検査装置は、検査対象物の第1、第2温度測定領域の表面温度分布の時間変化を測定する第1、第2サーモカメラと、第1温度測定領域の一部を加熱する加熱部と、第1、第2サーモカメラの測定データに基づき、3次元熱解析有限要素法モデルを用いて、加熱部による熱流束、および検査対象物の第1温度測定領域から第2温度測定領域まで熱伝導経路上にある検査対象物の欠陥の位置と大きさを求め、検査対象物の異常の有無を判定する解析部と、を備えたものである。
したがって、実施の形態1の欠陥検査装置は、検査対象の加熱が不安定になる環境でも、構造物内部における欠陥を精度よく推定でき、装置を小型化できる。
【0086】
実施の形態2.
実施の形態2の欠陥検査装置は、2つ以上の部品が組み付けられた構造を有するものを検査対象物とする。
【0087】
実施の形態2の欠陥検査装置について、検査対象物と測定部、加熱部の配置図である図9に基づいて、実施の形態1との差異を中心に説明する。
実施の形態2の図9において、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
なお、実施の形態1と区別するために、検査対象物7、第1温度測定領域71、第2温度測定領域72、欠陥発生予想領域73としている。
【0088】
図9に示すように、検査対象物7内に欠陥の発生が予想される領域を定め、欠陥発生予想領域73とする。また、第1サーモカメラ41および第2サーモカメラ42で測定する第1温度測定領域71および第2温度測定領域72は、欠陥発生予想領域73を挟み込むように配置されている。
欠陥発生予想領域73は、別途構造解析を行って決定され、欠陥検査装置1にデータとして設定される。
【0089】
実施の形態2では、図9に示すように、2つ以上の部品が組付けられたモデルをモデル生成部21で生成する。モデル生成部21で生成するモデルでは、第1温度測定領域71と第2温度測定領域72はそれぞれ別の部品の表面上に設けられる。
【0090】
検査対象物7が2つ以上の部品が組付けられた構造の場合、2つの部品の接触面の接触熱抵抗が問題となる。実施の形態2では、それぞれの部品の形状、材質および欠陥の形状を考慮して構造解析によって部品の接触面の面圧を算出し、この接触面の面圧は欠陥検査装置にデータとして設定される。
形状モデル生成部211では、この部品の接触面の面圧から部品が接触している面の接触熱抵抗を算出し、検査対象物7の形状モデルと共に熱流束推定モデル生成部212と欠陥推定モデル生成部213に伝達する。
【0091】
熱流束推定モデル生成部212は、形状モデル生成部211から伝達された検査対象物7の形状モデルと部品の接触面の接触熱抵抗を用いて熱流束推定モデルを生成する。
欠陥推定モデル生成部213は、形状モデル生成部211から伝達された検査対象物7の形状モデルと部品の接触面の接触熱抵抗を用いて欠陥推定モデルを生成する。
【0092】
実施の形態2における上記説明以外の解析部2、データ取得部3、測定部4、加熱部5の機能および処理は実施の形態1と同様である。
【0093】
実施の形態2の欠陥検査装置では、複数の部品からなる検査対象物7の内部欠陥を推定でき、また、部品間の面圧(接触熱抵抗)を考慮した熱解析により、欠陥の推定精度を向上できる。
【0094】
実施の形態2の欠陥検査装置を用いる検査対象物の例として、タービン発電機の回転子ウェッジ、および飛行機のタービンブレードが挙げられる。
【0095】
以上説明したように、実施の形態2の欠陥検査装置は、2つ以上の部品が組み付けられた構造を有するものを検査対象物としたものである。
したがって、実施の形態2の欠陥検査装置は、検査対象の加熱が不安定になる環境でも、構造物内部における欠陥を精度よく推定でき、装置を小型化できる。さらに、実施の形態2の欠陥検査装置は、部品間の接触熱抵抗を考慮することで欠陥の推定精度を向上できる。
【0096】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるものではなく、単独で、または様々な組合せで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組合せる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0097】
1 欠陥検査装置、2 解析部、3 データ取得部、4 測定部、5 加熱部、6,7 検査対象物、21 モデル生成部、22 推定部、23 繰り返し判定部、24 解析結果判定部、31 第1熱データ取得部、32 第2熱データ取得部、41 第1サーモカメラ、42 第2サーモカメラ、51 ヒータ、61,71 第1温度測定領域、62,72 第2温度測定領域、63,73 欠陥発生予想領域、211 形状モデル生成部、212 熱流束推定モデル生成部、213 欠陥推定モデル生成部、221 熱流束逆解析部、222 欠陥逆解析部、1000 プロセッサ、1001 記憶装置、511,611,621,631 領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9