(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】複数のビーム経路を有するX線装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20008 20180101AFI20240820BHJP
G21K 1/06 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N23/20008
G21K1/06 L
(21)【出願番号】P 2022522676
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2020073458
(87)【国際公開番号】W WO2021078424
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-06-21
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】513080391
【氏名又は名称】アントン パール ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Anton Paar GmbH
【住所又は居所原語表記】Anton-Paar-Str.20 8054 Graz Austria
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガウチ、ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】プリシュネッグ、ロマン
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-151082(JP,A)
【文献】特開2010-261737(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0369759(US,A1)
【文献】特開2005-055265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0268251(US,A1)
【文献】特開2019-164027(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0287178(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G21K 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のX線検査をする装置において、前記装置は、
X線ビーム生成システムを備え、該X線ビーム生成システムは、
当初の一次X線ビームを生成するためのX線源と、
前記X線源に対して相対的に移動可能である第1の光学コンポーネントおよび少なくとも1つの第2の光学コンポーネントを含む光学システムと
を有し、それにより選択的に、
前記第1の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させて、その後に第1の偏向角のもとで偏向された第1の一次X線ビームが生成され、または、
前記第2の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させて、その後に第2の偏向角のもとで偏向された第2の一次X線ビームが生成され、および、
前記X線ビーム生成システムが上に組み付けられた回転台を有する回転装置を備え、それにより前記X線ビーム生成システムを選択的に第1の回転角または第2の回転角だけ回転台軸を中心として回転させ、それにより選択的に第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームを試料領域に当てさせる、装置。
【請求項2】
前記回転台軸はゴニオメーター軸に対して平行であり、前記試料領域は前記ゴニオメーター軸の付近に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記回転台軸は前記ゴニオメーター軸に対してオフセットされて配置される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記X線源と、前記回転台軸との間の間隔は、前記ゴニオメーター軸と前記X線源との間の間隔の0.5から0.9倍の間である、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームが当初の一次X線ビームに対して相対的に第1の偏向角または第2の偏向角だけ偏向するときに中心となる偏向軸は前記回転台軸に対して平行である、請求項2から4のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
X線検出器と、
第1のアームおよび第2のアームを含むゴニオメーターとをさらに有し、前記第1のアームおよび/または前記第2のアームは前記ゴニオメーター軸を中心として旋回可能であり、前記第1のアームの上に前記回転台が前記X線ビーム生成システムとともに組み付けられ、前記第2のアームの上に前記X線検出器が組み付けられる、請求項2から5のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは、平行である、または発散する、または焦点合わせされる、または視準される、単色または多色の一次X線ビームを当初の一次X線ビームから生成するように構成される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは次のコンポーネントすなわち
視準をするX線ミラー、
焦点合わせをするX線ミラー、
多層X線ミラー、
多層モノクロメータ、
単結晶光学系、
1Dミラー、
2Dミラー、
のうちの1つまたは複数を有する、請求項6または7に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントは前記X線源に対して相対的に
直線状に、当初の一次X線ビームに対して実質的に垂直に移動可能である、請求項6から8のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記光学システムは、前記回転台の上に組み付けられて前記X線源に対して相対的にスライド可能なキャリッジを有し、該キャリッジの上に前記第1の光学コンポーネント及び前記第2の光学コンポーネントが組み付けられ、前記キャリッジはレールの上に配置されて前記レールに対して相対的に移動可能である、請求項6から9のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントは、当初の一次X線ビームが前記X線源の陽極の上の電子目標領域に対して相対的にそれぞれ等しい最善または所望の角度領域のもとで前記X線源から射出されて前記第1の光学コンポーネントまたは前記第2の光学コンポーネントに当たるように、選択的に移動可能である、請求項6から10のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは前記回転台軸に対して平行な光学回転軸を中心として回転可能である、請求項6から11のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
当初の一次X線ビームは前記X線源から射出された後かつ前記光学システムに入射する前には偏向されない、請求項6から12のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
開口位置および/または開口サイズに関して第1および/または第2の一次X線ビームに対して実質的に垂直に変更可能なように、前記光学システムの下流側で前記回転台の上に組み付けられた、開口絞りをさらに有する、請求項6から13のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
当初の一次X線ビームは前記X線源の陽極の上のただ1つの電子目標領域の衝撃によって生成され、それにより、前記第1の光学コンポーネントまたは前記第2の光学コンポーネントが当初の一次X線ビームに当たったときに、当初の一次X線ビームから第1の一次X線ビームおよび第2の一次X線ビームをいずれも生成する、請求項6から14のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記X線源、前記X線検出器、および前記試料領域は実質的にブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーに配置される、請求項6から15のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の光学コンポーネントと前記第2の光学コンポーネントの移動距離に依存して前記回転台の回転角を調整するように構成された制御部
をさらに有する、請求項1から16のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
試料を試料領域で保持するように構成された試料保持部
をさらに有する、請求項1から17のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
試料のX線検査をする方法において、前記方法は、
X線源に対して相対的に移動可能である第1の光学コンポーネントおよび少なくとも1つの第2の光学コンポーネントを含む光学システムをさらに有するX線ビーム生成システムのX線源によって当初の一次X線ビームが生成されることと、
前記光学システムの前記第1の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させ、それにより第1の偏向角のもとで偏向された第1の一次X線ビームを生成し、回転装置が回転台を有し、該回転台の上に前記X線ビーム生成システムが組み付けられ、該回転台が第1の回転角で調整され、それにより第1の一次X線ビームを試料領域に当てさせることと、
を備え
、
前記光学システムの前記第1の光学コンポーネントおよび前記第2の光学コンポーネントを前記X線源に対して相対的に移動させ、それにより前記第2の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させ、それにより第2の偏向角のもとで偏向された第2の一次X線ビームを生成することと、
回転台軸を中心として第2の回転角に合わせて前記回転台を回転させ、それにより第2の一次X線ビームを前記試料領域に当てさせることと、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料のX線検査をする装置および方法に関し、異なるビーム経路を選択することができる。
【背景技術】
【0002】
ドイツ特許出願公開第102015226101A1号明細書は、X線回折計のためのX線光学モジュールを開示しており、X線ビームについて異なるビーム経路を選択可能である。絞りシステムまたはモノクロメータを選択的に光路の中に動かすことができる。
【0003】
ドイツ特許第102009047672B4号明細書は、2つの焦点合わせ部材を有するX線光学構造を開示しており、スリットのある絞りブロックの回転によって、2つのX線ビームのうちの一方を選択することができる。
【0004】
欧州特許第1324023B1号明細書は、発散X線ビームと平行X線ビームのための異なるビーム経路を有するX線回折装置を開示している。スリット器具により、両方のX線ビームのうちの一方を選択可能である。
【0005】
米国特許出願公開第2015/098547A1号明細書は、X線ビーム光学的なコンポーネント器具を開示している。X線源を検出器に対して回転させることができる。
【0006】
欧州特許第1396716B1号明細書は小散乱測定のためのX線光学システムを開示しており、回転可能であるスリットによって、特定のX線ビームを選択することができる。
【0007】
米国特許出願公開第2017/336334A1号明細書は、X線透過分光計システムを開示している。異なる光学系を横にスライドさせることができ、それにより、これを選択的にX線源の異なる陽極目標領域のうちの1つと並ぶように配置する。
【0008】
ドイツ特許第10141958B4号明細書は、X線源と、X線源と試料とX線検出器との間の連続する相対的な角度位置をシーケンシャルに調整するためのゴニオメーターとを有するX線回折計を開示している。X線放射を位置1から位置2へ、位置1と位置2との間で固定的に調節される切換可能な異なるビーム経路で案内することができる。異なるビーム経路の間での切換は、異なるビーム経路によって形成されるユニットの相対的な回転によって惹起される。このとき、X線源から異なる角度のもとで放射されるX線ビームが、異なるビーム経路のために利用される。
【0009】
米国特許第7,035,377B2号明細書は、X線ビーム発生器と調整方法とを開示しており、対陰極が、異なる材料を含む複数の対陰極部分を有しており、これらを電子衝撃に暴露するために切り換えることができる。異なる対陰極部分が衝撃を受けたとき、光学素子によって異なる回転角のもとで生成される異なるX線ビームを生成するために、光路にある光学素子を傾動させることができる。
【0010】
米国特許出願公開第7,551,719B2号明細書は、小角X線散乱のためのX線ビームズームレンズを開示している。X線ビームから発せられるX線放射が光学素子により集積されて、スライド可能なプレートを有するビーム選択システムを通過する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、異なるビーム経路の選択を可能にする従来式のX線検査装置は、さまざまな欠点を有している。特に、異なるX線ビームの強度または輝度が、異なるビーム経路に沿って、あらゆるケースで十分または所望の大きさまたは品質になるわけではない。
【0012】
したがって本発明の課題は、試料との相互作用のために異なる特性のX線ビームまたはX線ビーム経路の選択が可能であり、それに対して輝度、強度、パフォーマンス、および/またはフレキシビリティがさらに改善される、試料のX線検査をする装置および方法を提供することにある。さらに、このような種類の装置または方法が取扱性に関して簡易化されるのがよく、特に、自動化された動作形態を許容するのがよい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、独立請求項の対象物によって解決される。従属請求項は、本発明の特別な実施形態を明確に記載する。
【0014】
本発明の1つの実施形態では試料のX線検査をする装置が提供され、この装置はX線ビーム生成システムを備え、該X線ビーム生成システムは、当初の一次X線ビームを生成するためのX線源と、X線源に対して相対的に移動可能である第1および少なくとも1つの第2の光学コンポーネントを含む光学システムとを有し、それにより選択的に、第1の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させて、その後に第1の偏向角のもとで偏向された第1の一次X線ビームが生成され、または第2の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させて、その後に第2の偏向角のもとで偏向された第2の一次X線ビームが生成され、および、X線ビーム生成システムが上に組み付けられた回転台を有する回転装置を備え、それによりX線ビーム生成装置を選択的に第1の回転角または第2の回転角だけ回転台軸を中心として回転させ、それにより選択的に第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームを試料領域に当てさせる。
【0015】
特別な実施形態では、光学システムは、いずれの光学コンポーネントも当初の一次X線ビームと相互作用せず、当初の一次X線ビームが光学コンポーネントのうちの1つと相互作用することなく光学システムを偏向されずに通過するように移動させることもできる。このケースでは偏向角はゼロに等しく、回転角は、既知であるプリセット回転角に合わせて調整することができる。
【0016】
試料は(少なくとも部分的に)結晶性の試料、特に単結晶性の試料、多結晶性の試料、またはアモルファス性の試料であってよい。試料は化学的および/または構造的に均質であるか、または不均質であってよい。試料は粉末状、液体状、または気体状であってよい。特に、試料は固形の試料または固体試料であってよい。試料は特に平坦に構成されていてよい。試料は、たとえば数マイクロメートルの薄い層として、平坦な基板に塗布されていてよい。第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームによって試料が照射されることで、試料の1つの材料または複数の材料での弾性的な相互作用によって、特に回折によって惹起される、それぞれの二次的なX線放射が試料から発せられる。二次X線放射のエネルギーまたは波長は、それぞれの一次的なX線放射のエネルギーまたは波長に等しい。
【0017】
当初の一次X線ビームは(および、その結果として第1の一次X線ビームまたは第2のX線ビームも)、(たとえば4.5keVから22keVのエネルギー領域の)単色X線放射または多色X線放射を含むことができる。本装置はX線データを記録して評価するために構成されていてよく、該X線データは、異なる散乱角(回折角)および/または異なるエネルギーまたは波長についてのX線散乱データを含む。X線源は、当初の一次X線ビームを生成するために陰極を有することができ、これから電子が陽極へと向かう方向に加速される。X線源の陽極に電子が当たったときに、(さまざまなエネルギーを有する)連続する制動放射と、1つまたは複数の特徴的なX線ビームとを含み得る、当初の一次X線ビームが生成される。X線源の陽極から、X線ビームがさまざまな角度で発し得る。開口絞りによって、陽極から発せられるX線ビームの特定の角度領域を、当初の一次X線ビームとして選択することができる。開口絞りは、固定的に、またはX線源の陽極に対して相対的にスライド可能に、構成されていてよい。それに伴い、特定の強度または輝度の当初の一次X線ビームが生成され得る。第1または第2の一次X線ビームを生成するために、X線源の開口絞りをその位置または開口幅に関して変更する必要はない。別の実施形態では、X線源の任意選択の開口絞りの位置および/または開口幅が、第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームを生成するためにさまざまな位置をとることができる。
【0018】
光学システムは、少なくとも2つの光学コンポーネントまたはこれよりも多い光学コンポーネントを、たとえば3つ、4つ、5つ、6つ、もしくは2つから10の間の光学コンポーネントを、含むことができる。これらの光学コンポーネントがスタックをなして、または列をなして配置されていてよく、光学コンポーネントは、そのつど所望の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させるために(または1つも相互作用させないために)、スタック方向に沿って移動可能であってよい。各々の光学コンポーネントは、当初の一次X線ビームと相互作用したとき、弾性的な相互作用によって、特に回折によって、それぞれ輝度および/または強度および/または発散および/または波長などに関して特定の特性を有し得るそれぞれの(第1または第2の、あるいはさらに別の)一次X線ビームを生成するように構成されていてよい。第1の一次X線ビームおよび少なくとも1つの第2の一次X線ビームを生成できるという可能性によって、高いフレキシビリティで試料を分析することが可能となる。その代替として、異なる試料を異なる一次X線ビームによって検査することが可能となる。
【0019】
第1または第2の偏向角は、当初の(中央の)一次X線ビームと、第1または第2の(中央の)一次X線ビームとの間で形成される角度として定義され得る。このように第1および第2の光学コンポーネントは、(当初の一次X線ビームに対して相対的に)異なる角度のもとで偏向した第1または第2の一次X線ビームを生成する。第1または第2の一次X線ビームの特徴は(たとえば含まれる波長またはエネルギーに関して、発散、収束、または平行性に関して)、それぞれ異なっていてよい。
【0020】
回転台の上に、(X線ビーム生成システムの一部として)X線源だけでなく光学システムも(相互に相対的に固定された配置と向きで)組み付けられる。したがって回転台が回転すると、X線源だけでなく光学システム全体も回転する。第1の回転角は関数として、または第1の偏向角に依存して、定義されていてよい。第2の回転角は関数として、または第2の偏向角に依存して、定義されていてよい。第1または第2の回転角は、たとえば第1または第2の偏向角と基準角との合計または差異として与えられていてよく、または計算することができる。回転台は、たとえば電気モータ(たとえばステッピングモータ)によって、定義された角度だけ回転させることができる。特定の光学コンポーネント(たとえば第1または第2の光学コンポーネント)が、当初の一次X線ビームと相互作用するために移動可能になっていれば、回転台の回転をすぐに自動式に行うことができる。それぞれの光学コンポーネントによって生成される一次X線ビームを試料領域に当てさせるために回転台を回転させなければならない特定の回転角が、光学システムの各々の光学コンポーネントに割り当てられていてよい。
【0021】
回転台は、たとえばX線源と光学システムを組み付けるための組付領域を有することができる。光学システムは、X線源に対して相対的に回転可能である必要はない。回転台の回転可能性に基づき、当初の一次X線ビームと相互作用する光学コンポーネントを移動させることで、さまざまな一次X線ビームを生成することが可能となり、さまざまな当初の一次X線ビームを、X線源の陽極からさまざまな角度領域に発する必要がない。それに伴い、さまざまな特性のそれぞれの一次X線ビームの輝度または強度を、従来式のシステムと比較して改善することができ、または選択可能となり得る(たとえばX線源の開口絞りの適当な調整によって)。
【0022】
本装置はX線回折測定のために、または試料でのX線回折のために構成されていてよい。特に、試料をその相組成に関して(たとえば1つまたは複数の材料の試料内部におけるさまざまな結晶タイプの割合)、定量的に検査することができる。従来式のX線検査装置は、そのつど形成されるビーム経路が、それぞれ異なる射出角のもとでX線源から射出されるという欠点を有する。そのために従来、X線放射の異なる特性を有する異なるビーム経路を選択するために、最善または所望の射出角をすべてのビーム経路について維持することができない。このような欠点が、本発明の各実施形態によって取り除かれる。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、X線源と、少なくとも2つの光学素子を有する(好ましくは直線的に)位置調節可能なマガジンと、(たとえば直線状に)位置調節可能な調節間隙とを含む、X線検査をするための構造が提供される。これらのコンポーネントが固定的に結合されたユニットを形成することができ、X線源のための本来のゴニオメーターの上に据え付けられてこれに対して回転可能である(たとえば回転台の)回転アームの上にすべて一緒に存在する。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、回転台軸はゴニオメーター軸に対して平行にアライメントされ、試料領域はゴニオメーター軸の付近に配置される。特に、第1の一次X線ビームと第2の一次X線ビームはいずれも(回転台が相応に回転したときに)正確に、または実質的に、ゴニオメーター軸のほうを向いていてよい。第1または第2の一次X線ビームが正確にゴニオメーター軸のほうを向いている場合、回折角(2θとも呼ぶ)を、すなわち第1または第2の一次X線ビームの方向からの二次ビームの偏向を、正確に規定可能となり得る。それに伴い、さまざまな偏向角のもとで試料から発せられる二次的なX線放射の信頼度の高い記録が可能となる。さらに回転台軸は、第1の一次X線ビームまたは第2の一次X線ビームが当初の一次X線ビームに対して相対的に偏向される偏向軸に対して平行であってよい。第1または第2の一次X線ビームを、回転台の回転によって正確に試料領域へと向けることができる。したがって、それぞれの光学コンポーネントによる当初の一次X線ビームの偏向を、回転台の適当な回転によって補償することができ、そのようにして、光学システムのすべての光学コンポーネントについて、そのつど生成される一次X線ビームを試料領域のほうに向ける。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、回転台軸はゴニオメーター軸に対してオフセットされて配置され、特に、X線ビーム生成システムとゴニオメーター軸との間に配置される。それに伴い、本装置を簡易な方式で具体化することができる。別の実施形態では、回転台軸がゴニオメーター軸と正確に、または実質的に正確に、一致することができる。それに伴っていっそう正確な方式で、回転台のさまざまな回転角のもとで、たとえばブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーを遵守することができる。
【0026】
本発明の1つの実施形態では、X線源と、特にその陽極の上の電子目標領域と、回転台軸との間の間隔は、ゴニオメーター軸とX線源との間の、特にその陽極の上の電子目標領域との間の間隔の0.5から0.9倍の間、特に0.6から0.8倍の間である。それに伴い、回転台が回転台軸を中心として回転したときに、電子目標領域とゴニオメーター軸との間の間隔が最低限にしか変化しない。それに伴い、回転台のさまざまな回転角のもとで、たとえばブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーが常に最小の誤差をもって満たされる。それに伴い、たとえば回折角を正確に決定可能であり得る。
【0027】
本発明の1つの実施形態では、第1または第2の一次X線ビームが当初の一次X線ビームに対して相対的に第1または第2の偏向角だけ偏向するときに中心となる偏向軸は、回転台軸に対して平行である。それに伴い、第1の光学コンポーネントまたは第2の光学コンポーネントとの相互作用に基づく当初の一次X線ビームの偏向を、回転台軸を中心とする回転台の回転によって補償して、そのつど生成される第1または第2の一次X線ビームが正確に試料領域に当たるようにすることができる。特に、第1または第2の一次X線ビームが当初の一次X線ビームに対して相対的に偏向されるときに中心となる3つすべての軸が、すなわち回転台軸、ゴニオメーター軸、および偏向軸が、互いに平行(または少なくともたとえば3°よりも小さい許容誤差の範囲内で平行)であってよい。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、本装置は、X線検出器と、第1のアームおよび第2のアームを含むゴニオメーターとをさらに有し、第1のアームおよび/または第2のアームはゴニオメーター軸を中心として旋回可能であり、第1のアームの上に回転台がX線ビーム生成システムとともに組み付けられ、第2のアームの上にX線検出器が組み付けられる。X線検出器は、試料が第1または第2の一次X線ビームに当たったときに試料から発する二次的なX線放射を検出するために構成されて配置される。X線検出器は、たとえばゼロ次元検出器とも呼ばれる、(たとえばただ1つのX線感度のあるセンサ素子を有する)点検出器を含むことができる。ゴニオメーターにより、試料との相互作用に基づいて第1または第2の一次X線ビームの(特に固定的なゴニオメーター調整の場合には同じである)方向に対して検出散乱角だけ方向が相違する二次的なX線放射をその強度に関して検出するために、検出散乱角(2θ)を調整することができる。
【0029】
X線検出器の角度検出領域は試料領域を、特にゴニオメーター軸を中心とする領域を、含むことができ、または覆うことができる。それに伴い、ゴニオメーター軸またはこれを中心とする領域の周囲から発せられる二次的なX線放射を、X線検出器によって検出可能である。X線検出器は、特に、二次的なX線放射をエネルギー解像式に検出するように構成されたエネルギー解像式のX線検出器、特に点検出器であってよい。このようにX線検出器は、さまざまなエネルギーの二次的なX線放射の強度を検出するように構成されていてよい。ゴニオメーターにより、第1のアームを旋回させることで、それぞれの一次X線ビームの試料への入射角を調整することができる。別の実施形態では、X線検出器は一次元の(ライン)検出器または二次元の(平面)検出器であってよい。ゴニオメーターの第2のアームの旋回により、二次的な放射の反射角を試料に対して相対的に調整することができる。入射角と反射角の合計が、回折角または散乱角2θをもたらす。特に、X線散乱データを記録するために、第1のアームと第2のアームを両方とも反対方向に旋回させて、入射角と反射角を両方とも変えることができる。第1のアームの旋回により、X線ビーム生成システムが上に組み付けられている回転台全体が、ゴニオメーター軸を中心として旋回する。それに伴い、二次X線放射の回折角依存的な記録が可能となる。
【0030】
本発明の1つの実施形態では、光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは、平行である、または発散する、または焦点合わせされる(収束する)、または視準される、単色または多色の一次X線ビームを当初の一次X線ビームから生成するように構成される。一般に、光学コンポーネントのうちの1つまたは複数は、当初の一次X線ビームの特性を、エネルギーもしくは波長の分布に関して、および/または発散性もしくは収束性もしくは平行性に関して、変化させるように構成されていてよい。それに伴い、さまざまな特性の一次的なX線放射を試料のほうに向けて、これを種々の方式で検査できるようにし、または、さまざまな試料をさまざまな特性のさまざまな一次X線ビームにより、改善して検査できるようにすることが可能となる。平行な一次X線ビームは、それぞれ互いに平行である複数の部分ビームを含むことができる。発散する一次X線ビームは、進行方向においてコーン内部で複数の方向に分かれていく複数の部分一次X線ビームを含むことができる。焦点合わせされる、または視準される、または収束する一次X線ビームは、コーンの中で、または円錐状に、進行方向で1つの点または領域に向かって集まっていく複数の部分一次X線ビームを含むことができる。特に、部分一次X線ビームは試料領域またはゴニオメーター軸に向かって焦点合わせされていてよい。それに伴い、さまざまな検査態様が可能となる。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは、視準をするX線ミラーと、焦点合わせをするX線ミラーと、多層X線ミラーと、多層モノクロメータと、単結晶光学系と、1Dミラーと、2Dミラーとを有する。このように、従来から利用可能な光学コンポーネントが本装置によってサポートされ、本装置によって適用可能である。適用ケースに応じて、光学コンポーネントを適切に選択し、たとえば1つのスタックに適切に配置することができる。
【0032】
本発明の1つの実施形態では、光学システムの光学コンポーネントはX線源に対して相対的に直線状に、および/または当初の一次X線ビームに対して実質的に垂直に、移動可能である。このとき光学コンポーネントは、特定の光学コンポーネントが、たとえば第1の光学コンポーネントが、当初の一次X線ビームと相互作用するために配置されているときに、その他すべての光学コンポーネントは当初の一次X線ビームとの相互作用から遮蔽またはブロックされるように配置されていてよい。このようにして、それ以外のブロック絞りを省略可能となり得る。
【0033】
換言すると、光学マガジンは直線状のスライドによって、それぞれの光学コンポーネントの上方および/または下方で入射する放射が、上方および/または下方に配置された他の光学コンポーネントによって覆われ、すなわちブロックされるように配置することができる。
【0034】
それに伴い、選択的に1つの経路が選択されて他の経路が遮蔽される、可動のスリットや間隙が必ずしも必要ではなくなる。
【0035】
異なる光学コンポーネントに基づく可能な偏向角の大きさは、たとえば0°から20°の間であってよく、または特に0°から10°の間であってよい。
【0036】
本発明の1つの実施形態では、光学システムは、回転台の上に組み付けられてX線源に対して相対的にスライド可能なキャリッジを有し、その上に光学コンポーネントが組み付けられ、キャリッジは特にレールの上に配置されて、レールに対して相対的に移動可能である。それに伴い、光学コンポーネントを直線状にスライドさせるための簡素な設計または具体化が可能となる。たとえばキャリッジは、たとえばキャリッジと結合されたラックレールをスライドさせる電気モータによって移動させることができる。これ以外の移動の具体化も可能である。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、第1の光学コンポーネントと第2の光学コンポーネントは、当初の一次X線ビームがX線源の陽極の上の電子目標領域に対して相対的にそれぞれ等しい最善または所望の角度領域のもとでX線源から射出されて第1または第2の光学コンポーネントに当たるように、選択的に移動可能である。このようにして、(第1の光学コンポーネントでの相互作用によって)第1の一次X線ビームを生成するためにも、(第2の光学コンポーネントでの相互作用によって)第2の一次X線ビームを生成するためにも、(たとえば強度および/または輝度などの特性に関して)同一の当初の一次X線ビームを利用することができる。それに伴い、第1の一次X線ビームと第2の一次X線ビームの両方の、特に所望の高い強度または所望の輝度を得ることができる。従来は、下流側で生成されるそれぞれ異なる一次X線ビームを生成するために、広い角度領域で照射される一次X線ビームのそれぞれ異なる部分が利用されていた。そのために、一次X線ビームのそれぞれ異なる部分の調節も必要であった。本発明の各実施形態は、X線源から発せられる一次X線ビームの複数の部分の調節を回避する。ただ1つの当初の一次X線ビームを、たとえばその強度、輝度、および発散性または断面積に関して調整して、第1および第2の一次X線ビームの両方を第1または第2の光学コンポーネントでの相互作用によって生成することで足りる。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、光学コンポーネントのうちの少なくとも1つは回転台軸に対して平行な光学回転軸を中心として回転可能である。光学コンポーネントのうちの少なくとも1つの回転は、さらに、当該光学コンポーネントによって生成される一次X線ビームの特性を所望されるように調整または変更することを許容する。それに伴い、X線検査実験を実施するためのさらなるフレキシビリティが可能となる。さらに回転台の回転角を、少なくとも1つの光学コンポーネントまたは光学システム全体の任意選択の回転に依存して、特に自動化された方式で調整することができる。
【0039】
本発明の1つの実施形態では、当初の一次X線ビームはX線源から射出された後(下流側)かつ光学システムへ入射する前(上流側)には偏向されない。このように、X線源の下流側かつ光学システムの上流側の領域には、光学的なコンポーネントが配置される必要がない。それに伴って本装置をさらに簡素化することができ、吸収を低減することができる。
【0040】
本発明の1つの実施形態では、本装置は、開口位置および/または開口サイズに関して第1および/または第2の一次X線ビームに対して実質的に垂直に変更可能なように、特に高さ調節可能および/または幅調節可能なように、光学システムの下流側で回転台の上に組み付けられた、特に光学システムと回転台軸との間に配置された、開口絞りをさらに有する。開口絞りは、開口絞りの下流側かつ試料領域の上流側で、それぞれの一次X線ビームの断面積および/または断面形状の調整を可能にする。いずれの光学コンポーネントが当初の一次X線ビームと相互作用するかに応じて、開口位置および/または開口サイズに関して開口絞りを調整することができる。別の実施形態では、異なる光学コンポーネントについて開口位置および/または開口サイズがいずれも等しく選択される。それに伴い、それぞれの一次X線ビームの特性に関していっそう高いフレキシビリティが可能となる。
【0041】
本発明の1つの実施形態では、当初の一次X線ビームはX線源の陽極の上のただ1つの電子目標領域の衝撃によって生成され、それにより、第1または第2の光学コンポーネントが当初の一次X線ビームに当たったときに、当初の一次X線ビームから第1および第2の一次X線ビームをいずれも生成する。陰極から放出される電子を、高圧によって電子目標領域へと加速させることができる。陽極は、電子目標領域に平坦な区域を有することができる。当初の一次X線ビームは、この平坦な領域から(たとえばビーム束として)さまざまな反射角のもとで発せられる。上に述べたX線源の任意選択の開口絞りは、当初の一次X線ビームを形成するために、陽極から発せられるX線ビームの特定の反射角領域を選択することができる(射出することができる)。反射角領域は、特に当初の一次X線ビームの可能な限り高い(低い)強度またはたとえば可能な限り高い(低い)輝度を得るために、用途に応じて選択することができる。このように当初の一次X線ビームの特性は、第1の一次X線ビームと第2の一次X線ビームの生成とについて同じであってよい。それに伴い、たとえば異なる特性の異なるX線ビームについて従来技術で実現可能であったよりも、第1および第2の両方の一次X線ビームの高い強度または高い輝度を選択的に実現することができる。
【0042】
本発明の1つの実施形態では、X線源、特にその陽極の上の電子目標領域、X線検出器、および試料領域は、実質的にブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーに配置される。このときゴニオメーター軸からX線源の陽極までの間隔は、許容誤差を除き、検出器の入射窓とゴニオメーター軸との間の間隔に等しくなっていてよい。さらに、回転台軸とゴニオメーター軸との間の間隔が、X線源の陽極とゴニオメーター軸との間のこの間隔(半径)と比べて比較的小さくなっていると、回転台が回転台軸を中心として回転したときに、ブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーがほとんど変化せず、いかなる場合にも、たとえば0°から10°または0°から5°の間である回転角領域の範囲内でしか変化しない。それに伴い、調整誤差を低減することができる。
【0043】
本発明の1つの実施形態では、本装置は、光学コンポーネントの移動距離に依存して回転台の回転角を調整するように構成された制御部をさらに有する。その代替または追加として制御部は、当初の一次X線ビームと相互作用する光学コンポーネントに依存して回転台の回転角を調整するように構成されていてよい。それに伴い、異なる一次X線ビームの間での自動化された切換を、自動化された方式で行うことができる。
【0044】
本装置は、試料領域で試料を保持するように構成された試料保持部をさらに有することができる。特に、試料は平坦な基板の上に面状に塗布されていてよく、それにより、試料が理想的にはゴニオメーター軸と共有する領域を有する。
【0045】
X線検査をする装置との関連で個別に、または何らかの組合せとして言及され、記述され、または提示されている構成要件は、同じく個別に、または何らかの組合せとして、試料のX線検査をする方法にも本発明の実施形態に即して適用可能であり、その逆も成り立つことを理解されたい。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、試料のX線検査をする方法が提供され、この方法は、X線源に対して相対的に移動可能である第1の光学コンポーネントおよび少なくとも1つの第2の光学コンポーネントを含む光学システムをさらに有するX線ビーム生成システムのX線源によって当初の一次X線ビームが生成されることと、光学システムの第1の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させ、それにより第1の偏向角のもとで偏向された第1の一次X線ビームを生成し、回転装置が回転台を有し、該回転台の上にX線ビーム生成システムが組み付けられ、該回転台が第1の回転角で調整され、それにより第1の一次X線ビームを試料領域に当てさせることと、特に第1の回折データが検出されることとを備える。
【0047】
さらにX線検査方法は、光学システムの第1の光学コンポーネントおよび第2の光学コンポーネントをX線源に対して相対的に移動させ、それにより第2の光学コンポーネントを当初の一次X線ビームと相互作用させ、それにより第2の偏向角のもとで偏向された第2の一次X線ビームを生成することと、回転台軸を中心として第2の回転角に合わせて回転台を回転させ、それにより第2の一次X線ビームを試料領域に当てさせることと、特に第2の回折データが検出されることとを備えることができる。
【0048】
さらに、第1の回折データの検出と第2の回折データの検出はいずれも、ゴニオメーターの第1のアームおよび/または第2のアームの旋回によってX線検出器および/またはX線源が旋回し、それによりさまざまな回折角(2θ)のもとで試料から発せられる二次X線放射をX線検出器によって検出することを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、本発明の1つの実施形態に基づく、試料のX線検査をする装置を模式的に示す。
【
図2】
図2は、
図1に示す装置を第1のコンフィグレーションで模式的に示す。
【
図3】
図3は、
図1に示す装置を第2のコンフィグレーションで模式的に示す。
【
図5】
図5は、
図1に示す装置を第3のコンフィグレーションで模式的に示す。
【
図6】
図6は、本発明の別の実施形態に基づく、試料のX線検査をする装置を模式的に示す。
【
図7】
図7は、当初の一次的なX線放射の強度を反射角に依存して示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
構造および/または機能に関して同じ部材は、図面では、多くとも最初の数字に関してのみ相違する類似の符号で表されている。
【0051】
図1に模式的に示す、試料支持体108の上で保持される試料(図示せず)のX線検査をする装置100は、X線ビーム生成システム130と、回転装置140とを含んでいる。X線ビーム生成システム130は、当初の一次X線ビーム145を生成するためのX線源101と、X線源101に対して相対的に移動可能である第1の光学コンポーネント102および少なくとも1つの第2の光学コンポーネント103を有する(X線光学ハウジング116の中の)光学システム104とを含んでいる。それに伴い、選択的に、第1の光学コンポーネント102を当初の一次X線ビーム145と相互作用させて、その後に(当初の一次X線ビーム145に対して相対的に)第1の偏向角α1のもとで偏向した第1の一次X線ビーム117(
図2に示す)が生成されるか、または、第2の光学コンポーネント103を当初の一次X線ビーム145と相互作用させて、その後に当初の一次X線ビーム145に対して相対的に第2の偏向角α2のもとで偏向した第2の一次X線ビーム118(
図3に示す)が生成されることが可能となる。
【0052】
回転装置140は回転台115を含んでいて、その上にX線ビーム生成システム130が組み付けられており、それによりX線ビーム生成システム130を選択的に第1の回転角β1または第2の回転角β2(
図2および
図3を参照)だけ回転台軸106を中心として回転させ、それにより選択的に第1の一次X線ビーム117または第2の一次X線ビーム118を(試料支持体108の上の)試料領域147に当たらせる。回転台軸106は、紙面に対して垂直に配置されてアライメントされている。ここで第1または第2の偏向角α1,α2は、第1または第2の一次X線ビーム117,118が当初の一次X線ビーム145に対して偏向する角度として定義される。第1または第2の回転角β1,β2は、第1のゴニオメーターアーム114の中心軸149と回転台115の中心軸151(
図2,3,4参照)との間の角度として定義される。
【0053】
装置100のゴニオメーターは、第1のゴニオメーターアーム114と第2のゴニオメーターアーム113とを含んでおり、第1のゴニオメーターアーム114と第2のゴニオメーターアーム113はゴニオメーター軸109を中心として旋回可能である。ゴニオメーター軸109は、紙面に対して垂直に配置されてアライメントされている。ここでは第1のゴニオメーターアーム114の上に回転台115がX線ビーム生成システム130とともに組み付けられ、第2のゴニオメーターアーム113の上にX線検出器112が組み付けられている。回転台軸106はゴニオメーター軸109に対して平行に配置されており、試料領域147はゴニオメーター軸109の付近に配置されている。回転台軸106はゴニオメーター軸109に対してオフセットされて配置されており、X線ビーム生成システム130とゴニオメーター軸109との間にある。
【0054】
X線源101は、陽極の上の電子目標領域153を有する陽極155を有している。図示しない陰極が電子を放出し、これが陽極155の上の電子目標領域153に向かって加速されて、これに当たる。X線源101の陽極155の上の電子目標領域153と、回転台軸106との間の間隔l(
図1参照)は、ゴニオメーター軸109とX線源101の陽極155の電子目標領域153との間の間隔rの0.5から0.9倍である。検出器112の検出器入射領域157も、ゴニオメーター軸109から間隔rだけ離れている。
【0055】
このように、X線源101、X線検出器112、および試料領域147はブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーで配置されている。
【0056】
光学コンポーネント102,103(および任意選択として光学システム104のさらに別の光学コンポーネント)は、X線源101に対して相対的に矢印159に沿って直線状に、当初の一次X線ビーム145に対して実質的に垂直に移動可能である。
図1,2,3,4,5,6から明らかなとおり、当初の一次X線ビーム145は、X線源101からの射出部の下流側かつ光学システム104の上流側では、他の何らかの光学的なコンポーネントによって偏向されることがなく、あるいはその他の形で改変もしくは影響を受けることがない。
【0057】
例示として
図1に示すように、装置100は、第1および/または第2の一次X線ビーム117または118に対して実質的に垂直に開口位置および/または開口サイズに関して変更可能である開口絞り105をさらに有している。開口絞り105は光学システム104の下流側に組み付けられ、特に、光学システム104と回転台軸106との間に組み付けられる。
【0058】
装置100が
図2と
図3に2通りの異なる配設で示されており、
図2では、第1の光学コンポーネント102が当初の一次X線ビーム145と相互作用し、それにより第1の一次X線ビーム117を生成している。それに対して
図3では、第2の光学コンポーネント103が当初の一次X線ビーム145と相互作用し、それにより第2の一次X線ビーム118を生成している。しかしながら、第1の一次X線ビーム117だけでなく第2の一次X線ビーム118を生成するためにも、それぞれ同一の当初の一次X線ビーム145がX線源101の陽極155の上のただ1つの電子目標領域153の衝撃によって生成され、または利用される。
【0059】
さらに装置100は、光学コンポーネント102,103(および別の任意選択の光学コンポーネント)の(矢印159に沿った)移動距離に依存して回転台115の回転角βを調整するように、(図示しない制御回線およびプロセッサによって)構成される制御部160を含んでいる。試料保持部108は、試料(図示せず)を試料領域147で保持するように構成されている。
図2および3に示す両方のコンフィグレーションでは、当初の一次X線ビーム145は、X線源101の陽極155の上の電子目標領域153に対して相対的にそれぞれ等しい最善もしくは所望の角度領域のもとでX線源101から(開口180により制限されながら)射出され、それにより第1または第2の光学コンポーネント102,103に当たる。
【0060】
図4は
図3の詳細部分図を示しており、第1のゴニオメーターアーム114の中心軸149と回転台114の中心軸151がいずれも図示されており、ならびに、第2の偏向角α2と第2の回転角β2も図示されている。
【0061】
図5は、
図1に示す装置100を第3の配設で示しており、ここでは第2の光学コンポーネント103は、当初の一次X線ビーム145が第2の光学コンポーネント103に裏面121から当たるように移動しており、その後に第3の一次X線ビーム122が生成され、これが当初の一次X線ビーム145に対して第3の偏向角α3だけ偏向して試料に当たる。ここでは回転台115は、第1の回転角および第2の回転角β1,β2に等しくない第3の回転角β3だけ回転している。
【0062】
このように
図1に示す装置100は、X線源101と、その直後に据え付けられた、光路に対して垂直にスライド可能な光学システム104(光学マガジンまたはキャリッジとも呼ぶ)とをさらに含んでいる。この光学マガジンまたはキャリッジの中に、複数の光学的な部品または素子がある。X線源101と光学マガジン104との間に、他の光学的な部品は何も配置されていない。このように、光学マガジンはスライド可能な一次光学系である。本来の(線源側の)ゴニオメーターアーム114の上に組み付けられた回転台115(別のゴニオメーターアームとも呼ぶ)が、回転台軸106を中心として回転可能である。回転台115のこの回転台軸106は、ゴニオメーターアーム114のゴニオメーター軸109の可能な限り近傍にある。開口絞り(発散スリットまたは調節間隙とも呼ぶ)105は、光学システム104の下流側に配置されている。発散スリットの両方の側方部材を個別に制御可能である。それに伴い、スリットの幅(開口)だけでなく垂直方向の位置も変えることができる。ここで垂直方向とは、光路に対して実質的に垂直の位置を意味する。光学システム104の光学素子は、たとえばマルチレイヤ・モノクロメータ、焦点合わせまたは視準をするミラー、1Dミラーまたは2Dミラー、あるいは単結晶光学系(たとえばチャネルカット)であってよい。1つの位置での2つまたはそれ以上の部品の組合せ(たとえばミラーとモノクロメータ)も可能である。任意選択として、光学システム104と開口絞り105との間に、さらに別の光学素子があってもよい(たとえばソーラースリット、ビーム制限をする素子など)。部材101,102,103,104,105,115,116は固定的に結合されたユニットを形成することができ、回転台軸106を中心として回転可能に組み付けられる。
【0063】
その代替として、光学システムの内部に複数のミラーが複数の異なる傾斜角で組み込まれていてもよい。その代替または追加として、例示として
図6に示すようにただ1つの、ただしその代わりに回転可能なミラーを利用することもできる。その場合、たとえば矢印270によって示唆するように、第2の光学コンポーネント203が軸を中心として紙面に対して相対的に、たとえば180°だけ回転可能である。それに伴いX線源201について、当初の一次X線ビーム245が陽極255の電子目標領域253に対して相対的に発せられる最善の射出角を選択することができる。たとえば、当初の一次X線ビーム245の輝度が高くなり強度が低くなるように(小さい角度のもとで)、またはその逆になるように(大きい角度のもとで)、角度領域を調整することができる。本発明の各実施形態では、試料に当たる一次X線ビームを制限し、単色化し、焦点合わせし、視準するなどができる。光学システム104または204は直線状のスライドにより、(それぞれの光学コンポーネント)の上方と下方で散乱する放射が、上方と下方に据え付けられた他の光学素子によって覆われ、または遮蔽されるように切り換えることができる。したがって、従来の先行技術で利用されているような、放射経路が従来式に選択的に選択されて他の放射経路がフェードアウトされる、可動のスリットや間隙を省略することができる。
【0064】
図2に示している第1のコンフィグレーションでは平行な第1の一次X線ビーム117が生成され、X線ミラーとしての光学コンポーネントは、反射条件が満たされるように、当初の一次X線ビーム145の中で位置決めされる。第1のX線ビーム117は、X線ミラー102のミラー表面に当たって偏向される。この偏向角α1は、第1の一次X線ビーム117を可能な限り正確にゴニオメーター軸109または(図示しない)試料に向けるために、第1の回転角β1だけ回転台115が回転することによって修正される。
【0065】
図3に示す第2のコンフィグレーションでは、平坦なX線ミラー103での(厳密には平坦な多層ミラー103のミラー面120での)当初の一次X線ビーム145の反射によって、第2の一次X線ビーム118が生成される。したがって第2の一次X線ビーム118は、当初の一次X線ビーム145と同じ発散性を有している。このことは、ブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーを用いての測定を可能にする。このようなケースでは、X線源101の陽極155の電子目標領域153が、可能な限り正確に回折計の半径r(回折計のゴニオメーター軸109から陽極155の電子目標領域153までの間隔によって形成される)の上にあるのがよく、すなわち円K1の上にあるのがよい。回転台115が回転したときの電子目標領域153の場所を示す円K2の半径lは可能な限り大きいのがよく、たとえば間隔rの2/3である。それに伴い、アノード155の上の焦点153からゴニオメーター軸109までの間隔は、角度修正にもかかわらず、最低限にしか変化しない。両方の円K1,K2が接していて、大きく相違する半径(r、l)を有してもいないからである。それに対して従来技術では直線状のスライドが実行されるが、このことは、本発明の各実施形態によって可能であるよりも大きいブラッグ・ブレンターノ・ジオメトリーからの逸脱につながる。
【0066】
図5に示す第3のコンフィグレーションでは、第2の光学コンポーネント103の裏面121と当初の一次X線ビーム145との相互作用によって、焦点合わせをする第3の一次X線ビーム122が生成される。光学システム104のX線ミラーまたはモノクロメータは、X線源の陽極に対する当初の一次X線ビーム145の最善の反射角が選択されるように、構成および配置することができる。X線源101の陽極155の上の焦点(電子目標領域)153は、ある程度の空間的な広がりを有する。取出し角(射出角)が非常に小さければ焦点の投影面も縮小し、したがってビームがいっそう高い輝度になる。ただし強度は低下する。
【0067】
光学システム104の内部の多数の光学式のコンポーネントの代替または追加として、
図6に示すように、回転可能なミラー203を利用することができる。それに伴い、X線源について最善の射出角を選択することができる。たとえば矢印270に沿った回転により、第2の一次X線ビーム218が高い輝度を有するが低い強度を有するように(小さい角度のもとで)、またはこの逆になるように(大きい角度のもとで)、ミラー203を回転させることができる。
【0068】
本発明の各実施形態では、最善の強度および/または最善の輝度を実現するために、陽極または電子目標領域に対して相対的な当初の一次X線ビーム145の射出角を所望のとおりに選択することができる。光学素子102,103(および任意選択としてその他の光学素子)は、常に所望の当初の一次X線ビームが所望または最善の射出角領域から当たるように光学システム104の内部に取り付けられ、または配置されていてよい。ただしこのことは、選択される光学素子によっては、または一次的なX線放射の波長もしくはエネルギーによっては、異なる光学素子の射出角が、すなわち光学素子との相互作用により生成されるX線ビームの方向が、変わってしまうという帰結につながる。射出方向がこのように変わるのを補償するために、回転台115を適切に回転させ、それにより生成される一次X線ビームを試料に当てさせる。本発明の各実施形態では、回転台軸106はゴニオメーター中心点の、またはゴニオメーターアーム114のゴニオメーター軸109の、可能な限り近傍に配置される。したがって回転台115が回転したとき、X線源101からゴニオメーター軸109までの間隔は、従来式に実行される直線状のスライドの場合よりも少ない程度に変化する。それに伴って非常にフレキシブルな回折計が提供され、方法ステップの全体を完全自動化可能である。
【0069】
任意選択として、検出器112の上流側に光学系111が配置されていてよい。それぞれの一次X線ビームの回折によって試料から二次放射110が発せられ、これが検出器112(および任意選択として光学系111の通過)によって検出される。
【0070】
図7は、電子目標領域353を有する陽極355を例示として示している。陰極380から発信される電子による電子目標領域353の衝撃により、当初の一次X線ビーム345が発生する。当初の一次X線ビーム345の強度は曲線381に示す射出角にともなって変わる。本発明の各実施形態は、当初の一次X線ビーム345の所望の強度と所望の輝度が所望の光学コンポーネントとの相互作用で生じ、所望の特性の相応の一次X線ビームを生成して、これが引き続いて試料に当たるように、光学コンポーネントの調整を可能にする。